説明

パルス駆動型ジョセフソン波形発生方法及び発生回路

【課題】 ジョセフソン接合素子をパルス駆動し、大出力と精度を同時に実現して任意波形を発生させるパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法および装置を提供するものである。
【解決手段】 入力バルスとして、従来の波形を時間軸でみて主として一つの大きな尖頭値を有する波から構成され、かつ波の最大値と最小値の比が大きく、周波数軸でみて出力波形の周波数と重畳しない領域の二つの周波数f1およびf2で規定される幅を持つ波形で置き換えることにより、任意信号出力においても波形精度を高める。換言すると、入力信号(最終的に出力させたい信号)が波形発生回路に残っていると、この入力信号が途中の回路素子に作用して変化した信号が最終的に出力に現れ、欲しい信号のみが出力されなくなる場合が発生する。これをなくすために、周波数スペクトル上で入力信号成分を除いた信号を使って最終出力を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ジョセフソン接合素子アレイを用いたパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法及び発生回路に関し、精密計測・標準等の用途に用いるものに関する。
【背景技術】
【0002】
ジョセフソン接合素子をパルス駆動し、任意波形を発生させる方法は米国NISTのグループにより提案されている(下記「非特許文献1」参照)。
また、出力信号と同じ周波数成分を持つ入力電流によりパルス駆動型ジョセフソン波形発生回路を駆動し、100mV程度の最大電圧振幅を持つ波形を発生することは実現している(下記「非特許文献2」参照)。
また、単純なキャパシタによりハイパスフィルタを構成し、出力信号の周波数帯域と重畳する周波数成分を減衰させる方式では、小振幅(数桁小さい)波形信号の発生が実現している(下記「非特許文献3」参照)。
【0003】
【非特許文献1】S.P.Benz and C.A.Hami1ton,Apple.Phys.Lett.,68.3171(1996)、
【非特許文献2】C.J.Burroughs et a1.,IEEE Trans .Instrum.Meas.,Meas.,52,542(2003)、
【非特許文献3】S.W.Nameta1.,IEEE Trans.52,550(2003)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように出力信号と同じ周波数成分を含む入力電流によりパルス駆動型ジョセフソン波形発生回路を駆動した場合、寄生素子等を通して入力信号の出力への結合があり、これにより出力波形の精度が制限される。
例えば、パルス発生回路とジョセフソン接合アレイとの間の配線ケーブルには分布定数として抵抗成分、誘導性リアクタンス成分および容量性リアクタンス成分が存在する。
入力信号成分が回路に残っていると、その信号成分が誘導性リアクタンス成分および容量性リアクタンス成分に作用し、不要な出力を発生し、望ましい出力信号を得ることができなくなる。
また、上記キャパシタによる周波数分離方式で得られる電圧では、大振幅出力とするための十分な動作マージンが得られず応用範囲が著しく限られている。
【0005】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、ジョセフソン接合素子をパルス駆動し、大出力と精度を同時に実現して任意波形を発生させる波形発生方法および装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、入力バルスとして、従来の波形を上記のような波形、つまり時間軸でみて主として一つの大きな尖頭値を有する波から構成され、かつ波の最大値と最小値の比が大きく、周波数軸でみて出力波形の周波数と重畳しない領域の二つの周波数f1およびf2で規定される幅を持つ波形で置き換えることにより、任意信号出力においても波形精度を高めることができる。
換言すると、入力信号(最終的に出力させたい信号)が波形発生回路に残っていると、この入力信号が途中の回路素子に作用して変化した信号が最終的に出力に現れ、欲しい信号のみが出力されなくなる場合が発生する。これをなくすために、周波数スペクトル上で入力信号成分を除いた信号を使って最終出力を得る。具体的には、
