説明

パン・菓子類の湯煎焼き方法

【課題】パン・菓子類の焼成に従来用いられている焼成窯(オーブン)をそのまま使用して、パン・菓子類の湯煎焼きを作業効率良く且つ安全に行うことができ、しかも天面がふっくらと盛り上がり、焼き色の良好な品質の優れたパン・菓子類が得られる、パン・菓子類の湯煎焼き方法を提供すること。
【解決手段】パン・菓子類の生地を入れた容器を天板に載せ、前記容器と天板との間に、水または湯を含ませた吸水性の多孔質材料からなるシートを介在させ、これをオーブン中で焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン・菓子類の湯煎焼き方法に関する。詳細には、パン・菓子類の焼成に従来用いられている焼成窯(オーブン)をそのまま使用して、パン・菓子類の湯煎焼きを作業効率良く且つ安全に行える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸しパンやスフレケーキなどのパン・菓子類専用の焼成装置を持たない小規模パン工場や店舗内などで製造している一般のパン屋においては、スフレケーキや蒸しパンなどの湯煎焼きで製造されるパン・菓子類を製造する場合、通常のパン・菓子類を製造するための焼成装置を用い、水または湯を張った天板などに、パン・菓子類の生地を入れた容器を置き、この天板を焼成窯(オーブン)に入れて焼成する方法が一般に行われている(特許文献1および非特許文献1を参照)。
しかし、このような天板に水または湯を張る方法では、天板をオーブンに入れる際などの作業中に天板から水がこぼれるおそれがあるなど、オーブンで焼成するまでの作業性が悪く、また焼成後も天板に熱湯が残るため、火傷の危険性があるなど、作業に注意が必要である。
また、焼成後、パン・菓子類をそのまま置いておくと、焼成物の中央部分が収縮して凹部状に沈んで、商品価値が下がるという問題があり、この問題を解決する方法として、焼き上げ直後に打撃や落下などによる瞬間的な力(ショック)を与える方法が提案され(特許文献2を参照)、上記の沈み防止技術として広く普及している。
しかし、上記の天板に水または湯を張る方法では、天板に熱湯が残っているため、このパン・菓子類の焼成直後に通常行われる「ショック」を焼成直後に天板ごとそのまま行うことができない。そのため、天板から1個ずつ取り出して「ショック」を行う必要があり、またパン・菓子類の天面が沈む現象(縮み)が生じてしまい、天面がふっくらと盛り上がったパン・菓子類が得られないことがある。
【0003】
特許文献3には、既存のパン焼成機を用いて、少量の水でふっくらとしたソフトな食感の蒸しパンなどのパン類を製造することができるパン類の製造方法として、上方が開放した容器にパン類の生地を入れ、水または湯の存在下、その容器底部の温度が急激に上昇しないように調整しつつ蒸し焼きにすることを特徴とするパン類の製造方法が記載されている。
しかし、このパン類の製造方法は、パン類の生地の入った容器を天板の上に並べた後、容器ごとに蒸し箱をかぶせる必要があり、焼き色がきれいに付かず、また焼成後に天板に熱湯が残らないようにするためには、天板に注ぐ水または湯の量を一回の焼成が終了するまでに蒸発しきる量の範囲内で調整する必要があり、作業性の良い方法ではない。
【0004】
【特許文献1】特開平6−253720号公報(〔0002〕、実施例1)
【特許文献2】特公昭51−15103号公報
【特許文献3】特開2007−28906号公報(請求項1、〔0001〕、〔0008〕、〔0011〕)
【非特許文献1】「洋菓子 基礎と応用」安井寿一著 柴田書店 昭和58年5月10日発行、第208頁および第209頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、パン・菓子類の焼成に従来用いられている焼成窯(オーブン)をそのまま使用して、パン・菓子類の湯煎焼きを作業効率良く且つ安全に行うことができ、しかも天面がふっくらと盛り上がり、焼き色の良好な品質の優れたパン・菓子類が得られる、パン・菓子類の湯煎焼き方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、「パン・菓子類の生地を入れた容器を天板に載せ、前記容器と天板との間に、水または湯を含ませた吸水性の多孔質材料からなるシートを介在させ、これをオーブン中で焼成することを特徴とするパン・菓子類の湯煎焼き方法」を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のパン・菓子類の湯煎焼き方法によれば、湯煎焼きに使用する水または湯を吸水性の多孔質材料からなるシートに含ませるため、作業中に天板から水がこぼれたりすることなく作業を行うことができ、また焼成後、熱湯が残っていても、多孔質材料からなるシートに吸収された状態になっているため、天板から熱湯がこぼれる心配がなく、安全に作業を行うことができる。またパン・菓子類の焼成直後に天板ごとそのまま「ショック」を容易に行うことができるため、縮みがほとんど起こることがなく、天面がふっくらと盛り上がり、焼き色の良好なパン・菓子類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明の対象とするパン・菓子類は、湯煎焼きまたは蒸し焼きで製造されるパン・菓子類であり、例えば、蒸しパン、カップケーキ、チーズケーキ、スフレケーキなどが挙げられる。
【0009】
本発明で使用される多孔質材料からなるシートとしては、水または湯を含むことができる吸水性を有するもので、湯煎焼き時に軟化・溶解したりせず、焦げたりせず、臭いを発生しないものが好ましい。具体的には、綿、麻などの天然素材の布、紙製シート、セルロースのシート、海綿のシートなどが挙げられ、これらの中でもセルロースのシートが、保水性などの物性や入手し易さ、価格などの点から特に好ましい。
