説明

ヒドロコルチゾンに対して親和性を有する核酸リガンド

【課題】ヒドロコルチゾンを標的分子として認識することができる核酸リガンドを提供すること。
【解決手段】ヒドロコルチゾン誘導体であるコハク酸ヒドロコルチゾンを固定化した担体を用いて、SELEX法によってヒドロコルチゾンに対して親和性を有する核酸配列を同定し、ヒドロコルチゾンに対する親和性を確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロコルチゾンに対して親和性を有する核酸リガンドに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロコルチゾンは、副腎皮質で分泌されるホルモンである糖質コルチコイドの一種であり、生体活動に必須のホルモンのひとつである。コルチゾールとも呼ばれる。ヒドロコルチゾンと標的細胞の細胞内受容体との結合によって、受容体のDNA結合部位が露出するような構造変化が起こる。その結果、特定遺伝子の転写制御部位と結合することで、mRNAやタンパク質の合成量が変化する。生体内で多様な効果を有し、糖代謝、脂質代謝、蛋白代謝、水・電解質代謝・炎症・免疫抑制作用等の生命現象において必要不可欠な役割を担っている。従って、体液中のヒドロコルチゾン濃度が正常でない場合はこれらの代謝や機構に異常をきたす。このような異常として、例えば、甲状腺機能亢進症又は低下症(クッシング症候群)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、視床下部−下垂体−副腎皮質の機能異常などがある。
【0003】
ヒドロコルチゾンは脂溶性であるため、血液脳関門で排除されず脳内に直接はいることで,ヒドロコルチゾンの受容体を有する神経細胞に直接作用することができる。ヒドロコルチゾンが過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させることが、近年PTSD患者の脳のMRIなどを例として観察されている。海馬は記憶形態に深く関わるため、海馬の萎縮はこれらの患者の生化学的後遺症のひとつとされている。ヒドロコルチゾン濃度の測定は、うつ病や睡眠障害の補助診断やその治療の評価に有益である旨の研究報告がある(非特許文献1)。
また、ヒドロコルチゾン濃度は概日リズム(サーカディアンリズム)を示すことが知られており、生物時計の位相をみるための指標としての利用や、概日リズムの乱れによる病気診断と治療、薬剤投与における応用が期待されている。
従って、体液中のヒドロコルチゾンを定量すればこれらの機能異常や障害を診断・治療することができる。現在、ヒドロコルチゾン濃度の定量は抗体を用いた免疫測定法が一般的に利用されている(特許文献1)。
【0004】
近年、進化分子工学の発達によって、ランダムなオリゴDNA又はRNAライブラリーから、種々の標的物質と特異的に結合する核酸リガンドを取得する技術が開発された。そのような核酸リガンドはアプタマーとも呼ばれ、1990年に、Goldらによって初めてその基本概念が提示された。核酸分子のライブラリーからSELEX(the Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichment)法と呼ばれる手法を用いて標的物質と特異的に結合する核酸リガンドを取得する方法が報告され、一般的に利用されている(非特許文献2)。SELEX法は、以下の1〜3のスクリーニングサイクル(1.標的物質と核酸リガンドのライブラリーとの結合反応、2.標的物質に結合する核酸リガンドの回収、3.回収した核酸リガンドのPCR又はRT-PCRによる増幅反応)を繰り返し行って、標的物質と結合するアプタマーをライブラリーからスクリーニングする手法である。現在までにアプタマーの標的物質として、多岐にわたる分子が開示されており、例えば、各種タンパク質、酵素、ペプチド、抗体、レセプター、ホルモン、アミノ酸、抗生物質、その他の種々の化合物等が報告されている。アプタマーは、化学的に短時間で試験管内合成が可能であり、安定性も高く固定も容易であり、免疫原性も低いという、抗体にはない利点があり、抗体に代わる分子認識が可能な生体物質として、生物工学的応用、薬剤への応用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−49839号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hanada,K., Yamada,N.,Shimoda,K., Takahashi,K.,Takahashi, S.: Direct radioimmunoassay of cortisol in salivaand its application to the dexa methasone suppression test in affective disorders. Psychoneuroendocrinology, 10, 193-201, 1985
