説明

パン・菓子の生地、パンまたは菓子及びその製造方法

【課題】 アルコール製剤を使用しないで、常温・常湿度で長期保存が可能なパン・菓子の生地、その生地を用いて製造したパンまたは菓子とその製造方法を提供する。
【解決手段】 小麦粉、砂糖、塩、油脂等にパネトーネ酵母とブドウ由来の発芽玄米酵母をイーストとして用いて生地を作り、焼成してパンまたは菓子を作る。生地の作成において、パネトーネ酵母及び発芽玄米酵母の比率を小麦粉を100とした場合に、パネトーネ酵母は2%〜15%、発芽玄米酵母は0.5%〜10%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼成後常温で長期保存が可能なパン・菓子の生地、その生地を用いて製造したパンまたは菓子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常食として、またはアウトドアなどに用いる場合など普段の生活の中でも常温で長期保存可能で、美味しく、安全なパンや菓子があることは、消費者にとって望ましい。また、販売業者にとっても賞味期限にゆとりがあれば、自動販売機での販売や遠隔地でも効率よく販売できるというメリットがある。たとえば、パンにはイタリアの自然酵母であるパネトーネ酵母を用いたものが知られている。パネトーネ酵母を用いて発酵させて焼いたパンは、保水性・防腐性・防菌性に優れ、保存料なしで1ヶ月程度の長期保存が可能とされている。この他、長期保存可能なパンに用いられる酵母として、発芽玄米酵母がある。発芽玄米酵母を用いて製造したパンは常温で50日ほどの保存が可能であるとされている。
【特許文献1】特開2005−237248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
パネトーネ酵母はイタリアの特定地方の自然酵母のため、気候の異なる日本でのパネトーネ酵母の取扱いには高度な専門技術を要する。また、パネトーネ酵母は酵母と乳酸菌を共生させた酵母種であるため、製造後日数が立つほど酸味がでてきて味が落ちてしまう。一方、発芽玄米酵母を用いてパンを製造した場合、パネトーネ酵母よりも発酵時間は短縮でき、酸味もないが、常温での保存は50日が限界である。
【0004】
品質を保持しながらより長期の保存を可能とするために、アルコール製剤を封入する方法が用いられる。しかし、アルコール製剤を使用したパンや菓子は、袋を開けたときにアルコールのにおいが漂うので、せっかくの食品の持つ風味が台無しになってしまう上、無添加食品への関心が高まっている中で、消費者の需要に応えることができないという問題がある。また、パンや菓子の水分活性を低くすれば保存性が高まるが、水分活性が低いとぱさぱさしてしまい、しっとりした味わいを実現することができない。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みて創作されたもので、その目的とするところは、アルコール製剤を使用しないで、水分活性を低くすることなく、常温で長期保存可能なパン・菓子の生地、パンまたは菓子とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、少なくとも穀物粉に酵母を添加してなるパン・菓子の生地であって、酵母としてパネトーネ酵母及び発芽玄米酵母を用いたことをその特徴とする。また、その生地を焼成してなるパンまたは菓子及びその製造方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、このパン・菓子の生地を成形して焼成すれば、パネトーネ酵母及び発芽玄米酵母がそれぞれにカビや雑菌の発生を抑制するので、常温で長期保存が可能となり、アルコール製剤を封入することが不要となる。また、発芽玄米酵母の働きにより、パネトーネ酵母に含まれる乳酸の酸味が緩和され、しっとりとした食感と甘みが持続する。
【0008】
本発明の前記目的とそれ以外の目的と、構成特徴と、作用効果は、以下の説明及び図によって明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、添付図面に基づいて、本発明であるパン・菓子の生地、パンまたは菓子及びその製造方法を詳細に説明する。図1は、パン1がセルクル2に入れられて天板3上にあるときの一部断面図、図2は月に応じて変化させて使用するパネトーネ酵母と発芽玄米酵母の小麦粉を100に対する配合率を示す表である。図3は本発明にかかるパンの材料の配合率を小麦粉を100として示した表である。図4は本発明にかかるパンと通常のパン、パネトーネ酵母のみを用いて製造したパンのそれぞれの水分活性値を比較した表である。
