説明

ヒートポンプ温水暖房機

【課題】ヒートポンプサイクルにおける凝縮温度の過度の上昇を確実に抑えるとともに、循環ポンプの消費電力を削減し、効率が高いヒートポンプ温水暖房機を提供すること。
【解決手段】往き温度Twoが、目標往き温度Twotとなるように圧縮機111の動作周波数Fcを制御しながら、水熱媒熱交換器115との間で水熱媒を循環させる室内放熱器125の数がN1からN2に減少した場合、変化前の水熱媒の流量にN2/N1を乗じた流量となるように、循環ポンプ121を制御する。また、室内放熱器125の数が増加した場合、水熱媒の流量が最大となるよう、循環ポンプ121を制御するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ温水暖房機の省エネルギー制御に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のヒートポンプ温水暖房機は、ヒートポンプサイクルと水熱媒サイクルを備え、ヒートポンプサイクルを流れる冷媒が、水熱媒サイクルを流れる水熱媒を水熱媒熱交換器115で加熱し、加熱された水熱媒が複数の室内放熱器125に送水され放熱し、部屋の暖房行う。水熱媒を送水する手段としては、交流もしくは直流電源で駆動する循環ポンプ121が利用されている。
【0003】
交流電源駆動の循環ポンプを利用した場合、常に一定の揚程で運転するため、暖房運転を行う室内放熱器の数が同じである限り、常に水熱媒の循環流量は同じとなる。交流電源駆動の循環ポンプは、低コストで制御が容易であるという利点から、広く利用されている。
【0004】
しかし、水熱媒の循環量が一定であるため、ヒートポンプ温水暖房機の効率が悪くなる場合がある。
【0005】
室内放熱器の総数が4台で、交流電源駆動の循環ポンプ121が毎分6.0Lの水熱媒を送水しているヒートポンプ温水暖房機にて説明する。
【0006】
ヒートポンプ温水暖房機の効率が悪くなる例として、4台全ての室内放熱器(125a〜125d)に水熱媒を送水し、水熱媒熱交換器115から流出する水熱媒の往き温度Twoが目標往き温度Twotとなり、かつ、水熱媒熱交換器115で水熱媒を加熱する熱量と、室内放熱器125で放熱する熱量とが平衡となっている状態から、利用者の設定により、3台の室内放熱(125a〜125c)への水熱媒の送水を停止した後の状態が挙げられる。
【0007】
室内放熱器125a〜125dがすべて同じものであると仮定すると、4台全ての室内放熱器に水熱媒を送水している状態では、室内放熱器1台当たりに送水される水熱媒の流量は毎分6.0L/4=1.5Lである。
【0008】
ここで、室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の送水を停止すると、残りの室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量は、4倍の毎分6.0Lと大幅に増加する。
【0009】
実際には、室内放熱器内に敷設された水熱媒配管に流れる水熱媒の量が増加すると、抵抗が増加するため、室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量は、毎分6.0Lよりも少し小さな値となるが、ここでは、単純化するため、毎分6.0Lとなるものとする。
【0010】
一般的に、水熱媒熱交換器115から流出する水熱媒の往き温度Two、水熱媒熱交換器115に流入する戻り温度Twi、水熱媒熱交換器115を流れる水熱媒の循環量をM、そして、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qとの間には、数1で示す関係式が成り立つ。
【0011】
(数1) Q = (Two−Twi)×M
また、室内放熱器125i(i=a〜d)から流出する水熱媒の温度をTwi、室内放熱器125iを流れる水熱媒の循環量をM、室内放熱器125iにおいて室内に放熱
する熱量をQiとし、室内放熱器125iに流入する水熱媒の温度は往き温度Twoと等しいと仮定すると、数2で示す関係式が成り立つ。
【0012】
(数2) Q = (Two−Twi)×M
数1と数2の間には、Q=ΣQ、M=ΣMが成り立つ。
【0013】
上記例において、室内放熱器125dにおける放熱量Qが一定であると仮定すると、室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量Mが、毎分1.5Lから4倍の6.0Lに増加すると、数2の関係より、温度差Two−Twiは1/4に縮小することになる。
【0014】
しかし、実際には、室内放熱器125d内に敷設された水熱媒配管内には数Lの水熱媒を保有しているため、即座に温度差Two−Twiは1/4に縮小しない。
【0015】
この理由は、水熱媒の循環量Mが増加しても、その瞬間において、室内放熱器125d内の流出配管により近い位置に存在する水熱媒ほど、水熱媒の循環量Mの増加により配管内を流れる熱流媒の温度低下を小さくする影響を受けずに、室内放熱器125dから流出するためである。すなわち、室内放熱器125dから流出する水熱媒の温度Twiは徐々に上昇することになる。
【0016】
次に、水熱媒熱交換器115で加熱された後の水熱媒の往き温度Twoは、戻り温度Twiの上昇に追随して上昇する。熱媒熱交換器115を流れる水熱媒の循環量Mは毎分6.0Lで変化しないため、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qが一定ならば、数1の関係より、温度差Two−Twiが一定となるからである。
【0017】
従来のヒートポンプ温水暖房機では、往き温度Twoを、利用者が設定した目標往き温度Twotとなるように、主にヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数を制御している。
【0018】
上記のように往き温度Twoが上昇した場合は、圧縮機の周波数を下げ、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qを下げて、往き温度Twoを低下させる制御を行う。十分に時間が経過した後では、Q=Qとなるまで圧縮機の周波数は下げられており、往き温度Twoは目標往き温度Twotに保持される。
【0019】
一方、室内放熱器125dから流出する水熱媒の温度Twiは上昇したままになっており、十分に時間が経過した後では、温度差Two−Twiは、数2に基づき、1/4となる。
