説明

ヒトDelta様リガンド4に対するヒト抗体

ヒトDelta様リガンド4(hDll4)に特異的に結合し、かつNotch受容体へのhDll4の結合を遮断する、単離されたヒト抗体またはヒト抗体の断片を提供する。ヒト抗hDll4抗体または抗体断片は、表面プラズモン共鳴によって測定される場合に500 pM以下の親和性でhDll4に結合する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
Notchシグナル伝達経路は、分化、増殖、およびホメオスタシスのような多数の生物学的プロセスに関して、広い範囲の真核細胞生物によって使用される、細胞同士のコミュニケーションのためのシステムである。Delta様4(Dl4)またはDelta様リガンド4(Dll4)(以下、「Dll4」)は、血管内皮による高度に選択的な発現を示すNotchリガンドである、Deltaファミリーのメンバーである(Shutter et al. (2000) Genes Develop. 14: 1313-1318(非特許文献1))。Dll4は、Notch1およびNotch4を含むNotch受容体のためのリガンドである。ヒトDll4に関する核酸配列およびアミノ酸配列は、各々、SEQ ID NO:1〜2中に示される。
【0002】
ヒトの治療薬として有用な抗体を産生する方法は、キメラ抗体およびヒト化抗体の生成を含む(例えば、米国特許第6,949,245号(特許文献1)を参照のこと)。例えば、ヒト抗体を産生することが可能な、非ヒトトランスジェニックマウスを生成する方法を記載する国際公開公報第94/02602号(特許文献2)(Abgenix)、および米国特許第6,596,541号(特許文献3)(Regeneron Pharmaceuticals)を参照のこと。
【0003】
公開特許公報第2003/047470A2号(特許文献4)(旭化成工業)には、ヒトNotchリガンドタンパク質の細胞外部分に対する抗体が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,949,245号
【特許文献2】国際公開公報第94/02602号
【特許文献3】米国特許第6,596,541号
【特許文献4】公開特許公報第2003/047470A2号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shutter et al. (2000) Genes Develop. 14: 1313-1318
【発明の概要】
【0006】
第一の局面において、本発明は、ヒト抗体、好ましくはヒトDelta様リガンド4(hDll4)に特異的に結合する組換えヒト抗体を提供する。これらの抗体は、高い親和性でhDll4に結合すること、およびDll4活性を中和する能力によって特徴付けられる。本発明の抗体は、Notch受容体へのDll4の結合を遮断することが可能であり、かつそれによりDll4によるシグナル伝達を阻害する。該抗体は、全長(例えば、IgG1もしくはIgG4抗体)であり得、または抗原結合部分(例えば、Fab、F(ab’)2、もしくはscFv断片)のみを含んでもよく、かつ機能性に影響を及ぼすように、例えば、残存するエフェクター機能を除去するように(残存するエフェクター機能を除去するGlu)改変されてもよい(Reddy et al. (2000) J. Immunol. 164: 1925-1933)。
【0007】
一つの態様において、本発明の抗体は、

からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)、またはそれと実質的に同一の配列を含む。好ましい態様において、HCVRはSEQ ID NO:429または901のアミノ酸配列である。
【0008】
一つの態様において、本発明の抗体は、

からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)、またはそれと実質的に同一の配列を含む。好ましい態様において、LCVRはSEQ ID NO:437または903のアミノ酸配列である。
【0009】
一つの態様において、本発明の抗体は、

からなる群より選択されるHCVR、またはそれと実質的に同一の配列を含み、かつ

からなる群より選択されるLCVR、またはそれと実質的に同一の配列を含む。好ましい態様において、HCVR/LCVRはSEQ ID NO:429/437または901/903のアミノ酸配列対である。
【0010】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択される重鎖相補的決定領域1(CDR1)、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0011】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択される重鎖CDR2、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0012】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択される重鎖CDR3、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0013】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択される重鎖CDR1、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片、

からなる群より選択される重鎖CDR2、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片、

からなる群より選択される重鎖CDR3、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。好ましい態様において、抗体または抗体断片は、SEQ ID NO:431/433/435;374/376/378;783/785/787;および799/801/803からなる群より選択される重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0014】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択される軽鎖CDR1、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0015】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択される軽鎖CDR2、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0016】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択される軽鎖CDR3、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0017】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択される軽鎖CDR1、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片、

からなる群より選択される軽鎖CDR2、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片、

からなる群より選択される軽鎖CDR3、またはそれと実質的に同一の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。好ましい態様において、抗体または抗体断片は、SEQ ID NO:439/441/443;382/384/386;791/793/795;および807/809/811からなる群より選択される軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0018】
第二の局面において、本発明は、本発明の抗体または抗原結合部分をコードする核酸分子を提供する。該抗体をコードする本発明の核酸を保持する組換え発現ベクター、およびそのようなベクターが導入される宿主細胞も、本発明の宿主細胞を培養することにより本発明の抗体を作製する方法として本発明に包含される。
【0019】
一つの態様において、本発明の抗体は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされるHCVR、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0020】
一つの態様において、本発明の抗体は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされるLCVR、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0021】
一つの態様において、本発明の抗体は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされるHCVR、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列、ならびに

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされるLCVR、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0022】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる重鎖CDR1、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0023】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる重鎖CDR2、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0024】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる重鎖CDR3、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0025】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる重鎖CDR1、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる重鎖CDR2、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片、ならびに

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる重鎖CDR3、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。好ましい態様において、抗体または抗体断片は、SEQ ID NO:430/432/434;373/375/377;782/784/786;および798/800/802からなる群より選択される核酸配列によってコードされる重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0026】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖CDR1、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0027】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖CDR2、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0028】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖CDR3、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。
【0029】
一つの態様において、本発明は、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖CDR1、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片、

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖CDR2、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片、ならびに

からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされる軽鎖CDR3、またはそれと少なくとも95%の相同性を有する実質的に類似の配列を含む、ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。好ましい態様において、抗体または抗体断片は、SEQ ID NO:438/440/442;381/383/385;790/792/794;および806/808/810からなる群より選択される核酸配列によってコードされる軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0030】
第三の局面において、本発明は、hDll4と特異的に結合する、単離された抗体または抗体断片を特徴とし、
(a)X1がGly;X2がPheまたはTyr;X3がThr;X4がPhe;X5がSer、Thr、またはAsn;X6がSer、Asn、またはTyr;X7がTyrまたはPhe;およびX8がGlyまたはAlaである、式X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8(SEQ ID NO:928)のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1領域、
(b)X1がIleまたはLeu;X2がTrpまたはSer;X3がTyr、Ala、またはGly;X4がAsp、Ser、またはTyr;X5がGlyまたはAsp;X6がSer、Gly、Thr、またはVal;X7がAsnまたはAsp;およびX8がLysまたはArgである、式

のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2領域、
(c)X1がAlaまたはSer;X2がArgまたはLys;X3がAspまたはTyr;X4がSer、Gly、またはHis;X5がAsp、Ala、またはTrp;X6がAsnまたはPhe;X7がTyr、Arg、またはLys;X8がHisまたはSer;X9がGlyまたはTrp;X10がTyrまたはPhe;X11がGluまたはAsp;X12がGly、His、またはPro;X13がTyr、Trp、または無し;X14がPheまたは無し;X15がAspまたは無し;およびX16がProまたは無しである、式

のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3領域
からなる群より選択されるCDR1、2、および3を含む。
【0031】
好ましい態様において、抗体または抗体断片は、
(a)X1がGly;X2がPhe;X3がThr;X4がPhe;X5がSerまたはAsn;X6がSerまたはAsn;X7がTyrまたはPhe;およびX8がGlyまたはAlaである、式

のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1領域、
(b)X1がIleまたはLeu;X2がTrpまたはSer;X3がTyrまたはGly;X4がAspまたはSer;X5がGly;X6がSer、Thr、またはVal;X7がAsnまたはAsp;およびX8がLysまたはArgである、式

のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2領域、
(c)X1がAlaまたはSer;X2がArgまたはLys;X3がAsp;X4がGlyまたはHis;X5がAspまたはAla;X6がPhe;X7がTyrまたはArg;X8がSer;X9がGly;X10がTyr;X11がGlu;X12がGlyまたはHis;X13がTyrまたはTrp;X14がPheまたは無し;X15がAspまたは無し;およびX16がProまたは無しである、式

のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3領域
からなる群より選択される重鎖CDR1、2、および3を含む。
【0032】
さらなる態様において、単離された抗体または抗体断片は、
(d)X1がGln;X2がSer;X3がVal;X4がArg、Ser、またはThr;X5がSerまたはGly;X6がSerまたはTyr;およびX7がTyrまたは無しである、式

のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1領域、
(e)X1がGlyまたはAsp;X2がAlaまたはThr;およびX3がSerである、式X1-X2-X3(SEQ ID NO:932)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2領域、ならびに
(f)X1がGln;X2がGlnまたはHis;X3がTyr、Arg、またはSer;X4がGly、Ser、またはAla;X5がSer、Asn、またはPhe;X6がTrpまたはSer;X7がPro;X8がTrp、Pro、またはArg;およびX9がThrである、式

のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3領域
をさらに含む。
【0033】
好ましい態様において、単離された抗体または抗体断片は、
(d)X1がGln;X2がSer;X3がVal;X4がArgまたはSer;X5がSer;X6がSerまたはTyr;およびX7がTyrまたは無しである、式

のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1領域、
(e)X1がGlyまたはAsp;X2がAlaまたはThr;およびX3がSerである、式X1-X2-X3(SEQ ID NO:932)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2領域、ならびに
(f)X1がGln;X2がGlnまたはHis;X3がTyrまたはArg;X4がGlyまたはSer;X5がSerまたはAsn;X6がTrpまたはSer;X7がPro;X8がProまたはArg;およびX9がThrである、式

のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3領域
をさらに含む。
【0034】
第四の局面において、本発明は、インビトロアッセイまたはELISAに基づくDll4遮断アッセイ(以下に記載される)において測定される、約10 nM未満のIC50でhDll4に結合する、完全ヒト抗体または抗体断片を特徴とする。好ましい態様において、本発明の抗体は、約500 pM以下のIC50を示す。さらにより好ましい態様において、本発明の抗体は、約100 pM以下のIC50を示す。
【0035】
一つの態様において、本発明は、ヒトDll4に特異的に結合しかつヒトDll4を阻害し、かつhDll4-Fcを用いたNotch誘導性ルシフェラーゼバイオアッセイによって測定される、約150 pM、100 pM、75 pM、または50 pM以下のIC50を示す、完全ヒトモノクローナル抗体を提供する。下記の実験の項において示されるように、本発明の抗hDll4抗体は、hDll1およびhDll3のような密接に関連するDeltaタンパク質と交差反応しない。
【0036】
一つの態様において、本発明は、例えば、二量体hDll4を使用する表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))によって決定される、約500 pM未満、好ましくは約300 pM未満、さらにより好ましくは約100 pM未満、約50 pM未満、約10 pM未満のKDでhDll4に結合する、単離されたヒト抗体またはその抗原結合部分を提供する(表2)。
【0037】
本発明は、改変されたグリコシル化パターンを有する抗hDll4抗体を包含する。いくつかの適用において、望ましくないグリコシル化部位を除去する修飾が有用である可能性がある、またはオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠如する抗体が、例えば抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)機能を増加させるために有用である可能性がある(Shield et al. (2002) JBC 277: 26733を参照のこと)。他の適用において、ガラクトシル化の修飾は、補体依存性細胞障害活性(CDC)を改変するために行われ得る。
【0038】
本発明は、hDll4の特異的エピトープに結合し、かつhDll4の生物学的活性を遮断することが可能な抗hDll4抗体を含む。Dll4の細胞外ドメインは、N末端ドメイン、Delta/Serrate/Lag-2(DSL)ドメイン、および8個の上皮成長因子(EGF)様タンデムリピートから構成される。一般に、EGFドメインは、hDll4(SEQ ID NO:2)のアミノ酸残基の約218〜251位(ドメイン1)、252〜282位(ドメイン2)、284〜322位(ドメイン3)、324〜360位(ドメイン4)、および362〜400位(ドメイン5)に、DSLドメインは、アミノ酸残基の約173〜217位に、かつN末端ドメインは、アミノ酸残基の約27〜172位に存在すると認識されている。
【0039】
一つの態様において、本発明の遮断抗体は、SEQ ID NO:2のアミノ酸残基27〜524位に結合する。より具体的な態様において、本発明の遮断抗体は、SEQ ID NO:2のN末端DSLドメイン27〜217内のエピトープに結合し、さらにより具体的な態様において、遮断抗体は、アミノ酸残基の約27〜172(N末端ドメイン)または173〜217(DSLドメイン)内のエピトープに結合する。別の態様において、本発明の遮断抗体は、SEQ ID NO:2のアミノ酸残基の約252〜282内のEGF-2エピトープに結合する。
【0040】
第五の局面において、本発明は、組換えヒト抗ヒトDll4抗体および許容される担体を含む組成物を特徴とする。さらに本発明に包含されるものは、ベクター、および本発明のヒト抗hDll4抗体をコードする核酸分子を含有するベクターを含む宿主細胞、ならびに該タンパク質の産生およびそのように産生されたタンパク質の回収を許容する条件下で、本発明の抗hDll4抗体または抗体断片をコードする核酸を含有する宿主細胞を増殖させる段階を含む、これらの新規抗体を産生する方法である。
【0041】
第六の局面において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合部分を使用して、hDll4活性を阻害するための方法を特徴とする。一つの態様において、本方法は、hDll4と例えばNotch-1などのNotch受容体との結合を阻害するように、本抗体またはその抗原結合部分とhDll4とを接触させる段階を含む。別の態様において、本方法は、Dll4活性の阻害によって寛解する障害を患うヒト対象へ、本発明の抗体または抗体断片を投与する段階を含む。処置される障害は、Dll4活性の除去、阻害、または減少によって改善する、寛解する、阻害される、または回避される疾患または状態であり、例えば、腫瘍血管新生および癌に付随する病的血管新生、免疫不全症、移植拒絶反応、または炎症;ならびに例えばプリオン病に付随するような神経変性状態である。本発明はまた、上に記載されるように、ヒトにおけるDll4介在性疾患もしくは障害を緩和する、または阻害するための使用に関する薬物の製造における、抗体または抗体の抗原結合断片の使用を提供する。
【0042】
他の目的および利点は、後続の詳細な説明の概説から明確になると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
詳細な説明
本方法を記載する前に、方法および条件は変動する可能性があることから、本発明は、特定の方法および記載された実験条件に限定されないことが理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって限定されるため、本明細書において使用される用語は、特定の態様を記載する目的のためのみであり、限定的であることが意図されないことも、理解されるべきである。
【0044】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、文脈においてそうでないことが明確に規定されない限り、複数形の言及を含む。したがって例えば、「一つの方法」の言及は、一つもしくは複数の方法、ならびに/または本明細書において記載される種類の段階、および/もしくは本開示を読めば当業者に明らかになると考えられる種類の段落を含む。
【0045】
他に規定されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書において記載されるものと類似のまたは同等の任意の方法および材料は、本発明の実施または試験の際に使用され得るが、好ましい方法および材料は以下に記載される。
【0046】
定義
「Delta様リガンド4」、「Dll4」、「hDll4」は、SEQ ID NO:1の核酸配列によってコードされるタンパク質、およびSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有するタンパク質に言及するために、互換的に使用される。
【0047】
本明細書において使用される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互連結される二個の重(H)鎖および二個の軽(L)鎖である、四個のポリペプチド鎖から構成される免疫グロブリン分子を意味することが意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書において、HCVRまたはVHと略記される、)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、三個のドメイン、CH1、CH2、およびCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書において、LCVRまたはVLと省略される)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、一個のドメインであるCLから構成される。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在する、相補的決定領域(CDR)と称される超可変性の領域へさらに細分され得る。各VHおよびVLは、三個のCDRおよび四個のFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端まで、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置される。
【0048】
「高い親和性」抗体という用語は、例えば、BIACORE(商標)または溶液親和性(solution affinity)ELISAのような表面プラズモン共鳴によって測定される、少なくとも10-8 M、好ましくは10-9 M、さらにより好ましくは10-10 MのhDll4に対する結合親和性を有する抗体を意味する。
【0049】
「解離速度定数」または「Koff」という用語は、例えばBIACORE(商標)などの表面プラズモン共鳴によって決定される、1×10-3 s-1以下、好ましくは1×10-4 s-1以下の速度定数でhDll4から解離する抗体を意味する。
【0050】
「中和」または「遮断」抗体は、そのDll4への結合が、Dll4の生物学的活性の阻害をもたらす抗体を意味することが意図される。このDll4の生物学的活性の阻害は、Dll4の生物学的活性の、一つまたは複数の指標を測定することによって評価され得る。Dll4の生物学的活性のこれらの指標は、当技術分野において公知のいくつかの標準的なインビトロまたはインビボアッセイの一つまたは複数によって評価され得る(以下の実施例を参照のこと)。好ましくは、Dll4活性を中和する抗体の能力は、Notch受容体へのDll4の結合の阻害によって評価される。
【0051】
本明細書において使用される、抗体の「抗原結合部分」(または単に、「抗体部分」もしくは「抗体断片」)という用語は、抗原(例えば、hDll4)に特異的に結合する能力を維持する抗体の一つまたは複数の断片を意味する。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によって行われ得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例は、(i)VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる一価の断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結される二個のFab断片を含む二価の断片であるF(ab’)2断片、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al. (1989) Nature 241: 544-546)、ならびに(vi)単離されたCDRを含む。さらに、Fv断片の二個のドメイン、VLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、VL領域およびVH領域が対合して一価の分子を形成する、単一のタンパク質鎖としてそれらが作製されることを可能にする、合成リンカーによる組換え法を使用して、それらは連結され得る(一本鎖Fv(scFv)として公知;例えば、Bird et al. (1988) Science 242: 423-426、およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883を参照のこと)。そのような一本鎖抗体も、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されることが意図される。ダイアボディのような、一本鎖抗体の他の形態も包含される。ダイアボディは、VHおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖上に発現されるが、同一鎖状の二個のドメイン間を対合させるには短すぎるリンカーを使用し、それによって該ドメインを別の鎖の相補的ドメインと対合させ、かつ二個の抗原結合部位を作り出す、二価の二重特異性抗体である(例えば、Holliger et al. (1993) Proc. Natl. Acad Sci. USA 90: 6444-6448、Poljak et al. (1994) Structure 2: 1121-1123を参照のこと)。
【0052】
さらにまた、抗体またはその抗原結合部分は、一つまたは複数の他のタンパク質またはペプチドと、抗体または抗体部分との共有結合または非共有結合によって形成される、より大きな免疫接着(immunoadhesion)分子の一部であってもよい。そのような免疫接着分子の例は、四量体scFv分子を成すストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov et al. (1995) Human Antibodies and Hybridomas 6: 93-101)、ならびに二価でかつビオチン化されたscFv分子を成す、システイン残基、標識ペプチド、およびC末端ポリヒスチジンタグの使用を含む(Kipriyanov et al. (1994) Mol. Immunol. 31: 1047-1058)。Fab断片およびF(ab’)2断片のような抗体部分は、抗体全体のパパインまたはペプシン消化などの従来型技術を各々使用して、抗体全体から調製され得る。さらに、抗体、抗体タンパク質、および免疫接着分子は、本明細書に記載されるような標準的な組換えDNA技術を使用して得ることが可能である。
【0053】
本明細書において使用される、「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系免疫グロブリン配列に由来する、可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが意図される。本発明のヒト抗体は、例えばCDRにおいて、およびとりわけCDR3において、ヒト生殖系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含んでもよい(例えば、無作為のもしくは部位特異的なインビトロ突然変異誘発、またはインビボ体細胞変異によって導入される変異)。しかしながら、本明細書において使用される「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖系に由来するCDR配列が、ヒトのフレームワーク配列上に接合された抗体を含むことは意図されない。
【0054】
本明細書において使用される、「組換えヒト抗体」という用語は、宿主細胞中に形質移入された組換え発現ベクターを使用して発現された抗体(以下にさらに記載される)、組換え、コンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(以下にさらに記載される)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックな動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al. (1992) Nucl. Acids Res. 20: 6287-6295を参照のこと)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製され、発現され、作り出され、もしくは単離された抗体のような、組換え手段によって調製され、発現され、作り出され、または単離された全てのヒト抗体を含むことが意図される。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかしながら、特定の態様において、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ突然変異誘発(またはヒトIg配列に関してトランスジェニックな動物が使用される際には、インビボ体細胞突然変異誘発)に供され、したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系VHおよびVL配列に由来しかつ関連するが、インビボのヒト抗体生殖系レパートリー内に天然に存在しない可能性がある配列である。
【0055】
