説明

パンクシーリング剤の製造方法

【課題】増粘、ゲル状化を抑制して、パンクシール性及び生産性に優れたパンクシーリング剤を作製することができるパンクシーリング剤の製造方法を提供する。
【解決手段】アニオン性界面活性剤とアルカリ性物質とを混合して、界面活性剤含有水溶液を調製する水溶液調製工程と、前記水溶液調製工程で調製された界面活性剤含有水溶液とラテックスとを混合して、パンクシーリング剤を調製するシーリング剤調製工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のタイヤのパンク箇所を補修するパンクシーリング剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンクが発生した際にその発生箇所をシールするための補修剤であるパンクシーリング剤は、(1)パンクシーリング剤の本来の機能であるパンクしたタイヤの孔をシールするパンクシール性、(2)パンクシーリング剤の粘度を低くし、バルブ等からパンクシーリング剤を注入し易くする観点から、注入容易性、(3)低温環境下でも使用可能な、ある程度の不凍性、(4)長期間保存可能な保存安定性、等が要求される。
【0003】
パンクシーリング剤は、一般にパンクシーリング剤を構成する成分を攪拌混合して製造されるが、製造の過程において、例えばラテックス中のゴム等の粒子が凝集する等して、溶液がクリーム化・ゲル化等、不安定化しないように種々の工夫が施されている。
【0004】
パンクシーリング剤の製造に用いられる主な原料としては、ゴムや樹脂の粒子(例えばゴムエマルジョン)や粘着付与剤(例えば粘着剤エマルジョン)、不凍液などがある。このうち、例えば不凍液として用いられるプロピレングリコールは、水との混和力が強い粘性の液体であるため、ゴムラテックスと接触した際に水分を急激に吸収し易く、ラテックス中の粒子濃度が高くなって融合し、凝集塊が生成されやすくなる。
【0005】
一方、パンクシーリング剤を使用してタイヤのパンクを補修する場合、パンクシーリング剤は、例えばコンプレッサを用いてタイヤ内に注入される。パンクシーリング剤をタイヤ内に注入する際、注入作業時にバルブ付近などで温度が高くなると、パンクシーリング剤がゲル化し、注入し難くなって注入に長時間を要したり、詰まってシーリング剤の注入ができない等の支障を来たすことがある。
【0006】
このような現象を回避する方法として、ゴムラテックスと水とを混合する第1の混合工程、凍結防止剤と粘着剤とを混合する第2の混合工程、第1の混合工程を経た混合液と第2の混合工程を経た混合液とを混合する第3の混合工程、及び第3の混合工程後に濾過を行う濾過工程を設けたパンクシーリング剤の製造方法が提案されており(例えば、特許文献1参照)、ゴムラテックス凝集塊に起因するシーリング剤のゲル化が防止されるとされている。
【0007】
また別の方法として、HLB13未満のノニオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤を添加する等の方法が知られている。このうち、アニオン系の界面活性剤は、高温下でもパンクシーリング剤中で安定的に機能させ得る観点から好適に用いられている。
【0008】
界面活性剤を用いたパンクシーリング剤として、天然ゴムラテックスに粘着剤と凍結防止剤と界面活性剤とを含有してなるパンクシーリング剤が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−069253号公報
【特許文献2】特開2007−182583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、第1〜第3の混合工程と濾過工程とを設けた上記従来のパンクシーリング剤の製造方法では、タイヤ内への注入作業時におけるゲル化を回避することまでは困難である。
【0011】
また、アニオン系界面活性剤を用いる場合、アニオン系界面活性剤は水中で低pHの酸性を示すため、一般にアルカリ性に調整されているパンクシーリング剤に添加されると、パンクシーリング剤のゲル化を招来する。すなわち、パンクシーリング剤の製造に用いられるゴムラテックスは、ゴム粒子がマイナス電荷を持ち、電荷の反発力で粒子同士が互いに離間して、凝集せずに分散状態を保っているが、酸性の界面活性剤が添加されると、pHが低下し、電荷同士の反発力が低下する。その結果、ゴム粒子同士は凝集しやすくなり、増粘し、ひいてはゲル化を起こしやすくなる。
【0012】
パンクシーリング剤の増粘ないしゲル化が生じると、タイヤ内への注入性が損なわれるほか、パンク箇所のシール性も低下する。
【0013】
また、製造時においても、パンクシーリング剤の増粘、ゲル化が生じると、粘度上昇を抑えるために添加速度を遅くせざるを得ず、またゲル状物の濾過作業が必要になる等、製造時間やコスト等の製造適性が損なわれる。更には、パンクシーリング剤の保存安定性が低下したり、パンクシール性も低下しやすくなる。
【0014】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、増粘ないしゲル状化が抑制され、パンクシール性及び生産性に優れたパンクシーリング剤を作製することができるパンクシーリング剤の製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、パンク補修時の温度上昇に伴なう増粘、ゲル状化の抑制にアニオン性界面活性剤が有効であるが、アニオン性界面活性剤は、製造時に増粘、ゲル状化を招きやすいため、所定pH以上に調整することが望ましいとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0016】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> アニオン性界面活性剤とアルカリ性物質とを混合して、界面活性剤含有水溶液を調製する水溶液調製工程と、前記水溶液調製工程で調製された界面活性剤含有水溶液とラテックスとを混合して、パンクシーリング剤を調製するシーリング剤調製工程と、を有するパンクシーリング剤の製造方法である。
【0017】
