説明

ヒト血液型試薬

【課題】ブナシメジから精製されるAGLを生理活性物質として有効活用することにある。
【解決手段】第1の本発明に係る、ブナシメジから精製される構造式:Ga1α1−3(Fucα1−2)Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cerから成るB型糖脂質のマイコグリコリピドは、Ga1α1−3(Fucα1−2)Ga1の構造式を有しており、この構造式はB型抗原構造で、ヒト血液型判定の試薬として安価に利用することができ、ブナシメジのマイコグリコリピドの有効活用ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト血液型試薬に関し、詳しくは、キノコ、特にブナシメジから精製されるマイコグリコリピド(AGLと略す。キノコの酸性糖脂質あるいはイノシトールリン酸性糖脂質とも称される。)を類似ヒト血液型抗原として使用するヒト血液型試薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な高齢化社会の進展と食生活の変化による生活習慣病の増加は、健康への関心を高め、キノコの生理活性が注目されている。
キノコは生活習慣病を始めとして癌や慢性関節リュウマチ、アトピー性皮膚炎などの疾病に効果があるとされ、食用キノコに含まれる新たな有用物質の探索やその生理活性に興味を持たれている。
【0003】
特にキノコのAGLの生理活性としては、イノシトールリン酸セラミド型の糖脂質がマウスへの免疫実験において、毒性のない良好なアジュバンド活性を有することやヒトや動物の血清中に一部のイノシトールリン酸セラミド型糖脂質を認識する抗体が存在することなどが報告されている。
【0004】
キノコの中でもブナシメジには、特にAGLが多く含まれ、このブナシメジから精製されるAGLの有効活用が望まれる。
【0005】
本発明者は、このブナシメジから精製されるAGLにつき、更に鋭意検討研究した結果、このAGLの有効活用方法を明らかにした。
【特許文献1】特開2001−89494号公報
【特許文献2】特開2004−166646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ブナシメジから精製されるAGLを生理活性物質として有効活用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ブナシメジに含まれるマイコグリコリピドに含有される化合物について、鋭意検討を重ねた結果、ヒト血液型O型抗原構造、B型抗原構造、A型抗原構造を有することを見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0008】
第1の本発明に係る、ブナシメジから精製される構造式:Ga1α1−3(Fucα1−2)Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cerから成るB型糖脂質のマイコグリコリピドは、Ga1α1−3(Fucα1−2)Ga1の構造式を有しており、この構造式はB型抗原構造で、ヒト血液型判定の試薬として安価に利用することができ、ブナシメジのマイコグリコリピドの有効活用ができる。
【0009】
第2の本発明に係る、ブナシメジから精製される構造式:Fucα1−2Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cerから成るO型糖脂質のマイコグリコリピドは、Fucα1−2Ga1の構造式を有しており、この構造式はO型抗原構造で、ヒト血液型判定の試薬として安価に利用することができ、ブナシメジのマイコグリコリピドの有効活用ができる。
【0010】
第3の本発明に係る、ブナシメジから精製される構造式:Fucα1−2Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cerから成るO型糖脂質のマイコグリコリピドに、人胃癌由来の細胞株のA型糖転移酵素によりA型糖脂質のマイコグリコリピドを合成することができるので、ヒト血液型判定の試薬として安価に利用することができ、ブナシメジのマイコグリコリピドの一層の有効活用ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る第1、2の発明であるマイコグリコリピドを見出した分析方法につき説明する。