【0007】
(1)パルス駆動型ジョセフソン波形発生方法は、
パルス駆動型ジョセフソン波形発生回路において、出力する予定の信号を入力し、該信号に基づきパルス列信号を形成し、該パルス列信号により任意波形の信号を発生する方法であって、
前記パルス列信号を構成する基本パルスは、時間軸でみて一つの大きな尖頭値を有する波形を有し、且つ前記波形の最大値と最小値の比が大きくなるように構成し、
前記パルス列信号は、スペクトル特性が周波数軸でみて出力波形の周波数と重畳しない領域を有し、その領域を画成する二つの周波数f1およびf2で規定される幅を持つ信号で置き換えることを特長とする。
【0008】
(2)上記(1)記載のパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法は、
上記置き換える信号の、時間軸でみた尖頭値と最小値の比が少なくとも2倍以上であることを特長とする。
(3)上記(1)記載のパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法は、
上記領域を画成する二つの周波数f1およびf2のうち、高い周波数f2は低い周波数f1の2倍以上にしたことを特長とする。
(4)上記(1)記載のパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法は、
上記領域を画成する二つの周波数f1およびf2のうち、低い周波数f1が、前記出力する予定の信号の周波数分布の最大周波数の少なくとも10倍以上としたことを特長とする。
【0009】
(5)上記(1)記載のパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法は、
出力すべき波形データを入力し、
該波形データをデルタシグマ変調して前記波形データの信号周波数スペクトル領域と
スペクトル特性が周波数軸でみて出力波形の周波数と重畳しない領域を有し、前記波形データの2以上の任意倍数の周波数スペクトル領域を含む雑音周波数スペクトル領域を
含む2値パルス列データに変換し、
前記パルス列データを基本パルス波形で置き換えて上限周波数と下限周波数とからなる雑音周波数スペクトル領域特性を有する駆動波形時系列データとし、
前記駆動波形時系列データをアナログ−デジタル変換して駆動電圧として出力し、
前記駆動電圧を線路常数を介して超伝導状態のジョセフソン接合アレイに入力して、前記信号周波数スペクトル領域と雑音周波数スペクトル領域を有する周波数特性の接合アレイ両端電圧を発生させ、
前記ジョセフソン接合アレイの両端電圧をローパスフィルタを介して前記信号周波数スペクトル領域のみを有する出力電圧波形を取り出すことを特徴とするパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法。
【0010】
(6)パルス駆動型ジョセフソン波形発生回路は、
パルス発生回路と、
複数のジョセフソン接合素子を直列接続したジョセフソン接合アレイ量子化器と、
前記パルス発生回路と前記ジョセフソン接合アレイ量子化器を接続する高周波伝送路と、
前記ジョセフソン接合アレイ量子化器の出力をフィルタを介して取り出す出力回路とからなり、
前記パルス発生回路は、
出力すべき波形データを入力し、該波形データをデルタシグマ変調して前記波形データの信号周波数スペクトル領域と前記波形データの2以上の任意倍数の周波数スペクトルを含む雑音周波数スペクトル領域を含む2値パルス列データに変換するデルタシグマ変調回路と、
この2値パルス列データを基本パルス波形で畳み込み上限周波数と下限周波数とからなる雑音周波数スペクトル領域特性を有する駆動波形時系列データとするパルス波形畳み込み回路と、
この駆動波形時系列データを駆動電圧として出力するデジタルーアナログ変換器とから構成し、
前記ジョセフソン接合アレイ量子化器は、
高周波伝送路を介して入力された前記駆動電圧を前記信号周波数スペクトル領域と雑音周波数スペクトル領域を有する周波数特性の接合アレイ両端電圧として発生させるジョセフソン接合アレイと、
前記ジョセフソン接合アレイの両端電圧の周波数スペクトル特性を信号スペクトル領域のみの特性の出力電圧信号を取り出すローパスフィルタと
からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、発生信号波形の精度を高めることができる。
本発明は、出力すべき波形信号を入力し、その波形信号の1倍と2以上の任意倍数の周波数スペクトル特性を有する2値パルス列信号を形成し、その2値パルス列信号を基本パルス波形で置き換えて前記2以上の任意倍数の周波数スペクトル特性のみを有する駆動波形時系列データに変換し、駆動波形時系列データを伝送系を介してジョセフソン接合アレイ量子化器へ入力し、その量子化器でもとの波形信号の1倍と2以上の任意倍数の周波数スペクトル特性を有する電圧信号を再生し、最後にローパスフィルタを介して低域のもとの波形信号の1倍の周波数スペクトル特性を有する電圧信号を出力するので、伝送系をとおす信号を入力波形信号の周波数スペクトル領域ではない高域、即ち、入力波形信号の2以上の任意倍数の周波数スペクトル領域の信号を用いるので、伝送系の分布常数の影響が受けにくくなり、ジョセフソン接合アレイ量子化器を用いた再生時、入力波形信号の1倍の周波数スペクトル領域の信号を再生することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を図に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
( 繰返しパルスに対する応答 )
本願発明の方法で用いる装置のブロック図を図1に示す。図1は任意波形発生のための装置のブロック構成図である。
装置は、主に、ジョセフソン接合アレイ2とパルス発生回路1と出力回路となる負荷(測定器)3からなる。
ジョセフソン接合アレイ2は、複数のジョセフソン接合素子14を直列接続したジョセフソン接合アレイ量子化器10と、そのジョセフソン接合アレイ量子化器10の一端に接続した終端抵抗16およびローパスフィルタLPF15と、ジョセフソン接合アレイ量子化器10の他端に接続したローパスフィルタLPF13および結合コンデンサ12からなる。終端抵抗16は接地される。結合コンデンサ12にはパルス発生回路1へのケーブル11が接続される。
パルス発生回路1は、室温に置かれ、下記の式(1)を満たす図2の波形のパルスを発生する。
【0014】
負荷3は、室温に置かれ、十分高いインピーダンスを持つ機器、例えば、測定器である電圧計Vから構成される。負荷3のそれぞれの端子は、ローパスフィルタLPF13とローパスフィルタLPF15に接続される。
図1では、入力パルス信号発生回路1は室温に置かれる。直列ジヨセフソン接合アレイ2は低温で超伝導状態に置かれる。負荷回路3は室温に置かれ、十分高いインピーダンスを持つ。
前記量子化器10は、分布容量や分布インダクタンスがあるため、信号スペクトル特性において、入力信号成分が残っているとその信号成分が分布容量や分布インダクタンスに作用して、不要な出力を発生し、望ましい出力信号を得ることができない。この問題点を解消するために、本願発明は、本発明の基本パルスとなるパルス波形のパルス信号を用いて、図4の信号処理に裏付けられた任意波形発生方法により解消する。
パルス発生回路1は、図4に示すように、ΔΣ変調回路21、パルス波形畳み込み回路22、高周波D/A変換器23からなる。パルス発生回路1の動作は後述する。
【0015】
まず,課題を解決するための手段の項で述べた条件、即ち、
(1)時間軸でみて主として一つの大きな尖頭値を有する波から構成され、
(2)かつ波の最大値と最小値の比が大きく、
(3)周波数軸でみて出力波形の周波数と重畳しない領域の二つの周波数f1およびf2で規定される幅を持つ波形、
の条件を満たすパルス波形として次式1であらわされる波形を用いて、理論的に本方式の有効性を確認した。
【数1】

【0016】
上記式1は一種のフィルタを構成し、そのfおよびfはパラメータとなる。
式1のパルス信号を時間軸でみた波形を図2に示す。図2は時間軸で表示したパルス波形図である。
図2のパルス波形は、
(1)信号波形の積分値がゼロになるように形成される、即ち、直流分がゼロになる、
(2)電流値ゼロ点を基準にしてみた、正負の最大振幅値の比を大きくする、
(3)低周波を含まない、
(4)ジョセフソン接合素子を動作させることができる、
特性を有する。
【0017】
図2の波形のパルスは周波数f以上周波数f以下の周波数成分のみを持つようになる。
