説明

ヒト口腔腫瘍細胞に対する抗がん作用を有する食品成分

【課題】日常に摂取する野菜等の抽出物から抗がん作用を有し、且つ、抗多剤耐性能が期待できる抽出物を提供するものである。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明において、アナスタシアグリーン(Cultiv. green)又はアナスタシアレッド(Cultiv. red)から抽出した物質が、ヒト口腔腫瘍細胞に対しての細胞毒性活性を有し、さらに多剤耐性能の反転作用を有することを明らかにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、抗がん作用を有しながら、多剤耐性獲得能を低下させるアナスタシアグリーン(Cultiv. green)又はアナスタシアレッド(Cultiv. red)の抽出物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の食品中の抗がん作用を示す成分は、食餌に含まれている食物繊維豊富な食物、新鮮なフル−ツ、野菜、ビタミン類やミネラル類の摂取に関連している。また、フル−ツ類や野菜類は一般的な病気の予防に役立っている。この生化学的な成分としてはβ−カロチン、ビタミン類(A,C,E)、ポリフェノ−ル類、ミネラル類、食物繊維類及びクロロフィルが挙げられる。
【0003】例えば、カロチノイド類は、カロチン類、カロチンの酸化型誘導体のキサントフィル類を含有する。ビタミンA前駆体であるβ−カロチンは、動物の器官において種々の生理機能を有する。ある種のガン細胞は、α−カロチン、β−カロチン、キサントフィル類及びレチノイド類のような抗酸化作用を示して、抗ガン作用を示すことが知られている。また、市場に流通しているピ−マンは、β−カロチンを含み、さらにα−カロチン、及びβ−クリプトキサンチンを含み、抗酸化作用を示すことが考えられている。さらに、ピ−マンの一種のベル・ペッパ−の抽出物は、α−カロチン及びキサントフィル類の単体と比較して、より高い抗がん作用を示し、これらの食品成分は、相乗効果を示しているものと考えられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来の医薬品としての抗がん剤の課題は、■副作用、■ガン細胞の多剤耐性獲得能による薬効の減少等の欠点・弊害がある。従来は、これらの課題に対して必ずしも満足な性能を実現していなかった。また、薬品の服用には医師の指示が必要であり、食品のように日常的に、摂取するものに抗がん作用を示す成分を含有させるか、又は、抗がん作用を示す成分が含有されている食品等の発見が要求されている。さらに、後者の場合には、その食品の抽出物の薬効成分等が研究されている。
【0005】本発明の目的は、日常的に摂取する野菜の食品成分に抗がん作用を示すこと、及び、その食品成分がガン細胞の多剤耐性獲得能を示さないことを明らかにした上で、さらに、抗がん作用及び多剤耐性獲得能を示さない、又は、抗ガン剤によるガン細胞の多剤耐性獲得能を低下させる性質を有する当該ピーマンの水溶性抽出物を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】アナスタシアグリーン(Cultiv. green)又はアナスタシアレッド(Cultiv. red)を少なくともヘキサン、アセトン、メタノール又は70%メタノールの1段階又は2段階以上で抽出したヒト口腔腫瘍細胞に対する抗がん作用を有する抽出物及び、以下に説明するカラムクロマトグラフィーを用いて、当該抽出物を分割した分割物を提供するものである。また、ヒト腫瘍細胞に対する抗がん作用を有しながら、腫瘍細胞の多剤耐性獲得能を示さない又は低下させる(反転させる)特徴を有する当該抽出物及び分割物を提供するものである。さらに、アナスタシアグリーン又はアナスタシアレッドの抽出物又は分割物から抗がん作用を有する化合物又は腫瘍細胞の多剤耐性獲得能を低下若しくは反転させることのできる化合物をスクリーニングする方法を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】以下の説明に用いる多剤耐性遺伝子MDR1は学術用語として、イタリック体で記述するが、本実施例ではMDR1はイタリック体を使用しないで説明する。本発明における当該野菜の食品成分の抽出過程を説明する(図1)。当該野菜の乾燥原末を準備し、室温で、ヘキサン、アセトン、メタノ−ル及び70%メタノールの順序で抽出を行った。真空で、それらの溶媒を留去した後、ヘキサン抽出物H0,アセトン抽出物A0,メタノール抽出物M0,70%メタノール抽出物70M0を得た。
【0008】まず最初に、ヘキサン抽出物H0は,シリカゲル・カラムクロマトグラフィ−上で、ヘキサン−アセトン溶媒で溶出させた。溶出された分割物は、ヘキサン−アセトン(24:1)分割物H1、ヘキサン−アセトン(9:1)分割物H2、ヘキサン−アセトン(4:1)分割物H3、ヘキサン−アセトン分割物H4が順次溶出された。
