説明

ヒト胚性幹細胞の分化

本発明は、膵内分泌前駆細胞集団を動物に移植することにより、動物の血糖値を低下させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本発明は、米国特許公開番号第61/226,923号(2009年7月20日出願)に対する優先権を請求する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、膵内分泌前駆細胞集団を動物に移植することにより、動物の血糖値を低下させる方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
I型糖尿病の細胞置換療法の進歩及び移植可能なランゲルハンス島の不足により、生着に適したインスリン産生細胞すなわちβ細胞の供給源の開発に注目が集まっている。1つの手法は、例えば、胚性幹細胞のような多能性幹細胞から機能性のβ細胞を生成することである。
【0004】
脊椎動物の胚発生において、多能性細胞は、原腸形成として公知のプロセスにより3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)を含む細胞のグループを生じる。例えば、甲状腺、胸腺、膵臓、腸、及び肝臓などの組織は、内胚葉から中間ステージを経て発達する。このプロセスにおける中間ステージは、胚体内胚葉(definitive endoderm)の形成である。胚体内胚葉細胞は、例えばHNF3β、GATA4、MIXL1、CXCR4及びSOX17などの多くのマーカーを発現する。
【0005】
膵臓の形成は、胚体内胚葉が膵臓内胚葉へと分化することにより生じる。膵臓内胚葉の細胞は膵臓−十二指腸ホメオボックス遺伝子、PDX1を発現する。PDX1が存在しない場合、膵臓は、腹側芽及び背側芽の形成より先に発達が進行しない。したがって、PDX1の発現は、膵臓器官形成において重要な工程として特徴付けられる。成熟した膵臓は、他の細胞型間で外分泌組織及び内分泌組織を含有する。外分泌組織及び内分泌組織は、膵臓内胚葉の分化によって生じる。
【0006】
島細胞の特徴を保持する細胞がマウスの胚細胞から誘導されたことが報告されている。例えば、Lumelskyら(Science 292:1389,2001)は、膵島と同様のインスリン分泌構造へのマウスの胚性幹細胞の分化を報告している。Soriaら(Diabetes 49:157,2000)は、ストレプトゾトシン誘発糖尿病のマウスにおいて、マウスの胚性幹細胞から誘導されたインスリン分泌細胞が血糖を正常化することを報告している。
【0007】
一例において、Horiら(PNAS 99:16105,2002)は、ホスホイノシチド3−キナーゼ(LY294002)の阻害剤でマウス胚性幹細胞を処理することにより、β細胞に類似した細胞が生じたことを開示している。
【0008】
他の例では、Blyszczukら(PNAS 100:998,2003)が、Pax4を構成的に発現しているマウス胚性幹細胞からのインスリン産生細胞の生成を報告している。
【0009】
Micallefらは、レチノイン酸が、胚性幹細胞のPDX1陽性膵臓内胚葉の形成に対する関与を制御できることを報告している。レチノイン酸は、胚における原腸形成の終了時に該当する期間中、胚性幹細胞分化の4日目に培養液に添加すると、PDX1発現の誘導に最も効果的である(Diabetes 54:301,2005)。
【0010】
Miyazakiらは、Pdx1を過剰発現しているマウス胚性幹細胞株を報告している。Miyazakiらの研究結果は、外因性のPdx1発現が、得られた分化細胞内でインスリン、ソマトスタチン、グルコキナーゼ、ニューロゲニン3、P48、Pax6、及びHNF6遺伝子の発現を明らかに増加させたことを示している(Diabetes 53:1030,2004)。
【0011】
Skoudyらは、マウス胚性幹細胞内で、アクチビンA(TGF βスーパーファミリーのメンバー)が、膵臓外分泌遺伝子(p48及びアミラーゼ)、並びに内分泌遺伝子(Pdx1、インスリン及びグルカゴン)の発現を上方制御することを報告している。最大の効果は、1nMアクチビンAを使用した場合に認められた。Skoudyらはまた、インスリン及びPdx1 mRNAの発現レベルはレチノイン酸により影響されなかったが、3nMのFGF7による処理によりPdx1の転写レベルが増加したことも観察している(Biochem.J.379:749,2004)。
【0012】
Shirakiらは、PDX1陽性細胞への胚性幹細胞の分化を特異的に増加させる増殖因子の効果を研究した。Shirakiらは、TGF β2によってPDX1陽性細胞がより高い比率で再現性よく得られたことを観察している(Genes Cells.2005 Jun;10(6):503〜16.)。
【0013】
Gordonらは、血清の非存在下、かつアクチビンとWntシグナル伝達阻害剤の存在下での、マウス胚性幹細胞からの短尾奇形[陽性]/HNF−3 β[陽性]内胚葉細胞への誘導を示した(米国特許第2006/0003446(A1)号)。
【0014】
Gordonら(PNAS,Vol 103,p 16806,2006)は、「Wnt及びTGF−β/nodal/アクチビンの同時シグナル伝達が前原始線条の形成には必要であった」と述べている。
【0015】
しかしながら、胚性幹細胞発達のマウスモデルは、例えば、ヒトなどのより高等な哺乳動物における発達プログラムを正確には模倣しない恐れがある。
【0016】
Thomsonらは、ヒト胚盤胞から胚性幹細胞を単離した(Science 282:114,1998)。同時に、Gearhart及び共同研究者は、胎児腺組織から、ヒト胚性生殖細胞(hEG)株を誘導した(Shamblottら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998)。単に白血病抑制因子(LIF)と共に培養すれば分化が阻止され得るマウス胚幹細胞とは異なり、ヒト胚幹細胞は、非常に特殊な条件下で維持する必要がある(米国特許第6,200,806号、国際公開第99/20741号;国際公開第01/51616号)。
【0017】
D’Amourらは、高濃度のアクチビン及び低濃度の血清の存在下で、ヒト胚性幹細胞由来の胚体内胚葉の濃縮化された培養物が調製されたことを述べている(Nature Biotechnology 2005)。これらの細胞を、マウスの腎臓被膜下に移植することにより、内胚葉性器官の特徴の一部を有するより成熟した細胞への分化が得られた。ヒト胚性幹細胞由来の胚体内胚葉細胞は、FGF−10の添加後、PDX1陽性細胞に更に分化することができる(米国特許出願公開第2005/0266554(A1)号)。
【0018】
D’Amourら(Nature Biotechnology−24,1392〜1401(2006))は、「我々は、ヒト胚性幹細胞(hES)を、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド及びグレリンといった膵臓ホルモンを合成可能な内分泌細胞へと転換させる分化プロセスを開発した。このプロセスは、胚体内胚葉、腸管内胚葉、膵臓内胚葉及び内分泌前駆体が、内分泌ホルモンを発現する細胞へと向かう段階に類似した段階を介して細胞を指向させることにより、in vivoでの膵臓器官形成を模倣する。」と述べている。
【0019】
別の例において、Fiskらは、ヒト胚性幹細胞から膵島細胞を産生するシステムを報告している(米国特許出願公開第2006/0040387(A1)号)。この場合、分化経路は3つのステージに分割された。先ず、ヒト胚性幹細胞を、酪酸ナトリウムとアクチビンAの組み合わせを用いて内胚葉に分化させた。次に細胞をノギンなどのTGF βアンタゴニストとEGF又はベータセルリンの組み合わせと培養してPDX1陽性細胞を生成する。最終分化は、ニコチンアミドにより誘導した。
【0020】
一例において、Benvenistryらは、「我々は、PDX1の過剰発現が、膵臓に多く見られる遺伝子の発現を上昇させたことを結論付ける。インスリン発現の誘導には、in vivoでのみ存在する更なるシグナルを必要とする可能性がある。」と述べている(Benvenistryら、Stem Cells 2006;24:1923〜1930)。
【0021】
他の例では、米国特許第2008/0241107(A1)号は、次の工程a)及びb)を含む、インスリンを分泌する細胞の製造方法を請求する:a)インスリンを生産していない細胞を得る工程;及びb)高濃度のグルコースを含有している培地で細胞をインキュベートする工程(この工程で細胞はインスリンを分泌する)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、膵内分泌細胞、膵臓ホルモン発現細胞、又は膵臓ホルモン分泌細胞へと分化する可能性を維持する一方で、現在の臨床上の必要性に対処するよう拡張できる、多能性幹細胞株を確立するための条件を開発する有意な必要性が今尚存在する。本発明者らは、膵内分泌細胞に向かうヒト胚幹細胞の分化の効率を改善する代替的な手法を採用した。
【課題を解決するための手段】
【0023】
一実施形態では、本発明は、膵内分泌前駆細胞集団を動物に移植することにより、動物の血糖値を低下させる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】NKX6.1(パネルa)、PDX1(パネルb)、PTF1 α(パネルc)及びNGN3(パネルd)の発現に対する、種類の異なる基本培地の効果を示す。ステージ4の3日目に、リアルタイムPCR解析用に二つ組サンプルを回収した。プロットは、各遺伝子についての誘導倍率をDMEM/F12で培養した場合と比較して表す。
【図2】膵臓マーカーPDX1(パネルa及びb)、NKX6.1(パネルc及びd)、CDX2(パネルe及びf)及びNGN3(パネルg及びh)についての、実施例1に記載のように処理したステージ4の3日目のDMEM/F12処理細胞(パネルa、c、e及びg)及びDMEM(高グルコース)処理細胞(パネルb、d、f及びh)の免疫蛍光顕微鏡画像を示す。
【図3】実施例2に記載の方法に従って処理した細胞サンプル由来のPDX1(パネルa)、NKX6.1(パネルb)、PTF1 α(パネルc)、NGN3(パネルd)、PAX4(パネルe)及びNKX2.2(パネルf)の発現を示す。記載の時期に、リアルタイムPCR解析用に二つ組サンプルを回収した。プロットは、各遺伝子についての誘導倍率を、ステージ3の1日目での遺伝子発現と比較して表す。
【図4】実施例2に記載の方法に従って処理した細胞の、インスリン(INS)、グルカゴン(GCG)、PDX1、NKX6.1、NGN3、MAFB及びNEUROD発現を示す。リアルタイムPCR解析用に二つ組サンプルを回収した。プロットは、各遺伝子についての誘導倍率を、ステージ3の4日目での遺伝子発現と比較して表す。明るい灰色のバーは、ステージ3の4日目に採取した細胞群由来のサンプルから得たデータを表す。濃い灰色のバーは、ステージ4の3日目に採取した細胞群由来のサンプルから得たデータを表す。黒いバーは、ステージ5の5日目に採取した細胞群由来のサンプルから得たデータを表す。
【図5】パネルaは、実施例3に記載の方法に従って処理した細胞の、PDX1、NKX6.1、NGN、及びPTF1 α発現を示す。ステージ4の3日目に、リアルタイムPCR解析用に二つ組サンプルを回収した。プロットは、各遺伝子についての誘導倍率を、ステージ4の3日目の処理群1の遺伝子発現と比較して表す。明るい灰色のバーは、T1(処理1)群から採取した細胞群由来のサンプルから得たデータを示す。白色のバーは、T2(処理2)群から採取した細胞群由来のサンプルから得たデータを示す。濃い灰色のバーは、T3(処理3)群から採取した細胞群由来のサンプルから得たデータを示す。黒色のバーは、T4(処理4)群から採取した細胞群由来のサンプルから得たデータを示す。パネルbは、実施例3に記載の方法に従って処理した細胞のインスリン発現を示す。ステージ4の3日目(S4,D3)及びステージ4の8日目に(S4,D8)、リアルタイムPCR解析用に二つ組サンプルを回収した。プロットは、各遺伝子についての誘導倍率を、ステージ4の3日目の処理群1(T1)の遺伝子発現と比較して表す。
【図6】グルコース刺激による、移植内分泌前駆細胞からのヒトCペプチドの放出動態を示す。グルコース投与の60分後のヒトCペプチドレベル(y軸)を具体的に示す。x軸は動物数及び移植後日数を示す。
【図7】グルコース刺激による、移植内分泌前駆細胞からのヒトCペプチドの放出動態を示す。グルコース投与の60分後のヒトCペプチドレベル(y軸)(パネルa)並びにグルコース投与前及び後のヒトCペプチドレベル(パネルb)を具体的に示す。x軸は動物数及び移植後日数を示す。
【図8】グルコース刺激による、移植内分泌前駆細胞からのヒトCペプチドの放出動態を示す。グルコース投与の60分後のヒトCペプチドレベル(y軸)を具体的に示す。x軸は動物数及び移植後日数を示す。
