説明

ヒトアポリポプロテイン(a)発現ミニブタの作出

【課題】ヒト疾患モデルと利用し得るトランスジェニックミニブタを提供する。
【解決手段】ヒトアポリポプロテイン(a)を発現するトランスジェニックミニブタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト疾患モデルとして利用し得るトランスジェニックミニブタに関する。詳細には、本発明は、ヒトアポリポプロテイン(a)を発現するトランスジェニックミニブタに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化症は心臓、脳血管疾患の原因となっているが、現在までに有効な治療法は存在しない。動脈硬化が生じる原因については、ヒトアポリポプロテイン(a)が危険因子の一つとして挙げられている。
【0003】
ヒトアポリポプロテイン(a)は、血中にてコレステロールやリン脂質、他のタンパク質と結合してリポプロテイン(a)という複合体を形成する。リポプロテイン(a)について、疫学的にリポプロテイン(a)の量と動脈硬化(虚血性心疾患)発症との間に関連性が見出されおり、そのため動脈硬化発症機構におけるアポリポプロテイン(a)の関与が注目されている(非特許文献1および2)。しかしながら、依然として動脈硬化症発症機構は解明されていない。
【0004】
今日、ヒト疾患発症機構の解明を目的として、様々な哺乳動物種に由来する疾患モデル動物の作出が報告されている。中でもブタは生理学的および解剖学的にヒトと類似しており、ヒト疾患モデル動物として注目されている。とりわけミニブタは臓器サイズや生理機能がヒトと非常に類似していること、多胎動物であるため1度に多くの産仔が得られること、小型であることから実験上の取り扱いや飼育管理が容易であること等からヒト疾患モデル動物として注目されている。
【0005】
そこでヒト疾患、特にヒト動脈硬化症の発症機構の解明、治療および予防法の確立を目的として、疾患モデルとして利用可能なミニブタの作出が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Maher VM. et.al., Curr Opin Lipidol. 1995 Aug;6(4):229-35.
【非特許文献2】Fan J. et.al., Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2001 Jan;21(1):88-94.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒト疾患、特にヒト動脈硬化症のモデル動物として利用可能なミニブタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、ヒト疾患、特にヒト動脈硬化症のモデル動物として、ヒトアポリポプロテイン(a)を発現するトランスジェニックミニブタが有用であると考え、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタ。
[2] ヒト疾患モデルとして使用する、[1]のトランスジェニックミニブタ。
[3] ヒト疾患が、動脈硬化症である、[2]のトランスジェニックミニブタ。
[4] [1]〜[3]のいずれかのトランスジェニックミニブタをファウンダーとして確立される、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を含むトランスジェニックミニブタの系統。
[5] [1]〜[3]のいずれかのトランスジェニックミニブタ、または[4]のトランスジェニックミニブタの系統、由来の臓器、組織、卵、精子、および受精卵。
[6] [1]〜[3]のいずれかのトランスジェニックミニブタ、または[4]のトランスジェニックミニブタの系統、から確立される株化細胞。
[7] [1]〜[3]のいずれかのトランスジェニックミニブタ、または[4]のトランスジェニックミニブタの系統、から作出されるトランスジェニックミニブタクローン個体。
[8] [1]〜[3]のいずれかのトランスジェニックミニブタ、[4]のトランスジェニックミニブタの系統、[5]の臓器や組織、[6]の株化細胞、および/または[7]のトランスジェニックミニブタクローン個体を使用する、動脈硬化症の治療および/または予防のための薬剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ヒト疾患モデル、特にヒト動脈硬化症のモデルとして利用し得るヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子をコードするcDNAおよびインフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)タンパク質由来のアミノ酸配列(HAタグ)をコードするDNAを含むDNA構築物の模式図を示す。
【図2】図2は、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン胚盤胞におけるヒトアポリポプロテイン(a)発現状況を抗HA抗体による蛍光免疫細胞化学的手法により解析した結果を示す。上段(A)および(B)はヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン胚盤胞、下段(C)および(D)は遺伝子未導入ミニブタ体細胞に由来するクローン胚盤胞の結果を示す。左側(A)および(C)はヘキスト33342染色による解析像、右側(B)および(D)は抗HA抗体を用いた蛍光免疫染色による解析像を示す。
