説明

ヒ素拡散防止用注入薬液、ヒ素汚染土壌中におけるヒ素の拡散防止方法、及びこの方法に使用される送液装置

【課題】ヒ素汚染土壌中のヒ素を不溶化し、土壌を固化させるための注入薬液であって、薬剤自体のゲル化時間が適度に長く、且つ注入後のヒ素の不溶化、土壌の固化が速やかになされ、さらにその固化を高い強度で実現することができるヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液を提供すること。
【解決手段】ヒ素で汚染された土壌又は地盤中のヒ素拡散を防止するために注入される、ヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液であって、硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄とリン原子を含まない酸とを含む非アルカリシリカゾルを含むヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液;この薬液を用いるヒ素汚染土壌中におけるヒ素の拡散防止方法、及びこの方法に使用される送液装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素で汚染された土壌中に注入してヒ素の拡散を防止するための注入薬液、この薬液を用いてヒ素汚染土壌中におけるヒ素の拡散を防止する方法、及びこの方法に使用される送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体や環境に悪影響を及ぼす有害物の処理に際し、従来から、有害物を抽出、無害化、焼却、溶融、固化、遮蔽層による隔離等の方法が採用されている。有機系の有害成分を含有した有害物については燃焼、紫外線照射、生分解等により無害化できるが、無機系の有害成分、例えば水銀、鉛、カドミウム、クロム等の重金属を合有した有害物、或いはヒ素、ヒ素化合物等のヒ素類を合有した有害物については、無害化は難しく、固化、不溶化あるいは遮蔽によらなければならない。
【0003】
例えば、重金属の汚染土壌を粉体セメントと混合し、固化させ、無害化する方法、あるいは汚染土壌を掘削し、地上のプラントにより化学的処理により無害化する方法等が知られている。また、例えば、クロムで汚染された土壌にセメント、石灰、石膏等を添加してクロムの溶出を抑制する方法、ヘドロにフライアッシュ、炭酸アルミネート系塩材、セメント等を混合する方法がある。しかしながら、上述の方法では、大型の装置あるいは土木用機材を必要とし、コストも高くなるという不利があった。
【0004】
また、有害重金属をキレート剤単独で処理する方法もあるが、キレート剤が土中で微生物分解をうけた場合には、有害金属が再溶出する。さらに、地盤注入材を地盤に注入して有害物を固化させることも知られているが、従来の水ガラスを使用した注入材では耐久性が悪く(SiO2 が溶脱する)、アルカリの溶脱という二次公害の懸念があり、また、仮に耐久性の良好な注入材を使用したとしても、浸透性のよい注入材でなければならず、単に注入材を注入するだけでは有害物固化の確実性がない。
【0005】
上記有害物の内、ヒ素により汚染された土壌についても、その不溶化、固化の検討が進んでいる。ヒ素で汚染された掘削土の処理方法として、ヒ素の不溶化処理を行うとともに、掘削土の固化処理を行う技術が知られており、例えば、ヒ素を含む掘削土に、鉄塩を添加して、ヒ素の不溶化処理を行うとともに、セメント系固化材、石灰系固化材、マグネシア系固化材から選ばれる一種以上の固化材を添加して、掘削土の固化処理を行う技術が知られている(特許文献1)。さらに、これに関連する技術として、砒素の不溶化剤である鉄塩と、固化材である酸化マグネシウム及び珪酸アルカリ金属塩と、を含有する薬剤が知られている(特許文献2)。また、これに関連する技術として、石膏系の中性固化材を用いる技術も知られている。
【0006】
上記のように、固化材として、セメント系固化材、石灰系固化材、マグネシア系固化材を用いた場合には、ヒ素を不溶化し、掘削土を固化することは可能であるものの、処理後の掘削土が強アルカリ性(具体的には、pH>9)を示すこととなるため、例えば、処理後の掘削土の利用が制限されるなどの問題が生ずる。また、処理後の掘削土について、別途、中和処理を行う場合には、コストの増加を招く。さらに、鉄塩と、酸化マグネシウム及び珪酸アルカリ金属塩と、を含有する薬剤を用いた場合には、ヒ素が十分に不溶化する前に、掘削土が固化するため、薬剤と掘削土とが均一に混合されず、処理後の掘削土について、ヒ素の溶出量を測定すると、その溶出量が所定の基準値を超えることもある。また、石膏系の中性固化材を用いた場合には、処理後の掘削土が弱アルカリ性若しくは中性を示すことになるものの、その強度発現性が低く、掘削土の固化処理が不十分となる。
【0007】
上記の問題を解決するヒ素の不溶化処理方法として、ヒ素を含む掘削土と鉄塩とを混合させ、得られた掘削土と珪酸アルカリ金属塩とを混合させる方法が提案されている(特許文献3)。即ち、ヒ素を含む掘削土と鉄塩とを混合させると、この掘削土に含まれるヒ素と鉄塩由来の鉄イオンとが反応して難溶性のヒ酸鉄が形成されるので、掘削土に含まれるヒ素が不溶化され、続いて、この掘削土と珪酸アルカリ金属塩とを混合させると、珪酸アルカリ金属塩と、掘削土に残存する鉄イオン及び水素イオンとが反応して、珪酸がゲル化若しくは固化し、掘削土が固化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−167524号公報
【特許文献2】特開2007−302885号公報
【特許文献3】特開2009−166001号公報