【図9】グルコース刺激による、移植内分泌前駆細胞からのヒトCペプチドの放出動態を示す。グルコース投与の60分後のヒトCペプチドレベル(y軸)(パネルa)並びにグルコース投与前及び後のヒトCペプチドレベル(パネルb)を具体的に示す。x軸は動物数及び移植後日数を示す。
【図10】グルコース刺激による、移植内分泌前駆細胞からのヒトCペプチドの放出動態を示す。グルコース投与の60分後のヒトCペプチドレベル(y軸)(パネルa)並びにグルコース投与前及び後のヒトCペプチドレベル(パネルb)を具体的に示す。x軸は動物数及び移植後日数を示す。
【図11】移植3週間後の移植サンプルの形態解析及び細胞へと分化させる工程を示す。連続切片由来の顕微鏡写真を、a)ヒト核抗原及びDAPIについて;b)CK19及びPDX1について染色して示す。
【図12】移植後3週(パネルa)、10週(パネルb)及び13週(パネルc)経過時点でインスリン及びグルカゴンについて染色した移植サンプルの形態解析及び免疫蛍光解析を示す。パネルdは、移植後13週経過時点でPDX1及びインスリンについて染色した移植サンプルの形態解析及び免疫蛍光解析を示す。パネルeは、移植後13週経過時点でNEUROD1及びインスリンについて染色した移植サンプルの形態解析及び免疫蛍光解析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
開示を明確にするために、本発明の「発明を実施するための形態」を、限定を目的とすることなく、本発明の特定の特徴、実施形態又は応用を説明若しくは図示した以下の小項目に分ける。
【0026】
定義
幹細胞は、単一の細胞レベルにて自己複製し、分化して後代細胞を生成する、それら両方の能力で定義される未分化細胞であり、後代細胞としては、自己複製前駆細胞、非再生前駆細胞、及び最終分化細胞が挙げられる。幹細胞はまた、in vitroで複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系の機能的細胞へと分化する能力によって、また移植後に複数の胚葉の組織を生じ、胚盤胞への注入後、全部ではないとしてもほとんどの組織を提供する能力によっても、特徴付けられる。
【0027】
幹細胞は、発生上の能力によって、(1)全ての胚性及び胚体外細胞のタイプを生ずる能力を有することを意味する、分化全能性、(2)全ての胚性細胞のタイプを生ずる能力を有することを意味する、分化万能性、(3)細胞系のサブセットを生ずる能力を有するが、それらが全て特定の組織、臓器、又は生理学的システムのものであるような、分化多能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己再生性)、血球限定的寡能性前駆細胞、及び血液の通常の成分である全ての細胞種及び要素(例えば、血小板)を生じ得る)、(4)多能性幹細胞よりも限定された細胞系のサブセットを生ずる能力を有することを意味する、分化寡能性、及び(5)単一の細胞系(例えば、精原幹細胞)を生ずる能力を有することを意味する、分化単能性に分類される。
【0028】
分化は、特殊化していない(「中立の」)又は比較的特殊化されていない細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞などの特殊化した細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化した、又は分化を誘導された細胞は、細胞系内でより特殊化した(「傾倒した」)状況を呈している細胞である。分化プロセスに適用した際の用語「傾倒した」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合に分化し続ける分化経路の地点に進行しており、通常の環境下で異なる細胞型に分化し、又はより分化されていない細胞型に戻ることができない細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞系内で比較的特殊化されて(又は傾倒して)いない状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用するとき、細胞系は、細胞の遺伝、すなわちその細胞がどの細胞から来たか、またどの細胞を生じ得るかを規定する。細胞系は、細胞を発達及び分化の遺伝的スキーム内に配置する。系特異的なマーカーは、対象とする系の細胞の表現型に特異的に関連した特徴を指し、中立細胞の対象とする系への分化を評価する際に使用することができる。
【0029】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞」、又は「ステージ1細胞」、又は「ステージ1」とは、以下のマーカー、すなわち、SOX17、GATA4、HNF−3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、Brachyury、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、eomesodermin(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99又はOTX2のうちの少なくとも1つを発現している細胞を指す。胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞としては、原始線条前駆体細胞、原始線条細胞、中内胚葉細胞及び胚体内胚葉細胞が挙げられる。
【0030】
本明細書で使用するとき、「膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞」とは、以下のマーカー、すなわち、PDX1、HNF−1 β、PTF1 α、HNF6、又はHB9のうちの少なくとも1つを発現している細胞を指す。膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞としては、膵臓内胚葉細胞、原腸管細胞、後部前腸細胞が挙げられる。
【0031】
本明細書で使用するとき、「膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞」は、以下のマーカー、すなわち、NEUROD、ISL1、PDX1、NKX6.1、MAFB、インスリン、グルカゴン又はソマトスタチンのうちの少なくとも1つを発現している細胞を指す。膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞としては、膵内分泌細胞、膵臓ホルモン発現細胞、及び膵臓ホルモン分泌細胞、並びにβ−細胞系の細胞が挙げられる。
【0032】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を保持する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、以下のマーカー:HNF3 β、GATA4、SOX17、ケルベロス、OTX2、グースコイド、C−Kit、CD99、及びMIXL1を発現する。
【0033】
本明細書で使用するとき、「マーカー」とは、対象とする細胞で差異的に発現される核酸又はポリペプチド分子である。本文脈において、差異的な発現は、陽性マーカーの発現レベルの上昇、及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。検出可能なレベルのマーカー核酸又はポリペプチドは、他の細胞と比較して対象とする細胞内で十分高く又は低く、そのため当該技術分野において既知の多様な方法のいずれかを使用して、対象とする細胞を他の細胞から識別及び区別することができる。
【0034】
本明細書で使用するとき、「膵内分泌細胞」又は「膵臓ホルモン発現細胞」とは、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを発現することが可能な細胞を指す。
【0035】
本明細書で使用するとき、「膵内分泌前駆細胞」は、NGN3を発現し、かつ内分泌系の細胞(限定するものではないが膵島ホルモン発現細胞が挙げられる)へと更に分化し得る胚体内胚葉系の多能性細胞を指す。比較した場合に、内分泌前駆細胞は、より未分化の胚体内胚葉系細胞(PDX1陽性膵臓内胚葉細胞など)程多くの異なる細胞、組織及び/又は器官型へと分化することはできない。
【0036】
本明細書で使用するとき、「膵臓ホルモン産生細胞」は、以下のホルモン、すなわち、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを産生することができる細胞を指す。
【0037】
本明細書で使用するとき、「膵臓ホルモン分泌細胞」は、以下のホルモン、すなわちインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを分泌することが可能な細胞を指して言う。
【0038】
多能性幹細胞の単離、増殖及び培養
多能性幹細胞の特徴付け
多能性幹細胞は、ステージ特異的胚抗原(SSEA)3及び4、並びにTra−1−60及びTra−1−81と呼ばれる抗体によって検出可能なマーカーのうちの1つ以上を発現している(Thomsonら、Science 282:1145,1998)。in vitroで多能性幹細胞を分化させると、SSEA−4、Tra−1−60、及びTra−1−81の発現が減少し(存在する場合)、SSEA−1の発現が上昇する。未分化の多能性幹細胞は通常アルカリホスファターゼ活性を有し、これは、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、製造業者(Vector Laboratories(Burlingame Calif.))によって記載されるようにVectorRedを基質として現像することによって検出することができる。未分化の多能性幹細胞はまた、RT−PCRで検出されるように、典型的にOct−4及びTERTも発現している。
【0039】
別の望ましい表現型の、増殖させた多能性幹細胞は、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の3胚葉の全ての細胞に分化し得る。多能性幹細胞の多能性は、例えば、細胞を重症複合免疫不全症(SCID)マウスに注入し、形成される奇形腫を4%パラホルムアルデヒドで固定し、次いでこれを3つの胚細胞層由来の細胞種の根拠について組織学的に調べることによって確認することができる。代替的に、多能性は、胚様体を形成させ、この胚様体を3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより決定することができる。
【0040】
増殖した多能性幹細胞株は、標準的なGバンド法を使用して核型を決定することができ、確立された対応する霊長類種の核型と比較される。「正常な核型」を有する細胞を獲得することが望ましく、「正常な核型」とは細胞が正倍数体であり、全ヒト染色体が存在し、かつ著しく変更されてはいないことを意味する。
【0041】
多能性幹細胞源
使用が可能な多能性幹細胞の種類としては、妊娠期間中の任意の時期(必ずしもではないが、通常は妊娠約10〜12週よりも前)に採取した前胚性組織(例えば胚盤胞など)、胚性組織、胎児組織などの、妊娠後に形成される組織に由来する多能性細胞の株化細胞系が挙げられる。非限定的な例は、例えばヒト胚幹細胞株H1、H7、及びH9(WiCell)などのヒト胚幹細胞又はヒト胚生殖細胞の確立株である。それらの細胞の最初の樹立又は安定化中に本開示の組成物を使用することも想定され、その場合、供給源となる細胞は、供給源となる組織から直接採取した一次多能性細胞であろう。フィーダー細胞の不在下で既に培養された多能性幹細胞集団から採取した細胞も好適である。例えば、BG01v(BresaGen、Athens、GA)などの変異ヒト胚性幹細胞株も好適である。
【0042】
一実施形態では、ヒト胚性幹細胞はThomsonらにより説明されているように調製される(米国特許第5,843,780号;Science 282:1145,1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133 ff.,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:7844,1995)。
【0043】
多能性幹細胞の培養
一実施形態では、多能性幹細胞は、典型的にはフィーダー細胞の層上で培養され、このフィーダー細胞は、多能性幹細胞を様々な方法で支持する。あるいは、多能性幹細胞を、フィーダー細胞を本質的に含まないにも関わらず、細胞を実質的に分化させることなく多能性幹細胞の増殖を支持するような培養システム中で培養する。フィーダー細胞不含培養における多能性幹細胞の、分化を伴わない増殖は、あらかじめ他の細胞種を培養することにより馴化培地を使用して支持される。あるいはフィーダー細胞不含培養における多能性幹細胞の分化を伴わない増殖は、合成培地を使用して支持される。
【0044】
