ヒトIgEに対する抗体酵素およびその利用
【課題】I型アレルギーの原因であるヒトIgEを認識するとともに、IgEを分解してその機能を消失させることができ、I型アレルギーの予防や治療に利用できる抗体酵素を提供する。
【解決手段】ヒトIgEを免疫原としてモノクローナル抗体を作製し、そのモノクローナル抗体の重鎖、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列、塩基配列を決定した。続いて、このアミノ酸配列について分子モデリングを行ない、その3次元構造を推定し触媒三つ組残基構造を有しているか否かを確認した。そして、最終的に触媒三つ組残基構造を有するモノクローナル抗体5H5の重鎖および軽鎖の可変領域がヒトIgEの抗体酵素として機能するということを見出した。
【解決手段】ヒトIgEを免疫原としてモノクローナル抗体を作製し、そのモノクローナル抗体の重鎖、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列、塩基配列を決定した。続いて、このアミノ酸配列について分子モデリングを行ない、その3次元構造を推定し触媒三つ組残基構造を有しているか否かを確認した。そして、最終的に触媒三つ組残基構造を有するモノクローナル抗体5H5の重鎖および軽鎖の可変領域がヒトIgEの抗体酵素として機能するということを見出した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトIgEに対する抗体酵素およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレルギーは抗原と接触してから発症するまでの時間によって、即時型過敏症(immediate-type hypersensitivity)と遅延型過敏症(delayed-type hypersensitivity)との二つのグループに分類される。即時型過敏症は抗体により引き起こされる症状で、アレルギー発症の機構からI型乃至III型に分類されている。
【0003】
現在、アレルギー患者数は急激に増加しており、多くの人々が花粉症等のアレルギー性鼻炎、食物アレルギー、喘息等の症状に苦しんでいる。これらの症状はI型アレルギーに属し、体内に侵入したアレルゲンに対し産生されたIgE抗体により引き起こされる。
【0004】
IgE抗体を介したアレルギーの発症機構はほぼ解明されている。まずアレルゲンが体内に侵入し、アレルゲンに特異的なIgEが産生される。IgE抗体値があるレベルまで上昇すると、IgE抗体のFc部分を結合するFcεレセプターを持つ肥満細胞(mast cell)と好塩基球(basophile)という特殊な細胞にIgE抗体が結合しはじめ、長期にそれらの細胞と結合したまま血中に存在する。再度アレルゲンが侵入した場合、抗原抗体反応が惹起され、この刺激で肥満細胞や好塩基球からヒスタミンなどの化学伝達物質の入った顆粒が細胞外に放出される(脱顆粒反応(degranulation reaction))。
【0005】
この脱顆粒反応により放出されたヒスタミン、SRS−A(slow reacting substance of anaphylaxis)や好酸球走化性因子等の化学伝達物質により血管の浸透性の増大、平滑筋の収縮、分泌液を分泌する機能の増大などが起こり、アレルギー症状を引き起こす。また、好酸球が反応局所に集積するので、アレルゲンが除去される。こうした機構からIgE抗体はアレルギーを引き起こすが、その障害反応を通じてアレルゲンの粘膜からの侵入や全身への拡散を防いだり、除去する為に働くと考えられている。
【0006】
現在、I型アレルギーの治療法はいくつかあるが、その一つに脱感作療法がある。この方法は、アレルギーを誘発しない程の少量のアレルゲンを期間を置いて数回注射し、予めアレルゲンに対するIgG抗体を産生させておく。そして再度侵入したアレルゲンにこの抗体が結合することによって、IgE抗体のアレルゲンへの結合が阻害され、アレルギーが抑制される。その他に、脱顆粒を阻害する医薬や、放出された化学伝達物質の作用を阻害する医薬の研究がすすめられている。また、IgEと結合する抗IgE抗体をI型アレルギーの治療に用いることについても報告されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【特許文献1】特表2002−510211号公報(公開日:平成14年(2002)4月2日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来公知のヒトIgEを認識しヒトIgEの中和活性を有する抗IgE抗体においては、抗IgE抗体と抗原であるIgEとは最大で1:2の分子の量論比でしか結合しないため、使用する抗IgE抗体の量が必然的に多くならざるを得ないという問題があった。また、ヒトIgEを破壊して完全にその機能を失わせることは不可能であった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、血中ヒトIgEあるいはその機能を低減するためにこれまでの方法に比べ、使用する抗IgE抗体の量をかなり低減することが可能なヒトIgE抗体に対する抗体酵素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、上記課題を解決するために、抗体でありながら酵素作用を有し、標的としたタンパク質を完全分解することのできる抗体酵素に着目し、ヒトIgEに対する抗体酵素を得るために鋭意検討した。その結果、ヒトIgEを免疫抗原に用いて得られた抗体の中に、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを切断および/または分解することができる抗体酵素としての機能を発揮するものが存在することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明にかかる抗体酵素は、上記課題を解決するために、ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明にかかる抗体酵素断片は、上記課題を解決するために、ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有する上記抗体酵素の可変領域を含むことを特徴としている。
【0012】
また、本発明にかかる抗体酵素または抗体酵素断片においては、重鎖可変領域が、配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなっていてもよい。
【0013】
また、本発明にかかる遺伝子は、上記抗体酵素、またはその可変領域を含む抗体酵素断片をコードすることを特徴としている。また、本発明にかかる形質転換体は、上記遺伝子が導入されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる抗体酵素は、以上のように、ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するという構成を備えているので、1分子で1つ(あるいは2つ)のヒトIgEに結合する抗体に比べ、抗体酵素は1分子で次から次にヒトIgE分子を破壊することができる。それゆえ、かかる抗体酵素を得ることができればヒトIgEが原因物質であるI型アレルギーの予防・治療に寄与することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明について以下により具体的に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0016】
(1)本発明にかかる抗体酵素およびその利用
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有する抗体酵素である。すなわち、本発明にかかる抗体酵素はヒトIgEを特異的に認識する抗体としての性質と、認識したヒトIgEを切断および/または分解する酵素としての性質を併せ持つ。
【0017】
ここで、「抗体酵素」とは、目的の抗原に対して特異的に抗原抗体反応し、かつ酵素活性を有する免疫グロブリンをいう。また、酵素活性は特に限定されるものではないが、プロテアーゼ活性またはペプチダーゼ活性であることが好ましい。
【0018】
本発明の抗体酵素は、プロテアーゼ活性またはペプチダーゼ活性を有する。すなわち、本発明の抗体酵素は、抗体でありながら酵素作用を有するものであり、その抗原タンパク質を標的として分解活性を示すものである。それゆえ、本発明の抗体酵素は、1分子で1つ(あるいは2つ)のヒトIgE分子に結合する抗体に比べ、1分子で次から次にヒトIgE分子を破壊することができる。したがって、その効果は通常の抗体の数百倍あるいは数千倍に達する。それゆえ、かかる抗体酵素を得ることができればヒトIgEを原因とするI型アレルギーの予防・治療に寄与することが期待できる。また、酵素であるため、酵素センサの構築が可能であり、抗体よりも応用範囲が広い。
【0019】
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトIgEに対する抗体である。ここで、ヒトIgEに対する抗体は、ヒトIgEに対するポリクローナル抗体であってもよいが、ヒトIgEに対するモノクローナル抗体であることがより好ましい。これにより、特異性に優れた抗体を選択することが可能となる。
【0020】
ここで、本発明の抗体酵素の由来は特に限定されるものではない。したがって、上記抗体酵素は、細胞融合によって得られたマウス等のモノクローナル抗体に由来する抗体酵素であってもよいし、遺伝子組換え技術を用いて大腸菌、動物細胞等で生産される抗体であってもよいし、本発明の抗体酵素の可変領域をヒトその他の動物の抗体に移植したヒト化抗体等のキメラ抗体であってもよい。あるいは、ファージディスプレイ法を用いて作製した抗体であってもよい。
【0021】
本発明の抗体酵素は、ヒトIgEを認識するものであればよく、ヒトIgEに対するあらゆる抗体が含まれるが、ヒトIgEの定常領域に存在するアミノ酸配列を認識するものであることが好ましい。定常領域に存在するアミノ酸配列を認識するものであることによって、種々の可変領域を有するIgEに対し、抗体酵素としての作用を及ぼすことができる。
【0022】
また、上記本発明にかかる抗体酵素は触媒三つ組残基構造を有することが好ましい。ここで上記「触媒三つ組残基構造」とは、少なくともセリンを含む3つのアミノ酸残基が活性部位に含まれ活性中心を形成していると推定される構造のことをいう。この触媒三つ組残基構造を有するプロテアーゼは、活性部位にセリンが含まれることからセリンプロテアーゼと呼ばれる。従って、上記抗体酵素はセリンプロテアーゼの一種であると言うこともできる。この触媒三つ組残基と推定される構造を有していれば、プロテアーゼとして高い活性を有していると予測できる。発明者らは、ペプチドや抗原タンパク質を切断および/または分解する活性を有するマウス由来抗体酵素を用いて、その性質や構造の特徴を詳細に解析した結果、ペプチドや抗原タンパク質を切断および/または分解する活性を有する抗体酵素は、いずれもその立体構造中に、セリン残基と、アスパラギン酸残基と、ヒスチジン残基またはグルタミン酸残基とが立体構造上近接して存在することを明らかにした(例えば特開2004−97211号公報(平成16年4月2日公開)参照)。ここで、「立体構造上近接して存在する」とは、セリン残基と、アスパラギン酸残基と、ヒスチジン残基またはグルタミン酸残基とのCα(α炭素)間の距離が、少なくとも3〜20×10−10mの範囲内、好ましくは、3〜10×10−10mの範囲内にあることを意味する。
【0023】
本発明の抗体酵素は、上述した抗体酵素であれば特に限定されるものではないが、具体的な一例としては、例えば、重鎖可変領域が、配列番号1に示すアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が、配列番号3に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素を挙げることができる。なお、配列番号1に示すアミノ酸配列は、後述する実施例に示す本発明の抗体酵素である抗IgEモノクローナル抗体5H5(以下、5H5抗体と称する。)の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号3に示すアミノ酸配列は、5H5抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。図1に5H5抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号1)を、図2に5H5抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号3)を示す。図1に示すように、5H5抗体の重鎖可変領域は、下線を付して示す、相補性決定領域(CDR領域)CDR1、CDR2、CDR3を有している。すなわち5H5抗体の重鎖可変領域は、配列番号1に示すアミノ酸配列の31番目から35番目(カバットの分類による番号で31番目から35番目)のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号1に示すアミノ酸配列の50番目から66番目(カバットの分類による番号で50番目から65番目)のアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号1に示すアミノ酸配列の97番目から105番目(カバットの分類による番号で93番目から102番目)のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。また、図2に示すように、5H5抗体の軽鎖可変領域は、下線を付して示すCDR1、CDR2、CDR3を有している。すなわち5H5抗体の軽鎖可変領域は、配列番号3に示すアミノ酸配列の24番目から33番目(カバットの分類による番号で24番目から34番目)のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号3に示すアミノ酸配列の49番目から55番目(カバットの分類による番号で50番目から56番目)のアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号3に示すアミノ酸配列の88番目から96番目(カバットの分類による番号で89番目から97番目)のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。なお、図1および図2においてアミノ酸に付した番号は、カバットの分類による番号であり、各配列番号に示すアミノ酸配列において何番目のアミノ酸であるかを示す番号とは異なっている。
【0024】
図3(a)には、5H5抗体軽鎖の可変領域の立体構造モデリング(分子モデリング)を行なった結果、推定された立体構造を模式的に示す。また、図3(b)および(c)には、5H5抗体重鎖の可変領域の立体構造モデリングを行なった結果、推定された立体構造を模式的に示す。図3(a)に示すように、配列番号3に示すアミノ酸配列において、カバットの分類による番号で第34番目のヒスチジン、カバットの分類による番号で第52番目のセリン、カバットの分類による番号で第50番目のアスパラギン酸が触媒三つ組残基を構成していると推測される。また、5H5抗体重鎖では、図3(b)に示すように、配列番号1に示すアミノ酸配列においてカバットの分類による番号で第1番目のグルタミン酸、カバットの分類による番号で第25番目のセリン、カバットの分類による番号で第101番目のアスパラギン酸が触媒三つ組残基を構成している場合と、図3(c)に示すように、カバットの分類による番号で第40番目または第84番目のセリン、カバットの分類による番号で第61番目または86番目のアスパラギン酸、カバットの分類による番号で第85番目のグルタミン酸が触媒三つ組残基を構成している場合とが考えられる。このように、5H5抗体軽鎖では、ヒスチジン、セリンおよびアスパラギン酸が三つ組み残基として機能し、5H5抗体重鎖では、グルタミン酸、セリンおよびアスパラギン酸が触媒三つ組残基として機能していると考えられる。
【0025】
また、本発明にかかる抗体酵素は、重鎖可変領域が、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもの、および/または、軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもので、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するものであってもよい。かかる抗体酵素は、5H5抗体の変異体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するものである。なお、上記の「配列番号1(3)に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。好ましい変異は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加である。より好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。このように、遺伝子工学的手法を用いた場合、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなる抗体酵素は、換言すれば、配列番号1または3に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素の変異体である。
【0026】
また、本発明には、本発明の抗体酵素の断片であって、上記抗体酵素の可変領域を含む抗体酵素断片も含まれる。かかる抗体酵素断片としては、上記抗体酵素の可変領域含む抗体酵素断片であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有する抗体酵素断片であれば特に限定されるものではない。かかる抗体酵素断片は、上記抗体酵素の重鎖(H鎖)であってもよく、上記抗体酵素の軽鎖(L鎖)であってもよく、上記抗体酵素の重鎖の可変領域であってもよく、上記抗体酵素の軽鎖の可変領域であってもよく、上記抗体酵素の重鎖または軽鎖の可変領域を含むいかなる抗体酵素断片であってもよい。かかる抗体酵素断片は、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するので、1分子で1つ(あるいは2つ)のヒトIgEに結合する抗体に比べ、抗体酵素は1分子で次から次にヒトIgE分子を破壊することができる。それゆえ、かかる抗体酵素断片を得ることができればヒトIgEが原因物質であるI型アレルギーの予防・治療に寄与することができる。また、上記抗体酵素の重鎖または軽鎖の可変領域或いはそのCDR領域は、かかる可変領域またはCDR領域をヒトその他の動物の抗体に移植してキメラ抗体酵素を作製するために好適に用いることができる。
【0027】
かかる抗体酵素断片としては、例えば、配列番号1または3に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素断片やこれらのアミノ酸配列を含む抗体酵素断片を挙げることができる。なお、配列番号1に示すアミノ酸配列は、5H5抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号3に示すアミノ酸配列は、5H5抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0028】
また、上記抗体酵素断片は、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなる抗体酵素断片やかかるアミノ酸配列を含む抗体酵素断片であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するものであってもよい。かかる抗体酵素断片は、それぞれ、5H5抗体の重鎖または軽鎖の可変領域の変異体またはかかる変異体を含む抗体酵素断片であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するものである。
