説明

ヒト病原体の伝染を低減するための装置および方法

顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される、面体を備えた顔マスクであって、面体が3つ以上の層を含み、3つ以上の層のうちの1つまたは複数が、ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含む1つまたは複数の結合物質を含む織物を備え、織物が、1つまたは複数の種類の多価の金属イオンまたは金属塩をさらに含み、3つ以上の層のうちの1つまたは複数の層が熱成形型織物を備える、顔マスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年5月30日出願の、表題「Protective Fabrics and Method for Making Protective Fabrics」である米国特許仮出願第61/057,742号の優先権を主張し、また、2007年6月26日出願の、表題「Protective Fabrics and Method of Making Protective Fabrics」である米国特許仮出願第60/946,267号の優先権も主張し、これらの内容は、その全体が参照によって本開示内に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
細菌、真菌およびウイルスなどのヒト病原体によって引き起こされるヒト気道感染症などの感染性ヒト疾患がさまざまに存在している。たとえば、感染性ヒト疾患(およびそれに随伴する疾患)の原因となるウイルスとしては、インフルエンザA型ウイルス(インフルエンザ)、インフルエンザB−C型ウイルス(鼻風邪、「感冒」)、ヒトアデノウイルスA−C型(さまざまな気道感染症、肺炎)、ヒトパラインフルエンザウイルス(鼻風邪、「感冒」、クループ)、おたふく風邪ウイルス(流行性耳下腺炎)、麻疹ウイルス(麻疹)、風疹ウイルス(三日ばしか)、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(RSV)(鼻風邪、「感冒」)、ヒトコロナウイルス(SARSウイルス)(SARS)、ヒトライノウイルスA−B(鼻風邪、「感冒」)、パルボウイルスB19(第5病)、天然痘ウイルス(天然痘)、水痘帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス)(水痘)、ヒトエンテロウイルス(鼻風邪、「感冒」)、百日咳菌(百日咳)、髄膜炎菌(髄膜炎)、ジフテリア菌(ジフテリア)、マイコプラズマ肺炎(肺炎)、ヒト型結核菌(結核)、化膿連鎖球菌/肺炎(連鎖球菌性咽頭炎、髄膜炎、肺炎)、およびヘモフィラスインフルエンザ菌B型(喉頭蓋、髄膜炎、肺炎)があげられる。
【0003】
ヒトウイルス性気道感染症の多くは、かなりの罹患率および死亡率をもたらす。たとえば、インフルエンザウイルスの世界的な季節的流行は、毎年推定で約300万〜500万人を感染させ、毎年25万〜50万人を死に至らしめる。さらに、世界で約2000万人を死に至らしめた1918年に発生したインフルエンザなど、周期的なインフルエンザウイルスの世界的流行が起こっている。
【0004】
ヒト気道感染症を引き起こす1つまたは複数のヒト病原体の伝染様式は、主として直接的な皮膚と皮膚の接触によるものと考えられていたが、多くのヒト病原体はまた、咳またはくしゃみによって、あるいは単に呼気によって感染者の気道から排出された病原体を含んだ飛沫の空中浮遊伝染によっても広められることが示されている。
【0005】
ヒト気道感染症を引き起こす一部のヒト病原体に対してワクチンが利用可能であり、ヒト病原体の一部に対して効果的な薬剤が開発されている。しかし、ワクチンは、緊急的な保護ではなく、ヒト病原体の伝染を減少させることができるまで抗体反応を発生させるには十分な時間を必要とする。さらに、伝染を減少させることができる効果的な薬剤は、ヒトウイルス性病原体のほとんどおよびヒト非ウイルス性病原体の一部に対しては利用可能でない。
【発明の概要】
【0006】
したがって、疾患の中でもとりわけヒト気道感染症を引き起こす、1つまたは複数のヒト病原体の空中浮遊伝染を防止するための新規の方法が必要とされている。
【0007】
本発明の1つの実施形態によれば、顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される顔マスクが提供される。1つの実施形態では、顔マスクは、a)前面と、裏面と、前面および裏面の周りの周囲とを備え、顔マスクの着用者の口および鼻を覆うように構成された面体と、b)顔マスクを着用者の頭部に固定するために面体に取り付けられた1つまたは複数の延長部とを備え、面体が、3つ以上の層を含み、3つ以上の層のうちの1つまたは複数が、1つまたは複数の結合物質を含む織物を備え、1つまたは複数の結合物質が、ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含み、織物が、さらに、1つまたは複数の種類の多価の金属イオンまたは金属塩を含み、3つ以上の層のうちの1つまたは複数が、熱成形型織物を備える。1つの実施形態では、面体は、ほぼ半円の下側半分を備え、かつ横方向の頬延長部、および2つの頬延長部の間で着用者の鼻孔上方と鼻柱上とに延びる中央鼻柱延長部を有する上側半分を備える。
【0008】
本発明の別の実施形態によれば、顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される顔マスクが提供される。1つの実施形態では、顔マスクは、a)前面と、裏面と、前面および裏面の周りの周囲とを備え、顔マスクの着用者の口および鼻を覆うように構成された面体と、b)顔マスクを着用者の頭部に固定するために面体に取り付けられた1つまたは複数の延長部とを備え、面体が、ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含む1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える。1つの実施形態では、1つまたは複数のヒト病原体は、ヒト疾患を引き起こす細菌、真菌およびウイルスからなる群より選択される。1つの実施形態では、ヒト病原体は、ヒト気道感染症を引き起こす1つまたは複数のウイルスである。1つの実施形態では、1つまたは複数のヒト病原体は、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルスおよび呼吸器合胞体ウイルス(RSV)からなる群より選択される。1つの実施形態では、織物は、さらに、1つまたは複数の種類の多価の金属イオンを含む。1つの実施形態では、1つまたは複数の種類の多価の金属イオンは、多価の銅、多価の銀および多価の亜鉛からなる群より選択される。1つの実施形態では、織物は、さらに、酢酸銅、酸化銅、硫酸銅および酢酸亜鉛からなる群より選択される1つまたは複数の金属塩を含む。1つの実施形態では、面体は複数の層を含み、複数の層のうちの1つまたは複数は、1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える。1つの実施形態では、複数の層のうちの1つまたは複数は、熱成形型織物を備える。1つの実施形態では、複数の層のうちの1つまたは複数は、ポリプロピレン、ポリエステルまたは酢酸セルロース不織布からなる群より選択される織物を備える。1つの実施形態では、複数の層のうちの1つまたは複数は、ポリプロピレンウェビングを含む。1つの実施形態では、複数の層は3つの層を含む。1つの実施形態では、複数の層は4つの層を含む。1つの実施形態では、面体の周囲は、半円の下側半分と、着用者の鼻孔上方と鼻柱上とに延びる中央の鼻柱延長部を有する半円の上側半分とを備える。1つの実施形態では、面体は、ほぼ半円の下側半分を備え、かつ横方向の頬延長部、および2つの頬延長部の間で着用者の鼻孔上方と鼻柱上とに延びる中央鼻柱延長部を有する上側半分を備える。1つの実施形態では、面体は、前面に向かって凸状であることにより、顔マスクの着用者の顔の曲線への近似が向上している。1つの実施形態では、面体の周囲は、上縁と、底縁と、上縁と底縁とを連結する2つの横縁とを備え、面体は、さらに、一方の横縁から他方の横縁に延びる複数のひだを備え、このひだが面体の中央を拡張させて面体の前面に向かう凸形状を形成することにより、顔マスクの着用者の顔の曲線にさらに近づくことができる。1つの実施形態では、1つまたは複数の延長部は、ストラップ、耳ループおよび接着ストリップからなる群より選択される。
【0009】
本発明の別の実施形態によれば、顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される顔マスクが提供される。顔マスクは、a)前面と、裏面と、周囲とを備え、顔マスクの着用者の口および鼻を覆うように構成された面体と、b)1つまたは複数のヒト病原体に結合する1つまたは複数の結合物質を含む織物を備えた取り外し可能なフィルタと、c)フィルタを保持するために面体に取り付けられた機構とを備える。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、ガスマスクの着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用されるガスマスクが提供される。ガスマスクは、a)1つまたは複数のヒト病原体に結合する1つまたは複数の結合物質を含む織物を備えた取り外し可能なフィルタと、b)フィルタを保持するために取り付けられた機構とを備える。1つの実施形態では、フィルタは、複数の層を含む材料を含み、複数の層のうちの1つまたは複数は、1つまたは複数のヒト病原体に結合する1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える。
