説明

ヒートパイプを備えた燃料運搬部材

ガスタービンエンジン(10)における燃料運搬部材(22,26)は、燃料運搬部材(22,26)の燃料流路(40)と熱伝達連通して配置されたヒートパイプ(50)を備え、ヒートパイプ(50)によって、熱が燃料流路(40)の高温領域から低温領域に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、ガスタービンエンジンまたは同様の機器における燃料運搬部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンおよび他の高温機器内に用いられる燃料運搬通路、導管およびマニホールドなど、特に燃焼器に隣接して配置される構成要素は高温に曝される。エンジンケーシングの上側領域に配置される燃料通路の部分は、いくつかの要因、例えば、エンジン停止後の温風の滞留などによって、特に過熱される傾向にある。温度が高くなり過ぎると、これらの燃料運搬部材内において燃料が分解され、通路内に炭素またはコークスが堆積して、燃焼器の燃料分配が低下し、その結果、エンジンの寿命に悪影響が及ぶ恐れがある。従って、これらの堆積物を取り除くために、燃料流路を周期的に清浄化しなければならない。
【0003】
そのため、改良された燃料運搬部材を有するガスタービンエンジンが必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、改良されたガスタービンエンジン用の燃料運搬部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明は、ガスタービンエンジン内部燃料マニホールドであって、少なくとも1つの燃料流路と、燃料マニホールドに取り付けられた少なくとも1つのヒートパイプと、を備え、ヒートパイプが、前記燃料流路の高温領域からエンジンの低温領域に熱を伝達するように適合されることを特徴とするガスタービンエンジン内部燃料マニホールドを提供する。
【0006】
他の態様では、本発明は、ガスタービンエンジンにおける燃料運搬部材であって、高温領域および低温領域を有する少なくとも1つの燃料流路と、前記燃料流路と熱伝達連通して配置され、前記高温領域と前記低温領域との間に延びるヒートパイプと、を備えることを特徴とする燃料運搬部材を提供する。
【0007】
さらに他の態様では、本発明は、燃料を燃焼器に供給する燃料システムを備えるガスタービンエンジンであって、燃料システムが、該システムに取り付けられた燃料マニホールドを備え、内蔵式の熱伝達手段が、前記燃料マニホールドの高温領域から低温領域に熱を受動的に伝達させるために、燃料マニホールド内に配置されることを特徴とするガスタービンエンジンを提供する。
【0008】
本発明の上記および他の態様の詳細は、以下の詳細な説明および添付の図面から明らかになるだろう。
【0009】
本発明の態様を示す添付の図面については、後で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、好ましくは亜音速飛行に用いられる形式のガスタービンエンジン10を示している。このガスタービンエンジン10は、一般的に、流れの順に、周囲空気を推進するファン12と、この空気を加圧する多段圧縮機14と、圧縮された空気を燃料と混合させ、点火し、高温の燃焼ガスの環状流れを生じさせる燃焼器16と、燃焼ガスからエネルギーを抽出するタービンセクション18と、を備える。
【0011】
燃料は、燃料システム20によって、ガスタービンエンジン10の燃焼器16内に噴射される。燃料システム20は、燃料源(図示せず)および少なくとも1つの燃料運搬部材、例えば、内部マニホールドリング22を備える。内部マニホールドリング22は、燃料を圧縮機14からの圧縮空気と混合して得られた混合物を点火させる燃焼器16内に、燃料を噴射するように操作可能である。ファン12、圧縮機14、燃焼器16およびタービン18は、好ましくは、全て、ガスタービンエンジン10の長手方向の共通中心軸11を中心として同軸である。
【0012】
