説明

ビスフェノールAの製造方法

【課題】本発明は、ビスフェノールAの晶析被処理液への磨耗粉の混入や異物の溶出等を防止できて、高品質のビスフェノールAの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ビスフェノールAを製造する際に、ビスフェノールAを含む結晶を生成させる晶出機の冷却面に付着した結晶を掻き取るためのスクレーパーとして、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂、或いはポリフッ化ビニリデン樹脂から成る掻き取り片を有するものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高品質のビスフェノールAの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートの原料として使用されるビスフェノールAは、高品質が要求されるため、磨耗粉や樹脂からの溶出成分によってビスフェノールAの製品品質に悪影響を及ぼすことを避けなければならない。
フェノールとアセトンを反応させてビスフェノールAを生成させるビスフェノールAの工業的製造方法において、ビスフェノールAの精製は、上記反応溶液を冷却晶析することにより、ビスフェノールAとフェノールとの付加物を形成させ、該付加物からフェノールを分離することにより行われる。ビスフェノールAを含む結晶を生成させる晶析器では、冷却面に結晶が付着するため、これを掻き取るための技術が開発されている。具体的には、付着した結晶をスクレーパーで掻き取るものであるが、該スクレーパーの掻き取り片の材質によっては、結晶が掻き取りにくかったり、掻き取り片の磨耗により、製品ビスフェノールAに不純物が混入するという問題があった。
【0003】
これを解決する方法として、スクレーパーの掻き取り片の材質に超高分子ポリエチレン樹脂(以下、「HMPE樹脂」と称することがある)を使用する方法が開示されている(例えば、特許文献1など)。しかしながら、超高分子ポリエチレン樹脂は、耐磨耗性には優れているが、磨耗により発生する磨耗粉が微細であり、後工程にフィルターを設置してもフィルターを通過して、最終製品の品質に影響を与える問題があった。また、耐熱温度が低いため、スクレーパーに付着したビスフェノールAなどをスチーム洗浄により溶解除去させる際に、スクレーパーの掻き取り片自体が溶融してしまうため、交換頻度が増えるという問題があった。更に、超高分子ポリエチレンを掻き取り片のような形状に加工するには、その性質上成形加工に難がある(例えば、特許文献2など)ことも問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−345676号公報
【特許文献2】特開昭60−158876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ビスフェノールAを製造する際に、ビスフェノールAを含む結晶を生成させる晶出機の冷却面に付着した結晶を掻き取るためのスクレーパーとして、ビスフェノールAの融点以上にあげた場合でも形状を維持することができ、かつ磨耗する場合にはフィルター等で除去可能な磨耗片となり、それ自体成形加工がしやすい掻きとり片を有するものを用いることにより、被処理液への磨耗粉の混入や異物の溶出等を防止できて、高品質のビスフェノールAの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、上記晶析器のスクレーパーの材質晶出機本体の伝熱面やスケール付着等に接触するスクレーパーとして、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂、或いはポリフッ化ビニリデン樹脂(以下、「PVDF樹脂」と称することがある)から成る掻き取り片を有するものを用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明の要旨は、
(1)ビスフェノールAを晶析により回収する晶析工程を含むビスフェノールAの製造方
法において、該晶析工程の晶出機本体の冷却面に付着したビスフェノールAを含む結晶を掻き取るためのスクレーパーが、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂、或いはポリフッ化ビニリデン樹脂から成る掻き取り片を有することを特徴とするビスフェノールAの製造方法、