【0009】2番目に、アセトン抽出物A0は,シリカゲル・カラムクロマトグラフィ−上で、ベンゼン−酢酸エチル溶媒で溶出させた。溶出された分割物は、ベンゼン−酢酸エチル(24:1)分割物A1、ベンゼン−酢酸エチル(9:1)分割物A2、ベンゼン−酢酸エチル(4:1)分割物A3、ベンゼン−酢酸エチル(1:1)分割物A4及び酢酸エチル分割物A5 が順次溶出された。
【0010】3番目に、メタノ−ル抽出物M0は,シリカゲル・カラムクロマトグラフィ−上で、塩化メチレン−メタノ−ル溶媒で溶出させた。溶出された分割物は、塩化メチレン分割物M1、塩化メチレン−メタノ−ル(49:1)分割物M2、塩化メチレン−メタノ−ル(24:1)分割物M3、塩化メチレン−メタノ−ル(9:1)分割物M4、及びM5、塩化メチレン−メタノ−ル(4:1)分割物M6及びメタノ−ル分割物M7が順次溶出された。
【0011】最後に、70%メタノ−ル抽出物70M0は,ODS・カラムクロマトグラフィ−上で、水−メタノ−ル溶媒で溶出させた。溶出された分割物は、水−メタノ−ル(2:1)分割物70M1、70M2、水−メタノ−ル(1:1)分割物70M3及びメタノ−ル分割物70M4 が順次溶出された。図1では、それぞれの画分で得られた乾燥重量を示した。
【0012】これらのアナスタシアグリーン又はアナスタシアレッドの上記の抽出物及び分割物の抗がん作用について以下のように試験を行った。ヒト口腔扁平細胞ガン(HSC−2)、ヒト唾液腺腫瘍(HSG)細胞株、及びヒト歯肉繊維芽細胞(HGF)は、10%熱変成胎児子牛血清(FBS)を添加したDMEM培地に培養した。これらの細胞は本発明によるアナスタシアグリーン又はアナスタシアレッドの抽出物及び分解物を加えて、24時間培養した。その後、相対的な生細胞数を、MTT法によって測定した。図2及び図3の50%細胞毒性濃度(CC50)は、抽出物(あるいは分解物)−応答曲線から求めた。
【0013】図2及び図3には、それぞれ本発明によるアナスタシアグリーン又はアナスタシアレッドの各4種の抽出物、及び各3種の分割物のガン細胞毒性をそれぞれ示した。ヒト口腔腫瘍細胞に対しての細胞毒性活性は、アナスタシアグリーンが全体的に、アナスタシアレッドよりも高いことが示された。アナスタシアグリーンの70MO画分の抽出物が最も、ガン細胞毒性が高く(選択性索引(SI)は3.42以上)、さらに、シリカゲル・カラムクロマトグラフィ−上で、ベンゼン−酢酸エチル溶媒で溶出させた分割物は、全体的に抽出物よりもガン細胞毒性が高く、特に、アナスタシアグリーンのA3及びA4分割物は、高い値を示した(SI>8.47)。
【0014】一方、アナスタシアレッドはアナスタシアグリーンに比して、全体的にガン細胞毒性は低いが(図2R>2、図3)、70M3の分割物のみは、高いガン細胞毒性を示した(SI>7.9)。
【0015】次に、抗がん作用を持つ物質の多くが、長期間のガン細胞の投与で、そのガン細胞毒性効果が減少することが知られている。この原因として、ガン細胞にある多剤耐性遺伝子(MDR1)が抗ガン剤等の投与によって、その活性が上昇し、多剤耐性能を獲得すると考えられている。
【0016】そこで、ガン細胞毒性を有するアナスタシアグリ−ン若しくはアナスタシアレッドの投与によって、ガン細胞が多剤耐性能を獲得するか否かを、以下に説明する方法で、試験した。まず、L5178マウスT細胞リンパ細胞株に、多剤耐性遺伝子(MDR1)/A含有レトロウイルスを移入し、多剤耐性遺伝子(MDR1)発現細胞株を得た。そして、多剤耐性遺伝子(MDR1)表現型細胞株であるL5178マウスT細胞リンパ多剤耐性遺伝子(MDR1)発現細胞株を使用した。MDR1発現細胞株はMDR1表現型の発現を継続させるために、60ng/mLコルヒチン感染細胞を培養して選抜した。
【0017】L5178/MDR1マウスT細胞リンパ細胞株及びL5178マウスT親細胞リンパ細胞株は、10%熱変成馬血清、L−グルタミン及びベラパミ−ルを加えて、マックコイ5A培地中で培養した。細胞は2x106/mLの濃度になるように調製し、血清遊離マックコイ5A培地の中で、再び懸濁させた。各0.5mLの細胞量は、エッペンドルフ遠心管の中に移し、続いて各10mg/mL試験用分割部の内の2.0μLを加えて、室温で10分間、培養した。さらに、10μLロ−ダミン123(R123)指示薬(5.2μM最終濃度)が加えられ、37℃、20分間、さらに培養を続けた。0.05mLリン酸塩-緩衡食塩水(PBS)で、2回洗浄及び再懸濁させた後、細胞群の蛍光がベックマン・デイキンソン蛍光活性化セルソ−タ−(FACScan)器(細胞選別器)を使用して、フロ−サイトメトリ−(流動細胞計算法)で測定した。(±)ベラパミ−ルは、ロ−ダミン123指示薬蓄積実験の1つのコントロ−ルとして用いた。ロ−ダミン123(R123)指示薬の蓄積は、各抽出物あるいは分割物の蛍光強度から計算する。無処理細胞群の平均蛍光強度である対照(コントロ−ル)の百分率(%)は、親細胞及び多剤耐性遺伝子(MDR1)細胞株から計算し、処理細胞群の蛍光強度と比較した。多剤耐性遺伝子(MDR1)の反転活性は次式により計算する。