図2を参照すると、前述したように、燃料噴射システム20は、燃料が内部を通って流れる少なくとも1つの燃料運搬部材を備える。例示的な実施形態では、この燃料システムは、ガスタービンエンジン10内の燃焼器16に隣接して配置された環状の内部マニホールドリング22を有する噴射システムを備える。燃料マニホールドリング22は、好ましくは、燃焼器16または周囲の支持構造(典型的には、エンジンケース)に、係合するピン(図示せず)を受ける複数の一体化された取付ラグ24を介して取り付けられる。これによって、好ましくは、高温における燃料マニホールドリング22の熱膨張を許容する取付機構がもたらされる。燃料マニホールドリング22の周囲には、複数の燃料噴射ノズルアッセンブリ26が配設される。燃料ノズルアッセンブリ26は、燃料を圧縮空気と混合して点火させるように、燃料を燃焼器内に噴霧化して噴射する。燃料は、燃料入口30を介して環状の燃料マニホールドリング22に流入し、燃料流が燃料ノズルアッセンブリ26の各々に供給されるように、マニホールドリング22内で分配される。
【0013】
図3を参照すると、流れ線74によって描かれた燃料流を示した概略的な燃料マニホールドリング22が図示されている。燃料流は、好ましくはマニホールドの底部における入口30から流入して、この入口30と直径方向において実質的に対向するマニホールドの上端部における最上点76に向かって、マニホールドリング22を上方へと循環する。燃料は、マニホールドリング22を通って上方に循環する際に、マニホールドの燃料流路からマニホールドの周囲の燃料噴射器(図3には図示せず)内に引き込まれ、燃焼室内に噴射される。従って、マニホールドを通る燃料流は、マニホールドの底部70付近で最も多く、マニホールドの上部72に向うにしたがって減少し、最上部に至るまでにほとんどの燃料が排出される。このような燃料流を示すように、図面では、マニホールドの上部36よりもマニホールドの底部34において燃料の流れ線74が多くなっている。従って、入口30からマニホールド22へと比較的低温の燃料が大量に流入するため、入口30に隣接するマニホールドの底部70は、マニホールドにおける燃料流路の内壁を対流冷却するには通常は十分な、この領域を通る相対的に多くの燃料流によって、比較的低い温度に保たれる傾向にある。しかし、実質的にマニホールドの上部72に達する燃料がかなり少ないため、燃料流によって得られるマニホールドの上部領域72における対流冷却の程度が減少する。より少ない燃料流がこの一因である。従って、この領域は、マニホールドの下部よりも比較的高温になる傾向にある。その結果、この理由および他の理由から、先行技術では、マニホールドリングの上部領域が過熱されてしまう。
【0014】
従って、本発明によれば、燃料マニホールドリング22は、燃料マニホールドにおけるあらゆる特定領域の過熱を最小限に抑えるように、受動的な冷却手段を備える。
【0015】
燃料マニホールドリング22および燃料噴射ノズルアッセンブリ26は、燃料運搬部材として作用し、本発明によれば、これらの少なくとも一方の内部に、燃料運搬部材の高温領域から低温領域へと熱を受動的に伝達する熱伝達装置50が配設される。前述したように、燃料マニホールド22の上部72は、下部70と比べて通流する燃料の量が少ないため対流冷却の程度が低い。この問題を軽減するように、熱伝達装置50は、上部72の領域から、より多くの燃料流によって燃料流路40の壁部からより多くの熱が吸収される低温の下部70へと熱を伝達することによって上部72の領域を冷却する手段を付与する。
【0016】
次に、燃料マニホールド22および対応する燃料噴射器アッセンブリ26を備える燃料運搬部材を示した図4の実施例を詳細に参照すると、燃料噴射システム20の燃料マニホールドリング22および燃料ノズルアッセンブリ26の内部構造が図示されている。特に、燃料ノズルアッセンブリ26は、好ましくは、燃料マニホールドリング22から外側に向かって、軸方向に(すなわち、ガスタービンエンジン10の長手方向の中心軸11に対して略平行に(図1参照))突出している。燃料ノズルアッセンブリ26は、中央本体部31を備えており、この中央本体部31に画定された中心噴霧先端開口33の周囲で中央本体部31から空気旋回ベーン32が突出し、中心噴霧先端開口を介して燃料が燃料ノズルアッセンブリ26から流出する。内側燃料ノズル部36により、該ノズル部内を通る中心燃料通路35が画定され、この中心燃料通路35は、燃料流路40と噴霧先端開口33との間に延びている。好ましくは、内側燃料ノズル部36は、ノズルアッセンブリの中央本体部31に、これらの間にシールを付与する局部的なロウ付け取付部によって、係合する。好ましくは、内側燃料ノズル部36の中心燃料通路35内に、燃料スワラ34が設けられる。ノズルアッセンブリ26は、所望により、本出願人による米国特許第6,082,113号明細書に従って作製されてもよい。この特許は、参照により本願に含まれるものとする。
