ヒト化VEGFを発現するトランスジェニックマウス
本発明は、一般に、ヒト化VEGF及びそれを発現する非ヒトトランスジェニック動物に関する。トランスジェニック動物はまたVEGF関連治療法を研究するために有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にVEGF関連療法を研究するためにも有用であるトランスジェニック動物に関する。特に、本発明はヒト化VEGFとそれを発現する非ヒトトランスジェニック動物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生(angiogenesis)は、血管内皮細胞が増殖し、その不要部が除去され、再組織化することにより、先在の血管網から新生の血管が生成される重要な細胞性事象である。既存の有力な証拠によれば、血管の供給の進行は正常なまた病理学的な増殖過程にとって必須である(Folkman及びKlagsbrun (1987) Science 235:442-447)。また、血管新生は、限定するものではないが、増殖性網膜症、加齢性黄斑変性症、関節リウマチ(RA)、及び乾癬を含む様々な疾患の病理発生に関係している。血管新生は殆どの原発性腫瘍の増殖とその続く転移に必須である。
血管新生の注目すべき生理的及び病理学的重要性を考慮して、この過程を調節することができる因子の解明のために多くの研究がなされてきた。血管新生過程がプロ血管新生分子及び抗血管新生分子間のバランスによって調節され、様々な疾患、特に癌において血管新生過程が狂わされていることが示唆されている。Carmeliet及びJain (2000) Nature 407:249-257。
【0003】
VEGF−A又は血管透過性因子(VPF)とも呼ばれる血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、正常な及び異常な血管新生の中枢的調節因子として報告されている。Ferrara及びDavis-Smyth (1997)Endocrine Rev. 18:4-25; Ferrara (1999) J. Mol. Med. 77:527-543。血管形成過程に寄与する他の増殖因子と比較して、VEGFは血管系内の内皮細胞に対するその高い特異性が特徴的である。VEGFは胚性脈管形成及び血管新生に必須である。Carmeliet等(1996) Nature 380:435-439; Ferrara等(1996) Nature 380:439-442。更に、VEGFは女性生殖路における周期的血管増殖及び骨成長及び軟骨形成に必要とされる。Ferrara等(1998) Nature Med. 4:336-340; Gerber等(1999) Nature Med. 5:623-628。
血管新生及び脈管形成における血管形成因子であることに加えて、VEGFは多面発現性増殖因子として、内皮細胞生存、血管透過性及び血管拡張、単球化学走性及びカルシウム流入のような他の生理学的過程において多くの生物学的効果を示す。上掲のFerrara及びDavis-Smyth (1997)。更に、最近の研究では、数種の非内皮細胞型、例えば網膜色素上皮細胞、膵管細胞及びシュワン細胞に対するVEGFの分裂促進効果が報告されている。Guerrin等(1995) J. Cell Physiol. 164:385-394; Oberg-Welsh等(1997) Mol. Cell. Endocrinol. 126:125-132; Sondell等(1999) J. Neurosci. 19:5731-5740。
【0004】
多くの証拠が病理的血管新生を含む症状又は疾病の進行におけるVEGFの重要な役割をまた示している。VEGFのmRNAは検査したヒト腫瘍の大部分で過剰発現している(Berkman等 J Clin Invest 91:153-159 (1993); Brown等 Human Pathol. 26:86-91 (1995); Brown等 Cancer Res. 53:4727-4735 (1993); Mattern等 Brit. J. Cancer. 73:931-934 (1996);及びDvorak等 Am J. Pathol. 146:1029-1039 (1995))。また、眼液中のVEGFの濃度は糖尿病や他の虚血関連網膜症の患者における活発な血管増殖の存在と強く相関している(Aiello等 N. Engl. J. Med. 331:1480-1487 (1994))。更に、AMDに罹っている患者の脈絡叢新生血管膜中でのVEGFの局在化が研究により実証されている (Lopez等 Invest. Ophtalmo. Vis. Sci. 37:855-868 (1996))。
【0005】
腫瘍増殖の促進におけるその中心的な役割に照らすと、VEGFは治療的介入のための魅力的な標的を提供する。確かに、VEGF又はそのレセプターシグナル伝達系を遮断することを目標とする様々な治療的方策が腫瘍性疾患の治療のために現在開発中である。Rosen (2000) Oncologist 5:20-27;Ellis等 (2000) Oncologist 5:11-15;Kerbel (2001) J. Clin. Oncol. 19:45S-51S。「rhuMAbVEGF」又は「アバスチン(登録商標)」としても知られている抗VEGF抗体「ベバシズマブ(Bevacizumab)」は、Presta等(1997) Cancer Res. 57:4593-4599に従って産生された組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体である。ベバシズマブは転移性結腸直腸癌及び非小細胞肺癌の治療に対して承認されており、様々な他の癌の治療についても臨床的に研究されている。
正常なまた病理学的な血管新生におけるVEGFの重要な役割にも拘わらず、ヒトVEGFを研究するために使用できる動物モデルはない。よって、疾患の研究及び薬学的薬剤の開発に対して関連した動物モデルが必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、一般にヒト又はヒト化VEGFを発現する非天然的に生じる非ヒトトランスジェニック動物に関する。一態様では、トランスジェニック動物は、癌のようなVEGF関連疾患又は症状のための新規な治療剤を同定し試験するシステムを提供する。ある実施態様では、トランスジェニック動物はVEGF指向療法の効能と安全性を試験するために有用である。
一態様では、本発明は、ヒト化VEGFを発現する非ヒトトランスジェニック動物を提供する。ある実施態様では、ヒト化VEGFはヒトVEGF、hum−I VEGF、又はhum−X VEGFである。ある実施態様では、動物は齧歯類、例えばマウスである。ある実施態様では、本発明は、ヒト化VEGFを発現する非ヒトトランスジェニック動物から誘導された細胞又は組織を提供する。
【0007】
他の態様では、本発明は、hum−I VEGF又はhum−X VEGFをコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸分子並びにそれによってコードされるポリペプチドを提供する。ある実施態様では、本発明は核酸分子を含んでなるベクターを提供する。ある実施態様では、本発明は、核酸分子又それを含むベクターを含んでなる宿主細胞を提供する。ある実施態様では、本発明は、hum−I VEGF又はhum−X VEGFを生産する方法であって、宿主細胞を培養することを含む方法を提供する。
他の態様では、本発明は、化合物をVEGF媒介疾患を治療するための可能な薬剤として同定する方法であって、a)請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物におけるVEGFのレベルを測定し;b)上記化合物を動物に投与し;c)動物におけるVEGFのレベルを測定することを含み;薬剤の投与後のVEGFのレベルの変化により、化合物がVEGF媒介疾患を治療するための可能な薬剤として同定される方法を提供する。
【0008】
他の態様では、本発明は、VEGFアンタゴニストを、ヒトの癌治療のための可能な薬剤として同定する方法であって、a)請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物に上記薬剤を投与し;ここで、該動物はヒト癌細胞腫瘍異種移植片を有しており;b)上記異種移植片の増殖をモニターすることを含み;上記異種移植片の増殖速度又はサイズの減少により、VEGFアンタゴニストが、ヒトの癌治療のための可能な薬剤として同定される方法を提供する。ある実施態様では、VEGFアンタゴニストは抗体である。
他の態様では、本発明は、VEGFアンタゴニストの安全性を試験する方法において、a)上記VEGFアンタゴニストを請求項1又は2の動物に投与し;b)短期又は長期の副作用について動物をモニターすることを含んでなる方法を提供する。ある実施態様では、VEGFアンタゴニストは抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】マウス(配列番号1)及びヒトVEGF−A(配列番号2)の間の配列の比較を示す。マウスVEGF164とヒトVEGF165との間で異なっているアミノ酸はグレーで影をつけている。マウスVEGFの10のアミノ酸(ボックスで囲みグレーで示した)を部位特異的突然変異誘発によってヒト残基に変異させて、hum−X VEGF配列を作製した。
【図1B】hum−I及びhum−Xノックイン(ki)マウスを生産するためのターゲティングベクターを模式的に示す。変異がターゲティングベクターのエキソン3から5に導入され、hum−I又はhum−X VEGF型を発現するマウスを得た。Hum−I VEGFタンパク質は変異muVEGF−S87Gからなる。Hum−X VEGFタンパク質は次の変異からなる:muVEGF−R26H、A57G、A64G、S71E、S87G、S99N、R100K、T110A、K111R、P112Q。この命名法は成熟配列から開始される。
【図2A】Calu−6腫瘍の増殖曲線を示す。治療は、移植の3日後から、コントロール、B20−4.1、G6−31、ベバシズマブ又はY0317 Mabs(5mg/kg,IP,毎週二回)の何れかで始めた。
【図2B】図2Aに記載された処置の64日目におけるCalu−6腫瘍のその期間での腫瘍重さを示す。B20−4.1及びG6−31で処置された腫瘍はベバシズマブで処置された腫瘍よりも有意に小さかった。
【図2C】移植後3日目にコントロール、B20−4.1、G6−31、ベバシズマブ又はY0317(5mg/kg,毎週二回,IP)の何れかで処置されたヒト結腸直腸癌細胞(HT29)の増殖曲線を示す。処置のある時点において、B20−4.1及びG6−31で処置された腫瘍はベバシズマブで処置された腫瘍よりも有意に小さかった。
【図2D】図2Cに記載された処置の67日目のHT29腫瘍のその期間での腫瘍重さを示す。
【図2E】腫瘍体積が500mm3(退縮実験)に達した後にコントロール、B20−4.1、G6−31、ベバシズマブ又はY0317(5mg/kg,IP,毎週二回)の何れかで処置されたCalu−6腫瘍の腫瘍増殖曲線を示す。B20−4.1及びG6−31で処置された腫瘍はベバシズマブで処置された腫瘍よりも有意に小さかった。
【図2F】様々な抗VEGF Mabsでの処置の63日目のCalu−6腫瘍のその期間での腫瘍重さを示す。B20−4.1及びG6−31で処置された腫瘍はベバシズマブで処置された腫瘍と比較して有意に減少した重さを示した。
【図2G】腫瘍体積が500mm3(退縮実験)に達した後にコントロール、B20−4.1、G6−31、ベバシズマブ又はY0317抗体(5mg/kg,IP,毎週二回)の何れかで処置されたヒト結腸直腸腫瘍(HM7)の腫瘍増殖曲線を示す。
【図2H】様々な抗VEGF Mabsでの処置の58日目のHM7腫瘍のその期間での腫瘍重さを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次の用語は別の記載をしない限り、以下に与える意味を有する。
「VEGF」及び「VEGF-A」なる用語は交換可能に用いられ、Leung等 Science, 246:1306 (1989)、及びHouck等 Mol. Endocrin., 5:1806 (1991)により記載されているような、165アミノ酸の血管内皮細胞増殖因子及び関連する121、189、及び206アミノ酸の血管内皮細胞増殖因子を、その天然に生じる対立遺伝子及び加工型と共に、意味する。「VEGF」という用語はまた165アミノ酸のヒト血管内皮細胞増殖因子のアミノ酸8から109又は1から109を含むポリペプチドの切断型を意味するためにも使用される。VEGFの任意のそのような形態の標記は例えば「VEGF(8−109)」、「VEGF(1−109)」又は「VEGF165」のように、本出願においてなされうる。「切断型」天然VEGFのアミノ酸位置は天然VEGF配列に示されるものと同じように番号付けされる。例えば、切断型天然VEGFのアミノ酸位置17(メチオニン)はまた天然VEGFの位置17(メチオニン)である。切断型天然VEGFは天然VEGFに匹敵するKDR及びFlt-1レセプターへの結合親和性を有している。
「抗VEGF抗体」は十分な親和性と特異性をもってVEGFに結合する抗体である。好ましくは、本発明の抗VEGF抗体は、VEGF活性が関与する疾患又は症状を標的としそれを妨害する際に治療剤として使用することができる。抗VEGF抗体は通常はVEGF-B又はVEGF-Cのような他のVEGF相同体に結合しないし、P1GF、PDGF又はbFGFのような他の成長因子にも結合しない。
【0011】
「VEGFアンタゴニスト」は一又は複数のVEGFレセプターへのその結合を含む、VEGF活性を中和し、遮断し、阻害し、抑止し、低減し又は妨害することが可能な分子を意味する。VEGFアンタゴニストには、抗VEGF抗体とその抗原結合断片、レセプター分子及びVEGFに特異的に結合して一又は複数のレセプターへのその結合を隔絶する誘導体、抗VEGFレセプター抗体及びVEGFレセプターアンタゴニスト、例えばVEGFRチロシンキナーゼの小分子阻害剤が含まれる。
「コンストラクト」又は「ターゲティングコンストラクト」なる用語は、ターゲッティング領域を含むポリヌクレオチド分子を指す。ターゲティング領域は、標的組織、細胞又は動物中の内因性配列に実質的に相同であり、標的組織、細胞又は動物のゲノム中へのターゲティングコンストラクトの組込みをもたらす配列を含む。また、典型的には、ターゲティングコンストラクトは特に対象とする遺伝子又は核酸配列、マーカー遺伝子及び適切な制御配列を含むであろう。
【0012】
遺伝子の「破壊」は、DNAの断片が位置し、内因性相同配列と再結合する場合に生じる。配列破壊又は修飾には、挿入、ミスセンス、フレームシフト、欠失、又は置換、又はDNA配列の交換、又はそれらの任意の組み合わせが含まれうる。「挿入」には、動物、植物、真菌、昆虫、原核生物、又はウイルス由来でありうる異種核酸の挿入が含まれる。破壊は、例えば、その生産を部分的にないしは完全に阻害するか又は遺伝子産物の活性を向上させることによって遺伝子産物を改変し得る。
「内因性遺伝子座」なる用語は、トランスジェニックになることになる宿主動物に見出される天然に生じる遺伝子座を含むことを意味する。
ポリペプチド又は遺伝子との関連で使用される場合の「異種」という用語は、トランスジェニック動物には見出されないポリペプチドをコードするDNA又はアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。よって、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むトランスジェニックマウスは異種ルシフェラーゼ遺伝子を有するものと記述することができる。導入遺伝子は、PCR、ウェスタンブロット又はサザンブロットを含む様々な方法を使用して検出することができる。
【0013】
「非ヒト動物」という用語は、哺乳類、鳥類、爬虫類、及び両生類のような任意の脊椎動物を含むことを意図している。好適な哺乳類には、齧歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ及びウシが含まれる。好適な鳥類にはニワトリ、ガチョウ、及びシチメンチョウが含まれる。好適な非ヒト動物はラットとマウス、最も好ましくはマウスを含む齧歯類ファミリーから選択される。
物に適用されるここで使用の「天然に生じる」又は「天然に付随する」という用語は、物を自然に見出すことができることを意味する。例えば、天然の供給源から単離することができ、実験室において人によって意図的に改変されていない生物(ウイルスを含む)に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は天然に生じている。
【0014】
「転写制御配列」は、それらが作用可能に結合しているタンパク質コード配列の転写を誘導又は制御する、開始シグナル、エンハンサー、及びプロモーターのようなポリヌクレオチド配列を意味する。好適な実施態様では、組換え導入遺伝子の転写は、発現が意図されている細胞型における組換え遺伝子の発現を制御するプロモーター配列(又は他の転写制御配列)の制御下にある。組換え遺伝子が、同じであるか又はその配列とは異なっており、VEGFの天然に生じる形態の転写を制御する転写制御配列の制御下にありうることがまた理解される。
ここで使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、例えばここに開示された方法によってヒトの介入によって細胞中に導入された核酸配列(例えばヒト化VEGFをコードする)を意味する。導入遺伝子は、それが導入されるトランスジェニック動物又は細胞に対して部分的に又は完全に異種性、つまり外来性でありうる。導入遺伝子は一又は複数の転写制御配列と、選択された核酸の最適な発現に必要でありうるイントロンのような任意の他の核酸を含みうる。
【0015】
「トランスジェニック動物」又は「Tg+」は交換可能に使用され、動物の細胞の一又は複数が、当該分野で周知の実験的技術によるようなヒトの介入によって導入されているヒト又はヒト化VEGFをコードする異種性核酸を含む任意の動物を含むことを意図する。核酸は、トランスフェクション、電気穿孔、マイクロインジェクションによって、又は組換えウイルスでの感染によって、直接又は間接的に細胞中に導入されうる。この核酸は染色体内に組み込まれうるか、又は染色体外に複製するDNAとして残存しうる。「Tg+」という用語には、ヒト又はヒト化VEGFに関してヘテロ接合性及び/又はホモ接合性である動物が含まれる。
「VEGF関連疾患」は、VEGFの発現に関連しているか、VEGFアンタゴニストを用いて治療されうる疾患又は障害を意味する。例えば、キメラ抗VEGF抗体は、ある種の癌の患者を治療するために使用されている。更なる例は加齢性黄斑変性症を治療するための抗VEGF療法である。
【0016】
A.発明の形態
本発明は、ヒト又はヒト化VEGFを発現するトランスジェニック動物を提供する。これらの動物は、VEGF指向療法の効能、薬物動態、薬力学、及び安全性の性質を研究するために使用することができる。これらの動物モデルは、例えば、限定するものではないがVEGFに対する抗体を含むVEGFアンタゴニストを含む薬剤をスクリーニングするために使用することができる。
【0017】
本発明はまたここに記載されたヒト又はヒト化VEGFをコードする単離核酸、該核酸を含むベクター及び宿主細胞、及びその生産のための組換え技術を提供する。
組換えタンパク質の生産のためには、それをコードする核酸を単離し、更なるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために複製可能なベクター内に挿入する。ヒト又はヒト化VEGFをコードするDNAは、一般的な手順を使用して(例えば、ポリペプチド変異体をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離され、配列決定される。多くのベクターが利用できる。一般にベクター成分は、限定するものではないが、次のものの一又は複数を含む:シグナル配列、複製起点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終終結配列。
【0018】
(i)シグナル配列成分