【0029】
また、本発明には、上記抗体酵素をコードする遺伝子、上記抗体酵素の断片であって上記抗体酵素の可変領域を含む抗体酵素断片をコードする遺伝子、または、上記抗体酵素の断片であって上記抗体酵素の各CDR領域をコードする遺伝子も含まれる。かかる遺伝子を適当な宿主に発現可能に導入することにより、本発明の抗体酵素または抗体酵素断片を宿主内で発現させることができる。また、可変領域の抗体酵素断片をコードする遺伝子は、そのまま発現させてもよいが、例えばヒト免疫グロブリン等、由来の異なる免疫グロブリンの定常領域、あるいは可変領域内のフレームワークをコードする遺伝子と連結してキメラ遺伝子として発現させ、キメラ抗体酵素を製造することもできる。また、上記可変領域のCDRをコードする遺伝子を、由来の異なる免疫グロブリンの可変領域に組み込んでキメラ遺伝子として発現させ、キメラ抗体酵素を製造することもできる。
【0030】
なお、上記「遺伝子」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった一本鎖DNAやRNAを包含する。さらに、上記「遺伝子」は、本発明の抗体酵素、またはその断片をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む。)等の配列を含むものであってもよい。
【0031】
本発明の遺伝子としては、具体的には、例えば、配列番号2または4に示す塩基配列からなる遺伝子、またはこれらを含む遺伝子を挙げることができる。配列番号2に示す塩基配列からなる遺伝子は、5H5抗体の重鎖可変領域をコードする遺伝子の一例であり、配列番号4に示す塩基配列からなる遺伝子は、5H5抗体の軽鎖可変領域をコードする遺伝子の一例である。
【0032】
また、上記遺伝子は、配列番号2または4に示される塩基配列と必ずしも同一である必要はなく、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有する抗体酵素またはその断片をコードする遺伝子であれば、その変異体も含まれる。このような変異体としては、上記抗体酵素またはその断片をコードする遺伝子の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換、又は付加した変異体が挙げられる。また、かかる変異体は、配列番号2または4に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする遺伝子であってもよい。
【0033】
上記「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズ」するとは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の具体的な例として、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。また、上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al. Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができ、特に限定されるものではない。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(すなわち、ハイブリダイズし難くなる)。
【0034】
さらに本発明には、上記遺伝子が導入された形質転換体も含まれる。この形質転換体は、上記遺伝子が適当な宿主(例えば細菌、酵母)に発現可能に導入されたものであり、本発明にかかる抗体酵素を自身の体内で発現させることができ、当該抗体酵素の製造に利用することができる。また、上記形質転換体は、本発明にかかる抗体酵素を自身の体内に蓄積しているため、I型アレルギーを予防または治療するための薬剤として利用することができる。
【0035】
また、これまでに、IgEの働きを抑制する作用をもつ抗IgE薬剤は開発されているが、本発明にかかる抗体酵素は、これらの抗IgE薬剤とは全く異なる手法に基づいて、ヒトIgEを直接攻撃してその機能を消失させることができる。そのため、この抗体酵素は抗IgE薬剤として利用することができる。
【0036】
上記本発明にかかる抗体酵素またはその可変領域を含む抗体酵素断片を含む抗IgE薬剤は、本発明にかかる抗体酵素のみによって構成してもよいが、薬理学的に許容される担体などと混合して構成してもよい。医薬組成物の製造法として公知の手段に従って、上記抗IgE薬剤を製造することができる。
【0037】
ここで、薬理学的に許容される担体には、製剤素材として使用可能な各種有機または無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、または液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。
【0038】
上記賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースなどが挙げられ、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
【0039】
また、上記結合剤としては、例えばα化デンプン、メチルセルロース、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0040】
崩壊剤としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。
【0041】
上記溶剤としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、トリカプリリンなどが挙げられる。
【0042】
上記溶解補助剤としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0043】
上記懸濁剤としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、あるいは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子が挙げられる。
【0044】
上記等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
【0045】
上記無痛化剤としては、例えばベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0046】
上記防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0047】
抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0048】
上記抗IgE薬剤は、製剤技術分野において慣用の方法により製造することができる。抗IgE薬剤の剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口剤のほか、注射剤、坐剤、ペレット、点滴剤等の非経口剤が挙げられ、これらは毒性も低く、それぞれ経口的または非経口的に投与できる。
【0049】
また、上記抗IgE薬剤の投与量は、投与対象、投与ルート、症状などによっても異なる。したがって、上記投与量は、最適な条件を適宜検討の上、採用すればよい。
【0050】
(2)本発明にかかる抗体酵素の製造方法
本発明にかかる抗体酵素は、例えば、ヒトIgEで免疫したマウス等の免疫動物の脾臓細胞と、マウスのミエローマ細胞等の融合パートナーとを融合させてなるハイブリドーマにより、モノクローナル抗体を産生することにより製造することができる。重鎖、軽鎖を得る場合には、得られたモノクローナル抗体を重鎖と軽鎖に分離すればよい。また、本発明の抗体酵素断片を得る場合には、まず該当するモノクローナル抗体を取得し、その後、上記モノクローナル抗体を適当なプロテアーゼを用いて目的とする抗体酵素断片が得られるように切断すればよい。
【0051】
モノクローナル抗体の取得は通常のハイブリドーマ法(Kohler, G. and Milstein, C., Nature 256, 495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor, Immunology Today 4, 72(1983))、EBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss, Inc.,77-96(1985))、ファージディスプレイ法等により行なわれる。
【0052】
マウス等に免疫する抗原として用いるヒトIgEは特に限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。市販のヒトIgEを用いてもよい。
【0053】
また、アミノ酸配列が明らかになっている抗体酵素または抗体酵素断片については、従来公知の遺伝子組み換え技術等を用いて本発明の抗体酵素を製造することができる。この場合、上記抗体酵素のアミノ酸配列をコードする遺伝子をベクター等に組み込んだ後、発現可能な適当な宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたポリペプチドを精製する等の方法を用いることができる。なお、大量発現させることができる適当なプロモーターとともに上記抗体酵素をコードする遺伝子を組み込めば、目的とする抗体酵素を効率よく製造することができる。
【0054】
上記抗体酵素のアミノ酸配列が明らかでない場合には、先ずモノクローナル抗体産生細胞やそのハイブリドーマなどからmRNAを取得し、当該mRNAからcDNAを合成しその遺伝子配列を読み取る。その後、その遺伝子配列からアミノ酸配列を推定し、分子モデリングによって3次元構造を予測して触媒三つ組残基様構造が含まれているか否かを確認すればよい。そして、上記触媒三つ組残基様構造が含まれている抗体断片を抗体酵素として取得することができる。
【0055】
また、本発明にかかる抗体酵素をコードする遺伝子については、その塩基配列が明らかとなっているものの場合には、モノクローナル抗体産生細胞やそのハイブリドーマなどからcDNA(あるいはゲノムDNA)を取得した後、それを鋳型として適当なプライマーを用いてPCRを行い、該当する領域を増幅させることで本発明にかかる抗体酵素をコードする遺伝子取得することができる。また、部位特異的突然変異誘発法を利用して、配列番号2または4に示す塩基配列からなる遺伝子に適当な変異を導入すれば、それを導入した形質転換体においては、配列番号1または3に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素の変異体が発現産物としてそれぞれ得られる。
【実施例1】
【0056】
〔実施例1:抗ヒトIgEモノクローナル抗体の作製〕
免疫用の抗原として市販のヒトIgE(Chemicon International, CA. USA)をBalb/cマウス(雌6週齢)に免疫し、ポリエチレングリコールによる通常の細胞融合法により、抗ヒトIgEモノクローナル抗体を作製した。
【0057】
<マウスへの免疫>
完全フロイントアジュバント(Freund’s complete adjuvant:以下「FCA」と略称することがある、DIFCO, Detroit Michigan USA)と抗原であるヒトIgE(0.5mg/ml in PBS)とを、ルアーロック式のシリンジ 2本のそれぞれにセットし、ウオーターインオイルの要領でFCAと抗原とを白い乳液状になるまで混合した。次に、この混合物を、マウスの腹部皮下の2箇所に100μlずつ投与した。
【0058】
免疫注射から10日後にマウスの採血を行い、通常のELISA法で力価の測定を行った。以下に力価の測定方法を示す。
【0059】
ヒトIgEをPBSを用いて1μg/mLになるように調製した。このヒトIgEを96穴ウェルプレートにそれぞれ別系列で50μLずつ注入した。4℃で一晩放置してコーティングした後、イムノウォッシャーを用いて0.05%のTween 20を含むPBS(PBS−T)でプレートを3回洗浄した。続いてすべてのウェルに2%ゼラチンを含むPBSを150μlずつ加えた。室温で1時間インキュベーションし、ブロッキングを完了した。
【0060】
採取した抗血清をPBSで1/100希釈し、1/100から4倍連続希釈を7回繰り返し、1サンプルにつき抗血清希釈液を8種類用意した。また未処理マウスの血清も抗血清と同様に希釈を行いコントロールとして用いた。ブロッキングが終了した各ウェルに、連続希釈した抗血清を50μlずつ加え、室温で1時間静置した(一次反応)。洗浄後、PBS−Tで希釈調整したアルカリフォスファターゼ(ALP)標識ウサギ抗マウス血清を各ウェルに50μLずつ加えた。室温で1時間静置した(二次反応)。プレートを洗浄後、ALP基質(p-nitrophenyl phosphate)を各ウェルに100μLずつ加え、30分後にイムノリーダー(波長405nm)で吸光度を測定した。
【0061】
初回免疫から約2週間後に追加免疫を行った。2回目からはFCAの代わりに不完全フロイントアジュバント(FIA)を用いた。免疫の方法は初回免疫と同様に行い、マウス1匹あたり50μgの抗原を投与した。
【0062】
10日後眼窩静脈叢より採血を行い、ELISA法により再度力価測定を行った。追加免疫後、力価が十分上がったマウスに最終免疫を行った。最終免疫はアジュバントは使用せずに滅菌PBS(リン酸緩衝食塩水)を抗原と混合してマウス尾静脈に投与した。このときマウス1匹あたり抗原を50μg投与した。
【0063】
<細胞融合>
最終免疫の3日後にマウスから脾臓を摘出し、マウス脾臓細胞とマウスミエローマ細胞(P3U1)との細胞融合を行った。この細胞融合はポリエチレングリコールを使って行う通常の方法で行った。その後、スクリーニング、クローニングを繰り返し、表1に示す11個の抗ヒトIgEモノクローナル抗体産生細胞を確立した。
【0064】
【表1】
<アイソタイプの決定>
確立した抗ヒトIgEモノクローナル抗体のアイソタイプ決定を、Iso StripTM マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキットを用いて行った。アイソタイプの決定は添付のマニュアルに従って行った。その結果を表1に併記する。
【0065】
〔実施例2:抗ヒトIgEモノクローナル抗体のタンパク質との交差反応試験〕
得られた抗ヒトIgEモノクローナル抗体の培養上清を用いて、実施例1で抗原として用いたヒトIgEおよび他の種々のタンパク質との交差反応性をELISA法により調べた。他のタンパク質としては、IgG、Human-γ-globlin(ヒトγ−グロブリン)、HSA(ヒト血清アルブミン)、KLH(キーホールリンペットヘモシニアン)、BSA(ウシ血清アルブミン)およびHuman-hemoglobin(ヒトヘモグロビン)を用いた。
【0066】
交差反応試験は以下のようにして行った。ヒトIgE、IgG、Human-γ-globlin、HSA、KLH、BSAおよびHuman-hemoglobinはそれぞれPBSで5μg/mlに調製し、96穴のウェルプレートに200μlずつ入れコーティングを行った。培養上清はPBS−Tで1/2希釈し、一次反応に用いた。その他の操作は上述した力価測定と同様に行った。
【0067】
図14および図15に交差反応試験の結果を示す。図14および図15に示すように、実施例1で確立した抗体産生細胞によって産生される抗ヒトIgEモノクローナル抗体はいずれもヒトIgEと特異的に反応し、他のタンパク質とは反応しなかった。ただし、3E8および4C5はヒトIgGとも交差反応した。また、それぞれの抗ヒトIgEモノクローナル抗体のヒトIgEとの反応性を表1に併記する。
【0068】
〔実施例3:5H5抗体可変領域の塩基配列およびアミノ酸配列の決定〕
得られた5H5抗体可変領域の塩基配列を以下に示す方法で決定し、アミノ酸配列を推測した。
【0069】
<抗体産生細胞の培養>
5H5抗体を産生する抗体産生細胞は、培養温度37℃、CO2濃度5.5%の条件下、20%FCSを含むIMDM培地中で1×107〜5×107細胞が得られるまで培養した。培養液を、50ml遠心チューブに移し、1400rpmで6分間遠心分離を行って細胞を回収した。培地をアスピレーターにて除去後、10mlのPBSで懸濁し、1つのチューブにまとめて再度1400rpmで6分遠心分離を行った。上清を吸引除去後再度10mlのPBSで懸濁して血球計算盤を使用し細胞数をカウントした。
【0070】
カウント後1×107〜5×107細胞分の細胞懸濁液を取り、再度1400rpmで6分間遠心分離を行って上清を除去した。さらに、ペーパータオル上で逆さにし完全に液を切った。アスピレートが不十分であれば、再度遠心分離を行いマイクロピペットで残ったPBSを除去した。
【0071】
<mRNAの抽出と精製>
mRNAの抽出はQuickPrepTM mRNA purification Kit (アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社製)を用いて、当該キットの推奨プロトコールに準じて行った。以下にその方法を示す。
【0072】
上記で回収した細胞のペレットに、予め37℃のインキュベーターに約30分静置して結晶を完全に溶解させた1.5mlのExtraction bufferを添加した。この細胞を、21Gの針に数回通すことにより破砕した。その細胞破砕溶液に3mlのElution bufferを加え更に細胞を破砕した。得られた細胞破砕溶液をRNアーゼフリーの1.5mlマイクロチューブ4本に分注し、室温(25℃)、18000×gで20分間遠心分離を行い、その上清を後述のoligo(dT)-cellulose spin columnに添加するサンプルとした。
【0073】
続いてmRNAを単離した。まず、oligo(dT)-cellulose spin columnの樹脂を懸濁し、上下のキャップを外して15mlの遠心チューブにセットし、1300rpmで1分45秒間遠心分離を行ってカラム内の保存液の除去を行った。その後、下キャップを装着し、除タンパク・除DNAした上記サンプル(上清)を4ml添加し上キャップを取り付けた。カラムの樹脂を懸濁した後、10〜15分間転倒混和し樹脂にmRNAを吸着させた。そして、上下のキャップを装着したまま1400rpmで1〜2分間遠心分離を行った後、上キャップをはずし、上清をRNアーゼフリーのマイクロピペットを使用し、上清を除去した。そこに、3mlのHigh-salt bufferを添加し、2分間ほど緩やかに混和した後、上キャップを装着し、1400rpmで2分間遠心分離を行い、上清を除去した。この操作をさらに2回繰り返した。
【0074】
続いて3mlのLow-salt bufferをカラムに添加して1〜2分間緩やかに懸濁した後、上キャップを装着し15mlチューブに入れた。1400rpmで2分間遠心分離を行って上清を除去した。その後、下キャップも取り外し、3mlのLow-salt bufferを、樹脂表面が平らになるように壁に添わせながら回し入れた。続いて15mlチューブにカラムを設置し1300rpmで2分間遠心分離を行った。
【0075】
次に新しい15ml遠心チューブを用意し、mRNA回収用の1.5mlマイクロチューブ2個の蓋をハサミで切断後、15ml遠心チューブに重ねて入れ溶出用チューブとした。溶出用チューブにカラムを入れ、そこに65℃に加熱した0.25mlのElution bufferを添加し1300rpmで2分間遠心分離を行った。この操作を2回繰り返し、溶出液をmRNA画分として1.5mlマイクロチューブ2本に回収し氷上に静置した。別に定量用のマイクロチューブを準備し、10μlのmRNA画分を取り、70μlのElution bufferを加えて希釈し(1/8希釈)、吸光度ブランクをElution BufferとしてA260、A280を測定した。測定においては、予め、塩酸:メタノール=1:1の溶液に約1時間浸しRNアーゼフリーにした後、DEPC処理水(Diethyl Pyrocarbonate 処理水)で洗浄したセルを用いた。またRNAの濃度(μg/ml)はA260×希釈率×40で算出した。
