説明

パンテチン含有粒状物

パンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースを含有する粒状物であって、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量が0.6以上の吸着能を有する量である粒状物。 この粒状物は、流動性に優れ、ブロッキング等の障害がなく、取り扱いに優れた粒子径を有し、保存安定性の良好なパンテチンを含む粒状物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、パンテチンを含有する粒状物に関する。
【背景技術】
パンテチンは、(1)パントテン酸欠乏症の予防および治療、(2)消粍性疾患、甲状腺機能亢進症、妊産婦、授乳婦などのパントテン酸の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給、(3)高脂血症、弛緩性便秘、ストレプトマイシンおよびカナマイシンによる副作用の予防および治療、急・慢性湿疹、血液疾患の血小板数および出血傾向の改善のうち、パントテン酸の欠乏または代謝障害が関与すると推定される場合に用いられる有用な薬物である。
パンテチンは常温で無定形粉末であるが、吸湿性が高いため、粉末状態を保つことができず、粘性の液体として提供され、日本薬局方においては、パンテチンは80%のパンテチンを含む水溶液として記載されている。薬物の固形製剤化においては、一般に薬物を粉末状態とすることが望ましく、パンテチンの粉末化技術については、種々研究されている。例えば、液体のパンテチンを粉末化するために、少量の共晶点の高いアミノ酸または糖類(グリシン、α−アラニン、乳糖、マンニット、デキストラン)の存在下、パンテチンを凍結乾燥する方法(特開昭50−88215号公報)やパンテチン水溶液を凍結し、この凍結物を粉砕した後、乾燥する方法(特開昭55−38344号公報)が知られている。
また、パンテチンの固形製剤化としては、パンテチンをカプセルに充填し、カプセル剤としたり、大量のデンプン類等と共に混合して散剤等とするなどの試みがなされている。
【発明の開示】
本発明は上述のような煩雑な凍結(乾燥)操作を必要とせずに製造でき、また、流動性に優れ、ブロッキング等の障害がなく、取り扱いに優れた粒子径を有し、保存安定性の良好なパンテチンを含む粒状物を提供するものである。
すなわち、本発明は、パンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースを含有する粒状物であって、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量が0.6以上の吸着能を有する量である粒状物を提供するものである。
また本発明は、パンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースを含有する粒状物であって、パンテチン1重量部に対する軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量が0.7〜0.9重量部である粒状物を提供するものである。
さらに本発明は、実質的にパンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースからなる粒状物を提供するものである。
また、本発明は、上記粒状物を含む固形製剤を提供するものである。
本発明によれば、効率的にパンテチンを含有する粒状物を得ることができる。また、流動性に優れ、ブロッキング等の障害がなく、取り扱いに優れた粒子径を有し、保存安定性の良好なパンテチンを含む粒状物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
パンテチンは、一般に液体として入手できるものであり、本発明において、パンテチンを含む粒状物を製造する方法としては、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースに、パンテチンを適当な濃度で含む溶液を加え、撹拌し、パンテチンを軽質無水ケイ酸および結晶セルロースに吸着させた後、乾燥させる方法を挙げることができる。
具体的には、適当な濃度(例えば、約60〜80w/w%)のパンテチン溶液をそのまま、または適当量の水、アルコールまたは含水アルコールを用いて適当な濃度に希釈した溶液を、流動層造粒機、転動流動層造粒機または撹拌造粒機等の造粒機内で、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースに噴霧または滴下した後、乾燥することにより、パンテチンを含む粒状物を製することができる。また、軽質無水ケイ酸および/または結晶セルロースの一部を適当な濃度のパンテチン溶液または水、アルコール、含水アルコールで希釈した溶液中に分散させた後、この分散液を造粒機内で軽質無水ケイ酸および/または結晶セルロースの残余に噴霧または添加した後、乾燥することによっても、パンテチンを含む造粒物を製することができる。後者の方法は、造粒機内に投入可能な量以上の軽質無水ケイ酸および/または結晶セルロースを添加することができ、パンテチンを含む粒状物を効率的に製することが可能である。パンテチンは吸湿性が高いため、造粒物の水分含量を減らすことが好ましく、具体的には、2.0%以下とすることが好ましく、1.5%以下とすることがさらに好ましく、1.0以下とすることがより好ましい。
得られた粒状物は、適当な目開きを有する篩を用いて篩下し、分級することにより、所望の粒子径の粒状物(散剤、細粒剤、顆粒剤等)とすることができる。本発明においては、取り扱いに優れた平均粒子径が120〜280μmのものを容易に得ることができる。