【0010】
上記の多孔質材料からなるシートは、少なくとも一回の湯煎焼きに必要な量の水または湯を含むことができるものが好ましい。
上記の多孔質材料からなるシートの大きさは、天板の大きさやその上に載置する容器(型)の個数などにより適宜調整することができる。また、該シートの厚さは、特に制限はないが、天板に敷かれ、その上に容器(型)が置かれるものであるため、天板の深さや容器(型)の高さなどを考慮すると、通常、2〜20mm程度が好ましく、5〜10mmがより好ましい。
【0011】
本発明のパン・菓子類の湯煎焼き方法は、従来一般に行われている「水または湯を張った天板に、パン・菓子類の生地を入れた容器を置き、この天板を通常の焼成窯(オーブン)に入れて焼成する、パン・菓子類の湯煎焼き方法」において、天板に水または湯を張る代わりに、上記の水または湯を含ませた吸水性の多孔質材料からなるシートを天板に敷く以外は、従来一般に行われているパン・菓子類の湯煎焼き方法と同様にして実施することができる。
本発明で使用されるパン・菓子類の生地としては、特に制限されるものではなく、通常の方法により作成された生地を使用することができ、該生地の焼成条件も、パン・菓子類の種類に応じて従来行われている焼成条件を適用することができる。
また、本発明のパン・菓子類の湯煎焼き方法で使用される天板、容器(型)、オーブンは、従来のパン・菓子類の製造で使用されているものでよく、特に限定されない。また、容器(型)の内側には、バターなどを塗った紙を敷いてもよい。
【0012】
本発明のパン・菓子類の湯煎焼き方法は、パン・菓子類の焼成に従来用いられている焼成窯(オーブン)をそのまま使用することができるため、蒸気導入手段を備えた焼成装置を持たない小規模パン工場や店舗内などで製造している一般のパン屋において特に好適に適用することができる。
本発明のパン・菓子類の湯煎焼き方法では、焼成後、熱湯が残っていても、多孔質材料からなるシートに吸収された状態になっているため、窯出し直後に天板ごとそのまま落下させてパン・菓子類に「ショック」を与えることができる。
【実施例】
【0013】
次に本発明の効果を示す実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0014】
〔実施例1〕
表1に記載の原材料を用い、常法によりスフレチーズケーキ用生地を作成した。得られた生地を上部開放型の丸型容器(径80mm×高さ40mm)6個に、1個当たり70gずつ入れた。一方、天板の上に、水を十分に含ませたセルロースシート(日本インソール工業社製、大きさ400mm×300mm×厚さ8mm、含水量800g)を敷いた。
このセルロースシートの上に、上記のスフレチーズケーキ用生地を入れた丸型容器6個を載置し、170℃のオーブンに入れ、生地を45分間焼成(湯煎焼き)した。窯出し後、直ちに天板ごと落下させて焼成物に「ショック」を与えた。その後、容器から取り出し、放冷して、スフレチーズケーキを得た。
得られたスフレチーズケーキについて、外観および食感を表2に記載の評価基準に従って官能評価を行った。その結果(パネラー10名の平均点)を表3に示す。
【0015】
〔実施例2〕
実施例1において、水を含ませたセルロースシートの代わりに、水を十分に含ませた綿布(日東タオル社製、大きさ750mm×290mm×厚さ20mm、含水量800g)を使用した以外は、実施例1と同様にして、スフレチーズケーキを得た。
得られたスフレチーズケーキについて、実施例1と同様の官能評価を行った。その結果を表3に示す。
【0016】
〔比較例1〕
実施例1において、天板の上にセルロースシートを敷く代わりに、天板に水800gを張った以外は、実施例1と同様にして、スフレチーズケーキを得た。この方法では、天板ごと「ショック」を与えると、熱湯が飛び散り、火傷の危険性があるので、ケーキを1個ずつ取り出して「ショック」を与えた。
得られたスフレチーズケーキについて、実施例1と同様の官能評価を行った。その結果を表3に示す。
【0017】
〔比較例2〕
実施例1において、天板の上にセルロースシートを敷く代わりに、天板に水800gを張り且つ丸型容器ごとに該容器全体を覆う蓋を被せて蒸し焼き(焼成時間45分)にした以外は、実施例1と同様にして、スフレチーズケーキを得た(特許文献3の方法)。この方法では、実施例1と同じ焼成時間(45分)ではスフレチーズケーキに焼き色が付かず、焼き色を付けるには焼成時間を長くする必要があり、またボリュームもあまり大きくなかった。さらに窯出し時、容器に被せた蓋が高温になっているので、天板ごと「ショック」を与えると、熱湯が飛び散り、火傷の危険性があるため、ケーキを1個ずつ取り出して「ショック」を与えた。
得られたスフレチーズケーキについて、実施例1と同様の官能評価を行った。その結果を表3に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン・菓子類の生地を入れた容器を天板に載せ、前記容器と天板との間に、水または湯を含ませた吸水性の多孔質材料からなるシートを介在させ、これをオーブン中で焼成することを特徴とするパン・菓子類の湯煎焼き方法。
【請求項2】
多孔質材料からなるシートがセルロースシートである、請求項1記載のパン・菓子類の湯煎焼き方法。

【公開番号】特開2008−263801(P2008−263801A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107755(P2007−107755)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】