ヒートショック応答調節因子のスクリーニング方法
細胞を1つ以上のストレスに晒し、続いて細胞のストレス応答を測定することによる、細胞内のヒートショックタンパク質(HSP)発現の調節を定量的に測定する、高効率の方法が提供される。細胞を、化合物又は組成物等の薬剤で処理し、該細胞をストレスに晒し、続いて該薬剤の存在下又は非存在下におけるストレスに対する細胞の応答を測定することによる、細胞内のHSP又はHSF発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する、高効率の方法も提供される。本発明に係る高効率の方法の実施に有用な装置、及びそのような方法を使用して同定された調節因子も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年6月3日に出願された米国仮特許出願61/130,945、及び2008年10月1日に出願された米国仮特許出願61/194,984号の利益を主張し、それらの明細書の全内容を、本明細書中に参照により援用する。
【背景技術】
【0002】
ヒートショックタンパク質(HSP)は、様々な生理的及び環境的刺激に対してホメオスタシス及び生存を維持するのに必須の細胞内タンパク質である。Voellmy et al., Adv. Exp. Med. Biol, 594:89−99 (2007)を参照されたい。この多重遺伝子スーパーファミリーのメンバーは、それらの分子サイズ及び関連する機能で表され、例えば、HSPl10、HSP90、HSP70、HSP60、HSP40、及び小ヒートショックタンパク質等が挙げられる。HSPは、ミスフォールディングしたタンパク質の立体構造及び細胞機能の復活を支援し、又はダメージを受けたタンパク質をプロテオソーム誘導性の分解を導く、分子シャペロンとして機能する。例えばHendrick et al., Annu. Rev. Biochem., 62:349−384 (1993); Riordan et al., Nat. Clin. Pract. Nephrol, 2:149−156 (2006)を参照されたい。HSP発現は、ヒートショック転写因子(HSF)、特にHSF1により、迅速に誘導される。HSFは、制御される遺伝子のヒートショックエレメント(SHE)配列への結合を通じて、HSP遺伝子の転写を活性化する、プロトタイプの制御因子である。Pirkkala et al., FASEB J., 15: 1118− 1131 (2001)を参照されたい。ヒートショック応答に関与する経路の活性化は、ストレスに関連するタンパク質のミスフォールディング等、細胞ストレスに対するありふれた細胞応答であるから、細胞のヒートショック応答を調節することが出来る小分子は、例えば、幾つかの側面において、癌、虚血、創傷治癒及び神経変性疾患等の、細胞のヒートショック応答の活性化又は抑制に関与する、広範囲の臨床的適応の処置及び予防のための治療ツール等として使用されるものとして、大いに注目されている。近年、HSF1及びHSPを調節する多くの化合物が発見され、それらの幾つかは臨床試験に付されている。例えばPowers et al., FEBS Letters, 581 :3758−3769 (2007)を参照されたい。
【0003】
HSF1は、直接的及び間接的メカニズムにより、正負両方向に細胞ストレス応答経路に関与する遺伝子を制御する。HSF1の両方向の活性は、部分的には、HSF1モノマーと比べて異なるDNA及びタンパク質因子に対する結合親和性等を有するマルチマーを形成するその能力に起因する。正常な成長条件の下で、HSF1は、相対的に不活性であるモノマー形態で、細胞の細胞質及び核中に存在することが示されていた。ストレス刺激を受けた細胞(例えばヒートショック、重金属又はアミノ酸類似体に晒された細胞)において、HSF1は、DNA結合能力が向上し、及びタンパク質相互作用プロフィールが変化する、トリマーを形成する。該活性は、特定の部位の誘導性リン酸化により、更に亢進する。HSF1は、HSP70のmRNA転写の上方制御を調整するだけでなく、核孔のTPRタンパク質と相互作用することにより、ストレス誘導性のHSP70のmRNAの輸送も促進する。Skaggs et al., J. Biol. Chem., 282(47):33902−33907 (2007)を参照されたい。
【0004】
興味深いことに、HSF1は、ストレスを受けた細胞の核の中で、広く分散したパターンから、分離したHSF1を含む顆粒に再分布する。これらのストレス顆粒は、大きく、不定形で、そして主として、サテライトIII反復配列と、DNA−タンパク質間の直接相互作用を介して固定される。Jolly et al., J. Cell Biol, 156(5);775−781 (2002); Jolly et al., J. Cell Biol., 164(l):25−33 (2004)を参照されたい。
【0005】
HSP70タンパク質は、分子シャペロンの最も重要なファミリーの1つである。このファミリーは、高度に相同で、重複配列を有し、異なる機能を有する、8つのシャペロンタンパク質を含む。Daugaard et al., FEBS Lett., 581(19):3702−3710 (2007)を参照されたい。HSP70の主な機能は、ストレス誘導性のタンパク質のミスフォールディング又は分解に対する細胞保護機能を提供することである。加えて、構成的に発現したHSP70タンパク質も、非ストレス細胞において、重要なハウスキーピング機能を有する。ヒートショックに続いて、HSP70の発現が顕著に増大し、そして多くの新たに合成されたHSPタンパク質が、細胞質から細胞の核の中に急速に移動する。GFPと融合させたHSP70を使用して、Zengらは、細胞ストレスに応答して、核内のGFP−HSP70レベルが顕著に増大し、それらが核小体中に高度に濃縮して、HSP70顆粒を形成することを報告した。Zeng et al., J. Cell Sci., 117(21):4991−5000 (2004)を参照されたい。また、HSPの発現のバランスに対する負のフィードバックループも存在する。マルチシャペロン複合体中のHSP90及びHSP70タンパク質は、HSF1と相互作用して、その活性を抑制する。ストレス誘導性のミスフォールディングタンパク質は、該相互作用を妨げ、そしてHSF1が開放され、転写活性化に至る。
【0006】
ヒートショック応答におけるHSF1/HSPを標的とする治療的に活性な小分子のスクリーニングに、多大な労力が払われている。直接的なHSF1活性化(セラストロール(celastrol))、HSP90阻害(ラジシコール(radicicol)、17−AAG)、炎症仲介(アラキドン酸、四環系酸A(terracyclic acid A))、プロテオソーム阻害(MG−132)、ヒートショック応答阻害(KNK437、ケルセチン)、及びHSF1/HSP70共誘導(co−induction)(アリモクロモル、ビモクロモル)を通じての、HSF1調節因子として、多くの化合物が同定されている。Westerheide et al., J. Biol. Chem., 280(39):33907−33100 (2005)を参照されたい。近年、標的治療学において、2つの主要なスキームが浮上している。1つは、HSP90を阻害するものであり、これにより、抗癌治療への道が開けた。即ち、HSP90は、悪性形質転換に関与する幾つかの重要なキナーゼを安定化する。Whitesell et al., Curr. Cancer Drug Targets, 3:349−358 (2003)を参照されたい。幾つかのHSP90阻害剤が臨床試験に付されており、一例として、17−AAGは、管理可能な毒性の範囲内で、明確な抗癌活性を示している。もう1つは、小分子を通じて、HSP、特にHSP70を上方制御するものであり、これにより、ミスフォールディングしたタンパク質が蓄積して、望ましくない症状に関与する、疾患、症状及び障害における、多大な治療的価値が示された。重要なことに、このカテゴリーの幾つかの化合物、例えばアリモクロモルは、正常細胞中のHSP70及び他のシャペロンタンパク質に誘導的な作用を有さず、ストレス細胞のシャペロン誘導の亢進を活性化する(いわゆる「共誘導(coinduction)又は「増幅」)。他の共誘導性(co−inductive)化合物も、恐らく有効な治療剤であり、正常細胞及びストレス細胞のHSP70を活性化する薬剤よりも副作用が少ないと考えられる。Soti et al., Br. J. Pharmacol, 146(6):769−780 (2005)を参照されたい。
【0007】
上記を考慮して、標的を定めたシャペロン療法において診断的に又は治療的に使用される、細胞ストレス応答経路中のHSF1/HSP活性を制御(誘導、共誘導、増幅、抑制又は減衰)させる小分子等の薬剤を同定するアッセイの開発は、有益であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの側面において、本発明は、細胞をストレス処理し、そして細胞のストレス応答を、細胞ストレスに応じて生じるHSF顆粒(例えばHSF1、HSF2、HSF3又はHSF4顆粒)形成、及びそれらの顆粒の正常に関する様々な変数、及び特に1つ以上の変数の組み合わせにより測定することにより、細胞内のヒートショックタンパク質(HSP)発現の調節(modulating)を定量的に測定する、高効率の方法を提供する。幾つかの態様において、前記組み合わせは、2つ以上の変数からなる。HSF顆粒、例えばHSF1顆粒等に関連する、細胞のストレス応答に対応する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント、核発色強度(nuclear intensity)変動係数(coefficient of variability)(CV)、顆粒面積、顆粒発色強度、及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率の1つ以上、場合によっては2つ以上から選択される場合もある。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度の変動係数(CV)、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0009】
他の側面において、本発明は、細胞を候補剤(候補化合物又は候補組成物等)で処理し、細胞をストレスに晒し、そして該薬剤の存在下又は非存在下における細胞のストレス応答を測定することを含む、細胞内のヒートショックタンパク質(HSP)の発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する高効率の方法を提供する。細胞のストレス応答は、細胞ストレスにより生じる、顆粒形成、例えばHSP及び/又はHSF(例えばHSF1)顆粒形成、並びに/あるいは該顆粒の性状に関する、1つ以上の変数、及び特に2つ以上の変数を測定することにより測定され得る。細胞ストレス応答に対応するHSP又はHSF顆粒、例えばHSF1等に関連する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント;核発色強度の変動係数(CV);顆粒面積、顆粒発色強度、及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択されてもよい。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度の変動係数(CV)、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0010】
更なる他の側面において、本発明は、細胞をストレス処理することによる、細胞内のHSF、例えばHSF1の転写活性を定量的に測定する高効率の方法、そして更に、上記方法を使用することによる、細胞内のHSF活性、例えばHSF1活性の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する高効率の方法を提供する。活性化因子及び阻害因子の選択を最適化するための、細胞ストレスのレベルを調節する方法が提供される。本発明の高効率手法の信頼性及び再現性に関連する、HSP及び/またはHSF顆粒の変数、細胞の種類、ストレス及び他の変数の選択は、以下に詳細に検討される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A−B】図1A〜Dは、実施例1に記載のように、無処理の、又はヒートショック処理の前に、2μMのセラストロールDMSO溶液(A及びC)又は0.33%DMSO(B及びD)で前処理したHeLa細胞を41℃で2時間ヒートショックしたときの、HSF1及びHSP70(A及びC)の核内での顆粒形成を示す。
【図1C−D】図1A〜Dは、実施例1に記載のように、無処理の、又はヒートショック処理の前に、2μMのセラストロールDMSO溶液(A及びC)又は0.33%DMSO(B及びD)で前処理したHeLa細胞を41℃で2時間ヒートショックしたときの、HSF1及びHSP70(A及びC)の核内での顆粒形成を示す。
【0012】
【図2A−B】図2A〜Dは、実施例1で得た顆粒カウント及び核発色強度CVによる核HSF1顆粒の定量(A及びB)、並びに顆粒カウント及び顆粒合計面積(C及びD)による核HSP70顆粒の定量を示す。平均値の違いを、Studentのt検定により比較した。Ap値<0.01(**)は、統計的に有意と見做された。
【図2C−D】図2A〜Dは、実施例1で得た顆粒カウント及び核発色強度CVによる核HSF1顆粒の定量(A及びB)、並びに顆粒カウント及び顆粒合計面積(C及びD)による核HSP70顆粒の定量を示す。平均値の違いを、Studentのt検定により比較した。Ap値<0.01(**)は、統計的に有意と見做された。
【0013】
【図3】図3は、陽性対照としてヒートショック1時間前に2μMセラストロールで処理したサンプル、及び陰性対照として0.33%DMSOで処理したサンプルについて実施された、高密度スクリーニング(HCS)顆粒アッセイの評価を示す。
【0014】
【図4A】図4A〜Bは、実施例1に記載の、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(HCS法により同定された新規調節因子)における、HSF1核発色強度CV(A)及びHSP70顆粒面積(B)のEC50値を使用した用量依存的試験を示す。
【図4B】図4A〜Bは、実施例1に記載の、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(HCS法により同定された新規調節因子)における、HSF1核発色強度CV(A)及びHSP70顆粒面積(B)のEC50値を使用した用量依存的試験を示す。
【0015】
【図5】図5は、実施例1に記載の、10μMの化合物A又は1μMのセラストロール(陽性対照)を用いた、前処理後6時間の回復期間にかけてのHSF1誘導キネティクスの比較を示す。
【0016】
【図6】図6は、2μMセラストロール陽性対照(黒正方形)及びDMSO陰性対照(白丸)のHeLa細胞に対して、30分間個別に480種類の異なる試験化合物で30分処理して、その後2時間41℃のヒートショックを与えた実験のデータを示す。
【0017】
【図7】図7は、実施例2に記載の、非酸素グルコース除去(OGD)ストレス及びOGDストレスの下で、化合物Aの細胞保護効果を評価するために採用された、MTS細胞死アッセイを示す。SH−SY5Y細胞を0.33%DMSO又はDMSO中の2.5μM化合物Aで1時間処理し、そしてOGDで28時間置き、続いて直ちにMTSアッセイを行った。データは、独立した3つの実験の平均として表現した。Ap値0.01(**)は、統計的に有意と見做された。
【0018】
【図8】図8は、実施例3に記載の、ロテノン誘導性ミトコンドリアストレスの下で、化合物Aの細胞保護効果を評価するために採用された、MTS細胞死アッセイを示す。SH−SY5Y細胞をDMSO及び2.5μM化合物Aで1時間処理し、そして100nMのロテノンで24時間処理し、続いて直ちにMTSアッセイを行った。データは、独立した3つの実験の平均として表現した。Ap値0.01(**)は、統計的に有意と見做された。
【0019】
【図9】図9は、温度を39℃又は41℃に上昇させることによりストレス処理し、回復期間を与えずに測定した細胞を比較した、HSF1顆粒データを示す。
【0020】
【図10】図10は、DMSOで処理して、温度を43℃に上昇させて1時間置き、回復時間を与えず、又は2時間の回復時間を与えた細胞の、HSP70の顆粒カウントにおいて観察されたCV値が、25%を上回ることを示す。これらのデータは、両条件におけるHSF1顆粒カウントの値が、陽性対照の値の望ましいものより近接しており、そして43℃において、HCSアッセイ検出窓(detection window)が、41℃の場合よりも顕著に小さくなることを示す。
【0021】
【図11】図11は、41℃に上昇させた温度に2時間晒し、回復時間を与えずに0.33%DMSO処理した細胞の、HSF1及びHSP70顆粒カウントの評価を示す。
【0022】
【図12】図12は、41℃に上昇させた温度に2時間晒し、回復時間を与えずに0.33%DMSO処理した細胞の、HSF1のCV核発色強度及びHSP70顆粒面積の評価を示す。
【0023】
【図13】図13は、実施例6に記載される、ツニカマイシン誘導ERストレスモデルにおける様々な時点での化合物B(本願HCS法により同定された新規調節因子)からの応答を図示する。
【0024】
【図14】図14は、温度上昇ストレスに晒されていない(例えば37℃3時間)細胞における、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(試験化合物)の濃度(μM)の増大に応じた、HSF1顆粒カウントの評価を示す。このデータは、セラストロールの濃度が1.25〜5.0μMのとき、正常(ヒートショック無し)細胞のHSF1陽性顆粒の形成が顕著に刺激されるが、化合物Aはそのようにならないことを示す。
【0025】
【図15】図15は、実施例8に記載される、10μMラジシコール(対照)又は50μMの9つの試験された化合物の1つで処理された細胞における、HSP90 ATPアーゼ活性の阻害パーセントを示す。これらの結果は、HCFアッセイにおいて正のヒットとして同定された化合物が、HSP90のATPアーゼ活性を顕著に阻害しないことを図示している。
【0026】
【図16】図16は、最初にHSF1/HSP70顆粒アッセイ、続いて細胞保護及び細胞毒性をそれぞれ同定するMG−132及びMTSアッセイを使用する、リード開発用化合物をスクリーニングする方策を提供する。
【0027】
【図17A】図17Aは、X軸にHSF1顆粒陽性細胞、Y軸にMG−132アッセイにおける生存細胞、そしてZ軸にMTSアッセイにおける生存細胞の阻害を示すデータの集合(4,000化合物)を表す。各球体のサイズ及び濃淡は、それぞれ、HSP70及びHSF1顆粒陽性細胞に対応する。
【0028】
【図17B】図17Bは、HSF1顆粒陽性細胞における、20%の閾値を設けたHSF1顆粒スクリーニングで得られたデータを表す(4,000化合物)。正方形の濃淡は、HSP70顆粒陽性細胞に対応する。
【0029】
【図17C】図17Cは、HSP70顆粒陽性細胞における、30%の閾値を設けたHSP70顆粒アッセイで得られたデータを表す。正方形の濃淡は、HSF1顆粒陽性細胞に対応する。
【0030】
【図17D】図17Dは、生存細胞の増大パーセント(DMSOとの比較)において30%の閾値を設けたMG−132アッセイで得られたデータを図示する。正方形の濃淡は、HSF1顆粒陽性細胞に対応する。
【0031】
【図17E】図17Eは、MG−132アッセイ及びMTSアッセイのデータの組み合わせを図示する。球体のサイズはHSP70顆粒データに対応し、そして濃淡はHSF1顆粒データに対応する。
【0032】
【図18】図18は、384ウェルプレートに播種したHeLa細胞を、0.33%DMSO(黒い菱形)及び2μMセラストロール(黒い正方形)で前処理し、続いて41℃で2時間ヒートショックを与え、回復時間無し(R0)で、HSF1顆粒カウントを使用して評価した結果を示す。
【0033】
【図19】図19は、25nMのHSF1 siRNA、スクランブルsiRNA(対照)又はGAPDH siRNA(トランスフェクション対照)を48時間トランスフェクションし、続いて43℃で2時間ヒートショックを加えた、又はヒートショック処理しないHeLa細胞の、ウェスタンブロット及び柱状図を示す。
【0034】
【図20】図20は、25nMのHSF1 siRNA及びスクランブルsiRNAを48時間トランスフェクションし、続いて25μMの化合物B(CYT492)又はDMSO対照で処理した後、41℃で2時間ヒートショックした、又はしていないHeLa細胞における、顆粒形成を図示している。
【0035】
【図21】図21は、25nMのHSF1 siRNA及びスクランブル(標的無し)siRNAをトランスフェクションしたHeLa細胞の細胞カウントを示し、これは、細胞毒性作用が最小であることを示している。
【0036】
【図22A】図22A〜Bは、10、25又は50nMのHSF1特異的siRNA、GAPDH siRNA(対照)又はスクランブルsiRNA(対照)を48時間(A)、及び72時間(B)トランスフェクションしたSK−N−SH細胞のsiRNAノックダウンを図示している。ウエスタンブロットは、タンパク質の発現レベルに対応している。
【図22B】図22A〜Bは、10、25又は50nMのHSF1特異的siRNA、GAPDH siRNA(対照)又はスクランブルsiRNA(対照)を48時間(A)、及び72時間(B)トランスフェクションしたSK−N−SH細胞のsiRNAノックダウンを図示している。ウエスタンブロットは、タンパク質の発現レベルに対応している。
【0037】
【図22C】図22Cは、スクランブルsiRNA(対照)又はGAPDH siRNA(トランスフェクション対照)と比較しての、10、25又は50nMのHSF1特異的siRNAを用いて48時間かけてHSF1をノックダウンした後の、HSP70タンパク質の発現を図示するウエスタンブロットを示す。
【0038】
【図23A】図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)で前処理した後、50nMのHSFl siRNA又はスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイ(実施例5)におけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【図23B】図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)で前処理した後、50nMのHSFl siRNA又はスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイ(実施例5)におけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【図23C】図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)で前処理した後、50nMのHSFl siRNA又はスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイ(実施例5)におけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【図23D】図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)で前処理した後、50nMのHSFl siRNA又はスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイ(実施例5)におけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【0039】
【図24】図24は、10nM、100nM、1μM及び10μMのトリプトリドで処理し、その後43℃で1、2、3又は4時間ヒートショックしたHeLa細胞において、顆粒5個/核を閾値とする顆粒カウントを行い、HSF1顆粒形成の阻害を図示したものである。
【0040】
【図25A】図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【図25B】図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【図25C】図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【図25D】図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【0041】
【図26A】図26A〜Dは、0.33%DMSO、トリプトリド(1μM)又はCYT1563(10μM)で処理したHeLa細胞における、43℃で(A)2時間ヒートショックし、回復時間無し(R0);及び(B)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSF1顆粒カウントの評価、並びに43℃で(C)2時間ヒートショックし、回復時間4時間;及び(D)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSP70細胞発色強度CVの評価を示す。
【図26B】図26A〜Dは、0.33%DMSO、トリプトリド(1μM)又はCYT1563(10μM)で処理したHeLa細胞における、43℃で(A)2時間ヒートショックし、回復時間無し(R0);及び(B)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSF1顆粒カウントの評価、並びに43℃で(C)2時間ヒートショックし、回復時間4時間;及び(D)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSP70細胞発色強度CVの評価を示す。
【図26C】図26A〜Dは、0.33%DMSO、トリプトリド(1μM)又はCYT1563(10μM)で処理したHeLa細胞における、43℃で(A)2時間ヒートショックし、回復時間無し(R0);及び(B)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSF1顆粒カウントの評価、並びに43℃で(C)2時間ヒートショックし、回復時間4時間;及び(D)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSP70細胞発色強度CVの評価を示す。
【図26D】図26A〜Dは、0.33%DMSO、トリプトリド(1μM)又はCYT1563(10μM)で処理したHeLa細胞における、43℃で(A)2時間ヒートショックし、回復時間無し(R0);及び(B)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSF1顆粒カウントの評価、並びに43℃で(C)2時間ヒートショックし、回復時間4時間;及び(D)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSP70細胞発色強度CVの評価を示す。
【0042】
【図27】図27は、384ウェル中で、0.33%DMSO及びCYT1563(10μM)で処理し、続いて43℃、2時間、回復時間無し(R0)のヒートショックを与えたHeLa細胞を、HSF1顆粒カウントを使用して評価したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
定義
便宜のため、本明細書、実施例及び特許請求の範囲において採用される幾つかの用語を、本明細書中に集めて定義する。特に定義されていない限り、本明細書中で使用される技術的及び科学的用語は、当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。
【0044】
本明細書中で使用されるとき、「核発色強度の変動係数(CV)」という用語は、発色ラベル、例えば蛍光ラベルの検出が可能な装置を用いたイメージングにより測定した細胞の核内の顆粒の発色強度の相異を意味する。
【0045】
本明細書中で使用されるとき、「顆粒」という用語は、核内のHSP、HSF又は他のHSP補因子の濃度が増大することを指し、ここで、該核内の濃度増大は、HSP若しくは分子シャペロンの発現、又はHSF転写レベルの増大に関連する。好ましくは、これらの顆粒は、発色ラベル、例えば蛍光ラベルの検出が可能な装置を用いたイメージングにより検出される。該「顆粒」という用語は、当業者には、HSP若しくは分子シャペロンの発現、又はHSF転写レベルの増大に関連する、「スポット」、「ドット」、「粒子(grain)」としても知られる。
【0046】
本明細書中で使用されるとき、「顆粒カウント」という用語は、細胞サンプル中に検出される顆粒の数を指す。例を挙げると、顆粒カウントは、肉眼で顆粒数をカウントすることにより測定され得る。他の態様において、顆粒カウントは、イメージング装置及び付属するソフトウエアの感度設定及び解像能力により決定される。幾つかの態様において、HSP又はHSFの顆粒カウントは、平均で細胞あたり2〜30個、例えば細胞あたり3〜10個であってもよい。
【0047】
本明細書中で使用されるとき、「顆粒発色強度」は、発色ラベル、例えば蛍光ラベルの検出が可能な装置を用いたイメージングにより測定される、細胞の核内の顆粒の発色強度を指す。
【0048】
本明細書中で使用されるとき、「顆粒サイズ」という用語は、イメージング装置により測定される、「顆粒面積」、「顆粒半径」又は「顆粒体積」等、検出可能な顆粒のサイズを指す。典型的には、顆粒サイズは、イメージング装置及び付属するソフトウエアの感度設定及び解像能力により決定される。例を挙げると、顆粒は、半径が平均で約0.01〜20μm2、例えば約0.1〜10μm2、例えば約0.2〜5 μm2である。例を挙げると、顆粒は、平均体積が、約0.01〜100μm3、例えば約0.1〜50μm3、例えば約1〜20μm3である。
【0049】
本明細書中で使用されるとき、「最大ストレス応答」という用語は、最大レベルのストレスに対する細胞の応答を指す。最大レベルのストレスは、細胞のストレスに対する応答がそれ以上変化しなくなる適用されるストレスのレベルである。例えば、温度上昇をストレスとするとき(ヒートショック)、対応する最大ストレス応答は、「最大ヒートショック応答」であり、これは、細胞に「最大レベルのヒートショック」、即ちヒートショックに対する細胞応答がそれ以上変化しなくなる温度を加えたときの応答を指す。最大ストレス応答の他の例として、細胞のストレス応答を誘導する、最大の重金属、化学毒物、酸素の濃度等が挙げられる。
【0050】
本明細書中で使用されるとき、「穏和なストレス」という用語は、前処理ストレス(preconditioning stress)に関連する、最大ストレス応答を下回るストレス応答を提供する条件を指す。例えば、最大ヒートショック応答を誘導する温度を下回るが、なおも細胞にストレス応答を誘導する温度上昇は、「穏和なヒートショック」条件である。穏和なストレス応答の他の例として、細胞のストレス応答を誘導する、最大未満の重金属、化学毒物、酸素の濃度等が挙げられる。
【0051】
本明細書中で使用されるとき、「調節」という用語は、本明細書中に記載の化合物又は組成物が、生物学的経路に、又は所定の生物学的巨大分子、例えばタンパク質、例えばHSP、HSF、もしくは核酸エレメント、例えばHSE等の活性又は機能に、変化を生じさせる作用を指す。幾つかの態様において、調節には、例えば、生物学的経路の阻害若しくはアンタゴナイズ(antagonizing)、又は生物学的巨大分子の活性の阻害、中和、若しくは減衰等が挙げられる。他の態様において、調節として、生物学的経路の促進若しくはアゴナイズ(agonizing)、又は生物学的巨大分子の活性の増大が挙げられる。例えば、幾つかの態様において、調節は、生物学的経路又は転写因子、例えばHSF等の転写活性に変化をもたらすことを含む。
【0052】
本明細書中で使用されるとき、「小分子」という用語は、分子量が約2500amu(原子量単位)未満、好ましくは約2000amu未満、なおもより好ましくは約1500amu未満、更により好ましくは約1000amu未満、又は最も好ましくは約750amuの有機的化合物を指す。そのような分子は、典型的には、2つ以上の炭素及び水素原子からな、そして1つ以上の酸素及び窒素が存在する。また、そのような分子は、1つ以上の硫黄、リン及びハロゲン(フッ素、塩素及び臭素)を含むが、他の公知の原子が採用される場合もある。本方法に使用されるのに適した小分子は、合成のものであっても、又は天然に存在するものであってもよく、様々な化学物質ライブラリーから商業的に入手出来る。例えば、本方法に使用される小分子として、ヒドロキシルアミン化合物が挙げられる。
【0053】
本明細書中で使用されるとき、「ストレス」という用語は、細胞の「ストレス応答」を誘導し得る、細胞に影響する条件又は因子と当業者が理解する、生理的ストレスを指す。ストレスを誘導するものの例として、温度上昇、金属、化学毒物、酸素供給及び酸素欠乏等が挙げられる。
【0054】
本明細書中で使用されるとき、「ストレス応答」という用語は、細胞における、ストレスへの曝露に応答した、HSP発現及び/又はHSF転写の増大を指す。例えば、温度上昇ストレスに対する応答は、ヒートショック応答である。
【0055】
本明細書中で使用されるとき、「亜致命(sub−lethal)ストレス」という用語は、細胞の死滅を引き起こさない細胞のストレス応答を誘導するストレスに対する応答を指す。
【0056】
本明細書中で使用されるとき、「亜最大(submaximal)ストレス応答」は、前記最大ストレスレベルにより引き起こされる応答を下回るが、前記前処理ストレスにより引き起こされる応答を上回るストレス応答を指す。例えば、最大ヒートショックを誘導する温度により引き起こされるヒートショック応答を下回るが、前処理ストレスを誘導する温度の応答を上回るヒートショック応答は、亜最大ストレス応答である。
【0057】
本明細書中で使用されるとき、「処置」という用語は、対象の臨床的状態における改善を指し、治癒が達成されることを意図しない。
【0058】
本明細書中に示される特許文献及び非特許文献は、それらの全てが参照により援用される。
【0059】
態様
HSP又はHSF発現の高効率の定量方法