本明細書において使用される「単離された抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体が実質的に存在しない抗体を意味することが意図される(例えば、hDll4に特異的に結合する単離された抗体には、hDll4以外の抗原に特異的に結合する抗体が実質的に存在しない)。しかしながら、hDll4に特異的に結合する単離された抗体は、他の種由来のhDll4分子のような他の抗原に対して交差反応性を有する可能性がある。さらに、単離された抗体は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に有しなくてもよい。
【0056】
本明細書において使用される「表面プラズモン共鳴」という用語は、例えば、BIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB、Uppsala、Sweden and Piscataway, N.J.)を使用して、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出によって、リアルタイム生体特異的相互作用の解析を可能にする光学的現象を意味する。
【0057】
本明細書において使用される「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離定数を意味することが意図される。
【0058】
「エピトープ」という用語は、任意の決定基、好ましくは免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合することが可能なポリペプチド決定基を含む。特定の態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基のような分子の化学的に活性な表面基を含み、かつ特定の態様においては、特定の三次元構造学的特性および/または特異的電荷特性を有してもよい。エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。特定の態様において、抗体は、タンパク質および/または高分子の混合物中で、その標的抗原を選択的に認識する際に、抗原に特異的に結合すると言われる。好ましい態様において、平衡解離定数が10-8 M未満またはそれと等しい場合に、より好ましくは平衡解離定数が10-9 M未満またはそれと等しい場合に、最も好ましくは平衡解離定数が10-10 M未満またはそれと等しい場合に、抗体は抗原に特異的に結合すると言われる。
【0059】
タンパク質またはポリペプチドは、試料の少なくとも約60〜75%が単一種のポリペプチドを示す場合に、「実質的に純粋」である、「実質的に均一」である、または「実質的に精製され」ている。ポリペプチドまたはタンパク質は、単量体または多量体であってもよい。実質的に純粋なポリペプチドまたはタンパク質は、タンパク質試料の約50%、60、70%、80%、または90% W/W、より通常は約95%を典型的に含むと考えられ、かつ好ましくは99%を上回って純粋であると考えられる。タンパク質の純度または均一性は、タンパク質試料のポリアクリルアミドゲル電気泳動に続き、当技術分野において周知の染色剤を用いてゲルを染色して、単一のポリペプチドバンドを可視化するような、当技術分野において周知の多数の手段によって示されてもよい。特定の目的に関して、HPLCまたは当技術分野において周知の他の精製手段を使用することによって、より高い分解能が提供され得る。
【0060】
本明細書において使用される「ポリペプチドのアナログまたは変種」という用語は、アミノ酸配列の一部分に対し実質的な同一性を有し、かつ少なくとも以下の特徴:(1)適切な結合条件下でのhDll4に対する特異的結合、または(2)Notch受容体に対するDll4の結合を遮断する能力のうちの一つを有する、少なくとも25個のアミノ酸区分から構成されるポリペプチドを意味する。典型的に、ポリペプチドのアナログまたは変種は、天然の配列に関して保存的なアミノ酸置換(または挿入もしくは欠失)を含む。アナログは典型的に、少なくとも20個のアミノ酸長、好ましくは少なくとも50、60、70、80、90、100、150、もしくは200個のアミノ酸長またはそれより長く、往々にして天然のポリペプチドの全長と同等の長さであり得る。
【0061】
好ましいアミノ酸置換は、(1)タンパク質分解に対する感受性を減少させ、(2)酸化に対する感受性を減少させ、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性を改変し、(4)結合親和性を改変し、かつ(4)そのようなアナログの他の物理化学的または機能的特徴を付与または改変するものである。アナログは、天然ペプチドの配列以外の配列の様々な変異を含み得る。例えば、単一または複数のアミノ酸置換(好ましくは、保存的アミノ酸置換)が、天然の配列中で(好ましくは、分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチド部分中に)行われてもよい。保存的アミノ酸置換は、元の配列の構造学的特性を実質的に変化させてはならない(例えば、置換アミノ酸は、元の配列中に生じるらせんを破壊する、または元の配列を特徴づける他の種類の二次構造を乱す傾向にあってはならない)。当技術分野で認識されているポリペプチドの二次および三次構造の例は、Proteins, Structures and Molecular Principles (Creighton 1984 W. H. Freeman and Company, New York; Introduction to Protein Structure (Branden&Tooze, eds., 1991, Garland Publishing, NY)、およびThornton et al. 1991 Nature 354: 105に記載されている。
【0062】
非ペプチドアナログは、鋳型ペプチドの特徴と類似の特徴を有する薬物として、製薬業界において一般に使用される。これらの種類の非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣物(peptide mimetic)」または「ペプチド模倣物(peptidemimetic)」と称される(例えば、Fauchere (1986) J. Adv. Drug Res. 15: 29、およびEvans et al. (1987) J. Med. Chem. 30: 1229を参照のこと)。コンセンサス配列の一つまたは複数のアミノ酸の、同一種のDアミノ酸との系統的置換(例えば、Lリジンに換えてDリジン)も、より安定なタンパク質を生成するために使用されてもよい。さらに、コンセンサス配列または実質的に同一のコンセンサス配列のバリエーションを含む拘束性ペプチドが、例えば、ペプチドを環化する分子内ジスルフィド架橋を形成することが可能な内部システイン残基の添加のような、当技術分野において公知の方法によって生成されてもよい(Rizo et al. (1992) Ann. Rev. Biochem. 61: 387)。
【0063】
核酸配列の文脈における、「配列同一性パーセント」という用語は、最大一致に関して整列させる際に、二つの配列中の同一の残基を意味する。配列同一性比較の長さは、少なくとも約9ヌクレオチド以上、通常は少なくとも約18ヌクレオチド、より通常に少なくとも約24ヌクレオチド、典型的に少なくとも約28ヌクレオチド、より典型的に少なくとも約32ヌクレオチド、および好ましくは、少なくとも約36、48以上のヌクレオチドの範囲に渡ってもよい。ヌクレオチド配列同一性を測定するために使用され得る、当技術分野において公知の多数の異なるアルゴリズムが存在する。例えば、ポリヌクレオチド配列は、Wisconsin Package Version 10.0, Genetics Computer Group (GCG), Madison, Wis.中のプログラムである、FASTA、Gap、またはBestfitを使用して比較され得る。例えばFASTA2およびFASTA3プログラムを含むFASTAは、クエリ配列と検索配列との間の最適重複領域のアラインメント、ならびに配列同一性パーセントを提供する(Pearson (1990) Methods Enzymol. 183: 63-98および(2000) Methods Mol. Biol. 132: 185-219)。他に特定されない限り、特定のプログラムまたはアルゴリズムに関するデフォルトパラメーターが使用される。例えば、核酸配列間の配列同一性パーセントは、そのデフォルトパラメーター(ワードサイズ6およびスコアリングマトリックスに関してNOPAM係数)でFASTAを使用して、またはGCGバージョン6.1中に提供されるようなデフォルトパラメーターでGapを使用して決定され得る。
【0064】
核酸配列に対する言及は、他に特定されない限り、その相補配列を包含する。したがって、特定の配列を有する核酸分子に対する言及は、その相補配列を有する相補鎖を包含することが理解されるべきである。一般に、当技術分野では「配列同一性パーセント」、「配列類似性パーセント」、および「配列相同性パーセント」という用語を互換的に使用する。本願において、これらの用語は、核酸配列に関して同一の意味を有することになる。
【0065】
核酸またはその断片に言及する際に、「実質的な類似性」または「実質的な配列類似性」という用語は、適切なヌクレオチドの挿入または欠失を伴って別の核酸(またはその相補鎖)と最適に整列される際に、上に考察されるようなFASTA、BLAST、またはGapのような任意の周知の配列同一性アルゴリズムによって測定される、少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%、かつより好ましくは、少なくとも約96%、97%、98%、または99%のヌクレオチド塩基におけるヌクレオチド配列同一性が存在することを示す。
【0066】
ポリペプチドへ適用される際に、「実質的な同一性」または「実質的に同一な」という用語は、二つのペプチド配列が、デフォルトギャップウェイトを使用してGAPまたはBESTFITプログラムなどを用いて最適に整列される際に、少なくとも80%配列同一性、好ましくは少なくとも90%または95%配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基の部分は、保存的アミノ酸置換によって異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特徴(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されるものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能特性を実質的に変化させないと考えられる。二つまたはそれ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合には、配列同一性パーセントまたは類似性の程度は、置換の保存的性質に関して修正するため上方調節されてもよい。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson (1994) Methods Mol. Biol. 24: 307-331を参照のこと。類似の化学的特徴を有する側鎖を有するアミノ酸基の例は、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン、(2)脂肪族水酸基側鎖:セリンおよびスレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、ならびに(6)硫黄含有側鎖であるシステインおよびメチオニンを含む。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換は、Gonnet et al. (1992) Science 256: 1443-45中で開示されるPAM250対数尤度マトリックスにおいて、正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置換は、PAM250対数尤度マトリックスにおいて、負でない値を有する任意の変化である。
【0067】
配列同一性とも言及される、ポリペプチドに関する配列類似性は、典型的に配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む、様々な置換、欠失、および他の改変に割り当てられる類似性尺度を使用して類似の配列を一致させる。例えば、GCGは、様々な生物種由来の相同的ポリペプチド、または野生型タンパク質とその変異型との間の相同的ポリペプチドのような、密接に関連するポリペプチド間の配列相同性、または配列同一性を決定するデフォルトパラメーターを用いて使用され得る、「Gap」および「Bestfit」のようなプログラムを含む。例えば、GCG Version 6.1を参照のこと。ポリペプチド配列も、デフォルトまたは推奨パラメーターを使用して、クエリ配列と検索配列との間の最適重複領域のアラインメント、ならびに配列同一性パーセントを提供する、GCG Version 6.1 FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)中のプログラムであるFASTAを使用して比較され得る(Pearson(2000)前記)。本発明の配列を様々な生物由来の多数の配列を含むデータベースに対して比較する際の、別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメーターを使用するコンピュータープログラムBLASTであり、とりわけblastpまたはtblastnである。例えば、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-410およびAltshcul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25: 3389-402を参照のこと。
【0068】
相同性に関して比較されるポリペプチド配列の長さは、一般に少なくとも約16アミノ酸残基、通常少なくとも約20残基、より通常には少なくとも約24残基、典型的に少なくとも約28残基、および好ましくは約35残基を上回ると考えられる。多数の異なる生物由来の配列を含むデータベースを検索する際には、アミノ酸配列を比較することが好ましい。
【0069】
ヒト抗体の調製
ヒト抗体を生成するための方法は、例えば、VELOCIMMUNE(登録商標)(Regeneron Pharmaceuticals)、XENOMOUSE(商標)技術(Abgenix)、「ミニ遺伝子座(mini locus)」アプローチ、およびファージディスプレイを含む。VELOCIMMUNE(登録商標)技術(米国特許第6,596,541号)は、選択抗原に対する高い特異性の完全ヒト抗体を生成する方法を包含する。この技術は、抗原刺激に応答して、マウスがヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内在性のマウス定常領域遺伝子座に機能的に連結されたヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの生成段階を含む。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを、単離し、かつヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに機能的に連結させる。続いてDNAを、完全ヒト抗体を発現することが可能な細胞中で発現させる。具体的な態様において、細胞はCHO細胞である。
【0070】
XENOMOUSE(商標)技術(Green et al.(1994)Nature Genetics 7: 13-21)は、重鎖およびκ軽鎖遺伝子座の双方由来の、ヒト可変領域および定常領域の双方を有するマウスを生成する。別のアプローチにおいて、外来性Ig遺伝子座がIg遺伝子座由来の個々の遺伝子の包含によって模倣される、「ミニ遺伝子座」アプローチが利用されている(たとえば、米国特許第5,545,807号を参照のこと)。可変領域をコードするDNAは、ヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに機能的に連結されるか、またはされないで単離され得る。
【0071】
ヒトのドナーからの単離を含む、ヒト抗体を生成する他の方法が公知である。例えば、米国特許第6,787,637号を参照のこと。
【0072】
抗体は、補体の固定およびCDCにおける関与による細胞の殺傷によるよりもむしろ、リガンド-受容体相互作用の遮断において、または受容体構成要素の相互作用の阻害において、治療的に有用である可能性がある。抗体の定常領域は、補体を固定しかつCDCに関与する、または抗体依存性細胞障害活性(ADCC)により細胞殺傷を導く、抗体の能力において重要である。したがって、抗体のアイソタイプは、補体を固定する抗体に関する望ましさに基づいて選択されてもよい。
【0073】
