説明

ビニルアルコール系重合体を含有する潤滑剤

【課題】 潤滑性、生分解性に優れた水系潤滑剤を提供すること。
【解決手段】 ポリオキシアルキレン基を側鎖に有するビニルアルコール系重合体を含有する潤滑剤。ここで該ビニルアルコール系重合体は、粘度平均重合度Pが200〜5000であり、けん化度が20〜99.99モル%であり、ポリオキシアルキレン変性量Sが0.1〜5.0モル%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作動油として用いられる生分解性に優れた潤滑剤に関する。より詳細には、ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体を含有することにより、熱安定性、水への溶解性、生分解性に優れた潤滑剤を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
作動油、ギア油、軸受け油等の潤滑基油としては鉱物油、ポリオレフィン、ポリアルキレングリコール(以下PAGと略することがある)等が使用されてきたが、近年環境への影響や難燃性等の観点から水系潤滑油としてPAGが使用されるようになってきた。
【0003】
PAGは水溶性、低毒性、低腐食性等の種々の長所を有しているが、他の潤滑油に比べて熱や酸化に対する安定性に劣り、さらに生分解性に乏しい等の問題点もあり、潤滑油が漏洩した場合の周辺汚染が心配される。これまで上記問題点を解決するために、種々検討が行われてきており、例えば特許文献1には、耐熱性、酸化安定性を改善するための手法として特定の構造を有するPAGが開示されている。また、特許文献2には低分子量のPAGと増粘剤を組み合わせることにより潤滑油の生分解性を改善した例が開示されている。しかしながら、潤滑基油としてPAGを用いていることから劇的な性能向上は達成できないのが現状であり、さらなる品質改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−212578号公報
【特許文献2】特開2006−83378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、従来の潤滑油と同等の潤滑性能を有しつつ、生分解性に優れた水系潤滑剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体(以下、「POA変性PVA」と略することがある)を含有する潤滑剤であって、該変性PVAは、下記一般式(1)で示されるポリオキシアルキレン基(以下、「POA基」と略することがある)を側鎖に含有し、粘度平均重合度Pが200〜5000であり、けん化度が20〜99.99モル%であり、ポリオキシアルキレン変性量(以下、「POA変性量」と略することがある)Sが0.1〜5.0モル%である潤滑剤を提供することにより解決される。
【0007】
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はメチル基またはエチル基、R3は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。ただし、R1とR2は互いに異なる。mとnはそれぞれのオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数を表し、0≦m≦50、0≦n≦20である。ただし、mとnは同時に0ではない。)
【0008】
上記の場合において、潤滑剤は、さらに、水または水含有溶媒を含有することが好ましく、該溶媒100重量部に対して、POA変性PVAを1〜70重量部含有することがより好ましい。そして、これらの潤滑剤を用いた水系作動油または水系切削油も、本発明の範囲である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPOA変性PVAを含有する潤滑剤は、従来の潤滑油と同等の潤滑性能を有しつつ、生分解性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の潤滑剤に含有されるPOA変性PVAは、下記一般式(1)で示されるPOA基を側鎖に有する。
【0011】
【化2】


式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はメチル基またはエチル基、R3は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。ただし、R1とR2は互いに異なる。mとnはそれぞれのオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数を表し、0≦m≦50、0≦n≦20である。ただし、mとnは同時に0ではない。ここで、繰り返し単位数がmであるユニットをユニット1と呼び、繰り返し単位数がnであるユニットをユニット2と呼ぶことにする。ユニット1とユニット2の配置は、ランダム状、ブロック状のどちらの形態になってもよい。
【0012】
一般式(1)で示されるPOA基のユニット1の繰り返し単位数mは0≦m≦50である必要がある。mが50を越えると生分解性が低下する場合がある。また、ユニット2の繰り返し単位数nは0≦n≦20である必要がある。特に、R2がエチル基の場合、nが20を越えるとPOA変性PVAの水溶性が低下する。
【0013】
本発明の潤滑剤に含有されるPOA変性PVAは、上記一般式(1)で示されるPOA基を側鎖に含有していればよく、前記POA変性PVAを製造する方法は特に制限されないが、一般式(1)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行い、得られたPOA変性ビニルエステル系共重合体をけん化する方法が好ましい。ここで、上記の共重合はアルコール系溶媒中または無溶媒で行うことが好適である。
【0014】
一般式(1)で示されるPOA基を有する不飽和単量体としては、下記一般式(2)で示される不飽和単量体であることが好ましい。
【0015】
【化3】