ヒートショック誘導性のストレス顆粒の形成は公知であり、ヒートショック応答に関連していることが示されている。Cotto et al., supra; Zeng et al., supraを参照されたい。また、Zaarur et al., Cancer Res., 66(3): 1783− 1791 (2006)を参照されたい。しかしながら、今日までに、高効率のフォーマットでHSF1/HSPの活性化を直接測定し得るアッセイは存在していなかった。HSF1及びHSP70の両方がヒートショック後にストレス顆粒を形成するという事実から、それらを正確かつ良好な再現性で定量する方法が開発出来れば、細胞ストレス活性化を定量する有用な細胞マーカーとなり得ることが予想される。この要求に取り組むために、本発明は、HSF1/HSP活性に関連する細胞内でのストレス顆粒を正確に定量出来る、イメージベースの高密度スクリーニング(HCS)を提供する。HCSの多パラメーター的性質(multi−parametric nature)は、合理的な効率で複雑な細胞ネットワーク及び生物学的メカニズムを解析するのに特に有用である。Johnston, P. A., High Content Screening, 25−42, (2008); Zhang et al., J Biomol. Screen, 13(10):953−9 (2008)を参照されたい。本明細書中で、ストレスで活性されたHSF1等のHSF及び/又はHSP70等のHSPを定量するために、顆粒形成のパラメーターの内、顆粒カウント、合計顆粒面積、顆粒発色強度、顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率、及び核発色強度が選択された。
【0060】
よって、幾つかの態様において、本発明は、細胞をストレスに晒し、そして細胞のストレスに応じて起こるHSP及び/又はHSF顆粒形成(例えばHSF1顆粒形成)及び該顆粒の性状に関する1つ以上の変数、又は2つ以上の変数の組み合わせにより細胞のストレス応答を測定することによる、細胞内のHSP発現の調節を定量的に測定する高効率の方法を提供する。細胞ストレス応答に関連するHSP及び/又はHSF顆粒(例えばHSF1顆粒)に関する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント、核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率、の1つ以上から、そして好ましくは2つ以上から選択されてもよい。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0061】
更なる他の側面において、本発明は、細胞をストレスに晒し、そして細胞のストレスに応じて起こるHSP及び/又はHSF顆粒形成(例えばHSF1顆粒形成)及び該顆粒の性状に関する1つ以上の変数、又は2つ以上の変数の組み合わせにより細胞のストレス応答を測定することによる、HSF、例えばHSF1の転写活性を定量的に測定する高効率の方法を提供する。細胞ストレス応答に関連するHSP及び/又はHSF顆粒に関する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント、核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率、の1つ以上から、そして好ましくは2つ以上から選択されてもよい。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0062】
HSP発現の調節因子を同定する方法
他の側面において、本発明は、細胞を調節因子と推定される薬剤(即ち候補剤)、例えば候補化合物又は有効成分を含む候補組成物で処理し;処理細胞及び非処理対照細胞をストレスに晒し;そして該推定調節因子が継続的に存在する場合、又はある時点で除去した場合における細胞のストレス応答を測定することによる、細胞内のHSPの発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する高効率の方法を提供する。加えて、他の側面において、本発明は、細胞を調節因子と推定される薬剤(即ち候補剤)、例えば候補化合物又は有効成分を含む候補組成物で処理し;処理細胞及び非処理対照細胞をストレスに晒し;そして該推定調節因子が継続的に存在する場合、又はある時点で除去した場合における細胞のストレス応答を測定することによる、細胞内のHSF、例えばHSF1の発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する高効率の方法を提供する。細胞のストレス応答は、細胞ストレスにより生じる、HSP及び/又はHSF顆粒(例えばHSF1顆粒)形成、並びに該顆粒の性状に関する、1つ以上の変数、及び特に2つ以上の変数の組み合わせを測定することにより測定され得る。細胞ストレス応答に対応するHSP又はHSF顆粒に関連する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント;核発色強度のCV;顆粒面積、顆粒発色強度、及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択されてもよい。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0063】
幾つかの態様において、HSP発現の推定調節因子は、ポリペプチド配列から構成され、又はこれを含む。他の態様において、該薬剤は、小分子から構成され、又はこれを含む。なおも他の態様において、該薬剤は、核酸部分、例えばDNA、RNA又はそれらの組み合わせ等から構成され、又はこれを含む。ある態様において、前記核酸部分は、例えばsiRNA、shRNA、miRNA若しくはRNA干渉を誘導する、若しくはmRNA等のRNAの転写、プロセシング又は翻訳を制御する他の小核酸分子等の阻害的RNAであり、又はこれを生産する。
【0064】
幾つかの態様において、推定調節因子は、細胞をストレスに晒す前の時点で、細胞に投与される。適切な投与期間は、試験される薬剤(細胞応答に作用する速度も考慮される);試験される細胞の有糸分裂又は他の細胞増殖状態等に依存して、当業者により選択され得る。前処理段階で作用する、又はより良好に作用する、ヒートショック応答等のストレス応答の調節因子は、本発明の予防的治療方法において有用であり得る。細胞は、選択されたストレスに晒される前に、例えば数日乾、数時間、数分間又は数秒間(及びそれ以下)、推定調節因子で前処理される場合がある。推定調節因子は、任意で、ストレス後、及びストレス応答の誘導後、様々な時点で、細胞から除去されてもよい。
【0065】
本発明の高密度スクリーニング(HCS)顆粒アッセイは、前記高効率手法において使用される変数の迅速な定量を、好ましくは自動的に、可能とする。故に、ある態様において、前記HCSは自動化され、そして合理的かつ迅速な高効率での、大量の化合物のスクリーニングを可能とする。幾つかの態様において、前記HCSは、1日に約2,000〜10,000種類の化合物のスクリーニングを可能とする。幾つかの態様において、前記HCS顆粒アッセイは、高度なイメージングソフトウェアを使用して、複雑なイメージの断片化及び高速でのデータ処理を顕著に改善する。本明細書に例示される態様の一つは、「マスターシャペロン制御因子アッセイ(Master Chaperone Regulator Assay)」あるいは「MaCRA」と称される(Zhang et al., J. Biomol. Screen, 13(10):953−9 (2008)を参照されたい)。MaCRAは、細胞イメージベースのスクリーニングツールで、大量の小分子化合物を迅速かつ定量的にスクリーニングすることで、HSF1の活性を調節する潜在的な薬剤候補を同定する。HSF1の調節因子は、疾患細胞中に存在する毒性のミスフォールディングしたタンパク質を修復又は分解する分子シャペロンタンパク質のグループ全体をコントロールすることが予想される。幾つかの他の種類のHSF1調節因子は、癌又は腫瘍細胞のアポトーシス、細胞毒性及び増殖制御に影響をもたらすことが予想される。本明細書中に例示するように、これまでにMaCRAスクリーニングで同定された化合物の一部を評価したところ、それらは、疾患の細胞培養モデルの細胞保護能力を示した。
【0066】
本願の方法におけるイメージングソフトウェアの一例として、Workstation software (GE Healthcare)のMulti Target Analysis (MTA)モジュールが挙げられ、これは、顆粒カウント、顆粒面積、顆粒発色強度及び核発色強度のCVを包括的に記録する、細胞内の顆粒の高速での測定を提供する。他のイメージングシステム及びソフトウェアを、本発明のアッセイ及び方法において使用する場合もある。幾つかの態様において、該イメージングシステム及びソフトウェアは、所定のアッセイにおけるアッセイの条件及び試験された個々の化合物の結果の情報を保存し、該情報は、他の試験化合物との比較情報(comparator)として使用され得る巨大なデータセットを集積するデータベースに格納される。そして、化合物は、1つのアッセイ又は複数のアッセイの組み合わせにおける成績に従ってタイプ及びサブタイプごとに分類され得て、そのような分類は、後で、構造と機能の関係性の理解に、及び予測的化学及び生物学等に使用される。
【0067】
幾つかの態様において、本方法、例えばHCS顆粒アッセイ等は、異なる細胞の1つ以上の異なるストレス条件に対する応答をスクリーニングするのに使用される場合が在る。本発明のいずれかの方法に使用されるストレスは、限定されないが、温度上昇(ヒートショック等)、重金属ストレス(カドミウム等)、化学毒物又は小分子によるストレス(アゼチジン等のアミノ酸類似体、抗炎症薬物、又はアラキドン酸及びその誘導体等)、酸化ストレス、酸素グルコース除去(OGD)、及び酸素除去(OD)から選択されてもよい。幾つかの態様において、前記細胞は、温度上昇ストレスに晒される。他の態様において、前記細胞は、OGDストレスに晒される。幾つかの態様において、前記細胞は、小胞体(ER)ストレスに晒される。
【0068】
化学毒物により引き起こされるストレスにおいて、毒物は、タンパク質合成阻害剤、プロテオソーム阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、HSP阻害剤(例えばHSP90阻害剤)、炎症誘導剤、トリテルペノイド、NSAID、ヒドロキシルアミン誘導体、フラボノイド、及び細胞の呼吸又は代謝の他の阻害剤から選択され得る。幾つかの態様において、前記化学毒物はロテノンである。
【0069】
適切なタンパク質合成阻害剤として、限定されないが、ピューロマイシン及びアゼチジンが挙げられる。
【0070】
適切なプロテオソーム阻害剤として、限定されないが、MG132及びラクタシスチンが挙げられる。
【0071】
適切なセリンプロテアーゼ阻害剤として、限定されないが、DCIC、TPCK及びTLCKが挙げられる。
【0072】
適切な炎症誘導剤として、限定されないが、シクロペンテノンプロスタグランジン、アラキドン酸塩及びホスホリパーゼA2が挙げられる。
【0073】
適切なトリテルペノイドとして、限定されないが、セラストロールが挙げられる。
【0074】
適切なNSAIDSとして、限定されないが、サリチル酸ナトリウム及びインドメタシンが挙げられる。
【0075】
適切なヒドロキシアミン誘導体として、限定されないが、ビモクロモル、アリモクロモル、及びイロキサナジンが挙げられる。
【0076】
適切なフラボノイドとして、限定されないが、ケルセチンが挙げられる。
【0077】
適切な他の阻害剤として、限定されないが、ベンジリデンラクタム化合物、例えばKNK437、並びにHSP90阻害剤、例えばラジシコール、ゲルダナマイシン及び17−AAgが挙げられる。
【0078】
幾つかの態様において、細胞ストレスは、温度上昇ストレス(例えば室温を上回る温度)であり、細胞を培養する温度を47℃未満、例えば45℃、43℃又は42℃未満まで上昇させることを含む。例えば、温度上昇ストレスは、細胞を、約35℃、36℃、37℃、38℃、又は39℃から、42℃、43℃、又は45℃直下若しくは未満まで、又は約42℃、43℃、又は45℃以下の温度で培養することを含んでもよい。他の態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約39℃から、約43℃若しくは未満までの温度で、例えば約39℃、40℃、41℃、又は42℃から、約43℃若しくは未満までの温度で培養することを含む。幾つかの態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約39℃から、約42℃若しくは未満までの温度で、例えば約39℃、40℃、又は41℃から、約42℃若しくは未満までの温度で培養することを含む。他の態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約41℃以下の温度で培養することを含む。他の態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約41℃以下の温度、例えば41℃±1.8、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.2又は0.1℃、例えば41℃±0.5℃以下の温度で培養することを含む。更なる態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約43℃以下の温度で培養することを含む。他の態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約43℃以下の温度で、例えば43℃±1.8、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.2又は0.1℃、例えば43℃±0.5℃以下の温度で培養することを含む。
【0079】
幾つかの態様において、前記方法は、HSP発現及びHSF発現の活性化因子を同定する高効率の方法である。その幾つかの例において、前記細胞ストレスは温度上昇ストレスであり、細胞を、約41℃以下の温度、例えば41℃±1.8、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.2又は0.1℃、例えば41℃±0.5℃以下の温度で培養することを含む。その特定の一例において、前記方法は、HSF発現、例えばHSF1発現の活性化因子、及び/又はHSP発現、例えばHSP70発現の活性化因子を同定する高効率の方法であり、該細胞は、約41℃以下の温度で、又は約41℃±0.5℃で培養される。
【0080】
幾つかの態様において、前記方法は、HSP発現又はHSF発現の阻害因子を同定する高効率の方法である。その幾つかの例において、前記細胞ストレスは温度上昇ストレスであり、細胞を、約43℃以下の温度、例えば43℃±1.8、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.2又は0.1℃、例えば43℃±0.5℃以下の温度で培養することを含む。その特定の一例において、前記方法は、HSF発現、例えばHSF1発現の阻害因子、及び/又はHSP発現、例えばHSP70発現の阻害因子を同定する高効率の方法であり、該細胞は、約43℃以下の温度で、又は約43℃±0.5℃で培養される。
【0081】
幾つかの例において、本発明の方法のいずれかにより誘導されるヒートショックは、穏和なヒートショックであってもよい。幾つかの態様において、細胞は、前処理、亜致命ストレスで処理される。この細胞の前処理は、細胞に、致命ストレスに対する良好な耐性/適応性を付与する。該前処理ストレスは、亜最大ヒートショック応答に達する程度の強さであってもよい。
【0082】
幾つかの態様において、温度上昇ストレスの工程は、伝導性の金属、例えばアルミニウム製の、サーモスタットでコントロールするヒートプレートを使用して達成される。このアルミニウムプレートは、実験に使用される適切な器具に適合するように特注される場合があり、そして、適切な温度を維持するように加熱され得る。このアルミニウムプレートは、公知の加熱方法と比較して、良好な熱伝導をもたらすことが出来る。当業者であれば、複数の細胞サンプルの温度を正確にコントロールし得るプレート系を構築するのに、他の金属、固体若しくは半固体材料、又は保温性の液体を使用してもよいと容易に認めるであろう。そのような材料は、本明細書中に記載のアルミニウムプレートの代わりとなる場合もある。
【0083】
上記のように、本方法において測定される変数の組み合わせは、核発色強度のCV、顆粒カウント、顆粒面積、顆粒発色強度、及び顆粒発色強度のバックグラウンド強度に対する比率から選択される任意の組み合わせであってもよい。幾つかの態様において、前記変数の組み合わせは、核発色強度のCV及び顆粒カウントである。他の態様において、前記変数の組み合わせは、核発色強度のCV及び顆粒面積である。他の態様において、前記変数の組み合わせは、顆粒カウント及び顆粒面積である。他の態様において、前記変数の組み合わせは、核発色強度のCV及び顆粒発色強度である。他の態様において、前記変数の組み合わせは、核発色強度のCV及び顆粒発色強度のバックグラウンド強度に対する比率である。なおも他の態様において、前記変数の組み合わせは、顆粒カウント及び顆粒発色強度のバックグラウンド強度に対する比率である。幾つかの態様において、前記イメージングされた顆粒は、HSP顆粒である。他の態様において前記イメージングされた顆粒は、HSF1顆粒等のHSF顆粒であってもよい。なおも他の態様において、前記イメージングされた顆粒は、HSP及びHSF1顆粒であってもよい。幾つかの例において、所定の顆粒は均一であり、例えば実質的にHSP又はHSFのいずれかのみから構成される。他の例において、所定の顆粒は負均一であり、例えばHSP及びHSFの両方、並びに/又は追加的な核成分から構成される。
【0084】
本発明の高効率の方法は、任意のHSPの発現の調節を測定するのに使用されてもよい。本発明に適したHSPの幾つかの具体例として、限定されないが、HSPl0、HSP27、HSP60、HSP70、HSP71、HSP72、HSP90、HSP104及びHSPl10が挙げられる。幾つかの好ましい態様において、本方法に使用されるヒートショックタンパク質は、HSP70である。
【0085】
本発明の高効率の方法は、癌細胞、神経細胞、又は神経癌細胞等の、様々な異なる種類の細胞を、スクリーニングに利用する場合がある。本高効率の方法に使用される細胞は、不動化細胞、初代細胞(例えば線維芽細胞及び上皮細胞等)、及び/又は形質転換細胞、例えばヒト形質転換細胞株由来のものであってもよい。適切な例として、限定されないが、HOS(高二倍体骨肉腫(hyperdiploid osteosarcoma)細胞株)及びA431(高四倍体表皮癌細胞株)が挙げられる。
【0086】
幾つかの態様において、前記神経細胞株は、限定されないが、ACN、BE(2)−C、BE(2)−M17、CHP−212、CHP−126、GI−CA−N、GI−LI−N、GI−ME−N、IMR−32、IMR−5、KELLY、LAN−I、LAN−188、LAN−5、MHH−NB−Il、NB−100、NGM96、NGP96、SH−SY5Y、SIMA、SJ−N−KP、SK−N−AS、SK−N−BE(2)、SK−N−DZ、SK−N−Fl、SK−N−MC、SK−N−SH、又はNeuro−2a細胞株から選択される。幾つかの態様において、前記神経細胞株は、SH−SY5Y細胞株である。
【0087】
幾つかの態様において、本方法のいずれかに使用される癌細胞株は、限定されないが、癌腫細胞、肉腫細胞、食道癌細胞等から選択される。適切な癌細胞の非限定的な例として、HeLa、A549、DLD−I、DU−145、H1299、HCT−116、HT29、K−562、MCF7、MDA−MB−231、NCI−H146、NCI−H460、NCI−H510、NCI−H69、NCI−H82、OVCAR−3、Paca−2、PANC−I、PC−3、Saos−2、SF−268、SK−BR−3、SK−OV−3、SW−480、SW−620、WM−266−4、HL−60、TE−2、又はK−562細胞株が挙げられる。幾つかの態様において、該癌細胞株は、HeLa細胞株である。
【0088】
幾つかの態様において、前記HCSは自動化され、そして合理的かつ迅速な高効率での、大量の化合物のスクリーニングを可能とする。幾つかの態様において、前記HCSは、高度なイメージングソフトウェアを使用して、複雑なイメージの断片化及び高速でのデータ処理を顕著に改善する。幾つかの態様において、前記HCSは、異なる複数のストレス条件をスクリーニングするのに使用され得る。幾つかの態様において、前記異なる複数のストレス条件は、温度、OGD、ロテノン、及びER誘導性ストレス、あるいは他の本明細書に記載のものから選択される。
【0089】
幾つかの態様において、上記の調節因子同定方法は、更に、1つ以上の公知の第二のアッセイと組み合わされることにより、細胞保護等のより好ましい性質を有する調節因子を提供することが出来る。幾つかの態様において、第二のアッセイは、MG−132アッセイ、又はこれと類似のデータ、例えば細胞保護効果についてのデータを提供する他の多くのアッセイのいずれかである。例えば、Sun F. et al., Neurotoxicology 2006 27 (5): 807; Jullig M, et al., Apoptosis 2006 11 (4): 627; and Valenta EM, et al., Science 2004 304: 1158を参照されたい。
【0090】
幾つかの態様において、前記第二のアッセイは、MTSアッセイ、又はこれと類似のデータ、例えば細胞毒性効果についてのデータを提供する他の多くのアッセイのいずれかである。幾つかの態様において、上記調節因子同定方法は、MG−132アッセイ及びMTSアッセイの両方と組み合わせることが出来る。
【0091】
細胞のベースラインストレスのレベルの調節
幾つかの態様において、前記口腔率の方法における測定工程は、選択された種類のストレスで処理した細胞内のHSP及び/又はHSF発現のレベルを測定し、これを該ストレスに晒されていない細胞のHSP及び/又はHSF発現のベースラインレベルと比較することにより、ストレス処理に関連するHSP及び/又はHSF発現の変化を定量的に測定することを含む、幾つかの態様において、ストレス処理に関連するHSP及び/又はHSF発現は、発現のベースラインレベルを上回るHSP及び/又はHSF発現の増大である。他の態様において、ストレス処理に関連するHSP及び/又はHSF発現は、発現のベースラインレベルを下回るHSP及び/又はHSF発現の減少である。
【0092】
故に、幾つかの態様において、推定調節因子で処理される細胞のHSF及び/又はHSP発現のベースラインレベルは、例えば公知のHSF及び/又はHSP調節因子(活性化因子又は阻害因子)で前処理すること等により、それ自体が外部から変化させられ、又は選択させられる。これは、いずれかの方向における相対的に小さな発現の変化が、本発明の方法に従って、推定される細胞ストレス応答調節因子による処理に応じて検出されるために行われる。このHSF及び/又はHSP発現のベースラインレベルを外部から変化させ、又は選択する工程は、任意で、試験される各細胞種又は各調節因子において、アッセイの感度、例えばシグナルのノイズ比の増大、及び結果的にアッセイの感度において、微調整が行われる。故に、本発明の幾つかの態様において、HSP及び/又はHSF発現のベースラインは、いずれかの方向における発現の変化がより正確に、又はより迅速に検出されるために外部から変化させられ、アッセイの感度が増大させられる場合がある。
【0093】
所定の細胞種に適用される軽度又は中程度のレベルの細胞ストレスを選択することにより、例えば、より高い(より低い)レベルの細胞ストレスにおいて試験された細胞に対して同一の工程を実施して一旦失敗した本発明の方法を使用して、上方又は下方調節因子の同定が可能となる場合がある。本発明のアッセイにおけるヒートショック応答の調節因子の同定に使用される細胞ストレスのベースラインレベルの調節は、1つ以上の選択されたストレスで処理された所定の細胞種の用量及び時間に対する応答曲線を作成し、ストレス処理の最適な時間及び用量を決定することにより、HSF及び/又はHSP発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を選択する能力における増大した、又は最適な感度を達成することにより実現され得る。
【0094】
装置
幾つかの態様において、本明細書中に記載のヒートショック方法の温度上昇は、プレート、例えばアルミニウムプレート等の金属プレート等を備えた加熱器具により実施され、そして維持される。該プレートは、実験に使用される適切な器具に適合するように特注される場合があり、そして、適切な温度を維持するように加熱され得る。該プレートは、ウォーターバス等の公知の加熱方法と比較して、良好な熱伝導をもたらすことが出来るため、その結果、細胞サンプルに安定的かつ正確なヒートショックを与えることが出来る。
【0095】
故に、幾つかの例において、本発明は、複数の細胞サンプルにヒートショックを与える装置を含み、該装置は、プレート及び該プレートを温める熱源を備え、ここで該プレートは、該複数の細胞サンプルに均一に熱を伝導させるように配置されている。一つの態様において、前記プレートは金属プレートであり、例えば鉄、銅若しくはアルミニウムプレートであり、特にアルミニウムプレートであり、又は合金であり、例えば鉄、銅又はアルミニウムを含む合金である。他の例において、前記プレートは、ガラス又は他の非金属プレートである。ある態様において、前記プレートは、複数の細胞サンプル中の各細胞サンプルと直接接触する。前記プレートは、前記熱源から各サンプルへの均一な熱の伝導を促進し、ゆえに、該サンプルのそれぞれに均一なヒートショックを誘導する。例えば、前記プレートは、複数のサンプルを含むマルチウェルプレート(96ウェルプレート又はそれ以上)と連結して使用される場合がある。幾つかの態様において、前記プレートは、前記プレートは、マルチウェルプレートと直接連結、例えば直接接触している場合がある。例えば、前記マルチウェルプレートは、前記プレートの上に載っている場合もある。
【0096】
診断及び/又は治療のための処置方法に使用される調節因子
幾つかの態様において、本発明の高効率の方法により同定される調節因子は、細胞のストレス応答成分を有する生理的ストレスに伴う疾患、症状又は兆候に関する診断方法に有用であり得る。該診断方法を実施するキット及び診断方法が提供される。
【0097】
本発明において同定されたHSF及び/又はHSPの調節因子(及び放射活性、蛍光、燐光、核酸、抗体、又はタンパク質ベースタグ等の異種部分を結合させた該調節因子の誘導体)は、細胞又は細胞集団の細胞のストレス状態を診断するのに有用なツールであり得る。加えて、本発明の調節因子をコードする核酸分子(又は本発明の調節因子をコードする他の核酸分子の核酸制御領域と結合し得る核酸分子)が、細胞内の制御因子を発現し、検出し、及び/又はその発現を制御するように設計され得る場合もある。本発明の核酸分子を含むベクター、及び核酸分子又はベクターを含む細胞も、提供される。
【0098】
他の態様において、本発明の高効率の方法により同定される調節因子は、細胞のストレス応答成分を有する生理的ストレスに伴う疾患、症状又は兆候を治療又は予防する方法に有用であり得る。他の態様において、前記口腔率の方法により同定される調節因子は、細胞のストレス応答成分を有する生理的ストレスに伴う疾患、症状又は兆候を処置又は予防する医薬を製造するのに使用される。該疾患又は兆候は、ヒト又は非ヒト動物におけるものであってもよい。
【0099】
幾つかの態様において、前記疾患、症状又は兆候は、心臓血管疾患、血管疾患、脳疾患、アレルギー疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、ウイルス性若しくは細菌性感染症、皮膚疾患、粘膜疾患、表皮疾患、又は尿細管(renal tubuli)の疾患等から選択される。
【0100】
幾つかの態様において、前記心臓血管疾患は、アテローム性動脈硬化、冠状動脈疾患、又は筋緊張亢進及び肺の筋緊張亢進により引き起こされる心臓血管疾患である。
【0101】
幾つかの態様において、前記脳疾患は、脳血管虚血、脳卒中、外傷性脳損傷、老年性認知症等の老年性神経変性疾患、AIDS認知症、アルコール性認知症、アルツハイマー症、パーキンソン症又はてんかんである。
【0102】
いくつかの態様において、前記皮膚又は粘膜疾患は、皮膚科学的疾患又は消化器系の潰瘍性疾患である。
【0103】
幾つかの他の態様において、特にHSF1/HSP調節因子が阻害的である態様において、前記疾患、症状又は兆候は、全体的な、制御される及び/又は目標とされる細胞毒性、アポトーシス又は他の種類の細胞死に関与する。多くの癌、腫瘍、又は異常な増殖又は細胞分裂を呈する他の細胞若しくは細胞種、例えばウイルス感染等により正常な増殖コントロールを損なったもの等の処置が挙げられる。
【0104】
例証
本願明細書全体に記載されている請求項に係る発明は、以下の実施例を参照してより速やかに理解され得る。該実施例は、本願請求項に係る発明の幾つかの特徴及び態様を詳述することのみを目的として記載され、限定を意図するものではない。
【0105】
マスターシャペロン制御因子アッセイ(MaCRA)
マスターシャペロン制御因子アッセイあるいは「MaCRA」は、細胞内のストレス応答経路の調節因子、例えばHSF1及びHSP70等を同定する、高密度かつ細胞イメージベースのアッセイとして開発された。該MaCRAアッセイは、複数の各アッセイ(下記参照)におけるそれらの性能に基づいて、異なるクラスの細胞ストレス応答調節因子化合物を同定することが出来る、高効率のスクリーニング方法に発達している。MaCRAアッセイの発達は、細胞内のショック応答経路の異なるパラメーターを認識する一連のアッセイ系がいかにして設計され得るかの一例として、下記に記載される。実施例1では、詳述するとおり、HSF1活性化因子を同定するように設計された、スクリーニングにおける高密度かつイメージベースのHSF/HSP顆粒アッセイ、及びEC50フォーマットの開発を説明する。
【0106】
HCS顆粒アッセイのヒートショックスクリーニング条件の最適化
HCSの設定において、アッセイの陽性対照として、公知のHSF1活性化因子であるセラストロール(Westerheide SD, et al. J Biol. Chem. 2004; 279(53):56053−60)が使用された。とりわけ、セラストロールは、ストレス細胞と非ストレス細胞の両方においてHSF1活性を誘導出来る。故に、セラストロールは、HSF1増幅因子として特定される化合物の本発明の定義には適合しない。
【0107】
ヒートショックベースのスクリーニングにおいて、2つの技術的問題を克服する必要がある。第一に、ヒートショックの温度及び時間を最適化しなければならない。様々なヒートショック温度及び回復時間が、公知文献中に報告されている(Cotto J. et al., J Cell Sci 1997; 110 (Pt 23):2925−34;上記Westerheide et al.)。温度をより高く(例えば43℃超)すると、DMSO処理サンプルのバックグランドが著しく高くなり、化合物増幅効果のシグナル/ノイズ比率が小さくなる。最適化された条件は、実験的に、約41℃2時間で回復時間無しが選択され、この条件の下で、充分窓(satisfactory window)は、DMSO溶媒対照(図1B及びD)と比較して、2μMセラストロール(図1A及びC)により誘導されるHSF1/HSP70顆粒形成において観察された。
【0108】
第二に、一般に、96ウェル又はそれ以上のウェルプレートフォーマットにおいてヒートショック実験が実施されるとき、各ウェルへの均等な熱の伝導を保証するのは困難である。ヒートショック実験に通常の空気加熱(インキュベーターから)を使用した場合、96ウェルプレート全体のHSF1/HSP70の顆粒カウントで観察されるばらつきが大きかった(CV>40%)。高効率ヒートショック手法としては、45℃のウォーターバスにプレートを浸漬させる方法が報告されているが、この方法は、イメージベースの高密度手法に適しない(Zaarur et al., Cancer Res. 2006; 66(3): 1783−91)。1つの解決策としては、急速熱伝導用の特注アルミニウムプレートを使用することであり、これにより、HSF1顆粒カウントにおいて、比較的低いCV(7.94%)で96ウェルプレートベースヒートショックを実施出来た。
【0109】
HSF1/HSPストレス顆粒の定量及びアッセイの検証
次に、観察された顆粒状粒子の幾つかの画像パラメーターを定量した。Workstation software (GE Healthcare)のMulti Target Analysis (MTA)モジュールにより、顆粒カウント、顆粒面積、顆粒発色強度及び核発色強度CV(核中のピクセル強度のCVを測定する)等の核顆粒の高速測定が可能となる。図2A〜Dに記載のように、核カウント及び核発色強度CVは、HSF1顆粒の定量に選択された(図2A及び2B)が、顆粒カウント及び顆粒面積は、HSP70顆粒のシグナルの測定に適用された(図2C及び2D)。図2Aのデータは、ヒートショック(41℃2時間)により、2μMのセラストロールに晒されたHeLa細胞の核1つあたり、(MTAによる定量では)平均で5.34±0.72個のHSF1ストレス顆粒が誘導されたことを示す。比較対照としたDMSO処理細胞では、2.46±0.22個の顆粒が誘導されていた。バックグラウンドを相対的に低くするために、化合物処理により誘導されるHSF1顆粒カウントの閾値として、5を選択した。5つを超える顆粒を含むHeLa細胞を、「HSF1顆粒陽性細胞」と定義した。HSF1核発色強度CV、HSP70顆粒カウント及びHSP70顆粒面積の閾値も、DMSO処理サンプルの平均プラス2又はそれ以上の標準偏差に相当するゲート値(gating value)が選択された。これらの結果は、セラストロール処理HeLa細胞が、対照(DMSO)処理細胞と比較して、HSF1及び/又はHSF1陽性顆粒の数(顆粒カウント;図2A及びC)、核内のHSF1陽性顆粒の発色強度(図2B)、及びHSP70陽性顆粒の合計面積(図2D)における、統計的に顕著な増大を示すものであり、このことから、以上の4つのパラメーターが、単独で、及び好ましくは様々な組み合わせで、HSF1及びHSP70シグナルの定量、並びに試験化合物又は条件によるそれらの調節の定量に利用出来ることが検証された。
【0110】
96ウェルプレートフォーマットにおける高密度スクリーニング(HCS)顆粒アッセイの性能を、陽性対照として2μMのセラストロールで1時間処理し、その後ヒートショックを与えたサンプルと、陰性対照として0.33%DMSOで処理したサンプルを用いて、評価した。図3に示されるように、実験データは、HSF1顆粒アッセイが、広いスクリーニング窓及びZ’をもたらすことを示している。(Z要素は、高効率素クリーニング(HTS)アッセイの性能又は能力の尺度である。Z要素解析は、Zhang et al., J Biomol. Screen. 2008; 13(6):538−43に記載のように実施された)。
【0111】
