説明

パーハロポリマーの製造方法

【課題】熱的に安定した構造を有するパーハロポリマーを簡便に製造することができるパーハロポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】パーハロカーボン及び/又は水からなる反応媒体中でパーハロモノマーの重合を行うことよりなるパーハロポリマーの製造方法であって、
上記パーハロモノマーの重合は、下記一般式(I)
[(CFCF][(CF)CY]Ra−CF(CF)Y (I)
(式中、Raは、不対電子1個を有する炭素原子を表し、Y、Y及びYは、同一又は異なって、F若しくはRfを表し、Rfは、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルの存在下に行うものであり、
上記パーハロカーボンは、上記パーハロモノマーと上記極安定パーフルオロアルキルラジカルとに対して不活性であり、炭素数が1〜16であるものであるパーハロポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーハロポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[(CF)CFR][(CF)CFR]Ra−CF(CF(式中、R及びRは、F又は−CFを表し、Raは、不対電子1個を有する炭素原子を表す)で表されるパーフルオロアルキルラジカルを触媒として用い、テトラフルオロエチレン等の炭素数2〜3のハロゲン化オレフィンを重合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、重合の反応媒体として、モノマー及び触媒に不活性なパーフルオロカーボン溶媒及び他のフッ化溶媒が適当であると記載されているが、具体的な溶媒は記載されていない。また、特許文献1には、得られるパーハロポリマーの分子構造や性質等について記載されていない。
【0004】
パーフルオロアルキルラジカルとしては、また、[(CFCF][(CFCQ]Ra−CF(CF)Q(式中、Raは、不対電子1個を有する炭素原子を表し、Q及びQは、同一又は異なって、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルが重合開始剤として使用し得ることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2には、反応媒体等の重合条件、及び、重合体の分子構造や性質について記載されていない。
【0006】
フルオロポリマーは、重合方法により、重合開始剤に由来する−COF、−CHOH、−COOH等の熱的に不安定な基をポリマー鎖末端に有する。これらの不安定基の分解によりHFが発生するので、これらの不安定基を有するフルオロポリマーは、成形加工時において成形機の金型を腐食させる原因や、半導体製造工程において使用する場合にはシリコンウェハーを腐食させる原因になるといった問題点があった。
【0007】
この問題を解決するため、従来、フッ素ガス処理、水分存在下で加熱する湿潤熱処理等によりフルオロポリマーの末端を安定化する後処理を重合後に行う必要があり、工程が煩雑となる問題があった。
【0008】
【特許文献1】特公平1−29175号公報
【特許文献2】特開2003−155257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、ポリマー鎖末端が熱的に安定であるパーハロポリマーを簡便に製造することができるパーハロポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、パーハロカーボン及び/又は水からなる反応媒体中でパーハロモノマーの重合を行うことよりなるパーハロポリマーの製造方法であって、
上記パーハロモノマーの重合は、下記一般式(I)
[(CFCF][(CF)CY]Ra−CF(CF)Y (I)
(式中、Raは、不対電子1個を有する炭素原子を表し、Y、Y及びYは、同一又は異なって、F若しくはRfを表し、Rfは、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルの存在下に行うものであり、
上記パーハロカーボンは、上記パーハロモノマーと上記極安定パーフルオロアルキルラジカルとに対して不活性であり、炭素数が1〜16であるものであるパーハロポリマーの製造方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のパーハロポリマーの製造方法は、反応媒体中でパーハロモノマーの重合を行うことよりなる。
【0012】
上記パーハロモノマーとしては特に限定されないが、パーハロエチレン性モノマー、官能基を含むパーハロエチレン性モノマー、環状パーハロモノマー、パーハロジエン性モノマー等が挙げられる。