ヒト免疫グロブリンは、ヒンジ不均一性に関連する二つの形態において存在し得る。一つの形態において、免疫グロブリン分子は、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって共に保持される、およそ150〜160 kDaの安定な四個の鎖構築物を含む。第二の形態において、二量体は、重鎖間ジスルフィド結合を介して連結されておらず、かつ約75〜80 kDaの分子が、単一の軽鎖および重鎖から構成され、形成される。これらの形態は、アフィニティー精製の後であっても分離することが困難であった。
【0074】
様々な無傷のIgGアイソタイプにおける第二形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造的相違によるものであるが、これに限定されない。実際、ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域中の単一アミノ酸置換によって、第二形態の出現は、ヒトIgG1ヒンジを使用して典型的に観察されるレベルへ、顕著に減少され得る(Angal et al. 1993 Molecular Immunology 30: 105)。本発明は、例えば収率を改善する、またはエフェクター機能を調節するための生成において、望ましい可能性がある、ヒンジ、CH2、またはCH3領域中に一つまたは複数の変異を有する抗体を包含する。
【0075】
本発明の抗体は、好ましくはVELCIMMUNE(登録商標)技術の使用によって調製される。内在性免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域が対応するヒト可変領域で置換されたトランスジェニックマウスに、関心対象の抗原、および抗体を発現するマウスから回収されるリンパ細胞(B細胞など)を投与する。不死化ハイブリドーマ細胞株を調製するために、リンパ細胞をミエロイド型細胞株へ融合することが可能であり、かつ関心対象の抗原に対して特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定するために、そのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングしかつ選択する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、かつ重鎖および軽鎖定常領域の所望のアイソタイプへ連結することも可能である。CHO細胞のような細胞において、そのような抗体タンパク質を産生することも可能である。あるいは、抗原特異的キメラ抗体をコードするDNAを、抗原特異的リンパ球から直接単離することも可能である。様々な態様において、トランスジェニックマウスは、12個の機能的ヒト可変重鎖遺伝子および11個の機能的ヒト可変κ軽鎖遺伝子;25〜30個のヒト可変重鎖遺伝子および18〜20個のヒト可変κ軽鎖遺伝子;43〜48個のヒト可変重鎖遺伝子および20〜22個のヒト可変κ軽鎖遺伝子;または約80個のヒト可変重鎖遺伝子および約40個のヒト可変κ軽鎖遺伝子を含む。
【0076】
一般に、本発明の抗体は、固相に固定化されたまたは溶液相中のいずれかの抗原に対する結合によって測定される際に、典型的に約10-9から約10-11 MのKDを有する、非常に高い親和性を有する。マウスの定常領域は、本発明の完全ヒト抗体を生成するために、例えば野生型または改変されたIgG1またはIgG4(例えば、SEQ ID NO:950、951、もしくは952)のような、所望のヒト定常領域で置換される。選択される定常領域は、特定の使用に従って変動してもよいが、高い親和性抗原結合および標的特異性という特徴は、可変領域中に帰する。
【0077】
癌、感染性疾患、自己免疫病、免疫不全、移植、炎症、傷害、および変性状態は、免疫系の調節によって処置され得る。自己免疫病または炎症のような、免疫系の不適切な機能または機能亢進による疾患の場合には、免疫細胞の機能の阻害または免疫細胞数の減少によって寛解し得る。これは、T、B、またはNK細胞、好中球、マクロファージ、抗原提示細胞、マスト細胞、または他の細胞種などの、疾患プロセスに重大な意味を持つ免疫細胞集団における、正のシグナルの遮断または負のシグナルの刺激によって達成され得る。過剰活性はまた、アポトーシスの刺激、抗体もしくは抗体-薬物接合体を減少させることによる特異的表面受容体のターゲティング、または免疫細胞系譜もしくは特定の細胞種の分化の遮断もしくは改変により、様々な免疫細胞集団の除去によって阻害され得る。非効率的なまたは減少した免疫機能によって、癌、感染性疾患、および他の免疫不全のような障害が引き起こされ得るまたは悪化され得る。免疫系の機能低下は、アゴニスト抗体を架橋すること、または負のシグナルを遮断することによる正のシグナルの刺激により、免疫細胞の活性化を介して改善され得る。免疫細胞集団は、一部もしくはすべての免疫細胞系譜の発達の刺激、アポトーシスの防止、または阻害性シグナルの除去によって増加され得る。特定の適用において、本発明の抗体は、例えば、癌、免疫不全、移植拒絶反応、または炎症などといった状態または疾患の処置、阻害、または寛解に対して有用である。
【0078】
エピトープマッピングおよび関連する技術
特定のエピトープに結合する抗体(例えば、その高い親和性受容体へのIgEの結合を遮断するもの)に関するスクリーニングをするため、HarlowおよびLane(1990)前記において記載されるような、通常の交差遮断アッセイ(cross blocking assay)が行われ得る。他の方法は、アラニンスキャニング変異体、ペプチドブロット(Reineke (2004) Methods Mol Biol 248: 443-63)、またはペプチド切断解析を含む。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出、および抗原の化学修飾などの方法が利用され得る(Tomer (2000) Protein Science 9: 487-496)。
【0079】
「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が反応する抗原上の部位を意味する。B細胞エピトープは、隣接のアミノ酸、またはタンパク質の三次元折り畳みによって並列される非隣接のアミノ酸の双方から形成され得る。隣接のアミノ酸から形成されるエピトープは、変性溶媒に曝露される際に典型的に保持されるが、三次元折り畳みによって形成されるエピトープは、変性溶媒を用いた処理において典型的に喪失する。エピトープは、固有の空間的配置に、少なくとも3個、かつより通常は少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を典型的に含む。
【0080】
抗原構造に基づく抗体プロファイリング(ASAP)としても公知の修飾補助プロファイリング(MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性に従って、同一抗原に対して方向付けられた多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(米国特許公開第2004/0101920号)。各カテゴリーは、別カテゴリーによって示されるエピトープと明確に異なるかまたは部分的に重複する、固有のエピトープを反映し得る。この技術により、特徴付けが遺伝学的に別個の抗体に焦点を合わせられることで、遺伝学的に同一な抗体の迅速なフィルタリングが可能になる。ハイブリドーマスクリーニングに対して適用される際に、MAPは、所望の特性を有するmAbを産生する、希少なハイブリドーマクローンの同定を促進する可能性がある。MAPは、本発明のhDll4抗体を、異なるエピトープに結合する抗体群へ分類するために使用されてもよい。
【0081】
固定された抗原の構造を改変するために有用な薬剤は、タンパク質分解酵素などの酵素、例えば、トリプシン、エンドプロテアーゼGlu-C、エンドプロテアーゼAsp-N、キモトリプシン等である。固定された抗原の構造を改変するために有用な薬剤はまた、スクシンイミジルエステルおよびそれらの誘導体、第一級アミン含有化合物、ヒドラジンおよびカルボヒドラジン、遊離アミノ酸等のような化学薬剤であってもよい。
【0082】
抗原タンパク質は、バイオセンサーチップ表面、またはポリスチレンビース上のいずれかに固定されてもよい。後者は、例えば、複合的LUMINEX(商標)検出アッセイ(Luminex Corp., Austin, TX)のようなアッセイを用いて処理され得る。100種までの異なる種類のビーズの複合的解析を処理するLUMINEX(商標)の処理能力に起因して、LUMINEX(商標)は、様々な修飾を有するほぼ無制限の抗原表面を提供し、その結果、抗原エピトーププロファイリングにおいて、バイオセンサーアッセイよりも改善された分解能をもたらす。
【0083】
治療的投与および製剤
本発明に従う治療物の投与は、適切な担体、賦形剤、および改善された移入、送達、耐容能等を提供するために製剤中へ組み入れられる他の薬剤を用いて投与されると考えられる。多数の適切な製剤は、全製薬化学者に公知の処方集である、Remington’s Pharmaceutical Sciences (15th ed, Mack Publishing Company, Easton, PA)中に見出され得る。これらの製剤は、例えば、粉剤、ペースト剤、軟膏剤、ゼリー剤、ワックス剤、油剤、脂質、(カチオン性またはアニオン性)脂質含有粒子(LIPOFECTIN(商標)など)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト剤、水中油性および油中水性乳剤、乳剤カーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含む半固体混合物を含む。製剤の有効成分が該製剤によって不活性化されず、かつ製剤が投与経路で生理学的に適合性がありかつ許容できるとすれば、前述の混合物のいずれも、本発明に従って処置および治療において適切である可能性がある。Powell et al.「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998)J. Pharm Sci Technol. 52: 238-311、ならびにその中の製薬化学者に周知の賦形剤および担体に関連する、さらなる情報に関する引用も参照のこと。
【0084】
実施例
実施例1.ヒトDll4に対するヒト抗体の生成
当技術分野において公知の任意の方法によって、マウスを免疫してもよい(例えば、HarlowおよびLane前記を参照のこと)。一つの態様において、免疫反応を刺激するためのアジュバントと共に、ヒトIg重鎖可変領域およびκ軽鎖可変領域をコードするDNA遺伝子座を含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスにhDll4抗原を直接投与する。そのようなアジュバントは、完全および不完全Freundアジュバント、MPL+TDMアジュバントシステム(Sigma)、またはRIBI(ムラミルジペプチド)(O’Hagan 2000 Vaccine Adjuvant, Humana Pressによる、Totawa, NJを参照のこと)を含む。標準的な抗原特異的免疫アッセイによって、抗体免疫反応をモニタリングする。所望の免疫反応が達成される際に、抗体を発現しているB細胞を収集し、それらの生存力を維持するためにマウスのミエローマ細胞と融合し、ハイブリドーマ細胞株を形成する。以下に記載されるアッセイを使用して、抗原特異的抗体を産生する細胞株を同定するために、そのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、かつ選択する。
【0085】
あるいは、フローサイトメトリーによって、抗原特異的ハイブリドーマ細胞を単離してもよい。簡単に言うと、ミエローマ細胞への融合の後、プールされたハイブリドーマ細胞をHAT培養液中で10日間増殖させる。続いて細胞を収集し、かつ2 mg/mlのビオチン標識されたDll4を用いて一時間染色し、続いてフィコエリスリン-ストレプトアビジンを添加する。蛍光標識された細胞をフローサイトメトリーによって分類し(ハイブリドーマ増殖培養液を含む96ウェルプレート中、ウェル当たり1個の細胞)、8〜10日間培養し、以下に記載されるように、条件培養液(conditioned media)を、機能的に望ましいモノクローナル抗体の存在に関してスクリーニングした。
【0086】
脾細胞の直接単離を介して生成された抗hDll4抗体
米国特許公開第2007/0280945A1号に記載されるように、抗原特異的抗体はまた、ミエローマ細胞への融合を伴わずに、抗原免疫されたB細胞から直接単離してもよい。単離された適切な組換え体から、安定な組換え抗体発現CHO細胞株を確立する。
【0087】
実施例2.抗原結合親和性の決定
上に記載される、選択された抗体への抗原の結合に関する平衡解離定数(KD値)を、リアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサーアッセイ(BIACORE(商標)2000)での表面動態によって決定した。捕捉された抗体表面を形成するために、BIACORE(商標)チップへの直接的な化学連結によって作り出される、ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体表面に抗体を捕捉した。様々な濃度の単量体hDll4または二量体hDll4-hFcを、捕捉された抗体表面上に注射し、かつ抗原-抗体結合および解離をリアルタイムでモニタリングした。解離速度定数KDおよび抗原/抗体複合体解離の半減期を算出するため、動態解析を行った(表1)。ヒトIgG定常ドメインを含むよう改変された単一B細胞由来のモノクローナル抗体を測定するため、類似の方法を適用した。BIACORE(商標)チップ上に固定されたヤギ抗hFcポリクローナル抗体試薬(Jackson Immuno Research Lab)によって抗体を提示し、かつ二量体Dll4-mFcまたは単量体Dll4タンパク質のいずれかに曝露した(表2)。
【0088】
抗体-抗原結合親和性はまた、ELISAに基づく溶液競合アッセイを使用して評価されてもよい。簡単に言うと、96ウェルマイクロタイタープレート上で、一定濃度の抗体を有する0〜10μg/mlの範囲に及ぶ系列希釈した抗原タンパク質(単量体または二量体)と、抗体(精製されたタンパク質または条件培養液において)とをあらかじめ混合した。抗原を抗体と2時間インキュベートした後、遊離抗体の測定のために抗原であらかじめコーティングしたマイクロタイタープレートへ該溶液を移した(MAXISORB(商標)、VWR、West Chester、PA)。PBS溶液中1μg/mlのhDll4-hFcタンパク質を用いて4℃で1晩プレートをコーティングし、BSAを用いて2時間非特異的結合部位を遮断した。移した後の1時間のインキュベーションの後、プレートを洗浄し、HRPコンジュゲートヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体試薬(Jackson Immuno Laboratory)を用いてプレートに結合した抗体を検出し、比色基質を使用して発色させた(OPTEIA(商標);BD Biosciences Pharmingen、San Diego、CA)。1 Mリン酸を用いて酵素反応を停止し、450 nmで吸光度を記録し、シグモイド用量反応モデルを使用してデータを解析し、IC50値を報告した(表1)。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
実施例3.Dll4とNotchとの相互作用の阻害
ELISAに基づく免疫アッセイを用いて、Dll4のNotchへの結合を遮断する抗体の能力を評価した。簡単に言うと、PBSバッファー中1 mg/mlでNotch-hFc組換えタンパク質を96ウェルプレートにおいて4℃で一晩コーティングし、BSAを用いて非特異的結合部位を遮断した。抗体力価測定用試料溶液由来の遊離ビオチン-Dll4-hFcを測定するために、このプレートを使用した。抗体力価測定用試料を作製するため、粗製ハイブリドーマ条件培養液において、または0〜50 nMの範囲の系列希釈した精製抗体タンパク質として、一定量のビオチン-Dll4-hFc 25 pMを様々な量の抗体とあらかじめ混合し、続いて抗体-抗原結合を平衡状態に到達させるため、室温で2時間インキュベートした。続いて遊離ビオチン-Dll4-hFcの測定のために、平衡化試料溶液をNotch-hFcをコーティングしたプレートへ移した。1時間の結合の後プレートを洗浄し、HRPコンジュゲートストレプトアビジン(ポリHRPストレプトアビジン、Pierce Endogen)を使用して、結合したビオチン-Dll4-hFcを検出し、TMB基質(BD Pharmigen)を使用して発色した。GraphPad Prismソフトウェアを使用してデータを解析し、プレートにコーティングされたNotch-Fcに結合したビオチン-Dll4-hFcの50%の減少を達成するために必要とされる抗体の量として、IC50値を決定した(表3)。
【0092】
【表3】


