説明

ヒトCNS神経幹細胞の培養

【課題】細胞増殖速度を増加させ、分化した細胞集団におけるニューロン数を増加させ、さらに宿主への移植の際に幹細胞移植片の生存度を改変する、神経幹細胞培養方法の提供。
【解決手段】5〜10日間の倍化速度を有する新規のヒト幹細胞、ならびヒト神経幹細胞の増殖の延長のための規定増殖培地を含む、新規のヒト中枢神経系幹細胞、ならびにそれらを増殖、分化および移植するための方法。該増殖培地は、準的な培地成分以外に、神経幹細胞の増殖を刺激するLIF等の1以上の増殖因子の有効量を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、ヒト中枢神経系幹細胞の単離、ならびにそれらを増殖、分化および
移植するための方法および培地に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
中枢神経系(「CNS」)の発達の間に、多能性前駆体細胞(神経幹細胞とし
ても知られる)が増殖し、成体の脳を構成する細胞型へと最終的に分化する一過
性分裂前駆体細胞を生じる。幹細胞(他の組織由来)は、古典的には、自己新生
(すなわち、より多くの幹細胞を形成する)、増殖、および複数の異なる表現型
系統へと分化する能力を有するとして規定されてきた。神経幹細胞の場合、これ
は、ニューロン、星状細胞および稀突起膠芽細胞を含む。例えば、Potten
およびLoeffler(Development、110:1101、199
0)は、幹細胞を、「a)増殖、b)自己維持、c)多数の分化した機能性子孫
の産生、d)損傷後の組織の再生、およびe)これらの選択肢の使用における可
撓性を行い得る未分化の細胞」と規定する。
【0003】
これらの神経幹細胞は、マウス、ラット、ブタおよびヒトを含む、いくつかの
哺乳動物種から単離されている。例えば、WO93/01275、WO94/0
9119、WO94/10292、WO94/16718、およびCattan
eoら、Mol.Brain Res.、42、161〜166頁(1996)
を参照のこと。これらは全て本明細書において参考として援用する。
【0004】
ヒトCNS神経幹細胞は、その齧歯類ホモログと同様に、マイトジェン含有(
代表的には、上皮増殖因子、または上皮増殖因子および塩基性線維芽細胞増殖因
子)無血清培養培地中で維持される場合、懸濁培養中で増殖して「神経球」とし
て知られる細胞の凝集体を形成する。先行技術において、ヒト神経幹細胞は、約
30日の倍化速度を有する。例えば、Cattaneoら、Mol.Brain
Res.、42、161〜166頁(1996)を参照のこと。マイトジェン
の除去および基材の提供の際に、この幹細胞は、ニューロン、星状細胞および稀
突起膠芽細胞へと分化する。先行技術において、分化した細胞集団中の大部分の
細胞は、星状細胞として同定されている、ニューロンはほとんど観察されていな
い(10%未満)。
【特許文献1】国際公開第93/01275号パンフレット
【非特許文献1】PottenおよびLoeffler、Development、110:1101、1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
神経幹細胞培養の増殖速度を増加させる必要性が残存する。分化した細胞集団
におけるニューロン数を増加させる必要性もまた残存する。さらに、宿主への移
植の際に神経幹細胞移植片の生存度を改変する必要性も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、新規のヒト中枢神経系幹細胞、ならびにそれらを増殖、分化および
移植するための方法および培地を提供する。1つの実施態様において、本発明は
、5〜10日間の倍化速度を有する新規のヒト幹細胞、ならびヒト神経幹細胞の
増殖の延長のための規定増殖培地を提供する。別の実施態様において、本発明は
、ニューロン、稀突起膠芽細胞、星状細胞、またはそれらの組合せを富化させる
ためのヒト神経幹細胞の分化のための規定培地を提供する。本発明はまた、これ
までは入手不可能であった多数のニューロンならびに星状細胞および稀突起膠芽
細胞を提供するヒト神経幹細胞の分化した細胞集団を提供する。本発明はまた、
宿主への移植に際し、移植片の生存度を改善する、神経幹細胞の移植のための新
規の方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(発明の詳細な説明)
本発明は、CNS神経幹細胞の単離、特徴付け、増殖、分化および移植に関す
る。
【0008】
本願に記載されそして請求される本発明の神経幹細胞は、懸濁培養または付着
培養において増殖され得る。本発明の神経幹細胞が神経球として増殖するとき、
ヒトネスティン(nestin)抗体が、未分化細胞を同定するためのマーカー
として使用され得る。この増殖性細胞は、GFAP染色およびβチューブリン染
色をほとんど示さない(しかし、その球の中の細胞の多様性に起因して、いくら
かの染色が存在し得る)。
【0009】
分化したとき、その細胞のほとんどは、そのネスティン陽性免疫反応性を喪失
する。特に、種々のニューロンまたはグリアタンパク質に対して特異的な抗体を
使用して分化した細胞の表現型特性を同定し得る。ニューロンは、ニューロン特
異的エノラーゼ(「NSE」)、神経フィラメント、τ(タウ)、βチューブリ
ンに対する抗体、または他の公知の神経マーカーを用いて同定され得る。星状細
胞は、グリア原線維酸性タンパク質(「GFAP」)に対する抗体、または他の
公知の星状細胞マーカーを用いて同定され得る。稀突起膠芽細胞は、ガラクトセ
レブロシド、O4、ミエリン塩基性タンパク質(「MBP」)に対する抗体、ま
たは公知の稀突起膠芽細胞マーカーを用いて、同定され得る。グリア細胞は、一
般的に、M2抗体のような抗体、または他の公知のグリアマーカーを用いて染色
することによって同定され得る。
【0010】
1つの実施態様において、本発明は、前脳から単離された新規ヒトCNS幹細
胞を提供する。本発明者らは、ヒト前脳から4つの神経幹細胞株を単離した。こ
れらはすべて、神経幹細胞特性を示す。すなわち、これらの細胞は、自己新生性
であり、これらの細胞は、マイトジェン含有無血清培地中で長期間増殖し、そし
てこれらの細胞は、分化したときに、ニューロン、星状細胞、稀突起膠芽細胞の
細胞集団を含む。これらの細胞は、先行技術の間脳由来のヒト神経幹細胞とは対
照的に、5〜10日毎に倍化し得る。間脳由来のヒト神経幹細胞の報告された増
殖速度は、およそ30日毎に倍化する速度である。Cattaneoら、Mol
.Brain Res.、42、161〜166頁(1996)を参照のこと。
【0011】
任意の適切な組織供給源を使用して、本発明の神経幹細胞を誘導させ得る。神
経幹細胞は、懸濁物中または付着基材上のいずれかで細胞を培養することによっ
て、増殖および分化させるように誘導させ得る。例えば,米国特許第5,750
,376号および同5,753,506号(これらは両方とも、その全体が本明
細書において参考として援用される)、およびそこに記載される先行技術の培地
を参照のこと。同種異系移植片および自己移植片の両方が移植目的について意図
される。
【0012】
本発明はまた、神経幹細胞の増殖のための新規の増殖培地を提供する。本明細
書に提供されるのは、神経幹細胞の短期および長期の増殖のための無血清培養培
地または血清涸渇培養培地である。
【0013】
多数の無血清培養培地または血清涸渇培養培地が、一貫しない培養結果を導き
得る、血清の所望されない効果に起因して開発されてきた。例えば、WO95/
00632号(本明細書において参考として援用される)、およびそこに記載さ
れる先行技術の培地を参照のこと。
【0014】
本明細書において記載される新規の培地の開発の前には、神経幹細胞は、上皮