例えば、Reubinoffら(Nature Biotechnology 18:399〜404(2000))及びThompsonら(Science 6 November 1998:Vol.282.no.5391,pp.1145〜1147)は、マウス胚線維芽細胞層(フィーダー細胞層)を用いる、ヒト線維芽細胞由来多能性幹細胞株の培養法を開示している。
【0045】
Richardsら(Stem Cells 21:546〜556,2003)は、11種類の異なるヒト成人、胎児、及び新生児フィーダー細胞層についてヒト多能性幹細胞の培養を支持する能力の評価を行っている。Richardsらは、「成人の皮膚線維芽フィーダー細胞上で培養したヒト胚性幹細胞系は、ヒト胚性幹細胞の形態を有し、多能性を維持する」と述べている。
【0046】
米国特許出願公開第20020072117号は、フィーダー不含細胞培養中に霊長類の多能性幹細胞の増殖を支持する培地を生成する細胞系を開示している。使用される細胞系は、胚性組織から得られるかあるいは胚性幹細胞から分化した間葉系かつ線維芽細胞様の細胞系である。米国特許出願公開第20020072117号はまた、この細胞系の1次フィーダー細胞層としての使用を開示している。
【0047】
別の例として、Wangら(Stem Cells 23:1221〜1227,2005)は、ヒト胚性幹細胞由来のフィーダー細胞層上でヒト多能性幹細胞を長期にわたって増殖させるための方法を開示している。
【0048】
別の例として、Stojkovicら(Stem Cells 2005 23:306〜314,2005)は、ヒト胚性幹細胞の自然分化により誘導されたフィーダー細胞システムを開示している。
【0049】
更なる別の例として、Miyamotoら(Stem Cells 22:433〜440,2004)は、ヒトの胎盤から得られたフィーダー細胞の供給源を開示している。
【0050】
Amitら(Biol.Reprod 68:2150〜2156,2003)は、ヒト包皮に由来するフィーダー細胞層を開示している。
【0051】
別の例として、Inzunzaら(Stem Cells 23:544〜549,2005)は、ヒトの出生直後産児の包皮線維芽細胞から得られたフィーダー細胞層を開示している。
【0052】
米国特許第6642048号は、フィーダー不含細胞培養中での霊長類の多能性幹(pPS)細胞の増殖を支持する培地、及びこうした培地の製造に有用な細胞系を開示している。米国特許第6642048号は、「本発明は、胚性組織から得られるかあるいは胚性幹細胞から分化した間葉系かつ線維芽細胞様の細胞系を含む。本開示では、こうした細胞系を誘導し、培地を調整し、この馴化培地を用いて幹細胞を増殖させるための方法を説明及び図示する」と述べている。
【0053】
別の例として、国際公開第2005014799号は、哺乳動物細胞の維持、増殖及び分化のための馴化培地を開示している。国際公開特許第2005014799号は、「本発明に基づいて製造される培地は、マウス細胞、特にMMH(Metマウス肝細胞)と称される分化及び不死化したトランスジェニック肝細胞の細胞分泌活性によって馴化される」と述べている。
【0054】
別の例として、Xuら(Stem Cells 22:972〜980,2004)は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素を過剰発現するように遺伝子改変されたヒト胚性幹細胞由来細胞から得られた馴化培地を開示している。
【0055】
別の例において、米国特許出願公開第20070010011号は、多能性幹細胞を維持するための合成培地を開示している。
【0056】
代替的な培養システムでは、胚性幹細胞の増殖を促進することが可能な増殖因子を添加した無血清培地を使用している。例えば、Cheonら(BioReprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870,October 19,2005)は、胚性幹細胞の自己再生を誘導することが可能な異なる増殖因子を添加した非馴化血清補充(SR)培地中に胚性幹細胞が維持された、フィーダー細胞不含でかつ無血清の培養システムを開示している。
【0057】
別の例において、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)は、線維芽細胞又は馴化培地の非存在下で、bFGFを添加した培地を使用して、胚幹細胞を長期間培養する方法を開示している。
【0058】
別の例において、米国特許出願公開第20050148070号は、無血清でかつ線維芽細胞フィーダー細胞不含の合成培地でのヒト胚幹細胞の培養方法を開示する。この方法は、幹細胞を、アルブミン、アミノ酸、ビタミン、無機物、少なくとも1つのトランスフェリン又はトランスフェリン代替物、少なくとも1つのインスリン又はインスリン代替物を含有し、哺乳動物胎児血清は本質的に不含であり、線維芽細胞増殖因子シグナル伝達受容体を活性化できる少なくとも約100ng/mLの線維芽細胞増殖因子を含有している培地中で培養することを含み、この方法において、増殖因子は線維芽細胞フィーダー層のみだけでなく他の供給源からも供給され、培地は、フィーダー細胞又は馴化培地を用いられずとも、未分化状態の幹細胞の増殖を支持した。
【0059】
別の例において、米国特許出願公開第20050233446号は、未分化の霊長類始原幹細胞などの幹細胞の培養に有用な合成培地を開示している。溶液において、培地は、培養されている幹細胞と比較して実質的に等張である。所定の培養において、特定の培地は、基本培地と、実質的に未分化の始原幹細胞の増殖の支持に必要な、ある量のbFGF、インスリン、及びアスコルビン酸の各々とを含有する。
【0060】
別の例として、米国特許第6800480号は、「一実施形態では、実質的に未分化状態の霊長類由来の始原幹細胞を増殖させるための細胞培地であって、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持する上で効果的な低浸透圧、低エンドトキシンの基本培地を含む細胞培地を提供する。この基本培地は、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持する上で効果的な栄養素血清、並びにフィーダー細胞及びフィーダー細胞から誘導される細胞外支持体成分からなる群から選択される支持体と組み合わされる。培地は更に、非必須アミノ酸、抗酸化剤、並びにヌクレオシド及びピルビン酸塩からなる群から選択される第1の増殖因子を含む。」と述べている。
【0061】
別の例では、米国特許出願公開第20050244962号は、「一態様では、本発明は、霊長類の胚性幹細胞を培養する方法を提供する」と記述している。1つの方法は、哺乳動物の胎児血清を本質的に含まない(好ましくはあらゆる動物の血清をも本質的に含まない)培地中で、線維芽フィーダー細胞層以外の供給源から供給される線維芽細胞増殖因子の存在下で、幹細胞を培養する。好ましい形態では、十分な量の線維芽増殖因子を添加することによって、幹細胞の培養を維持するために従来必要とされていた線維芽フィーダー細胞層の必要性がなくなる。
【0062】
更なる例として、国際特許出願公開第2005065354号は、本質的にフィーダー不含細胞でかつ無血清の合成等張培地であって、a.基本培地、b.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持する上で十分な量のbFGF、c.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持する上で十分な量のインスリン、及びd.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持する上で十分な量のアスコルビン酸、を含む培地を開示している。
【0063】
別の例として、国際公開第2005086845号は、幹細胞を、細胞を未分化な状態に維持するのに十分な量の、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)ファミリータンパク質のメンバー、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリータンパク質のメンバー、又はニコチンアミド(NIC)に、所望の結果を得るのに十分な時間曝露することを含む、未分化の幹細胞を維持するための方法を開示している。
【0064】
多能性幹細胞は、好適な培養基材上に播くことができる。一実施形態では、好適な培養基材は、例えば基底膜から誘導されたもの、又は接着分子受容体−リガンド結合の一部を形成し得るものなどの細胞外マトリックス成分である。一実施形態において、好適な培養基材はMATRIGEL(登録商標)(Becton Dickenson)である。MATRIGEL(登録商標)は、Engelbreth−Holm Swarm腫瘍細胞由来の可溶性製剤であり、室温でゲル化して再構成基底膜を形成する。
【0065】
他の細胞外マトリックス成分及び成分混合物は代替物として好適である。増殖させる細胞型に応じて、代替基材はラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、ヘパラン硫塩、及び同様物を、単独で又は様々な組み合わせで含み得る。
【0066】
多能性幹細胞は、細胞の生存、増殖、及び所望の特徴の維持を促進する培地の存在下で、基材上に好適に分布させることで播いてもよい。これら全ての特徴は、播種分布に細心の注意を払うことから効果が得られ、かつこれら全ての特徴は当業者により容易に決定することができる。
【0067】
好適な培地は、以下の成分、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、Gibco #11965−092;ノックアウトダルベッコ変法イーグル培地(KO DMEM)、Gibco #10829−018;ハムF12/50% DMEM基本培地、200mM L−グルタミン、Gibco #15039−027;非不可欠アミノ酸溶液、Gibco 11140−050;β−メルカプトエタノール、Sigma #7522;ヒト組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco #13256−029などから調製することができる。
【0068】
膵内分泌前駆細胞の形成
一実施形態では、本発明は、以下の工程a〜dを含む、膵内分泌前駆細胞の産生方法を提供する:
a.多能性幹細胞を培養する工程、
b.多能性幹細胞を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させる工程、
c.胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させる工程、
d.胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、膵内分泌前駆細胞へと分化させる工程。
【0069】
本発明での使用に好適な多能性幹細胞としては、例えばヒト胚性幹細胞株H9(NIH code:WA09)、ヒト胚性幹細胞株H1(NIH code:WA01)、ヒト胚性幹細胞株H7(NIH code:WA07)、及びヒト胚性幹細胞株SA002(Cellartis,Sweden)が挙げられる。多能性細胞に特徴的な以下のマ−カー、すなわち、ABCG2、CRIPTO、CD9、FOXD3、コネキシン43、コネキシン45、OCT4、SOX2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60又はTra 1−81のうちの少なくとも1つを発現する細胞も本発明での使用に適している。
【0070】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーは、SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix−様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、エオメソダーミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、及びOTX2からなる群から選択される。本発明での使用に好適なものは、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーのうちの少なくとも1つを発現している細胞である。本発明の一態様において、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、原始線条前駆体細胞である。別の態様において、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、中内胚葉細胞である。別の態様において、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、胚体内胚葉細胞である。