【0011】
本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される装置が提供される。装置は、ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含む1つまたは複数の結合物質を含む織物を備え、装置は、空気フィルタ、衣類、寝具、化粧パッド、顔マスクまたは呼吸装置用のカバリング、おしめ、乾燥消毒パッチ、生理用ナプキン、便座カバー、掛け布、拭き取り布および窓おおいからなる群より選択される。1つの実施形態では、装置は、さらに複数の層を含み、複数の層のうちの1つまたは複数は、1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える。1つの実施形態では、複数の層のうちの1つまたは複数は、熱成形型織物を含む。1つの実施形態では、複数の層の1つまたは複数は、ポリプロピレン、ポリエステルまたは酢酸セルロース不織布からなる群より選択される織物を備える。1つの実施形態では、複数の層のうちの1つまたは複数は、ポリプロピレンウェビングを含む。1つの実施形態では、複数の層は3つの層を含む。1つの実施形態では、複数の層は4つの層を含む。
【0012】
本発明の別の実施形態によれば、顔マスクを作製するための方法が提供される。1つの実施形態では、方法は、a)ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含む1つまたは複数の結合物質を含む織物を提供するステップと、b)織物を顔マスク内に組み込むステップとを含む。1つの実施形態では、顔マスクは、織物を備えた取り外し可能なフィルタを備える。方法は、取り外し可能なフィルタを顔マスク内に組み込むステップを含む。1つの実施形態では、方法は、さらに、結合物質を含む織物を複数枚の熱成形型織物の間に封入するまたはその間で取り囲むステップを含む。1つの実施形態では、方法は、さらに、複数枚の熱成形型織物を一緒に加熱する、または溶接するステップを含む。1つの実施形態では、方法は、さらに、1つまたは複数のヒト病原体の病原体能力を低減させる、結合物質以外の1つまたは複数の追加の物質を追加するステップを含む。1つの実施形態では、1つまたは複数の追加の物質は、多価の金属イオンまたは金属塩である。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減する方法が提供される。方法は、a)本発明による顔マスクを提供するステップと、b)顔マスクを着用するステップとを含む。
【0014】
本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される材料が提供される。材料は複数の層を含み、複数の層のうちの1つまたは複数は、1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える。1つの実施形態では、複数の層のうちの1つまたは複数は、熱成形型織物を備える。1つの実施形態では、複数の層のうちの1つまたは複数は、ポリプロピレン、ポリエステルまたは酢酸セルロース不織布からなる群より選択される織物を備える。1つの実施形態では、複数の層のうちの1つまたは複数は、ポリプロピレンウェビングを含む。1つの実施形態では、複数の層は3つの層を含む。1つの実施形態では、複数の層は4つの層を含む。
【0015】
本発明の上記および他の特徴、態様および利点は、以下の説明、付属の特許請求の範囲、および添付の図に関してより良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による織物の部分的な前部の斜視図である。
【図2】図1に示す織物を備える、本発明による材料の部分的な断面の前部の斜視図である。
【図3】本発明の1つの実施形態による顔マスクの前面斜視図である。
【図4】図3に示す顔マスクの裏面斜視図である。
【図5】本発明の別の実施形態による顔マスクの前面斜視図である。
【図6】図5に示す顔マスクの裏面斜視図である。
【図7】本発明の別の実施形態による顔マスクの前面斜視図である。
【図8】図7に示す顔マスクの裏面斜視図である。
【図9】本発明による取り外し可能なフィルタを備える顔マスクの1つの実施形態の前面斜視図である。
【図10】本発明による取り外し可能なフィルタを備える顔マスクの別の実施形態の前面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される織物が提供される。本発明によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される材料が提供され、材料は複数の層を含み、複数の層のうちの1つまたは複数は、本発明による織物を備える。本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される織物を作製するための方法が提供される。1つの実施形態では、方法は、本発明による織物を作り出す。本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される材料を作製するための方法が提供される。1つの実施形態では、方法は、本発明による材料を作り出す。本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される装置が提供される。1つの実施形態では、装置は、本発明による織物を備える。1つの実施形態では、装置は、本発明による材料を含む。好ましい実施形態では、装置は、顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するための顔マスクである。本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される装置を作製するための方法が提供される。1つの実施形態では、方法は、本発明による装置を作り出す。本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減する方法が提供される。1つの実施形態では、方法は、本発明による顔マスクなどの本発明による装置を提供するステップを含む。次に、織物、材料、装置および方法をより詳細に開示する。
【0018】
本開示では、その内容が別途要求しない限り、用語「備える」、ならびに「備えている」、「備える」、および「備えた」などの用語の変形は、他の付加物、構成要素、整数またはステップを除外することを意図しないものとする。
【0019】
本開示に指定されたすべての寸法は、例示的にすぎず、限定を意図するものではない。本開示を参照して当業者に理解されるように、本開示に開示した任意の装置または装置の一部の正確な寸法は、その使用目的によって決定される。
【0020】
本開示では、「ヒト病原体」は、ヒト気道感染症を引き起こす細菌、真菌およびウイルスを含めた、ヒト疾患を引き起こす細菌、真菌およびウイルスを含む。
【0021】
本開示では、「結合物質」は、ヒト病原体の空間的通過に対する物的障壁だけを提示するのではなく、ヒト病原体に化学的に結合する化学基を意味する。同様に、「結合する」ならびに「結合する」、「結合している」および「結合作用」などのその関連用語は、化学プロセスに言及するものであり、単にヒト病原体の空間的通過に対する物的障壁だけを提示するものではない。
【0022】
本開示では、「セルロースの」は、「セルロースを含んでいる」ことを意味する。
【0023】
本発明によれば、ヒト病原体の伝染を低減するのに使用される織物が提供される。1つの実施形態では、織物は、1つまたは複数の種類のヒト病原体に結合する1つまたは複数の結合物質を含む。好ましい実施形態では、織物は、インフルエンザなどのヒト気道感染症を引き起こすインフルエンザウイルスなどの1つまたは複数の種類のウイルスに結合する1つまたは複数の結合物質を含む。ヒト病原体を織物に結合させることにより、織物は、たとえばウイルスを含んだ飛沫が織物内で蒸発する際のウイルス粒子の放出を防止することなどにより、ヒト病原体の伝染を低減する。
【0024】
1つまたは複数の結合物質は、本開示を参照する当業者であれば理解するように、ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含む。好ましい実施形態では、結合物質は、さらに、結合物質を織物に付着させるための(たとえばビニルスルホン基などの)リンカー基を含む。
【0025】
例として、1つの実施形態では、織物に結合されるヒト病原体は、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)からなる群より選択され、これらのウイルス粒子は、ヒト細胞の細胞膜の表面オリゴ糖上の末端シアル酸基を介してヒト細胞に結合するため、ヒト病原体結合基はシアル酸基である。しかし、シアル酸基は、繊維または織物への付着に適した形態で作り出すのには相対的にコストがかかるので、好ましい実施形態では、結合物質は、インフルエンザウイルス上のシアル酸基の結合作用を模倣するが、本発明による結合物質を含む織物の工業規模の生産用の構成要素としてコスト効果の高い物質である。
【0026】