【非特許文献2】Tuerk, C. and Gold L.,Systematic evolution of ligands by exponential enrichment: RNA ligands to bacteriophage T4 DNA polymerase, Science, 249, 505‐510 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ヒドロコルチゾンを標的分子として認識することができる新規な核酸リガンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は配列番号1〜5、87及び104からなる群から選択される核酸配列を含有する核酸リガンドからなり、ヒドロコルチゾンに対して親和性を有する新規な核酸リガンドが提供される。
【0009】
本発明者等は、SELEX法によりヒドロコルチゾンに対し親和性を有する核酸リガンドを取得することに成功した。すなわち、ヒドロコルチゾン誘導体であるコハク酸ヒドロコルチゾンを標的物質として用いて、SELEX法によってヒドロコルチゾンに対して親和性を有する核酸配列を同定し、ヒドロコルチゾンに対する親和性を確認した。
【0010】
また、本発明によれば、前記核酸リガンドを含むヒドロコルチゾンの検出用、定量用試薬が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、前記検出用、定量用試薬を、ヒドロコルチゾンを含有するか、又は含有する可能性のある被検体と接触させることを含む、ヒドロコルチゾンの検出及び/又は定量方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヒドロコルチゾンに対して親和性を有する新規な核酸リガンドを提供することができる。本発明のヒドロコルチゾンに対して親和性を有する核酸リガンドによって、ヒドロコルチゾンの分泌不全に関連する疾患、ストレス、うつ病や睡眠障害の診断及び治療に使用され得る試薬及びその利用法の開発が期待される。核酸リガンドは、自動合成装置を用いて化学的可能であるため、抗体に比較して作製に労力がかからず、費用が安価であり、種々の環境要因(pH及び熱等)に対する安定性が高く、取り扱いが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明における核酸リガンドのスクリーニング方法の概略である。
【図2】配列番号1乃至5及び参照配列(配列番号86)に係る配列を有する核酸のヒドロコルチゾンに対する親和性を示す結果である。
【図3】配列番号87及び配列番号104に係る配列を有する核酸のヒドロコルチゾンに対する親和性を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(核酸リガンド、核酸)
本明細書でいう、「核酸リガンド」は、所望される作用を有する、非天然に存在する核酸である。核酸リガンドはしばしば「アプタマー」と呼ばれるが、「アプタマー」という用語は本出願を通して「核酸リガンド」と同義として使用される。本発明における核酸リガンドの作用として限定はしないが、ヒドロコルチゾンに対して親和性を有すること、ヒドロコルチゾンを触媒的に変化させること、ヒドロコルチゾンの作用を抑制すること、ヒドロコルチゾンと他の分子との反応を促進すること、などが含まれる。本発明の核酸リガンドはDNAでもRNAでも人工核酸でもよいが、安定性の観点からDNAあるいは人工核酸が好ましい。
【0015】
本発明の核酸リガンドは、ヒドロコルチゾンとの結合性が維持される限り、その核酸配列の一部が置換、付加及び/又は欠損されていてもよい。「置換、付加及び/又は欠損」とは、それぞれ、基準となるもとの核酸配列の核酸が別の核酸に置き換わること、もとの核酸配列に新たに核酸が付け加わること、又はもとの核酸配列の一部が取り除かれることをいう。このような置換、付加及び/又は欠損の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発やエラープローンPCRなどが挙げられる。核酸リガンドは、ヒドロコルチゾンに対する親和性が保持される限り、核酸リガンド配列内のどの核酸であってもよく、1以上の部位であってもよい。例えば、核酸の二次構造予測ソフト(例えばmfold)などにより、置換、付加及び欠損による二次構造の変化がある程度予測可能であり、二次構造が大きく変化しない限りは結合能が維持されうることが期待される。ヒドロコルチゾンに対する親和性は実施例に示すような公知の手法で容易に確認することができる。