これまでに報告されているキノコの酸性糖脂質(マイコグリコリピドあるいはイノシトールリン酸性糖脂質とも称される)の化学構造は、マンノース−イノシトールリン酸セラミド(Man−Ins−P−Cer)をコアーとして、更に、ガラクトースやフコース等が結合したものである。
【0012】
以下に構造解析を行ったブナシメジのマイコグリコリピドについて述べる。
市販のブナシメジを50℃で乾燥後、クロロホルム−メタノール−水(60:35:8)により総脂質を抽出した。
【0013】
総脂質を弱アルカリ及び弱酸性処理して調整した粗スフィンゴ脂質画分をイオン交換セファデックスカラムクロマトグラフィーによって分画した。
得られた酸性糖脂質画分をイアトロビーズカラムクロマトグラフィーに処し、7種のマイコグリコリピド(TLC上での移動度の大きい順にAGL−0〜AGL−6と仮称)をそれぞれ単離、精製した。
【0014】
カラムからの溶出は、クロロホルム−メタノール−3Mアンモニア(70:30:3〜50:50:17)の濃度勾配溶出法及びn−プロパノール−水−アンモニア(75:15:5及び75:20:5)の単一溶媒溶出法を用いた。
【0015】
単離した7種のマイコグリコリピドは、いずれもリン検出試薬のHanes−Isherwood試薬に陽性を示し、更に、AGL−1〜AGL−6はorcinol−硫酸試薬にも陽性であった(図1、図2)。
【0016】
構成糖種はメチルグリコシドTMS−誘導体として、糖鎖結合位置は部分メチル化アルジトールアセテート誘導体として、それらのGC及びGC−MS分析によって決定した(図3)。
【0017】
更に、イノシトールリン酸部分の構造を酸加水分解生成物からのイノシトールリン酸及びイノシトールの同定と、フッ化水素酸による分解成績体からのセラミドの回収及びその解析によって確認した。
【0018】
また、マンノースが結合するイノシトールの水酸基の位置(Man→Ins)は、主として過ヨウ素酸酸化によるフラグメント成績体の構造解析の結果により決定した。
【0019】
一方、MALDI−TOF MS分析では、セラミド組成を考慮した推定分子量に相当する分子量ピークが得られた。
即ち、7種のマイコグリコリピドは、AGL−0に順次マンノース(m/z162)、ガラクトース(m/z162)、フコース(m/z148)、ガラクトース(m/z162)、ガラクトース(m/z162)及びガラクトース(m/z162)分に相当する分子量の増加することがわかった(図4)。
【0020】
糖のアノマー配置はH−NMR分析によったが、1つのガラクトースがβ−アノマーである他は、すべてα−アノマーであった(図5)。
以上のことから、ブナシメジの7種のマイコグリコリピドの構造を次のように決定した。
【0021】
AGL−0:Ins−P−Cer; AGL−1:Manα1−2Ins−P−Cer; AGL−2:Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cer; AGL−3:Fucα1−2Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cer; AGL−4:Ga1α1−3(Fucα1−2)Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cer; AGL−5:Ga11−2Ga11−3(Fuc1−2)Ga11−6Man1−2Ins−P−Cer; AGL−6:Ga11−2Ga11−2Ga11−3(Fuc1−2)Ga11−6Man1−2Ins−P−Cer。
【0022】
セラミド組成については、これらのマイコグリコリピドのすべてが、長鎖塩基はフィトスフィンゴシンのみを成分とし、一方、脂肪酸はAGL−0がC16及びC18の飽和酸とC18,C22,C24の2−ヒドロキシ酸のそれぞれを成分とするのに対し、AGL−1〜AGL−6は、2−ヒドロキシ酸のみを構成成分としていた(図6)。
【0023】
これらのマイコグリコリピドの構造を、既に報告されているブナシメジと分類学上で同目のツクリタケのそれら(Ga1α1−6Ga1α1−6Ga1α1−6(Fucα1−2)Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cer)と比較したところ、構成糖種は同一であるが、非還元端末からのガラクトースの結合に違いが認められた。
【0024】
ツクリタケを含めタマゴテングダケ、ホコリタケ、ヤマドリタケ、アンズタケ、シイタケ、ヒラタケ等、今までに報告されているマイコグリコリピドは、全てに共通した骨格構造であるイノシトールリン酸セラミドにマンノースがα1−2結合している。
