説明

パン用上掛け生地の製造方法

【課題】 焼成後の経時的吸湿・表皮のベト付きを抑え、サクサクとした食感が持続するパン用上掛け生地の製造方法の提供。
【解決手段】 油相の固体脂含量(SFC)が10℃で50〜100%、20℃で30〜70%、30℃で10〜40%である油脂組成物を用いること及び油脂組成物を加熱溶解した状態で添加量が小麦粉に対して20〜100重量%であるパン用上掛け生地の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メロンパン等の菓子パン類に用いるパン用上掛け生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンを種類別に分類した際の一つに数えられるものとして、パン生地の上にビスケット生地を上掛けして焼成したもの、いわゆるメロンパンや欧風パンが挙げられる。これらの製品は消費者に人気が高く、常に一定の市場を形成している。
【0003】
これらビスケット生地を上掛けしたパンのおいしさは、ビスケット生地のサクサクとした食感とパン生地の柔らかさが共存している点にあり、特に焼成直後のメロンパンはこの食感が最も強調されるため消費者に人気が高い。
【0004】
一般にメロンパンは、菓子パン生地の外側を上掛け生地で包みホイロ後焼成することより製造されるが、焼成後経時的に上掛け生地部分が吸湿するため、数日経過したメロンパンはビスケット生地のサクサクとした食感が消失し、好ましい食感が薄れる傾向にある。さらに、表皮がベト付くため包装紙に付着して剥がれ、見栄えが悪くなり、食する際に手を汚してしまう問題があった。
【0005】
これらを解決する方法としては、上掛け生地にα化澱粉を添加する方法(特許文献1)、また、パン生地に油脂を15〜50重量%配合する方法(特許文献2)がそれぞれ開示されているが、いずれも製造後3日以上経過するとその効果を充分に発揮することができない。
【0006】
【特許文献1】 特開平7−99878号公報
【特許文献2】 特許第3625432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、焼成後の経時的吸湿・表皮のベト付きを抑え、サクサクとした食感が持続することができるパン用上掛け生地の製造方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、パン用上掛け生地の製造方法において、油相の固体脂含量(SFC)が10℃で50〜100%、20℃で30〜70%、30℃で10〜40%である油脂組成物を用いるパン用上掛け生地の製造方法であり、油脂組成物を加熱溶解した状態で用いるパン用上掛け生地の製造方法である。また、油脂組成物の添加量が小麦粉に対して20〜100重量%であるパン用上掛け生地の製造方法である。
【0009】
即ち、小麦粉、糖、油脂、卵を主原料とするパン用上掛け生地の製造方法において、生地原料に、油相が、各温度帯である範囲の固体脂含量(SFC)を持つ油脂組成物を使用し、且つ当該油脂組成物の融点以上で完全に溶解した後、糖、小麦粉等の粉体の表面に充分に塗布すること特徴とするパン用上掛け生地の製造方法であり、得られたパン用上掛け生地を上掛けして焼成するメロンパンなどの菓子パン類を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパン用上掛け生地の製造方法により得られた上掛け生地を用いることにより、メロンパン焼成後、上掛け生地中で当該油脂が素早く結晶化しパン生地及び空気中からの水分移行を防ぐ役割を果たすため、経時的吸湿・表皮のベト付きを抑え、サクサクとした食感が持続するパン用上掛け生地を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のパン用上掛け生地は、メロン風味を有する本来のメロンパンに限定されることなく広くパン用上掛け生地として使用することができる。配合原料としては、小麦粉、油脂組成物、糖、卵、ベイキングパウダー等の発泡剤を基本原料とし、必要に応じ牛乳、水、その他任意の調味料、呈味材、香料、色素等を用いるものである。
【0012】
本発明の油脂組成物は、油相のSFCが10℃で50〜100%、より好ましくは60〜90%、20℃で30〜70%、より好ましくは35〜65%、30℃で10〜40%、より好ましくは15〜35%であれば良く、SFCの範囲が外れた場合には、経時的吸湿・表皮のベト付きを抑え、サクサクとした食感が持続するという効果が弱いものとなる。また、油脂組成物としては、マーガリン及びショートニングのいずれでも良いが、本発明の効果からするとショートニング状の油脂組成物が好適である。
【0013】
本発明における油脂組成物に使用する原料は、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂から選ばれた1種又は2種以上からなるものである。
【0014】
さらに、油脂組成物には、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、レシチン等の乳化剤を1種又は2種以上添加することができる。
【0015】
本発明において、上掛け生地に対する油脂組成物の添加量は小麦粉に対して20〜100重量%が好ましく、より好ましくは30〜80重量%添加する。添加量が20重量%未満では効果に乏しく、100重量%を超えると焼成中の流動性が激しく焼成後に見栄えの悪い不自然な形状となるばかりか、固い食感になってしまう。
【0016】
本発明のパン用上掛け生地の製造方法としては、油脂組成物を油脂組成物の融点以上で完全に溶解した後、糖及び小麦粉等の粉体と共にミキサー等で充分に混和させるか、あるいはミキサーで糖及び小麦粉を撹拌している所へ溶解した油脂組成物を噴霧器で噴霧し充分混和した後、卵、その他副原料を加え混練する。
【0017】
上記における粉体表面への油脂組成物の塗布工程において、充分な塗布ができれば何れの方法でも構わなく、上記方法に限定されるものではない。但し何れの場合も油脂組成物が粉体表面に充分に塗布されるよう、この工程において生地品温は油脂組成物の融点以上の温度に保持されなければならなく、状況に応じて二重釜等の温調設備を用いる必要がある。
【0018】
上記塗布工程の後、生地温度を30〜50℃、好ましくは45℃以下に冷却後、卵、その他副原料を混練する。生地温度が50℃以上の場合、添加する卵と塗布した油脂組成物の乳化が強くなり過ぎ、水分移行の防止効果が弱まる傾向にある。また生地温度が30℃以下の場合、油脂組成物の結晶化が始まるため卵と混練しづらくなり、ざらつきが出る可能性がある。
【0019】
この生地は10分以上のリタード後、成型し又はそのまま使用される。また、この生地の固さは、柔らかく流動性を有する「絞り生地」であっても流動性を有しないいわゆる「ビスケット生地」のいずれであっても良い。
【0020】
メロンパン等を製造する際のパン生地(内生地)については、小麦粉、砂糖、マーガリン、イースト、食塩、脱脂粉乳、イーストフード等の従来知られた原料に水を加えて混練した通常の菓子パン生地を使用することができる。
【0021】
この内生地を分割後、本発明の上掛け生地(ビスケット生地)で包み成形してホイロを取った後焼成するか、内生地の分割後ホイロを取った後、本発明の上掛け生地(絞り生地)をパン生地上部表面に乗せあるいは絞り、成形した後焼成し、メロンパンを製造する。
【実施例】
【0022】
次に実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。なお、部はいずれも重量基準 を意味する。次に用いた機械及び評価方法を示す。
【0023】
ミキサーは、ホバート社製、商品名「ホバートミキサーN−50」を用い、フラットビーターで混練して評価検討を行った。条件は後述の条件による。上掛け生地の評価は、食味及び指による触感および目視により、サクサク感、ベト付きを表1に基づき、5段階評価した。なお、評価はいずれも製造後3日目に行った。
【0024】
【表1】