式中、R1、R2、R3、m、nは上記一般式(1)と同様である。R4は水素原子または−COOM基を表し、ここでMは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を表す。R5は水素原子、メチル基または−CH−COOM基を表し、ここでMは前記定義のとおりである。Xは−O−、−CH−O−、−CO−、−(CH−、−CO−O−または−CO−NR6−を表す。ここでR6は水素原子または炭素数1〜4の飽和アルキル基を意味し、kはメチレンユニットの繰り返し単位数を表し、1≦k≦15である。
【0016】
一般式(2)で示される不飽和単量体のR3としては水素原子、メチル基またはブチル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。さらに、一般式(2)で示される不飽和単量体のR1が水素原子またはメチル基であり、R2がエチル基であり、R3が水素原子またはメチル基であり、R4が水素原子であり、R5が水素原子またはメチル基であることが特に好ましい。
【0017】
例えば、一般式(2)のR1が水素原子またはメチル基、R2がエチル基、R3が水素原子、R4が水素原子、R5が水素原子またはメチル基の場合、一般式(2)で示される不飽和単量体として具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノアクリレート、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノメタクリレート、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノビニルエーテル等が挙げられる。また、一般式(2)のR1が水素原子またはメチル基、R3が水素原子、R4が水素原子、R5が水素原子またはメチル基、n=0の場合、一般式(2)で示される不飽和単量体として具体的には、ポリオキシエチレンモノアクリレート、ポリオキシエチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシエチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアクリレート、ポリオキシプロピレンモノメタクリレート、ポリオキシプロピレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシプロピレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシプロピレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシプロピレンモノビニルエーテル等が挙げられる。また、一般式(2)のR2がエチル基、R3が水素原子、R4が水素原子、R5が水素原子またはメチル基、m=0の場合、一般式(2)で示される不飽和単量体として具体的には、ポリオキシブチレンモノアクリレート、ポリオキシブチレンモノメタクリレート、ポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシブチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシブチレンモノビニルエーテル等が挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシブチレンモノアクリル酸アミドが好適に用いられ、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルが特に好適に用いられる。
【0018】
一般式(2)のR3が炭素数1〜8のアルキル基の場合、一般式(2)で示される不飽和単量体として具体的には、上記の一般式(2)のR3が水素原子の場合に例示した不飽和単量体の末端のOH基が炭素数1〜8のアルコキシ基に置換されたものが挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルの末端のOH基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が好適に用いられ、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミドの末端のOH基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が特に好適に用いられる。
【0019】
一般式(1)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定するPOA変性量を有するPOA変性PVAを得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等があげられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0020】
一般式(1)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。
【0021】
共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0022】
また、一般式(1)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがあるため、その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1〜100ppm(ビニルエステル系単量体に対して)程度添加することはなんら差し支えない。
【0023】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0024】
一般式(1)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合しても差し支えない。使用しうる単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0025】
また、一般式(1)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られる共重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で共重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類が挙げられ、中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10重量%が望ましい。
【0026】
POA変性ビニルエステル系共重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0027】
本発明の潤滑剤に含有されるPOA変性PVAはPOA変性量Sが0.1〜5.0モル%である必要がある。POA変性量Sが5.0モル%を超えると、生分解性が劣る場合がある。一方、POA変性量Sが0.1モル%未満の場合、該PVA中に含まれるPOAユニットの数が少なく、POA変性に基づく物性が発現しない場合がある。
【0028】
POA変性量Sとは、PVAの主鎖メチレン基に対するPOA基のモル分率で表される。POA変性量Sの下限は0.2モル%以上が好ましく、0.5モル%以上がより好ましい。POA変性量Sの上限は、上記のとおり5.0モル%である。
【0029】
POA変性PVAのPOA変性量Sは、該POA変性PVAの前駆体であるPOA変性ビニルエステルのプロトンNMRから求めることができる。具体的には、n−ヘキサン/アセトンでPOA変性ビニルエステルの再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のPOA変性ビニルエステルのサンプルを作成する。該サンプルをCDClに溶解させ、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて室温で測定する。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)とユニット2の末端メチル基に由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)から下記式を用いてPOA変性量Sを算出する。なお、式中のnはユニット2の繰り返し単位数を表す。

