説明

ヒトまたは動物の体表面感染の治療

ヒトまたは動物の体表面感染、特に真菌感染の治療方法は、感染した体表面、例えば爪部位に水性液体を塗布し、その後、過酸化水素源を含むドレッシング材を適用することを含む。また、その方法に使用するためのドレッシング材の液体の組み合わせが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは動物の体表面感染症、特にヒトの爪部位における真菌感染症の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
見た目にも良好なコンディションにある健康な爪は、ヒトの外見にとって極めて重要な一面である。爪の外見、強さおよび健康は、病原性真菌細胞、代表的にはトリコフィトン(Trychophyton)属の真菌細胞に感染することによって悪影響を受けることが少なくなく、感染性真菌を除去することにより、影響を受けた爪の外見を改善する治療法が強く求められている。市場には多くの治療薬が出回っているものの、利用できる技術や製品に対する不満が広がっている。
【0003】
全身に送られた薬剤は血流によって爪部位に到達し得るが、血液の循環から爪部位への浸透が困難なことや重大な副作用があるために、このアプローチの有用性は低い。
【0004】
真菌に感染した爪は、多くの場合、侵入した真菌の作用で多孔質または多くの穴が開いた状態になる。このため、爪にはしばしば細菌による共コロニー化が起こり、破壊酵素および局所活性毒素がさらに放出される結果、真菌による損傷の影響が増幅されるおそれがある。
【0005】
既知の治療法により爪の真菌感染が軽減されたとしても、完全に除去されることは殆どなく、普通は治療を止めるとすぐに感染が元に戻ることはよく知られている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、活性成分が容易に爪に浸透せず、浸透したとしても最表面に塗布した物質のほんの僅かしか、真菌細胞が比較的安全に棲むことができる下部構造には到達しないことを見出した。
【0007】
第1の態様では、本発明は、ヒトまたは動物の体表面感染、例えば真菌感染の治療方法であって、感染した体表面、例えば爪部位に水性液体を塗布し、その後、過酸化水素源を含むドレッシング材を適用することを含む方法に関する。
【0008】
第2の態様では、本発明は、ヒトまたは動物の体表面感染、例えば、特にヒトまたは動物の爪部位(これ以外を排除するものではない)の真菌感染の治療における、水性液体と、過酸化水素源を含むドレッシング材との組み合わせに関する。
【0009】
第3の態様では、本発明は、ヒトまたは動物の体表面感染、例えば、特にヒトまたは動物の爪部位(これ以外を排除するものではない)の真菌感染の治療用薬剤の製造における、水性液体と、過酸化水素源を含むドレッシング材との組み合わせの使用に関する。
【0010】
水性液体を感染体表面に塗布すると、体表面は軟化してより多孔質になる。これにより、例えば、存在する孔から爪部位の内部への液体の浸入が可能になる。このように、液体は、体表面、例えば爪部位の内部への水の流路を提供する。
【0011】
したがって、その後、過酸化水素源を含有するドレッシング材を適用すれば、形成された水の流路に沿って過酸化水素が、体表面、例えば爪部位の内部の到達し難い部分に十分に拡散することになり、過酸化水素が深く浸透して、例えば爪部位のあらゆる部分における感染、例えば真菌感染を大きく低減ないし除去することができる。
【0012】
爪は特有の組織および組成を有しており、このことは、爪板およびその下部の爪床、並びに付随する全ての構造を対象とする治療法の新しいアプローチを考える際に認識しておかなければならないことである。爪の最も目立つ部分である爪板は、死んで角質化した細胞(角質細胞)から作られ、爪の基部にある爪母基から押し上げられた、硬質のケラチン構造体から構成されている。爪板の殆どの部分は半透明であるため、真皮中の血液供給の色が透けて見え、ピンク色を呈する。爪自体は水分をあまり含まないが、水に晒されると比較的水和状態になり、柔軟で曲げやすい状態になる。
【0013】
爪郭、すなわち爪の側部と重なり合う皮膚の襞は、爪板を在るべき位置に保持し、その端部を保護する。生きていて再生する爪の唯一の部分は爪母基であり、あま皮の直下にある。新しい細胞はここで生まれ、成長とともに絶えず前方に押し出されて爪板を形成する。爪母基には、また、神経と、細胞に栄養および酸素を供給するための多くの血管が備わっている。