【特許文献4】特許第3776268号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の方法では、ヒ素を含む土壌としては、掘削土が対象となるので、大量の汚染土壌を簡単に不溶化、固化することはできないため、効率の良い処理方法とは言えない。
【0010】
本発明者等は、前述の、地盤(土壌)に薬剤を注入して有害物を固化させる方法を用いて、掘削することなく現状のヒ素類で汚染された土壌を固化、不溶化することによりヒ素の拡散を防止する方法を開発するために研究を重ね、本発明に到達した。
【0011】
従って、本発明は、ヒ素汚染土壌中のヒ素を不溶化し、土壌を固化させるための注入薬液であって、薬剤自体のゲル化時間が適度に長く、且つ注入後のヒ素の不溶化、土壌の固化が速やかになされ、さらにその固化を高い強度で実現することができるヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記ヒ素拡散防止用注入薬液を用いてヒ素汚染土壌中のヒ素を不溶化し、土壌を固化させる、ヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記方法に有利に使用される送液装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
土壌又は地盤に注入する固結剤としては、前述のようにセメント、水ガラス等が知られているが、本発明者は、固化後、溶出の危険性のほとんど無い脱アルカリシリカゾル(例えば、特許文献4等に記載)に注目し、これを用いて、ヒ素で汚染された土壌又は地盤中にヒ素拡散を防止する方法を検討してきた。なお、特許文献4は、水ガラス、リン酸、酸性の水溶性アルミニウムを含む非アルカリ性シリカゾルからなる地盤の液状化防止のための薬液を開示している。
【0013】
本発明者は、ヒ素汚染土壌中のヒ素を不溶化し、土壌を固化させるために、脱アルカリシリカゾルと、それの硬化剤及びpH調整剤の機能を有する酸との組み合わせについて調査した結果、特許文献4に記載されているようなリン酸を含む溶液を用いた場合、ヒ素の溶出量はかえって増大することを見出した。そして、酸として、例えば硫酸を用いた場合は、ヒ素の溶出量を抑制することができることを見出した。
【0014】
更に検討を重ねた結果、例えば、脱アルカリシリカゾル、硫酸第二鉄及び硫酸を含む注入剤のゲル化時間は、注入剤のpHの影響を受け、通常、ゲル化時間を適正(12時間くらい)にするにはpHを低く調整する(pHが中性に近づくほどゲル化時間は短くなる)必要があるが、ヒ素の不溶化、固化は注入剤のpHが中性に近いほど向上することを見出した。そして、これらの知見に基づいて更に検討を重ねた結果、本願発明に到達したものである。
【0015】
上記目的は、
ヒ素で汚染された土壌又は地盤中のヒ素拡散を防止するために注入される、ヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液であって、
硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄と、リン原子を含まない酸と非アルカリシリカゾルとを含むヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液により達成することができる。
【0016】
本発明の好適態様は以下の通りである。
(1) シリカの濃度が3〜12質量%である。土壌の固化後の強度と経済性の両立が可能となる。
(2)リン原子を含まない酸が硫酸である。ゲル化時間を適性化とヒ素の不溶化の両立に特に有利であり、かつ経済性においても優れている。従来から用いられているリン酸の使用は、ゲル化時間の酸濃度依存性が小さいため、その点では有利であるが、ヒ素不溶化の効果が得られない。
(3)pHが3.5〜4.5である。ゲル化時間を適性化とヒ素の不溶化、固化の両立に特に有利である。
(4)さらに珪酸ナトリウムを含む。土壌の固化後の強度と経済性の両立が可能となる。
(5)硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄とリン原子を含まない酸とを含む非アルカリシリカゾルを含む第1の液と珪酸ナトリウムを含む第2の液からなる。硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄とリン原子を含まない酸とを含む非アルカリシリカゾルを含む液の安定性が増大する。第1の液は、硫酸等のリン原子を含まない酸、硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄(特にポリ硫酸第二鉄;また、硫酸第二鉄及びポリ硫酸第二鉄の両方入れる場合その順序はどちらでも良いし、同時に入れても良い)、非アルカリシリカゾルの順に加えて、その都度混合することにより作製するのが好ましい。
(6)珪酸ナトリウムを使用した場合、非アルカリシリカゾルと珪酸ナトリウムの合計質量に対して、非アルカリシリカゾルが全体のシリカの少なくとも8質量%占めている。土壌の固化後の強度、及び溶出の防止が可能であり、且つ経済性にも優れている。
【0017】
また、上記目的は、
ヒ素で汚染された土壌又は地盤中に、上記のヒ素拡散防止用注入薬液を注入することを特徴とするヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止方法により達成することができる。
【0018】
本発明の上記方法の好適態様は以下の通りである。
(1)薬剤の注入を超多点注入工法により行う。薬剤の注入を、広範囲に効率よく行うことができる。
(2)ヒ素拡散防止用注入薬液の各材料をねじポンプ(好ましくはモーノポンプ)又はスクリューポンプで静止型混合機(スタティックミキサー)に送り、スタティックミキサーで混合して、得られた注入薬液をバッファータンクに送った後、注入する。薬剤の製造及び注入を効率よく行うことができる。