【0017】
中央本体部31は、後方本体部38を備え、この後方本体部38は、燃料マニホールドリング22内に突出し、少なくとも部分的に燃料流路40を燃料マニホールドリング22内に画定する。燃料流路40は、内壁41内に画定され、好ましくは、燃料マニホールドリング22内に設けられた環状の通路を画定する。後方本体部38の開放端部において、後方シールプレート42が、後方本体部38の後壁に固定されるか、あるいは隣接して配置され、これによって、マニホールドの燃料流路40が密封される。好ましくは、後方シールプレート42は、マニホールドリングの全周にわたって適切な位置にロウ付けされる。環状の燃料マニホールドリング22の外側には、該リングを覆う外側熱シールド23が配設される。これにより、燃料マニホールドリング22が燃焼室の高温環境から熱的に保護される。しかし、前述したように、燃料マニホールドの特定の領域(特に、燃料マニホールドの上部)は、燃料流による対流冷却が少ないため、特に高温に晒される傾向にあり、そのため熱伝達装置50を用いて冷却される。熱伝達装置50は、好ましくは、燃料マニホールドリング22に一体化され、該リングにごく隣接して配置され、図示の実施形態では、マニホールドリング22の燃料流路40を密閉するように機能する後壁を画定する本体51を備える。
【0018】
本発明によれば、熱伝達装置50は、ヒートパイプを含む。ヒートパイプは、小型の自立作動する内蔵式冷却/熱伝達手段を付与するものであり、本発明者らは、このヒートパイプが、ガスタービンエンジン内に用いられる冷却を必要とする燃料運搬部材に特に適しており、好都合には、燃料運搬部材の内部燃料マニホールドに適していることを見出している。
【0019】
ヒートパイプは、ヒートパイプに含まれる作動流体の蒸発および凝縮を利用して、熱を吸収する蒸発器から、熱を放出する凝縮器にエネルギーを伝達する装置である。ヒートパイプは、一般的に言えば、熱が蒸発器に加えられ、凝縮器から除去される際に、連続的に蒸発および凝縮される作動物質が充填される収容容器である。ヒートパイプは、一般的に、流体が沸騰するときに表面からの大量の熱を吸収する、液体の物理的な属性を活用する。作動流体は、液相から気相に変換する際、次いで蒸気から液体に戻る際に、大きな体積変化が生じる。これらの体積変化を利用して、蒸気の流れを高温領域から低温領域に推進させることができる。蒸気が通常生じる速度は、ヒートパイプ内に流れる熱の量に比例する。エネルギーを伝達するヒートパイプの能力は、チャンバ内の非凝縮性ガス種が、運転前にヒートパイプから除去されることに依存する。従って、ヒートパイプは、通常、熱伝達装置としてヒートパイプを用いる前に、部分的にまたは完全に排気される。作動流体を含むチャンバから非凝縮性ガスを排除することによって、ポンプが筐体を通して流体を移動させるのとほぼ同じように、蒸発器内で生じた蒸気は、圧力勾配に依存して凝縮器に向かって流れる。非凝縮性ガスが存在する場合、蒸発した作動物質が、濃度勾配に依存する分子拡散によって移動することがある。圧力によって推進される流れは、蒸発した作動物質を移動させるのに桁違いに効果的であることを考慮して、ヒートパイプシステムは一般的に排気される。しかし、ヒートパイプのチャンバに漏れが生じると、ヒートパイプは機能を停止する。以上は、周知のヒートパイプシステムの一般的な説明を意図している。
【0020】