この発明のポリペプチドは直接的に組換え手法によって生産されるだけではなく、シグナル配列あるいは成熟タンパク質あるいはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種性ポリペプチドとの融合ペプチドとしても生産される。好ましく選択された異種シグナル配列は宿主細胞によって認識され加工される(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。天然CD20結合抗体シグナル配列を認識せずプロセシングしない原核生物宿主細胞に対して、シグナル配列は、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lppあるいは熱安定なエンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物シグナル配列により置換される。酵母での分泌に対して、天然シグナル配列は、例えば酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(酵母菌属(Saccharomyces)及びクルイベロマイシス(Kluyveromyces)α因子リーダーを含む)、又は酸ホスフォターゼリーダー、白体(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー、又は国際公開第90/13646号に記載されているシグナルにより置換されうる。哺乳動物細胞での発現においては、哺乳動物のシグナル配列並びにウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用できる。このような前駆体領域のDNAは、ポリペプチドをコードするDNAにリーディングフレーム内でライゲーションさせる。
【0019】
(ii)複製開始点
発現及びクローニングベクターは共に一又は複数の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。一般に、クローニングベクターにおいて、この配列は宿主染色体DNAとは独立にベクターが複製することを可能にするものであり、複製開始点又は自律的複製配列を含む。そのような配列は多くの細菌、酵母及びウイルスに対してよく知られている。プラスミドpBR322に由来する複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド開始点は酵母に適しており、様々なウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般には、哺乳動物の発現ベクターには複製開始点成分は不要である(SV40開始点は典型的にはただ初期プロモーターを有しているために用いられる)。
【0020】
(iii)選択遺伝子成分
発現及びクローニングベクターは、典型的には、選択可能マーカーとも称される選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートあるいはテトラサイクリンのような抗生物質あるいは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、又は(c)例えばバシリに対する遺伝子コードD-アラニンラセマーゼのような、複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
選択方法の一例では、宿主細胞の成長を抑止する薬物が用いられる。異種性遺伝子で首尾よく形質転換した細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を生産し、よって選択工程を生存する。このような優性選択の例は、薬剤ネオマイシン、ミコフェノール酸及びハイグロマイシンを使用する。
哺乳動物細胞に適切な選択マーカーの他の例は、細胞成分を同定してポリペプチドをコードする核酸を取り出すことができるもの、例えばDHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネインI及びII、好ましくは、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等々である。
例えば、DHFR選択遺伝子によって形質転換された細胞は、先ず、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトレキセート(Mtx)を含む培地において形質転換物の全てを培養することで同定される。野生型DHFRを用いた場合の好適な宿主細胞は、DHFR活性に欠陥のあるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)株化細胞である。
【0021】
あるいは、ポリペプチドをコードするDNA配列、野生型DHFRタンパク質、及びアミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ(APH)のような他の選択可能マーカーで形質転換あるいは同時形質転換した宿主細胞(特に、内在性DHFRを含む野生型宿主)は、カナマイシン、ネオマイシンあるいはG418のようなアミノグリコシド抗生物質のような選択可能マーカーの選択剤を含む培地中での細胞増殖により選択することができる。米国特許第4965199号を参照のこと。
酵母中での使用に好適な選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb等, Nature, 282:39(1979))。trp1遺伝子は、例えば、ATCC第44076号あるいはPEP4-1のようなトリプトファン内で成長する能力に欠ける酵母の突然変異株に対する選択マーカーを提供する。Jones, Genetics, 85:12 (1977)。酵母宿主細胞ゲノムにtrp1破壊が存在することは、ついでトリプトファンの不存在下における増殖による形質転換を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2欠陥酵母株(ATCC20622あるいは38626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドによって補完される。
更に、1.6μmの円形プラスミドpKD1由来のベクターは、クルイヴェロマイシス(Kluyveromyces)酵母の形質転換に用いることができる。あるいは、組換え仔ウシのキモシンの大規模生産のための発現系がK.ラクティス(lactis)に対して報告されている。Van den Berg, Bio/Technology, 8:135 (1990)。クルイヴェロマイシスの工業的な菌株による、組換え体成熟ヒト血清アルブミンの分泌のための安定した複数コピー発現ベクターもまた開示されている。Fleer 等, Bio/Technology,9:968-975 (1991)。
【0022】
(iv)プロモーター成分
発現及びクローニングベクターは通常は宿主生物体によって認識されポリペプチドをコードする核酸に作用可能に結合しているプロモーターを含む。原核生物宿主での使用に好適なプロモーターは、phoAプロモーター、βラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、及びハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーターを含む。しかし、他の既知の細菌プロモーターも好適である。細菌系で使用するプロモータもまたCD20結合抗体をコードするDNAと作用可能に結合したシャイン・ダルガーノ(S.D.)配列を有する。
真核生物に対してもプロモーター配列が知られている。実質的に全ての真核生物の遺伝子が、転写開始部位からおよそ25ないし30塩基上流に見出されるATリッチ領域を有している。多数の遺伝子の転写開始位置から70ないし80塩基上流に見出される他の配列は、Nが任意のヌクレオチドであるCNCAAT領域である(配列番号:3)。大部分の真核生物遺伝子の3'末端には、コード配列の3'末端へのポリA尾部の付加に対するシグナルであるAATAAA配列がある(配列番号:4)。これらの配列は全て真核生物の発現ベクターに適切に挿入される。
【0023】
酵母宿主と共に用いて好適なプロモーター配列の例としては、3-ホスホグリセラートキナーゼ又は他の糖分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオセリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。
他の酵母プロモーターは、成長条件によって転写が制御される付加的効果を有する誘発的プロモーターであり、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝と関連する分解性酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用を支配する酵素のプロモーター領域である。酵母の発現に好適に用いられるベクターとプロモータは欧州特許第73657号に更に記載されている。また酵母エンハンサーも酵母プロモーターと共に好適に用いられる。
【0024】
哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからのポリペプチドの転写は、例えば、ポリオーマウィルス、伝染性上皮腫ウィルス、アデノウィルス(例えばアデノウィルス2)、ウシ乳頭腫ウィルス、トリ肉腫ウィルス、サイトメガロウィルス、レトロウィルス、B型肝炎ウィルス、及び最も好ましくはサルウィルス40(SV40)などのウィルスのゲノムから得られるプロモーター、又は異種性哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターによって、このようなプロモーターが宿主細胞系に適合し得る限り、調節される。
SV40ウィルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点を更に含むSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウィルスの最初期プロモーターは、HindIII E制限断片として簡便に得られる。ベクターとしてウシ乳頭腫ウィルスを用いて哺乳動物宿主中でDNAを発現させる系が、米国特許第4419446号に開示されている。この系の変形例は米国特許第4601978号に開示されている。また、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの調節下でのマウス細胞中でのヒトβインターフェロンcDNAの発現について、Reyes等, Nature, 297:598-601(1982)を参照のこと。あるいは、ラウス肉腫ウィルス長末端反復をプロモーターとして使用することができる。
【0025】
(v)エンハンサーエレメント成分
より高等の真核生物によるこの発明のポリペプチドをコードしているDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによってしばしば増強される。哺乳動物遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、真核細胞ウィルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例としては、複製起点の後期側のSV40エンハンサー(100−270塩基対)、サイトメガロウィルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウィルスエンハンサーが含まれる。真核生物プロモーターの活性化のための増強要素については、Yaniv, Nature, 297:17-18 (1982)もまた参照のこと。エンハンサーは、CD20結合抗体コード配列の5'又は3'位でベクター中にスプライシングされうるが、好ましくはプロモーターから5'位に位置している。
【0026】
(vi) 転写終結成分
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)に用いられる発現ベクターは、また転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列を含む。このような配列は、真核生物又はウィルスのDNA又はcDNAの5'、時には3'の非翻訳領域から一般に取得できる。これらの領域は、CD20抗体をコードするmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含む。一つの有用な転写終結成分はウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。国際公開第94/11026号とそこに開示された発現ベクターを参照のこと。
【0027】
(vii) 宿主細胞の選択及び形質転換
ここに記載のベクター中のDNAをクローニングあるいは発現させるために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びバシリ・リチェフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開された DD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなく例示的なものである。
【0028】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、CD20結合抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能でここで使用できる、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(EP402226);ピチアパストリス(EP183070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(EP244234);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属宿主、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビが使用できる。
【0029】
グリコシル化ポリペプチドの発現に適切な宿主細胞は、多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質転換に使用できる。
綿花、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、及びタバコのような植物細胞培養をまた宿主として用いることができる。
【0030】
しかしながら、興味は脊椎動物細胞に最もあり、培地での脊椎動物細胞の増殖(組織培養)は常套的な手順となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1細胞株(COS-7、ATCC CRL1651);ヒト胚性腎臓細胞株(293細胞又は懸濁培養のためにサブクローニングされた293細胞、Graham等, J. Gen Virol. 36:59 (1977));幼体ハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカのミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頚癌細胞(HELA、ATCC CCL2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファロラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather等, Annals N.Y. Acad. Sci. 383: 44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及び、ヒト肝腫瘍細胞株(Hep G2)である。
宿主細胞は、ポリペプチド生産のために上述の発現又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードしている遺伝子を増幅するために適切に修飾された常套的栄養培地で培養される。
【0031】
(viii)宿主細胞の培養
本発明のCD20結合抗体を産生するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(Sigma)、最小必須培地((MEM), Sigma)、RPMI-1640(Sigma)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM), Sigma)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980)、米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;同4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された何れの培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地には何れもホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、又は表皮増殖因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCINTM薬)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は等価なエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について過去に用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0032】
C.トランスジェニック動物の産生
本発明のトランスジェニック動物を産生する方法は当該分野でよく知られている(一般には、Gene Targeting: A Practical Approach, Joyner編, Oxford University Press, Inc.(2000)を参照のこと)。一実施態様では、トランスジェニックマウスの産生は、場合によってはマウスVEGFを破壊し、マウスゲノムの、好ましくは内因性VEGFと同じ位置に、ヒト又はヒト化VEGFをコードする遺伝子を導入することを含みうる。本発明のある実施態様によれば、ヒトVEGFの特定のアミノ酸がマウスVEGF中に導入されたトランスジェニックマウスモデルが生産される(例えばヒトVEGF、hum−I VEGF、hum−X VEGF等)。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、好ましくは動物の生殖系列中に導入遺伝子を導入することによって産生される。様々な発達段階の胚性標的細胞を用いて導入遺伝子を導入することができる。胚性標的細胞の発達段階に応じて異なった方法が使用される。この発明を実施するために使用される任意の動物の特定の系統は全体的な良好な健康、良好な胚収量、胚における良好な前核可視性、及び良好な生殖適合性について選択される。トランスジェニックマウスが産生されることになる場合、C57BL/6又はC57BL/6×DBA/2F1のような株、又はFVB系統がしばしば使用される(Charles River Labs, Boston, Mass., The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME又はTaconic Labsから商業的に取得される)。トランスジェニックマウスへヒト腫瘍細胞を導入するためにヌードマウスを用いてもよい。ヌードマウスの飼育と維持は、マウスが感染や疾患に罹りやすいために更に難しい。
【0033】
胚中への導入遺伝子の導入は当該分野で知られた任意の手段、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション又はリポフェクションによって達成することができる。例えば、導入遺伝子は、受精哺乳動物卵の前核中にコンストラクトをマイクロインジェクションすることによって発達中の哺乳動物の細胞にコンストラクトの一又は複数のコピーを保持させることができる。受精卵中への導入遺伝子コンストラクトの導入後に、変動時間量の間、卵をインビトロでインキュベートするか、又は代理宿主中に再移植するか、又は双方を実施することができる。成熟するまでのインビトロでのインキュベーションはこの発明の範囲内である。一つの一般的な方法は、種に応じて約1−7日インビトロで胚をインキュベートし、ついでそれを代理宿主中に再移植することである。
再移植は標準的な方法を使用して達成される。通常、代理宿主を麻酔し、胚を卵管中に挿入する。特定の宿主中に移植される胚の数は種によって変化するが、通常は、その種が天然に産生する子孫の数に匹敵する。
【0034】