増殖因子(「EGF」)またはEGFのアナログ(例えば、アンフィレグリン(
amphiregulin)またはトランスフォーミング増殖因子α(「TGF
−α」))を増殖のためのマイトジェンとして含む無血清培地中で培養されてき
た。例えば、WO93/01275、WO94/16718号を参照のこと。こ
れら両方は、本明細書において参考として援用される。さらに、塩基性線維芽細
胞増殖因子(「bFGF」)が、単独またはEGFと組み合わせてのいずれかで
、神経幹細胞の長期生存を増強するために用いられている。
【0015】
本発明に従って改善された培地は、白血球阻害因子(「LIF」)を含有し、
神経幹細胞(特に、ヒト神経幹細胞)の増殖速度を顕著かつ予想外に増強する。
【0016】
本発明者らは、LIFの存在および非存在下で、本明細書に記載された前脳由
来幹細胞の増殖速度を比較した;予想外に、本発明者らは、LIFがほとんどす
べての場合で細胞増殖の速度を劇的に増加させることを見い出した。したがって、本発明は以下を提供する。
(1) ヒト神経幹細胞を増殖させる工程を包含する細胞培養であっ
て、該細胞が30日より速い倍化速度を有する、細胞培養。
(2) ヒト神経幹細胞を増殖させる工程を包含する細胞培養であっ
て、該細胞が5〜10日の倍化速度を有する、細胞培養。
(3) ヒト前脳に由来する神経幹細胞を含む、細胞培養。
(4) 分化したヒト神経幹細胞を含み、そして10%を超えるニュ
ーロンを含む、細胞培養。
(5) 項目4に記載の細胞培養であって、前記細胞培養が少なく
とも20%のニューロンを含む、細胞培養。
(6) 項目4または5に記載の細胞培養であって、存在するニュ
ーロンのうち、少なくとも20%がGABA陽性である、細胞培養。
(7) 哺乳動物神経幹細胞を増殖するための培養培地であって、該
培地が、以下の成分:
(a) 標準的な規定培養培地;
(b) 炭水化物源;
(c) 緩衝剤;
(d) ホルモン源;
(e) 神経幹細胞の増殖を刺激する1以上の増殖因子;および
(f) LIF、
の細胞生存度および細胞増殖の有効量を含む、培養培地。
(8) 項目7に記載の培地であって、ヘパリンもまた存在する、
培地。
(9) 項目7または8に記載の培地中で継代したヒト神経幹細胞
を含む、細胞培養。
(10) 哺乳動物神経幹細胞を含む移植における使用のための組成
物であって、該細胞が、直径10〜500μmの間の直径の神経球を実質的に形
成する、組成物。
(11) 哺乳動物神経幹細胞を含む哺乳動物神経幹細胞を移植する
工程を包含する、患者において損傷した組織を保護、修復または置換するための
方法であって、該細胞が、直径10〜500μmの間の直径の神経球を実質的に
形成する、方法。
(12) 分化したヒト神経幹細胞を含む細胞培養であって、該分化
した細胞が神経膠芽細胞を含む、細胞培養。
(13) 培養培地においてヒト神経幹細胞を分化させる方法であっ
て、該方法が以下の工程:
(a)増殖因子マイトジェンおよびLIFを含む規定増殖培地を除去する工程

(b)該細胞が接着し得る基材を提供する工程;および
(c)規定培地を提供する工程であって、該規定培地が標準的な規定培養培地
、1%血清、ならびにPDGF A/B、CNTF、IGF−1、フォルスコリ
ン、T3、LIFおよびNT−3を含む増殖因子の混合物を含有する、工程、
を包含する、方法。
(14) 項目13に記載の方法であって、以下の工程:
(a)bFGF、EGFおよびLIFのカクテルを含む、項目7に記載の培
地において当初培養された神経幹細胞の細胞懸濁物を除去する工程;
(b)EGFおよびLIFを含むが、bFGFを含まない増殖培地中に該神経
幹細胞を配置する工程;および
(c)項目13の工程(a)に記載の増殖因子マイトジェンの除去の前に、
(b)に記載の培地において該神経幹細胞を継代する工程、
をさらに包含する、方法。
(15) 項目1、2、3または9のいずれか1項に記載の細胞培
養であって、前記細胞が懸濁培養において増殖する、細胞培養。
(16) 項目1、2、3または9のいずれか1項に記載の細胞培
養であって、前記細胞が付着培養において増殖する、細胞培養。
(17) 項目1、2、3または9のいずれか1項に記載の細胞培
養であって、前記神経幹細胞の子孫が遺伝的に改変されている、細胞培養。
(18) 生物学的薬剤の効果を決定するための、項目1、2、3
または9のいずれか1項に記載の細胞培養の使用であって、該生物学的薬剤に対
して該細胞培養を曝露する工程を包含する、使用。
(19) 項目1、2、3または9のいずれか1項に記載の細胞培
養を用いて調製された、cDNAライブラリー。
【0017】
本発明に従う培地は、以下の成分の細胞生存および細胞増殖有効量を含有する

(a)無血清(0〜0.49%の血清を含有)または血清涸渇(0.5〜5.
0%の血清を含有)である標準的な培養培地、これは、「規定」培養培地(例え
ば、Iscove改変Dulbecco培地(「IMDM」)、RPMI、DM
EM、Fischer培地、α培地、Leibovitz培地、L−15、NC
TC、F−10、F−12、MEMおよびMcCoy培地)としても知られる;
(b)グルコースのような適切な炭水化物源;
(c)MOPS、HEPESまたはTris、好ましくはHEPESのような
緩衝剤;
(d)インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、セレンおよびプトレ
シンのようなホルモン源の供給;
(e)神経幹細胞の増殖を刺激する1以上の増殖因子、例えば、EGF、bF
GF、PDGF、NGF、ならびにそれらのアナログ、誘導体、および/または
組合せ、好ましくは、EGFおよびbFGFの組合せ;
(f)LIF。
【0018】
標準的な培養培地は、代表的に、細胞生存に必要とされる種々の必須成分(無
機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、ビタミンなどを含む)を含有する。
本発明者らは、DMEMまたはF−12を標準的な培養培地として好む。最も好
ましくは、DMEMおよびF−12の50/50混合物である。両方の培地は、
市販されている(DMEM−Gibco 12100−046;F−12 Gi
bco 21700−075)。予め混合した処方物もまた、市販されている(
N2−Gibco 17502−030)。さらに、グルタミンを、好ましくは
約2mMで提供することが有利である。この培養培地にヘパリンを提供すること
もまた有利である。好ましくは、培養の条件は、可能な限り生理的に近くあるべ
きである。培養培地のpHは、代表的にはpH6〜8、好ましくは約7、最も好
ましくは約7.4である。細胞は、代表的に30〜40℃の間で、好ましくは、
32〜38℃の間で、最も好ましくは35〜37℃の間で培養される。細胞は、
好ましくは、5%CO2中で増殖させる。細胞は、好ましくは懸濁培養で増殖さ
せる。
【0019】
1つの例示的な実施態様において、この神経幹細胞培養は、以下の成分を、指
示された濃度で含む。
【0020】
【表1】

【0021】
血清アルブミンもまた、本発明の培養培地に存在させ得るが、本発明の培地は、
一般的に血清涸渇または無血清(好ましくは無血清)であり、化学的に充分規定
されそして高度に純粋である(>95%)特定の血清成分(例えば、血清アルブ
ミン)が含有され得る。
【0022】
本明細書中に記載されるヒト神経幹細胞は、慣用手順に従って凍結保存され得
る。本発明者らは、約100万〜1000万の細胞を、「凍結」培地中に凍結保
存することを好む。「凍結」培地は、増殖培地(増殖因子マイトジェンが存在し
ない)、10% BSA(Sigma A3059)、および7.5% DMS
Oからなる。細胞は、遠心分離される。増殖培地を吸引除去し、そして凍結培地