【図3】図3は、RT-PCR解析によるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の主要臓器におけるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子の発現解析結果を示す。各レーンはそれぞれ以下より調製したRNAを用いた解析結果を示す。レーン1−3:ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の腎臓細胞;レーン4:ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入したクラウン系ミニブタ雄成体腎臓由来細胞(ドナー細胞);レーン5:遺伝子未導入の成体ミニブタの腎臓由来細胞;レーン6:遺伝子未導入の胎仔ミニブタの肝臓由来細胞;レーン7:蒸留水。ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子は158bp、β−アクチン(RT-PCR操作のポジティブコントロール)は232bpにそれぞれ検出される。
【図4A】図4Aは、免疫組織化学的解析によるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の心臓におけるヒトアポリポプロテイン(a)の発現解析結果を示す。上段(A)および(B)はヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の心臓組織、下段(C)および(D)は遺伝子未導入の非クローン産仔の心臓組織の結果を示す。左側(A)および(C)は×300、右側(B)および(D)は×600の解析像を示す。
【図4B】図4Bは、免疫組織化学的解析によるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の腎臓におけるヒトアポリポプロテイン(a)の発現解析結果を示す。上段(A)および(B)はヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の腎臓組織、下段(C)および(D)は遺伝子未導入の非クローン産仔の腎臓組織の結果を示す。左側(A)および(C)は×300、右側(B)および(D)は×600の解析像を示す。
【図4C】図4Cは、免疫組織化学的解析によるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の大脳におけるヒトアポリポプロテイン(a)の発現解析結果を示す。上段(A)はヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の大脳組織、下段(B)は遺伝子未導入の非クローン産仔の大脳組織の結果を示す。(A)および(B)は×600の解析像を示す。
【図5】図5は、蛍光免疫組織化学的解析によるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の腎臓細胞に由来するリクローン胚の胚盤胞におけるヒトアポリポプロテイン(a)の発現解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子は公知であり、GenBank等に配列情報が公開されており、例えば、アクセッション番号X06290として登録されている。本発明においてはこれを利用することができる。「ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子」はcDNAであっても、ゲノムDNAであってもよいが好ましくはcDNAである。なお本明細書中、特に断りがないかぎり、「ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子」にはcDNAおよびゲノムDNAの両形態が含まれる。
【0013】
本発明において「ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子」には、上記公知のヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子配列において、1から数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつヒトアポリポプロテイン(a)の活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から30個、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。
【0014】
また本発明において「ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子」には、上記公知のヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列からなり、かつヒトアポリポプロテイン(a)の活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、2〜6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl, 0.015M クエン酸ナトリウム, pH 7.0)および0.1〜0.5%SDSを含有する溶液中42〜55℃にてハイブリダイズを行い、0.1〜0.2×SSCおよび0.1〜0.5%SDSを含有する溶液中55〜65℃にて洗浄を行う条件をいう。
【0015】
さらに本発明において「ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子」には、上記公知のヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつヒトアポリポプロテイン(a)タンパク質の活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。
【0016】
「ヒトアポリポプロテイン(a)の活性」としては、特には限定されないが、例えば、特定のリポタンパク質と結合し、リポタンパク質の認識や脂質代謝に関与する酵素群の活性化あるいは補酵素として機能することが挙げられ、特に高比重、中間比重、低比重または超低比重のリポタンパクに結合して当該タンパク質の代謝に関与することが挙げられる。
【0017】
「ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタ」は公知の手法、特には限定されないが、例えば特開2000-316420号公報、特開2007-135543号公報などに記載される方法を利用して作出することができる。