【0071】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーは、PDX1、HNF1 β、HNF6、HB9及びPROX1からなる群から選択される。本発明での使用に好適なものは、膵臓内胚葉系の特徴を示す少なくとも1つのマーカーを発現している細胞である。本発明の一態様において、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、膵臓内胚葉細胞である。
【0072】
膵内分泌前駆細胞に特徴的なマーカーは、NGN3、NKX6.1、NeuroD、ISL1、PDX1、PAX4、NKX2.2、又はARXからなる群から選択される。本発明で使用するのに好適な細胞は、膵内分泌前駆細胞に特徴的なマーカーを少なくとも1つ発現している細胞である。
【0073】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞の形成
多能性幹細胞は、当該技術分野のいかなる方法、又は本発明で提案されるいかなる方法によって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させてもよい。
【0074】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示される方法に従って胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0075】
例えば、多能性幹細胞は、Shinozakiら、Development 131,1651〜1662(2004)により開示される方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させることができる。
【0076】
例えば、多能性幹細胞は、McLeanら、Stem Cells 25,29〜38(2007)により開示される方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させることができる。
【0077】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示される方法に従って胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0078】
例えば、多能性幹細胞は、アクチビンAを含む培地中、血清の非存在下で多能性幹細胞を培養し、次いで細胞をアクチビンA及び血清と培養し、次いで細胞をアクチビンA及び異なる濃度の血清と培養することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。この方法の一例は、Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示されている。
【0079】
例えば、多能性幹細胞は、アクチビンAを含む培地中、血清の非存在下で多能性幹細胞を培養し、次いで細胞をアクチビンAと、別の濃度の血清の存在下で培養することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology(2005)に開示されている。
【0080】
例えば、多能性幹細胞は、アクチビンA及びWntリガンドを含む培地中、血清の非存在下で多能性幹細胞を培養し、次いでWntリガンドを除去し、細胞をアクチビンAと、血清の存在下で培養することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。この方法の例は、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている。
【0081】
例えば、多能性幹細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された米国特許出願第11/736,908号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0082】
例えば、多能性幹細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された米国特許出願第11/779,311号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0083】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第60/990,529号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0084】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第61/076,889号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0085】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第61/076,900号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0086】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第61/076,908号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0087】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第61/076,915号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0088】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞の性質決定
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞の形成は、以下の特定のプロトコルの前後に、マーカーの存在に関して試験することにより決定することができる。多能性幹細胞は、一般にこのようなマーカーを発現しない。したがって、多能性細胞の分化は、細胞がそれらの発現を開始した際に検出される。
【0089】
分化効率は、処理した細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞により発現されたタンパク質マーカーを特異的に認識する薬剤(抗体など)に曝露することにより測定することができる。
【0090】
培養又は単離された細胞中のタンパク質及び核酸マーカーの発現を評価する方法は、当該技術分野において標準技術である。こうした方法には、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロット、in situハイブリダイゼーション(例えば、「Current Protocols in Molecular Biology」Ausubelら編、2001年度版補遺、を参照)、並びに材料切片の免疫組織化学的分析、ウエスタンブロット、及び無傷細胞中のアクセシブルなマーカーに対する免疫アッセイ、フローサイトメトリー分析(FACS)などの免疫アッセイが含まれる(例えば、Harlow及びLane、Using Antibodies:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)を参照)。
【0091】
多能性幹細胞の特徴は当業者に周知であり、多能性幹細胞の更なる特徴は、継続して同定されている。例えば多能性幹細胞マーカーとしては、例えば、以下のもののうちの1つ以上の発現が挙げられる:ABCG2、CRIPTO、FOXD3、コネキシン43、コネキシン45、OCT4、SOX2、Nanog、hTERT、UTF1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60、又はTra 1−81。
【0092】
多能性幹細胞を本発明の方法で処理した後、処理した細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞により発現される、例えばCXCR4などのタンパク質マーカーを特異的に認識する薬剤(抗体など)に曝露することにより、分化した細胞を精製することができる。
【0093】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞からの、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞の形成
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、当該技術分野の任意の方法、又は本発明で提案する任意の方法により、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化し得る。
【0094】
例えば、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法に従って、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化し得る。
【0095】
例えば、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、線維芽細胞増殖因子及びヘッジホッグシグナル伝達経路阻害剤KAAD−シクロパミンで処理した後、線維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地を除去し、続いて細胞をレチノイン酸、線維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地中で培養することにより、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化する。この方法の例は、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている。
【0096】
本発明の一態様では、LifeScan,Inc.に譲渡された米国特許出願第11/736,908号に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、レチノイン酸及び少なくとも1種類の線維芽細胞増殖因子で所定の時間処理することによって、特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0097】
本発明の一態様では、LifeScan,Inc.に譲渡された米国特許出願第11/779,311号に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、レチノイン酸及び少なくとも1種類の線維芽細胞増殖因子で所定の時間処理することによって、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0098】
本発明の一態様では、米国特許出願第60/990,529号に記載の方法に従って処理することにより、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化させる。
【0099】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞の性質決定
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーは、当業者に周知であり、膵臓内胚葉系の特徴を示す追加のマーカーが、継続して同定されている。これらのマーカーは、本発明に従って処理された細胞が分化して膵臓内胚葉系の特徴を示す性質を獲得したことを確認するために使用され得る。膵臓内胚葉系に特異的なマーカーとしては、例えば、HLXB9、PTF−1 α、PDX1、HNF6、HNF−1 βなどの転写因子の1つ以上のものの発現が挙げられる。
【0100】
分化効率は、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞により発現されたタンパク質マーカーを特異的に認識する薬剤(抗体など)に、処理した細胞集団を曝露することにより測定することができる。
【0101】
培養又は単離された細胞中のタンパク質及び核酸マーカーの発現を評価する方法は、当該技術分野において標準技術である。こうした方法には、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロット、in situハイブリダイゼーション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編、2001年度版補遺)を参照)、並びに材料切片の免疫組織化学的分析、ウエスタンブロット、及び無傷細胞中のアクセシブルなマーカーに対する免疫アッセイ、フローサイトメトリー分析(FACS)(例えば、Harlow及びLane、Using Antibodies:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)を参照)などの免疫アッセイが含まれる。