本発明の1つの実施形態によれば、1つまたは複数の結合物質は、(たとえば硫酸化単糖または硫酸化オリゴ糖などの)硫酸基および(たとえばスルホン化単糖またはスルホン化オリゴ糖などの)スルホン酸基からなる群より選択されるヒト病原体結合基を含むが、その理由は、硫酸基およびスルホン酸基の両方は、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ならびに他のヒト病原体においてシアル酸基の結合作用を模倣する一方で、硫酸基およびスルホン酸基は、本発明による織物の工業規模の生産のためのコスト効果の高い方法で繊維または織物上で遊離ヒドロキシル基および遊離アミノ基に直接つながることができるためである。好ましい実施形態では、織物はセルロース織物であり(すなわちセルロースを含み)、1つまたは複数の結合物質は、硫酸基を含むヒト病原体結合基を含むことで、非ハイドロゲル硫酸セルロースを含む織物が生じる。
【0027】
本発明の別の実施形態によれば、ヒト病原体の結合基は、1つまたは複数のスルホン酸基を含む1つまたは複数の反応染料である。好ましい実施形態では、織物はセルロース織物であり(すなわちセルロースを含み)、結合物質は、スルホン酸基を含む結合物質を含む1つまたは複数の反応染料であることで、スルホン酸セルロースを含む織物が生じる。
【0028】
反応染料は、繊維および織物、すなわち(アセテート、綿およびレーヨンなどの)セルロース繊維およびセルロース織物、ならびに(ウールおよびナイロン、およびポリエステルまたはポリオレフィンから作製された織物などの)非セルロース繊維および非セルロース織物の両方を染色するために使用される物質のクラスである。反応染料は、染浴中で繊維に施与されると、繊維または織物上でヒドロキシル基との共有化学結合を形成する、たいていはハロヘテロ環または活性化二重結合である反応性リンカー基を含む。反応染料は、染料を繊維または織物に付着させるリンカー基のカテゴリに応じて分類される。1つの実施形態では、結合物質は、アミノクロロトリアジン(aminochlorotriazine)(Procion(登録商標)H)、アミノクロロトリアジン−サルフェートエチルスルホン(sulfatoethylsulfone)(Sumafix Supra)、アミノフルオロトリアジン(aminofluorotriazine)(Cibachron F)、アミノフルオロトリアジン−サルフェートエチルスルホン(Cibacron C)、ビス(アミノクロロトリアジン)(Procion(登録商標)H−E)ビス(アミノニコチノトリアジン)(aminonicotinotriazine)(Kayacelon React(登録商標))、クロロジフルオロピリミジン(chlorodifluoropyrimidine)(Drimarine K)、ジクロロキノキサリン(dichloroquinoxaline)(Levafix(登録商標)E)、ジクロロトリアジン(Procion MX)、サルフェートエチルスルホン(ビニルスルホン、Remazol(登録商標))、サルフェートエチルスルホンアミド(sulfatoethylsulfonamide)(Remazol(登録商標)D)、トリクロロピリミジン(trichloropyrimidine)(Drimarine X)からなる群より選択される1つまたは複数の反応染料である。反応染料は、さらに、染料に特有の色を与える発色団を含む。発色団は通常、多環芳香族基を含むが、多環芳香族基は、水溶性を低減させる傾向があるので、反応染料はたいてい、水溶性を増大させるために1つまたは複数のスルホン酸基をさらに含む。反応染料のスルホン酸基は、本発明の織物の結合物質のヒト病原体結合基として機能することができ、反応染料の反応性リンカー基は、結合物質のリンカー基として機能することができる。
【0029】
所与の染料は、しばしば複数の商標名を有しているが、染料に対する一般名称(色素指数、CI)は、次の書式を含む:[カテゴリ(酸性、塩基性、直接性または反応性);色;および番号]。本発明の1つの実施形態によれば、1つまたは複数の結合物質は、各々が、本発明による1つまたは複数のヒト病原体に結合するのに適したヒト病原体結合基として機能するスルホン酸基を含み、各々が、さらに、結合物質(染料)を織物に付着させるのに適したリンカー基を含む、CI反応性青4、CI反応性青21、CI反応性青140、CI反応性青163、CI反応性茶23、CI反応性橙4、CI反応性赤1、CI反応性赤2、CI反応性赤6、CI反応性赤11、CI反応性赤78、CI反応性黄39、およびCI反応性黄86からなる群より選択される反応染料である。特定の好ましい実施形態では、結合物質は、CI反応性青21(銅,(29H、31H−フタロシアニナト(2−)−N\29\、N\30\、N\31\、N\32\)−、スルホ((4−((2−スルホオキシ)エチル)スルホニル)フェニル)アミノ)スルホニル由来](CAS Reg.No.73049−92−0)、セルロース繊維および織物を含めた繊維および織物に染料を付着させるビニルスルホンリンカー基を有するスルホン化銅フタロシアニン染料である。CI反応性青21を付着させるための条件を含めた、反応染料を繊維および織物に付着させるための適切な反応条件は、当業者に良く知られており、本開示を参照する当業者であれば理解するように、染料製造者の説明書ならびに標準的な繊維製品の参考文献で見出すことができる。
【0030】
本開示を参照する当業者であれば理解するように、結合物質は、織物を本発明による顔マスクの面体内に組み込む場合、その織物を非通気性にするものであってはならない。その理由は、本開示を参照する当業者であれば理解するように、そのような非通気性は顔マスクを機能させなくするからである。たとえば、ヒト病原体結合基が硫酸基である場合、硫酸セルロースハイドロゲルが顔マスクを通る空気を遮ることにより顔マスクを機能させなくするので、硫酸基は、織物内に硫酸セルロースハイドロゲルを形成してはならず、したがって、本発明による織物の成分に言及する際の用語「硫酸セルロース」およびその関連用語の使用は、硫酸セルロースハイドロゲルまたは顔マスクを通る空気の通過を遮って顔マスクを機能させなくする(すなわち着用者が顔マスクを通して十分な呼吸ができないようになる)非通気性のいかなる形態も含まない。本発明による織物において反応染料を結合物質として使用することは特に有利であるが、その理由は、織物と結合する反応染料の量が、反応染料内のスルホン酸基が織物内でハイドロゲルを作製するほどの十分な量では決してないためである。
【0031】
本開示を参照する当業者であれば理解するように、硫酸セルロースおよびスルホン酸セルロースの両方は、界面活性剤特徴を有しており、その結果硫酸セルロースまたはスルホン酸セルロースを含む織物は、ウイルスを含んだ飛沫を崩壊させ、そのウイルス粒子を硫酸セルロース上の硫酸基に、およびスルホン酸セルロース上のスルホン酸基に晒し、それによってウイルス粒子を織物内に閉じ込める。
【0032】
1つの実施形態では、本発明の織物は、さらに、1つまたは複数のヒト病原体の病原体能力を低減させる、結合物質および織物の繊維以外の1つまたは複数の追加の物質を含む。好ましい実施形態では、1つまたは複数の追加の物質は、そのすべてが殺ウイルス性、殺菌性、および抗菌性である、たとえば多価の銅、多価の銀または多価の亜鉛などの1つまたは複数の種類の多価の金属イオンである。好ましい実施形態では、金属塩は二価の金属塩である。別の実施形態では、1つまたは複数の物質は、そのすべてが殺菌性、殺ウイルス性、および抗菌性である、たとえば酸化銅、酢酸亜鉛、酢酸銅、または硫酸銅などの金属塩である。
【0033】
本開示を参照する当業者であれば理解するように、セルロースを含む織物上で硫酸基またはスルホン酸基を含む結合物質を使用することは、インフルエンザウイルスおよび他のヒト病原体の伝染から多くの人々を保護するための本発明による顔マスクの工業規模の生産にとっては相対的に安価で、適切である。さらに、本発明による織物は、たとえば一部の顔マスクに使用される毒性の抗菌性化合物を置き換えることにより、また、ウイルス粒子が織物に接触した後、ウイルス粒子が織物から浸出しないようにウイルス粒子を織物内で結合させることにより、ヒトおよびペットのいずれに対しても安全なものになる。さらに有利には、本発明の織物は、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するように設計された一部の織物のように、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するための照明および一重項酸素の発生を必要としない。
【0034】
1つの実施形態では、織物は、たとえば織布レーヨンなどの織ったものである。別の実施形態では、織物は、たとえば不織布レーヨンなどの織っていないものである。
【0035】
本発明によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される材料が提供され、材料は複数の層を含み、複数の層のうちの1つまたは複数は、本発明による織物を備える。次に図1および図2を参照すると、本発明による織物の部分的な前部の斜視図(図1)および図1に示す織物を備える、本発明による材料の部分的な断面の前部の斜視図(図2)をそれぞれ示している。図に示すように、本発明による織物10は、結合物質12を含む。さらに、材料14は、ここではA、BおよびCで示された複数の層を含む。材料14は、本開示を参照する当業者であれば理解するように、2つの層、(図示するように)3つの層、4つまたはそれ以上の層を含むことができる。特定の好ましい実施形態では、複数の層は(図示するように)3つの層である。別の特定の好ましい実施形態では、複数の層は4つの層である。
【0036】
