パルス電磁場による軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置
電磁波による軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置であって、周期信号u(t)を発生させるための装置(3)と、軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けて電磁場M(t)を発生させるための一対のソレノイド(12)に信号u(t)を印加するのに適した電力増幅器(8)とを備える。0.2〜2ミリテスラの強度、37〜75Hzの周波数および1〜9時間の印加時間を有する電磁場を発生させるために設定手段(6,4)が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電磁場による軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス電磁場により人体を治療するための手法としては、時間で変動する電気信号(たとえば電流変動信号)でソレノイドを通電することにより、軟骨組織または軟骨下骨を含む人体の一部に向けてパルス電磁場を発生させ、それにより誘導微電流を発生させ、治療対象となる人体の一部に存在する炎症過程および/または損傷の治癒および/または改善に寄与するものが知られている。
【0003】
これまでに報告されている科学的な観察結果によれば、関節軟骨や軟骨下骨の治療にパルス電磁場の有効な応用の可能性が示唆されている。
【0004】
しかしながら前記の手法では、人間に対して軟骨組織または軟骨下骨の実際の治療サイクルに利用可能な装置、すなわち損傷または炎症を起こした軟骨および軟骨下骨の組織に対して敏感に、特異的にかつ顕著に作用し改善可能な装置を製造するには至っていない。
【0005】
最適、すなわち有効な電磁場パラメータ(振幅、波形周波数、照射時間)を特定しそれらを組み合わせるための前臨床試験が十分でなければ、そのような電磁場を特徴づけるパラメータの選択は誤ったものとなりかねず、したがって文献で明示されるいかなる治療効果も望めない(Fini M et al., Effects of pulsed electromagnetic fields on articular hyaline cartilage: review of experimental and clinical studies. Biomed Pharmacother. 2005 Aug; 59(7):388-94. Review)。あるいは多くの場合、痛みの症状の緩和に関連した効果しか認められず、関節軟骨の向性を改善するものではない。Thansborg G et al., Treatment of knee osteoarthritis with pulsed electromagnetic fields: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Osteoarthritis and Cartilage. 2005 Jul; 13(7):575-81。Peroz I et al., A multicenter clinical trial on the use of pulsed electromagnetic fields in the treatment of temporomandibular disorders (J Prosthet Dent. 2004 Feb; 91(2):180-7.)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Fini M et al., Effects of pulsed electromagnetic fields on articular hyaline cartilage: review of experimental and clinical studies, Biomed Pharmacother, 2005 Aug; 59(7):388-94. Review
【非特許文献2】Thansborg G et al., Treatment of knee osteoarthritis with pulsed electromagnetic fields: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Osteoarthritis and Cartilage. 2005 Jul; 13(7):575-81
【非特許文献3】Peroz I et al., A multicenter clinical trial on the use of pulsed electromagnetic fields in the treatment of temporomandibular disorders (J Prosthet Dent. 2004 Feb; 91(2):180-7.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止を評価した前臨床研究に基づいてパラメータが選択および最適化されたパルス電磁場を発生可能な装置を提供することである。前記前臨床研究では、軟骨細胞の増殖についても評価しており、これにより人間に臨床的に関連しかつ適用可能な明確な結果の得られる治療型プロセスでの装置の利用を可能とする。
【0008】
上記装置はまた、軟骨修復の促進を目的とした薬理学的物質(薬物や成長因子)の投与と合わせて(その前後に)、あるいは微小骨折による軟骨下骨の治療と合わせて用いることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、電磁波による軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置に関する本発明により達成され、前記装置は、周期信号u(t)を発生させるための手段と、軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けてパルス電磁場M(t)を発生させるための少なくとも1つのソレノイドに前記信号u(t)を印加するのに適した電力増幅手段とを備え、前記装置が、0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有する電磁場を発生させるための設定手段を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明はまた、電磁波による軟骨および/または軟骨下骨を冒す病変の治療および/または防止ならびに軟骨細胞の増殖のための方法に関し、該方法は、周期信号u(t)を発生させる段階と、軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けてパルス電磁場M(t)を発生させるための少なくとも1つのソレノイドに前記信号u(t)を印加する段階とを備え、前記電磁場が、0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の教示にしたがって発生させたパルス電磁場による軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置。
【図2】本発明の装置により制御可能なパラメータを示す。
【図3】本発明の装置により制御可能なパラメータを示す。
【図4】本発明の装置により制御可能なパラメータを示す。
【図5】(a),(b)本発明の装置を用いて得られた結果を示す。
【図6】(a),(b)本発明の装置を用いて得られた結果を示す。
【図7】本発明の装置を用いて得られたデータについて行った統計分析結果を示す。
【図8】本発明の装置を用いて得られたデータについて行った統計分析結果を示す。
【図9】図1の装置を人が携帯可能とするための支持手段を示す。
【図10】図1の装置を人が携帯可能とするための支持手段を示す。