前記<1>に記載の発明によれば、パンク補修時の環境温度やバルブ等の温度上昇に伴なうパンクシーリング剤のゲル状化防止のためにアニオン性界面活性剤を用いてパンクシーリング剤を製造する場合において、ラテックスとアニオン性界面活性剤とを混合する前に予め、アニオン性界面活性剤を水溶液に含ませたときのpHが低くなりすぎないように、アルカリ物質をアニオン性界面活性剤と混合してpHをある程度高めておくことで、パンクシーリング剤を製造する際の増粘、ひいてはゲル状化を抑制することができる。これにより、パンクシーリング剤の製造時には、混合速度(例えば滴下速度)を高めることができ、ラテックス凝集塊等のゲル状物の濾過作業も不要になり、製造時間の短縮化、それに伴なうコスト低減を図ることができる。また、パンクシーリング剤の使用時には、パンク補修時の環境温度やバルブ等の温度上昇等でゲル状化するのを防止でき、またパンクシール性、長期での保存安定性をも高めることができる。
【0018】
<2> 前記<1>に記載のパンクシーリング剤の製造方法において、前記水溶液調製工程は、前記アルカリ性物質の混合によりpH(25℃)が5.5以上の前記界面活性剤含有水溶液を調製する態様が好ましい。
【0019】
前記<2>に記載の発明によれば、アニオン性界面活性剤を含む水溶液のpHを5.5以上に調節しておくことで、シーリング剤調製工程でラテックスと混合した際の増粘ないしゲル状化の発生をより効果的に抑制することができる。
【0020】
<3> 前記<1>又は前記<2>に記載のパンクシーリング剤の製造方法において、前記水溶液調製工程では、さらに凍結防止剤を混合して水溶液を調製し、前記シーリング剤調製工程では、前記ラテックスの混合後に、更に、粘着剤エマルジョンを混合することが好ましい態様である。
【0021】
一般に凍結防止剤をラテックス中に滴下するとラテックスの不安定化を招きやすい。そのため、前記<3>に記載の発明によれば、ラテックスと混合する前に予め、凍結防止剤を水溶液中に含めておくことで、凍結防止剤の濃度をラテックスとの混合時にゲル状化が生じない程度に低く抑えることができ、また粘着剤エマルジョンは、アニオン性界面活性剤を含む水溶液とラテックスの混合後に混合されることで、ラテックスの凝集等の不安定化、それに伴うゲル化が抑制される。これにより、パンクシーリング剤を製造する際の増粘ないしゲル状化の発生をより効果的に抑制することができる。
【0022】
<4> 前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤の製造方法において、前記アルカリ性物質の少なくとも一種は、アルカリ金属の水酸化物及び弱酸塩並びにアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい態様である。
前記<4>に記載の発明によれば、取扱い性、入手性が容易であり、水への溶解性が比較的低い有機系のアルカリ性物質に比べ、より容易に調製を行なうことができる。
【0023】
<5> 前記<3>又は前記<4>に記載のパンクシーリング剤の製造方法において、水溶液調製工程は、アニオン性界面活性剤及び水を混合して第1の水溶液を調製する工程と、凍結防止剤、アルカリ性物質、及び水を混合して第2の水溶液を調製する工程とを含み、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合し、前記界面活性剤含有水溶液を調製することが好ましい態様である。
【0024】
前記<5>に記載の発明によれば、製造速度を高め、生産性を向上させることができる。すなわち、アニオン性界面活性剤をアルカリ性物質とは別に水に充分に溶解させ、これとは別に比較的水溶性の高いアルカリ性物質は凍結防止剤と共に水に溶解させた後、これらを混合すると、短時間で均一に調製しやすい。また、濃度の高い凍結防止剤とラテックス又は粘着剤エマルジョンとが直接混合されるとラテックスや粘着剤の安定性が低下しやすくなるが、凍結防止剤を予め薄めた状態にして混合することで、ラテックスを安定に保ち、粘着剤の混合速度を速めることができる。これにより、パンクシーリング剤の製造時における増粘、ゲル状化が抑制され、製造時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、増粘ないしゲル状化が抑制され、パンクシール性及び生産性に優れたパンクシーリング剤を作製することができるパンクシーリング剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】パンクシーリング剤をタイヤに充填するために用いられるシーリング・ポンプアップ装置の一例を示す概略図である。
【図2】パンクシーリング剤をタイヤに充填するために用いられるシーリング・ポンプアップ装置の他の例を示す概略図であり、(A)はパンクシーリング剤の収納容器であるボトルの使用例を示す概略図であり、(B)はエアコンプレッサの使用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のパンクシーリング剤の製造方法について詳細に説明する。
本発明のパンクシーリング剤の製造方法は、アニオン性界面活性剤とアルカリ性物質とを混合して、界面活性剤含有水溶液を調製する水溶液調製工程と、前記水溶液調製工程で調製された界面活性剤含有水溶液とラテックスとを混合して、パンクシーリング剤を調製するシーリング剤調製工程と、を設けて構成されたものである。本発明のパンクシーリング剤の製造方法は、必要に応じて、更に他の工程を設けて構成されてもよい。
【0028】
本発明においては、アニオン性界面活性剤を用いるに際し、ラテックスとの混合前に予めアルカリ物質をアニオン性界面活性剤と混合し、水溶液を調製するときのpHが低くなりすぎないように高めておくことで、パンクシーリング剤を製造する際の増粘、ひいてはゲル状化を抑制することができる。これにより、パンクシーリング剤の製造に要する製造時間の短縮及びそれに伴なうコスト低減が図れ、更にはパンクシーリング剤のパンクシール性、長期での保存安定性を高めることができる。
【0029】
(水溶液調製工程)
本発明における水溶液調製工程は、少なくとも、アニオン性界面活性剤と、アルカリ性物質とを混合して、界面活性剤含有水溶液を調製する。アニオン性界面活性剤を水と混合して調製される水溶液は、酸性を示すため、アルカリ性物質を混合することにより水溶液の液性を、ラテックスと混合した際の増粘ないしゲル状化を抑制することができる。
【0030】
アニオン性界面活性剤とアルカリ性物質との混合に際しては、アニオン性界面活性剤を含む水溶液にアルカリ性物質を混合する態様、アルカリ性物質を含む水溶液にアニオン性界面活性剤を混合する態様、あるいは水にアルカリ性物質とアニオン性界面活性剤とを同時に混合する態様など、いずれの方法で混合してもよい。中でも、後述する凍結防止剤を用い、この凍結防止剤とアルカリ性物質との混合液に、アニオン性界面活性剤を含む水溶液を混合する態様が好ましい。