【0014】
爪板は爪床の上に載っており、この爪床は母基と繋がっている。これにもまた血管と神経が多く備わっている。その表面には多数の平行な稜が形成されており、それらは爪板の下面の稜に正確に嵌合している。あま皮は爪と重なり合う、皮膚の表皮の一部である。それは細菌の侵入や物理的ダメージから母基を保護する。
【0015】
真菌細胞はこれらの構造体のどの部分にも棲息し増殖することができ、爪板主要部の感染を除去するとともに、残留する感染病巣もすべて除去するためには、治療があらゆる部位に広く行き渡ることが重要である。
【0016】
用語「爪部位」は、本明細書中では、爪板、爪床、爪母基、爪郭およびあま皮を含むものと定義する。
【0017】
本発明は、また、ヒト乳頭腫ウイルスに感染した細胞の治療方法であって、本明細書中で定義した水性液体を感染細胞へ塗布し、その後、本明細書中で定義した過酸化水素源を含むドレッシング材を適用することを含む方法に関する。
【0018】
本発明は、また、ヒト乳頭腫ウイルスに感染した細胞の治療における、本明細書中で定義した水性液体と、本明細書中で定義した過酸化水素源を含むドレッシング材との組み合わせに関する。
【0019】
好ましい実施形態では、水性液体はペルオキシダーゼ酵素を含む。ペルオキシダーゼは体表面、例えば爪部位の内部へ拡散する。
【0020】
ペルオキシダーゼ酵素は、体表面、例えば爪の内部に浸透しても、過酸化水素がドレッシング材から水性通路を経て拡散してくるまで、実質的に不活性を維持する。ペルオキシダーゼが存在すると、過酸化水素の酸化作用が促進される。
【0021】
このようにペルオキシダーゼは、真菌細胞の細胞膜および/または細胞質の上または内部の、傷つきやすいが必須である真菌分子の酸化を触媒するので、過酸化水素の活性、特に抗真菌活性を大幅に促進することがわかった。
【0022】
ラクトペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ヨウ化物ペルオキシダーゼ、塩化物ペルオキシダーゼおよびミエロペルオキシダーゼなどの、任意の適切なペルオキシダーゼを使用することができる。しかしながら、これまでのところでは、ラクトペルオキシダーゼおよび西洋ワサビペルオキシダーゼが好ましい。
【0023】
水性液体中のペルオキシダーゼ酵素の濃度は、1〜1000μg/ml、好ましくは50〜1000μg/ml、より好ましくは100〜500μg/mlの範囲が好ましい。
【0024】
水性液体は、また、界面活性剤および/または溶媒を含むことが好ましい。それらは体表面、例えば爪への液体の浸透を促進することがわかった。
【0025】
ドレッシング材は、それを適用するとすぐに過酸化水素が爪部位へ効率良く拡散し得るよう、含水状態にあることが好ましい。爪部位とドレッシング材との間に接触液体接合部を形成するために、ドレッシング材には十分な水が必要である。
【0026】
流体および溶質の必要な流れを促進するため、水性液体の浸透力がドレッシング材中の液体のそれと同じか近似していることが好ましい。
【0027】
ドレッシング材は使用時に爪部位に水分を与えることが好ましく、これは知られた方法で適切な浸透特性を選択することにより達成される。
【0028】
ドレッシング材の材料は、ドレッシング材と爪部位との間に、制御された拡散通路を作るために十分な水分を保持することができる、ヒドロゲル、スポンジ、発泡体の形態、または親水性マトリックスのいくつかの他の形態とすることができる。ドレッシング材は、例えば水素結合によって過酸化水素の通路を調節する働きのある溶質を含有することが好ましい。これは、ポリマー、例えば、グリコサミノグリカンなどのポリサッカライドの濃度を適切に調節することにより達成し得る。
【0029】
ドレッシング材は、湿った綿のドレッシング材を含んでもよく、あるいは湿った成分を含む構造用芯材を含んでもよい。しかしながら、ドレッシング材は、1種以上の水をベースとしたゲル、すなわち水性のゲル(水和ヒドロゲルともいう)を含むことが好ましい。そのようなゲルは、後述するように、種々の材料で生成することができ、種々の薬剤を含有することができる。
【0030】
