説明

ヒト胚幹細胞を迅速に拡大するための培養系

【課題】ヒト多能性幹細胞を培養するための改良系を提供する。
【解決手段】多能性幹細胞は伝統的に、分化を防ぐために(マウス胚線維芽細胞等の)フィーダー細胞層上で培養される。本明細書に記載する系では、フィーダー細胞の役割は、分化させずに迅速な増殖を支持する、培養環境に添加される成分と入れ替わっている。効果的な特徴とは、細胞にとって適切な支持構造、および、別の細胞種であらかじめ馴化することなく培養物中に新しく添加され得る効果的な培地である。本発明に従って新鮮培地中でヒト胚幹細胞を培養することにより、細胞は、3種の胚性胚葉すべてに相当する細胞に分化する能力を保持しながらも、驚くほど迅速に拡大する。この新規な培養系により、薬剤スクリーニングおよびヒトの治療において使用する重要な産物の商業生産のためのpPS細胞の大量増殖が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、胚細胞の細胞生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、多能性幹細胞の増殖、ならびにヒト胚幹細胞の増殖および使用を容易にする培養条件および物質に関する。
【0002】
関連出願の参照
本出願は、2001年9月5日に出願された米国特許出願第60/317,478号、および本出願と同じ名称を有する2002年9月4日に出願された米国実用出願[代理人整理番号091/030p]に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
背景
初期胚からのヒト幹細胞の単離および増殖に関する近年の研究により、再生医療の分野はかなりの関心を集めている。これらの細胞は2つの非常に特殊な性質を有する。第一に、他の標準的な哺乳動物細胞種とは異なり、これらの細胞は培養においてほとんど永久に増殖することが可能であり、実質的に無限の供給を提供し得る。第二に、これらの細胞を用いて、疾患、感染の過程で、または先天性異常のために損傷を受けた細胞および組織を置換する供給源として、関心対象の様々な組織種を生じることができる。
【0004】
多能性幹細胞に関する初期の研究は、マウスにおいて行われた(Robertson、Meth. Cell Biol. 75:173、1997(非特許文献1);およびPedersen、Reprod. Fertil. Dev. 6:543、1994(非特許文献2))。ヒト幹細胞での実験は、数々のさらなる技術的困難および編集の克服を必要とした。結果として、ヒト多能性幹細胞を培養する技術および分化させる技術は、ほとんど進歩していない。
【0005】
Thomsonら(米国特許第5,843,780号(特許文献1);Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995(非特許文献3))は、霊長動物から多能性幹細胞を単離し増殖することに初めて成功した。彼らは次に、ヒト胚盤胞からヒト胚幹(hES)細胞株を派生させた(Science 282:114、1998(非特許文献4))。Gearhartらは、胎児性腺組織からヒト胚生殖(hEG)細胞株を派生させた(Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998(非特許文献5);および米国特許第6,090,622号(特許文献2))。hES細胞およびhEG細胞のどちらも、多能性幹細胞という念願の特性を有する。これらは、分化することなく長く培養することが可能であり、正常な核型を有し、多数の重要な細胞種を産生する能力をもち続ける。
【0006】
治療のために多能性幹細胞を使用する上での重要な課題は、分化を防ぐためにこれらの細胞が従来フィーダー細胞層上で培養される点である(米国特許第5,843,780号(特許文献1);米国特許第6,090,622号(特許文献2))。Thomsonらによると(Science 282:114、1998(非特許文献4))、フィーダー細胞を用いずに培養したhPS細胞はまもなく死滅するか、または拘束された細胞の不均一な集団に分化する。白血病抑制因子(LIF)はマウスES細胞の分化を阻害するが、ヒトES細胞の分化を防ぐフィーダー細胞の役割に取って代わることはない。
【0007】
国際公開公報第99/20741号(Geron Corp. 特許文献3)は、霊長動物由来始原幹細胞の増殖のための方法および材料(Methods and materials for the growth of primate-derived primordial stem cells.)と題する。実質的に未分化状態の霊長動物由来始原幹細胞を増殖させるための、低浸透圧および低エンドトキシンレベルを有する細胞培養液について記載されている。基礎培地は、フィーダー細胞基層またはフィーダー細胞基質上で霊長動物由来始原幹細胞の増殖を支持するのに効果的な血清と組み合わせることができる。培地はまた、非必須アミノ酸、抗酸化剤、およびヌクレオシドまたはピルビン酸塩のどちらかである増殖因子を含んでもよい。
【0008】
国際公開公報第01/51616号(Geron Corp. 特許文献4)は、ヒト多能性幹細胞の増殖および分化のための技法(Techniques for growth and differentiation of human pluripotent stem cells.)と題する。Xuらによる論文(Nature Biotechnology 19?:971、2001(非特許文献6))は、未分化ヒト胚幹細胞のフィーダー非含有増殖(Feeder-free growth of undifferentiated human embryonic stem cells.)と題する。Lebkowskiらによる論文(Cancer J. 7 別冊 2:S83、2001(非特許文献7))は、ヒト胚幹細胞:再生医療応用のための培養、分化、および遺伝的改変(Human embryonic stem cells: culture, differentiation, and genetic modification for regenerative medicine applications.)と題する。これらの出版物は、未分化状態のヒト胚幹細胞を増殖するための例示的な培養法、およびヒトの治療のための細胞調製におけるその使用について報告している。
【0009】
未分化多能性幹細胞の増殖および操作を容易にする新しい技術は、胚細胞療法の十分な商業的可能性の実現を目指した実質的な成果になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,843,780号(Thomsonら)
【特許文献2】米国特許第6,090,622号(Gearhartら)
【特許文献3】国際公開公報第99/20741号(Geron Corp.)
【特許文献4】国際公開公報第01/51616号(Geron Corp.)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Robertson、Meth. Cell Biol. 75:173、1997
【非特許文献2】Pedersen、Reprod. Fertil. Dev. 6:543、1994
【非特許文献3】Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995
【非特許文献4】Thomsonら、Science 282:114、1998
【非特許文献5】Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998
【非特許文献6】Xuら、Nature Biotechnology 19?:971、2001
【非特許文献7】Lebkowskiら、Cancer J. 7 別冊 2:S83、2001
【発明の概要】
【0012】
本開示は、霊長動物多能性幹(pPS)細胞を拡大するための改良系を提供する。この技術により、使用者は、治療および創薬において使用するための、他の種および他の組織種の細胞による望ましくない汚染のない、高品質のpPS細胞を迅速に産生することができる。
【0013】
この技術の応用は、以下の項でより詳細に記載し例証する成分を含む培養環境に、幹細胞を導入することを含む。典型的には、この環境は、支持構造、培養液、および未分化状態のpPS細胞の増殖を支持する培地に添加する1つまたは複数の因子を含む。例示的な支持構造は、単離された細胞外マトリックス成分から作製される。例示的な培養液は等張緩衝液、タンパク質またはアミノ酸供給源を含み、またヌクレオチド、脂質、およびホルモンを含んでもよい。培地に添加する例示的な因子は、線維芽細胞増殖因子である。適切な培地中の十分なFGFは、長い培養を通して、実質的に未分化状態のpPS細胞を維持するのに十分であることが見出された。必要な場合には、開示内で記載する他の因子を添加し、培養の質および拡大を改良することができる。
【0014】
pPS細胞が未分化状態で増殖し続けるためにフィーダー細胞が必要とされないことから、培養環境は本質的にフィーダー細胞なしにすることができる。この態様において、細胞は本質的に、未分化pPS細胞、および分化を開始したまたは異なる表現型になった可能性があるその子孫からなる。これらはすべて同じpPS細胞由来であるため、培養物内の細胞はすべて同じ遺伝子型を有し、このことは細胞が同じ染色体DNA(核型異常または計画的な遺伝子改変の有無)を有することを意味する。これは、培養物内のすべての細胞が本質的に同じpPS細胞由来であることを実証することにより、確認することができる。本質的に培養物内の各細胞が開始細胞株の1つの子孫である限りは、pPS細胞の異なる系統およびその子孫の混合による混合集団も含まれる。
【0015】
この系の重要な長所は、幹細胞と混合する以前に培地を馴化する必要がないことである。当業者はあらかじめ他の細胞株で培地を馴化することを望むかもしれないが、培地を「新鮮なまま」pPS細胞に添加し、やはり分化させずに増殖を支持することができる。このことは、(使用した培地と直接置換するか、または徐々にもしくは連続的に交換する系のどちらかにより)培地がpPS細胞培養物に添加される以前に、他の細胞種と共に培養されていないことを意味する。
【0016】
この系の別の長所は、細胞が従来の技法に従ってフィーダー細胞上でまたは馴化培地中で培養される場合よりも迅速に(1.5倍ほど速く)拡大するような条件に適応させる能力である。使用者は本発明を用いるために細胞を迅速に拡大する必要がないとはいえ、24時間という短い倍加時間で細胞を増殖させる選択肢を有する。
【0017】
この培養系を用いて(必要な場合には、選択的に細胞を新しい培養環境中に継代し)、開始集団と比較して10倍またはそれ以上拡大した多能性幹細胞の集団を得ることができる。形態学的特徴、表現型マーカー、または3つの胚性胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の派生体に分化する能力によると、拡大後でさえも、細胞は高い比率で依然として未分化のままである。
【0018】
本発明の態様には、pPS細胞を拡大する培養環境およびその使用、環境およびpPS細胞の混合した組成物、ならびに本開示内に記載する試薬および技法を用いたpPS細胞を拡大する様々な方法が含まれる。この系は、樹立したヒト胚幹細胞株およびその同等物などの、ヒト胚盤胞から単離または増殖された細胞によって例証される、様々な種類のpPS細胞で使用することができる。
【0019】
この系を用いて、遺伝的に改変したpPS細胞を作製することができる。DNA-脂質複合体等の所望の遺伝的改変を生じる適切なベクターを、細胞にトランスフェクションする。これは、本発明のフィーダー非含有培養系において容易になる。遺伝的に改変した細胞集団は、遺伝的改変および/または改変した遺伝子型の選択の前もしくは後に、すでに記載したように拡大することができる。
【0020】
同様にこの系を用いて、様々な種類の分化した細胞種を生じることができる。所望の数まで未分化pPS細胞を拡大した後、本開示で後に提供する様々な分化パラダイムのいずれかに従って、分化を引き起こす。少なくとも95%の細胞が同じ組織種または胚葉(例えば、神経系細胞、肝細胞、心筋細胞、間葉細胞、または骨芽細胞)に相当する分化した集団を得ることができる。
【0021】
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の記載により明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】フィーダー非含有培養におけるhES細胞の形態を示す。パネルA(左側)は、標準培地中のフィーダー細胞上(mEF/RM)、mEF馴化培地中のマトリゲル(登録商標)、ラミニン、フィブロネクチン、またはIV型コラーゲン上で培養したhES細胞の形態を示す。パネルB(右側)は、mEF、NHG190、STO、およびBJ 5Ta細胞により馴化した培地中のマトリゲル(登録商標)上で維持したhES細胞の形態を、非馴化標準培地(RM)と比較して示す。適切な馴化培地中で培養したhES細胞は、未分化細胞の適切な形態を有したコロニーを含んでいた。