(3)ヒ素拡散防止用注入薬液の各材料をねじポンプ(好ましくはモーノポンプ)又はスクリューポンプで第1の静止型混合機(スタティックミキサー)に送り、第1の静止型混合機で混合して、第1のバッファータンクに送り、pH及び温度を検出してそれらが所定範囲内にあるかを調査し、範囲内である場合は第2のバッファータンクに送り、範囲外である場合は、混合された材料(薬液)のpHを調整するための必要な材料を前記ねじポンプ又はスクリューポンプを介して第2の静止型混合機に送って混合し、これを第1のバッファータンクに送ってpHを調整した後、第2のバッファータンクに送って注入する。薬剤の製造及び注入をさらに効率よく行うことができる。
【0019】
前記ヒ素拡散防止用注入薬液における好適態様も、上記方法に適用することができる。
【0020】
更に、上記目的は、
上記のヒ素拡散防止用注入薬液の各材料を圧送するための各ねじポンプ(好ましくはモーノポンプ)又はスクリューポンプ、
各モーノポンプから送られた各材料を混合するための静止型混合機(スタティックミキサー)、
静止型混合機から送られた混合された材料(薬液)を貯めるバッファータンク、静止型混合機とバッファータンクとの間に設けられた混合材料のpH及び温度を検出する機器、
pH及び温度が所定範囲外である場合に、混合された材料(薬液)のpHを調整するための必要な材料を圧送するためにねじポンプ又はスクリューポンプを操作する自動制御機器、
を含むヒ素拡散防止用注入薬液の送液装置;及び
上記のヒ素拡散防止用注入薬液の各材料を圧送するための各ねじポンプ又はスクリューポンプ、
各ねじポンプ又はスクリューポンプから送られた各材料を混合するための第1の静止型混合機、
第1の静止型混合機から送られた混合された材料(薬液)を貯める第1のバッファータンク、第1の静止型混合機と第1のバッファータンクとの間に設けられた混合材料のpH及び温度を検出する機器、
pH及び温度が所定範囲外である場合に、混合された材料(薬液)のpHを調整するための必要な材料を圧送するためにねじポンプ又はスクリューポンプを操作する自動制御機器、
pHを調整のために各ねじポンプ又はスクリューポンプから送られた各材料を混合し、第1のバッファータンクに送る第2の静止型混合機、
第1のバッファータンクから送られる、pH及び温度が所定範囲内に調整された混合材料を注入のために貯める前記第2のバッファータンク、
を含むヒ素拡散防止用注入薬液の送液装置、
により達成することができる。
【0021】
前記方法における好適態様も、上記装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ヒ素拡散防止用注入薬液として、ヒ素不溶化剤として硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄、土壌固化剤として非アルカリシリカゾルを用い、非アルカリシリカゾルを固化させるための硬化剤及びpH調整剤の機能を有する酸として、リン原子を含まない酸を用いることにより、薬液自体のゲル化時間を適度に長くすることができ、且つ注入後のヒ素の不溶化、土壌の固化を速やかに行うことができ、さらにその固化を高い強度で実現することができる。そして、本発明の注入薬液は、ヒ素で汚染された土壌又は地盤中に単に注入することにより、広範囲の汚染土壌のヒ素の拡散防止を行うことができる。
【0023】
また、本発明の送液装置は、このようなヒ素の拡散防止を有利に行うために特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明のヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止方法を有利に実施するために使用される超多点注入装置の一例である。
【図2】図2は、注入管の別の例である。
【図3】図3は、ヒ素で汚染された土壌に設けられた注入口、土壌、地下水の汚染を確認するための調査孔の配置の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明のヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止方法を有利に実施するために使用される送液装置の一例である。
【図5】図5は、本発明のヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止方法を有利に実施するために使用される送液装置の別の一例である。
【図6】図6は、注入薬液として、ポリ硫酸第二鉄を用いた場合と、硫酸とポリ硫酸第二鉄を加えた非アルカリシリカゾルを用いた場合の、ポリ硫酸第二鉄の量とヒ素溶出量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の注入薬液は、ヒ素で汚染された土壌又は地盤中にヒ素拡散を防止されために注入される、ヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液である。この注入薬液は、基本構成として、硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄、リン原子を含まない酸及び非アルカリシリカゾルを含むものである。
【0026】
本発明のヒ素拡散防止用注入薬液は、ヒ素不溶化剤として硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄を用い、土壌固化剤として非アルカリシリカゾルを用い、そして非アルカリシリカゾルを固化させるための硬化剤及びpH調整剤の機能を有する酸として、リン原子を含まない酸を用いている。そして、非アルカリシリカゾルと硫酸第二鉄を含む系において、リン原子を含まない酸を最適量(特にpH3.5〜4.5となるように)で用いることにより、薬剤自体のゲル化時間を適度に長くすることができ、且つ注入後のヒ素の不溶化、土壌の固化を速やかに行うことができる。そして、さらにこの土壌の固化を高い強度で実現することも可能である。従って、このような本発明の注入薬液を、ヒ素で汚染された土壌又は地盤中に単に注入することにより、広範囲にヒ素で汚染された土壌中のヒ素を拡散防止することができる。