に置換する。細胞は、分離した細胞としてではなく球として緩和に再懸濁される
。細胞は、例えば、容器を−80℃に配置することによってゆっくりと凍結され
る。細胞は、37℃浴中で旋回させることによって解凍し、新鮮な増殖培地中に
再懸濁し、そして通常どおり増殖される。
【0023】
別の実施態様において、本発明は、これまでは入手不可能であった多数のニュ
ーロンならびに星状細胞および稀突起膠芽細胞を含む分化した細胞培養物を提供
する。先行技術において、代表的に、分化したヒト間脳由来神経幹細胞培養物は
、ほとんどニューロンを形成しなかった(すなわち、5〜10%未満)。この方
法論に従って、本発明者らは、分化したヒト前脳由来の神経幹細胞培養物中で2
0%〜35%の間の(および他の場合にはより高い)ニューロン濃度を慣用的に
達成した。これは、非常に有利である。なぜなら、ニューロン機能が損傷または
喪失した、疾患の症候にある宿主への移植前にニューロン集団を富化することが
可能であるからである。
【0024】
さらに、本発明の方法に従って、本発明者らは、GABA作用性ニューロンが
非常に富化した、分化した神経幹細胞培養物を達成した。このようなGABA作
用性ニューロン富化細胞培養物は、ハンチントン病または癲癇のような興奮毒性
の神経変性障害の可能性のある治療において特に有利である。
【0025】
神経幹細胞の増殖または分化のいずれかの間の細胞表現系を同定するために、
種々の細胞表面または細胞内マーカーが使用され得る。
【0026】
本発明の神経幹細胞が神経球として増殖するときに、本発明者らは、ヒトネス
ティン抗体をマーカーとして用いて未分化の細胞を同定することを意図する。こ
の増殖中の細胞は、GFAP染色およびβチューブリン染色をほとんど示さない
はずである(しかし、いくらかの染色は、球の中の細胞密度に起因して存在し得
る)。
【0027】
分化するとき、細胞のほとんどは、そのネスティン陽性免疫反応性を喪失する
。特に、種々のニューロンまたはグリアタンパク質に対して特異的な抗体を使用
して、分化した細胞の表現型特性を同定し得る。ニューロンは、ニューロン特異
的エノラーゼ(「NSE」)、神経フィラメント、τ(タウ)、βチューブリン
に対する抗体、または他の公知の神経マーカーを用いて同定され得る。星状細胞
は、グリア原線維酸性タンパク質(「GFAP」)に対する抗体、または他の公
知の星状細胞マーカーを用いて同定され得る。稀突起膠芽細胞は、ガラクトセレ
ブロシド、O4、ミエリン塩基性タンパク質(「MBP」)に対する抗体、また
は公知の稀突起膠芽細胞マーカーを用いて、同定され得る。
【0028】
細胞の表現型によって特徴的に産生される化合物を同定することによって、細
胞表現形を同定することもまた可能である。例えば、アセチルコリン、ドパミン
、エピネフリン、ノルエピネフリンなどのような神経伝達物質の産生によってニ
ューロンを同定することが可能である。
【0029】
これらのニューロンによって産生される特定の産物に従って、特定のニューロ
ン表現型が同定され得る。例えば、GABA作用性ニューロンは、グルタミン酸
デカルボキシラーゼ(「GAD」)またはGABAの産生によって同定され得る
。ドパミン作用性ニューロンは、ドパデカルボキシラーゼ(「DDC」)、ドパ
またはチロシンヒドロキシラーゼ(「TH」)の産生によって同定され得る。コ
リン作用性ニューロンは、コリンアセチルトランスフェラーゼ(「ChAT])
の産生によって同定され得る。海馬ニューロンは、NeuNを用いた染色によっ
て同定され得る。特定のニューロン表現型を同定するために適切な任意の公知の
マーカーが使用され得ることが理解される。
【0030】
本明細書に記載のヒト神経幹細胞は、公知の方法論に従って、遺伝子的に操作
または改変され得る。用語「遺伝子改変」とは、外因性DNAの意図的な導入に
よる、細胞の安定なまたは一過性の遺伝型変化をいう。DNAは、合成または天
然由来であり得、そして遺伝子、遺伝子の一部、または他の有用なDNA配列を
含み得る。用語「遺伝子改変」は、天然のウイルス活性、天然の遺伝子組換えな
どを介して生じるもののような、天然に生じる改変を含むことは意味しない。
【0031】
目的の遺伝子(すなわち、生物学的に活性な分子をコードする遺伝子)は、標
準的な技術を用いることによって適切な発現ベクターのクローニング部位へと挿
入され得る。これらの技術は当業者に周知である。例えば、WO94/1671
8を参照のこと。これは、本明細書において参考として援用される。
【0032】
次いで、目的の遺伝子を含む発現ベクターを使用して、所望の細胞株をトラン
スフェクトし得る。標準的なトランスフェクション技術、例えば、リン酸カルシ
ウム共沈、DEAEデキストラントランスフェクション、エレクトロポレーショ
ン、遺伝子銃、またはウイルストランスフェクションが、利用され得る。市販の
哺乳動物トランスフェクションキットは、例えば、Stratageneから購
入され得る。ヒトアデノウイルストランスフェクションは、Bergら、Exp
.Cell.Res.192頁(1992)において記載されるように達成され
得る。同様に、リポフェクトアミンに基づくトランスフェクションは、Catt
aneo、Mol.Brain Res.42頁、161−66(1996)に
おいて記載されるように達成され得る。
【0033】
広汎で種々の宿主/発現ベクターの組み合わせを使用して、目的の生物学的に
活性な分子をコードする遺伝子を発現させ得る。例えば、適切な細胞に基づく産
物発現ベクターについて、米国特許第5,545,723号を参照のこと。これ
は、本明細書において参考として援用する。
【0034】
生物学的に活性な分子の発現の増加は、当該分野で周知の増幅方法を用いて、
トランスジーンコピー数を増加または増幅することによって達成され得る。この
ような増幅方法は、例えばDHFR増幅(例えば、Kaufmanら、米国特許
第4,470,461号)またはグルタミンシンセターゼ(「GS」)増幅(例
えば、米国特許第5,122,464号および欧州公開出願EP338,841
号を参照のこと)が挙げられる。これらの文献は全て、本明細書において参考と
して援用する。
【0035】
別の実施態様において、この遺伝的に改変された神経幹細胞は、トランスジェ
ニック動物に由来する。
【0036】
神経幹細胞が生物学的に活性な物質の産生のために遺伝的に改変されている場
合、その物質は好ましくは、CNS障害の処置について有用である。本発明者ら
は、患者において治療的に有効な生物学的に活性な分子を分泌し得る、遺伝的に
改変された神経幹細胞を意図する。本発明者はまた、移植された神経幹細胞に対
する増殖または栄養効果を有する生物学的に活性な分子を産生することを意図す
る。本発明者らはさらに、神経細胞系統に向ってその細胞の分化を誘導させるこ
とを意図する。従って、この遺伝的に改変された神経幹細胞は、治療的価値を有
する生物学的な薬剤の細胞に基づく送達を提供する。
【0037】
本明細書に記載される神経幹細胞およびその分化した子孫は、公知の技術を用
いて不死化または条件的不死化され得る。本発明者らは、幹細胞の条件的不死化
を好み、そして最も好ましくは、それらの分化した子孫の条件的不死化を好む。
意図される条件的不死化技術のうち、Tet条件的不死化(WO96/3124
2を参照のこと、本明細書において参考として援用される)、およびMx−1条
件的不死化(WO96/02646を参照のこと、本明細書において参考として
援用される)である。
【0038】
本発明はまた、神経幹細胞を分化させて、これまでは達成不可能であった程度
にまでニューロンを富化した細胞培養物を得る方法を提供する。1つのプロトコ
ルに従って、この増殖中の神経球を、増殖因子マイトジェンおよびLIFの除去
、および1%血清、基材およびイオン電荷源(例えば、ポリオルニチンまたは細