典型的には、ドレッシング材は、シート、層またはフィルムの形態を有するであろう。あるいは、ドレッシング材は、ノズルから絞り出されるなど、固定した形態または形状を持たず、3次元的に変形し、形作ることができる、アモルファスのゲルまたはローションの形態であってもよい。好ましくは、ヒドロゲルである。アモルファスゲルは、通常、架橋されていないか、あるいは僅かに架橋されている。剪断減粘性アモルファスゲルを使用してもよい。そのようなゲルは、剪断応力を受けているとき(例えば、ノズルから注出または絞り出されるとき)は液体であるが、静止しているときは固まっている。
【0031】
適切な水和ヒドロゲルは、国際公開第03/090800号パンフレットに開示されている。水和ヒドロゲルは、親水性ポリマー物質を含んでいると好都合である。適切な親水性ポリマー物質としては、例えばFirst Water Ltdからシート状ヒドロゲルの形態で供給されるポリアクリレートおよびメタクリレートが挙げられる他、さらに、ポリ2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸(ポリAMPS)またはその塩(例えば、国際公開第01/96422号パンフレットに記載)、ポリサッカライド、例えばポリサッカライドガム、特にキサンタンガム(例えば、Keltrolの商標で入手可能)、各種糖類、ポリカルボン酸(例えば、ISP EuropeからGantrez AN−169 BFの商標で入手可能)、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(例えば、Gantrez AN 139の商標で入手可能、分子量20,000〜40,000の範囲)、ポリビニルピロリドン(例えば、PVP K−30およびPVP K−90として知られる、商業的に入手可能なグレードの形態で)、ポリエチレンオキサイド(例えば、Polyox WSR−301の商標で入手可能)、ポリビニルアルコール(例えば、Elvanolの商標で入手可能)、架橋ポリアクリル酸ポリマー(例えば、Carbopol EZ−1の商標で入手可能)、セルロース、並びに、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、Klucel EEFの商標で入手可能)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(例えば、Cellulose Gum 7LFの商標で入手可能)およびヒドロキシエチルセルロース(例えば、Natrosol 250 LRの商標で入手可能)などの変性セルロースなどが挙げられる。
【0032】
親水性ポリマー物質の混合物は、ゲルの状態で使用することができる。
親水性ポリマー物質の水和ヒドロゲルでは、親水性ポリマー物質は、ゲルの全重量に対して、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、より一層好ましくは少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%、望ましくは少なくとも25重量%、より一層望ましくは少なくとも30重量%の濃度で存在することが望ましい。さらに大量に(ゲルの全重量に対して約40重量%以下)使用してもよい。
【0033】
好ましい水和ヒドロゲルは、ポリ2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ポリAMPS)またはその塩を、好ましくはゲルの全重量に対して約20重量%の量で含む。
【0034】
過酸化水素源は、過酸化水素それ自体か、または他の成分と組み合わせるか、もしくは複合化した過酸化水素を含むことができる。あるいは、過酸化水素源は、過酸化水素発生手段であってもよい。
【0035】
好ましい実施形態では、過酸化水素源は、オキシドリダクターゼ酵素、酸素源、および酵素の基質源を含む過酸化水素発生手段である。オキシドリダクターゼ酵素は、適当な基質と酸素との反応を触媒し、過酸化水素を生成させる。
【0036】
本発明での使用に適したオキシドリダクターゼ酵素と対応する基質(これらは血液および組織液中に存在する)としては、次のものが挙げられる。
【0037】
【表1】

【0038】
現時点で好ましいオキシドリダクターゼ酵素は、グルコースオキシダーゼである。これはβ−Dグルコース基質の反応を触媒して、過酸化水素とグルコン酸を与える。
【0039】
オキシドリダクターゼ酵素の混合物を使用してもよい。
オキシドリダクターゼ酵素およびグルコースは、場合により酸素源と十分に混合してもよい。酸素は任意の適切な酸素供与体から供給することができるが、好ましい供給源は大気中の酸素である。