【0025】
そして更に、マンノース、ガラクトース及び分岐でフコースが結合して、それらの組み合わせによって糖鎖が延長している。
【0026】
ブナシメジを含め、前述のエリンギにおいても、それぞれのキノコを特色付けるマイコグリコリピドが存在することは、それらを食用として摂取する動物(特に、ヒト)に及ぼす影響等、生理活性についても関心が寄せられるところである。
【0027】
また、ブナシメジのマイコグリコリピドの糖鎖の非還元末端構造に注目すると、AGL−3のFucα1−2Ga1はヒト血液型のO型抗原構造を有し、AGL−4のGa1α1−3(Fucα1−2)Ga1はB型抗原構造を有している。
【0028】
TLC上でのそれぞれの抗体との反応性を調べるTLC−immunostainingでは、AGL−4は血液型判定抗血清及び抗体あるいはA型の血液型血清中に含まれる抗B抗体により認識された。
一方、AGL−3は、O型糖鎖を認識するレクチンにより検出された。
【0029】
第3の本発明に係る一実施例を説明する。
最初の、材料としては、人胃癌由来の細胞株、H型糖脂質(AGL−3)、Fucα1−2Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cer、B型糖脂質(AGL−4)、Ga1α1−3(Fucα1−2)Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cer、UDP−GalNAc(糖転移酵素反応のドナー基質)、薄層プレート、抗A型抗体(モノクローナル抗体、ダコ社製)、セパックC18逆層クロマトカートリッジを用いる。
【0030】
次に、方法に付き説明する。
細胞培養
上記の2種の細胞株をRPMI1640/10%FCSで培養し、4X10細胞を得る。
この細胞をホモジネート処理し、これを酵素源とする。比活性を上げるために100.000G上清のミクロゾームリッチ画分を用いる。
【0031】
酵素反応
基質:H型糖脂質(AGL−3) 10ug/50ul(チューブ)
緩衝系:カコジル酸バッファー(pH6.5) 100mM
MnCl10mM
TritonX−100 0.3%
糖供与体:UDP−GalNAc 0.085mM
【0032】
in vitro合成経路は次のとうりである。
Fucα1−2Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cer+UDP→
H型糖脂質(AGL−3)
Ga1NAcα1−3(Fucα1−2)Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cer+UDP 合成されるA型糖脂質
反応液は50ulで行う。基質のAGL−3は先に有機溶媒を除いておく。そのチューブに緩衝液、TritonX−100、MnCl2、UDP−GalNAcを加え最後に酵素液を加え37℃、3時間反応を行う。
【0033】
C18逆層クロマトカートリッジを用いた反応産物の精製
上記の酵素反応でH型糖脂質(AGL−3)を基質にして糖転移酵素反応により、もう一方の基質であるUDP−GalNAcからN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)がAGL−3に移りA型糖脂質がin vitroで生合成される。
【0034】
A型糖転移酵素として、α−N アセチルガラクトサミン転移酵素を使用している。
【0035】
反応生成物のA型糖脂質は基質(AGL−3)に比べて、非常に微量であるため酵素反応終了後、反応液から更に脂質を精製する。
【0036】
終了後反応チューブへ1mlの水を加え懸濁し、溶液すべてを予め平衡化していたC18逆層クロマトカートリッジにのせる。自然落下で溶出液をチューブに分取する。
更にもう1mlの水を加え、カートリッジを十分洗い込む。
【0037】
次に、メタノール2ml、クロロホルム/メタノール、2/1混液2mlを次々に流し、脂質をカートリッジから溶出し、別のガラスチューブで分取する。
C18逆層クロマトカートリッジでは水系で過剰の酵素蛋白質、UDP−GalNAcが洗い出され、最後に有機溶媒(クロロホルム/メタノール混液)で脂質がカートリッジから溶出する。
逆層の高速液体クロマトグラフィーの原理と同じである。
【0038】
薄層クロマトグラフィーとTLC免疫染色法