前記最初の高性能スクリーニングから幾つかの陽性のヒットを選択して、実施例1に更に記載されるように、HSF1共誘導に対するそれらの用量依存性を試験した。一例として、図4Aは、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(本HCS方法により同定された新規調節因子)のHSF1発色強度CVのEC50値を用いた、用量依存性の実験を示す。陽性対照であるセラストロールのEC50値は、1.32μMであった。この結果は、公知の、HSP70.1プロモーター−ルシフェラーゼレポーターをセラストロール活性化ヒートショック応答の特定に使用したときのHeLa細胞における3μMのEC50値と、良好に符合する。Westerheide et al., J. Biol. Chem., 279(53):56053−56060 (2004)を参照されたい。同様に、図4Bは、セラストロール(陽性対照)及び化合物Aにおける、HSP顆粒面積のEC50値を用いた用量依存性の実験を示す。陽性対照であるセラストロールのEC50値は、0.65μMであった。化合物A及び他のヒットは、セラストロール程強力ではないが、これらのヒットは、構造−活性ベースの研究において良好な出発点を示した。とりわけ、セラストロールと異なり、化合物Aは、ヒートショックストレスで処理されていない正常細胞においてHSF1/HSP70顆粒の形成を刺激又は誘導しない。これは、該化合物(若しくは誘導体化号物)が、シャペロン増幅を仲介する候補薬剤であることを示唆する。
【0112】
HSF1/HSP70誘導における化合物A及びセラストロールの動力学を比較するために、実施例1に更に記載されるように、詳細なタイムコース試験(回復時間中6時間まで)を行った(図5も参照されたい)。本実験において使用される濃度は、セラストロール及び化合物Aにおいてそれぞれ1μM及び10μMであり、これらは、各化合物のEC50値に近い。図5は、10μMの化合物A又は1μMのセラストロール(陽性対照)で前処理した後の6時間の回復期間(R1〜R6)にかけての、細胞におけるHSF1誘導の動力学の比較を示す。化合物Aは、試験された殆どの時点で、セラストロールと類似の誘導挙動を呈した。いずれの化合物も、ヒートショック後6時間にかけてHSF1ストレス顆粒を活性化しており、これは、それらの化合物が、HSPを持続的に誘導するHSF1の活性構造を維持又は安定化している可能性があることを強力に示唆する。HSP70シグナルは、ヒートショック1時間後にピークを有し、そしてヒートショック後6時間まで、相対的に高いレベル(〜25%陽性染色細胞)を維持していた。ヒートショック1時間後、約30%〜40%の細胞が、HSF1+HSP70+である。他の細胞は、HSF1−HSP70+(〜30%)、HSF1+HSP−(〜30%)及びHSFl−HSP−(〜10%)である。HSP70シグナルは、ヒートショック後6時間は、相対的に高レベルである。HSP70が持続的に発現することによって、ミスフォールディングしたタンパク質の保護領域(protection window)が拡張する。図6は、480種類の異なる試験化合物(黒色の菱形)でそれぞれ30分間処理して、その後41℃2時間で回復時間無しのヒートショックにかけた、HeLa細胞の実験データを示す。陽性対照として2μMセラストロール(黒色の正方形)で、そして陰性対照としてDMSO(黒色の丸)で処理して、対照処理を並行して実施した。多くの試験化合物(黒色の菱形)のHSF1顆粒陽性細胞の増大パーセント(%)は、20%以上であった(増大マークの大半が20%を下回るDMSO処理細胞と比較されたい)。この実験は、この実験に使用されたアッセイ条件が、多数の試験化合物のセットから有用なHSF1調節化合物(ここでは活性化因子)を同定するのに充分な感度であったことを示し、及び、この方法がそのような調節化合物の高効率のスクリーニングに利用可能であることを裏付ける。
【0113】
次の問題は、生物学的に関連するモデル系における細胞保護効果をどのように試験するかであった。酸素グルコース除去(OGD)は、虚血及び脳卒中のインビトロ系であり、ニューロンの損傷の研究に特に適している。OGDにより誘導される細胞毒性は、主に、タンパク質のミスフォールディング及び凝集により起こる。海馬CA1ニューロンにおけるHSP70の過剰発現は、タンパク質の凝集を低下させ、ニューロンの生存を顕著に増大させる。Giffard et al., J Exp. Biol., 207(Part 18):3213−3220 (2004); Sun et al., J. Cereb. Blood Flow Metab., 26(7):937− 950 (2006)を参照されたい。OGDに加えて、パーキンソン症のロテノンモデルは、タンパク質凝集により誘導される細胞毒性の研究用の、他のインビトロ系である。ミトコンドリア阻害剤であるロテノンは、α−シヌクレイン(synuclein)の発現を増大させ、やがて、Lewy小体と類似の細胞質内容物を形成することが報告されている。Greenamyre et al., Parkinsonism Relat. Disord., Suppl 2:S59−S64 (2003)を参照されたい。故に、HCSスクリーニングのヒットの細胞保護効果を評価するために、上記2つのインビトロ細胞アッセイ系のいずれかが利用され得る。以前に報告されたMTS比色分析アッセイは、様々なストレス処理後の生存細胞の測定のための第二の方法となる。
【0114】
前記OGDアッセイは、実施例2に記載されるように実施された。図7に示すように、2.5μMの化合物Aにより前処理した場合、生存SH−SY5Y細胞の91%の増大が観察され、これは、顕著な細胞保護効果を有していた。とりわけ、通常(ストレス無し)条件下では、化合物Aで処理したものとDMSOで処理したものとの間で、SH−SY5Y細胞の生存率には殆ど差が観察されなかった。ロテノンモデルに関して、100nMのロテノンを24時間適用したとき、42%超のSH−SY5Y細胞が死滅した。2.5mMの化合物Aで前処理したSH−SY5Y細胞は、DMSO対照処理細胞と比較して、細胞生存率が29%増大した(図8)。
【0115】
ヒートショックの温度及び回復の時間等のアッセイのパラメーターを更に最適化する、一連の実験が実施された(実施例4)。HSF1顆粒陽性細胞は、温度上昇39℃(黒色の菱形)又は41℃(黒色の正方形)2時間、回復時間無しでストレス処理した細胞において、HSF1顆粒陽性細胞を定量した(図9)。図9に示されるように、ヒートショックを41℃、2時間、回復時間無しで実行した場合、ヒートショックが39℃の場合と比較して、顕著な数の陽性ヒットが検出された。(15%陽性細胞カットオフ以上の黒色の正方形のヒットを参照されたい)。図10のデータは、ヒートショックが43℃の4つの条件(1時間で回復時間無し、1時間で回復時間2時間、12時間で回復時間無し、2時間で回復時間2時間)において、DMSO処理サンプル中のHSP70顆粒が異なり、CV値は25%超も異なり、これは、正確な定量において不十分であることを示す。また、図10のデータは、試験された全ての条件において、DMSO処理サンプル(陰性対照)において観察されるHSF1陽性顆粒カウントが、セラストロール処理サンプル(陽性対照)のカウントに近いことを示す。更に、該データは、ヒートショック(43℃1時間)後に回復時間を与えなかった場合、核あたり平均で6.83個のHSF1ストレス顆粒が誘導され、これに対して、2時間の回復時間を与えた場合、核あたり平均で6.38個のストレス顆粒が誘導されたことを示す。比較すると、陽性対照の値は約6.56であり、従って、検出窓は、理想より小さかった。図11は、DMSO処理細胞を、41℃温度上昇ストレスに2時間晒し、回復時間を与えなかった場合の、HSF1及びHSP70顆粒カウント評価を示す。図12は、DMSO処理細胞を、41℃温度上昇ストレスに2時間晒し、回復時間を与えなかった場合の、HSF1 CV核発色強度及びHSP70顆粒面積の評価を示す。表1は、細胞を、41℃温度上昇ストレスに2時間晒し、回復時間を与えなかった場合の、HSF1顆粒変数、HSP70顆粒変数、HSF1発色強度CV変数及びHSP70顆粒面積のCV値を、表形式でまとめたものである。
【表1】
【0116】
本明細書中で報告したMaCRA HCS顆粒アッセイは、様々なストレス条件下でHSF1/HSP70を調節(増大又は減少)させられる新規化学物質の直接的な同定を可能とする。従来のウエスタンブロット又は免疫蛍光アッセイと比較して、本HCS顆粒アッセイは、以下の点において有利である。
【0117】
(1)HSF1/HSP70ストレス顆粒は、HSF1及びHSP70の活性化と大いに関連している。HSF1/HSP70顆粒の定量は、様々なストレッサーに対する応答におけるHSF1/HSP70活性の細胞の動力学を測定することが出来る。更に、穏和なストレス条件(41℃のヒートショック)を利用した場合、化合物スクリーニングにおいて、良好な窓を用いて、改善されたシグナル/バックグラウンドが得られた。この設定は、前記項降雨率の方法においても観察された、誘導活性が弱いヒットの同定も可能とした。
【0118】
(2)HCSと連動して使用される最新のソフトウエアシステムは、複雑なイメージの断片化、細胞のソーティング及び解析、顆粒カウント/面積の計算、高速でのデータ処理等のための、顕著に改善されたプラットフォームを形成する。加えて、HCSは、化合物評価における、多くの他の表現形質のパラメーターを提示する。例えば、比較対象は、細胞ストレス、例えばヒートショック処理の存在下又は非存在下での、化合物により誘導される核の形態の変化(DAPI染色)の相異であってもよく、これは、細胞毒性の予測に特に有益な場合がある。
【0119】
(3)自動的であるというHCSの特徴から、より高レベルな効率で、巨大な化合物ライブラリーのスクリーニングが可能となる。
【0120】
(4)HCSアッセイの多重化した特性から、込み入った生物学的経路を個別に分離する(teasing apart)のに特に有用な場合があり、潜在的な標的及びバイオマーカーを迅速に同定する有益なツールを提供する。ヒートショックベースのHCSにおける主要な技術上の障害は、更に高効率のフォーマット(384ウェルあるいはそれ以上)でのヒートショック操作の制御である。この目的を達成するために、合理化され、かつ高速化されたデータ処理能力が発達し、これにより、384ウェル以上のフォーマットで、本明細書に記載のHCSアッセイを行うことが可能となった(下記参照)。
【0121】
細胞保護及び細胞毒性−第二のアッセイ
HSP70の誘導において見られる効果が細胞保護に転化され得るか否かを判定するための1つ以上の第二のアッセイにおいて、MTS細胞毒性アッセイが使用された。該アッセイは、本質的には、既に記載されたものと同様に実行された(Zhang et al., J. Biomol. Screen. 2008; 13(6):538−43;実施例5を参照されたい)。このMTSアッセイは、HSF1/HSP70スクリーニングで同定された調節因子が細胞において細胞毒性を誘導するか否かを判定するための第二のアッセイに使用される場合もある(下記図17A及び17Eも参照されたい)。
【0122】
MaCRA HSF1/HSP70顆粒アッセイのスクリーニングでヒットした化合物が、ツニカマイシン処理により誘導される小胞体(ER)系に対するストレスから細胞を保護出来るか否かが試験された。図13に示されるように、最終濃度10μMの化合物Bが、ツニカマイシン誘導ERストレスアッセイにおける様々な時点で、PC12培養細胞に添加され、そして、実施例6に記載されるように、生存細胞を測定した。このデータは、ツニカマイシン処理の前に、又は処理中、そしてツニカマイシン処理後24時間であっても、化合物Bで処理することにより、細胞が、ツニカマイシン誘導性のストレスから、顕著に保護されたことを示す。
【0123】
HDF1ストレス誘導因子から区別されたシャペロンHSF1共誘導因子
図14は、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(上記で挙げた新しくMaCRAで選択された調節因子)の濃度の増大に対する、非ストレス細胞(ここでは、37℃で培養された非ヒートショック細胞)中のHSF1顆粒陽性細胞の増大パーセントを比較する実験の結果を示す。図14に示されるように、セラストロール(陽性対照)とは対照的に、化合物Aは、非ストレス細胞において、ヒートショック応答(HSF1顆粒)を刺激しない。故に、化合物Aは、セラストロールのようなストレス誘導因子ではなく、HSF1共誘導因子、及び細胞ストレス応答の共誘導因子に分類され、本発明のMaCRAプラットフォーム及び関連する方法並びにアッセイは、この共誘導因子化合物のクラスの他のメンバーを同定するのに使用される場合もある(下記を参照されたい)。
【0124】
MaCRAでヒットした化合物の作用はHSP90の阻害を介しない
次に、MaCRAスクリーニングでヒットした化合物の幾つかの選択されたものがHSP90を阻害するか否か、即ち、それらの化合物がネガティブフィードバックを起こすことによりHSF1発現を阻害し、これによりHSF1の間接的な調節因子となることが予想され得るか否かが試験された。HSP90(ATPアーゼ)の活性は、実施例8の方法に従い測定された。図15に示すように、上記のMaCRAスクリーニングでヒットしたものとして同定された様々な化合物は、HSP90のATPアーゼ活性を有意に阻害しない。従って、これらの化合物は、HSP90の阻害に関係しない新規のメカニズムを介して、HSF1を調節している。
【0125】
HSF1+HSP+共誘導因子を同定するスクリーニングの方策
図16は、HSF1/HSP70顆粒アッセイを第一のアッセイとして、そして細胞保護及び細胞毒性をそれぞれ同定するためのMG−132及びMTSアッセイを第二のアッセイとして使用する、リード開発用化合物をスクリーニングする方策の模式図である。上記で詳述した実験に基づいて、上記3つのアッセイを並行して行い、4000の化合物ライブラリーの中から、HSF1+HSP+共誘導因子をスクリーニングした。MG−132アッセイにおいて、細胞をプロテオソーム阻害剤で処理して、細胞質タンパク質のミスフォールディング(細胞ストレス及び細胞死を引き起こす)を誘導する。化合物は、処理を受けた細胞が、プロテオソーム阻害剤誘導性の細胞死を免れて生存するパーセントの増大においてスクリーニングされた(実施例5を参照されたい)。MTSアッセイは、正常細胞に対して一般的に毒性である化合物をスクリーニングする(そして排除する)のに使用された(実施例5を参照されたい)。
【0126】
図17Aは、X軸にHSF1顆粒陽性細胞の増大パーセント(HSF1顆粒カウントの測定による)、Y軸にMG−132アッセイにおける生存細胞の増大パーセント、そしてZ軸にMTSアッセイにおける生存細胞の阻害パーセントを示す、4,000化合物のスクリーニングから得た、データの集合を表す。各球体のサイズ及び濃淡は、それぞれ、HSP70及びHSF1顆粒陽性細胞に対応する。従って、より暗く大きな球体はHSF1+かつHSP70+の化合物であり、原点により近いものと比較して、Y軸に沿うものはMG−132アッセイにおける細胞生存(細胞保護)に優れ;そしてZ軸に沿うものは、MTSアッセイにおける生存(細胞毒性)に優れている。そのような多元的解析を使用するデータのソーティング又はビニングにより、並行したアッセイから得たデータを、関心のある(本明細書ではHSF1共誘導因子)調節化合物を同定するために迅速に使用することが可能となる。これらの、及び類似の多元的解析は、任意の数のアッセイからのデータを表示するのに使用される場合もある。該データは、化合物のスクリーニング及び選択において将来使用するために、及び比較及び予測のために、データベースに保存される場合もある。
【0127】
図17Aの多元的データは、個々のアッセイで得たデータが分離される。図17Bは、HSF1顆粒スクリーニング(4000化合物;R0=ヒートショック後の回復時間が0時間)で得られたデータを表し、Y軸が、HSF1陽性顆粒の増大を示す。正方形の濃淡は、HSP70顆粒陽性細胞に対応する。このスクリーニングにおける閾値として、HSF1顆粒陽性細胞の20%の増大が使用された。正方形の影は、HSP70顆粒陽性細胞に対応する。つまり、閾値20%を超える暗い正方形は、HSF1+HSP7+のヒットである。図17Cは、HSP70顆粒陽性細胞における、30%の閾値を設けたHSP70顆粒アッセイ(4000化合物;R2=ヒートショック後の回復時間が2時間)で得られたデータを表す。正方形の影は、HSF1顆粒陽性細胞に対応する。つまり、閾値30%を超える暗い正方形は、HSF1+HSP7+のヒットである。図17Dは、生存細胞の増大パーセント(DMSOとの比較)において30%の閾値を設けたMG−132アッセイで得られたデータを図示する。正方形の濃淡は、HSF1顆粒陽性細胞に対応する。
【0128】
最後に、図17Eは、MG−132アッセイ及びMTSアッセイの第二のデータの組み合わせを表す。上記と同様に、球体のサイズ及び濃淡は、それぞれHSP70及びHSF1顆粒陽性細胞に対応する。関心の在る化合物は、MG−132アッセイにおいて約30%以上の細胞保護の増大を示し、そしてMTSアッセイにおいて、約20%を超える細胞毒性の阻害(生存細胞の増大等)を示すものとして選択された。
【0129】
表3〜5は、本発明の方法に係る第一及び第二のアッセイにおいて同定した化合物を選択して、それらの化合物を、HSF1+HSP+(A)、HSFl−HSP+(B)及びHSFl−HSP−(C)のカテゴリーに分けたものを示している。重要なことに、本明細書に記載のアッセイ及びデータ解析用の方法は、第四の可能なカテゴリー、即ちHSFl−HSP70+に当てはまる化合物が一つもヒットしない。このことから、本発明のスクリーニング及びアッセイの方法(例えばMaCRA)がHSF1依存的であり、そしてHSF1が直接的な分子標的であることが確認される。
【表2】
【表3】
【表4−1】
【表4−2】
【表4−3】
【0130】
上記実験は、実験条件を最適化し、そしてデータのソーティングを実証するために、96ウェルフォーマットで実施された。次に、化合物は、より高効率(384ウェルフォーマット)で、対照としてセラストロールを使用して行われ、384ウェルフォーマットにおいてMaCRAプラットフォームがどの程度高効率であるかが確認された(実施例10)。図18は、384ウェルプレートに播種したHeLa細胞を、DMSO(黒い菱形)及びセラストロール(黒い正方形)で前処理し、続いて41℃で2時間ヒートショックを与え、回復時間無しで、HSF1顆粒カウントを使用して評価した結果を示す。このデータは、96ウェルフォーマットで定めた全てのスクリーニングの基準が、MaCRAを384ウェルフォーマットにスケールアップした場合にも適用されることを示す(Z’=0.55、シグナル対バックグラウンド比(S/B)=6.73、及びCV=0.13)。
【0131】
MaCRAスクリーニングでヒットしたHSF1+化合物は、HSF依存的である
上記MaCRAで同定されたHSF1活性化化合物が実際に直接HSF1を通じて作用していることを立証するため、RNA干渉(RNAi)ノックダウン実験を行い、HSF1特異的なsiRNA投与により細胞内のHSF1発現レベルを直接低下させたときの該化合物の効果を、非特異的対照RNA投与の場合と比較して観察した(実施例11)。図19は、25nMのHSF1 siRNA、スクランブルsiRNA又はトランスフェクション対照を48時間トランスフェクションしてsiRNA処理し、続いて43℃で2時間ヒートショックを加え、回復時間無しの、又はヒートショック処理しないHeLa細胞における、HSF1及びHSP70タンパク質発現(ローディング対照にGAPDHタンパク質発現)のウェスタンブロットを示す。これらの条件下で、対照のレベルに対し、HSF1発現が約80〜90%低下し、及びHSP70発現が約50%低下した。
【0132】
図20は、25nMのHSF1 siRNA及びスクランブルsiRNAを48時間トランスフェクションし、続いて25μMの化合物B(CYT492)又はDMSO対照で処理した後、41℃で2時間ヒートショックした、又はしていないHeLa細胞における、HSF1陽性顆粒形成に対するHSF1ノックダウンの効果を図示している。顆粒形成は、対照(スクランブル)siRNA処理細胞において認められるが、HSF1 siRNA特異的siRNA処理細胞においては認められない。これは、HSF1陽性顆粒形成が、細胞内のHSF1発現に直接依存していることを示す。上記siRNA処理が処理された細胞を単純に死滅させるものではないことを示すために、25nMのHSF1 siRNA及びスクランブル(標的無し)siRNAをトランスフェクションしたHeLa細胞の細胞カウントを測定した(図21)。この実験により、HeLa細胞において、HSF1 siRNAのトランスフェクションが、非特異的細胞死を引き起こさないことが確認された。
【0133】
表5は、HSF1の共誘導因子(増幅因子)としても同定されたHSF1+HSP70+カテゴリーの9個の独立したヒットを使用して、そのようなsiRNAノックダウン実験を行って得たデータをまとめたものを示す。表5に示されるように、各化合物が、HSF1依存的活性化因子である。
【表5】
【0134】
次に、MaCRAにより選択された化合物は、siRNAノックダウン実験において試験され、続いて第二の機能的実験(MTS及びMG−132アッセイ、実施例5参照)に付された。図22A〜Bは、10、25又は50nMのHSF1特異的siRNA、GAPDH siRNA(対照)又はスクランブルsiRNA(対照)を48時間(A)、及び72時間(B)トランスフェクションした、MG−132に使用されたSK−N−SH細胞におけるHSF1のsiRNAノックダウン、及び対応するウエスタンブロットを図示している。図22Cは、スクランブルsiRNA及びGAPDH siRNAと比較しての、10、25及び50nMのHSF1特異的siRNAを用いて48時間かけてHSF1をノックダウンした後の、HSP70の発現に対する効果を図示するウエスタンブロットを示す。ここで、HSF1ノックダウンは、HeLa細胞において見られた(上記)よりも有効ではなかった。SK−N−SH細胞におけるHSF1 siRNAノックダウンでは、SK−N−SH細胞において、HSF1の約70%、そしてHSP70の約60%をノックダウンした。とは言え、SK−N−SH細胞において達成されたノックダウンレベルは、MG−132アッセイにおいて、ヒット化合物が直接HSF1を介して作用するか否かを試験するのに充分である。
【0135】
図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)のいずれかの化合物で前処理した後、50nMのHSFl siRNA及びスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイにおけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。これらの4つの試験は、HSF1依存的細胞保護を示した。HSF1のレベルをsiRNAノックダウンにより低下させたとき、MG−132アッセイにおいて細胞保護が約10〜20%低下した。
【0136】
HSF1顆粒アッセイを使用しての細胞ストレス応答の阻害因子の同定
HSF1阻害因子の同定は、それらが、例えば癌治療等において、及び標的を定めた、又は制御された細胞死の方法等において、細胞の増殖の阻害に関する処置に使用され得る点で、望ましい場合がある。トリプトリドは、癌治療用の公知のHSF1阻害剤である。例えば、Phillips et al. Cancer Research (2007) 67, 9407; Westerheide et al., J. Biol. Chem. (2006) 281, 9616; Dai et al., Cell 2007; 130(6): 1005−18を参照されたい。しかしながら、現在までに、HSF1阻害候補化合物をスクリーニング及び選択する、定量的かつ高効率な方法は、確実に報告されていなかった。HSF1阻害化合物(細胞内のHSF1活性を低下させる調節因子)の選択用にMaCRAフォーマットを調整するために、上記HSF1顆粒アッセイ及び第二のアッセイにおける陽性対照として、トリプトリドを使用した。従って、トリプトリドの量を増大させることによるHSF1顆粒形成の阻害は、43℃で、4つの異なる処理時間で、回復時間無しで試験された(実施例12)。HSF1阻害因子の選択において、43℃で回復時間無しがより良好な検出感度となることが観察された(活性化因子の選択において41℃のヒートショックがより良好な検出感度となるのとは対照的である)。
【0137】
図24は、10nM、100nM、1μM及び10μMのトリプトリドで処理し、その後43℃で1、2、3又は4時間ヒートショックしたHeLa細胞における、用量依存的なHSF1顆粒形成の阻害を図示したものである。顆粒5個/核を閾値として、顆粒カウントを測定した。本明細書に記載のMeCRA法を使用して選択された様々な化合物の効果の試験に、同様のアッセイ条件が使用された。図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【0138】
上記データに基づき、HSF1及びHSP70の阻害における以下の4つの条件を、MaCRAプラットフォームにおけるフォローアップ試験に選択した:(1)HSF1阻害において43℃で2時間、R0(図26A);(2)HSF1阻害において43℃で4時間、R4(図26B);(3)HSP70阻害において43℃で2時間、R4(図26C);(4)HSP70阻害において43℃で4時間、R4(図26D)。陽性対照として、1μMトリプトリド及び10μM CYT1563を使用した。
【0139】
これらの実験のデータを下記表6にまとめ、トリプトリド及びCYT1563について計算したZ’を併記する。CVY1563のZ’は、43℃で4時間、R4のHSF1及びHSP70顆粒アッセイにおいて良好(Z’>0.5でロボット的(robotic)と見做される)であるから、この条件は、更にHSF1/HSP70阻害因子スクリーニングに選択された。
【0140】
表6
*43℃で4時間、回復時間4時間(R4)が、更なるHSF1及びHSP70阻害因子スクリーニング用の最適の条件として選択された。
【表6】
【0141】
次の工程において、MaCRAベースのHSF1/HSP阻害因子スクリーニングアッセイは、96ウェルから384ウェルにスケールアップされ、上記の最適条件が使用された(実施例14)。この実験において、上記HSF1共誘導因子同定に使用されたのと類似のデータビニングの方策が採用されたが、本方策は、細胞ストレスの非存在下で阻害活性を有しない化合物ではなく、細胞ストレス(即ちヒートショック)に応じてHSF1特異的な阻害活性を示す化合物が探索された。図27は、384ウェル中で、DMSOのみ(黒色の菱形)又はCYT1563(10μM)(黒色の正方形)で処理し、続いて43℃で2時間ヒートショックして、回復時間無しのHeLa細胞を、HSF1顆粒カウントを使用して評価したものを示す。CYT1563のZ’は0.65、シグナル/バックグラウンド(S/B)比率は11.25、そしてCVは12%であった。
【0142】
当業者は、上記アッセイ及びデータビニングの方策が、具体的な条件に適合するように変更させられる場合があることを認識し得る。一般に、前記パラメーターは、具体的な細胞、化合物及びアッセイ条件に基づいて、スクリーニングを最適化するために、個別に、及びに一緒に変化させられる。前述の実施例は、例示のみを目的として提供されるものであり、限定を意図しない。当業者は、前述の一般的な開示の範囲内で、本発明の追加的な態様が補足されることを認識し得て、そして下記非限定的な実施例は、いかなる形でも権利放棄(disclaimer)を意図しない。
【実施例】
【0143】
実施例1:HSF1/HSPストレス顆粒の定量及びアッセイの検証
本実施例は、HSF1活性化因子をスクリーニングするための、HSF1/HSP70高密度スクリーニング(HCS)アッセイの開発に関する。HeLa細胞を化合物(セラストロール)で1時間前処理し、2時間ヒートショックをかけた。希釈はDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)中で200倍になるように行われ、最終的なスクリーニング用の濃度は30μMとなった。熱伝導をより良好にするために特注のアルミニウムプレートが設計され、これにより、96ウェルプレートにおいて定常的な温度及び最小のばらつきが達成された。該アルミニウムプレートは、実験前日に41℃のインキュベーターに置かれた。
【0144】
HeLa細胞中のHSF1及びHSP70の免疫組織化学的染色は、Zhang et al., Biomol Screen., 13(6):538−543, 2008にあるように実施された。プレートの移動を自動化するために、Twister II (Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA)と一体化したINcell 1000 (GE Healthcare, Piscataway, NJ)を使用して、画像取得が実施された。画像解析は、Workstation 3.6のMulti Target Analysisモジュールを使用して遂行された。HSF1/HSP70顆粒カウント、顆粒面積及び核発色強度CVのアルゴリズムは、アッセイ条件及び使用説明書に従い設計した。EC50値及び曲線の当てはめは、Prism 4.0 (GraphPad Software, San Diego, CA)及び非線形回帰解析を使用して実施された。セラストロール(2μM)誘導性の顆粒形成は、処理群において観察された(図1A及び1C)が、DMSO溶媒処理対照細胞では観察されなかった(図1B及び1D)。
【0145】
Workstation software (GE Healthcare)のMulti Target Analysis Module (MTA)モジュールは、顆粒カウント、顆粒面積、顆粒発色強度及び核発色強度CV(核内のピクセル強度のCV)等の、核顆粒の高速の測定を提供する。図2A及び2Bは、顆粒カウント及び核発色強度CVを通じての、HSF1変数の定量を提供する。図2C及び2Dは、HSP70顆粒の定量に、顆粒カウント及び顆粒面積を採用したものである。
【0146】
図2Aは、MTAにより定量されたように、ヒートショック(41℃2時間)が、2μMのセラストロールに晒されたHeLa細胞において、核あたり平均で5.34±0.72個のHSF1ストレス顆粒を誘導した。比較対照としたDMSO処理細胞では、2.46±0.22個の顆粒が誘導されていた。バックグラウンドを相対的に低くするために、5つを超える顆粒を含むHeLa細胞を、「HSF1顆粒陽性細胞」と定義した。HSF1核発色強度CV、HSP70顆粒カウント及びHSP70顆粒面積の閾値も、DMSO処理サンプルの平均プラス2又はそれ以上の標準偏差に相当するゲート値が選択された(図2B〜D)。
【0147】
更に、HCS顆粒アッセイは、Sciclone液体操作システム(Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA)を用いた自動高効率オペレーションにおいて検証された。20枚のHCSアッセイプレートから取ったセラストロール処理サンプルを集めてZ’値を計算すると0.62であり、これは、ロボット的アッセイを実施するのに妥当であることを示している。Sciclone ALH3000におけるHCS顆粒アッセイの性能の評価では、HSF1顆粒カウントを使用して、図3に示す第一のスクリーニングデータが得られた。HSF1顆粒陽性細胞は、狭いCV(7.94%)で平均59.36%±4.71%であり、これに対してDMSO対照は、8.17%±2.00%であった。セラストロールのシグナル対ノイズ比は7.13で、これは、41℃でヒートショックを行ったとき、アッセイ窓が顕著に改善される(43℃との比較、データ無し)ことを示唆する。
【0148】
図4A及び4Bは、HSF1及びHSP70を誘導するセラストロール及び化合物AのEC50値を提供する。HSF1のEC50を決定する際に使用された閾値は核発色強度CVで、一方HSP70のEC50を決定する際に使用された閾値は合計顆粒面積であった。
【0149】
HSF1/HSP70誘導における化合物A及びセラストロールの動力学を比較するために、図5に図示されるように、詳細なタイムコース試験(回復時間中6時間まで)を行った。本実験において使用される濃度は、セラストロール及び化合物Aにおいてそれぞれ1μM及び10μMであり、これらは、各化合物のEC50値に近い。化合物Aは、試験された殆どの時点で、セラストロールと類似の誘導挙動を呈した。いずれの化合物も、ヒートショック後6時間にかけてHSF1ストレス顆粒を活性化しており、これは、それらの化合物が、HSPを持続的に誘導するHSF1の活性構造を維持又は安定化している可能性があることを強力に示唆する。HSP70シグナルは、ヒートショック1時間後にピークを有し、そしてヒートショック後6時間まで、相対的に高いレベル(〜25%陽性染色細胞)を維持していた。HSP70が持続的に発現することによって、ミスフォールディングしたタンパク質の保護領域(protection window)が拡張する。
【0150】
実施例2:OGDストレスにおける、HSF1/HSP70応答でのスクリーニングでヒットした化合物の評価
これらの実験において、前記MaCRA HSF1活性化因子のスクリーニングでヒットした化合物を、試験化合物のSHSY5Y細胞に対する細胞保護効果を測るための、第二の酸素グルコース除去(OGD)アッセイにおいて試験する。コラーゲンIでプレコートした96ウェルプレート(BD Biosciences, San Diego, CA)に、25000細胞/ウェルの密度でSHSY5Y細胞をプレーティングし、完全培地(Neural Basal Medium, Invitrogen, Carlsbad, CA)中で16〜24時間培養した。OGDの誘導において、細胞を、グルコース又は血清を含まない、予め酸素を除去した培地で2回洗浄した。所望の濃度の選択された化合物をストレスの1時間前に添加し、そしてプレートを、モジュラーインキュベーターチャンバー中に置いた(Billups−Rothenberg, Del Mar, CA)。該チャンバーを、室温の95% N2/5% CO2のガス混合物で、10L/分の流速で30分間還流した。特殊なO2電極を使用して残留酸素(O2)濃度がモニタリングされ、最終的な酸素濃度は1%未満であった。還流の後、チャンバーを密封し、そして37℃のインキュベーター中で28時間維持した。OGD実験の後、酸素欠乏又は低酸素症の指標である、HIF1αの誘導を確認するために、免疫染色が実施された。全ての液体操作手順はSciclone ALH3000 (Caliper Life Science, Hopkinton, MA)を使用して行われ、良好な再現性が達成された。細胞の生存率は、MTSアッセイ(下記)を使用して測定された。OGD実験は、図7に記載されるように、DMSO(対照)使用と比較して、化合物Aで処理された細胞において、顕著な細胞保護効果が認められることを示した。
【0151】
実施例3:ロテノンモデルにおける、HSF1/HSP70応答でのスクリーニングでヒットした化合物の発展(Evolution)