(2)前記晶出機から、得られたスラリーからビスフェノールAを含む結晶を分離する固液分離工程を経て、得られたものを溶融或いは溶解後のプロセスラインのいずれかの箇所にフィルターを設置することを特徴とする上記(1)記載のビスフェノールAの製造方法、
(3)前記ビスフェノールAを含む結晶が、フェノールとビスフェノールAとからなるアダクト結晶であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のビスフェノールAの製造方法、
に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ビスフェノールAを含む結晶を生成させる晶出機の冷却面に付着した結晶を掻き取るためのスクレーパーとして、ビスフェノールAの融点以上にあげた場合でも形状を維持することができ、かつ磨耗する場合にはフィルター等で除去可能な磨耗片となり、それ自体成形加工がしやすい掻きとり片を有するものを用いることにより、被処理液への磨耗粉の混入や異物の溶出等を防止できて、高品質のビスフェノールAの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明は、ビスフェノールAを晶析により精製する晶析工程を含むビスフェノールAの製造方法において、該晶析工程の晶出機本体の冷却面に付着したビスフェノールAを含む結晶を掻き取るためのスクレーパーが、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂、或いはPVDF樹脂から成る掻き取り片を有することを特徴とするビスフェノールAの製造方法である。以下にその詳細を記載する。
【0009】
ビスフェノールAの工業的製造方法は、フェノールとアセトンとを触媒存在下で反応させてビスフェノールAを生成させる公知の方法である。具体的には、過剰量のフェノールとアセトンとを強酸性イオン交換樹脂触媒の存在下、縮合反応させて(以下、「縮合反応工程」と称する)、得られたビスフェノールA、未反応フェノール、水などを含む反応混合物を濃縮した後(以下、「濃縮工程」と称する)、冷却することによりビスフェノールAとフェノールとの付加物からなるアダクト結晶を析出させ、該アダクト結晶を母液と分離し(以下、「晶析・固液分離工程」と称する)、次いで、該アダクト結晶からフェノールを除去し(以下、「フェノール除去工程」)、ビスフェノールAを回収することによりビスフェノールAを製造し、得られたビスフェノールAを造粒する(以下、「ビスフェノールA造粒工程」)。さらに必要に応じて上記母液の少なくとも一部から、ビスフェノールAを回収する(以下、「母液処理BPA回収工程」と称する)ものである。
【0010】
(A)縮合反応工程
原料のフェノールとアセトンは、化学量論的にフェノール過剰で反応させる。フェノールとアセトンとのモル比は、フェノール/アセトン=3〜30、好ましくは、5〜20の範囲である。反応温度は、通常、50〜100℃で行われる。触媒としては、スルホン酸型等の強酸性陽イオン交換樹脂が用いられる。
【0011】
上記フェノールの製造方法は、公知の通常用いられる方法が挙げられるが、ビスフェノール製造プロセス内で回収されるフェノールを用いることもできる。例えば、特開2010−189380号公報に記載の方法が用いられる。
強酸基を有する陽イオン交換体の主な形態としては、ゲル型が好ましい。また、物質拡
散性や、樹脂の耐久性、強度の確保の観点で、多孔質型(ポーラス型、ハイポーラス型、又はマクロポーラス型)も好ましい。ゲル型には単純ゲル型共重合体及び拡大網目型ゲル共重合体があり、いずれも用いることができる。一方、多孔質型は多孔性共重合体であって、表面積、気孔率、平均孔径などが任意のものを用いることができる。ゲル型又は多孔質型の強酸基を有する陽イオン交換体は、従来公知の方法を用いることができ、例えば「イオン交換樹脂その技術と応用」(オルガノ株式会社発行、改訂版、昭和61年5月16日発行、13〜21頁)に従って製造することができる。
【0012】
強酸性イオン交換体(以下、「触媒ビーズ」と称することがある)、及び下述する変性強酸型陽イオン交換体のサイズは、平均粒径が、通常0.2mm以上、2.0mm以下の範囲にあり、かつ粒径分布均一度は、通常1.6以下、好ましくは1.5以下である。また、特に好ましい触媒ビーズとして、平均粒径が30〜650μmの触媒ビーズ、又は下述する変性強酸型陽イオン交換体が、全体の50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上を占めるものが挙げられる。
【0013】
