説明

ヒト胚性幹細胞を使用して薬学的化合物および他の化学物質の毒性を評価するための試薬および方法

【課題】細胞代謝産物のバイオマーカープロフィール、および化合物(薬剤、リード薬物化合物および候補薬物化合物ならびに他の化学物質を含む)を、それから産生されたヒト胚性幹細胞(hESC)または系列特異的細胞を使用してスクリーニングするための方法を提供すること。
【解決手段】本発明の方法は、毒性(特に、発生毒性)を試験するため、そしてこのような化合物の催奇形性作用を検出するために有用である。hESCまたはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)は、化合物の毒性作用(特に、ヒトの発生に対するその毒性作用および催奇形性作用)を評価するために有用であり、したがって、種間の動物モデルに関連する制限を克服する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第60/790,647号(2006年4月10日出願)、および同第60/822,163号(2006年8月11日出願)(これらの全体は、本明細書中に参考として援用される)に基づく優先権の利益を主張する。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、薬剤および他の化合物の毒物学的なスクリーニングのための方法を提供する。本発明は、特に、ヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)である試薬、ならびにこれらの細胞を使用して薬学的化合物および他の化学物質の発生毒性作用または催奇形性作用を検出するための方法を提供する。より具体的には、本発明は、ヒトの発生の間のそれらの毒性を予測する、化合物の毒性を分析するためのインビトロ手段を提供する。毒性作用または催奇形性作用に対する候補予測バイオマーカーもまた、本明細書中で同定および提供される。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
出生時欠損は、米国における乳児罹患率の主要な原因であり、生まれた乳児の33人のうちの1人が罹患する(非特許文献1;非特許文献2)か、または年間で約125,000人の新生児が罹患する。発生毒性は出生時欠損を引き起こし得、そして胚の死亡率、子宮内発育遅延(IUGR)、異常形態発生(例えば、骨格奇形)、および認識障害(例えば、自閉症)をもたらし得る機能的な毒性を生じ得ることが、理解される。化学物質の曝露がこれらの障害の発症において役割を果たし得るという役割についての、増大する関心が存在する。実際に、全ての出生時欠損のうちの5%〜10%は公知の催奇形性薬剤への胎内曝露によって引き起こされることが、推定される(非特許文献3)。
【0004】
懸案事項は、化学物質の曝露が出生時欠損の生成において顕著でありかつ予防可能な役割を果たしている可能性があることを示す(非特許文献4)。しかし、当該分野は市場の80,000種を超える化学物質に加えて毎年導入される2,000種の化合物についての発生毒性を試験するための強力かつ有効なモデルを欠いているので、この懸案事項は、評価することが困難である(非特許文献5:非特許文献6)。これらの化合物の5%未満が、生殖に対する結果について試験され、そしてさらに少ない化合物が、発生毒性について試験され試験されている(非特許文献7)。いくつかの試みは、毒性を評価する動物モデル系を使用するために行われている(非特許文献8)が、胎内でのヒトの感受性における固有の差異は、このようなモデルの予測的有用性を制限している。ヒトベースの細胞モデル系の開発は、薬物開発および化学物質の危険性評価に対する甚大な影響を有する。
【0005】
毒性(特に、発生毒性)はまた、薬物開発プロセスによる化合物の進展における主要な障害である。現在、毒性試験は、化合物曝露の有害作用(特に、ヒト胚および胎児の発生および器官形成におけるもの)を予測するための手段としての動物モデルにおいて行われる。治験中の新規薬物のFDA承認に寄与する最も一般的なモデルは、ウサギおよびラットにおける全動物研究である(非特許文献8)。インビボ研究は、妊娠および胚/胎児の発生の異なる期(妊娠の第1週、器官形成期および最大の妊娠期間)における妊娠中の動物に対する化合物の投与に依存する。しかし、これらのインビボ動物モデルは、発生中の化合物に対する動物の応答とヒトの応答との間の頑健性の欠如によって制限される。種の違いは、しばしば、傾向(例えば、化合物の用量感受性および薬理学的処理)として示される。現在、動物モデルは、化合物に対するヒトの発生上の応答についての予測において50%のみの効率である(非特許文献9)。したがって、ヒトに対する予測インビトロモデルは、新規薬物開発のコストを減少させ、そしてより安全な薬物を可能にする機会を提供する。
【0006】
インビトロモデルは、20年以上にわたって薬物産業で使用されている(非特許文献10)。現在のインビトロアッセイの多くは、初代細胞培養物または不死化細胞株を使用する分化モデルを含む(非特許文献10)。不運にも、これらのモデルは、発生毒性を正確に評価するそれらの能力においてそれらのインビボ対応物と顕著に異なる。特に、ECVAMの主導(European Center for Validation of Alternative Methods)は、予測的な発生毒性学についてのスクリーニング系としてマウス胚性幹細胞を使用した。胚性幹細胞試験(EST)は、インビボ研究に対する78%の統計学的に有意な相関を有する非常に有望な結果を示し、そしてその試験は、強力な催奇形物質を中程度/弱い胚毒性化合物または非胚毒性化合物から区別し得た(非特許文献11)。このモデルは、毒物学的なエンドポイントが心臓の分化を損なう化合物についてのみ同定されているので、部分的に限定される。このモデルはまた、マウスとヒトとの間における種間の発生上の違いを説明できず、そしてまた、ヒト特異的モデル系に対する当該分野における必要性に十分に取り組んでいない。
【0007】
したがって、薬剤および他の化合物の発生毒性を容易に決定するためのヒト特異的インビトロ方法に対する当該分野における必要性が、存在し続ける。獲得した先天性障害(acquired congenital disorder)およびこれらの生物化学的経路を共有する多くの疾患(例えば、癌)の臨床管理を補助するために、ヒトの発生ならびに毒素および他の発生を崩壊させる薬剤によるその撹乱を良好に理解することの当該分野における必要性もまた、存在する。
本発明は、複数の低分子(好ましくは、hES細胞またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)によって分泌または排出される)の評価を提供し、健康および疾患または損傷状態によって決定され、そしてそれらと相関する。同様の分析は、生物学的流体において検出され得る疾患または毒性応答のバイオマーカー(非特許文献12)を提供する、当該分野における他の生物学的系に適用されている(非特許文献13)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】BrentおよびBeckman、1990、Bull NY Acad Med 66:123−63
【非特許文献2】Rosanoら、2000、J Epidemiology Community Health 54:660−66
【非特許文献3】BeckmanおよびBrent、1984、Annu Rev Pharmacol 24: 483−500
【非特許文献4】Claudioら、2001、Environm Health Perspect 109:A254−A261
【非特許文献5】General Accounting Office(GAO)、1994、Toxic Substances Control Act
【非特許文献6】Preliminary Observations on Legislative Changes to Make TSCA More Effective,Testimony、07/13/94、GAO/T−RCED−94−263
【非特許文献7】Environmental Protective Agency(EPA)、1998、Chemical Hazard Data Availability Study、Office of Pollution Prevention and Toxins
【非特許文献8】Piersma、2004、Toxicology Letters 149:147−53
【非特許文献9】Greavesら、2004、Nat Rev Drug Discov 3:226−36
【非特許文献10】Huuskonen、2005、Toxicology & Applied Pharm 207:S495−S500
【非特許文献11】Spielmannら、1997、In Vitro Toxicology 10:119−27
【非特許文献12】Sabatineら、2005 Circulation 112:3868−875
【非特許文献13】Wantら、2005 Chem Bio Chem 6:1941−51
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、未分化のヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)を使用する、薬学的化学物質および非薬学的化学物質の毒性および催奇形性のインビトロスクリーニングのための試薬および方法を提供する。本発明は、ヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)を使用する、薬剤および他の化合物の毒性(特に、発生毒性および催奇形性)を容易に決定するためのヒト特異的インビトロ方法を提供する。本明細書中に提供されるように、hESCまたはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)は、化合物の毒性作用(特に、ヒトの発生に対するその毒性作用および催奇形性作用)を評価するために有用であり、したがって、種間の動物モデルに関連する制限を克服する。特に、本発明は、hES細胞またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)の代謝産物プロフィールがヒトの発生の公知である撹乱因子に対する応答において変化されることを示す。
【0010】
本発明は、hESCメタボロームが疾患および毒性応答についてのヒトバイオマーカーの供給源であることを示す。特定の実施形態において、バルプロ酸塩に対するhESCの曝露は、ヒト催奇形物質のように、その公知の活性と一致する異なる代謝経路における著しい変化を誘導した。他の実施形態において、種々のレベルのエタノールに対するhESC曝露は、胎児発生に対するアルコールの公知の作用と一致する代謝経路における著しい変化を誘導した。
【0011】
1つの局面において、本発明は、インビトロ評価のために未分化であり多能性のヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)を使用するための方法を提供する。本発明の方法において、未分化のhESCまたはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)は、好ましくは、インビボレベルを反映する濃度または母体の循環において見出されるレベルで試験化合物に曝露される。本発明のこの局面のさらなる実施形態は、特定の細胞型への多能性のhESCの分化を誘導する試験化合物の能力の決定を提供する。他の実施形態において、本発明の方法は、多能性の、非系列の限定された細胞を使用して提供される。多能性幹細胞を利用する利点は、それらが全体的な毒性応答の分析を可能にし、そして発生毒性の生理学的標的(すなわち、ヒト胚)から単離されることである。さらに、これらの細胞は特定の系列へと分化されないので、偽陰性の可能性は減少する。毒性、そして特に、発生毒性および催奇形性を評価するためにhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)を使用する方法が、よりさらなる実施形態において提供される。
【0012】
別の局面において、本発明は、化合物(特に、薬学的化学物質および非薬学的化学物質)、そして特に、公知の催奇形物質に対する毒性応答の予測バイオマーカーを同定するための方法を提供する。この局面の実施形態において、複数種の細胞代謝産物(好ましくは、hES細胞またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)によって分泌または排出される)を代表する動的セットは、健康および疾患または毒性損傷状態によって決定され、そしてそれらと相関する。本発明のこの局面に従う細胞代謝産物は、一般に、約10ダルトン〜約1500ダルトン(より具体的に、約100ダルトン〜約1000ダルトン)の範囲であり、そしてそれらとしては、糖、有機酸、アミノ酸、脂肪酸およびシグナル伝達低分子量化合物などの化合物が挙げられるが、これらに限定されない。上記バイオマーカープロフィールは、病理学的または毒性の化学的損傷に対する細胞応答の機能的機構に関与し、そしてそれを示す化合物(特に、薬学的化学物質および非薬学的化学物質)の毒性の診断であり、したがって生物学的流体において検出され得る疾患または毒性応答のバイオマーカーとして機能する。本発明のこの局面の特に好ましい実施形態において、これらのバイオマーカーは、とりわけ、他の方法(例えば、トランスクリプトミクスおよびプロテオミクス)によって予測される分子変化後の活性な(または活性化された)代謝経路を同定するために有用である。
【0013】
したがって、本発明はまた、いくつかの場合において毒性または催奇形性の損傷を示す特定の代謝経路からの代謝産物に関連するバイオマーカーおよび複数種のバイオマーカーを提供する。本発明によって提供されるようなマーカーは、毒性および催奇形性の損傷を同定するために使用され、そして特定の実施形態において、細胞培養培地において検出される特定のバイオマーカーまたは複数種のバイオマーカーの量または程度と相関させることによって上記損傷の量または程度を特徴付けるために使用される。特定の実施形態において、上記複数種のバイオマーカーは、毒性または催奇形性の損傷の診断パターン(より具体的には、毒性または催奇形性の損傷後に検出される代謝産物を含む特定の代謝経路の1つまたは複数を同定すること)を提供する。
【0014】
本発明は、毒性試験およびバイオマーカーの同定がヒト細胞(特に、ヒト胚性幹細胞(hESC))によって行われるので、とりわけ、ECVAMマウスモデルと有益に比較される。ヒト胚性幹細胞は、それらが多能性かつ自己再生性の細胞であるので、インビトロでの哺乳動物の器官形成を再現することができる(Reubinoffら、2000、Nature Biotechnology 18:399−404;Heら、2003、Circ Res 93:32−9;Zengら、2004、Stem Cells 22:925−40;Leeら、2000、Mol Genet Metab 86:257−68;Yanら、2005、Stem Cells 22:781−90)。したがって、hESCは、毒性(特に、発生毒性)の機構を示すことができ、そして特に初期のヒトの発生の間において化学物質に感受性である発生経路を同定し得る。本明細書中に開示される本発明の方法によって提供される「ヒト用のヒト(human for human)」胚性モデルは、これが標的生物から直接開発された系であるので発生毒性に関連する経路の十分な理解を可能にし、ヒトの発生における毒性または催奇形性の損傷についてのより正確でありかつ感受性の高いアッセイである。
【0015】
本発明の方法は、hESCまたはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)の機能的スクリーニングにより毒性および催奇形性についての重要なバイオマーカーを同定することにおいて、さらなる利点を提供する。これらのバイオマーカーは、毒性(特に、発生毒性)の代謝経路および代謝機構ならびに細胞経路および細胞機構を有利に同定する。重要なことには、これらのバイオマーカーはまた、ヒト胚の発生に対する化学物質の毒性作用の評価を補助し得る。
【0016】
本発明のなお別の局面において、本発明の方法によって同定される示差的に検出、分泌または排出される細胞産物は、関連する代謝経路における神経発生上の障害および変化に関連するものを含み、そしてその細胞産物としては、キヌレニン、グルタメート、ピログルタミン酸、8−メトキシキヌレネート、N’−ホルミルキヌレニン 5−ヒドロキシトリプトファン、N−アセチル−D−トリプトファンならびにトリプトファン代謝経路およびグルタミン酸代謝経路における他の代謝産物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
出生後の生活における機能毒性は、hESCを使用して予測され得る。なぜならば、重要なインビボ特性を有する分化細胞は、インビトロで産生され得るからである。hESCは、系列特異的な幹細胞、前駆細胞および高分化細胞を含む系列特異的細胞を産生するために使用され得、その細胞において、組織を含む異なる細胞型の混合物中に代表的にインビボで存在する細胞の濃縮された集団を提供する。したがって、本発明は、化合物(特に、薬物、薬物リード化合物および薬物開発における候補化合物)の毒性スクリーニングのための濃縮され、そして発生段階特異的な細胞の集団を産生し、その化合物のヒト特異的毒性を同定するためにhESCを使用するための方法を提供する。本発明の方法のこれらの局面は、当該分野で認識さたインビトロ動物モデル系およびインビボ動物モデル系よりも有利である。
【0018】
本発明の特定の好ましい実施形態は、特定の好ましい実施形態の以下のより詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになる。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
試験化合物に接触されたヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物を同定するための方法であって、該方法が、
a)試験化合物の存在下または非存在下でhESCまたはhESC由来系列特異的細胞を培養する工程;
b)該試験化合物の存在下で培養されたhESCまたはhESC由来系列特異的細胞および該試験化合物の非存在下で培養されたhESCまたはhESC由来系列特異的細胞において約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物をアッセイする工程;ならびに
c)該試験化合物の存在下または非存在下にある該細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する少なくとも1種の代謝産物を同定する工程;