【図11】図1の装置を人が携帯可能とするための支持手段を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい非限定的な一実施形態を示す添付の図面を特に参照し、以下に本発明を説明する。
【0013】
図1に示されるように、1は、全体として、パルス電磁場による軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置を示している。
【0014】
装置1は、マイクロプロセッサユニット4により制御され周期型信号u(t)を出力するのに好適な信号発生器3(公知のもの)を備えている。
【0015】
マイクロプロセッサユニット4は、信号u(t)の波形(方形波、鋸歯状、直線傾斜状など)の選択や前記信号u(t)の周波数および動作周期の調整のためのユーザインタフェース6(たとえばキーボードまたはビデオ)に接続されている。ユーザインタフェース6により、必要に応じて選択可能な時間間隔Tmaxにわたる信号u(t)の発生も可能となる。
【0016】
信号発生器3の出力側は、電力信号U(t)を出力する可変利得電力増幅器(variable gain power amplifier)8の入力側に接続されている。その増幅器は、適宜湾曲して形成された一対または単独のソレノイド(公知のもの)12に伝達される信号U(t)を出力する。一部の実施形態では、ソレノイド12を単独のソレノイドとすることもできる。
【0017】
使用時は、治療対象となる軟骨または軟骨下骨部分14を含む人間または動物の体の一部を一対のソレノイド12の間に配置する。軟骨細胞の培養物(図示しない)をソレノイド12の間に配置することも可能である。
【0018】
マイクロプロセッサユニット4により電力増幅器8を制御することにより、ソレノイドに伝達される信号U(t)の振幅、したがって軟骨14に作用させる電磁場M(t)の強度を、ユーザインタフェース6を介して調整することができる。
【0019】
各ソレノイド12は、可撓性材料のシートからなる支持体上に導電材料(たとえば銅)を線状に蒸着して形成したものからなることが好ましいが、これに限定されない。あるいは、関節表面への密着性に優れた設計とするため、ソレノイドは、コイルの数を減らして(たとえば200未満の)形成されてもよい。
【0020】
本発明によれば、ユーザインタフェースとマイクロプロセッサユニット4とを介して、装置1が、0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有するパルス電磁場を発生するように設定することができる。
【0021】
出願人の行った医学的研究では、前記の限られた磁力範囲(0.5〜2ミリテスラ)を特定することで、軟骨および軟骨下骨の再生および/または変性防止に有効な電磁場M(t)発生させることができることが明らかになっている。
【0022】
さらに詳細には、電磁場は、1〜2ミリテスラの磁力を有することができる。
【0023】
特に図2に明示されるように、電磁場は、約1.5ミリテスラの磁力を有することができる。図2において、X軸は電磁場の値を、Y軸は軟骨特に軟骨基質への同化作用を示すプロテオグリカンの合成量を示している。1.5ミリテスラの値をとるとき、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止の作用を最大にすることができる。
【0024】
知られているように、プロテオグリカンの合成量が多いことは、関節軟骨の細胞外基質の合成活性の指標となる。
【0025】
出願人の研究では、電磁場強度の適正な調整が、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止の適正なプロセスを得るための主要因であることがわかっている。
【0026】
出願人の研究ではまた、強度よりも副次的であるが、印加する信号の周波数も、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止のプロセスを制御するための要因となることがわかっている。
【0027】
実際、本発明の別の実施形態では、ユーザインタフェースとマイクロプロセッサユニット4とを介して装置1を設定することにより、100Hz未満の様々な周波数を有する信号u(t)を発生させることができる。
【0028】
出願人の行った研究では、100Hzを超える周波数を有する信号の場合、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止のプロセスに効果的でないことがわかっている。
【0029】
信号u(t)の周波数は、2〜75Hzの周波数を示すように設定することが好ましい。
【0030】
さらに詳細には、周波数を、最大の治療効果が得られる周波数範囲である37〜75Hzとすることができる。
【0031】
図3に明示されるように、37〜75Hzの範囲では、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止のプロセスを最大化することができる。図3において、X軸は信号u(t)の周波数の値、Y軸はプロテオグリカンの合成量を示している。
【0032】
最後に、出願人の研究では、強度や周波数よりも副次的であるが、処置時間も、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止のプロセスを制御するための要因となることが明らかとなっている。
【0033】
具体的には、ユーザインタフェースとマイクロプロセッサユニット4とを介して、様々な時間間隔、可能なら9時間未満にわたって電磁場を発生するように装置1が設定される。図4に明示されるように、電磁場の設定時間は4〜9時間が好ましい。図4において、X軸は印加時間(単位は時間)、Y軸はプロテオグリカンの合成量を示している。
【0034】
[実験結果]
人間の軟骨に対して親和性の高いウシの軟骨を用い、in vitroで上記方法を試験した。
【0035】
月齢14〜18ヶ月の5匹の別個の動物から、ディスク状の関節軟骨片を採取した。
【0036】
具体的には、各ドナー動物について同じ関節に近い領域より4片を採取し、20個のディスク片を得た。
【0037】
各グループの採取片を、試験用の(したがって電磁場を照射する)第1の採取片サブグループと対照(control)用の(したがって電磁場を照射しない)第2の採取片グループとに無作為に分けた。
【0038】
採取片は、前処置として、10%のFBS(Fetal Bovine Serum:ウシ胎仔血清)と抗生物質(ペニシリン100単位/ml、ストレプトマイシン0.1mg/ml)(英国ペーズリーのLife Technologies社)とを加えたDMEM/F12培地中に48時間静置した。
【0039】
その後さらに48時間、5%の二酸化炭素を含む雰囲気中において、血清を含まない37℃の培地中に採取片を静置した。
【0040】
上記処置中、ソレノイドの面がディスク片に対して垂直となるように、かつディスク片に誘導された電場の方向が電磁場に対して垂直となるように、各軟骨ディスク片をソレノイド12の間に配置した。
【0041】
装置1は、電磁場の強度、信号u(t)の周波数および印加時間を上述のように調整して使用した。発生した電磁場の強度は、ホール効果センサまたはガウスメータを用いて測定した。
【0042】
この点について、上述の培養平衡期間(the period of equilibrium in culture)の最後に、装置1により得られるパルス電磁場を採取片に1、4、9、24時間照射した。
【0043】
パルス電磁場の照射は、10%のFBS(0.5ml/ウェル)を加えた培地中で行った。評価は、照射時間に関係なく24時間後に行った。
【0044】
パルス電磁場を照射しなかった培養物(対照用培養物)を、電磁場を照射した培養物と同一の培養器内に並べて置いた。
【0045】
プロテオグリカン合成量の測定は、プロテオグリカンの基本的な生化学成分として知られるグリコサミノグリカン(GAG)に放射性の硫酸塩を導入して行った。
【0046】