【0040】
酸素源が大気中の酸素の場合、ドレッシング材は個別の第1および第2の層を含むことが好ましい。第1の層は、オキシドリダクターゼ酵素を含み、使用時には、大気の酸素濃度が最も高いドレッシング材の外側部分近く、すなわち爪部位から離れて位置する。第2の層は基質源を含み、ドレッシング材の内側部分近く、すなわち爪部位に接して位置し、したがって生成したヒドロゲルパーオキサイドは直ちに爪部位に入り込むことができる。
【0041】
この層を重ねた実施形態の好ましい形態は、第1および第2の層が共に架橋した水和ヒドロゲルを含むものである。ヒドロゲルは、綿ガーゼ、または不活性で柔軟なメッシュなどの機械的補強構造材の回りにキャスティングして、例えば、構造的に補強されたヒドロゲル層またはスラブを提供するようにしてもよい。あるいは、酵素を含有する第1の層を、乾燥状態とするが、使用時には第2の層と流体連結するようにしてもよい。これにより、水が第1の層に移動して、酵素を湿潤化する。
【0042】
この層を重ねた実施形態では、第1の層は比較的薄く、すなわち0.01〜2.0mmとし、第2の層は比較的厚く、すなわち0.5〜5.0mmとするのが好ましい。第1の層が水和ヒドロゲルの場合、0.1〜2.0mmの厚さが好ましい。第1の層がドライフィルムの場合、0.01〜0.1mmの厚さが好ましい。
【0043】
第1の層の第2の層の対する厚さの比は、1:2〜1:200であることが好ましく、好ましくは1:5〜1:50、より好ましくは1:5〜1:20である。
【0044】
オキシドリダクターゼ酵素は、第2の層へ移動しないように固定化することが好ましい。
【0045】
基質、例えばグルコースは、水和ヒドロゲル構造体に溶解させたり、徐々に溶解する固体として存在させたり、徐放用の他の構造体に入れてカプセル化するなど、種々の形態で存在させることができる。
【0046】
ドレッシング材は、過剰の基質を含み、それにより、使用時に長時間にわたって、例えば少なくとも1時間、例えば1〜10時間もしくはそれ以上、過酸化水素を発生させる機能が働くように構成することが好ましい。
【0047】
本発明の組み合わせは、典型的には、上述したような水性溶液と、過酸化水素源を含むドレッシング材との組み合わせを含むパッケージキットである。
【0048】
構成要素は、通常、防水パッケージに入れられ、シールされる。
以下、実施例により、また次に示す図面を参照しながら本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】過酸化水素の発生を示す、測定電流対時間の関係を示したチャートである。
【図2a】真菌ティー・ルブラム(T.rubrum)の殺菌曲線を示したチャートである。
【図2b】真菌ティー・ルブラム(T.rubrum)の殺菌曲線を示した他のチャートである。
【実施例】
【0050】
実験の概要
高タンパク質環境を再現するために、10個の真菌細胞を含有する50%血清に試験ディスクを浸漬した。爪床との接触を模擬するために、同様に50%の血清を含有するゲル床上にこれらを置いた。ディスクに、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはラクトペルオキシダーゼのいずれかの水溶液を、各ディスクの酵素用量濃度が異なるように投与した。対照用ディスクにはいずれの種類のペルオキシダーゼも投与しないでおいた。実験は、過酸化水素発生用の層状のパッチ(後述)を大部分の試験ディスクの表面に貼付することにより開始し、所定時間放置した。処理せずに放置したときの真菌細胞の生存率を求めるための追加実験用対照として、いくつかのディスクはカバーで覆わずにおいた。所定の時間間隔で、サンプリングとして代表するディスクを取り出し、標準的な方法で真菌細胞の生存数を測定した。これらの実験から、層状のゲルパッチから供給される過酸化水素が、数時間の放置で真菌細胞を殺滅し得ることがわかった。しかしながら、真菌の殺滅速度は、ペルオキシダーゼ酵素がさらに存在して真菌と接触することにより大きく増大した。西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素はラクトペルオキシダーゼより効力が強く、その効果は一般に用量と共に増加した。
【0051】
実施例1:過酸化水素発生の観点から行った過酸化水素供与層状パッチの作成と評価