を包含する、方法。
(項目2)
前記細胞代謝産物の少なくとも1種が、前記試験化合物の存在下において、該試験化合物の非存在下よりも多い量で産生される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記細胞代謝産物の少なくとも1種が、前記試験化合物の非存在下において、該試験化合物の存在下よりも多い量で産生される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記細胞代謝産物が、前記hESCまたはhESC由来系列特異的細胞から分泌または排出される、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記細胞代謝産物が、約100ダルトン〜約1000ダルトンの分子量を有する低分子産物である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記試験化合物が、毒性化合物または催奇形性化合物である、項目1に記載の方法。
(項目7)
1種以上の細胞代謝産物が、物理的分離方法を使用してアッセイされる、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記物理的分離方法が、液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析である、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記細胞代謝産物が、テトラヒドロフォレート、ジヒドロフォレートまたは葉酸代謝経路における他の代謝産物、グルタチオン、あるいは酸化型グルタチオンである、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記候補細胞代謝産物が、キヌレニン、8−メトキシキヌレネート、N’−ホルミルキヌレニン 7,8−ジヒドロ−7,8−ジヒドロキシキヌレネート、5−ヒドロキシトリプトファン、N−アセチル−D−トリプトファン、グルタメート、ピログルタミン酸またはトリプトファン代謝経路もしくはグルタミン酸代謝経路における他の代謝産物、ヒスタミン、ドパミン、3、4−ジヒドロキシ酪酸、セロトニン、あるいはγ−アミノ酪酸(GABA)である、項目1に記載の方法。
(項目11)
複数種の細胞代謝産物が、同定される、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記複数種の同定された細胞代謝産物が、バイオマーカープロフィールを構成する、請求項10に記載の方法。
(項目13)
バイオマーカープロフィールを構成する前記細胞代謝産物のうちの1種が、キヌレニンである、項目11に記載の方法。
(項目14)
前記試験化合物が、毒性化合物または催奇形性化合物である、項目11に記載の方法。
(項目15)
前記複数種の同定された細胞代謝産物が、毒性化合物または催奇形性化合物に対するhESC応答またはhESC由来系列特異的細胞応答の特徴を示すバイオマーカープロフィールを構成する、項目14に記載の方法。
(項目16)
試験化合物を、該試験化合物に接触されたヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞に対する該化合物の影響を同定するためにスクリーニングするための方法であって、該方法が、
a)試験化合物の存在下または非存在下でhESCまたはhESC由来系列特異的細胞を培養する工程;
b)該試験化合物の存在下で培養された該hESCまたはhESC由来系列特異的細胞および該試験化合物の非存在下で培養された該hESCまたはhESC由来系列特異的細胞を、約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物の産生についてアッセイする工程;ならびに
c)該試験化合物の存在下または非存在下にある該細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する少なくとも1種の細胞代謝産物を産生させる試験化合物を同定する工程;
を包含する、方法。
(項目17)
前記細胞代謝産物の少なくとも1種が、前記試験化合物の存在下において、該試験化合物の非存在下よりも多い量で産生される、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記細胞代謝産物の少なくとも1種が、前記試験化合物の非存在下において、該試験化合物の存在下よりも多い量で産生される、項目16に記載の方法。
(項目19)
前記細胞代謝産物が、前記hESCまたはhESC由来系列特異的細胞から分泌または排出される、項目16に記載の方法。
(項目20)
前記細胞代謝産物の少なくとも1種が、約100ダルトン〜約1000ダルトンの分子量を有する低分子代謝産物である、項目16に記載の方法。
(項目21)
前記試験化合物が、毒性化合物または催奇形性化合物である、項目16に記載の方法。
(項目22)
前記複数種の細胞代謝産物が、物理的分離方法を使用してアッセイされる、項目16に記載の方法。
(項目23)
前記物理的分離方法が、液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析である、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記候補細胞代謝産物が、テトラヒドロフォレート、ジヒドロフォレートまたは葉酸代謝経路における他の代謝産物、グルタチオン、あるいは酸化型グルタチオンである、項目16に記載の方法。
(項目25)
前記候補細胞代謝産物が、キヌレニン、8−メトキシキヌレネート、N’−ホルミルキヌレニン 7,8−ジヒドロ−7,8−ジヒドロキシキヌレネート、5−ヒドロキシトリプトファン、N−アセチル−D−トリプトファン、グルタメート、ピログルタミン酸またはトリプトファン代謝経路もしくはグルタミン酸代謝経路における他の代謝産物、ヒスタミン、ドパミン、セロトニン、γ−アミノ酪酸(GABA)または他の酪酸種である、項目16に記載の方法。
(項目26)
複数種の細胞代謝産物が、同定される、項目16に記載の方法。
(項目27)
前記複数種の同定された細胞代謝産物が、バイオマーカープロフィールを構成する、項目26に記載の方法。
(項目28)
バイオマーカープロフィールを構成する前記細胞代謝産物のうちの1種が、キヌレニンである、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記試験化合物が、毒性化合物または催奇形性化合物である、項目27に記載の方法。
(項目30)
前記複数種の同定された細胞代謝産物が、毒性化合物または催奇形性化合物に対するhESC応答のバイオマーカープロフィール特徴を構成する、項目29に記載の方法。
(項目31)
試験化合物を、該試験化合物と接触させたヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞に対する毒性または催奇形性についてアッセイするための方法であって、該方法が、
a)試験化合物の存在下または非存在下でhESCまたはhESC由来系列特異的細胞を培養する工程;
b)該試験化合物の存在下および非存在下で培養されたhESCまたはhESC由来系列特異的細胞をアッセイして、毒性化合物または催奇形性化合物と接触させたhESCによって産生された約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物を同定する工程;ならびに
c)hESCまたはhESC由来系列特異的細胞が該試験化合物の存在下または非存在下で約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物を産生する試験化合物を同定する工程であって、該細胞代謝産物が、毒性化合物または催奇形性化合物と接触させたhESCまたはhESC由来系列特異的細胞によって産生される、工程;
を包含する、方法。
(項目32)
前記細胞代謝産物の少なくとも1種は、前記試験化合物の存在下において、該試験化合物の非存在下よりも多い量で産生される、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記細胞代謝産物の少なくとも1種は、前記試験化合物の非存在下において、該試験化合物の存在下よりも多い量で産生される、項目31に記載の方法。
(項目34)
前記細胞代謝産物は、前記hESCまたはhESC由来系列特異的細胞から分泌または排出される、項目31に記載の方法。
(項目35)
前記細胞代謝産物は、約100ダルトン〜約1000ダルトンの分子量を有する低分子代謝産物である、項目31に記載の方法。
(項目36)
前記試験化合物は、毒性化合物または催奇形性化合物である、項目31に記載の方法。
(項目37)
細胞代謝産物は、物理的分離方法を使用してアッセイされる、項目31に記載の方法。
(項目38)
前記物理的分離方法は、液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析である、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記候補細胞代謝産物は、テトラヒドロフォレート、ジヒドロフォレートまたは葉酸代謝経路における他の代謝産物、グルタチオン、または酸化型グルタチオンである、項目31に記載の方法。
(項目40)
前記候補細胞代謝産物は、キヌレニン、8−メトキシキヌレネート、N’−ホルミルキヌレニン 7,8−ジヒドロ−7,8−ジヒドロキシキヌレネート 5−ヒドロキシトリプトファン、N−アセチル−D−トリプトファン、グルタメート、ピログルタミン酸またはトリプトファン代謝経路もしくはグルタミン酸代謝経路における他の代謝産物、ヒスタミン、ドパミン、3、4−ジヒドロキシ酪酸、セロトニン、γ−アミノ酪酸(GABA)あるいは他の酪酸種である、項目31に記載の方法。
(項目41)
複数種の細胞代謝産物が、同定される、項目31に記載の方法。
(項目42)
前記複数種の同定された細胞代謝産物が、バイオマーカープロフィールを構成する、項目41に記載の方法。
(項目43)
バイオマーカープロフィールを構成する前記細胞代謝産物のうちの1種が、キヌレニンである、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記試験化合物が、毒性化合物または催奇形性化合物である、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記複数種の同定された細胞代謝産物が、毒性化合物または催奇形性化合物に対するhESC応答の特徴を示すバイオマーカープロフィールを含む、項目31に記載の方法。
(項目46)
毒性化合物としての試験化合物を同定するためのバイオマーカープロフィールであって、該バイオマーカープロフィールは、毒性化合物と接触させたヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物を含む、バイオマーカープロフィール。
(項目47)
テトラヒドロフォレート、ジヒドロフォレートまたは葉酸代謝経路における他の代謝産物、グルタチオン、または酸化型グルタチオンを含む、項目46に記載のバイオマーカープロフィール。
(項目48)
キヌレニン、8−メトキシキヌレネート、N’−ホルミルキヌレニン 7,8−ジヒドロ−7,8−ジヒドロキシキヌレネート 5−ヒドロキシトリプトファン、N−アセチル−D−トリプトファン、グルタメート、ピログルタミン酸またはトリプトファン代謝経路もしくはグルタミン酸代謝経路における他の代謝産物、ヒスタミン、ドパミン、3、4−ジヒドロキシ酪酸、セロトニン、γ−アミノ酪酸(GABA)あるいは他の酪酸種を含む、項目46に記載のバイオマーカープロフィール。
(項目49)
前記試験化合物の存在下または非存在下で前記細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する少なくとも1種の代謝産物と、毒性化合物と接触させたヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物を含むバイオマーカープロフィールとを比較する工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目50)
前記試験化合物の存在下または非存在下で前記細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する少なくとも1種の代謝産物と、毒性化合物と接触させたヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物を含むバイオマーカープロフィールとを比較する工程をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目51)
前記試験化合物の存在下または非存在下で前記細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する少なくとも1種の代謝産物と、毒性化合物と接触させたヒト胚性幹細胞(hESC)またはhESC由来系列特異的細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する1種以上の細胞代謝産物を含むバイオマーカープロフィールとを比較する工程をさらに包含する、項目31に記載の方法。
(項目52)
前記試験化合物の存在下または非存在下で前記細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する少なくとも2種の細胞代謝産物が、検出される、項目1に記載の方法。
(項目53)
前記試験化合物の存在下または非存在下で前記細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する少なくとも2種の細胞代謝産物が、検出される、項目16に記載の方法。
(項目54)
前記試験化合物の存在下または非存在下で前記細胞において示差的に産生される約10ダルトン〜約1500ダルトンの分子量を有する少なくとも2種の細胞代謝産物が、検出される、項目31に記載の方法。
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、図面と組み合わせて以下の詳細な説明から十分に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1A〜1Cは、hESCと1mMバルプロ酸塩とを接触させた後にもたらされた、分泌された細胞代謝産物バイオマーカーのプロフィールである。これらのプロフィールは、上記細胞をバルプロ酸塩によって24時間(図1A)、4日間(図1B)および8日間(図1C)にわたって処理した後に液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型(TOF)質量分析(LC/ESI−TOF−MS)を使用してもたらされた。処理(青色)および未処理(赤色)のヒト胚性幹細胞からの分泌された低分子が、測定された。
【図1B】図1A〜1Cは、hESCと1mMバルプロ酸塩とを接触させた後にもたらされた、分泌された細胞代謝産物バイオマーカーのプロフィールである。これらのプロフィールは、上記細胞をバルプロ酸塩によって24時間(図1A)、4日間(図1B)および8日間(図1C)にわたって処理した後に液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型(TOF)質量分析(LC/ESI−TOF−MS)を使用してもたらされた。処理(青色)および未処理(赤色)のヒト胚性幹細胞からの分泌された低分子が、測定された。
【図1C】図1A〜1Cは、hESCと1mMバルプロ酸塩とを接触させた後にもたらされた、分泌された細胞代謝産物バイオマーカーのプロフィールである。これらのプロフィールは、上記細胞をバルプロ酸塩によって24時間(図1A)、4日間(図1B)および8日間(図1C)にわたって処理した後に液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型(TOF)質量分析(LC/ESI−TOF−MS)を使用してもたらされた。処理(青色)および未処理(赤色)のヒト胚性幹細胞からの分泌された低分子が、測定された。
【図2A】図2A〜2Dは、hESCと1mMバルプロ酸塩とを接触させた後にもたらされた、分泌/排出された細胞代謝産物バイオマーカーのプロフィールである。これらのプロフィールは、細胞をバルプロ酸塩によって24時間(図2A)、4日間(図2B)、8日間(図2C)にわたって処理した後に液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析(LC/ESI−TOF−MS)を使用してもたらされ、hES細胞(青色)および馴化培地(黄色)の比較代謝プロファイリングであった(図2D)。
【図2B】図2A〜2Dは、hESCと1mMバルプロ酸塩とを接触させた後にもたらされた、分泌/排出された細胞代謝産物バイオマーカーのプロフィールである。これらのプロフィールは、細胞をバルプロ酸塩によって24時間(図2A)、4日間(図2B)、8日間(図2C)にわたって処理した後に液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析(LC/ESI−TOF−MS)を使用してもたらされ、hES細胞(青色)および馴化培地(黄色)の比較代謝プロファイリングであった(図2D)。
【図2C】図2A〜2Dは、hESCと1mMバルプロ酸塩とを接触させた後にもたらされた、分泌/排出された細胞代謝産物バイオマーカーのプロフィールである。これらのプロフィールは、細胞をバルプロ酸塩によって24時間(図2A)、4日間(図2B)、8日間(図2C)にわたって処理した後に液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析(LC/ESI−TOF−MS)を使用してもたらされ、hES細胞(青色)および馴化培地(黄色)の比較代謝プロファイリングであった(図2D)。
【図2D】図2A〜2Dは、hESCと1mMバルプロ酸塩とを接触させた後にもたらされた、分泌/排出された細胞代謝産物バイオマーカーのプロフィールである。これらのプロフィールは、細胞をバルプロ酸塩によって24時間(図2A)、4日間(図2B)、8日間(図2C)にわたって処理した後に液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析(LC/ESI−TOF−MS)を使用してもたらされ、hES細胞(青色)および馴化培地(黄色)の比較代謝プロファイリングであった(図2D)。
【図3】図3A〜3Dは、延長された培養後の多能性胚性幹細胞を示す細胞形態の顕微鏡写真である。マーカーOct−4は、未処理のコントロールと同様の様式で保持された(図3A=5日間のバルプロ酸塩、図3B=5日間のコントロール、図3C−8日間のバルプロ酸塩、図3D−8日間のコントロール)。
