説明

ビグアナイド薬標的分子およびその用途

【課題】ビグアナイド薬の標的分子の同定および該標的分子を用いた新規糖尿病予防・治療薬のスクリーニング系の提供。
【解決手段】(a)被験物質の存在下および非存在下で、ビグアナイド薬とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させる工程、および(b)上記両条件下において、ビグアナイド薬とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体との結合をそれぞれ測定し、比較する工程;あるいは(a’)ビグアナイド薬の存在下および非存在下で、被験物質とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させる工程、および(b’)上記両条件下において、被験物質とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体との結合をそれぞれ測定し、比較する工程を含む、ビグアナイド薬とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体との結合を阻害する物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病治療薬、特に2型糖尿病治療薬であるビグアナイド薬の標的分子およびその選出方法、ビグアナイド薬標的分子の発現および/または活性を調節することによる糖尿病等の疾患の予防・治療、並びにビグアナイド薬標的分子を用いた糖尿病等の疾患の新規予防・治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビグアナイド薬は、古い歴史を持つ経口血糖降下剤であり、スルホニルウレア剤(SU剤)と並んで広く用いられてきたが、1970年代に重篤な副作用である乳酸アシドーシスを起こすことが問題となり、多くの国で使用が中止された。特にフェンホルミンは1977年に米国で使用禁止となり、メトホルミンとブホルミンだけがわずかに使用されることになった。
ところが、最近、ビグアナイド薬は、SU剤とは異なり、膵β細胞からのインスリン分泌を介することなく血糖降下作用を示すことが分かり、さらに、英国での大規模臨床試験(UKPDS34)において、メトホルミンが心筋梗塞などの糖尿病に関連した死亡を大きく減少させること(非特許文献1)、次いで、メトホルミンの服用により糖尿病の発症自体が抑制されること(非特許文献2)等が報告されたことにより、ビグアナイド薬の臨床的意義が再認識されてきている。
【0003】
ビグアナイド薬は、体重減少や脂質の改善にも効果があることから、インスリン抵抗性で肥満症を合併する糖尿病患者に最もよく処方されている。また、ビグアナイド薬は低血糖を引き起こすことがないため、少なくともある種の糖尿病患者においては、インスリンやSU剤よりも明らかに優れている。さらに、薬価が極めて安いことから、医療経済の面からも広く利用されることが期待される。しかしながら、その作用機序が未解明であることが不安材料となって、特に我が国では(1日使用量が欧米の半分以下までしか認可されていないこともあり)、その使用は今なお限定的である。
【0004】
ビグアナイド薬の主な作用として、(1)肝臓での糖新生抑制、(2)末梢での糖利用促進、(3)腸管からのグルコース吸収抑制・ラクトースへの変換亢進、(4)血中グルカゴン値低下などが提唱されているが、最近、該薬剤がAMP活性化蛋白質キナーゼ(AMPK)を活性化することが報告され(非特許文献3)、その作用機序に関する理解が進んだ。AMPKは細胞内の酸素量やエネルギー状態を鋭敏に感知して、糖や脂質代謝の流れを調節する鍵酵素である。
しかしながら、ビグアナイド薬の直接の標的分子(即ち、生理的な結合分子)は未だ明らかにされておらず、この薬剤のより詳細な作用機序を解明するためには、かかる標的分子の同定が不可欠である。また、標的分子を明らかにすれば、それをもとにして、ビグアナイド薬と同様の作用機序を示し、且つより安全な(乳酸アシドーシス等の副作用を生じない)新規糖尿病予防・治療薬となり得る、別の基本骨格を有するリード化合物のスクリーニングが可能になると考えられる。
【0005】
ところで、プロヒビチン[B-cell-receptor-associated protein 32(BAP32)とも呼ばれる;以下、PHB1と略記する]およびプロヒビチン2(BAP37、prohibitoneとも呼ばれる;以下、PHB2と略記する)の両分子は、動植物、ショウジョウバエ、酵母などの真核生物でよく保存された(PHB1はマウスとラットで完全同一、ヒトとの間でも1アミノ酸が異なるのみ)蛋白質であり、ミトコンドリア内膜、核、原形質膜等に局在することが知られている。ミトコンドリア内膜では、両蛋白質はそのへテロダイマーを1ユニット(building block)として、14個のユニットが環状に配置された約1MDaの複合体を形成すると考えられており(非特許文献4)、新たに合成されたミトコンドリア蛋白質のフォールディングやアッセンブリにおいてシャペロン様の機能を果たし、以って呼吸鎖電子伝達系の酵素群の安定化に寄与することが提唱されている(非特許文献5)。
一方、メトホルミンは、ミトコンドリアの複合体Iの機能を阻害することにより抗糖尿病作用を示すとの報告はあるが(非特許文献6)、PHB1および/またはPHB2とビグアナイド薬との関連を示唆する報文は皆無である。
【非特許文献1】Lancet (1998) 352(9131): 854-65
【非特許文献2】ACP J. Club (2002) SEP/OCT: 55
【非特許文献3】J. Clin. Invest. (2001) 108(8): 1167-74
【非特許文献4】Protein Sci. (2002) 11: 2471-8
【非特許文献5】EMBO J. (2000) 19(11): 2444-51
【非特許文献6】Biochem. J. (2000) 348: 607-14
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ビグアナイド薬に特異的に結合する生体分子(標的分子)を見出し、該標的分子を用いた、糖尿病の改善または治療に有用な化合物をスクリーニングする方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、ビグアナイド薬に特異的に結合する分子を選抜するためのツールおよびそれを用いた該分子の選抜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、ビグアナイド薬に共通の骨格を有し且つその薬理活性(AMPKの活性化、ATP低下作用等)を保持する部分を、リンカーを介して固定化した樹脂を作製し、これにラット肝癌由来H4IIE細胞抽出液を接触させて特異的に結合する細胞成分をスクリーニングした結果、PHB1およびPHB2がビグアナイド薬(特にメトホルミン)と特異的に結合することを見出した。次に、本発明者らは、siRNAを用いてこれらの蛋白質をノックダウンすることにより、細胞に対するメトホルミンの薬理活性が抑制されることを確認した。薬剤を固定化した樹脂を用いて、組織や細胞抽出液より該薬剤に結合する成分を探索する手法は、古くから実施されてきているものの、この方法によって薬剤の標的因子を同定できた例はごく限られており、本発明は当該手法の数少ない成功例を提供するものである。
さらに、本発明者らは、かかる知見に基づいて、PHB1および/またはPHB2を用いた、それらに対する結合能および/またはビグアナイド薬と同様の薬理活性を指標とする、糖尿病予防・治療薬のスクリーニング方法を開発して、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は下記の通りである。
[1] ビグアナイド薬に結合する分子としての、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体の使用。
[2] ビグアナイド薬の薬理作用を調節する分子としての、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体の使用。
[3] ビグアナイド薬がメトホルミンである、上記[1]または[2]記載の使用。
[4] PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体を含有してなる、ビグアナイド薬の作用調節剤。
[5] ビグアナイド薬がメトホルミンである、上記[4]記載の剤。
[6] 式1で表される活性型ビグアナイド樹脂。
【化1】


(式中、Zは樹脂を表し;A1およびA2は、それぞれ同一または異なって、単結合、-(CH2-NH)-、-(CONH)-、-(NHCO)-、-(NHCONH)-、または(CH(OH)-CH2-NH)-を表し;Xは、単結合、-(CH2)p-、-(COCH2NH)q-、-(NHCH2CO)r-、-(CH2CH2O)t-(CH2CH2)-(式中、pは1から12の整数、q、rおよびtはそれぞれ同一または異なって1から10の整数を表す)を表し;Wは-(CH2)n-または(CH2CH2O)m-(CH2CH2)-(式中、nは1から20の整数、mは1から5の整数を表す)を表し;Rは、水素原子、低級アルキル基またはアリール基を表す。)
[7] 式2で表される非活性型ビグアナイド樹脂。
【化2】


(式中、Zは樹脂を表し;A1およびA2は、それぞれ同一または異なって、単結合、-(CH2-NH)-、-(CONH)-、-(NHCO)-、-(NHCONH)-、または(CH(OH)-CH2-NH)-を表し;Xは、単結合、-(CH2)p-、-(COCH2NH)q-、-(NHCH2CO)r-、-(CH2CH2O)t-(CH2CH2)-(式中、pは1から12の整数、q、rおよびtはそれぞれ同一または異なって1から10の整数を表す)を表し;Wは-(CH2)n-または(CH2CH2O)m-(CH2CH2)-(式中、nは1から20の整数、mは1から5の整数を表す)を表す。)
[8] 下記(a)〜(c)の工程を含む、ビグアナイド薬に結合する分子の選出方法:
(a)試料を上記[6]記載の活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(b)試料を上記[7]記載の非活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(c)工程(a)にて選出され且つ工程(b)にて選出されない分子を、ビグアナイド薬に結合する分子として選出する工程。
[9] 下記(a)〜(c)の工程を含む、ビグアナイド薬に結合する分子の選出方法:
(a)試料を上記[6]記載の活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(b)試料を上記[6]記載の活性型ビグアナイド樹脂と接触させる前、接触させている間または接触させた後に、ビグアナイド薬と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(c)工程(a)で選出され且つ工程(b)で選出されない分子を、該ビグアナイド薬に選択的に結合する分子として選出する工程。
[10] 被験物質とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させ、両者の結合を測定することを含む、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質のスクリーニング方法。
[11] 下記(a)および(b)の工程を含む、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とビグアナイド薬との結合を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下および非存在下で、ビグアナイド薬とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させる工程、
(b)上記両条件下において、ビグアナイド薬とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体との結合をそれぞれ測定し、比較する工程。
[12] 下記(a)および(b)の工程を含む、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とビグアナイド薬との結合を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)ビグアナイド薬の存在下および非存在下で、被験物質とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させる工程、
(b)上記両条件下において、被験物質とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体との結合をそれぞれ測定し、比較する工程。
[13] 下記(a)および(b)の工程を含む、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とビグアナイド薬との結合を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下および非存在下で、上記[6]記載の活性型ビグアナイド樹脂とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させる工程、
(b)上記両条件下において、樹脂へのPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体の結合をそれぞれ測定し、比較する工程。
[14] 糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質を選択するための、上記[11]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15] 下記(a)および(b)の工程を含む、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下および非存在下で、PHB1および/またはPHB2を産生し得る細胞をインキュベートする工程、
(b)上記両条件下において、PHB1もしくはそれをコードする遺伝子および/またはPHB2もしくはそれをコードする遺伝子の発現量を測定し、比較する工程。
【発明の効果】
【0009】
ビグアナイド薬の分子レベルでの標的分子を明らかにすることにより、ビグアナイド薬の作用機序の解明が可能となる。さらに作用機序、標的分子が明らかになることにより、ビグアナイド薬に匹敵する効果が期待される新規な糖尿病治療薬のスクリーニング方法の開発が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のPHB1およびPHB2(以下、PHB1および/またはPHB2を包括的に「PHB」と略記する場合がある)を標的分子として結合する「ビグアナイド薬」とは、下記化合物
【0011】
【化3】



【0012】
から誘導される2型糖尿病に対する治療効果を有する薬剤を意味し、具体的には、下記構造式でそれぞれ示されるメトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等が挙げられる。好ましくは、本発明において用いられるビグアナイド薬はメトホルミンである。
【0013】
【化4】

【0014】