上記パーハロエチレン性モノマーとしては、下記一般式(A)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、F、Cl又は−CFを表す。aは、0〜3の整数を表す。b、c及びdは、同一若しくは異なって、0又は1を表す。Xは、F又はClを表す。Rfは、炭素数2〜100のエーテル結合を有するパーハロアルキレン基、又は、炭素数1〜40のパーハロアルキレン基を表す)で表されるパーハロエチレン性モノマーを挙げることができる。
上記官能基を有するパーハロエチレン性モノマーとしては、例えば、下記一般式(B)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、F、Cl又は−CFを表す。eは、0〜3の整数を表す。f及びgは、同一若しくは異なって、0又は1を表す。Rfは、炭素数2〜100のエーテル結合を有するパーハロアルキレン基、又は、炭素数1〜40のパーハロアルキレン基を表す。Zは、−OH、−CHOH、−COOM(Mは、H又はアルカリ金属を表す。)、カルボキシル基由来基、−SOM(Mは、H又はアルカリ金属を表す。)、スルホン酸由来基、エポキシ基、シアノ基、−I及び−Brよりなる群から選択される官能基を表す。)で表される官能基を含むパーハロエチレン性モノマーを挙げることができる。
上記カルボキシル基由来基としては、例えば、一般式:−C(=O)Q(式中、Qは、−OR、−NH、F、Cl、Br又はIを表し、Rは、アルキル基又はアリール基を表す。)で表される基を挙げることができる。
上記スルホン酸由来基としては、例えば、一般式:−SO(式中Qは、−OR、−NH、F、Cl、Br又はIを表し、Rは、アルキル基又はアリール基を表す。)で表される基を挙げることができる。
上記環状パーハロモノマーとしては、例えば、下記一般式(C)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、X及びXは、同一若しくは異なって、F、Cl又は−CFを表す。Rfは、環状構造を有する若しくは有しない炭素数1〜10のパーハロアルキレン基又は環状構造を有する若しくは有しない炭素数2〜10のエーテル結合を有するパーハロアルキレン基を表す。h及びiは、同一若しくは異なって、0又は1の整数を表す)で表される環状パーハロモノマー、下記一般式(D)
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、X10及びX11は、同一若しくは異なって、F、Cl又は−CFを表す。Rf及びRfは、炭素数2〜10のエーテル結合を有するパーハロアルキル基、又は、炭素数1〜10のパーハロアルキル基を表す。RfとRfとは、連結して環を形成していてもよい)で表される環状パーハロモノマー等を挙げることができる。
上記パーハロジエン性モノマーとしては、例えば、下記一般式(E)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、X12、X13、X14、X15、X16、X17、X18、X19、X20及びX21は、同一若しくは異なって、F、Cl又は−CFを表す。j及びkは、同一若しくは異なって、0又は1の整数を表す。)で表されるパーハロジエン性モノマー等を挙げることができる。
【0023】
上記一般式(A)で表されるパーハロエチレン性モノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン[TFE]、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]、クロロトリフルオロエチレン[CTFE]、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]等が挙げられる。PAVEとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[PMVE]、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)[PEVE]、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)[PPVE]等が挙げられる。
【0024】
上記パーハロモノマーとしては、TFE、HFP、PMVE、PEVE及びPPVEが好ましい。
【0025】
本発明により得られるパーハロポリマーとしては特に限定されないが、例えば、非溶融加工性パーハロポリマー、溶融加工性パーハロポリマー等が挙げられる。
【0026】
上記非溶融加工性パーハロポリマーとしては、TFE単独重合体、変性ポリテトラフルオロエチレン[変性PTFE]等が挙げられる。本明細書において、上記「変性PTFE」とは、TFEと、TFE以外の微量モノマーとの共重合体であって、非溶融加工性であるものを意味する。
上記微量モノマーとしては、例えば、HFP、CTFE等のパーハロオレフィン;炭素原子1〜5個、好ましくは炭素原子1〜3個のアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール等の環式のフッ素化された単量体;パーフルオロ(アルキルエチレン)等が挙げられる。変性PTFEにおいて、上記微量モノマーに由来する微量モノマー単位の全モノマー単位に占める含有率は、通常0.001〜2モル%の範囲である。