レトロウイルス感染もまた非ヒト動物中に導入遺伝子を導入するために使用することができる。発達中の非ヒト胚を胚盤胞期までインビトロで培養することができる。この期間中、割球がレトロウイルス感染の標的でありうる(Jaenich, R. (1976) PNAS 73:1260-1264)。割球の効果的な感染は透明帯を取り除く酵素処理によって得られる(Manipulating the Mouse Embryo, Hogan編 (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1986)。導入遺伝子を導入するために使用されるウイルスベクター系は典型的には導入遺伝子を担持する複製欠陥性レトロウイルスである(Jahner等 (1985) PNAS 82:6927-6931; Van der Putten等 (1985) PNAS 82:6148-6152)。形質移入は、ウイルス産生細胞の単層上で割球を培養することによって簡単かつ効果的に得られる(上掲のVan der Putten; Stewart等 (1987) EMBO J. 6:383-388)。あるいは、感染は後の段階で実施することができる。ウイルス又はウイルス産生細胞を割腔中に注入することができる(Jahner等 (1982) Nature 298:623-628)。殆どのファウンダー(起源物)は、トランスジェニック非ヒト動物を形成した細胞のサブセットにのみ取り込みが生じるので、導入遺伝子に対してモザイクである。更に、ファウンダーは子孫で一般に分離するゲノム中の異なった位置に導入遺伝子の様々なレトロウイルス挿入を含みうる。また、中期妊娠期間胚の子宮内レトロウイルス感染によって生殖系列中に導入遺伝子を導入することもできる(上掲のJahner等(1982))。
【0035】
導入遺伝子導入のための標的細胞の第三のタイプは胚性幹細胞である。導入遺伝子はDNA形質移入によるか又はレトロウイルス媒介形質導入によってES細胞中に効率的に導入することができる。そのような形質転換ES細胞をついで非ヒト動物からの胚盤胞と組み合わせることができる。その後、ES細胞は胚とコロニー形成し、得られるキメラ動物の生殖系列に寄与する。
本発明の一実施態様では、非ヒト宿主の内因性VEGF遺伝子は、異種VEGF遺伝子が内因性VEGF遺伝子をそれぞれ実質的に置換し、好ましくは内因性VEGF遺伝子のコード化配列を完全に置換するように、異種ヒト化VEGF(完全にヒトVEGFを含む)の相同組込みによって機能的に破壊される。好ましくは、異種ヒト化VEGF遺伝子は、相同組込みの結果として、異種遺伝子が内因性VEGF遺伝子座から調節エレメントの転写制御下で発現されるように、内因性VEGF遺伝子の制御配列(例えばエンハンサー/プロモーター)に結合する。そのような置換対立遺伝子体に対してホモ接合性である非ヒト宿主はここに記載の方法によって生産することができる。そのようなホモ接合性非ヒト宿主は一般に異種ヒト化VEGFを発現するが、内因性VEGFタンパク質を発現しない。通常、異種ヒト化VEGF遺伝子の発現パターンは、天然に生じる(非トランスジェニック)非ヒト宿主における内因性VEGF遺伝子の発現パターンを実質的に模倣する。
例えば、内因性マウスVEGF遺伝子配列の代わりにヒトVEGF遺伝子配列を有し、内因性マウス制御配列によって転写制御されるトランスジェニックマウスを産生させることができる。一般にヒト化VEGFは、天然に生じる非トランスジェニックマウスにおけるマウスVEGFと同様にして発現される。
【0036】
一般に、置換タイプのターゲティングコンストラクトが相同遺伝子置換に用いられる。ターゲティングコンストラクトの内因性VEGF遺伝子配列間の二重クロスオーバー相同組換えにより、異種VEGF遺伝子セグメントの標的組込みが生じる。通常、導入遺伝子の相同性標的領域は内因性VEGF遺伝子セグメントに隣接する配列を含むので、相同組換えは、内因性VEGFの同時欠失と異種遺伝子セグメントの相同組込みを生じせしめる。実質的に、内因性VEGF遺伝子の全体を、単一ターゲティング事象によるか又は複数ターゲティング事象によって(例えば、個々のエキソンの逐次の置換)異種VEGF遺伝子で置き換えることができる。通常はポジティブ又はネガティブ選択発現カセットの形態の、一又は複数の選択マーカーをターゲティングコンストラクトに位置させることができる。通常は、選択マーカーが異種置換領域のイントロン領域に位置しているのが好ましい。
【0037】
導入遺伝子ヒト化VEGFを有するトランスジェニック動物は、他の動物と交雑させることができる。一実施態様では、トランスジェニックマウスはヒトVEGFを含み、マウスRAG2を欠く。調製方法は、所望のノックアウトコンストラクト又は導入遺伝子の一つをそれぞれが含む一連の哺乳動物を産生することである。そのような哺乳動物を、一連の交雑、戻し交雑及び選択を通して育種し、最終的に、あらゆる所望のノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子を含む単一の哺乳動物を産生するが、ここで、その哺乳動物はノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子が存在することを除くと野生型とその他の点でコンジェニック(遺伝的に同一)である。
典型的には、交雑及び戻し交雑は、飼育過程の各特定の工程の目標に応じて、同胞又は親系統を子孫と交配させることによって達成される。ある場合には、適切な染色体位置にノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子のそれぞれを含む単一の子孫を産生するためには、多数の子孫を産生することが必要である場合がある。また、所望の遺伝子型を最終的に得るには数世代にわたって交雑又は戻し交雑を行う必要がある場合がある。
【0038】
D.導入遺伝子の存在の確認
代理宿主のトランスジェニック子孫を、所望の組織、細胞又は動物中での導入遺伝子の存在及び/又は発現について任意の好適な方法によってスクリーニングすることができる。スクリーニングは、しばしばサザンブロット又はノーザンブロットによって、少なくとも導入遺伝子の一部に相補的であるプローブを用いて達成される。導入遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析法は、導入遺伝子産物の存在をスクリーニングする代替の又は更なる方法として用いることができる。典型的には、DNAを尾の組織から準備し、導入遺伝子についてサザン分析法又はPCRによって分析する。あるいは、最も高いレベルで導入遺伝子を発現すると思われている組織又は細胞が、サザン分析法又はPCRを用いて導入遺伝子の存在及び発現について試験されるが、任意の組織又は細胞型をこの分析に使用することができる。
導入遺伝子の存在を評価するための別の又は更なる方法は、限定するものではないが、好適な生化学アッセイ、例えば酵素及び/又は免疫学的アッセイ、フローサイトメトリー分析等々を含む。
【0039】
E.トランスジェニック動物の用途
本発明のトランスジェニック動物は、ヒトにおけるVEGFの発現及び機能のモデルを表す。従って、これらの動物はVEGFの機能と関連する事象の背後にある機構を研究し、癌や他の血管新生関連症状を含むVEGF関連ヒト疾患を治療し診断するのに有用な生成物(例えば抗体、二重特異性体、多重特異性体等々)を産生し試験するのに有用である。
ある実施態様では、遺伝子組換え的に発現されるヒト化VEGFはヒトにおいて示されるものと同様の機能特性を保持している。例えば、異種ヒト化VEGFは動物の相同VEGFを機能的に置換し、また抗ヒトVEGF抗体によって認識される。従って、一実施態様では、本発明のトランスジェニック動物は、例えばヒトヒトVEGFの領域のような標的エピトープへの結合について、例えば抗体、多重又は二重特異的分子、イムノアドヘシンのような薬剤を(例えばヒトの安全性と効能について)試験するために使用される。他の薬剤は、Fc領域を伴うか伴わない抗体の抗原結合断片、単鎖抗体、ミニボディ(minibodies)(重鎖のみの抗体)、多量体抗ヒトVEGF抗原結合領域の一つを伴うヘテロ多量体イムノアドヘシンを含み得る。他の薬剤は、低分子VEGFアンタゴニストを含みうる。従って、本発明は、VEGF関連疾患を治療することができる薬剤を同定する方法を提供する。
【0040】
本発明の非ヒトトランスジェニック動物は更にヒトに投与される特定の薬剤の安全性の指標を提供し得る。例えば、ヒト化抗体又は他の薬剤をトランスジェニック動物に投与することができ、動物への薬剤の投与の結果としてのあらゆる毒性又は有害作用を、インビボでのヒトへの使用のための薬剤又はヒト化抗体の安全性と耐容性の指標としてモニターすることができる。短期間ベースで生じうる有害事象には、頭痛、感染、発熱、悪寒、痛み、吐き気、無気力、咽頭炎、下痢、鼻炎、注入反応、及び筋肉痛が含まれる。短期の有害事象は治療後何日間かしばらく測定される。長期の有害事象には、ある細胞型の細胞傷害性、出血事象、免疫及び/又はアレルギー反応によるメディエータの放出、免疫系の阻害及び/又は抗治療剤抗体の発生、終末器官毒性、及び感染又は悪性腫瘍の発生増加が含まれる。長期の有害事象は治療後何週間又は何ヶ月間も測定される。
【0041】
本発明の他の態様は、抗VEGF薬剤の効能を決定する方法を含む。効能は、ある範囲の用量の薬剤を、ヒト化VEGFを有するトランスジェニック動物群に投与し、所望の効果を示す少なくとも一の用量を決定することによって、決定することができる。
細胞、組織又はそれらから誘導される他の材料を含む本発明のトランスジェニック動物は、疾患、特にVEGFに関連し又はそれに媒介される疾患のモデルとして利用することができる。限定するものではないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、マイクロブタ、ヤギ及び非ヒト霊長類、例えばヒヒ、サル及びチンパンジーを含む任意の種の動物を用いて疾患動物モデルを産生することができる。これらの系は様々な用途に使用することができる。そのようなアッセイは、例えば疾患の徴候を軽減することができる化合物のような薬剤を同定するために設計されるスクリーニング方策の一部として利用することができる。よって、動物及び細胞ベースのモデルを用いて、薬剤、医薬、疾患の治療に効果的でありうる治療法及び介入を同定することができる。
【0042】
細胞ベース系は疾患の徴候を軽減するように作用する可能性のある化合物を同定するために使用することができる。例えば、そのような細胞系は疾患の徴候を軽減する能力を示すと思われる化合物に、暴露された細胞に疾患徴候のそのような軽減を誘発するのに十分な濃度で十分な時間の間、暴露することができる。暴露後に、細胞を検査して、疾患細胞表現型の一又は複数が改変されて、より正常な又はより野生型の非疾患表現型に似ているかどうかを決定する。
他の用途は当業者には直ぐに明らかであろう。
以下の非限定的な実施例は本発明を例示するものである。
【実施例】
【0043】
実施例1
この実施例はヒト化VEGF及びそれを発現するトランスジェニック(Tg+) マウスの生産を記載する。
ベバシズマブはヒトVEGFに結合するがマウスVEGFには結合しない。部位特異的突然変異誘発と組み合わせた、X線構造データにより、ベバシズマブと直接接触しているVEGF−Aのエキソン3及び4内に位置する3つの異なった領域が同定された。これらの接触の大部分は、N末端ヘリックスの2の更なる残基及び界面縁で相互作用するα1−β2ループ(およそ残基40)と共に、β5−β6ループの残基(およそ残基80)によって形成されている(Muller等 PNAS 94:7292-97 (1997), Muller等 Structure 6:1153-67 (1998)) (図1A)。一つの残基を除いて、ベバシズマブと接触しているヒトVEGFのアミノ酸の全てはマウスVEGFにおいて保存されている。非保存残基であるヒトGly88はマウスVEGF配列のSer87に対応し、タンパク質:抗体界面のコア中に位置している。ベバシズマブ−Fabと複合体を形成しているヒトVEGF−Aの結晶構造は、両分子間の界面が密に充填されていることを明らかにした。マウスVEGF中に存在しているセリン側鎖のモデル化により、Gly88→Ser交換によって導入される2つの更なる非水素原子を収容する十分な空間がないことが明らかにされている。 過去の研究では、ヒトVEGF−Aにおけるグリシン88からアラニンへの変異(Gly88Ala)により、ベバシズマブのマウス前躯体Mab A.4.6.1の結合が大幅に低減されたことが証明されている (Muller等 Structure 6:1153-67 (1998))。これらの知見は、マウスVEGFにおける単一の変異Ser87Gly がA.4.6.1への結合とそれによる中和を回復するのに十分であるかもしれないことを示唆している。しかしながら、複合体の結晶構造と変異誘発分析が、切断型VEGF−A変異体(8−109)を使用して実施された(Muller等 Structure 6:1153-67 (1998))。従って、ベバシズマブによる天然VEGF−Aの結合性に対するVEGF8−109に存在しない他の残基の寄与は未知であった。更に、ファージ由来抗体、例えばG6(G6−31)又はB20−4は更なる非保存残基に接触することが知られていた(Fuh等 J. Biol. Chem. 281:6625-31 (2006))。これらの知見は、更なる抗体によって認識されうるヒト化マウスVEGF−Aをまたより広範に設計することを我々に促し、よってVEGFシグナル伝達を標的とするより広範な治療用化合物を我々が試験することを可能にする。従って、我々は、「ヒト化」VEGF−Aタンパク質の2つの型を産生した。ベバシズマブの結合に重要な単一のser87gly変異を含む一つの変異体(hum−I VEGF)と、マウス及びヒトVEGF−A間で異なるレセプター結合ドメイン中の10の残基がヒト配列の各アミノ酸によって置き換えられている第二の型hum−X VEGF(図1A)である。よって、シグナル配列を含む、hum−I VEGFとhum−X VEGFの配列は次の通りである:
hum−I VEGF(配列番号11):
MNFLLSWVHWTLALLLYLHHAKWSQAAPTTEGEQKSHEVIKFMDVYQRS 22
YCRPIETLVDIFQEYPDEIEYIFKPSCVPLMRCAGCCNDEALECVPTSES 72
NITMQIMRIKPHQGQHIGEMSFLQHSRCECRPKKDRTKPENHCEPCSERR 122
KHLFVQDPQTCKCSCKNTDSRCKARQLELNERTCRCDKPRR 164
hum−X VEGF(配列番号12):
MNFLLSWVHWTLALLLYLHHAKWSQAAPTTEGEQKSHEVIKFMDVYQRS 22
YCHPIETLVDIFQEYPDEIEYIFKPSCVPLMRCGGCCNDEGLECVPTEES 72
NITMQIMRIKPHQGQHIGEMSFLQHNKCECRPKKDRARQENHCEPCSERR 122
KHLFVQDPQTCKCSCKNTDSRCKARQLELNERTCRCDKPRR 164
【0044】
我々は先ずhum−X VEGFがVEGFの正常な機能を保持しているかどうかを試験した。組換え型hum−X VEGF、野生型ヒト及びマウスVEGF−Aタンパク質を大腸菌中で発現させ精製した。hum−X VEGFを発現する細菌細胞からのペレットを、Polytron(登録商標)ホモジナイザーを用いて10容量の25mMのトリス、5mMのEDTA(pH7.5)に再懸濁させた。該細胞懸濁液をMicrofluidizer(登録商標)(Microfluidics International)に通すことによって細胞を溶解し、溶液を遠心分離によって清澄にした。ペレットを、7Mの尿素、50mMのHepes、10mMのDTT(pH8)を含む抽出バッファーに再懸濁させ、溶液を室温で1時間撹拌した。溶液を33000×gで30分遠心分離して、不溶性の細胞片を取り除き、変性され還元されたhum−X VEGFを含む上清をリフォールディングバッファー(1Mの尿素、50mMのHepes、15mg/Lの硫酸デキストラン8000、0.05%のトリトン(登録商標)X−100、pH8.2)で10倍に希釈した。リフォールディング混合物を室温で一晩撹拌した後、遠心分離して沈殿したタンパク質を除いた。硫酸アンモニウムを1Mまで加えた後、1Mの硫酸アンモニウム、25mMのトリス(pH7.5)で平衡にしたフェニルTSKカラムに混合物を充填した;hum−X VEGFを、このバッファー中において0Mまで減少する硫酸アンモニウム勾配で溶離させた。hum−X VEGF含有画分をプール化し、分取C4逆相カラム(Vydac)で更に精製した。二量体hum−X VEGFを含む画分をプールし、凍結乾燥させた。
【0045】
我々は、天然ヒトVEGF−A、マウスVEGF−A、及びhumX VEGFタンパク質に対するベバシズマブ及び3種の第二世代抗ヒトVEGF抗体の相対的親和性を決定した。抗体結合親和性は、BIAcore(商標)−3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を用いる表面プラズモン共鳴(SRP)測定によって試験した。カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.) を、供給者の指示に従って、N−エチル−N'−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化させた。ヒトVEGF−A、マウスVEGF−A及びhum−X VEGFを固定化して、およそ60の応答単位(RU))を達成した。IgG(0.78−500nM)の二倍希釈体を37℃で25μl/分の流量で0.05%Tween(登録商標)20(PBST)を含むPBSで注射した。会合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる一対一ラングミュア結合モデル(BIAcore Evaluationソフトウエアバージョン3.2)を用いて、会合速度(kon)及び解離速度(koff)を算出した。平衡解離定数(Kd)は比koff/konとして誘導した。
【0046】
我々が仮定したように、マウスVEGF−Aへの10のヒトアミノ酸の置換により、試験した全ての抗ヒトVEGF−A Mabsによって認識されるタンパク質が得られ、これは野生型ヒトVEGF−Aに対する親和性が少ししか変わらなかった(表1;各測定値は<20%の変動の3回の独立したアッセイの平均を表す)。
【0047】
次に、我々は培養中の一次内皮細胞の増殖を刺激する各VEGF−A変異体の作用強度を評価した。増殖培地(10%の仔ウシ血清、2mMのグルタミン、及び抗生物質を補填した低グルコースDMEM)に、96ウェルプレート中でウェル当たり500細胞の密度で、ウシ網膜毛細血管内皮細胞を播種した。6−7日後、細胞増殖を、アラマーブルーTM(BioSource)を用いてアッセイした。蛍光を、530nmの励起波長及び590nmの発光波長でモニターした。
HuVEGF−A、muVEGF−A及びhum−X VEGFはそれぞれ1.5、0.6及び0.9ng/mlの最大半量濃度でウシ毛細血管内皮細胞増殖を刺激した。同様の結果がHUVEC細胞で得られた。これらの知見は、インビトロでのEC増殖の刺激において、hum−X VEGF変異体が野生型ヒト及びマウスVEGF−Aタンパク質のものに匹敵する作用強度を有していることを示していた。
【0048】
最後に、我々は、様々な組換えVEGF−Aタンパク質によって誘導される内皮細胞増殖を妨害する様々な抗VEGF−A抗体の作用強度を比較した。阻害アッセイでは、VEGFの添加前に抗体を示した濃度で先の実験に加え、0.1−1時間後に、hVEGF−A、mVEGF−A又はMutXを、6ng/mLの最終濃度になるまで加えた。IC50値はKaleidaGraph(登録商標)を用いて計算した。予想されたように、ベバシズマブとY0317はマウスVEGF−Aのブロックに失敗したが、残りのリガンド/抗体対のIC50値は抗体親和性とよく相関していた(表2;示されているデータは20%未満で変動した3通りの実験からの平均である)。
これらのデータから、hum−X、野生型ヒト及び野生型マウスVEGF−Aタンパク質が匹敵する生物学的及び生化学的性質を有しており、野生型ヒトVEGF−Aに対するhum−X変異体を妨害する抗体の能力は野生型ヒトタンパク質に対するその各親和性と相関することが確認された。
【0049】
実施例2
この実施例はhum−X VEGFを発現するトランスジェニック(Tg+)マウスの産生を記載する。
hum−X VEGF及び野生型マウスVEGF−Aのほぼ同等性をインビトロで確立したので、我々は、マウス生殖系中に1又は10のヒトアミノ酸を導入するために遺伝子ターゲティングベクターの作製を進めた(図1F;それぞれhum−I VEGF及びhum−X VEGF)。マウスVEGF−Aのエキソン3、4及び5からなるVEGF−Aに対するゲノムターゲティングベクター内の10アミノ酸(Gerber等 Development 126:1149-59(1999))をマウスからヒト配列へ変異させた。エキソン3、4及び5内に位置する残基の部位特異的変異誘発では、次のオリゴヌクレオチドを使用した:
エキソン3に対して、
エキソン3-R/H:AGCGAAGCTACTGCCATCCGATTGAGACC (配列番号5)、
エキソン3-A/G,A/G:TGATGCGCTGTGGAGGCTGCTGTAACGATGAAGGCCTG (配列番号6)、
エキソン:3-A/G,S/E:TGTAACGATGAAGGCCTGGAGTGCGTGCGTGCCCACGGA AGAGAGCAAC (配列番号7)。
エキソン4に対して
エキソン4-S/G: ATCAAACCTCACCAAGGCCAGCACATAGGAGAGATG (配列番号8)、
エキソン4-S/N, R/K: TGAGCTTCCTACAGCACAACAAATGTGAATGCAGGTG (配列番号9)、
エキソン5-T/A,K/R,P/Q:TGCAGACCAAAGAAAGACAGAGCACGGCAAGAAA AGTAAGTGG (配列番号10)。
【0050】
対応するアミノ酸配列は、muVEGF−R26H、A57G、A64G、S71E、S87G、S99N、R100K、T110A、K111R、P112Qである。ES細胞における正確な組換え事象は、過去に記載されているようにして、PCR分析によって同定し、サザンブロット法によって確認した。簡単に述べると、正確に標的化されたES細胞では、Lox−P部位に隣接するネオマイシン耐性マーカーが、Creリコンビナーゼの一過性発現によって欠失させられた。正確なゲノム組換え産物をゲノムPCRによって同定し、3’及び5’フランキング領域のサザンブロットによって確認した。ELISA実験によって、標的ES細胞の条件培地中に存在するA4.6.1からhum−X VEGFタンパク質への結合を確認した。また、選択されたES細胞クローンから単離されたゲノムDNAをEcoRIで消化させ、正確な組換え事象を調べるために、過去に記載されているようなサザンブロット法(上掲のGerber等(1999))とゲノム配列決定によって分析した。loxPが導入されたVEGF対立遺伝子を含む3種の異なった親のES細胞クローンの一つの誘導体を用いて、3.5日のC57BL/6N胚盤胞の胞胚腔中へのマイクロインジェクションによりキメラマウスを生産した(Hogan等 Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press (1994))。キメラ雄をC57BL/6N雌に交配し、アグーチ子孫を、過去に記載されているようにしてloxP−1及びloxP−3を含むVEGF対立遺伝子についてのPCR解析により生殖系列伝達についてスクリーニングした。胚性幹細胞(ES)中での正確な組換え事象は、サザンブロット実験、ゲノムPCR、ゲノム配列決定により、また標的化ES細胞中のVEGF−A発現のELISAによる決定により確認した。
>500nノックイン(ki)マウスの遺伝子型頻度解析により、ホモ接合体単一変異体又は10アミノ酸変異体(hum−X VEGF)マウスの予想されたメンデル比が明らかになり、一年の観察期間中における成体マウスの生存率及び生存期間に変化は見出されなかった。双方の系統の正常な発達と生存率に基づいて、我々は、より広範にヒト化したhum−X VEGFkiマウスにおいて全ての更なる実験を実施することを決定した。
【0051】
実施例3
この実施例は薬物動態及び治療剤評価のためのトランスジェニックhum−X VEGFの使用を実証する。
組換えマウスVEGF−A及びマウス及びヒトVEGFR1及びVEGFR2タンパク質はR&Dシステムズから購入した。組換えヒトVEGF−A(165アミノ酸アイソフォーム)はジェネンテックにおいて大腸菌から精製した。125−I−VEGF−AはAmershamから購入した。
Y0317、G6−31及びB20−4.1 Mabsはヒト(化)Fabファージライブラリーから記載されているようにして(Liang等 J. Biol. Chem. 281:951-61 (2006))誘導した。完全長ヒト抗体(hY0317等)は、これらのFabsからのVH及びVL可変ドメインをヒトIgG1(カッパ)の定常ドメインにグラフトさせることによって生産した。免疫適格性マウスにおける長期の投与又はコントロール実験においては、完全長逆キメラマウス抗体を、マウスIgG2a(カッパ)の定常ドメインへVH及びVL可変ドメインをグラフトさせることによって生産した。
フリーの抗VEGF−A抗体を決定するためのVEGF−Aコートの構成。MaxiSorpTMの96ウェルのELISAプレート(Nunc, Roskilde, Denmark)を、50mMの炭酸ナトリウム(pH9.6)中の0.5μg/mlのVEGF−A165で100μl/ウェルにて一晩被覆した。プレートを、0.05%のポリソルベート20を含むPBSで洗浄し、PBS中の150μl/ウェルの0.5%ウシ血清アルブミン、10ppmのプロクリン(登録商標)300(Hyclone, Logan, UT)を用いて室温で1時間ブロックした。PBS,pH7.4(サンプルバッファー)に入った0.05%のBSA、0.2%のウシμ−グロブリン(Sigma, St. Louis, MO)、0.25%のCHAPS、5mMのEDTA、0.35MのNaCl、0.05%のポリソルベート20中の標準(0.0625−8ng/mlの抗VEGFマウスIgG2a、抗VEGFヒトIgG1、又はトラップ−ヒトIgG1)の2倍連続希釈物及びサンプル(最小1:20希釈)をプレートに100μl/ウェルで添加した。プレートを室温で2時間インキュベートし、洗浄した。結合したマウスIgG2a抗体及びヒトIgG1抗VEGF−A抗体を、100μl/ウェルの抗マウスIgG2a−HRP(Pharmingen, San Diego, CA)及び抗ヒトFcHRP(Jackson ImmunoResearch, West Grove, Pennsylvania)をそれぞれ加えることによって、検出した。1時間のインキュベーション後に、プレートを洗浄し、基質3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(Kirkegaard and Perry Laboratories, MD)を加えた(ウェル当たり100μl)。反応を、1MのH3PO4(100μl/ウェル)を添加して停止させた。SpectraMax(登録商標)250マイクロプレートリーダー(Molecular Devices Corp., CA)を使用して450nmで吸光度を読み取った。滴定曲線は、4−変数非線形回帰カーブフィッティングプログラム(KaleidaGraph(登録商標), Synergy software, Reading, PA)でフィッティングさせた。標準曲線の範囲内のデータポイントを使用してサンプル中の抗VEGF−A抗体濃度を計算した。
【0052】
我々は、ホモ接合型hum−X VEGF kiマウス及び野生型(hum−X VEGF野生型)コントロール同腹仔における単一の静脈内投与後に、ベバシズマブ、Y0317、及びhG6−31のクリアランスを比較した。hum−X VEGF kiマウスにおけるベバシズマブの全身クリアランスは、hum−X VEGF 野生型コントロール同腹仔において観察されたよりも約3倍速かった。また、双方の高親和性Mabs(Y0317、G6−31)のクリアランスは、hum−X VEGF kiマウスにおけるベバシズマブに対して約3倍増加した。しかしながら、G6−31のクリアランスは、野生型及びhum−X VEGF kiマウス間で同様であり、それが双方の種に対して交差反応性であることと一致している。単一の抗体用量後に観察された親和性に相関したクリアランス速度と異なり、2から10週間の週二回の抗体投与は、血清中の匹敵するレベルの循環抗体に関連していたが、抗体エピトープ又は親和性間の相関は見出せなかった。我々は、単一及び複数用量実験間の抗体血清レベルの矛盾は、シンクとして作用するVEGF−Aを結合した細胞表面又は細胞外マトリックス(ECM)への高親和性Mabsの迅速な結合により、かかるメカニズムは投薬の繰り返し時に飽和しうると仮定した。
【0053】
免疫無防備状態のRAG2 ko;hum−X VEGF ki二重ホモ接合型マウスを、hum−X VEGF het雌(B6.129)をRag2.ko雄{B6(H2b)(Taconic, #RAGN12-M)}に交配させることによって生産した。二重ヘテロ接合型動物を交配して二重ホモ接合型hum−X VEGF.ki;Rag2.ko動物を生産した。系統は二重変異体育種セットとして維持した。これらを用いて、Calu−6(肺癌)、HT29又はHM7(結腸直腸癌)腫瘍異種移植片の増殖を阻害するベバシズマブ、hY0317、hG6−31及びhB20−4.1の作用強度及び効果を評価した。図2に示されるように、毎週2回5mg/kgの用量で投与された場合、ベバシズマブ及びhY0317は、VEGF−Aに対してその相対的結合親和性が有意に異なるにもかかわらず、ヒトCalu−6肺癌腫瘍の増殖を同様の度合いで妨害した。同様に、B20−4.1及びG6−31は、Calu−6肺癌細胞の増殖の阻害において等しく効果的であった(図2A、2B)。同様の応答が、HM7腫瘍において抗体を試験した場合に観察された(図2C、2D)。腫瘍介入実験の大部分において、腫瘍細胞の移植の3日後に抗VEGF抗体を投与した場合、ベバシズマブ又はY0317よりもB20−4.1及びG6−31 Mabsによる腫瘍増殖阻害の方が改善される傾向があることに気づいた(例えば図2A−D)。これらの知見は、結合親和性の増加だけでは腫瘍異種移植研究における効能を改善するのに不十分であり、抗VEGF−A抗体によって認識されるエピトープは治療効果を決定する際に所定の役割を担っているかもしれないことを示唆している。低用量(毎週二回0.5mg/kg)の投与は高親和性及びインビトロでの作用強度に関連した明確な利点を示さなかった。実際、この用量では、最も高親和性のMab Y0317は、逆説的に、試験した他のMabsのなかで最も低い度合いの腫瘍増殖阻害となった。
【0054】
最後に、我々は既に樹立された腫瘍の退縮を誘導する抗VEGF−A抗体の能力を試験した。ヒトHT29(結腸直腸癌)及びCalu−6(肺癌)細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから得た。ヒト結腸直腸癌HM−7細胞株はLS174T(46)の誘導体である。腫瘍細胞は、10%のFBSを補填したDMEM/F12培地での培養で維持した。細胞をコンフルエントになるまで5%のCO2中において37℃で増殖させ、収集し、1ml当たり25×106細胞で滅菌MatrigelTM中に再懸濁させた。5×106細胞/マウスで背側側腹部に皮下注射することにより、6から8週齢の雌のベージュヌードXIDマウスに異種移植を確立し、成長させた。腫瘍が〜400mm3(退縮)又は150−200mm3(介入)の体積に達したところで、0日コントロールとしてコホートを無作為に選択した(n=10)。残りのマウスを10匹のマウスの群に分け、各群について同じ用量で抗体を腹腔内投与した。腫瘍サイズと重さを過去に記載されているようにして(Gerber等 Cancer Res. 60:6253-58 (2000))測定した。この目的のために、我々は、Calu−6(図2E、F)又はHT29腫瘍(図2G、H)を移植したマウスに、腫瘍が〜400mm3の平均サイズに達したところで、ベバシズマブ、hY0317、hB20−4.1及びhG6−31を投与した。全ての抗体は腫瘍増殖を強力に抑制し、退縮設定において同様の効果を示した。しかしながら、介入実験からの知見と同様に、Mabs B20−4.1及びG6−31の効能増加の傾向があった。
【0055】
実施例4
この実施例は、VEGF指向治療法の安全性を試験するためのhum−X VEGFマウスの使用を実証する。
我々は、3、6又は9ヶ月齢に達したときにhum−X VEGF−kiマウスを長い期間処置した。8から9ヶ月齢のhum−X VEGF−kiマウスを、90日の期間、10mg/kgの抗体で毎週二回IPで処置した。あるいは、毎週一回、5mg/kgをIPで投与した。毎週、体重を評価し、血清を後眼窩の出血から集め、薬物動態及び血液化学分析に回した。体重変化が20%を越えたとき、及び/又は腹水貯留が顕著になったときに、マウスを安楽死させた。
腫瘍組織を、パラフィン包埋の12−16時間前に、10%の中性緩衝ホルマリンで固定した。4−5ミクロン厚の組織片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。マウスVEGF−Aを、R&D Systemsからの0.5マイクログラム/mlのヤギポリクローナル抗体(AF−493−NA)を使用して検出した;再水和させたパラフィン包埋組織を99℃で20分間、続いて室温で20分、標的回収溶液(DAKO, S1700)で処理した。一次抗体を、ビオチン結合ウサギ抗ヤギ,アビジン・ビオチン複合体(Vectastain(登録商標)Elite ABC, Vector Labs)及び金属増強ジアミノベンジジン(Pierce)で検出した。補体C3は、FITC結合抗補体F(ab’)2(Cappel Labs)を使用する凍結片に対する直接免疫蛍光法によって検出した。抗VEGFモノクローナル抗体は、FITC結合ウサギ抗ヒトFc(Jackson Immunoresearch)を使用する直接免疫蛍光法によって検出した。メタクリレート包埋した1ミクロン厚の切片を基底膜についてトルイジンブルー又はジョーンズ銀染色で染色した。超薄切片を酢酸ウラニル/クエン酸鉛で染色し、フィリップスのCM12 透過型電子顕微鏡で調べた。抗体をhum−X VEGF kiマウスに12連続週の間、低用量(5mg/kg、IP、毎週一回)又は高用量(10mg/kg、IP、毎週二回)で投与した。より高親和性のMabsでの処置には頻繁に腹水の形成が伴ったが、これは用量依存的であった。効果は毎週<5mg/kgの用量では希であったが、より高用量では頻繁であった。これに対して、低親和性のA4.6.1又はmB20−4.1 Mabsの投与では、腹水形成は生じなかった。84−90日(A4.6.1、B20−4.1、G6−31)又は動物が瀕死状態になったときとき(Y0317)における血清化学及び尿分析により、肝臓及び腎臓の損傷と一致して、ALT、AST及びBUNレベルの増加が明らかになった。
【0056】
全ての主要な器官の組織分析では、何れの処置群においても心臓、脾臓、膵臓及び肺には有意な変化はなかった。しかしながら、肝臓では微妙な変化があり、腎臓ではより有意な変化があり、何れもより高親和性の高VEGF Mabsでより長い期間処置したマウスにおいて最も顕著であった。抗VEGF抗体で処置された動物では、H&E染色肝臓サンプルが中心静脈に付着した単核細胞数の増加を示す一方、門脈は正常のようであった。付着細胞は、クッパー細胞のマクロファージに一致して、F4/80−及びMAC−2−陽性であった;あるものは貪食赤血球を含んでいた。VEGF−Aの染色の増加が類洞内皮細胞に見られた。直接免疫蛍光法によっては、同じ肝臓サンプルの凍結サンプルでは検出可能な抗VEGF抗体又は補体C3の付着は認められなかった。
【0057】
延長された間隔に対して抗VEGFで処置された動物の腎臓は糸球体硬化を示し、これは高親和性抗VEGF抗体で処置された動物において一般により深刻であった。殆どの罹患動物の糸球体は深刻なびまん性全硬化を示した。マウスVEGF−Aに対する免疫染色では、コントロール及び抗VEGF処置動物間に顕著な差異が示された;コントロール糸球体は有足細胞体において中程度のシグナルを示し、ループ状毛細血管では殆ど検出可能なシグナルはなかった。これに対して、抗VEGF処置糸球体は、大まかに言って各抗体の親和性に比例して、増加したメサンギウム及びループ状毛細血管の染色を示した。また、傍髄質糸球体は、同じ動物において対応する末梢皮質糸球体よりもより強く広がった染色を示した。抗ヒトFc直接免疫蛍光は、糸球体において増加した抗VEGF付着(散在性の微細な粒状パターン)を示したが、これは増加した親和性の抗体でより顕著であった。同様に、補体C3染色は、より高親和性の抗VEGF抗体で処置した動物において益々顕著であった。MAC−2免疫組織化学的検査では、抗VEGF処置動物からの糸球体中の単球/マクロファージの有意な浸潤は示されなかった。メタクリレート包埋1ミクロン切片のトルイジンブルー及び銀染色は、パラフィン及び凍結切片からの観察を確認し、メサンギウム細胞性の増加及び天然基底膜とは異なった形で染色材料でのメサンギウムマトリックス及びループ状毛細血管の幅広化を示した。電子顕微鏡検査では、ループ状毛細血管における局所性内皮下沈着、内皮膨張、メサンギウムマトリックス及びメサンギウム細胞数の増加を示した。これに対して、局所的足突起融着がより深刻に罹患した糸球体では明らかであったが、有足細胞の足突起は比較的残されていた。総括すると、これらの知見は糸球体に沈着したVEGF・抗VEGF複合体の存在とほぼ一致している。
【0058】
ここで引用した全ての刊行物(特許及び特許出願を含む)を、あらゆる目的のためにその全体を出典明示によりここに援用する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にVEGF関連療法を研究するためにも有用であるトランスジェニック動物に関する。特に、本発明はヒト化VEGFとそれを発現する非ヒトトランスジェニック動物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生(angiogenesis)は、血管内皮細胞が増殖し、その不要部が除去され、再組織化することにより、先在の血管網から新生の血管が生成される重要な細胞性事象である。既存の有力な証拠によれば、血管の供給の進行は正常なまた病理学的な増殖過程にとって必須である(Folkman及びKlagsbrun (1987) Science 235:442-447)。また、血管新生は、限定するものではないが、増殖性網膜症、加齢性黄斑変性症、関節リウマチ(RA)、及び乾癬を含む様々な疾患の病理発生に関係している。血管新生は殆どの原発性腫瘍の増殖とその続く転移に必須である。
血管新生の注目すべき生理的及び病理学的重要性を考慮して、この過程を調節することができる因子の解明のために多くの研究がなされてきた。血管新生過程がプロ血管新生分子及び抗血管新生分子間のバランスによって調節され、様々な疾患、特に癌において血管新生過程が狂わされていることが示唆されている。Carmeliet及びJain (2000) Nature 407:249-257。
【0003】
VEGF−A又は血管透過性因子(VPF)とも呼ばれる血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、正常な及び異常な血管新生の中枢的調節因子として報告されている。Ferrara及びDavis-Smyth (1997)Endocrine Rev. 18:4-25; Ferrara (1999) J. Mol. Med. 77:527-543。血管形成過程に寄与する他の増殖因子と比較して、VEGFは血管系内の内皮細胞に対するその高い特異性が特徴的である。VEGFは胚性脈管形成及び血管新生に必須である。Carmeliet等(1996) Nature 380:435-439; Ferrara等(1996) Nature 380:439-442。更に、VEGFは女性生殖路における周期的血管増殖及び骨成長及び軟骨形成に必要とされる。Ferrara等(1998) Nature Med. 4:336-340; Gerber等(1999) Nature Med. 5:623-628。
血管新生及び脈管形成における血管形成因子であることに加えて、VEGFは多面発現性増殖因子として、内皮細胞生存、血管透過性及び血管拡張、単球化学走性及びカルシウム流入のような他の生理学的過程において多くの生物学的効果を示す。上掲のFerrara及びDavis-Smyth (1997)。更に、最近の研究では、数種の非内皮細胞型、例えば網膜色素上皮細胞、膵管細胞及びシュワン細胞に対するVEGFの分裂促進効果が報告されている。Guerrin等(1995) J. Cell Physiol. 164:385-394; Oberg-Welsh等(1997) Mol. Cell. Endocrinol. 126:125-132; Sondell等(1999) J. Neurosci. 19:5731-5740。
【0004】