本発明で用いられるPHB1およびPHB2は、それぞれ配列番号:2および配列番号:4に示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質であれば、その由来に特に制限はなく、ヒトもしくは他の温血動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ニワトリなど)の細胞[例えば、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞など]またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織もしくは器官[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例:褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]に由来する蛋白質であってもよく、また、後述のように、化学的に、もしくは無細胞蛋白質合成系を用いて生化学的に合成された蛋白質であってもよい。あるいは、上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換え蛋白質であってもよい。
【0015】
配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、該アミノ酸配列を有する蛋白質が配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性を有するような配列をいう。
ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
より好ましくは、配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0016】
実質的に同質の活性としては、ビグアナイド薬との結合活性およびビグアナイド薬に薬効作用(例えば、AMPKリン酸化活性、細胞内ATPレベル低下作用など)を発揮させる活性が挙げられる。「実質的に同質」とは、それらの性質が定性的に(例:生理学的に、または薬理学的に)同じであることを意味し、上記の活性の程度といった量的要素については同等であることが好ましいが、異なっていてもよい(例えば、約0.1〜約10倍、好ましくは約0.5〜約2倍)。
PHBの活性の測定は自体公知の方法に準じて行うことができる。例えば、PHBを発現する細胞におけるAMPKのリン酸化または細胞内ATPレベルを測定したり、後述の本発明の活性型ビグアナイド樹脂への、PHBの結合度を測定することにより行うことができる。
【0017】
また、本発明で用いられるPHB1(またはPHB2)としては、例えば、(1)配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4)配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含む蛋白質であって、配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質も含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、当該蛋白質の活性(ビグアナイド薬との結合活性、AMPKリン酸化活性、細胞内ATPレベル低下作用など)を損なわない限り、特に限定されない。
【0018】
本明細書においてアミノ酸配列により特定される蛋白質は、ペプチド標記の慣例に従って、左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質をはじめとする、本発明で用いられるカルモジュリンは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基もしくはα-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
本発明で用いられる蛋白質がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明で用いられる蛋白質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明で用いられる蛋白質には、N末端のアミノ酸残基(例:メチオニン残基)のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども含まれる。
本発明で用いられるPHB1の具体例としては、例えば、配列番号:2で表されるヒトPHB1(GenBank登録番号:NP_002625)もしくはそのアレル変異体または他の温血動物(例えば、マウス(NP_032857)、ラット(NP_114039)、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)におけるそのオルソログ(ortholog)等、また、本発明で用いられるPHB2の具体例としては、例えば、配列番号:4で表されるヒトPHB2(GenBank登録番号:NP_009204)もしくはそのアレル変異体または他の温血動物(例えば、マウス(NP_031557)、ラット(NP_001013053)、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)におけるそのオルソログ等があげられる。
【0019】
本発明で用いられるPHBは、上記の活性を保持する限り、その断片(部分ペプチド)であってもよい。即ち、PHB1(またはPHB2)の部分ペプチドは、配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列の部分アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドであって、前記したPHB1(またはPHB2)と実質的に同質の活性を有するものであればいずれのものでもよい。ここで「実質的に同質の活性」とは上記と同義である。また、「実質的に同質の活性」の測定は、上記と同様にして行うことができる。
具体的には、該部分ペプチドとしては、前記したPHBの構成アミノ酸配列のうち100個以上、好ましくは150個以上、より好ましくは200個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが用いられる。
また、本発明で用いられるPHBの部分ペプチドは、(1)そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失し、または、(2)そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が付加し、または、(3)そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が挿入され、または、(4)そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは1〜10個程度、より好ましくは1〜5個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されていてもよく、あるいは(5)それらが組み合わされていてもよい。
【0020】
本発明で用いられるPHBの部分ペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、PHBについて上記したと同様のものが挙げられる。また、該部分ペプチドがC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、該カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明で用いられるPHBの部分ペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては、C末端のエステルと同様のものが例示される。さらに、該部分ペプチドには、PHBの場合と同様に、N末端のアミノ酸残基(例:メチオニン残基)のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
【0021】
本発明で用いられるPHBまたはその部分ペプチドの塩としては、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0022】
本発明で用いられるPHBまたはその塩は、前述したヒトや他の温血動物の細胞または組織から自体公知の蛋白質の精製方法によって調製することができる。具体的には、例えば、該動物の組織または細胞をホモジナイズし、低速遠心により細胞デブリスを除去した後、上清を高速遠心して膜含有画分を沈澱させ(必要に応じて密度勾配遠心などにより細胞膜画分やミトコンドリア膜画分などを精製し)、該画分から逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー技術を組み合わせることにより精製単離することができる。
【0023】
本発明で用いられるPHBもしくはその部分ペプチドまたはその塩(以下、これらを包括して「PHB類」と略記する場合がある)は、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明の蛋白質を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とする蛋白質を製造することができる。ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)または(2)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. Bodanszky and M.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966)
(2) Schroeder and Luebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965)
【0024】
本発明で用いられるPHBの部分ペプチドまたはその塩は、上述もしくは後述のいずれかの方法により得られるPHBまたはその塩を、適当なペプチダーゼで切断することによっても製造することができる。
【0025】
このようにして得られたPHB類は、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られる蛋白質または部分ペプチドが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に蛋白質が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0026】
本発明のPHB類は、PHBまたはその部分ペプチドをコードする核酸を含有する発現ベクターを導入した形質転換体を培養してPHB類を生成せしめ、得られる培養物からPHB類を分離・精製することによって製造することもできる。
PHBまたはその部分ペプチドをコードする核酸としては、前述した本発明で用いられるPHBのアミノ酸配列もしくはその部分アミノ酸配列をコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものでもよい。該核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
PHBまたはその部分ペプチドをコードするDNAは、ゲノムDNA、ヒトもしくは他の温血動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ニワトリなど)の細胞[例えば、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞など]またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織もしくは器官[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例:褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。PHBまたはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、PHBまたはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0027】
PHB1(またはPHB2)をコードするDNAとしては、例えば、配列番号:1(または3)で表される塩基配列を含有するDNA、あるいは配列番号:1(または3)で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記した配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性(例えば、ビグアナイド薬との結合活性、AMPKリン酸化活性、細胞内ATPレベル低下作用など)を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAなどが挙げられる。
配列番号:1(または3)で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号:1(または3)で表される塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0028】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくはストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム塩濃度が約19〜約40mM、好ましくは約19〜約20mMで、温度が約50〜約70℃、好ましくは約60〜約65℃の条件等が挙げられる。特に、ナトリウム塩濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が好ましい。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
【0029】
PHB1をコードするDNAは、好ましくは配列番号:1で表される塩基配列を含有するヒトPHB1 cDNA(GenBank登録番号:NM_002634)もしくはそのアレル変異体または他の温血動物(例えば、マウス(NM_008831)、ラット(NM_031851)、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)におけるそのオルソログ等、また、PHB2をコードするDNAは、好ましくは配列番号:3で表される塩基配列を含有するヒトPHB2 cDNA(GenBank登録番号:NM_007273)もしくはそのアレル変異体または他の温血動物(例えば、マウス(NM_007531)、ラット(NM_001013035)、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)におけるそのオルソログ等である。
【0030】
PHB1(またはPHB2)の部分ペプチドをコードするDNAは、配列番号:2(または4)で表されるアミノ酸配列の一部と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものであればいかなるものであってもよい。また、ゲノムDNA、上記した細胞・組織由来のcDNA、合成DNAのいずれでもよい。
