説明

パン

【課題】本発明は、生地だれやケービングが防止されたパンを提供することを課題とする。
【解決手段】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合してなるパン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地だれやケービングが防止されたパンに関する。
【背景技術】
【0002】
パンの形は、風味や食感に加えてパンの美味しさを演出する重要な要素であり、購買意欲に大きな影響を与えるとされている。しかしながら、パンを食品工業的に大量生産する場合には、製造条件の微調整が難しいことから、例えば、テーブルロールやクロワッサン等においては、成形後の最終発酵工程や焼成工程等において生地だれが生じて成形した形が崩れて厚みのない潰れた形のパンとなってしまい、また、プルマン型食パンや山型食パン等おいては、焼成工程後にケービングと呼ばれる現象により側面が窪んだパンとなってしまうことがあり、商品価値が損なわれてしまうことがあった。
【0003】
従来、上述の問題点を解決する技術としては、例えば、ケービング防止に関し、種々の添加剤をパンに添加する方法が開発されている。例えば、小麦粉に水不溶性カルシウムを配合するパンの製造方法(特許文献1:特開2002−186406号公報)、及び、ホエー蛋白質濃縮物及びカルシウムからなる製パン製剤(特許文献2:特開2002−119196号公報)が提案されている。しかしながら、これらの技術では、添加したカルシウム等の成分によりパンの風味や食感に影響が出る場合があり、また、ケービングを防止する効果も十分に満足できるものではなかった。
【0004】
一方、本発明の課題とは異なるが、血中の総コレステロール濃度を低下させる機能を有する植物ステロール類をパン等に添加すること(特許文献3:特開2003−259794号公報)が提案されている。この特許文献には、小麦粉に対する植物ステロールの含有割合を特定量とし、小麦粉の存在下で加熱処理を施して遊離型植物ステロールを減少させるようにすることにより、添加した植物ステロールに由来する食感の悪変化が防止された加工食品、具体的には、ザラザラ感のないパン、スポンジケーキまたは揚げ麺等が得られると記載されている。また、植物ステロールを品質改良剤としてパンに添加すること(特許文献4:特開2002−84962号公報)が提案されている。この特許文献には、乳化剤として植物ステロール及びレシチンを併用することにより、ソフトで軽い食感のベーカリー製品が得られると記載されている。しかしながら、これらの特許文献においては、生地だれやケービング防止の効果については、示唆されていない。
【0005】
上記特許文献においてはいずれも植物ステロールをパンに添加することが検討されているが、本発明者によると、食品加工原料として市販されている粉末状の植物ステロールは、小麦粉等と混合して生地を調製する際にダマになり易い上に攪拌機の内側や攪拌羽等に付着し易く、生地中に均一に混合し難いものであった。したがって、植物ステロールを添加したパンを食品工業的に安定した品質で製造することは困難であり、また、得られたパンの品質が安定しないことから、植物ステロールがパンに与える影響についても充分に解明されているとはいい難かった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−186406号公報
【特許文献2】特開2002−119196号公報
【特許文献3】特開2003−259794号公報
【特許文献4】特開2002−84962号公報
【特許文献5】WO2005/041692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、生地だれやケービングが防止されたパンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、この課題を達成するため、鋭意研究を行った結果、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、意外にも、小麦粉等と容易に混合できて生地中にダマにならずに分散することができること、更に、このような複合体を配合したパンは、生地だれやケービングが防止されることを見出し、遂に、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合してなるパン、(2)前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)記載のパン、(3)前記複合体を穀粉に対して乾物換算で0.05%〜10%配合してなる(1)又は(2)記載のパン、である。
【0010】
なお、本出願人は、既に前記植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を出願している(特許文献5:WO2005/041692)。しかしながら、当該出願には、前記複合体をパンに配合することは一切検討されていない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、得られるパンの生地だれやケービングが防止されることから、製造条件の微調整が難しい食品工業的にパンを大量生産する場合であっても、品質のよいパンを安定して生産することができる。したがって、パン市場の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0013】
本発明のパンは、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されていることを特徴とし、これにより、生地だれやケービングを防止されるという効果を奏する。ここで、生地だれとは、成形後の最終発酵工程や焼成工程等において、成形した生地の形が崩れることであり、また、ケービングとは、焼成工程後にパン側面が窪む現象のことをいう。本発明のパンとしては、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉、ライ麦粉、米粉等の穀粉を主原料とし、これに水と、酵母等の膨化源を添加して混捏した生地を焼成したものであれば特に制限はなく、具体的には、例えば、クロワッサン、テーブルロール、バターロール、コッペパン、ジャムパン、アンパン、メロンパン、フランスパン、山型食パン、プルマン型食パン等が挙げられる。本発明によれば、上述のように生地だれやケービングが防止されたパンが得られることから、これらのパンの中でも、生地だれが生じて商品価値が損なわれ易いテーブルロール、クロワッサン、コッペパン、あるいは、ケービングが生じて商品価値が損なわれ易い山型食パンやプルマン型食パンにおいて本発明は好適に実施できる。
【0014】
本発明の卵黄リポ蛋白質は、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0015】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0016】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:プライミクス社製等)を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなり、また、当該複合体をパンに配合したとき食感に影響を与え難くすることができる。