【図2】初代フィーダー細胞(mEF)を用いて、または馴化培地中の細胞外マトリックスマトリゲル(登録商標)もしくはラミニン上で増殖した細胞の、免疫細胞化学法により検出されるマーカー発現を示す。
【図3】フィーダー細胞(mEF)を用いて、または標準培地(RM)もしくは馴化培地(CM)とともに細胞外マトリックス(マトリゲル(登録商標)またはラミニン)を用いて培養したhES細胞における、OCT-4およびhTERT発現の解析を提供する。上のパネルは、RT-PCRによるmRNAレベルでのOCT-4およびhTERT発現を示す。下のパネルは、18s標準に対するOCT-4またはhTERTの比率として表される、様々な基層上で増殖した細胞の発現のレベルを比較するものである。
【図4】リポフェクションにより、hES細胞がフィーダー非含有培養において遺伝的に改変された実験に由来するものである。パネルAは、GFP発現についてトランスフェクションした後の、ラミニン上のhES細胞の形態を示す。パネルBは、同じコロニー内のGFP発現を示す。パネルCは、様々な条件におけるGFPを発現する細胞の割合を示す。フィーダー非含有培養物の未分化hESコロニー内に、明るい緑色の細胞が観察された。これに対して、フィーダー上で増殖したhES細胞のコロニー中には、緑色の細胞はほとんど認められなかった。
【図5】様々な培養環境下で増殖したhES細胞の、表現型マーカーのFACS解析を示す。H9細胞株を、塩基性線維芽細胞増殖因子、幹細胞因子(c-kitリガンド)、およびgp130関連受容体に結合する他の因子を含む新鮮(非馴化)培地中で維持した。(未分化hES細胞に特有の)SSEA-1、SSEA-4、Tra 1-60、およびTra 1-81のレベルは、マウス胚線維芽細胞(MEF-CM)により馴化した培地中で維持した細胞と同様であった。培養した細胞は、c-kit(幹細胞因子の受容体)を発現していたが、(LIF受容体に関連する)gp130は発現していなかった。これらの細胞は、依然として3種の胚葉すべての派生体を産生することが可能である。
【図6】高濃度(40 ng/mL)もしくは低濃度(8 ng/mL)の塩基性線維芽細胞増殖因子のみ、またはSCF(15 ng/mL)もしくはFlt-3リガンド(75 ng/mL)と組み合わせたbFGF(40 ng/mL)を含む新鮮ES培地中で増殖した、未分化hES細胞のコロニーを示す。比較として、照射したマウス胚線維芽細胞によって馴化したES培地中で増殖したhES細胞を示す。40 ng/mL濃度のbFGFが、hES細胞を未分化形態で維持するのに十分であることが見出された。ある環境下でのSCFまたはFlt-3リガンドの存在により、培養物中の未分化細胞の比率が改善され得る。
【図7】実施例6に記載する様々な増殖因子の組み合わせにおける、FACS解析により評価されるSSEA-4の発現を示す。
【図8】異なる基礎培地中で(完全な適合化に十分な)6継代した後の、hES細胞のコロニーを示す。 (A) mEF馴化ES培地 + bFGF(8 ng/mL);(B) X-VIVO(商標)10 + bFGF(40 ng/mL);(C) X-VIVO(商標)10 + bFGF(40 ng/mL) + 幹細胞因子(SCF、Steel因子)(15 ng/mL);(D) X-VIVO(商標)10 + bFGF(40 ng/mL) + Flt3リガンド(75 ng/mL);(E) QBSF(商標)-60 + bFGF(40 ng/mL)。これらの基礎培地(ES培地、X-VIVO(商標)10、およびQBSF(商標)-60)すべてを用いて、フィーダー非含有培養においてhES細胞を拡大することができる。この例では、馴化培地中で増殖した細胞は継代当たり2.2倍拡大されるのに対して、(C)に示す組み合わせで増殖した細胞は8.2倍拡大された。適切な新鮮培地の使用により、未分化hES細胞の迅速な拡大がもたらされる。
【図9】実施例8に記載する、リアルタイムRT-PCR法により測定したhTERTおよびOct3/4の遺伝子発現プロファイルを示す。
【図10】非馴化培地中で培養した細胞が多能性を維持することを実証する。hES細胞を、mEF馴化培地、またはbFGFおよびSCFを含む非馴化X-VIVO(商標)10培地中で7回継代した。その後細胞を胚様体に分化させ、プレーティングし、免疫細胞化学法により、3種の胚葉それぞれに相当する表現型マーカーについて解析した。細胞は、(内胚葉に相当する)α-フェトプロテイン、(中胚葉を示す)筋肉アクチン、および(外胚葉に相当する)β-チューブリンIIIに染まった。本特許出願に記載する培養系で増殖した細胞は、広範囲の分化細胞種に適している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
霊長動物多能性幹(pPS)細胞を培養する以前の技術は、細胞が分化するのを防ぐようにフィーダー細胞を含む細胞培養環境を必要とした。具体的には、ヒト胚幹細胞を培養するために用いられる標準的なフィーダー細胞は、照射したマウス胚線維芽細胞である。残念なことに、フィーダー細胞の使用により生産コストが増加し、スケールアップが損なわれ、かつ品質管理およびヒトの治療における使用の規制認可を難しくする混合した細胞集団が産生される。
【0024】
本開示は、培養物を支持しかつ分化を阻害するためのフィーダー細胞層を必要とせずに、インビトロで霊長動物多能性幹(pPS)細胞を迅速に拡大する系を提供する。
【0025】
必要とされる特徴の徹底的な研究の結果として、フィーダー細胞の有益な効果は、適切な表面および可溶性因子の適切な混合物を提供することにより置換され得ることが現在分かっている。未分化な増殖に必要とされるシグナル伝達経路が培養環境中の因子によって適切に活性化される限りは、pPS細胞とフィーダー細胞との間のより密接な相互作用は必要ではないことが判明している。
【0026】
フィーダー非含有培養系の一形態においては、pPS細胞を、マウスまたはヒト起源のフィーダー細胞の別の培養においてあらかじめ馴化した培地中で培養する(図1)。フィーダー細胞は自身の培養環境においてコンフルエントになるまで増殖し、不活性化し、その後1バッチまたは複数バッチの新鮮な培地で培養し、有効な組み合わせの因子の放出を可能にする。次に培地を回収し、適切な基層上にプレーティングされた未分化pPS細胞の増殖を支持するために使用する。倍加速度は、フィーダー細胞上で培養されるhES細胞に匹敵する。典型的には、毎日培地を交換し、6日または7日ごとに細胞を分割して継代する。
【0027】
フィーダー非含有培養系の別形態においては、あらかじめ馴化していないが、フィーダー細胞から分泌される因子と本質的に同じ機能を行う成分を補充した培地中で増殖させる。中程度〜高レベルの線維芽細胞増殖因子を含むある因子の組み合わせおよび他の細胞は、培養物中の大部分の細胞を未分化状態に維持すると同時に、6回またはそれ以上の継代を通して20倍またはそれ以上増殖し得る培養物を生じる(図6および図8)。コンフルエントに近くなっても、ほとんどの細胞が未分化細胞の形態学的特徴を有し、特徴的な表現型マーカー:SSEA-4、Tra-1-60、Tra-1-81、Oct-4、およびテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する。
【0028】
非常に驚くべきことに、非馴化培地中で増殖したpPS細胞は、フィーダー細胞上または馴化培地中で増殖したpPS細胞よりも実質的により迅速に拡大する。この理由は不明であり、またpPS細胞培養物について以前に周知であったことに基づいても予測不可能であった。いずれにせよ、商業的規模で商用等級の未分化pPS細胞を産生するための迅速拡大法を提供することから、この知見は重要である。この技術が利用できる現在では、組織再生を必要とするヒト患者を治療するためのpPS細胞の産生は、かなり有望である。
【0029】
本発明で提供する技法は、研究用途および治療用途への多能性幹細胞の将来的な使用において重要な進歩を表す。本発明のさらなる利点は、以下の項から理解されると考えられる。
【0030】
定義
原型(prototype)の「霊長動物多能性幹細胞」(pPS細胞)は受精後の任意の時期の前胚、胚、または胎児組織由来の多能性細胞であり、適切な条件下でいくつもの様々な細胞種の子孫を産生し得る特徴を有する。適切な宿主内で奇形腫を形成する能力、または培養において3つの胚葉すべての組織種を表すマーカーについて染色可能な細胞に分化する能力等の標準技術として公認の試験によると、pPS細胞は、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)それぞれの派生体である子孫を産生することができる。
【0031】
pPS細胞の定義には、以下に定義するヒト胚幹(hES)細胞、アカゲザルまたはマーモセット幹細胞(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995;Developmental Biology 38:133、1998)等の他の霊長動物の胚幹細胞、およびヒト胚生殖(hEG)細胞(Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998)に例示される様々な種類の胚細胞が含まれる。他の種類の多能性細胞もまた、この用語に含まれる。胚組織、胎児組織、または他の供給源由来であるか否かにかかわらず、全3種の胚葉の派生体である子孫を産生し得る霊長動物起源の任意の細胞が含まれる。核型が正常であり、かつ悪性の供給源由来ではないpPS細胞を使用することが有益である。
【0032】
原型の「ヒト胚幹細胞」(hES細胞)については、Thomsonら(Science 282:1145、1998;米国特許第6,200,806号)によって記載されている。この用語の範囲は、胚盤胞期または細胞が3つの胚葉に実質的に分化する以前のヒト胚由来の多能性幹細胞を包含する。当業者は、この用語には、別に明確に定めがある場合を除いては、hES細胞に特徴的な表現型を有する初代組織および樹立株、ならびに3つの胚葉それぞれの子孫を産生する能力を依然として有するそのような系統の派生体が含まれることを理解すると思われる。
【0033】
pPS細胞培養物は、集団中の幹細胞およびその派生体の実質的な割合が、胚起源または成体起源の分化細胞と明らかに区別できる未分化細胞の形態学的特徴を示す場合に、「未分化である」または「実質的に未分化である」と記載される。未分化pPS細胞は当業者により容易に認識され、2次元の顕微鏡視野において、典型的に、高い核/細胞質比および顕著な核小体を有して見える。集団内の未分化細胞のコロニーは、分化した隣接細胞に囲まれていることが多いと理解されている。それにもかかわらず、集団が適切な条件下で培養または継代される場合、未分化コロニーは持続し、個々の未分化細胞は細胞集団の実質的な割合を構成する。実質的に未分化である培養物は(同じ遺伝子型を有する未分化な細胞の割合に換算して)少なくとも20%の未分化pPS細胞を含み、好ましさが増加する順に少なくとも40%、60%、または80%含んでよい。
【0034】
本開示において培養物または細胞集団を「分化せずに」増加すると称する場合はいつでも、前定義に従い、増加後に組成物は実質的に未分化であるということを意味する。分化せずに少なくとも4継代を経て(約20倍加)増殖する集団は、元の培養物と同じ集密度で評価した場合、実質的に同じ割合の未分化細胞を含むことになる(または、おそらく未分化細胞の割合がより高くなると考えられる)。
【0035】
「フィーダー細胞」または「フィーダー」とは、他の種類の細胞と共培養され、第2の種類の細胞が増殖できる環境を提供する1つの種類の細胞を表すのに用いられる用語である。pPS細胞集団は、分割後にpPSの増殖を支持するために新鮮なフィーダー細胞を添加されずに少なくとも1回増殖した場合、フィーダー細胞を「本質的に含まない」と称される。フィーダー非含有培養物は、約5%未満のフィーダー細胞を含むことになる。1%、0.2%、0.05%、または0.01%未満のフィーダー細胞を含む組成物が、ますますより好ましい。
【0036】
「増殖環境」とは、関心対象の細胞がインビトロにおいて増殖する環境のことである。環境の特徴には、細胞を培養する培地、および存在する場合には(固体表面上の基層等の)支持構造が含まれる。
【0037】
「栄養培地」とは、増殖を促進する栄養分を含む、細胞を培養するための培地のことである。栄養培地は、以下のいずれかを適切な組み合わせで含んでよい:等張生理食塩水、緩衝液、アミノ酸、血清または血清代替物、および外因的に添加する他の因子。
【0038】
「馴化培地」は、培地中で第一の細胞集団を培養し、その後培地を回収することによって調製される。次に馴化培地を(細胞によって培地中に分泌されるものすべてと共に)用いて、第二の細胞集団の増殖を支持することができる。特定の成分または因子を培地に添加したと記載する場合には、計画的な操作によって因子(または因子を分泌するように操作された細胞もしくは粒子)を培地に添加したことを意味する。
【0039】