パルス電磁場による処置を施した採取片と施していない対照用採取片との双方に対して、5μCi/mlの放射性化合物Na2‐35SO4(2.2mCi/ml)(英国バッキンガムシャーのAmersham Pharmacia Biotech社製)を時間0にて加え放射性標識を行った。
【0047】
放射性標識後、20mMのリン酸塩(pH6.8)と4mg/mlのパパインを含む緩衝液(イタリアミラノのSigma−Aldrich S.r.l.社製)で採取片を洗浄、消化し、60℃で12時間保った。
【0048】
プロテオグリカンPGの新しい合成に伴って放射性硫黄35Sの化合物で標識されたプロテオグリカン(35S‐PG)の含有量の測定は、塩化セチルピリジニウム(前記化合物はイタリアミラノのSigma−Aldrich S.r.l.社より入手可能)を用いて放射性硫黄化合物35S‐PGを沈殿させ、ガラス繊維(Whatman GF/C)上でろ過した後に行った。
【0049】
ついでフィルタを乾燥させ、シンチレータ計測により放射性硫黄化合物の量を測定した。こうして、細胞活動または軟骨細胞の活性の結果として合成されたプロテオグリカンの量を特定した。
【0050】
実験結果に基づき、1〜9時間の照射時間が特定された。さらに詳しくは、照射範囲4〜6時間において最大の治療効果が得られた。
【0051】
続いて、0.2〜3mTの異なるピーク値を有するパルス電磁場を用いて、軟骨採取片中のプロテオグリカン合成量を測定した。
【0052】
これにより、第1の治療処置領域となる0.5〜2ミリテスラの範囲が選定された。また試験結果より、1〜2mTのサブ範囲(第2の処置領域)および処置の効果が最大となる1.5mTのピーク値が画定された。
【0053】
最後に、最適な照射時間と好ましい電磁場値の選定に続き、異なる周波数(0,1,2,37,75,110,150,200Hz)においてプロテオグリカン合成量を測定した。これにより、100Hzを超える周波数では顕著な治療効果が得られないことが確認された。
【0054】
ついで、2〜75Hzのサブ範囲および治療効果が最大となる37〜75Hzのサブ範囲を選択した。
【0055】
1組目の試験により得られた結果に基づき、1.5ミリテスラ程度の振幅のパルス電磁場を採取片に9時間照射した。
【0056】
前記パルス場の値では、予期しないプロテオグリカン合成量が得られた(パルス電磁場を照射しなかった移植片の結果に比べ、パルス電磁場を照射した移植片では約50%の増加)。
【0057】
パルス電磁場の各パラメータについて最も効果的な領域が特定されたので、調査をさらに拡張した。
【0058】
膝の骨軟骨移植を受けたヒツジに対して出願人が行った研究においても、本発明に係る装置1の作用により軟骨下骨組織が早期に回復し、かつ、骨再吸収現象が防止され、上層(overlying)の関節軟骨の生育および持続に最適な条件になることがわかった。
【0059】
移植した骨組織が良好に一体化(integration)することで、微小骨嚢胞の形成が防止され、したがって骨移植片の長期的安定性が保証される。なおこの点については、骨軟骨移植の場合、移植された軟骨の生育および保存ならびに手術の成功にとって軟骨下骨の早期接合が不可欠な条件であることに留意すべきである。
【0060】
図5a,5bは骨軟骨移植片の放射線画像を示している。
【0061】
具体的には、図5aは、装置1により刺激を与えた骨軟骨移植片を示している。前記図では、異なる断面で示されるように、厚み方向全体にわたって移植片の最適な一体化が観察できる。
【0062】
図5bは、装置1で刺激を与えていない骨軟骨移植片を示している。前記図では、異なる断面において再吸収領域が観察できる。
【0063】
具体的には、図5aの放射線顕微鏡画像において軟骨下骨の完全な一体化が確認できる。
【0064】
刺激を与えた動物の移植骨柱(transplanted cylinders)における骨再吸収領域(暗部)の割合は、対照用動物の移植骨柱における骨再吸収領域の割合60%に対して、31%である。
【0065】
図7のヒストグラムは、刺激を与えた動物および対照用動物の移植骨柱に存在する骨再吸収領域の割合を示している。
【0066】
この図からわかるように、パルス電磁場により移植片の早期接合を促進できることから、移植骨組織の最適な一体化が保証されるとともに、微小骨嚢胞の形成が防止され、そのため骨移植片の安定性したがって手術の成功が保証される。
【0067】
さらに組織画像6a,6bは、図1の装置で処置した移植軟骨(図6a)の断面を示している。図において移植軟骨は十分な厚みがあり軟骨基質の色も濃いことから、それが生育可能であることは明白である。
【0068】
具体的には、図6aではガラス質(hyaline)組織の存在が明示され、図6b(未処置の軟骨)では、線維状の線維軟骨組織の存在が明示されている。
【0069】
装置1で処置した移植片では、線維状組織の形成が、未処置の対照用試料の32%に対して15%と明らかに少ない。
【0070】
最後に、装置1での処置により、試験動物(Dunkin Hartley)における軟骨の変性を効果的に防止でき、その機能性が維持されることが出願人により実証されている。月齢15ヶ月の初期骨関節症の動物に対して6ヶ月間処置を行った。装置1での処置により、軟骨の変性が防止されただけでなく、軟骨下骨の骨硬化症も防止された。これは軟骨がその機械的性質を維持していたことを示している。実際、負荷によるストレスを吸収する能力を軟骨が失うと、そのストレスは軟骨下骨組織へと直接伝わり、それに反応して軟骨下骨組織の密度と厚みが増加する。表に示されるように、装置1で処置した軟骨の組織学的評価(マンキンスコア、Mankin score)は、対照用動物よりも明らかに低い(したがって良好である)。
【0071】
【表1】
【0072】
二重エネルギーX線吸光光度分析(DEXA:Dual Energy X−ray Absorptiometry)による組織形態計測および骨密度計測では、装置1で処置した動物の方が軟骨下骨組織の密度および硬化の程度が低いことが明示されている(図8)。
【0073】
最後に、出願人の行った実験によれば、上述の手順に従い装置1で発生させた電磁場はin vitroで培養した軟骨細胞の増殖促進に有効であることが明らかとなっている。
【0074】
前記の軟骨細胞は、さまざまな技術に用いることができ、たとえば軟骨の治癒を促進する目的で80年代にPettersonが紹介した自家軟骨細胞移植法(ACI:Autologous Chondrocyte Implantation)に用いることができる。
【0075】
前記の方法では、軟骨の損傷を患う患者から自家軟骨細胞の一次採取を関節鏡検査法(arthroscopy)により行う。この軟骨細胞は、軟骨芽細胞の表現型へと脱分化した後、軟骨基質を消化して単離されてin vitroで培養される。
【0076】
ACI法では、このようにして得た細胞を懸濁液とし、患者の関節の軟骨に縫合された骨膜皮弁の下に手術中に移植する。
【0077】
あるいは、関節鏡検査法による自家軟骨細胞の一次採取およびin vitro培養を行う基質誘導性自家軟骨細胞移植法(MACI:Matrix−Induced Autologous Chondrocyte Implantation)に、上記軟骨細胞を用いることもできる。得られた軟骨芽細胞は、採取後3週間、I型およびIII型ブタコラーゲンの足場(scaffold)上に播いておく。この「膜」は、患者の軟骨損傷部に移植しフィブリン接着剤で接着することができる。
【0078】
一方、移植されたこれらの細胞の増殖が装置1(および上記に明示したパラメータ)による処置で促進されることが出願人により実証されている。増殖の促進は、処置対象となる軟骨損傷部におけるコロニー形成(colonisation)のための基本的な要素である。
【0079】
最後に、軟骨損傷部の治癒プロセスにおける幹細胞の役割に留意することも重要であり、それは軟骨損傷部の基底にある軟骨下骨に微小の穴を開ける手法により実証されている。その目的は、骨髄から軟骨下骨表面への全能細胞の移動を促進することで、治癒のための生物学的に必要な支援を行うことにある。