【0076】
また、2等分され氷上に静置しておいたmRNA画分(mRNA抽出溶液)に1/10量の2.5M酢酸カリウム、1/50量のグリコーゲン、2倍量の95%エタノールを加えて攪拌し混合液を得た。この混合液を、−30℃に約40分置き、4℃、15000rpmで5分間遠心分離を行った後、−80℃で保存した。
【0077】
なお、mRNAの抽出と精製においては、ガラス、金属類(実験器具)は240℃で2時間乾熱滅菌したものを、プラスチック類の実験器具はRNアーゼ・DNアーゼフリーの物を使用した。
【0078】
<mRNAからのFirst strand cDNAの合成>
−80℃でエタノール沈殿の状態で保存していたmRNAを取り出し、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行いマイクロピペットで上清を除去した。
【0079】
その後、1mlの氷冷した75%エタノール(予めDEPC処理水で調製し、−30℃で保存したもの)を、マイクロチューブに、ペレットのない方からそっと加えてリンスし、4℃、15000rpmで10分遠心分離を行い、マイクロピペットで上清を除去した。そして、15分間真空乾燥を行い、0.2μg/μlとなるようにDEPC処理水を添加し1時間静置して溶解した。溶解後、確認の為にmRNA溶液をDEPC処理水でA260=1前後になるように希釈し吸光度を測定した。
【0080】
cDNAの合成はAMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit (Takara製)を用い、そのプロトコールに準じて行った。以下にその方法を示す。RNアーゼフリーの0.2mlマイクロチューブにmRNA 2μg分のmRNA溶液を添加した。そのマイクロチューブにpd(T)12〜18プライマー(0.5μg/ml)2μlおよびDEPC処理水を、mRNA溶液と合わせて17μlとなるように添加して混合した。その後、70℃で10分間アニーリング処理を行った。アニーリング処理後のマイクロチューブを氷上に置き、0.25M DTT1μl、Rnase inhibitor 1μl、および5×Reaction buffer 5μlを添加しよく混合した。更にAMV-RTを1μl添加して緩やかに攪拌し、41℃で60分間伸長反応を行った。60分経過後、氷上にマイクロチューブを置いて伸長反応を停止し、マイクロチューブを−30℃で保存した。
【0081】
<PCRによる抗体可変領域遺伝子の増幅>
Mouse Ig primer Kit(Novagen)、NovaTaqTMHot Start DNA Polymerase Kit(Novagen)を使用し、上記<mRNAからのFirst strand cDNAの合成>で得られたcDNAから、抗体遺伝子可変領域の増幅を行った。
【0082】
抗体重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の増幅には、Master mix(37.25μlの滅菌超純水、0.5μlの3’-プライマー(最終濃度5pmol)、3μlの25mM MgCl2(最終濃度1.5mM)、1μlの10mM dNTPs(最終濃度 0.2mM)、5μlの10×NovaTaq Hot Start Buffer(最終濃度1×)、および0.25μlのNovaTaq Hot Start DNA Polymerase(最終濃度1.25U)を混合した。)を準備した。このMaster mixを、ポジティブコントロール、ネガティブコントロール、およびプライマーの本数分準備したPCRチューブに47μlずつ分注した。そこに、1μlの5’-プライマー(最終濃度5pmol)および2μl cDNA溶液を添加した。なお、ポジティブコントロールは Mouse Ig primer Kitに付属のものを使用し、ネガティブコントロールには滅菌超純水を使用した。
【0083】
PCRチューブ内のMaster mix、5’-プライマーおよびcDNA溶液をよく混合し、Biometra社T-GRADIENT、TaKaRa社PCR Thermal cycler PERSONALを使用しPCRを行った。反応条件として、L鎖は95℃で7分間のプレヒート後、熱変性を98℃で15秒間、伸長反応を74℃で15秒間に固定し、アニーリング温度を70℃、66℃、62℃、58℃、54℃、および50℃と6段階に4℃ずつ下げるStep Down法を行った。なお、アニーリング時間は、15秒間に固定した。上記の3ステップを5段階まで3サイクルずつ行い、6段階目を10サイクル行った。H鎖は95℃で10分間のプレヒート後、熱変性を94℃で1分間、アニーリング温度50℃で2分間、伸長反応を72℃で2分間の3ステップを40サイクル行った後、72℃の伸長反応を10分間行った。PCR終了後、アガロース電気泳動により、抗体可変領域遺伝子の増幅を確認した。
【0084】
<抗体可変領域遺伝子のクローニング>
クローニングは、TOPO TA Cloning Kit(インビトロジェン社製)を用いて、以下のようにして行った。
【0085】
アガロースゲル電気泳動で抗体可変領域と予測されるDNAの増幅を確認したPCR産物2μl、salt Solution 1μl、および滅菌水2μlを、氷上にてPCRチューブに分注し攪拌した。さらに、このPCRチューブに、TOPO ベクター1μlを添加して緩やかに攪拌後、室温で30分間ライゲーション反応させた。30分後、直ちにPCRチューブを氷上に置き反応を停止させた。このようにして調製された反応液を以下「ライゲーション反応液」と称する。
【0086】
使用直前に−80℃のフリーザーからOne Shot TOP10 Chemically Competent E. coli(インビトロジェン社製)を取り出し氷上で溶解した。溶解したOne Shot TOP10 Chemically Competent E. coli に、氷上に置いていたライゲーション反応液2μlを加え、氷上で30分間インキュベーションを行い、コンピテント細胞間にDNAを拡散させた。反応終了後、42℃で45秒間ヒートショックを与えてDNAを取り込ませた後、氷上に戻し2分間静置した。そこに予め、室温に戻しておいた250μlのSOC培地をクリーンベンチ内で加え、振盪(200rpm)しながら37℃で1時間培養した。
【0087】
1時間の培養中に、予め準備しておいたアンピシリンを含むLBプレート培地1枚に対し、100μlの100mM IPTGストックと、20μlの50mg/ml X−Galを塗り広げ、15〜30分間乾燥させた。
【0088】
培養終了後、アンピシリン/IPTG/X−Gal/LBプレート培地に、培養後の大腸菌液を50μl、および100μlの2種類の濃度で塗り広げ、37℃で一晩培養した。
【0089】
形質転換後の青/白判定によりDNA断片がインサートされていると考えられる白コロニーを12コロニー選択し、偽陽性を除く為、更に画線培養を行った。画線培養では、形質転換後の大腸菌を培養したのと同様にアンピシリン/IPTG/X−Gal/LBプレート培地を使用し、白金耳で単一コロニーが得られるように画線し、37℃で一晩培養した。得られたコロニーにおける白コロニーの割合は、H鎖で90%、L鎖で46%であった。
【0090】
<プラスミドDNAの調製>
上記<抗体可変領域遺伝子のクローニング>で得られた大腸菌をアンピシリンを含むLB液体培地で培養した。大腸菌培養液から0.75mlを取り、0.2mlの80%グリセロールと混合し、大腸菌のグリセロールストックとして−80℃で保存した。プラスミドDNAは残りの培養液を用いてアルカリSDS法により調製した。
【0091】
残りの約5.25mlの培養液を1.5mlマイクロチューブ6本に移し、12000rpmで1分間遠心分離して集菌し、上清を丁寧に吸引除去した。このマイクロチューブに、Solution I(50mM D−グルコース、25mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH8.0)を100μl加えてボルテックスミキサーにかけよく懸濁した。
【0092】
次にこのマイクロチューブに、Solution II(0.2N NaOH、1%(w/v)SDS)を200μl加えて転倒混和後、当該マイクロチューブを氷中に5分間置き、Solution III(3M CH3COOK、2M CH3COOK)を150μl加え緩やかに撹拌した後、当該マイクロチューブを氷上に5分間置いた。
【0093】
そして、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行った後、沈殿が入らない様に注意しながら上清を採り、新しい1.5mlマイクロチューブに移し、等量のフェノール・クロロフォルムを加えて攪拌した後、4℃、15000rpmで2分間遠心分離を行った。更に同じ作業を繰り返し、2回のフェノール・クロロホルム処理を行った後、上層(水層)を別のマイクロチューブに移し、2.5等量の氷冷エタノール1mlを加えて上下に振って攪拌し−70℃で5分間静置した。そして、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行った後、上清を除去した。その後氷冷70%エタノールを1ml加え、ペレットをリンスし4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を除去し、15分間真空乾燥した。
【0094】
乾燥終了後、TE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA)緩衝液45μlでマイクロチューブ内のペレットを溶解し、さらにRNaseA溶液(5mg/ml RnaseA、10mM Tris−HCl、15mM NaCl、pH7.5)5μl溶液を加えた(終濃度:50μg/ml)。2本のマイクロチューブの溶液を1本のマイクロチューブにまとめ、37℃で1時間反応させた。
【0095】
反応終了後、2/3等量のPEG(13%(w/v)PEG6000、0.8M NaCl)を加え、当該マイクロチューブを氷上に1時間以上置いた。その後、4℃、15000rpmで15分間遠心分離を行い、上清を除去した。当該マイクロチューブに、70%エタノールを1ml加えてリンスし、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行った。上清を除去後、真空乾燥を行った。真空乾燥後、1サンプルにつき50μlの滅菌水に溶解し、一本のチューブにまとめプラスミド溶液とした。そして、アガロース電気泳動によるバンド比較にてサンプルのDNA濃度を推測した。
【0096】
<塩基配列の決定>
Thermo SequenaseTMCyTM5.5 Terminator Cycle Sequencing Kit (Pharmacia社製) を用いて、塩基配列の決定を行った。アデニン(A)用、シトシン(C)用、グアニン(G)用、およびチミン(T)用の4種類のPCRチューブを用意し、各PCRチューブに、d(N)TP/Cy5.5-dd(N)TPを各サンプル分1μlずつ分注した。
【0097】
次にDNA/primer mixの調製を行った。<プラスミドDNAの調製>で調製したDNA1.5μg、Reaction Buffer3.5μl、TOPO13 Reverse(4pmol/μl)(Invitrrogen)1μl、およびThermo Sequenase(10unit/μl)2μlを混合し、滅菌超純水を添加し全量が31.5μlとなるようにした。これを上記PCRチューブに7μlづつ分注し、すみやかにBiometoraサーマルサイクラーにセットし、95℃で30秒間、58℃で30秒間、および72℃で120秒間の反応サイクルを30サイクル行い、4℃で冷却し反応を停止させた。
【0098】
反応終了後、サンプルをPCRチューブから1.5mlのマイクロチューブに移し、20mg/mlグリコーゲンを1μl、7.5M酢酸アンモニウムを2μl、および98%エタノールを30μl添加しよく混合した。このマイクロチューブを10分間氷上で静置し、12000rpmで20分間遠心分離を行った。その後、キムワイプ上でデカンテーションして上清を除去し、70%エタノールを200μl添加し、ペレットおよびチューブ内壁をリンスした。そして12000rpmで10分間遠心分離を行い、マイクロピペットを使用して上清を丁寧に除去した。そして遮光してペレットを乾燥させ、6μl Loading Dyeで溶解し、72℃で、3分間熱処理を行い、LONG-READ TOWERTM System (Amersham Pharmacia Biotech.)に各2μlずつローディングし、解析を行った。得られた塩基配列は、DNASISソフトウェア(日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社製)を使用して解析され、アミノ酸配列に翻訳された。
【0099】
〔実施例4:5H5抗体可変領域の立体構造予測〕
実施例3によって決定した塩基配列から推測した5H5抗体可変領域のアミノ酸配列をもとに、ソフトウエアAbM (Oxford Molecular社製、Oxford、UK)を用いて、目的抗体のCDR領域のループ構造およびFR領域の立体構造を予測した。AbMで予測された立体構造をもとに、ソフトウエアInsightII/Discover3(Molecular Simulation社製、USA)により分子間力計算を行い、熱力学的に安定となる立体構造を予測した。
【0100】
さらに、ソフトウエアPPC Protein Adviser(富士通九州システムエンジニアリング社製)を用いて、立体構造中のセリンプロテアーゼ三つ組み残基を構成するSer、HisおよびAspの残基群を探索した。その結果、5H5抗体のL鎖にセリンプロテアーゼ三つ組み残基の存在が確認された。図3(a)に、5H5抗体のL鎖におけるSer、HisおよびAspの残基群探索結果を示す。図3(a)に示すように、配列番号3に示すアミノ酸配列において、カバットの分類による番号で第34番目のヒスチジン、カバットの分類による番号で第52番目のセリン、カバットの分類による番号で第50番目のアスパラギン酸が、His33−Ser51のCα間は9.33×10−10m、His33−Asp49のCα間は6.10×10−10mと空間的に近い位置で存在すると予測され、触媒三つ組残基を構成していると推測される。なお、His34(カバットの分類による)、Ser52(カバットの分類による)およびAsp50(カバットの分類による)はいずれもCDR領域に存在していた。
【0101】
また、同様にして、立体構造中のセリンプロテアーゼ三つ組み残基を構成するSer、GluおよびAspの残基群を探索した。その結果、5H5抗体のH鎖にセリンプロテアーゼ三つ組み残基の存在が確認された。図3(b)および(c)に、5H5抗体のL鎖におけるSer、GluおよびAspの残基群探索結果を示す。図3(b)に示すように、配列番号1に示すアミノ酸配列において、カバットの分類による番号で第1番目のグルタミン酸、カバットの分類による番号で第25番目のセリン、カバットの分類による番号で第101番目のアスパラギン酸が空間的に近い位置で存在すると予測され触媒三つ組残基を構成していると推測される。また、図3(c)に示すように、カバットの分類による番号で第40番目または第84番目のセリン、カバットの分類による番号で第61番目または86番目のアスパラギン酸、カバットの分類による番号で第85番目のグルタミン酸が空間的に近い位置で存在すると予測され触媒三つ組残基を構成していると推測される。なお、図中、5H5抗体のH鎖およびL鎖のそれぞれのCDR1〜3をリボンで表現している。
【0102】
セリンプロテアーゼ三つ組み残基の存在が確認されたことより、これまでの発明者らによる多くの研究(Appl. Biochem. Biotech., 83, 209-220(2000); J. Immunol. Methods, 269, 283-298(2002); Immunol. Lett. 86, 249-257(2003); Biotechnol. Bioeng., 84(7), 485-493(2003); 化学工業、54, 368-372(2003); Biotechnol. Bioeng. 86(2), 217-225(2004); 科学、75(11), 1254-1259(2005))から、5H5抗体は抗体酵素である可能性が示唆された。そこで、5H5抗体におけるH鎖およびL鎖の抗原分解能の有無について検討を行うこととした。
【0103】
〔実施例5:5H5抗体の大量取得と精製〕
<5H5抗体の大量取得>
あらかじめプリスタン(2,6,10,14-tetramethylpentadecane、MP Biochemicals コード195455,Ohio,USA)を投与したBalb/cマウスの腹腔に5H5抗体を産生する抗体産生細胞0.5×106個を投与後、腹水を採取することにより5H5抗体を大量に取得した。このようにして取得した5H5抗体は以下の方法で精製し目的の実験に用いた。
【0104】
<塩析>
腹水約7mlは濾過してフィブリンを除去し、同量のPBSで希釈した。これを2本の高速冷却遠心チューブに分け、各々、同量の飽和硫酸アンモニウムをドロップワイズで加えた。これを氷中で30分間静置し、その後、4℃、10000rpmで、10分間遠心分離した。デカンテーションにより上清を除去し、ペレットを6mlのPBSに溶解した。再度、等量の飽和硫酸アンモニウムを添加して塩析し、ペレットを6mlのPBSに溶解した。これを、1本のチューブに合わせ、PBSに対して2回透析した。
【0105】
<カラム精製>
透析終了後、MAPS-IIキット(BIO-RAD社製/ProteinAを使った精製キット)を用いて5H5抗体の精製を行なった。操作はMAPS-IIキットに付属のマニュアルに従い、4℃で行なった。
【0106】
使用する試薬として、0.05%NaN3/PBS、Binding buffer、Elution buffer、および2M Tris−HCl(pH8.0)を以下のようにして調製した。0.05%NaN3/PBSは、0.1gのNaN3を200mlのPBSに溶解した。Binding bufferは、47.1gのBinding buffer粉末を蒸留水に溶解し、150mlにメスアップして調製した。この時、pHメーターを用い、pHが9±0.2であることを確認し、範囲外である時はHClまたはNaOHでpHを調整した。Elution bufferは2.3gのElution buffer粉末を蒸留水に溶解し、100mlにメスアップして調製した。この時、pHメーターを用い、pHが3±0.2であることを確認し、範囲外である時はHClまたはNaOHでpHを調整した。2M Tris−HClは、12.11gのTrisを蒸留水に溶解し、HClでpHを8.0に調整した後、蒸留水で50mlにメスアップした。
【0107】
透析終了後、上記の塩析済みの腹水(約7ml)を濾過し脱気した。脱気後の腹水を、腹水: Binding buffer=1:1.2になるように希釈した。また、精製操作前に、0.05%NaN3/PBS、Binding buffer、およびElution bufferを脱気した。
【0108】
アフィゲルプロテインAを充填し、カラムを上記Binding bufferで洗浄した。UV 280nmの吸光度をモニターし、ベースラインが落ち着くまで上記Binding bufferでゲルを洗浄した。流速を0.2ml/minに調節し、ゲル表面とBinding bufferの液面とがほぼ一致したところで、上記サンプルをカラムに供した。
【0109】