本発明によれば、熱伝達装置50として設けられたヒートパイプは、ヒートパイプ内の作動流体の二相の熱伝達を活用する。この作動流体は、好ましくは、この実施形態では水であるが、他の適切な作動流体であってもよい。水が好ましい理由として、水は、都合のよい沸点および凝縮点を有し、空気および他の入手し易い液体と比べて比較的高い熱伝導率を有するためである。また、水は、安価であり、環境に悪影響を及ぼさない。従って、ヒートパイプ50の具体的な特徴は、水を作動媒体として用いる燃料マニホールド22の冷却要件と最適に適合するように設計される。さらに、当業者によって理解されるように、密封されたヒートパイプ内の圧力を、作動流体の沸点を選択的に調整するように変更してもよい。液体を適切に選択すること、および製造中にパイプ内の圧力を調整することにより、液体が沸騰する温度を制御し、凍結の懸念を避けることができる(例えば、Silverstein C. Calvin著 「Design and Technology of Heat Pipes for Cooling and Heat Exchange」、Taylor and Francis、1992年」を参照されたい。この文献は、参照により、本願に含まれるものとする)。
【0021】
図4をさらに参照すると、熱伝達装置50として設けられたヒートパイプは、本体51と、作動流体52と、ヒートパイプの本体51内に画定された通路53と、を備え、通路53内に、作動流体52、好ましくは、水が封入される。通路53は、密封され、作動流体と通路の外部の状態との間の差圧を支えることができる。好ましい実施形態では、通路53内の圧力は、作動流体(この場合は、水)の沸点が100℃未満、より好ましくは80℃未満、さらに好ましくは65℃未満となるように、製造中に設定される。当業者であれば、液体の沸点が、圧力を制御することにより調整されること、および沸点が、マニホールド22内のコーキングを低減または防止するため、ヒートパイプによる所望の冷却機能をもたらすように選択されることを理解されるであろう。従って、適切な液体の選択および製造中の圧力の調整により、液体が沸騰する温度を制御し、あらゆる作動液体の凍結の懸念にも対処することが可能となる。
【0022】
埋設されたウイック57は、好ましくは、液体水が沸騰および蒸発するヒートパイプの高温領域への液体水の循環を助長するために、ヒートパイプの少なくとも1つの内壁に隣接して配置される。この実施形態では、ウイック57は、好ましくは、通路53の3つの内壁に隣接かつ接触して配置され、これは、(以下に述べる矢印61,63によって示されるように)、液体をヒートパイプの最も高熱の部分と接触させるのに役立つ。ウイック57は、以下にさらに述べるように、「毛細管作用(ウィッキング)」により、液状の作動流体をマニホールドの下部から、マニホールドの冷却を必要とする高温の上部72に移動させることによって液状の作動流体をマニホールドの周りに循環させるのを助長する。ウイック部材57は、本開示に照らせば、当業者によって理解されるように、好ましくは、細い金属メッシュまたは細い金網、金属発泡材料、または他の適切なウイック材料を含む。
【0023】
図示した実施形態では、後方シールプレート42が、ヒートパイプ50の本体51に密着して接合され、これによって、一定量の作動流体を通路53内に封入するように通路53を密閉する。しかし、ヒートパイプが、作動流体を封入する密封されたキャビティを画定する任意の適切な構造を有するように、異なって形成される他の実施形態であってもよい。好ましくは、ヒートパイプは、環状の形状を有し、燃料マニホールド22の全体にわたって延在し、燃料マニホールドリング22に一体的に設けられる。通路53は、好ましくは、無端の環状チャンバを画定し、ヒートパイプの蒸発器部分および凝縮器部分は、概念的に、ヒートパイプの環状チャンバの直径方向において互いに対向する領域に画定される(本実施形態では、蒸発器の機能は、燃料マニホールド22の部分72によって概略的に付与され、凝縮器の機能は、燃料マニホールド22の低温の下部70によって概略的に付与される)。しかし、他の実施形態では、当業者によって理解されるように、ヒートパイプが燃料運搬部材の高温領域と、エンジンまたは燃料運搬部材の比較的低温の領域との間に延びる限り、必ずしも連続的な環状または無端の円状である必要はなく、半円状(図5)、ほぼ完全な円状(図6)、他の所望の円状、曲線状または線状であってもよい。
【0024】
燃料マニホールド22の場合、その構造によって、燃料が入口30から流入する底部70において、過度の冷却能が得られる。従って、ヒートパイプ50の下部は、凝縮器80として作用し、ここで、水蒸気が燃料流路40の対応する下部の燃料によって冷却される。ヒートパイプ50の上部72は、蒸発器90として作用し、ここで、以下にさらに説明するように、燃料マニホールド22の対応する領域内の熱を吸収するように液体水が沸騰する。
