説明

パーム系油脂含有油脂

【課題】パーム系油脂の低温保管における風味劣化を抑制する方法、及び、低温保管における風味劣化が抑制されたパーム系油脂乃至該パーム系油脂を含有する油脂を提供する。
【解決手段】パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを含有し、パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂との質量比が1:0.0001〜0.05であるパーム系油脂含有油脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温保管における風味劣化が抑制された、パーム系油脂を含有する油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油脂の風味劣化としては、不飽和脂肪酸が豊富な油脂については、いわゆる油脂の自動酸化による酸敗がよく知られているところである。また、酸化現象の一種であると考えられるが、大豆油に代表されるように、光に晒されることにより独特の劣化風味(曝光臭)を呈する油脂も知られている。また、椰子油のように、低温に保存されることにより遊離脂肪酸が生じて、石鹸臭と呼ばれる風味劣化を呈する油脂も知られている。
【0003】
パーム油乃至その分別油等を含めたパーム系油脂は、その飽和脂肪酸とオレイン酸に富む脂肪酸組成より、酸化安定性が高い油脂として周知であり、惣菜類や揚げ菓子等の揚げ油として、また、製菓製パン分野での練り込み用油脂やクリーム用油脂として、広く使用されている。このように酸化に対しては高い安定性を有するパーム油ではあるが、意外にも、冷蔵等の低温下に保管された場合、酸敗や曝光臭、石鹸臭とは異なった、「苦い」ような「埃っぽい」ような不快な風味を示すことが知られている。このような風味劣化したパーム系油脂を使用した場合、揚げ物やクリーム等の品質を損なう危険性がある。
【0004】
上記のようなパーム系油脂の低温保管における風味劣化を防止することを目的として、パーム系油脂類に、ソルビタン脂肪酸エステル及び/又はフェルラ酸エステルを添加する方法(例えば、特許文献1)や、ポリソルベートを添加する方法(例えば、特許文献2)が提案されている。しかしながら、これらの方法では、風味劣化防止効果が十分でなかったり、揚げ油として使用した場合、油撥ねや発煙を生じたりと、不都合なことが多く、十分な解決方法ではなかった。
【0005】
以上のような背景から、パーム系油脂の特性を損なわずに、パーム系油脂の低温保管における風味劣化を抑制する方法、及び、低温保管における風味劣化が抑制されたパーム系油脂の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−55687号公報
【特許文献2】特開2005−168482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、パーム系油脂の低温保管における風味劣化(以下、低温戻りともいう)を抑制する方法、及び、低温保管における風味劣化が抑制されたパーム系油脂乃至該パーム系油脂を含有する油脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを、質量比1:0.0001〜0.05で混合することにより、パーム系油脂の低温保管における風味劣化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の態様の1つは、パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを含有し、パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂との質量比が1:0.0001〜0.05であることを特徴とするパーム系油脂含有油脂である。
本発明の好ましい態様としては、前記パーム系油脂と前記カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂との合計含量が30質量%以上であるパーム系油脂含有油脂である。
本発明の好ましい態様としては、前記パーム系油脂がRBD油を再精製した油脂を含むパーム系油脂含有油脂である。
本発明の好ましい態様としては、前記パーム系油脂がレシチンを含むパーム系油脂含有油脂である。
また、本発明の態様の1つは、前記パーム系油脂含有油脂を使用した食品である。
また、本発明の態様の1つは、パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを、質量比1:0.0001〜0.05で混合するパーム系油脂の風味劣化抑制方法である。