【0031】
界面活性剤含有水溶液を調製する際の混合は、公知の撹拌方法や攪拌装置を目的や場合に応じて適宜選択して攪拌することにより行なうことができる。混合時の攪拌速度の変化量は一定であることが好ましく、例えば、攪拌速度の変化量を1rpm/mlと定める場合、液の体積が1mlであるときは攪拌速度を1rpmとし、液の体積が3mlであるときは攪拌速度を3rpmとすることができる。液の攪拌速度は、液量が増加すると共に随時増加してもよいし、一定体積で増加するごとに増加してもよい。
【0032】
−アニオン性界面活性剤−
本発明のパンクシーリング剤は、アニオン性界面活性剤の少なくとも一種を含有する。アニオン性界面活性剤は、疎水基と水系溶媒中でアニオン化する親水基とから構成される化合物である。
【0033】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩(例えば、オレイン酸カリウム、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウムなど)、硫酸エステル塩(例えば、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩(例:アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムなど)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン)、スルホン酸塩〔例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例:アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩〕、イゲボン、エアロゾルOT型(スルホコハク酸ジイソオクチルナトリウム)、リン酸エステル塩などを挙げることができる。
【0034】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩は、下記式(a)で表される化合物が好ましい。
R−O−(−CHCHO−)−SOM ・・・(a)
前記式(a)中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基を表す。Mは、Na、NH、又はHN(COH)を表す。nは、1〜10の整数を表す。
前記Rで表されるアルキル基としては、炭素数1〜15のアルキル基が好ましく、例えば、ラウリル基等が含まれる。
【0035】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0036】
上記のアニオン性界面活性剤の中でも、安定性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、カルボン酸塩を用いるのが好ましい。
【0037】
アニオン性界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アニオン性界面活性剤のパンクシーリング剤中における含有量としては、パンクシーリング剤の全質量に対して、0.01〜10質量%の範囲が好ましく、0.1〜2質量%の範囲がより好ましい。アニオン性界面活性剤の含有量は、0.01質量%以上であることで、パンク補修時の温度上昇等で生じやすい増粘ないしゲル状化を防止することができ、また10質量%以下であると、パンクシール性の点で有利である。
【0038】
−アルカリ性物質−
本発明のパンクシーリング剤は、アルカリ性物質の少なくとも一種を含有する。
アルカリ性物質としては、水溶液中でアルカリ性を示す化合物であれば、特に制限はなく、無機系又は有機系のいずれの化合物も用いることが可能である。
【0039】
アルカリ性の化合物としては、水中で解離してアルカリ性を示すイオン性化合物が好適である。無機系のアルカリ性化合物としては、例えば、アンモニア、金属の水酸化物、弱酸の金属塩などの金属化合物が挙げられる。金属は、いずれの価数を持つものでもよく、好ましくは1価又は2価の金属である。無機系のアルカリ性化合物の具体例としては、アルカリ金属の水酸化物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)及び弱酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、又は同金属の酢酸塩など)、アルカリ土類金属の水酸化物(例:水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなど)、及び弱酸塩(例:炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、又は同金属の酢酸塩など)、遷移金属の水酸化物(例:水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化銅)、及び弱酸塩(例:炭酸鉄、炭酸ニッケル、炭酸銅等の炭酸塩や、同金属の酢酸塩など)、等を挙げることができる。
また、有機系のアルカリ性化合物として、例えば、有機カルボン酸(例:シュウ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸など)のアルカリ金属塩などを挙げることができる。
【0040】
前記アルカリ性化合物としては、取扱い性や入手性、水への溶解性、アルカリ性の程度の観点から、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物及び弱酸塩、並びにアンモニアからなる群より選ばれる化合物が好ましい。中でも、臭気や作業環境の点から、不揮発性のアルカリ性化合物がより好ましく、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩がより好ましく、アルカリ金属の水酸化物がさらに好ましい。
なお、「不揮発性」とは、蒸気圧が水より低い状態であることをいう。
【0041】
アルカリ性化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アルカリ性化合物は、界面活性剤含有水溶液をラテックスと混合した後の増粘ないしゲル状化を回避する観点から、界面活性剤含有水溶液のpH(25℃)を5.5以上に調整するのに必要な量を混合することが好ましい。前記pHが5.5以上であると、ゲル状物の発生の抑制効果が高い。中でも、アルカリ性物質の混合量は、pHを7以上に調整し得る量がより好ましい。更には、粘度の観点からpHを8.5以上に調整し得る量が好ましい。また、pHの上限値は、腐食性の点で13が望ましい。