【0080】
出願人は、幹細胞の増殖、移動、そして軟骨損傷部の治療に用いられる基質に定着する能力を上記装置により促進できることを明らかにするために、手短に説明した上記プロセスを介して得られる幹細胞についての研究を行った。
【0081】
本発明の好ましい独立の側面によれば、装置1は、人が携帯することができるように支持手段に取り付けられる。
【0082】
これらの支持手段は、人体の一部を収容する空洞105が形成された少なくとも1つの湾曲壁104により形成される支持体103を備えている(図9,10,11)。
【0083】
図示されている非限定的な例では、壁104は膝当ての形をしており、患者(全体は図示しない)の膝108に近い脚部分107を収容するための細長い空洞105が形成されている。ただし空洞105は腕や肩など人体のいかなる部分を収容するものでもよいことはもちろんである。壁104は、人体の外形に合うように可撓性の合成材料からなることが好ましく、ネオプレンなどの抗アレルギー性で毒性のない材料からなることももちろんである。
【0084】
支持手段はまた、人体の上記部分に湾曲壁104をしっかり固定するため、支持体103に適した弾性取付具112を備えている。図示されている例では、弾性取付具は、2つの弾性ストラップ115を備え、該弾性ストラップ115はそれぞれ末端に、壁104に固定された(例えば縫合された)部分と、VELCROTMなどからなる留め具とを有する。ただし明らかなように、図示以外の留め具を用いてもよい。
【0085】
支持手段はまた、湾曲壁104に隣接し、したがって人体の上記部分付近に配置された装置1のソレノイド12を収容するためのシート120を備えている。
【0086】
図示されている例では、シート120が布製の正方形ポーチ構造体124で形成され、VELCROTMなどの2つの両面取付具125によって湾曲壁4の外面に取付可能となっている。これにより、取付具125を強固に取り付けると、シート120が湾曲壁104の所定の位置に強固に固定される。
【0087】
ソレノイド12は、コイラ(coiler、図示しない)を用いて簡便に作製され、これにより200巻き数程度で巻き平均40cmの銅線からなるコイル126(図11)が形成される。ついでコイル126はその形状を保つため綿テープで巻かれる。コイル126の両端は、ソレノイド122の両極性電源ケーブル127に接続される。ついでコイル126は、内側が高密度スポンジ、外側がPVCシートからなる熱シールされた多層プラスチック材料128で覆われる。ソレノイド12は空芯で巻かれる。
【0088】
ソレノイド12は、装置1によって簡便に通電され、装置1もまた、VELCROTMなどの取り外し可能な取付具133で壁104の外面に固定されたポーチ132内に収納することができる。
【0089】
図示しない一変形例では、複数のシートを形成してさらに別のソレノイドを収納してもよい。たとえば2つの別個のシートを形成して、使用時には2つのソレノイドを、治療対象となる関節の対向する側、すなわち中央と側方に配置してもよい。この配置は、膝関節の治療に有利である。単独のソレノイドの場合は、主に膝の皿の治療を対象とし、2つのソレノイドの場合は、関節のより広い範囲あるいは平均より広い関節を持つ患者の治療を対象とする。したがって2つのソレノイドを用いれば、より患部の広い患者についても、関節全体に均一な信号の誘導が可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電磁場による軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス電磁場により人体を治療するための手法としては、時間で変動する電気信号(たとえば電流変動信号)でソレノイドを通電することにより、軟骨組織または軟骨下骨を含む人体の一部に向けてパルス電磁場を発生させ、それにより誘導微電流を発生させ、治療対象となる人体の一部に存在する炎症過程および/または損傷の治癒および/または改善に寄与するものが知られている。
【0003】
これまでに報告されている科学的な観察結果によれば、関節軟骨や軟骨下骨の治療にパルス電磁場の有効な応用の可能性が示唆されている。
【0004】
しかしながら前記の手法では、人間に対して軟骨組織または軟骨下骨の実際の治療サイクルに利用可能な装置、すなわち損傷または炎症を起こした軟骨および軟骨下骨の組織に対して敏感に、特異的にかつ顕著に作用し改善可能な装置を製造するには至っていない。
【0005】
最適、すなわち有効な電磁場パラメータ(振幅、波形周波数、照射時間)を特定しそれらを組み合わせるための前臨床試験が十分でなければ、そのような電磁場を特徴づけるパラメータの選択は誤ったものとなりかねず、したがって文献で明示されるいかなる治療効果も望めない(Fini M et al., Effects of pulsed electromagnetic fields on articular hyaline cartilage: review of experimental and clinical studies. Biomed Pharmacother. 2005 Aug; 59(7):388-94. Review)。あるいは多くの場合、痛みの症状の緩和に関連した効果しか認められず、関節軟骨の向性を改善するものではない。Thansborg G et al., Treatment of knee osteoarthritis with pulsed electromagnetic fields: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Osteoarthritis and Cartilage. 2005 Jul; 13(7):575-81。Peroz I et al., A multicenter clinical trial on the use of pulsed electromagnetic fields in the treatment of temporomandibular disorders (J Prosthet Dent. 2004 Feb; 91(2):180-7.)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Fini M et al., Effects of pulsed electromagnetic fields on articular hyaline cartilage: review of experimental and clinical studies, Biomed Pharmacother, 2005 Aug; 59(7):388-94. Review
【非特許文献2】Thansborg G et al., Treatment of knee osteoarthritis with pulsed electromagnetic fields: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Osteoarthritis and Cartilage. 2005 Jul; 13(7):575-81
【非特許文献3】Peroz I et al., A multicenter clinical trial on the use of pulsed electromagnetic fields in the treatment of temporomandibular disorders (J Prosthet Dent. 2004 Feb; 91(2):180-7.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止を評価した前臨床研究に基づいてパラメータが選択および最適化されたパルス電磁場を発生可能な装置を提供することである。前記前臨床研究では、軟骨細胞の増殖についても評価しており、これにより人間に臨床的に関連しかつ適用可能な明確な結果の得られる治療型プロセスでの装置の利用を可能とする。