過酸化水素(H)の発生を電気化学的に(低速クロノ技法(slow chrono technique))測定した。ドレッシング材を特注のセンサー上に置き、電極間に電位をかけ、Hの存在を測定した。
【0052】
ドレッシング材を2層、すなわち(i)水和ヒドロゲル層および(ii)グルコースオキシダーゼを含むドライフィルムの活性化層で構成した。
【0053】
層1の調製:ヒドロゲルのシートを以下のように調製した。
20%の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(Lubrizol Corporation、貯蔵用50%水溶液)、10%グルコース(Fisher Scientific、分析グレード)、0.1%の乳酸亜鉛(Aldrich)からなる水溶液を調製した。架橋剤としてPeg 700 diacrylate(Aldrich)を、また光開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン(Aldrich)を加えた。この溶液6.5gおよび13gを、10×10cmのペトリ皿に分注し、100mW/cmのUV光を20秒間照射した。
【0054】
層2の調製:ドライフィルムを以下のように調製した。
25重量%のPVA(日本合成化学工業株式会社から供給されるGohsenol polyvinyl alcohol、コードEG05P)水溶液を調製した。さらに、40.3mgのグルコースオキシダーゼ(Biocatalysts、150,000単位/グラム)+300mgのヒスチジン(Sigma)+150mgのクエン酸(Ficher、分析グレード)+75mgヨウ化カリウム(Sigma)を2mlの分析グレードの水(Fisher)に溶解した。30gの25%PVA溶液をグルコースオキシダーゼ/ヒスチジン/クエン酸/ヨウ化カリウム溶液と混合し、静置させて混入した気泡を除去した。その後、混合物を50℃で乾燥させて40〜45ミクロン厚さのドライフィルムを得た。
【0055】
電気化学分析
特注の3電極センサー(作動用、カウンター用および参照用)を分析に使用した。EzeScan機材およびソフトウェアーは、UK、LutonのWhistonbrook Technologiesから購入した。電極をテフロン(登録商標)ボックスに装着し、25℃のインキュベータに入れた。使用時に0.1MのKCl溶液20μlをセンサーの電極端に塗布した。層1のヒドロゲルシート(キャスティング重量6.5gおよび13gの)から1.5×2cm片を切り出し、電極と確実に均一に接触させ、かつゲルとセンサー間に気泡が取り込まれないようにしてKCl溶液の上に置いた。蒸発を抑えるためにゲルをカバーで覆った。電極間に+950mVの電位を印加し、発生した電流を記録した。安定したベースライン電流が得られてから、ドライフィルムの1.5×2cm片を層1のヒドロゲルシートの表面に貼付した。発生した電流を記録した。図1を参照されたい。
【0056】
図1は、センサー上の層1のヒドロゲルシートに+950mVの電位を印加したとき、測定可能なバックグラウンド電流が殆ど流れず、したがって、この与えられた電位では、ヒドロゲルの調製に使用した材料による干渉は殆ど受けないことを明確に示している。ドライ酵素フィルムを貼付後(グラフの約4000秒)、グルコースオキシダーゼの化学反応が活性化され、Hが生成し、これは層1のヒドロゲルを通って電極に速やかに拡散し、そのとき電流の顕著な増加が測定される。これは、2層システムが2層システム内部でHを発生させ、それを接触表面に配送することを明瞭に示すものである。チャートの主たるプラトー(5,000〜13,000秒の間)に関係して発生した電流は、一般に、約0.1%のH(水溶液)に等しい。さらに、薄い方のゲル(10×10cmの面積当たり、6.5gのゲル)が貼付時(活性化の約3000秒後)に著しく高いピーク電流(したがってH濃度)を示す点を除けば、層1のヒドロゲルの厚さが異なっても非常によく似たカーブを描いた。Hの測定値はその後徐々に減少し、活性化の約40,000秒(約11時間)後に、曲線は平坦な応答に戻る。
【0057】
実施例2:水溶液としてのペルオキシダーゼ含有プライマーサンプルの調製
ペルオキシダーゼ用の適切で基本的な担体を次のように調製した。50mMの、pHが6〜6.5のリン酸ナトリウム緩衝液を0.2重量%のTween 20(Sigma)界面活性剤と混合した。これにペルオキシダーゼ酵素を溶解させ、最終濃度を100μg/mlとした。