具体的には、該部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、
(1)配列番号:1(または3)で表される塩基配列を有するDNAの部分塩基配列、または
(2)配列番号:1(または3)で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、且つ該DNAにコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性(例:ビグアナイド薬との結合活性、AMPKリン酸化活性、細胞内ATPレベル低下作用など)を有するペプチドをコードするDNAなどが用いられる。
配列番号:1(または3)で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、該塩基配列中の対応する部分と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
【0031】
PHBまたはその部分ペプチドをコードするDNAは、該蛋白質またはペプチドをコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、PHBの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションさせることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0032】
DNAの塩基配列は、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM-K(宝酒造(株))等を用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することができる。
【0033】
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATG(場合によってはGTG)を有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
【0034】
上記のPHBまたはその部分ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターで宿主を形質転換し、得られる形質転換体を培養することによって、該蛋白質またはペプチドを製造することができる。
PHBまたはその部分ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、PHBをコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、該DNA断片を、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結することにより、製造することができる。
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例:pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例:pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例:pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物(昆虫)ウイルス、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
例えば、宿主が動物細胞である場合、サイトメガロウイルス(CMV)由来プロモーター(例:CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来プロモーター(例:HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来プロモーター(例:RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)由来プロモーター(例:MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来プロモーター(例:MMTV LTR)、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来プロモーター(例:HSVチミジンキナーゼ(TK)プロモーター)、SV40由来プロモーター(例:SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV)由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来プロモーター(例:AAV p5プロモーター)、アデノウイルス(AdV)由来プロモーター(Ad2またはAd5主要後期プロモーター)などが用いられる。
宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。
宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。
宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。
宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0035】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子[メソトレキセート(MTX)耐性]、アンピシリン耐性(Ampr)遺伝子、ネオマイシン耐性(Neor)遺伝子(G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター(CHO-dhfr-)細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によって選択することもできる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、PHB1(またはPHB2)またはその部分ペプチドをコードするDNAの5’末端側に付加してもよい。宿主がエシェリヒア属菌である場合、PhoAシグナル配列、OmpAシグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合、α-アミラーゼシグナル配列、サブチリシンシグナル配列などが、宿主が酵母である場合、MFαシグナル配列、SUC2シグナル配列などが、宿主が動物細胞である場合、インシュリンシグナル配列、α-インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などがそれぞれ用いられる。
【0036】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12、DH1、JM103、JA221、HB101、C600などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114、207-21などが用いられる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22、AH22R-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913、NCYC2036、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。
【0037】
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、昆虫細胞としては、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo), 13, 213-217 (1977))などが用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる。
【0038】
動物細胞としては、例えば、サル由来細胞(例:COS-1、COS-7、CV-1、Vero)、ハムスター由来細胞(例:BHK、CHO、CHO-K1、CHO-dhfr-)、マウス由来細胞(例:NIH3T3、L、L929、CTLL-2、AtT-20)、ラット由来細胞(例:H4IIE、PC-12、3Y1、NBT-II)、ヒト由来細胞(例:HEK293、A549、HeLa、HepG2、HL-60、Jurkat、U937)などが用いられる。
【0039】
形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
エシェリヒア属菌は、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)やGene, 17, 107 (1982)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
バチルス属菌は、例えば、Molecular and General Genetics, 168, 111 (1979)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
酵母は、例えば、Methods in Enzymology, 194, 182-187 (1991)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
昆虫細胞および昆虫は、例えば、Bio/Technology, 6, 47-55 (1988)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール, 263-267 (1995)(秀潤社発行)、Virology, 52, 456 (1973)に記載の方法に従って形質転換することができる。
【0040】
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
例えば、宿主がエシェリヒア属菌またはバチルス属菌である形質転換体を培養する場合、培養に使用される培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。
宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地が好ましい。必要により、プロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β-インドリルアクリル酸のような薬剤を培地に添加してもよい。培養は、通常約15〜43℃で、約3〜24時間行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主がバチルス属菌である形質転換体の培養は、通常約30〜40℃で、約6〜24時間行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が酵母である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地や0.5% カザミノ酸を含有するSD培地などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。培養は、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えばGrace's Insect Mediumに非働化した10% ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6.2〜6.4である。培養は、通常約27℃で、約3〜5日間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6〜8である。培養は、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
以上のようにして、形質転換体の細胞内または細胞外にPHB類を生成させることができる。
【0041】
前記形質転換体を培養して得られる培養物から、PHB類を自体公知の方法に従って分離精製することができる。
例えば、PHB類を培養菌体あるいは細胞の細胞質から抽出する場合、培養物から公知の方法で集めた菌体あるいは細胞を適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性蛋白質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX-100TMなどの界面活性剤を含んでいてもよい(界面活性剤を含む場合は、膜蛋白質やオルガネラ蛋白質の一部もしくは全部も同時に抽出され得る)。一方、膜画分からPHB類を抽出する場合は、上記と同様に菌体あるいは細胞を破壊した後、低速遠心で細胞デブリスを沈澱除去し、上清を高速遠心して膜含有画分を沈澱させる(必要に応じて密度勾配遠心などにより細胞膜画分、ミトコンドリア画分、核画分などを分離精製することもできる)などの方法が用いられる。また、PHB類が菌体(細胞)外に分泌される場合には、培養物から遠心分離またはろ過等により培養上清を分取するなどの方法が用いられる。
このようにして得られた可溶性画分、膜画分あるいは培養上清中に含まれるPHB類の単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0042】
かくして得られるPHBまたはその部分ペプチドが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって該遊離体を塩に変換することができ、該蛋白質またはペプチドが塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
なお、形質転換体が産生するPHB類を、精製前または精製後に適当な蛋白質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。該蛋白質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼなどが用いられる。
かくして得られるPHB類の存在は、それらに特異的な抗体を用いたエンザイムイムノアッセイやウエスタンブロッティングなどにより確認することができる。
【0043】
さらに、PHBまたはその部分ペプチドは、それをコードするDNAに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどからなる無細胞蛋白質翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても合成することができる。あるいは、さらにRNAポリメラーゼを含む無細胞転写/翻訳系を用いて、PHBまたはその部分ペプチドをコードするDNAを鋳型としても合成することができる。無細胞蛋白質転写/翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液はPratt J.M.ら, “Transcription and Tranlation”, Hames B.D.およびHiggins S.J.編, IRL Press, Oxford 179-209 (1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE.coli S30 extract system (Promega社製)やRTS 500 Rapid Tranlation System (Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System (Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM (TOYOBO社製)等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B.ら, Nature, 179, 160-161 (1957)あるいはErickson A.H.ら, Meth. Enzymol., 96, 38-50 (1996)等に記載の方法を用いることができる。