次に、50ml以上のBinding bufferを供し、抗体以外の夾雑物質を除去した。ここで検出したピーク部分は、素通り画分として採取した。素通り画分を分取後、ベースラインが落ち着いたら、ゲル表面とBinding bufferの液面とがほぼ一致したところで、45mlのElution bufferを添加し、アフィゲルプロテインAに結合した抗体を溶出させ、ピーク部分を抗体画分として分取した。回収した各画分について、pH試験紙でpHを測定し、2M Tris−HCl(pH8.0)で中和した。上記抗体画分(抗体液)は、PBSに対して2回透析した後、50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer (pH8.0)に対して2回透析し、SDS−PAGEで純度を確認した。純度の高い画分のみを回収し、DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO-RAD)でタンパク濃度を測定し、1mg/ml以上の濃度(1mg/ml未満の場合は濃縮して)で凍結保存した。
【0110】
〔実施例6:抗ヒトIgEモノクローナル抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)の分離精製〕
<限外濾過>
実施例5で50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer (pH8.0)に対して2回透析した後の抗体溶液5mg分を、セントリプレップ−10を用いて、4℃、2800rpmで遠心分離し、約1mlになるまで限外濾過により濃縮した。さらに、5mlの0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を加え、約1mlになるまで再び遠心分離した。この操作を再度行い、限外濾過による濃縮後、0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で抗体溶液を2.7mlに調整し、褐色瓶に入れ以下の実験に使用するまで低温で保存した。
【0111】
<重鎖・軽鎖の分離>
抗体溶液2.7ml、50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)、および1M Tris /50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)をそれぞれ脱気した。抗体溶液2.7mlに2M 2−ME(メルカプトエタノール)300μlを加えて撹拌した後、1M Tris /50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)でpH8に調整し、反応容器内に窒素を封入して、15℃で3時間撹拌し還元反応を行った。この反応液に3mlの0.6Mヨードアセトアミド/50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)を添加し、反応容器内に窒素を封入して、1M Tris /50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)でpH8に調整した後、15℃で15分間撹拌しながらアシル化反応を行なった。
【0112】
続いてディスクフィルター(ミリポア製サンプレップLCR13-LH、0.5μm)で反応液を濾過し粒子を除去した。この粒子除去後の反応液を、セントリプレップ−10を用いて、液量が約0.5ml以下になるまで濃縮し、ウルトラフリー(0.2μm)で濾過した。
【0113】
<サイズ排除HPLCによる5H5抗体H鎖およびL鎖の精製>
5H5抗体H鎖およびL鎖の精製は、上記のようにして得られた抗体溶液をサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより行った。
【0114】
サイズ排除クロマトグラフィーシステムとして、PU−2080 Plus(JASCO社製)を用いた。また、カラムには、Protein-PakTM300SW(φ7.8mm×300mm;Waters製)を用いた。上記カラムの平衡化は、移動相に用いる6M 塩酸グアニジン(pH6.5)を、0.15ml/minの流速で、約2時間流すことにより行った。サンプル(上記アシル化処理後の抗体溶液)は、2〜3回に分けて供した。H鎖およびL鎖に相当する分画を分取した。分取後の各画分はPBSに対して透析を行い、H鎖およびL鎖をRefoldingした。15mM PBに交換した後、クリーンベンチ内でサンプルを回収した。DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO-RAD)でH鎖およびL鎖の濃度を測定した後、SDS−PAGEで純度を確認して4℃で保存した。このようにして調製したH鎖およびL鎖の液量と濃度を表2に示す。
【0115】
【表2】
〔実施例7:5H5抗体重鎖および軽鎖によるペプチダーゼ活性の検討〕
天然型抗体酵素は、タンパク質を基質として用いる場合には標的タンパク質を特異的に分解するという特徴を持つ。しかし、ペプチド基質においては、非特異的に分解することが分かっている。そこでこれまでの抗体酵素のペプチダーゼ活性試験で基質として用いてきたTP41−1ペプチド(H2N-TPRGPDRPEGIEEEGGERDRD-COOH : 21mer、配列番号5)を使用して5H5抗体の重鎖および軽鎖が該ペプチドに対する分解能を有するか検討した。なお上記TP41−1ペプチドは、HIV−1エンベロープタンパク質の膜貫通タンパク質gp41の保持領域ペプチドである。また、5H5抗体重鎖としては、〔実施例6〕で分離精製したH鎖であるH1、H2およびH3を用い、5H5抗体軽鎖としては、〔実施例6〕で分離精製したL鎖であるL1、L2およびL3を用いた。
【0116】
実験操作は全てクリーンベンチ内で行い、使用する試験管、緩衝液などは、すべて滅菌処理を行った後、使用した。
【0117】
<TP41−1ペプチドを用いたペプチダーゼ活性試験>
クリーンベンチ内で、TP41−1ペプチド1.7mgをはかり取り、1mlの15mM PB(pH6.5)で溶解した後、γ線照射済みのウルトラフリーでろ過滅菌した。この1.7mg/mlのTP41−1ペプチドを15mM PB(pH6.5)で600μM、360μM、240μMに調整した。次に〔実施例6〕で分離精製した5H5抗体H鎖 H1およびH3を15mM PB(pH6.5)で40μg/ml(0.8μM)に、5H5抗体L鎖 L1およびL3を40μg/ml(1.6μM)に、5H5抗体H鎖 H2を15mM PB(pH6.5)で40μg/ml(0.8μM)に、5H5抗体H鎖 H2を15mM PB(pH6.5)で40μg/ml(0.8μM)に調整した。上記240μM TP41−1ペプチドと、H1、H3、L1、およびL3をそれぞれ1:1で混合した。また360μM TP41−1ペプチドと5H5抗体H鎖 H2とを1:2、600μM TP41−1ペプチドと5H5抗体L鎖 L2とを1:4で混合した。下表3に、調整したTP41−1ペプチドおよび5H5抗体H鎖またはL鎖を含む反応液を示す。
【0118】
【表3】
調製直後の反応液を逆相HPLCで分析したときを0時間とし、25℃でインキュベートを開始した。その後逆相HPLCでTP41−1ペプチドを経時的に追跡した。逆相HPLCの分析には、puresil C18カラム(Waters製)を使用した。
【0119】
なお、HPLCの測定条件として、カラムオーブンは40℃、溶離液は0.08% TFA、13%アセトニトリル、超純水を使用し、流速0.5ml/min、モニター波長214nmとした。各反応液をクリーンベンチ内で30μl回収し、当該反応液を0.45μmのフィルターに通し、除粒子したものをサンプルとしてHPLCに供した(サンプルのインジェクション量20μl)。
【0120】
図4に、5H5抗体H鎖 H1、H3または5H5抗体L鎖 L1、L3を用いたときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図5に、5H5抗体H鎖 H2または5H5抗体L鎖 L2を用いたときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を示す。また、図10に、5H5抗体H鎖 H1を用いたときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図中矢印で示す経時時間で採取したサンプルのHPLC分析により得られたクロマトグラムとともに示す。また、図11に、5H5抗体L鎖 L1を用いたときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図中矢印で示す経時時間で採取したサンプルのHPLC分析により得られたクロマトグラムとともに示す。図10および図11中、丸はそれぞれH1およびL1を用いたときの結果を、四角はTP41−1ペプチドのみを反応液としたときの結果を示している。また、クロマトグラム中の矢印は、反応基質のピークを示す。
【0121】
また、図4において、白丸はH1を、グレーの丸はH3を、白三角はL1を、グレーの三角はL3を用いたときの結果を示している。また、図5において、グレーの丸はH2を、グレーの三角はL2を用いたときの結果を示している。また、図4および図5において、グレーの四角はTP41−1ペプチドのみを反応液としたときの結果を示している。
【0122】
図4に示すように、H1を用いた場合に、約40時間の誘導期を経た後にTP41−1ペプチドの分解が確認され、約114時間後にTP41−1ペプチドの完全分解が確認された。また、H3、L1、L3を用いた場合に、約40時間の誘導期を経た後にTP41−1ペプチドの分解が確認され、90〜120時間後にTP41−1ペプチドの完全分解が確認された。
【0123】
また、図5に示すように、H2を用いた場合に、約70時間の誘導期を経た後にTP41−1ペプチドの分解が確認され、約96時間後にTP41−1ペプチドの完全分解が確認された。そして、L2を用いた場合に、約70時間の誘導期を経た後にTP41−1ペプチドの分解が確認され、約110時間後にTP41−1ペプチドの完全分解が確認された。
【0124】
以上のように、全ての反応液において、これまで多くの抗体酵素で見られたと同様、誘導期、活性期の2相性を示しながらペプチドである反応基質が分解されたことが確認された。
【0125】
<TP41−1ペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性試験>
次に、5H5抗体のH鎖およびL鎖によりペプチド(TP41−1ペプチド)が消失した上記ペプチダーゼ活性試験後の反応液に再度ペプチド(TP41−1ペプチド)を添加し、分解産物が観察できるかを検討した。
【0126】
ウルトラフリーでろ過滅菌し、4℃で保存していた1.7mg/mlのTP41−1ペプチドを15mM PB(pH6.5)で240μMに調整した。次に、上記ペプチダーゼ活性試験後の各反応液と1:1で混合し、本ペプチダーゼ活性試験の反応液とした。また、TP41−1ペプチドのみを含む反応液をコントロールとして準備した。下表4に、調整した反応液を示す。
【0127】
【表4】
調整した反応液について、上記ペプチダーゼ活性試験と同様にして、HPLCでTP41−1ペプチド濃度を追跡した。
【0128】
図6、7に、TP41−1ペプチド再添加後の反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、TP41−1ペプチドを再添加する前に行った上記ペプチダーゼ活性試験における反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化と併せて示す。図6は、5H5抗体H鎖 H1、H3または5H5抗体L鎖 L1、L3を含む反応液にTP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図7に、5H5抗体H鎖 H2または5H5抗体L鎖 L2を含む反応液にTP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を示す。
【0129】
なお、図6において、白丸はH1を、グレーの丸はH3を、白三角はL1を、グレーの三角はL3を用いたときの結果を示している。また、図7において、グレーの丸はH2を、グレーの三角はL2を用いたときの結果を示している。
【0130】
また、図8および9は、同じデータを抗体鎖別に表したグラフであって、TP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を示すものである。図8は、5H5抗体L鎖 L1、L2、L3を含む反応液にTP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図9は、5H5抗体H鎖 H1、H2、H3を含む反応液にTP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を示す。また、図8および図9において、グレーの四角はTP41−1ペプチドのみを反応液としたときの結果を示している。
【0131】
図6〜9に示すように、TP41−1ペプチドを再添加した結果、H鎖およびL鎖ともに若干の誘導期が存在したものの、再添加してから、24時間乃至40時間以内にペプチドは完全に消失した。またHPLCにおいて分解産物のピークはTP41−1ペプチドよりも前に出現していた。
【0132】
〔実施例8:5H5抗体重鎖および軽鎖によるIgEの分解実験〕
実施例7に示すように、5H5抗体のH鎖およびL鎖はペプチダーゼ活性を有することが明らかとなった。そこで、次に5H5抗体のL鎖が、抗原タンパクであるIgEを分解する能力を有するか否かの検討を行った。
【0133】
抗原タンパクには、実施例1で用いたヒトIgEを用いた。これをまず15mM PB(pH6.5)に交換し、濾過滅菌して用いた。
【0134】
次に〔実施例6〕で分離精製した5H5抗体L鎖を20μg/ml(0.8μM)に調整した。上記ヒトIgE(60μg/ml(0.30μM))と、5H5抗体L鎖とをそれぞれ1:1で混合し、全量を400μlとした。分解実験における反応液の濃度は、5H5抗体L鎖が0.4μM(10μg/ml)、ヒトIgEが0.15μM(30μg/ml)であった。また、コントロールとして、0.4μM(10μg/ml)の5H5抗体L鎖のみの反応液400μl、および0.15μM(30μg/ml)のヒトIgEのみの反応液400μlを用いた。
【0135】
反応時間4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間および144時間において、各タンパク質の反応液の一部をクリーンベンチ内で分取し、各タンパク質の経時変化をSDS−PAGEで追跡した。その結果を、図12に示す。図12中(a)は、ヒトIgEと、5H5抗体L鎖とを含む反応液における結果を、(b)は、ネガティブコントロールであるヒトIgEのみの反応液における結果を(c)は5H5抗体L鎖のみの反応液における結果を示す。なお、図中Mはマーカー(Low range marker Bio-Rad)を示し、1ないし9は、それぞれ、0、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間および144時間後の結果を示す。また、図13には、反応開始後に出現したバンドの濃さの経時変化を示す。なお、バンドの濃さは、NIHイメージにより測定した相対値である。
【0136】
図12(a)および図13に示すように、反応開始24時間付近でヒトIgEの重鎖において分解断片である3つのバンド(43kDa(図12(a)中、上から2番目の矢印で示す。)、39kDa(図12(a)中、上から3番目の矢印で示す。)、37kDa(図12(a)中、上から4番目の矢印で示す。)が出現し、だんだんと濃くなっていった。39kDaのバンドは反応時間144時間で減少傾向を示し、このバンドに対応する断片はさらに分解が進んで37kDaあるいはもっと小さい断片に逐次分解されていると思われる。一方、ヒトIgEの軽鎖は全く分解を受けていない。
【0137】
また、図12(b)に示すように、ネガティブコントロールであるヒトIgEのみの反応液では、83kDaおよび80kDaにヒトIgEのH鎖を示す太いバンド、並びに、29kDaにヒトIgEのL鎖を示す太いバンドが検出され、これらのバンドは144時間経過後も全く変化が見られなかった。このことから5H5抗体のL鎖はヒトIgEの重鎖を特異的に認識し分解する抗体酵素であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明にかかる抗体酵素は、上述のようにヒトIgEに対して特異的に作用し、これを分解して機能を消失させることができるため、I型アレルギーの予防や治療のために有用である。また、酵素であるため、酵素センサの構築が可能であり、抗体よりも応用範囲が広い。
【0139】
したがって、本発明は、医療、医薬品産業、試薬産業、等に利用することができ、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の抗体酵素の一例である5H5抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列およびCDR領域を示す図である。
【図2】本発明の抗体酵素の一例である5H5抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列およびCDR領域を示す図である。
【図3】5H5抗体の可変領域の立体構造モデリング(分子モデリング)を行なった結果、推定された立体構造を模式的に示す図であり、(a)は5H5抗体の軽鎖可変領域の推定された立体構造を模式的に示す図であり、(b)および(c)は5H5抗体の重鎖可変領域の推定された立体構造を模式的に示す図である。
【図4】5H5抗体の重鎖および軽鎖のペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図5】5H5抗体の重鎖および軽鎖のペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図6】5H5抗体の重鎖および軽鎖のペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図7】5H5抗体の重鎖および軽鎖のペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図8】5H5抗体の軽鎖のペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図9】5H5抗体の重鎖のペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図10】5H5抗体の重鎖のペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図11】5H5抗体の軽鎖のペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図12】5H5抗体L鎖によるヒトIgEの分解をSDS−PAGE法により追跡した結果を示す図であり、(a)は、5H5抗体L鎖によるヒトIgEの分解をSDS−PAGE法により追跡した結果を、(b)は、ネガティブコントロールであるヒトIgEのみの反応液における結果を(c)は5H5抗体L鎖のみの反応液における結果を示す図である。
【図13】5H5抗体L鎖によるヒトIgEの分解をSDS−PAGE法により追跡した結果、反応開始後に出現したバンドの濃さの経時変化を示すグラフである。
【図14】実施例において得られた抗ヒトIgEモノクローナル抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図15】実施例において得られた抗ヒトIgEモノクローナル抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトIgEに対する抗体酵素およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレルギーは抗原と接触してから発症するまでの時間によって、即時型過敏症(immediate-type hypersensitivity)と遅延型過敏症(delayed-type hypersensitivity)との二つのグループに分類される。即時型過敏症は抗体により引き起こされる症状で、アレルギー発症の機構からI型乃至III型に分類されている。