【0025】
使用時においては、熱伝達装置50のヒートパイプ内の液体水(重力によってマニホールドの下部領域に集まる傾向にある)が、ウイック57の毛細管作用によって、燃料マニホールド22の高温の乾燥した上部72に向かって汲み上げる。ヒートパイプ内の液体水は、ウイック材料の表面張力および毛細管力によって、重力に逆らって毛細管的に流れ、ヒートパイプ50内の液体水を蒸発器部分に向かって汲み上げられる。また、ウイック57は、ヒートパイプの蒸発器部分において、液体水によって通路53の内面を良好に覆うことを確実にし、これにより、液体への熱伝達を有利に向上させ、その結果、以下に述べるように、液体の沸騰速度が向上する。液体が沸騰すると、蒸気の圧力勾配が大きくなり、水蒸気の流れを蒸気の少ない領域、すなわち、ヒートパイプの凝縮区域に向かって推進させる。凝縮区域では、蒸気の冷却および液体への再凝縮によって、熱が抽出される。凝縮器部分に隣接する燃料は、好ましくは、ヒートパイプから熱を奪う。従って、図4に概略的に示されるように、蒸発器部分では、(矢印63によって示されるように)、熱が通路40内の燃料から熱伝達装置50に伝達すると共に、(矢印61によって示されるように)、熱がヒートパイプの本体51から燃料マニホールドの後体38に伝達し、次いで、そこから熱伝達装置50に伝達する。凝縮器部分では、概略的に逆の熱伝達が生じることが理解されるだろう。
【0026】
前述したように、燃料マニホールド22は、一部の領域では、その領域における燃料の流れが少ないことによって、高温になる傾向にある。熱伝達装置50は、この領域に必要な冷却を十分にもたらすように構成される。また、エンジンの停止後、エンジンが冷えると、温風がエンジンキャビティの上部に向かって上昇し、この滞留した温風によって燃料マニホールド22が過熱される危険性があり、この危険性は、燃料マニホールド22内を燃料が流れて冷却することがないためさらに悪化することを当業者であれば理解されるであろう。したがって、熱伝達装置50は、運転停止後の加熱に影響される領域に必要とされる十分な冷却をもたらすように構成されてもよい。前述の実施形態では、双方の過熱の懸念がマニホールド22の上部において起こるので、熱伝達装置50は、単一の冷却構造によって双方の懸念に対処する。他のエンジン構造およびマニホールド構造では、燃料がマニホールドに噴射される場所や方法などにより、この単純な構造を有していなくてもよい場合があるが、本発明の原理は、単一のヒートパイプの概念を用いる場合または複数のヒートパイプ構造を用いる場合のいずれに対しても適用される。
【0027】
本発明のヒートパイプは、受動的であるため、運転停止の後、凝縮器と蒸発器との間の熱差の促進がなくなるまで継続的に作用する(通常、有効性は低い)ことが理解されるだろう。従って、燃料流路40の内壁面41の継続的な冷却によって、エンジン停止の直後にも内壁面41が燃料で濡れている傾向にあり、その結果、熱伝達装置50は、いわゆる「ソークバック(soak back)」効果によるコークス化の開始を妨げることができる。
【0028】
好ましくは、高温環境に対する露出効果が制限されるように、燃料運搬部材の少なくとも一部の周りに外部絶縁材が設けられる。従って、絶縁装置が、好ましくは、燃料マニホールドリング22の少なくとも中央本体部31の周囲に設けられる。特に、熱シールド23は、ヒートパイプ50の後方本体部38の壁および後方シールプレート42を包囲する絶縁空気キャビティ54を密閉する。
【0029】
既に述べたように、ヒートパイプ内の圧力を適切なレベルに調整する(通常は製造中)ことによって、液体は、蒸発器90において、過剰な熱により所望の温度で蒸発する。この熱は、蒸気によって、熱が分散する凝縮器80、好ましくは、凝縮器80における燃料流へと迅速に伝達される。同様に、エンジンが停止し、熱がマニホールドの上部72を温め始めると、ヒートパイプの上部の蒸発器部分90における作動流体がマニホールドに入る十分に高い熱により沸騰し、次いで、蒸気により熱が奪われて、この蒸気はヒートパイプの底部の凝縮器に向かって流下する。ここで、金属または他のマニホールド材料は、より低温であるか、あるいは排気管から流出する温風によってエンジン内に引き込まれた低温の空気流によって冷却される。
【0030】