【0093】
25 pMのビオチン-Dll4-hFcを30 pMのビオチン-Dll4-hFcと置換し、かつ抗体-抗原インキュベーション期間を2時間から1時間へと減少させることによって改変された、上に記載されるELISAに基づく免疫アッセイを用いて、選択された精製抗hDll4抗体が、Dll4のNotchへの結合を遮断する能力も評価した。便宜上、抗体318518-01A10-D8は「REGN281」(HCVR/LCVR SEQ ID NO:429/437およびhIgG1 SEQ ID NO:950)と改名された。試験された派生抗体は、REGN421(HCVR/LCVR SEQ ID NO:901/903、hIgG1 SEQ ID NO:950)、およびREGN422(改変されたhIgG4 SEQ ID NO:952と共にHCVR/LCVR SEQ ID NO:901/903)を包含した。結果は表4中に示される。
【0094】
【表4】

【0095】
Dll4を発現するヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を使用して、Dll4が介在する細胞機能を中和する抗体の能力も、インビトロで試験した。派生抗体を用いた、HUVEC中のNotchが介在するhHes1およびEphB2遺伝子発現の阻害を、以下のようにモニタリングした。MCDB-131培養液(Vec Technologies)中で、少ない継代回数のHUVECを培養した。解析の一日前に、24ウェルプレートにおいて、培養液の総量1 ml中にウェル当たり2×105細胞の密度でHUVEC細胞を播種した。試験抗体または他の阻害剤を、個々の試料ウェルへ三つ組で直接添加し、37℃で5時間培養した。培養期間の終了時に、培養液を除去し、QIAZOL(商標)およびRNEASY(商標)脂質組織キット(Qiagen)を使用して、全RNAを単離した。PCRおよび蛍光発生的5’ヌクレアーゼアッセイ(TAQMAN(登録商標)アッセイ、Applied Biosystems)を使用して、mRNAレベルの定量化を行った。各試料に関して、1〜2 mgの全RNAからcDNAを合成した。等量の開始RNA(典型的に25 ng)から生成されたcDNAを、ABI PRISM(商標)光学反応プレート上に三つ組で装填した。各RNA試料に関して、シグナルに対するいかなる潜在的ゲノムDNAの関与も排除するために、いかなる逆転写酵素も添加されていない「RTなし」対照も実行した。2×Mastermix(TAQMAN(登録商標)2×PCR Mastermix;ABI)を、1×の最終濃度で各反応物へ添加した。さらに、関心対象の遺伝子に関するTAQMAN(登録商標)プローブおよびプライマーを各反応物へ添加した。各プライマーを900 nMの最終濃度で使用し、かつプローブを200 nMの最終濃度で添加した。ヒトゲノムDNAを、基準として使用した。ABI 7900HT機器で、標準的なTAQMAN(登録商標)条件下においてアッセイを行った。Hes1およびEphrinB2のレベルを測定し、かつ内在性の対照遺伝子(シクロフィリン)に対して標準化した(表5)。プローブおよびプライマー:ヒトHes1プローブ(SEQ ID NO:387);オリゴ:hHes1-869F(SEQ ID NO:388);hHes1-940R(SEQ ID NO:389)、ヒトephrinB2プローブ:hEphB2-773T(SEQ ID NO:390);オリゴ:hEphB2-752F(SEQ ID NO:391)、hEphB2-812R(SEQ ID NO:392);ヒトシクロフィリン:プローブ:hCyclophilin-343T(SEQ ID NO:393);オリゴ:hCyclophilin-323F(SEQ ID NO:394);hCyclophilin-389R(SEQ ID NO:395)。
【0096】
【表5】