【0042】
−凍結防止剤−
本発明における水溶液調製工程においては、界面活性剤含有水溶液の調製にあたり、更に、凍結防止剤を混合することができる。凍結防止剤の混合は、上記のアニオン性界面活性剤及びアルカリ性物質との関係で混合タイミングが制限されるものではなく、いずれの順序で混合してもよい。
【0043】
好ましくは、凍結防止剤をアルカリ性物質と混合し、これをアニオン性界面活性剤と混合するのが好ましい。具体的には、アニオン性界面活性剤(好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、カルボン酸塩)及び水を混合して第1の水溶液を調製する工程と、凍結防止剤、アルカリ性物質(好ましくはアルカリ金属の水酸化物)、及び水を混合して第2の水溶液を調製する工程とを設け、各工程で調製した第1の水溶液と第2の水溶液とを混合することにより、界面活性剤含有水溶液を調製することが好ましい。このように混合すると、短時間で均一に調製しやすく、また、濃度の高い凍結防止剤とラテックス又は粘着剤エマルジョンとが直接混ざり合うのを防ぎ、ラテックスを安定に保ち、粘着剤の混合速度を速めることができる。
【0044】
本発明のパンクシーリング剤は、凍結防止剤の少なくとも一種を含有することが好ましい。凍結防止剤は、パンクシーリング剤を寒冷地で用いたときに、パンクシーリング剤の凍結を防止するものであり、凍結防止機能を有するものであれば特に制限はない。
【0045】
凍結防止剤としては、例えば、1価のアルコールや2価のアルコールを用いることができる。凍結防止剤の具体例には、エタノール、1−プロパノール、エチレングリコール(EG)、及びプロピレングリコール(PG)等を挙げることができる。アルコールは、直鎖でも分岐でも環状でもよく、中でも、安全性の観点からはプロピレングリコール(PG)を用いることが好ましく、パンクシーリング剤の低粘度化の観点からは、炭素数1〜5の1価のアルコールを用いることが好ましい。
【0046】
界面活性剤含有水溶液中における凍結防止剤の混合濃度は、ラテックスとの混合によるゲル化防止の点から、アニオン性界面活性剤、アルカリ性物質、及び水の合計量に対して、200〜250質量%の範囲が好ましく、220〜240質量%の範囲がより好ましい。凍結防止剤の含有比は、200質量%以上であると凍結防止に効果的であり、250質量%以下であるとラテックスの不安定化を来たすことがない。
【0047】
凍結防止剤は、1種単独で用いるほか、2種以上を混合して用いてもよい。
凍結防止剤のパンクシーリング剤中における含有量としては、特に制限はないが、低温時の凍結防止性の観点から、パンクシーリング剤の全質量に対して5質量%〜90質量%であることが好ましい。より好ましい含有量は、10質量%〜50質量%である。
【0048】
本発明における界面活性剤含有水溶液は、上記成分に加えて、さらに水を含有する。
水は、アルカリ性物質やアニオン性界面活性剤、凍結防止剤を溶解、希釈する場合などの分散媒として用いることができるが、パンクシーリング剤の希薄化のために用いることもできる。
【0049】
水溶液調製工程における混合処理は、0〜40℃の範囲で行なわれるのが好ましい。温度が0℃以上であると凍結を回避することができ、40℃以下であると、界面活性剤の安定性が良好である点で有利である。混合処理は、10〜30℃の範囲で行なわれるのがより好ましい。
【0050】
(シーリング剤調製工程)
本発明におけるシーリング剤調製工程は、少なくとも、前記水溶液調製工程で調製された界面活性剤含有水溶液と、ラテックスとを混合して、パンクシーリング剤を調製する。
【0051】
−ラテックス−
本発明におけるラテックスとしては、種類は特に制限されず、例えば、天然ゴム(NR)ラテックス、合成ゴムラテックス等のゴムラテックス、及び合成樹脂ラテックス等の樹脂ラテックスの中から適宜選択して用いることができる。
【0052】
前記合成ゴムラテックスとしては、例えば、SBR(スチレンブタジエンゴム)ラテックス、NBR(ニトリルゴム)ラテックス、MBR(アクリルゴム)ラテックス、BR(ポリブタジエンゴム)ラテックス、IIR(ブチルゴム)ラテックス、CRラテックス、IRラテックス、及び多硫化ゴムラテックス等が挙げられる。
【0053】
前記合成樹脂ラテックスとしては、例えば、カルボキシ変性NBRラテックス、カルボキシ変性SBRラテックス、アクリルエステル系ラテックス、スチレン・ブタジエン・レジンラテックス、酢酸ビニルラテックス、ポリ酢酸ビニルラテックス、塩化ビニルラテックス、ポリ塩化ビニルラテックス、塩化ビニリデンラテックス、ポリ塩化ビニリデンラテックス、及びポリスチレンラテックス等が挙げられる。
【0054】
上記の中でも、タイヤなどへの腐食性を考慮すると、合成ゴムラテックス又は合成樹脂ラテックスを用いることがより好ましく、SBRラテックス、NBRラテックス、MBRラテックス、BRラテックス、カルボキシル変性NBRラテックス、及びカルボキシル変性SBRラテックスからなる群より選択される1種又は2種以上を用いることがより好ましい。
【0055】
ラテックスは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
ラテックスのパンクシーリング剤中における混合量は、その全体質量がパンクシーリング剤の全質量に対して、10質量%〜90質量%とすることが好ましく、20質量%〜70質量%とすることがより好ましく、25質量%〜50質量%とすることがさらに好ましい。
【0056】
ラテックスの混合は、0〜40℃の範囲で行なうのが好ましい。温度が0℃以上であると、ラテックスの凍結、凝集を生じにくく、40℃以下であると、ラテックスが安定で凝集を起こし難い点で有利である。ラテックス混合時の好ましい温度範囲は、10〜30℃の範囲である。
【0057】
−粘着剤エマルジョン−
本発明におけるシーリング剤調製工程では、前記ラテックスの混合後に、更に、粘着剤エマルジョンを混合することが好ましい。粘着剤エマルジョンは、粘着剤の乳化分散物であり、粘着剤は主としてラテックスの固形分である合成ゴムや合成樹脂のタイヤへの接着力を向上させるものである。
【0058】