【0016】
本発明における「核酸」とは、デオキシリボ核酸及びリボ核酸の両方又はこれらの化学修飾物を意味する。修飾には限定しないが、キャッピングのような3’及び5’修飾も含まれる。例えば、リン酸化、アミノ化、ビオチン化、チオール化や蛍光標識などである。本願スクリーニング方法で得られたアプタマーの利用方法に適した修飾をあらかじめしていても良い。特に、追加の電荷、分極率、水素結合、静電相互作用、及び流動性を核酸リガンドの塩基又は核酸リガンド全体に取込む他の化学基を提供するものが含まれる。これら修飾により、ヒドロコルチゾンとの親和性能のバリエーションや結合力を拡大させることができる。そのような修飾には、限定しないが、2’位の糖修飾、5位のピリミジン修飾、8位のプリン修飾、環外アミンにおける修飾、4−チオウリジンの置換、5−ブロモ又は5−ヨード−ウラシルの置換;骨格修飾、メチル化、イソ塩基のイソシチジン及びイソグアニジンのような、稀な塩基対合の組み合わせ、等が含まれ、修飾を行った核酸リガンドに関して、ヒドロコルチゾンに対する親和性が維持されていればいかなるものでもよい。また、本願で記載する増幅工程を行う場合は、増幅可能である修飾方法を選ぶことができる。
【0017】
(検出試薬、定量試薬)
本発明のヒドロコルチゾンに対して親和性を有する核酸リガンドは、被検体中のヒドロコルチゾンの検出用又は定量用試薬として提供することができる。該検出用又は定量用試薬は、後述する配列番号1乃至5、87及び104からなる群から選択される少なくとも1種類の核酸配列を含有する核酸リガンドのみからなるものであってもよいし、該核酸リガンドの安定化等に有用な保存剤等の他の成分を含んでいてもよい。また、ヒドロコルチゾンに対する親和性が阻害されない限り、核酸リガンドに種々の標識剤を導入されていてもよい。標識剤として、例えばフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、TAMRA(5 / 6-carboxytetramethylrhodamine)、等の蛍光色素やトリス(ビピリジン)ルテニウム(II)錯体、ルミノール等の発光物質及びルシフェラーゼやペルオキシダーゼ等の発光反応を触媒するために汎用される酵素などが挙げられる。これらの標識剤の核酸リガンドへの修飾は、従来公知の化学的修飾法を用いることができる。
【0018】
また、本発明の核酸リガンドは、上述のような標識剤による修飾を行わなくとも、そのまま検出用・定量用試薬として用いることができる。例えば、表面プラズモン共鳴法(SPR)センサ素子や水晶発振子(QCM)、電極又は表面弾性波素子に固定させることで、被検体中のヒドロコルチゾンの検出・定量を行うことができる。
【0019】
本発明の核酸リガンドは、ヒドロコルチゾンの検出又は定量が可能であるため、薬剤又は診断薬として有用である。
【0020】
(検出方法、定量方法、被検体)
被検体中のヒドロコルチゾンの検出又は定量は、アプタマーによる周知の通常の方法により行うことができ、例えば上述のように標識剤で修飾した核酸リガンドを利用することで、種々の測定法によって行うことが可能である。例えば、被験体と接触、結合反応を行い、結合しなかったものを除去した後、蛍光、発光、吸光度、電流値あるいはその強度を検出、測定することにより、ヒドロコルチゾンの検出、あるいはその量を測定できる。この際、標識した核酸リガンドあるいは被検体のいずれかを固定化した基板を用いることができる。あるいは、本発明の核酸リガンドを2つに断片化し、一方の断片を分子認識に用い、他方の断片に標識剤を付加して、一方の断片と複合体を形成させ、シグナル検出に用いるELISA等におけるサンドイッチタイプのアッセイ系などが考えられる。あるいは、アプタマーの標的物質との結合様式のひとつ、すなわち標的物質との結合によるアプタマーの構造変化を利用した検出・定量方法が用いられる。例えば、共鳴蛍光エネルギー移動(FRET)を起こしうる一組の蛍光色素を核酸リガンドの構造が大きく変化する部位に導入し、標的物質の結合前後で各々の蛍光色素に由来する蛍光波長の強度の変化を検出することで標的物質の検出・定量が可能である。
【0021】
「被検体」としては、ヒドロコルチゾン及びヒドロコルチゾン誘導体が溶解している可能性のある溶液であれば特に限定されないが、上記の溶液は生体成分由来であるのが一般的であり、例えば血液、血漿、血清、尿、リンパ液、羊水、髄液、唾液等の体液、細胞培養液、生体材料抽出液又はこれらの希釈液もしくは濃縮液などが挙げられる。