【0020】
すなわち、戻り温度Twiは上昇し、往き温度Twoに接近している。結果として、ヒートポンプサイクルにおける凝縮温度は高くなり、サイクル効率が悪化してしまう。
【0021】
このような事態を避けるため、直流電源駆動で循環流量を制御できる循環ポンプを使用し、ヒートポンプ温水暖房機の高効率化を図る技術がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0022】
特許文献1には、水熱媒の往き温度Twoと戻り温度Twiとの差である往き戻り温度差Two−Twiが、所定の範囲内となるように、循環ポンプの回転数の制御方法が開示されている。
【0023】
特許文献1では、戻り温度Twiの過度の上昇を抑え、すなわち、水熱媒熱交換器における冷媒凝縮温度の過度の上昇を抑えて、サイクル効率悪化を防止し、かつ、循環ポンプの消費電力を削減できると記述されている。
【0024】
図5に、この制御方法の循環ポンプの制御フローを示す。往き戻り温度差ΔTa(=Two−Tw)を算出し(ステップS04)、往き戻り温度差が所定値(4K)よりも小さい場合、もしくは、目標往き温度Twotが確保されていない場合は、水熱媒の循環流量を下げるよう、循環ポンプを制御する(ステップS09)。
【0025】
逆に、往き温度Twoが目標往き温度Twotとほぼ近い温度を確保していても、往き戻り温度差が所定値(20K)以上となっている場合は、水熱媒の循環流量を大きくするよう、循環ポンプを制御する(ステップS10)。
【0026】
すなわち、往き戻り温度差が所定範囲内(4K以上20K未満)で、かつ目標往き温度Twotが確保されている場合のみ、水熱媒の循環流量は保持される(ステップS08)。
【0027】
また、特許文献2には、水熱媒の往き温度Twoが目標往き温度(Twot)となるようにヒートポンプサイクルにおけるヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数を制御し、これと平行して、往き戻り温度差Two−Twiが目標往き戻り温度差となるように循環ポンプを制御する方法が開示されている。
【0028】
図6に、この制御方法の循環ポンプの制御フローを示す。往き戻り温度差ΔTa(=Two−Tw)を算出し(ステップS24)、往き戻り温度差ΔTaが目標往き戻り温度差ΔTatよりも大きい状態を所定時間維持しているならば、温度差が大きすぎるとみなして、水熱媒の循環流量を大きくするよう、循環ポンプを制御する(ステップS26)。
【0029】
逆に、往き戻り温度差ΔTaが目標往き戻り温度差ΔTatよりも小さい、もしくは往き戻り温度差ΔTaが目標往き戻り温度差ΔTatよりも大きい状態を所定時間維持できていない場合は、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの関係を調べる(ステップS27)。
【0030】
往き温度Twoが目標往き温度Twot以上の状態が所定時間維持されている状態では、水熱媒の循環流量を下げるよう、循環ポンプを制御する(ステップS28)。逆に、往き温度Twoが目標往き温度Twot未満、もしくは、往き温度Twoが目標往き温度Twot以上の状態が所定時間維持されていない状態では、水熱媒の循環流量は据え置く。
【0031】
なお、ステップS26とステップS28において、循環ポンプの制御には、PI制御が用いられている。また、S25以降の処理は一定時間ごと行い、水熱媒の循環流量はその間据え置く。
【0032】
特許文献2でも、特許文献1と同様、水熱媒熱交換器における冷媒凝縮温度の過度の上昇を抑えて、サイクル効率悪化を防止し、かつ、循環ポンプの消費電力を削減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開2009−287895号公報
【特許文献2】特開2010−196946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
特許文献1には、循環ポンプの回転数の制御のみ記載されており、ヒートポンプサイク
ルの圧縮機の周波数制御との関連が記載されていない。このような制御を行うと、上述した例では、往き温度Twoが目標往き温度Twotに保てない場合がある。
【0035】
4台全ての室内放熱器(125a〜125d)に水熱媒を送水している状態から、利用者の設定により、3台の室内放熱(125a〜125c)への水熱媒の送水を停止した直後は、上述したように、室内放熱器125dから流出する水熱媒の温度Twiが上昇し、水熱媒熱交換器115に流入する戻り温度Twiも上昇するため、水熱媒熱交換器115を通過した後の往き温度Twoも上昇する。
【0036】
特許文献1の制御方法では、往き温度Twoの上昇により、水熱媒の循環流量を下げるよう、循環ポンプを制御する(ステップS09)。この結果、水熱媒熱交換器115を流れる水熱媒の循環量Mは低下する。
【0037】
一方、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qは調整せず一定であるため、数1より、往き戻り温度差Two−Twiは拡大する。このとき、戻り温度Twiは上昇する傾向にあるため、往き温度Twoはさらに上昇し、目標往き温度Twotから大きく乖離してしまう恐れがある。
【0038】
特許文献2には、循環ポンプの回転数の制御と、ヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数制御とが平行して行う旨が記載されている。しかし、両者の制御時間間隔の関係についての記述はなく、制御が不安定になる恐れがある。
【0039】
前述の例で説明すると、3台の室内放熱器(125a〜125c)への水熱媒の送水を停止すると、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qは明らかに過大である。従って、ヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数制御は、往き温度Twoが上昇し、目標往き温度Twotから乖離し始めると、往き温度Twoが目標往き温度Twotを保てるよう、比較的短い時間(10〜30秒)で動作する必要がある。
【0040】
前述したように、圧縮機周波数のみを低下させた場合、往き温度Twoの上昇は抑制され、低下に転じる。一方で、戻り温度Twiは徐々に上昇し、往き戻り温度差Two−Twiは徐々に縮小する。
【0041】