多くの証拠が病理的血管新生を含む症状又は疾病の進行におけるVEGFの重要な役割をまた示している。VEGFのmRNAは検査したヒト腫瘍の大部分で過剰発現している(Berkman等 J Clin Invest 91:153-159 (1993); Brown等 Human Pathol. 26:86-91 (1995); Brown等 Cancer Res. 53:4727-4735 (1993); Mattern等 Brit. J. Cancer. 73:931-934 (1996);及びDvorak等 Am J. Pathol. 146:1029-1039 (1995))。また、眼液中のVEGFの濃度は糖尿病や他の虚血関連網膜症の患者における活発な血管増殖の存在と強く相関している(Aiello等 N. Engl. J. Med. 331:1480-1487 (1994))。更に、AMDに罹っている患者の脈絡叢新生血管膜中でのVEGFの局在化が研究により実証されている (Lopez等 Invest. Ophtalmo. Vis. Sci. 37:855-868 (1996))。
【0005】
腫瘍増殖の促進におけるその中心的な役割に照らすと、VEGFは治療的介入のための魅力的な標的を提供する。確かに、VEGF又はそのレセプターシグナル伝達系を遮断することを目標とする様々な治療的方策が腫瘍性疾患の治療のために現在開発中である。Rosen (2000) Oncologist 5:20-27;Ellis等 (2000) Oncologist 5:11-15;Kerbel (2001) J. Clin. Oncol. 19:45S-51S。「rhuMAbVEGF」又は「アバスチン(登録商標)」としても知られている抗VEGF抗体「ベバシズマブ(Bevacizumab)」は、Presta等(1997) Cancer Res. 57:4593-4599に従って産生された組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体である。ベバシズマブは転移性結腸直腸癌及び非小細胞肺癌の治療に対して承認されており、様々な他の癌の治療についても臨床的に研究されている。
正常なまた病理学的な血管新生におけるVEGFの重要な役割にも拘わらず、ヒトVEGFを研究するために使用できる動物モデルはない。よって、疾患の研究及び薬学的薬剤の開発に対して関連した動物モデルが必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、一般にヒト又はヒト化VEGFを発現する非天然的に生じる非ヒトトランスジェニック動物に関する。一態様では、トランスジェニック動物は、癌のようなVEGF関連疾患又は症状のための新規な治療剤を同定し試験するシステムを提供する。ある実施態様では、トランスジェニック動物はVEGF指向療法の効能と安全性を試験するために有用である。
一態様では、本発明は、ヒト化VEGFを発現する非ヒトトランスジェニック動物を提供する。ある実施態様では、ヒト化VEGFはヒトVEGF、hum−I VEGF、又はhum−X VEGFである。ある実施態様では、動物は齧歯類、例えばマウスである。ある実施態様では、本発明は、ヒト化VEGFを発現する非ヒトトランスジェニック動物から誘導された細胞又は組織を提供する。
【0007】
他の態様では、本発明は、hum−I VEGF又はhum−X VEGFをコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸分子並びにそれによってコードされるポリペプチドを提供する。ある実施態様では、本発明は核酸分子を含んでなるベクターを提供する。ある実施態様では、本発明は、核酸分子又それを含むベクターを含んでなる宿主細胞を提供する。ある実施態様では、本発明は、hum−I VEGF又はhum−X VEGFを生産する方法であって、宿主細胞を培養することを含む方法を提供する。
他の態様では、本発明は、化合物をVEGF媒介疾患を治療するための可能な薬剤として同定する方法であって、a)請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物におけるVEGFのレベルを測定し;b)上記化合物を動物に投与し;c)動物におけるVEGFのレベルを測定することを含み;薬剤の投与後のVEGFのレベルの変化により、化合物がVEGF媒介疾患を治療するための可能な薬剤として同定される方法を提供する。
【0008】
他の態様では、本発明は、VEGFアンタゴニストを、ヒトの癌治療のための可能な薬剤として同定する方法であって、a)請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物に上記薬剤を投与し;ここで、該動物はヒト癌細胞腫瘍異種移植片を有しており;b)上記異種移植片の増殖をモニターすることを含み;上記異種移植片の増殖速度又はサイズの減少により、VEGFアンタゴニストが、ヒトの癌治療のための可能な薬剤として同定される方法を提供する。ある実施態様では、VEGFアンタゴニストは抗体である。
他の態様では、本発明は、VEGFアンタゴニストの安全性を試験する方法において、a)上記VEGFアンタゴニストを請求項1又は2の動物に投与し;b)短期又は長期の副作用について動物をモニターすることを含んでなる方法を提供する。ある実施態様では、VEGFアンタゴニストは抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】マウス(配列番号1)及びヒトVEGF−A(配列番号2)の間の配列の比較を示す。マウスVEGF164とヒトVEGF165との間で異なっているアミノ酸はグレーで影をつけている。マウスVEGFの10のアミノ酸(ボックスで囲みグレーで示した)を部位特異的突然変異誘発によってヒト残基に変異させて、hum−X VEGF配列を作製した。
【図1B】hum−I及びhum−Xノックイン(ki)マウスを生産するためのターゲティングベクターを模式的に示す。変異がターゲティングベクターのエキソン3から5に導入され、hum−I又はhum−X VEGF型を発現するマウスを得た。Hum−I VEGFタンパク質は変異muVEGF−S87Gからなる。Hum−X VEGFタンパク質は次の変異からなる:muVEGF−R26H、A57G、A64G、S71E、S87G、S99N、R100K、T110A、K111R、P112Q。この命名法は成熟配列から開始される。
【図2A】Calu−6腫瘍の増殖曲線を示す。治療は、移植の3日後から、コントロール、B20−4.1、G6−31、ベバシズマブ又はY0317 Mabs(5mg/kg,IP,毎週二回)の何れかで始めた。
【図2B】図2Aに記載された処置の64日目におけるCalu−6腫瘍のその期間での腫瘍重さを示す。B20−4.1及びG6−31で処置された腫瘍はベバシズマブで処置された腫瘍よりも有意に小さかった。
【図2C】移植後3日目にコントロール、B20−4.1、G6−31、ベバシズマブ又はY0317(5mg/kg,毎週二回,IP)の何れかで処置されたヒト結腸直腸癌細胞(HT29)の増殖曲線を示す。処置のある時点において、B20−4.1及びG6−31で処置された腫瘍はベバシズマブで処置された腫瘍よりも有意に小さかった。
【図2D】図2Cに記載された処置の67日目のHT29腫瘍のその期間での腫瘍重さを示す。
【図2E】腫瘍体積が500mm3(退縮実験)に達した後にコントロール、B20−4.1、G6−31、ベバシズマブ又はY0317(5mg/kg,IP,毎週二回)の何れかで処置されたCalu−6腫瘍の腫瘍増殖曲線を示す。B20−4.1及びG6−31で処置された腫瘍はベバシズマブで処置された腫瘍よりも有意に小さかった。
【図2F】様々な抗VEGF Mabsでの処置の63日目のCalu−6腫瘍のその期間での腫瘍重さを示す。B20−4.1及びG6−31で処置された腫瘍はベバシズマブで処置された腫瘍と比較して有意に減少した重さを示した。
【図2G】腫瘍体積が500mm3(退縮実験)に達した後にコントロール、B20−4.1、G6−31、ベバシズマブ又はY0317抗体(5mg/kg,IP,毎週二回)の何れかで処置されたヒト結腸直腸腫瘍(HM7)の腫瘍増殖曲線を示す。
【図2H】様々な抗VEGF Mabsでの処置の58日目のHM7腫瘍のその期間での腫瘍重さを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次の用語は別の記載をしない限り、以下に与える意味を有する。
「VEGF」及び「VEGF-A」なる用語は交換可能に用いられ、Leung等 Science, 246:1306 (1989)、及びHouck等 Mol. Endocrin., 5:1806 (1991)により記載されているような、165アミノ酸の血管内皮細胞増殖因子及び関連する121、189、及び206アミノ酸の血管内皮細胞増殖因子を、その天然に生じる対立遺伝子及び加工型と共に、意味する。「VEGF」という用語はまた165アミノ酸のヒト血管内皮細胞増殖因子のアミノ酸8から109又は1から109を含むポリペプチドの切断型を意味するためにも使用される。VEGFの任意のそのような形態の標記は例えば「VEGF(8−109)」、「VEGF(1−109)」又は「VEGF165」のように、本出願においてなされうる。「切断型」天然VEGFのアミノ酸位置は天然VEGF配列に示されるものと同じように番号付けされる。例えば、切断型天然VEGFのアミノ酸位置17(メチオニン)はまた天然VEGFの位置17(メチオニン)である。切断型天然VEGFは天然VEGFに匹敵するKDR及びFlt-1レセプターへの結合親和性を有している。
「抗VEGF抗体」は十分な親和性と特異性をもってVEGFに結合する抗体である。好ましくは、本発明の抗VEGF抗体は、VEGF活性が関与する疾患又は症状を標的としそれを妨害する際に治療剤として使用することができる。抗VEGF抗体は通常はVEGF-B又はVEGF-Cのような他のVEGF相同体に結合しないし、P1GF、PDGF又はbFGFのような他の成長因子にも結合しない。
【0011】
「VEGFアンタゴニスト」は一又は複数のVEGFレセプターへのその結合を含む、VEGF活性を中和し、遮断し、阻害し、抑止し、低減し又は妨害することが可能な分子を意味する。VEGFアンタゴニストには、抗VEGF抗体とその抗原結合断片、レセプター分子及びVEGFに特異的に結合して一又は複数のレセプターへのその結合を隔絶する誘導体、抗VEGFレセプター抗体及びVEGFレセプターアンタゴニスト、例えばVEGFRチロシンキナーゼの小分子阻害剤が含まれる。
「コンストラクト」又は「ターゲティングコンストラクト」なる用語は、ターゲッティング領域を含むポリヌクレオチド分子を指す。ターゲティング領域は、標的組織、細胞又は動物中の内因性配列に実質的に相同であり、標的組織、細胞又は動物のゲノム中へのターゲティングコンストラクトの組込みをもたらす配列を含む。また、典型的には、ターゲティングコンストラクトは特に対象とする遺伝子又は核酸配列、マーカー遺伝子及び適切な制御配列を含むであろう。
【0012】
遺伝子の「破壊」は、DNAの断片が位置し、内因性相同配列と再結合する場合に生じる。配列破壊又は修飾には、挿入、ミスセンス、フレームシフト、欠失、又は置換、又はDNA配列の交換、又はそれらの任意の組み合わせが含まれうる。「挿入」には、動物、植物、真菌、昆虫、原核生物、又はウイルス由来でありうる異種核酸の挿入が含まれる。破壊は、例えば、その生産を部分的にないしは完全に阻害するか又は遺伝子産物の活性を向上させることによって遺伝子産物を改変し得る。
「内因性遺伝子座」なる用語は、トランスジェニックになることになる宿主動物に見出される天然に生じる遺伝子座を含むことを意味する。
ポリペプチド又は遺伝子との関連で使用される場合の「異種」という用語は、トランスジェニック動物には見出されないポリペプチドをコードするDNA又はアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。よって、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むトランスジェニックマウスは異種ルシフェラーゼ遺伝子を有するものと記述することができる。導入遺伝子は、PCR、ウェスタンブロット又はサザンブロットを含む様々な方法を使用して検出することができる。
【0013】
「非ヒト動物」という用語は、哺乳類、鳥類、爬虫類、及び両生類のような任意の脊椎動物を含むことを意図している。好適な哺乳類には、齧歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ及びウシが含まれる。好適な鳥類にはニワトリ、ガチョウ、及びシチメンチョウが含まれる。好適な非ヒト動物はラットとマウス、最も好ましくはマウスを含む齧歯類ファミリーから選択される。
物に適用されるここで使用の「天然に生じる」又は「天然に付随する」という用語は、物を自然に見出すことができることを意味する。例えば、天然の供給源から単離することができ、実験室において人によって意図的に改変されていない生物(ウイルスを含む)に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は天然に生じている。
【0014】
「転写制御配列」は、それらが作用可能に結合しているタンパク質コード配列の転写を誘導又は制御する、開始シグナル、エンハンサー、及びプロモーターのようなポリヌクレオチド配列を意味する。好適な実施態様では、組換え導入遺伝子の転写は、発現が意図されている細胞型における組換え遺伝子の発現を制御するプロモーター配列(又は他の転写制御配列)の制御下にある。組換え遺伝子が、同じであるか又はその配列とは異なっており、VEGFの天然に生じる形態の転写を制御する転写制御配列の制御下にありうることがまた理解される。
ここで使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、例えばここに開示された方法によってヒトの介入によって細胞中に導入された核酸配列(例えばヒト化VEGFをコードする)を意味する。導入遺伝子は、それが導入されるトランスジェニック動物又は細胞に対して部分的に又は完全に異種性、つまり外来性でありうる。導入遺伝子は一又は複数の転写制御配列と、選択された核酸の最適な発現に必要でありうるイントロンのような任意の他の核酸を含みうる。
【0015】
「トランスジェニック動物」又は「Tg+」は交換可能に使用され、動物の細胞の一又は複数が、当該分野で周知の実験的技術によるようなヒトの介入によって導入されているヒト又はヒト化VEGFをコードする異種性核酸を含む任意の動物を含むことを意図する。核酸は、トランスフェクション、電気穿孔、マイクロインジェクションによって、又は組換えウイルスでの感染によって、直接又は間接的に細胞中に導入されうる。この核酸は染色体内に組み込まれうるか、又は染色体外に複製するDNAとして残存しうる。「Tg+」という用語には、ヒト又はヒト化VEGFに関してヘテロ接合性及び/又はホモ接合性である動物が含まれる。
「VEGF関連疾患」は、VEGFの発現に関連しているか、VEGFアンタゴニストを用いて治療されうる疾患又は障害を意味する。例えば、キメラ抗VEGF抗体は、ある種の癌の患者を治療するために使用されている。更なる例は加齢性黄斑変性症を治療するための抗VEGF療法である。
【0016】
A.発明の形態
本発明は、ヒト又はヒト化VEGFを発現するトランスジェニック動物を提供する。これらの動物は、VEGF指向療法の効能、薬物動態、薬力学、及び安全性の性質を研究するために使用することができる。これらの動物モデルは、例えば、限定するものではないがVEGFに対する抗体を含むVEGFアンタゴニストを含む薬剤をスクリーニングするために使用することができる。
【0017】
本発明はまたここに記載されたヒト又はヒト化VEGFをコードする単離核酸、該核酸を含むベクター及び宿主細胞、及びその生産のための組換え技術を提供する。
組換えタンパク質の生産のためには、それをコードする核酸を単離し、更なるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために複製可能なベクター内に挿入する。ヒト又はヒト化VEGFをコードするDNAは、一般的な手順を使用して(例えば、ポリペプチド変異体をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離され、配列決定される。多くのベクターが利用できる。一般にベクター成分は、限定するものではないが、次のものの一又は複数を含む:シグナル配列、複製起点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終終結配列。
【0018】
(i)シグナル配列成分
この発明のポリペプチドは直接的に組換え手法によって生産されるだけではなく、シグナル配列あるいは成熟タンパク質あるいはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種性ポリペプチドとの融合ペプチドとしても生産される。好ましく選択された異種シグナル配列は宿主細胞によって認識され加工される(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。天然CD20結合抗体シグナル配列を認識せずプロセシングしない原核生物宿主細胞に対して、シグナル配列は、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lppあるいは熱安定なエンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物シグナル配列により置換される。酵母での分泌に対して、天然シグナル配列は、例えば酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(酵母菌属(Saccharomyces)及びクルイベロマイシス(Kluyveromyces)α因子リーダーを含む)、又は酸ホスフォターゼリーダー、白体(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー、又は国際公開第90/13646号に記載されているシグナルにより置換されうる。哺乳動物細胞での発現においては、哺乳動物のシグナル配列並びにウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用できる。このような前駆体領域のDNAは、ポリペプチドをコードするDNAにリーディングフレーム内でライゲーションさせる。
【0019】
(ii)複製開始点
発現及びクローニングベクターは共に一又は複数の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。一般に、クローニングベクターにおいて、この配列は宿主染色体DNAとは独立にベクターが複製することを可能にするものであり、複製開始点又は自律的複製配列を含む。そのような配列は多くの細菌、酵母及びウイルスに対してよく知られている。プラスミドpBR322に由来する複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド開始点は酵母に適しており、様々なウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般には、哺乳動物の発現ベクターには複製開始点成分は不要である(SV40開始点は典型的にはただ初期プロモーターを有しているために用いられる)。
【0020】
(iii)選択遺伝子成分
発現及びクローニングベクターは、典型的には、選択可能マーカーとも称される選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートあるいはテトラサイクリンのような抗生物質あるいは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、又は(c)例えばバシリに対する遺伝子コードD-アラニンラセマーゼのような、複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
選択方法の一例では、宿主細胞の成長を抑止する薬物が用いられる。異種性遺伝子で首尾よく形質転換した細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を生産し、よって選択工程を生存する。このような優性選択の例は、薬剤ネオマイシン、ミコフェノール酸及びハイグロマイシンを使用する。
哺乳動物細胞に適切な選択マーカーの他の例は、細胞成分を同定してポリペプチドをコードする核酸を取り出すことができるもの、例えばDHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネインI及びII、好ましくは、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等々である。