この実験において、前記MaCRA HSF1活性化因子のスクリーニングでヒットした化合物を、試験化合物のSHSY5Y細胞に対する細胞保護効果を測るための、第二のロテノンアッセイにおいて試験する。パーキンソン症のロテノンモデルは、タンパク質凝集により誘導される細胞毒性を研究するためのインビトロ系である。ミトコンドリア阻害剤であるロテノンは、α−シヌクレイン(synuclein)の発現を増大させ、やがて、Lewy小体と類似の細胞質内容物を形成することが報告されている。Greenamyre et al., Parkinsonism Relat. Disord., Suppl 2:S59−S64 (2003)を参照されたい。故に、HSF1/HSP70 MaCRAスクリーニングのヒットの細胞保護効果を評価するために、このインビトロ系が採用され、Sherer et al., J. Neuroscience, 23(34):10756−10764, 2003に本質的に記載されるように実行される場合がある。このデータは、100nMのロテノンで24時間処理すると、42%を超えるSH−SY5Y細胞が死滅することを示す。しかしながら、2.5μMの化合物Aで前処理されたSH−SY5Y細胞の細胞生存率は、DMSO対照処理細胞と比較して、29%増大した。要するに、HSF1/HSP70スクリーニングで同定された小分子HSF1/HSP70増幅因子は、恐らくHSF1/HSP70増幅のメカニズムを通じての、細胞保護の効能により、2つの異なるストレス条件から、細胞を救済することが出来る。
【0152】
実施例4:亜最大加熱ストレス条件でのMaCRAアッセイの開発
実験1:これらの実験は、ヒートショックの温度や回復時間等のアッセイのパラメーターを最適化するために実施された。HeLa細胞は、アッセイ評価用の96ウェルプレート中で、0.33%DMSOにより処理された(実施例4、下記実験3参照)。該サンプルに、39℃、2時間、回復時間無しでヒートショックを行い、そして別のサンプルの群(96ウェルプレート)に、41℃、2時間、回復時間無しでヒートショックを行った。セラストロールを陽性対照とした。図9に示すように、ヒートショックが41℃、2時間、回復時間無しで行われたとき、39℃のヒートショックの場合と比較して、多くの陽性のヒットが検出された。
【0153】
実験2:HeLa細胞を0.33%DMSOで前処理し、そして該サンプルを、以下の:(1)43℃、2時間、回復時間2時間;(2)43℃、2時間、回復時間無し;(3)43℃、1時間、回復時間無し;及び(4)43℃、1時間、回復時間2時間;のいずれかのヒートショック条件で処理した。図10に示すように、HSP70のCV値は25%を超え、これは定量に適しない。また、このデータは、ヒートショック(43℃、1時間)により、回復時間無しでは平均で核あたり6.83個のHSF1ストレス顆粒を誘導し一方、2時間の回復時間を設けた場合、誘導されたHSF1ストレス顆粒は平均で核あたり6.38個であったことを示す。DMSO処理サンプルにおける両方のHSF1ストレス顆粒カウントの値は、陽性対照処理サンプルのものに非常に近く(6.56)、ゆえに、43℃で1又は2時間、回復時間有り又は無しのヒートショック条件は、化合物のスクリーニングに最適の条件ではない。
【0154】
実験3:HeLa細胞を8000細胞/ウェルの密度で96ウェルアッセイプレート(Costar 3904)に播種し、化合物処理の前に約16〜24時間培養した。続いて、該細胞をDMSOで処理した。DMEM中での化合物の全体の希釈は200倍であり、最終的なスクリーニング用の濃度は30μMとなり、そしてこれを、EC5O決定のために、10μM〜0.1μMの濃度範囲内で連続希釈した(アッセイポイントを10個設けた)(DMSOの最終濃度は0.3%v/v)。ヒートショックは、41℃、2時間、回復時間無しで実行された。ヒートショックの直後、50μLの16%パラホルムアルデヒドを培養培地と混合(合計体積150μL)して、最終濃度を4%とした。プレートを室温で30分インキュベートして、そしてPBSで洗浄した。0.2%Triton X−1OOのPBS溶液で30分間処理して、細胞膜を易透化(Permeablization)した。PBSで3回洗浄した後、プレートに室温で5%FBS/PBSを80μL添加して、1時間置いた。抗体染色のために、1%FBS/PBSで1:500に希釈した抗HSF1及び抗HSP抗体をプレートに添加した。プレートを、室温で2時間、又は4℃で一昼夜インキュベーションした。最後に、プレートに、FITC又はローダミンでラベルした二次抗体及びDAPIの混合物を、それぞれ最終濃度が1:5000(DAPI、5mg/mL)、1:500(FITC/ローダミンラベル抗ウサギ二次抗体)となるように添加した。室温で1時間置いた後、プレートをPBSで洗浄して、4℃で保存した。
【0155】
プレートの移動を自動化するために、Twister II (Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA)と一体化したINcell 1000 (GE Healthcare, Piscataway, NJ)を使用して、画像取得及び解析が実施された。画像取得の設定は、以前記載(20)したように、DAPIにおいて500ms、FITC又はローダミンにおいて100msで、ウェルあたり3回撮像した。画像解析は、Workstation 3.6のMulti Target Analysisモジュールを使用して実施された。HSF1/HSP70顆粒カウント、顆粒面積及び核発色強度CVにおけるアルゴリズムは、アッセイ条件及び使用説明書に従い設計及び最適化された。EC50値及び曲線の当てはめは、Prism 4.0 (GraphPad Software, San Diego, CA)及び非線形回帰解析を使用して実施された。
【0156】
そして、陽性染色細胞は、顆粒カウントアッセイを使用して決定された。図11は、本実験における、HSF1及びHSP70顆粒カウントの評価を示す。
【0157】
実験4:96ウェルフォーマットのHeLa細胞(上記実施例3参照)を0.33DMSOで前処理し、そして41℃2時間、回復時間無しでヒートショックを行った。そして、陽性染色HSF1及びHSP70細胞を、顆粒発色強度CV及び顆粒面積を使用して測定した。図12に、この実験の結果を示す。また、表1は、このデータを表形式でまとめたものであり、41℃2時間、回復時間無しで温度上昇ストレスに晒したときの、HSF1顆粒の変数、HSP70顆粒の変数、HSF1発色強度CVの変数におけるCV値を示している。
【0158】
実施例5:細胞保護及び細胞毒性−第二のアッセイ
これらの実験は、HSF1/HSP70誘導において見られる効果が細胞保護に転化され得るか否かを判定するために実行された。WEHI又はHEK293細胞を15000細胞/ウェルの密度で培養し、これをスクリーニング化合物で72時間処理した。15000細胞/ウェルの密度のWEH1又はHEK293細胞を前記スクリーニング化合物で処置した。陽性対照として、タキソール(500nM)及びスタウロスポリン(500nM)を使用した。陰性対照として、DMSOを使用した。72時間後、MTS/PES(生存細胞中でのみ活性のミトコンドリアデヒドロゲナーゼの基質)を用いて、細胞の生存率を測定した。IC50の数値を以って、細胞毒性を誘導した化合物を判定した(図17A及び17E参照)。
【0159】
HSF1/HSP70誘導において見られる効果が細胞保護に転化され得るか否かを判定するための第二のアッセイとして、MG−132アッセイが使用された。12000細胞/ウェルの密度のSK−N−SH細胞を、化合物で処理した。30分後、細胞に5μMのMG−132を添加して、24時間インキュベーションした。この実験の陽性及び陰性対照はそれぞれCYT492及びDMSOとした。24時間後、製造元(Perkin−Elmer)の説明書に従い、ATPliteを使用して、細胞生存率を測定した。EC50値を以って、MG−132誘導性の細胞死から細胞を保護する化合物を判定した(図17A、17D及び17E参照)。
【0160】
実施例6:ツニカマイシンERストレスモデル
この実験は、HSF1/HSP70アッセイのスクリーニングでヒットした化合物が、ERストレスを負ったツニカマイシン処理細胞を保護又は救済することが出来るか否かを試験するために行われる。図13に示すデータを得るために使用した手順は、本質的には、Boyce et al., Science, 307:935−939 (2005)又はYung et al., The FASEB Journal, 21 :872−884 (2007)に記載のものと同様である。具体的には、様々な時点で、培養細胞に、最終濃度10μMの化合物Bを添加した。PC12細胞は、750μg/mLのツニカマイシン処理で、ERストレスを誘導することが出来た。生存細胞は、ATPlite (Perkin Elmer, Waltham, MA)を使用して測定することが出来た。図13に示されるように、化合物Bは、ツニカマイシンにより誘導されるERストレスからPC−12細胞を保護する。
【0161】
実施例7:シャペロンHSF1共誘導因子
この試験は、非ストレス細胞中のHSF1顆粒陽性細胞の増大と、セラストロール又は化合物Aの濃度の増大との関係を比較するために行われた。8000細胞/ウェルのHeLa細胞を、段階的に濃度を増大させる(0.78μM〜35μM)セラストロール又は化合物Aで処理し、そして37℃で3時間インキュベーションした。50μLの16%パラホルムアルデヒドを培養培地と混合(合計体積150μL)して、最終濃度を4%とした。プレートを室温で30分インキュベートして、そしてPBSで洗浄した。0.2%Triton X−1OOのPBS溶液で30分間処理して、細胞膜を易透化した。PBSで3回洗浄した後、プレートに室温で5%FBS/PBSを80μL添加して、1時間置いた。抗体染色のために、1%FBS/PBSで1:500に希釈した抗HSF1及び抗HSP抗体をプレートに添加した。プレートを、室温で2時間、又は4℃で一昼夜インキュベーションした。最後に、プレートに、FITC又はローダミンでラベルした二次抗体及びDAPIの混合物を、それぞれ最終濃度が1:5000(DAPI、5mg/mL)、1:500(FITC/ローダミンラベル抗ウサギ二次抗体)となるように添加した。室温で1時間置いた後、プレートをPBSで洗浄して、4℃で保存した。
【0162】
画像取得及び解析は、INcell 1000を使用して行われた。図14Cに示されるように、化合物Aは、セラストロールと対照的に、非ストレス細胞において、HSF1陽性顆粒を有意に刺激しない。
【0163】
実施例8:カウンタースクリーニングHSP90 ATPアーゼアッセイによる、HSP90の阻害に作用する化合物のモニタリング
この実験は、MaCRAスクリーニングでヒットした化合物がHSP90 ATPアーゼ活性を阻害するか否かを試験するために行われた。2.5μgのHSP90(St9細胞から精製した)を、10μMのラジシコール及び50μMの化合物A〜Gのいずれかで、37℃で3時間処理した。DiscoveRx (Fremont, CA)のADPクエストキットを使用して、ATPアーゼ活性を測定した。図15に示されるように、MaCRAスクリーニングでヒットしたものとして同定された上記の様々な化合物は、HSP90のATPアーゼ活性を有意に阻害しない。従って、それらのHSF1及びHSP70陽性顆粒形成に対する効果は、HSP90阻害から独立している。
【0164】
実施例9:HSF1+HSP+共誘導因子を同定するスクリーニングの方策
上記で詳述した実験に基づき、第一のHSF1/HSP70顆粒アッセイ並びに細胞保護及び細胞毒性をそれぞれ同定する第二のMG−132及びMTSアッセイを使用して、4000個の化合物がスクリーニングされた。データの多元的解析は、Spotfire DecisionSite (TIBCO Spotfire, Somerville, MA)を使用して、HSF顆粒陽性細胞%において20%超(HSF1+)、HSP顆粒陽性細胞%において30%超(HSP+)、MG132アッセイにおける生存細胞の増大%において30%超、及びMTSアッセイにおける阻害%において20%未満をカットオフ値として、実施された。各スクリーニングのデータは、図17B、17C及び17Dに示される。図17A及び17Eは、4000個の化合物のスクリーニングから得たデータの多元的集合(multidimensional compilation)を表す。
【0165】
表2〜4は、本発明の方法に従い第一及び第二のアッセイにおいて同定した選択化合物のデータをまとめた表であり、これらの化合物は、上記のように、HSF1+HSP+(A)、HSFl−HSP+(B)、及びHSFl−HSP−(C)のカテゴリーに分けられる。
【0166】
実施例10:セラストロール対照を用いての384ウェルフォーマットへの転換
ViewPlate−384アッセイプレートに適切な密度でHeLa細胞を播種し、化合物処理の前に、16〜24時間培養した。続いて、細胞をセラストロール(対照)又はスクリーニング化合物で処理した。DMEM中での化合物の全体の希釈は200倍であり、最終的なスクリーニング用の濃度は30μMとなり、そしてこれを、EC5O決定のために、10μM〜0.1μMの濃度範囲内で連続希釈した(アッセイポイントを10個設けた)(DMSOの最終濃度は0.3%v/v)。43℃、2時間、回復時間無しで実行されたヒートショックの直後、25μLの16%パラホルムアルデヒドを培養培地と混合(合計体積75μL)して、最終濃度を4%とした。プレートを室温で30分インキュベートして、そしてPBSで洗浄した。0.2%Triton X−1OOのPBS溶液で30分間処理して、細胞膜を易透化した。PBSで3回洗浄した後、プレートに室温で5%FBS/PBSを20μL添加して、1時間置いた。抗体染色のために、1%FBS/PBSで1:500に希釈した抗HSF1及び抗HSP抗体をプレートに添加した。プレートを、室温で2時間、又は4℃で一昼夜インキュベーションした。最後に、プレートに、FITC又はローダミンでラベルした二次抗体及びDAPIの混合物を、それぞれ最終濃度が1:5000(DAPI、5mg/mL)、1:500(FITC/ローダミンラベル抗ウサギ二次抗体)となるように添加した。室温で1時間置いた後、プレートをPBSで洗浄して、4℃で保存した。
【0167】
プレートの移動を自動化するために、Twister II (Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA)と一体化したINcell 1000 (GE Healthcare, Piscataway, NJ)を使用して、画像取得及び解析が実施された。画像取得の設定は、DAPIにおいて500ms、FITC又はローダミンにおいて100msで、ウェルあたり3回撮像した。画像解析は、Workstation 3.6のMulti Target Analysisモジュールを使用して実施された。HSF1/HSP70顆粒カウント、顆粒面積及び核発色強度CVにおけるアルゴリズムは、アッセイ条件及び使用説明書に従い設計及び最適化された。EC50値及び曲線の当てはめは、Prism 4.0 (GraphPad Software, San Diego, CA)及び非線形回帰解析を使用して実施された。このスクリーニングの結果は、図18に示される。
【0168】
実施例11:HSF1ノックダウン例
実験1:HeLa細胞に、25nMのHSF1 siRNA、スクランブルsiRNA又はトランスフェクション対照を48時間トランスフェクションし、続いて43℃で2時間ヒートショックを加え、又は加えなかった。ウェスタンブロット実験により、ローディング対照のGAPDHと比較しての、HSF1及びスクランブルのノックダウンを比較した。及び柱状図を示す。柱状図中の柱において示されるように、HSF1及びHSP70の発現は、減少する。
【0169】
実験2:HeLa細胞に、25nMのHSF1 siRNA、スクランブルsiRNAをトランスフェクションし、48時間のインキュベーションに付した。続いてこの細胞を25μMの化合物B又はDMSO対照で処理した後、41℃で2時間ヒートショックを行い、又は行わなかった。HSF1顆粒を染色するために、免疫細胞化学実験を行った。(Zhang et al., J. Biomol. Screen, “High Content Image−Based Screening for Small Molecule Chaperone Amplifiers in Heat Shock”, In Press, (2008)を参照されたい)。画像取得は、対物10xのINcell 1000を使用して行われ、これらを図20に示す。
【0170】
実験3:HeLa細胞に、25nMのHSF1 siRNA又はスクランブル(標的無し)siRNAをトランスフェクションした。HSF1顆粒を染色するために、免疫細胞化学実験を行った(上記)。画像取得は、対物10xのINcell 1000を使用して行われた。細胞カウントは、INcell 1000 Workstation software中のMulti−Target Analysisアルゴリズムを用いて取得された(図21を参照されたい)。表5は、HSF1の共誘導因子(増幅因子)としても同定されたHSF1+HSP70+カテゴリーの9個の独立したヒットを使用して、そのようなsiRNAノックダウン実験を行って得たデータをまとめたものを示す。表2に示されるように、各化合物が、HSF1依存的活性化因子である。
【0171】
実験4:SK−N−SH細胞に、10、25又は50nMのHSF1 siRNA、GAPDH siRNA(対照)及びスクランブルsiRNA(対照)をトランスフェクションした。この細胞を、siRNAのトランスフェクション(Hiperfect試薬を使用)の48時間後に回収した。ウエスタンブロットは、抗HSF1及び抗GAPDH(ローディング対照)を使用して(図22A及び22B)、又は抗HSP70及び抗GAPDHを使用して(図22C)実施された。画像の強度は、Li−Cor製のソフトウェアを使用して解析され、HSF1強度は、スクランブルsiRNA処理サンプルで正規化したHSF1 siRNA処理サンプルから求められた。図22A〜Bは、GAPDH siRNA(対照)及びスクランブルsiRNA(対照)に対して、10、25又は50nMのHSF1 siRNAをトランスフェクションして、MG−132アッセイに使用した、SK−N−SH細胞の、トランスフェクション時間が48時間(A)及び72時間(B)の場合のsiRNAノックダウン、並びに対応するウエスタンブロットを提供する。図22C中のウエスタンブロットは、GAPDH siRNA(対照)及びスクランブルsiRNA(対照)と比較しての、10、25又は50nMのHSF1 siRNAトランスフェクション後48時間の、HSP70に対する効果を示す。
【0172】
実験5:SK−N−SH細胞に、50nMのHSF1 siRNA及びスクランブルsiRNAを、48時間トランスフェクションした。CYT2239、CYT2244、CYT2282又はCYT2532を添加し、30分後に5μMのMG−132で24時間処理した。生存細胞を、ATPliteキットで測定した。HSF1のノックダウンは、免疫細胞化学及び高密度イメージングにおけるHSF1核発色強度により確認した。図23A〜Dは、CYT2239(図23A)、CYT2244(図23B)、CYT2282(図23C)又はCYT2532(図23D)のいずれか1つの化合物で前処理した後、50nMのHSFl siRNA及びスクランブルsiRNAで48時間処理した場合の、MG−132アッセイにおけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【0173】
実施例12:HSF1顆粒アッセイを使用しての細胞ストレス応答の阻害因子の同定
実験1:HeLa細胞を、異なる濃度(10nM、100nM、1μM及び10μM)のトリプトリドで処理し、その後43℃で1〜4時間ヒートショックした。図24は、処理に用いられるトリプトリドの濃度の増大(10nM、100nM、1μM及び10μM)に応じた、用量依存的なHSF1顆粒形成の阻害を図示したものである。HSF1顆粒カウントは、顆粒5個/核を閾値として測定した。本明細書に記載のMeCRA法を使用して選択された様々な化合物の効果の試験に、同様のアッセイ条件が使用された。
【0174】
実験2:ヒートショックの30分前に、HeLa細胞を、1μMトリプトリド、並びに10μMのCTY975(黒色の正方形)、CTY1563(黒色の三角形)、及びCTY1590(黒色の丸)で処理した。続いて、該細胞を、43℃、1時間、回復時間0、5及び7時間でヒートショックに付した。HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値とした。図25Aは、HSP70発現の減少を示す。
【0175】
実験3:ヒートショックの30分前に、HeLa細胞を、1μMトリプトリド、並びに10μMのCTY975(黒色の正方形)、CTY1563(黒色の三角形)、及びCTY1590(黒色の丸)で処理した。続いて、該細胞を、43℃、2時間、回復時間0、4又は6時間でヒートショックに付した。HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値とした。図25Bは、HSP70発現の減少を示す。
【0176】
実験4:ヒートショックの30分前に、HeLa細胞を、1μMトリプトリド、並びに10μMのCTY975(黒色の正方形)、CTY1563(黒色の三角形)、及びCTY1590(黒色の丸)で処理した。続いて、該細胞を、43℃、3時間、回復時間0、3又は5時間でヒートショックに付した。HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値とした。図25Cは、HSP70発現の減少を示す。
【0177】
実験5:ヒートショックの30分前に、HeLa細胞を、1μMトリプトリド、並びに10μMのCTY975(黒色の正方形)、CTY1563(黒色の三角形)、及びCTY1590(黒色の丸)で処理した。続いて、該細胞を、43℃、4時間、回復時間0、2又は4時間でヒートショックに付した。HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値とした。図25Dは、HSP70発現の減少を示す。
【0178】
実施例13:トリプトリド及びスクリーニングヒット化合物の96ウェルプレート評価
実験1:トリプトリド(黒色の正方形)、CYT1563(黒色の三角形)及びDMSP(黒色の菱形、対照)により誘導されるHSF1顆粒形成を、43℃、2時間、回復時間無しのヒートショックの後に、96ウェルプレートフォーマット(実施例4を参照されたい)で評価した。図26Aは、HSF1の阻害を示す。
【0179】
実験2:トリプトリド(黒色の正方形)、CYT1563(黒色の三角形)及びDMSO(黒色の菱形、対照)により誘導されるHSF1顆粒形成を、43℃、4時間、回復時間4時間のヒートショックの後に、96ウェルプレートフォーマット(実施例4を参照されたい)で評価した。図26Bは、HSF1の阻害を示す。
【0180】
実験3:トリプトリド(黒色の正方形)、CYT1563(黒色の三角形)及びDMSO(黒色の菱形、対照)により誘導されるHSP70顆粒形成を、43℃、2時間、回復時間4時間のヒートショックの後に、96ウェルプレートフォーマット(実施例4を参照されたい)で評価した。図26Cは、HSF1の阻害を示す。
【0181】
実験4:トリプトリド(黒色の正方形)、CYT1563(黒色の三角形)及びDMSO(黒色の菱形、対照)により誘導されるHSP70顆粒形成を、43℃、4時間、回復時間4時間のヒートショックの後に、96ウェルプレートフォーマット(実施例4を参照されたい)で評価した。図26Dは、HSF1の阻害を示す。
【0182】
実施例14:96ウェルフォーマットの384ウェルフォーマットへの転換
HeLa細胞を、DMSO(黒色の菱形)又はCYT1563(10μM)(黒色の正方形)で処理し、続いて43℃、2時間、回復時間無しのヒートショックを与え、これを、384ウェルフォーマット(実施例10を参照されたい)におけるHSF1顆粒カウントを使用して試験した。Z’値及びシグナル/バックグラウンド(SfB)比を含む結果を、図27に示す。
【0183】
上記実施例は例示のみを目的として提供されるものであり、限定を意図しない。当業者は、前述の一般的な開示の範囲内で、本発明の追加的な態様が補足されることを認識し得て、そして上記非限定的な実施例は、いかなる形でも権利放棄を意図しない。
【0184】
均等
当業者は、ありふれたものに過ぎない実験を利用して、本明細書中に記載の化合物、組成物、及びそれらを使用する方法の、多くの均等なものを認識し得て、又は突き止めることが出来る。そのような均等なものは、本願請求項に記載の発明の範囲内とみなされ、本願請求項の範囲内にある。
【0185】
本願全体に引用される全ての参考文献、特許及び公開された特許文献の内容、並びにそれらに関連する図は、それらの全てが、参照により援用される。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年6月3日に出願された米国仮特許出願61/130,945、及び2008年10月1日に出願された米国仮特許出願61/194,984号の利益を主張し、それらの明細書の全内容を、本明細書中に参照により援用する。
【背景技術】
【0002】
ヒートショックタンパク質(HSP)は、様々な生理的及び環境的刺激に対してホメオスタシス及び生存を維持するのに必須の細胞内タンパク質である。Voellmy et al., Adv. Exp. Med. Biol, 594:89−99 (2007)を参照されたい。この多重遺伝子スーパーファミリーのメンバーは、それらの分子サイズ及び関連する機能で表され、例えば、HSPl10、HSP90、HSP70、HSP60、HSP40、及び小ヒートショックタンパク質等が挙げられる。HSPは、ミスフォールディングしたタンパク質の立体構造及び細胞機能の復活を支援し、又はダメージを受けたタンパク質をプロテオソーム誘導性の分解を導く、分子シャペロンとして機能する。例えばHendrick et al., Annu. Rev. Biochem., 62:349−384 (1993); Riordan et al., Nat. Clin. Pract. Nephrol, 2:149−156 (2006)を参照されたい。HSP発現は、ヒートショック転写因子(HSF)、特にHSF1により、迅速に誘導される。HSFは、制御される遺伝子のヒートショックエレメント(SHE)配列への結合を通じて、HSP遺伝子の転写を活性化する、プロトタイプの制御因子である。Pirkkala et al., FASEB J., 15: 1118− 1131 (2001)を参照されたい。ヒートショック応答に関与する経路の活性化は、ストレスに関連するタンパク質のミスフォールディング等、細胞ストレスに対するありふれた細胞応答であるから、細胞のヒートショック応答を調節することが出来る小分子は、例えば、幾つかの側面において、癌、虚血、創傷治癒及び神経変性疾患等の、細胞のヒートショック応答の活性化又は抑制に関与する、広範囲の臨床的適応の処置及び予防のための治療ツール等として使用されるものとして、大いに注目されている。近年、HSF1及びHSPを調節する多くの化合物が発見され、それらの幾つかは臨床試験に付されている。例えばPowers et al., FEBS Letters, 581 :3758−3769 (2007)を参照されたい。
【0003】
HSF1は、直接的及び間接的メカニズムにより、正負両方向に細胞ストレス応答経路に関与する遺伝子を制御する。HSF1の両方向の活性は、部分的には、HSF1モノマーと比べて異なるDNA及びタンパク質因子に対する結合親和性等を有するマルチマーを形成するその能力に起因する。正常な成長条件の下で、HSF1は、相対的に不活性であるモノマー形態で、細胞の細胞質及び核中に存在することが示されていた。ストレス刺激を受けた細胞(例えばヒートショック、重金属又はアミノ酸類似体に晒された細胞)において、HSF1は、DNA結合能力が向上し、及びタンパク質相互作用プロフィールが変化する、トリマーを形成する。該活性は、特定の部位の誘導性リン酸化により、更に亢進する。HSF1は、HSP70のmRNA転写の上方制御を調整するだけでなく、核孔のTPRタンパク質と相互作用することにより、ストレス誘導性のHSP70のmRNAの輸送も促進する。Skaggs et al., J. Biol. Chem., 282(47):33902−33907 (2007)を参照されたい。
【0004】
興味深いことに、HSF1は、ストレスを受けた細胞の核の中で、広く分散したパターンから、分離したHSF1を含む顆粒に再分布する。これらのストレス顆粒は、大きく、不定形で、そして主として、サテライトIII反復配列と、DNA−タンパク質間の直接相互作用を介して固定される。Jolly et al., J. Cell Biol, 156(5);775−781 (2002); Jolly et al., J. Cell Biol., 164(l):25−33 (2004)を参照されたい。
【0005】
HSP70タンパク質は、分子シャペロンの最も重要なファミリーの1つである。このファミリーは、高度に相同で、重複配列を有し、異なる機能を有する、8つのシャペロンタンパク質を含む。Daugaard et al., FEBS Lett., 581(19):3702−3710 (2007)を参照されたい。HSP70の主な機能は、ストレス誘導性のタンパク質のミスフォールディング又は分解に対する細胞保護機能を提供することである。加えて、構成的に発現したHSP70タンパク質も、非ストレス細胞において、重要なハウスキーピング機能を有する。ヒートショックに続いて、HSP70の発現が顕著に増大し、そして多くの新たに合成されたHSPタンパク質が、細胞質から細胞の核の中に急速に移動する。GFPと融合させたHSP70を使用して、Zengらは、細胞ストレスに応答して、核内のGFP−HSP70レベルが顕著に増大し、それらが核小体中に高度に濃縮して、HSP70顆粒を形成することを報告した。Zeng et al., J. Cell Sci., 117(21):4991−5000 (2004)を参照されたい。また、HSPの発現のバランスに対する負のフィードバックループも存在する。マルチシャペロン複合体中のHSP90及びHSP70タンパク質は、HSF1と相互作用して、その活性を抑制する。ストレス誘導性のミスフォールディングタンパク質は、該相互作用を妨げ、そしてHSF1が開放され、転写活性化に至る。
【0006】
ヒートショック応答におけるHSF1/HSPを標的とする治療的に活性な小分子のスクリーニングに、多大な労力が払われている。直接的なHSF1活性化(セラストロール(celastrol))、HSP90阻害(ラジシコール(radicicol)、17−AAG)、炎症仲介(アラキドン酸、四環系酸A(terracyclic acid A))、プロテオソーム阻害(MG−132)、ヒートショック応答阻害(KNK437、ケルセチン)、及びHSF1/HSP70共誘導(co−induction)(アリモクロモル、ビモクロモル)を通じての、HSF1調節因子として、多くの化合物が同定されている。Westerheide et al., J. Biol. Chem., 280(39):33907−33100 (2005)を参照されたい。近年、標的治療学において、2つの主要なスキームが浮上している。1つは、HSP90を阻害するものであり、これにより、抗癌治療への道が開けた。即ち、HSP90は、悪性形質転換に関与する幾つかの重要なキナーゼを安定化する。Whitesell et al., Curr. Cancer Drug Targets, 3:349−358 (2003)を参照されたい。幾つかのHSP90阻害剤が臨床試験に付されており、一例として、17−AAGは、管理可能な毒性の範囲内で、明確な抗癌活性を示している。もう1つは、小分子を通じて、HSP、特にHSP70を上方制御するものであり、これにより、ミスフォールディングしたタンパク質が蓄積して、望ましくない症状に関与する、疾患、症状及び障害における、多大な治療的価値が示された。重要なことに、このカテゴリーの幾つかの化合物、例えばアリモクロモルは、正常細胞中のHSP70及び他のシャペロンタンパク質に誘導的な作用を有さず、ストレス細胞のシャペロン誘導の亢進を活性化する(いわゆる「共誘導(coinduction)又は「増幅」)。他の共誘導性(co−inductive)化合物も、恐らく有効な治療剤であり、正常細胞及びストレス細胞のHSP70を活性化する薬剤よりも副作用が少ないと考えられる。Soti et al., Br. J. Pharmacol, 146(6):769−780 (2005)を参照されたい。
【0007】
上記を考慮して、標的を定めたシャペロン療法において診断的に又は治療的に使用される、細胞ストレス応答経路中のHSF1/HSP活性を制御(誘導、共誘導、増幅、抑制又は減衰)させる小分子等の薬剤を同定するアッセイの開発は、有益であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの側面において、本発明は、細胞をストレス処理し、そして細胞のストレス応答を、細胞ストレスに応じて生じるHSF顆粒(例えばHSF1、HSF2、HSF3又はHSF4顆粒)形成、及びそれらの顆粒の正常に関する様々な変数、及び特に1つ以上の変数の組み合わせにより測定することにより、細胞内のヒートショックタンパク質(HSP)発現の調節(modulating)を定量的に測定する、高効率の方法を提供する。幾つかの態様において、前記組み合わせは、2つ以上の変数からなる。HSF顆粒、例えばHSF1顆粒等に関連する、細胞のストレス応答に対応する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント、核発色強度(nuclear intensity)変動係数(coefficient of variability)(CV)、顆粒面積、顆粒発色強度、及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率の1つ以上、場合によっては2つ以上から選択される場合もある。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度の変動係数(CV)、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0009】
他の側面において、本発明は、細胞を候補剤(候補化合物又は候補組成物等)で処理し、細胞をストレスに晒し、そして該薬剤の存在下又は非存在下における細胞のストレス応答を測定することを含む、細胞内のヒートショックタンパク質(HSP)の発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する高効率の方法を提供する。細胞のストレス応答は、細胞ストレスにより生じる、顆粒形成、例えばHSP及び/又はHSF(例えばHSF1)顆粒形成、並びに/あるいは該顆粒の性状に関する、1つ以上の変数、及び特に2つ以上の変数を測定することにより測定され得る。細胞ストレス応答に対応するHSP又はHSF顆粒、例えばHSF1等に関連する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント;核発色強度の変動係数(CV);顆粒面積、顆粒発色強度、及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択されてもよい。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度の変動係数(CV)、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0010】