【0027】
本明細書において、上記微量モノマー単位、後述のPPVE単位やPMVE単位等の「モノマー単位」は、パーハロポリマーの分子構造上の一部分であって、対応するパーハロモノマーに由来する部分を意味する。例えばTFE単位は、パーハロポリマーの分子構造上の一部分であって、TFEに由来する部分であり、−(CF−CF)−で表される。上記「全モノマー単位」は、パーハロポリマーの分子構造上、モノマーに由来する部分の全てである。本明細書において、「全モノマー単位に占める微量モノマー単位の含有率(モル%)」とは、上記「全モノマー単位」が由来するモノマー、即ち、パーハロポリマーを構成することとなったモノマー全量に占める、上記微量モノマー単位が由来する微量モノマーのモル分率(モル%)を意味する。上記微量モノマー単位以外の「モノマー単位」の全モノマー単位に占める含有率(モル%)についても同様の考えによる。
【0028】
上記溶融加工性パーハロポリマーは、融点より50℃高い温度での溶融粘度が10ポアズ以下であるものが好ましい。
上記溶融加工性パーハロポリマーとしては、熱的に安定なポリマー鎖末端を有するパーハロポリマーの製造が容易であるとの本発明の効果を充分に活かす点で、HFP、PAVE及びCTFEよりなる群から選択される少なくとも1種のパーハロモノマーから得られる共重合体が好ましく、TFE/HFP共重合体[FEP]、TFE/PAVE共重合体がより好ましく、FEP、TFE/PPVE共重合体[PFA]、TFE/PMVE共重合体[MFA]、TFE/PEVE共重合体[EFA]、PPVE、PMVE、PEVE及びHFPから選ばれる2種類以上のモノマーと、TFEとの共重合体が更に好ましい。
【0029】
上記FEPにおいて、全モノマー単位に占めるHFP単位の含有率は、3〜15mol%である。上記含有率の好ましい下限は5mol%であり、好ましい上限は13mol%である。
上記PFAにおいて、全モノマー単位に占めるPPVE単位の含有率は、0.1〜15mol%である。上記含有率の好ましい下限は1mol%であり、好ましい上限は12mol%である。
上記MFAにおいて、全モノマー単位に占めるPMVE単位の含有率は、0.1〜50mol%である。上記含有率の好ましい下限は1molであり、好ましい上限は45mol%である。
上記TFEとPPVE及びHFPとの共重合体において、全モノマー単位に占めるPPVE単位の含有率は、0.03〜3mol%である。上記含有率の好ましい下限は0.1mol%であり、好ましい上限は2mol%である。また、全モノマー単位に占めるHFP単位の含有率は、3〜15mol%である。上記含有率の好ましい下限は5mol%であり、好ましい上限は14mol%である。
【0030】
本発明により得られるパーハロポリマーは、用いるパーハロモノマーの種類や重合条件等により、その物理的性質、化学的性質等が異なる。上記パーハロポリマーのメルトフローレートは、その測定温度が上記パーハロポリマーの融点に応じて適宜選択されるが、例えば、FEP、PFA、MFA、及び、TFE/PPVE/HFP共重合体等の場合、372℃、5kgf荷重にて測定したメルトフローレートは、通常、0.1〜150(g/10分)である。好ましい下限は、0.5(g/10分)であり、好ましい上限は100(g/10分)である。
本明細書において、上記メルトフローレートは、メルトインデクサー(Dynisco社製)を用い、ASTM D−1238に準拠して測定することにより得られた値である。
【0031】
本発明により得られるパーハロポリマーとしては特に限定されないが、パーフルオロポリマーであることが好ましい。
本発明のパーハロポリマーの製造方法において、上記パーハロポリマーは、ポリマー鎖末端の一方又は両方が−CFであるものが好ましく、ポリマー鎖の両末端が−CFであるものがより好ましい。
上記−CFは熱的に安定な基であるので、上述のポリマー鎖末端の少なくとも一方が−CFであるパーハロポリマーを用いる場合、成形加工時において成形機の金型を腐食させたり、半導体製造工程において使用する場合にシリコンウェハーを腐食させるといった問題が生じない。
【0032】
本発明により得られるパーハロポリマーは、ポリマー鎖末端の少なくとも片末端が−CFであり、該パーハロポリマーのうち上記ポリマー鎖の両末端が−CFであるパーハロポリマー分子は、得られるパーハロポリマー分子全量の50mol%以上の量で製造することができる。
本発明において、ポリマー鎖末端の−CFは、溶融状態のNMRスペクトルより、ポリマー鎖末端の−CFのピークとして測定することができる。
【0033】
上記パーハロモノマーの重合は、上記一般式(I)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルの存在下に行うものである。
【0034】