【0018】
本発明における「ミニブタ」としては、特に限定されることなく公知の系統、例えば、ミネソタ系、ゲッチゲン系、オーミニ系、クラウン系、ゲッチンゲン系、中国系などを用いることができるが、好ましくはクラウン系ミニブタである。
【0019】
当該トランスジェニックミニブタの作出に際してはまず、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を、ベクターに組み込み、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入用ベクターを構築する。ベクターは、当該分野において通常使用されるもの(例えば、プラスミド(pCAGGSプラスミド等)、ファージ、ウイルス、人工染色体等)がいずれも好適に使用でき、特に限定されない。遺伝子導入用ベクターにおいて使用するプロモーターとしては、当該分野において公知のもの(例えばCMV、EF−1α、β-アクチンなど)がいずれも使用でき、特に限定されない。遺伝子導入用ベクターには、遺伝子導入細胞の選択を容易にするために、選択マーカー遺伝子を含めても良い。選択マーカーは、当該分野において通常使用されるもの(例えば、抗生物質(ネオマイシンなど)耐性遺伝子、生合成遺伝子等)がいずれも好適に使用でき、特に限定されない。
【0020】
構築した遺伝子導入用ベクターをミニブタの受精卵またはミニブタの体細胞に導入する。受精卵は当該分野において通常用いられる手法に従って人工授精により得ることができる。体細胞は特に限定されることなく、あらゆる体細胞を用いることができるが、例えば、腎臓細胞、線維芽細胞、卵丘細胞などを用いることができる。受精卵または体細胞への遺伝子導入用ベクターの導入には、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、トランスフェクション、リポフェクションなどの、当該分野で公知のいずれの方法を採用しても良い。
【0021】
遺伝子導入された体細胞は核移植のためのドナー細胞として利用する。この場合、遺伝子導入された体細胞の核を、除核した未受精卵(卵母細胞)に融合法などを用いて移植し、遺伝子導入された体細胞に由来するクローン胚を得ることができる。
【0022】
遺伝子導入された体細胞に由来するクローン胚は、活性化処理を行い減数分裂を促すことができる。クローン胚の活性化処理は、特に限定されることなく化学物質、電気、超音波を用いて行うことができる。その後、活性化処理したクローン胚は、細胞分裂を阻害するが核分裂は阻害しないように、サイトカラシンBのような薬剤で処理すればよい。
【0023】
遺伝子導入された受精卵または遺伝子導入された体細胞に由来するクローン胚を、レシピエントミニブタの卵管に移植する。移植に際しては、移植する受精卵またはクローン胚の発生段階と、移植されるレシピエントの発情周期を同期化しておく。発情周期の同期化および受精卵またはクローン胚の移植作業は、当該分野において通常用いられる手法に従って行うことができる。
【0024】
得られた産仔におけるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子の確認は、産仔(例えば、尾)より採取した組織・細胞におけるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子またはタンパク質を検出・確認することによって行うことができる。ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子の発現は、ノザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、in situ hybridizationなどによって検出・確認することができる。ヒトアポリポプロテイン(a)の発現は、ウエスタンブロッティング、ELISA、抗体を結合させたプロテインチップを用いた測定などによって検出・確認することができる。
【0025】
上記の如くして得られる本発明に係るヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタは、当該分野で公知の手段により、該トランスジェニックミニブタをファウンダーとして、ファウンダー個体またはファウンダー個体由来の卵、精子、もしくは受精卵などを使用してホモ接合体またはヘテロ接合体を得ることができ、得られたホモ接合体またはヘテロ接合体から、病態解析、薬剤スクリーニングなどの研究上更に有用なトランスジェニックミニブタ系統を確立することができる。系統の確立においては、当該分野で公知のクローン作成などの手段(Wilmutら, Nature, vol. 385, 1997)が必要な場合もある。また、ファウンダーであるトランスジェニックミニブタまたはその系統から、これも当該分野で公知の手法により、株化細胞を確立することも可能である。
【0026】
本発明に係るヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタおよびその系統、これらの臓器、組織、または株化細胞などは、ヒト疾患、例えば、動脈硬化症、虚血性心疾患、脳血管障害、血管性痴呆、糖尿病、腎疾患肝疾患など、特にヒト動脈硬化症のモデルとして用いることができる。
【0027】
ヒトアポリポプロテイン(a)は、血中にてコレステロールやリン脂質、他のタンパク質と結合してリポプロテイン(a)という複合体を形成することが知られている。リポプロテイン(a)について、疫学的にリポプロテイン(a)の量と動脈硬化(虚血性心疾患)発症との間に関連性が見出されており、ヒト動脈硬化発症においてアポリポプロテイン(a)が危険因子の一つとして認識されている(Maher VM. et.al., Curr Opin Lipidol. 1995 Aug;6(4):229-35; Fan J. et.al., Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2001 Jan;21(1):88-94.)。
【0028】