「新鮮培地」とは、最終的に支持することが予定される細胞種と用いる前に、別の細胞種と共に培養することによる馴化を故意に行っていない培地のことである。そのほかの点では、調製、保存、または使用の方法に関して限定する意図はない。存在する細胞種によって培地が消費されるかまたはさもなければ加工される可能性がある場合には、(交換または注入により)最終的な培養物に培地を新しく添加する。
【0040】
任意の適切な人工的操作手段によりポリヌクレオチドが細胞に導入された場合、または細胞がそのポリヌクレオチドを受け継いだ最初に改変された細胞の子孫である場合、その細胞は「遺伝的に改変された」、「トランスフェクションされた」、または「遺伝的に形質転換された」と称される。ポリヌクレオチドは、関心対象のタンパク質をコードする転写可能な配列を含む場合が多く、これにより細胞はこのタンパク質を高いレベルで発現することが可能となる。改変された細胞の子孫が同じ改変を有する場合、遺伝的改変は「遺伝性である」と称される。
【0041】
本開示で用いる「抗体」という用語は、任意の種のポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方を意味する。本用語の範囲は、完全な免疫グロブリン分子だけでなく、所望の結合特異性を保持する免疫グロブリン分子の断片および遺伝的に操作した派生物ならびに等価の抗原結合分子も包含する。
【0042】
一般的技術
分子遺伝学および遺伝子工学における一般的な方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrookら、Cold Spring Harbor);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (MillerおよびCalos編);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(F.M. Ausubelら編、Wiley & Sons) の現行版に記載されている。分子生物学、タンパク質化学、および抗体技法は、Current Protocols in Protein Science(J.E, Colliganら編、Wiley & Sons);Current Protocols in Cell Biology(J.S. Bonifacinoら、Wiley & Sons)、およびCurrent Protocols in Immunology(J.E, Colliganら編、Wiley & Sons)に見出すことができる。本開示で引用する遺伝子操作用の試薬、クローニングベクター、およびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、ClonTech、およびSigma-Aldrich Co.等の市販業者から入手可能である。
【0043】
細胞培養法は、一般に、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique(R.I. Freshney編、Wiley & Sons)の現行版;General Techniques of Cell Culture(M.A. HarrisonおよびI.F. Rae、Cambridge Univ. Press)、およびEmbryonic Stem Cells: Methods and Protocols(K. Turksen編、Humana Press)の現行版に記載されている。教科書には他に、Creating a High Performance Culture(Aroselli、Hu. Res. Dev. Pr. 1996)およびLimits to Growth(D.H. Meadowsら、Universe Publ. 1974)がある。組織培養用の供給品および試薬は、Gibco/BRL、Nalgene-Nunc International、Sigma Chemical Co.、およびICN Biomedicals等の市販業者から入手可能である。
【0044】
多能性幹細胞の供給源
本発明による培養および分化に適した供給源細胞には、妊娠期間後に形成される組織由来の多能性細胞の樹立株が含まれる。例示的な初代組織供給源は、必ずしもその必要はないが典型的には10週間の妊娠期間以前である、妊娠期間中の任意の時期に採取される(胚盤胞等の)胚組織、または胎児組織である。限定されない代表例は、Thomsonら、Science 282:114、1998および米国特許第6,200,806号に記載される霊長動物胚幹(ES)細胞;およびShamblottら、Proc. Natl. Acad.Sci USA 95:13726、1998、および米国特許第6,090,622号に記載される胚生殖(EG)細胞の株である。そのような細胞の最初の樹立または安定化の過程における本開示の技法の使用も同様に意図しており、その場合、供給源細胞は記載した組織から直接採取された初代多能性細胞である。
【0045】
フィーダー細胞非存在下におけるpPS細胞の増殖
本発明により、フィーダー細胞の非存在下においてさえも、pPS細胞を未分化の状態で増殖させることが可能である。フィーダーを含まないpPS細胞培養物は、フィーダー上で増殖した細胞をフィーダー非含有条件に継代することにより、または細胞を胚盤胞からフィーダー非含有環境に導出することにより、得ることができる。
【0046】
フィーダーの非存在下においては、分化させずに増殖を支持する環境においてpPS細胞を培養する。分化に影響を及ぼす培養物の局面には、細胞を培養する基層、細胞を培養する培地、および細胞を分割し新しい培養環境に継代する方法が含まれる。
【0047】
pPS細胞は、細胞外マトリックス上でフィーダー非含有培養で支持してもよい。マトリックスは、STOマウス線維芽細胞株(ATCCアクセッション番号CRL-1503)またはヒト胎盤線維芽細胞等のマトリックス形成細胞株(国際公開公報第99/20741号)をあらかじめ培養して溶解することにより、沈着させることができる。マトリックスはまた、単離されたマトリックス成分を用いて培養容器に直接コーティングすることも可能である。マトリゲル(Matrigel)(登録商標)は、室温でゲル化し再構成した基底膜を形成する、Engelbreth-Holm-Swarm腫瘍細胞由来の可溶性調製物である。適切な細胞外マトリックス成分には他に、単独または様々な組み合わせのラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、ヘパラン硫酸等が含まれる。本明細書に記載する実験手順を用いて試験され得る基層には、他の細胞外マトリックス成分ばかりでなく、ポリアミンおよび他の市販のコーティングが含まれる。本発明は、細胞の継代時にまたは定期的な培地添加の一部として、培養物の液相に細胞外マトリックスを添加することを意図する。本発明はまた、(未分化コロニーの周辺に形成したpPS細胞等の)培養物内の細胞により、培養物中に細胞外マトリックスが沈着することも意図する。
【0048】
適切な分布で、ならびに細胞の生存、増殖、および所望の特徴の維持を促進する培地の存在下において、多能性細胞を基層上にプレーティングする。これらの特徴には、播種分布への十分な配慮が有益である。分布の1つの特徴は、プレーティング密度である。少なくとも約15,000個の細胞cm-2(典型的には、90,000 cm-2〜170,000 cm-2)のプレーティング密度が、生存および限定分化を促進することが見出されている。
【0049】
他に考慮する点は、細胞分散である。1つの方法では、細胞が完全に分散される前に酵素消化を停止する(例えば、IV型コラゲナーゼにより約5分間)。次に、ピペットを用いてプレートを穏やかにこすり剥がし、細胞を細かくして大きさ約10個〜2000個の細胞の接着細胞の凝集塊にし、その後新しい培養環境に継代する。または、適切な酵素および培地を選択し、かつプレーティング密度を十分に高くする条件で、霊長動物PS細胞をより細かい懸濁液としてフィーダー細胞を含まない培養物間で継代することも可能である。実例として、フィーダー細胞の非存在下で培養したコンフルエントなヒト胚幹細胞を、0.05%(重量/容量)トリプシンおよび0.053 mM EDTAと共に37℃で5分間〜15分間インキュベートすることにより、プレートから回収する。プレートに残った細胞は、単一細胞および小さい凝集塊に分散されるまでピペットで細かくして回収し、その後再度プレーティングする。別の例では、プレートがコンフルエントに達する前に、酵素を用いずに細胞を回収する。細胞をPBS中の単独0.5 mM EDTA中で約5分間インキュベートし、培養容器から洗浄して回収し、その後さらに分散せずに再プレーティングする。
【0050】
新鮮なフィーダー細胞の非存在下でプレーティングしたpPS細胞は、栄養培地中で培養されることにより利益を得る。この培地は、一般に、細胞の生存を増強するための、等張緩衝液、必須無機質、および血清またはある種の血清代替物を含む通常の成分を含む。分化を阻害するため、フィーダー細胞によって提供されるいくつかの成分またはその同等物を供給するように、培地を処方する。
【0051】
馴化に用いる基礎栄養培地は、任意のいくつかの様々な処方を有してよい。例示的な血清含有ES培地は、80% DMEM(典型的にはKO DMEM)、20%既知組成ウシ胎仔血清(FBS)、1%非必須アミノ酸、1 mM L-グルタミン、および0.1 mMβ-メルカプトエタノールから作製する。無血清ES培地は、80% KO DMEM、20%血清代替品、1%非必須アミノ酸、1 mM L-グルタミン、および0.1 mMβ-メルカプトエタノールから作製する。すべての血清代替品が機能するとは限らない。効果的な血清代替物は、Gibco #10828-028である。
【0052】
適切な基礎培地には、他にX-VIVO(商標)10拡大培地(Biowhittaker)およびQBSF(商標)-60(Quality Biological Inc.)がある(実施例8)。国際公開公報第98/30679号(Life Technologies Inc.)および米国特許第5,405,772号(Amgen)も参照されたい。培地は典型的に、効果的な組み合わせの(FBS等の)血清、血清代替品、アルブミン、または必須および非必須アミノ酸の形で、タンパク質栄養分を含む。同様に典型的に、人工添加物として脂質、脂肪酸、もしくはコレステロール、または血清のHDLもしくはLDL抽出物を含む。含まれ得る有益な因子には、他に、インスリンまたはトランスフェリンのようなホルモン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、ピルビン酸、およびβ-メルカプトエタノール等の還元剤がある。
【0053】
培地添加物
pPS細胞を培養するために用いる栄養培地は、分化させずにpPS細胞の増殖を促進する1つまたは複数の因子を含む。以下の記載から明らかなように、そのような因子を分泌する細胞と共に培地をあらかじめ培養することにより、そのような因子を人為的に培地に添加することにより、または両方の技法を組み合わせることにより、補充が起こり得る。
【0054】
馴化培地は、照射した初代マウス胚線維芽細胞(実施例1)または他の細胞(実施例4)を、20%血清代替物および約4〜8 ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加したKO DMEM等の無血清培地中で約5〜6×104 cm-2の密度で培養することにより、調製することができる。約1日後、37℃で培養上清を回収する。pPS細胞培養物を支持する因子が十分な濃度放出されるのに十分な期間、細胞を培地中で培養する。典型的には、37℃で24時間培養することにより馴化した培地は、少なくとも24時間、pPS細胞培養物を支持する濃度の因子を含む。しかし、十分な期間がどれぐらいであるかを経験的に決定し、培養期間をより長くまたはより短く調節することが可能である。典型的に、1日間〜2日間馴化した培地を用いてpPS細胞を1日間〜2日間支持し、その後交換する。
【0055】
未分化状態のpPS細胞の増殖を支持する非馴化培地は、適切な基礎培地に、未分化細胞において適切なシグナル伝達経路を引き起こすある因子を添加することにより作製することができる。
【0056】
線維芽細胞増殖因子ファミリーは、この点で特に有効であることが見出された。典型的な例は塩基性FGF(FGF-2)およびFGF-4であるが、このファミリーの他のメンバーも同様に使用することができる。同様に、種相同体、人工的な相同体、それぞれのFGF受容体に対する抗体、および他の受容体活性化分子も適切である。未分化hES細胞が酸性FGF(FGF-1)の受容体を発現することが、遺伝子発現解析から割り出された。十分な濃度(他の条件にもよるが、40 ng/mL)では、FGFのみで、未分化状態のhES細胞の増殖を促進するのに十分である(実施例6および実施例8)。
【0057】
本発明は、FGFの作用を促進するさらなる因子および未分化pPS細胞の増殖の支持における同等物を決定する方法を含む。この方法は、多数の因子を機能群に組み合わせ、細胞を様々な組み合わせの群と共に培養することを含む。有効な群が決定したならば、残りを除去し、その群を分析して最小限の有効な組み合わせを決定する。実施例7において、この戦略を説明する。