本発明は、粒状物中の軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量の吸着能がパンテチン1重量部に対して0.6以上、より好ましくは、0.6以上0.7以下となるように、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースを粒状物中に含ませるものである。吸着能とは、後記試験例1で求めたパンテチン100mgを吸着するのに要する軽質無水ケイ酸(アエロジル200;日本アエロジル(株)製)の必要重量である66mgを吸着能1として定義したときに、ある物質がパンテチン100mgを吸着するのに要する重量で、軽質無水ケイ酸の必要重量(66mg)を除した値である。例えば、結晶セルロース(アビセルPH−101;旭化成(株)製)は、後記試験例1で示したように、パンテチン100mgを吸着するのに要する重量が181mgであるので、このものの吸着能は0.36(=66(mg)÷181(mg))と算出される。軽質無水ケイ酸(アエロジル200)および結晶セルロース(アビセルPH−101)の合計量に基づき算出される吸着能とは、パンテチン重量/軽質無水ケイ酸重量×1+パンテチン重量/結晶セルロース重量×0.36として算出される。したがって、例えば、後記実施例の処方1では、139.64/200×1+24/200×0.36=0.74と算出される。
後記実施例の処方6として示した、パンテチンと軽質無水ケイ酸の2成分で製した粒状物は、パンテチン1重量部に対して、軽質無水ケイ酸の吸着能は0.67であり、本発明で特定する吸着能の範囲内に含まれるが、この粒状物は保存安定性に欠け、好ましいものではない(後記試験例3参照)。一方、パンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの3成分で製した粒状物は、保存安定性にも優れた好ましいものである。
また、パンテチン1重量部に対する軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量が0.7〜0.9重量部であるのが好ましく、0.75〜0.85重量部であるのがより好ましい。さらにこの場合、吸着能が0.6以上となるようにするのが好ましく、0.6以上0.7以下となるようにするのがより好ましい。また、パンテチン1重量部に対する軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量において、軽質無水ケイ酸/結晶セルロースの重量比は1〜6とするのが好ましく、またより好ましい軽質無水ケイ酸/結晶セルロースの重量比は2〜4である。
本発明において用いられる結晶セルロースとしては、例えば、アビセルPH−101、PH−102、PH−301、PH−302などのアビセルシリーズ、セオラスKG−801などセオラスシリーズ(いずれも旭化成(株)製)などの市販品を挙げることができる。また、軽質無水ケイ酸としては、アエロジル200などのアエロジルシリーズ(日本アエロジル(株)製)、カープレックスBS−304、BS−306、BS−304N、CS−500、FPS−500などのカープレックスシリーズ(塩野義製薬(株)製)などの市販品を挙げることができる。
粒状物を投与するにあたっては、粒状物中のパンテチンの含有量が多いほど、固形製剤の投与量を少なくすることができ、コンプライアンスを確保する上でも有利である。本発明の粒状物においては、パンテチンを50w/w%以上、特に50〜60w/w%含有するものが好ましい。
本発明においては、パンテチンに対して優れた吸着能を有する成分として、軽質無水ケイ酸の代わりとして、ケイ酸カルシウム、含水二酸化ケイ素、含水無晶形酸化ケイ素、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸マグネシウムナトリウム、天然ケイ酸アルミニウム、重質無水ケイ酸、二酸化ケイ素等のケイ素化合物を挙げることができる。これらは、軽質無水ケイ酸の全部または一部として使用することができる。また、結晶セルロースの代わりとして、結晶セルロースの全部または一部を粉末セルロースに代えてもよい。本発明の粒状物としては、実質的にパンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースからなるものが好ましい。
本発明において得られた粒状物は、固形製剤として有用なものであり、このまま製剤(散剤、細粒剤、顆粒剤)としてもよいが、さらに所望により、適当な製剤添加物(矯味剤、コーティング剤等)を用いて製剤化してもよい。また、公知の製剤化技術にしたがって、本発明の粒状物を用いて錠剤やカプセル剤等にしてもよい。
以下に、試験例および実施例を挙げて本発明を説明する。
【実施例】
試験例1 パンテチンの吸着量の測定
表1の成分各々5gとパンテチン液(58%)を乳鉢で練合後、その一部をとり15mmφの単発打錠機用杵臼で10mm/分の杵の移動速度で粉体層がほぼ均一になる程度の軽い圧力(約50kg)で約1分間成形した。成形後、上杵を取り外し、代わりに成形体の中央に6mmφの単発打錠機用杵を置き、10mm/分の杵の移動速度で加圧した。杵が成形体に侵入する時の応力を万能試験機(ストログラスC;(株)東洋精機製作所)を用いて記録した。得られた侵入時の応力−ひずみ曲線から立ち上がりの直線部分の勾配ΔSを侵入強度と定義し、これを粉体の塑性変形のしやすさの指標とした。パンテチンの液量を変化させた際に侵入強度が急激に変化する点を可塑限界量として、パンテチン100mgを吸着するのに必要な重量を表1に示した。