また、本発明の態様の1つは、カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂であるパーム系油脂の風味劣化抑制剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パーム系油脂の低温保管における風味劣化を抑制する方法、及び、低温保管における風味劣化が抑制されたパーム系油脂乃至該パーム系油脂を含有する油脂を提供することができ、それらの油脂を使用した風味良好な食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のパーム系油脂含有油脂は、パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを含有する。ここでパーム系油脂とは、パーム油由来の油脂であり、パーム油、パーム油の分別油及びそれらの加工油(硬化、エステル交換及び分別のうち1以上の処理がなされたもの)が例示できる。より具体的には、1段分別油であるパームオレイン、パームステアリン、パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)及びパームミッドフラクション、パームステアリンの2段分別油であるパームオレイン(ソフトパーム)及びパームステアリン(ハードステアリン)等が例示できる。また、それらの1種以上とパーム系油脂以外の油脂との混合油を原料油としたエステル交換油や硬化油の場合、原料油脂中のパーム系油脂含量に応じた量をパーム系油脂として扱う。パーム系油脂は、食用油脂の製造において通常行われる、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭等の精製処理を施すことにより、食用に供される。パーム核油は、パームの種子から搾油される油脂であるが、パーム油とは特性が異なり、本発明におけるパーム系油脂にはパーム核油由来の油脂は含まない。
【0012】
また、本発明におけるパーム系油脂は、RBD油を再精製したものを含んでいてもよい。パーム系油脂は、主にマレーシア、インドネシアなどの国で生産されており、パームの果肉から搾油した原油に、現地において物理精製(RBD: Refined Bleached Deodorized)と呼ばれる精製処理(必要に応じて分別処理)を施したRBD油が、日本等の消費国へ輸出されている。RBD油は日本などの消費国で再び、少なくとも脱臭処理、通常は、(脱酸)、脱色、脱臭の精製処理を行ってから使用される場合が多い(再精製RBD油)。一度劣化したRBD油は、再び精製を行っても低温保管中に風味劣化を起こしやすいことが経験的に知られているが、本発明においては、このような再精製RBD油を使用しても低温保管中に風味劣化を効果的に抑制できる。本発明におけるパーム系油脂は、このような再精製RBD油のみからなるものでもよい。
なお、本発明における低温(低温保管、低温劣化等)とは、温度が−5℃〜15℃の範囲を指すものである。
【0013】
本発明におけるカカオ豆より圧搾されたカカオ脂は、カカオ豆より圧搾されたカカオ脂であり、溶剤等によりカカオ豆より抽出されたカカオ脂は、パーム系油脂の低温劣化抑制効果の面から、本発明で使用するのは適当ではない。
本発明におけるカカオ豆より圧搾されたカカオ脂は、また、焙煎されたカカオ豆より圧搾されたカカオ脂であることが好ましい。カカオ豆の焙煎条件は、焙煎温度は100〜150℃が好ましく、110〜140℃であることがより好ましく、120〜140℃であることが最も好ましい。焙煎時間は5〜40分間が好ましく、10〜30分間がより好ましい。前記焙煎条件で焙煎すると、良好なパーム系油脂低温劣化抑制効果が得られるので好ましい。
また、焙煎方式に特に限定はないが、カカオ豆をスチーム処理した後、皮を分離した実(カカオニブ)の状態で焙煎するニブ焙煎や、カカオ豆を皮付きのまま焙煎するビーンズ焙煎が挙げられる。ニブ焙煎の場合は、皮を分離したカカオニブを、滅菌、乾燥した後、焙煎、磨潰して得られたカカオマスを圧搾することによりカカオ脂が得られる。ビーンズ焙煎の場合は、カカオ豆を皮付きのまま殺菌、焙煎した後、皮を分離し、磨潰して得られたカカオマスを圧搾することによりカカオ脂が得られる。また、カカオ脂はカカオマスを圧搾することにより得られるが、圧搾前にカカオマスをアルカリ処理しても良い。焙煎は、良好なパーム系油脂低温劣化抑制効果が得られるので、カカオ豆の実部を直接加熱するニブ焙煎であることが好ましい。
【0014】
本発明におけるカカオ豆より圧搾されたカカオ脂は、高温脱臭処理を経ない(経ていない)カカオ脂である。ここで高温脱臭処理とは、油脂の精製工程の1つである脱臭工程において、通常食用油脂を脱臭する場合に適用される脱臭温度が230℃以上での脱臭をいう。また、本発明におけるカカオ豆より圧搾されたカカオ脂を脱臭処理する場合、脱臭処理温度は210℃以下であることが好ましく、100〜180℃であることが更に好ましい。さらに、本発明におけるカカオ豆より圧搾されたカカオ脂は、脱臭処理を全く経ない未脱臭カカオ脂であることが好ましく、食用油脂を得るために通常行われる脱酸、脱色、脱臭の精製工程を経ない、圧搾されたままの、また必要に応じて水洗及び/又は濾過等により挟雑物等が取り除かれた、未精製カカオ脂であることが、良好なパーム系油脂低温劣化抑制効果が得られるので最も好ましい。
【0015】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、前記パーム系油脂と前記カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを、1:0.0001〜0.05の質量比で含有する。前記質量比は、1:0.0005〜0.03であることが好ましく、1:0.001〜0.01であることが更に好ましく、1:0.001〜0.005であることが最も好ましい。パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂との質量比が上記範囲にあると、良好なパーム系油脂低温劣化抑制効果が得られるので好ましい。カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂は、パーム系油脂の風味劣化抑制剤として使用できる。