【0058】
FGFを補うものとして、幹細胞因子(SCF、Steel因子)等のc-kitに結合するリガンド、c-kitに対する抗体、および同じシグナル伝達経路の他の活性化因子も同様に有益である。SCFは二量体であり、可溶型および膜結合型で生じる。SCFは、血小板由来増殖因子(PDGF)、マクロファージコロニー刺激因子、Flt-3リガンド、および血管内皮増殖因子(VEGF)に関連する受容体チロシンキナーゼであるc-kitのリガンドを介した二量体化により、シグナルを伝達する。フォルスコリン等の環状AMPレベルを上昇させる因子も、同様に関心対象となる。これらの因子またはその同等物は、既に記載したように、培地中で個々にまたは影響を及ぼす他の因子と有効に組み合わせて使用してよい。
【0059】
以下の実施例の項で提供する処方は、主にhES細胞を培養するために設計したものである。必要に応じて、細胞の既知の性質を配慮することにより、本開示の説明を他の種類のpPS細胞および多能性細胞に適合化させることができる。例えば、米国特許第6,090,622号で主張されるhEG細胞は、bFGFおよび(LIFまたはオンコスタチン-M等の)gp 130の誘導物質の両方の存在に依存する。hEG細胞を増殖させる培地は、これに従って適合化させることができる。
【0060】
本明細書に記載する条件はそれぞれ独立的に最適化することができ、さらなる試験によりある組み合わせの条件が有効であることが判明することもある。そのような最適化は日常的な実験の問題であり、本開示内で提供する本発明の精神から逸脱するものではない。
【0061】
望ましい結果
初代マウス胚線維芽細胞(mEF)によって馴化した培地または実績のある他の標準の代わりにフィーダー非含有培養系に交換することにより、培地の処方をpPS細胞を支持する能力について試験することができる(実施例5〜実施例8)。pPS細胞が実質的に未分化な状態で増殖するならば、その培地はフィーダー非含有培養においてpPS細胞を支持すると特徴づけられ得る。
【0062】
この培養系において新鮮培地を使用する1つの利点は、細胞が従来の技法に従ってフィーダー細胞上でまたは馴化培地中で培養される場合よりも、より迅速に拡大するように条件を調整する能力である。開始集団と比較して、10倍、20倍、50倍、100倍、または1000倍に拡大された多能性幹細胞集団を得ることができる。適切な条件下では、拡大した集団内の細胞は、50%、70%、またはそれ以上が未分化状態であると考えられる。
【0063】
継代当たりの拡大度は、培養の終了時に回収した細胞数を最初に培養物中に播種した細胞数で割ることにより算出する。培養環境の構造が限定的であるかまたは他の理由がある場合には、選択的に細胞をさらなる拡大のための同様の培養環境に継代してよい。拡大の総計は、各継代における拡大すべての産物である。もちろん、各継代において拡大した細胞をすべて維持する必要はない。例えば、各培養で細胞が2倍に拡大するが各継代において約50%の細胞のみを維持するのであれば、約同数の細胞が次に持ち越されることになる。しかし、4回培養した後では、細胞は16倍拡大したと称される。
【0064】
マウス胚線維芽細胞(mEF)フィーダー細胞上またはmEF馴化培地中でのhES細胞の培養は、約31時間〜33時間の倍加時間を有する(実施例1)。新鮮培地を含む本発明のある培養環境は、hES細胞の倍加を約24時間未満に支持し(実施例8)、約16時間未満に支持する可能性もある。標準の培養ウェルでの規則的な継代における拡大に換算すると、この系を用いてhES細胞を1週間に10倍から場合によっては50倍まで拡大することができる。効率の改良は、継代後に新しい環境を受け入れるpPS細胞のより迅速な倍加時間およびより高い比率の両方による結果であると考えられる。
【0065】
当然のことながら、pPS細胞に不適切な培養条件により、pPS細胞は即座に分化を引き起こされることになる。しかし、わずかに有利な条件により、pPS細胞はある割合の未分化細胞を依然として維持したままある程度継代できる可能性があることを、当業者は認識すべきである。pPS細胞の無限の培養に条件が適切であるか否かを試験するためには、細胞を少なくとも4継代を経て少なくとも10倍ないしは20倍拡大することを推奨する。拡大の程度が高いほどおよび/または継代回数が多いほど(例えば、少なくとも7継代および50倍ないしは100倍の拡大)、より厳密な試験が提供される。いくつかの表現型マーカーで、特定の条件への適合化に適した定量的調整(例えば、2倍ないしは5倍増加または減少)を行ってもよい。これらは典型的に、細胞が以前の環境に戻された場合、以前のレベルまで戻ることになる(実施例8)。細胞が依然として多能性であるか否かについての有効な試験は、細胞が3つの胚性胚葉のそれぞれに相当する(または抗体もしくはPCRで検出可能な表現型を有する)子孫への分化をまだ引き起こされ得るという実証となる。
【0066】
本発明に従って処方される栄養培地および他の培養特徴は、pPS細胞の増殖に適した任意の培養装置に適合化され得る。適切な表面を有する装置には、通常の組織培養ウェル、Tフラスコ、ローラーボトル、ガス透過性容器、および平板または平行板バイオリアクターが含まれる。pPS細胞が撹拌槽容器内の懸濁液中に維持されるマイクロキャリアまたは粒子に接着する培養環境も、同様に意図する。新鮮培地は、バッチ交換(消費した培地と新鮮培地との置換)、流加過程(除去なしでの新鮮培地の添加)、または連続的または定期的方法である割合の培地を新鮮培地と置換する継続交換により、これらの環境のいずれかに導入することができる。
【0067】
未分化pPS細胞の特徴
ヒトES細胞は、未分化幹細胞の特徴的な形態学的特性を有する。2次元の標準的な顕微鏡像において、hES細胞は、像の面における高い核/細胞質比、顕著な核小体、および細胞間結合がほとんど識別できない緻密なコロニー形成を有する。標準のGバンド技法により(カリフォルニア州オークランドのCytogenetics等の、日常的な核型サービスを提供している多くの臨床診断研究室において利用可能である)細胞株を核型分析し、公表されているヒト核型と比較することができる。「正常な核型」を有する細胞を得ることが望ましく、このことは、細胞が、ヒトの全染色体が存在しかつ著しく変化していない正倍数性であることを意味する。
【0068】
hES細胞およびhEG細胞はまた、抗体により(フローサイトメトリーまたは免疫細胞化学法)または逆転写PCR法により検出可能な細胞マーカーの発現によっても特徴づけられ得る。ヒトES細胞は典型的に、抗体で検出可能な、SSEA-4、Tra-1-60、およびTra-1-81を有するが、SSEA-1はほとんどない。pPS細胞はまたアルカリホスファターゼ活性の存在によっても特徴づけられ得るが、これは細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、製造業者(Vector Laboratories、カリフォルニア州バーリンゲーム)の説明に従って基質としてベクターレッド(Vector Red)を用いて発色することにより検出できる。(RT-PCRにより検出可能な)hTERTおよびOCT-4の発現ならびに(TRAPアッセイ法により検出可能な)テロメラーゼ活性もまた、多くの種類の未分化pPS細胞の特徴である(実施例3)。
【0069】
増殖したpPS細胞の他の所望の特徴は、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)すべての細胞に分化する可能性である。hES細胞の多能性は、SCIDマウスにおいて奇形腫を形成し、全3種の胚葉の代表的な組織について試験することにより確認することができる。または、(例えば、胚様体を形成することにより)pPS細胞を非特異的に分化させ、培養物中に現れる細胞種を免疫細胞化学法により判定することによっても、多能性を判断することができる(図10)。pPS細胞が特定の細胞系統に分化する可能性は、本開示の後に記載する手順に従い判断することができる。
【0070】
本開示に記載するある種の細胞集団は実質的に未分化であり、記載した条件において複数の培養物間での継代が可能である。継代中、(特に、低密度で単一細胞として再プレーティングした場合、または大きな凝集塊が形成された場合)いくつかの細胞は分化する可能性がある。しかし、典型的に、培養物がコンフルエントに再び接近するにつれて、大部分が未分化細胞である培養物を再度確立する。
【0071】
多能性幹細胞の遺伝的改変
本開示はまた、一過性様式または安定性様式のどちらかで遺伝的に改変したpPS細胞を得る系を提供する。細胞は、未分化状態で所望の特徴を付与されるように、他の細胞種に分化した後に所望の特徴を付与されるように、または特定の未分化表現型もしくは分化表現型について陽性もしくは陰性選択する方法を提供するように、修飾され得る。
【0072】
治療用途のため、治療遺伝子で細胞を修飾すること、または対象とするレシピエントとの組織適合性を細胞に付与することは、有益であると考えられる。また、遺伝的改変を用いて、分化後に選別するための細胞を調製することができる。例えば、未分化細胞に特異的なプロモーターの制御下にある薬剤感受性遺伝子を、hES細胞にトランスフェクションする(国際公開公報第02/42445号)。
【0073】
hES細胞にトランスフェクションするのに適したベクタープラスミドには、米国特許第5,578,475号;米国特許第6,020,202号;および米国特許第6,051,429号に記載されるような、ならびに実施例5に例証されるような脂質/DNA複合体が含まれる。安定的な遺伝的改変を有するhES細胞を産生するためのウイルスベクター系は、市販のウイルス成分を用いて調製されるアデノウイルス、レトロウイルス、またはレンチウイルスに基づき得る。
【0074】
hES細胞の遺伝的改変には、望ましくない経路に沿ったhES細胞の分化を促進せずに、十分に高い遺伝的改変効率を達成することが必要とされる。遺伝的に改変した細胞は、新たな遺伝子型の機能的特徴について選択することにより、濃縮することができる。遺伝的に改変した細胞を濃縮する特に効果的な方法は、ネオマイシン等の薬剤に対する抵抗性を用いた陽性選択である。マーカー遺伝子または関心対象の遺伝子のベクターシステムおよび薬剤耐性遺伝子を提供するベクターシステムと同時に接触させることにより、細胞を遺伝的に改変することができる。または、薬剤耐性遺伝子を、関心対象の遺伝子と同じベクター中に組み込むことも可能である。
【0075】
pPS細胞は、本開示を通じて詳細に説明するフィーダー非含有培養で増殖する場合に、特に遺伝的に改変されやすい。DNA/脂質複合体を用いた一過性トランスフェクションは、60%程度の効率になる場合がある。細胞は操作がより簡便であり、ベクターの吸収体となるフィーダーが周囲に存在しない。遺伝的改変および(薬剤耐性フィーダー上またはフィーダー非含有培養で)薬剤選択した後、表現型の変化を示すコロニーを拾い上げ、個々に培養することが可能である。拾ったコロニーを25個〜100個の細胞の小さな凝集塊に分散し、適切な環境中に再度プレーティングする。未分化細胞が高い割合で(最大90%まで)遺伝的に改変されたpPS細胞の培養物を得ることが可能である。
【0076】
増殖したpPS細胞の分化
本発明に従って培養したpPS細胞を用いて、商業的および治療的に重要な様々な組織種の分化細胞を作製することができる。
【0077】
例えば、Geron Corporationの研究者は、神経系譜細胞の高度に濃縮された集団を得る方法を見出した。(ニューロトロフィン3または脳由来神経栄養因子等の)1つまたは複数のニューロトロフィンおよび(上皮増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、インスリン様増殖因子1、およびエリスロポエチン等の)1つまたは複数の分裂促進因子を含む培地に、細胞を移行させる。培養した細胞を、任意で、A2B5またはNCAM等のマーカーを発現するか否かに基づき分離する。(成熟したニューロンを含む)神経細胞および(アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトを含む)グリア細胞の両方を産生する能力を有する神経前駆細胞を得ることができる。または、集団中の全細胞の少なくとも約5%がドーパミン作動性ニューロンのマーカーであるチロシン水酸化酵素を発現する分化細胞の集団を形成する能力を有する、複製型ニューロン前駆細胞を得ることができる。国際公開公報第01/88104号およびPCT出願番号第PCT/US01/15861号を参照されたい。
【0078】
Geron Corporationの研究者は、n-酪酸等のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の存在下でpPS細胞または胚様体を培養することにより、肝細胞系譜のマーカーが高度に濃縮された細胞の集団が作製されることを見出した。培養した細胞を、任意で、EGF、インスリン、およびFGF等の肝細胞成熟因子と同時にまたは順次に培養する。さらなる詳細は、国際公開公報第01/81549号に見出すことができる。