上記一般式(I)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルは、化学構造にもよるが、高度に枝分かれした構造を有するため立体障害が大きく、通常、35℃未満である温度において充分に安定であるので、例えば、20〜30℃程度の常温において取り扱い性に優れる。その一方、上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、加熱等により容易に分解することができ、例えばβ−開裂を起してトリフルオロメチル遊離基を発生させることができる。本発明のパーハロポリマーの製造方法は、上記極安定パーフルオロアルキルラジカルを加熱等により分解させて発生させたトリフルオロメチル遊離基等の低分子量の遊離基を、パーハロモノマーの重合反応において重合開始剤として用いるものである。
【0035】
上記一般式(I)におけるRfは、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である。上記炭素数が16を超えると、低分子パーフルオロアルキルラジカルの発生が困難となることがある。
上記一般式(I)において、上記Rfとしては、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基であれば特に限定されず、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよいが、分解によって低分子量の遊離基を発生し易く、精製、凝析が容易であることから、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0036】
上記一般式(I)において、Raは、不対電子1個を有する炭素原子である。本明細書において、「不対電子1個を有する炭素原子」とは、遊離基が有する不対電子を原子上に有している炭素を意味する。
【0037】
上記一般式(I)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルとしては、例えば、下記一般式(Ia)
[(CFCF][(CF)CRf]Ra−CF(CF)Rf (Ia)
(式中、Ra及びRfは、上記定義したものと同じである。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(Ia)、
【0038】
下記一般式(Ib)
[(CFCF][(CF)CFRf]Ra (Ib)
(式中、Ra及びRfは、上記定義したものと同じである。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(Ib)、
【0039】
下記一般式(Ic)
[(CFCF][(CF)CRf]Ra−CF(CF) (Ic)
(式中、Ra及びRfは、上記定義したものと同じである。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(Ic)、
【0040】
下記一般式(Id)
[(CFCF][(CF)CF]Ra−CF(CF)Rf (Id)
(式中、Ra及びRfは、上記定義したものと同じである。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(Id)、及び、
【0041】
下記式(Ie)
[(CFCF][(CF)CFRa (Ie)
(式中、Raは、上記定義したものと同じである。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(Ie)
が挙げられる。
【0042】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルとしては、調製容易、重合反応性の点で、極安定パーフルオロアルキルラジカル(Ia)、極安定パーフルオロアルキルラジカル(Ib)、極安定パーフルオロアルキルラジカル(Ic)及び極安定パーフルオロアルキルラジカル(Id)が好ましい。また、極安定パーフルオロアルキルラジカル(Id)は、ラジカルの製造が簡便である点でより好ましい。極安定パーフルオロアルキルラジカル(Ib)は、分解して低分子量の遊離基を発生させた後得られるオレフィンに、上記低分子量の遊離基を結合させたアルキルシランを作用させることにより上記極安定パーフルオロアルキルラジカルを再生させ、繰り返し再利用することができる点で、より好ましい。上記再利用の方法としては、特に限定されないが、特開2003−147008号公報に記載した方法が好ましい。
【0043】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルの炭素数は、8〜11が好ましい。上記炭素数のより好ましい下限は9であり、上記炭素数のより好ましい上限は10である。
上記炭素数が9である場合、パーハロポリマーを高収率で製造することができ、工業的に安価に実施可能である点で好ましい。また、上記炭素数が10である場合、上記再利用が容易な点で好ましい。
本明細書において、上記極安定パーフルオロアルキルラジカルの炭素数は、Raにより表される不対電子1個を有する炭素原子をも含む概念である。