【0017】
本発明のパンに配合するための植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に卵白液等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと複合体と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス社製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0018】
本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましく、当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述で示すとおり水分散性を有する複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成しているところ、植物ステロール類が前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存し、パンに予期せぬ卵黄風味が付いてしまう可能性があり、一方、前記範囲より多いと植物ステロール類が複合体を形成し難くなって、本発明の効果が得られ難くなる。
【0019】
本発明のパンに用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、穀粉に対して0.05〜10%が好ましく、0.2〜5%がより好ましい。複合体の配合量が前記範囲より少ないと、生地だれやケービングが防止された品質のよいパンを得られ難くなり好ましくなく、一方、前記範囲より多いと、パン全体が粉っぽくなる傾向があり好ましくない。
【0020】
本発明のパンは、小麦粉等の穀粉、水、酵母等の膨化源及び前記複合体以外の原料を本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。このような原料としては、例えば、クルミ、アーモンド、ゴマ等のナッツ類、レーズン、アンズ、ブルーベリー、クランベリー等の果実類、人参、トマト、ホウレンソウ等の野菜類、粉乳、生乳、練乳、チーズ、生クリーム、ヨーグルト等の乳製品、乾燥卵白、乾燥全卵等の卵類、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、デキストリン、糖アルコール等の糖類、カカオマス、カカオバター等のカカオ類、菜種油、卵黄油、ショートニング、バター、マーガリン、ラード等の油脂類、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化材、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、ヘム鉄、亜鉛、銅、等のミネラル類、イーストフード、食塩、胡椒等が挙げられる。
【0021】
本発明のパンは、上述の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合する他は、従来の一般的な製造方法に準じて製造することができる。すなわち、まず、公知の直捏法(ストレート法)や中種法等に準じて複合体を配合した生地を調製する。この際、本発明の複合体は、調製後の生地に配合しても生地中にダマにならずに容易に分散することができるが、より均一に分散するためには、複合体として上述の乾燥複合体を用いる場合は、生地原料を混合する際に小麦粉等の粉体原料と予め粉体混合してから配合するとよく、また、複合体の調製過程で発生する水系媒体に分散した複合体をそのまま、あるいは上述の乾燥複合体を水系媒体と混合したものを用いる場合には、水や牛乳等の原料と予め混合してから配合するとよい。次に、製するパンの種類により、例えば、テーブルロール、クロワッサン、コッペパン等の生地を成形して焼成するパンの場合は、成形した後、必要に応じて最終発酵(ホイロ)してからオーブン等で焼成してパンを製造すればよく、プルマン型食パンや山型食パンの生地を型に入れて焼成するパンの場合は、山型食パンや山型食パン等の生地を型に入れた後、必要に応じて最終発酵(ホイロ)してからオーブン等で焼成してパンを製造すればよい。
【0022】
以上のようにして製造した本発明のパンは、生地だれやケービングが防止されたものとなる。このように生地だれやケービングが防止される理由は定かではないが、以下のように推察される。まず、植物ステロールは、水への分散処理を施しても、その後、水面に浮いてしまう性質を有するが、本発明で用いる複合体は後述に示すとおり水に分散する性質を有するため、複合体は両親媒性を有する卵黄リポ蛋白質が当該疎水部分を疎水物である植物ステロール類の表面側に、親水部分を外側に向けて植物ステロール類の表面に付着した状態であると推定される。このような状態の複合体は、生地中にダマにならずに均一に分散するとともに、グルテンの膜の中に入り込んでその膜の構造を強化し、その結果、生地だれやケービングが防止されるのではないかと推察される。
【0023】
以下、本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びこれを配合してなるパンについて、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0024】
[調製例1]:複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0025】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0026】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0027】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0028】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0032】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0033】
[調製例2]:複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0034】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0035】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0036】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0037】
【表3】

【0038】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0039】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0040】