また、ミニブタは臓器サイズや生理機能がヒトと非常に類似しているために、他の動物種を用いたヒト疾患モデルと比べて、ヒト疾患発症のメカニズムを効率的に解析することができる。
【0029】
したがって、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を発現するトランスジェニックミニブタ個体およびその系統、これらの臓器、組織、または株化細胞を分子生物学的、生化学的、形態学的、生理学的に解析することによってヒト動脈硬化症発症のメカニズムを効率的に解析することができる。
【0030】
また、本発明に係るヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタおよびその系統、これらの臓器、組織、または株化細胞などを用いて、ヒト疾患、特にヒト動脈硬化症の治療および予防のための薬剤のスクリーニング方法を実施することができる。当該方法においては、本発明に係るヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタおよびその系統、これらの臓器、組織、または株化細胞に、ヒト動脈硬化症の治療および予防に有用と考えられる因子を投与する工程(例えば、培地への添加、当該因子の強制発現などを含む);ならびにヒト動脈硬化症の発症および症状を低減し得る因子を同定する工程を含む。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1:ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン胚の作製
レシピエント卵子
食肉センター由来ブタ卵巣から採取した卵丘細胞卵子複合体を成熟培地中で41〜42時間培養した。成熟培養後、ヒアルロニダーゼを用いて卵丘細胞を除去し、第一極体を放出した形態的に正常な卵子のみを選抜した。
【0032】
ドナー細胞
ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子をコードするcDNA(山梨大学医学部 範 江林(Jianglin Fan)教授より御分与頂いた)より終止コドンを取り除き、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)タンパク質由来のアミノ酸配列(HAタグ)をコードするDNAを連結して、これをサイトメガロウイルスのエンハンサーとアクチンプロモーターを持つベクターに組み込み、細胞に導入するためのDNA構築物(図1)を作製した。当該DNA構築物をクラウン系ミニブタ雄成体腎臓由来細胞に導入し、当該細胞をジェネティシン(G418)を添加した培地に播種し選択培養を行って、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したクラウン系ミニブタ雄成体腎臓由来細胞を作製した。
【0033】
核移植
卵子は吸引除去法により除核後、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したクラウン系ミニブタ雄成体腎臓由来細胞を囲卵腔に挿入し、融合液中で電気刺激を与えることで融合処理を行った。融合処理1時間後、融合確認を行い融合胚は超音波(周波数2872kHz、burst rate 10Hz、Duty比 10%、強度65V)を30秒間照射して活性化処理を行った。
【0034】
活性化処理後、クローン胚はサイトカラシンB添加修正PZM-3中で2時間培養後、修正PZM3(1リットル中、6.322g NaCl、0.746g KCl、0.099g MgSO4・7H2O、0.048g KH2PO4、2.106g NaHCO3、0.24g Na pyruvate、0.218g Ca (lactate)2・5H2O、0.146g Glutamine、0.546g Hypotaurine、20ml Basal Medium Eagle amino acid solution(x50)、10ml Minimum Essential Medium nonessential amino acid solution (x100)、3g BSA, 50mg 硫酸アミカシンを加える)中に移した。
【0035】
実施例2:ヒトアポリポプロテイン(a)を発現するクラウン系ミニブタクローン個体の作出
方法
実験1
ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン胚の体外発生状況とヒトアポリポプロテイン(a)の発現状況を調べた。すなわち、クローン胚は活性化処理後2日目の卵割状況と7日目に胚盤胞形成状況を調べ、得られた胚盤胞についてはヒトアポリポプロテイン(a)発現状況を、一次抗体に抗HAラット抗体および二次抗体にローダミン標識抗ラット抗体を用いて蛍光免疫細胞化学的に観察した。
【0036】
実験2
ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン胚の体内発生状況を調べた。すなわち、クローン胚は活性化2時間後に発情を同期化した受胚ミニブタ5頭の卵管へ外科的移植した。受胚ミニブタは超音波画像診断法にて受胎状況を観察し、出産まで至らせた。
【0037】
実験3
実験2で得られたヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔におけるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子発現とヒトアポリポプロテイン(a)発現状況を調べた。すなわち、得られたクローン産仔の主要臓器組織(心臓、肺、大動脈、大脳、腎臓、肝臓、胃、小腸、大腸、精巣、皮膚)から総RNAを抽出し、逆転写(RT)-PCRにより遺伝子発現状況を検討した。さらに、臓器の一部は固定後、パラフィン切片を作成し、一次抗体に抗HAラット抗体および二次抗体に抗ラットIgGを用いて、標識ストレプトアビジン・ビオチン[LSAB]法によりヒトアポリポプロテイン(a)発現状況を免疫組織化学的に観察した。
なお、対照として非クローン産仔の主要臓器における発現状況を観察した。
【0038】
実験4