粘着剤は、本発明の効果を損なうものでなければ特に制限はなく、例えば、樹脂系粘着剤を好適に用いることができる。
【0059】
前記樹脂系粘着剤としては、例えば、天然樹脂、変性ロジン及び変性ロジンの誘導体、テルペン系樹脂及びテルペン変性体、脂肪族系炭化水素樹脂、シクロペンタジエン樹脂;芳香族系石油樹脂、フェノール系樹脂、アルキルフェノールアセチレン系樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂、クマロン・インデン樹脂、及びビニルトルエン−αメチルスチレン共重合体を挙げることができる。
【0060】
前記天然樹脂としては、ロジン、ダンマル等が挙げられる。
前記変性ロジン及び変性ロジンの誘導体としては、重合ロジン(例えば、ロジン酸エステル樹脂等)、部分水添ロジン等が挙げられる。
前記テルペン系樹脂及びテルペン変性体としては、ピネン、α−ピネンフェノール樹脂、ジペンテンフェノール樹脂、テルペンビスフェノール樹脂等のテルペンフェノール樹脂、又はこれらを水素添化したものなどが挙げられる。
前記脂肪族系炭化水素樹脂としては、オレフィン、オレフィン重合体等が挙げられる。
【0061】
また、アクリル系粘着剤、水溶性粘着剤等を用いることもできる。
【0062】
中でも、ラテックスを凝固しにくく、ラテックス固形分とタイヤとの接着性に優れるとの観点から、テルペンフェノール樹脂又はロジン酸エステル樹脂を用いることが好ましい。
【0063】
粘着剤は、ラテックスとの混和性やパンクシール性の向上を考慮して、粘着剤エマルジョンとして用い、ラテックスに適合するものを使用することが好ましい。ここで、粘着剤エマルジョンがラテックスに「適合」するとは、粘着剤エマルジョンがラテックスを少しも凝固させるものではないことを意味し、粘着剤エマルジョンがラテックスのタイヤへの接着力を向上するものとして用いられることを示す。例えば樹脂が、ゴム皮膜の粘着性付与剤としてのエラストマーに加えられて用いられ得る。
【0064】
粘着剤エマルジョンは、乳化剤として公知の界面活性剤(好ましくは、非イオン系界面活性剤)を使用し、粘着剤成分として、ロジン酸エステル樹脂、テルペンフェノール樹脂等のテルペン樹脂などの樹脂成分、又はポリイソブチレン等のブチルゴム系材料を使用して得られる。
【0065】
粘着剤エマルジョンの混合濃度は、ラテックスとの混合によるゲル化防止の点から、粘着剤エマルジョン及び水の合計量で凍結防止剤に対して40〜50質量%となる量が好適であり、42〜45質量%となる量がより好ましい。粘着剤エマルジョンの含有濃度が水との合計量で前記範囲内であると、ラテックスを安定に保つのに効果的である。
【0066】
粘着剤エマルジョンは、1種単独で用いるほか、2種以上を混合して用いてもよい。
粘着剤を粘着剤エマルジョンとして用いる場合、パンクシーリング剤中における粘着剤エマルジョンの混合量は、パンクシーリング剤の全質量に対して、1質量%〜15質量%であることが好ましく、2質量%〜12質量%であることがより好ましく、3質量%〜9質量%であることがさらに好ましい。粘着剤エマルジョンの含有量が1質量%〜15質量%の範囲内であると、実用的で良好なシール性を発揮させることができる。
【0067】
粘着剤エマルジョンの混合は、0〜40℃の範囲で行なうのが好ましい。温度が0℃以上であると、エマルジョンの凍結、凝集を生じにくくり、40℃以下であると、エマルジョンが安定で凝集を起こし難い点で有利である。粘着剤エマルジョン混合時の好ましい温度範囲は、10〜30℃の範囲である。
【0068】
ラテックスと前記界面活性剤含有水溶液との混合に際しては、ラテックスに界面活性剤含有水溶液を混合する態様、界面活性剤含有水溶液にラテックスを混合する態様などいずれの方法で混合してもよい。
【0069】
本発明のパンクシーリング剤は、上記成分に加えて、さらに水を含有する。
水は、前記水溶液調製工程において用いられるほか、粘着剤を粘着剤エマルジョンとして用いる場合や粘着剤エマルジョンを希釈する場合などの分散媒として用いることができるが、パンクシーリング剤の希薄化のために用いることもできる。
【0070】
パンクシーリング剤中の全固形分量としては、パンクシーリング剤の全質量に対して、5質量%〜70質量%であることが好ましく、5質量%〜60質量%であることがより好ましく、8質量%〜40質量%とすることがさらに好ましい。
【0071】
前記「全固形分量」は、以下のようにして求めることができる。
まず、パンクシーリング剤10gを4時間、140℃の状態で放置する。放置後の残留分の質量を測定し、当該残留分の質量をパンクシーリング剤の質量で除する(残留分の質量/放置前のパンクシーリング剤の質量)ことで求めることができる。
【0072】
全固形分量がパンクシーリング剤の全質量に対して、5質量%以上あると、優れたシール性を確保することが可能であり、70質量%以下であると、シール性以外の特性を良好に確保することができる。
【0073】
本発明では、上記のシーリング剤調製工程の後に、必要に応じて濾過工程や凝集塊成長工程を設けてもよい。以下、各工程について説明する。
【0074】
(濾過工程)
濾過工程は、シーリング剤調製工程で得られた液を、必要に応じて濾過する工程である。濾過方法としては、公知の方法を採用することができる。製造条件によっては、前記シーリング剤調製工程を経た後に、ゴムラテックスの凝集によるゲル化が進行して、微粒子状の凝集物が生成する場合がある。そして、該凝集物を放置しておくと、これを核としてゲル化がより進行する場合がある。そこで、濾過工程により核となる微粒子状の凝集物を除去し、最終的にゴムラテックス凝集塊に起因するシーリング剤のゲル化を効果的に防止することが好ましい。その結果、パンクシーリング剤の貯蔵安定性をも向上させることができる。
【0075】
濾過に使用する濾過器のフィルタ部材としては、金網状に形成された金属製のメッシュフィルタを用いることが好ましい。この場合、そのメッシュ数は50メッシュ(網目の開口径が約300μm)〜400メッシュ(網目の開口径が約30μm)のものを用いることが好ましい。メッシュフィルタの材質としては、ステンレス、アルミ合金等の耐腐食性が高い金属材料を好適に用いることができる。
【0076】
また、フィルタ部材としては、50メッシュ〜400メッシュのメッシュフィルタの網目と略同等の開口径の微小開口が多数、穿設された多孔質フィルタを用いてもよく、またメッシュフィルタや多孔質フィルタが積層された積層フィルタを用いてもよい。
【0077】
(凝集塊成長工程)