【0102】
膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞からの、膵内分泌前駆細胞の形成
本発明の一態様では、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、BMP阻害能を持つ因子及びTGF−β受容体Iキナーゼ阻害剤を添加した培地で膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を培養することにより、膵内分泌前駆細胞に分化する。
【0103】
一実施形態では、BMP阻害能を持つ因子はノギンである。ノギンは、約100pg/mL〜約500μg/mLの濃度で使用することができる。一実施形態では、ノギンは100ng/mLの濃度で使用される。
【0104】
一実施形態では、TGF−β受容体Iキナーゼ阻害剤はALK5阻害剤II(Calbiochem,Ca)である。ALK5阻害剤IIは、約0.1μM〜約10μMの濃度で使用することができる。一実施形態では、ALK5阻害剤IIは濃度1μMで使用される。
【0105】
一実施形態では、培地は4500mg/Lのグルコースと1%のB27を含有しているDMEMである。
【0106】
一実施形態では、細胞は培地で4日間にわたって培養される。
【0107】
分化効率は、被処理細胞集団を、膵内分泌前駆細胞により発現されたタンパク質マーカーを特異的に認識する剤(例えば抗体)に曝露することにより決定することができる。
【0108】
培養又は単離された細胞中のタンパク質及び核酸マーカーの発現を評価する方法は、当該技術分野において標準技術である。こうした方法には、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロット、in situハイブリダイゼーション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編,2001年度版補遺を参照))、並びに材料切片の免疫組織化学的解析、ウエスタンブロット、及び無傷細胞中の利用可能なマーカーに対する免疫アッセイ、フローサイトメトリー解析(FACS)(例えば、Harlow及びLane、Using Antibodies:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)を参照)などの免疫アッセイが含まれる。
【0109】
多能性幹細胞の特徴は当業者に周知であり、多能性幹細胞の更なる特徴は、継続して同定されている。例えば多能性幹細胞マーカーとしては、以下のもののうちの一つ以上の発現が挙げられる:ABCG2、CRIPTO、FOXD3、コネキシン43、コネキシン45、OCT4、SOX2、Nanog、hTERT、UTF1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60、又はTra 1−81。
【0110】
多能性幹細胞を本発明の方法で処理した後、処理した細胞集団を、膵内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞により発現されるタンパク質マーカー(例えばCXCR4など)を特異的に認識する薬剤(抗体など)に曝露することにより、分化した細胞を精製することができる。
【0111】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーは、PDX1、HNF−1 β、PTF1 α、HNF6、HB9及びPROX1からなる群から選択される。本発明での使用に好適なものは、膵臓内胚葉系の特徴を示す少なくとも1つのマーカーを発現している細胞である。本発明の一態様において、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、膵臓内胚葉細胞である。
【0112】
膵内分泌前駆細胞に特徴的なマーカーは、NGN3、NKX6.1、NEUROD、ISL1、PDX1、PAX4、NKX2.2、PAX6又はARXからなる群から選択される。
【0113】
膵内分泌前駆細胞からの、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞の形成
一実施形態では、本発明の方法により産生した膵内分泌前駆細胞は、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化することができる。
【0114】
膵内分泌前駆細胞は、当該技術分野の任意の方法、又は本発明で提案する任意の方法により、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させることができる。
【0115】
例えば、本発明の方法に従って得られる、膵内分泌前駆細胞は、エキセンディン4を含有している培地で膵内分泌前駆細胞を培養し、次にエキセンディン4を含有している培地を除去し、エキセンディン1、IGF−1及びHGFを含有している培地で培養することにより、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化する。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0116】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵内分泌前駆細胞は、DAPT(Sigma−Aldrich,MO)及びエキセンディン4を含有している培地で膵内分泌前駆細胞を培養することにより、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化する。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0117】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵内分泌前駆細胞は、エキセンディン4を含有している培地で膵内分泌前駆細胞を培養することにより、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化する。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0118】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵内分泌前駆細胞は、米国特許出願第11/736,908号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、Notchシグナル経路を阻害する因子で膵内分泌前駆細胞を処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化する。
【0119】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵内分泌前駆細胞は、米国特許出願第11/779,311号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、Notchシグナル経路を阻害する因子で膵内分泌前駆細胞を処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化する。
【0120】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵内分泌前駆細胞は、米国特許出願第60/953,178号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、Notchシグナル経路を阻害する因子で膵内分泌前駆細胞を処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化する。
【0121】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵内分泌前駆細胞は、米国特許出願第60/990,529号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、Notchシグナル経路を阻害する因子で膵内分泌前駆細胞を処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化する。
【0122】
膵内分泌系に特徴的なマーカーは、NEUROD、ISL1、PDX1、NKX6.1、PAX4、PAX6、NGN3及びNKX2.2からなる群から選択される。一実施形態では、膵内分泌細胞は、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドの少なくとも1つを発現することができる。本発明で使用するのに好適なものは、膵内分泌系に特徴的なマーカーを少なくとも1つ発現している細胞である。本発明の一態様において、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、膵内分泌細胞である。膵内分泌細胞は、膵臓ホルモン発現細胞であってよい。また、膵内分泌細胞は膵臓ホルモン分泌細胞であってよい。
【0123】
本発明の一態様では、膵内分泌細胞は、β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞である。β細胞系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、PDX1と、以下の転写因子、すなわち、NGN3、NKX2.2、NKX6.1、NEUROD、ISL1、HNF3 β、MAFA、PAX4、及びPAX6のうちの少なくとも1つを発現している。本発明の一態様では、β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、β細胞である。
【0124】
治療
一態様では、本発明は、I型糖尿病に罹患しているかあるいはI型糖尿病を発症するリスクを有する患者を治療する方法を提供する。一実施形態では、本方法は、多能性幹細胞を培養することと、多能性幹細胞をin vitroでβ細胞系に分化させることと、β細胞系の細胞を患者に移植することと、を包含する。代替的実施形態では、本方法は、多能性幹細胞を培養することと、多能性幹細胞をin vitroで膵内分泌前駆細胞に分化させることと、膵内分泌前駆細胞を患者に移植することと、を包含する。
【0125】
更に別の態様では、本発明は、II型糖尿病に罹患しているかあるいはII型糖尿病を発症するリスクを有する患者を治療する方法を提供する。一実施形態では、本方法は、多能性幹細胞を培養することと、多能性幹細胞をin vitroでβ細胞系に分化させることと、β細胞系の細胞を患者に移植することと、を包含する。代替的実施形態では、本方法は、多能性幹細胞を培養することと、多能性幹細胞をin vitroで膵内分泌前駆細胞へと分化させることと、膵内分泌前駆細胞を患者に移植することと、を包含する。
【0126】
適切であるならば、移植した細胞の生存及び機能を亢進する医薬品又は生理活性物質で患者を更に処置してもよい。それらの薬剤は、例えば特に、インスリン、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、骨形成タンパク質(BMP−2、−3、−4、−5、−6、−7、−11、−12、及び−13)、線維芽細胞増殖因子−1及び−2、血小板由来増殖因子−AA及び−BB、多血小板血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−7、−8、−10、−15)、血管内皮由来増殖因子(VEGF)、プレイオトロフィン、エンドセリンを含んでもよい。他の医薬化合物としては例えば、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド−I(GLP−1)及びII、GLP−1及び2模倣体(mimetibody)、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、例えば米国特許出願公開第2004/0209901号及び同第2004/0132729号に開示される化合物のようなMAPK阻害剤などが挙げられる。
【0127】
多能性幹細胞は、レシピエントに移植する前にインスリン産生細胞へと分化させてもよい。具体的な実施形態では、多能性幹細胞は、レシピエントに移植する前にβ細胞へと完全に分化させる。あるいは多能性幹細胞は、未分化又は一部が分化した状態でレシピエントに移植してもよい。更なる分化はレシピエント内で行われ得る。
【0128】