材料14の層の少なくとも1つは、本発明による(ここでは層Bとして示す)織物10を備える。1つの実施形態では、材料14の層の1つまたは複数は、ポリプロピレン、ポリエステルおよび不織布の酢酸セルロース織物からなる群より選択される熱成形型織物などの熱成形型織物16である。そのような熱成形型織物は、本発明による加熱または超音波溶接を用いた顔マスクの成形を可能にする。1つの実施形態では、熱成形型織物は、空中浮遊粒子を閉じ込めるが、ウイルスを含んだ飛沫がウェビング内に閉じ込められた場合でも通常は崩壊しないように相対的に撥水性のものであるポリプロピレンウェビングを含む。
【0037】
本発明の別の実施形態によれば、たとえばヒト気道感染症を引き起こすウイルスなどの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される織物を作製するための方法が提供される。1つの実施形態では、方法は、本発明による織物を作り出す。次に、方法は、主に、ヒト病原体結合基として硫酸基を含む結合物質を有するセルロースを含む織物(この例ではレーヨン)を作製することに対してのみ例として開示するが、本開示を参照する当業者であれば理解するように、同様の織物および本発明による(スルホン酸基などの)他の結合物質を有する相当する織物を作り出すために他の方法を使用することもできる。
【0038】
1つの実施形態では、方法は、最初に1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するための織物に使用するのに適した繊維を提供するステップを含む。1つの実施形態では、織物はセルロースを含む。好ましい実施形態では、織物は(セルロースの形態の)レーヨンを含む。商業的な目的のセルロース繊維の最も重要な供給源は、木材パルプであるが、木材パルプから直接得られるセルロース繊維は、本発明による織物に織り込むには短すぎて粗すぎ、木材パルプ由来のセルロースは、相対的に有機溶媒には不溶性であり、細繊維に押出成形することはできない。その反対に、レーヨン繊維は、木材パルプおよび他の植物由来の自然発生するセルロースポリマーから作り出される。レーヨン繊維を形成するために、セルロースは、本開示を参照する当業者であれば理解するように、最初に(たとえば酢酸塩などの)可溶化基で誘導体化され、紡糸繊維に形成され、次いで可溶化基が取り除かれて、織物に織られ得るセルロース繊維が生じる。
【0039】
次に、方法は、1つまたは複数の結合物質を繊維に付加するステップを含む。結合物質の繊維への付加は、本開示を参照する当業者であれば理解するように、当業者に知られている技術を用いて達成することができる。好ましい実施形態では、付加される結合物質は、本発明による結合物質である。例として、方法は、硫酸基を含むヒト病原体結合基を含み、それによって硫酸化セルロース繊維を生じさせる結合物質に対して開示される。この実施形態では、1つまたは複数の結合物質を繊維に付加することにより、織物の構造または強度を崩壊させることなく、織物においてセルロース由来の繊維の硫酸化がもたらされる。さらに、これらのステップは、硫酸基を(レーヨンなどの)セルロース繊維に共有結合で結び付けることに対して開示されているが、本開示を参照する当業者であれば理解するように、硫酸基を他のセルロース織物、(たとえばポリエステルまたはポリオレフィンから作製された繊維などの)セルロース由来および非セルロース由来の繊維の混合物、および遊離ヒドロキシルまたはアミノ基を含む非セルロース由来の繊維に付加するために同等のステップを使用することができる。
【0040】
セルロースは、その各々が3個の遊離ヒドロキシル基を有するグルコース単位の線状ポリマーである。セルロースの硫酸化度(DS)は、1単糖あたりの硫酸基の平均個数として当技術分野で定義されている。DS3が最大限であり、すべての利用可能なヒドロキシル基が完全に硫酸化されていることを示唆している。硫酸化度1は、1グルコース単位あたり平均1個の硫酸基が存在していることを示唆しており、DS0.1は、たとえば10グルコース単位ごとに平均1個のヒドロキシル基が硫酸化されていることを示唆している。本発明の重要な態様は、本発明による繊維または織物へのウイルスおよび他のヒト病原体の結合が、ヒト病原体を繊維または織物上で2つ以上の固定化された硫酸基またはスルホン酸基に結合させ、それによって結合物質とヒト病原体の間の相互作用の親和性を強く増大させることを伴うことである。
【0041】
硫酸化度は、たとえば元素分析などによって硫酸塩、スルホン酸塩、または全硫黄を測定する任意の適した分析的方法によって決定される。結合物質が付着されていないセルロース繊維、または非色素化されていないセルロース繊維または織物の硫黄成分は、極めて少ないか検出不能である。本発明の1つの実施形態によれば、本発明の方法は、0.02と2の間の硫酸化度をもたらす。本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法は、0.05と0.5の間の硫酸化度をもたらす。特定の好ましい実施形態では、本発明の方法は、0.09と0.21の間の硫酸化度をもたらす。硫酸化またはスルホン化繊維または織物の硫酸化度は、必要とされる硫酸化度を有する繊維を作り出すために、本開示を参照する当業者であれば理解するように、硫酸化またはスルホン化反応における時間、温度または試薬濃度を調整することによって調節することができる。
【0042】
セルロース織物の硫酸化度が0.2を超えて増大すると、液体水または水蒸気に晒されたときに繊維の水溶性が増し、それによって織物がハイドロゲルを形成し、織物を通る通気性を低減させる。こうした可溶化の傾向は、相対的に空気の通過を妨げないことが要求される顔マスクに使用される織物には受け入れられない。したがって、本発明の1つの実施形態では、方法は、さらに、織物の繊維を互いに化学的に結び付けて可溶化を防止する1つまたは複数の架橋剤を用いて織物を処理することによって、結合物質を付着する前またはその後に織物の繊維を架橋するステップを含む。1つの実施形態では、織物を架橋剤で処理するステップは、織物をたとえば水酸化ナトリウムなどのアルカリと接触させて、セルロース織物の場合はアルカリ化されたセルロースを与え、次いで、その織物を架橋剤で反応させるステップを含む。1つの実施形態では、架橋剤は、ジクロロアルカン、ジメチロール尿素、ホルムアルデヒドおよびトリメチロールメラミンからなる群より選択される。好ましい実施形態では、架橋剤は、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エピクロルヒドリン、グリセリンジグリシジルエーテルおよびビニルシクロヘキセンジオキシドからなる群より選択されるエポキシ化合物である。
【0043】
硫酸ヒト病原体結合基を含む1つまたは複数の結合物質を繊維に付加することは、たとえば最初に織物を、たとえばジメチルスルホキシド(DMSO)またはジメチルホルムアミド(DMF)などの適した溶媒に接触させることによって達成することができる。織物を溶媒に接触させる時間は、本開示を参照する当業者であれば理解するように、繊維の膨張を最適化し、それによって繊維表面上のヒドロキシル基の硫酸化への暴露を増大させるように調整される。
【0044】
次に、溶媒で処理した織物を、たとえば硫化試薬などの結合物質と接触させる。適した硫化試薬は、本開示を参照する当業者であれば理解するように、使用する溶媒によって決まる。たとえば、1つの実施形態では、溶媒はジメチルスルホキサイドであり、硫化試薬は、三酸化硫黄(DMSO−SO)で処理されたDMSOである。別の実施形態では、溶媒はジメチルホルムアミドであり、硫化試薬は、三酸化硫黄(DMF−SO)で処理されたジメチルホルムアミドである。結合物質との接触は、結合物質と繊維の共有結合が満足のいく程度に達するまで、ただし過剰な結合物質が繊維に結合する前まで維持され、本開示を参照する当業者であれば理解するように、過剰な結合物質が繊維に結合すると、硫酸の場合は織物が液体水または水蒸気との接触時に非通気性になるはずである。
【0045】
1つの実施形態では、方法は、さらに、織物を、たとえば(DMSO−SO)および(DMF−SO)などの溶媒ですすぎ、次いでたとえば水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、または重炭酸ナトリウムなどの適した塩基と接触させて酸性の硫化剤などの酸性の結合物質を中和する、あるいは結合物質を織物に付加する間に形成された酸を中和するステップを含む。
【0046】
次いで、織物を、たとえば水または単純アルコール(エタノールまたはイソプロパノール)などの適した溶媒で洗浄して未反応の試薬を取り除き、ヒト気道感染症を引き起こすウイルスを含めた1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用されるのに適した硫酸化織物を生じさせる。
【0047】
別の実施形態では、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される織物を作製するための本発明の方法は、最初、セルロースパルプまたはセルロース粉末から作製された、0.2を上回る硫酸化度、好ましくは繊維を水溶性にするのに十分である0.5を上回る硫酸化度を有する硫酸セルロース材料を提供するステップを含む。次に、可溶性の硫酸セルロースを次いで織物に施与し、上記で開示し、本開示を参照する当業者であれば理解するように、架橋剤を用いて織物の繊維に共有結合でつなげる。方法のこの実施形態では、織物は、比較的厳しい硫酸化条件および試薬には晒されず、可溶性の硫酸セルロースおよび架橋試薬、ならびに架橋結合の条件だけに晒されるため、硫酸化反応が良好に制御されない場合に起こり得る織物に対する損傷の可能性は減少する。可溶性の硫酸セルロースの濃度は、本開示を参照する当業者であれば理解するように、特に織物が本発明によるマスクに使用されるとき、顔マスクを通るガス交換に適した受け入れ可能な圧力降下特徴を有する織物が得られるように試験によって選択される。