例えば、DHFR選択遺伝子によって形質転換された細胞は、先ず、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトレキセート(Mtx)を含む培地において形質転換物の全てを培養することで同定される。野生型DHFRを用いた場合の好適な宿主細胞は、DHFR活性に欠陥のあるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)株化細胞である。
【0021】
あるいは、ポリペプチドをコードするDNA配列、野生型DHFRタンパク質、及びアミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ(APH)のような他の選択可能マーカーで形質転換あるいは同時形質転換した宿主細胞(特に、内在性DHFRを含む野生型宿主)は、カナマイシン、ネオマイシンあるいはG418のようなアミノグリコシド抗生物質のような選択可能マーカーの選択剤を含む培地中での細胞増殖により選択することができる。米国特許第4965199号を参照のこと。
酵母中での使用に好適な選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb等, Nature, 282:39(1979))。trp1遺伝子は、例えば、ATCC第44076号あるいはPEP4-1のようなトリプトファン内で成長する能力に欠ける酵母の突然変異株に対する選択マーカーを提供する。Jones, Genetics, 85:12 (1977)。酵母宿主細胞ゲノムにtrp1破壊が存在することは、ついでトリプトファンの不存在下における増殖による形質転換を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2欠陥酵母株(ATCC20622あるいは38626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドによって補完される。
更に、1.6μmの円形プラスミドpKD1由来のベクターは、クルイヴェロマイシス(Kluyveromyces)酵母の形質転換に用いることができる。あるいは、組換え仔ウシのキモシンの大規模生産のための発現系がK.ラクティス(lactis)に対して報告されている。Van den Berg, Bio/Technology, 8:135 (1990)。クルイヴェロマイシスの工業的な菌株による、組換え体成熟ヒト血清アルブミンの分泌のための安定した複数コピー発現ベクターもまた開示されている。Fleer 等, Bio/Technology,9:968-975 (1991)。
【0022】
(iv)プロモーター成分
発現及びクローニングベクターは通常は宿主生物体によって認識されポリペプチドをコードする核酸に作用可能に結合しているプロモーターを含む。原核生物宿主での使用に好適なプロモーターは、phoAプロモーター、βラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、及びハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーターを含む。しかし、他の既知の細菌プロモーターも好適である。細菌系で使用するプロモータもまたCD20結合抗体をコードするDNAと作用可能に結合したシャイン・ダルガーノ(S.D.)配列を有する。
真核生物に対してもプロモーター配列が知られている。実質的に全ての真核生物の遺伝子が、転写開始部位からおよそ25ないし30塩基上流に見出されるATリッチ領域を有している。多数の遺伝子の転写開始位置から70ないし80塩基上流に見出される他の配列は、Nが任意のヌクレオチドであるCNCAAT領域である(配列番号:3)。大部分の真核生物遺伝子の3'末端には、コード配列の3'末端へのポリA尾部の付加に対するシグナルであるAATAAA配列がある(配列番号:4)。これらの配列は全て真核生物の発現ベクターに適切に挿入される。
【0023】
酵母宿主と共に用いて好適なプロモーター配列の例としては、3-ホスホグリセラートキナーゼ又は他の糖分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオセリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。
他の酵母プロモーターは、成長条件によって転写が制御される付加的効果を有する誘発的プロモーターであり、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝と関連する分解性酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用を支配する酵素のプロモーター領域である。酵母の発現に好適に用いられるベクターとプロモータは欧州特許第73657号に更に記載されている。また酵母エンハンサーも酵母プロモーターと共に好適に用いられる。
【0024】
哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからのポリペプチドの転写は、例えば、ポリオーマウィルス、伝染性上皮腫ウィルス、アデノウィルス(例えばアデノウィルス2)、ウシ乳頭腫ウィルス、トリ肉腫ウィルス、サイトメガロウィルス、レトロウィルス、B型肝炎ウィルス、及び最も好ましくはサルウィルス40(SV40)などのウィルスのゲノムから得られるプロモーター、又は異種性哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターによって、このようなプロモーターが宿主細胞系に適合し得る限り、調節される。
SV40ウィルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点を更に含むSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウィルスの最初期プロモーターは、HindIII E制限断片として簡便に得られる。ベクターとしてウシ乳頭腫ウィルスを用いて哺乳動物宿主中でDNAを発現させる系が、米国特許第4419446号に開示されている。この系の変形例は米国特許第4601978号に開示されている。また、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの調節下でのマウス細胞中でのヒトβインターフェロンcDNAの発現について、Reyes等, Nature, 297:598-601(1982)を参照のこと。あるいは、ラウス肉腫ウィルス長末端反復をプロモーターとして使用することができる。
【0025】
(v)エンハンサーエレメント成分
より高等の真核生物によるこの発明のポリペプチドをコードしているDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによってしばしば増強される。哺乳動物遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、真核細胞ウィルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例としては、複製起点の後期側のSV40エンハンサー(100−270塩基対)、サイトメガロウィルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウィルスエンハンサーが含まれる。真核生物プロモーターの活性化のための増強要素については、Yaniv, Nature, 297:17-18 (1982)もまた参照のこと。エンハンサーは、CD20結合抗体コード配列の5'又は3'位でベクター中にスプライシングされうるが、好ましくはプロモーターから5'位に位置している。
【0026】
(vi) 転写終結成分
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)に用いられる発現ベクターは、また転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列を含む。このような配列は、真核生物又はウィルスのDNA又はcDNAの5'、時には3'の非翻訳領域から一般に取得できる。これらの領域は、CD20抗体をコードするmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含む。一つの有用な転写終結成分はウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。国際公開第94/11026号とそこに開示された発現ベクターを参照のこと。
【0027】
(vii) 宿主細胞の選択及び形質転換
ここに記載のベクター中のDNAをクローニングあるいは発現させるために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びバシリ・リチェフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開された DD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなく例示的なものである。
【0028】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、CD20結合抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能でここで使用できる、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(EP402226);ピチアパストリス(EP183070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(EP244234);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属宿主、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビが使用できる。
【0029】
グリコシル化ポリペプチドの発現に適切な宿主細胞は、多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質転換に使用できる。
綿花、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、及びタバコのような植物細胞培養をまた宿主として用いることができる。
【0030】
しかしながら、興味は脊椎動物細胞に最もあり、培地での脊椎動物細胞の増殖(組織培養)は常套的な手順となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1細胞株(COS-7、ATCC CRL1651);ヒト胚性腎臓細胞株(293細胞又は懸濁培養のためにサブクローニングされた293細胞、Graham等, J. Gen Virol. 36:59 (1977));幼体ハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカのミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頚癌細胞(HELA、ATCC CCL2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファロラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather等, Annals N.Y. Acad. Sci. 383: 44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及び、ヒト肝腫瘍細胞株(Hep G2)である。
宿主細胞は、ポリペプチド生産のために上述の発現又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードしている遺伝子を増幅するために適切に修飾された常套的栄養培地で培養される。
【0031】
(viii)宿主細胞の培養
本発明のCD20結合抗体を産生するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(Sigma)、最小必須培地((MEM), Sigma)、RPMI-1640(Sigma)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM), Sigma)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980)、米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;同4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された何れの培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地には何れもホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、又は表皮増殖因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCINTM薬)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は等価なエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について過去に用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0032】
C.トランスジェニック動物の産生
本発明のトランスジェニック動物を産生する方法は当該分野でよく知られている(一般には、Gene Targeting: A Practical Approach, Joyner編, Oxford University Press, Inc.(2000)を参照のこと)。一実施態様では、トランスジェニックマウスの産生は、場合によってはマウスVEGFを破壊し、マウスゲノムの、好ましくは内因性VEGFと同じ位置に、ヒト又はヒト化VEGFをコードする遺伝子を導入することを含みうる。本発明のある実施態様によれば、ヒトVEGFの特定のアミノ酸がマウスVEGF中に導入されたトランスジェニックマウスモデルが生産される(例えばヒトVEGF、hum−I VEGF、hum−X VEGF等)。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、好ましくは動物の生殖系列中に導入遺伝子を導入することによって産生される。様々な発達段階の胚性標的細胞を用いて導入遺伝子を導入することができる。胚性標的細胞の発達段階に応じて異なった方法が使用される。この発明を実施するために使用される任意の動物の特定の系統は全体的な良好な健康、良好な胚収量、胚における良好な前核可視性、及び良好な生殖適合性について選択される。トランスジェニックマウスが産生されることになる場合、C57BL/6又はC57BL/6×DBA/2F1のような株、又はFVB系統がしばしば使用される(Charles River Labs, Boston, Mass., The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME又はTaconic Labsから商業的に取得される)。トランスジェニックマウスへヒト腫瘍細胞を導入するためにヌードマウスを用いてもよい。ヌードマウスの飼育と維持は、マウスが感染や疾患に罹りやすいために更に難しい。
【0033】
胚中への導入遺伝子の導入は当該分野で知られた任意の手段、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション又はリポフェクションによって達成することができる。例えば、導入遺伝子は、受精哺乳動物卵の前核中にコンストラクトをマイクロインジェクションすることによって発達中の哺乳動物の細胞にコンストラクトの一又は複数のコピーを保持させることができる。受精卵中への導入遺伝子コンストラクトの導入後に、変動時間量の間、卵をインビトロでインキュベートするか、又は代理宿主中に再移植するか、又は双方を実施することができる。成熟するまでのインビトロでのインキュベーションはこの発明の範囲内である。一つの一般的な方法は、種に応じて約1−7日インビトロで胚をインキュベートし、ついでそれを代理宿主中に再移植することである。
再移植は標準的な方法を使用して達成される。通常、代理宿主を麻酔し、胚を卵管中に挿入する。特定の宿主中に移植される胚の数は種によって変化するが、通常は、その種が天然に産生する子孫の数に匹敵する。
【0034】
レトロウイルス感染もまた非ヒト動物中に導入遺伝子を導入するために使用することができる。発達中の非ヒト胚を胚盤胞期までインビトロで培養することができる。この期間中、割球がレトロウイルス感染の標的でありうる(Jaenich, R. (1976) PNAS 73:1260-1264)。割球の効果的な感染は透明帯を取り除く酵素処理によって得られる(Manipulating the Mouse Embryo, Hogan編 (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1986)。導入遺伝子を導入するために使用されるウイルスベクター系は典型的には導入遺伝子を担持する複製欠陥性レトロウイルスである(Jahner等 (1985) PNAS 82:6927-6931; Van der Putten等 (1985) PNAS 82:6148-6152)。形質移入は、ウイルス産生細胞の単層上で割球を培養することによって簡単かつ効果的に得られる(上掲のVan der Putten; Stewart等 (1987) EMBO J. 6:383-388)。あるいは、感染は後の段階で実施することができる。ウイルス又はウイルス産生細胞を割腔中に注入することができる(Jahner等 (1982) Nature 298:623-628)。殆どのファウンダー(起源物)は、トランスジェニック非ヒト動物を形成した細胞のサブセットにのみ取り込みが生じるので、導入遺伝子に対してモザイクである。更に、ファウンダーは子孫で一般に分離するゲノム中の異なった位置に導入遺伝子の様々なレトロウイルス挿入を含みうる。また、中期妊娠期間胚の子宮内レトロウイルス感染によって生殖系列中に導入遺伝子を導入することもできる(上掲のJahner等(1982))。
【0035】
導入遺伝子導入のための標的細胞の第三のタイプは胚性幹細胞である。導入遺伝子はDNA形質移入によるか又はレトロウイルス媒介形質導入によってES細胞中に効率的に導入することができる。そのような形質転換ES細胞をついで非ヒト動物からの胚盤胞と組み合わせることができる。その後、ES細胞は胚とコロニー形成し、得られるキメラ動物の生殖系列に寄与する。
本発明の一実施態様では、非ヒト宿主の内因性VEGF遺伝子は、異種VEGF遺伝子が内因性VEGF遺伝子をそれぞれ実質的に置換し、好ましくは内因性VEGF遺伝子のコード化配列を完全に置換するように、異種ヒト化VEGF(完全にヒトVEGFを含む)の相同組込みによって機能的に破壊される。好ましくは、異種ヒト化VEGF遺伝子は、相同組込みの結果として、異種遺伝子が内因性VEGF遺伝子座から調節エレメントの転写制御下で発現されるように、内因性VEGF遺伝子の制御配列(例えばエンハンサー/プロモーター)に結合する。そのような置換対立遺伝子体に対してホモ接合性である非ヒト宿主はここに記載の方法によって生産することができる。そのようなホモ接合性非ヒト宿主は一般に異種ヒト化VEGFを発現するが、内因性VEGFタンパク質を発現しない。通常、異種ヒト化VEGF遺伝子の発現パターンは、天然に生じる(非トランスジェニック)非ヒト宿主における内因性VEGF遺伝子の発現パターンを実質的に模倣する。
例えば、内因性マウスVEGF遺伝子配列の代わりにヒトVEGF遺伝子配列を有し、内因性マウス制御配列によって転写制御されるトランスジェニックマウスを産生させることができる。一般にヒト化VEGFは、天然に生じる非トランスジェニックマウスにおけるマウスVEGFと同様にして発現される。
【0036】
一般に、置換タイプのターゲティングコンストラクトが相同遺伝子置換に用いられる。ターゲティングコンストラクトの内因性VEGF遺伝子配列間の二重クロスオーバー相同組換えにより、異種VEGF遺伝子セグメントの標的組込みが生じる。通常、導入遺伝子の相同性標的領域は内因性VEGF遺伝子セグメントに隣接する配列を含むので、相同組換えは、内因性VEGFの同時欠失と異種遺伝子セグメントの相同組込みを生じせしめる。実質的に、内因性VEGF遺伝子の全体を、単一ターゲティング事象によるか又は複数ターゲティング事象によって(例えば、個々のエキソンの逐次の置換)異種VEGF遺伝子で置き換えることができる。通常はポジティブ又はネガティブ選択発現カセットの形態の、一又は複数の選択マーカーをターゲティングコンストラクトに位置させることができる。通常は、選択マーカーが異種置換領域のイントロン領域に位置しているのが好ましい。