S(モル%)={(βのプロトン数/3n)/(αのプロトン数+(βのプロトン数/3n))}×100

n=0、R1がメチル基の場合は、上記式から同様にしてSを求めることができる。ただし、ピークβはユニット1の末端メチル基に由来する。また、nの代わりにmを使用する。
n=0、R1が水素の場合は、末端メチル基に由来するピークが無いため、ユニット1の2つのメチレン基(4H)に由来するピークγ(3.2〜3.8ppm)から下記式を用いて変性量Sを算出する。

S(モル%)={(γのプロトン数/4n)/(αのプロトン数+(γのプロトン数/4n))}×100
【0030】
POA変性PVAの粘度平均重合度Pは、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、該PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。なお、粘度平均重合度を単に重合度と呼ぶことがある。

P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0031】
本発明の潤滑剤に含有されるPOA変性PVAの重合度は200〜5000である。重合度が5000を超えると、該POA変性PVAの生産性が低下して実用的でない。また、重合度が200未満の場合、該POA変性PVA含有潤滑剤の溶液粘度が低下し、潤滑効果が実用に耐えない場合がある。
【0032】
POA変性PVAのけん化度は、20〜99.99モル%である必要があり、40〜99.9モル%が好ましい。けん化度が20モル%未満の場合には、該POA変性PVAの水溶性が低下する場合があり、けん化度が99.99モル%を超えると、POA変性PVAの生産が困難になるので実用的でない。なお、上記POA変性PVAのけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
【0033】
本発明の潤滑剤に含有されるPOA変性PVAの4重量%水溶液粘度を、ロータ回転数が6rpmの条件でBL型粘度計により測定したとき、20℃における粘度ηが10mPa・s以上である必要があり、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、1000mPa・s以上が特に好ましい。水溶液粘度が10mPa・s未満の場合、十分な粘性が得られない場合がある。
【0034】
潤滑剤として使用する場合、水含有溶媒に含まれる水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、MTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)、ブチルカルビトール等のエーテル系溶媒;アセトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、PMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0035】
潤滑剤として使用する場合、上記のPOA変性PVAの配合量は溶媒100重量部に対して、1〜70重量部であることが好ましく、3〜50重量部がより好ましく、4〜20重量部が特に好ましい。潤滑剤は、水または水含有溶媒に上記POA変性PVAを添加し、加熱混合することにより製造される。
【0036】
本発明の潤滑剤は、必要に応じて他の潤滑性基油または潤滑油添加剤を配合して使用することができる。他の潤滑剤基油としては、鉱油、合成油や油脂等を挙げることができる。鉱油は天然から分離されるものであり、これを蒸留、精製して製造される。鉱油の主成分は炭化水素(多くはパラフィン類)であり、その他ナフテン分、芳香族分等を含有している。これらを水素化精製、溶剤脱ろう、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水添脱ろう、接触脱ろう、水素化分解、アルカリ蒸留、硫酸洗浄、白土処理等の精製を行った基油も好ましく使用できる。
【0037】
また、合成油とは化学的に合成された潤滑油であって、例えば、ポリ−α−オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、ジエステル、ポリオールエステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ポリアルキレングリコール化合物、ポリフェニルエーテル、シリコーン、フッ素化化合物、アルキルベンゼン等が挙げられる。
【0038】
油脂としては、例えば、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ脂、カポック油、白カラシ油、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、シアナット油、シナキリ油、大豆油、茶実油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまし油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、木ロウ、落花生油等の植物性油脂;馬脂、牛脂、牛脚脂、牛酪脂、豚脂、山羊脂、羊脂、乳脂、魚油、鯨油等の動物性油脂あるいはこれらの水素化物が挙げられる。
【0039】
本発明の潤滑剤に配合することができる潤滑剤添加剤としては、油性剤、摩擦緩和剤、極圧剤、酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤、乳化剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤等が挙げられる。
【0040】
油性剤としては、例えば、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸;ダイマー酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、トリマー酸、ナフテン酸、9(または10)−(4−ヒドロキシフェニル)オクタデカン酸等のカルボン酸;ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等のアミン;ラウリルアミド、ミリスチルアミド、パルミチルアミド、ステアリルアミン、オレイルアミン等のアミド等が挙げられる。
【0041】
特に、水系潤滑剤として用いる場合は、上記の脂肪酸またはカルボン酸はアルカリ金属塩またはアルカノールアミン塩として用いることが好ましい。こうしたアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられ、アルカノールアミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−シクロヘキシルジエタノールアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン等が挙げられる。なお、これらの化合物の中には、防錆性能、乳化性能を有するものもある。
【0042】
摩擦緩和剤としては、例えば、ヘキサン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、オクタン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、デカン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ラウリン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ミリスチン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、パルミチン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ステアリン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、オレイン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、リシノレイン酸または12−ヒドロキシステアリン酸重縮合物等のエステル類;硫化オキシモリブデンジアルキルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジアルキルジチオホスフェート、ジンクジアルキルジチオホスフェート、ジンクジアルキルジチオカーバメート等の金属塩類;(ポリ)グリセリンオレイルエーテル、(ポリ)グリセリンラウリルエーテル等の(ポリ)グリセリンエーテル等が挙げられる。これらの化合物の中には、防錆性能、酸化防止性能、乳化性能を有するものもある。
【0043】