【0016】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、前記パーム系油脂と前記カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを合計で30質量%以上含有することが好ましく、50質量%以上含有することがより好ましく、70質量%以上含有することが更に好ましく、90〜100質量%含有することが最も好ましい。前記パーム系油脂と前記カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂との合計含量が上記範囲にあると、パーム系油脂の低温劣化抑制効果がより顕著に得られるので好ましい。
【0017】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、前記パーム系油脂と前記カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂以外の油脂として、従来食用に供される食用油脂を含有することができる。具体的には、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、綿実油、ヒマワリ種子油、高オレイン酸ヒマワリ種子油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、高オレイン酸サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、イリッペ脂、サル脂、シア脂、パーム核油、ヤシ油、豚脂、牛脂、乳脂、魚油等、並びに、これらに、硬化、分別、エステル交換(油脂と脂肪酸または脂肪酸エステルとのエステル交換も含む)等の加工を加えた加工油脂の中から1種あるいは2種以上を選択して使用できる。
【0018】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、近年、心疾患等への影響が指摘されているトランス脂肪酸の摂取を低減させるという意味において、トランス脂肪酸含量をできる限り低減させることが好ましい。トランス脂肪酸は、油脂中の全構成脂肪酸の5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、0〜2質量%であることが更に好ましい。
なお、トランス脂肪酸含量は、AOCS法(Ce1f−96)に準じてガスクロマトグラフィー法にて測定することができる。
【0019】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、そのままで、もしくは必要に応じて通常用いられる添加剤を添加することができる。前記添加剤としては、保存安定性向上、酸化安定性向上、熱安定性向上、低温化での結晶抑制等を目的としたものであって、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等の乳化剤、トコフェロール、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、茶抽出物、コエンザイムQ、オリザノール等の抗酸化剤、β−カロテン等の色素、香料、シリコーン等が挙げられる。前記添加剤を添加する場合は、油脂に対して3質量%以下とすることが、風味の点で好ましい。
特にパーム系油脂に、レシチンを好ましくは1〜100ppm、より好ましくは1〜50ppm、さらに好ましくは3〜30ppm添加含有させると、カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂と相乗して、パーム系油脂の低温戻り抑制効果が得られるので好ましい。
【0020】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、前記パーム系油脂と前記カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを、パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂との質量比が1:0.0001〜0.05であるように混合した油脂と、必要に応じてその他食用油脂とを、必要に応じて加熱融解させて混合することで調製することができる。また、融液状の本発明のパーム系油脂含有油脂を、マーガリン・ショートニング等の可塑性油脂を製造する際に用いられるコンビネーターやボーテーター等を用いて急冷混捏して、可塑性油脂としても良い。
【0021】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、従来パーム系油脂乃至パーム系油脂配合油が使用されているあらゆる食品に使用できる。
【0022】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、フライ油または炒め油として、素揚げ、から揚げ、フライ、フリッター、天ぷら等の揚げ物や炒め物等の加熱調理に好適に使用できる。本発明の油脂を使用した加熱調理食品の具体例としては、例えば、素揚げ、から揚げ、竜田揚げ、カツ、コロッケ、フライ、ナゲット、フリッター、天ぷら、ドーナツ、せんべい、あられ、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、プレッツェル、コーンチップス、コーンパフ、コーンフレークス、ポップコーン、ポテトチップス、ナッツ、バターピーナツ、スナック菓子等が挙げられる。