【0044】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルとしては、[(CFCF]Ra−CF(CF)及び[(CFCF]Ra(各式において、Raは上記定義したものと同じである。)が更に好ましい。
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、1種又は2種以上同時に用いることができる。
【0045】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、公知の方法により製造することができ、例えば、(1)上記Rfを有するトリアルキルパーフルオロアルキルシランをヘキサフルオロプロペン三量体に作用させて上記Rfを導入した高度分岐状パーフルオロオレフィンをフッ素化することよりなる特開2003−155257号公報に記載の方法、(2)パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)を0〜45℃の温度で直接フッ素化することにより[(CFCF]Ra−CF(CF)を得る特公平1−29175号公報及び米国特許4,626,608号明細書に記載の方法等を用いて製造することができる。
【0046】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、反応系全体の0.01〜10質量%の量を添加することが好ましい。上記「反応系全体」は、上述のパーハロモノマー、反応媒体及び所望により添加する公知の添加剤等を含むものである。
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルの添加量のより好ましい下限は、重合効率の点で、0.05質量%、更に好ましい下限は0.1質量%であり、経済面で、より好ましい上限は5質量%、更に好ましい上限は2質量%である。
【0047】
上記パーハロモノマーの重合を行う上記反応媒体は、パーハロカーボン及び/又は水からなるものが好ましい。
本明細書において、上記「反応媒体」とは、その中でパーハロモノマーの重合を行わしめる媒体を意味する。上記反応媒体は、パーハロモノマーを溶解する溶媒であってもよいし、パーハロモノマーを分散させる分散媒であってもよい。
上記反応媒体は、パーハロカーボンのみからなるものであってもよいし、水のみからなるものであってもよいし、パーハロカーボンと水とからなるものであってもよい。
【0048】
上記パーハロカーボンは、上記パーハロモノマーと上記極安定パーフルオロアルキルラジカルとに対して不活性であるものが好ましく、また、沸点が−50〜200℃であるものであってもよいし、炭素数が1〜16であるものであってもよい。上記パーハロカーボンの沸点が上記範囲内にあると、上記パーハロカーボンの取り扱いが容易である点で好ましく、沸点が高すぎると、上記パーハロカーボンと重合により得られるパーハロポリマーとを分離しにくい場合がある。上記パーハロカーボンは、炭素数が上記範囲内にあると、取り扱いが容易である点で好ましい。
上記沸点の好ましい下限は−30℃、より好ましい下限は−10℃であり、上記沸点の好ましい上限は120℃、より好ましい上限は100℃である。
上記炭素数の好ましい下限は2、より好ましい下限は3であり、上記炭素数の好ましい上限は12、より好ましい上限は10である。
【0049】
上記パーハロカーボンは、沸点及び炭素数が上記各範囲のものであれば、−COOH、−CHOH、−COF等の熱的に不安定な基がポリマー鎖末端に生じるのを抑制し、得られるパーハロポリマー鎖末端の少なくとも一方に−CFを効率よく導入できる点で好ましい。上記反応媒体において、上記パーハロカーボンが含有されない場合、上記熱的に不安定な基がポリマー鎖末端に生じてしまうことがある。
【0050】
パーハロポリマーは、一般に、ポリマーの融点以上の温度であっても分解しにくい−CF、−CFH等の熱的に安定な基をポリマー末端に有するものであることが、成形加工時に成形機の金型が腐食したり、半導体製造工程においてシリコンウェハーが腐食したりしない点で好ましい。
パーハロポリマーにおいて、ポリマー末端が−CFHであっても、通常の工業的用途に好適に用いることができるが、−CFの方がより熱的安定性が高い点で好ましい。
本発明のパーハロポリマーの製造方法は、−CFをポリマー鎖の末端に導入することができ、しかもポリマー鎖の両末端に導入することが容易である。従って、本発明のパーハロポリマーの製造方法は、パーハロモノマーの重合終了時において得られるパーハロポリマーが、既に安定であるので、重合後、安定化の為の後処理を要しないものである。
【0051】
上記パーハロモノマーの重合において、上記パーハロカーボンは、1種又は2種以上同時に用いることができる。
上記パーハロカーボンとしては、パーハロポリマー末端に−CFを効率良く導入できる点で、パーフルオロカーボンが好ましく、パーフルオロカーボンとしては、パーフルオロシクロブタン[C318]及び/又は直鎖若しくは分岐のパーフルオロヘキサンがより好ましい。上記直鎖若しくは分岐のパーフルオロヘキサンとしては、パーフルオロn−ヘキサンが好ましい。