【図4A】図4は、葉酸(正確な質量441.14)、ピログルタミン酸(正確な質量129.04)、グルタメート(正確な中性質量147.05)およびキヌレニン(正確な質量208.08)の化学的同一性を確認する、化学物質の標準の存在下での比較質量分析の結果を示す。
【図4B】図4は、葉酸(正確な質量441.14)、ピログルタミン酸(正確な質量129.04)、グルタメート(正確な中性質量147.05)およびキヌレニン(正確な質量208.08)の化学的同一性を確認する、化学物質の標準の存在下での比較質量分析の結果を示す。
【図5】図5は、ヒトにおけるトリプトファンのキヌレニン代謝経路を示す(Wangら、2006、J Biol Chem 281:22021−22028、2006年6月5日に電子的に公開された)。
【図6】図6は、22,573の特有の質量との変化倍率の違いの階層的クラスター化を示し、そしてhESCおよびhESCから産生された神経前駆体が1mMバルプロ酸塩によって処理された複数の独立した実験を代表する。非胚細胞(ヒト線維芽細胞)は、コントロールとして使用された(データ示さず)。正の変化倍率は、赤色であり、負の変化倍率は、緑色であり、そして欠測データは、灰色である。
【図7】図7は、hES細胞中のキヌレニンおよびセロトニンの合成経路における酵素の相対的発現を示す。INDO、インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ、TDOまたはTDO2、トリプトファン2、3−ジオキシゲナーゼ。(TDO2は、コントロールと比較してバルプロ酸塩処理hES細胞においてアップレギュレートされた。)AFMID、アリールホルムアミダーゼ、TPH1、トリプトファンヒドロキシラーゼ、AADAT、アミノアジピン酸アミノトランスフェラーゼ、KYNU、キヌレニナーゼ、GAPDH、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ハウスキーピングコントロール遺伝子。KMO、キヌレニン3−モノオキシゲナーゼは、バルプロ酸塩処理細胞またはコントロールにおいて発現されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、ヒト胚性幹細胞メタボロームを使用して発生毒性を評価するための試薬(ヒト胚性幹細胞(hESC)またはそれから産生されたhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)を含む)を提供する。ヒト胚性幹細胞は、インビトロでの器官形成を再現する移植前のヒト胚から直接単離される多能性であり、自己再生性の細胞である。系列特異的前駆細胞は、hES細胞に由来し、そして特定の細胞系列に入るが、依然としてその特定の系列内の細胞型に関して多分化能を保持する。例えば、神経前駆体は、神経分化を果たすが、依然としてその神経細胞型に関して限定されていないままである。また、高分化細胞型(例えば、ニューロン)は、本発明の方法の範囲内である。ヒトの発生および疾患の生物化学的経路は、hESCおよび/またはhESC由来系列特異的細胞において活性である。なぜならば、それらの細胞は、機能的な体細胞への分化を再現するからである。発生の間におけるこれらの経路の破壊は、神経管閉鎖不全(NTD)および認識障害などの障害に寄与する。環境因子(すなわち、化学物質または薬物)は、特定の獲得した先天性障害の個体発生に関与する。初期のヒトの発生の間どの経路が特に環境の作用に感受性であるのかという疑問は、未解決のままである。
【0021】
細胞に存在する細胞代謝産物の全動的セットとして定義されるメタボロームは、健康または疾患/損傷状態の産物である。メタボロミクスは、特に、他の「オミクス(omic)」領域の研究(例えば、ゲノミクスおよびプロテオミクス)と比較して、環境作用に感受性である。細胞代謝産物としては、糖、有機酸、アミノ酸および脂肪酸(特に、病理学的または化学的な損傷に対する細胞応答の機能的機構に関与する、細胞から分泌または排出される種)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの細胞代謝産物は、疾患または毒性応答のバイオマーカーとして機能し、そしてhESC培養培地を含む生物学的流体において検出され得る(Sogaら、2006、J Biol Chem 281:16768−78;Zhaoら、2006、Birth Defects Res A Clin Mol Teratol 76:230−6)。重要なことには、メタボロミクスプロファイリングは、しばしばトランスクリプトミクスおよびプロテオミクスによって予測される機能的変化を確認し得る。
【0022】
しかし、hESCは培養の微小環境に対して非常に感受性であることが公知(Levensteinら、2005、Stem Cells 24:568−574;Liら、2005、Biotechnol Bioeng 91:688−698.)であったので、化合物(毒素、催奇形物質、および特に、薬剤、薬物リード化合物および薬物開発における候補化合物を含む)に対する応答における予測バイオマーカーの供給源としてのそれらの用途、ならびに疾患および発生のインビトロモデルの確立におけるそれの有用性は、疑わしかった(とりわけ、当業者は外因性の化学物質に対する曝露がhES細胞の生存に対して非常に有害であり得、そしてhES細胞から有用な情報を得ることを妨げる得ることを予期し得るので)。この懸案事項は、正しくないことが明らかになった。
【0023】
本明細書中で使用される場合、用語「ヒト胚性幹細胞(hESC)」は、本来は発生する胚盤胞の内部細胞塊に由来する未分化幹細胞、ならびに特に、多能性の未分化ヒト幹細胞およびその部分的に分化した細胞型(例えば、分化するhESCの下流の先祖)を含むことが意図される。本明細書中に提供されるように、hESCのインビトロ培養物は、多能性でありかつ不死ではなく、そして当該分野において十分に確立された方法を使用して系列特異的細胞および分化細胞型を産生するために誘導され得る。好ましい実施形態において、本発明の方法の実施において有用なhESCは、Thomsonら、共有に係る米国特許第6,200,806号によって記載されるような移植前の胚盤胞に由来する。複数のhESC細胞株は、現在、USおよびUKの幹細胞バンクにおいて入手可能である。
【0024】
用語「幹細胞先祖」、「系列特異的細胞」、「hESC由来細胞」および「分化細胞」は、本明細書中で使用される場合、細胞が特定の系列の減少した潜在能力を果たすようにhES細胞から分化される系列特異的細胞を包含することが意図される。いくつかの実施形態において、これらの系列特異的前駆細胞は、最終的な細胞型に関して未分化のままである。例えば、ニューロン幹細胞は、hESCに由来し、そしてニューロン系列を果たすために十分な程度に分化する。しかし、ニューロン前駆体は、それが神経細胞の任意の型に発生する可能性を保持することにおいて「幹細胞性」を維持する。さらなる細胞型は、hESCまたはhESC系列特異的前駆細胞(例えば、神経細胞)に由来する高分化細胞を含む。
【0025】
用語「細胞代謝産物」とは、本明細書中で使用される場合、hESCまたはそれから産生されたhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)によって分泌および/または排出された任意の低分子をいう。好ましい実施形態において、細胞代謝産物としては、糖、有機酸、アミノ酸、脂肪酸、ホルモン、ビタミン、オリゴペプチド(約100アミノ酸長未満)、およびそのイオン性フラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。細胞はまた、細胞内に存在する細胞産物を測定するために溶解され得る。特に、上記細胞代謝産物は、約10ダルトン〜約3600ダルトン(より具体的に、約10ダルトン〜約1500ダルトン、そしてさらにより具体的に、約100ダルトン〜約1000ダルトン)の分子量である。
【0026】
hESCは、当該分野において周知の細胞培養の標準的な方法(例えば、Ludwigら(2006、:Feeder−independent culture of human embryonic stem cells,:Nat Methods 3:637−46.)に開示される方法を含む)を使用する本発明の方法によって培養される。好ましい実施形態において、hESCは、本発明の方法の実施の間に支持細胞層の非存在下で培養される;しかし、hESCは、本発明の方法の実施前に支持細胞層上で培養され得る。
【0027】
用語「投与すること」とは、本明細書中で使用される場合、hESCまたはそれから産生されるhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)のインビトロ培養物と毒性化合物、催奇形性化合物、または試験化合物とを接触させることをいう。好ましい実施形態において、上記化合物の投薬は、インビボ(例えば、母体の循環)で達成されるか、または達成可能であるレベルと等しい量で投与される。
【0028】
本明細書中で使用される場合、語句「示差的に産生される細胞代謝産物を同定すること」または「細胞における変化または細胞活性における変化を検出すること」としては、処理されたhES細胞またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)と、未処理(コントロール)細胞との比較(すなわち、毒性化合物、催奇形性化合物、または試験化合物の存在下(処理)または非存在下(未処理)で培養された細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。処理細胞と未処理細胞との間における細胞代謝産物(それから排出または分泌される)におけるバリエーションの検出または測定が、この定義に含まれる。好ましい実施形態において、細胞または細胞活性における変化は、図1A〜1Cにおいて示されるように、処理細胞 対 未処理細胞において3000ダルトン未満、より具体的には、10ダルトンと1500ダルトンとの間、およびさらにより具体的には、100ダルトンと1000ダルトンとの間の分子量を有する細胞代謝産物の変化のプロフィールを決定することによって測定される。
【0029】
用語「相関すること」とは、本明細書中で使用される場合、細胞代謝産物における変化の正の相関またはマッチングをいい、その細胞代謝産物としては、インビボ毒性応答に対してhES細胞またはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)から排出または分泌される糖、有機酸、アミノ酸、脂肪酸、および低分子量化合物が挙げられるが、これらに限定されない。上記分泌される細胞代謝産物は、細胞における広範な生物化学的経路に関与し得、そして種々の生物学的活性に関連し得、その生物学的活性としては、炎症、抗炎症応答、血管拡張、神経保護、酸化的ストレス、抗酸化活性、DNA複製および細胞周期制御、メチル化、ならびにとりわけ、ヌクレオチド、炭水化物、アミノ酸および脂質の生合成が挙げられるが、これらに限定されない。細胞代謝産物の特定のサブセットにおける変化は、特定の代謝経路または発生経路に対応し、したがってインビボの発生に対する試験化合物の作用を示す。
【0030】
用語「物理的分離方法」とは、本明細書中で使用される場合、本発明の方法に従う、毒性化合物、催奇形性化合物または試験化合物と接触させたhESCまたはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)において産生される低分子の変化および差異のプロフィールをもたらすために十分な当業者に公知である任意の方法をいう。好ましい実施形態において、物理的分離方法は、細胞代謝産物(糖、有機酸、アミノ酸、脂肪酸、ホルモン、ビタミン、およびオリゴペプチド、ならびにそのイオン性フラグメントならびに低分子量化合物(好ましくは、3000ダルトン未満、より具体的には、10ダルトンと1500ダルトンとの間、およびさらにより具体的には、100ダルトンと1000ダルトンとの間の分子量を有する)が挙げられるが、これらに限定されない)の検出を可能にする。特定の実施形態において、この分析は、液体クロマトグラフィ/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析(LC/ESI−TOF−MS)によって行われるが、しかし、本明細書中に示される細胞代謝産物はこのサイズ範囲においてこれらの型の細胞性化合物を分析するための代替的な分光法または当該分野において公知である他の方法を使用して検出され得ることが、理解される。
【0031】
統計分析のためのデータは、Agilent Mass Hunterソフトウェア(製品番号G3297AA、Agilent Technologies,Inc.、Santa Clara、CA)を使用してクロマトグラム(質量シグナルのスペクトル)から抽出された;代替的な統計分析法が使用され得ることは、理解される。質量を、それらが10ppm以内であり、そして2分間の保持時間ウインドウ内で溶出された場合、1つにビニングした(binned)。ビニングした質量を、ことなるLC/ESI−TOF−MS分析にわたって同じ分子であると見なした(本明細書中で「正確な質量」と称され、それは、±10ppmであると理解される)。データのビニングは、全ての実験にわたる質量の統計分析および比較に必要とされる。単一サンプル内の同じ保持時間における同じ質量がMass Hunterによって検出された場合、それらを平均してデータ分析を補助した。天然の同位体分布を欠く質量または3未満のシグナルノイズ比を有する質量を、分析の前にデータから取り除いた。当業者は、このアッセイからの結果が検出された分子量に同一性を提供する10ppm以内の注釈をつけた値に従って評価される相対値を提供することを認識する。したがって、10ppm以内の質量シフトは、イオン化供給源および器具使用における違い(例えば、異なる実験間または異なる器具の使用)に起因して、当該分野において公知である注釈を付けられた特定の細胞代謝産物の同一性の判定と一致すると見なされる。
【0032】
本明細書中で使用される場合、質量を、最初に質量および保持時間によってデータを分類する単純なアルゴリズムを使用してLC/ESI−TOF−MSの実行にわたって同じであると見なした。分類した後、化合物を、それが3分以下の保持時間の違いおよび重み付け式(0.000011×質量)以下の質量の違いを有した場合、特有であると見なした。一連の測定値がこの規定に適合する場合、それを同じ化合物からのものであると見なした。質量または保持時間のいずれかが上に列挙した限界よりも大きく変動した場合、それを、異なる化合物であると見なし、そして新しい特有の名称を与えた。
【0033】
有意性の検定を、各時点において処理培地および未処理培地に存在する特有の化合物の2を底とする対数で変換した存在量の値に対してANOVAを行うことによって判定した。乱塊法(randomized complete block design)を、以下の式を伴うANOVAモデル(処理、実験、および残りの項目の効果を含む)と一緒に使用した:Log(存在量tb)=処理+実験+誤差tb
【0034】
欠測データが存在しなかったと仮定することよりもむしろ、自由度を変える検定から欠測データを除外した。Mass Hunterソフトウェアによって行われた広範なフィルタリングが特定のピークを取り逃し得るかまたはフィルタリングし得る(特定のピークが特定の存在量の閾値を下回りかつ0ではないことに起因する)ので、この仮定が、行われた。ANOVA F検定を、そのp値が0.05未満であった場合、有意であると見なした。変化倍率を、所定の時間および処理についての最小二乗平均を使用して算出した。
【0035】
用語「バイオマーカー」とは、本明細書中で使用される場合、処理と未処理コントロールとの間に有意な変化を示す細胞代謝産物をいう。好ましい実施形態において、バイオマーカーは、LC/ESI−TOF−MSを含む方法によって上記のように同定される。メタボロミクスバイオマーカーは、それらの特有の分子量、およびそのマーカーが特定の毒性化合物、催奇形性化合物または試験化合物に対する応答において検出される一貫性によって同定される;したがって、そのバイオマーカーに対応する基本的な化合物の実際の同一性は、本発明の実施に必要とされない。あるいは、特定のバイオマーカーは、例えば、遺伝子発現分析(リアルタイムPCR、RT−PCR、ノーザン分析、およびインサイチュハイブリダイゼーションを含む)によって同定され得るが、これらは、一般に、本明細書中で示されるような用語「細胞代謝産物」の定義に含まれない。
【0036】
未分化hESCの基礎メタボロームは、幹細胞性(stemness)および自己再生性に関連する機能的経路の生物化学的特徴のコレクションとして機能した。代謝産物プロファイリングを、細胞内化合物とは対照的に排出または分泌された細胞代謝産物に対して行った。最終的に、インビトロで発見されたバイオマーカーは、インビボの生物流体(例えば、血清、羊水および尿)、細胞外生体分子の複合混合物を分析するために有用であることが期待される。これは、生物流体中の低分子が非侵襲的に検出され得る(細胞内化合物とは対照的である)ので、侵襲性手順(例えば、組織生検)よりも有利である。さらに、質量分析のために細胞上清を処理することは、細胞抽出物よりも確実であり、かつ労力を要さない。しかし、細胞抽出物(例えば、溶解された細胞からのもの)は、本発明の方法において利用され得る。
【0037】
用語「バイオマーカープロフィール」とは、本明細書中で使用される場合、本発明の方法によって同定された複数種のバイオマーカーをいう。本発明に従うバイオマーカープロフィールは、試験化合物の毒性作用および催奇形性作用の分子フィンガープリントを提供し得、そして細胞代謝産物(特異的に排出および分泌された細胞代謝産物)がhESCまたはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)への試験化合物の投与後において有意に変化したことを示し得る。これらの実施形態において、複数種のバイオマーカーの各々は、その特有の分子量、およびそのマーカーが特定の毒性化合物、催奇形性化合物または試験化合物に対する応答において検出される一貫性によって、特徴付けおよび同定される;したがって、そのバイオマーカーに対応する基本的な化合物の実際の同一性は、本発明の実施に必要とされない。
【0038】
用語「バイオマーカーポートフォリオ」とは、本明細書中で使用される場合、個々のバイオマーカープロフィールのコレクションをいう。上記バイオマーカーポートフォリオは、新規または未知の化合物からのバイオマーカープロフィールを比較するための参照として使用され得る。バイオマーカーポートフォリオは、毒性応答または催奇形性応答の一般経路(特に、代謝経路または発生経路)を同定するために使用され得る。
【0039】