【0048】
本発明の1つの実施形態では、方法は、さらに、織物をヒト病原性に必須のヒト病原体特徴を化学的に崩壊させる1つまたは複数の物質に接触させるステップを含む。好ましい実施形態では、1つまたは複数の物質は、そのすべてが殺ウイルス性、殺菌性、および抗菌性である、たとえば多価の銅、多価の銀、または多価の亜鉛などの多価の金属イオンである。別の実施形態では、1つまたは複数の物質は、そのすべてが殺菌性、殺ウイルス性、および抗菌性である、たとえば酸化銅、酢酸亜鉛、酢酸銅、または硫酸銅などの金属塩である。好ましい実施形態では、金属塩は二価の金属塩である。酢酸塩は、揮発性であり、蒸発によって織物から取り除くことができるので陰イオン塩構成物質として有利であるが、塩化物、酸化物、ヨウ化物および他のものを含めた他の陰イオンもまた、塩構成物質として適している。1つまたは複数の物質の織物への付加は、ヒト病原体の織物への結合に加えて機構を使用することにより、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減することにおいて本発明の顔マスクの効果性を増大させる。
【0049】
本発明の1つの実施形態では、方法は、さらに、結合物質を含む繊維以外の、たとえばポリエステル繊維またはポリプロピレン繊維などの1つまたは複数の種類の繊維を織物内に組み込むステップを含む。
【0050】
別の実施形態では、ステープルまたはトウの形態のセルロース繊維は、本開示で開示されたように織物に対して使用される同じ種類の硫酸化反応によって硫酸化され、次いでこの硫酸セルロース繊維は洗浄され、その後セルロースステープルまたはトウを糸に紡糸する従来の方法によって不織布または織布に形成される、あるいは直接不織布に形成される。
【0051】
次に、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される織物を作製するための本発明の方法を以下の実施例に対して開示する。
【実施例1】
【0052】
硫酸化レーヨン織物の調製
本発明の1つの実施形態によれば、硫酸化レーヨンを本発明によって次のように調製した。最初、60mlイソプロパノールを氷上で冷し、MgSO0.2グラムをイソプロパノールに加えて水を取り除いた。次に、事前に氷上で冷した硫酸240mlをイソプロパノールに加えた。次いで、70グラム/平方メートルの密度を有する不織布のレーヨン織物を17.5cm×22.5cmの長方形に切断し、ほぼ同じサイズのポリプロピレンメッシュ上に載せた。次に、メッシュ上のレーヨン織物を冷した酢酸に15分間浸した。次いで、イソプロパノール/硫酸混合物を氷上に静置しているポリエチレンの箱(約30cm×37.5cm)に注いだ。次に、ポリエチレンメッシュ上のレーヨン織物をイソプロパノール/硫酸混合物に5分間または10分間浸し、最初に低温のイソプロパノールで、次いで100mlあたり酢酸ナトリウム3グラムを含有する低温のイソプロパノールで、その後低温のイソプロパノールですすいで硫酸化レーヨン織物を作り出した。次に、このレーヨン織物を次いでポリエチレンメッシュ上にあるままで乾燥させた。硫酸化レーヨン織物のサンプルを、硫黄および炭素成分に対して分析した。すすぎ前の5分の反応時間は、約0.1の硫酸化度(DS)を生じさせることが見出され、一方ですすぎ前の10分の反応時間は、約0.2の硫酸化度(DS)を生じさせることが見出された。
【実施例2】
【0053】
スルホン化レーヨン織物の調製
本発明の1つの実施形態によれば、スルホン化レーヨン織物を本発明によって次のように調製した。最初、硫酸ナトリウム30グラムを蒸留水600グラムに加え、続いてCI反応性青21染料(スルホン化結合物質)4グラムを加えて溶液を調製した。次に、70グラム/平方メートルの密度を有する不織布のレーヨン織物30グラムをこの溶液に加え、均一に浸り湿潤するまで静かに旋回させた。次いで、炭酸ナトリウム12グラムをかき混ぜながら加え、この混合物を35分間30℃に保った。次に、温度をさらに60分間で70Cまで上昇させて、(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物を生じさせた。次いで、このスルホン化レーヨン織物を、遊離染料が溶出しなくなるまで流水ですすぎ、スルホン化レーヨン織物を空気乾燥させた。
【実施例3】
【0054】
1つまたは複数のヒト病原体の病原体能力を破壊する1つまたは複数の物質を含む織物の調製
本発明の1つの実施形態によれば、実施例1によって作製された硫酸化セルロース織物または実施例2によって作製されたスルホン化セルロース織物を、1つまたは複数のヒト病原体の病原体能力を破壊する、結合物質以外の1つまたは複数の追加の物質を含むように次のように調製した。最初、硫酸化レーヨン織物を実施例1に開示したプロセスによって作製し、あるいは(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物を実施例2に開示したプロセスによって作製した。次いで、いずれも二価の金属塩である硫酸銅および酢酸亜鉛を、金属塩1グラム/水100ミリリットルの濃度を用いて、40μl/cm織物でエアロゾルによって織物に施与した。次いで、追加の物質を含む織物を空気乾燥させ、二価の銅および二価の亜鉛イオンの両方を含む硫酸化レーヨン織物または二価の銅および二価の亜鉛イオンの両方を含むスルホン化レーヨン織物を生じさせた。
【実施例4】
【0055】
二価の金属塩を含むスルホン化レーヨン織物の調製のための工業プロセス
本発明の1つの実施形態によれば、(結合物質としてCI反応性青21染料を用い)、二価の金属塩を含むスルホン化レーヨン織物を、本発明によって次のように調製した。最初、70グラム/平方メートルの密度を有する100%スパンレースビスコースレーヨン織物を、CI反応性青21(Novacron(登録商標)Turquoise H−GN)を用いて20:1の液体対個体比で染色した。次に、硫酸ナトリウム50g/L、炭酸ナトリウム20g/L、および12%の染料含有量(120ml/L)を染浴に加え、連続撹拌で完全に混合した。次いで、レーヨン織物を染浴内に35分間30Cの温度で漬け、続いて60分間で70°の温度にして(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物を作り出した。次に、スルホン化レーヨン織物を流水ですすぎ、空気乾燥させた。次いで、水1リットルあたり酢酸銅および酢酸亜鉛それぞれ50gグラムを、スルホン化レーヨン上に0.08L/mの割合で噴霧して、二価の銅および二価の亜鉛イオンの両方を含むスルホン化レーヨン織物を作り出した。二価の銅および二価の亜鉛イオンの両方を含むスルホン化レーヨン織物を、再度空気乾燥させた。
【実施例5】
【0056】
抗ヒト病原体特性に対する織物の評価
標準的な量のウイルスを1枚の試験用織物上に施与することによって、織物の抗ウイルス特性(抗ヒト病原体特性の代用として)の試験を行う。次いで、試験用織物を細胞培地中でかき混ぜてすべての機能するウイルス粒子、すなわち織物に対する接着によって、あるいは試験用織物に対する別の方法によって不活性化されないウイルス粒子を溶出する。細胞培地中に溶出された機能するウイルス粒子を、ウイルス致死になりやすい細胞に培地を接触させ、細胞死の定量的読み出しを確認することによってウイルスの活性に対して検査する。溶出培地中の細胞死の低減は、織物へのウイルス接着による試験用織物によって、または別の方法による試験用織物によって、ウイルスの不活性化が増大したことを示唆している。
【0057】
本発明の1つの実施形態によれば、実施例1によって作製された0.2の硫酸化度(DS)を有する硫酸レーヨン織物、実施例2によって作製された(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物および実施例3によって作製された硫酸銅および酢酸亜鉛の両方を含む(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物を、抗ウイルス特性に対して検査した。最初、硫酸レーヨン織物、(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物、および(結合物質としてCI反応性青21染料を用い)、硫酸銅および酢酸亜鉛の両方を含むスルホン化レーヨン織物の試験用サンプルを、ヒト病原体単純ヘルペスウイルス(HSV)を非活性化する織物の能力を検査するためにMicrobiotest、Inc.社(米国、バージニア州、スターリング)に提出した。HSVをエアロゾルで試験用織物の5cm×5cmの面積、ならびにレーヨン制御織物の非硫酸、非スルホン化の部片および硫酸銅および酢酸亜鉛のみで処理されたレーヨン織物の部片に施与した(水100mlあたりそれぞれ1グラム、1平方センチメートルあたり40マイクロリットルで施与した)。HSV処理した織物サンプルを1分間保ち、次いで抽出培地の個々の20mlアリコート内に置き、静かな撹拌に5分間かけた。抽出サンプルのアリコートを希釈培地中で連続的に10倍に希釈し、宿主細胞上に接種した。各々のサンプルからの抽出培地中の残留した感染性ウイルスを検出し、そのウイルスにより誘導された細胞変性効果によって定量化した。