【0003】
現在、アレルギー患者数は急激に増加しており、多くの人々が花粉症等のアレルギー性鼻炎、食物アレルギー、喘息等の症状に苦しんでいる。これらの症状はI型アレルギーに属し、体内に侵入したアレルゲンに対し産生されたIgE抗体により引き起こされる。
【0004】
IgE抗体を介したアレルギーの発症機構はほぼ解明されている。まずアレルゲンが体内に侵入し、アレルゲンに特異的なIgEが産生される。IgE抗体値があるレベルまで上昇すると、IgE抗体のFc部分を結合するFcεレセプターを持つ肥満細胞(mast cell)と好塩基球(basophile)という特殊な細胞にIgE抗体が結合しはじめ、長期にそれらの細胞と結合したまま血中に存在する。再度アレルゲンが侵入した場合、抗原抗体反応が惹起され、この刺激で肥満細胞や好塩基球からヒスタミンなどの化学伝達物質の入った顆粒が細胞外に放出される(脱顆粒反応(degranulation reaction))。
【0005】
この脱顆粒反応により放出されたヒスタミン、SRS−A(slow reacting substance of anaphylaxis)や好酸球走化性因子等の化学伝達物質により血管の浸透性の増大、平滑筋の収縮、分泌液を分泌する機能の増大などが起こり、アレルギー症状を引き起こす。また、好酸球が反応局所に集積するので、アレルゲンが除去される。こうした機構からIgE抗体はアレルギーを引き起こすが、その障害反応を通じてアレルゲンの粘膜からの侵入や全身への拡散を防いだり、除去する為に働くと考えられている。
【0006】
現在、I型アレルギーの治療法はいくつかあるが、その一つに脱感作療法がある。この方法は、アレルギーを誘発しない程の少量のアレルゲンを期間を置いて数回注射し、予めアレルゲンに対するIgG抗体を産生させておく。そして再度侵入したアレルゲンにこの抗体が結合することによって、IgE抗体のアレルゲンへの結合が阻害され、アレルギーが抑制される。その他に、脱顆粒を阻害する医薬や、放出された化学伝達物質の作用を阻害する医薬の研究がすすめられている。また、IgEと結合する抗IgE抗体をI型アレルギーの治療に用いることについても報告されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【特許文献1】特表2002−510211号公報(公開日:平成14年(2002)4月2日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来公知のヒトIgEを認識しヒトIgEの中和活性を有する抗IgE抗体においては、抗IgE抗体と抗原であるIgEとは最大で1:2の分子の量論比でしか結合しないため、使用する抗IgE抗体の量が必然的に多くならざるを得ないという問題があった。また、ヒトIgEを破壊して完全にその機能を失わせることは不可能であった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、血中ヒトIgEあるいはその機能を低減するためにこれまでの方法に比べ、使用する抗IgE抗体の量をかなり低減することが可能なヒトIgE抗体に対する抗体酵素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、上記課題を解決するために、抗体でありながら酵素作用を有し、標的としたタンパク質を完全分解することのできる抗体酵素に着目し、ヒトIgEに対する抗体酵素を得るために鋭意検討した。その結果、ヒトIgEを免疫抗原に用いて得られた抗体の中に、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを切断および/または分解することができる抗体酵素としての機能を発揮するものが存在することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明にかかる抗体酵素は、上記課題を解決するために、ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明にかかる抗体酵素断片は、上記課題を解決するために、ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有する上記抗体酵素の可変領域を含むことを特徴としている。
【0012】
また、本発明にかかる抗体酵素または抗体酵素断片においては、重鎖可変領域が、配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなっていてもよい。
【0013】
また、本発明にかかる遺伝子は、上記抗体酵素、またはその可変領域を含む抗体酵素断片をコードすることを特徴としている。また、本発明にかかる形質転換体は、上記遺伝子が導入されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる抗体酵素は、以上のように、ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するという構成を備えているので、1分子で1つ(あるいは2つ)のヒトIgEに結合する抗体に比べ、抗体酵素は1分子で次から次にヒトIgE分子を破壊することができる。それゆえ、かかる抗体酵素を得ることができればヒトIgEが原因物質であるI型アレルギーの予防・治療に寄与することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明について以下により具体的に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0016】
(1)本発明にかかる抗体酵素およびその利用
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有する抗体酵素である。すなわち、本発明にかかる抗体酵素はヒトIgEを特異的に認識する抗体としての性質と、認識したヒトIgEを切断および/または分解する酵素としての性質を併せ持つ。
【0017】
ここで、「抗体酵素」とは、目的の抗原に対して特異的に抗原抗体反応し、かつ酵素活性を有する免疫グロブリンをいう。また、酵素活性は特に限定されるものではないが、プロテアーゼ活性またはペプチダーゼ活性であることが好ましい。
【0018】
本発明の抗体酵素は、プロテアーゼ活性またはペプチダーゼ活性を有する。すなわち、本発明の抗体酵素は、抗体でありながら酵素作用を有するものであり、その抗原タンパク質を標的として分解活性を示すものである。それゆえ、本発明の抗体酵素は、1分子で1つ(あるいは2つ)のヒトIgE分子に結合する抗体に比べ、1分子で次から次にヒトIgE分子を破壊することができる。したがって、その効果は通常の抗体の数百倍あるいは数千倍に達する。それゆえ、かかる抗体酵素を得ることができればヒトIgEを原因とするI型アレルギーの予防・治療に寄与することが期待できる。また、酵素であるため、酵素センサの構築が可能であり、抗体よりも応用範囲が広い。
【0019】
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトIgEに対する抗体である。ここで、ヒトIgEに対する抗体は、ヒトIgEに対するポリクローナル抗体であってもよいが、ヒトIgEに対するモノクローナル抗体であることがより好ましい。これにより、特異性に優れた抗体を選択することが可能となる。
【0020】
ここで、本発明の抗体酵素の由来は特に限定されるものではない。したがって、上記抗体酵素は、細胞融合によって得られたマウス等のモノクローナル抗体に由来する抗体酵素であってもよいし、遺伝子組換え技術を用いて大腸菌、動物細胞等で生産される抗体であってもよいし、本発明の抗体酵素の可変領域をヒトその他の動物の抗体に移植したヒト化抗体等のキメラ抗体であってもよい。あるいは、ファージディスプレイ法を用いて作製した抗体であってもよい。
【0021】
本発明の抗体酵素は、ヒトIgEを認識するものであればよく、ヒトIgEに対するあらゆる抗体が含まれるが、ヒトIgEの定常領域に存在するアミノ酸配列を認識するものであることが好ましい。定常領域に存在するアミノ酸配列を認識するものであることによって、種々の可変領域を有するIgEに対し、抗体酵素としての作用を及ぼすことができる。
【0022】
また、上記本発明にかかる抗体酵素は触媒三つ組残基構造を有することが好ましい。ここで上記「触媒三つ組残基構造」とは、少なくともセリンを含む3つのアミノ酸残基が活性部位に含まれ活性中心を形成していると推定される構造のことをいう。この触媒三つ組残基構造を有するプロテアーゼは、活性部位にセリンが含まれることからセリンプロテアーゼと呼ばれる。従って、上記抗体酵素はセリンプロテアーゼの一種であると言うこともできる。この触媒三つ組残基と推定される構造を有していれば、プロテアーゼとして高い活性を有していると予測できる。発明者らは、ペプチドや抗原タンパク質を切断および/または分解する活性を有するマウス由来抗体酵素を用いて、その性質や構造の特徴を詳細に解析した結果、ペプチドや抗原タンパク質を切断および/または分解する活性を有する抗体酵素は、いずれもその立体構造中に、セリン残基と、アスパラギン酸残基と、ヒスチジン残基またはグルタミン酸残基とが立体構造上近接して存在することを明らかにした(例えば特開2004−97211号公報(平成16年4月2日公開)参照)。ここで、「立体構造上近接して存在する」とは、セリン残基と、アスパラギン酸残基と、ヒスチジン残基またはグルタミン酸残基とのCα(α炭素)間の距離が、少なくとも3〜20×10−10mの範囲内、好ましくは、3〜10×10−10mの範囲内にあることを意味する。
【0023】
本発明の抗体酵素は、上述した抗体酵素であれば特に限定されるものではないが、具体的な一例としては、例えば、重鎖可変領域が、配列番号1に示すアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が、配列番号3に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素を挙げることができる。なお、配列番号1に示すアミノ酸配列は、後述する実施例に示す本発明の抗体酵素である抗IgEモノクローナル抗体5H5(以下、5H5抗体と称する。)の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号3に示すアミノ酸配列は、5H5抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。図1に5H5抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号1)を、図2に5H5抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号3)を示す。図1に示すように、5H5抗体の重鎖可変領域は、下線を付して示す、相補性決定領域(CDR領域)CDR1、CDR2、CDR3を有している。すなわち5H5抗体の重鎖可変領域は、配列番号1に示すアミノ酸配列の31番目から35番目(カバットの分類による番号で31番目から35番目)のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号1に示すアミノ酸配列の50番目から66番目(カバットの分類による番号で50番目から65番目)のアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号1に示すアミノ酸配列の97番目から105番目(カバットの分類による番号で93番目から102番目)のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。また、図2に示すように、5H5抗体の軽鎖可変領域は、下線を付して示すCDR1、CDR2、CDR3を有している。すなわち5H5抗体の軽鎖可変領域は、配列番号3に示すアミノ酸配列の24番目から33番目(カバットの分類による番号で24番目から34番目)のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号3に示すアミノ酸配列の49番目から55番目(カバットの分類による番号で50番目から56番目)のアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号3に示すアミノ酸配列の88番目から96番目(カバットの分類による番号で89番目から97番目)のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。なお、図1および図2においてアミノ酸に付した番号は、カバットの分類による番号であり、各配列番号に示すアミノ酸配列において何番目のアミノ酸であるかを示す番号とは異なっている。
【0024】
図3(a)には、5H5抗体軽鎖の可変領域の立体構造モデリング(分子モデリング)を行なった結果、推定された立体構造を模式的に示す。また、図3(b)および(c)には、5H5抗体重鎖の可変領域の立体構造モデリングを行なった結果、推定された立体構造を模式的に示す。図3(a)に示すように、配列番号3に示すアミノ酸配列において、カバットの分類による番号で第34番目のヒスチジン、カバットの分類による番号で第52番目のセリン、カバットの分類による番号で第50番目のアスパラギン酸が触媒三つ組残基を構成していると推測される。また、5H5抗体重鎖では、図3(b)に示すように、配列番号1に示すアミノ酸配列においてカバットの分類による番号で第1番目のグルタミン酸、カバットの分類による番号で第25番目のセリン、カバットの分類による番号で第101番目のアスパラギン酸が触媒三つ組残基を構成している場合と、図3(c)に示すように、カバットの分類による番号で第40番目または第84番目のセリン、カバットの分類による番号で第61番目または86番目のアスパラギン酸、カバットの分類による番号で第85番目のグルタミン酸が触媒三つ組残基を構成している場合とが考えられる。このように、5H5抗体軽鎖では、ヒスチジン、セリンおよびアスパラギン酸が三つ組み残基として機能し、5H5抗体重鎖では、グルタミン酸、セリンおよびアスパラギン酸が触媒三つ組残基として機能していると考えられる。
【0025】
また、本発明にかかる抗体酵素は、重鎖可変領域が、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもの、および/または、軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもので、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するものであってもよい。かかる抗体酵素は、5H5抗体の変異体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するものである。なお、上記の「配列番号1(3)に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。好ましい変異は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加である。より好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。このように、遺伝子工学的手法を用いた場合、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなる抗体酵素は、換言すれば、配列番号1または3に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素の変異体である。
【0026】
また、本発明には、本発明の抗体酵素の断片であって、上記抗体酵素の可変領域を含む抗体酵素断片も含まれる。かかる抗体酵素断片としては、上記抗体酵素の可変領域含む抗体酵素断片であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有する抗体酵素断片であれば特に限定されるものではない。かかる抗体酵素断片は、上記抗体酵素の重鎖(H鎖)であってもよく、上記抗体酵素の軽鎖(L鎖)であってもよく、上記抗体酵素の重鎖の可変領域であってもよく、上記抗体酵素の軽鎖の可変領域であってもよく、上記抗体酵素の重鎖または軽鎖の可変領域を含むいかなる抗体酵素断片であってもよい。かかる抗体酵素断片は、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するので、1分子で1つ(あるいは2つ)のヒトIgEに結合する抗体に比べ、抗体酵素は1分子で次から次にヒトIgE分子を破壊することができる。それゆえ、かかる抗体酵素断片を得ることができればヒトIgEが原因物質であるI型アレルギーの予防・治療に寄与することができる。また、上記抗体酵素の重鎖または軽鎖の可変領域或いはそのCDR領域は、かかる可変領域またはCDR領域をヒトその他の動物の抗体に移植してキメラ抗体酵素を作製するために好適に用いることができる。
【0027】
かかる抗体酵素断片としては、例えば、配列番号1または3に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素断片やこれらのアミノ酸配列を含む抗体酵素断片を挙げることができる。なお、配列番号1に示すアミノ酸配列は、5H5抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号3に示すアミノ酸配列は、5H5抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0028】
また、上記抗体酵素断片は、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなる抗体酵素断片やかかるアミノ酸配列を含む抗体酵素断片であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するものであってもよい。かかる抗体酵素断片は、それぞれ、5H5抗体の重鎖または軽鎖の可変領域の変異体またはかかる変異体を含む抗体酵素断片であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有するものである。
【0029】
また、本発明には、上記抗体酵素をコードする遺伝子、上記抗体酵素の断片であって上記抗体酵素の可変領域を含む抗体酵素断片をコードする遺伝子、または、上記抗体酵素の断片であって上記抗体酵素の各CDR領域をコードする遺伝子も含まれる。かかる遺伝子を適当な宿主に発現可能に導入することにより、本発明の抗体酵素または抗体酵素断片を宿主内で発現させることができる。また、可変領域の抗体酵素断片をコードする遺伝子は、そのまま発現させてもよいが、例えばヒト免疫グロブリン等、由来の異なる免疫グロブリンの定常領域、あるいは可変領域内のフレームワークをコードする遺伝子と連結してキメラ遺伝子として発現させ、キメラ抗体酵素を製造することもできる。また、上記可変領域のCDRをコードする遺伝子を、由来の異なる免疫グロブリンの可変領域に組み込んでキメラ遺伝子として発現させ、キメラ抗体酵素を製造することもできる。
【0030】
なお、上記「遺伝子」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった一本鎖DNAやRNAを包含する。さらに、上記「遺伝子」は、本発明の抗体酵素、またはその断片をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む。)等の配列を含むものであってもよい。
【0031】