【0079】
Geron Corporationの研究者は、心筋細胞の特徴的なマーカーおよび自発的な周期的収縮活性を有するhES細胞由来細胞を産生し精製する方法を見出した。DNAメチル化に影響を及ぼす(5-アザ-デオキシ-シチジン等の)ヌクレオチド類似体、増殖因子、および骨形成タンパク質により、分化が促進される。細胞は、密度に基づく細胞分離法によりさらに濃縮し、クレアチン、カルニチン、およびタウリンを含む培地中で維持することができる。PCT出願番号第PCT/US02/22245号を参照されたい。
【0080】
Geron Corporationの研究者はまた、骨形成タンパク質(BMP)、ヒトTGF-β受容体のリガンド、またはヒトビタミンD受容体のリガンドを含む培地中でhES細胞を間葉細胞に分化する方法を見出した。培地は、デキサメタゾン、アスコルビン酸-2-リン酸、ならびにカルシウムおよびリン酸の供給源をさらに含んでもよい。ある環境下においては、派生細胞は骨芽細胞系譜の細胞の表現型特性を有し得る。PCT出願番号第PCT/US02/20998号を参照されたい。
【0081】
治療に使用するためには、通常は、分化細胞集団は実質的に未分化pPS細胞を含まないことが望ましい。集団から分化細胞を減少させる1つの方法は、エフェクター遺伝子が、未分化細胞において優先的発現を引き起こす(TERTプロモーター等の)プロモーターの制御下にあるベクターを、細胞にトランスフェクションすることである。さらなる詳細については、当業者は国際公開公報第02/42445号を参照されたい。
【0082】
増殖したpPS細胞およびその派生体の使用
本記載により、フィーダー細胞を必要とせずに多数の多能性細胞を商業的に産生し、その後拘束された前駆細胞または最終分化細胞に分化し得る方法を提供する。これらの細胞集団は、数々の重要な目的に使用することができる。ゲノム解析のため、または転写産物ライブラリーおよび特異的抗体を作製するためのpPS細胞の使用は、国際公開公報第01/51616号にさらに詳述されている。
【0083】
増殖因子、分化因子、および医薬品のスクリーニング
pPS細胞を用いて、培養物中のpPS細胞の特徴に影響を及ぼす(小分子薬剤、ペプチド、ポリヌクレオチド等の)因子または(培養条件または操作等の)条件をスクリーニングすることができる。この系は、試験化合物によるフィーダー細胞の混乱によって生じる二次的効果により複雑にならないという利点を有する。1つの応用において、増殖に影響する物質を試験する。培養物から馴化培地を除去し、(KO DMEM等の)より単純な培地で置換する。次に、馴化培地の成分を置換する候補物質である可溶性因子の様々な混合物で、様々なウェルを処理する。最適には馴化培地中と同様に、処理した細胞が十分な様式で維持され増殖するか否か、各混合物の有効性を決定する。試験手順に従い細胞を処理し、その後、処理した細胞が特定の系譜の分化細胞の機能的特性または表現型特性を生じるか否かを決定することにより、分化を起こす可能性のある因子または条件を試験することができる。
【0084】
フィーダーを含まないpPS細胞培養物はまた、薬剤研究における医薬品化合物の試験に用いることができる。候補医薬品化合物の活性の評価は、一般に、本発明の分化細胞を候補化合物と混合し、結果として生じる任意の変化を判定し、その後化合物の効果を観察された変化と関連づけることを含む。スクリーニングは、例えば、化合物がある細胞種に対して薬学的効果を有するよう設計されている、または他所で効果を有するように設計された化合物が予期しない副作用を有する可能性があるという理由で行われ得る。起こり得る薬剤-薬剤相互作用効果を検出するため、(細胞と同時にまたは順次に混合することにより)2つまたはそれ以上の薬剤を組み合わせて試験することが可能である。いくつかの応用においては、最初に潜在的毒性について化合物をスクリーニングする(Castellら、In vitro Methods in Pharmaceutical Researchの375〜410ページ、Academic Press、1997)。細胞毒性は、細胞生存度、残存、形態に及ぼす影響、特定マーカー、受容体、もしくは酵素の発現または放出に及ぼす影響、[3H]-チミジンまたはBrdUの取り込みによって測定されるDNA合成もしくは修復に及ぼす影響、または中期の拡散によって判断される姉妹染色分体交換に及ぼす影響により、判断することができる。当業者には一般に、標準的な教科書となるIn vitro Methods in Pharmaceutical Research、Academic Press、1997および米国特許第5,030,015号を参照されたい。
【0085】
治療組成物
本発明の分化細胞はまた、これを必要とするヒト患者において、組織再構成または再生のために使用することができる。目的とする組織部位への移植を可能にし、機能的に欠損した部位の再構成または再生を可能にする方法で、細胞を投与する。
【0086】
1つの実施例において、神経幹細胞を、治療する疾患に基づいて、中枢神経系の実質部位またはクモ膜下部位に直接移植する。移植は、μL当たり25,000〜500,000個の細胞の密度の単一細胞懸濁液または小さい凝集塊を用いて行う(米国特許第5,968,829号)。神経系細胞の移植の効率は、McDonaldら(Nat. Med. 5:1410、1999)およびKimら(Nature 418:50、2002)によって記載されているように、脊髄急性損傷ラットモデルにおいて評価することができる。移植の成功により、病変に存在する移植由来の細胞が2〜5週間後にアストロサイト、オリゴデンドロサイト、および/またはニューロンに分化し、損傷末端から脊髄に沿って移動するのが示され、ならびに歩行運動、協調運動、および体重負荷における改善が示されることになる。
【0087】
心筋細胞の効率は、治療をしない場合には左心室壁組織の55%に瘢痕組織を起こす心臓凍結損傷動物モデルにおいて、評価することができる(Liら、Ann. Thorac. Surg. 62:654、1996;Sakaiら、Ann. Thorac. Surg. 8:2074、1999;Sakaiら、J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 118:715、1999)。治療の成功により、瘢痕部位が減少し、瘢痕の拡大が制限され、かつ収縮期圧、拡張期圧、および発生圧により決定される心機能が改善される。心臓損傷は、左前下行枝の遠位部において塞栓コイルを用いることにより(Watanebeら、Cell Transplant. 7:239、1998)、または左冠動脈前下行枝の結紮により(Minら、J. Appl. Physiol. 92:288、2002)、モデル化することができる。治療の有効性は、組織像および心機能により評価することができる。この発明で具体化する心筋細胞調製物を治療において使用し、心筋を再生し、不十分な心機能を治療することが可能である(米国特許第5,919,449号および国際公開公報第99/03973号)。
【0088】
肝細胞および肝細胞前駆細胞は、肝臓の損傷を修復する能力について動物モデルで評価することができる。1つのそのような実施例は、D-ガラクトサミンの腹腔内注射によって生じる損傷である(Dabevaら、Am. J. Pathol. 143:1606、1993)。治療の有効性は、肝細胞マーカーについての免疫組織化学染色、増殖する組織において小管構造が形成されるか否かの顕微鏡判定、および肝特異的タンパク質の合成を修復する治療能力により、決定することができる。直接投与により、または劇症肝炎後に対象の肝組織がそれ自体で再生する際の一時的な肝機能を提供する生物補助装置の一部として、肝細胞を治療に用いることができる。
【0089】
商業的流通のため、本発明に従って調製する細胞は典型的に、等張賦形剤を含む薬学的組成物の形態で供給され、ヒト投与のために十分な無菌条件下で調製される。細胞組成物の医薬品製剤の一般的な原理について、当業者は、G. MorstynおよびW. Sheridan 編によるCell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy、Cambridge University Press、1996;ならびにHematopoietic Stem Cell Therapy、E.D. Ball、J. Lister、およびP. Law、Churchill Livingstone、2000を参照されたい。細胞は、組織再生または治療的に重要な代謝機能の修復における細胞の使用に関する情報を選択的に添付して、流通または臨床用途に適した装置または容器に包装してよい。
【0090】
さらに詳細に説明する目的で以下の実施例を提供するが、請求する本発明の実施に際していかなる限定も意味する意図はない。
【実施例】
【0091】
実施例1:馴化培地中でのフィーダー細胞を用いないhES細胞の培養
本実施例では、初代マウス胚フィーダー細胞上で維持した未分化hES細胞を、フィーダー細胞の非存在下で維持した。培養ウェルをマトリゲル(登録商標)でコーティングし、照射した初代線維芽細胞の培養により得られた馴化栄養培地の存在下で細胞を培養した。
【0092】
馴化培地(CM)は以下のように調製した。線維芽細胞は、Ca++/Mg++を含まないPBSで1度洗浄しトリプシン/EDTA(Gibco)中でインキュベートすることにより、T150フラスコから回収した。線維芽細胞をフラスコから剥離した後、mEF培地(DMEM + 10% FBS)中に回収した。4000ラドで細胞に照射して計数し、mEF培地中に約55,000個の細胞cm-2で播種した。少なくとも4時間後、培地をSR含有ES培地で置換した。hES培養物に培地添加するため、馴化培地を毎日回収した。または、培養フラスコにプレーティングしたmEF細胞を用いて培地を調製し、毎日培地交換した。hES培養物に添加する前に、馴化培地に4 ng/mlのヒトbFGF(Gibco)を添加した。線維芽細胞培養物は約1週間使用してから、新たに調製した細胞と置換した。
【0093】
約200 U/mL IV型コラゲナーゼ中で37℃で約5分間インキュベートすることにより、hES培養物から未分化hESコロニーを回収した。20μLピペットチップを用いて個々のコロニーを拾い上げるかまたはこすって剥がすことによりコロニーを回収し、馴化培地中で小さな塊になるように解離した。次にこれらの細胞を、ウェル当たり15コロニーで、馴化培地中、マトリゲル(登録商標)でコーティングしたプレートに播種した(約1:30に希釈した0.75 mL〜1 mL)。
【0094】
マトリゲル(登録商標)上に播種した翌日、hES細胞は小さなコロニーとして目に見え、コロニーの間に分化または死滅していくように見える細胞が存在した。hES細胞が増殖するにつれ、コロニーは非常に大きくかつ非常に緻密になり、培養皿の表面積の大部分を占めた。コロニー内のhES細胞は、細胞質に対して核の比率が高く、顕著な核小体を有し、フィーダー細胞上で維持されるhES細胞と類似していた。
【0095】
コンフルエントの時点で、コロニー間の分化細胞は培養物中の細胞の10%未満
であった。IV型コラゲナーゼを用いて培養物を分割し、10個〜2,000個の細胞の小さな凝集塊になるよう穏やかに分散した後、約90,000個〜170,000個の細胞cm-2で、馴化培地中、マトリゲル(登録商標)でコーティングしたプレートに再度播種した。培地は毎日交換し、最初の播種から13日後および19日後に細胞を分割して継代した。
【0096】
hES細胞の培養物は、増殖能または表現型に明らかな変化を示さず、147日を超える期間、フィーダー細胞の非存在下で増殖した。mEF馴化培地中のマトリゲル(登録商標)上で維持したヒトES細胞は約31時間〜33時間の倍加時間を有するが、これはmEFフィーダー細胞上で増殖したhES細胞の増殖速度と類似している。フィーダー非含有培養による64日後のH1細胞は、正常な核型を示した。
【0097】
ラミニン、フィブロネクチン、またはIV型コラーゲン上に播種したhES細胞は未分化hES細胞ののコロニーを有したが、フィブロネクチンまたはIV型コラーゲン上の培養物はマトリゲル(登録商標)またはラミニン上の培養物ほど多くの未分化コロニーを含んでいなかった。マトリゲル(登録商標)またはラミニン上の細胞はコンフルエントに達した時点で、コロニー内の細胞が非常に緻密になり、フィーダー上で維持し連続的に継代した細胞と形態的に非常に類似していた。40日(6継代)後、マトリゲル(登録商標)およびラミニン上の細胞は、長期培養においてES様形態を示し続けるコロニーを高い比率で含んでいた。しかし、フィブロネクチンまたはIV型コラーゲン上で維持した細胞は、適切なES形態を示すコロニーをより少なく有していた。対照として非馴化培地中でマトリゲル(登録商標)またはラミニン上で培養した細胞は、よりゆっくりと増殖するようであり、2〜3回継代した後に分化形態を示した。
【0098】