従って、ヒートパイプ50は、ポンプを必要とせず、密封された通路53内に一定量の作動流体を封入し、この作動流体が、二相流サイクル(液体−蒸気−液体)によって、通路53内において自己循環する。ヒートパイプ50は、蒸発器部分、すなわち、燃料マニホールドの上部72に対応する部分の温度が所定の制限値を超えるとすぐに、冷却動作を自動的に開始する。従って、ヒートパイプ50は、航空機のガスタービンエンジンに用いられるあらゆる構成要素を考慮する場合にも主要な要因である比較的安価で、信頼性が高く、かつ軽量な燃料マニホールド用の熱伝達装置をもたらす。
【0031】
内部マニホールドに一体化された単純かつ環状で連続的なヒートパイプについて説明したが、本発明の原理は、他の構成にも容易に適用される。例えば、1つまたは複数のヒートパイプが、各燃料ノズルアッセンブリ26内の燃料流路に設けられてもよく、必要に応じて、共通のマニホールドの全体にわたって延在していても、延在していなくてもよい。異なる大きさ、位置、場所、構成などを有する複数のヒートパイプが、所望のように、またはエンジン構成に基づいて必要に応じて設けられてもよい。複数のヒートパイプは、直列、平列または互いに関連せずに設けられてもよい。このような複数のヒートパイプは、極めて高い温度勾配が存在する場合(すなわち、蓄熱式排ガス冷却を有する工業的なエンジンの場合)、特に有用である。ヒートパイプは、通常、1つの蒸発器および1つの凝縮器を有するが、本発明は、例えば、1つの中心蒸発器および2つの末端凝縮器を有するヒートパイプ、例えば、半円構成のヒートパイプを用いることができる。このような設計では、設計者は、十分に安定したシステムをもたらすのに、注意が必要であることを理解するだろう。当業者であれば、十分なヒートシンク機能をもたらすために、蒸発器の端部および凝縮器の端部が、好ましくは、関連する高温環境および低温環境にまで十分に延びているべきであることを理解するだろう。これは、蒸発器の端部および凝縮器の端部が、全体に亘って延びていなければならないことを意味していない。前述したように、低温シンクは、必ずしもマニホールドの底部に設けられる必要はなく、最も高温の壁は、必ずしもマニホールドの上部に設けられる必要もない。
【0032】
当業者であれば、1つまたは複数のウイックは、設けられる場合、ヒートパイプの全長に沿って延びている必要はなく、液体低点直下から蒸発器までしか延びていなくてもよいことを理解されるだろう。しかし、高度が変化し、かつ信頼性が重要である航空機のエンジン用途では、実質的にヒートパイプの全体に沿って/わたって延びるウイックシステムを設けることが好ましい。
【0033】
従って、前述の説明は、単なる例示にすぎず、当業者であれば、開示された本発明の範囲から逸脱することなく、ここに述べた実施形態に対して、変更がなされることを認識されるであろう。例えば、燃料マニホールドおよび燃料ノズルなどの、燃料運搬部材の代替的な構成が用いられてもよい。さらに、燃料マニホールド用の熱伝達装置として用いられるヒートパイプは、燃料マニホールドに一体的に形成されず、別体として形成されてもよく、ここに述べた実施形態の構造に替わる構造を含んでもよい。あらゆる構成、配置、設計および数を有する燃料ノズルおよび燃料マニホールドが用いられてもよい。内部マニホールドと併用される場合、このマニホールドは、本発明と共に用いられるのに適切な任意の数の入口、適切な燃料運搬配置およびレイアウトを有してもよい。さらに、特に航空機のガスタービンに関して述べたが、本発明は、どのような適切なエンジンまたは適切な用途における他の機器に適用されてもよい。この開示内容を検討すれば、さらに他の修正形態が当業者に明らかになるだろう。しかし、そのような修正は、上記の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ガスタービンエンジンの概略的な部分断面図。
【図2】図1に示されるようなガスタービンエンジンに用いられる本発明の一実施例による燃料マニホールドの透視図。
【図3】図2の燃料マニホールド内を流れる燃料流および燃料マニホールドに取り付けられた熱伝達装置を概略的に示す、(熱シールドが取り外された)図2の燃料マニホールドの概略的な正面図。
【図4】図2の線4−4に沿った燃料マニホールドの概略的な断面図。
【図5】本発明の代替的な構成の(熱シールドが省略された)背面図。