【0097】
HUVEC増殖アッセイ
インビトロ細胞増殖アッセイにおいて、Dll4が介在するヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖阻害を遮断する抗体の能力を試験した。少ない継代回数のHUVEC細胞を得て、MCDB-131培養液(Vec Technologies)中で培養した。解析の一日前に、hDll4-hFcを用いて、PBS中で12ウェル組織培養プレートを4℃で一晩コーティングした(0.2μg/ml; ウェル当たり0.5 ml PBS)。PBSを用いてプレートを1回洗浄し、培養液の総容量1.0 mlの中にウェル当たり4×103細胞の密度で、HUVEC細胞を播種した。細胞の添加の直後に、阻害曲線を生成するような濃度範囲にわたって、0.5 ml全容量中に抗hDll4抗体を添加した。細胞を37℃で96時間増殖させた。CCK-8試薬(同仁化学)を使用して、細胞数を定量した。全てのアッセイを、三つ組で行った(表6、NB:遮断なし)。
【0098】
【表6】

【0099】
Notch誘導性ルシフェラーゼアッセイ
選択された精製抗体の、インビトロでのDll4が介在する細胞機能を中和する能力を決定するために、ヒトNotch1を恒常的に発現し、かつNotch反応性プロモーター駆動ルシフェラーゼを含む、遺伝子操作されたHEK293細胞株(ATCC)を使用してバイオアッセイを展開した。Notch誘導性ルシフェラーゼ活性の阻害を、以下のように決定した。アッセイの1日前に、100μlのPBS中の1 nMまたは1.5 nM hDll4-hFcのいずれかを用いて、不透明な96ウェル組織培養プレートの各ウェルを4℃で一晩コーティングした。コーティングされたプレート上に、培養液中ウェル当たり2×104細胞で細胞を播種した。細胞培養液中2 nMから開始される系列希釈において、精製された抗体タンパク質を、細胞と共に37℃で24時間インキュベートした。ウェル容量と等量のSTEADY-GLO(登録商標)基質(Promega)を添加することによって、ルシフェラーゼ活性を決定した(表7)。
【0100】
【表7】