【0027】
本発明の非アルカリシリカゾルは、コロイダルシリカであり、SiO2又はその水和物が水中に分散したものである。その化学式は、一般にSiO2・xH2O(x:5.0〜200.0、好ましくは5.0〜163.6)で表される。その濃度は一般に2〜40質量%(好ましくは4〜30質量%)であり、コロイド粒子の粒径は一般に2〜200nm(好ましくは10〜100nm)であり、そのpHは7〜12(好ましくは8〜11)である。このような非アルカリシリカゾルは、例えば、ASFシリカ−30、−20、−6、−4の商品名(強化土エンジニヤリング(株)製)で市販されており、好ましく使用することができる。
【0028】
上記非アルカリシリカゾルは、一般に、水ガラスを脱アルカリ処理することにより得られる。例えば、イオン交換樹脂を塔に充填し、この中を水で希釈した水ガラスを通過させて脱アルカリ処理を行う方法により脱アルカリシリカゾルを得ることができる。
【0029】
本発明のヒ素拡散防止用注入薬液は、さらに珪酸ナトリウム(水ガラス)を含むことができる。珪酸ナトリウムは、成分としてはNa2O・nSiO2(n:2.0〜5.0,好ましくは2.1〜3.7)で表され、その化学式は、一般にNa2O・nSiO2・xH2O(n:2.0〜5.0,好ましくは2.1〜3.7、x:8.0〜50.0,好ましくは8.7〜32.6)で表される。例えば、PRシリカの商品名(強化土エンジニヤリング(株)製)で市販されており、好ましく使用することができる。成分Na2O・nSiO2の濃度は一般に7〜55質量%である。
【0030】
本発明のヒ素拡散防止用注入薬液におけるシリカの濃度が3〜12質量%であることが好ましく、更に3.5〜10質量%が好ましくは、特に4〜8質量%が好ましい。シリカの濃度は、非アルカリシリカゾルのみ使用した場合はそのシリカ濃度を表し、非アルカリシリカゾルと珪酸ナトリウムの両方を使用した場合はその合計のシリカ濃度を表す。3質量%より少ない場合は、固化の強度が不十分であるか或いは、シリカ自体が溶出する量が多くなるとの不利があり、12質量%を超えると経済性が悪化するとの不利がある。
【0031】
非アルカリシリカゾルと珪酸ナトリウムの両方を用いた場合、非アルカリシリカゾルが全体のシリカの少なくとも8質量%、さらに10質量%、特に12質量%占めていることが好ましい。8質量%より少ない場合は、固化の強度が不十分であるか或いは、溶出するシリカが多くなるとの不利がある。
【0032】
さらに珪酸ナトリウムを含む方が、土壌の固化後の強度と経済性の両立に有利である。
【0033】
本発明では、リン原子を含まない酸が、非アルカリシリカゾル(及び珪酸ナトリウム)を固化させるための硬化剤及びpH調整剤の機能を有する酸として使用される。このような酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸、ギ酸、酢酸等の有機酸を挙げることができる。pHの制御が少量の添加で可能なこと、及び経済性の点から、硫酸が好ましい。硫酸は、一般に、濃度が5〜98%のものが使用されるが、30〜70%を用いることが作業性の点で好ましい。
【0034】
硫酸は、ゲル化時間を適正化とヒ素の不溶化の両立に特に有利であり、かつ経済性においても優れている。リン酸の使用は、ゲル化時間の酸濃度依存性が小さいため、その点では有利であるが、ヒ素不溶化の効果が得られない。
【0035】
本発明の上記酸は、本発明のヒ素拡散防止用注入薬液のpHの調整のためにも使用される。酸は、pHが3.5〜4.5となるように添加することが好ましい。これにより、ゲル化時間を適正化とヒ素の不溶化の両立において優れたものとなる。
【0036】
本発明においては、ヒ素の不溶化剤として硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄が使用される。ポリ硫酸第二鉄は、一般に〔Fe2(OH)n(SO43-n/2mで表される。硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄は、非アルカリシリカゾルと珪酸ナトリウムとの合計質量に対して、固形分で1〜5質量%、特に2〜4質量%使用することが好ましい。上限を超えると、添加量に対して不溶効果がほとんど得られず、下限未満の場合は不溶効果が不十分である。
【0037】
本発明のヒ素拡散防止用注入薬液は、上記のようにpHが3.5〜4.5の範囲で使用されることが好ましいが、その調整法は、一般に、硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄、リン原子を含まない酸、非アルカリシリカゾル及び水、又は硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄、リン原子を含まない酸、非アルカリシリカゾル、珪酸ナトリウム及び水の配合を、予めpHが3.5〜4.5となるように酸の量を調整することにより、決めておき、その配合に基づいて各材料が混合される。そして、得られた混合物が、所定のpHを示さない場合は、酸、シリカ(非アルカリシリカゾル及び/又は珪酸ナトリウム)、水等を加えることにより所定のpHとなるように調整される。
【0038】