更なる他の側面において、本発明は、細胞をストレス処理することによる、細胞内のHSF、例えばHSF1の転写活性を定量的に測定する高効率の方法、そして更に、上記方法を使用することによる、細胞内のHSF活性、例えばHSF1活性の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する高効率の方法を提供する。活性化因子及び阻害因子の選択を最適化するための、細胞ストレスのレベルを調節する方法が提供される。本発明の高効率手法の信頼性及び再現性に関連する、HSP及び/またはHSF顆粒の変数、細胞の種類、ストレス及び他の変数の選択は、以下に詳細に検討される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A−B】図1A〜Dは、実施例1に記載のように、無処理の、又はヒートショック処理の前に、2μMのセラストロールDMSO溶液(A及びC)又は0.33%DMSO(B及びD)で前処理したHeLa細胞を41℃で2時間ヒートショックしたときの、HSF1及びHSP70(A及びC)の核内での顆粒形成を示す。
【図1C−D】図1A〜Dは、実施例1に記載のように、無処理の、又はヒートショック処理の前に、2μMのセラストロールDMSO溶液(A及びC)又は0.33%DMSO(B及びD)で前処理したHeLa細胞を41℃で2時間ヒートショックしたときの、HSF1及びHSP70(A及びC)の核内での顆粒形成を示す。
【0012】
【図2A−B】図2A〜Dは、実施例1で得た顆粒カウント及び核発色強度CVによる核HSF1顆粒の定量(A及びB)、並びに顆粒カウント及び顆粒合計面積(C及びD)による核HSP70顆粒の定量を示す。平均値の違いを、Studentのt検定により比較した。Ap値<0.01(**)は、統計的に有意と見做された。
【図2C−D】図2A〜Dは、実施例1で得た顆粒カウント及び核発色強度CVによる核HSF1顆粒の定量(A及びB)、並びに顆粒カウント及び顆粒合計面積(C及びD)による核HSP70顆粒の定量を示す。平均値の違いを、Studentのt検定により比較した。Ap値<0.01(**)は、統計的に有意と見做された。
【0013】
【図3】図3は、陽性対照としてヒートショック1時間前に2μMセラストロールで処理したサンプル、及び陰性対照として0.33%DMSOで処理したサンプルについて実施された、高密度スクリーニング(HCS)顆粒アッセイの評価を示す。
【0014】
【図4A】図4A〜Bは、実施例1に記載の、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(HCS法により同定された新規調節因子)における、HSF1核発色強度CV(A)及びHSP70顆粒面積(B)のEC50値を使用した用量依存的試験を示す。
【図4B】図4A〜Bは、実施例1に記載の、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(HCS法により同定された新規調節因子)における、HSF1核発色強度CV(A)及びHSP70顆粒面積(B)のEC50値を使用した用量依存的試験を示す。
【0015】
【図5】図5は、実施例1に記載の、10μMの化合物A又は1μMのセラストロール(陽性対照)を用いた、前処理後6時間の回復期間にかけてのHSF1誘導キネティクスの比較を示す。
【0016】
【図6】図6は、2μMセラストロール陽性対照(黒正方形)及びDMSO陰性対照(白丸)のHeLa細胞に対して、30分間個別に480種類の異なる試験化合物で30分処理して、その後2時間41℃のヒートショックを与えた実験のデータを示す。
【0017】
【図7】図7は、実施例2に記載の、非酸素グルコース除去(OGD)ストレス及びOGDストレスの下で、化合物Aの細胞保護効果を評価するために採用された、MTS細胞死アッセイを示す。SH−SY5Y細胞を0.33%DMSO又はDMSO中の2.5μM化合物Aで1時間処理し、そしてOGDで28時間置き、続いて直ちにMTSアッセイを行った。データは、独立した3つの実験の平均として表現した。Ap値0.01(**)は、統計的に有意と見做された。
【0018】
【図8】図8は、実施例3に記載の、ロテノン誘導性ミトコンドリアストレスの下で、化合物Aの細胞保護効果を評価するために採用された、MTS細胞死アッセイを示す。SH−SY5Y細胞をDMSO及び2.5μM化合物Aで1時間処理し、そして100nMのロテノンで24時間処理し、続いて直ちにMTSアッセイを行った。データは、独立した3つの実験の平均として表現した。Ap値0.01(**)は、統計的に有意と見做された。
【0019】
【図9】図9は、温度を39℃又は41℃に上昇させることによりストレス処理し、回復期間を与えずに測定した細胞を比較した、HSF1顆粒データを示す。
【0020】
【図10】図10は、DMSOで処理して、温度を43℃に上昇させて1時間置き、回復時間を与えず、又は2時間の回復時間を与えた細胞の、HSP70の顆粒カウントにおいて観察されたCV値が、25%を上回ることを示す。これらのデータは、両条件におけるHSF1顆粒カウントの値が、陽性対照の値の望ましいものより近接しており、そして43℃において、HCSアッセイ検出窓(detection window)が、41℃の場合よりも顕著に小さくなることを示す。
【0021】
【図11】図11は、41℃に上昇させた温度に2時間晒し、回復時間を与えずに0.33%DMSO処理した細胞の、HSF1及びHSP70顆粒カウントの評価を示す。
【0022】
【図12】図12は、41℃に上昇させた温度に2時間晒し、回復時間を与えずに0.33%DMSO処理した細胞の、HSF1のCV核発色強度及びHSP70顆粒面積の評価を示す。
【0023】
【図13】図13は、実施例6に記載される、ツニカマイシン誘導ERストレスモデルにおける様々な時点での化合物B(本願HCS法により同定された新規調節因子)からの応答を図示する。
【0024】
【図14】図14は、温度上昇ストレスに晒されていない(例えば37℃3時間)細胞における、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(試験化合物)の濃度(μM)の増大に応じた、HSF1顆粒カウントの評価を示す。このデータは、セラストロールの濃度が1.25〜5.0μMのとき、正常(ヒートショック無し)細胞のHSF1陽性顆粒の形成が顕著に刺激されるが、化合物Aはそのようにならないことを示す。
【0025】
【図15】図15は、実施例8に記載される、10μMラジシコール(対照)又は50μMの9つの試験された化合物の1つで処理された細胞における、HSP90 ATPアーゼ活性の阻害パーセントを示す。これらの結果は、HCFアッセイにおいて正のヒットとして同定された化合物が、HSP90のATPアーゼ活性を顕著に阻害しないことを図示している。
【0026】
【図16】図16は、最初にHSF1/HSP70顆粒アッセイ、続いて細胞保護及び細胞毒性をそれぞれ同定するMG−132及びMTSアッセイを使用する、リード開発用化合物をスクリーニングする方策を提供する。
【0027】
【図17A】図17Aは、X軸にHSF1顆粒陽性細胞、Y軸にMG−132アッセイにおける生存細胞、そしてZ軸にMTSアッセイにおける生存細胞の阻害を示すデータの集合(4,000化合物)を表す。各球体のサイズ及び濃淡は、それぞれ、HSP70及びHSF1顆粒陽性細胞に対応する。
【0028】
【図17B】図17Bは、HSF1顆粒陽性細胞における、20%の閾値を設けたHSF1顆粒スクリーニングで得られたデータを表す(4,000化合物)。正方形の濃淡は、HSP70顆粒陽性細胞に対応する。
【0029】
【図17C】図17Cは、HSP70顆粒陽性細胞における、30%の閾値を設けたHSP70顆粒アッセイで得られたデータを表す。正方形の濃淡は、HSF1顆粒陽性細胞に対応する。
【0030】
【図17D】図17Dは、生存細胞の増大パーセント(DMSOとの比較)において30%の閾値を設けたMG−132アッセイで得られたデータを図示する。正方形の濃淡は、HSF1顆粒陽性細胞に対応する。
【0031】
【図17E】図17Eは、MG−132アッセイ及びMTSアッセイのデータの組み合わせを図示する。球体のサイズはHSP70顆粒データに対応し、そして濃淡はHSF1顆粒データに対応する。
【0032】
【図18】図18は、384ウェルプレートに播種したHeLa細胞を、0.33%DMSO(黒い菱形)及び2μMセラストロール(黒い正方形)で前処理し、続いて41℃で2時間ヒートショックを与え、回復時間無し(R0)で、HSF1顆粒カウントを使用して評価した結果を示す。
【0033】
【図19】図19は、25nMのHSF1 siRNA、スクランブルsiRNA(対照)又はGAPDH siRNA(トランスフェクション対照)を48時間トランスフェクションし、続いて43℃で2時間ヒートショックを加えた、又はヒートショック処理しないHeLa細胞の、ウェスタンブロット及び柱状図を示す。
【0034】
【図20】図20は、25nMのHSF1 siRNA及びスクランブルsiRNAを48時間トランスフェクションし、続いて25μMの化合物B(CYT492)又はDMSO対照で処理した後、41℃で2時間ヒートショックした、又はしていないHeLa細胞における、顆粒形成を図示している。
【0035】
【図21】図21は、25nMのHSF1 siRNA及びスクランブル(標的無し)siRNAをトランスフェクションしたHeLa細胞の細胞カウントを示し、これは、細胞毒性作用が最小であることを示している。
【0036】
【図22A】図22A〜Bは、10、25又は50nMのHSF1特異的siRNA、GAPDH siRNA(対照)又はスクランブルsiRNA(対照)を48時間(A)、及び72時間(B)トランスフェクションしたSK−N−SH細胞のsiRNAノックダウンを図示している。ウエスタンブロットは、タンパク質の発現レベルに対応している。
【図22B】図22A〜Bは、10、25又は50nMのHSF1特異的siRNA、GAPDH siRNA(対照)又はスクランブルsiRNA(対照)を48時間(A)、及び72時間(B)トランスフェクションしたSK−N−SH細胞のsiRNAノックダウンを図示している。ウエスタンブロットは、タンパク質の発現レベルに対応している。
【0037】
【図22C】図22Cは、スクランブルsiRNA(対照)又はGAPDH siRNA(トランスフェクション対照)と比較しての、10、25又は50nMのHSF1特異的siRNAを用いて48時間かけてHSF1をノックダウンした後の、HSP70タンパク質の発現を図示するウエスタンブロットを示す。
【0038】
【図23A】図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)で前処理した後、50nMのHSFl siRNA又はスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイ(実施例5)におけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【図23B】図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)で前処理した後、50nMのHSFl siRNA又はスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイ(実施例5)におけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【図23C】図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)で前処理した後、50nMのHSFl siRNA又はスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイ(実施例5)におけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【図23D】図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)で前処理した後、50nMのHSFl siRNA又はスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイ(実施例5)におけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【0039】
【図24】図24は、10nM、100nM、1μM及び10μMのトリプトリドで処理し、その後43℃で1、2、3又は4時間ヒートショックしたHeLa細胞において、顆粒5個/核を閾値とする顆粒カウントを行い、HSF1顆粒形成の阻害を図示したものである。
【0040】
【図25A】図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【図25B】図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【図25C】図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【図25D】図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【0041】
【図26A】図26A〜Dは、0.33%DMSO、トリプトリド(1μM)又はCYT1563(10μM)で処理したHeLa細胞における、43℃で(A)2時間ヒートショックし、回復時間無し(R0);及び(B)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSF1顆粒カウントの評価、並びに43℃で(C)2時間ヒートショックし、回復時間4時間;及び(D)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSP70細胞発色強度CVの評価を示す。
【図26B】図26A〜Dは、0.33%DMSO、トリプトリド(1μM)又はCYT1563(10μM)で処理したHeLa細胞における、43℃で(A)2時間ヒートショックし、回復時間無し(R0);及び(B)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSF1顆粒カウントの評価、並びに43℃で(C)2時間ヒートショックし、回復時間4時間;及び(D)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSP70細胞発色強度CVの評価を示す。
【図26C】図26A〜Dは、0.33%DMSO、トリプトリド(1μM)又はCYT1563(10μM)で処理したHeLa細胞における、43℃で(A)2時間ヒートショックし、回復時間無し(R0);及び(B)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSF1顆粒カウントの評価、並びに43℃で(C)2時間ヒートショックし、回復時間4時間;及び(D)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSP70細胞発色強度CVの評価を示す。
【図26D】図26A〜Dは、0.33%DMSO、トリプトリド(1μM)又はCYT1563(10μM)で処理したHeLa細胞における、43℃で(A)2時間ヒートショックし、回復時間無し(R0);及び(B)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSF1顆粒カウントの評価、並びに43℃で(C)2時間ヒートショックし、回復時間4時間;及び(D)4時間ヒートショックし、回復時間4時間;のHSP70細胞発色強度CVの評価を示す。
【0042】
【図27】図27は、384ウェル中で、0.33%DMSO及びCYT1563(10μM)で処理し、続いて43℃、2時間、回復時間無し(R0)のヒートショックを与えたHeLa細胞を、HSF1顆粒カウントを使用して評価したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
定義
便宜のため、本明細書、実施例及び特許請求の範囲において採用される幾つかの用語を、本明細書中に集めて定義する。特に定義されていない限り、本明細書中で使用される技術的及び科学的用語は、当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。
【0044】
本明細書中で使用されるとき、「核発色強度の変動係数(CV)」という用語は、発色ラベル、例えば蛍光ラベルの検出が可能な装置を用いたイメージングにより測定した細胞の核内の顆粒の発色強度の相異を意味する。
【0045】
本明細書中で使用されるとき、「顆粒」という用語は、核内のHSP、HSF又は他のHSP補因子の濃度が増大することを指し、ここで、該核内の濃度増大は、HSP若しくは分子シャペロンの発現、又はHSF転写レベルの増大に関連する。好ましくは、これらの顆粒は、発色ラベル、例えば蛍光ラベルの検出が可能な装置を用いたイメージングにより検出される。該「顆粒」という用語は、当業者には、HSP若しくは分子シャペロンの発現、又はHSF転写レベルの増大に関連する、「スポット」、「ドット」、「粒子(grain)」としても知られる。
【0046】
本明細書中で使用されるとき、「顆粒カウント」という用語は、細胞サンプル中に検出される顆粒の数を指す。例を挙げると、顆粒カウントは、肉眼で顆粒数をカウントすることにより測定され得る。他の態様において、顆粒カウントは、イメージング装置及び付属するソフトウエアの感度設定及び解像能力により決定される。幾つかの態様において、HSP又はHSFの顆粒カウントは、平均で細胞あたり2〜30個、例えば細胞あたり3〜10個であってもよい。
【0047】
本明細書中で使用されるとき、「顆粒発色強度」は、発色ラベル、例えば蛍光ラベルの検出が可能な装置を用いたイメージングにより測定される、細胞の核内の顆粒の発色強度を指す。
【0048】
本明細書中で使用されるとき、「顆粒サイズ」という用語は、イメージング装置により測定される、「顆粒面積」、「顆粒半径」又は「顆粒体積」等、検出可能な顆粒のサイズを指す。典型的には、顆粒サイズは、イメージング装置及び付属するソフトウエアの感度設定及び解像能力により決定される。例を挙げると、顆粒は、半径が平均で約0.01〜20μm2、例えば約0.1〜10μm2、例えば約0.2〜5 μm2である。例を挙げると、顆粒は、平均体積が、約0.01〜100μm3、例えば約0.1〜50μm3、例えば約1〜20μm3である。
【0049】
本明細書中で使用されるとき、「最大ストレス応答」という用語は、最大レベルのストレスに対する細胞の応答を指す。最大レベルのストレスは、細胞のストレスに対する応答がそれ以上変化しなくなる適用されるストレスのレベルである。例えば、温度上昇をストレスとするとき(ヒートショック)、対応する最大ストレス応答は、「最大ヒートショック応答」であり、これは、細胞に「最大レベルのヒートショック」、即ちヒートショックに対する細胞応答がそれ以上変化しなくなる温度を加えたときの応答を指す。最大ストレス応答の他の例として、細胞のストレス応答を誘導する、最大の重金属、化学毒物、酸素の濃度等が挙げられる。
【0050】
本明細書中で使用されるとき、「穏和なストレス」という用語は、前処理ストレス(preconditioning stress)に関連する、最大ストレス応答を下回るストレス応答を提供する条件を指す。例えば、最大ヒートショック応答を誘導する温度を下回るが、なおも細胞にストレス応答を誘導する温度上昇は、「穏和なヒートショック」条件である。穏和なストレス応答の他の例として、細胞のストレス応答を誘導する、最大未満の重金属、化学毒物、酸素の濃度等が挙げられる。
【0051】
本明細書中で使用されるとき、「調節」という用語は、本明細書中に記載の化合物又は組成物が、生物学的経路に、又は所定の生物学的巨大分子、例えばタンパク質、例えばHSP、HSF、もしくは核酸エレメント、例えばHSE等の活性又は機能に、変化を生じさせる作用を指す。幾つかの態様において、調節には、例えば、生物学的経路の阻害若しくはアンタゴナイズ(antagonizing)、又は生物学的巨大分子の活性の阻害、中和、若しくは減衰等が挙げられる。他の態様において、調節として、生物学的経路の促進若しくはアゴナイズ(agonizing)、又は生物学的巨大分子の活性の増大が挙げられる。例えば、幾つかの態様において、調節は、生物学的経路又は転写因子、例えばHSF等の転写活性に変化をもたらすことを含む。
【0052】
本明細書中で使用されるとき、「小分子」という用語は、分子量が約2500amu(原子量単位)未満、好ましくは約2000amu未満、なおもより好ましくは約1500amu未満、更により好ましくは約1000amu未満、又は最も好ましくは約750amuの有機的化合物を指す。そのような分子は、典型的には、2つ以上の炭素及び水素原子からな、そして1つ以上の酸素及び窒素が存在する。また、そのような分子は、1つ以上の硫黄、リン及びハロゲン(フッ素、塩素及び臭素)を含むが、他の公知の原子が採用される場合もある。本方法に使用されるのに適した小分子は、合成のものであっても、又は天然に存在するものであってもよく、様々な化学物質ライブラリーから商業的に入手出来る。例えば、本方法に使用される小分子として、ヒドロキシルアミン化合物が挙げられる。
【0053】
本明細書中で使用されるとき、「ストレス」という用語は、細胞の「ストレス応答」を誘導し得る、細胞に影響する条件又は因子と当業者が理解する、生理的ストレスを指す。ストレスを誘導するものの例として、温度上昇、金属、化学毒物、酸素供給及び酸素欠乏等が挙げられる。
【0054】
本明細書中で使用されるとき、「ストレス応答」という用語は、細胞における、ストレスへの曝露に応答した、HSP発現及び/又はHSF転写の増大を指す。例えば、温度上昇ストレスに対する応答は、ヒートショック応答である。
【0055】
本明細書中で使用されるとき、「亜致命(sub−lethal)ストレス」という用語は、細胞の死滅を引き起こさない細胞のストレス応答を誘導するストレスに対する応答を指す。
【0056】
本明細書中で使用されるとき、「亜最大(submaximal)ストレス応答」は、前記最大ストレスレベルにより引き起こされる応答を下回るが、前記前処理ストレスにより引き起こされる応答を上回るストレス応答を指す。例えば、最大ヒートショックを誘導する温度により引き起こされるヒートショック応答を下回るが、前処理ストレスを誘導する温度の応答を上回るヒートショック応答は、亜最大ストレス応答である。
【0057】
本明細書中で使用されるとき、「処置」という用語は、対象の臨床的状態における改善を指し、治癒が達成されることを意図しない。
【0058】
本明細書中に示される特許文献及び非特許文献は、それらの全てが参照により援用される。
【0059】
態様
HSP又はHSF発現の高効率の定量方法
ヒートショック誘導性のストレス顆粒の形成は公知であり、ヒートショック応答に関連していることが示されている。Cotto et al., supra; Zeng et al., supraを参照されたい。また、Zaarur et al., Cancer Res., 66(3): 1783− 1791 (2006)を参照されたい。しかしながら、今日までに、高効率のフォーマットでHSF1/HSPの活性化を直接測定し得るアッセイは存在していなかった。HSF1及びHSP70の両方がヒートショック後にストレス顆粒を形成するという事実から、それらを正確かつ良好な再現性で定量する方法が開発出来れば、細胞ストレス活性化を定量する有用な細胞マーカーとなり得ることが予想される。この要求に取り組むために、本発明は、HSF1/HSP活性に関連する細胞内でのストレス顆粒を正確に定量出来る、イメージベースの高密度スクリーニング(HCS)を提供する。HCSの多パラメーター的性質(multi−parametric nature)は、合理的な効率で複雑な細胞ネットワーク及び生物学的メカニズムを解析するのに特に有用である。Johnston, P. A., High Content Screening, 25−42, (2008); Zhang et al., J Biomol. Screen, 13(10):953−9 (2008)を参照されたい。本明細書中で、ストレスで活性されたHSF1等のHSF及び/又はHSP70等のHSPを定量するために、顆粒形成のパラメーターの内、顆粒カウント、合計顆粒面積、顆粒発色強度、顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率、及び核発色強度が選択された。
【0060】
よって、幾つかの態様において、本発明は、細胞をストレスに晒し、そして細胞のストレスに応じて起こるHSP及び/又はHSF顆粒形成(例えばHSF1顆粒形成)及び該顆粒の性状に関する1つ以上の変数、又は2つ以上の変数の組み合わせにより細胞のストレス応答を測定することによる、細胞内のHSP発現の調節を定量的に測定する高効率の方法を提供する。細胞ストレス応答に関連するHSP及び/又はHSF顆粒(例えばHSF1顆粒)に関する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント、核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率、の1つ以上から、そして好ましくは2つ以上から選択されてもよい。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0061】
更なる他の側面において、本発明は、細胞をストレスに晒し、そして細胞のストレスに応じて起こるHSP及び/又はHSF顆粒形成(例えばHSF1顆粒形成)及び該顆粒の性状に関する1つ以上の変数、又は2つ以上の変数の組み合わせにより細胞のストレス応答を測定することによる、HSF、例えばHSF1の転写活性を定量的に測定する高効率の方法を提供する。細胞ストレス応答に関連するHSP及び/又はHSF顆粒に関する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント、核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率、の1つ以上から、そして好ましくは2つ以上から選択されてもよい。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0062】
HSP発現の調節因子を同定する方法
他の側面において、本発明は、細胞を調節因子と推定される薬剤(即ち候補剤)、例えば候補化合物又は有効成分を含む候補組成物で処理し;処理細胞及び非処理対照細胞をストレスに晒し;そして該推定調節因子が継続的に存在する場合、又はある時点で除去した場合における細胞のストレス応答を測定することによる、細胞内のHSPの発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する高効率の方法を提供する。加えて、他の側面において、本発明は、細胞を調節因子と推定される薬剤(即ち候補剤)、例えば候補化合物又は有効成分を含む候補組成物で処理し;処理細胞及び非処理対照細胞をストレスに晒し;そして該推定調節因子が継続的に存在する場合、又はある時点で除去した場合における細胞のストレス応答を測定することによる、細胞内のHSF、例えばHSF1の発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を同定する高効率の方法を提供する。細胞のストレス応答は、細胞ストレスにより生じる、HSP及び/又はHSF顆粒(例えばHSF1顆粒)形成、並びに該顆粒の性状に関する、1つ以上の変数、及び特に2つ以上の変数の組み合わせを測定することにより測定され得る。細胞ストレス応答に対応するHSP又はHSF顆粒に関連する幾つかの好ましい変数は、以下:顆粒カウント;核発色強度のCV;顆粒面積、顆粒発色強度、及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択されてもよい。幾つかの態様において、第一の変数が顆粒カウントであるとき、それは:核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度;及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率から選択される第二の変数と組み合わせて測定される。任意で、追加的な変数を任意の組み合わせで測定する場合もある。
【0063】
幾つかの態様において、HSP発現の推定調節因子は、ポリペプチド配列から構成され、又はこれを含む。他の態様において、該薬剤は、小分子から構成され、又はこれを含む。なおも他の態様において、該薬剤は、核酸部分、例えばDNA、RNA又はそれらの組み合わせ等から構成され、又はこれを含む。ある態様において、前記核酸部分は、例えばsiRNA、shRNA、miRNA若しくはRNA干渉を誘導する、若しくはmRNA等のRNAの転写、プロセシング又は翻訳を制御する他の小核酸分子等の阻害的RNAであり、又はこれを生産する。
【0064】
幾つかの態様において、推定調節因子は、細胞をストレスに晒す前の時点で、細胞に投与される。適切な投与期間は、試験される薬剤(細胞応答に作用する速度も考慮される);試験される細胞の有糸分裂又は他の細胞増殖状態等に依存して、当業者により選択され得る。前処理段階で作用する、又はより良好に作用する、ヒートショック応答等のストレス応答の調節因子は、本発明の予防的治療方法において有用であり得る。細胞は、選択されたストレスに晒される前に、例えば数日乾、数時間、数分間又は数秒間(及びそれ以下)、推定調節因子で前処理される場合がある。推定調節因子は、任意で、ストレス後、及びストレス応答の誘導後、様々な時点で、細胞から除去されてもよい。
【0065】
本発明の高密度スクリーニング(HCS)顆粒アッセイは、前記高効率手法において使用される変数の迅速な定量を、好ましくは自動的に、可能とする。故に、ある態様において、前記HCSは自動化され、そして合理的かつ迅速な高効率での、大量の化合物のスクリーニングを可能とする。幾つかの態様において、前記HCSは、1日に約2,000〜10,000種類の化合物のスクリーニングを可能とする。幾つかの態様において、前記HCS顆粒アッセイは、高度なイメージングソフトウェアを使用して、複雑なイメージの断片化及び高速でのデータ処理を顕著に改善する。本明細書に例示される態様の一つは、「マスターシャペロン制御因子アッセイ(Master Chaperone Regulator Assay)」あるいは「MaCRA」と称される(Zhang et al., J. Biomol. Screen, 13(10):953−9 (2008)を参照されたい)。MaCRAは、細胞イメージベースのスクリーニングツールで、大量の小分子化合物を迅速かつ定量的にスクリーニングすることで、HSF1の活性を調節する潜在的な薬剤候補を同定する。HSF1の調節因子は、疾患細胞中に存在する毒性のミスフォールディングしたタンパク質を修復又は分解する分子シャペロンタンパク質のグループ全体をコントロールすることが予想される。幾つかの他の種類のHSF1調節因子は、癌又は腫瘍細胞のアポトーシス、細胞毒性及び増殖制御に影響をもたらすことが予想される。本明細書中に例示するように、これまでにMaCRAスクリーニングで同定された化合物の一部を評価したところ、それらは、疾患の細胞培養モデルの細胞保護能力を示した。
【0066】
本願の方法におけるイメージングソフトウェアの一例として、Workstation software (GE Healthcare)のMulti Target Analysis (MTA)モジュールが挙げられ、これは、顆粒カウント、顆粒面積、顆粒発色強度及び核発色強度のCVを包括的に記録する、細胞内の顆粒の高速での測定を提供する。他のイメージングシステム及びソフトウェアを、本発明のアッセイ及び方法において使用する場合もある。幾つかの態様において、該イメージングシステム及びソフトウェアは、所定のアッセイにおけるアッセイの条件及び試験された個々の化合物の結果の情報を保存し、該情報は、他の試験化合物との比較情報(comparator)として使用され得る巨大なデータセットを集積するデータベースに格納される。そして、化合物は、1つのアッセイ又は複数のアッセイの組み合わせにおける成績に従ってタイプ及びサブタイプごとに分類され得て、そのような分類は、後で、構造と機能の関係性の理解に、及び予測的化学及び生物学等に使用される。
【0067】
幾つかの態様において、本方法、例えばHCS顆粒アッセイ等は、異なる細胞の1つ以上の異なるストレス条件に対する応答をスクリーニングするのに使用される場合が在る。本発明のいずれかの方法に使用されるストレスは、限定されないが、温度上昇(ヒートショック等)、重金属ストレス(カドミウム等)、化学毒物又は小分子によるストレス(アゼチジン等のアミノ酸類似体、抗炎症薬物、又はアラキドン酸及びその誘導体等)、酸化ストレス、酸素グルコース除去(OGD)、及び酸素除去(OD)から選択されてもよい。幾つかの態様において、前記細胞は、温度上昇ストレスに晒される。他の態様において、前記細胞は、OGDストレスに晒される。幾つかの態様において、前記細胞は、小胞体(ER)ストレスに晒される。
【0068】
化学毒物により引き起こされるストレスにおいて、毒物は、タンパク質合成阻害剤、プロテオソーム阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、HSP阻害剤(例えばHSP90阻害剤)、炎症誘導剤、トリテルペノイド、NSAID、ヒドロキシルアミン誘導体、フラボノイド、及び細胞の呼吸又は代謝の他の阻害剤から選択され得る。幾つかの態様において、前記化学毒物はロテノンである。
【0069】
適切なタンパク質合成阻害剤として、限定されないが、ピューロマイシン及びアゼチジンが挙げられる。
【0070】
適切なプロテオソーム阻害剤として、限定されないが、MG132及びラクタシスチンが挙げられる。
【0071】
適切なセリンプロテアーゼ阻害剤として、限定されないが、DCIC、TPCK及びTLCKが挙げられる。
【0072】
適切な炎症誘導剤として、限定されないが、シクロペンテノンプロスタグランジン、アラキドン酸塩及びホスホリパーゼA2が挙げられる。
【0073】
適切なトリテルペノイドとして、限定されないが、セラストロールが挙げられる。
【0074】
適切なNSAIDSとして、限定されないが、サリチル酸ナトリウム及びインドメタシンが挙げられる。