【0058】
表1
抗ウイルス特性に対する織物の検査結果

【0059】
図に示すように、実施例1によって調製された硫酸化レーヨン織物は、非硫酸化、非スルホン化レーヨン制御織物に比べ、病原体ウイルスにおいて1.87の対数減少を有した。硫酸銅および酢酸亜鉛を非硫酸化、非スルホン化レーヨン制御織物内に組み込むことにより、非硫酸化、非スルホン化レーヨン制御織物に比べ、病原体ウイルスにおいて2.0の対数減少を生じさせ、このとき病原体ウイルスの減少は二価の塩単独の存在に起因した。実施例2によって調製された(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物は、非硫酸化レーヨン制御織物に比べ、病原体ウイルスにおいて0.37の対数減少を有した。
【0060】
この検査システムにおける検出の下限は3.13対数であったため、(結合物質としてCI反応性青21染料を用い)、硫酸銅および酢酸亜鉛で処理されたスルホン化レーヨン織物に対するHSV力価における最低減少は、4.47対数であった。したがって、二価の金属イオンを組み込む非硫酸化、非スルホン化レーヨン織物と対比させて、最低2.47対数のさらなるウイルス不活性化または閉じ込めが、スルホン化および同じ量の二価の金属イオンによって達成された。これらの結果は、織物のスルホン化と二価の金属塩の織物への組み込みとの間の抗ヒト病原体の活性に対する予期せぬ相乗効果を証明した。
【0061】
本発明の1つの実施形態によれば、実施例1によって作製された0.1または0.2の硫酸化度(DS)を有する硫酸化レーヨン織物、実施例4によって作製された0.2の硫酸化度(DS)を有し、二価の金属塩の硫酸銅および酢酸亜鉛を含む硫酸化レーヨン織物、実施例2によって作製された(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物、および実施例3によって作製された(結合物質としてCI反応性青21染料を用い)、二価の金属塩の硫酸銅および酢酸亜鉛を含むスルホン化レーヨン織物、ならびに非硫酸化、非スルホン化レーヨン制御織物、および二価の金属塩の硫酸銅および酢酸亜鉛を含むレーヨン織物を、それらの抗ウイルス特性に対して検査した。インフルエンザA型ウイルスの4.70対数をエアロゾルで試験用織物の5cm×5cmの面積に施与し、施与されたインフルエンザA型ウイルスを有するこの試験用織物の各々の3つのサンプルを、ウイルス施与後1分、5分または15分間静置し、次いで抽出培地の個々の20mlアリコート内に置き、静かな撹拌に5分間かけた。抽出バッファの連続希釈を孵化卵に施し、胚期の生存能力およびそのような卵からの尿膜腔液の赤血球凝集素検査による病原体インフルエンザA型ウイルスの力価を検査した。
【0062】
試験の結果は、実施例1によって作製され、0.1または0.2の硫酸化度(DS)を有する硫酸化レーヨン織物は、試験された時間点(1分、5分および15分)の各々においていずれも検出可能な病原性ウイルスを生じさせず、織物に施与されたウイルス量に比べ、試験の時間点の各々において3を上回るインフルエンザウイルスの対数減少を示唆した。同様に、0.2の硫酸化度(DS)を有し、二価の金属塩の硫酸銅および酢酸亜鉛を含む実施例1によって作製された硫酸化レーヨン織物もまた、試験された時間点(1分、5分および15分)の各々において検出可能な病原性ウイルスを生じさせず、織物に施与されたウイルス量に比べ、試験された時間点の各々において3を上回るインフルエンザウイルスの対数減少を示唆した。
【0063】
実施例2によって作製された(結合物質としてCI反応性青21染料を用いた)スルホン化レーヨン織物は、1分の試験時間で1.95、5分の試験時間で2.33、15分の試験時間で3.08の対数減少でインフルエンザAウイルスが減少した。実施例3によって作製された、(結合物質としてCI反応性青21染料を用い)、二価の金属塩の硫酸銅および酢酸亜鉛を含むスルホン化レーヨン織物は、試験された時間点(1、5および15分)の各々において検出可能な病原性ウイルスを生じさせず、試験された時間点の各々において3を上回るインフルエンザウイルスの対数減少を示唆した。
【0064】
本発明の別の実施形態によれば、たとえばヒト気道感染症を引き起こす1つまたは複数のウイルスなどの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される装置が提供される。1つの実施形態では、装置は、たとえばヒト気道感染症を引き起こす1つまたは複数の種類のウイルスなどの1つまたは複数のヒト病原体に結合する本発明による1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える。好ましい実施形態では、装置は、本発明による織物を備える。1つの実施形態では、装置は、たとえば吸収性ティッシュ、エプロン、手袋またはスカーフ、靴下および靴の中敷きなどの衣類、たとえばシーツまたは毛布などの寝具、化粧パッド、おしめ、体のあらゆる表面またはあらゆる部分に接着剤によって取り付けられる乾燥消毒パッチ、生理用ナプキン、便座カバー、たとえばソファのカバリングなどの掛け布、拭き取り布、およびたとえばカーテンまたはシェードなどの窓おおいからなる群より選択される。好ましい実施形態では、装置は、たとえば飛行機および自動車などのモータビークルに使用されるもの、あるいはヒト病原体の伝染のリスクが存在するたとえば家、病院および事務所などの非可動の閉鎖空間などで使用されるものなどの空気フィルタである。
【0065】
好ましい実施形態では、装置は、顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するための顔マスクである。顔マスクは、顔マスクの着用者の口および鼻を覆うように構成され、顔マスクを着用者の頭部に固定するための1つまたは複数の延長部を備える面体を備える。
【0066】
好ましい実施形態では、顔マスクの面体は、本発明による織物を備え、織物は、本発明による結合物質を含む。好ましい実施形態では、織物は、さらに、1つまたは複数のヒト病原体の病原体能力を低減する、結合物質以外の本発明による1つまたは複数の追加の物質を含む。好ましい実施形態では、1つまたは複数の追加の物質は、たとえば多価の銅、多価の銀および多価の亜鉛からなる群より選択される多価の金属イオンなどの多価の金属イオンである。別の実施形態では、1つまたは複数の物質は、たとえば酢酸銅、酸化銅、硫酸銅および酢酸亜鉛からなる群より選択される金属塩などの金属塩である。特定の好ましい実施形態では、金属塩は二価の塩である。
【0067】
次に図3〜図8を参照すると、本発明の1つの実施形態による顔マスクの前面斜視図(図3)、図3に示す顔マスクの裏面斜視図(図4)、本発明の別の実施形態による顔マスクの前面斜視図(図5)、および図5に示す顔マスクの裏面斜視図(図6)、本発明の別の実施形態による顔マスクの前面斜視図(図7)および図7に示す顔マスクの裏面斜視図(図8)をそれぞれ示している。図に示すように、顔マスク18は、面体20と、顔マスク18を着用者の頭部に固定するために面体20に接合された1つまたは複数の延長部22とを備える。面体20は、前面24と、裏面26と、前面24および裏面26の周りの周囲28とを備え、面体20は、着用者の頭部の下側部分と嵌合するように構成された形態を含むことによって顔マスク18の着用者の口および鼻を覆うように構成される。
【0068】
次に図3および図4を参照すると、本発明の1つの実施形態による顔マスクの前面斜視図(図3)、および図3に示す顔マスクの裏面斜視図(図4)をそれぞれ示している。図に示すように、この実施形態では、前面から見ると、面体20の周囲28は、半円の下側半分30を備え、さらに、着用者の鼻孔上方と鼻柱上とに延びるように構成された、中央の鼻柱延長部34を有する半円の上側半分32を備える。顔マスク18のこの実施形態では、面体20は、顔マスク18の着用者の顔の曲線への近似度を高めるために、前面24に向かって凸状に形作られる。
【0069】
次に図5および図6を参照すると、本発明の別の実施形態による顔マスクの前面斜視図(図5)、および図5に示す顔マスクの裏面斜視図(図6)をそれぞれ示している。図に示すように、前面から見ると、この実施形態では、面体20の周囲28は、ほぼ半円の下側半分30を備え、かつ横方向の2つの頬延長部36と、2つの頬延長部36の間に中央鼻柱延長部34とを有する上側半分32を備える。本開示を参照する当業者であれば理解するように、頬延長部36は、顔マスク18の着用者の頬の両側に適合するように構成され、鼻柱延長部34は、着用者の鼻孔上方と鼻柱上とに延びるように構成される。顔マスク18のこの実施形態では、面体20は、前面24に向かって凸状であることにより、顔マスク18の着用者の顔の曲線に対する近似度が向上している。
【0070】
次に図7および図8を参照すると、本発明の1つの実施形態による顔マスクの前面斜視図(図7)、および図7に示す顔マスクの裏面斜視図(図8)をそれぞれ示している。図に示すように、この実施形態では、面体20の周囲28は、上縁38と、底縁40と、上縁38を底縁40に連結する2つの横縁42、44とを備える。面体20は、さらに、一方の横縁42から他方の横縁42まで延びる複数のひだ46を備え、このひだ46が面体20の中央を拡張させて面体20の前面24に向かう凸形状を形成することにより、顔マスク18の着用者の顔の曲線にさらに近づくことができる。
【0071】
