説明

ビスフェノール類の製造方法

【課題】 反応が速くて、収率が高く、且つ希釈溶媒の回収が不要なビスフェノール類(I)の製法の提供。
【解決手段】 ジアルキルフェノール類(II)とトリオキサン類(III)を、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素溶媒及び炭素数6〜12の芳香族炭化水素溶媒から選ばれる反応溶媒、陰イオン系界面活性剤並びに酸触媒の存在下に反応させる。


(I)


(II)


(III)
[式中、R1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基を、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノール類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノール類は、天然ゴム、合成ゴムや潤滑油等の酸化防止剤として公知である。また、ビスフェノール類は、ブタジエン系ポリマーやオレフィン系ポリマーの熱劣化防止剤の中間体化合物として有用である。
従来、ビスフェノール類は、市販の低級アルデヒド水溶液と下式(II)で示されるジアルキルフェノール類を、陰イオン系界面活性剤、芳香族炭化水素溶媒及び酸触媒の存在下に反応させることによって製造されていた(下記特許文献1の実施例5を参照)。
【0003】

(II)
【0004】
[式中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。]
【0005】
【特許文献1】特開平4−264051号公報
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、低沸点のアルデヒド水溶液を用いるために反応が遅延し、ビスフェノール類(I)の収率が低下するという問題があった。また、水溶液の代わりにキシレン溶媒等で希釈した低沸点のアルデヒド溶液を用いると、該溶液中の希釈溶媒を回収して再使用する必要があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、反応が速くてビスフェノール類(I)の収率が高く、且つ上記の希釈溶媒の回収が不要なビスフェノール類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下式(III)で示されるトリオキサン類を用いると、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下式(II)で示されるジアルキルフェノール類と下式(III)で示されるトリオキサン類を、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素溶媒及び炭素数6〜12の芳香族炭化水素溶媒から選ばれる反応溶媒、陰イオン系界面活性剤並びに酸触媒の存在下に反応させることを特徴とする下式(I)で示されるビスフェノール類の製造方法を提供するものである。
【0009】