図1は、フィーダー非含有培養におけるhES細胞の形態を示す。パネルA(左側)は、非馴化培地中のフィーダー細胞上(mEF/RM)、mEF馴化培地中のマトリゲル(登録商標)、ラミニン、フィブロネクチン、またはIV型コラーゲン上で培養したH1株のhES細胞の形態を示す。パネルBは、実施例4に記載する様々な種類の馴化培地中のマトリゲル(登録商標)上で維持したH9株のhES細胞の形態を示す。
【0099】
mEF馴化培地中のマトリゲル(登録商標)上で維持したヒトES細胞は、約31時間〜33時間の倍加時間を示した。フィーダー非含有培養から64日後のH1細胞は、正常な核型を示した。
【0100】
実施例2:フィーダー非含有培養におけるhES細胞の表現型マーカー
未分化hES細胞は、SSEA-4、Tra-1-60、Tra-1-81、OCT-4、およびhTERTを発現する。フィーダー非含有条件で維持した細胞がこれらのマーカーを保持するか否かを評価するため、免疫染色法、逆転写PCR増幅法、およびテロメラーゼ活性のアッセイ法により細胞を評価した。
【0101】
蛍光活性化セルソーティング(FACS)で解析するため、hES細胞をPBS中の0.5 mM EDTA中で解離し、0.1% BSAを含むPBSの50μl希釈液中に約5×105細胞になるように再懸濁した。これらを特異的一次抗体、次に蛍光二次抗体で標識し、フローサイトメーターで解析した。
【0102】
フィーダー細胞上のhES細胞と同様に、マトリゲル(登録商標)、ラミニン、フィブロネクチン、またはIV型コラーゲン上の細胞は、SSEA-4、Tra-1-60、およびTra-1-81を発現した。未分化hES細胞により発現されない糖脂質であるSSEA-1の発現は、ほとんどなかった。
【0103】
図2は、免疫細胞化学法により検出されるマーカー発現を示す。細胞を一次抗体と共にインキュベートし、2%パラホルムアルデヒド中で固定し、その後FITC結合ヤギ抗マウス免疫グロブリンにより可視化した。結果から、フィーダー上の細胞で見られるように、マトリゲル(登録商標)またはラミニン上のhESコロニーによってSSEA-4、Tra-1-60、Tra-1-81、およびアルカリホスファターゼが発現されるが、コロニー間の分化細胞からは発現されないことが示される。
【0104】
最初の播種から19日後の定量的データを、以下の表に示す。
【0105】
(表1)フィーダー細胞非存在下で増殖したhES細胞の表現型

【0106】
図3は、フィーダー上またはフィーダー非含有環境下で増殖したH1細胞の、逆転写PCR増幅法により検出されるOCT-4およびhTERT発現を示す(詳細は国際公開公報第01/51616号に記載)。
【0107】
通常、POU転写因子OCT-4は未分化hES細胞において発現され、分化に際して下方制御される。本実験では、馴化培地(CM)中のマトリゲル(登録商標)またはラミニン上で21日間維持した細胞がOCT-4を発現し、一方、非馴化標準培地(RM)中のマトリゲル(登録商標)上で維持した細胞はこれを発現しないことが見出された。フィブロネクチンまたはIV型コラーゲン上で維持した細胞は、大幅な分化を示し、フィーダー、マトリゲル(登録商標)、またはラミニン上の細胞と比較して低レベルのOCT-4を発現していた。hTERTおよびOCT-4発現は、マトリゲル(登録商標)および標準培地以外の培養条件すべてにおいて認められた。細胞を、細胞分化を促進する因子であるレチノイン酸(RA)またはジメチルスルホキシド(DMSO)に曝露した後では、hTERTの発現は顕著に減少した。
【0108】
テロメラーゼ活性は、テロメア反復配列増幅法(TRAPアッセイ法:Kimら、Science 266:2011、1997;Weinrichら、Nature Genetics 17:498、1997)により測定した。mEF馴化培地中のマトリゲル(登録商標)、ラミニン、フィブロネクチン、またはIV型コラーゲンの培養条件すべてにおいて、40日後に陽性テロメラーゼ活性が示された。
【0109】
実施例3:フィーダー非含有培養におけるhES細胞の多能性
馴化培地中のマトリゲル(登録商標)、ラミニン、フィブロネクチン、またはIV型コラーゲン上で26日間維持したH1 hES細胞において、インビトロ分化を誘導した。約200 U/mL IV型コラゲナーゼ中で37℃で10分間インキュベートすることにより、hES細胞を小さな凝集塊に解離し、DMEM、20% FBS(Hyclone)、1 mM グルタミン、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、および1%非必須アミノ酸(Gibco)を含む培地中で懸濁状態で培養し、胚様体(EB)を形成させた。懸濁液中で4日後、凝集塊をポリオルニチンコーティングしたプレート上に移し、さらに7日間培養した。次に、拍動する細胞の存在について培養物を試験し、免疫細胞化学法のために処理した。
【0110】
染色パターンは、ニューロンおよび心筋細胞系譜の細胞と一致した(それぞれ、βチューブリンIIIおよび心臓トロポニンI)。分化から約8日後、拍動する領域は全培養物において同定された。内胚葉系譜のマーカーであるα-フェトプロテインに染まる細胞も存在した。
【0111】
SCIDマウスへの筋肉内注射により、hES細胞を奇形腫を形成する能力についても試験した。フィーダー上またはフィーダーなしで維持した細胞を回収してPBS中に再懸濁し、SCID/ベージュマウスに筋肉内注射した(部位当たり5×106細胞)。腫瘍を切除し、組織学的解析のため処理した。フィーダー非含有hES培養物由来の奇形腫中に、嚢胞上皮構造、推定歯性成分、軟骨および腺上皮、または神経成分が見出された。
【0112】
実施例4:フィーダー非含有培養のための馴化培地の供給源
様々な細胞株によって馴化した培地を、フィーダー非含有培養においてhES細胞の増殖を支持する能力について試験した。初代マウス胚線維芽細胞(mEF)の単離は、上述のとおりである。NHG190細胞株は、国際公開公報第01/51616号に記載されるテロメル化(teromerized)マウス胚線維芽細胞株である。STOは、ATCCから入手可能な形質転換マウス線維芽細胞株である。BJ 5taは、テロメル化ヒト包皮線維芽細胞株である。hTERT-RPEは、テロメル化ヒト網膜上皮細胞株である。
【0113】
馴化培地を調製するため、Ca++/Mg++を含まないPBSで1度洗浄し、トリプシン/EDTA(Gibco)中で約5分間インキュベートし、mEF倍地中に懸濁して、それぞれの細胞株を回収した。約4000ラドで細胞に照射して計数し、培養容器にプレーティングした。少なくとも4時間後、培地を4 ng/m L bFGFを含むES培地で置換した。その後毎日、馴化培地を回収し、hES細胞培養物の培地添加に使用した。hES細胞培養物に添加する前に、各馴化培地に4 ng/mlのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF;Gibco)を添加した。
【0114】
図1、パネルB(右側)は、mEF、NHG190、STO、およびBJ 5ta細胞により馴化した培地中のマトリゲル(登録商標)上で維持したH9株のhES細胞の形態を、非馴化標準培地(RM)と比較して示す。RPE馴化培地中の細胞は、培養して1週間以内に分化した。他の馴化培地中の細胞はすべて、適切なES形態を有するhESコロニーを有した。形態、培養物の集密度、および分化細胞と未分化細胞の比率に基づくと、馴化培地は好ましい方から順に、初代mEF、NHG190、STO、およびBJ 5taと順位付けられ得る。
【0115】
初代mEFによる馴化培地中で維持した細胞と同様に、NHG190、STO、およびBJ 5taを含む他の細胞株で馴化した培地中のマトリゲル(登録商標)またはラミニン上の細胞は、FACSにより解析される高レベルのSSEA-4、Tra-1-60、およびTra-1-81を発現していたが、SSEA-1の発現は低レベルであった。mEF馴化培地またはNHG190馴化培地中のマトリゲル(登録商標)またはラミニン上の細胞は、3つの胚葉の細胞種に分化することができた。分化した培養物の免疫細胞化学解析により、ニューロンと呼応するβ-チューブリンIII(外胚葉系譜)、心筋細胞と呼応する心臓トロポニンI(中胚葉系譜)、およびα-フェトプロテイン(内胚葉系譜)について陽性染色が示された。
【0116】
白血病抑制因子(LIF)がフィーダーを用いないhES細胞の維持において馴化培地を代用し得るか否かを判定するため、H1株およびH9株の細胞を、最終濃度1500、1,000、または500 U/mLのLIF(R&D systemsの組換え体LIF;カタログ番号250-L)を含むES培地中のマトリゲル(登録商標)上で培養した。陽性対照としてmEF馴化培地中で、および陰性対照として非馴化培地中で、同時に細胞を培養した。1週間後、mEF馴化培地中で維持した培養物は未分化コロニーを主に含んだのに対し、LIFを含むまたは含まない培地中の培養物は大幅な分化を示した。これらのデータから、試験した濃度においてLIF単独では、フィーダー細胞非存在下で、hES細胞を未分化状態で維持しないことが示される。
【0117】
実施例5:フィーダー非含有培養におけるhES細胞の遺伝的改変
CMVプロモーターで制御される緑色蛍光タンパク質(GFP)を保有するプラスミドをトランスフェクションすることにより、馴化培地中のラミニン上でフィーダー非含有培養で維持したhES細胞を遺伝的に改変した。
【0118】
プレーティングしてから24時間後または48時間後に、mEF馴化培地中のラミニン上で維持したH9株のhES細胞に、CMVプロモーターで制御されるGFPを保有するプラスミド(ClonTech、カタログ番号6084-1)をトランスフェクションした。最初の実験には、プラスミド5μgおよびリポフェクタミン(Lipofectamine)2000(商標)(Gibco、カタログ番号11668-019)12μgの混合液を使用した。細胞にDNA/脂質複合体1 mLを与え37℃で4時間インキュベートした後、mEF馴化培地3 mLを添加し、トランスフェクションしてから24時間後にGFP発現をモニターした。
【0119】
図4に本実験の結果を示す。パネルA:ラミニン上で維持したH9細胞の形態。パネルB:Aと同じコロニー内に観察されるGFP陽性細胞。パネルC: SSEA-4の高い集団(未分化細胞)内における% GFP陽性のFACS解析。播種から24時間後(バー1および2)または48時間後(バー3および4)に細胞をトランスフェクションし、トランスフェクションから24時間後(バー1および3)または48時間後(バー2および4)に解析した。トランスフェクションから24時間後、ラミニン上の未分化ESコロニーの緻密な部分に、明るい緑色の細胞が観察された(パネルAおよびB)。最初の播種から48時間後のトランスフェクションにおいて、最も高い効率が得られた。トランスフェクションから24時間後、FACS解析により測定されるように、38%の細胞がGFP陽性であった(パネルC)。
【0120】
フィーダー非含有hES細胞が安定的な遺伝的改変を起こし得るか否かを判定するため、マトリゲル(登録商標)上で維持したH1 hES細胞に、EF1aプロモーターの制御によるβ-ガラクトシダーゼを保有するプラスミド7.5μgおよびPGKプロモーターの制御によるneoリン酸基転移酵素遺伝子を保有するプラスミド2.5μgの混合物を同時トランスフェクションした。mEF馴化培地中のマトリゲル(登録商標)上にプレーティングしてから48時間後に、細胞にトランスフェクションした。プラスミド10μgおよびFuGENE(商標)(Roche Diagnostics Corp.)15μLを細胞1 mLと共に4時間インキュベートし、その後mEF馴化培地2.5 mLを添加した。48時間後、培地を200μg/mLジェネティシンを添加したmEF馴化培地と交換した。21日を超える期間、毎日培地交換しながら、選択培地で培養物を維持した。偽トランスフェクションした培養物(プラスミドではなく水を混合したFuGENE(商標)を与えた培養物)は、48時間〜72時間以内に死滅した。薬剤耐性コロニーは、最初にトランスフェクションした105個の細胞のうち約1個の頻度で、FuGENE(商標)およびプラスミドの両方をトランスフェクションしたウェル中に生じた。ジェネティシンを含むmEF馴化培地中でコロニーを維持し、拡大した。
【0121】
実施例6:新鮮培地中で未分化ES細胞の増殖を促進する添加物
増殖因子がH9細胞株の未分化hES細胞の増殖および維持にいかに異なって影響するのかを調べるため、さらなる実験を行った。
【0122】
hES培地には、20%血清代替物(Gibco #10828-028)、80%ノックアウトDMEM(Gibco #10829-018)、1%非必須アミノ酸(Gibco #11140-050)、1 mM L-グルタミン(Gibco #15039-027)、および2.5 mMβ-メルカプトエタノール(Sigma #M7522)を含んだ。この培地に、40 ng/mL bFGF;15 ng/mL 幹細胞因子(SCF、R&D Systems #255SC);100 ng/mL白血病抑制因子(LIF、Sigma #L5283またはChemicon #L1F1010);50 ng/mL繊毛様神経栄養因子(CNTF、R&D Systems、#257-NT);50 ng/mL組換え体ヒトオンコスタチンM(OSM、Sigma #O9635);および15 ng/mLインターロイキン6(IL-6、R&D Systems、#206-IL)を添加した。