【0037】
導入遺伝子ヒト化VEGFを有するトランスジェニック動物は、他の動物と交雑させることができる。一実施態様では、トランスジェニックマウスはヒトVEGFを含み、マウスRAG2を欠く。調製方法は、所望のノックアウトコンストラクト又は導入遺伝子の一つをそれぞれが含む一連の哺乳動物を産生することである。そのような哺乳動物を、一連の交雑、戻し交雑及び選択を通して育種し、最終的に、あらゆる所望のノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子を含む単一の哺乳動物を産生するが、ここで、その哺乳動物はノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子が存在することを除くと野生型とその他の点でコンジェニック(遺伝的に同一)である。
典型的には、交雑及び戻し交雑は、飼育過程の各特定の工程の目標に応じて、同胞又は親系統を子孫と交配させることによって達成される。ある場合には、適切な染色体位置にノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子のそれぞれを含む単一の子孫を産生するためには、多数の子孫を産生することが必要である場合がある。また、所望の遺伝子型を最終的に得るには数世代にわたって交雑又は戻し交雑を行う必要がある場合がある。
【0038】
D.導入遺伝子の存在の確認
代理宿主のトランスジェニック子孫を、所望の組織、細胞又は動物中での導入遺伝子の存在及び/又は発現について任意の好適な方法によってスクリーニングすることができる。スクリーニングは、しばしばサザンブロット又はノーザンブロットによって、少なくとも導入遺伝子の一部に相補的であるプローブを用いて達成される。導入遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析法は、導入遺伝子産物の存在をスクリーニングする代替の又は更なる方法として用いることができる。典型的には、DNAを尾の組織から準備し、導入遺伝子についてサザン分析法又はPCRによって分析する。あるいは、最も高いレベルで導入遺伝子を発現すると思われている組織又は細胞が、サザン分析法又はPCRを用いて導入遺伝子の存在及び発現について試験されるが、任意の組織又は細胞型をこの分析に使用することができる。
導入遺伝子の存在を評価するための別の又は更なる方法は、限定するものではないが、好適な生化学アッセイ、例えば酵素及び/又は免疫学的アッセイ、フローサイトメトリー分析等々を含む。
【0039】
E.トランスジェニック動物の用途
本発明のトランスジェニック動物は、ヒトにおけるVEGFの発現及び機能のモデルを表す。従って、これらの動物はVEGFの機能と関連する事象の背後にある機構を研究し、癌や他の血管新生関連症状を含むVEGF関連ヒト疾患を治療し診断するのに有用な生成物(例えば抗体、二重特異性体、多重特異性体等々)を産生し試験するのに有用である。
ある実施態様では、遺伝子組換え的に発現されるヒト化VEGFはヒトにおいて示されるものと同様の機能特性を保持している。例えば、異種ヒト化VEGFは動物の相同VEGFを機能的に置換し、また抗ヒトVEGF抗体によって認識される。従って、一実施態様では、本発明のトランスジェニック動物は、例えばヒトヒトVEGFの領域のような標的エピトープへの結合について、例えば抗体、多重又は二重特異的分子、イムノアドヘシンのような薬剤を(例えばヒトの安全性と効能について)試験するために使用される。他の薬剤は、Fc領域を伴うか伴わない抗体の抗原結合断片、単鎖抗体、ミニボディ(minibodies)(重鎖のみの抗体)、多量体抗ヒトVEGF抗原結合領域の一つを伴うヘテロ多量体イムノアドヘシンを含み得る。他の薬剤は、低分子VEGFアンタゴニストを含みうる。従って、本発明は、VEGF関連疾患を治療することができる薬剤を同定する方法を提供する。
【0040】
本発明の非ヒトトランスジェニック動物は更にヒトに投与される特定の薬剤の安全性の指標を提供し得る。例えば、ヒト化抗体又は他の薬剤をトランスジェニック動物に投与することができ、動物への薬剤の投与の結果としてのあらゆる毒性又は有害作用を、インビボでのヒトへの使用のための薬剤又はヒト化抗体の安全性と耐容性の指標としてモニターすることができる。短期間ベースで生じうる有害事象には、頭痛、感染、発熱、悪寒、痛み、吐き気、無気力、咽頭炎、下痢、鼻炎、注入反応、及び筋肉痛が含まれる。短期の有害事象は治療後何日間かしばらく測定される。長期の有害事象には、ある細胞型の細胞傷害性、出血事象、免疫及び/又はアレルギー反応によるメディエータの放出、免疫系の阻害及び/又は抗治療剤抗体の発生、終末器官毒性、及び感染又は悪性腫瘍の発生増加が含まれる。長期の有害事象は治療後何週間又は何ヶ月間も測定される。
【0041】
本発明の他の態様は、抗VEGF薬剤の効能を決定する方法を含む。効能は、ある範囲の用量の薬剤を、ヒト化VEGFを有するトランスジェニック動物群に投与し、所望の効果を示す少なくとも一の用量を決定することによって、決定することができる。
細胞、組織又はそれらから誘導される他の材料を含む本発明のトランスジェニック動物は、疾患、特にVEGFに関連し又はそれに媒介される疾患のモデルとして利用することができる。限定するものではないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、マイクロブタ、ヤギ及び非ヒト霊長類、例えばヒヒ、サル及びチンパンジーを含む任意の種の動物を用いて疾患動物モデルを産生することができる。これらの系は様々な用途に使用することができる。そのようなアッセイは、例えば疾患の徴候を軽減することができる化合物のような薬剤を同定するために設計されるスクリーニング方策の一部として利用することができる。よって、動物及び細胞ベースのモデルを用いて、薬剤、医薬、疾患の治療に効果的でありうる治療法及び介入を同定することができる。
【0042】
細胞ベース系は疾患の徴候を軽減するように作用する可能性のある化合物を同定するために使用することができる。例えば、そのような細胞系は疾患の徴候を軽減する能力を示すと思われる化合物に、暴露された細胞に疾患徴候のそのような軽減を誘発するのに十分な濃度で十分な時間の間、暴露することができる。暴露後に、細胞を検査して、疾患細胞表現型の一又は複数が改変されて、より正常な又はより野生型の非疾患表現型に似ているかどうかを決定する。
他の用途は当業者には直ぐに明らかであろう。
以下の非限定的な実施例は本発明を例示するものである。
【実施例】
【0043】
実施例1
この実施例はヒト化VEGF及びそれを発現するトランスジェニック(Tg+) マウスの生産を記載する。
ベバシズマブはヒトVEGFに結合するがマウスVEGFには結合しない。部位特異的突然変異誘発と組み合わせた、X線構造データにより、ベバシズマブと直接接触しているVEGF−Aのエキソン3及び4内に位置する3つの異なった領域が同定された。これらの接触の大部分は、N末端ヘリックスの2の更なる残基及び界面縁で相互作用するα1−β2ループ(およそ残基40)と共に、β5−β6ループの残基(およそ残基80)によって形成されている(Muller等 PNAS 94:7292-97 (1997), Muller等 Structure 6:1153-67 (1998)) (図1A)。一つの残基を除いて、ベバシズマブと接触しているヒトVEGFのアミノ酸の全てはマウスVEGFにおいて保存されている。非保存残基であるヒトGly88はマウスVEGF配列のSer87に対応し、タンパク質:抗体界面のコア中に位置している。ベバシズマブ−Fabと複合体を形成しているヒトVEGF−Aの結晶構造は、両分子間の界面が密に充填されていることを明らかにした。マウスVEGF中に存在しているセリン側鎖のモデル化により、Gly88→Ser交換によって導入される2つの更なる非水素原子を収容する十分な空間がないことが明らかにされている。 過去の研究では、ヒトVEGF−Aにおけるグリシン88からアラニンへの変異(Gly88Ala)により、ベバシズマブのマウス前躯体Mab A.4.6.1の結合が大幅に低減されたことが証明されている (Muller等 Structure 6:1153-67 (1998))。これらの知見は、マウスVEGFにおける単一の変異Ser87Gly がA.4.6.1への結合とそれによる中和を回復するのに十分であるかもしれないことを示唆している。しかしながら、複合体の結晶構造と変異誘発分析が、切断型VEGF−A変異体(8−109)を使用して実施された(Muller等 Structure 6:1153-67 (1998))。従って、ベバシズマブによる天然VEGF−Aの結合性に対するVEGF8−109に存在しない他の残基の寄与は未知であった。更に、ファージ由来抗体、例えばG6(G6−31)又はB20−4は更なる非保存残基に接触することが知られていた(Fuh等 J. Biol. Chem. 281:6625-31 (2006))。これらの知見は、更なる抗体によって認識されうるヒト化マウスVEGF−Aをまたより広範に設計することを我々に促し、よってVEGFシグナル伝達を標的とするより広範な治療用化合物を我々が試験することを可能にする。従って、我々は、「ヒト化」VEGF−Aタンパク質の2つの型を産生した。ベバシズマブの結合に重要な単一のser87gly変異を含む一つの変異体(hum−I VEGF)と、マウス及びヒトVEGF−A間で異なるレセプター結合ドメイン中の10の残基がヒト配列の各アミノ酸によって置き換えられている第二の型hum−X VEGF(図1A)である。よって、シグナル配列を含む、hum−I VEGFとhum−X VEGFの配列は次の通りである:
hum−I VEGF(配列番号11):
MNFLLSWVHWTLALLLYLHHAKWSQAAPTTEGEQKSHEVIKFMDVYQRS 22
YCRPIETLVDIFQEYPDEIEYIFKPSCVPLMRCAGCCNDEALECVPTSES 72
NITMQIMRIKPHQGQHIGEMSFLQHSRCECRPKKDRTKPENHCEPCSERR 122
KHLFVQDPQTCKCSCKNTDSRCKARQLELNERTCRCDKPRR 164
hum−X VEGF(配列番号12):
MNFLLSWVHWTLALLLYLHHAKWSQAAPTTEGEQKSHEVIKFMDVYQRS 22
YCHPIETLVDIFQEYPDEIEYIFKPSCVPLMRCGGCCNDEGLECVPTEES 72
NITMQIMRIKPHQGQHIGEMSFLQHNKCECRPKKDRARQENHCEPCSERR 122
KHLFVQDPQTCKCSCKNTDSRCKARQLELNERTCRCDKPRR 164
【0044】
我々は先ずhum−X VEGFがVEGFの正常な機能を保持しているかどうかを試験した。組換え型hum−X VEGF、野生型ヒト及びマウスVEGF−Aタンパク質を大腸菌中で発現させ精製した。hum−X VEGFを発現する細菌細胞からのペレットを、Polytron(登録商標)ホモジナイザーを用いて10容量の25mMのトリス、5mMのEDTA(pH7.5)に再懸濁させた。該細胞懸濁液をMicrofluidizer(登録商標)(Microfluidics International)に通すことによって細胞を溶解し、溶液を遠心分離によって清澄にした。ペレットを、7Mの尿素、50mMのHepes、10mMのDTT(pH8)を含む抽出バッファーに再懸濁させ、溶液を室温で1時間撹拌した。溶液を33000×gで30分遠心分離して、不溶性の細胞片を取り除き、変性され還元されたhum−X VEGFを含む上清をリフォールディングバッファー(1Mの尿素、50mMのHepes、15mg/Lの硫酸デキストラン8000、0.05%のトリトン(登録商標)X−100、pH8.2)で10倍に希釈した。リフォールディング混合物を室温で一晩撹拌した後、遠心分離して沈殿したタンパク質を除いた。硫酸アンモニウムを1Mまで加えた後、1Mの硫酸アンモニウム、25mMのトリス(pH7.5)で平衡にしたフェニルTSKカラムに混合物を充填した;hum−X VEGFを、このバッファー中において0Mまで減少する硫酸アンモニウム勾配で溶離させた。hum−X VEGF含有画分をプール化し、分取C4逆相カラム(Vydac)で更に精製した。二量体hum−X VEGFを含む画分をプールし、凍結乾燥させた。
【0045】
我々は、天然ヒトVEGF−A、マウスVEGF−A、及びhumX VEGFタンパク質に対するベバシズマブ及び3種の第二世代抗ヒトVEGF抗体の相対的親和性を決定した。抗体結合親和性は、BIAcore(商標)−3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を用いる表面プラズモン共鳴(SRP)測定によって試験した。カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.) を、供給者の指示に従って、N−エチル−N'−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化させた。ヒトVEGF−A、マウスVEGF−A及びhum−X VEGFを固定化して、およそ60の応答単位(RU))を達成した。IgG(0.78−500nM)の二倍希釈体を37℃で25μl/分の流量で0.05%Tween(登録商標)20(PBST)を含むPBSで注射した。会合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる一対一ラングミュア結合モデル(BIAcore Evaluationソフトウエアバージョン3.2)を用いて、会合速度(kon)及び解離速度(koff)を算出した。平衡解離定数(Kd)は比koff/konとして誘導した。
【0046】
我々が仮定したように、マウスVEGF−Aへの10のヒトアミノ酸の置換により、試験した全ての抗ヒトVEGF−A Mabsによって認識されるタンパク質が得られ、これは野生型ヒトVEGF−Aに対する親和性が少ししか変わらなかった(表1;各測定値は<20%の変動の3回の独立したアッセイの平均を表す)。
【0047】
次に、我々は培養中の一次内皮細胞の増殖を刺激する各VEGF−A変異体の作用強度を評価した。増殖培地(10%の仔ウシ血清、2mMのグルタミン、及び抗生物質を補填した低グルコースDMEM)に、96ウェルプレート中でウェル当たり500細胞の密度で、ウシ網膜毛細血管内皮細胞を播種した。6−7日後、細胞増殖を、アラマーブルーTM(BioSource)を用いてアッセイした。蛍光を、530nmの励起波長及び590nmの発光波長でモニターした。
HuVEGF−A、muVEGF−A及びhum−X VEGFはそれぞれ1.5、0.6及び0.9ng/mlの最大半量濃度でウシ毛細血管内皮細胞増殖を刺激した。同様の結果がHUVEC細胞で得られた。これらの知見は、インビトロでのEC増殖の刺激において、hum−X VEGF変異体が野生型ヒト及びマウスVEGF−Aタンパク質のものに匹敵する作用強度を有していることを示していた。
【0048】
最後に、我々は、様々な組換えVEGF−Aタンパク質によって誘導される内皮細胞増殖を妨害する様々な抗VEGF−A抗体の作用強度を比較した。阻害アッセイでは、VEGFの添加前に抗体を示した濃度で先の実験に加え、0.1−1時間後に、hVEGF−A、mVEGF−A又はMutXを、6ng/mLの最終濃度になるまで加えた。IC50値はKaleidaGraph(登録商標)を用いて計算した。予想されたように、ベバシズマブとY0317はマウスVEGF−Aのブロックに失敗したが、残りのリガンド/抗体対のIC50値は抗体親和性とよく相関していた(表2;示されているデータは20%未満で変動した3通りの実験からの平均である)。
これらのデータから、hum−X、野生型ヒト及び野生型マウスVEGF−Aタンパク質が匹敵する生物学的及び生化学的性質を有しており、野生型ヒトVEGF−Aに対するhum−X変異体を妨害する抗体の能力は野生型ヒトタンパク質に対するその各親和性と相関することが確認された。
【0049】
実施例2
この実施例はhum−X VEGFを発現するトランスジェニック(Tg+)マウスの産生を記載する。
hum−X VEGF及び野生型マウスVEGF−Aのほぼ同等性をインビトロで確立したので、我々は、マウス生殖系中に1又は10のヒトアミノ酸を導入するために遺伝子ターゲティングベクターの作製を進めた(図1F;それぞれhum−I VEGF及びhum−X VEGF)。マウスVEGF−Aのエキソン3、4及び5からなるVEGF−Aに対するゲノムターゲティングベクター内の10アミノ酸(Gerber等 Development 126:1149-59(1999))をマウスからヒト配列へ変異させた。エキソン3、4及び5内に位置する残基の部位特異的変異誘発では、次のオリゴヌクレオチドを使用した:
エキソン3に対して、
エキソン3-R/H:AGCGAAGCTACTGCCATCCGATTGAGACC (配列番号5)、
エキソン3-A/G,A/G:TGATGCGCTGTGGAGGCTGCTGTAACGATGAAGGCCTG (配列番号6)、
エキソン:3-A/G,S/E:TGTAACGATGAAGGCCTGGAGTGCGTGCGTGCCCACGGA AGAGAGCAAC (配列番号7)。
エキソン4に対して
エキソン4-S/G: ATCAAACCTCACCAAGGCCAGCACATAGGAGAGATG (配列番号8)、
エキソン4-S/N, R/K: TGAGCTTCCTACAGCACAACAAATGTGAATGCAGGTG (配列番号9)、
エキソン5-T/A,K/R,P/Q:TGCAGACCAAAGAAAGACAGAGCACGGCAAGAAA AGTAAGTGG (配列番号10)。
【0050】
対応するアミノ酸配列は、muVEGF−R26H、A57G、A64G、S71E、S87G、S99N、R100K、T110A、K111R、P112Qである。ES細胞における正確な組換え事象は、過去に記載されているようにして、PCR分析によって同定し、サザンブロット法によって確認した。簡単に述べると、正確に標的化されたES細胞では、Lox−P部位に隣接するネオマイシン耐性マーカーが、Creリコンビナーゼの一過性発現によって欠失させられた。正確なゲノム組換え産物をゲノムPCRによって同定し、3’及び5’フランキング領域のサザンブロットによって確認した。ELISA実験によって、標的ES細胞の条件培地中に存在するA4.6.1からhum−X VEGFタンパク質への結合を確認した。また、選択されたES細胞クローンから単離されたゲノムDNAをEcoRIで消化させ、正確な組換え事象を調べるために、過去に記載されているようなサザンブロット法(上掲のGerber等(1999))とゲノム配列決定によって分析した。loxPが導入されたVEGF対立遺伝子を含む3種の異なった親のES細胞クローンの一つの誘導体を用いて、3.5日のC57BL/6N胚盤胞の胞胚腔中へのマイクロインジェクションによりキメラマウスを生産した(Hogan等 Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press (1994))。キメラ雄をC57BL/6N雌に交配し、アグーチ子孫を、過去に記載されているようにしてloxP−1及びloxP−3を含むVEGF対立遺伝子についてのPCR解析により生殖系列伝達についてスクリーニングした。胚性幹細胞(ES)中での正確な組換え事象は、サザンブロット実験、ゲノムPCR、ゲノム配列決定により、また標的化ES細胞中のVEGF−A発現のELISAによる決定により確認した。
>500nノックイン(ki)マウスの遺伝子型頻度解析により、ホモ接合体単一変異体又は10アミノ酸変異体(hum−X VEGF)マウスの予想されたメンデル比が明らかになり、一年の観察期間中における成体マウスの生存率及び生存期間に変化は見出されなかった。双方の系統の正常な発達と生存率に基づいて、我々は、より広範にヒト化したhum−X VEGFkiマウスにおいて全ての更なる実験を実施することを決定した。
【0051】
実施例3
この実施例は薬物動態及び治療剤評価のためのトランスジェニックhum−X VEGFの使用を実証する。
組換えマウスVEGF−A及びマウス及びヒトVEGFR1及びVEGFR2タンパク質はR&Dシステムズから購入した。組換えヒトVEGF−A(165アミノ酸アイソフォーム)はジェネンテックにおいて大腸菌から精製した。125−I−VEGF−AはAmershamから購入した。