図2の波形のパルスを単位パルス又は基本パルスとして以下の処理に用いる。
この基本パルスを時間的に連続して発生させた入力パルス列(テストパルス列)信号は図3のようになる。
【0018】
図3は動作確認に用いた繰返しパルス列信号である。
繰返しパルス列信号のパルス間隔をf/2の逆数の整数倍としたとき、パルスピーク値が変化しないようになる。ここで本方法が安定に適用できるか否かを決める特性として、入力バルス列の配置として図3(A)、(B)に示す両配置に対し、外部からアレイヘ流出入する電流Idcが変化した時にジョセフソン接合アレイが正しく動作する領域を調べた。
ここで用いたパラメータは下記のようになる。
【0019】
−ジョセフソン接合アレイ
*臨界電流I=3mA
*特性周波数f=16GHz
*伝送線路インピーダンス50Ω
*接合数1000
【0020】
−入力パルス信号
*上限周波数f=fc=16GHz
*下限周波数f=0.1f=1.6GHz
*パルス周波数f=2f=3.2GHz
*パルスピーク電流Imax=2.41c=7.2mA
【0021】
その結果、正しい出力を得ることができる電流Idcは、
−図3のテストパルス列Aに対して、
−0.32I(−0.96mA)<IdC<0.58I(1.74mA)
の範囲で、
−テストパルス列Bに対して、
−0.26I(−0.78mA)<Id<0.26I(0.78mA)
の範囲で、
正常動作が確認された。
これにより、パルス列のパターンによらず、ジョセフソン接合の臨界電流の±26%以上の電流マージンで正常動作することがわかった。したがって本方式による任意波形発生装置は、精密計測への応用が可能な動作マージンを持つと言える。
( 波形生成例 )
【0022】
上記パルスを用いて、任意波形を発生するための手順を図4に示す。
図4は本発明の回路装置の各部構成での信号波形およびスペクトルを示す説明図である。
図4中の(a)は波形データを2値パルス列データに変換した波形図、(b)は2値パルス列データを駆動波形時系列データに変換した波形図、(c)は駆動波形時系列データをD/A変換し、ジュセフソン接合(アレイ)量子化器を通した接合(アレイ)両端電圧波形の波形図を示す。
【0023】
ΔΣ(デルタシグマ)変調回路は、例えば、例えばオーバーサンプリングされた入力信号と帰還電圧との差分値を積分する積分器と、その積分値を1ビット量子化してビットストリームを生成・出力する1ビット量子化器と、この1ビット量子化器の出力のレベルに応じて帰還電圧をフィードバックする帰還電圧選択部とにより構成される。
パルス発生回路に任意波形データ(数値データ)、例えば時系列波形(a)のアナログ信号を入力すると、該波形(a)の信号はΔΣ変調回路21を介して時系列波形(b)の2値(+1、−1)パルス列(数値データ)信号に変調される。ΔΣ変調回路21はアナログ信号をパルスの粗密波に変調する回路である。波形(a)の信号スペクトルは、縦軸信号強度、横軸周波数のスペクトル特性(f)において、低い周波数領域に抑え込まれている。
【0024】
ΔΣ変調後の波形(b)の信号は、スペクトル特性(g)において、信号スペクトル領域と雑音スペクトル領域に分離する。雑音スペクトルは、信号(a)の2倍波、4倍波、・・・、2倍波(但し、Nは自然数)のスペクトル成分を含む。
波形(b)の2値パルス列信号はパルス波形畳み込み回路22を介して時系列波形(c)に示す駆動波形時系列データ(数値データ)を出力する。パルス波形畳み込み回路22はフィルタ処理回路で構成する。回路22のフィルタ処理により、波形(b)のパルス1個ずつは図2に示す基本パルスで置き換え、また、波形(b)の時系列特性は波形(c)におけるパルスの時系列特性により置き換える。
【0025】
波形(c)の時系列信号のスペクトル特性は、スペクトル特性(h)における雑音スペクトル領域の上限周波数が前記式(1)のfを表し、下限周波数が(1)のfを表わす。
時系列波形(a)の入力信号の成分は、時系列波形(c)のパルス列のパターンに残してある。
【0026】
時系列波形(c)の駆動波形時系列データ(数値データ)は、次に、高周波D/A変換器23を介して駆動電圧波形を有する信号に変換され、ケーブル11を介してジョセフソン接合アレイ2に入力される。