【0008】
上記装置はまた、軟骨修復の促進を目的とした薬理学的物質(薬物や成長因子)の投与と合わせて(その前後に)、あるいは微小骨折による軟骨下骨の治療と合わせて用いることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、電磁波による軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置に関する本発明により達成され、前記装置は、周期信号u(t)を発生させるための手段と、軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けてパルス電磁場M(t)を発生させるための少なくとも1つのソレノイドに前記信号u(t)を印加するのに適した電力増幅手段とを備え、前記装置が、0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有する電磁場を発生させるための設定手段を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明はまた、電磁波による軟骨および/または軟骨下骨を冒す病変の治療および/または防止ならびに軟骨細胞の増殖のための方法に関し、該方法は、周期信号u(t)を発生させる段階と、軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けてパルス電磁場M(t)を発生させるための少なくとも1つのソレノイドに前記信号u(t)を印加する段階とを備え、前記電磁場が、0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の教示にしたがって発生させたパルス電磁場による軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置。
【図2】本発明の装置により制御可能なパラメータを示す。
【図3】本発明の装置により制御可能なパラメータを示す。
【図4】本発明の装置により制御可能なパラメータを示す。
【図5】(a),(b)本発明の装置を用いて得られた結果を示す。
【図6】(a),(b)本発明の装置を用いて得られた結果を示す。
【図7】本発明の装置を用いて得られたデータについて行った統計分析結果を示す。
【図8】本発明の装置を用いて得られたデータについて行った統計分析結果を示す。
【図9】図1の装置を人が携帯可能とするための支持手段を示す。
【図10】図1の装置を人が携帯可能とするための支持手段を示す。
【図11】図1の装置を人が携帯可能とするための支持手段を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい非限定的な一実施形態を示す添付の図面を特に参照し、以下に本発明を説明する。
【0013】
図1に示されるように、1は、全体として、パルス電磁場による軟骨組織および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置を示している。
【0014】
装置1は、マイクロプロセッサユニット4により制御され周期型信号u(t)を出力するのに好適な信号発生器3(公知のもの)を備えている。
【0015】
マイクロプロセッサユニット4は、信号u(t)の波形(方形波、鋸歯状、直線傾斜状など)の選択や前記信号u(t)の周波数および動作周期の調整のためのユーザインタフェース6(たとえばキーボードまたはビデオ)に接続されている。ユーザインタフェース6により、必要に応じて選択可能な時間間隔Tmaxにわたる信号u(t)の発生も可能となる。
【0016】
信号発生器3の出力側は、電力信号U(t)を出力する可変利得電力増幅器(variable gain power amplifier)8の入力側に接続されている。その増幅器は、適宜湾曲して形成された一対または単独のソレノイド(公知のもの)12に伝達される信号U(t)を出力する。一部の実施形態では、ソレノイド12を単独のソレノイドとすることもできる。
【0017】
使用時は、治療対象となる軟骨または軟骨下骨部分14を含む人間または動物の体の一部を一対のソレノイド12の間に配置する。軟骨細胞の培養物(図示しない)をソレノイド12の間に配置することも可能である。
【0018】
マイクロプロセッサユニット4により電力増幅器8を制御することにより、ソレノイドに伝達される信号U(t)の振幅、したがって軟骨14に作用させる電磁場M(t)の強度を、ユーザインタフェース6を介して調整することができる。
【0019】
各ソレノイド12は、可撓性材料のシートからなる支持体上に導電材料(たとえば銅)を線状に蒸着して形成したものからなることが好ましいが、これに限定されない。あるいは、関節表面への密着性に優れた設計とするため、ソレノイドは、コイルの数を減らして(たとえば200未満の)形成されてもよい。
【0020】
本発明によれば、ユーザインタフェースとマイクロプロセッサユニット4とを介して、装置1が、0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有するパルス電磁場を発生するように設定することができる。
【0021】
出願人の行った医学的研究では、前記の限られた磁力範囲(0.5〜2ミリテスラ)を特定することで、軟骨および軟骨下骨の再生および/または変性防止に有効な電磁場M(t)発生させることができることが明らかになっている。
【0022】
さらに詳細には、電磁場は、1〜2ミリテスラの磁力を有することができる。
【0023】
特に図2に明示されるように、電磁場は、約1.5ミリテスラの磁力を有することができる。図2において、X軸は電磁場の値を、Y軸は軟骨特に軟骨基質への同化作用を示すプロテオグリカンの合成量を示している。1.5ミリテスラの値をとるとき、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止の作用を最大にすることができる。
【0024】
知られているように、プロテオグリカンの合成量が多いことは、関節軟骨の細胞外基質の合成活性の指標となる。
【0025】
出願人の研究では、電磁場強度の適正な調整が、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止の適正なプロセスを得るための主要因であることがわかっている。
【0026】
出願人の研究ではまた、強度よりも副次的であるが、印加する信号の周波数も、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止のプロセスを制御するための要因となることがわかっている。
【0027】
実際、本発明の別の実施形態では、ユーザインタフェースとマイクロプロセッサユニット4とを介して装置1を設定することにより、100Hz未満の様々な周波数を有する信号u(t)を発生させることができる。
【0028】
出願人の行った研究では、100Hzを超える周波数を有する信号の場合、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止のプロセスに効果的でないことがわかっている。
【0029】
信号u(t)の周波数は、2〜75Hzの周波数を示すように設定することが好ましい。
【0030】
さらに詳細には、周波数を、最大の治療効果が得られる周波数範囲である37〜75Hzとすることができる。
【0031】
図3に明示されるように、37〜75Hzの範囲では、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止のプロセスを最大化することができる。図3において、X軸は信号u(t)の周波数の値、Y軸はプロテオグリカンの合成量を示している。
【0032】