Y0317、G6−31及びB20−4.1 Mabsはヒト(化)Fabファージライブラリーから記載されているようにして(Liang等 J. Biol. Chem. 281:951-61 (2006))誘導した。完全長ヒト抗体(hY0317等)は、これらのFabsからのVH及びVL可変ドメインをヒトIgG1(カッパ)の定常ドメインにグラフトさせることによって生産した。免疫適格性マウスにおける長期の投与又はコントロール実験においては、完全長逆キメラマウス抗体を、マウスIgG2a(カッパ)の定常ドメインへVH及びVL可変ドメインをグラフトさせることによって生産した。
フリーの抗VEGF−A抗体を決定するためのVEGF−Aコートの構成。MaxiSorpTMの96ウェルのELISAプレート(Nunc, Roskilde, Denmark)を、50mMの炭酸ナトリウム(pH9.6)中の0.5μg/mlのVEGF−A165で100μl/ウェルにて一晩被覆した。プレートを、0.05%のポリソルベート20を含むPBSで洗浄し、PBS中の150μl/ウェルの0.5%ウシ血清アルブミン、10ppmのプロクリン(登録商標)300(Hyclone, Logan, UT)を用いて室温で1時間ブロックした。PBS,pH7.4(サンプルバッファー)に入った0.05%のBSA、0.2%のウシμ−グロブリン(Sigma, St. Louis, MO)、0.25%のCHAPS、5mMのEDTA、0.35MのNaCl、0.05%のポリソルベート20中の標準(0.0625−8ng/mlの抗VEGFマウスIgG2a、抗VEGFヒトIgG1、又はトラップ−ヒトIgG1)の2倍連続希釈物及びサンプル(最小1:20希釈)をプレートに100μl/ウェルで添加した。プレートを室温で2時間インキュベートし、洗浄した。結合したマウスIgG2a抗体及びヒトIgG1抗VEGF−A抗体を、100μl/ウェルの抗マウスIgG2a−HRP(Pharmingen, San Diego, CA)及び抗ヒトFcHRP(Jackson ImmunoResearch, West Grove, Pennsylvania)をそれぞれ加えることによって、検出した。1時間のインキュベーション後に、プレートを洗浄し、基質3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(Kirkegaard and Perry Laboratories, MD)を加えた(ウェル当たり100μl)。反応を、1MのH3PO4(100μl/ウェル)を添加して停止させた。SpectraMax(登録商標)250マイクロプレートリーダー(Molecular Devices Corp., CA)を使用して450nmで吸光度を読み取った。滴定曲線は、4−変数非線形回帰カーブフィッティングプログラム(KaleidaGraph(登録商標), Synergy software, Reading, PA)でフィッティングさせた。標準曲線の範囲内のデータポイントを使用してサンプル中の抗VEGF−A抗体濃度を計算した。
【0052】
我々は、ホモ接合型hum−X VEGF kiマウス及び野生型(hum−X VEGF野生型)コントロール同腹仔における単一の静脈内投与後に、ベバシズマブ、Y0317、及びhG6−31のクリアランスを比較した。hum−X VEGF kiマウスにおけるベバシズマブの全身クリアランスは、hum−X VEGF 野生型コントロール同腹仔において観察されたよりも約3倍速かった。また、双方の高親和性Mabs(Y0317、G6−31)のクリアランスは、hum−X VEGF kiマウスにおけるベバシズマブに対して約3倍増加した。しかしながら、G6−31のクリアランスは、野生型及びhum−X VEGF kiマウス間で同様であり、それが双方の種に対して交差反応性であることと一致している。単一の抗体用量後に観察された親和性に相関したクリアランス速度と異なり、2から10週間の週二回の抗体投与は、血清中の匹敵するレベルの循環抗体に関連していたが、抗体エピトープ又は親和性間の相関は見出せなかった。我々は、単一及び複数用量実験間の抗体血清レベルの矛盾は、シンクとして作用するVEGF−Aを結合した細胞表面又は細胞外マトリックス(ECM)への高親和性Mabsの迅速な結合により、かかるメカニズムは投薬の繰り返し時に飽和しうると仮定した。
【0053】
免疫無防備状態のRAG2 ko;hum−X VEGF ki二重ホモ接合型マウスを、hum−X VEGF het雌(B6.129)をRag2.ko雄{B6(H2b)(Taconic, #RAGN12-M)}に交配させることによって生産した。二重ヘテロ接合型動物を交配して二重ホモ接合型hum−X VEGF.ki;Rag2.ko動物を生産した。系統は二重変異体育種セットとして維持した。これらを用いて、Calu−6(肺癌)、HT29又はHM7(結腸直腸癌)腫瘍異種移植片の増殖を阻害するベバシズマブ、hY0317、hG6−31及びhB20−4.1の作用強度及び効果を評価した。図2に示されるように、毎週2回5mg/kgの用量で投与された場合、ベバシズマブ及びhY0317は、VEGF−Aに対してその相対的結合親和性が有意に異なるにもかかわらず、ヒトCalu−6肺癌腫瘍の増殖を同様の度合いで妨害した。同様に、B20−4.1及びG6−31は、Calu−6肺癌細胞の増殖の阻害において等しく効果的であった(図2A、2B)。同様の応答が、HM7腫瘍において抗体を試験した場合に観察された(図2C、2D)。腫瘍介入実験の大部分において、腫瘍細胞の移植の3日後に抗VEGF抗体を投与した場合、ベバシズマブ又はY0317よりもB20−4.1及びG6−31 Mabsによる腫瘍増殖阻害の方が改善される傾向があることに気づいた(例えば図2A−D)。これらの知見は、結合親和性の増加だけでは腫瘍異種移植研究における効能を改善するのに不十分であり、抗VEGF−A抗体によって認識されるエピトープは治療効果を決定する際に所定の役割を担っているかもしれないことを示唆している。低用量(毎週二回0.5mg/kg)の投与は高親和性及びインビトロでの作用強度に関連した明確な利点を示さなかった。実際、この用量では、最も高親和性のMab Y0317は、逆説的に、試験した他のMabsのなかで最も低い度合いの腫瘍増殖阻害となった。
【0054】
最後に、我々は既に樹立された腫瘍の退縮を誘導する抗VEGF−A抗体の能力を試験した。ヒトHT29(結腸直腸癌)及びCalu−6(肺癌)細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから得た。ヒト結腸直腸癌HM−7細胞株はLS174T(46)の誘導体である。腫瘍細胞は、10%のFBSを補填したDMEM/F12培地での培養で維持した。細胞をコンフルエントになるまで5%のCO2中において37℃で増殖させ、収集し、1ml当たり25×106細胞で滅菌MatrigelTM中に再懸濁させた。5×106細胞/マウスで背側側腹部に皮下注射することにより、6から8週齢の雌のベージュヌードXIDマウスに異種移植を確立し、成長させた。腫瘍が〜400mm3(退縮)又は150−200mm3(介入)の体積に達したところで、0日コントロールとしてコホートを無作為に選択した(n=10)。残りのマウスを10匹のマウスの群に分け、各群について同じ用量で抗体を腹腔内投与した。腫瘍サイズと重さを過去に記載されているようにして(Gerber等 Cancer Res. 60:6253-58 (2000))測定した。この目的のために、我々は、Calu−6(図2E、F)又はHT29腫瘍(図2G、H)を移植したマウスに、腫瘍が〜400mm3の平均サイズに達したところで、ベバシズマブ、hY0317、hB20−4.1及びhG6−31を投与した。全ての抗体は腫瘍増殖を強力に抑制し、退縮設定において同様の効果を示した。しかしながら、介入実験からの知見と同様に、Mabs B20−4.1及びG6−31の効能増加の傾向があった。
【0055】
実施例4
この実施例は、VEGF指向治療法の安全性を試験するためのhum−X VEGFマウスの使用を実証する。
我々は、3、6又は9ヶ月齢に達したときにhum−X VEGF−kiマウスを長い期間処置した。8から9ヶ月齢のhum−X VEGF−kiマウスを、90日の期間、10mg/kgの抗体で毎週二回IPで処置した。あるいは、毎週一回、5mg/kgをIPで投与した。毎週、体重を評価し、血清を後眼窩の出血から集め、薬物動態及び血液化学分析に回した。体重変化が20%を越えたとき、及び/又は腹水貯留が顕著になったときに、マウスを安楽死させた。
腫瘍組織を、パラフィン包埋の12−16時間前に、10%の中性緩衝ホルマリンで固定した。4−5ミクロン厚の組織片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。マウスVEGF−Aを、R&D Systemsからの0.5マイクログラム/mlのヤギポリクローナル抗体(AF−493−NA)を使用して検出した;再水和させたパラフィン包埋組織を99℃で20分間、続いて室温で20分、標的回収溶液(DAKO, S1700)で処理した。一次抗体を、ビオチン結合ウサギ抗ヤギ,アビジン・ビオチン複合体(Vectastain(登録商標)Elite ABC, Vector Labs)及び金属増強ジアミノベンジジン(Pierce)で検出した。補体C3は、FITC結合抗補体F(ab’)2(Cappel Labs)を使用する凍結片に対する直接免疫蛍光法によって検出した。抗VEGFモノクローナル抗体は、FITC結合ウサギ抗ヒトFc(Jackson Immunoresearch)を使用する直接免疫蛍光法によって検出した。メタクリレート包埋した1ミクロン厚の切片を基底膜についてトルイジンブルー又はジョーンズ銀染色で染色した。超薄切片を酢酸ウラニル/クエン酸鉛で染色し、フィリップスのCM12 透過型電子顕微鏡で調べた。抗体をhum−X VEGF kiマウスに12連続週の間、低用量(5mg/kg、IP、毎週一回)又は高用量(10mg/kg、IP、毎週二回)で投与した。より高親和性のMabsでの処置には頻繁に腹水の形成が伴ったが、これは用量依存的であった。効果は毎週<5mg/kgの用量では希であったが、より高用量では頻繁であった。これに対して、低親和性のA4.6.1又はmB20−4.1 Mabsの投与では、腹水形成は生じなかった。84−90日(A4.6.1、B20−4.1、G6−31)又は動物が瀕死状態になったときとき(Y0317)における血清化学及び尿分析により、肝臓及び腎臓の損傷と一致して、ALT、AST及びBUNレベルの増加が明らかになった。
【0056】
全ての主要な器官の組織分析では、何れの処置群においても心臓、脾臓、膵臓及び肺には有意な変化はなかった。しかしながら、肝臓では微妙な変化があり、腎臓ではより有意な変化があり、何れもより高親和性の高VEGF Mabsでより長い期間処置したマウスにおいて最も顕著であった。抗VEGF抗体で処置された動物では、H&E染色肝臓サンプルが中心静脈に付着した単核細胞数の増加を示す一方、門脈は正常のようであった。付着細胞は、クッパー細胞のマクロファージに一致して、F4/80−及びMAC−2−陽性であった;あるものは貪食赤血球を含んでいた。VEGF−Aの染色の増加が類洞内皮細胞に見られた。直接免疫蛍光法によっては、同じ肝臓サンプルの凍結サンプルでは検出可能な抗VEGF抗体又は補体C3の付着は認められなかった。
【0057】
延長された間隔に対して抗VEGFで処置された動物の腎臓は糸球体硬化を示し、これは高親和性抗VEGF抗体で処置された動物において一般により深刻であった。殆どの罹患動物の糸球体は深刻なびまん性全硬化を示した。マウスVEGF−Aに対する免疫染色では、コントロール及び抗VEGF処置動物間に顕著な差異が示された;コントロール糸球体は有足細胞体において中程度のシグナルを示し、ループ状毛細血管では殆ど検出可能なシグナルはなかった。これに対して、抗VEGF処置糸球体は、大まかに言って各抗体の親和性に比例して、増加したメサンギウム及びループ状毛細血管の染色を示した。また、傍髄質糸球体は、同じ動物において対応する末梢皮質糸球体よりもより強く広がった染色を示した。抗ヒトFc直接免疫蛍光は、糸球体において増加した抗VEGF付着(散在性の微細な粒状パターン)を示したが、これは増加した親和性の抗体でより顕著であった。同様に、補体C3染色は、より高親和性の抗VEGF抗体で処置した動物において益々顕著であった。MAC−2免疫組織化学的検査では、抗VEGF処置動物からの糸球体中の単球/マクロファージの有意な浸潤は示されなかった。メタクリレート包埋1ミクロン切片のトルイジンブルー及び銀染色は、パラフィン及び凍結切片からの観察を確認し、メサンギウム細胞性の増加及び天然基底膜とは異なった形で染色材料でのメサンギウムマトリックス及びループ状毛細血管の幅広化を示した。電子顕微鏡検査では、ループ状毛細血管における局所性内皮下沈着、内皮膨張、メサンギウムマトリックス及びメサンギウム細胞数の増加を示した。これに対して、局所的足突起融着がより深刻に罹患した糸球体では明らかであったが、有足細胞の足突起は比較的残されていた。総括すると、これらの知見は糸球体に沈着したVEGF・抗VEGF複合体の存在とほぼ一致している。
【0058】
ここで引用した全ての刊行物(特許及び特許出願を含む)を、あらゆる目的のためにその全体を出典明示によりここに援用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト化VEGFを発現する非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項2】
上記ヒト化VEGFがヒトVEGFである請求項1に非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項3】
上記ヒト化VEGFが、hum−I VEGF(配列番号11)又はhum−X VEGF(配列番号12)である請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項4】
上記動物が齧歯類である請求項1から3の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項5】
上記齧歯類がマウスである請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物から誘導された細胞又は組織。
【請求項7】
hum−I VEGF(配列番号11)又はhum−X VEGF(配列番号12)をコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸分子。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸分子によってコードされるポリペプチド。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸分子を含んでなるベクター。
【請求項10】
請求項7に記載の核酸分子又該核酸分子を含むベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項11】
hum−I VEGF又はhum−X VEGFを生産する方法であって、請求項10に記載の宿主細胞を培養することを含む方法。
【請求項12】
化合物をVEGF媒介疾患を治療するための可能な薬剤として同定する方法であって、
a)請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物におけるVEGFのレベルを測定し;
b)上記化合物を動物に投与し;
c)動物におけるVEGFのレベルを測定する
ことを含み、薬剤の投与後のVEGFのレベルの変化により、化合物がVEGF媒介疾患を治療するための可能な薬剤として同定される方法。
【請求項13】
VEGFアンタゴニストを、ヒトの癌治療のための可能な薬剤として同定する方法であって、
a)請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物に上記薬剤を投与し;ここで、該動物はヒト癌細胞腫瘍異種移植片を有しており;
b)上記異種移植片の増殖をモニターする
ことを含み、上記異種移植片の増殖速度又はサイズの減少により、VEGFアンタゴニストが、ヒトの癌治療のための可能な薬剤として同定される方法。
【請求項14】
VEGFアンタゴニストの安全性を試験する方法において、
a)上記VEGFアンタゴニストを請求項1又は2の動物に投与し;
b)短期又は長期の副作用について動物をモニターする
ことを含んでなる方法。
【請求項15】
上記VEGFアンタゴニストが抗体である請求項13又は14に記載の方法。
【請求項1】
ヒト化VEGFを発現する非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項2】
上記ヒト化VEGFがヒトVEGFである請求項1に非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項3】
上記ヒト化VEGFが、hum−I VEGF(配列番号11)又はhum−X VEGF(配列番号12)である請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項4】
上記動物が齧歯類である請求項1から3の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項5】
上記齧歯類がマウスである請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物から誘導された細胞又は組織。
【請求項7】
hum−I VEGF(配列番号11)又はhum−X VEGF(配列番号12)をコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸分子。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸分子によってコードされるポリペプチド。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸分子を含んでなるベクター。
【請求項10】
請求項7に記載の核酸分子又該核酸分子を含むベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項11】
hum−I VEGF又はhum−X VEGFを生産する方法であって、請求項10に記載の宿主細胞を培養することを含む方法。
【請求項12】
化合物をVEGF媒介疾患を治療するための可能な薬剤として同定する方法であって、
a)請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物におけるVEGFのレベルを測定し;
b)上記化合物を動物に投与し;
c)動物におけるVEGFのレベルを測定する
ことを含み、薬剤の投与後のVEGFのレベルの変化により、化合物がVEGF媒介疾患を治療するための可能な薬剤として同定される方法。
【請求項13】
VEGFアンタゴニストを、ヒトの癌治療のための可能な薬剤として同定する方法であって、
a)請求項1から5の何れか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物に上記薬剤を投与し;ここで、該動物はヒト癌細胞腫瘍異種移植片を有しており;
b)上記異種移植片の増殖をモニターする
ことを含み、上記異種移植片の増殖速度又はサイズの減少により、VEGFアンタゴニストが、ヒトの癌治療のための可能な薬剤として同定される方法。
【請求項14】
VEGFアンタゴニストの安全性を試験する方法において、
a)上記VEGFアンタゴニストを請求項1又は2の動物に投与し;
b)短期又は長期の副作用について動物をモニターする
ことを含んでなる方法。
【請求項15】
上記VEGFアンタゴニストが抗体である請求項13又は14に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【公表番号】特表2010−514421(P2010−514421A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543253(P2009−543253)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/088537
【国際公開番号】WO2008/080052
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/088537
【国際公開番号】WO2008/080052
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】
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