胞外マトリクス成分でカバーされたガラスカバースリップ)の提供によって誘導
して、分化する。この分化プロトコルについて好ましい基礎培地は、増殖因子マ
イトジェンおよびLIFを除く他は、増殖培地と同じである。この分化プロトコ
ルは、ニューロンが富化された細胞培養物を生成する。このプロトコルに従って
、本発明者らは、分化したヒト前脳由来の神経幹細胞培養物において20%〜3
5%の間のニューロン濃度を慣用的に達成した。
【0039】
第二のプロトコルに従って、増殖中の神経球を、増殖因子マイトジェンの除去
、および1%血清、基材およびイオン電荷源(例えば、ポリオルニチンまたは細
胞外マトリクス成分でカバーされたガラスカバースリップ)、ならびにPDGF
、CNTF、IGF−1、LIF、フォルスコリン、T−3およびNT−3を含
む増殖因子の混合物の提供によって誘導して、分化する。増殖因子のカクテルは
、その神経球がその増殖培地から除去されるのと同時に添加され得るか、または
そのマイトジェンからの除去の前にその増殖培地に添加し得、そしてその細胞は
、その混合物と予備インキュベートされ得る。このプロトコルは、ニューロンに
非常に富み、そして稀突起膠芽細胞に富む細胞培養物を生成する。このプロトコ
ルに従って、本発明者らは、分化した、ヒト前脳由来の神経幹細胞培養物が35
%を超えるニューロン濃度を慣用的に達成した。
【0040】
bFGFの増殖培地における存在は、予想外に、稀突起膠芽細胞分化能を阻害
する。bFGFは、稀突起膠芽細胞前駆体細胞株にとって栄養である。稀突起膠
芽細胞は、bFGFを含まない増殖培地中でEGEおよびLIFとともに継代さ
れる分化条件下で誘導される。
【0041】
本発明のヒト幹細胞株は、薬物スクリーニング、診断、ゲノム学および移植に
ついてを含む、多数の用途を有する。幹細胞は、本発明に記載される適切な培地
を用いて誘導して、選択した神経細胞型へと分化され得る。試験される薬物は、
発生阻害について試験するために、分化の前に添加され得るか、または神経細胞
型特異的反応をモニターするために分化後に添加され得る。
【0042】
本発明の細胞は、従来技術に従って患者に「裸のまま」、例えば、米国特許第
5,082,670号および同5,618,531号に記載される(この各々は
、本明細書において参考として援用される)ようにCNSに、または身体中の任
意の他の適切な部位に移植され得る。
【0043】
1つの実施態様において、ヒト幹細胞は、CNSに直接移植される。実質およ
び髄腔内部位が意図される。CNSにおける正確な位置は、疾患の状態に従って
変動することが理解される。
【0044】
移植された細胞は、ブロモデオキシウリジン(BrdU)で移植前に標識され
得る。本発明者らは、種々の移植片において神経細胞マーカーおよびBrdUで
二重染色した細胞が、BrdUで染色した幹細胞の適切に分化した神経細胞型へ
の分化を示すことを、種々の実験において観察した(実施例9を参照のこと)。
ヒト前脳由来の神経幹細胞の海馬への移植は、NeuNで優勢に染色されるがG
ABA陰性であるニューロンを産生した。NeuN抗体は、海馬のニューロンを
染色することが公知である。GABA作用性ニューロンは、これらの同じ細胞株
が線条中に移植されたときに形成された。従って、移植された細胞は、成体脳お
よび新生脳の両方において、環境的なカギに対して応答する。
【0045】
本発明の1つの局面に従って、本明細書において、移植されたヒト神経幹細胞
の生存度を改善するための方法論が提供される。特に、本発明者らは、移植され
た神経幹細胞が凝集するか、または移植前に神経球を形成する場合、分離した単
一の細胞の懸濁物の移植と比較して、移植片の生存度が改善することを見い出し
た。本発明者らは、約10〜500μmの直径、好ましくは40〜50μmの直
径の小さなサイズの神経球の移植を好む。あるいは、本発明者らは、神経球1つ
あたり約5〜100、好ましくは5〜20細胞を含む神経球を好む。本発明者ら
は、1μlあたり約10,000〜1,000,000細胞、好ましくは、1μ
lあたり25,000〜500,000細胞の密度で移植することを意図する。
【0046】
この細胞はまた、以下を含む公知の被包技術に従って、被包され得、そしてこ
れを使用して生物学的に活性な分子を送達し得る:マイクロ被包(例えば、米国
特許第4,352,883号;同4,353,888号、および5,084,3
50号を参照のこと、本明細書において参考として援用される)、(b)マクロ
被包(例えば、米国特許第5,284,761号、5,158,881号、4,
976,859号および4,968,733号、ならびに公開PCT特許出願W
O92/19195、WO95/05452を参照のこと、これらは各々のが参
考として援用される)。
【0047】
ヒト神経幹細胞が被包される場合、本発明者らは、米国特許第5,284,7
61号;5,158,881号;4,976,859号;4,968,733号
;5,800,828号および公開PCT特許出願WO95/05452号(こ
れらは各々が本明細書において参考として援用される)に記載されるようなマク
ロ被包を好む。このデバイスにおける細胞数は、変動し得る;好ましくは各デバ
イスは103〜109細胞、最も好ましくは105〜107の間の細胞を含む。多数
のマクロ被包デバイスが患者に移植され得る;本発明者らは、1〜10の間のデ
バイスを好む。
【0048】
さらに、本発明者らはまた、被包デバイスと組み合わせたヒト幹細胞の「裸の
」移植を意図する。ここで、この被包デバイスは、患者において治療的に有効で
ある生物学的に活性な分子を分泌するか、またはそれは移植された神経幹細胞に
対して増殖もしくは栄養効果を有する生物学的に活性な分子を生成するか、ある
いはそれは特定の表現型系統へと神経幹細胞の分化を誘導する。
【0049】
本発明の細胞および方法は、種々の神経変性疾患および他の障害の処置におい
て有用であり得る。その細胞は宿主において罹患、損傷または欠損した組織を置
換することが意図される。あるいは、移植された組織は、内因的に影響を受けた
宿主組織の機能を増強し得る。移植された神経幹細胞はまた、治療的に有効な生
物学的に活性な分子を提供するように遺伝子改変され得る。
【0050】
興奮毒性は、癲癇、脳卒中、虚血およびハンチントン病、パーキンソン病およ
びアルツハイマー病のような神経変性疾患を含む種々の病理学的状態と関連付け
られている。従って、神経幹細胞は、細胞損失およびこれらの障害に関連する行
動異常を予防または置換するための1つの手段を提供し得る。神経幹細胞は、小
脳運動失調において欠失した小脳ニューロンを置換し得、臨床的な結果は、医学
の分野において公知の方法により容易に測定可能である。
【0051】
ハンチントン病(HD)は、荒廃的な精神病および認識悪化を伴う間断なく進
行する運動障害によって特徴付けられる、常染色体優性の神経変性疾患である。
HDは、新線条体の一貫しかつ重篤な萎縮症に関連し、これは、線条体の主要な
出力ニューロンであるGABA作用性の中程度のサイズの突起性放射ニューロン
の顕著な欠失に関連する。キノリン酸(QA)のような興奮毒性の線条体内への
注入は、HDに見られる選択性ニューロン脆弱性のパターンを模倣する。QA病
変は、HDに見られる主要な症状のうちである運動欠損および認識欠損を生じる
。従って、QAの線条体内注入は、HDの有用なモデルとなっており、そしてH
Dに関連する神経解剖学的変化および行動変化を予防、減弱、または反転させる
ことを目的とする新規の治療戦略を評価するのに役立ち得る。GABA作用性ニ
ューロンはハンチントン病において特徴的に欠損しているので、本発明者らは、
本発明の方法に従って誘導されたGABA作用性ニューロンが富化した細胞培養
物の移植による、ハンチントン病の処置を意図する。