もし、図6におけるステップS23の「一定時間」と、ステップS25やステップS27の「所定時間」が、圧縮機の周波数制御が行われる時間間隔と同等以下の場合は、循環ポンプ121のPI制御は、上記のような過渡状態において行われることになり、圧縮機の周波数制御の影響が反映されてしまう。
【0042】
もちろん、圧縮機の周波数制御にも、循環ポンプの制御の影響が反映され、制御全体が不安定に陥る恐れがある。
【0043】
圧縮機の周波数制御の影響を排除するため、ステップS23の「一定時間」と、ステップS25やステップS27の「所定時間」は、ともに十分長く取る必要がある。制御による省エネ効果を発揮するためには、該時間をできるだけ短く設定したほうがよいが、室内放熱器125a〜125dが異なる広さを持ち、上記過渡状態が送水する室内放熱器ごとに違う場合も考慮すると、上記時間の具体的な設定方法を明確化する必要があった。
【0044】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、往き温度を目標往き温度に保持しつつ、戻り温度の上昇を抑え、特に室内暖房負荷が小さい場合において、ヒートポンプサイクルにおける凝縮温度の上昇を抑え、ヒートポンプサイクルの運転効率が高いヒートポンプ温水暖房機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0045】
前記従来の課題を解決するために、本発明のヒートポンプ温水暖房機は、往き温度が、目標往き温度となるように圧縮機の動作周波数を制御しながら、熱媒熱交換器との間で水熱媒を循環させる室内放熱器の数をN1からN2に変化させた場合、変化前の水熱媒の流量にN2/N1を乗じた流量となるように、前記循環ポンプを制御するものである。これによって、利用者の設定により、熱媒熱交換器との間で水熱媒を循環させる室内放熱器の数が減少し、熱負荷が急激に低下した場合でも、往き温度を利用者が設定した目標往き温度に保持しつつ、水熱媒の循環流量を下げて戻り温度の上昇を抑える。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、往き温度を目標往き温度に保持しつつ、戻り温度の上昇を抑え、特に室内暖房負荷が小さい場合において、ヒートポンプサイクルにおける凝縮温度の上昇を抑え、ヒートポンプサイクルの運転効率が高いヒートポンプ温水暖房機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態1におけるヒートポンプ温水暖房機の循環ポンプの制御フローチャート
【図2】同ヒートポンプ温水暖房機起動後の、圧縮機の周波数、循環ポンプの回転数、往き温度、戻り温度の時間変化を示した図
【図3】同室内放熱器に水熱媒を供給する場合の、水熱媒の流量と圧力損失との関係図、および、循環ポンプが送出する水熱媒の流量と圧力との関係図
【図4】本発明の実施の形態3におけるヒートポンプ温水暖房機の循環ポンプの制御フローチャート
【図5】同ヒートポンプ温水暖房機の構成図
【図6】従来の循環ポンプの制御フローチャート
【図7】従来の他の循環ポンプの制御フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0048】
第1の発明は、往き温度が目標往き温度となるように圧縮機の動作周波数を制御しつつ、水熱媒を供給する室内放熱器の数がN1からN2に変化した場合、変化前の水熱媒の流量にN2/N1を乗じた流量となるように、前記循環ポンプを制御する。
【0049】
このため、利用者の設定により、水熱媒を供給する室内放熱器の数が減少し、熱負荷が急激に低下した場合に、水熱媒の流量を急低下させて、戻り温度の上昇を即座に抑え、ヒートポンプサイクルの凝縮温度の上昇を防ぐ。この結果、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止すると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【0050】
第2の発明は、水熱媒を供給する室内放熱器の数が変化し、水熱媒を供給する室内放熱器の内部配管に保有する水熱媒の容積の和が、L1からL2に変化した場合に、変化前の水熱媒の流量にL2/L1を乗じた流量となるよう、循環ポンプを制御する。
【0051】
このため、特に、利用者の設定により、水熱媒を供給する室内放熱器の数が減少し、熱負荷が急激に低下した場合に、水熱媒の流量を、室内放熱器の面積や内部配管仕様の違いを考慮した量に急低下させる。
【0052】
たとえば、水熱媒を供給する室内放熱器の数が4台から1台に減ったとき、残りの1台の室内放熱器の面積が広く、水熱媒保有量が大きい場合は、水熱媒の流量を多めに設定する。逆に、残りの1台の室内放熱器の面積が狭く、水熱媒保有量が小さい場合は、水熱媒の流量を少なく設定する。
【0053】
したがって、第2の発明は、利用者の設定により、水熱媒を供給する室内放熱器の数が減少し、熱負荷が急激に低下した場合に、目標とする水熱媒の流量を、第1の発明に比べて適切に設定することができるとともに、第1の発明と同じく、戻り温度の上昇を即座に抑え、凝縮温度の上昇を防ぎ、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止すると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【0054】
第3の発明は、水熱媒を供給する室内放熱器の数を減少させた場合、減少前の往き温度と目標往き温度との差が往き温度誤差許容範囲以内のときのみ、水熱媒を供給している室内放熱器が設置された部屋は十分暖まっていると判断し、循環ポンプにより水熱媒の流量を低下させる。
【0055】
このため、利用者が、十分暖まっている部屋の室内放熱器への水熱媒の供給を停止し、暖まっていない部屋の室内放熱器だけに水熱媒を供給するよう設定変更した場合などにおいては、水熱媒の流量が低下して、往き温度が一時的に上昇して圧縮機の周波数が低下し、当該室内放熱器に供給する熱量が低下する可能性があるが、第3の発明はこれを防止することができる。
【0056】
第4の発明は、水熱媒を供給する室内放熱器の数を減少させた場合、減少前の戻り温度が目標戻り温度以上のときに、水熱媒を供給している室内放熱器が設置された部屋は十分暖まっているものと判断し、循環ポンプにより水熱媒の流量を低下させる。
【0057】