【0058】
担体の調合は必要に応じて異なる特性を与えるように変えてもよい。例えば、緩衝塩の濃度と種類を、用途と、使用する酵素(例えば、ペルオキシダーゼ)の最適pHに応じて、緩衝限界をある範囲にし、かつ溶液のpHを変えるために変更してもよく;界面活性剤の濃度と種類を、異なる濡れ特性を与えるように変更してもよく;流体の流動性を低減するために(例えば、塗布してすぐに爪から溶液が流れ落ちないようにするために)、ポリマー性増粘剤を追加的に含有させてもよく;治療する構造体の上または内部でペルオキシダーゼによってもたらされる作用を強化または抑制するために、使用する酵素の濃度もまた変更してもよい。ドレッシング材の効率を向上させるために、添加剤、例えば抗微生物剤も追加で加えてもよい。
【0059】
実施例3:モデル系によるトリコフィトン・ルブラム(Trychophyton rubrum)に対する本発明の抗真菌治療系の試験
J.Greenman、R.M.S.Thorn、S.Saad、A.Austin著、「In vitro diffusion bed, 3−day repeat challenge ‘capacity’ test for antimicrobial wound dressings」、International Wound Journal(2006)、3、322−329に記載の方法に基づき、インビトロの平坦床静的拡散モデルを使用した。
【0060】
ポテトデキストロース寒天培地で十分に表面成長させたトリコフィトン・ラブラム(Trychophyton rubrum)のバイオマスをサブロー液体培地に乳化させ、懸濁物を除き、渦流混合を行い、その後、溶液から大きい粒子を沈殿させて、試験用接種材料を調製した。得られた懸濁液を分光光度法により調節して、約10cfu ml−1の標準接種材料を得た。これは殺菌効果の検出を可能とするには十分な濃度である(殺菌効果の指標として、>10cfuの減少が見られる)。
【0061】
体積100μlの、上で定義した接種材料を、ポリAMPS試験床(この配合は実施例1に記載した層1のヒドロゲルと同じであるが、10×10cmのディッシュ1枚当たり25gのゲルシートとして成形)表面の複製用セルロースディスク内で再懸濁させた。これにより試験用生成物を塗布することができる(図1)。2層ドレッシング材を試験した。層は実施例1に記載したように調製した。ラクトペルオキシダーゼ酵素または西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素を、使用前の必要な濃度になるように分析用の水に溶解して調製した。ラクトペルオキシダーゼは、新規な局所治療の抗菌効果を増強し得ると考えられ、効果の差を明らかにするため、いくつかの実験系では、セルロースディスクをラクトペルオキシダーゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液で予備処理した。提案した実験の試験および対照条件の範囲を表1に示す。
【0062】
2層ドレッシング材を、2つの層を一緒にすることにより活性化した。ヒドロゲルシートをセルロースディスクと接触させて置き、その後、ドライフィルムをヒドロゲルシートの最上面に貼付した。試験床を28℃でインキュベートし、決められた時間間隔(0、1、2、4および24時間)でセルロースディスクを取り出し、PBSa中に再懸濁させ、次いで希釈し、その後、サブローデキストロース寒天培地上に渦巻状に植えた。インキュベーション後(5日間)、治療暴露後の異なる時点における白癬菌(dermatophyte)の生存数を、コロニー数の計測(cfu ディスク−1)により測定した。結果をグラフ化し、GraphPad Prism(v.4)を使用して解析した。
【0063】
結果
実験結果を図2に示すが、全ての試験条件で顕著な抗菌作用が引き起こされ、かつ治療暴露後3時間までに、いかなる局所治療の下にも生存細胞が検出されなかったことが明らかである。ディスク内のラクトペルオキシダーゼは、1μg ml−1では試験用治療単独の場合と比べて顕著な効果は認められなかったものの、濃度に依存して局所治療の効果が増大するようである(図2a)。ディスク内の西洋ワサビペルオキシダーゼもまた、濃度に依存して局所治療の効果を増大させており、この場合、最も低い濃度(1μg ml−1)でも顕著な効果を示している(図2b)。対照試料内では、ティー・ルブラム(T.rubrum)の細胞数が僅かに減少した。これはこの微生物が、特に24時間のインキュベーション後の真菌試験床分析プレート上ではあまり順調に生育できないことを示している。しかし、全ての試験治療は、対照に比べて顕著な効果を示した。興味深いことに、24時間後のカバーなしの対照と比べると、不活性な治療対照は微生物に対し幾分かの保護効果を示しているようである。