【0101】
実施例4.Notch 1切断の阻害
SDS-Page/ウエスタンブロッティングにより、全ての切断されたNotch1タンパク質を調査することによって、選択された抗hDll4抗体の、Notch1切断を阻害する能力を試験した。上に記載されるように、少ない継代回数のHUVEC細胞を培養した。解析の一日前に、PBS中のhDll4-hFcを用いて、6ウェルプレートを4℃で一晩コーティングした(0.2μg/ml;ウェル当たり1.0 ml PBS)。PBSを用いてプレートを1回洗浄し、培養液の総容量2.0 mlで、ウェル当たり7.5×105細胞でHUVEC細胞を播種した。細胞播種の直後に、10nMの最終濃度で抗hDll4抗体を各ウェルに添加した。細胞を37℃で24時間増殖し、続いて細胞全体の抽出物を調製し、SDS-PAGEによって解析した。抗切断型Notch1(Val1744)抗体(Cell Signaling)および標準的なウエスタンブロッティング技術を使用して、切断されたNotch1のレベルを決定した。抗hDll4抗体は、プレートにコーティングされたhDll4-hFcによって誘導されるNotch1の切断を、完全に遮断することが可能であった(データは示していない)。
【0102】
実施例5.ADCCおよびCDCアッセイ
様々なhDll4発現レベルを有する8個の標的細胞株のパネルを使用して、二つの試験抗体(REGN421、REGN422)によって誘導される抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)を評価した。8個の標的細胞株は、(1)HUVEC;(2)10 nM VEGFを用いて24時間刺激したHUVEC;(3)Colo205;(4)eGFPを発現する、遺伝子操作されたC6ラットグリオーム細胞;(5)hDll4を発現する、遺伝子操作されたC6ラットグリオーム細胞;(6)eGFPを発現する、遺伝子操作されたHT1080細胞;(7)hDll4を発現する、遺伝子操作されたHT1080細胞;および(8)HT29であった。レトロウイルス形質移入によって、ヒトDll4またはeGFPを、C6細胞またはHT1080ゲノム中へ組み込んだ。簡単に言うと、系列希釈した等量のREGN421またはREGN422と、各標的細胞株由来の細胞(50μl中、ウェル当たり10,000細胞)とを最初に混合して、0.169 pM〜10 nMの範囲の最終抗体濃度をもたらし、96ウェルプレートのフォーマットにおいて室温で10分間インキュベートした(対照=抗体を有しないウェル)。別個に、従来型Ficoll-Hypaque勾配遠心濃縮法に続き、ヒト末梢血単核細胞(PBMC、エフェクター細胞)を調製した。およそ30:1のエフェクター対標的細胞の最終比を示すように、およそ300,000 PBMCを、抗体と標的細胞との各混合物へ添加した。続いて、96ウェルプレートを37℃、5% CO2で4時間インキュベートし、次いで250×gで遠心分離した。上清を回収し、CYTOTOX96(登録商標)非放射性細胞障害性アッセイシステム(Promega)を使用して、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性に関して分析した。結果は、表8中に示される。REGN421誘導性用量依存性細胞溶解は、全ての細胞株中で最も高いhDll4発現を示した(免疫沈降/ウエスタンブロットおよびフローサイトメトリーによって決定される)、hDll4(列5)を発現するC6細胞において観察されたのみであった。C6-hDll4細胞株における最大細胞障害活性は、20%〜60%の範囲に及んだ。残りの7個の標的細胞株において、いかなるREGN421誘導性細胞溶解も観察されなかった。REGB422は、標的細胞株のいずれにおいても細胞溶解を誘導しなかった。
【0103】
【表8】

【0104】
上に記載される細胞株と同一のパネルを使用して、REGN421によって誘導される補体依存性細胞障害活性(CDC)を評価した。簡単に言うと、系列希釈された等量のREGN421と、標的細胞株の各々に由来する細胞(50μl中にウェル当たり50,000細胞)とを最初に混合して、0.169 pM〜10 nMの範囲の最終抗体濃度をもたらし、96ウェルプレートのフォーマットにおいて室温で10分間インキュベートした。5%の最終血清濃度を示すように、補体成分を有する正常ヒト血清(Quidel Corp., San Diego, CA)を各ウェルに添加した。続いて、プレートを37℃、5% CO2で2時間インキュベートし、次いでCELLTITER-BLUE(登録商標)試薬(Promega)を添加した(対照=抗体を有しないウェル、および抗体を有するが血清を有しないウェル)。プレートを一晩インキュベートし、細胞生存率(CDCレベル)を分析した。正の対照として、Daudi細胞をリツキシマブで処理した。REGN421は、試験された標的細胞株のいずれに対しても、いかなるCDCも示さなかった(データは示していない)。
【0105】
実施例6.エピトープマッピングおよび特異性
エピトープ結合特異性を決定するため、特定のヒトDll4ドメインを以下のようにマウスDll4タンパク質へ置換した、7個のキメラDll4タンパク質系列を生成した。#1はヒトN末端およびDSLドメイン(S27〜Q218)を含み;#2はヒトN末端、DSLおよびEGF-1ドメイン(S27〜N252)を含み;#3は、ヒトN末端、DSL、EGF-1、およびEGF-2ドメイン(S27〜Q283)を含み;#4は、ヒトN末端、DSL、EGF-1、EGF-2、EGF-3、EGF-4、およびEGF-5を含み;#5は、ヒトN末端ドメイン(S27〜R172)を含み;#6は、ヒトDSLドメイン(V173〜Q218)を含み;かつ#7はヒトEGF-2ドメイン(E252〜D282)を含む。キメラタンパク質をマウスIgG2a-Fc断片へ融合し、CHO-K1細胞中で発現させた。条件培養液を回収し、かつタンパク質の発現をウエスタンブロットによって確認した。
【0106】
hDll4、mDll4、ならびにキメラタンパク質#1、#2、#3、および#4に対する試験抗体の結合特異性を、以下のように試験した。精製された抗体22G12、VAW3A7-2、および15E10を、CM5チップ上で5000〜6000 RUの間でアミン結合した。キメラDll4タンパク質、hDll4-mFc、およびmDll4-mFcを含むCHO K1細胞由来の条件培養液を順次注射し、続いて抗体結合表面全体の表面再生を行った。条件培養液の非特異的結合に関する対照として、盲検のアミン結合されたフローセル表面を使用した。結果は、表9中に要約される。22G12は、hDll4のS27〜Q218の間のエピトープに結合し、VAW3A7-2はhDll4のQ283〜E400間のエピトープに結合し、かつ15E10は、hDll4のE252〜D282間のエピトープに結合した。
【0107】
【表9】

【0108】
hDll4、mDll4、およびキメラタンパク質(上に記載される)に対する、精製された試験mAbの結合特異性を決定した(REGN279=314266-6F12-B7;REGN287=318518-1G04-F3;REGN289=318518-1H08-E9;REGN290=318518-2A07-B3;REGN306=318518-3F06-A3)。簡単に言うと、各Dll4タンパク質をヤギ抗マウスIgG抗体表面に捕捉し(70〜130 RU)、続いて100μg/mlの濃度で試験mAbを注射した。mDll4-mFcに結合した抗体を、正の対照として使用した(正の対照=6C10)。結果(表10)により、REGN279はhDll4のS27〜Q218の間のエピトープに結合し、REGN287はhDll4のQ283〜E400間のエピトープに結合し、REGN289、REGN290、およびREGN306はhDll4のS27〜E400間に結合したことが示された。
【0109】
【表10】

【0110】
以下の精製試験抗体を使用して、さらなるエピトープ結合特異性決定を上に記載されるように実施した。REGN281=318518-1A10-D8;REGN305=318518-3F04-A6;REGN309=318518-14A07-C4;REGN310=318518-14D08-G1;REGN421およびREGN422。簡単に言うと、各々のDll4タンパク質をヤギ抗マウスIgG抗体表面に捕捉し(240〜470 RU)、続いて100μg/mlの濃度で試験抗体の注射を行った(表11)。
【0111】
【表11】

【0112】
ウエスタンブロット解析
キメラのマウスおよびヒトDll4に対する選択された抗体の結合特異性を、ウエスタンブロットにより決定した。簡単に言うと、hDll4-mFc(1レーン当たり200 ng)、mDll4-mFc(1レーン当たり200 ng)、およびキメラタンパク質#1〜#7(1レーン当たりおよそ150 ng)を、非還元サンプルバッファーを使用して、二つ組SDS-PAGEゲルで電気泳動に供した。続いて各ゲルをPVDF膜へ移した。ブロットを、最初に0.2μg/mlでREGN421へ、続いてHRPコンジュゲート抗hIgG抗体(Pierce)に曝露した。対照ブロットを、HRPコンジュゲート抗mFc抗体(Pierce)に曝露した。結果:REGN421は、hDll4-mFc、およびヒトN末端ドメイン(#5)、ヒトDSLドメイン(#6)、または双方(#1、#2、#3、および#4)を含むキメラタンパク質を認識した。REGN421は、ヒトEGF-2ドメインを含むキメラタンパク質(#7)を認識しなかった。
【0113】
プロテアーゼ消化解析
HPLC1100(Agilent)およびLCQ従来型イオントラップ質量分析計(Thermo)を使用して、保護的プロテアーゼ消化および液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)によって、REGN281とhDll4との間の結合をさらに評価した。簡単に言うと、モル比1:5のhDll4とREGN281との混合物またはhDll4のみを、25℃(GluCプロテアーゼに関して)または37℃(トリプシンに関して)のいずれかでプロテアーゼと共に一晩インキュベートした。続いて、生じる各々のタンパク質分解消化混合物をLC/MSに供した。REGN281の非存在下で行われるタンパク質分解消化において存在する固有のペプチドピークは、REGN281の存在下で行われるタンパク質分解消化においては減少するか、または消失するかのいずれかであり、これはhDll4に対するREGN281の結合によってプロテアーゼ消化から保護された、hDll4の潜在的なREGN281結合部位を示す。これらの固有のペプチドピークを、質量分析によって解析した。観察された質量、予測された質量、および該ペプチドのN末端配列を表12中に示す。
【0114】
【表12】

【0115】
実施例7.ヒトDll4およびサルDll4に対する精製抗体の結合親和性
hDll4、M.ファシキュラリス(M. facscicularis)Dll4(mfDll4、SEQ ID NO:956)単量体、およびM.ムラタ(M. mulatta)Dll4(mmDll4、SEQ ID NO:957)単量体に対する選択された精製抗体の結合親和性を、BIACORE(商標)2000&3000を使用して決定した。REGN281、REGN421、およびREGN422を提示するために、BIACORE(商標)チップ上に固定されたヤギ抗hFcポリクローナル抗体試薬を使用した。各タンパク質、hDll4(12.5 nM〜100 nM)、mfDll4(3.13 nM〜100 nM)、またはmmDll4(12.5 nM〜100 nM)の様々な濃度を解析物として使用し、抗体表面全体に注射した。抗原-抗体結合、および結合した複合体の解離をリアルタイムでモニタリングした(表13)。
【0116】
【表13】