【0075】
適切なヒドロキシアミン誘導体として、限定されないが、ビモクロモル、アリモクロモル、及びイロキサナジンが挙げられる。
【0076】
適切なフラボノイドとして、限定されないが、ケルセチンが挙げられる。
【0077】
適切な他の阻害剤として、限定されないが、ベンジリデンラクタム化合物、例えばKNK437、並びにHSP90阻害剤、例えばラジシコール、ゲルダナマイシン及び17−AAgが挙げられる。
【0078】
幾つかの態様において、細胞ストレスは、温度上昇ストレス(例えば室温を上回る温度)であり、細胞を培養する温度を47℃未満、例えば45℃、43℃又は42℃未満まで上昇させることを含む。例えば、温度上昇ストレスは、細胞を、約35℃、36℃、37℃、38℃、又は39℃から、42℃、43℃、又は45℃直下若しくは未満まで、又は約42℃、43℃、又は45℃以下の温度で培養することを含んでもよい。他の態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約39℃から、約43℃若しくは未満までの温度で、例えば約39℃、40℃、41℃、又は42℃から、約43℃若しくは未満までの温度で培養することを含む。幾つかの態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約39℃から、約42℃若しくは未満までの温度で、例えば約39℃、40℃、又は41℃から、約42℃若しくは未満までの温度で培養することを含む。他の態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約41℃以下の温度で培養することを含む。他の態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約41℃以下の温度、例えば41℃±1.8、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.2又は0.1℃、例えば41℃±0.5℃以下の温度で培養することを含む。更なる態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約43℃以下の温度で培養することを含む。他の態様において、前記温度上昇ストレスは、細胞を、約43℃以下の温度で、例えば43℃±1.8、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.2又は0.1℃、例えば43℃±0.5℃以下の温度で培養することを含む。
【0079】
幾つかの態様において、前記方法は、HSP発現及びHSF発現の活性化因子を同定する高効率の方法である。その幾つかの例において、前記細胞ストレスは温度上昇ストレスであり、細胞を、約41℃以下の温度、例えば41℃±1.8、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.2又は0.1℃、例えば41℃±0.5℃以下の温度で培養することを含む。その特定の一例において、前記方法は、HSF発現、例えばHSF1発現の活性化因子、及び/又はHSP発現、例えばHSP70発現の活性化因子を同定する高効率の方法であり、該細胞は、約41℃以下の温度で、又は約41℃±0.5℃で培養される。
【0080】
幾つかの態様において、前記方法は、HSP発現又はHSF発現の阻害因子を同定する高効率の方法である。その幾つかの例において、前記細胞ストレスは温度上昇ストレスであり、細胞を、約43℃以下の温度、例えば43℃±1.8、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.2又は0.1℃、例えば43℃±0.5℃以下の温度で培養することを含む。その特定の一例において、前記方法は、HSF発現、例えばHSF1発現の阻害因子、及び/又はHSP発現、例えばHSP70発現の阻害因子を同定する高効率の方法であり、該細胞は、約43℃以下の温度で、又は約43℃±0.5℃で培養される。
【0081】
幾つかの例において、本発明の方法のいずれかにより誘導されるヒートショックは、穏和なヒートショックであってもよい。幾つかの態様において、細胞は、前処理、亜致命ストレスで処理される。この細胞の前処理は、細胞に、致命ストレスに対する良好な耐性/適応性を付与する。該前処理ストレスは、亜最大ヒートショック応答に達する程度の強さであってもよい。
【0082】
幾つかの態様において、温度上昇ストレスの工程は、伝導性の金属、例えばアルミニウム製の、サーモスタットでコントロールするヒートプレートを使用して達成される。このアルミニウムプレートは、実験に使用される適切な器具に適合するように特注される場合があり、そして、適切な温度を維持するように加熱され得る。このアルミニウムプレートは、公知の加熱方法と比較して、良好な熱伝導をもたらすことが出来る。当業者であれば、複数の細胞サンプルの温度を正確にコントロールし得るプレート系を構築するのに、他の金属、固体若しくは半固体材料、又は保温性の液体を使用してもよいと容易に認めるであろう。そのような材料は、本明細書中に記載のアルミニウムプレートの代わりとなる場合もある。
【0083】
上記のように、本方法において測定される変数の組み合わせは、核発色強度のCV、顆粒カウント、顆粒面積、顆粒発色強度、及び顆粒発色強度のバックグラウンド強度に対する比率から選択される任意の組み合わせであってもよい。幾つかの態様において、前記変数の組み合わせは、核発色強度のCV及び顆粒カウントである。他の態様において、前記変数の組み合わせは、核発色強度のCV及び顆粒面積である。他の態様において、前記変数の組み合わせは、顆粒カウント及び顆粒面積である。他の態様において、前記変数の組み合わせは、核発色強度のCV及び顆粒発色強度である。他の態様において、前記変数の組み合わせは、核発色強度のCV及び顆粒発色強度のバックグラウンド強度に対する比率である。なおも他の態様において、前記変数の組み合わせは、顆粒カウント及び顆粒発色強度のバックグラウンド強度に対する比率である。幾つかの態様において、前記イメージングされた顆粒は、HSP顆粒である。他の態様において前記イメージングされた顆粒は、HSF1顆粒等のHSF顆粒であってもよい。なおも他の態様において、前記イメージングされた顆粒は、HSP及びHSF1顆粒であってもよい。幾つかの例において、所定の顆粒は均一であり、例えば実質的にHSP又はHSFのいずれかのみから構成される。他の例において、所定の顆粒は負均一であり、例えばHSP及びHSFの両方、並びに/又は追加的な核成分から構成される。
【0084】
本発明の高効率の方法は、任意のHSPの発現の調節を測定するのに使用されてもよい。本発明に適したHSPの幾つかの具体例として、限定されないが、HSPl0、HSP27、HSP60、HSP70、HSP71、HSP72、HSP90、HSP104及びHSPl10が挙げられる。幾つかの好ましい態様において、本方法に使用されるヒートショックタンパク質は、HSP70である。
【0085】
本発明の高効率の方法は、癌細胞、神経細胞、又は神経癌細胞等の、様々な異なる種類の細胞を、スクリーニングに利用する場合がある。本高効率の方法に使用される細胞は、不動化細胞、初代細胞(例えば線維芽細胞及び上皮細胞等)、及び/又は形質転換細胞、例えばヒト形質転換細胞株由来のものであってもよい。適切な例として、限定されないが、HOS(高二倍体骨肉腫(hyperdiploid osteosarcoma)細胞株)及びA431(高四倍体表皮癌細胞株)が挙げられる。
【0086】
幾つかの態様において、前記神経細胞株は、限定されないが、ACN、BE(2)−C、BE(2)−M17、CHP−212、CHP−126、GI−CA−N、GI−LI−N、GI−ME−N、IMR−32、IMR−5、KELLY、LAN−I、LAN−188、LAN−5、MHH−NB−Il、NB−100、NGM96、NGP96、SH−SY5Y、SIMA、SJ−N−KP、SK−N−AS、SK−N−BE(2)、SK−N−DZ、SK−N−Fl、SK−N−MC、SK−N−SH、又はNeuro−2a細胞株から選択される。幾つかの態様において、前記神経細胞株は、SH−SY5Y細胞株である。
【0087】
幾つかの態様において、本方法のいずれかに使用される癌細胞株は、限定されないが、癌腫細胞、肉腫細胞、食道癌細胞等から選択される。適切な癌細胞の非限定的な例として、HeLa、A549、DLD−I、DU−145、H1299、HCT−116、HT29、K−562、MCF7、MDA−MB−231、NCI−H146、NCI−H460、NCI−H510、NCI−H69、NCI−H82、OVCAR−3、Paca−2、PANC−I、PC−3、Saos−2、SF−268、SK−BR−3、SK−OV−3、SW−480、SW−620、WM−266−4、HL−60、TE−2、又はK−562細胞株が挙げられる。幾つかの態様において、該癌細胞株は、HeLa細胞株である。
【0088】
幾つかの態様において、前記HCSは自動化され、そして合理的かつ迅速な高効率での、大量の化合物のスクリーニングを可能とする。幾つかの態様において、前記HCSは、高度なイメージングソフトウェアを使用して、複雑なイメージの断片化及び高速でのデータ処理を顕著に改善する。幾つかの態様において、前記HCSは、異なる複数のストレス条件をスクリーニングするのに使用され得る。幾つかの態様において、前記異なる複数のストレス条件は、温度、OGD、ロテノン、及びER誘導性ストレス、あるいは他の本明細書に記載のものから選択される。
【0089】
幾つかの態様において、上記の調節因子同定方法は、更に、1つ以上の公知の第二のアッセイと組み合わされることにより、細胞保護等のより好ましい性質を有する調節因子を提供することが出来る。幾つかの態様において、第二のアッセイは、MG−132アッセイ、又はこれと類似のデータ、例えば細胞保護効果についてのデータを提供する他の多くのアッセイのいずれかである。例えば、Sun F. et al., Neurotoxicology 2006 27 (5): 807; Jullig M, et al., Apoptosis 2006 11 (4): 627; and Valenta EM, et al., Science 2004 304: 1158を参照されたい。
【0090】
幾つかの態様において、前記第二のアッセイは、MTSアッセイ、又はこれと類似のデータ、例えば細胞毒性効果についてのデータを提供する他の多くのアッセイのいずれかである。幾つかの態様において、上記調節因子同定方法は、MG−132アッセイ及びMTSアッセイの両方と組み合わせることが出来る。
【0091】
細胞のベースラインストレスのレベルの調節
幾つかの態様において、前記口腔率の方法における測定工程は、選択された種類のストレスで処理した細胞内のHSP及び/又はHSF発現のレベルを測定し、これを該ストレスに晒されていない細胞のHSP及び/又はHSF発現のベースラインレベルと比較することにより、ストレス処理に関連するHSP及び/又はHSF発現の変化を定量的に測定することを含む、幾つかの態様において、ストレス処理に関連するHSP及び/又はHSF発現は、発現のベースラインレベルを上回るHSP及び/又はHSF発現の増大である。他の態様において、ストレス処理に関連するHSP及び/又はHSF発現は、発現のベースラインレベルを下回るHSP及び/又はHSF発現の減少である。
【0092】
故に、幾つかの態様において、推定調節因子で処理される細胞のHSF及び/又はHSP発現のベースラインレベルは、例えば公知のHSF及び/又はHSP調節因子(活性化因子又は阻害因子)で前処理すること等により、それ自体が外部から変化させられ、又は選択させられる。これは、いずれかの方向における相対的に小さな発現の変化が、本発明の方法に従って、推定される細胞ストレス応答調節因子による処理に応じて検出されるために行われる。このHSF及び/又はHSP発現のベースラインレベルを外部から変化させ、又は選択する工程は、任意で、試験される各細胞種又は各調節因子において、アッセイの感度、例えばシグナルのノイズ比の増大、及び結果的にアッセイの感度において、微調整が行われる。故に、本発明の幾つかの態様において、HSP及び/又はHSF発現のベースラインは、いずれかの方向における発現の変化がより正確に、又はより迅速に検出されるために外部から変化させられ、アッセイの感度が増大させられる場合がある。
【0093】
所定の細胞種に適用される軽度又は中程度のレベルの細胞ストレスを選択することにより、例えば、より高い(より低い)レベルの細胞ストレスにおいて試験された細胞に対して同一の工程を実施して一旦失敗した本発明の方法を使用して、上方又は下方調節因子の同定が可能となる場合がある。本発明のアッセイにおけるヒートショック応答の調節因子の同定に使用される細胞ストレスのベースラインレベルの調節は、1つ以上の選択されたストレスで処理された所定の細胞種の用量及び時間に対する応答曲線を作成し、ストレス処理の最適な時間及び用量を決定することにより、HSF及び/又はHSP発現の調節因子(活性化因子又は阻害因子)を選択する能力における増大した、又は最適な感度を達成することにより実現され得る。
【0094】
装置
幾つかの態様において、本明細書中に記載のヒートショック方法の温度上昇は、プレート、例えばアルミニウムプレート等の金属プレート等を備えた加熱器具により実施され、そして維持される。該プレートは、実験に使用される適切な器具に適合するように特注される場合があり、そして、適切な温度を維持するように加熱され得る。該プレートは、ウォーターバス等の公知の加熱方法と比較して、良好な熱伝導をもたらすことが出来るため、その結果、細胞サンプルに安定的かつ正確なヒートショックを与えることが出来る。
【0095】
故に、幾つかの例において、本発明は、複数の細胞サンプルにヒートショックを与える装置を含み、該装置は、プレート及び該プレートを温める熱源を備え、ここで該プレートは、該複数の細胞サンプルに均一に熱を伝導させるように配置されている。一つの態様において、前記プレートは金属プレートであり、例えば鉄、銅若しくはアルミニウムプレートであり、特にアルミニウムプレートであり、又は合金であり、例えば鉄、銅又はアルミニウムを含む合金である。他の例において、前記プレートは、ガラス又は他の非金属プレートである。ある態様において、前記プレートは、複数の細胞サンプル中の各細胞サンプルと直接接触する。前記プレートは、前記熱源から各サンプルへの均一な熱の伝導を促進し、ゆえに、該サンプルのそれぞれに均一なヒートショックを誘導する。例えば、前記プレートは、複数のサンプルを含むマルチウェルプレート(96ウェルプレート又はそれ以上)と連結して使用される場合がある。幾つかの態様において、前記プレートは、前記プレートは、マルチウェルプレートと直接連結、例えば直接接触している場合がある。例えば、前記マルチウェルプレートは、前記プレートの上に載っている場合もある。
【0096】
診断及び/又は治療のための処置方法に使用される調節因子
幾つかの態様において、本発明の高効率の方法により同定される調節因子は、細胞のストレス応答成分を有する生理的ストレスに伴う疾患、症状又は兆候に関する診断方法に有用であり得る。該診断方法を実施するキット及び診断方法が提供される。
【0097】
本発明において同定されたHSF及び/又はHSPの調節因子(及び放射活性、蛍光、燐光、核酸、抗体、又はタンパク質ベースタグ等の異種部分を結合させた該調節因子の誘導体)は、細胞又は細胞集団の細胞のストレス状態を診断するのに有用なツールであり得る。加えて、本発明の調節因子をコードする核酸分子(又は本発明の調節因子をコードする他の核酸分子の核酸制御領域と結合し得る核酸分子)が、細胞内の制御因子を発現し、検出し、及び/又はその発現を制御するように設計され得る場合もある。本発明の核酸分子を含むベクター、及び核酸分子又はベクターを含む細胞も、提供される。
【0098】
他の態様において、本発明の高効率の方法により同定される調節因子は、細胞のストレス応答成分を有する生理的ストレスに伴う疾患、症状又は兆候を治療又は予防する方法に有用であり得る。他の態様において、前記口腔率の方法により同定される調節因子は、細胞のストレス応答成分を有する生理的ストレスに伴う疾患、症状又は兆候を処置又は予防する医薬を製造するのに使用される。該疾患又は兆候は、ヒト又は非ヒト動物におけるものであってもよい。
【0099】
幾つかの態様において、前記疾患、症状又は兆候は、心臓血管疾患、血管疾患、脳疾患、アレルギー疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、ウイルス性若しくは細菌性感染症、皮膚疾患、粘膜疾患、表皮疾患、又は尿細管(renal tubuli)の疾患等から選択される。
【0100】
幾つかの態様において、前記心臓血管疾患は、アテローム性動脈硬化、冠状動脈疾患、又は筋緊張亢進及び肺の筋緊張亢進により引き起こされる心臓血管疾患である。
【0101】
幾つかの態様において、前記脳疾患は、脳血管虚血、脳卒中、外傷性脳損傷、老年性認知症等の老年性神経変性疾患、AIDS認知症、アルコール性認知症、アルツハイマー症、パーキンソン症又はてんかんである。
【0102】
いくつかの態様において、前記皮膚又は粘膜疾患は、皮膚科学的疾患又は消化器系の潰瘍性疾患である。
【0103】
幾つかの他の態様において、特にHSF1/HSP調節因子が阻害的である態様において、前記疾患、症状又は兆候は、全体的な、制御される及び/又は目標とされる細胞毒性、アポトーシス又は他の種類の細胞死に関与する。多くの癌、腫瘍、又は異常な増殖又は細胞分裂を呈する他の細胞若しくは細胞種、例えばウイルス感染等により正常な増殖コントロールを損なったもの等の処置が挙げられる。
【0104】
例証
本願明細書全体に記載されている請求項に係る発明は、以下の実施例を参照してより速やかに理解され得る。該実施例は、本願請求項に係る発明の幾つかの特徴及び態様を詳述することのみを目的として記載され、限定を意図するものではない。
【0105】
マスターシャペロン制御因子アッセイ(MaCRA)
マスターシャペロン制御因子アッセイあるいは「MaCRA」は、細胞内のストレス応答経路の調節因子、例えばHSF1及びHSP70等を同定する、高密度かつ細胞イメージベースのアッセイとして開発された。該MaCRAアッセイは、複数の各アッセイ(下記参照)におけるそれらの性能に基づいて、異なるクラスの細胞ストレス応答調節因子化合物を同定することが出来る、高効率のスクリーニング方法に発達している。MaCRAアッセイの発達は、細胞内のショック応答経路の異なるパラメーターを認識する一連のアッセイ系がいかにして設計され得るかの一例として、下記に記載される。実施例1では、詳述するとおり、HSF1活性化因子を同定するように設計された、スクリーニングにおける高密度かつイメージベースのHSF/HSP顆粒アッセイ、及びEC50フォーマットの開発を説明する。
【0106】
HCS顆粒アッセイのヒートショックスクリーニング条件の最適化
HCSの設定において、アッセイの陽性対照として、公知のHSF1活性化因子であるセラストロール(Westerheide SD, et al. J Biol. Chem. 2004; 279(53):56053−60)が使用された。とりわけ、セラストロールは、ストレス細胞と非ストレス細胞の両方においてHSF1活性を誘導出来る。故に、セラストロールは、HSF1増幅因子として特定される化合物の本発明の定義には適合しない。
【0107】
ヒートショックベースのスクリーニングにおいて、2つの技術的問題を克服する必要がある。第一に、ヒートショックの温度及び時間を最適化しなければならない。様々なヒートショック温度及び回復時間が、公知文献中に報告されている(Cotto J. et al., J Cell Sci 1997; 110 (Pt 23):2925−34;上記Westerheide et al.)。温度をより高く(例えば43℃超)すると、DMSO処理サンプルのバックグランドが著しく高くなり、化合物増幅効果のシグナル/ノイズ比率が小さくなる。最適化された条件は、実験的に、約41℃2時間で回復時間無しが選択され、この条件の下で、充分窓(satisfactory window)は、DMSO溶媒対照(図1B及びD)と比較して、2μMセラストロール(図1A及びC)により誘導されるHSF1/HSP70顆粒形成において観察された。
【0108】
第二に、一般に、96ウェル又はそれ以上のウェルプレートフォーマットにおいてヒートショック実験が実施されるとき、各ウェルへの均等な熱の伝導を保証するのは困難である。ヒートショック実験に通常の空気加熱(インキュベーターから)を使用した場合、96ウェルプレート全体のHSF1/HSP70の顆粒カウントで観察されるばらつきが大きかった(CV>40%)。高効率ヒートショック手法としては、45℃のウォーターバスにプレートを浸漬させる方法が報告されているが、この方法は、イメージベースの高密度手法に適しない(Zaarur et al., Cancer Res. 2006; 66(3): 1783−91)。1つの解決策としては、急速熱伝導用の特注アルミニウムプレートを使用することであり、これにより、HSF1顆粒カウントにおいて、比較的低いCV(7.94%)で96ウェルプレートベースヒートショックを実施出来た。
【0109】
HSF1/HSPストレス顆粒の定量及びアッセイの検証
次に、観察された顆粒状粒子の幾つかの画像パラメーターを定量した。Workstation software (GE Healthcare)のMulti Target Analysis (MTA)モジュールにより、顆粒カウント、顆粒面積、顆粒発色強度及び核発色強度CV(核中のピクセル強度のCVを測定する)等の核顆粒の高速測定が可能となる。図2A〜Dに記載のように、核カウント及び核発色強度CVは、HSF1顆粒の定量に選択された(図2A及び2B)が、顆粒カウント及び顆粒面積は、HSP70顆粒のシグナルの測定に適用された(図2C及び2D)。図2Aのデータは、ヒートショック(41℃2時間)により、2μMのセラストロールに晒されたHeLa細胞の核1つあたり、(MTAによる定量では)平均で5.34±0.72個のHSF1ストレス顆粒が誘導されたことを示す。比較対照としたDMSO処理細胞では、2.46±0.22個の顆粒が誘導されていた。バックグラウンドを相対的に低くするために、化合物処理により誘導されるHSF1顆粒カウントの閾値として、5を選択した。5つを超える顆粒を含むHeLa細胞を、「HSF1顆粒陽性細胞」と定義した。HSF1核発色強度CV、HSP70顆粒カウント及びHSP70顆粒面積の閾値も、DMSO処理サンプルの平均プラス2又はそれ以上の標準偏差に相当するゲート値(gating value)が選択された。これらの結果は、セラストロール処理HeLa細胞が、対照(DMSO)処理細胞と比較して、HSF1及び/又はHSF1陽性顆粒の数(顆粒カウント;図2A及びC)、核内のHSF1陽性顆粒の発色強度(図2B)、及びHSP70陽性顆粒の合計面積(図2D)における、統計的に顕著な増大を示すものであり、このことから、以上の4つのパラメーターが、単独で、及び好ましくは様々な組み合わせで、HSF1及びHSP70シグナルの定量、並びに試験化合物又は条件によるそれらの調節の定量に利用出来ることが検証された。
【0110】
96ウェルプレートフォーマットにおける高密度スクリーニング(HCS)顆粒アッセイの性能を、陽性対照として2μMのセラストロールで1時間処理し、その後ヒートショックを与えたサンプルと、陰性対照として0.33%DMSOで処理したサンプルを用いて、評価した。図3に示されるように、実験データは、HSF1顆粒アッセイが、広いスクリーニング窓及びZ’をもたらすことを示している。(Z要素は、高効率素クリーニング(HTS)アッセイの性能又は能力の尺度である。Z要素解析は、Zhang et al., J Biomol. Screen. 2008; 13(6):538−43に記載のように実施された)。
【0111】
前記最初の高性能スクリーニングから幾つかの陽性のヒットを選択して、実施例1に更に記載されるように、HSF1共誘導に対するそれらの用量依存性を試験した。一例として、図4Aは、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(本HCS方法により同定された新規調節因子)のHSF1発色強度CVのEC50値を用いた、用量依存性の実験を示す。陽性対照であるセラストロールのEC50値は、1.32μMであった。この結果は、公知の、HSP70.1プロモーター−ルシフェラーゼレポーターをセラストロール活性化ヒートショック応答の特定に使用したときのHeLa細胞における3μMのEC50値と、良好に符合する。Westerheide et al., J. Biol. Chem., 279(53):56053−56060 (2004)を参照されたい。同様に、図4Bは、セラストロール(陽性対照)及び化合物Aにおける、HSP顆粒面積のEC50値を用いた用量依存性の実験を示す。陽性対照であるセラストロールのEC50値は、0.65μMであった。化合物A及び他のヒットは、セラストロール程強力ではないが、これらのヒットは、構造−活性ベースの研究において良好な出発点を示した。とりわけ、セラストロールと異なり、化合物Aは、ヒートショックストレスで処理されていない正常細胞においてHSF1/HSP70顆粒の形成を刺激又は誘導しない。これは、該化合物(若しくは誘導体化号物)が、シャペロン増幅を仲介する候補薬剤であることを示唆する。
【0112】
HSF1/HSP70誘導における化合物A及びセラストロールの動力学を比較するために、実施例1に更に記載されるように、詳細なタイムコース試験(回復時間中6時間まで)を行った(図5も参照されたい)。本実験において使用される濃度は、セラストロール及び化合物Aにおいてそれぞれ1μM及び10μMであり、これらは、各化合物のEC50値に近い。図5は、10μMの化合物A又は1μMのセラストロール(陽性対照)で前処理した後の6時間の回復期間(R1〜R6)にかけての、細胞におけるHSF1誘導の動力学の比較を示す。化合物Aは、試験された殆どの時点で、セラストロールと類似の誘導挙動を呈した。いずれの化合物も、ヒートショック後6時間にかけてHSF1ストレス顆粒を活性化しており、これは、それらの化合物が、HSPを持続的に誘導するHSF1の活性構造を維持又は安定化している可能性があることを強力に示唆する。HSP70シグナルは、ヒートショック1時間後にピークを有し、そしてヒートショック後6時間まで、相対的に高いレベル(〜25%陽性染色細胞)を維持していた。ヒートショック1時間後、約30%〜40%の細胞が、HSF1+HSP70+である。他の細胞は、HSF1−HSP70+(〜30%)、HSF1+HSP−(〜30%)及びHSFl−HSP−(〜10%)である。HSP70シグナルは、ヒートショック後6時間は、相対的に高レベルである。HSP70が持続的に発現することによって、ミスフォールディングしたタンパク質の保護領域(protection window)が拡張する。図6は、480種類の異なる試験化合物(黒色の菱形)でそれぞれ30分間処理して、その後41℃2時間で回復時間無しのヒートショックにかけた、HeLa細胞の実験データを示す。陽性対照として2μMセラストロール(黒色の正方形)で、そして陰性対照としてDMSO(黒色の丸)で処理して、対照処理を並行して実施した。多くの試験化合物(黒色の菱形)のHSF1顆粒陽性細胞の増大パーセント(%)は、20%以上であった(増大マークの大半が20%を下回るDMSO処理細胞と比較されたい)。この実験は、この実験に使用されたアッセイ条件が、多数の試験化合物のセットから有用なHSF1調節化合物(ここでは活性化因子)を同定するのに充分な感度であったことを示し、及び、この方法がそのような調節化合物の高効率のスクリーニングに利用可能であることを裏付ける。
【0113】
次の問題は、生物学的に関連するモデル系における細胞保護効果をどのように試験するかであった。酸素グルコース除去(OGD)は、虚血及び脳卒中のインビトロ系であり、ニューロンの損傷の研究に特に適している。OGDにより誘導される細胞毒性は、主に、タンパク質のミスフォールディング及び凝集により起こる。海馬CA1ニューロンにおけるHSP70の過剰発現は、タンパク質の凝集を低下させ、ニューロンの生存を顕著に増大させる。Giffard et al., J Exp. Biol., 207(Part 18):3213−3220 (2004); Sun et al., J. Cereb. Blood Flow Metab., 26(7):937− 950 (2006)を参照されたい。OGDに加えて、パーキンソン症のロテノンモデルは、タンパク質凝集により誘導される細胞毒性の研究用の、他のインビトロ系である。ミトコンドリア阻害剤であるロテノンは、α−シヌクレイン(synuclein)の発現を増大させ、やがて、Lewy小体と類似の細胞質内容物を形成することが報告されている。Greenamyre et al., Parkinsonism Relat. Disord., Suppl 2:S59−S64 (2003)を参照されたい。故に、HCSスクリーニングのヒットの細胞保護効果を評価するために、上記2つのインビトロ細胞アッセイ系のいずれかが利用され得る。以前に報告されたMTS比色分析アッセイは、様々なストレス処理後の生存細胞の測定のための第二の方法となる。
【0114】
前記OGDアッセイは、実施例2に記載されるように実施された。図7に示すように、2.5μMの化合物Aにより前処理した場合、生存SH−SY5Y細胞の91%の増大が観察され、これは、顕著な細胞保護効果を有していた。とりわけ、通常(ストレス無し)条件下では、化合物Aで処理したものとDMSOで処理したものとの間で、SH−SY5Y細胞の生存率には殆ど差が観察されなかった。ロテノンモデルに関して、100nMのロテノンを24時間適用したとき、42%超のSH−SY5Y細胞が死滅した。2.5mMの化合物Aで前処理したSH−SY5Y細胞は、DMSO対照処理細胞と比較して、細胞生存率が29%増大した(図8)。
【0115】
ヒートショックの温度及び回復の時間等のアッセイのパラメーターを更に最適化する、一連の実験が実施された(実施例4)。HSF1顆粒陽性細胞は、温度上昇39℃(黒色の菱形)又は41℃(黒色の正方形)2時間、回復時間無しでストレス処理した細胞において、HSF1顆粒陽性細胞を定量した(図9)。図9に示されるように、ヒートショックを41℃、2時間、回復時間無しで実行した場合、ヒートショックが39℃の場合と比較して、顕著な数の陽性ヒットが検出された。(15%陽性細胞カットオフ以上の黒色の正方形のヒットを参照されたい)。図10のデータは、ヒートショックが43℃の4つの条件(1時間で回復時間無し、1時間で回復時間2時間、12時間で回復時間無し、2時間で回復時間2時間)において、DMSO処理サンプル中のHSP70顆粒が異なり、CV値は25%超も異なり、これは、正確な定量において不十分であることを示す。また、図10のデータは、試験された全ての条件において、DMSO処理サンプル(陰性対照)において観察されるHSF1陽性顆粒カウントが、セラストロール処理サンプル(陽性対照)のカウントに近いことを示す。更に、該データは、ヒートショック(43℃1時間)後に回復時間を与えなかった場合、核あたり平均で6.83個のHSF1ストレス顆粒が誘導され、これに対して、2時間の回復時間を与えた場合、核あたり平均で6.38個のストレス顆粒が誘導されたことを示す。比較すると、陽性対照の値は約6.56であり、従って、検出窓は、理想より小さかった。図11は、DMSO処理細胞を、41℃温度上昇ストレスに2時間晒し、回復時間を与えなかった場合の、HSF1及びHSP70顆粒カウント評価を示す。図12は、DMSO処理細胞を、41℃温度上昇ストレスに2時間晒し、回復時間を与えなかった場合の、HSF1 CV核発色強度及びHSP70顆粒面積の評価を示す。表1は、細胞を、41℃温度上昇ストレスに2時間晒し、回復時間を与えなかった場合の、HSF1顆粒変数、HSP70顆粒変数、HSF1発色強度CV変数及びHSP70顆粒面積のCV値を、表形式でまとめたものである。
【表1】
【0116】
本明細書中で報告したMaCRA HCS顆粒アッセイは、様々なストレス条件下でHSF1/HSP70を調節(増大又は減少)させられる新規化学物質の直接的な同定を可能とする。従来のウエスタンブロット又は免疫蛍光アッセイと比較して、本HCS顆粒アッセイは、以下の点において有利である。
【0117】
(1)HSF1/HSP70ストレス顆粒は、HSF1及びHSP70の活性化と大いに関連している。HSF1/HSP70顆粒の定量は、様々なストレッサーに対する応答におけるHSF1/HSP70活性の細胞の動力学を測定することが出来る。更に、穏和なストレス条件(41℃のヒートショック)を利用した場合、化合物スクリーニングにおいて、良好な窓を用いて、改善されたシグナル/バックグラウンドが得られた。この設定は、前記項降雨率の方法においても観察された、誘導活性が弱いヒットの同定も可能とした。
【0118】
(2)HCSと連動して使用される最新のソフトウエアシステムは、複雑なイメージの断片化、細胞のソーティング及び解析、顆粒カウント/面積の計算、高速でのデータ処理等のための、顕著に改善されたプラットフォームを形成する。加えて、HCSは、化合物評価における、多くの他の表現形質のパラメーターを提示する。例えば、比較対象は、細胞ストレス、例えばヒートショック処理の存在下又は非存在下での、化合物により誘導される核の形態の変化(DAPI染色)の相異であってもよく、これは、細胞毒性の予測に特に有益な場合がある。
【0119】
(3)自動的であるというHCSの特徴から、より高レベルな効率で、巨大な化合物ライブラリーのスクリーニングが可能となる。
【0120】
(4)HCSアッセイの多重化した特性から、込み入った生物学的経路を個別に分離する(teasing apart)のに特に有用な場合があり、潜在的な標的及びバイオマーカーを迅速に同定する有益なツールを提供する。ヒートショックベースのHCSにおける主要な技術上の障害は、更に高効率のフォーマット(384ウェルあるいはそれ以上)でのヒートショック操作の制御である。この目的を達成するために、合理化され、かつ高速化されたデータ処理能力が発達し、これにより、384ウェル以上のフォーマットで、本明細書に記載のHCSアッセイを行うことが可能となった(下記参照)。
【0121】
細胞保護及び細胞毒性−第二のアッセイ
HSP70の誘導において見られる効果が細胞保護に転化され得るか否かを判定するための1つ以上の第二のアッセイにおいて、MTS細胞毒性アッセイが使用された。該アッセイは、本質的には、既に記載されたものと同様に実行された(Zhang et al., J. Biomol. Screen. 2008; 13(6):538−43;実施例5を参照されたい)。このMTSアッセイは、HSF1/HSP70スクリーニングで同定された調節因子が細胞において細胞毒性を誘導するか否かを判定するための第二のアッセイに使用される場合もある(下記図17A及び17Eも参照されたい)。
【0122】