【0052】
癲癇はまた、興奮毒性と関連する。従って、本発明に従って誘導されたGAB
A作用性ニューロンは、癲癇に罹患する患者への移植について企図される。
【0053】
本発明者らはまた、種々の脱髄性障害および髄鞘発育不全障害(例えば、ペリ
ツェーウス−メルツバッハー病、多発性硬化症、種々の白質萎縮、外傷後脱髄お
よび脳血管性(CVS)傷害ならびに種々の神経炎およびニューロパシー(特に
眼性))の処置における本発明の細胞の使用を企図する。本発明者らは、稀突起
膠芽細胞または稀突起膠芽細胞前駆体もしくは子孫が富化された細胞培養物(例
えば、本発明に従って調製および移植された培養物)を使用して、宿主における
脱髄領域の再髄鞘形成を促進することを意図する。
【0054】
本発明者らはまた、種々の急性および慢性の疼痛の処置において、ならびに特
定の神経再生適用(例えば、脊髄損傷)のための本発明の細胞の使用を意図する
。本発明者らはまた、眼における光受容器のスペアリング(sparing)ま
たは出芽における使用のためのヒト幹細胞の使用を意図する。
【0055】
本発明の細胞および方法は、哺乳動物の宿主、レシピエント、患者被験体また
は個体において、好ましくは霊長類、最も好ましくはヒトにおける使用を意図す
る。
【実施例】
【0056】
以下の実施例は、例示の目的にのみ提供され、そして限定することは意図しな
い。
【0057】
(実施例)
(実施例1:神経幹細胞を増殖させるための培地)
増殖培地を、以下の成分を指示された濃度で用いて調製した。
【0058】
【表2】

【0059】
(実施例2:ヒトCNS神経幹細胞の単離)
ヒト胚性前脳由来のサンプル組織をスウェーデンで収集し、そして切片化し、
そしてHuddinje Sjukhusによる厚意によって提供された。ドナ
ーからの血液サンプルを、ウイルス試験のために送った。切片化を、生理食塩水
において行い、そして選択された組織を、増殖培地に直接入れた(実施例1に記
載のように)。組織を分離するまで4℃で保存した。この組織を、標準的なガラ
スホモジナイザーを用いて、消化酵素を何ら存在させずに分離した。分離した細
胞を計数し、そして増殖培地を含むフラスコに播種した。5〜7日後、そのフラ
スコの内容物を、1000rpmで2分間遠心分離した。その上清を吸引除去し
、そしてそのペレットを200μlの増殖培地中に再懸濁した。その細胞クラス
ターを、P200 pipetmanを約100回用いて破砕して、そのクラス
ターを崩してバラバラにした。細胞を、75,000〜100,000細胞/m
lで増幅培地中に再播種した。細胞を、使用するマイトジェンおよび播種密度に
依存して、6〜21日毎に継代する。代表的に、これらの細胞は、細胞増殖の指
標であるBrdUを取り込む。T75フラスコ培養(初期容量20ml)につい
て、細胞を、5mlの増殖培地の添加により1週間に3回「給餌」する。本発明
者らは、培養についてNuncフラスコを好む。
【0060】
(神経球を増殖させるためのネスティン染色)
本発明者らは、ネスティン(神経球の増殖の尺度)について、以下のように染
色した。細胞を、4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で20分間固定した。
細胞を、0.1M PBS,pH7.4で5分間2回洗浄した。細胞を、100
%EtOHで2分間透過処理をした。次いで、この細胞を、0.1M PBSで
5分間2回洗浄した。細胞調製物を、室温で1時間、0.1M PBS、pH7
.4および0.1%Triton X−100(Sigma X−100)中に
希釈した5%正常ヤギ血清(「NGS」)中で室温で1時間緩やかに振盪させな
がらブロッキングした。細胞を、1% NGSおよび1% Triton X−
100中に希釈したヒトネスティンに対する一次抗体(Dr.Lars Wah
lberg、Karolinska、Sweden、1:500で使用したウサ
ギポリクローナル抗体)と、2時間室温でインキュベートした。次いで、調製物
を、0.1M PBSで5分間2回で洗浄した。細胞を、1% NGSおよび1
% Triton X−100中に希釈した二次抗体(1:128で使用するG
AM/FITCのプール、Sigma F−0257;1:80で使用するGA
R/TRITC、Sigma T−5268)と、暗室で室温で30分間インキ
ュベートした。調製物を、暗室で0.1M PBSで5分間2回洗浄した。調製
物を、マウント用媒体(Vectashield Mounting Medi
um、Vector Labs、H−1000)を用いて、表を下にしてスライ
ド上にマウントし、そして4℃で保存した。
【0061】
図1は、ヒト前脳由来の神経幹細胞の増殖中の球(ここでは、「神経球」と呼
ぶ)の図を示す。本発明者らは、LIFが存在または非存在で、上記のように、
増殖培地においてヒト前脳由来の神経幹細胞の4株の増殖を評価した。
【0062】
図2に示すように、4株のうち3株(6.5Fbr、9Fbr、および10.
5Fbr)において、LIFは、細胞増殖速度を有意に増加した。LIFの効果
は、インビトロにおいて約60日後に最も顕著であった。
【0063】
本発明者らはまた、ヒト前脳由来の神経幹細胞の増殖速度に対するbFGFの
効果を評価した。図3に示すように、bFGFの存在下で、この幹細胞の増殖は
有意に増強された。
【0064】
(実施例3:ヒト神経幹細胞の分化)
第一の分化プロトコルにおいて、増殖中の神経球を、増殖因子マイトジェンお
よびLIFの除去、ならびに1%血清、基材およびイオン荷電の供給源(例えば
、ポリオルニチンでカバーしたガラスカバースリップ)の提供によって分化する
ように誘導した。
【0065】
ニューロン、星状細胞、および稀突起膠芽細胞についての染色プロトコルは以
下のとおりであった。
【0066】
(ニューロンについてのβチューブリン染色)
細胞を、4%パラホルムアルデヒドで室温にて20分間固定した。細胞を、0
.1M PBS,pH7.4で5分間2回洗浄した。細胞を、100%EtOH
で2分間透過処理をした。次いで、この細胞を、0.1M PBSで5分間2回
洗浄した。細胞調製物を、室温で1時間、0.1M PBS、pH7.4中に希
釈した5%正常ヤギ血清(「NGS」)中でブロッキングした。細胞を、1%
NGS中に希釈したβチューブリンに対する一次抗体(Sigma T−866
0、マウスモノクローナル;1:1000で使用した)と、2時間室温でインキ
ュベートした。次いで、調製物を、0.1M PBSで5分間2回で洗浄した。
細胞を、1% NGS中に希釈した二次抗体(1:128で使用するGAM/F
ITCのプール、Sigma F−0257;1:80で使用するGAR/TR
ITC、Sigma T−5268)と、暗室で室温で30分間インキュベート
した。調製物を、暗室で0.1M PBSで5分間2回洗浄する。調製物を、マ
ウント用媒体(Vectashield Mounting Medium、V
ector Labs、H−1000)を用いて、表を下にしてスライド上にマ
ウントし、そして4℃で保存する。
【0067】
いくつかの場合、本発明者らはまた、DAPI(核染色)を用いて、以下のよ
うに染色する。上記のように調製したカバースリップを、DAPI溶液(100
%MeOH中に1:1000に希釈する、Boehringer Mannhe
im、#236 276)を用いて洗浄する。カバースリップを、DAPI溶液
中に37℃で15分間インキュベートする。
【0068】
(稀突起膠芽細胞についてのO4染色)
細胞を、4%パラホルムアルデヒドで室温にて10分間固定した。細胞を、0
.1M PBS,pH7.4で5分間3回洗浄した。細胞調製物を、室温で1時
間、0.1M PBS、pH7.4中に希釈した5%正常ヤギ血清(「NGS」