前記駆動電圧波形を有する信号は、ジョセフソン接合アレイ2のJosephson接合(アレイ)量子化器10をとおすことによりその量子化器10の両端に時系列波形(d)の電圧信号として形成される。
【0027】
この時系列波形(d)の電圧信号のスペクトル特性は、スペクトル特性(i)の特性となる。即ち、スペクトル特性(i)は前記スペクトル特性(g)を復調した特性となる。
この信号スペクトル領域と雑音スペクトル領域を有するスペクトル特性(i)の接合(アレイ)両端電圧信号をLPF13および15を介して低域信号だけの出力(電圧波形)信号として取り出す。この出力信号は、時系列波形(e)の信号であり、前記時系列波形(a)の入力信号を復調した信号となる。また、この出力信号のスペクトル特性は、スペクトル特性図(j)の特性となり、信号スペクトル領域だけの特性となる。
従って、入力信号波形を再現して出力することができることとなる。
【0028】
前記超伝導状態におかれたジョセフソン接合アレイに関しては、下記のような条件で、10MHzの正弦波電圧を発生させる数値実験を行なった。
−ジョセフソン接合アレイ
*臨界電流1=3mA
*特性周波数f=20.48GHz
*伝送線路インピーダンス50Ω
*接合数1024
【0029】
−入力バルス信号
*上限周波数f=20.48GHz
*下限周波数f=O.125fH=2.56GHz
*パルス周波数加=2fL=5.12GHz
*パルスピーク電流Imax=2.51c=7.5mA
【0030】
−出力電圧波形
*正弦波
*周波数:10.00MHz
*ピーク電圧:5.42mV
【0031】
その結果、図4中の(a)〜(e)の波形に対応する電力スペクトルとして、それぞれ図5〜図9が得られ、駆動波形として出力信号と同じ周波数成分を含まず、なおかつ大振幅出力が可能であることが確認された。
図5〜9は正弦波発生の数値実験での各部電力スペクトルを示す図である。図中、横軸は周波数(MHz)、縦軸は電力強度(dB)を示す。
10MHzの正弦波発生数値実験における、装置各部分での信号波形の電力スペクトルを図5−9に示す。
発生を希望する正弦波のスペクトル図5では、誤差分を除き10MHz成分のみ存在する。この信号波形をΔΣ変調回路に通して得られたパルス列信号のスペクトル図6は10MHz成分に加え、変調により発生したい信号成分が変換された高周波成分を含むものとなる。この波形を、前述のパルス波形畳み込み回路を通すことにより得られた信号の電力スペクトルは、発生させたい信号波形のスペクトル(この場合は10MHz)と重ならない、帯域制限されたものとなる(図7)。この信号を、Josephson接合アレイ量子化器に入力し発生された電圧信号のスペクトルは図8となり、図6と同様に 10MHz成分と高周波成分を含むものである。これを、低周波通過フィルタ(LPF)を通して最終的に得られた信号の電力スペクトル図9においては、10MHz信号は他の成分に比べ70dB以上の大きな信号雑音比をもっており、精密信号波形発生装置として機能していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】任意波形発生のための装置のブロック構成図である。
【図2】時間軸で表示した、請求項に示すパルス波形
【図3】動作確認に用いた繰返しパルス列
【図4】発明の回路装置の各部分での信号波形およびスペクトルを示す説明図である。
【図5】波形データを2値パルス列データに変換した波形図である。
【図6】2値パルス列データを駆動波形時系列データに変換した波形図である。
【図7】駆動波形時系列データをD/A変換し、ジュセフソン接合(アレイ)量子化器を通した接合(アレイ)両端電圧波形の波形図である。
【図8】Josephson接合(アレイ)量子化器の両端の時系列波形図である。
【図9】信号スペクトル領域と雑音スペクトル領域を有するスペクトル特性(i)の接合(アレイ)両端電圧信号を、LPFを介して低域信号だけ取り出した出力信号波形図である。
【符号の説明】
【0033】
1 入力バルス信号発生回路
2 直列ジヨセフソン接合アレイ
3 負荷回路
10 Josephson接合(アレイ)量子化器
11 ケーブル
12 結合コンデンサ
13、15 LPF
14 ジョセフソン接合素子
16 終端抵抗
21 ΔΣ変調回路
22 パルス波畳み込み回路