MaCRA HSF1/HSP70顆粒アッセイのスクリーニングでヒットした化合物が、ツニカマイシン処理により誘導される小胞体(ER)系に対するストレスから細胞を保護出来るか否かが試験された。図13に示されるように、最終濃度10μMの化合物Bが、ツニカマイシン誘導ERストレスアッセイにおける様々な時点で、PC12培養細胞に添加され、そして、実施例6に記載されるように、生存細胞を測定した。このデータは、ツニカマイシン処理の前に、又は処理中、そしてツニカマイシン処理後24時間であっても、化合物Bで処理することにより、細胞が、ツニカマイシン誘導性のストレスから、顕著に保護されたことを示す。
【0123】
HDF1ストレス誘導因子から区別されたシャペロンHSF1共誘導因子
図14は、セラストロール(陽性対照)及び化合物A(上記で挙げた新しくMaCRAで選択された調節因子)の濃度の増大に対する、非ストレス細胞(ここでは、37℃で培養された非ヒートショック細胞)中のHSF1顆粒陽性細胞の増大パーセントを比較する実験の結果を示す。図14に示されるように、セラストロール(陽性対照)とは対照的に、化合物Aは、非ストレス細胞において、ヒートショック応答(HSF1顆粒)を刺激しない。故に、化合物Aは、セラストロールのようなストレス誘導因子ではなく、HSF1共誘導因子、及び細胞ストレス応答の共誘導因子に分類され、本発明のMaCRAプラットフォーム及び関連する方法並びにアッセイは、この共誘導因子化合物のクラスの他のメンバーを同定するのに使用される場合もある(下記を参照されたい)。
【0124】
MaCRAでヒットした化合物の作用はHSP90の阻害を介しない
次に、MaCRAスクリーニングでヒットした化合物の幾つかの選択されたものがHSP90を阻害するか否か、即ち、それらの化合物がネガティブフィードバックを起こすことによりHSF1発現を阻害し、これによりHSF1の間接的な調節因子となることが予想され得るか否かが試験された。HSP90(ATPアーゼ)の活性は、実施例8の方法に従い測定された。図15に示すように、上記のMaCRAスクリーニングでヒットしたものとして同定された様々な化合物は、HSP90のATPアーゼ活性を有意に阻害しない。従って、これらの化合物は、HSP90の阻害に関係しない新規のメカニズムを介して、HSF1を調節している。
【0125】
HSF1+HSP+共誘導因子を同定するスクリーニングの方策
図16は、HSF1/HSP70顆粒アッセイを第一のアッセイとして、そして細胞保護及び細胞毒性をそれぞれ同定するためのMG−132及びMTSアッセイを第二のアッセイとして使用する、リード開発用化合物をスクリーニングする方策の模式図である。上記で詳述した実験に基づいて、上記3つのアッセイを並行して行い、4000の化合物ライブラリーの中から、HSF1+HSP+共誘導因子をスクリーニングした。MG−132アッセイにおいて、細胞をプロテオソーム阻害剤で処理して、細胞質タンパク質のミスフォールディング(細胞ストレス及び細胞死を引き起こす)を誘導する。化合物は、処理を受けた細胞が、プロテオソーム阻害剤誘導性の細胞死を免れて生存するパーセントの増大においてスクリーニングされた(実施例5を参照されたい)。MTSアッセイは、正常細胞に対して一般的に毒性である化合物をスクリーニングする(そして排除する)のに使用された(実施例5を参照されたい)。
【0126】
図17Aは、X軸にHSF1顆粒陽性細胞の増大パーセント(HSF1顆粒カウントの測定による)、Y軸にMG−132アッセイにおける生存細胞の増大パーセント、そしてZ軸にMTSアッセイにおける生存細胞の阻害パーセントを示す、4,000化合物のスクリーニングから得た、データの集合を表す。各球体のサイズ及び濃淡は、それぞれ、HSP70及びHSF1顆粒陽性細胞に対応する。従って、より暗く大きな球体はHSF1+かつHSP70+の化合物であり、原点により近いものと比較して、Y軸に沿うものはMG−132アッセイにおける細胞生存(細胞保護)に優れ;そしてZ軸に沿うものは、MTSアッセイにおける生存(細胞毒性)に優れている。そのような多元的解析を使用するデータのソーティング又はビニングにより、並行したアッセイから得たデータを、関心のある(本明細書ではHSF1共誘導因子)調節化合物を同定するために迅速に使用することが可能となる。これらの、及び類似の多元的解析は、任意の数のアッセイからのデータを表示するのに使用される場合もある。該データは、化合物のスクリーニング及び選択において将来使用するために、及び比較及び予測のために、データベースに保存される場合もある。
【0127】
図17Aの多元的データは、個々のアッセイで得たデータが分離される。図17Bは、HSF1顆粒スクリーニング(4000化合物;R0=ヒートショック後の回復時間が0時間)で得られたデータを表し、Y軸が、HSF1陽性顆粒の増大を示す。正方形の濃淡は、HSP70顆粒陽性細胞に対応する。このスクリーニングにおける閾値として、HSF1顆粒陽性細胞の20%の増大が使用された。正方形の影は、HSP70顆粒陽性細胞に対応する。つまり、閾値20%を超える暗い正方形は、HSF1+HSP7+のヒットである。図17Cは、HSP70顆粒陽性細胞における、30%の閾値を設けたHSP70顆粒アッセイ(4000化合物;R2=ヒートショック後の回復時間が2時間)で得られたデータを表す。正方形の影は、HSF1顆粒陽性細胞に対応する。つまり、閾値30%を超える暗い正方形は、HSF1+HSP7+のヒットである。図17Dは、生存細胞の増大パーセント(DMSOとの比較)において30%の閾値を設けたMG−132アッセイで得られたデータを図示する。正方形の濃淡は、HSF1顆粒陽性細胞に対応する。
【0128】
最後に、図17Eは、MG−132アッセイ及びMTSアッセイの第二のデータの組み合わせを表す。上記と同様に、球体のサイズ及び濃淡は、それぞれHSP70及びHSF1顆粒陽性細胞に対応する。関心の在る化合物は、MG−132アッセイにおいて約30%以上の細胞保護の増大を示し、そしてMTSアッセイにおいて、約20%を超える細胞毒性の阻害(生存細胞の増大等)を示すものとして選択された。
【0129】
表3〜5は、本発明の方法に係る第一及び第二のアッセイにおいて同定した化合物を選択して、それらの化合物を、HSF1+HSP+(A)、HSFl−HSP+(B)及びHSFl−HSP−(C)のカテゴリーに分けたものを示している。重要なことに、本明細書に記載のアッセイ及びデータ解析用の方法は、第四の可能なカテゴリー、即ちHSFl−HSP70+に当てはまる化合物が一つもヒットしない。このことから、本発明のスクリーニング及びアッセイの方法(例えばMaCRA)がHSF1依存的であり、そしてHSF1が直接的な分子標的であることが確認される。
【表2】
【表3】
【表4−1】
【表4−2】
【表4−3】
【0130】
上記実験は、実験条件を最適化し、そしてデータのソーティングを実証するために、96ウェルフォーマットで実施された。次に、化合物は、より高効率(384ウェルフォーマット)で、対照としてセラストロールを使用して行われ、384ウェルフォーマットにおいてMaCRAプラットフォームがどの程度高効率であるかが確認された(実施例10)。図18は、384ウェルプレートに播種したHeLa細胞を、DMSO(黒い菱形)及びセラストロール(黒い正方形)で前処理し、続いて41℃で2時間ヒートショックを与え、回復時間無しで、HSF1顆粒カウントを使用して評価した結果を示す。このデータは、96ウェルフォーマットで定めた全てのスクリーニングの基準が、MaCRAを384ウェルフォーマットにスケールアップした場合にも適用されることを示す(Z’=0.55、シグナル対バックグラウンド比(S/B)=6.73、及びCV=0.13)。
【0131】
MaCRAスクリーニングでヒットしたHSF1+化合物は、HSF依存的である
上記MaCRAで同定されたHSF1活性化化合物が実際に直接HSF1を通じて作用していることを立証するため、RNA干渉(RNAi)ノックダウン実験を行い、HSF1特異的なsiRNA投与により細胞内のHSF1発現レベルを直接低下させたときの該化合物の効果を、非特異的対照RNA投与の場合と比較して観察した(実施例11)。図19は、25nMのHSF1 siRNA、スクランブルsiRNA又はトランスフェクション対照を48時間トランスフェクションしてsiRNA処理し、続いて43℃で2時間ヒートショックを加え、回復時間無しの、又はヒートショック処理しないHeLa細胞における、HSF1及びHSP70タンパク質発現(ローディング対照にGAPDHタンパク質発現)のウェスタンブロットを示す。これらの条件下で、対照のレベルに対し、HSF1発現が約80〜90%低下し、及びHSP70発現が約50%低下した。
【0132】
図20は、25nMのHSF1 siRNA及びスクランブルsiRNAを48時間トランスフェクションし、続いて25μMの化合物B(CYT492)又はDMSO対照で処理した後、41℃で2時間ヒートショックした、又はしていないHeLa細胞における、HSF1陽性顆粒形成に対するHSF1ノックダウンの効果を図示している。顆粒形成は、対照(スクランブル)siRNA処理細胞において認められるが、HSF1 siRNA特異的siRNA処理細胞においては認められない。これは、HSF1陽性顆粒形成が、細胞内のHSF1発現に直接依存していることを示す。上記siRNA処理が処理された細胞を単純に死滅させるものではないことを示すために、25nMのHSF1 siRNA及びスクランブル(標的無し)siRNAをトランスフェクションしたHeLa細胞の細胞カウントを測定した(図21)。この実験により、HeLa細胞において、HSF1 siRNAのトランスフェクションが、非特異的細胞死を引き起こさないことが確認された。
【0133】
表5は、HSF1の共誘導因子(増幅因子)としても同定されたHSF1+HSP70+カテゴリーの9個の独立したヒットを使用して、そのようなsiRNAノックダウン実験を行って得たデータをまとめたものを示す。表5に示されるように、各化合物が、HSF1依存的活性化因子である。
【表5】
【0134】
次に、MaCRAにより選択された化合物は、siRNAノックダウン実験において試験され、続いて第二の機能的実験(MTS及びMG−132アッセイ、実施例5参照)に付された。図22A〜Bは、10、25又は50nMのHSF1特異的siRNA、GAPDH siRNA(対照)又はスクランブルsiRNA(対照)を48時間(A)、及び72時間(B)トランスフェクションした、MG−132に使用されたSK−N−SH細胞におけるHSF1のsiRNAノックダウン、及び対応するウエスタンブロットを図示している。図22Cは、スクランブルsiRNA及びGAPDH siRNAと比較しての、10、25及び50nMのHSF1特異的siRNAを用いて48時間かけてHSF1をノックダウンした後の、HSP70の発現に対する効果を図示するウエスタンブロットを示す。ここで、HSF1ノックダウンは、HeLa細胞において見られた(上記)よりも有効ではなかった。SK−N−SH細胞におけるHSF1 siRNAノックダウンでは、SK−N−SH細胞において、HSF1の約70%、そしてHSP70の約60%をノックダウンした。とは言え、SK−N−SH細胞において達成されたノックダウンレベルは、MG−132アッセイにおいて、ヒット化合物が直接HSF1を介して作用するか否かを試験するのに充分である。
【0135】
図23A〜Dは、CYT2239(A)、CYT2244(B)、CYT2282(C)又はCYT2532(D)のいずれかの化合物で前処理した後、50nMのHSFl siRNA及びスクランブルsiRNAで48時間処理したときの、MG−132アッセイにおけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。これらの4つの試験は、HSF1依存的細胞保護を示した。HSF1のレベルをsiRNAノックダウンにより低下させたとき、MG−132アッセイにおいて細胞保護が約10〜20%低下した。
【0136】
HSF1顆粒アッセイを使用しての細胞ストレス応答の阻害因子の同定
HSF1阻害因子の同定は、それらが、例えば癌治療等において、及び標的を定めた、又は制御された細胞死の方法等において、細胞の増殖の阻害に関する処置に使用され得る点で、望ましい場合がある。トリプトリドは、癌治療用の公知のHSF1阻害剤である。例えば、Phillips et al. Cancer Research (2007) 67, 9407; Westerheide et al., J. Biol. Chem. (2006) 281, 9616; Dai et al., Cell 2007; 130(6): 1005−18を参照されたい。しかしながら、現在までに、HSF1阻害候補化合物をスクリーニング及び選択する、定量的かつ高効率な方法は、確実に報告されていなかった。HSF1阻害化合物(細胞内のHSF1活性を低下させる調節因子)の選択用にMaCRAフォーマットを調整するために、上記HSF1顆粒アッセイ及び第二のアッセイにおける陽性対照として、トリプトリドを使用した。従って、トリプトリドの量を増大させることによるHSF1顆粒形成の阻害は、43℃で、4つの異なる処理時間で、回復時間無しで試験された(実施例12)。HSF1阻害因子の選択において、43℃で回復時間無しがより良好な検出感度となることが観察された(活性化因子の選択において41℃のヒートショックがより良好な検出感度となるのとは対照的である)。
【0137】
図24は、10nM、100nM、1μM及び10μMのトリプトリドで処理し、その後43℃で1、2、3又は4時間ヒートショックしたHeLa細胞における、用量依存的なHSF1顆粒形成の阻害を図示したものである。顆粒5個/核を閾値として、顆粒カウントを測定した。本明細書に記載のMeCRA法を使用して選択された様々な化合物の効果の試験に、同様のアッセイ条件が使用された。図25A〜Dは、1μMトリプトリド(黒色の菱形)、10μMのCTY975(黒色の正方形)、10μMのCTY1563(黒色の三角形)、又は10μMのCTY1590(黒色の丸)で処理し、1、2、3又は4時間ヒートショックを与え、0、5及び7時間の回復時間を設けたHeLa細胞における、HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値として使用しての、HSP70発現の減少を示す。
【0138】
上記データに基づき、HSF1及びHSP70の阻害における以下の4つの条件を、MaCRAプラットフォームにおけるフォローアップ試験に選択した:(1)HSF1阻害において43℃で2時間、R0(図26A);(2)HSF1阻害において43℃で4時間、R4(図26B);(3)HSP70阻害において43℃で2時間、R4(図26C);(4)HSP70阻害において43℃で4時間、R4(図26D)。陽性対照として、1μMトリプトリド及び10μM CYT1563を使用した。
【0139】
これらの実験のデータを下記表6にまとめ、トリプトリド及びCYT1563について計算したZ’を併記する。CVY1563のZ’は、43℃で4時間、R4のHSF1及びHSP70顆粒アッセイにおいて良好(Z’>0.5でロボット的(robotic)と見做される)であるから、この条件は、更にHSF1/HSP70阻害因子スクリーニングに選択された。
【0140】
表6
*43℃で4時間、回復時間4時間(R4)が、更なるHSF1及びHSP70阻害因子スクリーニング用の最適の条件として選択された。
【表6】
【0141】
次の工程において、MaCRAベースのHSF1/HSP阻害因子スクリーニングアッセイは、96ウェルから384ウェルにスケールアップされ、上記の最適条件が使用された(実施例14)。この実験において、上記HSF1共誘導因子同定に使用されたのと類似のデータビニングの方策が採用されたが、本方策は、細胞ストレスの非存在下で阻害活性を有しない化合物ではなく、細胞ストレス(即ちヒートショック)に応じてHSF1特異的な阻害活性を示す化合物が探索された。図27は、384ウェル中で、DMSOのみ(黒色の菱形)又はCYT1563(10μM)(黒色の正方形)で処理し、続いて43℃で2時間ヒートショックして、回復時間無しのHeLa細胞を、HSF1顆粒カウントを使用して評価したものを示す。CYT1563のZ’は0.65、シグナル/バックグラウンド(S/B)比率は11.25、そしてCVは12%であった。
【0142】
当業者は、上記アッセイ及びデータビニングの方策が、具体的な条件に適合するように変更させられる場合があることを認識し得る。一般に、前記パラメーターは、具体的な細胞、化合物及びアッセイ条件に基づいて、スクリーニングを最適化するために、個別に、及びに一緒に変化させられる。前述の実施例は、例示のみを目的として提供されるものであり、限定を意図しない。当業者は、前述の一般的な開示の範囲内で、本発明の追加的な態様が補足されることを認識し得て、そして下記非限定的な実施例は、いかなる形でも権利放棄(disclaimer)を意図しない。
【実施例】
【0143】
実施例1:HSF1/HSPストレス顆粒の定量及びアッセイの検証
本実施例は、HSF1活性化因子をスクリーニングするための、HSF1/HSP70高密度スクリーニング(HCS)アッセイの開発に関する。HeLa細胞を化合物(セラストロール)で1時間前処理し、2時間ヒートショックをかけた。希釈はDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)中で200倍になるように行われ、最終的なスクリーニング用の濃度は30μMとなった。熱伝導をより良好にするために特注のアルミニウムプレートが設計され、これにより、96ウェルプレートにおいて定常的な温度及び最小のばらつきが達成された。該アルミニウムプレートは、実験前日に41℃のインキュベーターに置かれた。
【0144】
HeLa細胞中のHSF1及びHSP70の免疫組織化学的染色は、Zhang et al., Biomol Screen., 13(6):538−543, 2008にあるように実施された。プレートの移動を自動化するために、Twister II (Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA)と一体化したINcell 1000 (GE Healthcare, Piscataway, NJ)を使用して、画像取得が実施された。画像解析は、Workstation 3.6のMulti Target Analysisモジュールを使用して遂行された。HSF1/HSP70顆粒カウント、顆粒面積及び核発色強度CVのアルゴリズムは、アッセイ条件及び使用説明書に従い設計した。EC50値及び曲線の当てはめは、Prism 4.0 (GraphPad Software, San Diego, CA)及び非線形回帰解析を使用して実施された。セラストロール(2μM)誘導性の顆粒形成は、処理群において観察された(図1A及び1C)が、DMSO溶媒処理対照細胞では観察されなかった(図1B及び1D)。
【0145】
Workstation software (GE Healthcare)のMulti Target Analysis Module (MTA)モジュールは、顆粒カウント、顆粒面積、顆粒発色強度及び核発色強度CV(核内のピクセル強度のCV)等の、核顆粒の高速の測定を提供する。図2A及び2Bは、顆粒カウント及び核発色強度CVを通じての、HSF1変数の定量を提供する。図2C及び2Dは、HSP70顆粒の定量に、顆粒カウント及び顆粒面積を採用したものである。
【0146】
図2Aは、MTAにより定量されたように、ヒートショック(41℃2時間)が、2μMのセラストロールに晒されたHeLa細胞において、核あたり平均で5.34±0.72個のHSF1ストレス顆粒を誘導した。比較対照としたDMSO処理細胞では、2.46±0.22個の顆粒が誘導されていた。バックグラウンドを相対的に低くするために、5つを超える顆粒を含むHeLa細胞を、「HSF1顆粒陽性細胞」と定義した。HSF1核発色強度CV、HSP70顆粒カウント及びHSP70顆粒面積の閾値も、DMSO処理サンプルの平均プラス2又はそれ以上の標準偏差に相当するゲート値が選択された(図2B〜D)。
【0147】
更に、HCS顆粒アッセイは、Sciclone液体操作システム(Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA)を用いた自動高効率オペレーションにおいて検証された。20枚のHCSアッセイプレートから取ったセラストロール処理サンプルを集めてZ’値を計算すると0.62であり、これは、ロボット的アッセイを実施するのに妥当であることを示している。Sciclone ALH3000におけるHCS顆粒アッセイの性能の評価では、HSF1顆粒カウントを使用して、図3に示す第一のスクリーニングデータが得られた。HSF1顆粒陽性細胞は、狭いCV(7.94%)で平均59.36%±4.71%であり、これに対してDMSO対照は、8.17%±2.00%であった。セラストロールのシグナル対ノイズ比は7.13で、これは、41℃でヒートショックを行ったとき、アッセイ窓が顕著に改善される(43℃との比較、データ無し)ことを示唆する。
【0148】
図4A及び4Bは、HSF1及びHSP70を誘導するセラストロール及び化合物AのEC50値を提供する。HSF1のEC50を決定する際に使用された閾値は核発色強度CVで、一方HSP70のEC50を決定する際に使用された閾値は合計顆粒面積であった。
【0149】
HSF1/HSP70誘導における化合物A及びセラストロールの動力学を比較するために、図5に図示されるように、詳細なタイムコース試験(回復時間中6時間まで)を行った。本実験において使用される濃度は、セラストロール及び化合物Aにおいてそれぞれ1μM及び10μMであり、これらは、各化合物のEC50値に近い。化合物Aは、試験された殆どの時点で、セラストロールと類似の誘導挙動を呈した。いずれの化合物も、ヒートショック後6時間にかけてHSF1ストレス顆粒を活性化しており、これは、それらの化合物が、HSPを持続的に誘導するHSF1の活性構造を維持又は安定化している可能性があることを強力に示唆する。HSP70シグナルは、ヒートショック1時間後にピークを有し、そしてヒートショック後6時間まで、相対的に高いレベル(〜25%陽性染色細胞)を維持していた。HSP70が持続的に発現することによって、ミスフォールディングしたタンパク質の保護領域(protection window)が拡張する。
【0150】
実施例2:OGDストレスにおける、HSF1/HSP70応答でのスクリーニングでヒットした化合物の評価
これらの実験において、前記MaCRA HSF1活性化因子のスクリーニングでヒットした化合物を、試験化合物のSHSY5Y細胞に対する細胞保護効果を測るための、第二の酸素グルコース除去(OGD)アッセイにおいて試験する。コラーゲンIでプレコートした96ウェルプレート(BD Biosciences, San Diego, CA)に、25000細胞/ウェルの密度でSHSY5Y細胞をプレーティングし、完全培地(Neural Basal Medium, Invitrogen, Carlsbad, CA)中で16〜24時間培養した。OGDの誘導において、細胞を、グルコース又は血清を含まない、予め酸素を除去した培地で2回洗浄した。所望の濃度の選択された化合物をストレスの1時間前に添加し、そしてプレートを、モジュラーインキュベーターチャンバー中に置いた(Billups−Rothenberg, Del Mar, CA)。該チャンバーを、室温の95% N2/5% CO2のガス混合物で、10L/分の流速で30分間還流した。特殊なO2電極を使用して残留酸素(O2)濃度がモニタリングされ、最終的な酸素濃度は1%未満であった。還流の後、チャンバーを密封し、そして37℃のインキュベーター中で28時間維持した。OGD実験の後、酸素欠乏又は低酸素症の指標である、HIF1αの誘導を確認するために、免疫染色が実施された。全ての液体操作手順はSciclone ALH3000 (Caliper Life Science, Hopkinton, MA)を使用して行われ、良好な再現性が達成された。細胞の生存率は、MTSアッセイ(下記)を使用して測定された。OGD実験は、図7に記載されるように、DMSO(対照)使用と比較して、化合物Aで処理された細胞において、顕著な細胞保護効果が認められることを示した。
【0151】
実施例3:ロテノンモデルにおける、HSF1/HSP70応答でのスクリーニングでヒットした化合物の発展(Evolution)
この実験において、前記MaCRA HSF1活性化因子のスクリーニングでヒットした化合物を、試験化合物のSHSY5Y細胞に対する細胞保護効果を測るための、第二のロテノンアッセイにおいて試験する。パーキンソン症のロテノンモデルは、タンパク質凝集により誘導される細胞毒性を研究するためのインビトロ系である。ミトコンドリア阻害剤であるロテノンは、α−シヌクレイン(synuclein)の発現を増大させ、やがて、Lewy小体と類似の細胞質内容物を形成することが報告されている。Greenamyre et al., Parkinsonism Relat. Disord., Suppl 2:S59−S64 (2003)を参照されたい。故に、HSF1/HSP70 MaCRAスクリーニングのヒットの細胞保護効果を評価するために、このインビトロ系が採用され、Sherer et al., J. Neuroscience, 23(34):10756−10764, 2003に本質的に記載されるように実行される場合がある。このデータは、100nMのロテノンで24時間処理すると、42%を超えるSH−SY5Y細胞が死滅することを示す。しかしながら、2.5μMの化合物Aで前処理されたSH−SY5Y細胞の細胞生存率は、DMSO対照処理細胞と比較して、29%増大した。要するに、HSF1/HSP70スクリーニングで同定された小分子HSF1/HSP70増幅因子は、恐らくHSF1/HSP70増幅のメカニズムを通じての、細胞保護の効能により、2つの異なるストレス条件から、細胞を救済することが出来る。
【0152】
実施例4:亜最大加熱ストレス条件でのMaCRAアッセイの開発
実験1:これらの実験は、ヒートショックの温度や回復時間等のアッセイのパラメーターを最適化するために実施された。HeLa細胞は、アッセイ評価用の96ウェルプレート中で、0.33%DMSOにより処理された(実施例4、下記実験3参照)。該サンプルに、39℃、2時間、回復時間無しでヒートショックを行い、そして別のサンプルの群(96ウェルプレート)に、41℃、2時間、回復時間無しでヒートショックを行った。セラストロールを陽性対照とした。図9に示すように、ヒートショックが41℃、2時間、回復時間無しで行われたとき、39℃のヒートショックの場合と比較して、多くの陽性のヒットが検出された。
【0153】
実験2:HeLa細胞を0.33%DMSOで前処理し、そして該サンプルを、以下の:(1)43℃、2時間、回復時間2時間;(2)43℃、2時間、回復時間無し;(3)43℃、1時間、回復時間無し;及び(4)43℃、1時間、回復時間2時間;のいずれかのヒートショック条件で処理した。図10に示すように、HSP70のCV値は25%を超え、これは定量に適しない。また、このデータは、ヒートショック(43℃、1時間)により、回復時間無しでは平均で核あたり6.83個のHSF1ストレス顆粒を誘導し一方、2時間の回復時間を設けた場合、誘導されたHSF1ストレス顆粒は平均で核あたり6.38個であったことを示す。DMSO処理サンプルにおける両方のHSF1ストレス顆粒カウントの値は、陽性対照処理サンプルのものに非常に近く(6.56)、ゆえに、43℃で1又は2時間、回復時間有り又は無しのヒートショック条件は、化合物のスクリーニングに最適の条件ではない。
【0154】
実験3:HeLa細胞を8000細胞/ウェルの密度で96ウェルアッセイプレート(Costar 3904)に播種し、化合物処理の前に約16〜24時間培養した。続いて、該細胞をDMSOで処理した。DMEM中での化合物の全体の希釈は200倍であり、最終的なスクリーニング用の濃度は30μMとなり、そしてこれを、EC5O決定のために、10μM〜0.1μMの濃度範囲内で連続希釈した(アッセイポイントを10個設けた)(DMSOの最終濃度は0.3%v/v)。ヒートショックは、41℃、2時間、回復時間無しで実行された。ヒートショックの直後、50μLの16%パラホルムアルデヒドを培養培地と混合(合計体積150μL)して、最終濃度を4%とした。プレートを室温で30分インキュベートして、そしてPBSで洗浄した。0.2%Triton X−1OOのPBS溶液で30分間処理して、細胞膜を易透化(Permeablization)した。PBSで3回洗浄した後、プレートに室温で5%FBS/PBSを80μL添加して、1時間置いた。抗体染色のために、1%FBS/PBSで1:500に希釈した抗HSF1及び抗HSP抗体をプレートに添加した。プレートを、室温で2時間、又は4℃で一昼夜インキュベーションした。最後に、プレートに、FITC又はローダミンでラベルした二次抗体及びDAPIの混合物を、それぞれ最終濃度が1:5000(DAPI、5mg/mL)、1:500(FITC/ローダミンラベル抗ウサギ二次抗体)となるように添加した。室温で1時間置いた後、プレートをPBSで洗浄して、4℃で保存した。
【0155】
プレートの移動を自動化するために、Twister II (Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA)と一体化したINcell 1000 (GE Healthcare, Piscataway, NJ)を使用して、画像取得及び解析が実施された。画像取得の設定は、以前記載(20)したように、DAPIにおいて500ms、FITC又はローダミンにおいて100msで、ウェルあたり3回撮像した。画像解析は、Workstation 3.6のMulti Target Analysisモジュールを使用して実施された。HSF1/HSP70顆粒カウント、顆粒面積及び核発色強度CVにおけるアルゴリズムは、アッセイ条件及び使用説明書に従い設計及び最適化された。EC50値及び曲線の当てはめは、Prism 4.0 (GraphPad Software, San Diego, CA)及び非線形回帰解析を使用して実施された。
【0156】
そして、陽性染色細胞は、顆粒カウントアッセイを使用して決定された。図11は、本実験における、HSF1及びHSP70顆粒カウントの評価を示す。
【0157】
実験4:96ウェルフォーマットのHeLa細胞(上記実施例3参照)を0.33DMSOで前処理し、そして41℃2時間、回復時間無しでヒートショックを行った。そして、陽性染色HSF1及びHSP70細胞を、顆粒発色強度CV及び顆粒面積を使用して測定した。図12に、この実験の結果を示す。また、表1は、このデータを表形式でまとめたものであり、41℃2時間、回復時間無しで温度上昇ストレスに晒したときの、HSF1顆粒の変数、HSP70顆粒の変数、HSF1発色強度CVの変数におけるCV値を示している。
【0158】
実施例5:細胞保護及び細胞毒性−第二のアッセイ
これらの実験は、HSF1/HSP70誘導において見られる効果が細胞保護に転化され得るか否かを判定するために実行された。WEHI又はHEK293細胞を15000細胞/ウェルの密度で培養し、これをスクリーニング化合物で72時間処理した。15000細胞/ウェルの密度のWEH1又はHEK293細胞を前記スクリーニング化合物で処置した。陽性対照として、タキソール(500nM)及びスタウロスポリン(500nM)を使用した。陰性対照として、DMSOを使用した。72時間後、MTS/PES(生存細胞中でのみ活性のミトコンドリアデヒドロゲナーゼの基質)を用いて、細胞の生存率を測定した。IC50の数値を以って、細胞毒性を誘導した化合物を判定した(図17A及び17E参照)。
【0159】
HSF1/HSP70誘導において見られる効果が細胞保護に転化され得るか否かを判定するための第二のアッセイとして、MG−132アッセイが使用された。12000細胞/ウェルの密度のSK−N−SH細胞を、化合物で処理した。30分後、細胞に5μMのMG−132を添加して、24時間インキュベーションした。この実験の陽性及び陰性対照はそれぞれCYT492及びDMSOとした。24時間後、製造元(Perkin−Elmer)の説明書に従い、ATPliteを使用して、細胞生存率を測定した。EC50値を以って、MG−132誘導性の細胞死から細胞を保護する化合物を判定した(図17A、17D及び17E参照)。
【0160】
実施例6:ツニカマイシンERストレスモデル
この実験は、HSF1/HSP70アッセイのスクリーニングでヒットした化合物が、ERストレスを負ったツニカマイシン処理細胞を保護又は救済することが出来るか否かを試験するために行われる。図13に示すデータを得るために使用した手順は、本質的には、Boyce et al., Science, 307:935−939 (2005)又はYung et al., The FASEB Journal, 21 :872−884 (2007)に記載のものと同様である。具体的には、様々な時点で、培養細胞に、最終濃度10μMの化合物Bを添加した。PC12細胞は、750μg/mLのツニカマイシン処理で、ERストレスを誘導することが出来た。生存細胞は、ATPlite (Perkin Elmer, Waltham, MA)を使用して測定することが出来た。図13に示されるように、化合物Bは、ツニカマイシンにより誘導されるERストレスからPC−12細胞を保護する。
【0161】
実施例7:シャペロンHSF1共誘導因子
この試験は、非ストレス細胞中のHSF1顆粒陽性細胞の増大と、セラストロール又は化合物Aの濃度の増大との関係を比較するために行われた。8000細胞/ウェルのHeLa細胞を、段階的に濃度を増大させる(0.78μM〜35μM)セラストロール又は化合物Aで処理し、そして37℃で3時間インキュベーションした。50μLの16%パラホルムアルデヒドを培養培地と混合(合計体積150μL)して、最終濃度を4%とした。プレートを室温で30分インキュベートして、そしてPBSで洗浄した。0.2%Triton X−1OOのPBS溶液で30分間処理して、細胞膜を易透化した。PBSで3回洗浄した後、プレートに室温で5%FBS/PBSを80μL添加して、1時間置いた。抗体染色のために、1%FBS/PBSで1:500に希釈した抗HSF1及び抗HSP抗体をプレートに添加した。プレートを、室温で2時間、又は4℃で一昼夜インキュベーションした。最後に、プレートに、FITC又はローダミンでラベルした二次抗体及びDAPIの混合物を、それぞれ最終濃度が1:5000(DAPI、5mg/mL)、1:500(FITC/ローダミンラベル抗ウサギ二次抗体)となるように添加した。室温で1時間置いた後、プレートをPBSで洗浄して、4℃で保存した。
【0162】
画像取得及び解析は、INcell 1000を使用して行われた。図14Cに示されるように、化合物Aは、セラストロールと対照的に、非ストレス細胞において、HSF1陽性顆粒を有意に刺激しない。
【0163】
実施例8:カウンタースクリーニングHSP90 ATPアーゼアッセイによる、HSP90の阻害に作用する化合物のモニタリング