【0064】
結論
局所治療が単独でティー・ルブラム(T.rubrum)に対して顕著な抗菌効果を有し、3時間以内に、殺菌作用を有することの指標(>3対数倍の減少)である、生存細胞数をこの系の最小検出点(2×10個の細胞)未満まで減少させることは、結果から明らかである。ペルオキシダーゼおよび西洋ワサビペルオキシダーゼの両者とも局所治療の効果を増大させるが、西洋ワサビペルオキシダーゼの方がより効果的であることは明らかである。
【0065】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の体表面感染の治療に使用するための、水性液体と、過酸化水素源を含むドレッシング材との組み合わせ。
【請求項2】
ヒトまたは動物の体表面感染の治療方法であって、前記感染した体表面に水性液体を塗布し、その後、過酸化水素源を含むドレッシング材を適用することを含む方法。
【請求項3】
ヒトまたは動物の体表面感染の治療用薬剤の製造における、水性液体と、過酸化水素源を含むドレッシング材との組み合わせの使用。
【請求項4】
前記体表面感染が、真菌感染である請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明。
【請求項5】
前記体表面が、爪部位、特にヒトの爪部位である請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明。
【請求項6】
前記水性液体が、ペルオキシダーゼ酵素を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明。
【請求項7】
前記ペルオキシダーゼが、ラクトペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、またはそれらの混合物を含む請求項6に記載の発明。
【請求項8】
前記水性液体中のペルオキシダーゼ酵素の濃度が、1〜1000μg/mlの範囲である請求項6または7に記載の発明。
【請求項9】
前記水性液体が、界面活性剤および/または溶媒を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の発明。
【請求項10】
前記ドレッシング材は、使用時に前記爪部位に水分を与える請求項1〜9のいずれか一項に記載の発明。
【請求項11】
前記ドレッシング材が、水和ヒドロゲル材を含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の発明。
【請求項12】
前記過酸化水素源が、オキシドリダクターゼ酵素、酸素源、および前記酵素の基質源を含む過酸化水素発生手段である請求項1〜11のいずれか一項に記載の発明。
【請求項13】
前記オキシドリダクターゼ酵素が、グルコースオキシダーゼを含む請求項12に記載の発明。
【請求項14】
前記ドレッシング材は、個別の第1および第2の層を含み、前記第1の層は、オキシドリダクターゼ酵素を含み、かつ前記ドレッシング材の外側部分近くに位置し、前記第2の層は、前記基質源を含み、かつ前記ドレッシング材の内側部分近くに位置する請求項12または13に記載の発明。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2012−525366(P2012−525366A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507824(P2012−507824)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050721
【国際公開番号】WO2010/125398
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511183951)インセンス・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】INSENSE LIMITED
【Fターム(参考)】