最後に、出願人の研究では、強度や周波数よりも副次的であるが、処置時間も、軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止のプロセスを制御するための要因となることが明らかとなっている。
【0033】
具体的には、ユーザインタフェースとマイクロプロセッサユニット4とを介して、様々な時間間隔、可能なら9時間未満にわたって電磁場を発生するように装置1が設定される。図4に明示されるように、電磁場の設定時間は4〜9時間が好ましい。図4において、X軸は印加時間(単位は時間)、Y軸はプロテオグリカンの合成量を示している。
【0034】
[実験結果]
人間の軟骨に対して親和性の高いウシの軟骨を用い、in vitroで上記方法を試験した。
【0035】
月齢14〜18ヶ月の5匹の別個の動物から、ディスク状の関節軟骨片を採取した。
【0036】
具体的には、各ドナー動物について同じ関節に近い領域より4片を採取し、20個のディスク片を得た。
【0037】
各グループの採取片を、試験用の(したがって電磁場を照射する)第1の採取片サブグループと対照(control)用の(したがって電磁場を照射しない)第2の採取片グループとに無作為に分けた。
【0038】
採取片は、前処置として、10%のFBS(Fetal Bovine Serum:ウシ胎仔血清)と抗生物質(ペニシリン100単位/ml、ストレプトマイシン0.1mg/ml)(英国ペーズリーのLife Technologies社)とを加えたDMEM/F12培地中に48時間静置した。
【0039】
その後さらに48時間、5%の二酸化炭素を含む雰囲気中において、血清を含まない37℃の培地中に採取片を静置した。
【0040】
上記処置中、ソレノイドの面がディスク片に対して垂直となるように、かつディスク片に誘導された電場の方向が電磁場に対して垂直となるように、各軟骨ディスク片をソレノイド12の間に配置した。
【0041】
装置1は、電磁場の強度、信号u(t)の周波数および印加時間を上述のように調整して使用した。発生した電磁場の強度は、ホール効果センサまたはガウスメータを用いて測定した。
【0042】
この点について、上述の培養平衡期間(the period of equilibrium in culture)の最後に、装置1により得られるパルス電磁場を採取片に1、4、9、24時間照射した。
【0043】
パルス電磁場の照射は、10%のFBS(0.5ml/ウェル)を加えた培地中で行った。評価は、照射時間に関係なく24時間後に行った。
【0044】
パルス電磁場を照射しなかった培養物(対照用培養物)を、電磁場を照射した培養物と同一の培養器内に並べて置いた。
【0045】
プロテオグリカン合成量の測定は、プロテオグリカンの基本的な生化学成分として知られるグリコサミノグリカン(GAG)に放射性の硫酸塩を導入して行った。
【0046】
パルス電磁場による処置を施した採取片と施していない対照用採取片との双方に対して、5μCi/mlの放射性化合物Na2‐35SO4(2.2mCi/ml)(英国バッキンガムシャーのAmersham Pharmacia Biotech社製)を時間0にて加え放射性標識を行った。
【0047】
放射性標識後、20mMのリン酸塩(pH6.8)と4mg/mlのパパインを含む緩衝液(イタリアミラノのSigma−Aldrich S.r.l.社製)で採取片を洗浄、消化し、60℃で12時間保った。
【0048】
プロテオグリカンPGの新しい合成に伴って放射性硫黄35Sの化合物で標識されたプロテオグリカン(35S‐PG)の含有量の測定は、塩化セチルピリジニウム(前記化合物はイタリアミラノのSigma−Aldrich S.r.l.社より入手可能)を用いて放射性硫黄化合物35S‐PGを沈殿させ、ガラス繊維(Whatman GF/C)上でろ過した後に行った。
【0049】
ついでフィルタを乾燥させ、シンチレータ計測により放射性硫黄化合物の量を測定した。こうして、細胞活動または軟骨細胞の活性の結果として合成されたプロテオグリカンの量を特定した。
【0050】
実験結果に基づき、1〜9時間の照射時間が特定された。さらに詳しくは、照射範囲4〜6時間において最大の治療効果が得られた。
【0051】
続いて、0.2〜3mTの異なるピーク値を有するパルス電磁場を用いて、軟骨採取片中のプロテオグリカン合成量を測定した。
【0052】
これにより、第1の治療処置領域となる0.5〜2ミリテスラの範囲が選定された。また試験結果より、1〜2mTのサブ範囲(第2の処置領域)および処置の効果が最大となる1.5mTのピーク値が画定された。
【0053】
最後に、最適な照射時間と好ましい電磁場値の選定に続き、異なる周波数(0,1,2,37,75,110,150,200Hz)においてプロテオグリカン合成量を測定した。これにより、100Hzを超える周波数では顕著な治療効果が得られないことが確認された。
【0054】
ついで、2〜75Hzのサブ範囲および治療効果が最大となる37〜75Hzのサブ範囲を選択した。
【0055】
1組目の試験により得られた結果に基づき、1.5ミリテスラ程度の振幅のパルス電磁場を採取片に9時間照射した。
【0056】
前記パルス場の値では、予期しないプロテオグリカン合成量が得られた(パルス電磁場を照射しなかった移植片の結果に比べ、パルス電磁場を照射した移植片では約50%の増加)。
【0057】
パルス電磁場の各パラメータについて最も効果的な領域が特定されたので、調査をさらに拡張した。
【0058】
膝の骨軟骨移植を受けたヒツジに対して出願人が行った研究においても、本発明に係る装置1の作用により軟骨下骨組織が早期に回復し、かつ、骨再吸収現象が防止され、上層(overlying)の関節軟骨の生育および持続に最適な条件になることがわかった。
【0059】
移植した骨組織が良好に一体化(integration)することで、微小骨嚢胞の形成が防止され、したがって骨移植片の長期的安定性が保証される。なおこの点については、骨軟骨移植の場合、移植された軟骨の生育および保存ならびに手術の成功にとって軟骨下骨の早期接合が不可欠な条件であることに留意すべきである。
【0060】
図5a,5bは骨軟骨移植片の放射線画像を示している。
【0061】
具体的には、図5aは、装置1により刺激を与えた骨軟骨移植片を示している。前記図では、異なる断面で示されるように、厚み方向全体にわたって移植片の最適な一体化が観察できる。
【0062】
図5bは、装置1で刺激を与えていない骨軟骨移植片を示している。前記図では、異なる断面において再吸収領域が観察できる。
【0063】
具体的には、図5aの放射線顕微鏡画像において軟骨下骨の完全な一体化が確認できる。
【0064】
刺激を与えた動物の移植骨柱(transplanted cylinders)における骨再吸収領域(暗部)の割合は、対照用動物の移植骨柱における骨再吸収領域の割合60%に対して、31%である。
【0065】
図7のヒストグラムは、刺激を与えた動物および対照用動物の移植骨柱に存在する骨再吸収領域の割合を示している。
【0066】
この図からわかるように、パルス電磁場により移植片の早期接合を促進できることから、移植骨組織の最適な一体化が保証されるとともに、微小骨嚢胞の形成が防止され、そのため骨移植片の安定性したがって手術の成功が保証される。
【0067】
さらに組織画像6a,6bは、図1の装置で処置した移植軟骨(図6a)の断面を示している。図において移植軟骨は十分な厚みがあり軟骨基質の色も濃いことから、それが生育可能であることは明白である。
【0068】
具体的には、図6aではガラス質(hyaline)組織の存在が明示され、図6b(未処置の軟骨)では、線維状の線維軟骨組織の存在が明示されている。
【0069】
装置1で処置した移植片では、線維状組織の形成が、未処置の対照用試料の32%に対して15%と明らかに少ない。
【0070】