胚体内胚葉細胞、又は代替的には膵臓内胚葉細胞、又は代替的にはβ細胞を、分散した細胞として移植してもよく、又は肝門静脈内に注入され得るクラスターとして編成してもよい。あるいは細胞は、生体適合性の分解性ポリマー支持体、多孔性の非分解性デバイス内に提供されてもよく、又は宿主免疫応答から保護されるよう封入されてもよい。細胞は、レシピエント内の適切な部位内に移植されてもよい。移植部位としては、例えば肝臓、天然の膵臓、腎被膜下空間、網、腹膜、漿膜下空間、腸、胃、又は皮下ポケットが挙げられる。
【0129】
移植された細胞の更なる分化、生存又は活性を向上するために、増殖因子、抗酸化剤又は抗炎症剤などの追加の因子を、細胞の投与前に、投与と同時に、又は投与後に投与してもよい。所定の実施形態において、増殖因子は、in vivoで、投与された細胞を分化させるよう使用される。これらの因子は、内在性細胞により分泌され、投与された細胞にin situで曝露されてもよい。移植された細胞には、当該技術分野で既知の内因性の及び外因性の増殖因子の任意の組み合わせにより、分化を誘導することもできる。
【0130】
移植に使用する細胞の量は、患者の状態及び治療に対する応答を含む、多数の様々な要因に基づいて当業者により決定され得る。
【0131】
一態様では、本発明は糖尿病に罹患しているかあるいは糖尿病を発症するリスクを有する患者を治療する方法を提供する。本方法は、多能性幹細胞を培養し、培養した細胞をin vitroでβ細胞系に分化させ、この細胞を3次元支持体に埋め込むことを含む。細胞は、患者に移植する前に、in vitroでこの支持体上に維持してもよい。あるいは細胞を含む支持体を、in vitroで更に培養することなく直接患者に移植してもよい。支持体は、場合により、埋め込まれた細胞の生存及び機能を亢進する少なくとも1つの医薬品を組み込んでもよい。
【0132】
本発明の目的のために使用するのに好適な支持体材料には、組織修復に有用な組織鋳型、導管、バリア及びリザーバが挙げられる。より詳細には、発泡体、スポンジ、ゲル、ヒドロゲル、織物、及び不織構造の形態を有する合成及び天然材料であって、in vitro及びin vivoで使用されて、生物組織を再構築又は再生し、また走化性薬剤を送達して組織増殖を誘発する材料が、本発明の方法の実施における使用に適切である。例えば、米国特許第5,770,417号、同第6,022,743号、同第5,567,612号、同第5,759,830号、同第6,626,950号、同第6,534,084号、同第6,306,424号、同第6,365,149号、同第6,599,323号、同第6,656,488号、米国特許出願公開第2004/0062753A1号、米国特許第4,557,264号及び同第6,333,029号に開示されている材料を参照されたい。
【0133】
医薬品が組み込まれた支持体を形成するために、支持体を形成するのに先立ち、薬剤をポリマー溶液と混合することもできる。あるいは加工された支持体上に、医薬品を好ましくは医薬担体の存在下で被覆してもよい。医薬品は、液体、超微粒子状固体、又は任意の他の適切な物理的形態として存在し得る。あるいは医薬品の放出速度を変更するために、支持体に賦形剤を加えてもよい。別の実施形態では、抗炎症性化合物である少なくとも1種の医薬化合物(例えば米国特許第6,509,369号に開示される化合物)を支持体に組み込む。
【0134】
支持体には、抗アポトーシス化合物である少なくとも1種の医薬化合物、例えば米国特許第6,793,945号に開示されている化合物を組み込んでもよい。
【0135】
支持体には、線維症阻害剤である少なくとも1種の医薬化合物、例えば米国特許第6,331,298号に開示されている化合物も組み込まれ得る。
【0136】
支持体には、血管新生を促進させることができる少なくとも1種の医薬化合物、例えば米国特許出願公開第2004/0220393号及び同第2004/0209901号に開示されている化合物も組み込まれ得る。
【0137】
支持体には、免疫抑制化合物である少なくとも1種の医薬化合物、例えば、米国特許出願公開第2004/0171623号に開示されている化合物も組み込まれ得る。
【0138】
例えば支持体には、特に、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、骨形成タンパク質(BMP−2、−3、−4、−5、−6、−7、−11、−12、及び−13)、線維芽細胞増殖因子−1及び−2、血小板由来増殖因子−AA及び−BB、多血小板血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、−15)、血管内皮増殖因子(VEGF)、プレイオトロフィン、エンドセリンなどの増殖因子である、少なくとも1種の医薬化合物も組み込まれ得る。他の医薬化合物としては、例えばニコチンアミド、低酸素誘導因子1−α、グルカゴン様ペプチド−I(GLP−I)、GLP−1及びGLP−2疑似体、並びにII、エキセンディン4、nodal、ノギン、NGF、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、テネイシン−C、トロポエラスチン、トロンビン由来ペプチド、カテリシジン、デフェンシン、ラミニン、フィブロネクチン及びビトロネクチンなどの接着性細胞外マトリックスタンパク質の細胞−及びヘパリン−結合ドメインを含む生物ペプチド、例えば米国特許出願公開第2004/0209901号及び同第2004/0132729号に開示されている化合物などのMAPK阻害剤を挙げることができる。
【0139】
スキャフォールド内への本発明の細胞の組み込みは、細胞をスキャフォールド上に単に沈着させることにより達成できる。細胞は、単純拡散によりスキャフォールドに入り込ませることができる(J.Pediatr.Surg.23(1 Pt 2):3〜9(1988))。細胞播種の効率を向上させるために、いくつかの他の手法が開発されている。例えば、軟骨細胞をポリグリコール酸スキャフォールド上に播種する際に、スピナーフラスコが使用されている(Biotechnol.Prog.14(2):193〜202(1998))。細胞播種のための他の手法は遠心法の使用であり、これは播種する細胞に与えるストレスを最小にし、かつ播種効率を高める。例えば、Yangらは、遠心分離細胞固定法(Centrifugational Cell Immobilization;CCI)と呼ばれる細胞播種方法を開発した(J.Biomed.Mater.Res.55(3):379〜86(2001))。
【0140】
以下の実施例により本発明を更に例示するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0141】
(実施例1)
膵内分泌前駆細胞集団の形成
ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(1:30希釈)をコートしたプレート上で培養し、以下のプロトコルを使用して膵内分泌前駆細胞へと分化させた:
a.2%のBSA(カタログ#152401,MP Biomedical,Ohio)、100ng/mLのアクチビンA(R&D Systems,MN)、20ng/mLのWNT−3a(カタログ#1324−WN−002,R&D Systems,MN)及び8ng/mLのbFGF(カタログ#100−18B,PeproTech,NJ)を添加したRPMI培地(カタログ#22400,Invitrogen,Ca)で1日培養した後に、2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日間にわたって処理し(ステージ1)、次いで
b.2%のBSA及び50ng/mLのFGF7を添加したDMEM/F12(カタログ番号11330,Invitrogen,Ca)で3日間にわたって培養し(ステージ2)、次いで
c.1%のB27(#17504−044,Invitrogen,CA)、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD(#239804,Calbiochem,CA)、2μMのレチノイン酸(RA)(Sigma,MO)及び100ng/mLのノギン(R&D Systems,MN)を添加した表1に記載の異なる基本培地を使用して4日間にわたって培養し(ステージ3)、次いで
d.1%のB27(Invitrogen,CA)、100ng/mLのノギン及び1μMのALK5阻害剤II(カタログ#616452,Calbiochem,Ca)を添加した、表1に記載の異なる基本培地を使用して3日間にわたって培養した(ステージ4)。
【0142】
【表1】

【0143】
ステージ4の分化3日目の培養物から2つ組でサンプルを調製し、リアルタイムPCRを用いて膵臓マーカーの発現について解析した。並行して、ステージ4の培養3日目の培養物を固定し、次のタンパク質について染色した:NKX6.1(カタログ#F64A6B4,Developmental Studies Hybridoma Bank,University of Iowa)、PDX1、NGN3及びCDX2。
【0144】
DMEM培地で培養したステージ4の培養3日目のサンプル(表1の処理1及び処理2)は、DMEM/F12(表1の処理4)又はCMRL(表1の処理3)で培養した細胞群と比べ、NKX6.1、NGN3及びPTF1 αの発現レベルが有意に上昇したことがPCRにより示された(図1)。試験した培地では、PDX1発現レベルに差異は観察されなかった。しかしながら、DMEM/F12培地で培養した細胞群では、PDX1を発現している細胞の大部分が、腸内胚葉マーカーであるCDX2も発現していることが、免疫細胞化学解析により明らかになった(図2のパネルa及びe)。それに対して、DMEM培地で処理した細胞群では、PDX1陽性細胞とCDX2陽性細胞(図2のパネルb及びf)は別のものであり、PDX1を発現している細胞の大部分はCDX2を発現していなかった。
【0145】
これに加え、DMEMで処理した細胞群より得られたPDX1発現細胞は、NKX6.1も発現していた。図2に見られるように、ステージ4の終了時にはPDX1陽性細胞の50〜60%はNKX6.1も発現し(図2のパネルd)、PDX1陽性細胞の20〜30%はNGN3も発現していた(図2のパネルh)。しかしながら、DMEM培養細胞群ではNKX6.1及びNGN3の共発現は観察されなかった。PDX1及びNGN3の共発現はDMEM/F12培養細胞群又はCMRL培地培養細胞群でも同様に観察されたが(図2のパネルg)、DMEM/F12又はCMRL培地で処理した細胞群のいずれにおいてもNKX6.1の発現は観察されなかった(図2のパネルc)。
【0146】
異なる基本培地は、異なる膵臓内胚葉細胞集団の生成を促進することをこれらのデータは示す。つまり、DMEM/F12を用いることでPDX1及びCDX2を共発現する集団が生じたが、一方でDMEMを用いることでPDX1及びNKX6.1を発現しているがCDX2は発現していない集団が生じた。更にこのデータは、培地中のグルコース濃度の増加により膵臓遺伝子の発現が上昇することを示す。図1及び図2を参照されたい。
【0147】
(実施例2)
膵内分泌前駆細胞へのヒト胚性幹細胞の直接的な分化
ヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(1:30希釈)をコートしたプレート上で培養し、以下のプロトコルを使用して膵内分泌前駆細胞へと分化させた:
a.2%のBSA(カタログ#152401,MP Biomedical,Ohio)、100ng/mLのアクチビンA(R&D Systems,MN)、20ng/mLのWNT−3a(カタログ#1324−WN−002,R&D Systems,MN)及び8ng/mLのbFGF(カタログ#100−18B,PeproTech,NJ)を添加したRPMI培地(カタログ番号22400,Invitrogen,Ca)で1日処理した後に、2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日間にわたって培養し(ステージ1)、次いで
b.2%のBSA及び50ng/mLのFGF7を添加したDMEM/F12(カタログ番号11330,Invitrogen,Ca)で3日間にわたって培養し(ステージ2)、次いで
c.1%のB27(Invitrogen,CA)、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、2μMのレチノイン酸(RA)(Sigma,MO)及び100ng/mLのノギン(R&D Systems,MN)を添加したDMEM(高グルコース)で4日間にわたって培養し(ステージ3)、次いで
d.1%のB27(Invitrogen,CA)、100ng/mLのノギン及び1μMのALK5阻害剤II(カタログ#616452,Calbiochem,Ca)を添加したDMEM(高グルコース)で3日間にわたって培養し(ステージ4)、次いで
e.0.5%のITS(Invitrogen,CA)、0.1%のBSA、1μMのAlk5阻害剤II、100ng/mLのノギン及び20ng/mLのベータセルリン(R&D Systems,MN)を添加したDMEM(高グルコース)で5日間にわたって培養した(ステージ5)。