目標戻り温度は、目標往き温度よりは低いが、水熱媒を供給している室内放熱器が設置された部屋が十分暖まっていることを判断できる温度に設定する。戻り温度が目標戻り温度以上のときは、各室内放熱器の内部配管に存在する水熱媒の温度は少なくとも目標戻り温度程度に達し、各室内放熱器が設置された部屋は十分に暖まっていると考えることができる。
【0058】
このため、第4の発明は、水熱媒を供給している室内放熱器が設置された部屋が暖まっているかどうかを判断できる。
【0059】
第5の発明は、目標戻り温度を、人体の皮膚の温受容器が感受する温覚刺激が優位な、34℃以上45℃以下の第1温度範囲から選択するようにしている。
【0060】
このため、特に室内放熱器が床暖房パネルの場合に、触って冷たいと不快を感じることがない程度に、床暖房パネルが暖まっているかどうかを判断することができる。
【0061】
第6の発明は、水熱媒を供給する室内放熱器の数が増加した場合は、水熱媒の流量が最大となるように、前記循環ポンプを制御し、往き温度を最大限に低下させる。
【0062】
このため、水熱媒を供給する室内放熱器の数が増加した場合に、圧縮機の周波数の速やかな上昇を促し、新たに水熱媒の供給を開始した室内放熱器を迅速に暖めることができる。
【0063】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって、本発明が限定されるものではない。
【0064】
(実施の形態1)
図5は、本発明の対象となるヒートポンプ温水暖房機100の構成図である。ヒートポンプ温水暖房機100は、ヒートポンプサイクル110、水熱媒サイクル120、そして
制御部130とで構成される。
【0065】
ヒートポンプサイクル110は、気体状態の冷媒を吸入して圧縮し、高温高圧の冷媒を吐出する圧縮機111、室外空気から採熱する空気熱交換器112、室外空気を強制的に空気熱交換器112に導入する空気熱交換器ファン113、冷媒の流量を調整する冷媒流量調整弁114、そして、冷媒と水熱媒との熱交換を行う水熱媒熱交換器115で構成されている。
【0066】
一方、水熱媒サイクル120は、水熱媒熱交換器115と接続され、水熱媒サイクル120内の水熱媒を循環させる循環ポンプ121、水熱媒を貯留するバッファタンク122、4台の室内放熱器125a〜125d、そして、個々の室内放熱器125への水熱媒供給を制御する開閉弁123で構成されている。
【0067】
ヒートポンプサイクル110の冷媒と水熱媒サイクル120の水熱媒とは、互いに独立し、混合することはないが、水熱媒熱交換器115を介して熱交換可能な構成となっている。
【0068】
水熱媒熱交換器115には、二重管式熱交換器やプレート熱交換器が使用される。また、直流電源によって駆動される循環ポンプ121は羽根車を有し、この羽根車の回転数をPWM制御することで、水熱媒サイクル120内の水熱媒の循環流量を変更することができる。
【0069】
水熱媒サイクル120において、水熱媒熱交換器115の出口側には、水熱媒熱交換器115から室内放熱器125a〜125dに向かう水熱媒の往き温度Twoを計測する往き温度検知センサ126が設置されている。また、水熱媒熱交換器115の入口側には、室内放熱器125a〜125dから水熱媒交換器115に戻る水熱媒の戻り温度Twiを計測する戻り温度検知センサ127が設置されている。
【0070】
制御部130は、マイコン(図示せず)に組み込まれた制御プログラムで、室外温度、圧縮機111の吐出温度(ともに図示しない温度センサにより検知)、往き温度検知センサ126で検知した往き温度Two、戻り温度検知センサ127で検知した戻り温度Twiを取得し、圧縮機111の周波数、空気熱交換器ファン113の回転数、冷媒流量調整弁114の開度、使用する室内放熱器125a〜125dと接続した開閉弁123の開度、および、循環ポンプ121の回転数を制御する。
【0071】
リモコン124と室内放熱器125a〜125dは、共に暖房対象となる部屋内に設置される。リモコン124は、4台接続して、室内放熱器125a〜125dを個別に制御するようにしても、2〜3台接続して、室内放熱器125a〜125dのうち数台ごとに制御するようにしても、1台接続して、室内放熱器125a〜125dの全てを制御するようにしてもよい。
【0072】
リモコン124の操作により、ヒートポンプ温水暖房機100が稼動し、加熱された水熱媒が循環ポンプ121により室内放熱器125a〜125dに搬送され放熱することにより、部屋の暖房が行われる。なお、室内放熱器125としては、床に埋め込まれ輻射暖房を行う床暖房パネル、室内壁面に設置され輻射暖房を行うラジエータ、送風機を使い室内放熱器125の熱を強制的に部屋内に供給するファンコンベクターなどを利用する。
【0073】
ヒートポンプ温水暖房機100の利用者は、リモコン124において目標往き温度Twotを設定する。
【0074】
あるいは、暖房強度レベル、例えば、室内放熱器125に床暖房パネルを用いる場合は床面温度の高さレベルを設定する。この場合、制御部130は、利用者が設定した暖房強度レベルに応じて、目標往き温度Twotを計算し保持する。
【0075】
また、ヒートポンプ温水暖房機100の利用者は、リモコン124において目標戻り温度Twitを設定する。この目標戻り温度Twitは、必ずしも利用者が設定しなくてもよい。目標戻り温度Twitの具体的な値については後述する。
【0076】
次に、ヒートポンプ温水暖房機100の動作について説明する。図1は、本発明の第1に実施の形態における、制御部130の圧縮機111、および、循環ポンプ121に対する制御動作を説明したフローチャートである。
【0077】
以下、図1のフローチャートを用いて、本実施形態の制御動作を、ステップS001から順に説明する。
【0078】
利用者がリモコン124で運転開始操作(ステップS001)をすると、リモコン124は、運転開始指令とともに、利用者が設定した目標往き温度Twotを制御部130に送信する。制御部130は受信した目標往き温度Twotを保持する。
【0079】
リモコン124が暖房強度レベルを制御部130に送信した場合は、制御部130は、受信した暖房強度レベルに応じた目標往き温度Twotを計算し、保持する(ステップS002)。
【0080】
次に、ステップS003において、リモコン124は、利用者が設定した目標戻り温度Twitを制御部130に送信する。制御部130は受信した目標戻り温度Twitを保持する。
【0081】
利用者が、リモコン124において、目標戻り温度Twitを設定しない、あるいは、設定できない場合は、制御部130が自動的に目標戻り温度Twitを設定する。