1つの実施形態では、面体20は、本発明による結合物質を含む織物を備える。好ましい実施形態では、面体は、結合物質および1つまたは複数の二価の金属イオンを含む織物を備える。好ましい実施形態では、面体は、本発明による複数の層を含む材料を含む。特定の好ましい実施形態では、面体は、3つの層を含む本発明による材料を含み、3つの層の1つまたは複数は、本発明による織物であり、層のうち1つまたは複数は、ポリプロピレン、ポリエステルまたは不織布の酢酸セルロース織物からなる群より選択される熱成形型織物などの熱成形型織物である。好ましい実施形態では、熱成形型織物は、ポリプロピレンウェビングを含む。
【0072】
顔マスク18は、さらに、顔マスク18を着用者の頭部に固定するために面体20に接合された1つまたは複数の延長部22を備える。1つの実施形態では、1つまたは複数の延長部22は、図3に見られるようにストラップであり、あるいは図5および図7に見られるように耳ループである。ストラップは弾性でも非弾性でもよい。1つの実施形態では、1つまたは複数の延長部22は、顔マスク18の着用者の顔への取り付けを可能にする一続きの接着ストリップである。
【0073】
別の好ましい実施形態では、装置は、本発明による織物を備える取り外し可能および交換可能なフィルタを備える顔マスクである。次に図9および図10を参照すると、本発明による取り外し可能なフィルタを備える顔マスクの2つの実施形態の前面斜視図が存在する。図に示すように、図9に示すような1つの実施形態では、顔マスク18は、面体20と、複数の延長部22とを備え、さらにフィルタを保持するための機構48と、フィルタ50とを備える。図9に示す実施形態では、機構48は、2つの部分が相互連結する枠であり、顔マスク18の枠の2つの部分の間に取り付けられるフィルタの取り外し可能な配置を可能にする。別の実施形態では、図10に示すように、顔マスク18は、ガスマスク52と、複数の延長部22とを備え、さらにフィルタを保持するための機構48と、フィルタ50とを備える。好ましい実施形態では、フィルタは、本発明による織物を備える。別の好ましい実施形態では、フィルタは、複数の層を含む本発明による材料を含む。
【0074】
本発明の別の実施形態によれば、ヒト気道感染症を引き起こすウイルスを含めた、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される装置を作製するための方法が提供される。1つの実施形態では、方法は、本発明による装置を作り出す。別の実施形態では、方法は、たとえば吸収性ティッシュ、エプロン、手袋またはスカーフ、靴下、および靴の中敷きなどの衣類、たとえばシーツまたは毛布などの寝具、化粧パッド、おしめ、体のあらゆる表面またはあらゆる部分に接着剤によって取り付けられる乾燥消毒パッチ、生理用ナプキン、便座カバー、たとえばソファのカバリングなどの掛け布、拭き取り布、およびたとえばカーテンまたはシェードなどの窓おおいからなる群より選択される装置を作り出す。
【0075】
好ましい実施形態では、本方法によって作り出された装置は、本発明による、顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される顔マスクである。顔マスクは、面体と、顔マスクを着用者の頭部に固定するために面体に取り付けられた1つまたは複数の延長部とを備える。好ましい実施形態では、本方法によって作り出された装置は、本発明による織物を備えた取り外し可能なフィルタを備える顔マスクである。別の好ましい実施形態では、本方法によって作り出された装置は、たとえば(たとえば呼吸マスクまたはガスマスクなどの)既存の顔マスクまたは呼吸装置に取り付けることができる織物の層などの、顔マスクまたは呼吸装置用のカバリングであり、このカバリングは、着用者がカバリングを通して呼吸するとき、顔マスクまたは呼吸装置の着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減することによって顔マスクまたは呼吸装置の着用者の安全性を向上させる。
【0076】
別の好ましい実施形態では、本方法によって作り出された装置は、たとえば飛行機および自動車などのモータビークルに使用されるもの、あるいはヒト病原体の伝染のリスクが存在する、たとえば家、病院、および事務所などの非可動の閉鎖空間などで使用されるものなどの空気フィルタである。方法は、本発明によって作製された織物を提供するステップと、この織物を装置内に組み込むステップとを含む。
【0077】
1つの実施形態では、方法は、結合物質を含む織物を1つまたは複数の熱成形型織物で封入するまたは取り囲むステップを含む。そのような熱成形型織物は、顔マスクの加熱または超音波溶接によってマスクの成形を可能にする。
【0078】
1つの実施形態では、方法は、最初に本発明による織物を提供するステップを含み、織物は、本発明による結合物質を含む。好ましい実施形態では、織物は、さらに、1つまたは複数のヒト病原体の病原体能力を低減する、結合物質以外の本発明による1つまたは複数の追加の物質を含む。好ましい実施形態では、1つまたは複数の追加の物質は、たとえば多価の銅、多価の銀または多価の亜鉛などの多価の金属イオンである。別の実施形態では、1つまたは複数の物質は、たとえば酸化銅、酢酸亜鉛、酢酸銅または硫酸銅などの金属塩である。特定の好ましい実施形態では、金属塩は、二価の金属塩である。
【0079】
1つの実施形態では、織物は、顔マスクの形状に合わせて切断および形成され、顔マスクには1つまたは複数の延長部が取り付けられる。
【0080】
別の実施形態では、顔マスクの面体は複数の層を含み、層のうち1つまたは複数は、結合物質を含む本発明による織物を備え、層のうち1つまたは複数は、たとえばポリプロピレン、ポリエステルまたは酢酸セルロース不織布などの熱成形型織物である。特定の好ましい実施形態では、複数の層は3つの層である。別の特定の好ましい実施形態では、複数の層は4つの層である。面体が複数の層を含むとき、方法は、顔マスクの面体の1つまたは複数の層を形成するための織物を提供するステップを含む。1つの実施形態では、織物または材料、または織物および材料の両方が、第1のサイズのロール上に提供され、このロールは、顔マスクを作製するのに適したサイズに合わせて切断される。
【0081】
次いで、織物および1つまたは複数の層材料は、面体の層の順に組み立てられ、互いに接合される。1つの実施形態では、織物および材料の1つまたは複数の層は、超音波溶接によって接合される。好ましい実施形態では、織物および材料の1つまたは複数の層は、超音波溶接および圧力の印加によって接合される。1つの実施形態では、顔マスクは周囲を備え、織物および材料の1つまたは複数の層は、その周囲に沿って超音波溶接によって接合される。1つの実施形態では、方法は、さらに、顔マスクを文字または絵、または文字および絵の両方で標識するステップを含む。
【0082】
次に、方法は、面体を成形するステップを含む。1つの実施形態では、面体を成形するステップは、織物および存在する場合は材料の1つまたは複数の層を面体の形状になるように切断するステップを含む。
【0083】
1つの実施形態では、方法は、さらに、面体の3次元構造を変更するために面体の2つまたはそれ以上の継ぎ目を接合するステップを含む。1つの実施形態では、接合するステップは、面体を溶接する、あるいは面体に接着剤を施与するステップを含む。
【0084】
次いで、方法は、顔マスクを創出するために1つまたは複数の延長部を面体に取り付けるステップを含む。
【0085】
本発明の別の実施形態によれば、1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減する方法が提供される。1つの実施形態では、方法は、本発明による顔マスクを提供するステップと、顔マスクを着用するステップとを含む。
【0086】
特定の好ましい実施形態を参照して本発明をかなり詳細に論じてきたが、他の実施形態も可能である。したがって、付属の特許請求の範囲の範囲は、本開示に包含された好ましい実施形態の説明に限定されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される顔マスクであって、
a)前面と、裏面と、前面および裏面の周囲とを備え、顔マスクの着用者の口および鼻を覆う面体と、
b)顔マスクを着用者の頭部に固定するために面体に取り付けられた1つまたは複数の延長部と
を備え、
面体が3つ以上の層を含み、
3つ以上の層のうちの1つまたは複数が、1つまたは複数の結合物質を含む織物を備え、
1つまたは複数の結合物質が、ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含み、
織物が、1つまたは複数の種類の多価の金属イオンまたは金属塩をさらに含み、
3つ以上の層のうちの1つまたは複数が、熱成形型織物を含む、
顔マスク。
【請求項2】
面体がほぼ半円の下側半分を備え、かつ横方向の頬延長部、および2つの頬延長部の間で着用者の鼻孔上方と鼻柱上とに延びる中央鼻柱延長部を有する上側半分を備える、請求項1に記載の顔マスク。
【請求項3】
顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される顔マスクであって、
a)前面と、裏面と、前面および裏面の周囲とを備え、顔マスクの着用者の口および鼻を覆う面体と、
b)顔マスクを着用者の頭部に固定するために面体に取り付けられた1つまたは複数の延長部と
を備え、
面体が、ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含む1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える顔マスク。
【請求項4】