本発明の遺伝子としては、具体的には、例えば、配列番号2または4に示す塩基配列からなる遺伝子、またはこれらを含む遺伝子を挙げることができる。配列番号2に示す塩基配列からなる遺伝子は、5H5抗体の重鎖可変領域をコードする遺伝子の一例であり、配列番号4に示す塩基配列からなる遺伝子は、5H5抗体の軽鎖可変領域をコードする遺伝子の一例である。
【0032】
また、上記遺伝子は、配列番号2または4に示される塩基配列と必ずしも同一である必要はなく、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有する抗体酵素またはその断片をコードする遺伝子であれば、その変異体も含まれる。このような変異体としては、上記抗体酵素またはその断片をコードする遺伝子の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換、又は付加した変異体が挙げられる。また、かかる変異体は、配列番号2または4に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする遺伝子であってもよい。
【0033】
上記「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズ」するとは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の具体的な例として、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。また、上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al. Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができ、特に限定されるものではない。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(すなわち、ハイブリダイズし難くなる)。
【0034】
さらに本発明には、上記遺伝子が導入された形質転換体も含まれる。この形質転換体は、上記遺伝子が適当な宿主(例えば細菌、酵母)に発現可能に導入されたものであり、本発明にかかる抗体酵素を自身の体内で発現させることができ、当該抗体酵素の製造に利用することができる。また、上記形質転換体は、本発明にかかる抗体酵素を自身の体内に蓄積しているため、I型アレルギーを予防または治療するための薬剤として利用することができる。
【0035】
また、これまでに、IgEの働きを抑制する作用をもつ抗IgE薬剤は開発されているが、本発明にかかる抗体酵素は、これらの抗IgE薬剤とは全く異なる手法に基づいて、ヒトIgEを直接攻撃してその機能を消失させることができる。そのため、この抗体酵素は抗IgE薬剤として利用することができる。
【0036】
上記本発明にかかる抗体酵素またはその可変領域を含む抗体酵素断片を含む抗IgE薬剤は、本発明にかかる抗体酵素のみによって構成してもよいが、薬理学的に許容される担体などと混合して構成してもよい。医薬組成物の製造法として公知の手段に従って、上記抗IgE薬剤を製造することができる。
【0037】
ここで、薬理学的に許容される担体には、製剤素材として使用可能な各種有機または無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、または液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。
【0038】
上記賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースなどが挙げられ、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
【0039】
また、上記結合剤としては、例えばα化デンプン、メチルセルロース、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0040】
崩壊剤としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。
【0041】
上記溶剤としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、トリカプリリンなどが挙げられる。
【0042】
上記溶解補助剤としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0043】
上記懸濁剤としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、あるいは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子が挙げられる。
【0044】
上記等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
【0045】
上記無痛化剤としては、例えばベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0046】
上記防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0047】
抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0048】
上記抗IgE薬剤は、製剤技術分野において慣用の方法により製造することができる。抗IgE薬剤の剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口剤のほか、注射剤、坐剤、ペレット、点滴剤等の非経口剤が挙げられ、これらは毒性も低く、それぞれ経口的または非経口的に投与できる。
【0049】
また、上記抗IgE薬剤の投与量は、投与対象、投与ルート、症状などによっても異なる。したがって、上記投与量は、最適な条件を適宜検討の上、採用すればよい。
【0050】
(2)本発明にかかる抗体酵素の製造方法
本発明にかかる抗体酵素は、例えば、ヒトIgEで免疫したマウス等の免疫動物の脾臓細胞と、マウスのミエローマ細胞等の融合パートナーとを融合させてなるハイブリドーマにより、モノクローナル抗体を産生することにより製造することができる。重鎖、軽鎖を得る場合には、得られたモノクローナル抗体を重鎖と軽鎖に分離すればよい。また、本発明の抗体酵素断片を得る場合には、まず該当するモノクローナル抗体を取得し、その後、上記モノクローナル抗体を適当なプロテアーゼを用いて目的とする抗体酵素断片が得られるように切断すればよい。
【0051】
モノクローナル抗体の取得は通常のハイブリドーマ法(Kohler, G. and Milstein, C., Nature 256, 495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor, Immunology Today 4, 72(1983))、EBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss, Inc.,77-96(1985))、ファージディスプレイ法等により行なわれる。
【0052】
マウス等に免疫する抗原として用いるヒトIgEは特に限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。市販のヒトIgEを用いてもよい。
【0053】
また、アミノ酸配列が明らかになっている抗体酵素または抗体酵素断片については、従来公知の遺伝子組み換え技術等を用いて本発明の抗体酵素を製造することができる。この場合、上記抗体酵素のアミノ酸配列をコードする遺伝子をベクター等に組み込んだ後、発現可能な適当な宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたポリペプチドを精製する等の方法を用いることができる。なお、大量発現させることができる適当なプロモーターとともに上記抗体酵素をコードする遺伝子を組み込めば、目的とする抗体酵素を効率よく製造することができる。
【0054】
上記抗体酵素のアミノ酸配列が明らかでない場合には、先ずモノクローナル抗体産生細胞やそのハイブリドーマなどからmRNAを取得し、当該mRNAからcDNAを合成しその遺伝子配列を読み取る。その後、その遺伝子配列からアミノ酸配列を推定し、分子モデリングによって3次元構造を予測して触媒三つ組残基様構造が含まれているか否かを確認すればよい。そして、上記触媒三つ組残基様構造が含まれている抗体断片を抗体酵素として取得することができる。
【0055】
また、本発明にかかる抗体酵素をコードする遺伝子については、その塩基配列が明らかとなっているものの場合には、モノクローナル抗体産生細胞やそのハイブリドーマなどからcDNA(あるいはゲノムDNA)を取得した後、それを鋳型として適当なプライマーを用いてPCRを行い、該当する領域を増幅させることで本発明にかかる抗体酵素をコードする遺伝子取得することができる。また、部位特異的突然変異誘発法を利用して、配列番号2または4に示す塩基配列からなる遺伝子に適当な変異を導入すれば、それを導入した形質転換体においては、配列番号1または3に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素の変異体が発現産物としてそれぞれ得られる。
【実施例1】
【0056】
〔実施例1:抗ヒトIgEモノクローナル抗体の作製〕
免疫用の抗原として市販のヒトIgE(Chemicon International, CA. USA)をBalb/cマウス(雌6週齢)に免疫し、ポリエチレングリコールによる通常の細胞融合法により、抗ヒトIgEモノクローナル抗体を作製した。
【0057】
<マウスへの免疫>
完全フロイントアジュバント(Freund’s complete adjuvant:以下「FCA」と略称することがある、DIFCO, Detroit Michigan USA)と抗原であるヒトIgE(0.5mg/ml in PBS)とを、ルアーロック式のシリンジ 2本のそれぞれにセットし、ウオーターインオイルの要領でFCAと抗原とを白い乳液状になるまで混合した。次に、この混合物を、マウスの腹部皮下の2箇所に100μlずつ投与した。
【0058】
免疫注射から10日後にマウスの採血を行い、通常のELISA法で力価の測定を行った。以下に力価の測定方法を示す。
【0059】
ヒトIgEをPBSを用いて1μg/mLになるように調製した。このヒトIgEを96穴ウェルプレートにそれぞれ別系列で50μLずつ注入した。4℃で一晩放置してコーティングした後、イムノウォッシャーを用いて0.05%のTween 20を含むPBS(PBS−T)でプレートを3回洗浄した。続いてすべてのウェルに2%ゼラチンを含むPBSを150μlずつ加えた。室温で1時間インキュベーションし、ブロッキングを完了した。
【0060】
採取した抗血清をPBSで1/100希釈し、1/100から4倍連続希釈を7回繰り返し、1サンプルにつき抗血清希釈液を8種類用意した。また未処理マウスの血清も抗血清と同様に希釈を行いコントロールとして用いた。ブロッキングが終了した各ウェルに、連続希釈した抗血清を50μlずつ加え、室温で1時間静置した(一次反応)。洗浄後、PBS−Tで希釈調整したアルカリフォスファターゼ(ALP)標識ウサギ抗マウス血清を各ウェルに50μLずつ加えた。室温で1時間静置した(二次反応)。プレートを洗浄後、ALP基質(p-nitrophenyl phosphate)を各ウェルに100μLずつ加え、30分後にイムノリーダー(波長405nm)で吸光度を測定した。
【0061】
初回免疫から約2週間後に追加免疫を行った。2回目からはFCAの代わりに不完全フロイントアジュバント(FIA)を用いた。免疫の方法は初回免疫と同様に行い、マウス1匹あたり50μgの抗原を投与した。
【0062】
10日後眼窩静脈叢より採血を行い、ELISA法により再度力価測定を行った。追加免疫後、力価が十分上がったマウスに最終免疫を行った。最終免疫はアジュバントは使用せずに滅菌PBS(リン酸緩衝食塩水)を抗原と混合してマウス尾静脈に投与した。このときマウス1匹あたり抗原を50μg投与した。
【0063】
<細胞融合>
最終免疫の3日後にマウスから脾臓を摘出し、マウス脾臓細胞とマウスミエローマ細胞(P3U1)との細胞融合を行った。この細胞融合はポリエチレングリコールを使って行う通常の方法で行った。その後、スクリーニング、クローニングを繰り返し、表1に示す11個の抗ヒトIgEモノクローナル抗体産生細胞を確立した。
【0064】
【表1】
<アイソタイプの決定>
確立した抗ヒトIgEモノクローナル抗体のアイソタイプ決定を、Iso StripTM マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキットを用いて行った。アイソタイプの決定は添付のマニュアルに従って行った。その結果を表1に併記する。
【0065】
〔実施例2:抗ヒトIgEモノクローナル抗体のタンパク質との交差反応試験〕
得られた抗ヒトIgEモノクローナル抗体の培養上清を用いて、実施例1で抗原として用いたヒトIgEおよび他の種々のタンパク質との交差反応性をELISA法により調べた。他のタンパク質としては、IgG、Human-γ-globlin(ヒトγ−グロブリン)、HSA(ヒト血清アルブミン)、KLH(キーホールリンペットヘモシニアン)、BSA(ウシ血清アルブミン)およびHuman-hemoglobin(ヒトヘモグロビン)を用いた。
【0066】
交差反応試験は以下のようにして行った。ヒトIgE、IgG、Human-γ-globlin、HSA、KLH、BSAおよびHuman-hemoglobinはそれぞれPBSで5μg/mlに調製し、96穴のウェルプレートに200μlずつ入れコーティングを行った。培養上清はPBS−Tで1/2希釈し、一次反応に用いた。その他の操作は上述した力価測定と同様に行った。
【0067】
図14および図15に交差反応試験の結果を示す。図14および図15に示すように、実施例1で確立した抗体産生細胞によって産生される抗ヒトIgEモノクローナル抗体はいずれもヒトIgEと特異的に反応し、他のタンパク質とは反応しなかった。ただし、3E8および4C5はヒトIgGとも交差反応した。また、それぞれの抗ヒトIgEモノクローナル抗体のヒトIgEとの反応性を表1に併記する。
【0068】
〔実施例3:5H5抗体可変領域の塩基配列およびアミノ酸配列の決定〕
得られた5H5抗体可変領域の塩基配列を以下に示す方法で決定し、アミノ酸配列を推測した。
【0069】
<抗体産生細胞の培養>
5H5抗体を産生する抗体産生細胞は、培養温度37℃、CO2濃度5.5%の条件下、20%FCSを含むIMDM培地中で1×107〜5×107細胞が得られるまで培養した。培養液を、50ml遠心チューブに移し、1400rpmで6分間遠心分離を行って細胞を回収した。培地をアスピレーターにて除去後、10mlのPBSで懸濁し、1つのチューブにまとめて再度1400rpmで6分遠心分離を行った。上清を吸引除去後再度10mlのPBSで懸濁して血球計算盤を使用し細胞数をカウントした。
【0070】
カウント後1×107〜5×107細胞分の細胞懸濁液を取り、再度1400rpmで6分間遠心分離を行って上清を除去した。さらに、ペーパータオル上で逆さにし完全に液を切った。アスピレートが不十分であれば、再度遠心分離を行いマイクロピペットで残ったPBSを除去した。
【0071】
<mRNAの抽出と精製>
mRNAの抽出はQuickPrepTM mRNA purification Kit (アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社製)を用いて、当該キットの推奨プロトコールに準じて行った。以下にその方法を示す。
【0072】
上記で回収した細胞のペレットに、予め37℃のインキュベーターに約30分静置して結晶を完全に溶解させた1.5mlのExtraction bufferを添加した。この細胞を、21Gの針に数回通すことにより破砕した。その細胞破砕溶液に3mlのElution bufferを加え更に細胞を破砕した。得られた細胞破砕溶液をRNアーゼフリーの1.5mlマイクロチューブ4本に分注し、室温(25℃)、18000×gで20分間遠心分離を行い、その上清を後述のoligo(dT)-cellulose spin columnに添加するサンプルとした。
【0073】
続いてmRNAを単離した。まず、oligo(dT)-cellulose spin columnの樹脂を懸濁し、上下のキャップを外して15mlの遠心チューブにセットし、1300rpmで1分45秒間遠心分離を行ってカラム内の保存液の除去を行った。その後、下キャップを装着し、除タンパク・除DNAした上記サンプル(上清)を4ml添加し上キャップを取り付けた。カラムの樹脂を懸濁した後、10〜15分間転倒混和し樹脂にmRNAを吸着させた。そして、上下のキャップを装着したまま1400rpmで1〜2分間遠心分離を行った後、上キャップをはずし、上清をRNアーゼフリーのマイクロピペットを使用し、上清を除去した。そこに、3mlのHigh-salt bufferを添加し、2分間ほど緩やかに混和した後、上キャップを装着し、1400rpmで2分間遠心分離を行い、上清を除去した。この操作をさらに2回繰り返した。
【0074】
続いて3mlのLow-salt bufferをカラムに添加して1〜2分間緩やかに懸濁した後、上キャップを装着し15mlチューブに入れた。1400rpmで2分間遠心分離を行って上清を除去した。その後、下キャップも取り外し、3mlのLow-salt bufferを、樹脂表面が平らになるように壁に添わせながら回し入れた。続いて15mlチューブにカラムを設置し1300rpmで2分間遠心分離を行った。
【0075】
次に新しい15ml遠心チューブを用意し、mRNA回収用の1.5mlマイクロチューブ2個の蓋をハサミで切断後、15ml遠心チューブに重ねて入れ溶出用チューブとした。溶出用チューブにカラムを入れ、そこに65℃に加熱した0.25mlのElution bufferを添加し1300rpmで2分間遠心分離を行った。この操作を2回繰り返し、溶出液をmRNA画分として1.5mlマイクロチューブ2本に回収し氷上に静置した。別に定量用のマイクロチューブを準備し、10μlのmRNA画分を取り、70μlのElution bufferを加えて希釈し(1/8希釈)、吸光度ブランクをElution BufferとしてA260、A280を測定した。測定においては、予め、塩酸:メタノール=1:1の溶液に約1時間浸しRNアーゼフリーにした後、DEPC処理水(Diethyl Pyrocarbonate 処理水)で洗浄したセルを用いた。またRNAの濃度(μg/ml)はA260×希釈率×40で算出した。
【0076】
また、2等分され氷上に静置しておいたmRNA画分(mRNA抽出溶液)に1/10量の2.5M酢酸カリウム、1/50量のグリコーゲン、2倍量の95%エタノールを加えて攪拌し混合液を得た。この混合液を、−30℃に約40分置き、4℃、15000rpmで5分間遠心分離を行った後、−80℃で保存した。
【0077】
なお、mRNAの抽出と精製においては、ガラス、金属類(実験器具)は240℃で2時間乾熱滅菌したものを、プラスチック類の実験器具はRNアーゼ・DNアーゼフリーの物を使用した。
【0078】
<mRNAからのFirst strand cDNAの合成>
−80℃でエタノール沈殿の状態で保存していたmRNAを取り出し、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行いマイクロピペットで上清を除去した。
【0079】
その後、1mlの氷冷した75%エタノール(予めDEPC処理水で調製し、−30℃で保存したもの)を、マイクロチューブに、ペレットのない方からそっと加えてリンスし、4℃、15000rpmで10分遠心分離を行い、マイクロピペットで上清を除去した。そして、15分間真空乾燥を行い、0.2μg/μlとなるようにDEPC処理水を添加し1時間静置して溶解した。溶解後、確認の為にmRNA溶液をDEPC処理水でA260=1前後になるように希釈し吸光度を測定した。
【0080】