)中でブロッキングした。細胞を、1% NGS中に希釈したO4に対する一次
抗体(Boehringer Mannheim #1518 925、マウス
モノクローナル;1:25で使用した)と、2時間室温でインキュベートした。
次いで、調製物を、0.1M PBSで5分間2回で洗浄した。細胞を、二次抗
体とインキュベートし、そしてβチューブリンについて上記に記載したようにさ
らに処理した。
【0069】
(星状細胞についてのGFAP染色)
細胞を、4%パラホルムアルデヒドで室温にて20分間固定した。細胞を、0
.1M PBS,pH7.4で5分間2回洗浄した。細胞を、100%EtOH
で2分間透過処理した。次いで、この細胞を、0.1M PBSで5分間2回洗
浄した。細胞調製物を、室温で1時間、0.1M PBS、pH7.4中に希釈
した5%正常ヤギ血清(「NGS」)中でブロッキングした。細胞を、1% N
GS中に希釈したGFAPに対する一次抗体(DAKO Z334、ウサギポリ
クローナル;1:500で使用した)と、2時間室温でインキュベートした。次
いで、調製物を、0.1M PBSで5分間2回で洗浄した。細胞を、二次抗体
とインキュベートし、そしてβチューブリンについて上記に記載したようにさら
に処理した。
【0070】
この分化プロトコルは、以下のようにニューロンが富化された細胞培養物を産
生した。
【0071】
【表3】

【0072】
本発明者らはまた、培養物が加齢(すなわち、異なる継代において)するのに
一致して、単一の細胞株が分化する能力を、上記の分化プロトコルを用いて評価
した。そのデータは以下のとおりである。
【0073】
【表4】

【0074】
本発明者らは、これらのデータから、細胞が、継代数または培養齢にかかわり
なく再現性良く分化のパターンに従うと結論付ける。
【0075】
(実施例4:ヒト神経幹細胞の分化)
第二の分化プロトコルにおいて、増殖中の神経球を、増殖因子マイトジェンお
よびLIFの除去、ならびに1%血清、基材(例えば、ガラスカバースリップま
たは細胞外マトリクス成分)、イオン荷電の供給源(例えば、ポリオルニチン)
ならびに、10ng/ml PDGF A/B、10ng/ml CNTF、1
0ng/ml IGF−1、10μM フォルスコリン、30ng/ml T3
、10ng/ml LIFおよび1ng/ml NT−3をを含む増殖因子の混
合物の提供によって分化するように誘導した。この分化プロトコルは、高度にニ
ューロンが富化され(すなわち、分化した細胞培養物の35%を超える)、そし
て稀突起膠芽細胞が富化された細胞培養物を生成した。
【0076】
(実施例5:ヒト神経幹細胞の分化)
第三の分化プロトコルにおいて、細胞懸濁物を、hbFGF、EGF,および
LIFのカクテル中で最初に培養し、次いで20ng/mL hEGF(GIB
CO)および10ng/mLヒト白血病阻害因子(LIF)(R&D Syst
ems)を含むがhbFGFを含まないように変更した増殖培地に入れた。この
細胞は、最初、hbFGFもまた含む培養物よりも有意に緩慢に増殖した(図3
を参照のこと)。それにもかかわらず、この細胞は増殖を続け、22回もの継代
が行われた。幹細胞を増殖培地から取り出し、そして増殖因子カクテル(hPD
GF A/B、hCNTF、hGF−1、フォルスコリン、T3、およびhNT
−3)を補充した分化培地中にポリオルニチンコートしたガラスカバースリップ
上にプレートすることによって誘導して分化させた。驚くべきことに、GalC
免疫反応性が、これらの分化した培養物において、実施例4に記載される増殖因
子誘導プロトコルにおいて見られるO4陽性細胞の数を遥かに凌駕するレベルで
見られた。
【0077】
これゆえ、このプロトコルは、稀突起膠芽細胞の分化した細胞培養物富化を生
成した。ニューロンは、時折みられたのみであり、小さな突起を有し、そして非
常に未熟であるようであった。
【0078】
(実施例6:遺伝子改変)
本発明者らは、本明細書に記載のように、WO96/02646に記載される
Mx−1系を用いてヒト神経幹細胞に由来する神経膠芽細胞株を条件的不死化さ
せた。Mx−1系において、Mx−1プロモーターは、SV40ラージT抗原の
発現を駆動する。Mx−1プロモーターをインターフェロンによって誘導する。
誘導された場合、ラージTが発現され、そして静止細胞が増殖する。
【0079】
ヒト神経膠芽細胞を、以下のようにヒト前脳神経幹細胞から誘導した。増殖中
のヒト神経球を増殖培地から取り出し、そしてポリオルニチンプラスチック(2
4ウェルプレート)上で、マイトジェンEGF、bFGFおよびLIFならびに
0.5%FBSを有するN2混合物中でプレートした。0.5mlのN2培地お
よび1% FBSを添加した。この細胞を一晩インキュベートした。次いで、こ
の細胞を、Invitrogenリピドキット(リピド4および6)を用いて、
p318(SV40ラージT抗原に作動可能に連結されたMx−1プロモーター
を含むプラスミド)でトランスフェクトした。このトランスフェクション溶液は
、optiMEM培地中に6μl/mlの脂質および4μl/ml DNAを含
んだ。その細胞を、トランスフェクション溶液中で5時間インキュベートした。
このトランスフェクション溶液を除去し、そして細胞を、N2および1%FBS
および500U/ml A/Dインターフェロン中にプレートした。この細胞に
1週間に2回給餌した。10週間後、細胞を、ラージT抗原発現についてアッセ
イした。この細胞は、この時点で強いT抗原染色を示した。図4が示すように、
細胞数を、インターフェロンの非存在下よりもインターフェロンの存在下でより
高かった。
【0080】
ラージT発現を、以下のとおりに免疫細胞化学を用いてモニターした。細胞は
、4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で20分間固定した。細胞を、0.1
M PBS,pH7.4で5分間2回洗浄した。細胞を、100%EtOHで2
分間透過処理をした。次いで、この細胞を、0.1 PBSで5分間2回洗浄し
た。細胞調製物を、室温で1時間、0.1M PBS、pH7.4中に希釈した
5%正常ヤギ血清(「NGS」)中でブロッキングした。細胞を、1% NGS
中に希釈したラージT抗原に対する一次抗体(1:10で使用した)と、2時間
室温でインキュベートした。本発明者らは、ラージT抗原に対する抗体を、PA
B149細胞を培養し、そして馴化培地を得ることによって研究所内で調製した
。次いで、調製物を、0.1M PBSで5分間2回で洗浄した。細胞を、1%
NGS中に希釈した二次抗体(Vector Laboratoriesから
のビオチン化したヤギ抗マウスを1:500で、Vectastain Eli
te ABCマウスIgGキット、PK−6102)と、室温で30分間インキ
ュベートした。調製物を、0.1M PBSで5分間2回洗浄した。調製物を、
0.1M PBS、pH7.4中に1:500で希釈したABC試薬中で30分
間室温でインキュベートする。細胞を、0.1M PBS、pH7.4中で5分
間2回洗浄し、次いで0.1M Tris、pH7.6中で5分間2回洗浄した
。細胞を、DAB(ニッケル増感剤)中で5分間室温でインキュベートする。D
AB溶液を除去し、そして細胞を3〜5回dH2Oで洗浄する。細胞を、50%
グリセロール/50%0.1M PBS、pH7.4中に保存する。
【0081】
(実施例7:被包)
次に、ヒト神経幹細胞が被包される場合、以下の手順が使用され得る。
【0082】
中空繊維を外径720mおよび壁厚100m(AKZO−Nobel Wue
ppertal、Germany)を有するポリエーテルスルホン(PES)か
ら製造する。これらの繊維は、米国特許第4,976,859号および同4,9
68,733号(これを、本明細書において参考として援用する)に記載される