カートリッジからから溶出された有機溶媒に脂質が存在するので、チューブの溶媒をエアーポンプで飛ばし、少量の溶媒(50ulぐらい)で脂質を溶かし、通常の方法で展開溶媒(C/M/W:60/35/8)を用いてTLCで脂質を展開する。
【0039】
その後、抗A型抗体(モノクローナル抗体)を用いて免疫染色し、生じたA型糖脂質を検出する。発色には酵素抗体法(コニカイムノステイン法)あるいはELC法を使用する。
通常これらの反応は放射性同位体(14C、UDP−GalNAc)を用いて、反応後、薄層クロマトグラフィーに展開後、X線のフィルムの感光によるオートラジオグラフィー法で検出する方法が使われているが、感度が問題にならなければ別の方法を使うことができる。
【0040】
未反応のH型糖脂質もこの系の中に存在するが、同じ脂質なので薄層クロマトグラフィーでは分離できるので問題ない。使う抗体は抗A型抗体(モノクローナル抗体)なので、他のH型糖脂質のような糖脂質とは交叉反応しない。検出感度の問題である。酵素活性が高ければ確実に検出できる。
【0041】
この結果、レーン1はA型赤血球膜より調整した中性糖脂質画分を薄層クロマトグラフィーにのせた。右の抗体による反応では抗A型抗体で反応する主要な糖脂質が上からA、A、Aバンドが確認できた。
【0042】
これに対し、ヒト細胞株より調整した酵素画分を用いて反応させたレーン2では酵素を加えないレーン3の反応に比べて免疫染色で検出された。そして、そのバンドはA型糖脂質のバンドが基質であるキノコ由来のH型糖脂質の下に検出され、構造としては図7の構造であると考えられる。
類似のヒト細胞株でも同様な結果が得られた。
【0043】
ブナシメジの酸性糖脂質画分には人血液型類似糖脂質、H型糖脂質、B型糖脂質がかなり多く存在する。これらの正確な構造が決定された。
抗体との反応性も殆ど差はなく、今までの血液型判定用には赤血球そのものを抗体と直接反応させていたが、ブナシメジ由来の糖脂質を用いれば代替え品として、使用できる。
【0044】
更に実用化のためには血液型の判定や輸血の際には表試験、裏試験のクロスマッチが必要であるが、キノコ由来の糖脂質を用い、しかも構造既知のH型糖脂質の前駆体を用いてin vitroでA型糖脂質を合成できる方法を確立できたことは、安価な血液型類似糖脂質を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】リン酸検出試薬と硫酸試薬の場合の説明図。
【図2】図1に示す試薬を行う際の説明図。
【図3】AGLのGC及びGC−MS分析説明図。
【図4】AGLのMALDI−TOF MS分析説明図
【図5】AGLのH−NMR分析説明図
【図6】AGLのセラミド組成の説明図。
【図7】キノコ糖脂質を用いたA型糖脂質のin vitro合成を示す説明図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブナシメジから精製される構造式:Ga1α1−3(Fucα1−2)Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cerから成るB型糖脂質のマイコグリコリピドを抗原として使用することを特徴とするヒト血液型試薬。
【請求項2】
ブナシメジから精製される構造式:Fucα1−2Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cerから成るO型糖脂質のマイコグリコリピドを抗原として使用することを特徴とするヒト血液型試薬。
【請求項3】
ブナシメジから精製される構造式:Fucα1−2Ga1β1−6Manα1−2Ins−P−Cerから成るO型糖脂質のマイコグリコリピドに、人胃癌由来の細胞株のA型糖転移酵素によりA型糖脂質のマイコグリコリピドを合成して抗原として使用することを特徴とするヒト血液型試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−275648(P2006−275648A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92784(P2005−92784)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(505026686)国立大学法人滋賀大学 (4)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【出願人】(393017535)コスモ食品株式会社 (18)
【出願人】(596075417)財団法人十勝圏振興機構 (20)