【0117】
hDll4二量体およびmmDll4二量体に対する抗hDll4抗体の結合親和性も、解析物としてhDll4をhDll4-mFc(3.13 nM〜100 nM)と置換した、またはmmDll4をmmDll4-mFc(0.78 nM〜25 nM)と置換したことを除き、BIACORE(商標)2000および上に記載される方法を使用して決定した(表14)。
【0118】
【表14】

【0119】
実施例8.抗体とhDll1、hDll3、mDll4、またはmfDll4との交差反応性
ヒトDelta様リガンド1(SEQ ID NO:953)、およびヒトDelta様リガンド3(SEQ ID NO:954)タンパク質に対する抗体の交差反応性を決定した。BIACORE(商標)チップ上に固定されたヤギ抗ヒトκ(hK)ポリクローナル抗体試薬(Southern Biotech)によって、REGN281、REGN421、およびREGN422を提示し、抗体表面全体に注射される解析物として、hDll4-hFcまたはhDll1-hFcタンパク質のいずれかを100μg/mlで使用した。三つ全ての抗hDll4抗体は、hDll4-hFcのみに結合し、かつhDll1-hFcに結合しなかった。
【0120】
抗hDll4抗体とhDll1-hFcまたはhDll3-hFcとのいずれかの間の交差反応性を評価するために、別のBIACORE(商標)フォーマットを使用した。簡単に言うと、リガンドhDll4-hFc、hDll1-hFc、およびhDll3-hFcを、アミン結合によって約8,000〜10,000 RUの範囲で各々CM-5チップに共有結合させた。各チップの表面全体へ、300μg/mlでREGN421を注射した。REGN421はhDll4-hFcのみに結合し、hDll1-hFcまたはhDll3-hFcのいずれに対してもいかなる結合も観察されなかった。同一の結果は、REGN421の代わりにREGN422に関して観察された。
【0121】
選択された精製抗hDll4抗体とhDll4-hFc、hDll3-hFc、hDll1-hFc、mfDll4-mmh、またはmDll4-mFcとの間の結合を決定するために、OCTET(商標)に基づく結合アッセイを利用した。簡単に言うと、飽和を達成するために、ストレプトアビジン高度結合FAバイオセンサー(ForteBio, Inc., Menlo Park, CA)を、5μg/mlのビオチン抗hKと共に30℃で10分間、最初にインキュベートした。続いて、飽和を達成するために、ビオチン抗hKに結合したバイオセンサーを、20μg/mlの抗体REGN281、REGN421、またはREGN422と共に30℃で10分間インキュベートした。続いて、200 nMでhDll4-hFc、hDll3-hFc、hDll1-hFc、もしくはmDll4-mFcのいずれかと、または100 nMでmfDll4-mmhと共に、抗体に結合したバイオセンサーを30℃で10分間インキュベートした。各インキュベーション後の生物学的層の厚みにおける変化を測定した。抗Dll4-hFcおよびmfDll4-mmhは、ヒトhDll4抗体に結合したバイオセンサーに結合し、一方hDll3-hFc、hDll1-hFc、およびmDll4-mFcは、抗hDll4抗体に結合したバイオセンサーに結合しなかった。
【0122】
実施例9.腫瘍増殖への抗hDll4抗体の効果
ヒト化Dll4タンパク質を発現する重症複合免疫不全(SCID)マウス(SCID×hDll4)中へ移植された腫瘍について、腫瘍増殖に対するREGN421の効果を評価した。簡単に言うと、胚幹(ES)細胞において、マウスDll4遺伝子の全細胞外ドメインをヒトDll4遺伝子の対応する細胞外領域(7 kb)と置換することによって、ヒト化Dll4マウスを作製した。hDll4ホモ接合体マウスを作製し、SCIDバックグラウンドへ交配した。続いて、2.5×106個のヒトHT1080腫瘍細胞を各マウスへ皮下(SC)移植した。腫瘍がマウス中で確立された後(移植後18日目、約100〜150 mm3)、マウスを測定し、hFc、hDll4-Fc、またはREGN421を用いて処理した。全7匹のマウスを三つの群へ分けた。第一群(n=3)を25 mg/kgでhFcを用いて皮下処理し、第二群(n=1)を25 mg/kgでhDll4-Fc処理し、第三群(n=3)を10 mg/kgでREGN421処理した。18日目から開始して、48時間毎に処理を繰り返した。最初の処理の3日前(15日目)、各処理と同一日(18、20、および22日目)、ならびに25日目にインビボ腫瘍測定値を得た。式:l×w2/2を使用して、腫瘍サイズを算出した。結果は、表15中に示される。25日目にマウスを安楽死させ、各腫瘍を取り出して、エクスビボで測定し、算出した(長さ×幅×深さ)(表16)。
【0123】
さらに、内在性mDll4を発現するSCIDマウス群(n=2)に腫瘍細胞を移植し、同一の投与スケジュールに続いて、hDll4-Fc(25 mg/kg)で処理した。
【0124】
【表15】

【0125】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴によって測定される、約500 pMと同等またはそれ未満の親和性定数(KD)でヒトDelta様リガンド4(hDll4)に特異的に結合する、ヒト抗体または抗体断片。
【請求項2】
KDが約400 pMと同等またはそれ未満である、請求項1記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項3】

からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)を含む、請求項1または2記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項4】

からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)を含む、請求項3記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項5】
HCVR/LCVRがSEQ ID NO:429/437および901/903からなる群より選択される、請求項4記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項6】
SEQ ID NO:950、951、および952からなる群より選択される定常領域をさらに含む、請求項5記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項7】
重鎖相補性決定領域3(CDR3)および軽鎖CDR3を含むヒト抗体または抗体断片であって、
重鎖CDR3が、X1がAlaまたはSer;X2がArgまたはLys;X3がAsp;X4がGlyまたはHis;X5がAspまたはAla;X6がPhe;X7がTyrまたはArg;X8がSer;X9がGly;X10がTyr;X11がGlu;X12がGlyまたはHis;X13がTyrまたはTrp;X14がPheまたは無し;X15がAspまたは無し;およびX16がProまたは無しである、式

のアミノ酸配列を含み、かつ
軽鎖CDR3が、X1がGln;X2がGlnまたはHis;X3がTyrまたはArg;X4がGlyまたはSer;X5がSerまたはAsn;X6がTrpまたはSer;X7がPro;X8がProまたはArg;およびX9がThrである、式

のアミノ酸配列を含む、
請求項1または2記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項8】
X1がGly;X2がPhe;X3がThr;X4がPhe;X5がSerまたはAsn;X6がSerまたはAsn;X7がTyrまたはPhe;およびX8がGlyまたはAlaである、式

のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1領域、
X1がIleまたはLeu;X2がTrpまたはSer;X3がTyrまたはGly;X4がAspまたはSer;X5がGly;X6がSer、Thr、またはVal;X7がAsnまたはAsp;およびX8がLysまたはArgである、式

のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2領域、
X1がGln;X2がSer;X3がVal;X4がArgまたはSer;X5がSer;X6がSerまたはTyr;およびX7がTyrまたは無しである、式

のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1領域、ならびに
X1がGlyまたはAsp;X2がAlaまたはThr;およびX3がSerである、式X1-X2-X3(SEQ ID NO:932)のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2領域
をさらに含む、請求項7記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項9】

からなる群より選択される重鎖CDR3ドメイン、ならびに

からなる群より選択される軽鎖CDR3ドメイン
を含む、請求項1または2記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項10】

からなる群より選択される重鎖CDR1ドメイン、

からなる群より選択される重鎖CDR2ドメイン、

からなる群より選択される軽鎖CDR1ドメイン、ならびに

からなる群より選択される軽鎖CDR2ドメイン
をさらに含む、請求項9記載のヒト抗体または抗体断片。
【請求項11】
前記請求項のいずれか一項記載の抗体または抗原結合断片をコードする、単離された核酸分子。
【請求項12】
請求項11記載のヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項13】
適切な宿主細胞中に請求項12記載のベクターを含む、ヒトDll4に特異的に結合する抗体または抗体の抗原結合断片の産生のための宿主-ベクターシステム。
【請求項14】
宿主細胞が、大腸菌(E.coli)またはCHO細胞の一つから選択される原核細胞または真核細胞である、請求項11記載の宿主-ベクターシステム。
【請求項15】
抗体またはその断片の産生を許容し、かつそのように産生された抗体または断片を回収する条件下で、請求項13または14記載の宿主-ベクターシステムの細胞を増殖させる段階を含む、抗ヒトDll4抗体またはその抗原結合断片を産生するための方法。
【請求項16】
ヒトにおけるDll4介在性疾患または障害を軽減するかまたは阻害するために使用するための薬物の製造における、請求項1から10のいずれか一項記載の抗体または抗体の抗原結合断片の使用。
【請求項17】
Dll4に関連する状態または疾患が、病的血管新生、癌、免疫不全症、移植拒絶反応、または炎症である、請求項16記載の使用。

【公表番号】特表2010−512749(P2010−512749A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541401(P2009−541401)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/025653
【国際公開番号】WO2008/076379
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(507302748)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】