【0082】
人間の皮膚には、冷受容器と温受容器とで構成される温度受容器が存在する。一般的に、皮膚が触れる温度が32.5℃〜33.5℃のとき、冷・温受容器が受ける刺激が同程度となり、熱くも冷たくも感じない無感温度となる。34℃〜45℃では、皮膚の温受容器のみが刺激を受けて温かいと感じるが、36℃を超えると、その刺激の強さは温度上昇とともに低下する。また、45℃を越えると、皮膚の冷受容器も刺激されて熱いと感じるようになる。
【0083】
以上より、戻り温度Twiは、室内放熱器125の表面の最も低い温度よりも若干高い程度であることを考慮すると、目標戻り温度Twitは、人間の皮膚の温受容器のみが刺激を受け、温かいと感じる34℃〜45℃とするのが望ましい。
【0084】
さらには、ヒートポンプサイクルは、凝縮温度を下げたほうが高効率となるため、戻り温度Twiを、できるだけ低くするほうが有効である。皮膚が触れる温度が36℃を超えると、皮膚の温受容器の刺激の強さは温度上昇とともに低下することも考慮すると、目標戻り温度Twitは、34℃〜36℃とすることが最も望ましい。
【0085】
また、利用者が部屋を離れる場合などに行う余熱運転では、目標往き温度Twotが比較的低い温度、たとえば40℃以下に設定される。この場合、目標往き温度Twotと、34〜45℃の範囲から選択される目標戻り温度Twitとの間の温度差は小さくなり、余熱運転中のヒートポンプサイクルの効率が悪化する恐れがある。
【0086】
たとえば、目標往き温度Twotが35℃と設定されている場合、目標戻り温度Twitの下限値は34℃となり、それらの温度差は1Kしかない。このような場合は、目標往き温度Twot=35℃から、所定値、たとえば5K低い、30℃を目標戻り温度Twitとする。
【0087】
なお、この所定値は、リモコン124において、利用者が設定できるようにしてもよい。
【0088】
目標往き温度Twotと目標戻り温度Twitとを設定すると、制御部130は、圧縮機111、空気熱交換器ファン113、冷媒流量調整弁114、循環ポンプ121の運転を開始する。
【0089】
循環ポンプ121の回転数Fsに関しては、Fs=0から段階的に上げる起動時循環流量制御を行う。起動時循環流量制御は、循環ポンプ121の起動開始(ステップS003)から、所定時間、例えば10分経過するまで行われる。一般的には、該所定時間内に、循環ポンプ121の回転数Fsが最大回転数Fsmaxに達するよう、3〜5段階に分けて、回転数Fsを上昇させる(ステップS006)。
【0090】
起動時循環流量制御を実施する理由は、ヒートポンプサイクル110起動直後に、循環ポンプ121の回転数Fsを急激に上げてしまうと、室内放熱器125に滞留していた冷えた水熱媒が水熱媒熱交換器115に大量に流れて、水熱媒熱交換器115におけるヒートポンプサイクル110側の冷媒凝縮温度の上昇が遅れ、室内放熱器125の温度上昇に時間を要する恐れがあり、これを避けるためである。
【0091】
上記の起動時循環流量制御と同時に、圧縮機111の周波数Fcの制御も行う。この制御の最も基本的な手法は、往き温度Twoが目標往き温度Twotとなるように、圧縮機111の周波数Fcの調整を行うP制御(比例制御)である。
【0092】
圧縮機111の周波数FcのP制御(比例制御)では、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの温度差Two−Twotに、比例ゲインKp1を乗じたKp1×(Two−Twot)を、圧縮機111の周波数Fcを修正する値とする(ステップS007とステップS008)。
【0093】
比例ゲインKp1の値は、次のような効果が出るよう、負の値をとる。すなわち、Two−Twot>0のときは、圧縮機111の周波数Fcを低下させて、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qを低下させる。逆に、Two−Twot<0のときは、圧縮機111の周波数を上昇させ、熱量Qを上昇させる。
【0094】
圧縮機111の周波数Fcの制御方法としては、P制御の替わりに、いわゆるPI制御を用いてもよい。PI制御では、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの温度差Two−Twotの時間積分に積分ゲインKi1を乗じたKi1×∫(Two−Twot)dtと、P制御(比例制御)のKp1×(Two−Twot)との和を用いて、圧縮機111の周波数を修正する。
【0095】
P制御では、往き温度Twoの変化がなくなった状態(定常状態)でも、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの間に、残留偏差(オフセット)が生じる可能性がある。しかし、比例ゲインKpと積分ゲインKiとを適切に設定したPI制御を用いると、往き温度Twoを目標往き温度Twotに確実に収束させることができる。
【0096】
なお、制御部130は、起動時循環流量制御を実施中、空気熱交換器ファン113の回転数と、冷媒流量調整弁114の開度も、それぞれ制御する。たとえば、空気熱交換器ファン113の回転数は、圧縮機111の周波数Fcに応じて制御し、冷媒流量調整弁114の開度は、目標往き温度Twotに応じて制御する。
【0097】
さて、起動時循環流量制御が所定時間(たとえば10分)経過して終了すると、循環ポンプ121の回転数Fsは最大回転数Fsmaxに達している。この時点から、制御部130は、利用者のリモコン124操作による、水熱媒を供給する室内放熱器の数の変化の監視(S009)と、往き温度Twoの監視(ステップS010)を始める。
【0098】
本実施の形態では、一例として、4台全ての室内放熱器(125a〜125d)に水熱媒を供給し、往き温度Twoと戻り温度Twiとがほぼ一定値になり、かつ、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達した状態から、利用者の設定により、3台の室内放熱器(125a〜125c)への水熱媒の供給を停止した後の、制御動作について説明する。
【0099】
図2に、上記例における、圧縮機111の周波数Fcと循環ポンプ121の回転数Fsの制御の時間推移と、これらの制御に伴う、往き温度Twoと戻り温度Twiの時間変化の概要を示す。
【0100】