前記濾過工程に先立ち、凝集塊成長工程を設けることが好ましい。この凝集塊成長工程では、シーリング剤調製工程で調液されたシーリング剤原液を少なくとも24時間以上、好ましくは48時間以上の静置時間に亘って撹拌することなく容器内に保持(静置)する。静置時間の下限値は、濾過工程で用いられるメッシュフィルタのメッシュ数等に応じて24時間〜48時間の範囲で適宜、変更することができる。
【0078】
また、静置時間の上限値は特に制限されないが、パンクシーリング剤を製造する際の工程時間(タクト時間)の制約、製造されたパンクシーリング剤をストックするためのストック量の制限等を考慮すると共に、また保管環境に応じてパンクシーリング剤に含まれる水分量が蒸発又は吸湿により徐々に変化することから、保管時の水分量の変化を考慮すると、静置時間の上限値は480時間以下に設定することが好ましい。
【0079】
(他の添加剤)
更に、通常の分散剤、乳化剤、発泡安定剤、苛性ソーダ等のpH調整剤、を添加してもよく、必要により液状樹脂系エマルジョンを用いてもよい。
【0080】
〜パンクシーリング剤の粘度〜
パンクシーリング剤の粘度は、実際の使用条件として想定される条件(少なくとも、タイヤへの充填前であって60℃〜−60℃の範囲)において、3mPa・s〜20,000mPa・sであることが好ましく、5mPa・s〜4,500mPa・sであることがより好ましく、8mPa・s〜3,000mPa・sであることがさらに好ましく、10〜3,000mPa・sであることが特に好ましく、15〜1,500mPa・sであることが最も好ましい。
【0081】
パンクシーリング剤の粘度が3mPa・s以上であると、バルブへの注入時における液漏れを防止することができる。また、該粘度が20,000mPa・s以下であると、注入時の抵抗を抑えることができるため、注入容易性の低下を防止することができ、また、タイヤ内面への広がりを充分にすることができることから、高いシール性が得られる。
【0082】
また、パンクシーリング剤は、上記のように、凍結防止剤を含有することによりさらに凝固点を下げることができ、凍結防止剤に1価のアルコールを用いた場合には−40℃以下のような極寒地でも低粘度で好適に用いることができる。−40℃におけるパンクシーリング剤の粘度は、3mPa・s〜5,000mPa・sであることが好ましく、10mPa・s〜3,000mPa・sであることがより好ましく、10mPa・s〜2,000mPa・sであることが特に好ましい。
パンクシーリング剤の粘度は、B型粘度計等により測定することができる。
【0083】
〜パンクシーリング剤によるパンクの修理方法〜
パンクシーリング剤によるパンクの修理方法としては、公知の方法を適用することができる。すなわち、パンクシーリング剤が充填された容器をタイヤのバルブ口と接続し、適量を注入した後、パンクシーリング剤がタイヤ内面に広がってパンク孔をシールできるように、タイヤを回転させればよい。
【0084】
このようなパンクシーリング剤そのものは、種々のポンプアップ装置、例えば燃料ガスとしてプロパン・ブタン混合ガスを含むスプレー缶を用いてタイヤの内部に導入されてタイヤを再膨張させ得るが、図1に示すポンプアップ装置20によって、より好適に使用できる。
【0085】
図1に示すポンプアップ装置20では、前記圧力源として小型のエアコンプレッサ1を用いている。このエアコンプレッサ1は、ホース2を介して耐圧容器4のガス導入部3に接続されている。前記ガス導入部3は、栓バルブ5で閉止できかつ耐圧容器4に収納されたパンクシーリング剤6の液面上まで延びるライザーチューブとして形成されている。
【0086】
また、耐圧容器4は、パンクシーリング剤6を取出すための出口バルブ7を有し、この出口バルブ7にホース8の一端が接続されるとともに、該ホース8の他端には、タイヤバルブ10にねじ止めされるねじアダプタ9が取付けられている。
【0087】
耐圧容器4は、フィリングスタブ12を有し、かつ水が充填されたジャケット11を具えている。必要に応じて、加熱源としての塩化カルシウムが、前記フィリングスタブ12内に充填され得る。パンクシーリング剤6が低温で凍結すると、この加熱源の水和作用で解放される熱によって、利用できる温度にパンクシーリング剤6が加熱される。
前記エアコンプレッサ1には、電気ケーブル13が接続され、そのプラグ14は、例えば、シガレットライターに差込まれる。
【0088】
タイヤにパンクが発生すると、前記ねじアダプタ9がタイヤバルブ10にねじ止めされ、かつエアコンプレッサ1がシガレットライターに接続されるとともに、耐圧容器4のガス導入部3において前記栓バルブ5が開かれる。そしてエアコンプレッサ1から耐圧容器4内にガス導入部3をへて導入される圧縮空気が、出口バルブ7からパンクシーリング剤6を押出し、タイヤバルブ10をへてタイヤの内部に導入させる。然る後、空気がタイヤの内部に再充填され、タイヤを特定の内圧で膨張させる。これが終わると、ねじアダプタ9をタイヤバルブ10から取外し、エアコンプレッサ1を止める。この直後に、一定距離に亘って予備走行し、タイヤ内部にパンクシーリング剤6を散布しつつパンク孔をシールした後、ポンプアップ装置20が再び接続され、タイヤを要求される内圧まで再度ポンプアップする。
【0089】
また、本発明におけるパンクシーリング剤は、図2(A)、(B)に示すポンプアップ装置によってもより好ましく使用できる。なお、図2(A)、(B)に示すポンプアップ装置において、図1に示すポンプアップ装置20と共通の部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0090】
このポンプアップ装置は、図2(A)に示されるパンクシーリング剤6の収納容器である樹脂製のボトル22と、図2(B)に示される圧力源としてのエアコンプレッサ1とを備えている。ボトル22は、1回のパンク修理に必要なパンクシーリング剤6を収容している。ボトル22には、先端部にアダプタ26が配置されたホース24が接続されている。また、エアコンプレッサ1に接続されたホース2にも、その先端部にアダプタ9が配置されている。但し、ボトル22のホース24については、タイヤバルブ10に直接接続可能なものであるならばアダプタ26を省略してもよい。
【0091】
パンク発生時に、ボトル22のアダプタ26がタイヤバルブ10にねじ止めされる。これにより、ホース24及びアダプタ26を通してタイヤ内に連通する。この状態で、作業者は、図2(A)で2点鎖線(想像線)により示されるように、ボトル22を握り潰してパンクシーリング剤6をボトル22内から搾り出すことにより、ホース24を通してパンクシーリング剤6をタイヤ内へ注入する。