あるいは、硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄を含む非アルカリシリカゾルを含む液をリン原子を含まない酸を加えて予め高めのpHに調整した後、これに珪酸ナトリウムを含む液を添加しても良い。この場合も、得られた混合物が、所定のpHを示さない場合は、酸、シリカ(非アルカリシリカゾル及び/又は珪酸ナトリウム)、水等を加えることにより所定のpHとなるように調整される。これにより、硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄とリン原子を含まない酸を含む非アルカリシリカゾルを含む液の安定性が増大する。
【0039】
本発明のヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止方法は、ヒ素で汚染された土壌又は地盤中に、上記のヒ素拡散防止用注入薬液を注入することにより行うことができる。
【0040】
本発明のヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止方法を実施するために有利に使用される超多点注入装置の一例が図1に示されている。超多点注入装置を用いた本発明のヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止方法について以下に説明する。
【0041】
本発明のヒ素拡散防止方法は、例えば、図1に示すように、吐出口4を多数有する注入管1が、ヒ素で汚染された土壌(地盤)15に挿入され、この注入管1に、本発明のヒ素拡散防止用注入薬液が送り込まれ、吐出口4から土壌内に注入されることにより行われる。
【0042】
そして、上記注入管1の土壌内への設置及び注入薬液の給送、注入は、圧送通路16を介し、それぞれ検知箱8に収められた圧力検知器と流量検知器により圧送通路の各々の圧力、流量、検知がなされ、検知管8における各圧力、流量のデータは電気信号でコントローラー10に送られて注入管を構成する各注入細管3の注入が管理された状態で行われる。
【0043】
これらの注入細管3は特開平11−21296号公報に開示されている様に、多連装重連のユニットポンプ12にも接続されてヒ素拡散防止用注入薬液用タンク13内の注入薬液14を、圧送通路16を介して圧送して所定の地盤15中に挿入された各注入管1の注入細管3の各長さ方向に位置をずらして設けた吐出口4から当該土壌15中に均一に注入薬液14を低圧浸透して一挙に広大なエリアの地盤15中に立体的に注入することができるようにされている。
【0044】
本発明で使用される注入管としては、例えば図1に示すように注入細管を多数束ねたものを挙げることできる。図2に示すような、芯管2と注入細管3とからなるものでも良く、多数の吐出口を有し、低圧で注入薬液を吐出することができ、その吐出量等を制御できるものであればよい。
【0045】
図2の注入管1は、その中央には金属製又は硬質合成樹脂製の芯管2と、この芯管2の周囲に図2に示す様に、所定数の注入細管3が所定のバンド、或いは、接着剤等を介して全周囲に環設されている。
【0046】
上記注入管1は吐出口と同数の注入細管3の束であることが好ましい。例えば、図1に示すように、端に最も長い注入細管を配置し、これに平行に徐々に長さの短い注入細管を配置したものか、或いは中心に最も長い注入細管を配置し、その周囲に徐々に長さの短い注入細管を配置したものが好ましい。注入細管の寸法は、直径は、0.6〜0.8cmが好ましく、長さは一般に1〜80m、1〜50mが好ましい。
【0047】
汚染土壌に対して、上記超多点注入工法で使用される注入管1が、後述する事前調査の結果を基に、必要な本数設置し、拡散防止処理が行われる。
【0048】
上記注入管1は、水平方向平面において、1〜5m間隔、特に2〜3m間隔で設けられることが好ましい。また、注入管1は、垂直方向に0.3〜1.5m間隔で吐出口4を有することが好ましい。注入管1は、一般に、注入細管よりなるものであり、注入細管には吐出口は1個のみ有するので、吐出口の数だけ注入細管が必要となる。
【0049】
また各注入管に設けられる吐出口の数(一般に注入細管の数)は、一般に〜100個、好ましくは〜60個である。上記注入管に設けられた吐出口は、薬剤溶液が均一に注入できるよう適宜設定される。例えば中心に最も長い注入管を設置し、その周囲に徐々に長さの短い注入細管を放置し、吐出口が束の外側にあるようにされていることが好ましい。また各吐出口からの注入量は、0.1〜4L(リットル)/分、特に0.2〜1L/分が好ましい。また注入圧は0.1〜0.3MPaが好ましい。
【0050】
注入管の配置を決定するために事前調査が行われる。そのための調査孔としては、例えば図3に示すように、ヒ素で汚染された土壌に設けられた注入口(注入管の位置)から、例えば半径(r)1m、2m、3mの位置に、例えば、土壌の汚染を確認するための調査孔(AB2,AC2,BC2)、地下水汚染を確認するための調査孔(A1,A2,A3、C1,C2,C3)、地下水汚染を確認するための調査孔および土壌の汚染を確認するための調査孔(他の全ての記号、B1,B2,B3・・・)を設置する。そして、これにより汚染の程度の事前調査を行い、注入管の配置(本数、間隔等)を決定する。この配置すべき位置に図1に示すような注入管(一般に複数)を設け、注入薬液をヒ素汚染地域に超多点注入工法により直接注入して、拡散防止処理が行われる。
【0051】
超多点注入工法による注入薬液の注入方法としては、例えば高さ方向で1個おきの吐出口から同時に交互に薬剤溶液を吐出し、またこれを各注入口についても同様に行う方法;或いは高さ方向でいくつかのグループに分けられた吐出口から同時に分けられたグループの数だけ交互に薬剤溶液を吐出し、またこれを各注入口についても同様に行う方法等を挙げることができる。
【0052】
以上のように、注入薬剤の注入を超多点注入工法により行うことにより、薬剤の注入を、広範囲に効率よく行うことができる。