cDNAの合成はAMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit (Takara製)を用い、そのプロトコールに準じて行った。以下にその方法を示す。RNアーゼフリーの0.2mlマイクロチューブにmRNA 2μg分のmRNA溶液を添加した。そのマイクロチューブにpd(T)12〜18プライマー(0.5μg/ml)2μlおよびDEPC処理水を、mRNA溶液と合わせて17μlとなるように添加して混合した。その後、70℃で10分間アニーリング処理を行った。アニーリング処理後のマイクロチューブを氷上に置き、0.25M DTT1μl、Rnase inhibitor 1μl、および5×Reaction buffer 5μlを添加しよく混合した。更にAMV-RTを1μl添加して緩やかに攪拌し、41℃で60分間伸長反応を行った。60分経過後、氷上にマイクロチューブを置いて伸長反応を停止し、マイクロチューブを−30℃で保存した。
【0081】
<PCRによる抗体可変領域遺伝子の増幅>
Mouse Ig primer Kit(Novagen)、NovaTaqTMHot Start DNA Polymerase Kit(Novagen)を使用し、上記<mRNAからのFirst strand cDNAの合成>で得られたcDNAから、抗体遺伝子可変領域の増幅を行った。
【0082】
抗体重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の増幅には、Master mix(37.25μlの滅菌超純水、0.5μlの3’-プライマー(最終濃度5pmol)、3μlの25mM MgCl2(最終濃度1.5mM)、1μlの10mM dNTPs(最終濃度 0.2mM)、5μlの10×NovaTaq Hot Start Buffer(最終濃度1×)、および0.25μlのNovaTaq Hot Start DNA Polymerase(最終濃度1.25U)を混合した。)を準備した。このMaster mixを、ポジティブコントロール、ネガティブコントロール、およびプライマーの本数分準備したPCRチューブに47μlずつ分注した。そこに、1μlの5’-プライマー(最終濃度5pmol)および2μl cDNA溶液を添加した。なお、ポジティブコントロールは Mouse Ig primer Kitに付属のものを使用し、ネガティブコントロールには滅菌超純水を使用した。
【0083】
PCRチューブ内のMaster mix、5’-プライマーおよびcDNA溶液をよく混合し、Biometra社T-GRADIENT、TaKaRa社PCR Thermal cycler PERSONALを使用しPCRを行った。反応条件として、L鎖は95℃で7分間のプレヒート後、熱変性を98℃で15秒間、伸長反応を74℃で15秒間に固定し、アニーリング温度を70℃、66℃、62℃、58℃、54℃、および50℃と6段階に4℃ずつ下げるStep Down法を行った。なお、アニーリング時間は、15秒間に固定した。上記の3ステップを5段階まで3サイクルずつ行い、6段階目を10サイクル行った。H鎖は95℃で10分間のプレヒート後、熱変性を94℃で1分間、アニーリング温度50℃で2分間、伸長反応を72℃で2分間の3ステップを40サイクル行った後、72℃の伸長反応を10分間行った。PCR終了後、アガロース電気泳動により、抗体可変領域遺伝子の増幅を確認した。
【0084】
<抗体可変領域遺伝子のクローニング>
クローニングは、TOPO TA Cloning Kit(インビトロジェン社製)を用いて、以下のようにして行った。
【0085】
アガロースゲル電気泳動で抗体可変領域と予測されるDNAの増幅を確認したPCR産物2μl、salt Solution 1μl、および滅菌水2μlを、氷上にてPCRチューブに分注し攪拌した。さらに、このPCRチューブに、TOPO ベクター1μlを添加して緩やかに攪拌後、室温で30分間ライゲーション反応させた。30分後、直ちにPCRチューブを氷上に置き反応を停止させた。このようにして調製された反応液を以下「ライゲーション反応液」と称する。
【0086】
使用直前に−80℃のフリーザーからOne Shot TOP10 Chemically Competent E. coli(インビトロジェン社製)を取り出し氷上で溶解した。溶解したOne Shot TOP10 Chemically Competent E. coli に、氷上に置いていたライゲーション反応液2μlを加え、氷上で30分間インキュベーションを行い、コンピテント細胞間にDNAを拡散させた。反応終了後、42℃で45秒間ヒートショックを与えてDNAを取り込ませた後、氷上に戻し2分間静置した。そこに予め、室温に戻しておいた250μlのSOC培地をクリーンベンチ内で加え、振盪(200rpm)しながら37℃で1時間培養した。
【0087】
1時間の培養中に、予め準備しておいたアンピシリンを含むLBプレート培地1枚に対し、100μlの100mM IPTGストックと、20μlの50mg/ml X−Galを塗り広げ、15〜30分間乾燥させた。
【0088】
培養終了後、アンピシリン/IPTG/X−Gal/LBプレート培地に、培養後の大腸菌液を50μl、および100μlの2種類の濃度で塗り広げ、37℃で一晩培養した。
【0089】
形質転換後の青/白判定によりDNA断片がインサートされていると考えられる白コロニーを12コロニー選択し、偽陽性を除く為、更に画線培養を行った。画線培養では、形質転換後の大腸菌を培養したのと同様にアンピシリン/IPTG/X−Gal/LBプレート培地を使用し、白金耳で単一コロニーが得られるように画線し、37℃で一晩培養した。得られたコロニーにおける白コロニーの割合は、H鎖で90%、L鎖で46%であった。
【0090】
<プラスミドDNAの調製>
上記<抗体可変領域遺伝子のクローニング>で得られた大腸菌をアンピシリンを含むLB液体培地で培養した。大腸菌培養液から0.75mlを取り、0.2mlの80%グリセロールと混合し、大腸菌のグリセロールストックとして−80℃で保存した。プラスミドDNAは残りの培養液を用いてアルカリSDS法により調製した。
【0091】
残りの約5.25mlの培養液を1.5mlマイクロチューブ6本に移し、12000rpmで1分間遠心分離して集菌し、上清を丁寧に吸引除去した。このマイクロチューブに、Solution I(50mM D−グルコース、25mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH8.0)を100μl加えてボルテックスミキサーにかけよく懸濁した。
【0092】
次にこのマイクロチューブに、Solution II(0.2N NaOH、1%(w/v)SDS)を200μl加えて転倒混和後、当該マイクロチューブを氷中に5分間置き、Solution III(3M CH3COOK、2M CH3COOK)を150μl加え緩やかに撹拌した後、当該マイクロチューブを氷上に5分間置いた。
【0093】
そして、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行った後、沈殿が入らない様に注意しながら上清を採り、新しい1.5mlマイクロチューブに移し、等量のフェノール・クロロフォルムを加えて攪拌した後、4℃、15000rpmで2分間遠心分離を行った。更に同じ作業を繰り返し、2回のフェノール・クロロホルム処理を行った後、上層(水層)を別のマイクロチューブに移し、2.5等量の氷冷エタノール1mlを加えて上下に振って攪拌し−70℃で5分間静置した。そして、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行った後、上清を除去した。その後氷冷70%エタノールを1ml加え、ペレットをリンスし4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を除去し、15分間真空乾燥した。
【0094】
乾燥終了後、TE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA)緩衝液45μlでマイクロチューブ内のペレットを溶解し、さらにRNaseA溶液(5mg/ml RnaseA、10mM Tris−HCl、15mM NaCl、pH7.5)5μl溶液を加えた(終濃度:50μg/ml)。2本のマイクロチューブの溶液を1本のマイクロチューブにまとめ、37℃で1時間反応させた。
【0095】
反応終了後、2/3等量のPEG(13%(w/v)PEG6000、0.8M NaCl)を加え、当該マイクロチューブを氷上に1時間以上置いた。その後、4℃、15000rpmで15分間遠心分離を行い、上清を除去した。当該マイクロチューブに、70%エタノールを1ml加えてリンスし、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行った。上清を除去後、真空乾燥を行った。真空乾燥後、1サンプルにつき50μlの滅菌水に溶解し、一本のチューブにまとめプラスミド溶液とした。そして、アガロース電気泳動によるバンド比較にてサンプルのDNA濃度を推測した。
【0096】
<塩基配列の決定>
Thermo SequenaseTMCyTM5.5 Terminator Cycle Sequencing Kit (Pharmacia社製) を用いて、塩基配列の決定を行った。アデニン(A)用、シトシン(C)用、グアニン(G)用、およびチミン(T)用の4種類のPCRチューブを用意し、各PCRチューブに、d(N)TP/Cy5.5-dd(N)TPを各サンプル分1μlずつ分注した。
【0097】
次にDNA/primer mixの調製を行った。<プラスミドDNAの調製>で調製したDNA1.5μg、Reaction Buffer3.5μl、TOPO13 Reverse(4pmol/μl)(Invitrrogen)1μl、およびThermo Sequenase(10unit/μl)2μlを混合し、滅菌超純水を添加し全量が31.5μlとなるようにした。これを上記PCRチューブに7μlづつ分注し、すみやかにBiometoraサーマルサイクラーにセットし、95℃で30秒間、58℃で30秒間、および72℃で120秒間の反応サイクルを30サイクル行い、4℃で冷却し反応を停止させた。
【0098】
反応終了後、サンプルをPCRチューブから1.5mlのマイクロチューブに移し、20mg/mlグリコーゲンを1μl、7.5M酢酸アンモニウムを2μl、および98%エタノールを30μl添加しよく混合した。このマイクロチューブを10分間氷上で静置し、12000rpmで20分間遠心分離を行った。その後、キムワイプ上でデカンテーションして上清を除去し、70%エタノールを200μl添加し、ペレットおよびチューブ内壁をリンスした。そして12000rpmで10分間遠心分離を行い、マイクロピペットを使用して上清を丁寧に除去した。そして遮光してペレットを乾燥させ、6μl Loading Dyeで溶解し、72℃で、3分間熱処理を行い、LONG-READ TOWERTM System (Amersham Pharmacia Biotech.)に各2μlずつローディングし、解析を行った。得られた塩基配列は、DNASISソフトウェア(日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社製)を使用して解析され、アミノ酸配列に翻訳された。
【0099】
〔実施例4:5H5抗体可変領域の立体構造予測〕
実施例3によって決定した塩基配列から推測した5H5抗体可変領域のアミノ酸配列をもとに、ソフトウエアAbM (Oxford Molecular社製、Oxford、UK)を用いて、目的抗体のCDR領域のループ構造およびFR領域の立体構造を予測した。AbMで予測された立体構造をもとに、ソフトウエアInsightII/Discover3(Molecular Simulation社製、USA)により分子間力計算を行い、熱力学的に安定となる立体構造を予測した。
【0100】
さらに、ソフトウエアPPC Protein Adviser(富士通九州システムエンジニアリング社製)を用いて、立体構造中のセリンプロテアーゼ三つ組み残基を構成するSer、HisおよびAspの残基群を探索した。その結果、5H5抗体のL鎖にセリンプロテアーゼ三つ組み残基の存在が確認された。図3(a)に、5H5抗体のL鎖におけるSer、HisおよびAspの残基群探索結果を示す。図3(a)に示すように、配列番号3に示すアミノ酸配列において、カバットの分類による番号で第34番目のヒスチジン、カバットの分類による番号で第52番目のセリン、カバットの分類による番号で第50番目のアスパラギン酸が、His33−Ser51のCα間は9.33×10−10m、His33−Asp49のCα間は6.10×10−10mと空間的に近い位置で存在すると予測され、触媒三つ組残基を構成していると推測される。なお、His34(カバットの分類による)、Ser52(カバットの分類による)およびAsp50(カバットの分類による)はいずれもCDR領域に存在していた。
【0101】
また、同様にして、立体構造中のセリンプロテアーゼ三つ組み残基を構成するSer、GluおよびAspの残基群を探索した。その結果、5H5抗体のH鎖にセリンプロテアーゼ三つ組み残基の存在が確認された。図3(b)および(c)に、5H5抗体のL鎖におけるSer、GluおよびAspの残基群探索結果を示す。図3(b)に示すように、配列番号1に示すアミノ酸配列において、カバットの分類による番号で第1番目のグルタミン酸、カバットの分類による番号で第25番目のセリン、カバットの分類による番号で第101番目のアスパラギン酸が空間的に近い位置で存在すると予測され触媒三つ組残基を構成していると推測される。また、図3(c)に示すように、カバットの分類による番号で第40番目または第84番目のセリン、カバットの分類による番号で第61番目または86番目のアスパラギン酸、カバットの分類による番号で第85番目のグルタミン酸が空間的に近い位置で存在すると予測され触媒三つ組残基を構成していると推測される。なお、図中、5H5抗体のH鎖およびL鎖のそれぞれのCDR1〜3をリボンで表現している。
【0102】
セリンプロテアーゼ三つ組み残基の存在が確認されたことより、これまでの発明者らによる多くの研究(Appl. Biochem. Biotech., 83, 209-220(2000); J. Immunol. Methods, 269, 283-298(2002); Immunol. Lett. 86, 249-257(2003); Biotechnol. Bioeng., 84(7), 485-493(2003); 化学工業、54, 368-372(2003); Biotechnol. Bioeng. 86(2), 217-225(2004); 科学、75(11), 1254-1259(2005))から、5H5抗体は抗体酵素である可能性が示唆された。そこで、5H5抗体におけるH鎖およびL鎖の抗原分解能の有無について検討を行うこととした。
【0103】
〔実施例5:5H5抗体の大量取得と精製〕
<5H5抗体の大量取得>
あらかじめプリスタン(2,6,10,14-tetramethylpentadecane、MP Biochemicals コード195455,Ohio,USA)を投与したBalb/cマウスの腹腔に5H5抗体を産生する抗体産生細胞0.5×106個を投与後、腹水を採取することにより5H5抗体を大量に取得した。このようにして取得した5H5抗体は以下の方法で精製し目的の実験に用いた。
【0104】
<塩析>
腹水約7mlは濾過してフィブリンを除去し、同量のPBSで希釈した。これを2本の高速冷却遠心チューブに分け、各々、同量の飽和硫酸アンモニウムをドロップワイズで加えた。これを氷中で30分間静置し、その後、4℃、10000rpmで、10分間遠心分離した。デカンテーションにより上清を除去し、ペレットを6mlのPBSに溶解した。再度、等量の飽和硫酸アンモニウムを添加して塩析し、ペレットを6mlのPBSに溶解した。これを、1本のチューブに合わせ、PBSに対して2回透析した。
【0105】
<カラム精製>
透析終了後、MAPS-IIキット(BIO-RAD社製/ProteinAを使った精製キット)を用いて5H5抗体の精製を行なった。操作はMAPS-IIキットに付属のマニュアルに従い、4℃で行なった。
【0106】
使用する試薬として、0.05%NaN3/PBS、Binding buffer、Elution buffer、および2M Tris−HCl(pH8.0)を以下のようにして調製した。0.05%NaN3/PBSは、0.1gのNaN3を200mlのPBSに溶解した。Binding bufferは、47.1gのBinding buffer粉末を蒸留水に溶解し、150mlにメスアップして調製した。この時、pHメーターを用い、pHが9±0.2であることを確認し、範囲外である時はHClまたはNaOHでpHを調整した。Elution bufferは2.3gのElution buffer粉末を蒸留水に溶解し、100mlにメスアップして調製した。この時、pHメーターを用い、pHが3±0.2であることを確認し、範囲外である時はHClまたはNaOHでpHを調整した。2M Tris−HClは、12.11gのTrisを蒸留水に溶解し、HClでpHを8.0に調整した後、蒸留水で50mlにメスアップした。
【0107】
透析終了後、上記の塩析済みの腹水(約7ml)を濾過し脱気した。脱気後の腹水を、腹水: Binding buffer=1:1.2になるように希釈した。また、精製操作前に、0.05%NaN3/PBS、Binding buffer、およびElution bufferを脱気した。
【0108】
アフィゲルプロテインAを充填し、カラムを上記Binding bufferで洗浄した。UV 280nmの吸光度をモニターし、ベースラインが落ち着くまで上記Binding bufferでゲルを洗浄した。流速を0.2ml/minに調節し、ゲル表面とBinding bufferの液面とがほぼ一致したところで、上記サンプルをカラムに供した。
【0109】
次に、50ml以上のBinding bufferを供し、抗体以外の夾雑物質を除去した。ここで検出したピーク部分は、素通り画分として採取した。素通り画分を分取後、ベースラインが落ち着いたら、ゲル表面とBinding bufferの液面とがほぼ一致したところで、45mlのElution bufferを添加し、アフィゲルプロテインAに結合した抗体を溶出させ、ピーク部分を抗体画分として分取した。回収した各画分について、pH試験紙でpHを測定し、2M Tris−HCl(pH8.0)で中和した。上記抗体画分(抗体液)は、PBSに対して2回透析した後、50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer (pH8.0)に対して2回透析し、SDS−PAGEで純度を確認した。純度の高い画分のみを回収し、DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO-RAD)でタンパク濃度を測定し、1mg/ml以上の濃度(1mg/ml未満の場合は濃縮して)で凍結保存した。
【0110】
〔実施例6:抗ヒトIgEモノクローナル抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)の分離精製〕
<限外濾過>
実施例5で50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer (pH8.0)に対して2回透析した後の抗体溶液5mg分を、セントリプレップ−10を用いて、4℃、2800rpmで遠心分離し、約1mlになるまで限外濾過により濃縮した。さらに、5mlの0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を加え、約1mlになるまで再び遠心分離した。この操作を再度行い、限外濾過による濃縮後、0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で抗体溶液を2.7mlに調整し、褐色瓶に入れ以下の実験に使用するまで低温で保存した。