ここで、ヒドロコルチゾン誘導体とは下記のステロイド骨格を有する化合物であればよく、例えばコレステロール、 ストロファンチジン コレスタノール、テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン、コルチコステロン、コルチゾン、アルドステロン、デオキシコルチコステロンなどが挙げられる。
【0022】
(ヒドロコルチゾン)
本発明において、ヒドロコルチゾンとは以下の構造:
【化1】

を有する化合物である。副腎皮質で分泌される生体活動に必須のステロイドホルモンである糖質コルチコイドの一種であり、生体内ではコレステロールから合成される。生体内で多様な効果を有し、糖代謝、脂質代謝、蛋白代謝、水・電解質代謝・炎症・免疫抑制作用等の生命現象において必要不可欠な役割を担っている。
【0023】
ヒドロコルチゾンに対して親和性を示す核酸リガンドをSELEXによって取得するために、ヒドロコルチゾン誘導体を担体に固定化してSELEXを行っても良い。例えば、以下の構造
【化2】

を有するコハク酸ヒドロコルチゾンを用いることができる。コハク酸ヒドロコルチゾンは末端にカルボキシル基を有しているため、SELEX実施時の担体への固定化が容易であり、カルボキシル基をもつ末端部分が担体とのリンカーとして働くことも期待でき、ヒドロコルチゾンそのものを担体にダイレクトに固定化するより、核酸リガンドとヒドロコルチゾンとの相互作用が担体の立体障害によって阻害する効果を緩和することも期待できる。
【0024】
ヒドロコルチゾン又はその誘導体を固定するための「担体」としては、固定化が可能である限り、その材質及び形状に関して特に制限はない。担体の材料として、DNAマイクロアレイや核酸精製、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)などに用いる担体材料を利用することができ、例えばプラスチック、無機高分子、金属、金属酸化物、天然高分子及びこれらを含む複合材料等が挙げられる。プラスチックとして具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリイミド及びアクリル樹脂等が挙げられる。また、無機高分子として具体的には、ガラス、水晶、カーボン、シリカゲル及びグラファイト等が挙げられる。また、金属、金属酸化物として具体的には、金、白金、銀、銅、鉄、アルミニウム、磁石、フェライト、アルミナ、シリカ、パラマグネット及びアパタイト等が挙げられる。天然高分子としては、ポリアミノ酸、セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸、アガロース及びそれら誘導体が挙げられる。更に、反応を促進するため、担体を微粒子化することができる。微粒子化により表面積を大きくすることができ、反応ボリュームの低減、高濃度での反応、撹拌による擬似液相反応などにより促進効果が期待できる。また、分離工程の簡素化を目的とした微粒子の使用が可能であり、微粒子の遠心分離、カラムへの充填による精製分離、磁石による分離回収などが挙げられる。担体に結合したリガンドと遊離のリガンドを分離する技術は従来既知の技術を使うことができる。また、遊離の標的物質からリガンドが結合した担体を分離精製する手段も同様に従来既知の技術を使うことができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明が適用できる実施例を説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
(実施例1)
以下に、標的物質ヒドロコルチゾンに対して親和性を有する核酸リガンドをSELEX法によって取得する実施例を示す。工程の概略を図1に示す。
まず、核酸リガンド候補混合物として、ランダム配列領域30merを有し、両末端に核酸配列が固定の配列に保存された保存配列領域を有する核酸リガンド混合物(配列番号80、81)を合成した。また、配列番号82及び配列番号83のオリゴヌクレオチドを配列番号80の核酸リガンド混合物を増幅するためのプライマー配列として、配列番号85及び配列番号86のオリゴヌクレオチドを配列番号81の核酸リガンド混合物を増幅するためのプライマー配列として合成した。配列番号83及び85は、PCR増幅後の二本鎖から実際のアプタマー配列鎖を取得するため5’末端をリン酸化したものを設計した。上記オリゴ合成は、シグマジェノシス株式会社にて行い、核酸リガンド候補混合物配列はカートリッジ精製、その他PCRプライマー配列と相補配列はPAGE(Polyacrylamide gel electrophoresis)精製グレードのものを使用した。