【0023】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、また、食品のコーティング用として好適に使用できる。本発明の油脂を食品にコーティングする方法としては、スプレー、刷毛塗り等の塗布、どぼ漬け(浸漬)等の方法があるが、コーティングする食品の特性に合せて、適宜選択できる。コーティングは、例えば、焼成あるいは油蝶された加熱調理食品の仕上げ用としても使用できるし、また、非加熱状態でコーティングしたものをオーブン等で加熱処理することもできる。より具体的には、せんべい、あられ、ビスケット、クラッカー、プレッツェル、クッキー、コーンパフ、コーンフレークス、ポップコーン、ポテトチップス、ピザ、パイ、ケーキ、シリアル、オーブン加熱用のフライ類等が挙げられる。
【0024】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、また、ショートニングやマーガリン等の可塑性油脂に加工することにより、食パン・菓子パン・クロワッサン・デニッシュ等のパン類や、クッキー・ビスケット・ケーキ・パイ等の焼き菓子類等の製菓製パン製品に、生地折り込み或は生地練り込み用として、好適に用いることができる。本発明のパーム系油脂含有油脂を生地に使用した製菓製パン食品としては、例えば、パン類(食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなど)、イースト菓子(シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツなど)、ペストリー(デニッシュ、クロワッサン、パイなど)、ケーキ(バターケーキ、スポンジ、ビスケット、クッキー、ドーナツ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフル、バウムクーヘンなど)和菓子(饅頭、乳菓、蒸しパン、かすてら饅頭、どら焼き、など)麺類(うどん、そば、中華めん、パスタなど)、点心(餃子、焼売、饅頭、ワンタン、春巻きなど)などが挙げられる。
【0025】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、また、食用クリームに含有される油脂として好適に使用できる。具体的な好ましい態様の1つとしては、少なくとも油脂と糖類とを練り合わせた、水を配合しない、無水クリームが挙げられる。無水クリームは、そのままで、または、適宜起泡化して、例えば、コーティングクリーム、サンドクリーム、フィリングクリームとして使用できる。また別の好ましい態様としては、少なくとも油脂と水とを含み、乳化された含水クリームが挙げられる。含水クリームは、O/W型、W/O型、複合乳化型の何れの乳化型であっても良い。O/W型含水クリームであって、起泡化して使用される所謂ホイップクリームは、糖類を配合して起泡化することにより、もしくは、予め糖類が配合された加糖ホイップクリームを起泡化することにより、例えば、コーティングクリーム、サンドクリーム、フィリングクリームとして使用できる。また、O/W型含水クリームであって、コーヒー等の飲料に添加して使用する飲料用クリーム、あるいは、ソースやルウ等に添加使用する調理用クリーム、製菓製パン生地に練り込んで使用するベーカリークリーム、アイスクリームやプリン等の冷菓に練り込んで使用する冷菓練り込み用クリーム等も、食用クリームの好ましい態様の1つである。また、O/W型含水クリームであって、さらに澱粉(穀物粉に含まれる澱粉も含む)を含み、澱粉を加熱糊化することによってボデーを付与した、所謂フラワーペーストも、食用クリームの好ましい態様の1つである。また、W/O型含水クリームであって、スプレッドとして、また、製菓製パン用として使用するW/O型可塑性油脂組成物、及び、W/O型可塑性油脂組成物を起泡化させて液糖等の糖類を混ぜ合わせた、もしくは、W/O型可塑性油脂組成物に液糖等の糖類を配合して起泡させたバタークリームも、食用クリームの好ましい態様の1つである。またさらに、無水の可塑性油脂組成物(所謂ショートニング)を起泡化させて液糖類を混ぜ合わせた、もしくは、無水の可塑性油脂組成物に液糖類を配合して起泡させたものも食用クリーム(バタークリーム)の好ましい態様の1つである。
【0026】
本発明のパーム系油脂含有油脂は、また、カレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品に用いられるルウの油脂として好適に用いることができる。一般的にルウとは、小麦粉及び油脂を加熱混合し、必要に応じてここにカレー粉等の香辛料、食塩、糖類、調味料等の副原料を添加混合したものである。ルウは、固形状の固形ルウや可塑性のあるルウ、或は、流動状のペーストルウや液状ルウ、いずれの形態でもよい。また、含水物であっても良く、乳化形態は、油中水型、水中油型及び二重乳化型のいずれでも構わない。本発明の油脂を使用したルウは、カレー、シチュー、ハヤシ、ホワイトソース等の加工食品に用いることができる。