図2の前提条件として、まず、3台の室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の供給を停止する時刻T1において、往き温度Twoは目標往き温度Twot(=50℃)に、戻り温度Twitは目標戻り温度Twit(たとえば、35℃)になっているものとする。
【0101】
このため、時刻T1以前の制御部130は、利用者が、リモコン124の操作により水熱媒を供給する室内放熱器125の数を変えると、ステップS011に移って回転数Fsを制御する状態となっている。
【0102】
また、室内放熱器125a〜125dはすべて同じものであるとする。時刻T1において、循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量が毎分6Lであるとすると、時刻T1以前では、室内放熱器1台当たりに供給される水熱媒の流量は毎分6.0L/4=1.5Lである。
【0103】
そして、時刻T1以降では、残りの室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量を毎分1.5Lに維持するよう、循環ポンプ121の回転数Fsを制御する。
【0104】
さらに、時刻T1前後において、4台の室内放熱器125a〜125dにおいて放熱する熱量(熱負荷)は、それぞれ同じであるものとする。すなわち、時刻T1以降に、室内放熱器125dにおいて放熱する熱量(熱負荷)は、時刻T1以前の、室内放熱器125a〜125dにおいて放熱する熱量(熱負荷)の合計の1/4になっている。
【0105】
時刻T1において、3台の室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の供給を停止すると、ステップS009において、水熱媒を供給する室内放熱器の数が4から1に変化したと判断する。次に、ステップS010において、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの差が数3を満たしているかどうかを調べる。
【0106】
(数3) |Two−Twot|<ε1
数3のε1は往き温度誤差許容範囲であり、この値は、たとえば、0.3Kとする。
ステップS010において往き温度Twoの監視を行うのは、水熱媒を供給している室内放熱器125が設置された部屋が十分暖まっているかどうかを判断するためである。
【0107】
もし、ステップS010の判断をしないとすると、水熱媒の供給を停止する室内放熱器125a〜125cは十分に暖まっているが、室内放熱器125dのみが暖まっていない場合でも、水熱媒を供給する室内放熱器の数が減少するため、ステップS012において、水熱媒の流量を低下させることになる。
【0108】
水熱媒の流量が低下すると、往き温度が一時的に上昇して圧縮機の周波数が低下する、あるいは、周波数の上昇が遅れるので、暖まっていない室内放熱器125dに十分な熱量が供給できない恐れがある。
【0109】
ステップS010において数3を満たさない場合は、室内放熱器125a〜125dが放熱している部屋が、十分に暖まっていない可能性があるため、ステップS007とステップS008の処理、すなわち、圧縮機111の周波数Fcの制御を継続する。
【0110】
なお、ステップS010の判断は、戻り温度Twiと目標戻り温度Twitとの差が数4を満たしているかどうかで行ってもよい。
【0111】
(数4) |Twi−Twit|<ε2
数4のε2は戻り温度誤差許容範囲であり、この値は、たとえば、0.3Kとする。
戻り温度Twiが、人体の皮膚の温受容器が感受する温覚刺激が優位となる目標戻り温度Twit(34〜45℃)以上に達していると、水熱媒を供給している室内放熱器125が設置された部屋は十分暖まっていると判断できる。
【0112】
上記例では、時刻T1において、数3を満たした状態であるから、ステップS011に移って、循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量を1/4の毎分1.5L/分になるよう、回転数Fsを制御する。
【0113】
さて、実際に循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量は、流量センサを水熱媒サイクル120に設置して計測する必要がある。しかし、循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量と揚程との関係と、室内放熱器125a〜125dを流れる水熱媒の流量と圧力損失との関係が明確であれば、推定することも可能である。
【0114】
図3は、横軸に循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量、縦軸には圧力損失を取り、4台の室内放熱器125a〜125dに水熱媒を供給する場合の、水熱媒の流量と圧力損失との関係を線P4、室内放熱器125dのみに水熱媒を供給する場合の、水熱媒の流量と圧力損失との関係を線P1で示している。
【0115】
また、図3には、循環ポンプ121の回転数Fsを変えた場合の、循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量と圧力(揚程)との関係を線Nで示している。この関係は、上に凸の曲線となり、回転数Fsが大きいほど、線Nは、図3中で上方に移動する。
【0116】
4台の室内放熱器125a〜125dに、6L/分の水熱媒を供給する場合、点Aを通る線N1の回転数Fsとする必要がある。時刻T1において、3台の室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の供給を停止し、図1のステップS011で、循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量を1/4の毎分1.5L/分にするためには、点Cを通る線N2の回転数Fsまで落とすことになる。
【0117】
なお、3台の室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の供給を停止した状態で、循環ポンプ121の回転数Fsを維持した場合は、室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量は、4倍の毎分6.0Lとはならず、循環ポンプ121の状態は点Bに移り、水熱媒の
圧力損失が増えて流量は減少する。
【0118】
時刻T1後の、往き温度Twoと戻り温度Twiの時間変化を、図2を参照して説明する。
【0119】