配列番号80:5’− CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号81:5’− CCAGTCTATTCAATTGATCGAGGGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCCATCGGTCAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号82:5’− CCAGTCTATTCAATTTCG−3’
配列番号83:5’− TTGCACATACTATCTTCG−3’
配列番号84:5’− CCAGTCTATTCAATTGATC−3’
配列番号85:5’− TTGCACATACTATCTGAC−3’
【0027】
(実施例2)
次に、標的物質ヒドロコルチゾンを担体に固定し、SELEX法を行うため、以下の方法で標的物質固定化担体を作製した。担体には、GEライフサイエンス社製のEAH Sepharose 4B Lab Packを用いた。セファロースビーズ担体およそ12ml分をオープンカラムに入れ、保存液(20%エタノール)を除き、その後、0.5M 塩化ナトリウム溶液40ml、MilliQ水(pH4.5)20mlを順次フロースルーさせた。最後に新しいMilliQ水(pH4.5)2mlを加え、担体の膨潤を完了させた。次に、膨潤した担体を新しいオープンカラムへ移し、MilliQ水を除いた後、10mMコハク酸ヒドロコルチゾン(和光純薬)1,4‐ジオキサン溶液1mlとMilliQ水(pH4.5)1mlを添加し、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N′-エチルカルボジイミド塩酸塩(シグマアルドリッチジャパン(株))が130mMになるように粉末を添加し、4℃にて終夜カラムを回転させながらアミド結合形成反応させ、標的物質を担体へ固定した。反応後、室温にて、1,4‐ジオキサン、アセトン、80%エタノール、MilliQ水で順次固定化担体を洗浄し、PBS緩衝液で懸濁した。
【0028】
(実施例3)
担体へのヒドロコルチゾン固定化量を見積るため、固定化担体を50mgはかり取り、1N水酸化ナトリウム溶液25μlを加え、37℃で20分処理した。この処理は、コハク酸ヒドロコルチゾンのエステル結合をアルカリ加水分解することで担体から標的物質を脱離させるために行った。その後、反応液に1N塩酸25μlと1,4‐ジオキサン25μlを順次加え混和し、遠心後上清を適量、TLC Silica gel 60プレート(メルク社)にスポットし、乾燥後、20%硫酸にプレートを均等になじませ、150℃オーブンで10分加熱し硫酸発色させた。発色後室温で5分放置した後、デンシトメーターで半定量解析し、およそ1〜2μmol/1g(1ml)担体の固定量であった。
【0029】
(実施例4)
実施例3で固定量を確認したヒドロコルチゾン固定化セファロースビーズ担体を250μlオープンカラムに添加し、保管液PBS緩衝液をフロースルーした後、結合緩衝液(50mM Tris-HCl(pH7.4)、300mM NaCl, 30mM KCl、5mM MgCl2)を20倍量添加し洗浄した。その後、1μM 核酸リガンド候補混合物(保存配列領域7mer又は9mer)を1ml加え、1時間室温で撹拌しながら標的物質との結合反応をさせた。添加する核酸候補混合物は、95℃、5分間で変性させ、室温で30分間静置した後反応に使用した。反応終了後、反応液をフロースルーし、20倍量の結合緩衝液と5倍量の500mM塩化ナトリウム溶液を順次フロースルーして洗浄した。次に0.25N水酸化ナトリウムを1ml加え、撹拌し20分室温で静置した後に液を回収した。回収した液に1N塩酸を加え中和し、Microcon YM-30(ミリポア)カラムを用いてMilliQ水へバッファー置換と濃縮を行い(プロトコール準拠)、PCR反応に用いる鋳型DNAとした。
【0030】
(実施例5)
TAKARA LA Taqを用い(反応溶液はプロトコールに準拠)、反応条件は、変性98℃/10秒間、アニール72℃/10秒間、伸長57.5℃(核酸リガンド候補混合物(保存配列領域7mer))、59℃(核酸リガンド候補混合物(保存配列領域9mer))/10秒間を35サイクル行い、最後に72℃/1分間という条件で行った。各PCRプライマーは、核酸リガンド候補混合物(保存配列領域7mer)は配列17,18を、核酸リガンド候補混合物(保存配列領域9mer)は配列19,20を用いて行った。増幅したDNAをMicrocon YM-30により精製し(精製プロトコールに準拠)、MilliQ水に置換し、濃縮を行った。
【0031】
(実施例6)