23 高周波D/A変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス駆動型ジョセフソン波形発生回路において、出力する予定の信号を入力し、該信号に基づきパルス列信号を形成し、該パルス列信号により任意波形の信号を発生する方法であって、
前記パルス列信号を構成する基本パルスは、時間軸でみて一つの大きな尖頭値を有する波形を有し、且つ前記波形の最大値と最小値の比が大きくなるように構成し、前記パルス列信号は、スペクトル特性が周波数軸でみて出力波形の周波数と重畳しない領域を有し、その領域を画成する二つの周波数f1およびf2で規定される幅を持つ信号で置き換えることを特長とするパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法。
【請求項2】
上記置き換える信号の、時間軸でみた尖頭値と最小値の比が少なくとも2倍以上であることを特長とする請求項1記載のパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法。
【請求項3】
上記領域を画成する二つの周波数f1およびf2のうち、高い周波数f2は低い周波数f1の2倍以上にしたことを特長とする請求項1記載のパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法。
【請求項4】
上記領域を画成する二つの周波数f1およびf2のうち、低い周波数f1が、前記出力する予定の信号の周波数分布の最大周波数の少なくとも10倍以上としたことを特長とする請求項1記載のパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法。
【請求項5】
出力すべき波形データを入力し、該波形データをデルタシグマ変調して前記波形データの信号周波数スペクトル領域とスペクトル特性が周波数軸でみて出力波形の周波数と重畳しない領域を有し、前記波形データの2以上の任意倍数の周波数スペクトル領域を含む雑音周波数スペクトル領域を含む2値パルス列データに変換し、前記パルス列データを基本パルス波形で置き換えて上限周波数と下限周波数とからなる雑音周波数スペクトル領域特性を有する駆動波形時系列データとし、前記駆動波形時系列データをアナログ−デジタル変換して駆動電圧として出力し、前記駆動電圧を線路常数を介して超伝導状態のジョセフソン接合アレイに入力して、前記信号周波数スペクトル領域と雑音周波数スペクトル領域を有する周波数特性の接合アレイ両端電圧を発生させ、前記ジョセフソン接合アレイの両端電圧をローパスフィルタを介して前記信号周波数スペクトル領域のみを有する出力電圧波形を取り出すことを特徴とするパルス駆動型ジョセフソン波形発生方法。
【請求項6】
パルス発生回路と、複数のジョセフソン接合素子を直列接続したジョセフソン接合アレイ量子化器と、前記パルス発生回路と前記ジョセフソン接合アレイ量子化器を接続する高周波伝送路と、前記ジョセフソン接合アレイ量子化器の出力をフィルタを介して取り出す出力回路とからなり、前記パルス発生回路は、出力すべき波形データを入力し、該波形データをデルタシグマ変調して前記波形データの信号周波数スペクトル領域と前記波形データの2以上の任意倍数の周波数スペクトルを含む雑音周波数スペクトル領域を含む2値パルス列データに変換するデルタシグマ変調回路と、この2値パルス列データを基本パルス波形で畳み込み上限周波数と下限周波数とからなる雑音周波数スペクトル領域特性を有する駆動波形時系列データとするパルス波形畳み込み回路と、この駆動波形時系列データを駆動電圧として出力するデジタルーアナログ変換器とから構成し、前記ジョセフソン接合アレイ量子化器は、高周波伝送路を介して入力された前記駆動電圧を前記信号周波数スペクトル領域と雑音周波数スペクトル領域を有する周波数特性の接合アレイ両端電圧として発生させるジョセフソン接合アレイと、前記ジョセフソン接合アレイの両端電圧の周波数スペクトル特性を信号スペクトル領域のみの特性の出力電圧信号を取り出すローパスフィルタとからなることを特徴とするパルス駆動型ジョセフソン波形発生回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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