最後に、装置1での処置により、試験動物(Dunkin Hartley)における軟骨の変性を効果的に防止でき、その機能性が維持されることが出願人により実証されている。月齢15ヶ月の初期骨関節症の動物に対して6ヶ月間処置を行った。装置1での処置により、軟骨の変性が防止されただけでなく、軟骨下骨の骨硬化症も防止された。これは軟骨がその機械的性質を維持していたことを示している。実際、負荷によるストレスを吸収する能力を軟骨が失うと、そのストレスは軟骨下骨組織へと直接伝わり、それに反応して軟骨下骨組織の密度と厚みが増加する。表に示されるように、装置1で処置した軟骨の組織学的評価(マンキンスコア、Mankin score)は、対照用動物よりも明らかに低い(したがって良好である)。
【0071】
【表1】
【0072】
二重エネルギーX線吸光光度分析(DEXA:Dual Energy X−ray Absorptiometry)による組織形態計測および骨密度計測では、装置1で処置した動物の方が軟骨下骨組織の密度および硬化の程度が低いことが明示されている(図8)。
【0073】
最後に、出願人の行った実験によれば、上述の手順に従い装置1で発生させた電磁場はin vitroで培養した軟骨細胞の増殖促進に有効であることが明らかとなっている。
【0074】
前記の軟骨細胞は、さまざまな技術に用いることができ、たとえば軟骨の治癒を促進する目的で80年代にPettersonが紹介した自家軟骨細胞移植法(ACI:Autologous Chondrocyte Implantation)に用いることができる。
【0075】
前記の方法では、軟骨の損傷を患う患者から自家軟骨細胞の一次採取を関節鏡検査法(arthroscopy)により行う。この軟骨細胞は、軟骨芽細胞の表現型へと脱分化した後、軟骨基質を消化して単離されてin vitroで培養される。
【0076】
ACI法では、このようにして得た細胞を懸濁液とし、患者の関節の軟骨に縫合された骨膜皮弁の下に手術中に移植する。
【0077】
あるいは、関節鏡検査法による自家軟骨細胞の一次採取およびin vitro培養を行う基質誘導性自家軟骨細胞移植法(MACI:Matrix−Induced Autologous Chondrocyte Implantation)に、上記軟骨細胞を用いることもできる。得られた軟骨芽細胞は、採取後3週間、I型およびIII型ブタコラーゲンの足場(scaffold)上に播いておく。この「膜」は、患者の軟骨損傷部に移植しフィブリン接着剤で接着することができる。
【0078】
一方、移植されたこれらの細胞の増殖が装置1(および上記に明示したパラメータ)による処置で促進されることが出願人により実証されている。増殖の促進は、処置対象となる軟骨損傷部におけるコロニー形成(colonisation)のための基本的な要素である。
【0079】
最後に、軟骨損傷部の治癒プロセスにおける幹細胞の役割に留意することも重要であり、それは軟骨損傷部の基底にある軟骨下骨に微小の穴を開ける手法により実証されている。その目的は、骨髄から軟骨下骨表面への全能細胞の移動を促進することで、治癒のための生物学的に必要な支援を行うことにある。
【0080】
出願人は、幹細胞の増殖、移動、そして軟骨損傷部の治療に用いられる基質に定着する能力を上記装置により促進できることを明らかにするために、手短に説明した上記プロセスを介して得られる幹細胞についての研究を行った。
【0081】
本発明の好ましい独立の側面によれば、装置1は、人が携帯することができるように支持手段に取り付けられる。
【0082】
これらの支持手段は、人体の一部を収容する空洞105が形成された少なくとも1つの湾曲壁104により形成される支持体103を備えている(図9,10,11)。
【0083】
図示されている非限定的な例では、壁104は膝当ての形をしており、患者(全体は図示しない)の膝108に近い脚部分107を収容するための細長い空洞105が形成されている。ただし空洞105は腕や肩など人体のいかなる部分を収容するものでもよいことはもちろんである。壁104は、人体の外形に合うように可撓性の合成材料からなることが好ましく、ネオプレンなどの抗アレルギー性で毒性のない材料からなることももちろんである。
【0084】
支持手段はまた、人体の上記部分に湾曲壁104をしっかり固定するため、支持体103に適した弾性取付具112を備えている。図示されている例では、弾性取付具は、2つの弾性ストラップ115を備え、該弾性ストラップ115はそれぞれ末端に、壁104に固定された(例えば縫合された)部分と、VELCROTMなどからなる留め具とを有する。ただし明らかなように、図示以外の留め具を用いてもよい。
【0085】
支持手段はまた、湾曲壁104に隣接し、したがって人体の上記部分付近に配置された装置1のソレノイド12を収容するためのシート120を備えている。
【0086】
図示されている例では、シート120が布製の正方形ポーチ構造体124で形成され、VELCROTMなどの2つの両面取付具125によって湾曲壁4の外面に取付可能となっている。これにより、取付具125を強固に取り付けると、シート120が湾曲壁104の所定の位置に強固に固定される。
【0087】
ソレノイド12は、コイラ(coiler、図示しない)を用いて簡便に作製され、これにより200巻き数程度で巻き平均40cmの銅線からなるコイル126(図11)が形成される。ついでコイル126はその形状を保つため綿テープで巻かれる。コイル126の両端は、ソレノイド122の両極性電源ケーブル127に接続される。ついでコイル126は、内側が高密度スポンジ、外側がPVCシートからなる熱シールされた多層プラスチック材料128で覆われる。ソレノイド12は空芯で巻かれる。
【0088】
ソレノイド12は、装置1によって簡便に通電され、装置1もまた、VELCROTMなどの取り外し可能な取付具133で壁104の外面に固定されたポーチ132内に収納することができる。
【0089】
図示しない一変形例では、複数のシートを形成してさらに別のソレノイドを収納してもよい。たとえば2つの別個のシートを形成して、使用時には2つのソレノイドを、治療対象となる関節の対向する側、すなわち中央と側方に配置してもよい。この配置は、膝関節の治療に有利である。単独のソレノイドの場合は、主に膝の皿の治療を対象とし、2つのソレノイドの場合は、関節のより広い範囲あるいは平均より広い関節を持つ患者の治療を対象とする。したがって2つのソレノイドを用いれば、より患部の広い患者についても、関節全体に均一な信号の誘導が可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波による軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置であって、
周期信号u(t)を発生させるための手段(3)と、
軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けてパルス電磁場M(t)を発生させるための少なくとも1つのソレノイド(12)に前記信号u(t)を印加するのに適した電力増幅手段(8)とを備え、
0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有する電磁場を発生させるための設定手段(6、4)を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記電磁場が、1〜2ミリテスラの磁力を有する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電磁場が、約1.5ミリテスラの磁力を有する請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記設定手段(6,4)が、100Hz未満の周波数を有する周期信号u(t)の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記設定手段(6,4)が、2〜75Hzの周波数を有する周期信号u(t)の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記設定手段(6,4)が、37〜75Hzの周波数を有する周期信号u(t)の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記設定手段(6,4)が、9時間未満の時間間隔にわたる電磁場の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記設定手段(6,4)が、4〜9時間の時間間隔にわたる電磁場の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記装置(1)を人が携帯可能とするために支持手段が設けられた請求項1に記載の装置。