。この繊維を、その分子量カットオフについて選択し得る。本発明者らは、時折
、約280kdのMWCO(分子量カットオフ)を有するPES#5メンブレン
を使用する。他の研究において、本発明者らは、約90kdのMWCOを有する
PES#8メンブレンを使用する。
【0083】
このデバイスは、代表的に以下を備える:
1)AKZO Nobel Faser AGによって製造された、半透過性
のポリエーテルスルホン中空繊維メンブレン
2)ハブメンブレンセグメント
3)光硬化メタクリレート(LCM)樹脂先端;および
4シリコーンテザー。
【0084】
使用される半透過性メンブレンは、代表的に、以下の特徴を有する。
【0085】
内径:500+30m
壁厚:100+15m
破損強さ:100+15cN
破損伸長:44+10%
水圧透過性:63+8(ml/分 m2 mmHg)
nMWCO(デキストラン):280+20kd。
【0086】
このデバイスの成分は、市販されている。LCMグルーは、Ablestik
Laboratories(Newark、DE)から入手可能である(Lu
xtrak Adhesives LCM23およびLCM24)。テザー材料
は、Specialty Silicone Fabricators(Rob
les、CA)から入手可能である。テザー寸法は、0.79mm外径×0.4
3mm内径×長さ202mmである。このデバイスの形態は以下のとおりである
。内表面は、透過選択性のスキンを有する。この壁は開放性小胞発泡構造を有す
る。外表面は、開放性構造を有し、孔は外表面の30+5%を占める、1.5m
までである。
【0087】
繊維材料をまず、5cm長の切片へと切断し、そして各セグメントの遠位末端
を、光重合化したアクリル性グルー(LCM−25、ICI)で封着する。エチ
レンオキシドでの滅菌および排気後、その繊維セグメントに、液体培地中または
ヒドロゲルマトリクス(例えば、コラーゲン溶液(Zyderm(登録商標)、
アルギナート、アガロースまたはキトサン)中の104〜107細胞の間の懸濁物
を、Hamiltonシリンジおよび25ゲージ針を介して、付属の注入口を通
して充填する。カプセルの近位端を、同じアクリル性グルーで封着する。ヒト研
究に意図されるこのデバイスの容量は、約15〜18lである。
【0088】
シリコーンテザー(Specialty Silicone Fabrica
tion、Taunton、MA)(内径690m;外径1.25mm)を、繊
維の近位端の上に置き、そのデバイスの操作および取り出しを容易にさせる。
【0089】
(実施例8:神経幹細胞の移植)
本発明者らは、ラット脳へヒト神経幹細胞を移植し、そして移植片生存度、組
込み、移植片細胞の表現型の運命、ならびに損傷した動物における移植した細胞
と関連する行動変化を評価した。
【0090】
移植を、標準的な技術に従って実施した。成体ラットに、ペントバルビタール
ナトリウム(45mg/kg、i.p.)で麻酔をかけた。そして、Kopf定
位装置に配置した。正中切開を、頭皮において行い、そして細胞の注入のために
穴を開けた。ラットに、改変されていない、未分化のヒト神経幹細胞の移植物を
、左線条体に、10μlHamiltonシリンジに装着したガラスキャピラリ
ーを用いて与えた。各々の動物に、合計容量2μl中で合計約250,000〜
500,000細胞を与えた。細胞を、継代後1〜2日後に移植した。そして、
細胞懸濁物を、5〜20細胞の未分化の幹細胞クラスターから作製した。移植後
、皮膚を縫合して閉じた。
【0091】
動物の行動試験を行い、ついで組織学的分析のために屠殺した。
【0092】
(実施例9:神経幹細胞の移植を用いるEGF脳室内送達)
約300,000神経幹細胞を、小さな神経球として、標準的な技術を用いて
、側室脳近傍の成体ラット線条体へと移植した。同じ手術期間中に、EGF(4
00ng/日)またはビヒクルのいずれかを放出する浸透圧ミニポンプもまた、
線条体に移植した、ラットに、EGFを、流速0.5μL/時で7日間にわたっ
て与え、これにより各動物の側室脳に合計で2.8μgのEGFの送達をもたら
した。移植したラットのサブセットを、i.p.シクロスポリン注射(10mg
/kg/日)によりさらに免疫抑制した。ポンプ注入の最後の16時間の間、そ
の動物に、BrdUの注入(120mg/kg)を3時間毎に与えた。
【0093】
移植後1週間で、その動物を4%パラホルムアルデヒドで灌流し、そして連続
切片を30μmの厚さで凍結ミクロトーム上で切断した。脳切片を、星状細胞、
稀突起膠芽細胞、ニューロンおよび未分化の前駆体細胞のマーカーについて染色
した。最小限の移動は、EGFの非存在下で成体CNSにおいて示された。7日
齢の動物の移植片の卓越した生存は、M2免疫反応性によって示されるように、
EGFを与えたラットにおいて見られた。そして、EGF処置した動物における
移植片は、ビヒクル単独で処置した動物におけるよりもより大規模であった。さ
らに、宿主細胞の増殖は、EGF処置の際に観察された。BrdU注射を屠殺前
に与えた動物では、処置した脳室において分裂中の細胞数が増加したが、隣接す
る脳室では増加しないことが示された。
【0094】
(実施例10:脊髄空洞症の処置)
初代胎児性移植片を使用して、患者における脊髄損傷の周りに形成された空洞
の痕跡を除去した。本発明に記載される神経幹細胞は、置換に適切である。なぜ
なら、構造的機能のみがこの細胞に必要であるからである。神経幹細胞を、損傷
した患者の脊髄に移植して、空洞形成を予防する。結果を、好ましくはMRI画
像化により測定する。臨床試験プロトコルは記載されており、そして記載される
神経幹細胞を含むように容易に改変され得る。
【0095】
(実施例11:インビトロで増加したヒト神経幹細胞の子孫を使用した神経変
性疾患の処置)
細胞を、慣用的な吸引中絶法に従って、8週齢のヒト胎児からの腹側中脳組織
から得、これを、滅菌の収集装置に収集する。2×4×1mmの組織片を、実施
例2のように切片化しそして分離する。次いで、神経幹細胞を増殖する。神経幹
細胞の子孫を、神経変性疾患を伴う、血液型が適合する宿主へと神経移植するた
めに使用する。手術を、BRWコンピュータ断層撮影法(CT)定位ガイドを用
いて実施する。この患者を、静脈内に投与したミダゾラムでさらに(suppi
emencea)局所麻酔する。この患者をCTスキャンして、その移植片を与
えた領域の座標を確立する。この注入カニューレは、19ゲージの内部スタイレ
ットを伴う17ゲージステンレス鋼外側カニューレからなる。これを、脳内に正
確な座標へと挿入し、次いで、これを取り出し、そして30μlの組織懸濁物を
予備充填した19ゲージの注入カニューレに置換する。その細胞をカニューレを
取り除くときに3μl/分の速度でゆっくりと注入する。多重の定位針経路を、
目的の領域中に、約4mm分離させて作製する。患者を、術後にCTスキャンに
より、出血または浮腫について検査する。神経学的評価を、種々の術後の間隔で
実施し、そしてPETスキャンをして移植した細胞の代謝活性を決定する。
【0096】
(実施例12:リン酸カルシウムトランスフェクションを用いた神経幹細胞の
子孫の遺伝子改変)
神経幹細胞子孫を、実施例2に記載のように増殖する。次いで、その細胞を、
リン酸カルシウムトランスフェクション技術を用いてトランスフェクトする。標
準的なリン酸カルシウムトランスフェクションのために、その細胞を、単一細胞
懸濁へと機械的に分離させ、そして50%のコンフルエンスで組織培養処置した
ディッシュにプレートし(50,000〜75,000細胞/cm2)、そして
一晩付着させる。
【0097】
改変したリン酸カルシウムトランスフェクション手順を、以下のように実施す
る。滅菌TE緩衝液(10mM Tris、0.25mM EDTA、pH7.