蛋白質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.ら (1984) 前述)や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞蛋白質合成システム(Spirin A.S.ら, Science, 242, 1162-1164 (1988))、透析法(木川ら、第21回日本分子生物学会、WID6)、あるいは重層法(PROTEIOSTMWheat germ cell-free protein synthesis core kit取扱説明書:TOYOBO社製)等が挙げられる。さらには、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000-333673)等を用いることができる。
【0044】
本発明において、PHB1およびPHB2はそれぞれ単独で用いることもできるし、両者を併用することもできる。PHB1とPHB2を併用する場合、それらをそれぞれ別個に適用してもよいし、両者を含む組成物として適用してもよい。前者の場合、両者を適用する時期は同時であっても異なっていてもよく、異なっている場合、その順序や間隔も特に制限されない。
【0045】
前述のように、ミトコンドリア内膜において、PHBはPHB1およびPHB2各1分子からなるヘテロダイマーを構成ユニットとして、該ユニットが環状に会合した複合体を形成し、その機能(例えば、シャペロン様機能)を果たしていると考えられている。したがって、別の好ましい一実施態様において、本発明は、PHB1とPHB2との複合体の使用を含む。本発明で用いられるPHB1とPHB2との複合体(以下、「PHB複合体」と略記する場合がある)は、PHB1およびPHB2をそれぞれ1分子以上含み且つビグアナイド薬との結合活性を有する限り、いかなるものであってもよいが、好ましくはPHB1とPHB2とのヘテロダイマーが1〜20個程度、好ましくは1〜16個程度会合した複合体等である。PHB1とPHB2とのヘテロダイマーは、生理的なヘテロダイマーと同様に疎水結合もしくは水素結合などの分子間相互作用を介して弱く結合していてもよいし、適当なリンカーを介して、あるいはアミノ酸側鎖間のジスルフィド結合を介して共有結合していてもよい。また、前記したPHB1をコードする核酸とPHB2をコードする核酸とを、直接もしくは適当なリンカー配列を介して連結し、前記と同様に適当な発現ベクターに組み込んで宿主細胞に導入、得られた形質転換体を培養することにより採取され得るタンデムダイマーであってもよい。PHB1およびPHB2の一方または両方に1または2以上の変異を導入したタンデムダイマーは、ビグアナイド薬との結合に寄与するアミノ酸残基の種類および位置関係を解明するのに有用であり得る。
【0046】
本発明で用いられるPHB類またはPHB複合体は、ビグアナイド薬と特異的に結合して、該薬剤の薬理作用を促進するか、あるいは促進しないので、これらの分子はビグアナイド薬の薬理作用を調節するのに使用することができる。したがって、本発明はまた、PHB類および/またはPHB複合体を含有してなる、ビグアナイド薬の作用調節剤を提供する。
ここでビグアナイド薬の薬理作用としては、例えば、AMPKリン酸化作用、細胞内ATPレベル低下作用、呼吸鎖電子伝達系complex I阻害作用などの、糖尿病等の疾患予防・治療効果および/または乳酸アシドーシス等の副作用をもたらす種々の作用が挙げられる。また、薬理作用を促進しないとは、そのものの固有の性質として促進しないのではなく、それが適用されるある特定の条件下においては薬理作用を促進しないことを意味する。したがって、同一の物質が、適用される条件に応じて、ビグアナイド薬の作用増強剤となる場合もあるし、作用抑制剤となる場合もある。
【0047】
生体内において、PHBはビグアナイド薬の受容体として機能する。即ち、ビグアナイド薬はその直接的な標的分子であるPHBからのシグナル伝達を介して、AMPKリン酸化作用や細胞内ATP低下作用を発現していると考えられる。従って、a) PHB類および/またはPHB複合体を、該シグナル伝達が可能なように細胞内(もしくは細胞表面)に送達することにより、またはb) PHB類をコードするDNAを細胞内に導入して発現させることにより、ビグアナイド薬の作用増強剤として使用することができる。
【0048】
例えば、生体内においてPHBが減少しているために、リガンドであるビグアナイド薬の薬理作用が期待できない(PHBの欠乏症)患者がいる場合に、a) PHB類および/またはPHB複合体を該患者に投与して細胞のPHB量を補充したり、b)(i) PHB類をコードするDNAを該患者に投与して細胞内に導入・発現させることによって、あるいは(ii) 対象となる細胞(好ましくは、自家もしくは同種細胞)にPHB類をコードするDNAを導入・発現させた後に、該細胞を該患者に移植することなどによって、患者の細胞内におけるPHB量を増加させ、ビグアナイド薬の作用を充分に発揮させることができる。すなわち、PHB類、PHB複合体およびPHB類をコードするDNAは、ビグアナイド薬により予防・治療効果が期待できる疾患における、安全で低毒性なビグアナイド薬作用増強剤として有用である。ビグアナイド薬により予防・治療効果が期待できる疾患としては、例えば、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満、代謝性症候群等が挙げられるが、それらに限定されない。前述のように、PHBはミトコンドリア、核、細胞表面等に局在することが知られており、ミトコンドリアではミトコンドリア機能の安定化やアポトーシス誘発に、核では細胞周期阻害、増殖抑制に、細胞表面では感染防御、抗炎症反応、アポトーシス誘発に関与することが示唆されている。ビグアナイド薬は、これらいずれのPHBにも作用し得ることから、該薬剤の新規医薬用途、例えば、癌(例えば、乳癌など)、老化、感染症(例えば、腸感染症など)、炎症(例えば、腸炎など)等の予防・治療用途が示唆される。従って、PHB類、PHB複合体およびPHB類をコードするDNAは、これらの新規医薬用途に適用される際のビグアナイド薬の作用増強剤としても有用であり得る。
【0049】
PHB類、PHB複合体またはPHB類をコードするDNAをビグアナイド薬の作用増強剤として用いる場合、ビグアナイド薬からのシグナル伝達を可能とする場所(例えば、ミトコンドリア内膜、核内、細胞表面など)にそれらを送達させる必要がある。しかし、一般に核酸や蛋白質分子は細胞内に吸収されにくく、しかも体内で速やかに分解されやすい。また、通常これらの分子の取り込みはエンドサイトーシスにより行われるので、リソソーム酵素による分解を受けやすい。従って、PHB類、PHB複合体またはPHB類をコードするDNAを、標的細胞に安定な状態で送達し、細胞膜の透過性を向上させ、リソソーム/エンドソームからの薬剤の遊離を促進するようなドラッグデリバリーシステム(DDS)の設計が重要である。例えば、ポリL-リジン、アビジン、コレステロール又はリン脂質成分等の付属基をPHB類やPHB複合体に結合させることによって、細胞膜透過性を向上させ得る。
【0050】
さらに、PHB類、PHB複合体またはPHB類をコードするDNAをカチオン性リポソームに被包して製剤化することもできる。リポソーム中に被包することにより、有効成分はヌクレアーゼやプロテアーゼによる分解から保護され、且つリポソーム膜のカチオン性表面は細胞表面の陰性荷電分子と結合してエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。カチオン性リポソームは、例えば、DOTMA、DDAB、DMRIE等のカチオン性脂質と、膜融合能を持つ中性脂質DOPEを混合して調製することができる。核酸や蛋白質はポリアニオン性であるので、カチオン性リポソームと混合することにより容易に複合体を形成する。また、リポソーム膜に標的細胞で特異的に発現する細胞表面分子に対する抗体もしくはリガンドを組み込むことにより、細胞特異的なターゲッティングを行うこともできる。例えば抗PHB1(もしくはPHB2)抗体自体をリポソーム膜に組み込むこともできる。
また、エンドサイトーシスにより取り込まれたリポソームをリソソーム酵素による分解から保護するために、pH感受性リポソーム(酸性pHで膜が不安定化し、リソソームと融合する前にエンドソーム小胞から細胞質に内容物が遊離される)や、紫外線照射等によりウイルスRNAを完全に断片化したセンダイウイルスとの融合リポソーム(センダイウイルスの膜融合能を用いてエンドサイトーシス経路を回避する)を使用することも好ましい。さらに、リポソームの細胞内皮系への取り込みを防ぎ、血中滞留性を高めるためにポリエチレングリコール(PEG)で修飾したリポソームを使用することがより好ましい。
【0051】
上記のような剤形に設計された本発明のビグアナイド薬作用増強剤は、適当な無菌のビヒクルに溶解もしくは懸濁して、経口的又は非経口的に投与され得る。非経口的投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、気道内等が挙げられる。
本発明のビグアナイド薬作用増強剤の投与量は、有効成分であるPHB類、PHB複合体またはPHB類をコードするDNAの種類、分子の大きさ、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.0008〜約2.5mg/kg、好ましくは約0.008〜約0.025mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。
【0052】
PHB類をコードするDNAは、適当な発現ベクター上に担持された形態で投与されることが好ましい。当該発現ベクターは、PHB類をコードするDNAが投与対象である哺乳動物の標的細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されているか、あるいは投与された動物の標的細胞内で、一定の条件下に機能的に連結された形態に変化し得るような位置に配置される。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の標的細胞内で機能し得るものであれば特に制限はないが、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。「一定の条件下に機能的に連結された形態に変化し得るような位置に配置される」とは、例えば、以下でさらに詳述するように、プロモーターとPHB類をコードするDNAが、該プロモーターからの該DNAの発現を妨げるのに十分な長さを有するスペーサー配列により隔てられた、同方向に配置される2つのリコンビナーゼ認識配列によって分断された構造を有し、該認識配列を特異的に認識するリコンビナーゼの存在下に該スペーサー配列が切り出されて、有効核酸分子をコードするポリヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結されるように配置されることをいう。
【0053】
該発現ベクターは、好ましくはPHB類をコードするDNAの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。発現ベクターが上述のようにリコンビナーゼ認識配列に挟まれたスペーサー配列を有する場合、該選択マーカー遺伝子は当該スペーサー配列内に配置することもできる。
【0054】
本発明の発現ベクターに使用されるベクターは特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能であり、導入遺伝子の宿主染色体への組込みが極めて稀である等の利点を有する。但し、遺伝子発現は一過性で、通常約4週間程度しか持続しない。ビグアナイド薬の作用増強効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0055】
PHB類の構成的且つ過剰な発現は、当該遺伝子を導入された動物において副作用を引き起こす場合も考えられる。従って、本発明の好ましい態様においては、発現ベクターは、不要な時期及び/又は不要な部位でのPHB類の過剰発現による悪影響を防ぐために、PHB類を時期特異的及び/又は標的細胞特異的に発現させることができる。このようなベクターの第一の実施態様としては、投与対象となる動物の標的細胞において特異的に発現する遺伝子由来のプロモーターに機能的に連結したPHB類をコードするDNAを含むベクターが挙げられる。例えば、肝臓特異的プロモーターとしての血清アルブミンプロモーター、チトクロームP-450プロモーター、または肝臓特異的転写因子(HNF1、HNF3、HNF4、C/EBP等)結合シスエレメントを含むプロモーターなど、脂肪組織特異的プロモーターとしてのアディポネクチンプロモーター、レプチンプロモーター、またはPPARγ/RXR結合シスエレメント(PPRE)やLRH-1結合シスエレメント(LRH-RE)を含むプロモーターなど、あるいは骨格筋特異的プロモーターとしての筋クレアチンキナーゼプロモーター、ミオシン軽鎖1(もしくは3)プロモーター、または骨格筋特異的転写因子(MyoD、MEF2等)結合シスエレメントを含むプロモーターなどが挙げられる。
【0056】
本発明の時期特異的且つ組織特異的発現ベクターの第二の実施態様として、外因性の物質によってトランスに発現が制御される誘導プロモーターに機能的に連結したPHB類をコードするDNAを含むベクターが挙げられる。誘導プロモーターとして、例えば、メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に標的細胞の位置に局所投与することにより、任意の時期に標的細胞特異的にPHB類の発現を誘導することができる。
【0057】
本発明の時期特異的且つ組織特異的発現ベクターの別の好ましい態様は、プロモーターとPHB類をコードするDNAとが、該プロモーターからの該DNAの発現を妨げるのに十分な長さを有するスペーサー配列により隔てられた、同方向に配置される2つのリコンビナーゼ認識配列によって分断された構造を有するベクターである。該ベクターが標的細胞内に導入されただけではプロモーターはPHB類をコードするDNAの転写を指示することができない。しかしながら、所望の時期に標的細胞に該認識配列を特異的に認識するリコンビナーゼを局所投与するか、あるいは該リコンビナーゼをコードするDNAを含む発現ベクターを局所投与して該リコンビナーゼを標的細胞で発現させると、該認識配列間で該リコンビナーゼを介した相同組換えが起こり、その結果、該スペーサー配列が切り出され、PHB類をコードするDNAがプロモーターに機能的に連結されて、所望の時期に標的細胞特異的にPHB類が発現される。
【0058】
上記ベクターに使用されるリコンビナーゼ認識配列は、投与対象に内在のリコンビナーゼによる組換えを防ぐために、内在のリコンビナーゼによっては認識されない異種リコンビナーゼ認識配列であることが望ましい。したがって、該ベクターにトランスに作用するリコンビナーゼもまた異種リコンビナーゼであることが望ましい。このような異種リコンビナーゼと該リコンビナーゼ認識配列の組み合わせとしては、大腸菌のバクテリオファージP1由来のCreリコンビナーゼとlox P配列、あるいは酵母由来のFlpリコンビナーゼとfrt配列が好ましく例示されるが、それらに限定されるものではない。