実施例5でPCRしたDNAを、λエキソヌクレアーゼ(NEB,5U/μl)で37℃、2時間、酵素反応させ(試薬プロトコール準拠)、5’末端リン酸化している鎖を切断し、一本鎖を作製した。反応終了後、75℃、10分で処理し酵素を失活させ、Necleotide Removable Kit (QIAGEN) を用いて精製(kit添付プロトコルに準拠)し、MilliQ水で溶出後、結合緩衝液を加えて、次の標的物質結合反応に用いる核酸リガンド候補混合物とした。実施例2から実施例6の工程を10回繰り返し行った。
【0032】
(実施例7)
スクリーニングを行った核酸リガンド候補混合物に関して塩基配列同定のため、実施例5の条件でPCRを行い、pGEM-T easy(promega社)にTAクローニングし、大腸菌JM109(タカラバイオ社)に形質転換した後培養してWizard plus SV minipreps Kitによりプラスミドを調製した(プロトコール準拠)。ランダムにクローンを単離し、核酸配列を同定した。表1にその配列(配列番号1〜79)を示す。
【表1】

【0033】
(実施例8)
実施例7で取得した核酸リガンド候補混合物について、結合能評価をSPR(Surface Plasmon Resonance)装置(GEライフサイエンス Biacore X)を用いて行った。センサーチップ(CM5)に標的物質ヒドロコルチゾンと参照物質N-Cbz-L-Phenylalanine(sigma aldrich)を2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)(sigma aldrich)を介して固定化し(センサーチップ固定化プロトコールに準拠)、実施例8で同定した核酸リガンド(各20μM、結合緩衝液)と結合反応させた。 配列番号1乃至5及び参照配列(配列番号86)についての結果を図2に示す。核酸リガンドの結合に起因した信号は、参照物質固定に対して標的物質固定の方が増大していること、参照配列に対して増大していることから、標的物質に対して結合することが確認された。
配列番号1:5’−CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGAAGCTAATAGTTTTGCGGGAACTTGTCCTCCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号2:5’−CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGCTCCGAGGAATCAATGGGCGGCTGTTTGCGCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号3:5’−CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGCCGGTTTGCATGTTTTTTGTGCGTAGGTCTCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号4:5’−CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGGAAGTAGGGGGCCGGGTGGGAGCGGGAGGGCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号5:5’−CCAGTCTATTCAATTGATCGAGGGCACGGAATACGTGATTGCGTAATAAGGTTACGCCCATCGGTCAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号86:CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGTGCGACGGTGCTGTATCATAACCCGCGTTCCCATCGAAGATAGTATGTGCAA
【0034】
(実施例9)
実施例2から実施例6のスクリーニング工程を10回繰り返し行った後、さらに5回スクリーニング工程を繰り返し行い、核酸リガンド候補混合物を取得した。本実施例で取得した混合物に関して塩基配列同定のため実施例5の条件でPCRを行い、pGEM-T easy(promega社)にTAクローニングし、大腸菌JM109(タカラバイオ社)に形質転換した後培養してWizard plus SV minipreps Kitによりプラスミドを調製した(プロトコール準拠)。ランダムにクローンを単離し、124の独立したクローンについて核酸配列を同定した。同定した核酸配列の中で、濃縮され且つホモロジーの高い、メジャーな配列グループ二つ(35クローン、5クローン)の内、異なる配列をそれぞれ17クローン、4クローンに関して表2にその配列(配列番号87〜107)を示す。