【0052】
上記反応媒体は、水のみからなるものであってもよい。
上記反応媒体は、上記パーハロカーボンからなり、更に、水からなるものが好ましく、また、パーフルオロカーボンからなり、更に、水からなるものがより好ましい。
上記パーハロモノマーの重合において、上記反応媒体は、水のみからなるもの、又は、上記パーハロカーボンと更に水とからなるものである場合、重合反応において生じる重合熱を除熱し、重合温度を容易に制御することができ、上述の熱的に不安定な基がポリマー分子中に生じるのを容易に抑制することができる。
例えば、上記パーハロカーボンのみからなる上記反応媒体を用いて、パーハロモノマーの1つとしてPAVEを重合する際、重合条件にもよるが、PAVE側鎖のβ−脱離が起こりやすいことが知られている。PAVEの重合により得られるパーハロポリマーは、上記β−脱離を起こすと、−C−O−Rf(Rfは、パーフルオロアルキル基を表す)から−C(=O)−Fへ変換してしまい、熱的に不安定なポリマー鎖末端を有することとなりやすい。これに対し、上記反応媒体が水をも含有する場合、PAVEのβ−脱離に由来するポリマー分子中の不安定末端基数を、反応媒体が水を含まない場合の約10分の1以下にすることができる。
【0053】
上記反応媒体は、パーハロカーボンからなり、重合温度制御の点で、更に、水からなるものであり、又は、水のみからなるものであり、上記水は、上記パーハロカーボンと上記水との合計の10〜100質量%であることがより好ましく、合計の10〜90質量%であることが更に好ましい。
上記水の含有量の好ましい下限は、15質量%、より好ましい下限は20質量%であり、上記水の含有量の好ましい上限は、80質量%、より好ましい上限は70質量%である。
【0054】
上記パーハロモノマーの重合において、必要に応じ、更に、界面活性剤、連鎖移動剤等の各種添加剤を添加してもよい。上記各種添加剤としては、一般のパーハロモノマーの重合に用いて得られるものを使用することができる。
【0055】
上記パーハロモノマーの重合は、60〜120℃の温度にて行うことが好ましい。
上記温度のより好ましい下限は65℃、更に好ましい下限は70℃であり、上記温度のより好ましい上限は100℃、更に好ましい上限は90℃である。
【0056】
上記パーハロモノマーの重合は、上記重合条件の他、公知の反応条件下で行うことができるが、例えばTFE/PAVE共重合体の場合、0.2〜10MPaの圧力下にて行うことが好ましい。
上記圧力のより好ましい下限は0.3MPa、更に好ましい下限は0.4MPaであり、上記圧力のより好ましい上限は0.9MPa、更に好ましい上限は0.8MPaである。
【発明の効果】
【0057】
本発明のパーハロポリマーの製造方法は、上記極安定パーフルオロアルキルラジカルの存在下、上記反応媒体中で重合反応を行うものなので、ポリマー鎖末端の少なくとも一方に熱的に安定な−CFを有するパーハロポリマーを、簡便に、収率良く製造することができる。このため、本発明のパーハロポリマーの製造方法により得られるパーハロポリマーは、成形加工時において成形機の金型を腐食させる原因や、半導体製造工程において使用する場合にはシリコンウェハーを腐食させる原因になるといった問題がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例によって限定されるものではない。
【0059】
各実施例及び比較例において、以下の方法を用いて各測定を行った。
(1)IRスペクトル
FI−IR Spectrometer 1760X(Perkin−Elmer社製)を用い、Resolution;4cm−1、Interval;1cm−1にて測定した。
(2)NMRスペクトル
核磁気共鳴装置AC300(Bruker−Biospin社製)を用い、(ポリマーの融点+20)℃の測定温度にて測定した。
(3)メルトフローレート[MFR]
メルトインデクサー(Dynisco社製)を用い、ASTM D−1238に準拠して、372℃、5kgf荷重にて測定した。
(4)融点
示差走査熱量計RDC220(Seiko Instruments社製)を用いて、昇温速度10℃/分にて行った熱測定より得られるピーク温度を測定した。
(5)全モノマー単位中のモノマー単位の含有率
NMRスペクトルにおける各ピークの積分値により求めた。
【0060】
実施例1
容量500mlのステンレス製オートクレーブに水150gを入れて脱気し、パーフルオロヘキサン250gを入れて撹拌しつつ、温度調節を開始した。
オートクレーブの温度を70℃に保持して、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[PMVE]8.1g、テトラフルオロエチレン[TFE]21.5gを導入した。
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル)[C9ラジカル]とHFP三量体との混合物3.4g(このうち、C9ラジカルは1.7g)を導入し、重合を開始させた。