5)中のDNA(15〜25μg)を、440μlにTEを用いて希釈し、そし
て60μlの2M CaCl2(pHを、1M HEPES緩衝液で5.8にす
る)をDNA/TE緩衝液に添加する。合計500μlの2×HeBS(HEP
ES緩衝化生理食塩水;275mM NaCl、10mM KCl、1.4mM
Na2HPO4、12mM デキストロース、40mM HEPES緩衝剤粉末
、pH6.92)を滴下してこの混合物に加える。この混合物を、室温で20分
間放置する。この細胞を、手短に1×HeBSで洗浄し、そして1mlのリン酸
カルシウム沈降DNA溶液を各プレートに添加し、そしてその細胞を、37℃で
20分間インキュベートする。このインキュベーション後、10mlの完全培地
をこの細胞に添加し、そしてそのプレートをインキュベーターに(37℃、9.
5%CO2)、さらに3〜6時間配置する。このDNAおよびその培地を、イン
キュベーション期間の末期に吸引除去により除去し、そしてその細胞を、完全増
殖培地で3回洗浄し、次いでそのインキュベーターに戻す。
【0098】
(実施例13:神経幹細胞子孫の遺伝子改変)
実施例2のように増殖した細胞を、FGF−2レセプターまたはNGFレセプ
ターについての遺伝子を含む発現ベクターでトランスフェクトする。その遺伝子
を含むベクターDNAを、0.1×TE(1mM Tris pH8.0、0.
1mM EDTA)に希釈して40μg/mlの濃度にする。22μlのこのD
NAを、使い捨ての滅菌5mlプラスチックチューブ中の250μlの2×HB
S(280mM NaCl、10mM KCl、1.5mM Na2HPO4・2
2O、12mM デキストロース、50mM HEPES)に添加する。31
μlの2M CaCl2をゆっくりと添加し、そしてその混合物を、室温で30
分間インキュベートする。この30分間のインキュベーションの間、この細胞を
、800gで5分間4℃で遠心分離する。この細胞を、20容量の氷冷PBS中
に再懸濁し、そして1×107細胞のアリコートに分割し、これを再び遠心分離
する。各細胞のアリコートを、1mlのDNA−CaCl2懸濁液に再懸濁し、
そして20分間室温でインキュベートする。次いで、この細胞を、増殖培地に希
釈し、そして5〜7%CO2中で37℃で6〜24時間インキュベートする。こ
の細胞を再び遠心分離し、PBS中で洗浄し、そして10mlの増殖培地に48
時間戻す。
【0099】
トランスフェクトされた神経幹細胞子孫を、ヒト患者に、実施例8または実施
例11に記載されるような手順を用いて移植するか、またはこれを、以下の実施
例に記載されるような薬物スクリーニング手順のために使用する。
【0100】
(実施例14:多能性神経幹細胞および神経幹細胞子孫に対する効果について
の薬物または他の生物学的薬剤のスクリーニング)
A.ニューロンおよびグリア細胞の分化および生存に対するBDNFの効果
前駆体細胞を、実施例2に記載のように増殖させ、そして実施例4に記載のよ
うに分化させた。この細胞をプレートする時点で、BDNFを10ng/mlの
濃度で添加した。インビトロ(DIV)で3、7、14、および21日において
、細胞を間接免疫細胞学のために処置した。BrdU標識を使用して、神経幹細
胞の増殖をモニターした。ニューロン、稀突起膠芽細胞、および星状細胞に対す
るBDNFの効果を、ニューロン上に見出される抗原(MAP−2、NSE、N
F)、稀突起膠芽細胞上に見出される抗原(O4、GalC、MBP)、または
星状細胞上に見出される抗原(GFAP)を認識する抗体を用いて培養物をプロ
ービングすることによりアッセイした。細胞の生存度を、各時点での免疫反応性
の細胞数を計数することにより決定し、そして形態学的な観察を行った。BDN
Fは、コントロール条件下で観察された数に比べて、ニューロンの分化および生
存度を有意に増加した。星状細胞および稀突起膠芽細胞の数は、コントロール値
からは有意に異ならなかった。
【0101】
B.神経表現型の分化に対するBDNFの効果
パートAに記載される方法に従ってBDNFで処理した細胞を、神経伝達物質
または神経伝達物質の合成に関与する酵素を認識する抗体を用いてプロービング
した。これらは、TH、ChAT,サブスタンスP、GABA、ソマトスタチン
、およびグルタミン酸を含んだ。コントロール条件およびBDNF処置培養条件
の両方において、試験したニューロンは、サブスタンスPおよびGABAの存在
について陽性であった。数の増加とともに、BDNFにおいて増殖したニューロ
ンは、コントロールの例と比較した場合、神経突起伸長および分岐の劇的な増加
を示した。
【0102】
C.増殖因子応答性細胞の同定
細胞を、実施例4に記載のように分化させ、そして1DIVにおいて、約10
0ng/mlのBDNFを添加した。BDNFの添加後1、3、6、12および
24時間に、この細胞を、固定し、そして二重標識免疫細胞学のために処理した
。ニューロン(MAP−2、NSE、NF)、稀突起膠芽細胞(O4、GalC
、MBP)、または星状細胞(GFAP)を認識する抗体を、c−fosおよび
/または他の前初期遺伝子を認識する抗体とともに用いた。BDNFへの曝露は
、ニューロン細胞におけるc−fosの発現の選択的増加をもたらした。
【0103】
D.増殖および分化の間のマーカーおよび調節因子の発現に対するBDNFの
効果
パートAにおいて記載される方法に従って、BDNFで処置した細胞を、調節
因子、FGF−R1または他のマーカーの発現の分析のために処置する。
【0104】
E.増殖因子が産生した幹細胞子孫の増殖、分化および生存に対するクロルプ
ロマジンの効果
精神病の処置に広汎に使用される薬物であるクロルプロマジンを、10ng/
ml〜1000ng/mlの範囲の濃度で、上記の実施例14A〜14Dにおけ
るBDNFの代わりに用いる。種々の濃度での、幹細胞増殖ならびに幹細胞子孫
の分化および生存に対するこの薬物の効果をモニターする。分化したニューロン
の遺伝子発現および電気生理学的特性における変化を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、ヒト前脳組織由来の増殖性9FBrヒト神経幹細胞(継代数6)の球の代表例を示す。
【図2A】図2は、パネルAは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した6.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルBは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した9Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルCは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した9.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルDは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した10.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。
【図2B】図2は、パネルAは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した6.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルBは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した9Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルCは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した9.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルDは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した10.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。
【図2C】図2は、パネルAは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した6.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルBは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した9Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルCは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した9.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルDは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した10.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。
【図2D】図2は、パネルAは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した6.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルBは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した9Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルCは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した9.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。パネルDは、(a)EGF、FGF、および白血病阻害因子(「LIF」)を含む規定培地(黒菱形で示す)、ならびに(b)LIFを含まない同じ培地(白菱形で示す)中で培養した10.5Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。
【図3】図3は、(a)EGFおよび塩基性線維芽細胞増殖因子(「bFGF」)を含む規定培地(白菱形で示す)、ならびに(b)EGFを含むがbFGFを含まない規定培地(黒菱形で示す)中で培養した9Fbrと称するヒト神経幹細胞株についての増殖曲線を示す。
【図4】図4は、ヒト神経幹細胞株に由来する条件的不死化ヒト神経膠芽細胞株Mx−1についての細胞数対培養日数のグラフを示す。白四角は、インターフェロン存在下での増殖を示し、黒菱形は、インターフェロンの非存在下での増殖を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−106301(P2009−106301A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331441(P2008−331441)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【分割の表示】特願2000−508770(P2000−508770)の分割
【原出願日】平成10年9月4日(1998.9.4)
【出願人】(500107186)サイトセラピューティックス,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】