【請求項10】
電磁波による軟骨および/または軟骨下骨を冒す病変の治療および/または防止ならびに軟骨細胞の増殖のための方法であって、
周期信号u(t)を発生させる(3)段階と、
軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けてパルス電磁場M(t)を発生させるための少なくとも1つのソレノイド(12)に前記信号u(t)を印加する段階とを備え、
前記電磁場が、0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記電磁場が、1〜2ミリテスラの磁力を有する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電磁場が、1.5ミリテスラ程度の磁力を有する請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記周期信号u(t)が、100Hz未満の周波数を有する請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記周期信号u(t)が、2〜75Hzの周波数を有する請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記周期信号u(t)が、37〜75Hzの周波数を有する請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記電磁場が、9時間未満の時間間隔にわたり発生させられる請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記電磁場が、4〜9時間の時間間隔にわたり発生させられる請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記病変が、
軟骨下骨組織の硬化と、
軟骨の損傷と、
微小骨折とからなる群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項1】
電磁波による軟骨および軟骨下骨の再生および変性防止ならびに軟骨細胞の増殖のための装置であって、
周期信号u(t)を発生させるための手段(3)と、
軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けてパルス電磁場M(t)を発生させるための少なくとも1つのソレノイド(12)に前記信号u(t)を印加するのに適した電力増幅手段(8)とを備え、
0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有する電磁場を発生させるための設定手段(6、4)を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記電磁場が、1〜2ミリテスラの磁力を有する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電磁場が、約1.5ミリテスラの磁力を有する請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記設定手段(6,4)が、100Hz未満の周波数を有する周期信号u(t)の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記設定手段(6,4)が、2〜75Hzの周波数を有する周期信号u(t)の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記設定手段(6,4)が、37〜75Hzの周波数を有する周期信号u(t)の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記設定手段(6,4)が、9時間未満の時間間隔にわたる電磁場の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記設定手段(6,4)が、4〜9時間の時間間隔にわたる電磁場の発生に寄与する請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記装置(1)を人が携帯可能とするために支持手段が設けられた請求項1に記載の装置。
【請求項10】
電磁波による軟骨および/または軟骨下骨を冒す病変の治療および/または防止ならびに軟骨細胞の増殖のための方法であって、
周期信号u(t)を発生させる(3)段階と、
軟骨を含む人間または動物の組織の一部に向けてパルス電磁場M(t)を発生させるための少なくとも1つのソレノイド(12)に前記信号u(t)を印加する段階とを備え、
前記電磁場が、0.5〜2ミリテスラのピーク強度を有することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記電磁場が、1〜2ミリテスラの磁力を有する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電磁場が、1.5ミリテスラ程度の磁力を有する請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記周期信号u(t)が、100Hz未満の周波数を有する請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記周期信号u(t)が、2〜75Hzの周波数を有する請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記周期信号u(t)が、37〜75Hzの周波数を有する請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記電磁場が、9時間未満の時間間隔にわたり発生させられる請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記電磁場が、4〜9時間の時間間隔にわたり発生させられる請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記病変が、
軟骨下骨組織の硬化と、
軟骨の損傷と、
微小骨折とからなる群から選択される請求項17に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−536841(P2009−536841A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508265(P2009−508265)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050849
【国際公開番号】WO2007/131809
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(506157949)イジェア・ソシエタ・ペル・アチオーニ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050849
【国際公開番号】WO2007/131809
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(506157949)イジェア・ソシエタ・ペル・アチオーニ (2)
【Fターム(参考)】
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