この実験は、MaCRAスクリーニングでヒットした化合物がHSP90 ATPアーゼ活性を阻害するか否かを試験するために行われた。2.5μgのHSP90(St9細胞から精製した)を、10μMのラジシコール及び50μMの化合物A〜Gのいずれかで、37℃で3時間処理した。DiscoveRx (Fremont, CA)のADPクエストキットを使用して、ATPアーゼ活性を測定した。図15に示されるように、MaCRAスクリーニングでヒットしたものとして同定された上記の様々な化合物は、HSP90のATPアーゼ活性を有意に阻害しない。従って、それらのHSF1及びHSP70陽性顆粒形成に対する効果は、HSP90阻害から独立している。
【0164】
実施例9:HSF1+HSP+共誘導因子を同定するスクリーニングの方策
上記で詳述した実験に基づき、第一のHSF1/HSP70顆粒アッセイ並びに細胞保護及び細胞毒性をそれぞれ同定する第二のMG−132及びMTSアッセイを使用して、4000個の化合物がスクリーニングされた。データの多元的解析は、Spotfire DecisionSite (TIBCO Spotfire, Somerville, MA)を使用して、HSF顆粒陽性細胞%において20%超(HSF1+)、HSP顆粒陽性細胞%において30%超(HSP+)、MG132アッセイにおける生存細胞の増大%において30%超、及びMTSアッセイにおける阻害%において20%未満をカットオフ値として、実施された。各スクリーニングのデータは、図17B、17C及び17Dに示される。図17A及び17Eは、4000個の化合物のスクリーニングから得たデータの多元的集合(multidimensional compilation)を表す。
【0165】
表2〜4は、本発明の方法に従い第一及び第二のアッセイにおいて同定した選択化合物のデータをまとめた表であり、これらの化合物は、上記のように、HSF1+HSP+(A)、HSFl−HSP+(B)、及びHSFl−HSP−(C)のカテゴリーに分けられる。
【0166】
実施例10:セラストロール対照を用いての384ウェルフォーマットへの転換
ViewPlate−384アッセイプレートに適切な密度でHeLa細胞を播種し、化合物処理の前に、16〜24時間培養した。続いて、細胞をセラストロール(対照)又はスクリーニング化合物で処理した。DMEM中での化合物の全体の希釈は200倍であり、最終的なスクリーニング用の濃度は30μMとなり、そしてこれを、EC5O決定のために、10μM〜0.1μMの濃度範囲内で連続希釈した(アッセイポイントを10個設けた)(DMSOの最終濃度は0.3%v/v)。43℃、2時間、回復時間無しで実行されたヒートショックの直後、25μLの16%パラホルムアルデヒドを培養培地と混合(合計体積75μL)して、最終濃度を4%とした。プレートを室温で30分インキュベートして、そしてPBSで洗浄した。0.2%Triton X−1OOのPBS溶液で30分間処理して、細胞膜を易透化した。PBSで3回洗浄した後、プレートに室温で5%FBS/PBSを20μL添加して、1時間置いた。抗体染色のために、1%FBS/PBSで1:500に希釈した抗HSF1及び抗HSP抗体をプレートに添加した。プレートを、室温で2時間、又は4℃で一昼夜インキュベーションした。最後に、プレートに、FITC又はローダミンでラベルした二次抗体及びDAPIの混合物を、それぞれ最終濃度が1:5000(DAPI、5mg/mL)、1:500(FITC/ローダミンラベル抗ウサギ二次抗体)となるように添加した。室温で1時間置いた後、プレートをPBSで洗浄して、4℃で保存した。
【0167】
プレートの移動を自動化するために、Twister II (Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA)と一体化したINcell 1000 (GE Healthcare, Piscataway, NJ)を使用して、画像取得及び解析が実施された。画像取得の設定は、DAPIにおいて500ms、FITC又はローダミンにおいて100msで、ウェルあたり3回撮像した。画像解析は、Workstation 3.6のMulti Target Analysisモジュールを使用して実施された。HSF1/HSP70顆粒カウント、顆粒面積及び核発色強度CVにおけるアルゴリズムは、アッセイ条件及び使用説明書に従い設計及び最適化された。EC50値及び曲線の当てはめは、Prism 4.0 (GraphPad Software, San Diego, CA)及び非線形回帰解析を使用して実施された。このスクリーニングの結果は、図18に示される。
【0168】
実施例11:HSF1ノックダウン例
実験1:HeLa細胞に、25nMのHSF1 siRNA、スクランブルsiRNA又はトランスフェクション対照を48時間トランスフェクションし、続いて43℃で2時間ヒートショックを加え、又は加えなかった。ウェスタンブロット実験により、ローディング対照のGAPDHと比較しての、HSF1及びスクランブルのノックダウンを比較した。及び柱状図を示す。柱状図中の柱において示されるように、HSF1及びHSP70の発現は、減少する。
【0169】
実験2:HeLa細胞に、25nMのHSF1 siRNA、スクランブルsiRNAをトランスフェクションし、48時間のインキュベーションに付した。続いてこの細胞を25μMの化合物B又はDMSO対照で処理した後、41℃で2時間ヒートショックを行い、又は行わなかった。HSF1顆粒を染色するために、免疫細胞化学実験を行った。(Zhang et al., J. Biomol. Screen, “High Content Image−Based Screening for Small Molecule Chaperone Amplifiers in Heat Shock”, In Press, (2008)を参照されたい)。画像取得は、対物10xのINcell 1000を使用して行われ、これらを図20に示す。
【0170】
実験3:HeLa細胞に、25nMのHSF1 siRNA又はスクランブル(標的無し)siRNAをトランスフェクションした。HSF1顆粒を染色するために、免疫細胞化学実験を行った(上記)。画像取得は、対物10xのINcell 1000を使用して行われた。細胞カウントは、INcell 1000 Workstation software中のMulti−Target Analysisアルゴリズムを用いて取得された(図21を参照されたい)。表5は、HSF1の共誘導因子(増幅因子)としても同定されたHSF1+HSP70+カテゴリーの9個の独立したヒットを使用して、そのようなsiRNAノックダウン実験を行って得たデータをまとめたものを示す。表2に示されるように、各化合物が、HSF1依存的活性化因子である。
【0171】
実験4:SK−N−SH細胞に、10、25又は50nMのHSF1 siRNA、GAPDH siRNA(対照)及びスクランブルsiRNA(対照)をトランスフェクションした。この細胞を、siRNAのトランスフェクション(Hiperfect試薬を使用)の48時間後に回収した。ウエスタンブロットは、抗HSF1及び抗GAPDH(ローディング対照)を使用して(図22A及び22B)、又は抗HSP70及び抗GAPDHを使用して(図22C)実施された。画像の強度は、Li−Cor製のソフトウェアを使用して解析され、HSF1強度は、スクランブルsiRNA処理サンプルで正規化したHSF1 siRNA処理サンプルから求められた。図22A〜Bは、GAPDH siRNA(対照)及びスクランブルsiRNA(対照)に対して、10、25又は50nMのHSF1 siRNAをトランスフェクションして、MG−132アッセイに使用した、SK−N−SH細胞の、トランスフェクション時間が48時間(A)及び72時間(B)の場合のsiRNAノックダウン、並びに対応するウエスタンブロットを提供する。図22C中のウエスタンブロットは、GAPDH siRNA(対照)及びスクランブルsiRNA(対照)と比較しての、10、25又は50nMのHSF1 siRNAトランスフェクション後48時間の、HSP70に対する効果を示す。
【0172】
実験5:SK−N−SH細胞に、50nMのHSF1 siRNA及びスクランブルsiRNAを、48時間トランスフェクションした。CYT2239、CYT2244、CYT2282又はCYT2532を添加し、30分後に5μMのMG−132で24時間処理した。生存細胞を、ATPliteキットで測定した。HSF1のノックダウンは、免疫細胞化学及び高密度イメージングにおけるHSF1核発色強度により確認した。図23A〜Dは、CYT2239(図23A)、CYT2244(図23B)、CYT2282(図23C)又はCYT2532(図23D)のいずれか1つの化合物で前処理した後、50nMのHSFl siRNA及びスクランブルsiRNAで48時間処理した場合の、MG−132アッセイにおけるSK−N−SH細胞のHSF1依存的細胞保護を示す。
【0173】
実施例12:HSF1顆粒アッセイを使用しての細胞ストレス応答の阻害因子の同定
実験1:HeLa細胞を、異なる濃度(10nM、100nM、1μM及び10μM)のトリプトリドで処理し、その後43℃で1〜4時間ヒートショックした。図24は、処理に用いられるトリプトリドの濃度の増大(10nM、100nM、1μM及び10μM)に応じた、用量依存的なHSF1顆粒形成の阻害を図示したものである。HSF1顆粒カウントは、顆粒5個/核を閾値として測定した。本明細書に記載のMeCRA法を使用して選択された様々な化合物の効果の試験に、同様のアッセイ条件が使用された。
【0174】
実験2:ヒートショックの30分前に、HeLa細胞を、1μMトリプトリド、並びに10μMのCTY975(黒色の正方形)、CTY1563(黒色の三角形)、及びCTY1590(黒色の丸)で処理した。続いて、該細胞を、43℃、1時間、回復時間0、5及び7時間でヒートショックに付した。HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値とした。図25Aは、HSP70発現の減少を示す。
【0175】
実験3:ヒートショックの30分前に、HeLa細胞を、1μMトリプトリド、並びに10μMのCTY975(黒色の正方形)、CTY1563(黒色の三角形)、及びCTY1590(黒色の丸)で処理した。続いて、該細胞を、43℃、2時間、回復時間0、4又は6時間でヒートショックに付した。HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値とした。図25Bは、HSP70発現の減少を示す。
【0176】
実験4:ヒートショックの30分前に、HeLa細胞を、1μMトリプトリド、並びに10μMのCTY975(黒色の正方形)、CTY1563(黒色の三角形)、及びCTY1590(黒色の丸)で処理した。続いて、該細胞を、43℃、3時間、回復時間0、3又は5時間でヒートショックに付した。HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値とした。図25Cは、HSP70発現の減少を示す。
【0177】
実験5:ヒートショックの30分前に、HeLa細胞を、1μMトリプトリド、並びに10μMのCTY975(黒色の正方形)、CTY1563(黒色の三角形)、及びCTY1590(黒色の丸)で処理した。続いて、該細胞を、43℃、4時間、回復時間0、2又は4時間でヒートショックに付した。HSP70の核及び細胞の発色強度の合計を閾値とした。図25Dは、HSP70発現の減少を示す。
【0178】
実施例13:トリプトリド及びスクリーニングヒット化合物の96ウェルプレート評価
実験1:トリプトリド(黒色の正方形)、CYT1563(黒色の三角形)及びDMSP(黒色の菱形、対照)により誘導されるHSF1顆粒形成を、43℃、2時間、回復時間無しのヒートショックの後に、96ウェルプレートフォーマット(実施例4を参照されたい)で評価した。図26Aは、HSF1の阻害を示す。
【0179】
実験2:トリプトリド(黒色の正方形)、CYT1563(黒色の三角形)及びDMSO(黒色の菱形、対照)により誘導されるHSF1顆粒形成を、43℃、4時間、回復時間4時間のヒートショックの後に、96ウェルプレートフォーマット(実施例4を参照されたい)で評価した。図26Bは、HSF1の阻害を示す。
【0180】
実験3:トリプトリド(黒色の正方形)、CYT1563(黒色の三角形)及びDMSO(黒色の菱形、対照)により誘導されるHSP70顆粒形成を、43℃、2時間、回復時間4時間のヒートショックの後に、96ウェルプレートフォーマット(実施例4を参照されたい)で評価した。図26Cは、HSF1の阻害を示す。
【0181】
実験4:トリプトリド(黒色の正方形)、CYT1563(黒色の三角形)及びDMSO(黒色の菱形、対照)により誘導されるHSP70顆粒形成を、43℃、4時間、回復時間4時間のヒートショックの後に、96ウェルプレートフォーマット(実施例4を参照されたい)で評価した。図26Dは、HSF1の阻害を示す。
【0182】
実施例14:96ウェルフォーマットの384ウェルフォーマットへの転換
HeLa細胞を、DMSO(黒色の菱形)又はCYT1563(10μM)(黒色の正方形)で処理し、続いて43℃、2時間、回復時間無しのヒートショックを与え、これを、384ウェルフォーマット(実施例10を参照されたい)におけるHSF1顆粒カウントを使用して試験した。Z’値及びシグナル/バックグラウンド(SfB)比を含む結果を、図27に示す。
【0183】
上記実施例は例示のみを目的として提供されるものであり、限定を意図しない。当業者は、前述の一般的な開示の範囲内で、本発明の追加的な態様が補足されることを認識し得て、そして上記非限定的な実施例は、いかなる形でも権利放棄を意図しない。
【0184】
均等
当業者は、ありふれたものに過ぎない実験を利用して、本明細書中に記載の化合物、組成物、及びそれらを使用する方法の、多くの均等なものを認識し得て、又は突き止めることが出来る。そのような均等なものは、本願請求項に記載の発明の範囲内とみなされ、本願請求項の範囲内にある。
【0185】
本願全体に引用される全ての参考文献、特許及び公開された特許文献の内容、並びにそれらに関連する図は、それらの全てが、参照により援用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートショックタンパク質(HSP)の発現の調節(modulating)を定量的に測定する高効率の方法であり:
細胞をストレスに晒し、そして
以下の1つ以上の変数:核発色強度(nuclear intensity)の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;及び(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;を測定し、又は
以下の2つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;及び(v)顆粒カウント;の組み合わせを測定する
ことを含む、前記方法。
【請求項2】
ヒートショック転写因子(HSF)の転写活性を定量的に測定する高効率の方法であり:
細胞をストレスに晒し、そして
以下の1つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;及び(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;を測定し、又は
以下の2つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;及び(v)顆粒カウント;の組み合わせを測定する
ことを含む、前記方法。
【請求項3】
ヒートショックタンパク質(HSP)の発現の調節因子を同定する高効率の方法であり:
細胞を候補化合物で処理し、
細胞をストレスに晒し、そして
以下の1つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;及び(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;を測定し、又は
以下の2つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;及び(v)顆粒カウント;の組み合わせを測定する
ことを含む、前記方法。
【請求項4】
ヒートショック転写因子(HSF)の発現の調節因子を同定する高効率の方法であり:
細胞を候補化合物で処理し、
細胞をストレスに晒し、そして
以下の1つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;及び(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;を測定し、又は
以下の2つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;及び(v)顆粒カウント;の組み合わせを測定する
ことを含む、前記方法。
【請求項5】
前記HSPがHSP70である、請求項1又は3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ストレスが、温度上昇、重金属ストレス、酸化ストレス、酸素グルコース除去(OGD)、及び奪酸素(OD)から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ストレスが酸素グルコース除去(OGD)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ストレスが温度上昇である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記温度上昇が約43℃未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記温度上昇が、約39℃〜約43℃未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記温度上昇が、41℃±約0.5℃である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記温度上昇が、43℃±約0.5℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記組み合わせが顆粒カウントを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記組み合わせが、更に核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度、又は顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組み合わせが、核発色強度のCV及び顆粒面積を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記組み合わせが、核発色強度のCV及び顆粒発色強度を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記組み合わせが、核発色強度のCV及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ストレスに晒された細胞が癌細胞由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記癌細胞が不死化細胞由来である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記癌細胞がHeLa細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記癌細胞がSHSY5Y細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記発現が、ヒートショック転写因子1(HSF1)により誘導される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記顆粒がHSPにおいて陽性の顆粒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記顆粒がHSF1において陽性顆粒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記顆粒がHSP及びHSF1において陽性の顆粒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記測定が、ストレスに晒された細胞におけるHSP発現のレベルの測定、及び該発現レベルと、該ストレスに晒されていない細胞のHSP発現のベースラインレベルとを比較することによる、ストレス曝露に関連するHSP発現の変化の定量的測定を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記ストレス曝露に関連するHSP発現が、発現のベースラインレベルを上回るHSP発現の増大である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ストレス曝露に関連するHSP発現が、発現のベースラインレベルを下回るHSP発現の減少である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記HSP発現のベースラインレベルが外部から変化させられる、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記HSFがHSF1である、請求項2又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記候補化合物がタンパク質である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記候補化合物が小分子である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記候補化合物が核酸部分である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記候補化合物が、HSF1活性化因子、HSF1共誘導因子(co−inducer)、HSF1阻害因子、又はHSF1共阻害因子(co−inhibitor)である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
HSP及び/又はHSFの活性化因子を同定するために行われ、前記ストレスが温度上昇であり、そして該温度上昇が41℃±約0.5℃である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
HSP及び/又はHSFの阻害因子を同定するために行われ、前記ストレスが温度上昇であり、そして該温度上昇が43℃±約0.5℃である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
生理的ストレスに伴う疾患、症状又は兆候の処置に有用である、請求項3、4、又は31〜36のいずれか1項に記載の方法により同定される調節因子。
【請求項38】
温度上昇により複数の細胞サンプルにヒートショックストレスを誘導する装置であり;プレート、及び該プレートを加熱する熱源を備え、該プレートが、該複数の細胞サンプルに均一に熱を伝導させる、前記装置。
【請求項39】
前記プレートが金属プレートである、請求項38に記載の装置。
【請求項40】
前記金属プレートがアルミニウムプレートである、請求項39に記載の装置。
【請求項41】
前記金属プレートが、複数の細胞サンプル中の各細胞サンプルと直接接触する、請求項39に記載の装置。
【請求項1】
ヒートショックタンパク質(HSP)の発現の調節(modulating)を定量的に測定する高効率の方法であり:
細胞をストレスに晒し、そして
以下の1つ以上の変数:核発色強度(nuclear intensity)の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;及び(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;を測定し、又は
以下の2つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;及び(v)顆粒カウント;の組み合わせを測定する
ことを含む、前記方法。
【請求項2】
ヒートショック転写因子(HSF)の転写活性を定量的に測定する高効率の方法であり:
細胞をストレスに晒し、そして
以下の1つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;及び(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;を測定し、又は
以下の2つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;及び(v)顆粒カウント;の組み合わせを測定する
ことを含む、前記方法。
【請求項3】
ヒートショックタンパク質(HSP)の発現の調節因子を同定する高効率の方法であり:
細胞を候補化合物で処理し、
細胞をストレスに晒し、そして
以下の1つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;及び(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;を測定し、又は
以下の2つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;及び(v)顆粒カウント;の組み合わせを測定する
ことを含む、前記方法。
【請求項4】
ヒートショック転写因子(HSF)の発現の調節因子を同定する高効率の方法であり:
細胞を候補化合物で処理し、
細胞をストレスに晒し、そして
以下の1つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;及び(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;を測定し、又は
以下の2つ以上の変数:核発色強度の変動係数(CV);(ii)顆粒面積;(iii)顆粒発色強度;(iv)顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率;及び(v)顆粒カウント;の組み合わせを測定する
ことを含む、前記方法。
【請求項5】
前記HSPがHSP70である、請求項1又は3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ストレスが、温度上昇、重金属ストレス、酸化ストレス、酸素グルコース除去(OGD)、及び奪酸素(OD)から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ストレスが酸素グルコース除去(OGD)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ストレスが温度上昇である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記温度上昇が約43℃未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記温度上昇が、約39℃〜約43℃未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記温度上昇が、41℃±約0.5℃である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記温度上昇が、43℃±約0.5℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記組み合わせが顆粒カウントを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記組み合わせが、更に核発色強度のCV、顆粒面積、顆粒発色強度、又は顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組み合わせが、核発色強度のCV及び顆粒面積を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記組み合わせが、核発色強度のCV及び顆粒発色強度を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記組み合わせが、核発色強度のCV及び顆粒発色強度のバックグラウンド発色強度に対する比率を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ストレスに晒された細胞が癌細胞由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記癌細胞が不死化細胞由来である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記癌細胞がHeLa細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記癌細胞がSHSY5Y細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記発現が、ヒートショック転写因子1(HSF1)により誘導される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記顆粒がHSPにおいて陽性の顆粒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記顆粒がHSF1において陽性顆粒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記顆粒がHSP及びHSF1において陽性の顆粒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記測定が、ストレスに晒された細胞におけるHSP発現のレベルの測定、及び該発現レベルと、該ストレスに晒されていない細胞のHSP発現のベースラインレベルとを比較することによる、ストレス曝露に関連するHSP発現の変化の定量的測定を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記ストレス曝露に関連するHSP発現が、発現のベースラインレベルを上回るHSP発現の増大である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ストレス曝露に関連するHSP発現が、発現のベースラインレベルを下回るHSP発現の減少である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記HSP発現のベースラインレベルが外部から変化させられる、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記HSFがHSF1である、請求項2又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記候補化合物がタンパク質である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記候補化合物が小分子である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記候補化合物が核酸部分である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記候補化合物が、HSF1活性化因子、HSF1共誘導因子(co−inducer)、HSF1阻害因子、又はHSF1共阻害因子(co−inhibitor)である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
HSP及び/又はHSFの活性化因子を同定するために行われ、前記ストレスが温度上昇であり、そして該温度上昇が41℃±約0.5℃である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
HSP及び/又はHSFの阻害因子を同定するために行われ、前記ストレスが温度上昇であり、そして該温度上昇が43℃±約0.5℃である、請求項3又は4のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
生理的ストレスに伴う疾患、症状又は兆候の処置に有用である、請求項3、4、又は31〜36のいずれか1項に記載の方法により同定される調節因子。
【請求項38】
温度上昇により複数の細胞サンプルにヒートショックストレスを誘導する装置であり;プレート、及び該プレートを加熱する熱源を備え、該プレートが、該複数の細胞サンプルに均一に熱を伝導させる、前記装置。
【請求項39】
前記プレートが金属プレートである、請求項38に記載の装置。
【請求項40】
前記金属プレートがアルミニウムプレートである、請求項39に記載の装置。
【請求項41】
前記金属プレートが、複数の細胞サンプル中の各細胞サンプルと直接接触する、請求項39に記載の装置。
【図1A−B】
【図1C−D】
【図2A−B】
【図2C−D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図17E】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図24】
【図25A】
【図25B】
【図25C】
【図25D】
【図26A】
【図26B】
【図26C】
【図26D】
【図27】
【図1C−D】
【図2A−B】
【図2C−D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図17E】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図24】
【図25A】
【図25B】
【図25C】
【図25D】
【図26A】
【図26B】
【図26C】
【図26D】
【図27】
【公表番号】特表2011−523710(P2011−523710A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512476(P2011−512476)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/003401
【国際公開番号】WO2009/148608
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(311007590)
【出願人】(311007604)
【出願人】(311007589)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/003401
【国際公開番号】WO2009/148608
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(311007590)
【出願人】(311007604)
【出願人】(311007589)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]