ステップS011で、循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量を1/4の毎分1.5L/分に制御しても、室内放熱器125dを流れる水熱媒の循環量Mは、実質的には変化しない。よって、数2に基づき、室内放熱器125dから流出する水熱媒の温度Twiはほとんど変化しない。すなわち、戻り温度Twiもほとんど変化しない。
【0120】
一方で、水熱媒熱交換器115で加熱された後の水熱媒の往き温度Twoは急上昇する。この現象は数1の関係に基づいており、熱媒熱交換器115を流れる水熱媒の循環量Mが毎分6.0Lから1.5Lと1/4となったため、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qが一定ならば、温度差Two−Twiが4倍となり、かつ、戻り温度Twiがほとんど変化しないからである。
【0121】
この状態においては、制御部130は、ステップS007とS008において、圧縮機111の周波数Fcの制御を行う。往き温度Twoが急上昇するため、往き温度Twoを目標往き温度Twotに戻すため、圧縮機111の周波数Fcは急低下することになる。この結果、往き温度Twoの上昇は速やかに止まり、逆に下降に転じる。
【0122】
比例ゲインKp1、もしくは積分ゲインKi1を適切に設定していれば、ある程度時間が経つと(図2中の時刻T2)、往き温度Twoを目標往き温度Twotとなっている。また、圧縮機111の周波数Fcは、時刻T1以前に、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱していた熱量Qが1/4となる周波数に落ち着いている。
【0123】
一方、戻り温度Twiは、時刻T1直後の往き温度Twoの一時的な急上昇の影響を受け、上昇する瞬間もあるが、時刻T2では、行き戻り温度差Two−Twiは、時刻T1以前と同程度に落ち着いている。
【0124】
すなわち、本実施の形態によれば、一部の室内放熱器125への水熱媒の供給を停止するような、熱負荷の急な低下があっても、水熱媒の循環量を室内放熱器125の数に比例した量となるように、循環ポンプ121の回転数Fsを制御するので、戻り温度Twiの上昇を確実に抑え、凝縮温度の上昇を防いで、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止すると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【0125】
また、水熱媒を供給する室内放熱器の数が急減した場合、水熱媒の循環量が急減し、往き温度が急上昇するので、圧縮機111の周波数Fcの速やかな低下を促し、結果として、ヒートポンプ温水暖房機100の省エネルギー運転を実現することができる。
【0126】
(実施の形態2)
本実施の形態において、ヒートポンプ温水暖房機100の構成は図4と同じであるため、その構成要素の説明は省略する。また、制御部130の、圧縮機111、および、循環ポンプ121に対する制御動作を説明したフローチャートは図1と同じであるが、ステップS011において、水熱媒の流量を設定する方法が異なる。
【0127】
実施の形態1では、室内放熱器125a〜125dはすべて同じものであると仮定して説明したが、一般的に、室内放熱器125a〜125dは、それぞれ、面積や内部配管仕様の違いを有している。概して、室内放熱器の内部配管内の水熱媒保有量が大きいほど、面積が大きく、熱負荷も大きい。そこで、本実施形態では、図1のステップS011にお
いて設定する水熱媒の流量には、水熱媒保有量の情報を考慮する。
【0128】
たとえば、室内放熱器125a〜125dにおいて、水熱媒の保有量が、2L、3L、3L、3.5Lであった場合、室内放熱器125a〜125dに水熱媒を供給していた状態から、3台の室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の供給を停止した後、残りの室内放熱器125dへ供給する水熱媒の流量は、6L/分×3.5/(2+3+3+3.5)=1.8Lとする。
【0129】
以上により、面積が広く、水熱媒保有量が大きい室内放熱器に水熱媒を供給する場合は、水熱媒の流量を多めに設定することができる。逆に、室内放熱器の面積が狭く、水熱媒保有量が小さい場合は、水熱媒の流量を少なく設定することができる。
【0130】
したがって、利用者の設定により、水熱媒を供給する室内放熱器の数が減少し、熱負荷が急激に低下した場合に、目標とする水熱媒の流量を、室内放熱器の水熱媒保有量に応じて適切に設定することができる。また、実施の形態1と同様、戻り温度の上昇を即座に抑え、凝縮温度の上昇を防ぎ、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止すると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【0131】
(実施の形態3)
図4は、本発明の第3の実施の形態における、制御部130の、圧縮機111、および、循環ポンプ121に対する制御動作を説明したフローチャート図である。
【0132】
なお、本実施の形態において、ヒートポンプ温水暖房機100の構成は図4と同じであるため、その構成要素の説明は省略する。以下、水熱媒を供給する室内放熱器125の数が増え、熱負荷が増加した場合の動作について、図1のフローチャートからの追加点であるステップS012、S013について説明する。
【0133】
起動時循環流量制御が所定時間(たとえば10分)経過して終了し、循環ポンプ121の回転数Fsが最大回転数Fsmaxに達すると、制御部130は、利用者のリモコン124操作による、水熱媒を供給する室内放熱器125の数の変化を監視(S009)し始める。
【0134】
利用者が、リモコン124により、水熱媒を供給する室内放熱器125の数を増やすと、ステップS012にて、水熱媒を供給する室内放熱器125の数が減ったのか増えたのかを判断する。
【0135】
水熱媒を供給する室内放熱器125の数が減った場合は、実施の形態1と同様、ステップS010で室内放熱器125を設置した部屋が十分に暖まっていると判断した上で、ステップS011に移行し、循環ポンプ121の回転数Fsを調整する。逆に、水熱媒を供給する室内放熱器125の数が増えた場合は、ステップS013に移り、循環ポンプ121の回転数Fsを最大回転数Fsmaxとする。
【0136】