【0010】
まず、本願発明のパンに用いられる酵母であるパネトーネ酵母と発芽玄米酵母について説明する。パネトーネ酵母は公知のパネトーネ酵母を用いる。パネトーネ酵母は、乳酸菌が共生された酵母のため、乳酸によって食品のpHが酸性側に偏ることで、腐敗や食中毒の原因になる他の微生物の繁殖を抑えられる。一方、発芽玄米酵母は、発芽玄米粉にブドウ由来の果実を組み合わせてなる酵母種である。本発明の発芽玄米酵母は、ブドウ由来の酵母を、酵母1水2の割合で混合し、それを室温32度、湿度80%の発酵室で約4時間半発酵させる。pHが5.8前後になったことを確認したら、3〜5℃に保たれた冷蔵庫で約4時間保管し、さらにpHを4.8〜5.0まで低下させて完成させる。ブドウのような天然果実に由来する酵母は、カビ、酵母類の菌類に対して繁殖の抑止力を有している。
【0011】
パネトーネ酵母と発芽玄米酵母の両方を使用して製造したパンは、パネトーネ酵母に含まれる乳酸菌と発芽玄米酵母のそれぞれの作用により、幅広い種類の雑菌の繁殖が抑制される。特に、本発明では、発芽玄米酵母のpHを低くしてパンに混ぜるので、抗菌の効果がより一層高まる。図2に、各季節ごとのパネトーネ酵母酵母及び発芽玄米酵母の使用について、小麦粉を100%とした場合の割合で示す。
【0012】
なお、フィリングを入れた菓子パンや生地にチーズなどを混ぜ込んだパン以外のプレーンなパンについては、パネトーネ酵母が小麦粉100に対して6%以上になるとパネトーネ酵母に含まれる乳酸菌のせいで酸味がでてしまうので、投入量は小麦粉に対し6%が限界である。それ以外のパンについては、例えば、カレーパンについては、パネトーネをプレーンなパンと比べて2%多く配合することができる。発芽玄米酵母については、プレーンなパンと比べて1%多く配合することができる。クリームパンについては、プレーンなパンと比べてパネトーネ酵母が1%、発芽玄米酵母が0.5%多く配合することができる。また、生地にクリームやチーズを混ぜ込んだパンについては、プレーンなパンと比べてパネトーネ酵母を2%多く、発芽玄米酵母を1%多く配合することができる。これらのパンは、プレーンなパンと比べて味が濃いので、パネトーネ酵母を多く配合してもパネトーネ酵母の酸味が緩和される。
[実施例1]
パンの製造方法として、主に中種法とストレート法がある。発酵に長時間必要なパネトーネ酵母を用いてパンを製造する場合、これまで中種法しか採用できなかった。しかし、本発明によれば、中種法だけではなく、製造時間が短縮できるストレート法を用いることができる。また、ストレート法に、冷蔵庫で発酵させる製法である冷蔵発酵法とを組合わせれば、製造時間が短縮される上、より一層柔らかいパンにすることができる。以下に、ストレート法と冷蔵発酵法を組み合わせた本発明の製造方法について説明する。原料の配合は図3に示す通りである。
【0013】
まず、小麦粉、砂糖、ホエーパウダー、パネトーネ酵母、塩、イースト菌、すなわち粉体で用いる原料を加えてミキサーを30秒空転させる。その後、殺菌した全卵とブドウ糖溶液を水とともに加えた後、上記に示す方法で製造した発芽玄米酵母溶液を加えて、低速で2分間混捏する。味を確認しながら、さらに低速で1分間、高速で7分間混捏し、生地の温度を24℃程度とする。さらに、油脂を加えてから低速で3分間、高速で5分間混捏して、生地の温度を28℃にする。
【0014】
生地を分割して15分のフロアータイムを経た後、マイナス20℃の冷凍庫に45分入れて冷却する。冷凍庫から取り出した生地に必要に応じてフラワーシートの折り込み加工を行って味付けをし、その後5℃以下の冷蔵庫に3時間乃至6時間程度保管して、一次発酵をする。
【0015】
その後室温の環境に戻して、生地が10℃になるまで温まったら成形する。成形後、室温30℃、湿度80%の環境下で45分間二次発酵して生地を完成させる。なお、パネトーネ酵母及び発芽玄米酵母溶液以外の原料は通常のパンによく用いられるものであって、特に特定されるものではない。また、配合についても、パネトーネ酵母及び発芽玄米以外の割合は、製造するパン・菓子の種類に応じて当業者であれば適宜設定することができる。
【0016】
ここで、生地の成形には紙製のセルクルを用いる。セルクルとは筒状の型でケーキやパンを成形し焼成する際に用いられる。セルクルの形状としては四角柱、円柱形等が考えられるが、これに限定されない。
【0017】