このような触媒ビーズ、及びその製造方法は、上記サイズの触媒ビーズができる方法であれば如何なるものであってもよいが、例えば、国際公開WO2011/055819号公報に記載の方法が好ましく用いられる。
(B)濃縮工程
この工程においては、上記の縮合反応工程で得られた反応混合物から低沸点成分を分離して濃縮されたビスフェノールAを含む晶析原料を調製する。ここでいう低沸点成分としては、フェノールよりも低沸点の成分であり、例えば、未反応のアセトン、副生する水、不純物として含まれるアルコールやイソプロピルフェノール、アルキルチオールなどの担持型でない助触媒を使用する場合の助触媒などが挙げられる。例えば、特開2009−242316号公報に記載の方法が用いられる。
【0014】
(C)晶析−固液分離工程及び晶析装置
この工程においては、上記の工程で得られた晶析原料から付加物を含むスラリーを形成した後に付加物と母液とに分離する。晶析装置としては、通常、連続晶析装置が使用される。連続晶析装置としては、ジャケットや内部コイルによる冷却方式の晶析装置、外部循環冷却式晶析装置、蒸発冷却式晶析装置などが知られており、特に制限はないが、外部循環冷却式晶析装置とジャケット式晶析装置とが好適に使用される。外部循環冷却式晶析装置は、晶析槽とその外部に配置された冷却器とを配管、バルブ等から成る循環路で形成されており、冷却器としては、多管式冷却器が好適に使用される。また、微結晶を溶解するための溶解槽または加熱器を具備することが好ましい。ジャケット式晶析装置は、晶析を行う容器の周囲にジャケットを有し、当該ジャケット内に冷媒を通し、当該容器の壁面を介して冷却するタイプである。容器内に攪拌翼やバッフルを具備し、内液が良好に攪拌できるものが好ましい。また、何れのタイプも、混合性の向上のため、内部にドラフトチューブを具備するのが好ましい。
【0015】
結晶の形状やサイズを制御するため、分級装置を装置内に具備するか外部に併設してもよい。分級装置としては、結晶の形状やサイズによる結晶の沈降速度の差を利用したもの、溶解速度の差を利用したもの等が挙げられる。また、必要に応じ、晶析操作の途中で加熱を行ったり、あるいは、結晶の溶解操作を行うことも出来る。このような場合は、冷媒に代えて熱媒を使用する。
【0016】
ここで、該晶析装置の冷却器の冷却面には、ビスフェノールとフェノール付加物の結晶が付着するため、これを掻き取るため、後述するスクレーパーを設置することが好ましい。このスクレーパーはシラン架橋高密度ポリエチレン樹脂、或いはポリフッ化ビニリデン樹脂から成る掻き取り片を有するものである。スクレーパーの形状、大きさ、及び設置場
所などは、上記結晶を掻きとることが可能なように当業者が適宜選択することができる。
【0017】
シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂とは、線状高分子のポリエチレンをシランによって架橋して網目状高分子としたものであり、ゲル分率が50%以上のものが好ましく用いられる。当該樹脂を用いた掻き取り片の製造方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法によることができるが、例えば、以下のリンクロン(登録商標)などを用いて、添付の取り扱い方法に準じて製造することができる。樹脂として、具体的には、三菱化学社製リンクロン(登録商標)などの市販品が用いられる。高密度とは、0.94g/cm、さらに好ましくは0.95g/cmをいう。また、本発明において用いられる掻き取り片は、押し出し成形で成形することが多いため、該成形に適したグレードのものが好ましく用いられる。最も適した樹脂としては、三菱化学社製、リンクロン(登録商標)XHE650N(密度:0.950g/cm、MFR(JIS K7210):0.6g/10min、到達ゲル分率(キシレン沸点抽出):65%、引張降伏強さ(JIS K7113):25MPa、引張破壊強さ(JIS K7113):34MPa、引張破壊伸び(JIS K7113):700%、曲げ弾性率(JIS K7113):900MPa)が挙げられる。
【0018】
ポリフッ化ビニリデン樹脂製の掻き取り片は、成形体で市販されているものを用いることができ、具体的には、クオドラントポリペンコジャパン社製、ポリペンコ(登録商標)PVDF−SY(FMグレード)などが好ましく用いられる。
固液分離装置としては、例えば、水平ベルトフィルター、ロータリーバキュームフィルター、ロータリープレッシャーフィルター、遠心濾過分離器、遠心沈降分離器、それらのハイブリッド型の遠心分離器(スクリーンボールデカンタ)等が挙げられる。