リコンビナーゼ/リコンビナーゼ認識配列の相互作用を利用した本発明の時期特異的且つ組織特異的発現ベクターのプロモーターとしては、所望の時期及び部位での発現を確実にするために、好ましくはウイルス由来プロモーターや哺乳動物の構成蛋白質遺伝子のプロモーターが使用される。
【0059】
PHB類をコードするDNAを含む発現ベクターを含有する本発明のビグアナイド薬作用増強剤の投与は、治療対象動物自身の標的細胞を体外に取り出し、培養してから導入を行って体内に戻すex vivo法と、投与対象の体内に直接ベクターを投与して導入を行うin vivo法のいずれかで行われる。ex vivo法の場合、標的細胞へのベクターの導入は、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法等により行うことができる。
【0060】
また、PHB類をコードするDNAを含む発現ベクターとして非ウイルスベクターを使用する場合、該発現ベクターの導入は、ポリL-リジン-核酸複合体などの高分子キャリアーを用いるか、リポソームに被包して行うことができる。あるいは、パーティクルガン法を用いてベクターを標的細胞に直接導入することもできる。
リコンビナーゼ/リコンビナーゼ認識配列の相互作用を利用したベクターの使用において、トランスに作用する物質としてリコンビナーゼ自体を局所投与する場合、例えば、リコンビナーゼを適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁して標的部位に注入すればよい。一方、トランスに作用する物質としてリコンビナーゼ発現ベクターを標的部位に局所投与する場合、該リコンビナーゼ発現ベクターは、リコンビナーゼをコードするDNAが、投与対象の標的細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結した発現カセットを有するものであれば特に制限されない。使用されるプロモーターが構成プロモーターである場合、不要な時期におけるリコンビナーゼの発現を防ぐために、標的部位に投与されるベクターは、例えばアデノウイルスのように、宿主細胞の染色体への組込みが稀なものであることが望ましい。しかしながら、アデノウイルスベクターを使用した場合、リコンビナーゼの一過的発現はせいぜい4週間程度しか持続しないので、治療が長期に及ぶ場合には第二、第三の投与が必要になる。リコンビナーゼを所望の時期に発現させる別のアプローチとして、メタロチオネイン遺伝子プロモーターのような誘導プロモーターの使用が挙げられる。この場合、レトロウイルス等のインテグレーション効率の高いウイルスベクターの使用が可能となる。
【0061】
PHB類をコードするDNAを含む発現ベクターを含有する本発明のビグアナイド薬作用増強剤の投与量は、有効成分分子の大きさ、プロモーター活性、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、例えば、成人1日あたりベクター量として約2〜約20μg/kg、好ましくは約5〜約10μg/kgである。
【0062】
PHB類、PHB複合体またはPHB類をコードするDNAを含有する本発明のビグアナイド薬作用増強剤の投与時期は特に限定されないが、ビグアナイド薬が標的部位に達する以前に該標的部位に送達されるような時期に投与されることが好ましい。したがって、本発明のビグアナイド薬作用増強剤は、例えば、ビグアナイド薬の投与の約1時間前〜約1日前に投与されることが好ましい。
【0063】
上述の通り、ビグアナイド薬は直接的な標的分子であるPHBからのシグナル伝達を介して、種々の薬理作用を発現していると考えられるので、PHB類および/またはPHB複合体を、体内に投与されたビグアナイド薬とは接触可能であるが、該シグナル伝達が可能な位置には送達されないように投与することにより、ビグアナイド薬の作用抑制剤として使用することができる。
例えば、生体内においてPHBが増加している等の理由により、リガンドであるビグアナイド薬の薬理作用が過剰に発現した患者がいる場合に、PHB類および/またはPHB複合体を該患者に投与してビグアナイド薬が本来の標的部位に作用するのを遮断することができる。すなわち、PHB類および/またはPHB複合体は、ビグアナイド薬による副作用症状を示す、もしくはそのおそれのある患者に対する、安全で低毒性なビグアナイド薬作用抑制剤として有用である。
【0064】
PHB類および/またはPHB複合体(以下、「PHB(複合体)」と略記する場合がある)をビグアナイド薬の作用抑制剤として用いる場合、それらは、ビグアナイド薬が標的部位[即ち、投与対象に内在のPHB(複合体)が存在する場所(例えば、ミトコンドリア内膜、核内、細胞表面など)]に到達するよりも前に、該薬剤と接触し得るように生体内に投与される必要があるが、一般に蛋白質分子は細胞内に吸収されにくいので、上記のようにビグアナイド薬作用増強剤として使用する場合のような特殊なDDSを設計することなく標的部位にPHB(複合体)を送達させ得る。即ち、PHB(複合体)は、必要に応じて薬理学的に許容し得る担体とともに混合して医薬組成物とした後に、上記医薬として用いることができる。
【0065】
薬理学的に許容し得るされる担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0066】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量のPHB(複合体)を溶解させた液剤、有効量の該蛋白質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の該蛋白質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の該蛋白質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。投与方法が標的部位付近への局所注入の場合、注射液剤が好ましい。あるいは、コラーゲン等の生体親和性の材料を用いて、徐放性製剤とすることもできる。プルーロニックゲルは体温でゲル化し、それ以下の低温では液体であることから、PHB(複合体)をプルーロニックゲルとともに局所注入して標的組織周辺でゲル化させることにより、長期持続性とすることができる。当該蛋白質製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、PHB(複合体)並びに薬理学的に許容し得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0067】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
PHB(複合体)の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.0008〜約2.5mg/kg、好ましくは約0.008〜約0.025mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。
【0068】
PHBの部分ペプチドであって、ビグアナイド薬との結合活性を保持するが、ビグアナイド薬がその薬理作用を発揮するためのシグナル伝達機能を欠くペプチドもまた、ビグアナイド薬の作用抑制剤として有用である。かかるペプチドは、たとえエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれても、内在のPHBと同様の生理活性を発揮し得ないので、より確実にビグアナイド薬の薬理作用を遮断し得る。
【0069】
PHB類に対する中和抗体(以下、本発明の中和抗体という場合がある)は、ビグアナイド薬とPHBもしくはPHB複合体との相互作用を阻害してPHBの関与する生物活性、例えば、AMPKの活性化、ATP低下作用等を不活性化(すなわち中和)することができる。一方、PHBをコードする塩基配列に相補的な塩基配列もしくはその一部を含む核酸(リボザイムやsiRNAを含む;以下、本発明のアンチセンス核酸という場合がある)は、PHB遺伝子の転写、転写産物のプロセッシングおよび/またはmRNAからの翻訳をブロックすることにより、PHBの発現を阻害することができる。従って、(1)本発明の中和抗体または(2)本発明のアンチセンス核酸を、ビグアナイド薬作用抑制剤として、例えば、PHBの過剰発現によるビグアナイド薬の副作用を予防・軽減するための医薬として使用することができる。
【0070】
アンチセンス核酸とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明のアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成することもできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服することができる。
【0071】
本発明のアンチセンス核酸の長さは、PHBのmRNAもしくは初期転写産物と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNA(初期転写産物)の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、好ましくは約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。アンチセンス核酸が約25merのオリゴDNAの場合、生理条件下でPHBのとハイブリダイズし得る塩基配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、通常、約80%以上の同一性を有するものであればよい。
【0072】
本発明のアンチセンス核酸の標的配列は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、PHBの翻訳が阻害される配列であれば特に制限はなく、PHBのmRNAの全配列であっても部分配列であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、アンチセンス核酸としてオリゴヌクレオチドを使用する場合は、標的配列はPHBのmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。好ましくは5’末端からコード領域のN末端側の領域であり、最も好ましくは開始コドン近傍の塩基配列である。また、標的配列は、それに相補的なアンチセンス核酸がヘアピン構造等の二次構造を形成しないようなものを選択することが好ましい。
【0073】
さらに、本発明のアンチセンス核酸は、PHBのmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるPHB遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0074】
PHBの発現を抑制する物質の別の好ましい一態様は、PHBのmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムである。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイムは、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。PHBのmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0075】
PHB mRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的な塩基配列を有する二本鎖オリゴRNA(siRNA)もまた、本発明のアンチセンス核酸に包含され得る。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAの一方の鎖に相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が哺乳動物細胞でも起こることが確認されて以来[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、アンチセンス、リボザイムの代替技術として広く利用されている。siRNAは標的となるmRNAの塩基配列情報に基づいて、市販のソフトウェア(例:RNAi Designer; Invitrogen等)を用いて適宜設計することができる。
【0076】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、PHB cDNA配列もしくはゲノミックDNA配列情報に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的領域を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。RNAi活性を有するsiRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中で、例えば、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製することもできる。siRNAの具体的な例としては、PHB1に対しては、センス鎖として配列番号: 5に示される塩基配列を有するRNAが、PHB2に対しては、センス鎖として配列番号: 6に示される塩基配列を有するRNAがそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
PHB類に対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。該抗体は周知の免疫学的手法により作製することができる。抗PHB抗体のフラグメントは、PHBに対する抗原結合部位(CDR)を有する限りいかなるものであってもよく、例えば、Fab、F(ab')2、ScFv、minibody等が挙げられる。
【0078】
例えば、ポリクローナル抗体は、PHB類(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリア蛋白質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ニワトリなどの温血動物が挙げられる。
【0079】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods, 81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得することができる。
【0080】
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、本発明の抗PHB類抗体は、ヒトと他の動物(例えば、マウス等)のキメラ抗体であることが好ましく、ヒト化抗体であることがさらに好ましく、完全ヒト抗体であることが最も好ましい。ここで「キメラ抗体」とは免疫動物由来の可変部(V領域)とヒト由来の定常部(C領域)を有する抗体をいい、「ヒト化抗体」とはCDRを除いて他の領域をすべてヒト抗体に置き換えた抗体をいいう。キメラ抗体やヒト化抗体は、例えば、上記と同様の方法により作製したマウスモノクローナル抗体の遺伝子からV領域もしくはCDRをコードする配列を切り出し、ヒト骨髄腫由来の抗体のC領域をコードするDNAと融合したキメラ遺伝子を適当な発現ベクター中にクローニングし、これを適当な宿主細胞に導入して該キメラ遺伝子を発現させることにより取得することができる。また、完全ヒト抗体は、公知のファージディスプレイライブラリーを用いて、あるいはメダレックス社が開発したヒト抗体産生マウスやメダレックス社とキリンが共同で開発したKMマウスを用いて取得することができる。