セルクル2に生地を入れて天板3に並べてオーブンに入れる。この状態でオーブンの上火温度が215℃、下火温度を約265℃に設定し、生地を10分程度焼成する。金属製または樹脂製のものと比較して熱伝導率が悪い紙製のセルクル2を用いることにより、焼き上がったパン1の側面に熱が伝わりにくく、パン1の上下面のみがしっかりと焼成されて濃い焼き色がつき、側面は焼成されても焼き色がつかないので、保水性が高まり、中身がやわらかく、食感がしっとりとしたパン1になる。また、濃い焼き色のついた上下面と焼き色のついていない側面との色のコントラストが美しくなる。特に生地にブルーベリーなどを混ぜ込んで焼き上げたときに、側面がブルーベリー色等生地の色が現れて、美しさが発揮される。また、オーブンの下火温度が上火温度よりも高温なので、熱が下から上に向かって放出され、全体に均一に焼成することができる。
[品質評価]
本発明方法を用いて焼成したパンが従来のパンと比べてどのくらい保存期間が延びたかを調べるため、パネトーネ酵母を用いず、発芽玄米酵母のみを用いた従来品と本発明の実施例の方法で製造されたパンを常温常湿度の環境において、カビが生えるまでの日数を数えた。その結果、従来品が50日、本願発明の実施例によるものが90日となった。この結果、本発明によるパンは90日までカビの発生を抑制することができることが確認された。
【0018】
また、パンの長期保存には水分活性との関係が重要となる。水分活性が低ければ保存性が高まるが、その分水分の少ないパンとなり、パン特有のしっとり感が失われてしまう。パンの水分活性としては、通常0.9Aw程度が望ましいとされている。本発明に係るパンの水分活性は0.88〜0.91Awであり、長期保存が可能でありながら、パンの風味や食感を失わない。パネトーネ酵母のみを用いたパンと、本発明の実施例1より製造したパンと比較した結果を図4に示す。
【0019】
以上、実施例としてパンの製造方法を示したが、クッキー等の焼き菓子、バームクーヘン、カステラ等の半生菓子についても、通常の原料にパネトーネ酵母及び発芽玄米酵母を混ぜ合わせて生地を作り、成形して焼成すれば、パネトーネ酵母と発芽玄米酵母の働きにより、カビや雑菌の繁殖が抑制され、アルコール製剤を用いなくとも、味わいを損なわずに常温で、従来よりも長期保存が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示す一部断面図である。
【図2】パネトーネ酵母と発芽玄米酵母の配合表
【図3】本発明にかかるパンの材料表
【図4】水分活性値の比較を示す表
【符号の説明】
【0021】
1…パン、2…セルクル、3…天板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物粉に酵母を添加してなるパン・菓子の生地であって、
前記酵母としてパネトーネ酵母及び発芽玄米酵母を用いた
ことを特徴とするパン・菓子の生地。
【請求項2】
上記パネトーネ酵母の混合率は穀物粉100に対して2%〜15%、発芽玄米酵母は穀物粉に対して0.5%〜10%とする
ことを特徴とする請求項1記載のパン・菓子の生地。
【請求項3】
上記発芽玄米酵母はブドウ由来の酵母でpH4〜6の水溶液の状態で生地に加えてなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載のパン・菓子の生地。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の生地を焼成してなるパンまたは菓子。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載の生地を作る工程、成形して焼成する工程を含む
ことを特徴とするパン・菓子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3に記載の生地を作る工程、セルクルを用いて成形して焼成する工程を含むパン・菓子の製造方法において、
前記セルクルに紙製のセルクルを用いた
ことを特徴とするパン・菓子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−228886(P2007−228886A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54645(P2006−54645)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(506071634)有限会社ナチュラルイースト (1)
【Fターム(参考)】