【0025】
油脂組成物の調製;表2に示す配合に従い、各油脂を加熱溶解後、急冷捏和して可塑性のあるショートニング状油脂組成物1〜4を得た。
【0026】
【表2】

【実施例1、2、及び比較例1〜4】
【0027】
表2に示す配合に従い、油脂組成物を70℃で完全に融解した後、糖及び小麦粉等の粉体と共にミキサー等で充分に混和させ、生地温度を43±2℃に調製した。この後卵、副原料を加え混練、リタード、成形後に上掛け生地1〜6を得た。得られた上掛け生地を用いて常法により調製したパン生地を包み、ホイロ後、メロンパンを焼成して評価に供した。
【0028】
【表3】

【比較例5〜8】
【0029】
表4に示す配合に従い、シュガーバッター法にて調製し上掛け生地7〜10を得た。得られた上掛け生地を用いて常法により調製したパン生地を包み、ホイロ後、メロンパンを焼成して評価に供した。
【0030】
【表4】

【0031】
上記方法により調製した上掛け生地を用いたメロンパンについて、前述の方法に基づき評価を行い、その結果を表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
以上の結果より、実施例1、2は比較例1〜8に比べてサクサク感が持続し、ベト付きがないメロンパンが得られることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン用上掛け生地の製造方法において、油相の固体脂含量(SFC)が10℃で50〜100%、20℃で30〜70%、30℃で10〜40%である油脂組成物を用いることを特徴とするパン用上掛け生地の製造方法。
【請求項2】
油脂組成物を加熱溶解した状態で用いることを特徴とする請求項1記載のパン用上掛け生地の製造方法。
【請求項3】
油脂組成物の添加量が小麦粉に対して20〜100重量%である請求項1又は2記載のパン用上掛け生地の製造方法。