【0018】
【式1】


【0019】多剤耐性遺伝子(MDR1)は、ロ−ダミン123(R123)指示薬のような蛍光体を標識した物質の細胞内蓄積を減少させるので、細胞内の蛍光活性を測定することで、間接的に多剤耐性遺伝子(MDR1)の活性を評価することができる。また、ベラパミ−ルは、多剤耐性遺伝子(MDR1)の機能を抑制するので、ポジティブコントロールとして使用し、本試験では、細胞内のR123蓄積量は、4.96倍の増加を示した(図4)。これは、ベラパミ−ルによって、多剤耐性遺伝子(MDR1)の機能を抑制され、ロ−ダミン123の細胞内への取り込みが上昇したと示唆される。
【0020】次に、上述した抗がん作用を有するアナスタシアグリ−ン若しくはアナスタシアレッドの、抽出物及び分割物によるガン細胞の多剤耐性能に及ぼす影響について試験した(図4、図5)。アナスタシアグリーン(図4)は、メタノール抽出物及び分割物(M0等)はMDRの機能の抑制効果はあまり見られないが、ヘキサン注出物(H0)及び分割物(H3,H4)、又はアセトン分割物(A4,A5)は、高い蛍光活性比を示し、これらの抽出物等は強いMDRの機能の抑制効果が示された。
【0021】一方、アナスタシアレッドでは(図5)、アナスタシアグリーンの場合とほぼ同様に、ヘキサン分割物(H2,H5)、又はアセトン分割物(A1,A2、A5,A6、A7)は、高い蛍光活性比を示した。特に、A6、A7の蛍光活性比は、74.98及び67.03であり、非常に強いMDRの抑制(反転(逆転))作用を示した。これらの結果から、アナスタシアグリ−ン又はアナスタシアレッドの抽出分割物で、一般の制ガン剤によるMDRの機能亢進による多剤耐性能を低下させうる可能性がある。
【0022】本発明によるアナスタシアグリ−ン又はアナスタシアレッドからの抽出物及び分割物に、ヒトの口内腫瘍細胞(癌細胞)を加えると、ガン細胞の生存が低下する。これは抗腫瘍野菜の供給するカロチン物質(α−カロチン、β−カロチン、キサントゲン酸塩、レチノ−ル(ビタミンA))等の抗酸化作用によるためであると考えられる。
【0023】また、本発明による抽出物及び分割物はMDR反転の効果を有することから、ガン細胞の機能の一部を低下させ、抗ガン剤と併用投与させることで、その相乗効果によりガン細胞の生存を低下させ、又は、抗ガン剤による多剤耐性獲得を低く、抗ガン剤のガン細胞内での薬効を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るアナスタシアグリ−ン又はアナスタシアレッドの調製及び抽出・分割方法を示す説明図。
【図2】本発明に係るアナスタシアグリーンの抗がん作用の測定結果を示す説明図。
【図3】本発明に係るアナスタシアレッドの抗がん作用の測定結果を示す説明図。
【図4】本発明に係るアナスタシアグリーンの多剤耐性遺伝子(MDR1) 反転活性試験結果を示す説明図。
【図5】本発明に係るアナスタシアレッドの多剤耐性遺伝子(MDR1) 反転活性試験結果を示す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】アナスタシアグリーン(Cultiv. green)又はアナスタシアレッド(Cultiv. red)を少なくともヘキサン、アセトン、メタノール又は70%メタノールの1段階又は2段階以上で抽出したヒト口腔腫瘍細胞に対する抗がん作用を有する抽出物。
【請求項2】請求項1に記載の各抽出段階のいずれかの段階における抽出物を、ヘキサン−アセトン、ベンゼン−酢酸エチル、塩化エチレン−メタノール及びメタノール−水のいずれかを溶媒として、カラムクロマトグラフィーで分割した、ヒト口腔腫瘍細胞に対する抗がん作用を有する分割物。
【請求項3】ヒト腫瘍細胞に対する抗がん作用を有しながら、腫瘍細胞の多剤耐性獲得能を示さない請求項1又は2に記載の抽出物又は分割物。
【請求項4】抗ガン剤による多剤耐性獲得能を低下させること、若しくは反転させることができる請求項1から3に記載のいずれかの抽出物又は分割物。
【請求項5】アナスタシアグリーン又はアナスタシアレッドの抽出物又は分割物から抗がん作用を有する化合物又は腫瘍細胞の多剤耐性獲得能を低下若しくは反転させることのできる化合物をスクリーニングする方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2002−326948(P2002−326948A)
【公開日】平成14年11月15日(2002.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−134540(P2001−134540)
【出願日】平成13年5月1日(2001.5.1)
【出願人】(501176495)株式会社フィールドジャパン (1)
【出願人】(501176484)
【Fターム(参考)】