実施例1 パンテチン含有粒状物の製造
パンテチンを60w/w%含む水溶液3.333kg(パンテチンとして2kg)、精製水800mLおよび99%未変性エタノール320mLを混合し、さらに精製水を追加して全量を4Lとして、結合液を調製した。表2に示す量を流動造粒乾燥機に投入し、吸気温度80℃で3分間混合した後、結合液を噴霧して造粒した。噴霧終了後、得られた粒状物の水分が1.0%以下(メトラー水分計、80℃、1d/30s、5g)になるまで乾燥し、粒状物を得た。

試験例2 物性評価
実施例1で得た粒状物について、以下の試験を行った。結果を表3に示した。
(1)平均粒子径の測定
目開きの異なる篩を用いて粒度分布を得た後、対数正規分布より平均粒予径(μm)を算出した。
(2)安息角、崩潰角の測定
パウダーテスターを用いて安息角(°)、崩潰角(°)を測定した。崩潰角とは、安息角を形成した粉体層に衝撃を加えることにより新たに形成した粉体層の角度であり、安息角と崩潰角の差(差角)が大きいほど流動性が良好である。

表3から明らかなように、実施例1で得た粒状物はそれぞれ良好な流動性を示した。中でも、処方1、2、3および6の粒状物は優れた流動性を示した。
試験例3 安定性評価
パンテチン含有粒状物の経時安定性を評価するために、実施例1で得た粒状物(処方1、2および6)の製造直後およびアルミニウム包装、50℃、1ヶ月保存後の含量および分解物量を液体クロマトグラフ法より測定した。結果を表4に示した。
・操作条件
検出器:紫外線吸光光度計。
カラム:内径約4mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲル充填。
カラム温度:40℃付近の一定温度。
移動相:pH3.5リン酸塩緩衝液/アセトニトリル混液(6:1)。
流量:パンテチンの保持時間が約13分になるように調整。

表4から明らかように、50℃、1ヶ月保存後の安定性は、パンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの3成分を含み、吸着能が0.68である処方2の造粒物が一番優れていた。
試験例4 振動試験
実施例1で得た処方2の粒状物をファイバードラムに格納し、試験台上に固定し、垂直振動2.0G(加速度)を200分行い、さらに水平振動0.8Gを200分行った後、垂直振動0.75Gで100分間振動を与えた。振動試験後の粒状物には、ブロッキングは認められなかった。
実施例2 パンテチン含有錠剤の製造
実施例1で得た処方2の粒状物に、ステアリン酸マグネシウムを錠剤重量(パンテチン含有量が200mg/錠)に対して1%混合し、9.5mmφ、7.5mmRの杵を用いて打錠し、錠剤を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にパンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースからなる粒状物。
【請求項2】
パンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースを含有する粒状物であって、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量が0.6以上の吸着能を有する量である粒状物。
【請求項3】
吸着能が0.6以上0.7以下である請求項2記載の粒状物。
【請求項4】
パンテチン、軽質無水ケイ酸および結晶セルロースを含有する粒状物であって、パンテチン1重量部に対する軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量が0.7〜0.9重量部である粒状物。
【請求項5】
パンテチン1重量部に対する軽質無水ケイ酸および結晶セルロースの合計量が0.75〜0.85重量部である請求項4記載の粒状物。
【請求項6】
軽質無水ケイ酸/結晶セルロースの重量比が1〜6である請求項4又は5記載の粒状物。
【請求項7】
軽質無水ケイ酸/結晶セルロースの重量比が2〜4である請求項6記載の粒状物。
【請求項8】
パンテチンの含有量が粒状物に対して、50w/w%以上含有するものである請求項1〜7のいずれか1項記載の粒状物。
【請求項9】
パンテチンの含有量が粒状物に対して、50〜60w/w%含有するものである請求項1〜7のいずれか1項記載の粒状物。
【請求項10】
平均粒子径が120〜280μmである請求項1〜9のいずれか1項記載の粒状物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項記載の粒状物を含む固形製剤。
【請求項12】
剤形が、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤である請求項11記載の固形製剤。

【国際公開番号】WO2004/028523
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539566(P2004−539566)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012408
【国際出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】