室内放熱器125dのみに水熱媒を供給していた状態から、時刻T3に、室内放熱器125a〜125cの3台への水熱媒の供給を開始する場合について説明する。
【0137】
ステップS013により、循環ポンプ121の回転数Fsが最大回転数Fsmaxとなると、水熱媒の循環量が最大となり、往き温度Twoと戻り温度Twiとの温度差は、数1の関係式に基づき、小さくなる。
【0138】
時刻T3以降しばらくは、室内放熱器125a〜125cの内部配管に滞留した、加熱
されていない冷えた水熱媒が、一斉にバッファタンク122を通って、水熱媒熱交換器115に流入するため、戻り温度Twiは最も低くなる。したがって、循環ポンプ121の回転数Fsが最大回転数Fsmaxにすると、往き温度Twotは最も低くなる。
【0139】
この結果、ステップS010で数3を満たさなくなり、ステップS007およびステップS008の処理に移行した後は、目標往き温度Twotと往き温度Twoとの温度差が大きいため、P制御(比例制御)あるいはPI制御を用いれば、圧縮機111の周波数Fcの速やかな上昇を促すことになる。
【0140】
すなわち、本実施の形態によれば、水熱媒を供給する室内放熱器の数が増加し、熱負荷の急激な増加が生じても、水熱媒の流量が最大となるように、前記循環ポンプを制御し、往き温度を最大限に低下させるので、圧縮機の周波数の速やかな上昇を促し、新たに水熱媒の供給を開始した室内放熱器を迅速に暖めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
以上のように、本発明にかかるヒートポンプ温水暖房機は、ヒートポンプサイクルの冷媒から水熱媒熱交換器において加熱された水熱媒が、循環ポンプにより室内放熱器に搬送され部屋を暖房するとともに、水熱媒を供給する室内放熱器の数の増減など、熱負荷の急な変化があっても、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止して、循環ポンプの運転動力を削減することができるので、ランニングコストの小さいヒートポンプ温水暖房機に適用できる。
【符号の説明】
【0142】
100 ヒートポンプ温水暖房機
110 ヒートポンプサイクル
111 圧縮機
112 空気熱交換器
113 空気熱交換器ファン
114 冷媒流量調整弁
115 水熱媒熱交換器
120 水熱媒サイクル
121 循環ポンプ
122 バッファタンク
123 開閉弁
124 リモコン
125 室内放熱器
126 往き温度検知センサ
127 戻り温度検知センサ
130 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、冷媒と熱媒との間で熱交換を行う熱媒熱交換器と、膨張弁と、熱源側熱交換器とで構成されるヒートポンプサイクルと、前記熱媒により暖房を行う複数の室内放熱器と、前記熱媒熱交換器と複数の前記室内放熱器との間で前記熱媒を循環させる循環ポンプと、前記熱媒熱交換器から前記室内放熱器に向かう前記熱媒の温度を検知する往き温度検知手段と、前記室内放熱器から前記熱媒熱交換器に戻る前記熱媒の温度を検知する戻り温度検知手段と、前記熱媒熱交換器と複数の前記室内放熱器との間の前記熱媒の循環の有無を制御する熱媒供給制御手段とを備え、前記往き温度検知手段で検知される往き温度が、目標往き温度となるように前記圧縮機の動作周波数を制御するヒートポンプ温水暖房機において、前記熱媒供給制御手段により、前記熱媒熱交換器との間で前記熱媒を循環させる前記室内放熱器の数がN1からN2に変化した場合、変化前の前記熱媒の流量にN2/N1を乗じた流量となるように、前記循環ポンプを制御することを特徴とするヒートポンプ温水暖房機。
【請求項2】
圧縮機と、冷媒と熱媒との間で熱交換を行う熱媒熱交換器と、膨張弁と、熱源側熱交換器とで構成されるヒートポンプサイクルと、前記熱媒により暖房を行う複数の室内放熱器と、前記熱媒熱交換器と複数の前記室内放熱器との間で前記熱媒を循環させる循環ポンプと、前記熱媒熱交換器から前記室内放熱器に向かう前記熱媒の温度を検知する往き温度検知手段と、前記室内放熱器から前記熱媒熱交換器に戻る前記熱媒の温度を検知する戻り温度検知手段と、前記熱媒熱交換器と複数の前記室内放熱器との間の前記熱媒の循環の有無を制御する熱媒供給制御手段と、前記往き温度検知手段で検知される往き温度が、目標往き温度となるように前記圧縮機の動作周波数を制御するヒートポンプ温水暖房機において、前記熱媒供給制御手段により、前記熱媒熱交換器との間で前記熱媒を循環させる前記室内放熱器の数が変化し、前記熱媒を循環させる前記室内放熱器の内部配管に保有する前記熱媒の容積の和が、L1からL2に変化した場合、変化前の前記熱媒の流量にL2/L1を乗じた流量となるように、前記循環ポンプを制御することを特徴とするヒートポンプ温水暖房機。
【請求項3】
前記熱媒供給制御手段により、前記熱媒熱交換器との間で前記熱媒を循環させる前記室内放熱器の数が減少した場合、減少前の前記往き温度と前記目標往き温度との差が往き温度誤差許容範囲以内のときに、循環ポンプにより水熱媒の流量を低下させることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートポンプ温水暖房機。
【請求項4】
前記熱媒供給制御手段により、前記熱媒熱交換器との間で前記熱媒を循環させる前記室内放熱器の数が減少した場合、減少前の前記戻り温度が目標戻り温度以上のときに、循環ポンプにより水熱媒の流量を低下させることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートポンプ温水暖房機。
【請求項5】
前記目標戻り温度は、34℃以上45℃以下の第1温度範囲より選択することを特徴とした請求項4に記載のヒートポンプ温水暖房機。
【請求項6】
前記熱媒供給制御手段により、前記熱媒熱交換器との間で前記熱媒を循環させる前記室内放熱器の数が増加した場合は、前記熱媒の流量が最大となるように、前記循環ポンプを制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒートポンプ温水暖房機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−167890(P2012−167890A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30481(P2011−30481)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】