【0092】
ボトル22内からタイヤ内へのパンクシーリング剤6の注入が完了すると、作業者は、アダプタ26をタイヤバルブ10から取り外してボトル22をタイヤから切り離す。
【0093】
次いで、作業者は、エアコンプレッサ1のアダプタ9をタイヤバルブ10にねじ止めし、アダプタ9及びホース2を通してエアコンプレッサ1をタイヤ内に連通させる。この状態で、作業者は、エアコンプレッサ1を作動させて加圧空気をタイヤ内へ再充填し、タイヤを特定の内圧で膨張させる。これが終わると、作業者は、アダプタ9をタイヤバルブ10から取外し、エアコンプレッサ1を止める。この直後に、一定距離に亘って予備走行し、タイヤ内部にパンクシーリング剤6を散布しつつパンク孔をシールした後、作業者は、ポンプアップ装置のエアコンプレッサ1を再び接続してタイヤを要求される内圧まで再度、ポンプアップする。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0095】
(実施例1)
初めに、凍結防止剤であるプロピレングリコール50部に撹拌しながら水15部を混合し、300rpmの撹拌速度で所定時間、撹拌を行なって、プロピレングリコール水溶液を調製した。
【0096】
また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(アニオン性界面活性剤)0.4部を水5部に溶解した後、これにpH(25℃)が10になるように、水酸化カリウム0.04部を添加し、攪拌して、界面活性剤含有水溶液を調製した。
【0097】
さらに、前記プロピレングリコール水溶液及び前記界面活性剤含有水溶液の調製と並行して、ロジン酸エステルエマルジョン(粘着剤)10部の撹拌処理を開始し、300rpmの撹拌速度で所定時間、粘着剤エマルジョンの事前撹拌処理を行なった。
【0098】
次に、前記プロピレングリコール水溶液及び前記界面活性剤含有水溶液の調製と並行して、あらかじめ撹拌して均一化しておいたSBRラテックス29.56部の中に、上記のプロピレングリコール水溶液60部を、撹拌しながら2kg/minの滴下速度で滴下した。続いて、これに上記で得た界面活性剤含有水溶液5.44部を2kg/minの滴下速度で滴下した。その後これに、事前処理を終えたロジン酸エステルエマルジョン10部を滴下し、継続してさらに200rpmの撹拌速度で撹拌を行なって、所定時間が経過したところで製造完了とみなして撹拌を終了した。
以上のようにして、パンクシーリング剤を製造した。
【0099】
−評価−
製造したパンクシーリング剤について、下記評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0100】
(1)製造時間
パンクシーリング剤1kgあたりの生産に要する時間を算出した。このとき、時間の算出は、プロピレングリコール水溶液の調製開始から、製造完了とみなす撹拌終了までにかかった時間を加算して、1kgに換算して求めた。
【0101】
(2)パンクシール性
実車試験において、車のタイヤのタイヤトレッド溝部に直径3mmの釘を踏み抜いて穴をあけ、作製したパンクシーリング剤を注入した後、1.3kgf/cm(12.74×10−4Pa)の空気圧を維持しながら、約50km/hで車を走行させた。このとき、シールが完了するまでの走行距離を指標として下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:5km以内
○:5km超10km以内
△:10km超15km以内
×:15km超
【0102】
(3)タイヤへの注入性
図1に示すポンプアップ装置20を用意し、エアコンプレッサ1がホース2を介して接続されたガス導入部3を有する耐圧容器4に、上記で得たパンクシーリング剤を収納した。耐圧容器4の出口バルブ7にホース8の一端を接続し、その他端に取り付けられたアダプタ9をタイヤバルブ10にネジ止めした。そして、エアコンプレッサ1を作動させることにより、パンクシーリング剤6を出口バルブ7から押し出し、タイヤ内部に注入した。このとき、注入に要した時間を計測し、下記の評価基準にしたがって評価した。なお、注入時の環境温度は70℃であった。
<評価基準>
◎:5分以内で注入を完了した。
○:10分以内で注入を完了した。
△:15分以内で注入を完了した。
×:15分以内で注入を完了できなかった。
【0103】
(4)液の広がり性
上記で得たパンクシーリング剤を冷凍庫で−30℃まで冷却し、取り出したパンクシーリング剤を、粘度測定機(TVB−10形粘度計、東機産業(株)製)の冷却ユニットにセットして、−30℃にて測定を行なった。測定した粘度を液の広がり性を評価する指標とし、下記評価基準にしたがって評価した。パンクシーリング剤は、粘度が低いほどタイヤ内面への広がり性が保て、少ない液量でトレッド端部のパンク穴までシーリング剤を届かせることが可能である。
<評価基準>
◎:粘度は、500mPa・s未満であった。
○:粘度は、500mPa・s以上800mPa・s未満であった。
△:粘度は、800mPa・s以上であった。
【0104】
(実施例2)
実施例1において、ロジン酸エステルエマルジョンの滴下前に滴下した界面活性剤含有水溶液を、ロジン酸エステルエマルジョンの滴下後に滴下するようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、パンクシーリング剤を製造し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0105】
(実施例3)
実施例1において、プロピレングリコール水溶液の滴下後に滴下した界面活性剤含有水溶液を、プロピレングリコール水溶液の滴下前に滴下するようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、パンクシーリング剤を製造し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0106】
(実施例4)
プロピレングリコール50部に、0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液0.1部を添加し、200rpmの撹拌速度で所定時間、撹拌を行ない、プロピレングリコール水溶液を調製した。
【0107】