実験2で得られたミニブタクローン産仔の腎臓細胞を用いて、上記実施例1と同様の手法を用いてリクローン胚を作製し、当該リクローン胚の体外発生状況とヒトアポリポプロテイン(a)発現状況を調べた。すなわち、リクローン胚は活性化処理後2日目の卵割状況と7日目に胚盤胞形成状況を調べ、また得られた胚盤胞におけるヒトアポリポプロテイン(a)発現状況を、一次抗体に抗HAラット抗体および二次抗体にローダミン標識抗ラット抗体を用いて蛍光免疫細胞化学的に観察した。
【0039】
結果
実験1
結果は表1に示した。ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞を用いた核移植における融合率は77.8±3.0%(200/254)であった。体細胞クローン胚の卵割率は77.9±4.2% (159/198)、胚盤胞形成率は18.8±3.9%(38/198)であり、胚盤胞の細胞数は39.7±9.4個であった。また、蛍光免疫細胞化学的解析により、全ての胚盤胞(38個)においてヒトアポリポプロテイン(a)発現が確認された。
【0040】
【表1】

【0041】
また胚盤胞については、抗HA抗体を用いた蛍光免疫細胞化学的解析の結果、全ての胚盤胞についてヒトアポリポプロテイン(a)の発現が確認された(図2)。
【0042】
実験2
結果は表2に示した。クローン胚を移植した受胚ミニブタ5頭のうち、2頭が受胎し、胚移植後111 日目に1頭から帝王切開により3頭の雄産仔が得られた。3頭の雄産仔の体重は220g, 220g および200gであった。
【0043】
【表2】

【0044】
実験3
実験2で得られたヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ体細胞に由来するクローン産仔の主要臓器に由来する総RNAを用いたRT-PCR解析の結果、実験2で得られた3頭の産仔すべての主要臓器において、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子の発現が観察できた(図3)。
【0045】
一方、ヒトアポリポプロテイン(a)発現も同様に3頭の産仔すべての主要臓器で観察できたが、発現状況は臓器間で異なり、心臓で最も強く(反応:++;図4A)、大脳で最も弱かった(反応:+;図4C)。クローン産仔の各主要臓器におけるヒトアポリポプロテイン(a)発現状況は表3に示した。
【0046】
【表3】

【0047】
実験4
結果は表4に示した。ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子導入ミニブタ産仔の腎臓細胞を用いた核移植における融合率は77.1±5.0%(139/177)であった。リクローン胚の卵割率は73.6±3.8% (102/139)、胚盤胞形成率は19.5±3.2%(26/139)であり、胚盤胞の細胞数は43.2±2.1個であった。
【0048】
【表4】

【0049】
また、蛍光免疫細胞化学的解析により、全ての胚盤胞(26個)においてヒトアポリポプロテイン(a)発現が確認された(図5)
【0050】
結論
以上の結果から、動脈硬化の危険因子として知られているヒトアポリポプロテイン(a)を発現するクラウン系ミニブタクローン個体が作出できたことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、ヒト動脈硬化の危険因子と知られるヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタおよびその系統、これらの臓器、組織、または株化細胞などを得ることができる。これらを分子生物学的、生化学的、形態学的、生理学的に解析することによってヒト動脈硬化症の成立機構を効率的に解析することができる。当該疾患成立機構の解析過程で得られた知見をもとにして、遺伝子治療、薬剤スクリーニングなどによる創薬などを含む、治療法および予防法の開発が可能であると期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を導入したトランスジェニックミニブタ。
【請求項2】
ヒト疾患モデルとして使用する、請求項1に記載のトランスジェニックミニブタ。
【請求項3】
ヒト疾患が、動脈硬化症である、請求項2に記載のトランスジェニックミニブタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニックミニブタをファウンダーとして確立される、ヒトアポリポプロテイン(a)遺伝子を含むトランスジェニックミニブタの系統。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニックミニブタ、または請求項4に記載のトランスジェニックミニブタの系統、由来の臓器、組織、卵、精子、および受精卵。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニックミニブタ、または請求項4に記載のトランスジェニックミニブタの系統、から確立される株化細胞。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニックミニブタ、または請求項4に記載のトランスジェニックミニブタの系統、から作出されるトランスジェニックミニブタクローン個体。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニックミニブタ、請求項4に記載のトランスジェニックミニブタの系統、請求項5に記載の臓器や組織、請求項6に記載の株化細胞、および/または請求項7に記載のトランスジェニックミニブタクローン個体を使用する、動脈硬化症の治療および/または予防のための薬剤のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−167150(P2011−167150A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35637(P2010−35637)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】