重合中、TFEとPMVEを追加して、重合圧力を0.8MPaに保持した。
TFEの追加量が21gになったところで、オートクレーブ内の温度を室温に下げ、重合を停止させた。
得られたポリマーを、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン[HCFC−141b]を用いて洗浄し、120℃の電気炉内にて24時間乾燥させた。
22.4gの白色粉末を得た。
【0061】
生成ポリマーについて、全モノマー単位中PMVEに由来するPMVE単位の含有率は3.6mol%、融点は297.5℃、メルトフローレート[MFR]は、1.1(g/10分)であった。
IRスペクトルより、1850〜1750cm−1の吸収帯にカルボニル基のピークとカルボキシル基のピークがないことから、カルボニル基末端及びカルボキシル基末端は実質的に存在しないことがわかった。
また、溶融状態のNMRスペクトルより、主鎖のピーク(−CF−、−CF−、−OCF)以外には、末端基のピークとして−CFのピークのみが認められた。
【0062】
実施例2
パーフルオロヘキサンの代わりに、パーフルオロシクロブタンを用いたほかは、実施例1と同様に重合を行った。
得られたポリマーを、HCFC−141bを用いて洗浄し、120℃の電気炉内にて24時間乾燥させた。
24.0gの白色粉末を得た。
生成ポリマーについて、全モノマー単位中PMVEに由来するPMVE単位の含有率は3.8mol%、融点は297.2℃、メルトフローレート[MFR]は、1.6(g/10分)であった。
IRスペクトルより、1850〜1750cm−1の吸収帯にカルボニル基のピークとカルボキシル基のピークがないことから、カルボニル基末端及びカルボキシル基末端は実質的に存在しないことがわかった。
また、溶融状態のNMRスペクトルより、主鎖のピーク(−CF−、−CF−、−OCF)以外には、末端基のピークとして−CFのピークのみが認められた。
【0063】
比較例1
容量500mlのステンレス製オートクレーブに水150gを入れて脱気し、HCFC−141b 186gを入れて撹拌し、温度調節を開始した。
オートクレーブの温度を70℃に保持して、PMVE2g、TFE14gを導入した。
実施例1で用いたC9ラジカルとHFP三量体との混合物6.0g(このうち、上記C9ラジカルは3.4g)を導入し、重合を開始させた。
重合中、TFE及びPMVEを追加して、重合圧力を0.9MPaに保持した。
TFEの追加量が22gになったところで、オートクレーブ内の温度を室温に下げ、重合を停止させた。
得られたポリマーを、HCFC−141bを用いて洗浄し、150℃の電気炉内にて24時間乾燥させた。27.2gの白色粉末を得た。
【0064】
生成ポリマーについて、全モノマー単位中PMVEに由来するPMVE単位の含有率は5.3mol%、融点は304.5℃、MFRは195(g/10分)であった。
IRスペクトルより、1850〜1750cm−1の吸収帯にカルボニル基のピークとカルボキシル基のピークがないことから、生成ポリマー中にカルボニル基末端及びカルボキシル基末端は実質的に存在しないことがわかった。
溶融状態のNMRスペクトルより、生成ポリマー中に、末端基のピークとして、−CFの他に、−CFHのピークが認められた。上記各末端基のピークより求められる−CFと−CFHとの存在比は、−CF:−CFH=1:0.2であった。
【0065】
実施例3
容量300mlのステンレス製オートクレーブ内を脱気し、パーフルオロヘキサン155gを入れて、温度調節を開始した。
オートクレーブの温度を75℃に保持して、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)[PPVE]7.5g、TFE22gを導入した。
実施例1で用いたC9ラジカルとHFP三量体との混合物2.0g(このうち、上記C9ラジカルは1.2g)を導入し、重合を開始させた。
撹拌を行いながら温度調節を続けたが、反応器内の温度上昇が激しく、実質的には反応温度の制御が困難であった。
圧力が1.3MPaから0.7MPaとなったところで、オートクレーブ内の温度を室温に下げ、重合を停止させた。
得られたポリマーを、HCFC−141bを用いて洗浄し、120℃の電気炉内にて24時間乾燥させた。16gの白色粉末を得た。
【0066】
生成ポリマーについて、全モノマー単位中PPVEに由来するPPVE単位の含有率は3.4mol%、融点は315.7℃、MFRは98(g/10分)であった。
IRスペクトルより、PPVE側鎖のβ−脱離によって生成したと考えられるカルボキシル基のピークが認められたが、溶融状態のNMRスペクトルでは、主鎖のピーク(−CF−、−CF−、−OCFCFCF)のほかには、−CF以外の末端基ピークの存在は認められなかった。
【0067】
実施例4
容量500mlのステンレス製オートクレーブに水150gを入れて脱気し、パーフルオロヘキサン250gを入れて撹拌、温度調節を開始した。