【0053】
上記ヒ素拡散防止用注入薬液用タンク(バッファータンク)13等へのヒ素拡散防止用注入薬液の送液は、ヒ素拡散防止用注入薬液の各材料をモーノポンプでスタティックミキサーに送り、スタティックミキサーで混合して、得られた注入薬液をバッファータンクに送ることにより、薬剤の製造及び注入を効率よく行うことができる。
【0054】
また、ヒ素拡散防止用注入薬液の各材料をモーノポンプで第1のスタティックミキサーに送り、第1のスタティックミキサーで混合して、第1のバッファータンクに送り、pH及び温度を検出してそれらが所定範囲内にあるかを調査し、範囲内である場合は第2のバッファータンクに送り、範囲外である場合は、混合された材料(薬液)のpHを調整するための必要な材料を前記モーノポンプを介して第2のスタティックミキサーに送って混合し、これを第1のバッファータンクに送ってpHを調整した後、第2のバッファータンクに送って注入することもできる。これにより薬剤の製造及び注入をさらに効率よく行うことができる。
【0055】
例えば、ヒ素拡散防止用注入薬液用タンク(バッファータンク;例えば、上記13)へのヒ素拡散防止用注入薬液の送液及び注入は、図4又は図5に示される送液装置を用いて行うことができる。
【0056】
図4の送液装置において、上記のヒ素拡散防止用注入薬液の各材料である、水a、酸b、硫酸第二鉄c及びシリカdを、スタティックミキサーSに圧送するための各モーノポンプMa、Mb、Mc、Md、が設けられている。水aと酸bは、スタティックミキサーSにはいる手前で合流する。各モーノポンプMa、Mb、Mc、Mdから送られた各材料をスタティックミキサーSで混合し、混合された材料(薬液)をバッファータンクTに供給する。スタティックミキサーSとバッファータンクTの途中(の配管)に混合材料のpH及び温度を検出する機器(pH・温度センサー)pHが設けられている。このpH及び温度の測定値が所定の範囲に入っている場合は、この薬液は、ポンプユニットPを介して流れ部Flowに送られ、注入される。注入される流量等は流れ部Flowで検出され、制御用PCにより流量の微調整が行われる。流れ部Flowにおいては、圧力検知器と流量検知器により圧送通路の各々の圧力、流量、検知がなされ、各圧力、流量のデータは電気信号で制御用PCに送られる。
【0057】
前記のpH及び温度の測定値が所定の範囲に入っていない場合は、制御用PC(自動制御機器)により必要な材料(例えば、pHが低すぎる場合は酸)の量を増加するようにモーノポンプを調整する。pHの調整により薬液のゲルタイムを調整することができる。
【0058】
従って、図4の送液装置においては、各材料をスタティックミキサーSで連続混合し、pH及び温度をモニタリングして所定値内になるように酸の添加量を自動調整して、連続的に薬液を得ることができる。pHが所定値からはずれた場合、混合は自動的に停止される。
【0059】
図5の送液装置においては、前記バッファータンクの手前にpH(ゲルタイム)の調整のための別バッファータンクを設け、pHが所定値からはずれた場合でも、規格外の薬液が注入されるのを防止することができる。
【0060】
上記のヒ素拡散防止用注入薬液の各材料である、水a、酸b、硫酸第二鉄c及びシリカdを、第1のスタティックミキサーS(A)に圧送するための各モーノポンプMa、Mb、Mc、Md、が設けられている。水aと酸bは、第1のスタティックミキサーS(A)にはいる手前で合流する。各モーノポンプMa、Mb、Mc、Mdから送られた各材料を第1のスタティックミキサーS(A)で混合し、混合された材料(薬液)を第1のバッファータンクT1に供給する。第1のスタティックミキサーS(A)と第1のバッファータンクT1の途中(の配管)に混合材料のpH及び温度を検出する機器(pH・温度センサー)pHが設けられている。このpH及び温度の測定値が所定の範囲に入っている場合は、この薬液は、第2のバッファータンクT2に送られ、そこからポンプユニットPを介して注入部Flowに送られ、注入される。注入量の調整は、制御用PC(自動制御機器)によって行われる。
【0061】
pH及び温度が所定範囲外である場合に、各モーノポンプMa、Mb、Mc、Md及び第1のスタティックミキサーS(A)を停止し、各モーノポンプのバルブVの開方向を変更して各モーノポンプMa、Mb、Mc、Mdと、そこから送られる材料を受けるスタティックミキサーS(B)を作動させ、例えば、pHが所定範囲未満の場合は、酸bのモーノポンプMbを作動させてスタティックミキサーS(B)から第1のバッファータンクT1に酸bが送られ、得られた薬液は、第2のバッファータンクT2に送られ、ポンプユニットPを介して流れ部Flowに送られ、注入される。pHが所定範囲超の場合は、例えば、シリカdのモーノポンプMdを作動させてスタティックミキサーS(B)から第1のバッファータンクT1にシリカdが送られ、得られた薬液は、第2のバッファータンクT2に送られ、ポンプユニットPを介して流れ部Flowに送られ、注入される。この調整は制御用PCによって行われる。
【0062】
pH及び温度を検出する機器(pH・温度センサー)pHは、第1のバッファータンクT1内、及び第1のバッファータンクT1内にも設けられており(無くても良い)、前記と同様にモーノポンプMa、Mb、Mc、Md及び第1のスタティックミキサーS(A)を停止し、各モーノポンプMa、Mb、Mc、Mdの必要なモーノポンプ及びスタティックミキサーS(B)を作動させて調整される。
【0063】
上記各材料の給送に、モーノポンプを使用しているが、モーノポンプ以外のねじポンプ或いはスクリューポンプも使用することができる。
【0064】