【0148】
ステージ2の分化3日目から、ステージ4の分化3日目までの各日取りで培養物から2つ組でサンプルを調製し、リアルタイムPCRを用いて膵臓マーカーの発現について解析した。ステージ4に進行後の細胞で、PDX1、NKX6.1及びPTF1 αの劇的な上昇が観察された(図3,パネルa,b及びc)。これに加え、NGN3、PAX4、NKX2.2及びNEURODの有意な上方制御も観察された(図3,パネルd〜f)。PAX4、NKX2.2及びNEURODはNGN3により直接的に制御され、これは、膵臓内胚葉が膵内分泌系への傾倒を開始したことを示唆する。
【0149】
TGF−β受容体阻害剤、ノギン及びベータセルリンを添加することで、膵内分泌前駆細胞を、インスリンを発現している細胞へとin vitroで更に分化させた。図4に示されるように、Alk5阻害剤II(TGF−β受容体阻害剤)、ノギン及びベータセルリンを5日間にわたって添加した後、インスリン発現の有意な上昇が観察された。NGN3及びPAX4発現レベルは減少した一方で、PDX1、NKX6.1 MAFB及びNEURODの発現は一定量で留まった。
【0150】
(実施例3)
ヒト胚性幹細胞を膵内分泌前駆細胞へと直接的に分化させるための代替法
本実施例は、ヒト胚性幹細胞を膵内分泌前駆細胞へと分化させるための、Alk5阻害剤II(TGF−β受容体ファミリー阻害剤)を、B27などの培地添加物中に存在し得る、低濃度の外因性のレチノイド(例えばレチノール(ビタミンA))と共に用いる代替法を例示する。
【0151】
継代数45のヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(1:30希釈)をコートしたプレート上で培養し、以下のプロトコルを使用して膵内分泌前駆細胞へと分化させた:
a.2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、20ng/mLのWNT−3a、8ng/mLのbFGF添加したRPMI培地で1日処理した後に、2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日間にわたって培養し(ステージ1)、次いで
b.2%のBSA及び50ng/mLのFGF7を添加したDMEM/F12で3日間にわたって培養し(ステージ2)、次いで
c.1%のB27(Invitrogen,CA)、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、0.1μMのレチノイン酸(RA)及び100ng/mLのノギンを添加したDMEM(高グルコース)で4日間にわたって培養し(処理1、ステージ3)、次いで
d.1%のB27(Invitrogen,CA)、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、0.1μMのレチノイン酸(RA)、1μMのAlk5阻害剤及びノギン100ng/mLを添加したDMEM(高グルコース)で4日間にわたって培養し(処理2、ステージ3)、次いで
e.1%のB27(Invitrogen,CA)、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、1μMのAlk5阻害剤及び100ng/mLのノギンを添加したDMEM(高グルコース)で4日間にわたって培養し(処理3、ステージ3)、次いで
f.1%のB27(Invitrogen,CA)、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、2μMのレチノイン酸(RA)及び100ng/mLのノギンを添加したDMEM(高グルコース)で4日間にわたって培養し(処理4、ステージ3)、次いで
g.1%のB27(Invitrogen,CA)、100ng/mLのノギン及び1μMのALK5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で8日間にわたって培養し(ステージ4)。
【0152】
ステージ4の分化3日目から8日目までの各日取りで培養物から2つ組でサンプルを調製し、リアルタイムPCRを用いて膵臓マーカーの発現について解析した。
【0153】
FGF7、ノギン、シクロパミン−KAAD及びALK5阻害剤IIに加え、低濃度でレチノイン酸(0.1μM)を添加した培地又は外因性のレチノイン酸は不含の培地により、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を処理すると、NGN3の発現が誘導され、PDX1及びNKX6.1の発現は継続して上方制御された(図5のパネルaの処理3及び4)。NGN3の発現レベルは高濃度(2μM)のレチノイン酸で処理した細胞と同様であった(それぞれ、図5のパネルaの処理4)。これらのデータは、臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、FGF7、ノギン及びシクロパミン−KAADで処理した場合、Alk5阻害剤IIの添加は、膵内分泌前駆細胞の形成を誘導するのに十分であることを示す。図5のパネルaを参照すると、Alk5阻害剤IIの非存在下で低濃度のレチノイン酸(0.1μM)で処理した細胞ではNGN3は発現していなかったことが分かる(図5のパネルaの処理1)。上記処理により形成された膵内分泌細胞は、in vitroでインスリン発現細胞を形成する能力があった。図5のパネルbを参照すると、NGN3を発現している細胞は、1%のB27(Invitrogen,CA)、100ng/mLのノギン及び1μMのALK5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で8日間処理した後にインスリン発現細胞を形成した。
【0154】
(実施例4)
膵内分泌前駆細胞のIn Vivo成熟
継代数45のヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(1:30希釈)をコートしたプレート上で培養し、以下のプロトコルを使用して膵内分泌前駆細胞へと分化させた:
a.2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、20ng/mLのWNT−3a、8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で1日処理した後に、2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA及び8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日間にわたって培養し(ステージ1)、次いで
b.2%のBSA及び50ng/mLのFGF7を添加したDMEM/F12で3日間にわたって培養し(ステージ2)、次いで
c.1%のB27、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、2μMのレチノイン酸(RA)及び100ng/mLのノギンを添加したDMEM(高グルコース)で4日間にわたって培養し(ステージ3)、次いで
d.1%のB27、100ng/mLのノギン及び1μMのALK5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で3日間にわたって培養した(ステージ4)。
【0155】
細胞をin vitroで培養する上記方法(方法1)は、動物番号8、11、14、17、20及び23での移植に使用された。図6を参照されたい。
【0156】
継代数45のヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(1:30希釈)をコートしたプレート上で培養し、以下のプロトコルを使用して膵内分泌前駆細胞へと分化させる、代替え的な分化プロトコルについても試験した:
a.2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、20ng/mLのWNT−3a、8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で1日処理した後に、2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA及び8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日間にわたって培養(ステージ1)、次いで
b.2%のBSA及び50ng/mLのFGF7を添加したDMEM/F12で3日間にわたって培養し(ステージ2)、次いで
c.1%のB27、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、2μMのレチノイン酸(RA)、100ng/mLのノギン及び1μMのAlk5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で4日間にわたって培養し(ステージ3)、次いで
d.1%のB27、100ng/mLのノギン及び1μMのAlk5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で3日間にわたって培養した(ステージ4)。
【0157】
ステージ4の終了時に、1mLのガラス製ピペットを用いて細胞を機械的に回収し、続いて非接着性プレートに移し一晩培養した。生じた凝集塊を回収し、5〜8百万個の細胞を含有する凝集塊を免疫不全(SCID/Bg)マウスの腎臓被膜に移植した。細胞をin vitroで培養するこの方法(方法2)は、動物番号324、326、329、331、333での移植に使用した。図7のパネルa及びbを参照されたい。
【0158】
継代数45のヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(1:30希釈)をコートしたプレート上で培養し、以下のプロトコルを使用して膵内分泌前駆細胞へと分化させる、代替え的な分化プロトコルについても試験した:
a.2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、20ng/mLのWNT−3a、8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で1日処理した後に、2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA及び8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日間にわたって培養し(ステージ1)、次いで
b.2%のBSA及び50ng/mLのFGF7を添加したDMEM/F12で3日間にわたって培養し(ステージ2)、次いで
c.1%のB27、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、0.1μMのレチノイン酸(RA)、100ng/mLのノギン及び1μMのAlk5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で細胞を4日間にわたって培養し(ステージ3)、次いで
d.1%のB27を添加したDMEM(高グルコース)で3日間にわたって培養した(ステージ4)。
【0159】
ステージ4の終了時に、1mLのガラス製ピペットを用いて細胞を機械的に回収し、続いて非接着性プレートに移し一晩培養した。生じた凝集塊を回収し、5〜8百万個の細胞を含有する凝集塊を免疫不全(SCID/Bg)マウスの腎臓被膜に移植した。細胞をin vitroで培養するこの方法(方法3)は、動物番号294、295、296、297での移植に使用した。図8を参照されたい。
【0160】
継代数45のヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(1:30希釈)をコートしたプレート上で培養し、以下のプロトコルを使用して膵内分泌前駆細胞へと分化させる、代替え的な分化プロトコルについても試験した:
a.2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、20ng/mLのWNT−3a、8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で1日処理した後に、2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA及び8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日間にわたって培養し(ステージ1)、次いで
b.2%のBSA及び50ng/mLのFGF7を添加したDMEM/F12で3日間にわたって培養し(ステージ2)、次いで