【0081】
得られた抗PHB類抗体が中和活性を有するか否かは、PHB産生細胞に該抗体とビグアナイド薬とを接触させ、ビグアナイド薬の薬理作用(例:AMPKリン酸化活性、細胞内ATP低下作用等)が阻害されるか否かを調べることにより、確認することができる。
【0082】
PHB類に対する非中和抗体(以下、本発明の非中和抗体という場合がある)は、PHBに対して特異的親和性を有するが、PHBの関与する生物活性を中和しないので、ビグアナイド薬と本発明の非中和抗体とを架橋したイムノコンジュゲートとすることにより、ビグアナイド薬の血中安定性と標的部位への送達効率を改善することができる。従って、本発明の非中和抗体は、ビグアナイド薬の作用増強剤として用いることができる。該抗体とビグアナイド薬との架橋法としては、Adv. Drug Deliv. Rev., 53: 171-216 (2001) に記載の方法が挙げられるが、それらに限定されない。
非中和抗体の中で、特にPHBまたはPHB複合体の機能を増強する抗体(即ち、アゴニスト抗体)は、単独でビグアナイド薬作用増強剤として使用することができる。そのようなアゴニスト抗体の一例としては、PHB1とPHB2に対する二重特異性(bispecific)抗体が挙げられる。かかる抗体はPHB1とPHB2の会合あるいはPHB1/PHB2へテロダイマー同士の会合によるPHB複合体形成を促進し得るので、PHBの関与する生物活性を増大させることが示唆される。
【0083】
本発明のアンチセンス核酸は、単独で、上記したPHB類、PHB複合体およびPHB類をコードするDNAを含むビグアナイド薬作用増強剤と同様にして製剤化され、投与され得る。あるいは、該核酸(DNA)は、適当な発現ベクター中に挿入して、上記したPHB類をコードするDNAと同様に製剤化され、投与されてもよい。
単独で製剤化する場合、本発明のアンチセンス核酸の投与量は、分子の大きさ、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり約0.0008〜約2.5mg/kg、好ましくは約0.008〜約0.025mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。一方、発現ベクター中に挿入して製剤化する場合、本発明のアンチセンス核酸の投与量は、分子の大きさ、プロモーター活性、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、例えば、成人1日あたりベクター量として約2〜約20μg/kg、好ましくは約5〜約10μg/kgである。
【0084】
本発明の抗体(中和または非中和抗体)は、細胞表面のPHBおよび/またはPHB複合体を標的とする場合、上記したPHB(複合体)を含むビグアナイド薬作用抑制剤と同様にして製剤化され、投与され得る。一方、該抗体が細胞内(例えば、ミトコンドリア、核など)のPHBおよび/またはPHB複合体を標的とする場合、上記したPHB(複合体)を含むビグアナイド薬作用増強剤と同様にして製剤化され、投与され得る。
本発明の抗体の投与量は、分子の大きさ、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり約0.0008〜約2.5mg/kg、好ましくは約0.008〜約0.025mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。
【0085】
本発明はまた、ビグアナイド薬に特異的に結合する分子をスクリーニングするための、活性型ビグアナイド樹脂を提供する。
本発明の「活性型ビグアナイド樹脂」は、上記ビグアナイド薬をその活性を維持した状態で樹脂に結合させることによって得られるものであり、ビグアナイド薬の、活性に影響しないことを確認した部位からリンカーを伸ばして樹脂に結合させることによって得られる。より具体的にはビグアナイド薬のビグアナイド構造を維持した状態で、リンカーを介して樹脂に結合させる。例えば、式1で表される樹脂が活性型ビグアナイド樹脂として好ましく用いられる。
【0086】
【化5】

【0087】
(式中、Zは樹脂を表し;A1およびA2は、それぞれ同一または異なって、単結合、-(CH2-NH)-、-(CONH)-、-(NHCO)-、-(NHCONH)-、または-(CH(OH)-CH2-NH)-を表し;Xは、単結合、-(CH2)p-、-(COCH2NH)q-、-(NHCH2CO)r-、-(CH2CH2O)t-(CH2CH2)-(式中、pは1から12の整数、q、rおよびtはそれぞれ同一または異なって1から10の整数を表す)を表し;Wは-(CH2)n-または(CH2CH2O)m-(CH2CH2)-(式中、nは1から20の整数、mは1から5の整数を表す)を表し;Rは、水素原子、低級アルキル基またはアリール基を表す。)
【0088】
式1化合物において、-A1-X-A2-W-で表される基が、樹脂とビグアナイド薬とを結びつけるリンカーに相当する。
【0089】
本明細書中、「低級アルキル基」とは、炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示し、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。好ましくはメチル基である。
【0090】
本明細書中、「アリール基」とは、炭素数6〜14のアリール基を示し、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-インデニル基、2−アンスリル基等が挙げられる。好ましくはフェニル基である。
【0091】
本発明において用いる樹脂(Z)としては、当分野で使用し得る程度の形状や物理化学的性質を有するものであれば特に限定されず、アフィニティークロマトグラフィーに一般的に利用されている樹脂が好適に用いられる。例えばアガロース系樹脂(具体的にはAffiGel)やメタクリレート系樹脂(具体的にはTOYOPEARL)等が挙げられる。アフィニティークロマトグラフィー操作において、カラム等に充填し得る形状や物理化学的性質、あるいは遠心操作により溶液と分離できるような形状や物理的性質を有するものを含む。
【0092】
本発明はまた、ビグアナイド薬に特異的に結合する分子をスクリーニングするための、非活性型ビグアナイド樹脂を提供する。
本発明の「非活性型ビグアナイド樹脂」は、上記ビグアナイド薬をその活性を消失させた状態で樹脂に結合させることによって得られるものであり、ビグアナイド薬の、活性に影響する部位からリンカーを伸ばして樹脂に結合させることによって、あるいはビグアナイド薬の活性部位を有しない化合物を樹脂に結合させることによって得られる。例えば、式2で表される樹脂が非活性型ビグアナイド樹脂として好ましく用いられる。
【0093】
【化6】

【0094】
(式中、Zは樹脂を表し;A1およびA2は、それぞれ同一または異なって、単結合、-(CH2-NH)-、-(CONH)-、-(NHCO)-、-(NHCONH)-、または-(CH(OH)-CH2-NH)-を表し;Xは、単結合、-(CH2)p-、-(COCH2NH)q-、-(NHCH2CO)r-、-(CH2CH2O)t-(CH2CH2)-(式中、pは1から12の整数、q、rおよびtはそれぞれ同一または異なって1から10の整数を表す)を表し;Wは-(CH2)n-または(CH2CH2O)m-(CH2CH2)-(式中、nは1から20の整数、mは1から5の整数を表す)を表す。)
【0095】
さらに、本発明は、上記の活性型ビグアナイド樹脂、あるいはさらに非活性型ビグアナイド樹脂を用いたビグアナイド薬に結合する分子の選出方法を提供する。
該選出方法は、例えば、以下のような工程を含む(選出方法1)。
(a)試料を上記活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(b)試料を上記非活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(c)工程(a)にて選出され且つ工程(b)にて選出されない分子を、ビグアナイド薬に結合する分子として選出する工程。
【0096】
選出方法1で用いる「試料」とは、ビグアナイド薬結合能の有無を調べる対象となる分子(以下、候補結合分子)が、1種または2種以上含まれる試料である。該試料を、上記活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、候補結合分子とビグアナイド樹脂との結合の有無およびその程度を測定する。ここで、候補結合分子を含む試料としては、全て公知化合物から構成されるものであっても、一部新規な化合物を含むものであっても、さらには全て新規な化合物から構成されるものであってもよい。具体的には、例えば、1種以上のペプチド、蛋白質、脂質、糖質、核酸、細胞や組織の抽出物、大腸菌等によって遺伝子工学的に調製された蛋白質の混合物等が挙げられる。
【0097】
試料と活性型ビグアナイド樹脂あるいは非活性型ビグアナイド樹脂との接触工程は、通常当分野で実施されている結合実験に準じて行うことができる。カラム法やバッチ法等が利用できる。
【0098】
試料と活性型ビグアナイド樹脂あるいは非活性型ビグアナイド樹脂とを接触させた後、樹脂に結合した分子を選出する工程は、試料と樹脂とを接触させる工程をどのようにして行ったかによって適宜変更し得る。例えば、活性型ビグアナイド樹脂あるいは非活性型ビグアナイド樹脂と試料との接触をバッチ法で行った場合、試料の添加により、試料中のビグアナイド結合分子が樹脂上に結合する。本選出方法においてビグアナイド薬に結合する分子として判定し選出される分子は、非活性型ビグアナイド樹脂には結合せず、活性型ビグアナイド樹脂に結合する分子である。活性型ビグアナイド樹脂および非活性型ビグアナイド樹脂の両方に結合する分子は、非特異的な相互作用により吸着・結合したものであり、本発明が対象としているビグアナイド結合分子ではない。樹脂に結合した分子は、緩衝液の極性を変える、あるいは過剰のビグアナイド薬をさらに加える等の処理によって樹脂上から解離させ、その後同定したり、あるいは樹脂上のビグアナイド薬と結合した状態でそのまま界面活性剤等によって抽出して同定したりすることもできる。同定方法としては具体的には電気泳動法、免疫学的反応を用いたイムノブロッティングや免疫沈降法、クロマトグラフィー、マススペクトラム、アミノ酸シーケンス、NMR等の公知の手法により、またこれらの方法を組み合わせて実施する。
【0099】
本発明の別の選出方法は、以下のような工程を含む(選出方法2)。
(a)試料を上記活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(b)試料を上記活性型ビグアナイド樹脂と接触させる前、接触させている間または接触させた後に、ビグアナイド薬と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(c)工程(a)で選出され且つ工程(b)で選出されない分子を、該ビグアナイド薬に選択的に結合する分子として選出する工程。
【0100】
工程(a)は上記選出方法1の工程(a)と同様にして行うことができる。本方法(選出方法2)の工程(b)は3通り想定される(便宜上、工程b1、b2およびb3という)。
工程(b1)
試料を活性型ビグアナイド樹脂と接触させる前にビグアナイド薬と接触させる工程を含む。あらかじめ試料中に存在するビグアナイド結合分子をビグアナイド薬と結合させることによって、後で接触させる活性型ビグアナイド樹脂には所望するビグアナイド結合分子が捕捉されない。
工程(b2)
試料を活性型ビグアナイド樹脂と接触させる間にビグアナイド薬と接触させる工程を含む。ビグアナイド薬が、試料中に存在するビグアナイド結合分子と活性型ビグアナイド樹脂との結合を競合的に阻害することによって、活性型ビグアナイド樹脂には所望するビグアナイド結合分子が捕捉されない。
工程(b3)
試料を活性型ビグアナイド樹脂と接触させた後にビグアナイド薬と接触させる工程を含む。試料中に存在するビグアナイド結合分子は、樹脂上にいったんは捕捉されるが過剰のビグアナイド薬の添加により樹脂上から遊離するので、最終的には活性型ビグアナイド樹脂には所望するビグアナイド結合分子が捕捉されない。
【0101】
本選出方法においてビグアナイド薬に結合する分子として選出される分子は、工程(a)では樹脂上に捕捉され選出されるが、工程(b)では樹脂に捕捉されず選出されない分子である。両工程で選出される分子は、非特異的な相互作用により吸着・結合したものであり、本発明が対象としているビグアナイド結合分子ではない。また、本選出方法は、上記選出方法1と比較して、活性型ビグアナイド樹脂に保持されるビグアナイド薬骨格にも親和性を有するが、特定のビグアナイド薬(例えば、メトホルミン)に対してより親和性の強い分子を選出することができる。従って、ビグアナイド薬が結合し得る標的分子が生体内に複数種存在する場合に、特定のビグアナイド薬に対してより特異性の高い標的分子を同定するには選出方法2がより好ましく、一般にビグアナイド薬に対して特異的親和性を有する標的分子を網羅的に選出・同定する場合には、選出方法1が好ましい。
樹脂に結合した分子は、緩衝液の極性を変える、あるいは過剰のビグアナイド薬をさらに加える等の処理によって樹脂上から解離させ、その後同定したり、あるいは樹脂上のビグアナイド薬と結合した状態でそのまま界面活性剤等によって抽出して同定したりすることもできる。同定方法としては、具体的には電気泳動法、免疫学的反応を用いたイムノブロッティングや免疫沈降法、クロマトグラフィー、マススペクトラム、アミノ酸シーケンス、NMR等の公知の手法により、またこれらの方法を組み合わせて実施する。
【0102】
本発明の選出方法によって、ビグアナイド薬結合分子が選出され得るが、選出された分子がビグアナイド薬の薬理作用を調節し得るか否かについては、例えば、該ビグアナイド薬結合分子に対するsiRNAを用いてそれらの細胞内発現を抑制した場合の、当該細胞内でのビグアナイド薬の薬理作用に及ぼす影響を調べることにより検定することができる。
【0103】
さらに、本発明は、被験物質とPHB(複合体)とを接触させ、両者の結合を測定することを含む、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質のスクリーニング方法を提供する。
本スクリーニング法に用いられるPHB(複合体)は、上記のいずれかの方法により調製することができる。PHB(複合体)は、単離精製されたものを用いてもよいし、それらを発現する細胞の形態で使用してもよい。
【0104】
本スクリーニング法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0105】
PHB(複合体)と被験物質との接触処理は、通常当分野で実施されている結合実験に準じて行うことができる。具体的には、例えば、PHB(複合体)を固相担体に固定化し、被験物質を含有する溶液を該固相担体に接触させる。カラム法やバッチ法等が利用できる。
【0106】