本明細書中に示されるこれらの結果は、ヒト胚性幹細胞のメタボロミクス、およびhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)からのメタボロミクスがバイオマーカーの発見および経路の同定において使用され得ることを示した。メタボロミクスは、hESCまたはそれから産生されるhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)によって分泌された低分子を検出し、そして同定されたバイオマーカーは、少なくとも2つの目的のために使用され得る:第1に、毒素または催奇形物質の曝露に応答するかあるいは毒素または催奇形物質の曝露によって影響を受ける特定の代謝経路または発生経路(特に、初期発生の間に利用されるかまたは影響を受ける経路であり、初期発生は発生の撹乱因子でありかつ出生時欠損の個体発生に関与する毒性化合物、催奇形性化合物または試験化合物に対して感受性である)を決定するため;および第2に、毒性曝露、出生時欠損または他の疾患の管理および診断を補助するための、生物流体において測定され得る細胞代謝産物を提供するため。
【0040】
hESCまたはそれから産生されるhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)からのバイオマーカーポートフォリオはまた、薬物発見の前臨床段階におけるハイスループットスクリーニングツールとして機能し得る。さらに、このアプローチは、ヒトの発生に対する環境性化学物質(重金属、産業廃棄物)および栄養性化学物質(例えば、アルコール)の発生上の作用を検出するために使用され得る。最終的に、hESCのメタボロームまたはhESC由来系列特異的細胞(例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞および神経細胞)のメタボロームを利用する本発明の方法は、化合物の開発およびヒト曝露についての危険用量に対する意思決定において製薬学、生物工学および環境的機関を補助し得る。化学的生物学(chemical biology)と胚性幹細胞技術との統合はまた、ヒトの発生および疾患の理解を強めるための特有の機会を与える。hESCから分化した細胞のメタボロミクスは、同様の役割を果たすべきであり、そして特定の細胞型または組織型に対してより大きい感受性を有し、そしてヒト特異的様式である毒性および疾患の機構を解明するために有用であるべきである。例えば、重要な代謝経路(本明細書中に示されるように、葉酸、グルタミン酸およびトリプトファンの合成および分解を含む)は、ヒトの発生の後期に対して初期において示差的に破壊され得る。さらに、神経前駆細胞または神経細胞集団の代謝産物プロフィールは、標的細胞型における神経発達障害のバイオマーカーを示し得る。メタボロミクスと幹細胞生物学との結び付きは、初期のヒト胚における葉酸の作用機構および神経管閉鎖不全を説明し得る。
【0041】
本発明のhESC依存的方法およびhESC由来系列特異的細胞依存的方法を使用して産生されるバイオマーカーポートフォリオはまた、薬物候補および薬物発見におけるリード化合物の前臨床的評価のためにハイスループットスクリーニング法において使用され得る。本発明の方法のこの局面は、現在の発生毒性学モデルと比較して、産業資源に対して最小の影響をもたらす。なぜならば、この技術の意図するものは、実験動物を必要としないからである。生産性に対して得られるポジティブな影響は、製薬産業における研究チームが、より大きい信頼および有害な発生上の作用に直面する危険性の減少を有する診査の開発へと、化合物を選択しそして進ませることを、可能にする。
【0042】
用語「発生経路」とは、本明細書中で使用される場合、胚および胎児の発生における発生の経路または代謝の経路をいう。
【0043】
「上清」とは、本明細書中で使用される場合、細胞外培地、共培養培地、細胞、あるいは分画された細胞または溶解された細胞の溶液であり得るが、これらに限定されない。
【0044】
毒素、催奇形物質、アルコール、および試験化合物の分析から得られた細胞代謝産物プロフィールは、バイオマーカーポートフォリオのライブラリーを構成するために使用され得る。次いで、これらのポートフォリオは、未知化合物の毒物学的な分析のための参照として使用され得る。同様のストラテジーが、非hESC系における化学物質に対する応答にて生じる細胞の変化を決定するための手段として確認されている(DastonおよびNacliff、2005、Reprod Toxicology 19:381−94;Fellaら、2005、Proteomics 5:1914−21)。新規化合物の代謝プロフィールは、毒性応答の一般的な機構を同定するために公知のバイオマーカーポートフォリオと比較され得る。このアプローチは、毒性応答の機能的マーカーを示し得る、この機能的マーカーは、種々の異なる毒性化合物および催奇形性化合物に対する曝露の結果として少なくとも部分的に共有されるスクリーニング分子として機能する。このようなhESC由来の低分子は、コストが掛かりかつ複雑なスクリーニング系(例えば、インビボ動物モデル)を洗練または置換し、そしてヒト細胞およびヒトの代謝経路および発生経路に特異的であることのさらなる利点を有する毒性応答の測定可能なメディエーターとして使用され得る。
【実施例】
【0045】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態、およびその種々の用途を示す。それらは、説明の目的でのみ示され、本発明を限定するものとして採用されるものではない。
【0046】
(実施例1)
(発生毒性のスクリーニング)
発生毒性試験のためのモデル系としてのhESCの効力を示すために、hESCを、公知の催奇形物質であるバルプロ酸塩(VPA)によって処理した。バルプロ酸塩は、癲癇および双極性障害の臨床適用を有する一般的な抗躁うつ病薬および抗痙攣薬であり(Williamsら、2001、Dev Med Child Neuro 43:202−6)、バルプロ酸塩は、発生の異常に関連する(Meadorら、2006、Neurology 67:407−412)。しかし、バルプロ酸塩が発生上の欠損をもたらす機構は、神経系の感受性の増大にかかわらず、完全に理解されていない(Bjerkedalら、1982、Lance 2:109:Wyszynskiら、2005、Neurology 64:961−5;Rasalamら、2005、Dev Med Child Neuro 47:551−555)。バルプロ酸塩に対する曝露は、一般集団の10〜20倍で二分脊椎および神経管閉鎖不全(NTD;Bjerkedalら、1982、Lancet 2:109)の明白な増大を引き起こし、そして認識障害(例えば、自閉症)(Adabら、2004、J Neurol Neurosurg Psychiatry 75:1575−83)を引き起こす。しかし、VPAは癲癇および双極性障害の臨床適用を有する抗痙攣薬である(Williamsら、2001、Dev Med Child Neurol 43:202−06)ので、処置は、一般に、妊娠全体にわたって持続されなければならない。
【0047】
妊娠前における葉酸の補充は、二分脊椎の発生数を70%減少させる(Shawら、1995、Epidemiology 6:219−226)が、その作用の正確な機構は、未知である。さらに、ホモシステインおよびグルタチオンはまた、NTDに関連している(Zhaoら、2006、Birth Defects Res A Clin Mol Teratol 76:230−6)。したがって、葉酸経路および関連する経路の代謝産物プロフィールは、バルプロ酸塩に対する応答の変化についての候補であった。本明細書中に示される結果において、葉酸は、バルプロ酸塩によって処理したhES細胞の細胞外培地で有意に増大(16%)する(8日間においてp=0.022、表3および図4)が、その誘導体のジヒドロフォレートは、増大しなかった。哺乳動物細胞は葉酸を合成しないので、バルプロ酸塩は細胞の葉酸取り込みを妨げることによって作用し得る。
【0048】
hESCの曝露を、以下の通りに行った。H1 hESC(継代41)を、Matrigel(BD Scientific、San Jose、CA)上で、支持細胞層の非存在下において培養した。hESCを、マウス胚性線維芽細胞(MEF)から回収した馴化培地(CM)(80% DMEM/F12、Invitrogen、Carlsbad、CA)ならびに1mM L−グルタミン(Invitrogen)、1% MEM非必須アミノ酸(Invitrogen)、および0.1mM 2−メルカプトエタノール(Sigma、Chemical Co.、St.Louis、MO)を補充した20% KNOCKOUT血清代替品(Invitrogen)において維持した。hESCを補給する前に、上記培養培地に、4ng/mLヒト組換え型線維芽細胞成長因子(Invitrogen)を補充した。hESCを、ウェルが約80%コンフルエント(confluent)である場合に継代した。継代のために、hESCを、1mg/mLディスパーゼ(Invitrogen)/DMEM/F12溶液中で7〜10分間にわたって37℃にてインキュベートした。この処理後、hESCを、洗浄し、そして新規のMatrigelコーティングしたプレートに接種した。本明細書中に開示される並行した研究において、H1細胞およびH9細胞を、TeSRとして公知である規定の培地(Ludwigら、2006、Id.)において培養した。
【0049】
H1 hESCおよびH9 hESC(NIHコードWA01/WA09と等しい)を、以下に概説される手順に従って、バルプロ酸塩(VPA)(22μMおよび1mM)(Sigma # P4543)処理した;各実験は、3回の別々のVPA処理を含み、そして各処理群は、1つの実験あたり合計で6個の6ウェル培養皿(Nunc、Naperville、IL)による並行したコントロール群(1回の処理あたり2個の6ウェル培養皿)を有した。処理1(24Hと標識した)は、hESC細胞を1mM VPA(Sigma)に24時間にわたって曝露し、次いで上清および細胞ペレットを回収した。第2の処理群(4Dと標識した)において、hESC細胞を、22μMまたは1mMのVPAに4日間にわたって曝露し、そして4日目に回収した。第3の処理群(延長した培養、ECと標識した)において、hESC細胞は、22μMまたは1mMのVPAを4日間にわたって受容し、次いで標準的なhESC培地においてさらに4日間にわたって培養を行った。この群に関して、細胞および上清を、8日目に回収した。
【0050】
hESCに対する催奇形性のVPA処理の作用を評価するために、上記処理細胞を、健康および疾患または損傷状態にしたがって細胞に存在する低分子の全動的セットの変化を決定するために、以下に示されるように分析した。低分子(糖、有機酸、アミノ酸、脂肪酸、ホルモン、ビタミン、オリゴペプチド(約100アミノ酸長未満)、ならびにそのイオン性フラグメントならびにシグナル伝達低分子量化合物が挙げられるが、これらに限定されない)は、病理学的または化学的な損傷に対する細胞応答の機能的機構に関与し、そしてそれらを示すことが公知であった。これらの分析をまた、他の分析(例えば、トランスクリプトミクスおよびプロテオミクスが挙げられる)によって予測される分子変化後の活性な経路を同定するために使用した。
【0051】
VPA処理hESCおよびコントロールhESC由来の上清を、液体クロマトグラフィおよびエレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析(LC/ESI−TOF−MS)に供して、VPA処理の存在下および非存在下において細胞によって産生される低分子(本明細書中で定義される通り)の変化および違いを評価した。上清を、24H、4D、および8DにてhESCのコントロールプレートおよび処理したプレートから回収し、そしてCMを、「非処理」コントロールとして回収した。上清および培地を、質量分析のための調製まで−80℃にて保存した。分析のために、サンプルを、20%アセトニトリル(Fisher Scientific Co.、Pittsburgh、PA)溶液(500μLの上清、400μLのアセトニトリルおよび1.1mLの蒸留水を含む)において調製し、そしてMillipore 3kDa Centriconカラム(Millipore、Billerica、MA)を介して3時間にわたって4575×gで遠心分離して、タンパク質を除去した。フロースルーを、それが高分子量化合物(例えば、タンパク質)を含まずに低分子を含む場合、分析のために保持した。各分析において、各サンプルに対する3つの複製物を、40μL/分の流速にて5%のアセトニトリル、95%の水、0.1%の葉酸から100%のアセトニトリル、0.1%の葉酸までの90分間の勾配を使用して、2.1×200mm C18カラムに注入した。ESI−TOF−MS(TOF)を、Agilent ESI−TOF質量分析器を使用してフロースルーに対して行った。データを、100〜3600 m/zから収集し、そして特に、0〜1500 m/zの範囲において収集した。生データを、分離された低分子を同定するために、製造業者によって提供されるコンピューターによる編集および分析プログラム(Mass
Hunter)を使用し、そして製造業者の指示書に従って分析した(Agilent;統計分析を、詳細な説明および好ましい実施形態において上で記載した通りに行った)。この分析は、保持時間/正確な質量対の特徴のリストをもたらした。別のプログラム(Mass Profiler、Agilent)を、複数の実行セットを比較して、サンプル条件の間に変化したイオン強度の変化の特徴を見出すために使用した。有意性の検定を、各時点において処理培地および未処理培地に存在する特有の化合物の2を底とする対数で変換した存在量の値に対してANOVAを行うことによって判定した。
【0052】
次いで、これらの方法を使用して同定された複数種の低分子を、公のデータベース(例えば、http://metlin.scripps.edu.,www.nist.gov/srd/chemistry.htm;http://www.metabolomics.ca/におけるもの)を使用してESI−TOF−MSからの正確な質量および保持時間と比較した。質量分析はまた、正確な質量に基づいて低分子の予測される化学構造を含んだが、現在利用可能な公のデータベースは、データベースの制限に起因して全ての場合において、一致する低分子を含まない。さらに、より包括的な私有のデータベース(例えば、NIST/EPA/NIH Mass Spectral Library:05.NIST ASCII Version)が、比較分析のために利用可能である。
【0053】
これらの分析の結果を、図1A〜1Cおよび図2A〜2Cに示す。図1A〜1Cにおいて、プロットの各特徴は、特定の正確な質量および保持時間を有する低分子に対応する。そのプロットは、異なる時点における処理(青色)群と未処理(赤色)群との間で見出された有意差を要約する。その図において示される通り、24時間(24H)にて、未処理(赤色)コントロールと比較して、処理(青色)細胞において分泌された生体分子の一貫したダウンレギュレーションが存在する。4日間(4D)および8日間(EC)にて、処理(青色)細胞は、未処理細胞(赤色)と比較して、より多くの低分子を分泌し;したがって、その低分子を、候補バイオマーカーと見なした。特に、葉酸経路からの代謝産物(テトラヒドロフォレート(正確な質量444)およびジヒドロフォレート(正確な質量441)を含む)を、検出した。これらの知見は、重要であると考えられた。なぜならば、それらは、出生時欠損(二分脊椎)を引き起こす公知の催奇形物質(VPA)と接触させたhESCが、発生中の胚または胎児を有する女性に投与した場合に催奇形物質の作用を改善することが公知である化合物(フォレート)を産生する代謝経路をアップレギュレートすることによって応答することをはじめて示すからである。
【0054】
さらに、図1A〜1Cに示される結果は、処理群において存在しない約40種の低分子を示し、このことは、複数の細胞経路が、未処理のコントロールと比較して、24時間にてVPAに対する応答において「静められた(silenced)」ことを示唆する。処理後の4日間および8日間において、しかし、複数の候補バイオマーカーが、処理したヒト胚性幹細胞 対 未処理のヒト胚性幹細胞においてアップレギュレートされた;これらの結果を、表1に示す。候補バイオマーカーを、少なくとも2倍の差として測定された処理細胞 対 未処理細胞における変化を示す低分子として同定した。多くの場合において、これらの低分子は、未処理のヒト胚性幹細胞において、存在しないか、または非常に低濃度で検出される。
【0055】
これらの研究は、発生毒性を評価するための特許請求の方法およびhESCを使用したバイオマーカーの同定が公知の催奇形物質であるVPAとの接触に対する応答における細胞の低分子含有量の変化について強固な情報を提供したことを示した。二分脊椎および神経管閉鎖不全(NTD)(Bjerkedalら、1982、Lancet 2:109)の病因に関与する化合物(VPA)に関する結果は、発生中のヒト受胎産物に曝露した場合、特に著しい。ここで示した結果は、VPAによる処理後に、(未処理細胞と比較して)葉酸経路の重要な代謝産物(ジヒドロ葉酸、テトラヒドロ葉酸、S−アデノシルメチオニン)の顕著な増大(2倍〜8倍)を示した。これらの方法は、再現可能であり、hESCを使用した3つの独立した研究において得られた一貫した結果およびコントロールとしての非胚細胞(ヒト線維芽細胞)の結果(データ示さず)を伴って反復され、そして化学的/環境的損傷に対する胎児のこれまでに未知の適応応答を示唆し、そしてその損傷についての感受性マーカーを同定した。
【0056】
しかし、VPAによる発生上の欠損についての機構は、神経系がその作用に対して特に感受性であるという事実(Bjerkedalら、1982、Lancet 2:109;Naritaら、2000、Pediatric Res 52:576−79;Rasalamら、2005、Dev Med Child Neurol 47:551−55)にかかわらず、十分に理解されていない。妊娠前における葉酸の補給は、二分脊椎の発生数を70%予防する(Shawら、1995、Epidemiology 6:219−226)が、作用の正確な機構はまた、未知である。ここで得られた情報は、初期のヒト胚における葉酸の作用機構および神経管閉鎖不全を解明するために使用され得る。これらの方法はまた、本発明の方法を使用するhESCの予測能力を検証するために、レチノイン酸、ワルファリン、およびサリドマイドなどの他の公知である催奇形物質(Franksら、2004、Lancet 363:1802−11)に適用され得る。
【0057】
(表1:未処理のコントロールとの比較における、1mMバルプロ酸塩によって処理された未分化ヒト胚性幹細胞において検出された発生毒性の候補低分子(バイオマーカー))
【0058】
【表1】