【0123】
H9細胞株(継代31代目)を馴化培地中の培養物から回収し、マトリゲル(登録商標)上にプレーティングし、上記の濃度、または5倍もしくは25倍低い濃度の因子を添加したhES培地で培養した。十分に補充した培地中で増殖した細胞は、未分化なhES形態を示した。低濃度の増殖因子で増殖した培養物では、4継代後に高度の分化が観察され、増殖因子を用いずに維持した細胞はほとんど完全に分化していた。これらの培養物は、培養を終了した。
【0124】
6継代後、原液混合液による細胞を前回と同様にマトリゲル(登録商標)上に、またはマトリゲル(登録商標)マトリックスに含まれる増殖因子を含まないラミニン上に再度プレーティングした。8継代後、この培地中のマトリゲル(登録商標)またはラミニン上で増殖した培養物の大部分(約50%〜70%)が、未分化のhES形態を示し続けた。次に、マトリゲル(登録商標)またはラミニン上のいくつかの細胞を、40 ng/mL bFGFを含むが、SCF、LIF、CNTF、OSM、またはIL-6を含まないhES培地中に継代した。細胞は、次の4継代の間、未分化表現型を示し続けた。
【0125】
以下の特異的抗体を用いて、マーカー発現のFACS解析を行った。SSEA 4、クローンMC 813マウスIgG3;Tra-1 60、マウスIgM;Tra-1 81、マウスIgM;SSEA-1、マウスIgM;c-kit、BD PharMingen #555714;R-PE標識マウス抗ヒトCD117;マウスIgG1、クローンYB5.B8;gp130、R&D Systems #FAB 228P;R-PE標識マウスIgG1、クローン28123.111;R-PE標識アイソタイプ対照マウスIgG1、PharMingen #33815;アイソタイプ対照マウスIgG3、Sigma #M3645。ヤギ抗マウスIgG3 FITC標識は、Southern Biotechnology #1102-02から入手した。
【0126】
温めたPBSで細胞を3〜5分間洗浄し、0.5 mM EDTA 3 mLとともに37℃で10分間インキュベートし、培地10 mLを含む15 mLチューブに回収した。これらの細胞を1200 rpm(400 g)で遠心沈殿し、1% BSA/PBSで洗浄し、希釈した一次抗体100μL中に懸濁して4℃で30分間インキュベートした。1% BSA/PBSで再度洗浄した後、ヤギ抗マウスIgG3 FITC(1:100)とともに4℃で15〜30分間インキュベートし、その後洗浄して1:1000ヨウ化プロピジウム500μlに再懸濁した。
【0127】
図5(上のパネル)は、増殖因子混合物中で8継代間維持したH9細胞の、未分化表現型マーカーのFACS解析の結果を示す。高濃度の増殖因子中で維持した培養物における、SSEA-1、SSEA-4、Tra 1-60、およびTra 1-81を含む表面マーカーの発現パターンおよびレベルは、MEF馴化培地(MEF-CM)中で維持した細胞と同様であった。
【0128】
これらの結果から、馴化培地が分化を伴わずに幹細胞の増殖を促進する因子を含んでいること、およびこれらの因子は馴化に用いた細胞によって培地中に分泌され得るか、または人為的に培地に添加し得ることが確認された。
【0129】
図5(下のパネル)は、マトリゲル(登録商標)またはラミニン上でMEF-CM中(対照)または増殖因子(GF)の人工的混合物中で9継代した後に、H9細胞によって発現される受容体関連分子を示す。肝細胞癌細胞株HepG2は、gp130の陽性対照である。
【0130】
全細胞株が組織適合抗原クラスI(HLA-ABC)に対して陽性に染まったが、アイソタイプ対照(msIgG1)においては陰性であった。増殖因子またはMEF-CM中で維持した培養物中の50%〜70%の細胞がc-kit(幹細胞因子の受容体)を発現していたが、20%未満の細胞しか(LIF受容体と関連する)gp130を発現していなかった。これに対して、ほぼ100%のHepG2細胞がgp130を発現していた。このパターンから、c-kitのリガンドが未分化hES細胞の増殖を支援するという仮説が支持される。
【0131】
増殖因子混合物を含むhES培地中のマトリゲル(登録商標)上で継代した細胞を、多能性について評価した。80% KO-DMEM、20% FBS、1 mMグルタミン、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、および1%非必須アミノ酸を含む分化培地中において、細胞は容易に胚様体を形成した。5日後、ゼラチンコーティングしたプレート上にEBをプレーティングし、さらに16日間分化させた。次に、これらを4%パラホルムアルデヒドで固定し、エタノールで透過処理し、10%標準ヤギ血清でブロッキングした後、間接抗体染色法により表現型マーカーについて解析した。
【0132】
免疫細胞化学的な解析により、ニューロンの形態を有する細胞中にβ-チューブリンIIIの存在が示された。他の細胞は、α-フェトプロテインまたは平滑筋アクチンに染まった。これにより、SCFおよび他の因子を含む培地中で培養したhES細胞は、3つの胚葉すべての派生体に分化する能力を有することが実証された。
【0133】
原液増殖因子混合物中で14継代した後(約70集団倍加)、マトリゲル(登録商標)またはラミニン上で培養した約50%〜70%の細胞が未分化hES細胞の形態を示し、正常な核型を有した。いかなる増殖因子も含まずに培養した細胞は、4週間培養した後、ほぼ完全な分化を示した。増殖因子を5倍または25倍希釈した培養においても同様に、高度の分化が観察された。
【0134】
hES細胞の増殖に必須な因子混合物中の成分を分析するため、さらなる実験を行った。H9 hES細胞株を、高濃度(40 ng/mL)もしくは低濃度(8 ng/mL)のbFGFのみ、または、SCF(15 ng/mL)もしくはFlt-3リガンド(75 ng/mL)と併用したbFGF(40 ng/mL)を添加した非馴化ES培地中で培養した。
【0135】
図6に結果を示す。高濃度のbFGFを伴う培養物は、未分化形態を有する約30%〜50%の細胞を含み、さらにSCFまたはFlt-3リガンドを含む培養物中ではその割合はより高かった。FACS解析から、これらの培養物中約60%の細胞がSSEA-4を発現していることが示された。これと比較して、馴化培地中の培養物は未分化形態を有する約80%の細胞を含み、約90%の細胞がSSEA-4を発現していた。
【0136】
続く実験において、それ以前は馴化培地中で維持していた継代27代目のhES細胞株H1株または継代35代目のhES細胞株H7株を、これらの増殖因子を含む新鮮ES培地中で培養した。
【0137】
(表2)hES細胞培養のための新鮮ES培地に添加した因子

【0138】
培養物をこれらの条件下で継代し、形態学的判定基準により継続的に評価した。多くの条件で、相当数の未分化コロニーを維持し続けた。図7は、馴化培地から移して9継代(H7細胞)または10継代(H1細胞)後に、フローサイトメトリーにより評価したSSEA-4の発現(染色低レベルまたは高レベルでゲートを設定)を示す。これらのいかなる条件で増殖したH7細胞も、継代15代目でテロメラーゼ活性を示した。
【0139】
実施例7:フィーダー非含有培養においてhES細胞を増殖させるための他の基礎培地
馴化培地中で29回継代したhES細胞を、造血細胞の増殖および発達用に設計した別の培地に移した。
【0140】
エクスビボ拡大培地を市販業者との提携により入手したが、これは米国特許第5,405,772号(Ponting、Amgen Inc.)に記載される培地に基づいたものと考えられる。Ponting培地は以下の成分を含む:イスコフ改変ダルベッコ培地;アミノ酸;ビタミン、ウシアルブミン;ウシトランスフェリン(100μg/mL);脂質およびコレステロール;β-メルカプトエタノール;ピルビン酸;ヌクレオチド;上皮増殖因子(15 ng/mL);線維芽細胞増殖因子(2 ng/mL);血小板由来増殖因子(10 ng/mL);およびインスリン(10μg/mL)。本実験に使用するためには、さらに培地に2 mM L-グルタミン、1%非必須アミノ酸(Gibco)、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、および8 ng/mL bFGFを添加した。
【0141】
最初に、IV型コラゲナーゼを用いて、マトリゲル(登録商標)でコーティングしたプレートに細胞を継代し、馴化培地を用いて2日間培養した。2日目に、100%馴化培地を80%馴化培地および20%新鮮拡大培地で置換した。細胞には毎日新しい培地を添加し、毎週継代を行った。細胞が元の培地から完全に離脱するまで、拡大培地の割合を約1日おきに20%ずつ増量し、その後増殖させさらに8回継代した。
【0142】
拡大培地中での1継代目〜4継代目では、未分化表現型の形態を有する細胞の割合はわずかに減少しているようであったが、継代8代目までに回復した。これらの細胞を初代マウス胚線維芽細胞で馴化した培地に戻して継代した場合、2継代目までは、全期間を通して馴化培地中で増殖した細胞と識別不能であった。
【0143】
これらの細胞が多能性を保持していることを確認するため、胚様体を形成させ、免疫細胞化学法により3つの胚葉それぞれに相当する表現型マーカーについて解析した。拡大培地中で4継代した後、細胞を、37℃で10分間、200 U/mL IV型コラゲナーゼを用いて小さな凝集塊に解離し、分化培地(DMEM + 10% FBS)の懸濁培養液中に4日間置き、その後ポリ-L-オルニチン臭化水素酸でコーティングしたプレートに移してさらに10日間培養した。これらを4%パラホルムアルデヒドで固定し、透過処理し、マウス抗ヒトβ-チューブリンアイソタイプIIIクローンSDL.3D10、マウス抗ヒト筋肉アクチンクローンHHF35、またはマウス抗α-フェトプロテインでそれぞれ標識した。FITC標識ヤギ抗マウスIgGを用いて、一次抗体を可視化した。結果から、(あらかじめ馴化していない)拡大培地中で繰り返して継代し、その後分化させたhES細胞は、β-チューブリンおよび筋肉アクチンについて陽性であることが示された。
【0144】
実施例8:多能性幹細胞を産生するための迅速拡大法
馴化培地中で20回継代したhES細胞を、ヒト造血細胞の増殖用に設計した別の培地に移した。X-VIVO(商標)10拡大培地はBiowhittakerから入手した;QBSF(商標)60はQuality Biological Inc.から入手した。X-VIVO(商標)10処方は、医薬品等級のヒトアルブミン、組換え体ヒトインスリン、および低温殺菌したトランスフェリンを含む。外因性の増殖因子、細胞増殖の人工的促進因子、または不確定な補充物は、X-VIVO(商標)10培地には含まれていない。この培地はまた、いかなるプロテインキナーゼC促進因子も含まない。QBSF(商標)-60は、組換え体ヒトタンパク質または低温殺菌したヒトタンパク質を含む無血清処方である。これらの実験で使用するため、X-VIVO(商標)10培地に、2 mM L-グルタミン、1%非必須アミノ酸(Gibco)、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、および8 ng/mL bFGFを添加した。さらにこの培地に、8 ng/mLもしくは40 ng/mLのbFGF(Gibco);40 ng/mL bFGFおよび15 ng/mL SCF(R&D Systems);または40 ng/mL bFGFおよび75 ng/mL Flt3リガンド(R&D Systems)を添加した。QBSF(商標)-60培地には、0.1 mMβ-メルカプトエタノール、1%非必須アミノ酸(Gibco)、および40 ng/mL bFGFを添加した。mEF馴化培地中で培養したhES細胞を、これらの実験の対照として使用した。
【0145】
最初に、IV型コラゲナーゼを用いて、マトリゲル(登録商標)でコーティングしたプレートにhES細胞を継代し、馴化培地を用いて2日間培養した。2日目に、馴化培地を80%非馴化ES培地および20%拡大培地で置換した。細胞には毎日新しい培地を添加し、毎週継代を行った。細胞が元の培地から完全に離脱するまで、拡大培地の割合を約1日おきに20%ずつ増量し、その後増殖させさらに6回継代した。
【0146】
図8は、以下の培地中で(完全な適合化に十分な)6継代終了時のhES細胞のコロニーを示す:(A) mEF馴化培地 + bFGF(8 ng/mL);(B) X-VIVO(商標)10 + bFGF(40 ng/mL);(C) X-VIVO(商標)10 + bFGF(40 ng/mL) + 幹細胞因子(SCF、Steel因子)(15 ng/mL);(D) X-VIVO(商標)10 + bFGF(40 ng/mL) + Flt3リガンド(75 ng/mL);(E) QBSF(商標)-60 + bFGF(40 ng/mL)。
【0147】