本発明の装置は、注入薬液を、所定のpHで安定して、連続的に土壌に注入できるものであるが、各材料の給送をねじポンプ(好ましくはモーノポンプ)或いはスクリューポンプで行い、それらの混合を静止型混合機(スタティックミキサー)で行っていることに特徴も有する。このため、各材料を変質することなく、容易に移送することができるので、上記装置は、生産性に優れたものである。
【0065】
本発明の装置では、各材料の給送に、モーノポンプ以外のねじポンプ或いはスクリューポンプも使用することができるが、モーノポンプが好ましい。モーノポンプとしては、例えば、兵神装備株式会社製のヘイシンモーノポンプ(好ましくは、NY型、CY型)を使用することができ、静止型混合機(スタティックミキサー)としては、例えば、日本フローコントロール株式会社製のスタティックミキサー(好ましくは、ステータタイプ)を使用することができる。
【実施例】
【0066】
[予備実験]
(1)
ヒ素で汚染された土壌(環境省告示第18号に準拠した溶出量:0.099mg/L(環境基準の9.9倍)に溶液型活性シリカグラウト(登録商標:パーマロックASF−IIα、強化土エンジニヤリング(株))をシリカ濃度4質量%、6質量%、8質量%に調整した注入薬液を注入率40.5%(土壌1m3に405L)で添加、混合し、2日間の養生後にヒ素の溶出量を測定した。
【0067】
上記溶液型活性シリカグラウト(パーマロックASF−IIα)(シリカ濃度6質量%の場合)の配合
[A液(200L(リットル))]
パーマロックASFシリカ−30(固形分30質量%) 9.5L
ASFアクターMS 9.8L
水 180.7L
[B液(200L)]
パーマロックPRシリカ 60.0L
水 140.0L
【0068】
上記A液とB液を注入直前に混合し、注入薬液とした。シリカ濃度4質量%、8質量%は、ASFシリカ−30/PRシリカが上記比率を維持するように増減させた。
【0069】
結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、シリカ濃度が高いほどヒ素溶出量が増加し、また土壌pHも低くなった。
【0072】
(2)
土壌のpHを中性に保つことを目的に、硬化剤及びpH調整剤の機能を有する酸としてリン酸と硫酸の混合液(ASFアクターMS)を、上記溶液型活性シリカグラウトと同じ通常配合、通常配合の85質量%、75質量%、50質量%と減らして、(1)と同様の実験を行った。さらにASFアクターMSの代わりに硫酸を添加したものも実験した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
リン酸と硫酸の混合液(ASFアクターMS)を使用した場合は、土壌のpHを中性域に保つことはできたが、ヒ素溶出量は低下しなかった。一方、硬化剤及びpH調整剤の機能を有する酸として硫酸を用いた場合は、ヒ素溶出量は環境基準を満たさなかったものの激減した。
【0075】
上記ASFアクターMS100質量%の注入薬液の配合を下記に示す。
【0076】
[A液(200L(リットル))]
パーマロックASFシリカ−30(固形分30質量%) 6.4L
ASFアクターMS 6.5L
水 187.1L
[B液(200L)]
パーマロックPRシリカ(固形分35質量%) 40.0L
水 160.0L
【0077】
上記A液とB液を注入直前に混合し、注入薬液とした。
【0078】
[実施例1]
ポリ硫酸第二鉄(固形分:11質量%)のみからなる注入薬液を、土壌に対して2L/m3、5L/m3、10L/m3の割合で添加した場合、また、溶液型活性シリカグラウトにおいて、ポリ硫酸第二鉄を添加し、硬化剤及びpH調整剤の機能を有する酸としてASFアクターMSの代わりに硫酸を用いてpHを4.2に調整した注入薬液(ポリ硫酸第二鉄を土壌に対して2L/m3、5L/m3、10L/m3となるように異なる濃度の薬液を作製)を、(1)と同じヒ素で汚染された土壌(環境省告示第18号に準拠した溶出量:0.099mg/L(環境基準の9.9倍)に添加し混合した。2日間の養生後にヒ素の溶出量を測定した。得られた結果(グラフ)を図6に示す。
【0079】
図6から明らかなように、ポリ硫酸第二鉄単独の注入薬液の場合に比べて、溶液型活性シリカグラウトに、硫酸とポリ硫酸第二鉄を加えたものの方が、ヒ素の不溶化効果は格段に優れていた。また、第二鉄単独の注入薬液の場合、5Lから増量してもヒ素溶出量は改善が見られなかった。
【0080】
[実施例2]
実施例1の溶液型活性シリカグラウトにおいて、ASFアクターMSの代わりに硫酸を用い、ポリ硫酸第二鉄を土壌に対して5L/m3に相当する量を添加し、硫酸の量を変化させて注入薬液のpHを調整し、注入薬液のゲルタイムとヒ素の不溶化効果を測定した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
表3から明らかなように、注入薬液のpHが低いほど不溶化効果が低下する傾向を示し、pHが高いほどゲルタイムが短くなることが分かる。
【0083】
上記優れた結果を示したNo.2の注入薬液の配合を下記に示す。
[A液(200L(リットル))](シリカ濃度:4質量%)
パーマロックASFシリカ−30(固形分30質量%) 6.4L
ポリ硫酸第二鉄 5.0L
硫酸 2.22L
水 186.5L
[B液(200L)]
パーマロックPRシリカ 40.0L
水 160.0L
【0084】
上記A液とB液を注入直前に混合し、注入薬液とした。No.1及び3―6の注入薬液はNo.2の配合の硫酸の量のみ変更したものである。この時、A液の配合順序を、硫酸、ポリ硫酸第二鉄、シリカ−30の順で配合した。この順序で配合すると、ゲルタイムが安定したが、他の順序ではゲルタイムが不安定になった。
【0085】
以上の結果から、本発明のヒ素拡散防止用注入薬液は、優れたヒ素の不溶化効果、土壌の固化効果を示し、また薬剤自体のゲル化時間が適度に長いので作業性にも優れたものであることが分かる。
【符号の説明】
【0086】