(I)
【0010】

(II)
【0011】

(III)
【0012】
[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。]
【発明の効果】
【0013】
アルデヒドとしてトリオキサン類を用いる本発明によれば、収率良くビスフェノール類を製造することができる。また、反応容器の単位容積当りのビスフェノール得量が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるトリオキサン類(III)において、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。該アルキル基としては、メチル基、エチル基やプロピル基が挙げられる。
トリオキサン類(III)としては、例えば、パラホルムアルデヒド、パラアセトアルデヒド、2,4,6−トリエチル−1,3,5−トリオキサンや2,4,6−トリブチル−1,3,5−トリオキサン等が挙げられる。
【0015】
ジアルキルフェノール類(II)におけるR及びRとしては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基やt−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基が挙げられる。R及びRは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。R及びRとしては、t−ブチル基やt−ペンチル基のような3級炭素原子を有するアルキル基が好ましい。
ジアルキルフェノール類(II)としては、例えば2,4−ジ−t−ペンチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2−t-ブチル−4−メチルフェノール、2−t−ブチル−4−エチルフェノール、2−t-ブチル−4−プロピルフェノールや2−t-ブチル−4−イソプロピルフェノール等が挙げられる。
【0016】
本発明におけるビスフェノール類(I)としては、例えば2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−プロピリデンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(6−t−ブチル−4−プロピルフェノール)や2,2’−エチリデンビス(6−t−ブチル−4−イソプロピルフェノール)等が挙げられる。
【0017】
本発明の製造方法においては、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素溶媒及び炭素数6〜12の芳香族炭化水素溶媒から選ばれる反応溶媒の存在下に、ジアルキルフェノール類(II)とトリオキサン類(III)の反応が行われる。上記の有機溶媒を用いない場合は、反応の進行に伴って生成するビスフェノール類(I)の結晶が析出し、該結晶の析出に伴って酸触媒やジアルキルフェノール類(II)が結晶中に取り込まれる結果、反応が遅延したり、ビスフェノール類(I)の収率が低下したりする。
上述した炭素数6〜10の脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカンやシクロヘキサン等が挙げられる。
また、炭素数6〜12の芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、シメンやクロルベンゼン等が挙げられる。
これらの中でも芳香族炭化水素溶媒が好ましく、トルエンやキシレンが特に好ましい。
上記の有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
上記反応溶媒の使用量は、ジアルキルフェノール類(II)の100重量部当り、通常は1〜100重量部の範囲であり、好ましくは5〜50重量部の範囲である。
【0018】
本発明の製造方法においては、陰イオン界面活性剤の存在下に反応が行われる。
本発明で用いる陰イオン系界面活性剤としては、モノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウム、ジアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びジアルキルスルホコハク酸ナトリウムからなる群より選ばれる界面活性剤が好ましい。
モノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムとしては、例えば、ペレックスNB−L(花王の商品名)が挙げられる。また、アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウムとしては、例えば、サンデットAL(三洋化成の商品名)が挙げられる。さらに、ジアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとしては、例えば、センデールS(第一工業の商品名)が挙げられる。そして、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムとしては、例えば、ネオペレックスOT−P(花王の商品名)が挙げられる。
【0019】
これらの陰イオン系界面活性剤剤のなかでも、モノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウムやジアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましく、上記のペレックスNB−L、サンデットALやセンデールS等が特に好ましい。
【0020】
陰イオン系界面活性剤の使用量は、ジアルキルフェノール類(II)の100重量部当り0.6〜3重量部の範囲が好ましい。非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤や両性界面活性剤を使用すると、反応が遅延する。
【0021】
本発明において、反応は酸触媒の存在下で行われる。酸触媒としては、例えば硫酸、塩酸や燐酸等の鉱酸や、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が用いられる。好ましい酸触媒は、硫酸又は塩酸である。
酸触媒の使用量は、ジアルキルフェノール類(II)の1モル当り、通常は0.001〜0.1モルの範囲である。上記の酸触媒は水等で希釈したものを用いてもよい。
【0022】
本発明におけるトリオキサン類(III)の好ましい使用量は、ジアルキルフェノール類(II)の1モル当り0.5〜0.6モルの範囲である。トリオキサン類(III)の使用量がジアルキルフェノール類(II)の1モル当り0.5モル未満である場合は、ジアルキルフェノール類(II)が未反応のまま比較的多く残存する。一方、トリオキサン類(III)の使用量がジアルキルフェノール類(II)の1モル当り0.6モルを超える場合は、不純物が副生し易く、ビスフェノール類(I)の収率が低下する。トリオキサン類(III)は、必要に応じて、水や反応溶媒で希釈して用いてもよい。水や有機溶媒で希釈して用いる場合は、希釈に用いる溶媒の使用量と反応に用いる溶媒の使用量との合計使用量が、ジアルキルフェノール類(II)の100重量部当り、100重量部以下の範囲であることが好ましい。
トリオキサン類(III)は、該トリオキサン類以外の原料化合物等と同時に仕込んでもよく、トリオキサン類(III)以外の原料化合物中に連続的又は間欠的に仕込んでもよい。
【0023】
本発明においては、反応系内の水や有機溶媒量が少ないほど、反応速度が早くなる。したがって、反応系内の水や有機溶媒量を少なくする方が、収率や反応時間の観点からは有利である。
本発明における反応温度は、通常は30〜110℃の範囲であり、好ましくは40〜100℃の範囲である。反応は、大気圧下で行ってもよく、加圧下で行ってもよい。
【0024】
反応時間は、有機溶媒量、水量及び界面活性剤量、上述した各原料化合物の仕込み方法、反応温度等によって異なるが、通常は1〜20時間の範囲であり、より好ましくは2〜10時間の範囲である。反応の進行は、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等の分析手段により追跡することができる。
【0025】
ビスフェノール類(I)を含む反応混合物中の酸触媒の除去は、必要に応じて有機溶媒を加えた後、酸触媒をアルカリで中和後、水層を分液することによって行われる。
水層を分液して得たビスフェノール類(I)を含む有機層は、該有機層を脱水することにより、ビスフェノールモノエステル類等の原料化合物として使用することができる。ビスフェノール類(I)は、必要に応じて、晶析等によって単離してもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例等により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0027】
実施例1
温度計、攪拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた反応容器中に、2,4−ジ−t−ペンチルフェノール100重量部、キシレン10重量部、ペレックスNB−L(花王の陰イオン系界面活性剤;主成分はモノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム)の2重量部及び78%硫酸の4重量部をこの順に仕込んだ。60℃以下で、攪拌下にパラアルデヒド9.5重量部を2時間かけて滴下した。滴下終了後、90〜95℃まで昇温した。その後、同温度で3時間反応させた。反応終了後、反応混合物中にキシレン158重量部と水50重量部を加えた後、28%水酸化ナトリウム水溶液で中和した。中和後、水層を分液により除去した。得られた油層に水50重量部を加えて水洗した。水洗後の水層を分液により除去して、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)を含む溶液を得た。該溶液中の2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)の含量を分析した。その結果、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)の収率は、96.7%であった。
【0028】
実施例2
パラアルデヒド9.9重量部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)を含む溶液を得た。分析した結果、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)の収率は、97.1%であった。
【0029】
比較例1
パラアルデヒドの代わりにアセトアルデヒド9.9重量部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)を含む溶液を得た。分析した結果、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)の収率は、96.2%であった。
【0030】
比較例2
ペレックスNB−Lを用いない以外は、実施例1と同様の操作を行って、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)を含む溶液を得た。分析した結果、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)の収率は、87.3%であった。
【0031】
【表1】