1つまたは複数のヒト病原体が、ヒト疾患を引き起こす細菌、真菌およびウイルスからなる群より選択される、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項5】
ヒト病原体が、ヒト気道感染症を引き起こす1つまたは複数のウイルスである、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項6】
1つまたは複数のヒト病原体が、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルスおよび呼吸器合胞体ウイルス(RSV)からなる群より選択される、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項7】
織物が、1つまたは複数の種類の多価の金属イオンをさらに含む、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項8】
1つまたは複数の種類の多価の金属イオンが、多価の銅、多価の銀および多価の亜鉛からなる群より選択される、請求項7に記載の顔マスク。
【請求項9】
織物が、酢酸銅、酸化銅、硫酸銅および酢酸亜鉛からなる群より選択される1つまたは複数の金属塩をさらに含む、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項10】
面体が複数の層を含み、複数の層のうちの1つまたは複数が、1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項11】
複数の層のうちの1つまたは複数が熱成形型織物を備える、請求項10に記載の顔マスク。
【請求項12】
複数の層のうちの1つまたは複数が、ポリプロピレン、ポリエステルまたは酢酸セルロース不織布からなる群より選択される織物を備える、請求項10に記載の顔マスク。
【請求項13】
複数の層のうちの1つまたは複数が、ポリプロピレンウェビングを含む、請求項10に記載の顔マスク。
【請求項14】
複数の層が3つの層からなる、請求項10に記載の顔マスク。
【請求項15】
複数の層が4つの層からなる、請求項10に記載の顔マスク。
【請求項16】
面体の周囲が、半円の下側半分、および着用者の鼻孔上方と鼻柱上とに延びる中央の鼻柱延長部を有する半円の上側半分を備える、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項17】
面体が、ほぼ半円の下側半分を備え、かつ横方向の頬延長部と、2つの頬延長部の間で着用者の鼻孔上方と鼻柱上とに延びる中央鼻柱延長部とを有する上側半分を備える、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項18】
面体が前面に向かって凸状であることにより、顔マスク着用者の顔の曲線に対する近似度が向上した、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項19】
面体の周囲が、上縁と、底縁と、上縁と底縁とを連結する2つの横縁とを備えており、
面体が、一方の横縁から他方の横縁に延びる複数のひだをさらに備えており、このひだが面体の中央を拡張させることにより面体の前面に向かって凸形状が形成されて、顔マスク着用者の顔の曲線にさらに近づくことができる、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項20】
1つまたは複数の延長部が、ストラップ、耳ループ、および接着ストリップからなる群より選択される、請求項3に記載の顔マスク。
【請求項21】
顔マスク着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される顔マスクであって、
a)前面と、裏面と、周囲とを備え、顔マスクの着用者の口および鼻を覆う面体と、
b)1つまたは複数のヒト病原体に結合する1つまたは複数の結合物質を含む織物を備えた取り外し可能なフィルタと、
c)フィルタを保持するために面体に取り付けられた機構と
を備える顔マスク。
【請求項22】
ガスマスクの着用者へのおよび着用者からの1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用されるガスマスクであって、
a)1つまたは複数のヒト病原体に結合する1つまたは複数の結合物質を含む織物を備えた取り外し可能なフィルタと、
b)フィルタを保持するために取り付けられた機構と
を備えるガスマスク。
【請求項23】
フィルタが、複数の層を含む材料を含み、複数の層のうちの1つまたは複数が、1つまたは複数のヒト病原体に結合する1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える、請求項22に記載のガスマスク。
【請求項24】
1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される装置であって、ヒト病原体を1つまたは複数の結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含む当該結合物質を含む織物を備えているもので、
空気フィルタ、衣服、寝具、化粧パッド、顔マスクまたは呼吸装置用のカバリング、おしめ、乾燥消毒パッチ、生理用ナプキン、便座カバー、掛け布、拭き取り布および窓おおいからなる群より選択される、装置。
【請求項25】
複数の層をさらに備え、
複数の層のうちの1つまたは複数が、1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
複数の層のうちの1つまたは複数が熱成形型織物を備える、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
複数の層のうちの1つまたは複数が、ポリプロピレン、ポリエステルまたは酢酸セルロース不織布からなる群より選択される織物を備える、請求項25に記載の装置。
【請求項28】
複数の層のうちの1つまたは複数がポリプロピレンウェビングを含む、請求項25に記載の装置。
【請求項29】
複数の層が3つの層からなる、請求項25に記載の装置。
【請求項30】
複数の層が4つの層からなる、請求項25に記載の装置。
【請求項31】
請求項3による顔マスクの作製方法であって、
a)ヒト病原体を結合物質に化学的に付着させるための1つまたは複数のヒト病原体結合基を含む1つまたは複数の結合物質を含む織物を提供するステップと、
b)織物を顔マスク内に組み込むステップと
を含む方法。
【請求項32】
顔マスクが、織物を備えた取り外し可能なフィルタを備えており、
本方法が、取り外し可能なフィルタを顔マスク内に組み込むステップを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
結合物質を含む織物を複数枚の熱成形型織物の間に封入するかまたは取り囲むステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
複数枚の熱成形型織物を一緒に加熱または溶接するステップをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
1つまたは複数のヒト病原体の病原体能力を低減する、結合物質以外の1つまたは複数の追加の物質を加えるステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
1つまたは複数の追加の物質が多価の金属イオンまたは金属塩である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減する方法であって、
a)請求項1に記載の顔マスクを提供するステップと、
b)顔マスクを着用するステップと
を含む方法。
【請求項38】
1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減する方法であって、
a)請求項3に記載の顔マスクを提供するステップと、
b)顔マスクを着用するステップと
を含む方法。
【請求項39】
1つまたは複数のヒト病原体の伝染を低減するのに使用される材料であって、複数の層を含み、
複数の層のうちの1つまたは複数が、1つまたは複数の結合物質を含む織物を備える、材料。
【請求項40】
複数の層のうちの1つまたは複数が熱成形型織物を含む、請求項39に記載の材料。
【請求項41】
複数の層のうちの1つまたは複数が、ポリプロピレン、ポリエステルまたは酢酸セルロース不織布からなる群より選択される織物を備える、請求項39に記載の材料。
【請求項42】
複数の層のうちの1つまたは複数がポリプロピレンウェビングを含む、請求項39に記載の材料。
【請求項43】
複数の層が3つの層からなる、請求項39に記載の材料。
【請求項44】
複数の層が4つの層からなる、請求項39に記載の材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−531714(P2010−531714A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515086(P2010−515086)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/068225
【国際公開番号】WO2009/003057
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(502155884)フィリジェント リミテッド (4)
【Fターム(参考)】