これとは別に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(アニオン性界面活性剤)0.4部を水10部に溶解し、界面活性剤含有水溶液を調製した。
【0108】
次いで、上記で調製したプロピレングリコール水溶液50.5部に、界面活性剤含有水溶液10.4部を滴下し、プロピレングリコールとアニオン性界面活性剤とを含有する事前混合液を調製した。プロピレングリコール水溶液中に混合する水酸化カリウムにより、事前混合液のpHを10に調整した。
【0109】
また、前記事前混合液の調製と並行して、ロジン酸エステルエマルジョン(粘着剤)10部の撹拌処理を開始し、200rpmの撹拌速度で所定時間、粘着剤エマルジョンの事前撹拌処理を行なった。
【0110】
その後、前記プロピレングリコール水溶液及び前記界面活性剤含有水溶液の調製と並行して、あらかじめ撹拌して均一化しておいたSBRラテックス29.5部の中に、上記のようにして調製した事前混合液50.5部を、撹拌しながら2kg/minの滴下速度で滴下した。続いてこれに、事前処理を終えたロジン酸エステルエマルジョン10部を滴下し、継続してさらに200rpmの撹拌速度で撹拌を行なって、所定時間が経過したところで製造完了とみなして撹拌を終了した。
以上のようにして、パンクシーリング剤を製造した。また、製造したパンクシーリング剤を用い、実施例1と同様の方法により評価を行なった。評価結果は下記表1に示す。
【0111】
(実施例5)
実施例1において、アルカリ性物質として用いた水酸化カリウムを水酸化ナトリウムに代えたこと以外は、実施例1と同様にして、パンクシーリング剤を製造し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0112】
(実施例6)
実施例1において、水酸化カリウムの量を変えてpHを10から12に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、パンクシーリング剤を製造し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0113】
(比較例1)
SBRラテックス40部と水5部とを混合して混合液(1)を調製した。また、プロピレングリコール45部とロジン酸エステルエマルジョン(粘着剤)10部とを混合して混合液(2)を調製した。その後、得られた混合液(1)と混合液(2)とを混ぜ合わせ、36時間静置した後、200メッシュのフィルタを通過させて濾過を行ない、比較用のパンクシーリング剤を製造した。
また、製造したパンクシーリング剤を用い、実施例1と同様の方法により評価を行なった。評価結果は下記表1に示す。
【0114】
(比較例2)
実施例4において、パンクシーリング剤の製造に用いた事前混合液を、下記の事前混合液に代えたこと以外は、実施例4と同様にして、比較用のパンクシーリング剤を製造し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
<事前混合液の調製>
凍結防止剤であるプロピレングリコール50部に、撹拌しながら水10部を混合し、300rpmの撹拌速度で所定時間、攪拌して、プロピレングリコール水溶液を調製した。次いで、得られたプロピレングリコール水溶液60部に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(アニオン性界面活性剤)0.4部を溶解し、プロピレングリコールとアニオン性界面活性剤とを含有する事前混合液を調製した。
【0115】
【表1】

【0116】
前記表1に示すように、実施例では、比較例に比べて、製造時間を著しく短縮しながら、パンクシール性、及びタイヤへの注入性がいずれも良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明におけるパンクシーリング剤は、種々の空気入りタイヤのパンク修理に適用することができる。空気入りタイヤとしては、例えば、自動車用タイヤ、二輪車用タイヤ、一輪車用タイヤ、車いす用タイヤ、農地作業や庭園作業に使用する車両用タイヤ等が挙げられる。
【符号の説明】
【0118】
3・・・ガス導入部
4・・・耐圧容器
6・・・シーリング剤
7・・・出口バルブ
20・・・ポンプアップ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性界面活性剤とアルカリ性物質とを混合して、界面活性剤含有水溶液を調製する水溶液調製工程と、
前記水溶液調製工程で調製された界面活性剤含有水溶液とラテックスとを混合して、パンクシーリング剤を調製するシーリング剤調製工程と、
を有するパンクシーリング剤の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液調製工程は、前記アルカリ性物質の混合によりpH(25℃)が5.5以上の前記界面活性剤含有水溶液を調製する請求項1に記載のパンクシーリング剤の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液調製工程は、更に、凍結防止剤を混合して前記界面活性剤含有水溶液を調製し、
前記シーリング剤調製工程は、前記ラテックスの混合後に、更に、粘着剤エマルジョンを混合する、請求項1又は請求項2に記載のパンクシーリング剤の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ性物質は、アルカリ金属の水酸化物及び弱酸塩並びにアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤の製造方法。
【請求項5】
前記水溶液調製工程は、アニオン性界面活性剤及び水を混合して第1の水溶液を調製する工程と、凍結防止剤、アルカリ性物質、及び水を混合して第2の水溶液を調製する工程とを含み、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合し、前記界面活性剤含有水溶液を調製する請求項3又は請求項4に記載のパンクシーリング剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−1628(P2012−1628A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137602(P2010−137602)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】