【0032】
1) ジアルキルフェノール基準の重量比
2) ジアルキルフェノール基準のモル比
3) 希釈溶媒の種類及び希釈溶媒の重量倍率(対アルデヒド)
4) ジアルキルフェノール基準の反応収率(%)
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法により得られるビスフェノール類は、ブタジエン系ポリマーやオレフィン系ポリマーの熱劣化防止剤の中間体化合物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(II)で示されるジアルキルフェノール類と下式(III)で示されるトリオキサン類を、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素溶媒及び炭素数6〜12の芳香族炭化水素溶媒から選ばれる反応溶媒、陰イオン系界面活性剤並びに酸触媒の存在下に反応させることを特徴とする下式(I)で示されるビスフェノール類の製造方法。

(I)

(II)

(III)
[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表す。]
【請求項2】
陰イオン系界面活性剤が、モノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウム、ジアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びジアルキルスルホコハク酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤である請求項1に記載のビスフェノール類の製造方法。
【請求項3】
陰イオン系界面活性剤の使用量が、式(II)で示されるジアルキルフェノール類100重量部当り0.6〜3重量部の範囲である請求項1又は2に記載のビスフェノール類の製造方法。
【請求項4】
反応溶媒の使用量が、式(II)で示されるジアルキルフェノール類の100重量部当り1〜100重量部の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載のビスフェノール類の製造方法。
【請求項5】
反応溶媒が、トルエン又はキシレンである請求項1〜4のいずれかに記載のビスフェノール類の製造方法。
【請求項6】
酸触媒の使用量が、式(II)で示されるジアルキルフェノール類の1モル当り0.001〜0.1モルの範囲である請求項1〜5のいずれかに記載のビスフェノール類の製造方法。
【請求項7】
式(I)で示されるビスフェノール類が、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ペンチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)又は2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)である請求項1〜6のいずれかに記載のビスフェノール類の製造方法。
【請求項8】
式(III)で示されるトリオキサン類が、パラホルムアルデヒド又はパラアセトアルデヒドである請求項1〜7のいずれかに記載のビスフェノール類の製造方法。

【公開番号】特開2006−36685(P2006−36685A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218388(P2004−218388)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】