【0111】
<重鎖・軽鎖の分離>
抗体溶液2.7ml、50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)、および1M Tris /50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)をそれぞれ脱気した。抗体溶液2.7mlに2M 2−ME(メルカプトエタノール)300μlを加えて撹拌した後、1M Tris /50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)でpH8に調整し、反応容器内に窒素を封入して、15℃で3時間撹拌し還元反応を行った。この反応液に3mlの0.6Mヨードアセトアミド/50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)を添加し、反応容器内に窒素を封入して、1M Tris /50mM Tris−HCl+0.15M NaCl buffer(pH8.0)でpH8に調整した後、15℃で15分間撹拌しながらアシル化反応を行なった。
【0112】
続いてディスクフィルター(ミリポア製サンプレップLCR13-LH、0.5μm)で反応液を濾過し粒子を除去した。この粒子除去後の反応液を、セントリプレップ−10を用いて、液量が約0.5ml以下になるまで濃縮し、ウルトラフリー(0.2μm)で濾過した。
【0113】
<サイズ排除HPLCによる5H5抗体H鎖およびL鎖の精製>
5H5抗体H鎖およびL鎖の精製は、上記のようにして得られた抗体溶液をサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより行った。
【0114】
サイズ排除クロマトグラフィーシステムとして、PU−2080 Plus(JASCO社製)を用いた。また、カラムには、Protein-PakTM300SW(φ7.8mm×300mm;Waters製)を用いた。上記カラムの平衡化は、移動相に用いる6M 塩酸グアニジン(pH6.5)を、0.15ml/minの流速で、約2時間流すことにより行った。サンプル(上記アシル化処理後の抗体溶液)は、2〜3回に分けて供した。H鎖およびL鎖に相当する分画を分取した。分取後の各画分はPBSに対して透析を行い、H鎖およびL鎖をRefoldingした。15mM PBに交換した後、クリーンベンチ内でサンプルを回収した。DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO-RAD)でH鎖およびL鎖の濃度を測定した後、SDS−PAGEで純度を確認して4℃で保存した。このようにして調製したH鎖およびL鎖の液量と濃度を表2に示す。
【0115】
【表2】
〔実施例7:5H5抗体重鎖および軽鎖によるペプチダーゼ活性の検討〕
天然型抗体酵素は、タンパク質を基質として用いる場合には標的タンパク質を特異的に分解するという特徴を持つ。しかし、ペプチド基質においては、非特異的に分解することが分かっている。そこでこれまでの抗体酵素のペプチダーゼ活性試験で基質として用いてきたTP41−1ペプチド(H2N-TPRGPDRPEGIEEEGGERDRD-COOH : 21mer、配列番号5)を使用して5H5抗体の重鎖および軽鎖が該ペプチドに対する分解能を有するか検討した。なお上記TP41−1ペプチドは、HIV−1エンベロープタンパク質の膜貫通タンパク質gp41の保持領域ペプチドである。また、5H5抗体重鎖としては、〔実施例6〕で分離精製したH鎖であるH1、H2およびH3を用い、5H5抗体軽鎖としては、〔実施例6〕で分離精製したL鎖であるL1、L2およびL3を用いた。
【0116】
実験操作は全てクリーンベンチ内で行い、使用する試験管、緩衝液などは、すべて滅菌処理を行った後、使用した。
【0117】
<TP41−1ペプチドを用いたペプチダーゼ活性試験>
クリーンベンチ内で、TP41−1ペプチド1.7mgをはかり取り、1mlの15mM PB(pH6.5)で溶解した後、γ線照射済みのウルトラフリーでろ過滅菌した。この1.7mg/mlのTP41−1ペプチドを15mM PB(pH6.5)で600μM、360μM、240μMに調整した。次に〔実施例6〕で分離精製した5H5抗体H鎖 H1およびH3を15mM PB(pH6.5)で40μg/ml(0.8μM)に、5H5抗体L鎖 L1およびL3を40μg/ml(1.6μM)に、5H5抗体H鎖 H2を15mM PB(pH6.5)で40μg/ml(0.8μM)に、5H5抗体H鎖 H2を15mM PB(pH6.5)で40μg/ml(0.8μM)に調整した。上記240μM TP41−1ペプチドと、H1、H3、L1、およびL3をそれぞれ1:1で混合した。また360μM TP41−1ペプチドと5H5抗体H鎖 H2とを1:2、600μM TP41−1ペプチドと5H5抗体L鎖 L2とを1:4で混合した。下表3に、調整したTP41−1ペプチドおよび5H5抗体H鎖またはL鎖を含む反応液を示す。
【0118】
【表3】
調製直後の反応液を逆相HPLCで分析したときを0時間とし、25℃でインキュベートを開始した。その後逆相HPLCでTP41−1ペプチドを経時的に追跡した。逆相HPLCの分析には、puresil C18カラム(Waters製)を使用した。
【0119】
なお、HPLCの測定条件として、カラムオーブンは40℃、溶離液は0.08% TFA、13%アセトニトリル、超純水を使用し、流速0.5ml/min、モニター波長214nmとした。各反応液をクリーンベンチ内で30μl回収し、当該反応液を0.45μmのフィルターに通し、除粒子したものをサンプルとしてHPLCに供した(サンプルのインジェクション量20μl)。
【0120】
図4に、5H5抗体H鎖 H1、H3または5H5抗体L鎖 L1、L3を用いたときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図5に、5H5抗体H鎖 H2または5H5抗体L鎖 L2を用いたときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を示す。また、図10に、5H5抗体H鎖 H1を用いたときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図中矢印で示す経時時間で採取したサンプルのHPLC分析により得られたクロマトグラムとともに示す。また、図11に、5H5抗体L鎖 L1を用いたときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図中矢印で示す経時時間で採取したサンプルのHPLC分析により得られたクロマトグラムとともに示す。図10および図11中、丸はそれぞれH1およびL1を用いたときの結果を、四角はTP41−1ペプチドのみを反応液としたときの結果を示している。また、クロマトグラム中の矢印は、反応基質のピークを示す。
【0121】
また、図4において、白丸はH1を、グレーの丸はH3を、白三角はL1を、グレーの三角はL3を用いたときの結果を示している。また、図5において、グレーの丸はH2を、グレーの三角はL2を用いたときの結果を示している。また、図4および図5において、グレーの四角はTP41−1ペプチドのみを反応液としたときの結果を示している。
【0122】
図4に示すように、H1を用いた場合に、約40時間の誘導期を経た後にTP41−1ペプチドの分解が確認され、約114時間後にTP41−1ペプチドの完全分解が確認された。また、H3、L1、L3を用いた場合に、約40時間の誘導期を経た後にTP41−1ペプチドの分解が確認され、90〜120時間後にTP41−1ペプチドの完全分解が確認された。
【0123】
また、図5に示すように、H2を用いた場合に、約70時間の誘導期を経た後にTP41−1ペプチドの分解が確認され、約96時間後にTP41−1ペプチドの完全分解が確認された。そして、L2を用いた場合に、約70時間の誘導期を経た後にTP41−1ペプチドの分解が確認され、約110時間後にTP41−1ペプチドの完全分解が確認された。
【0124】
以上のように、全ての反応液において、これまで多くの抗体酵素で見られたと同様、誘導期、活性期の2相性を示しながらペプチドである反応基質が分解されたことが確認された。
【0125】
<TP41−1ペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性試験>
次に、5H5抗体のH鎖およびL鎖によりペプチド(TP41−1ペプチド)が消失した上記ペプチダーゼ活性試験後の反応液に再度ペプチド(TP41−1ペプチド)を添加し、分解産物が観察できるかを検討した。
【0126】
ウルトラフリーでろ過滅菌し、4℃で保存していた1.7mg/mlのTP41−1ペプチドを15mM PB(pH6.5)で240μMに調整した。次に、上記ペプチダーゼ活性試験後の各反応液と1:1で混合し、本ペプチダーゼ活性試験の反応液とした。また、TP41−1ペプチドのみを含む反応液をコントロールとして準備した。下表4に、調整した反応液を示す。
【0127】
【表4】
調整した反応液について、上記ペプチダーゼ活性試験と同様にして、HPLCでTP41−1ペプチド濃度を追跡した。
【0128】
図6、7に、TP41−1ペプチド再添加後の反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、TP41−1ペプチドを再添加する前に行った上記ペプチダーゼ活性試験における反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化と併せて示す。図6は、5H5抗体H鎖 H1、H3または5H5抗体L鎖 L1、L3を含む反応液にTP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図7に、5H5抗体H鎖 H2または5H5抗体L鎖 L2を含む反応液にTP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を示す。
【0129】
なお、図6において、白丸はH1を、グレーの丸はH3を、白三角はL1を、グレーの三角はL3を用いたときの結果を示している。また、図7において、グレーの丸はH2を、グレーの三角はL2を用いたときの結果を示している。
【0130】
また、図8および9は、同じデータを抗体鎖別に表したグラフであって、TP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を示すものである。図8は、5H5抗体L鎖 L1、L2、L3を含む反応液にTP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を、図9は、5H5抗体H鎖 H1、H2、H3を含む反応液にTP41−1ペプチドを再添加したときの反応基質(TP41−1ペプチド)の経時変化を示す。また、図8および図9において、グレーの四角はTP41−1ペプチドのみを反応液としたときの結果を示している。
【0131】
図6〜9に示すように、TP41−1ペプチドを再添加した結果、H鎖およびL鎖ともに若干の誘導期が存在したものの、再添加してから、24時間乃至40時間以内にペプチドは完全に消失した。またHPLCにおいて分解産物のピークはTP41−1ペプチドよりも前に出現していた。
【0132】
〔実施例8:5H5抗体重鎖および軽鎖によるIgEの分解実験〕
実施例7に示すように、5H5抗体のH鎖およびL鎖はペプチダーゼ活性を有することが明らかとなった。そこで、次に5H5抗体のL鎖が、抗原タンパクであるIgEを分解する能力を有するか否かの検討を行った。
【0133】
抗原タンパクには、実施例1で用いたヒトIgEを用いた。これをまず15mM PB(pH6.5)に交換し、濾過滅菌して用いた。
【0134】
次に〔実施例6〕で分離精製した5H5抗体L鎖を20μg/ml(0.8μM)に調整した。上記ヒトIgE(60μg/ml(0.30μM))と、5H5抗体L鎖とをそれぞれ1:1で混合し、全量を400μlとした。分解実験における反応液の濃度は、5H5抗体L鎖が0.4μM(10μg/ml)、ヒトIgEが0.15μM(30μg/ml)であった。また、コントロールとして、0.4μM(10μg/ml)の5H5抗体L鎖のみの反応液400μl、および0.15μM(30μg/ml)のヒトIgEのみの反応液400μlを用いた。
【0135】
反応時間4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間および144時間において、各タンパク質の反応液の一部をクリーンベンチ内で分取し、各タンパク質の経時変化をSDS−PAGEで追跡した。その結果を、図12に示す。図12中(a)は、ヒトIgEと、5H5抗体L鎖とを含む反応液における結果を、(b)は、ネガティブコントロールであるヒトIgEのみの反応液における結果を(c)は5H5抗体L鎖のみの反応液における結果を示す。なお、図中Mはマーカー(Low range marker Bio-Rad)を示し、1ないし9は、それぞれ、0、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間および144時間後の結果を示す。また、図13には、反応開始後に出現したバンドの濃さの経時変化を示す。なお、バンドの濃さは、NIHイメージにより測定した相対値である。
【0136】
図12(a)および図13に示すように、反応開始24時間付近でヒトIgEの重鎖において分解断片である3つのバンド(43kDa(図12(a)中、上から2番目の矢印で示す。)、39kDa(図12(a)中、上から3番目の矢印で示す。)、37kDa(図12(a)中、上から4番目の矢印で示す。)が出現し、だんだんと濃くなっていった。39kDaのバンドは反応時間144時間で減少傾向を示し、このバンドに対応する断片はさらに分解が進んで37kDaあるいはもっと小さい断片に逐次分解されていると思われる。一方、ヒトIgEの軽鎖は全く分解を受けていない。
【0137】
また、図12(b)に示すように、ネガティブコントロールであるヒトIgEのみの反応液では、83kDaおよび80kDaにヒトIgEのH鎖を示す太いバンド、並びに、29kDaにヒトIgEのL鎖を示す太いバンドが検出され、これらのバンドは144時間経過後も全く変化が見られなかった。このことから5H5抗体のL鎖はヒトIgEの重鎖を特異的に認識し分解する抗体酵素であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明にかかる抗体酵素は、上述のようにヒトIgEに対して特異的に作用し、これを分解して機能を消失させることができるため、I型アレルギーの予防や治療のために有用である。また、酵素であるため、酵素センサの構築が可能であり、抗体よりも応用範囲が広い。
【0139】
したがって、本発明は、医療、医薬品産業、試薬産業、等に利用することができ、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の抗体酵素の一例である5H5抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列およびCDR領域を示す図である。
【図2】本発明の抗体酵素の一例である5H5抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列およびCDR領域を示す図である。
【図3】5H5抗体の可変領域の立体構造モデリング(分子モデリング)を行なった結果、推定された立体構造を模式的に示す図であり、(a)は5H5抗体の軽鎖可変領域の推定された立体構造を模式的に示す図であり、(b)および(c)は5H5抗体の重鎖可変領域の推定された立体構造を模式的に示す図である。
【図4】5H5抗体の重鎖および軽鎖のペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図5】5H5抗体の重鎖および軽鎖のペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図6】5H5抗体の重鎖および軽鎖のペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図7】5H5抗体の重鎖および軽鎖のペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図8】5H5抗体の軽鎖のペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図9】5H5抗体の重鎖のペプチドの再添加によるペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図10】5H5抗体の重鎖のペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図11】5H5抗体の軽鎖のペプチダーゼ活性の検討を行なった結果を示すグラフである。
【図12】5H5抗体L鎖によるヒトIgEの分解をSDS−PAGE法により追跡した結果を示す図であり、(a)は、5H5抗体L鎖によるヒトIgEの分解をSDS−PAGE法により追跡した結果を、(b)は、ネガティブコントロールであるヒトIgEのみの反応液における結果を(c)は5H5抗体L鎖のみの反応液における結果を示す図である。
【図13】5H5抗体L鎖によるヒトIgEの分解をSDS−PAGE法により追跡した結果、反応開始後に出現したバンドの濃さの経時変化を示すグラフである。
【図14】実施例において得られた抗ヒトIgEモノクローナル抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図15】実施例において得られた抗ヒトIgEモノクローナル抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有することを特徴とする抗体酵素、またはその可変領域を含む抗体酵素断片。
【請求項2】
重鎖可変領域が、配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、
軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1に記載の抗体酵素、またはその可変領域を含む抗体酵素断片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗体酵素、またはその可変領域を含む抗体酵素断片をコードする遺伝子。
【請求項4】
請求項3に記載の遺伝子が導入された形質転換体。
【請求項1】
ヒトIgEに対する抗体であって、ヒトIgEを認識し、且つ、当該ヒトIgEを分解する活性を有することを特徴とする抗体酵素、またはその可変領域を含む抗体酵素断片。
【請求項2】
重鎖可変領域が、配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、
軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1に記載の抗体酵素、またはその可変領域を含む抗体酵素断片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗体酵素、またはその可変領域を含む抗体酵素断片をコードする遺伝子。
【請求項4】
請求項3に記載の遺伝子が導入された形質転換体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−202445(P2007−202445A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23677(P2006−23677)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】
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