【0019】
掻き取り片にシラン架橋高密度ポリエチレン樹脂を使用した場合は、掻き取り片の温度をビスフェノールAの融点以上に上げた場合でも形状を維持することができ、かつ磨耗する場合にはフィルター等で除去可能な磨耗片となり、それ自体成形加工がしやすい掻きとり片を有するものを用いることにより、被処理液への磨耗粉の混入や異物の溶出等を防止できるので好ましい。ポリフッ化ビニリデン樹脂を使用した場合は、ビスフェノールAの融点以上にあげた場合でも形状を維持でき、交換頻度を少なくすることができることが特徴である。なお、磨耗片の性状を確認するために、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、及び超高分子ポリエチレン樹脂を同条件で凍結粉砕したところ、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂は超高分子ポリエチレン樹脂及びポリフッ化ビニリデン樹脂と比較して、100ミクロンm以下の微粉の割合が少ない結果であった。
【0020】
(D)フェノール除去工程
この工程においては、上記の工程で得られたアダクト結晶からフェノールを分離してビスフェノールAを回収する。本フェノール除去工程(D)では、通常、100〜160℃にアダクト結晶を加熱溶融し、得られた溶融液から、例えば、蒸留装置、薄膜蒸発器、フラッシュ蒸発器などを使用することにより、大部分のフェノールを除去する方法が採用される。また、溶融液中に残存している微量のフェノールを除去するために、上記の操作を行った後、更に、スチームストリッピング等により残存フェノールを除去し、ビスフェノールAを精製する方法も採用される。この方法は、例えば、特開昭63−132850号公報、特開平2−28126号公報などに記載されている。
【0021】
(E)ビスフェノールA造粒工程
上記のようにして得られた高純度で溶融状態のビスフェノールAは、造粒塔やフレーカーに送られ、固体のプリルやフレークとなって製品ビスフェノールAとなる。例えば、造粒塔を使用する場合、溶融ビスフェノールAは、造粒塔の塔頂に送液され、塔頂に設置されたノズルプレートに設けられた多数の孔より噴霧される。噴霧された溶融液は、造粒塔の塔底から上昇する循環ガスにより冷却され、塔底よりプリルと呼ばれる粒子状の固体と
して抜き出され、製品ビスフェノールAとなる。また、得られたビスフェノールAを、溶融法によるポリカーポネート樹脂の製造に供する場合のように、固体にせずに溶融状態のまま次工程に移送することも出来る。
【0022】
(F)母液処理ビスフェノール回収工程
上記の晶析−固液分離工程(C)で分離して得られた母液を公知の方法で処理することにより、ビスフェノールAを製造する過程に於いて発生した不純物およびビスフェノールAを有用成分として回収することができる。例えば、特開2009−242316号公報に記載されているように、上記母液を異性化反応器に通して濃縮後、晶析−固液分離によりビスフェノールAを回収する方法がある。一方、本晶析系では不純物濃度が高く伝熱効率が悪いため、晶析−固液分離工程(C)にて説明したジャケット式晶析装置の場合、冷却面での結晶付着の再生や伝熱性能改善のためスクレーパーが具備されたものが好ましく、母液処理ビスフェノール回収工程の晶析系において、晶析−固液分離工程(C)にて説明したスクレーパーを特に好ましく用いることができる。晶析装置としては、例えば、月島機械が提供するDP型晶析装置やクレハエンジニアリングが提供する横型多段冷却晶析装置などが挙げられる。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
ステンレス製(SUS304)の容器の底面に付着した物質を掻き取るように、底面に対して圧着された状態で水平方向に回転するように設置され、かつ容器底面に対してバネにより押し付けたスクレーパーを有する掻き取り片磨耗性試験装置を作製した。スクレーパーは、55mm×110mm×6mmの掻き取り片を有しており、該掻き取り片の材質は、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂(三菱化学社製:リンクロンXHE650N)とPVDF樹脂(日本ポリペンコ社製、ポリペンコ(登録商標)PVDF−SY(FMグレード))を使用した。また、掻き取り片の容器底面への押し圧は0.5N/cmとした。掻き取り片がフェノールにより膨潤することが考えられたので、3日間フェノール中で保存してから実験に
用いた。
【0024】