RT=保持時間
低分子の検出を、独立して処理した上清の三連のサンプルにおいてLC/ESI−TOF−MSによって行った。
【0059】
上記で考察した通り、代謝産物プロフィールを、バルプロ酸塩処理の24時間後、4日後および8日後において決定した。処理後の4日間おいて、複数の候補バイオマーカーが、処理したヒト胚性幹細胞 対 未処理のヒト胚性幹細胞においてアップレギュレートされた(図2A〜2Cに示す)。特定の代謝産物のレベルの増大に関して上に示された結果に加えて、複数の代謝産物ピークが、未処理のコントロールと比較して、24時間でのバルプロ酸塩に対する応答においてダウンレギュレートされた(図2A〜2C)。
【0060】
hESCを、3241種の測定された化合物のうちの1277種を産生したマウス胚性線維芽細胞からの馴化培地において培養した。ヒトの発生および疾患における多くの代謝産物は、共通の代謝経路に起因して、マウス胚性線維芽細胞からの馴化培地に存在するようである。厳密な調査が、hESCだけに限定されず、そしてまた培地にも存在する候補バイオマーカーを検証するために必要とされる。
【0061】
(実施例2)
(遺伝子発現分析)
実施例1に示す分析の効力を、遺伝子発現研究によって確認し、遺伝子発現の変化が、hESCのVPA処理後に観察された。VPA処理は、hESCにとって有害でなく、そのhESCは、催奇形物質曝露後の複数回の継代にわたって生存可能なままであり、したがって遺伝子発現分析を行えるようにした。
【0062】
処理およびコントロールのH1/NIHコードWA01 hES細胞(継代41)を、リアルタイムPCRによって分析し、そして各処理群を、VPAを伴わないCM+bFGFの標準的な増殖培地条件を受容した対応するコントロール群と対にした。これらの研究において、全細胞RNAを、24時間(24H)、4日目(4D)および8日目(EC)にて回収した細胞から、製造業者の指示書に従ってRNA Easy Kit(Qiagen、Valencia、CA)を使用して抽出した。
【0063】
候補試験遺伝子の発現レベルおよびハウスキーピング遺伝子の発現レベル(β−2−ミクログロブリン)を、DNA Engine-Opticon 2 Detection
System(MJ Research、Watertown、MA)を使用した定量的リアルタイムPCRによって評価した。ハウスキーピング遺伝子は、RNAレベルの正規化のための内部コントロールとして機能する。リアルタイムPCR反応のために使用したプライマーを、Beacon Designerソフトウェア(Premier Biosoft International、Palo Alto、CA)を使用して設計した。RNAを、iScript cDNA Synthesisキット(Bio−Rad、Hercules、CA)を使用して逆転写し、各cDNA合成反応(20μL)は、4μLの5×iScript反応ミックス、1μLのiScript逆転写酵素、および2μLのRNAを含んだ。PCRを、12.5μLのSupermix(dNTP、Taq DNAポリメラーゼ、SYBR Green I、およびフルオレセインを含む)、250nMの順方向プライマー、250nMの逆方向プライマー、および1.6μLのRT−PCR産物をそれぞれ含むPCR反応混合物(25μL)においてcDNAに対して行った。融解曲線分析およびアガロースゲル電気泳動を、PCR特異性をモニタリングするためにリアルタイムPCR反応後に行い、PCR産物を、iQ SYBR Green Supermixキット(Bio−Rad)を使用するSYBR Green Iによって検出した。
【0064】
リアルタイムPCRの相対的発現の定量を、2−ΔΔCt法(LivakおよびSchmittgen、2001、Methods 25:402−8)を使用して行い、そして一般的な線形モデルを、発現データをフィットするために使用した。SAS(バージョン8.2;SAS Institute、Cary、NC)におけるPROC GLM手順を使用して、処理hESCと未処理hESCとの間の発現における最小二乗平均を推定し、そしてP<0.05を、統計的に有意であると見なした。
【0065】
リアルタイムPCRを、VPA処理の24時間後(24H)、4日後(4D)および8日後(EC)のサンプルに対して実施して、ヒト胚性幹細胞における後成的調節因子(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ−1、DNMT−1、BMI−1、EED)ならびに胚パターン形成および神経発生を担う重要な転写因子(RUNX2、BMP7、FGF8、CBX2、GLI3、SSHおよびSP8)の発現レベルを調査した。これらの実験は、VPAによって処理したhESCが催奇形物質処理後のそれらの転写活性の顕著な変化を受けたことを示した。VPAは、試験した全ての遺伝子(DNMT−1およびShhを除く)において早ければ曝露後24時間で全体的に顕著(2倍〜30倍)な転写レベルのダウンレギュレーションを誘導した。しかし、処置の4日後において、偏在するDNAメチルトランスフェラーゼ−1の発現は、ほぼ廃絶され、そしてソニックヘッジホッグ(神経発生にきわめて重要である(Yeら、1998、Cell 93:755−66))は、未処理のコントロールと比較して、5倍ダウンギュレートされた。VPA処理の8日後において、上記遺伝子の大部分は、未処理のコントロールと比較してアップレギュレートされた。
【0066】
これらの結果は、発生毒性学に対する2つの主要な影響を具体化した。第1に、VPAは、他の組織の分化にも関与する重要な後成的モジュレーター(例えば、DNMT−1およびポリコームファミリーメンバーEED)の持続的な変化を誘導した。第2に、催奇形物質の作用は、神経発生および器官形成の重要な段階の間においてhESC中で持続した。例えば、その発現が本明細書中に示されるように影響を受ける遺伝子(ソニックヘッジホッグおよびFGF−8を含む)は、脳におけるセロトニン作動性ニューロンの分化の主調節因子であることが公知である(Yeら、1998、Cell 93:755−66)。特に注目すべきことは、DNMT−1発現が処置の4日間後においてほぼ廃絶されるという事実である。インビボで、この酵素の破壊は、胚に対して致死的である。なぜならば、DNMT−1が、DNA複製の間の主要な維持(maintenance)メチルトランスフェラーゼであるからである(Liら、1992、Cell 69:915−26)。
【0067】
催奇形物質曝露後に、発生遺伝子発現の時間特異的変化が、観察された。発生遺伝子は、異なる時間における催奇形物質に対するそれらの感受性の点で異なる。この表示は、特定の器官または組織に対する後成的撹乱因子の特異性の理解に重要であり得る。RUNX2は、例えば、骨発生の転写活性化因子であり(Napieralaら、2005、Mol Genet Metab 86:257−68)、そして曝露後の非常に初期または後期においてVPA媒介性アップレギュレーションに対してより感受性である。本明細書に開示されるhESCからのリアルタイムPCR結果は、マウス(Okadaら、2004、Birth Defects Res A Clin Mol Teratol 70:870−879)およびラット(Miyazakiら、2005、Int J Devl Neuroscience 23:287−97)におけるインビボでの以前の知見と相関した。これらの動物研究において、VPAは、ポリコーム遺伝子、Eed、Bmi1およびCbx2の発現を阻害し、そしてFGF8レベルが変化しないままでShhのダウンレギュレーションを誘導した。VPA処理の4日後におけるここで示した結果(表2)は、他の発生モデル系を使用したこれらの観察と一致した。
【0068】
(表2:1mM VPA処理は、胚パターン形成およびニューロンの分化に重要である後成的調節因子および発生遺伝子の発現の顕著な変化をもたらした)
【0069】
【表2】