オートクレーブの温度を70℃に保持して、PPVE3.8g、TFE17gを導入した。
実施例1で用いたC9ラジカルとHFP三量体との混合物3.4g(このうち、上記C9ラジカルは2.0g)を導入し、重合を開始させた。
重合中、TFEとPPVEを追加して、重合圧力を0.8MPaに保持した。
TFEの追加量が21gになったところで、オートクレーブ内の温度を室温に下げ、重合を停止させた。
得られたポリマーを、HCFC−141bを用いて洗浄し、120℃の電気炉内にて24時間乾燥させた。39.8gの白色粉末を得た。
【0068】
生成ポリマーについて、全モノマー単位中PPVEに由来するPPVE単位の含有率は1.2mol%、融点は315.1℃、MFRは0.6(g/10分)であった。
IRスペクトルより、PPVE側鎖のβ−脱離により生成したと考えられるカルボキシル基のピークが認められたが、カルボキシル基は、実施例3の場合と比較して、約10分の1倍量であった。また、溶融状態のNMRスペクトルでは、主鎖のピーク(−CF−、−CF−、−OCFCFCF)のほかには、−CF以外の末端基ピークの存在は認められなかった。
【0069】
実施例5
容量500mlのステンレス製オートクレーブ内を脱気し、撹拌を開始した。
オートクレーブを、10℃に冷却して、ヘキサフルオロプロペン[HFP]355g及びTFE56gを導入した。
オートクレーブを83℃に昇温したところ、圧力は3.9MPaを示した。
実施例1で用いたC9ラジカルとHFP三量体との混合物3.5g(うち、上記C9ラジカルは2.0g)を導入し、重合を開始させた。
圧力が3.6MPaになったところで、オートクレーブ内の温度を室温に下げ、重合を停止させた。
得られたポリマーを、HCFC−141bを用いて洗浄し、150℃の電気炉内にて24時間乾燥させた。18.6gの白色粉末を得た。
【0070】
生成ポリマーについて、全モノマー単位中HFPに由来するHFP単位の含有率は10.4mol%、融点は248.7℃、MFRは26.2(g/10分)であった。
IRスペクトルより、1850〜1750cm−1の吸収帯にカルボニル基のピークとカルボキシル基のピークがないことから、カルボニル基末端及びカルボキシル基末端は実質的に存在しないことがわかった。
また、溶融状態のNMRスペクトルより、主鎖のピーク(−CF−、−CF−、−CF)以外には、末端基のピークとして、−CFのピークのみが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のパーハロポリマーの製造方法は、ポリマー鎖末端に−CFを有するパーハロポリマーを、簡便に、収率良く製造することができる。上記パーハロポリマーは、ポリマー鎖末端の少なくとも一方に−CFを有するので、熱的に安定であり、成形加工時において成形機の金型を腐食させる原因や、半導体製造工程において使用する場合にはシリコンウェハーを腐食させる原因となる問題がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーハロカーボン及び/又は水からなる反応媒体中でパーハロモノマーの重合を行うことよりなるパーハロポリマーの製造方法であって、
前記パーハロモノマーの重合は、下記一般式(I)
[(CFCF][(CF)CY]Ra−CF(CF)Y (I)
(式中、Raは、不対電子1個を有する炭素原子を表し、Y、Y及びYは、同一又は異なって、F若しくはRfを表し、Rfは、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルの存在下に行うものであり、
前記パーハロカーボンは、前記パーハロモノマーと前記極安定パーフルオロアルキルラジカルとに対して不活性であり、炭素数が1〜16であるものである
ことを特徴とするパーハロポリマーの製造方法。
【請求項2】
パーハロカーボンは、沸点が−50〜200℃であるものである請求項2記載のパーハロポリマーの製造方法。
【請求項3】
パーハロポリマーは、ポリマー鎖の両末端が−CFであるものである請求項1又は2記載のパーハロポリマーの製造方法。
【請求項4】
パーハロカーボンは、パーフルオロカーボンである請求項1、2又は3記載のパーハロポリマーの製造方法。
【請求項5】
パーフルオロカーボンは、パーフルオロシクロブタン及び/又はパーフルオロヘキサンである請求項4記載のパーハロポリマーの製造方法。
【請求項6】
極安定パーフルオロアルキルラジカルは、
[(CFCF]Ra−CF(CF)、又は、
[(CFCF]Ra
(式中、Raは、不対電子1個を有する炭素原子を表す。)である請求項1、2、3、4又は5記載のパーハロポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2006−312736(P2006−312736A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106575(P2006−106575)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】