以下の表は、mEF馴化培地中で4継代、またはX-VIVO(商標)10もしくはQBSF(商標)-60中で7継代培養した未分化hES細胞の、継代当たりの平均総細胞拡大率を示す。
【0148】
(表3)ES細胞培養物の増殖率

【0149】
X-VIVO(商標)10およびQBSF(商標)-60における継代当たりの細胞の平均拡大率は、mEF馴化培地中で培養した細胞よりも上回っていた。mEF馴化培地中の細胞は平均して7日ごとに継代したのに対し、X-VIVO(商標)10およびQBSF(商標)-60中の細胞は平均して5日ごとに継代した。従って、非馴化X-VIVO(商標)10またはQBSF(商標)-60における拡大速度は、mEF馴化ES培地よりも約3.2倍〜5.2倍速かった。
【0150】
図9は、hTERTおよびOct3/4の遺伝子発現プロファイルを示す。ハイピュアRNA単離キット(High Pure RNA Isolation Kit)(Roche Diagnostics)を用いて細胞からRNAを単離し、タックマン(Taqman)(商標)アッセイ法(リアルタイムRT-PCR法)により評価した。各試験条件における遺伝子発現を、対照培養における発現と相対的にプロットした。機器の誤差およびアッセイの変動性を考慮すると、試験試料と対照試料との間の発現における相違は、2倍を上回って初めて有意となる。解析から、hTERTおよびOct-3/4の発現は、非馴化X-VIVO(商標)10またはQBSF(商標)-60培地への適合化に際していくらか減少するが(各セットの始めのバー4本)、mEF馴化培地に戻して継代すると標準レベルに回復する(各セットの最後のバー3本)ことが示される。
【0151】
非馴化培地中で培養した細胞が多能性を保持していることを確認するため、胚様体を形成させ、免疫細胞化学法により3つの胚葉それぞれに相当する表現型マーカーについて解析した。拡大培地中で7継代した後、細胞を、37℃で10分間、200 U/mL IV型コラゲナーゼを用いて小さな凝集塊に解離し、分化培地(DMEM + 10% FBS)の懸濁培養液中に4日間置き、その後ポリ-L-オルニチン臭化水素酸でコーティングしたプレートに移してさらに10日間培養した。これらを4%パラホルムアルデヒドで固定し、透過処理し、免疫細胞化学法により標識した。
【0152】
図10に結果を示す。非馴化X-VIVO(商標)10培地中で7回継代したhES細胞は、(内胚葉に相当する)α-フェトプロテイン、(中胚葉を示す)筋肉アクチン、および(外胚葉に相当する)β-チューブリンIIIに染まった。
【0153】
これらの結果から、フィーダー非含有環境下の(非馴化)新鮮培地中で、hES細胞を商業生産に適した迅速な速度で拡大できることが示される。細胞は未分化hES細胞の形態を保持し、3種の胚葉すべてに相当する派生体に分化し得る。
【0154】
本記載中で提供する組成物および手順は、特許請求項において具体化する本発明の精神から逸脱することなく、当業者によって効率的に変更され得る。
【0155】
本発明は以下の態様を含む。
(1)以下の段階を含む、多能性幹細胞の集団を拡大するための方法:
a) ヒト胚盤胞から単離または増殖された多能性幹細胞の集団を得る段階;
b) 下記成分
i) 単離された細胞外マトリックス成分から作製された細胞外マトリックス、
ii) タンパク質またはアミノ酸、ヌクレオシド、および脂質を含む、新鮮な等張培地、
iii) 線維芽細胞増殖因子
を含む培養環境中で、細胞集団を培養する段階;ならびに
c) 各培養環境中の細胞がすべて同じ遺伝子型を有する段階であって、
少なくとも50%の細胞が未分化であって内胚葉、中胚葉、および外胚葉の派生体への分化を引き起こされ得るように、集団内の細胞数が少なくとも10倍拡大されるまで、任意で、細胞集団を、該成分を含む新たな培養環境中に1回または複数回継代する段階。
(2)拡大した細胞集団内の少なくとも50%の細胞が未分化であって3種の胚葉すべてに相当する子孫を産生し得るように、集団内の細胞数が少なくとも50倍拡大されるまで細胞集団を培養する、(1)記載の方法。
(3)拡大した細胞集団内の少なくとも70%の細胞が未分化であって3種の胚葉すべてに相当する子孫を産生し得るように、集団内の細胞数が少なくとも20倍拡大されるまで細胞集団を培養する、(1)記載の方法。
(4)拡大期間において、細胞集団を、上記成分を含む新たな培養環境中に少なくとも3回継代する段階を含む、(1)〜(3)のいずれか記載の方法。
(5)各継代後に、未分化細胞数が最後の継代から少なくとも2倍拡大されるまで細胞を培養する、(4)記載の方法。
(6)方法に従って細胞を継代および培養した後、最初に得られた多能性幹細胞の数が少なくとも100倍拡大され、かつ、100倍拡大された後、少なくとも50%の細胞が未分化であって3種の胚葉すべてに相当する子孫を産生し得る、(4)記載の方法。
(7)培養段階および任意の継代段階により、細胞集団が、同じ細胞集団をマウス胎児線維芽細胞フィーダー細胞上で培養した場合よりも少なくとも1.5倍速い速度で増殖する、(1)〜(6)のいずれか記載の方法。
(8)拡大した細胞集団が、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)またはOCT-4を、同じ細胞集団をマウス胎児線維芽細胞フィーダー細胞上で培養した場合の5倍以下のレベルで発現する、(1)〜(7)のいずれか記載の方法。
(9)i) 単離された細胞外マトリックス成分から作製された細胞外マトリックス、
ii) タンパク質またはアミノ酸、ヌクレオシド、および脂質を含む、新鮮な等張培地、ならびに
iii) 線維芽細胞増殖因子
を含む、多能性幹細胞の集団を拡大するための培養環境であって、
ヒト胚盤胞から単離または増殖された多能性幹細胞が
a) 培養環境中で培養され、かつ
b) 集団内の細胞数が少なくとも10倍拡大されるまで、任意で、該成分を含む新たな培養環境中で1回または複数回継代される
(各培養環境中の細胞はすべて同じ遺伝子型を有する)場合、
少なくとも50%の細胞が未分化であって内胚葉、中胚葉、および外胚葉の派生体への分化を引き起こされ得るような細胞集団が得られる、培養環境。
(10)a) ヒト胚盤胞から単離または増殖された多能性幹細胞の集団;ならびに
b) 以下の成分
i) 単離された細胞外マトリックス成分から作製された細胞外マトリックス、
ii) タンパク質またはアミノ酸、ヌクレオシド、および脂質を含む、新鮮な等張培地、
iii) 線維芽細胞増殖因子
を含む、培養環境
を含む、ヒト多能性幹細胞を拡大するための組成物であって、
各培養環境中の細胞がすべて同じ遺伝子型を有し、かつ
集団内の細胞数が少なくとも10倍拡大されるまで組成物を培養することにより(および任意で、細胞集団を、該成分を含む新たな培養環境中に1回または複数回継代することにより)、少なくとも50%の細胞が未分化であって内胚葉、中胚葉、および外胚葉の派生体への分化を引き起こされ得るような、細胞集団が産生される、培養環境。
(11)少なくとも50%の細胞が未分化であって3種の胚葉すべてに相当する子孫を産生し得る拡大した細胞集団を産生する、ヒト胚盤胞から単離または増殖された多能性幹細胞の集団を、集団内の細胞数が少なくとも10倍拡大されるまで培養するための、以下の成分を含む培養環境の使用:
i) 細胞外マトリックス;
ii) タンパク質またはアミノ酸、ヌクレオシド、および脂質を含む、新鮮な等張培地;ならびに
iii) 線維芽細胞増殖因子。
(12)a) ヒト胚盤胞から単離または増殖された、増殖する未分化多能性幹細胞の集団を提供する段階;
b) 集団内の細胞にDNA-脂質複合体をトランスフェクションする段階;
c) 複合体によって遺伝的に改変された細胞を選択する段階;および
d) 遺伝的に改変される前または後に、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法に従って細胞集団を拡大する段階
を含む、遺伝的に改変された幹細胞を産生する方法。
(13)a) 増殖する未分化多能性幹細胞を含む、請求項10記載の組成物を提供する段階;
b) 集団内の細胞にDNA-脂質複合体をトランスフェクションする段階;および
c) 複合体によって遺伝的に改変された細胞を選択する段階
を含む、遺伝的に改変された幹細胞を産生する方法。
(14)フィーダー細胞を用いずに多能性幹細胞を産生するための迅速拡大法であり、以下の段階を含む方法:
細胞が倍加時間約24時間未満で、(少なくとも50%の細胞が未分化である)少なくとも10倍大きい細胞集団に拡大するのに十分な線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む培地を有し、かつ本質的にフィーダー細胞を含まない、適切な培養環境において、ヒト胚盤胞から単離または増殖された多能性幹細胞を培養する段階。
(15)培養環境が、ラミニンを含むかまたはEngelbreth-Holm-Swarm細胞から作製される、細胞外マトリックスを含む、(1)〜(14)のいずれか記載の方法、組成物、または使用。
(16)ウシ胎仔血清、アルブミン、または血清代替物の形でタンパク質が培地に添加される、(1)〜(15)のいずれか記載の方法、組成物、または使用。
(17)高密度または低密度リポタンパク質の形で脂質が培地に添加される、(1)〜(16)のいずれか記載の方法、組成物、または使用。
(18)線維芽細胞増殖因子(FGF)が塩基性FGF、FGF-4、または、塩基性FGFもしくはFGF-4のいずれかの受容体に結合する抗体もしくはリガンドである、(1)〜(17)のいずれか記載の方法、組成物、または使用。
(19)培地がインスリンおよびトランスフェリンをさらに含む、(1)〜(18)のいずれか記載の方法、組成物、または使用。
(20)多能性幹細胞がヒト胚幹(hES)細胞の樹立株の子孫である、(1)〜(19)のいずれか記載の方法、組成物、または使用。
(21)少なくとも95%の細胞が同じ胚葉に相当する分化細胞の細胞集団への、拡大した細胞集団(またはその亜集団)の分化を引き起こす段階をさらに含む、(1)〜(8)および(12)〜(20)のいずれか記載の方法。
(22)分化細胞の95%が、神経系細胞、肝細胞、心筋細胞、間葉細胞、または骨芽細胞である、(21)記載の方法。
(23)少なくとも50%の細胞が未分化であって3種の胚葉すべてに相当する子孫を産生できる、(1)〜(8)および(12)〜(20)のいずれか記載の方法に基づいて得られる、未分化多能性幹細胞の集団。
(24)少なくとも95%の細胞が同じ胚葉に相当する、(21)または(22)記載の方法に基づいて得られる、ヒト胚盤胞から単離または増殖された多能性幹細胞の子孫である、分化細胞の集団。
【0156】
また本発明は以下の態様も含む。
(A1)霊長類動物多能性幹細胞(pPS細胞)の培養物を多能性状態に維持する方法であって、該pPS細胞を、ラミニンおよびエンゲルブレスホルムスワム(Engelbreth-Holm-Swarm)腫瘍細胞由来の可溶性調製物から選択されたマトリックス、及び40 ng/mlまたはそれを超える量のFGFを含む新鮮な培地の中で培養する工程を含む方法。
(A2)前記pPS細胞がSSEA4、Tra-1-60、Tra-1-81及びOCT4を発現することを特徴とする、(A1)に記載の方法。
(A3)前記細胞が、ヒト胚幹細胞であることを特徴とする、(A1)に記載の方法。
(A4)前記マトリックスが、ラミニンを含むことを特徴とする、(A1)に記載の方法。
(A5)前記マトリックスが、エンゲルブレスホルムスワム腫瘍細胞由来の可溶性調製物であることを特徴とする(A1)に記載の方法
(A6)前記培地が、無血清培地であることを特徴とする(A1)に記載の方法。
(A7)前記培地が、幹細胞因子をさらに含むことを特徴とする(A1)に記載の方法。
(A8)前記培地が、Flt3リガンドをさらに含むことを特徴とする(A1)に記載の方法。
(A9)前記細胞が、マウス胚線維芽細胞(MEF-CM)条件培地において増殖させた場合に該細胞が増殖する速度よりも、約3.2倍速い速度で増殖することを特徴とする(A1)に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
霊長類動物多能性幹細胞(pPS細胞)の培養物を多能性状態に維持する方法であって、該pPS細胞を、ラミニンおよびエンゲルブレスホルムスワム(Engelbreth-Holm-Swarm)腫瘍細胞由来の可溶性調製物から選択されたマトリックス、及び40 ng/mlまたはそれを超える量のFGFを含む新鮮な培地の中で培養する工程を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−81484(P2013−81484A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−23581(P2013−23581)
【出願日】平成25年2月8日(2013.2.8)
【分割の表示】特願2009−271501(P2009−271501)の分割
【原出願日】平成14年9月5日(2002.9.5)
【出願人】(595161223)ジェロン・コーポレーション (32)
【氏名又は名称原語表記】GERON CORPORATION
【Fターム(参考)】