遺伝子発現レベルは、ハウスキーピング遺伝子(標的遺伝子/β−2−ミクログロブリン)と相対的である。
【0070】
(実施例3)
(ヒト胚性幹細胞メタボローム)
催奇形物質曝露後の代謝産物プロフィール
催奇形物質であるバルプロ酸塩に対するhES細胞の曝露は、妊娠および発生の間の重要な経路を含む異なる代謝経路における有意な変化を誘導した。妊娠の間に活性化された代替的な代謝経路を、図5に示し、トリプトファンが、キヌレニンに変換される。本発明のこの局面を調査するために、hESCを、実施例1に記載したように培養し、そしてバルプロ酸塩処理の手順を、そこに記載したように行った。処理1(24時間)は、hES細胞を22μMバルプロ酸塩に24時間にわたって曝露し、次いで上清および細胞ペレットを回収した。第2の処理群(4日間)において、hESC細胞を、22μMのVPAに4日間にわたって曝露し、そして4日目に回収した。第3の処理群または延長した培養(EC、8日間)において、hESC細胞は、バルプロ酸塩を4日間にわたって受容し、次いで標準的なhES細胞培地においてさらに4日間にわたって培養を行った。細胞および上清を、8日目に回収した。各処理は、1つの実験あたり合計で6個の6ウェル培養皿による並行したコントロール群(1回の処理あたり2個の6ウェル培養皿)を有した。
【0071】
メタボローム分析を、実施例1に記載したように行った(WuおよびMcAllister、2003、J Mass Spectrom 38:1043−53)。複合混合物を、この実施例および実施例1に記載した方法に従ってエレクトロスプレーイオン化(ESI)飛行時間型(TOF) 質量分析の前に液体クロマトグラフィ(LC)によって分離した。Mass Hunter(Agilent)ソフトウェアを、適用して、データをデコンボリューションし、そして各質量の存在量を決定した。データを、0〜1500のm/z範囲を使用して全体の質量スペクトルから抽出し、そして各サンプルからの最も大量の質量ピークの上位200万を、データのデコンボリューションのために使用した。最小のシグナルノイズ比を、5に設定した。0.1%よりも多い最小の相対的存在量を有する質量を、Mass Hunterソフトウェアからエクスポートし、そしてさらなる分析のために使用した。
【0072】
22μMバルプロ酸塩によって処理したhESCは、42回の注入で3,241種の検出された質量シグナルを生じた。これらの実験において検出された合計で3,241種の質量シグナルのうち、1,963種の化合物が、hES細胞において専ら測定され、そして1、278種の化合物がまた、馴化培地に存在した;これらのうちの443種が、42回の注入のうちの1回において測定されただけであった。110種の化合物(3%)は、コントロールと比較して、バルプロ酸塩処理hESCにおいて少なくとも1種の時点で統計的に有意な差を有した。7倍〜13倍の高さの変化倍率が、バルプロ酸塩処理後に測定されたが、これらの質量シグナルは、実験にわたって高い変動性を示した。1mM VPAによる細胞の処理および22μM VPAによる細胞の処理後に同定された代表的な質量を、それぞれ、表3および表4に要約する。いくつかのピーク(1,963)が、hES細胞において検出されたが、馴化培地においては検出されなかった。これらの低分子のうちの1つは、キヌレニン(妊娠および免疫応答の間に活性化される代替的なトリプトファン代謝経路によって産生される化合物)であった。キヌレニンのレベルは、バルプロ酸塩処理後に44%増大した(4日間にてp値=0.004、表5)。キヌレニンは、hES細胞において専ら検出され、そして馴化培地には存在しなかった。このピークの化学的同一性を、化学物質の標準の存在下における比較質量分析によって確認した(図4)。
【0073】
これらの実験の結果は、キヌレニンが神経発達障害(特に、抗癲癇薬(例えば、VPA)に対するヒト胚の曝露によってもたらされるもの)についての候補バイオマーカーであること(Ornoyら、2006、Reproductive Toxicol 21:399−409)を示唆した。Strikingly、最近の研究は、キヌレニン代謝が抗癲癇薬の作用機構についての新規標的であり得ること(Kockiら、2006、Eur J Pharmacol 542:147−51)を示唆している。認識障害および行動障害は、妊娠の間における抗癲癇剤曝露の公知である有害作用である。トリプトファンは、セロトニン(これらの病因および他の疾患(例えば、抑うつ)における重要な神経伝達物質)の前駆体である。さらに、キヌレニンの血漿レベルの増大は、産後抑うつに関連している(Kohlら、2005、J Affect Disord 86:135−42)。本明細書で検出されたトリプトファン代謝の変化は、自閉症などのセロトニン関連性行動障害(Chugani、2004、Ment Retard Dev Disabil Res Rev 10:112−116)の病因における新規機構を調べるための手段である。発生の間におけるキヌレニンレベルの増大は、トリプトファン、したがってセロトニンのバイオアベイラビリティを減少させ、認識機能不全をもたらし得る。
【0074】
グルタメートおよびピログルタミン酸もまた、バルプロ酸塩によって処理したhESCにおいて上昇した。グルタメートおよびピログルタミン酸は、バルプロ酸塩に対する応答において上昇した(それぞれ、20%および27%)が、ピログルタミン酸のみが、統計的に有意な変化を示した(4日間にてp=0.021、図3A〜3D)。グルタチオン(GSH)は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼによってグルタメート(NMDAレセプターの神経伝達物質)およびシステイニルグリシン(Cys−Gly)へと代謝される。グルタチオン(正確な中性質量612.15)およびS−アデノシル−ホモシステイン(正確な中性質量384.12)が、他の質量シグナルと比較して、非常に低いレベルで検出された(データ示さず)。低いレベルの検出についてのこれらの実験に関して、低分子を、異なる濃度で馴化培地中に「スパイク(spike)」された化学物質の標準を用いた比較ESI−TOF−MSによって同定し、そして実験の質量シグナルの正確な中性質量および保持時間を確認した(図3A〜3D)。ESI−TOF−MSによってもたらされた正確な中性質量および/または実験的化学式を、候補化合物について公のデータベース(例えば、http://metlin.scripps.edu.,www.nist.gov/srd/chemistry.htm、www.metabolomics.caが挙げられる)において検索した。
【0075】
これらの結果は、バルプロ酸塩が発生中のヒト胚においてグルタミン酸合成経路に影響を及ぼすことを示唆した。グルタメート標的に対する抗癲癇薬の親和性は、以前に示唆されている(RogawskiおよびLoscher、2004、Nat Rev Neurosci 2004 5:553−64)。異常なレベルのグルタミン酸代謝産物が、その女性の乳児が核磁気共鳴(NMR)によって二分脊椎(Groenenら、2004、Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol.;112:16−23)と診断された妊娠中の女性の母体血清および羊水において測定された。グルタメートおよびヒドロキシプロリンのレベルは、NTDにおいて有意に高く、そして結果として、本明細書中で提供されるhESC方法は、発生のインビボでの変化のモデルに頑健な情報資源を提供する。
【0076】
(表5.処理の24時間後(24h)、4日後(4D)、および8日後(8D)でのバルプロ酸塩によって処理したhES細胞 対 未処理のコントロールおける4種の化合物の代謝プロフィールの変化)
【0077】
【表5】