[調製例3]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、乾燥複合体(殺菌卵黄使用)を得た。なお、複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部であった。
【0041】
[実施例1]プルマン型食パン
下記の配合のパンを調製した。つまり、攪拌機(関東混合機工業社製、CS-20)に、上白糖、食塩、清水、水で溶いた生イーストを投入し低速で攪拌しながら、予め粉体混合しておいた小麦粉、イーストフード及び調製例3で得られた乾燥複合体を投入し、低速で4分、中高速で3分、高速で1分混捏した。次いで、ショートニング投入して、低速1分、中高速2分、高速1分混捏し、生地を得た。この際、乾燥複合体は生地中にダマにならずに均一に分散することができた。得られた生地を28℃、湿度85%で80分間一次発酵を行い、ガス抜きをして、28℃、湿度85%で30分間二次発酵を行った。発酵生地を200gずつ丸目を行い、ベンチタイム30分とった後、成形し、プルマン型に詰めた(4個詰め、2斤型)。次いで、38℃で、湿度85%で40分間型の75%程度の大きさになるようにホイロを行い、生地をオーブンに入れ、200℃で30分間焼成し、室温にてあら熱をとり、型からはずし、プルマン型食パン2斤を得た。なお、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、穀粉に対して乾物換算で2%であった。
【0042】
<プルマン型食パンの配合>
小麦粉 2000g
生イースト 40g
イーストフード 2g
上白糖 100g
食塩 40g
ショートニング 80g
清水 1400g
乾燥複合体(調製例3) 40g
【0043】
得られたプルマン型食パンの中央部分を底面と垂直に切断し、断面の形の観察をおこなったところ、パン側面に窪みはなく、ケービングが防止されていた。
【0044】
[実施例2]テーブルロール
下記配合のパンを調製した。つまり、攪拌機(関東混合機工業社製、CS-20)に、上白糖、食塩、清水、全粉乳、全卵、水で溶いた生イーストを投入し低速で攪拌しながら、予め粉体混合しておいた小麦粉、イーストフード及び調製例3で得られた乾燥複合体を投入し、低速で4分、中高速で3分、高速で1分混捏した。次いで、ショートニング投入して、低速2分、中高速3分、高速1分混捏し、生地を得た。この際、乾燥複合体は生地中にダマにならずに均一に分散することができた。得られた生地を28℃、湿度85%で80分間一次発酵を行い、ガス抜きをして、28℃、湿度85%で20分間二次発酵を行った。発酵生地を200gずつ丸目を行い、ベンチタイム30分とった後、この生地を涙型に伸ばして、太いほうから細いほうへ巻き取って成形し、次いで、38℃で、湿度85%で40分ホイロを行った。最後にオーブンに入れ、200℃10分間焼成して、室温にてあら熱をとり、テーブルロールを得た。なお、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、穀粉に対して乾物換算で1%であった。
【0045】
<テーブルロールの配合>
小麦粉 2000g
生イースト 60g
イーストフード 2g
上白糖 160g
食塩 40g
ショートニング 260g
全粉乳 60g
全卵 160g
清水 1200g
乾燥複合体(調製例3) 20g
【0046】
得られたテーブルロールの中央部分を短手方向に底面と垂直に切断し、断面の形の観察をおこなったところ、成形した形に近い円形であり、生地だれが防止されていた。
【0047】
[実施例3]クロワッサン
下記の配合のパンを調製した。つまり、攪拌機(関東混合機工業社製、CS-20)に、上白糖、食塩、全卵、全粉乳、清水、水で溶いた生イーストを投入し低速で攪拌しながら、予め粉体混合しておいた小麦粉、イーストフード及び調製例3で得られた乾燥複合体を投入し、低速で2分、高速で3分混捏した。次いで、マーガリンを投入して、低速1分、高速6分混捏し、生地を得た。この際、乾燥複合体は生地中にダマにならずに均一に分散することができた。得られた生地を28℃、湿度75%で25分間発酵を行った。発酵生地を厚さ2cmにのばした後、4℃の冷蔵庫で3時間冷蔵した。冷蔵した生地に折込用バターを用いて折込を三回行った後1個45gの三角形にカットし、クロワッサンに成形した後、30℃、湿度80%で50分間ホイロを行った。得られた生地を210℃のオーブンで20分間焼成し、室温にてあら熱をとり、クロワッサンを得た。なお、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体の配合量は、穀粉に対して乾物換算で5%であった。
【0048】
<クロワッサンの配合>
小麦粉 1000g
生イースト 60g
イーストフード 2g
上白糖 80g
卵 100g
食塩 18g
粉乳 20g
水 510g
マーガリン 60g
乾燥複合体(調製例3) 50g
折込用バター 400g
【0049】
得られたクロワッサンの中央部分を短手方向に底面と垂直に切断し、断面の形の観察をおこなったところ、成形した形に近い円形であり、生地だれが防止されていた。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、乾燥複合体を用いない他は、実施例1と同じ配合と製法でプルマン型食パンを得た。
【0051】
得られたプルマン型食パンの中央部分を底面と垂直に切断し、断面の形の観察をおこなったところ、パン側面が窪んでおり、ケービングが防止されていなかった。
【0052】
[比較例2]
実施例2において、乾燥複合体を用いない他は、実施例2と同じ配合と製法でテーブルロールを得た。
【0053】
得られたテーブルロールの中央部分を短手方向に底面と垂直に切断し、断面の形の観察をおこなったところ、成形した形が崩れた平べったい楕円形であり、生地だれが防止されていなかった。
【0054】
[比較例3]
実施例3において、乾燥複合体を用いない他は、実施例3と同じ方法と製法でクロワッサンを得た。
【0055】
得られたクロワッサンの中央部分を短手方向に底面と垂直に切断し、断面の形の観察をおこなったところ、成形した形が崩れた断面が平べったい楕円形であり、生地だれが防止されていなかった。
【0056】
以上より、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合した実施例1〜3のパンは、生地だれやケービングが防止されるのに対し、前記複合体を配合していない比較例1〜3のパンは、生地だれやケービングが防止されないことが理解できる。なお、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合してなることを特徴とするパン。
【請求項2】
前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1記載のパン。
【請求項3】
前記複合体を穀粉に対して0.05%〜10%配合してなる請求項1又は2記載のパン。