極圧剤としては、例えば、硫化オレフィン、硫化パラフィン、硫化ポリオレフィン、硫化ラード、硫化魚油、硫化鯨油、硫化大豆油、硫化ピネン油、硫化フェノール、硫化アルキルフェノール、硫化脂肪酸、ジアルキルポリスルフィド、ジベンジルジスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、アルキルメルカプタン、アルキルスルホン酸、ジチオカルバミン酸エステル、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール誘導体、チウラムジスルフィド、ジアルキルジチオリン酸2量体等の硫黄系化合物;ブチル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ヘキシル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、オクチル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、2−エチルヘキシル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ノニル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、デシル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ラウリル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ミリスチル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、パルミチル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ステアリル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、オレイル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、フェニル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、クレジル(チオ、ジチオ)ホスフェートまたはホスファイト等の(チオ、ジチオ)リン酸または亜リン酸系化合物等が挙げられる。これらの化合物の中には、酸化防止性能を有するものもある。
【0044】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert.−ブチルフェノール(以下、「tert.−ブチル」を単に「t−ブチル」と記載する。)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オレイル、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ドデシル、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオン酸オレイル、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオン酸ドデシル、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)サルファイド、トリス{(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル}イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイル)イソシアヌレート、ビス{2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル}サルファイド、1,3,5−トリス(4−ジ−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラフタロイル−ジ−(2,6−ジメチル−4−t−ブチル−3−ヒドロキシベンジルサルファイド)、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−{ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)}プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−リン酸ジエステル、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)サルファイド等のフェノール系酸化防止剤;1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、p−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ノニルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ジオクチル−p−フェニレンジアミン、フェニルヘキシル−p−フェニレンジアミン、フェニルオクチル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系酸化防止剤;ジピリジルアミン、ジフェニルアミン、p,p’−ジ−n−ブチルジフェニルアミン、p,p’−ジ−t−ブチルジフェニルアミン、p,p’−ジ−t−ペンチルジフェニルアミン、p,p’−ジノニルジフェニルアミン、p,p’−ジデシルジフェニルアミン、p,p’−ジドデシルジフェニルアミン、p,p’−ジスチリルジフェニルアミン、p,p’−ジメトキシジフェニルアミン、4,4’−ビス(4−α,α−ジメチルベンゾイル)ジフェニルアミン、p−イソプロポキシジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0045】
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジオクチルチオジプロピオネート、ジデシルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリル−β,β’−チオジブチレート、(3−オクチルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、(3−デシルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、(3−ラウリルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、(3−ステアリルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、(3−オレイルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾールジスルフィド、ジラウリルサルファイド、アミルチオグリコレート等が挙げられる。
【0046】
金属塩系酸化防止剤としては、例えば、ニッケルジチオカーバメート、ジンク−2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。防錆剤としては、例えば、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、マグネシウムサリシレート、バリウムスルホネート、バリウムフェネート、バリウムサリシレート等が挙げられる。
【0047】
界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキル(アリール)エーテル、ポリエチレングリコールジアルキル(アリール)エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオールエステル、ポリエーテルポリオール、アルカノールアミド、アルキル(ベンゼン)スルホン酸、石油スルホネート等が挙げられ、これら界面活性剤は油性剤または乳化剤としても作用することがある。
【0048】
本発明の潤滑剤は、あらゆる用途の潤滑油として使用できる。例えば、工業用潤滑油、タービン油、マシン油、軸受油、圧縮機油、油圧油、作動油、内燃機関油、冷凍機油、ギヤ油、自動変速機用油(ATF)、連続可変無段変速機用油(CVT油)、トランスアクスル流体、コンプレッサー油、金属加工油、熱媒油等が挙げられる。又、すべり軸受、転がり軸受、歯車、ユニバーサルジョイント、トルクリミッタ、自動車用等速ジョイント(CVJ)、ボールジョイント、ホイールベアリング、等速ギヤ、変速ギヤ等の各種グリース等として使用することができる。また、水系潤滑油としては水系作動油、水系切削油、水系研磨油、水系ダイキャスト油、水系圧延油、水系鍛造油、水系焼入油、水系熱伝送油等が挙げられる。
【0049】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明する。以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準を意味する。
【0050】
下記の製造例により得られたPVAについて、以下の方法にしたがって評価を行った。
【0051】
[PVAのけん化度]
PVAのけん化度は、JIS−K6726に記載の方法により求めた。
【0052】
[PVAの生分解性試験]
無機培地液300mlに馴養汚泥(下水処理場より試験開始当日入手した汚泥と市販のPVA水溶液中で1ヶ月間馴養した汚泥を1:1で混合したもの)を30mgと下記製造例で得られたPVA30mgを加え、クーロメーター(大倉電気OM3001A型)を用い、25℃で28日間培養し、生分解に消費された酸素量を測定することにより生分解率を求め、下記基準にて評価した。