c.1%のB27、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、0.1μMのレチノイン酸(RA)、100ng/mLのノギン及び1μMのAlk5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で細胞を4日間にわたって培養し(ステージ3)、次いで
d.1%のB27、100ng/mLのノギン及び1μMのAlk5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で3日間にわたって培養した(ステージ4)。
【0161】
ステージ4の終了時に、1mLのガラス製ピペットを用いて細胞を機械的に回収し、続いて非接着性プレートに移し一晩培養した。生じた凝集塊を回収し、5〜8百万個の細胞を含有する凝集塊を免疫不全(SCID/Bg)マウスの腎臓被膜に移植した。細胞をin vitroで培養するこの方法(方法4)は、動物番号336、338、340、342、344での移植に使用した。図9のパネルa及びbを参照されたい。
【0162】
継代数45のヒト胚性幹細胞株H1細胞を、MATRIGEL(1:30希釈)をコートしたプレート上で培養し、以下のプロトコルを使用して膵内分泌前駆細胞へと分化させる、代替え的な分化プロトコルについても試験した:
a.2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA、20ng/mLのWNT−3a、8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で1日処理した後に、2%のBSA、100ng/mLのアクチビンA及び8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日間にわたって培養し(ステージ1)、次いで
b.2%のBSA及び50ng/mLのFGF7を添加したDMEM/F12で3日間にわたって培養し(ステージ2)、次いで
c.1%のB27、50ng/mLのFGF7、0.25μMのシクロパミン−KAAD、100ng/mLのノギン及び1μMのAlk5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で細胞を4日間にわたって培養し(ステージ3)、次いで
d.1%のB27、100ng/mLのノギン及びAlk5阻害剤IIを添加したDMEM(高グルコース)で培養した(ステージ4)。
【0163】
ステージ4の終了時に、1mLのガラス製ピペットを用いて細胞を機械的に回収し、続いて非接着性プレートに移し一晩培養した。生じた凝集塊を回収し、5〜8百万個の細胞を含有する凝集塊を免疫不全(SCID/Bg)マウスの腎臓被膜に移植した。細胞をin vitroで培養するこの方法(方法5)は、動物番号335、337、339、341、343での移植に使用した。図10のパネルa及びbを参照されたい。
【0164】
5〜6週齢のオスのscid−beigeマウス(C.B−Igh−1b/GbmsTac−Prkdcscid−Lystbg N7)をTaconic Farmsより購入した。滅菌した餌と水を自由に利用できるような状態で、マウスをmicroisolatorケージ内に収容した。外科手術の準備に、マウスをイヤータグで同定し、体重を測定し、手持ち式glucometer(LifeScan;OneTouch)を用いて血糖を測定した。
【0165】
マウスにイソフルランと酸素の混合物で麻酔をかけ、手術部位を小動物用はさみで剪毛した。マウスには手術前に皮下に0.1mg.kg Buprenexを投与した。70%のイソプロピルアルコール及び10%のポビドンヨウ素で連続的に洗浄することで手術部位を調製した。
【0166】
ステージ4の終了時に、細胞を1mg/mLのディスパーゼで5分間にわたって簡単に処理し、1mLのガラス製ピペットを用いて機械的に回収し、続いて非接着性プレートに移し一晩培養した。マウスの手術前準備の間に、細胞を1.5mL遠心管で遠心し、次いで細胞ペレットを回収するのに十分な量の培地を残しつつほとんどの上清を除去した。細胞をRainin製Pos−Dポジティブディスプレイスメント式ピペットに回収し、ピペットを反転させて重力により細胞を沈降させた。移植用に充填した細胞調製物を残して過剰な培地を除去した。
【0167】
移植用に24G×1.9cm(3/4”)のI.V.カテーテルを用い、腎臓皮膜を貫通させ、針を除去した。次いで腎臓皮膜下でカテーテルを腎臓の遠位極まで前進させた。Pos−Dピペットチップをカテーテルのハブにしっかりと取り付け、腎臓皮膜下でカテーテルを通してピペットから5百万個の細胞を分配し、腎臓の遠位極に供給した。腎臓皮膜を低温焼灼でシールし、腎臓を解剖学的な元の位置に戻した。並行して、Post−Dピペットチップを用い、5百万個の細胞を含有している細胞凝集物を50μLデバイスに充填した。50μLデバイスはTheraCyte,Inc(Irvine,CA)から購入した。細胞充填後にデバイスを医療用接着剤silicone type A(Dow Corning,カタログ#129109)によりシールし、SICD/Bgマウス(動物番号3及び4)の皮下に移植した。5−0 VICRYLを用いて連続縫合することで筋を縫合し、皮膚を創傷クリップにより閉じた。マウスには手術後に1.0mg.kg Metacamを皮下投与した。マウスを麻酔から覚めさせ、完全に回復させた。
【0168】
移植後に、マウスを週に1回秤量し、週に2回血糖を測定した。移植に続き、マウスには様々な間隔で3g/kgグルコースを腹腔内投与し、グルコース注入の60分後に、ヘパリンを少量含有している遠心管に後眼窩静脈洞から血液を吸引した。血液を遠心分離し、2本目の遠心管中に血漿を配置し、ドライアイス上で凍結させ、その後、ヒトCペプチドアッセイを実施するまでの間−80℃で保管した。製造者による取扱説明書に従い、Mercodia/ALPCO Diagnotics Ultrasensitive C−peptide ELISA(Cat No.80−CPTHU−E01,Alpco Diagnostics,NH)を用いてヒトCペプチドレベルを測定した。
【0169】
移植後4週目程の早期に、動物血清中のヒトCペプチドを検出した。ヒトCペプチドは経時的に増加した。3カ月の終わりまでに動物には約15〜20時間にわたって絶食させ、その後、後眼窩から血液サンプルを採取した(処理前グルコース)。次いで各動物に、約3g/kgのグルコース/30%のデキストロース溶液を腹腔内注射して投与し、グルコース注入の約60分後に血液を採取した。マイクロチューブ中で遠心することで、血液細胞と血清を分離させた。非常に感受性の高い、ヒト特異的なCペプチドELISAプレート(カタログ番号80−CPTHU−E01,Alpco Diagnostics,NH)を用い、血清25μLに対し、ELISA解析を2つ組で実施した。ヒトCペプチドの検出は、インスリン分泌が移植細胞に由来していることを示す。
【0170】
移植の60日後、膵内分泌前駆細胞を含有している移植片を移植した全ての動物において、血清中ヒトCペプチド濃度が低い(0.5ng/ml未満)ことが、グルコース刺激への応答により検出された。移植後2〜3カ月の間、これらの動物ではグルコース刺激によりヒトCペプチドの血清濃度が急激に上昇した(図6〜10)。概して、細胞クラスター移植片を移植したこれらの動物は、同様にグルコースに応答した(図7のパネルb、図9のパネルb及び図10のパネルb)。
【0171】
異なる時点で採取した移植片を組織学的検査したところ、マウス腎臓皮膜下にヒト細胞が存在していることが明らかになった(抗ヒト核抗体染色により検出)。図11のパネルa及びbを参照されたい。腎臓皮膜下に移植した細胞は、移植の3週間後、構造を形成することが観察された。図11のパネルaを参照されたい。管様の構造の数は、時間が経過するにつれて増加した。管様構造のほとんどはPDX1及びCK19を高濃度で含有していた(図11,パネルb)。このことは、膵内分泌前駆細胞が更にin vivoでも分化し得ることを示唆する。
【0172】
管でのPDX1発現は、最終的には内分泌膵臓を形成する前駆細胞集団を特定するのに重要であることから、移植片中でのPDX1とインスリン又はグルカゴンのいずれかとの共発現を測定した。移植片中でインスリン及びグルカゴンを発現している細胞は移植後最初の3週間で観察された(図12のパネルa)。PDX1細胞は、管構造から浸潤したときには、内分泌ホルモンを発現している細胞のほとんどを形成していた。およそ10週経過時には、移植片中には有意な数のインスリン陽性細胞が検出された;インスリン陽性細胞のほとんどはPDX1及びNKX6.1を発現していた(図12のパネルb)。これらのデータは、上記に報告されたCペプチドの発現データと相関する。20週で、インスリン陽性細胞の数は有意に増加し、その結果、移植片中には、単独でインスリンを発現している単独細胞が有意な数検出された。インスリンを発現しているほとんどの細胞はPDX1(図12のパネルc)、NKX6.1(図12のパネルb)及びNEUROD(図12のパネルe)も発現していた。PDX1及びNKX6.1は、グルコース刺激による成熟β細胞のインスリン放出を維持するのに効果的であると報告されてきた。
【0173】
別個の対照実験では、実施例1に記載の方法に従って、DMEM/F12中でステージ4の終了時に分化した細胞を動物に移植した。移植後最大3カ月にわたって、細胞を移植したいずれの動物の血清にもヒトCペプチドは観察されなかった。更に、PCR及び免疫組織化学解析では、インスリン、PDX1又はNKX6.1の発現は認められなかった。しかしながら、移植の3カ月後、移植片中に有意な数のグルカゴン陽性細胞が観察された。
【0174】
(実施例5)
移植片の組織学的検査
移植を受ける動物から採取した移植片を、実質的に前述の実施例に記載されるように組織学的に検査した。
【0175】
前述の実施例で処理した動物の移植片を動物から解体し、PBS−/−(Mg++及びCa++不含,Invitrogen)で2回洗浄し、次いで4%のパラホルムアルデヒド/PBSに移して4℃にて約2〜3時間にわたって固定し、1時間後にPBS(−)を交換した。次いで移植片を4℃にて一晩30%のスクロース/PBS(−)で平衡化し、OCT化合物(SAKURA,#4583)に包埋し、ドライアイスで凍結させた。クライオスタットを用いて移植片組織を10マイクロ四方の切片に切り出し、切片を−80℃で保管した。
【0176】
解析のため、凍結切片を室温に解凍し、解凍後にShandon製のスライドカセット中でPBSで2回洗浄した。組織切片をPBSと0.5%のTriton−Xにより20分にわたって透過処理し、続いて2mLのPBSで洗浄した。次いで切片を4%のニワトリ血清/PBSを含有しているブロッキング溶液でインキュベートした。スライドを室温で1時間にわたってインキュベートした。ブロッキング溶液を除去し、2mLのPBSで3回洗浄した。4%のニワトリ血清で希釈した一次抗体と共に切片を4℃で一晩再度Shandon製のスライドカセット中でインキュベートした。
【0177】
一次抗体とのインキュベーション後、次いでスライドを2mLのPBSで3回洗浄した。4%のニワトリ血清で希釈した適切な二次抗体と共に切片を室温で再度Shandon製のスライドカセット中でインキュベートした。約30分〜1時間後、切片を2mLのPBSで3回洗浄し、Shandon製のスライドカセットから取り外し、DAPIを含有しているVectashieldで包埋した。膵臓ホルモン分泌細胞に典型的な他のマーカーに対する更なる抗体を解析した(転写因子PDX1を含む)。以下の表2を参照されたい。
【0178】
【表2】

【0179】
本明細書を通して引用された刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。以上、本発明の様々な態様を実施例及び好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲は、上記の説明文によってではなく、特許法の原則の下で適切に解釈される以下の「特許請求の範囲」によって定義されるものである点は認識されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵内分泌前駆細胞集団を動物に移植することにより、動物の血糖値を低下させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−533629(P2012−533629A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521698(P2012−521698)
【出願日】平成22年7月19日(2010.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/042390
【国際公開番号】WO2011/011300
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】