上記試験装置の容器にフェノールを仕込み、容器温度を82℃として、最大円周の周速度を0.49m/sでスクレーパーを容器底面に圧着させた状態で回転させ、10日間のスクレーパーの掻き取り片磨耗テストを実施した。
10日後、上記掻き取り片について、日立製の走査型電子顕微鏡(型番:S3400N)を使用して、表面の磨耗状態を観察した。観測した結果、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂およびPVDF(ポリフッ化ビニリデン)樹脂のいずれのスクレーパーにおいても、掻き取り片表面の磨耗は観察されなかった。なお、テスト前後で、掻き取り片の重量変化を確認したところ、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂の掻き取り片では、32.1gで変化なかったが、PVDF樹脂の掻き取り片では、59.8gから60.0gに増加した。(減少は見られなかった。)PVDFにフェノールが入り込み膨潤したものと考えられる。この結果から、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂製の掻き取り片は、PVDF樹脂製の掻き取り片とほぼ同等の耐摩耗性を有していることがわかった。
【0025】
さらに、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂製の掻き取り片を有するスクレーパーについては、その容器底面への押し圧を0.25N/cm、および1.0N/cmとした場合で、同様の検討を行ったが、いずれの場合も、走査電子顕微鏡によって、掻き取り片表面の磨耗は観察されなかった。
[実施例2]
実施例1に記載の掻き取り片磨耗性試験装置の容器に、ビスフェノールAを25重量%含有するフェノール溶液を仕込み、容器温度を90℃としてビスフェノールAを溶解後、攪拌しながら2時間かけて50℃まで冷却してスラリー溶液とした。スクレーパーの掻き
取り片の材質は、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂と超高分子ポリエチレン樹脂(HMPE)(日本ポリペンコ社:U−PE100)を使用した。掻き取り片のサイズ、容器底面への
圧着方法、および押し圧は、実施例1と同じとした。
【0026】
スクレーパーを容器底面に圧着させた状態で最大円周の周速度を0.49m/sで回転させ、22日間のスクレーパーの掻き取り片磨耗テストを実施した。22日間のテスト後、上記掻き取り片について、日立製の走査型電子顕微鏡(型番:S3400N)を使用して、表面の磨耗状態を観察した。観測した結果、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂、およびHMPE樹脂のいずれのスクレーパーも、磨耗は観察されなかった。この結果、ビスフェノールAとフェノールとからなるアダクト結晶を含むスラリー中での、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂製の掻き取り片は、HMPE樹脂製のものと同等の耐磨耗性を有することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAを晶析により精製する晶析工程を含むビスフェノールAの製造方法において、該晶析工程の晶出機本体の冷却面に付着したビスフェノールAを含む結晶を掻き取るためのスクレーパーが、シラン架橋高密度ポリエチレン樹脂、或いはポリフッ化ビニリデン樹脂から成る掻き取り片を有することを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
【請求項2】
前記晶出機から、得られたスラリーからビスフェノールAを含む結晶を分離する固液分離工程を経て、得られたものを溶融或いは溶解後のプロセスラインのいずれかの箇所にフィルターを設置することを特徴とする請求項1記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項3】
前記ビスフェノールAを含む結晶が、フェノールとビスフェノールAとからなるアダクト結晶であることを特徴とする請求項1又は2に記載のビスフェノールAの製造方法。

【公開番号】特開2013−56870(P2013−56870A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197535(P2011−197535)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】