RT=保持時間
変化倍率を、バルプロ酸塩処理hES細胞および未処理hES細胞の最小二乗平均の%の違いとして示す。p値を、ANOVAによって決定した。質量は、ESI−TOF−MSによって検出した平均中性質量であり、そしてRTは、分子が溶出した平均保持時間である。0.05未満のp値は太字である。
【0078】
(実施例4)
(キヌレニン:発生毒性およびCNS障害の診断および処置のためのバイオマーカー)
キヌレニンは、バルプロ酸塩処理hES細胞において検出されることが実施例3に示された。キヌレニン(グルタメートおよびピログルタミン酸と一緒に)は、バルプロ酸塩処理ヒト胚性幹細胞(hES) 対 コントロールにおいて示差的に産生された。キヌレニンは、化学物質の乳児における神経発達障害およびインビトロ発生毒性の同定のために有用な新規バイオマーカーである。この実施例は、神経発達障害についてのバイオマーカー(催奇形物質処理hESCにおいて示差的に産生される細胞産物を含む)の同定を記載する。
【0079】
アミノ酸のトリプトファン(TRP)は、神経伝達物質セロトニン(抑うつ、神経変性および認識障害などの多数のCNS障害の重要なメディエーター)の前駆体である。キヌレン酸へのトリプトファンの異化は、炎症応答または妊娠などの特定の状況において活性化されるトリプトファン代謝の代替経路である(図5)。キヌレニン経路のアップレギュレーションは、統合失調症および双極性障害などの成人疾患における精神病と相関し、経路中間体のレベルの増大が精神病性の特徴を誘発し得ることを示す(Millerら、2006、Brain Res 16:25−37)。重要なことには、キヌレニン経路を使用する代謝は、セロトニン経路を使用するトリプトファン代謝の減少によって達成される(外因性のトリプトファン(ヒトを含む哺乳動物によって合成されない必須アミノ酸)の非存在下において)。発生の間におけるキヌレニンレベルの増大は、トリプトファン、したがってセロトニンのバイオアベイラビリティを減少させ、認識機能不全をもたらし得る。
【0080】
さらに、キヌレン酸(KYNA)(このトリプトファン代謝経路の最終産物のうちの1つ)は、グルタメート神経伝達およびN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)レセプターのアンタゴニストである。最近の研究は、キヌレン酸が以前のオーファンGPCRレセプターGPR35の活性化におけるその役割によって薬物となり得る(druggable)標的であることを示している(Wangら、2006、J Biol Chem
281:22021−8)。キノリン酸(QUIN)(上記経路の別の最終産物(図5))および3−ヒドロキシ−キヌレニン(中間体)は、神経毒性因子として作用する(Guilleminら、2005、J Neuroinflammation 26:16;Chiaruguiら、2001、J Neurochem 77:1310−8)。QUINは、アルツハイマー病の病因に関与し、その神経毒性は、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)レセプター複合体(グルタミン酸レセプターの型)と相互作用することによって炎症の増大および痙攣に関与し得る(Guilleminら、2002、J Neuroinflammation 26:16、;Nemethら、2005、Curr Neurovasc Res 2:249−60)。キヌレニン(KYN)(別の経路中間体)は、脳において合成され、そして血液−脳関門を横切って輸送される(Nemethら、2005、Curr Neurovasc Res 2:249−60)。KYNは、神経毒性のキノリン酸(QUIN)および神経保護性のキヌレン酸(KYNA)へと代謝される(図5)。KYNの血清レベルの増大は、産後障害などの異なる病因(Kohlら、2005、J Affect Disord 86:135−42)およびインターフェロン−α処理(Capuronら、2003、Biol Psychiatry 54:906−14)による抑うつの臨床的発現に相関している。
【0081】
バルプロ酸塩(ヒトの発生の撹乱因子)に対するhES細胞の曝露は、キヌレニン(正確な中性質量208.08)の産生を含む異なる代謝経路の有意な変化を誘導し、キヌレニンは、実施例4に記載したように液体クロマトグラフィエレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析(LC/ESI−TOF−MS)によって検出したところバルプロ酸塩に対する応答において有意にアップレギュレートされた。さらに、328.058、336.163、343.080の正確な中性質量を有する新規の化学的実体が、検出され、そしてそれは、依然として公のデータベースにおいてカタログ作成されていない。
【0082】
hESCに由来する神経前駆体を1mMバルプロ酸塩に曝露した場合、セロトニン(176.0946)およびインドールアセトアルデヒド(159.0689)の両方の顕著な減少、モノアミンオキシダーゼ(monoaminoxoidase)活性(MAO)によって産生されるセロトニンの下流の副産物が、観察された(表6)。グルタメートおよびピログルタミン酸またはヒドロキシプロリン(p=0.021)はまた、バルプロ酸塩によって処理したhES細胞において上昇した。これらの結果は、バルプロ酸塩が発生中のヒト胚においてグルタミン酸合成経路に影響を及ぼすことを示唆する。この知見は、インビボの神経生理学を模倣し、ここでキヌレニン経路からの化合物は、NMDAグルタミン酸レセプターにて活性を調節し、そして痙攣を含む癲癇の表現型をもたらす(PerkinsおよびStone、1982、Brain Res 247:184−187.)。
【0083】
本明細書におけるキヌレニンの同定の結果として、キヌレニン合成の化学的インヒビターは、気分の障害における新規の治療剤として使用され得る;例えば、インドールアミン
2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)活性またはトリプトファン(TRP)をキヌレニン(KYN)に変換するキヌレニンホルミラーゼ活性と拮抗する低分子。KYNへのTRPの異化の阻害は、キヌレニン経路によるこの神経伝達物質の上昇した合成または減少した枯渇を介してセロトニンレベルを増大させることによって認識障害および神経変性障害において疾患の症状を改善するために使用され得る。
【0084】
まとめると、バルプロ酸塩に対する応答においてhES細胞で検出された代謝産物の変化は、葉酸経路、キヌレニン経路およびグルタミン酸経路に、機能的に集中する。図6は、22,573の特有の質量に由来する変化倍率の違いの階層的クラスター化を示す。上述の経路における変化は、1mM VPA処理hESC、およびhESCから産生された神経前駆体の複数の独立した研究において、一貫しており、かつ再現可能であった(図6)。
【0085】
(実施例5)
(キヌレニン経路の遺伝子発現分析)
実施例4における分析の効力を、遺伝子発現の変化をhESCのVPA処理後に観察した遺伝子発現研究によって確認した。ヒト胚性幹細胞のバルプロ酸塩処理は、低分子キヌレニン(トリプトファンの異化における中間体代謝産物)の顕著なアップレギュレーションを誘導した。トリプトファンは、神経伝達物質セロトニン(5HT)の前駆体である。したがって、キヌレニンへのトリプトファンの代謝およびその反対の経路(セロトニン合成)における酵素の発現がヒト胚性幹細胞において変化したか否かを、キヌレニン経路の機構的特性およびバルプロ酸塩に対するその応答を試験するために調べた。
【0086】
1mMバルプロ酸塩によって処理したヒト胚性幹細胞および未処理のコントロールを、処理の4日後に回収し、そしてRNeasy(Qiagen)を使用するRNAの単離の前に−80℃で保存した。5μgのRNAテンプレートを、逆転写し、そして以下の遺伝子の転写されたヒト配列について設計したプライマーを使用して、製造業者の指示書に従って増幅した(QIAGEN OneStep RT−PCR):INDO、インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ、TDOまたはTDO2、トリプトファン2,3−ジオキシゲナーゼ、AFMID、アリールホルムアミダーゼ、TPH1、トリプトファンヒドロキシラーゼ(セロトニン生合成における律速酵素)、AADAT、アミノアジピン酸アミノトランスフェラーゼ、KYNU、キヌレニナーゼ、KMO、キヌレニン3−モノオキシゲナーゼ、GAPDH、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ。
【0087】
この研究の結果は、キヌレニン経路およびセロトニン合成における酵素の大部分が1mMバルプロ酸塩によるhES細胞の処理の4日後においてhES細胞中で発現したことを示した(図7)。インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ(INDO)は、トリプトファンをキヌレニン経路へと異化し、そして最終産物としてキヌレニンを産生する。トリプトファン2,3ジオキシゲナーゼ(TDOまたはTDO2)の発現もまた、試験した。TDO2は、INDOと同様に、キヌレニン経路の最初の工程を触媒する。これらのデータは、TDO2発現が未処理のコントロールと比較してバルプロ酸塩によって処理したhES細胞においてアップレギュレートされたことを示唆した。5HT合成における律速酵素(TPH1)もまた、hES細胞において発現された(図7)。これらの酵素の発現は、hES細胞がトリプトファン異化およびセロトニン合成の代謝経路を再現するという結論を支持した。興味深いことに、VPAは、この経路における律速酵素の明白な発現を誘導した。
【0088】
(実施例6)
(出生前のアルコール曝露についての発生毒性学スクリーニング)
アルコールに対する応答において示差的に分泌される代謝産物、および胎児アルコール症候群に関与する経路を同定するために、ヒト胚性幹細胞を、0%エタノール、0.1%エタノールおよび0.3%エタノールによって4日間にわたって処理し、次いで実施例1においてバルプロ酸塩について上で記載した一般的な方法に従ってLC/ESI−TOF質量分析を行った。細胞外培地を、回収し、そして上記処理の24時間後および4日後に処理し、そして49,481種の質量シグナルが、3回の技術的な複製後に検出された。49,481種の質量シグナルのうち、1,860種の化合物が、少なくとも1回の処理において有意(p<0.05)に異なり、そして有意な時間変化(<1または>1)を有した(表7)。ビニングした質量は、中性質量をいくつかの異なるデータベースにおいて検索することによってインシリコで注釈をつけられた。これらのデータベースは、Metlin、Biological Magnetic Resonance Data Bank(BMRB)、NIST Chemistry WebBook、およびHuman Metabolome Databaseを含んだ。質量を、その中性質量が上記に列挙したデータベースのうちの1つにおいて注釈をつけられた公知の化合物の10ppm以内であった場合、同定されたと見なした。
【0089】
推定上のキヌレニン化合物(測定された正確な中性質量208.0816)は、両方の処理(それぞれ、0.1%、p=0.001および0.3%、p=0.002)において、4日目にて3倍アップレギュレートされたが、24時間ではアップレギュレートされなかった。キヌレニン経路における別の推定上の代謝産物(8−メトキシキヌレネート(219.0532))もまた、0.1%アルコール処理および0.3%アルコール処理に対する応答の両方において4日間にてアップレギュレートされた(p<0.05)。上記分析はまた、未処理のコントロールと比較して、0.3%アルコール処理の4日後における5−ヒドロキシ−L−トリプトファン(220.0848)の有意なダウンレギュレーションを検出した(p<0.05)。5−ヒドロキシ−L−トリプトファンは、トリプトファンとセロトニンとの間における唯一の中間体代謝産物であり、そしてその合成は、トリプトファンヒドロキシラーゼ(セロトニン合成における律速酵素)によって媒介される。これらの結果は、ヒトの発生の間におけるアルコール曝露が、キヌレニンへのトリプトファンの異化のアップレギュレーションに起因してセロトニンのバイオアベイラビリティに影響を及ぼし得ることを、示唆する。さらに、アルコール曝露は、神経発生に関与する代謝経路および低分子(例えば、グルタメート、ガバペンチン、アドレナリンおよびグルタチオン)の有意な変化を誘導した。
【0090】
(実施例7)
(神経前駆細胞の発生毒性学スクリーニング)
胚の発生に対する催奇形物質のメタボロミクス評価は、専らhESCに限定されない。本発明の方法はまた、他の先祖幹細胞(神経前駆細胞などの系列制限性幹細胞を含む)に関して有用である。系列特異的幹細胞に対する毒性学スクリーニングの効力を示すために、hESCに由来するニューロン前駆体を、実施例1に記載した方法に従って1mMバルプロ酸塩によって処理した。
【0091】
約135種の化合物が、VPA処理ニューロン前駆体 対 コントロールにおいて示差的に分泌された。(表6を参照のこと)。この研究の結果は、本発明の方法が催奇形物質曝露に対する応答における系列特異的幹細胞の代謝プロフィールの変化を表すことを示した。
【0092】
本明細書に開示される結果を、以下の表に示す。
【0093】
【表3−1】