A:85%以上
B:75%以上、85%未満
C:65%以上、75%未満
D:55%以上、65%未満
E:55%未満
【0053】
[PVA含有潤滑剤の潤滑性評価試験]
水およびプロピレングリコールを1:1の割合で混合し、混合溶媒100重量部に対してPVA5.3重量部を添加して溶解し、PVA含有潤滑剤を得た(PVA固形分濃度:5%)。得られた潤滑剤の潤滑性を、振動摩擦磨耗試験機(オプチモール社製 SRV試験機)を用い、鋼球と平面の鋼ディスクとの点接触(荷重100N)における摩擦係数を観察し、下記5段階で評価した。

(試験条件)
振幅 : 2mm
振動数 : 50Hz
温度 : 30℃
時間 : 10分間
摩擦係数: 10分間の平均

A:0.11未満
B:0.11以上、0.12未満
C:0.12以上、0.16未満
D:0.16以上、0.20未満
E:0.20以上
【0054】
<PVAの製造方法>
製造例1(PVA1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口および開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、POA基を有する不飽和単量体(単量体A)3.3gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてPOA基を有する不飽和単量体(単量体A)をメタノールに溶解して濃度20%としたコモノマー溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルと単量体Aの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたコモノマー溶液の総量は75mlであった。また重合停止時の固形分濃度は24.4%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、POA変性ビニルエステル系共重合体(POA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPOA変性PVAcのメタノール溶液453.4g(溶液中のPOA変性PVAc100.0g)に、55.6gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPOA変性PVAc濃度20%、POA変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.1モル%)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してPOA変性PVA(PVA1)を得た。PVA1の重合度は1760、けん化度は98.7モル%、POA変性量は0.4モル%であった。
【0055】
製造例2〜28(PVA2〜28の製造)
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体の種類(表2)や添加量等の重合条件、けん化時におけるPOA変性PVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1および表2に示すように変更した以外は、製造例1と同様の方法により各種のPOA変性PVA(PVA2〜28)を製造した。
【0056】
PVA1〜28の製造条件を表1および表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
実施例1〜20および比較例1〜8
PVA1〜28について、上記の評価を実施した結果を表3および表4に示す。なお、PVA10は水溶性に乏しいため、その後の評価を行わなかった。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の潤滑剤は、POA変性PVAを用いることにより、従来の潤滑油と同等の潤滑性能を有しつつ、生分解性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体を含有する潤滑剤であって、該変性ビニルアルコール系重合体は、下記一般式(1)で示されるポリオキシアルキレン基を側鎖に含有し、粘度平均重合度Pが200〜5000であり、けん化度が20〜99.99モル%であり、ポリオキシアルキレン変性量Sが0.1〜5.0モル%である潤滑剤。
【化1】


(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はメチル基またはエチル基、R3は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。ただし、R1とR2は互いに異なる。mとnはそれぞれのオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数を表し、0≦m≦50、0≦n≦20である。ただし、mとnは同時に0ではない。)
【請求項2】
さらに、水または水含有溶媒を含有する、請求項1に記載の潤滑剤。
【請求項3】
溶媒100重量部に対して、ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体を1〜70重量部含有する、請求項2に記載の潤滑剤。
【請求項4】
請求項2または3に記載の潤滑剤を用いた水系作動油または水系切削油。

【公開番号】特開2012−51957(P2012−51957A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193149(P2010−193149)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】