被験物質がPHB(複合体)に結合したか否かを判定する工程は、被験物質とPHB(複合体)とを接触させる工程をどのようにして行ったかによって適宜変更し得るが、例えばPHB(複合体)が固定化された固相担体(例えばビーズ樹脂)を充填してなるカラムを用いた場合、続く被験物質を含有する溶液の添加により、両者の間に特異的な結合能がある場合には被験物質が固相担体上に結合する。結合した被験物質を緩衝液の極性を変える、あるいは過剰のPHB(複合体)をさらに加える等の処理によって固相上から解離させ、その後同定したり、あるいは固相上のPHB(複合体)と結合した状態でそのまま界面活性剤等によって抽出して同定したりすることもできる。同定方法としては具体的には電気泳動法、免疫学的反応を用いたイムノブロッティングや免疫沈降法、クロマトグラフィー、マススペクトラム、アミノ酸シーケンス、NMR等の公知の手法により、またこれらの方法を組み合わせて実施する。被験物質が固相上に捕捉されるかあるいはカラムの素通り画分中に含まれるか否か、あるいはその程度等を測定することによって、より好ましくは被験物質との接触を行わない(例えば、被験物質を含有しない溶液との接触)以外は全て同様にして上記工程と同じ処理を実施して得られる結果(対照)と比較することによって、該被験物質がPHB(複合体)に対して特異的結合能を有しているか否かを判定し、結合する物質(化合物)を選択する。
また、PHB(複合体)をBIACOREチップに固定化し、予め終濃度を一定となるように調製した被験物質を順次インジェクションし、チップへの結合量を測定し、被験物質を加えない場合との比較や被験物質間の結合量を比較することでチップへの結合が観察される被験物質を選択することもできる。
【0107】
さらに、PHB(複合体)を細胞内で発現した状態で使用する場合には、RI標識や蛍光標識等の各種のラベリング技術を駆使して当該蛋白質と被験物質との結合の有無、結合の程度を測定することもできる。本発明のスクリーニング方法におけるPHB(複合体)と被験物質との接触にはこのような態様も含まれる。細胞と被験物質との接触条件は使用する細胞やPHB(複合体)の細胞内での発現状況等の要因により適宜設定される。また、PHB(複合体)が細胞内で発現しているか否かは抗体等を用いて予め確認しておくことが好ましい。
【0108】
本発明はまた、PHB(複合体)とビグアナイド薬との結合を阻害する物質のスクリーニング方法を提供する。当該方法は、
(a)被験物質の存在下および非存在下で、ビグアナイド薬とPHB(複合体)とを接触させる工程、および
(b)上記両条件下において、ビグアナイド薬とPHB(複合体)との結合をそれぞれ測定し、比較する工程を含むか(スクリーニング法1)、あるいは
(a’)ビグアナイド薬の存在下および非存在下で、被験物質とPHB(複合体)とを接触させる工程、および
(b’)上記両条件下において、被験物質とPHB(複合体)との結合をそれぞれ測定し、比較する工程を含む(スクリーニング法2)。
【0109】
スクリーニング法1における被験物質、ビグアナイド薬およびPHB(複合体)を接触させる工程は、例えば、上記したPHB(複合体)と被験物質との接触処理において、被験物質に加えてさらにビグアナイド薬を含む溶液を用いることにより実施することができる。好ましくは、被験物質非存在下でのPHB(複合体)へのPHB(複合体)の結合の程度と比較することによって、当該被験物質のビグアナイド薬−PHB(複合体)結合阻害能の有無および/または程度を判定することができる。
スクリーニング法2における被験物質、ビグアナイド薬およびPHB(複合体)を接触させる工程も、スクリーニング法1と同様に実施することができる。但し、スクリーニング法2においては、該接触工程によるPHB(複合体)への被験物質の結合の程度が、ビグアナイド薬非存在下でのPHB(複合体)への被験物質の結合と比較される点で異なる。
【0110】
スクリーニング法1において、ビグアナイド薬の代りに上記した活性型ビグアナイド樹脂を用いることもできる(スクリーニング法3)。被験物質の存在下(例えば被験物質を含む溶液中)、活性型ビグアナイド樹脂にPHB(複合体)を添加し〔工程(a)〕、樹脂へのPHB(複合体)の結合能を調べる〔工程(b)〕。被験物質の非存在下で、同様に該樹脂にPHB(複合体)を添加して、樹脂へのPHB(複合体)の結合能を調べ、それらの結果を比較することにより、ビグアナイド薬とPHB(複合体)との結合を阻害する物質を選択することができる。
【0111】
上記スクリーニング法1〜3に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0112】
上記スクリーニング法1〜3によって選択される、PHB(複合体)とビグアナイド薬との結合を阻害する物質は、PHB(複合体)に結合してビグアナイド薬と同様の生物活性、即ち、AMPKリン酸化作用や細胞内ATP低下作用等を示し得るので、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満、代謝性症候群等の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)効果を有し得る。従って、上記スクリーニング法1〜3は、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質を選択するための方法として有用である。
【0113】
さらに別の本発明は、PHBの発現量を増加させる物質を選択することによる、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質のスクリーニング方法を提供する。本スクリーニング法は、
(a)被験物質の存在下および非存在下で、PHBを産生し得る細胞をインキュベートする工程、および
(b)上記両条件下において、PHBをコードする遺伝子の発現量を測定し、比較する工程を含む。
ここで、PHBの発現量とは、遺伝子レベルの発現量および蛋白質レベルでの発現量の両方を意味する。
【0114】
PHBを産生し得る細胞としては、生来的に該蛋白質を発現する細胞に加え、遺伝子組換え技術等により該蛋白質を発現するように操作された細胞であってもよい。生来的に該蛋白質を発現している細胞としては、哺乳動物由来の肝細胞、脂肪細胞、骨格筋細胞、あるいはそれらに由来する細胞株(例えば、H4IIE、3T3-L1、C2C12)等が挙げられるが、それらに限定されない。また、遺伝子組換え技術等により該蛋白質を発現するように操作された細胞は、上記したPHB類の調製に用いられる形質転換体を製造する方法に準じて取得することができる。
【0115】
PHBの発現量の測定は、蛋白質レベルでの発現量を測定する場合には、蛋白質の細胞内発現量を測定する為に当分野で通常実施される方法に準じて実施することができる。例えば該蛋白質に対する特異抗体を用いて、ウェスタンブロットや免疫蛍光染色等の手法により行うことができる。また、遺伝子レベルでの発現量を測定する場合には、PHB遺伝子の細胞内発現量を測定する為に当分野で通常実施される方法に準じて実施することができ、例えば該蛋白質をコードするmRNA (cDNA) に相補的な核酸を用いた、ノーザンブロット、RT-PCR等の手法により行うことができる。
【0116】
上記したいずれかのスクリーニング方法で得られた物質(化合物)は、上述の通り、ヒトを含め、サル、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット等の哺乳動物に対して、ビグアナイド薬と同様の薬理作用を有し、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満、代謝性症候群等の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)剤としての適用が期待される。
【0117】
当該物質(化合物)は、薬理学的に許容し得る塩を形成していてもよく、該塩としては酸付加塩、例えば無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等)等が挙げられ、又、水和物であってもよい。
【0118】
当該物質(化合物)を経口的に投与する場合、通常当分野で用いられる投与形態で投与することができる。非経口的に投与する場合には、局所投与剤(経皮剤等)、直腸投与剤、注射剤、経鼻剤等の投与形態で投与することができる。
【0119】
経口剤または直腸投与剤としては、例えばカプセル、錠剤、ピル、散剤、ドロップ、カシェ剤、座剤、液剤等が挙げられる。注射剤としては、例えば、無菌の溶液または懸濁液等が挙げられる。局所投与剤としては、例えば、クリーム、軟膏、ローション、経皮剤(通常のパッチ剤、マトリクス剤)等が挙げられる。
【0120】
上記の剤形は当分野で通常行われている手法により、薬理学的に許容し得る賦形剤、添加剤とともに製剤化され得る。薬理学的に許容し得る賦形剤、添加剤としては、担体、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0121】
薬理学的に許容し得る担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等が挙げられる。
【0122】
さらに、錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、腸溶性コーティング錠、フィルムコーティング錠あるいは二層錠、多層錠とすることができる。散剤は、薬理学的に許容し得る散剤の基剤と共に製剤化される。基剤としては、タルク、ラクトース、澱粉等が挙げられる。ドロップは水性または非水性の基剤と一種またはそれ以上の薬理学的に許容し得る拡散剤、懸濁化剤、溶解剤等と共に製剤化できる。カプセルは、有効成分となる化合物を薬理学的に許容し得る担体と共に中に充填することにより製造できる。当該化合物は薬理学的に許容し得る賦形剤と共に混合し、または賦形剤なしでカプセルの中に充填することができる。カシェ剤も同様の方法で製造できる。本発明を座剤として調製する場合、植物油(ひまし油、オリーブ油、ピーナッツ油等)や鉱物油(ワセリン、白色ワセリン等)、ロウ類、部分合成もしくは全合成グリセリン脂肪酸エステル等の基剤と共に通常用いられる手法によって製剤化される。
【0123】
注射用液剤としては、溶液、懸濁液、乳剤等が挙げられる。例えば、水溶液、水−プロピレングリコール溶液等が挙げられる。液剤は、水を含んでも良い、ポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールの溶液の形で製造することもできる。
【0124】
経口投与に適切な液剤は、有効成分となる化合物を水に加え、着色剤、香料、安定化剤、甘味剤、溶解剤、増粘剤等を必要に応じて加え製造することができる。また経口投与に適切な液剤は、当該化合物を分散剤とともに水に加え、粘重にすることによっても製造できる。増粘剤としては、例えば、薬理学的に許容し得る天然または合成ガム、レジン、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースまたは公知の懸濁化剤等が挙げられる。
【0125】
局所投与剤としては、上記の液剤および、クリーム、エアロゾル、スプレー、粉剤、ローション、軟膏等が挙げられる。上記の局所投与剤は、有効成分となる化合物と薬理学的に許容し得る希釈剤および担体と混合することによって製造できる。軟膏およびクリームは、例えば、水性または油性の基剤に増粘剤および/またはゲル化剤を加えて製剤化する。該基剤としては、例えば、水、液体パラフィン、植物油等が挙げられる。増粘剤としては、例えばソフトパラフィン、ステアリン酸アルミニウム、セトステアリルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ラノリン、水素添加ラノリン、蜜蝋等が挙げられる。局所投与剤には、必要に応じて、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、クロロクレゾール、ベンザルコニウムクロリド等の防腐剤、細菌増殖防止剤を添加することもできる。ローションは、水性または油性の基剤に、一種類またはそれ以上の薬理学的に許容し得る安定剤、懸濁化剤、乳化剤、拡散剤、増粘剤、着色剤、香料等を加えることができる。
【0126】
上記したいずれかのスクリーニング方法で得られた物質(化合物)の投与量は、該物質(化合物)の活性、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり約0.0008〜約2.5mg/kg、好ましくは約0.008〜約0.025/kgであり、この量を1回もしくは数回に分けて投与することができる。
【0127】
以下、実施例(製造例、実験例)により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0128】
実施例1:活性型ビグアナイド樹脂の作製
実施例1−1
N−[アミノ(イミノ)メチル]イミドチオカルバミン酸メチルエステル・ヨウ化水素酸塩
【0129】
【化7】

【0130】
アミジノチオウレア(7.1g,0.06mol)とヨウ化メチル(7.8g,0.09mol)をエタノール(48mL)に溶かし、これを室温で2日間撹拌した。反応溶液を濃縮乾固し表題化合物を得た。
【0131】
実施例1−2
12−{[{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}(イミノ)メチル]アミノ}ドデカン酸・塩酸塩
【0132】
【化8】

【0133】
N−[アミノ(イミノ)メチル]イミドチオカルバミン酸メチルエステル・ヨウ化水素
酸塩(2.6g,10mmol)、12−アミノドデカン酸メチルエステル・塩酸塩(2.65g,10mmol)とトリエチルアミン(3.06g,22mmol)をメタノール(20mL)に溶かし、これを60℃で10時間加熱撹拌した。反応溶液を濃縮し残査をメタノール(10mL)、テトラヒドロフラン(THF;10mL)と1N水酸化ナトリウム水溶液(10mL)の混合溶液に懸濁させ、これを60℃で10時間加熱撹拌した。溶媒を減圧濃縮し、残査を水で希釈した後、1N塩酸でpH7に中和した。得られた固体を濾取し水で洗浄した後、これを再び水に懸濁させ1N塩酸を加えて酸性とした。溶媒の水を濃縮乾固し粗表題化合物を得た。この粗生成物は逆層分取用液体クロマトグラフィー(カラム:YMC−PACK ODS−A、A液:0.05%トリフルオロ酢酸/水、B液:0.035%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル、グラージェント:A液0%から57%)を用いて精製後、塩酸−ジオキサンにて凍結乾燥を行い表題化合物を得た。
MS:m/z 300(M+H
【0134】
実施例1−3:ビグアナイド誘導体付TOYOPEARL
【0135】
【化9】

【0136】
実施例1−2で調製した12−{[{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}(イミノ)メチル]アミノ}ドデカン酸・塩酸塩(14.4mg,0.040mmol)、TOYOPEARL樹脂(TSKgel AF−amino,1.0ml,遊離アミノ基(available amino group)は0.01mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC;7.66μl,0.044mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt;5.9mg,0.044mmol)および1−メチル−2−ピロリジジノン(NMP;5ml)の混合物を室温で終夜撹拌した。反応終了後、NMP、メタノール、水で樹脂を十分洗浄した後、酢酸(22.2μl,0.388mmol)、EDC(68.1μl,0.388mmol)、HOBt(52.4mg,0.388mmol)を加え室温で終夜撹拌した。反応終了後、NMP、メタノール、水で樹脂を十分洗浄した後、ビグアナイド誘導体付TOYOPEARLを得た。