【0027】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
(パーム系油脂の調製)
パーム系油脂1の調製を以下のように行った。
〔パーム系油脂1〕
RBDパーム油(ヨウ素価53)を常法に従って、脱色、脱臭の精製処理を行い、トランス脂肪酸含量0.3質量%であるパーム系油脂1(再精製RBDパーム油)を得た。
【0029】
(カカオ脂の調製)
カカオ脂1〜2の調製を以下のように行った。
〔カカオ脂1〕
カカオ豆をスチーム処理して皮を分離したカカオニブを乾燥した後、焙煎器により125℃で20分間焙煎した。焙煎したカカオニブをコーヒーミルで粉砕し、卓上圧搾器で圧搾して、トランス脂肪酸含量0.0質量%であるニブ焙煎カカオ豆からのカカオ脂1を得た。
〔カカオ脂2〕
カカオ脂1を、常法により、脱酸、脱色、脱臭(260℃、90分)処理を行い、トランス脂肪酸含量0.1質量%である精製工程を経たカカオ脂2を得た。
【0030】
(パーム系油脂とカカオ脂との混合油の調製)
表1及び表2の配合に従って、実施例1〜5、比較例1〜3の油脂を調製した。実施例1〜5、比較例1〜3の各油脂90gをサンプル瓶に詰め、5℃暗所に保管し、保管前及び2週間後と4週間後の風味評価を以下の評価基準に従って、5名のパネラーにて総合的に評価した。評価は5℃保管の各油脂を50℃で融解した後、40℃に保温した状態で評価した。

評価基準
精製直後と同程度に非常に良好である 4点
低温戻りはなく、良好である 3点
低温戻りが僅かに感じられるが、賞味可能である 2点
低温戻りが感じられ、食用として限界である 1点
低温戻りが強く感じられる 0点

各パネラーの評点を合計して以下の基準により総合評価した。
15点以上 ◎
11点以上15点未満 ○
8点以上11点未満 △
5点以上 8点未満 ▲
5点未満 ×
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
(ケーキドーナツの作製及び評価)
比較例1と実施例4の油脂をそれぞれ一斗缶に詰め、5℃で4週間保管した。保管後の油脂をフライ油として使用し、以下の手順でケーキドーナツを試作した。5名のパネラーにて風味評価を行ったところ、何れのパネラーも、比較例1でフライしたケーキドーナツには低温戻り様の好ましくない風味が感じられるのに対し、実施例4でフライしたケーキドーナツの風味は良好であると評価をした。

<ケーキドーナツの試作手順>
無塩バター100質量部、上白糖370質量部、脱脂粉乳50質量部、食塩5質量部及び液糖30質量部をミキサーで混合し、そこへ全卵350質量部を少しずつ加え十分に混合し、さらに水50質量部を加え混合した後、薄力粉1000質量部、ベーキングパウダー30質量部を加えて混合し、生地を調製した。冷蔵庫で1時間生地を寝かした後、1cm厚にのし、1個50gとなるように型抜きをした。型抜きした生地を、175℃で4.5分フライし、ケーキドーナツを得た。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、特にパーム系油脂の輸入国で使用されるパーム系油脂の再精製RBD油で問題と成り易い、パーム系油脂の低温保管における風味劣化を効果的に抑制することができ、低温保管における風味劣化が抑制されたパーム系油脂乃至その配合油及びそれらを使用した風味良好な食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを含有し、パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂との質量比が1:0.0001〜0.05であることを特徴とするパーム系油脂含有油脂。
【請求項2】
前記パーム系油脂と前記カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂との合計含量が30質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のパーム系油脂含有油脂。
【請求項3】
前記パーム系油脂がRBD油を再精製した油脂を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のパーム系油脂含有油脂。
【請求項4】
前記パーム系油脂がレシチンを含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のパーム系油脂含有油脂。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のパーム系油脂含有油脂を使用した食品。
【請求項6】
パーム系油脂とカカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂とを、質量比1:0.0001〜0.05で混合することを特徴とするパーム系油脂の風味劣化抑制方法。
【請求項7】
カカオ豆より圧搾された高温脱臭処理を経ないカカオ脂であることを特徴とするパーム系油脂の風味劣化抑制剤。

【公開番号】特開2012−249604(P2012−249604A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126230(P2011−126230)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】