【図6】本発明の他の構成を示す図5と同様の背面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンエンジンの内部燃料マニホールドであって、
少なくとも1つの燃料流路と、
前記燃料マニホールドに取り付けられた少なくとも1つのヒートパイプと、
を備え、
前記ヒートパイプが、前記燃料流路の高温領域から前記エンジンの低温領域に熱を伝達するように構成されることを特徴とするガスタービンエンジンの内部燃料マニホールド。
【請求項2】
前記ヒートパイプが、前記燃料流路内の燃料と熱伝達連通する密封されたチャンバ内に封入された一定量の作動流体を含み、
前記作動流体が、液体部分および蒸気部分を有する流体流の形態で自己循環し、前記作動流体が、前記高温領域から前記低温領域に熱を伝達するように、受動的に沸騰し、流れ、かつ凝縮することを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンの内部燃料マニホールド。
【請求項3】
前記低温領域が、前記マニホールドの低温領域であることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンの内部燃料マニホールド。
【請求項4】
前記ヒートパイプが、環状の形状を有し、前記マニホールドの直径方向において互いに対向する部分に画定された蒸発器部分および凝縮器部分を有することを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンの内部燃料マニホールド。
【請求項5】
前記ヒートパイプが、前記ヒートパイプに画定された作動流体チャンバの少なくとも1つの内面に沿って配置されたウイック部材を備え、
前記ウイック部材が、前記ヒートパイプの凝縮器部分から蒸発器部分に、液相の前記作動流体を移送させるのに適合されることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンの内部燃料マニホールド。
【請求項6】
前記ヒートパイプが、前記マニホールド内に配置されることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンの内部燃料マニホールド。
【請求項7】
ガスタービンエンジンにおける燃料運搬部材であって、
高温領域および低温領域を有する少なくとも1つの燃料流路と、
前記燃料流路と熱伝達連通して配置されるとともに、前記高温領域と前記低温領域との間に延びるヒートパイプと、
を備えることを特徴とする燃料運搬部材。
【請求項8】
前記ヒートパイプが、前記ヒートパイプにおける前記作動流体が貯留する部分から、前記ヒートパイプの蒸発器部分に延びる内部ウイック部材を備えることを特徴とする請求項7に記載の燃料運搬部材。
【請求項9】
燃料マニホールドおよび燃料ノズルの少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項7に記載の燃料運搬部材。
【請求項10】
前記ヒートパイプが、環状の形状を有することを特徴とする請求項7に記載の燃料運搬部材。
【請求項11】
燃料を燃焼器に供給する燃料システムを備えたガスタービンエンジンであって、前記燃料システムは、該システムに取り付けられた燃料マニホールドを備え、前記燃料マニホールド内に、内蔵式の熱伝達手段が、前記燃料マニホールドの高温領域から低温領域に熱を受動的に伝達させるように配設されることを特徴とするガスタービンエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−534844(P2008−534844A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503336(P2008−503336)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000485
【国際公開番号】WO2006/102761
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(592228505)プラット アンド ホイットニー カナダ コーポレイション (99)
【氏名又は名称原語表記】Pratt & Whitney Canada Corp.