【0137】
実施例2:非活性型ビグアナイド樹脂の作製
アミン誘導体付TOYOPEARL
【0138】
【化10】

【0139】
実施例1−3と同様にして、Fmoc−12−アミノドデカン酸(17.0mg,0.040mmol)および、TOYOPEARL樹脂(TSKgel AF−amino:1.0ml,遊離アミノ基:0.01mmol)よりFmoc保護誘導体付樹脂を調製した。次いで、20%ピペラジン/DMF溶液(8ml)中室温で2時間攪拌した後、NMP、メタノール、水で樹脂を十分洗浄し、アミン誘導体付TOYOPEARLを得た。
【0140】
実施例3
実施例3−1
ビグアナイド薬結合分子の選出方法1
H4IIE細胞(大日本製薬から購入)から調製した細胞抽出液(以下組成の抽出液で細胞を溶解;10mM Tris−HCl pH7.4,150mM NaCl,1%TritonX−100)を以下の組成の溶液に希釈し(10mM Tris−HCl pH7.4,150mM NaCl,0.05%TritonX−100)、実施例1−3記載の活性型ビグアナイド樹脂および実施例2記載の非活性型ビグアナイド樹脂と混合した。混合後、遠心操作を行い、上清を除去した。洗浄液A(10mM Tris−HCl pH7.4,1M NaCl,0.05%TritonX−100)で樹脂を数回洗浄した。洗浄後も樹脂に残存した蛋白質成分をSDS−PAGE用のサンプルバッファーで溶出した。溶出サンプルについてSDS−PAGEを実施した。蛋白質成分は、銀染色法にてゲル上のバンドとして観察した。その結果、活性型樹脂から溶出したサンプルのみに観察されるいくつかのバンドを選出することができた。これらを活性型樹脂に特異的に結合する蛋白質候補として選出した。
【0141】
実施例3−2
ビグアナイド薬結合分子の選出方法2
H4IIE細胞から作製した細胞抽出液(以下組成の抽出液で細胞を溶解;10mM Tris−HCl pH7.4,150mM NaCl,1%TritonX−100)を以下の組成に希釈し(10mM Tris−HCl pH7.4,150mM NaCl,0.05%TritonX−100)、実施例1−3記載の活性型ビグアナイド樹脂と混合した。遠心操作を行い、上清を除去し、洗浄液A(10mM Tris−HCl pH7.4,1M NaCl,0.05%TritonX−100)もしくは洗浄液B(10mM Tris−HCl pH7.4,1M メトホルミン,0.05%TritonX−100)で樹脂を数回洗浄した。洗浄後も樹脂に残存した蛋白質成分をSDS−PAGE用のサンプルバッファーで溶出した。溶出サンプルについてSDS−PAGEを実施した。蛋白質成分は、銀染色法にてゲル上にバンドとして観察できる。洗浄液Bで洗浄した樹脂では確認できず、洗浄液Aで洗浄した樹脂にのみに観察されるバンドをメトホルミンに結合する蛋白質候補として選出した。
【0142】
実施例4:ビグアナイド薬結合分子の同定
実施例3−1あるいは3−2に記載の方法で選出した結合蛋白質候補バンドがどのような蛋白質であるかを検証するために下記記載のnanoLC−MS/MS法による蛋白質の同定を実施した。まず目的とするバンドを含むゲル成分をメスにより切り出した。次いで、これらゲルに含まれる蛋白質成分をトリプシンによりゲル内酵素消化し、消化されたペプチド断片をゲルから抽出した。抽出した消化ペプチド断片はnanoLC−HPLCシステム(アジレント社 HP1100)にアプライし、on lineで接続された質量分析計(Thermo Electron社 LCQ)を用いてMSスペクトルおよびMS/MSスペクトルを取得した。蛋白質の同定はMASCOTプログラム(Matrix Science社)を用い、NCBInrデータベースを検索することにより実施した。
【0143】
実施例5:PHB1、PHB2の選出
MASCOTによる同定された各蛋白質をコードする遺伝子に対して、siRNA配列を設計した。設計したsiRNAを化学的に合成(Prorigo社)し、H4IIE細胞にLipofectamine2000(Invitrogen社)を用いて導入した。siRNAによる当該遺伝子の抑制の確認は、定量的RT−PCR法により実施した。次に当該遺伝子を抑制したH4IIE細胞におけるメトホルミンの作用(AMPK蛋白質のリン酸化による活性化、細胞内ATP量の低下作用)が抑制されるかどうかを試みた。AMPK蛋白質の活性化については抗AMPKα抗体(Cell Signaling社 Lot.#2532)、抗Phospho−AMPKα(Thr172)抗体(Cell Signaling社 Lot.#2535)を用い、コントロール(EGFPのsiRNA導入)と比較したウェスタンブロット法により実施した。また細胞内ATP量の低下作用については、CellTiter−GloTM Luminescent Cell Viability Assay(Promega社)を用い、メトホルミン添加後の細胞内ATP量を測定しコントロールと比較することで実施した。
候補蛋白質群のうちPHB1、またはPHB2に対するsiRNA配列(それぞれ配列番号:5、6)を用いてノックダウンしたH4IIE細胞において、メトホルミンの作用(AMPKの活性化およびATP低下作用)を抑制することができた。ATP量の測定結果を図1に、またAMPKリン酸化の測定結果を図2に、それぞれ示す。これらの結果よりPHB1およびPHB2は、メトホルミンの作用発揮に関与する物質であることが明らかとなった。
【0144】
実施例6:PHB1またはPHB2蛋白質と結合する物質のスクリーニング
ヒトPHB1またはPHB2遺伝子を発現させた大腸菌から精製した高純度のPHB1またはPHB2蛋白質を調製する。被験物質のスクリーニングにはBIACOREシステムを用いる。調製した蛋白質はBIACOREチップに固定化する。予め終濃度を一定(例えば10μMや10nM)となるように調製した被験物質を順次インジェクションし、チップへの結合量(RU値)を測定する。被験物質を加えない場合との比較や被験物質間の結合量を比較することでチップへの結合が観察される被験物質を選択する。望ましくはより低濃度でRmax(飽和結合量)に達した化合物を選択する。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明のスクリーニング法は、ビグアナイド薬に代替する、新規な糖尿病予防・治療薬の開発を可能とし、ビグアナイド薬の有利な薬効(SU剤などと異なり低血糖を引き起こさない等)を保持しつつ、乳酸アシドーシスなどの副作用の危険性の少ない、より安全な糖尿病予防・治療薬の開発に有用ある。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】ラット肝由来H4IIE細胞に各種候補蛋白質のsiRNAを導入し、細胞内ATPを測定した結果を示すグラフである。コントロールに見られるようにメトホルミン添加により細胞内ATP量が低下する。図1では各種結合候補蛋白質に対するsiRNAを導入した細胞に3mMメトホルミンを添加した時の細胞内ATPの相対量を表している。 コントロールおよび他の候補蛋白質に対するsiRNAを導入した細胞と比較し、PHB1およびPHB2に対するsiRNAを導入した細胞においてメトホルミンによる細胞内ATPの低下作用が抑制された。
【図2】ラット肝由来H4IIE細胞に各種候補蛋白質のsiRNAを導入し、その細胞より細胞抽出液を調製し、蛋白質量を一定とし、電気泳動後、ウェスタンブロッティングによりAMPKのリン酸化を可視化した図である。図では、結合蛋白質に対するsiRNAを導入した細胞に3mMメトホルミンを添加した時のAMPKのリン酸化の様子を表している。 コントロールおよび他の候補蛋白質に対するsiRNAを導入した細胞と比較し、PHB1およびPHB2に対するsiRNAを導入した細胞においてメトホルミンによるAMPKの活性化(リン酸化)が抑制された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビグアナイド薬に結合する分子としての、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体の使用。
【請求項2】
ビグアナイド薬の薬理作用を調節する分子としての、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体の使用。
【請求項3】
ビグアナイド薬がメトホルミンである、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体を含有してなる、ビグアナイド薬の作用調節剤。
【請求項5】
ビグアナイド薬がメトホルミンである、請求項4記載の剤。
【請求項6】
式1で表される活性型ビグアナイド樹脂。
【化1】


(式中、Zは樹脂を表し;A1およびA2は、それぞれ同一または異なって、単結合、-(CH2-NH)-、-(CONH)-、-(NHCO)-、-(NHCONH)-、または-(CH(OH)-CH2-NH)-を表し;Xは、単結合、-(CH2)p-、-(COCH2NH)q-、-(NHCH2CO)r-、-(CH2CH2O)t-(CH2CH2)-(式中、pは1から12の整数、q、rおよびtはそれぞれ同一または異なって1から10の整数を表す)を表し;Wは-(CH2)n-または(CH2CH2O)m-(CH2CH2)-(式中、nは1から20の整数、mは1から5の整数を表す)を表し;Rは、水素原子、低級アルキル基またはアリール基を表す。)
【請求項7】
式2で表される非活性型ビグアナイド樹脂。
【化2】


(式中、Zは樹脂を表し;A1およびA2は、それぞれ同一または異なって、単結合、-(CH2-NH)-、-(CONH)-、-(NHCO)-、-(NHCONH)-、または-(CH(OH)-CH2-NH)-を表し;Xは、単結合、-(CH2)p-、-(COCH2NH)q-、-(NHCH2CO)r-、-(CH2CH2O)t-(CH2CH2)-(式中、pは1から12の整数、q、rおよびtはそれぞれ同一または異なって1から10の整数を表す)を表し;Wは-(CH2)n-または(CH2CH2O)m-(CH2CH2)-(式中、nは1から20の整数、mは1から5の整数を表す)を表す。)
【請求項8】
下記(a)〜(c)の工程を含む、ビグアナイド薬に結合する分子の選出方法:
(a)試料を請求項6記載の活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(b)試料を請求項7記載の非活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(c)工程(a)にて選出され且つ工程(b)にて選出されない分子を、ビグアナイド薬に結合する分子として選出する工程。
【請求項9】
下記(a)〜(c)の工程を含む、ビグアナイド薬に結合する分子の選出方法:
(a)試料を請求項6記載の活性型ビグアナイド樹脂と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(b)試料を請求項6記載の活性型ビグアナイド樹脂と接触させる前、接触させている間または接触させた後に、ビグアナイド薬と接触させ、該樹脂に結合した分子を選出する工程、
(c)工程(a)で選出され且つ工程(b)で選出されない分子を、該ビグアナイド薬に選択的に結合する分子として選出する工程。
【請求項10】
被験物質とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させ、両者の結合を測定することを含む、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
下記(a)および(b)の工程を含む、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とビグアナイド薬との結合を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下および非存在下で、ビグアナイド薬とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させる工程、
(b)上記両条件下において、ビグアナイド薬とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体との結合をそれぞれ測定し、比較する工程。
【請求項12】
下記(a)および(b)の工程を含む、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とビグアナイド薬との結合を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)ビグアナイド薬の存在下および非存在下で、被験物質とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させる工程、
(b)上記両条件下において、被験物質とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体との結合をそれぞれ測定し、比較する工程。
【請求項13】
下記(a)および(b)の工程を含む、PHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とビグアナイド薬との結合を阻害する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下および非存在下で、請求項6記載の活性型ビグアナイド樹脂とPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体とを接触させる工程、
(b)上記両条件下において、樹脂へのPHB1および/またはPHB2および/またはそれらの複合体の結合をそれぞれ測定し、比較する工程。
【請求項14】
糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質を選択するための、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
下記(a)および(b)の工程を含む、糖尿病、耐糖能異常、インスリン抵抗性、高脂血症、動脈硬化症、肥満および代謝性症候群からなる群より選択される1以上の疾患もしくは病態の予防・治療(改善)作用を示す物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質の存在下および非存在下で、PHB1および/またはPHB2を産生し得る細胞をインキュベートする工程、
(b)上記両条件下において、PHB1もしくはそれをコードする遺伝子および/またはPHB2もしくはそれをコードする遺伝子の発現量を測定し、比較する工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−77028(P2007−77028A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263044(P2005−263044)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】