1 注入管
2 芯管
3 注入細管
4 吐出口
8 検知箱
10 コントローラー
12 ユニットポンプ
13 注入薬液用タンク
14 注入薬液
15 汚染された地盤
16 圧送通路
a、Mb、Mc、Md モーノポンプ
S スタティックミキサー
S(A) 第1のスタティックミキサー
S(B) 第2のスタティックミキサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素で汚染された土壌又は地盤中のヒ素拡散を防止するために注入される、ヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液であって、
硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄とリン原子を含まない酸とを含む非アルカリシリカゾルを含むヒ素汚染土壌中のヒ素拡散防止用注入薬液。
【請求項2】
シリカの濃度が3〜12質量%である請求項1に記載のヒ素拡散防止用注入薬液。
【請求項3】
リン原子を含まない酸が硫酸である請求項1又は2に記載のヒ素拡散防止用注入薬液。
【請求項4】
pHが3.5〜4.5である請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒ素拡散防止用注入薬液。
【請求項5】
さらに珪酸ナトリウムを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒ素拡散防止用注入薬液。
【請求項6】
硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄とリン原子を含まない酸とを含む非アルカリシリカゾルを含む第1の液と珪酸ナトリウムを含む第2の液からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒ素拡散防止用注入薬液。
【請求項7】
第1の液が、リン原子を含まない酸、硫酸第二鉄及び/又はポリ硫酸第二鉄、及び非アルカリシリカゾルを、この順で加え、その都度混合することにより得られるものである請求項6に記載のヒ素拡散防止用注入薬液。
【請求項8】
非アルカリシリカゾルと珪酸ナトリウムとの合計質量に対して、非アルカリシリカゾルが全体のシリカの少なくとも8質量%占めている請求項5〜7のいずれか1項に記載のヒ素拡散防止用注入薬液。
【請求項9】
ヒ素で汚染された土壌又は地盤中に、請求項1〜8のいずれか1項に記載のヒ素拡散防止用注入薬液を注入することを特徴とするヒ素汚染土壌中におけるヒ素の拡散防止方法。
【請求項10】
薬剤の注入を超多点注入工法により行う請求項9に記載のヒ素拡散防止方法。
【請求項11】
ヒ素拡散防止用注入薬液の各材料をねじポンプ又はスクリューポンプで静止型混合機に送り、静止型混合機で混合して、得られた注入薬液をバッファータンクに送った後、注入する請求項9又は10に記載のヒ素拡散防止方法。
【請求項12】
ヒ素拡散防止用注入薬液の各材料をねじポンプ又はスクリューポンプで第1の静止型混合機に送り、第1の静止型混合機で混合して、第1のバッファータンクに送り、pH及び温度を検出してそれらが所定範囲内にあるかを調査し、範囲内である場合は第2のバッファータンクに送り、範囲外である場合は、混合された材料(薬液)のpHを調整するための必要な材料を前記ねじポンプ又はスクリューポンプを介して第2の静止型混合機に送って混合し、これを第1のバッファータンクに送ってpHを調整した後、第2のバッファータンクに送って注入する請求項9〜11のいずれか1項に記載のヒ素拡散防止方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のヒ素拡散防止用注入薬液の各材料を圧送するための各ねじポンプ又はスクリューポンプ、
各モーノポンプから送られた各材料を混合するための静止型混合機、
静止型混合機から送られた混合された材料(薬液)を貯めるバッファータンク、静止型混合機とバッファータンクとの間に設けられた混合材料のpH及び温度を検出する機器、
pH及び温度が所定範囲外である場合に、混合された材料(薬液)のpHを調整するための必要な材料を圧送するためにねじポンプ又はスクリューポンプを操作する自動制御機器、
を含むヒ素拡散防止用注入薬液の送液装置。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のヒ素拡散防止用注入薬液の各材料を圧送するための各ねじポンプ又はスクリューポンプ、
各ねじポンプ又はスクリューポンプから送られた各材料を混合するための第1の静止型混合機、
第1の静止型混合機から送られた混合された材料(薬液)を貯める第1のバッファータンク、第1の静止型混合機と第1のバッファータンクとの間に設けられた混合材料のpH及び温度を検出する機器、
pH及び温度が所定範囲外である場合に、混合された材料(薬液)のpHを調整するための必要な材料を圧送するためにねじポンプ又はスクリューポンプを操作する自動制御機器、
pHを調整のために各ねじポンプ又はスクリューポンプから送られた各材料を混合し、第1のバッファータンクに送る第2の静止型混合機、
第1のバッファータンクから送られる、pH及び温度が所定範囲内に調整された混合材料を注入のために貯める前記第2のバッファータンク、
を含むヒ素拡散防止用注入薬液の送液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−228685(P2012−228685A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89873(P2012−89873)
【出願日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】