【表2】

【0035】
(実施例10)
表2に記載の配列において、配列番号87、配列番号104について実施例8と同様に結合評価を行い核酸リガンドの結合に起因した信号から、参照物質固定に対して標的物質固定の方が増大していること、参照配列に対して増大していることから、標的物質に対して結合することが確認された。(図3)
【0036】
(実施例11)
配列番号1の核酸リガンドを用いた、被検体中のヒドロコルチゾンの検出例を以下に示す。
5'末端にビオチンが修飾された配列番号1の核酸配列を受託合成によって合成する。被検体中のヒドロコルチゾンの検出をSPR装置によって行う。表面にストレプトアビジンが固定されているセンサーチップ(Sensor Chip SA)に上記のビオチン修飾した核酸配列を固定化し(センサーチップ固定化プロトコールに準拠)、被検体として種々のヒドロコルチゾン濃度を有する緩衝液を用いて結合反応させる。被検体中のヒドロコルチゾン濃度に応じたシグナルが観察でき、被検体中のヒドロコルチゾンの検出ができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の核酸リガンドはヒドロコルチゾンに対して親和性を有する。従って、ヒドロコルチゾンの分泌不全に関連する疾患、ストレス、うつ病や睡眠障害の診断及び治療に使用され得る試薬として利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に示す配列番号1乃至5、87及び104からなる群から選択される少なくとも1種類の核酸配列を含有する核酸リガンド。
配列番号1:5’−CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGAAGCTAATAGTTTTGCGGGAACTTGTCCTCCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号2:5’−CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGCTCCGAGGAATCAATGGGCGGCTGTTTGCGCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号3:5’−CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGCCGGTTTGCATGTTTTTTGTGCGTAGGTCTCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号4:5’−CCAGTCTATTCAATTTCGAGGGGAAGTAGGGGGCCGGGTGGGAGCGGGAGGGCCATCGAAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号5:5’−CCAGTCTATTCAATTGATCGAGGGCACGGAATACGTGATTGCGTAATAAGGTTACGCCCATCGGTCAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号87:5’−CCAGTCTATTCAATTGATCGAGGGCAGCGATAGCTGGGCTAATAAGGTTAGCCCCCATCGGTCAGATAGTATGTGCAA−3’
配列番号104:5’−CCAGTCTATTCAATTGATCGAGGGCAGCGATTGCTGGGGATTATAAGATAATCCCCATCGGTCAGATAGTATGTGCAA−3’
【請求項2】
請求項1に記載の核酸リガンドと前記核酸リガンドを標識するための標識剤とを含むヒドロコルチゾンの検出用又は定量用試薬。
【請求項3】
前記標識剤は、蛍光色素又は酵素であることを特徴とする請求項2に記載のヒドロコルチゾンの検出用又は定量用試薬。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の検出用又は定量用試薬を、ヒドロコルチゾンを含有するか、又は含有する可能性のある被検体と接触させることを含む、ヒドロコルチゾンの検出又は定量方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−213388(P2012−213388A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67713(P2012−67713)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】