【0094】
【表3−2】

【0095】
【表3−3】

【0096】
【表3−4】

【0097】
【表3−5】

【0098】
【表3−6】

【0099】
【表3−7】

【0100】
【表3−8】

【0101】
【表4−1】

【0102】
【表4−2】

【0103】
【表4−3】

【0104】
【表6−1】

【0105】
【表6−2】

【0106】
【表6−3】

【0107】
【表6−4】

【0108】
【表6−5】

【0109】
【表6−6】

【0110】
【表6−7】

【0111】
【表6−8】

【0112】
【表6−9】

【0113】
【表7−1】

【0114】
【表7−2】

【0115】
【表7−3】

【0116】
【表7−4】

【0117】
【表7−5】

【0118】
【表7−6】

【0119】
【表7−7】

【0120】
【表7−8】

【0121】
【表7−9】

【0122】
【表7−10】

【0123】
【表7−11】

【0124】
【表7−12】

【0125】
【表7−13】

【0126】
【表7−14】

本明細書中に引用された全ての参考文献は、参考として援用される。さらに、本発明は、本発明の開示された実施形態に限定されることが意図されない。上記の開示は本発明のある特定の実施形態を強調することおよびそれと等しい全ての改変または代替は添付の特許請求の範囲に示されるような本発明の精神および範囲にあることが、理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図7】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−78342(P2013−78342A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−18358(P2013−18358)
【出願日】平成25年2月1日(2013.2.1)
【分割の表示】特願2009−505452(P2009−505452)の分割
【原出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(506223510)ウィスコンシン・アルムニ・リサーチ・ファウンデーション (11)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】