説明

ビニルエーテル化合物及びビニルエーテル化合物の製造方法

【課題】新規なビニルエーテル化合物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1−a)又は下記一般式(1−b)で表されるビニルエーテル化合物。
【化1】


[式中、nは0又は1を示し、R及びRはそれぞれ水素、メチル基又はエチル基を表し、RとRの炭素数の合計は1又は2である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエーテル化合物及びビニルエーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脂環骨格構造を有するアクリレート系重合体を得るためのアクリレート化合物としては、ジメチロールトリシクロペンタデカンジ(メタ)アクリレート、ペンタシクロペンタデカンジメチルジ(メタ)アクリレート等が開示されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
また、脂環骨格構造を有するビニルエーテル系重合体を得るためのビニルエーテル化合物としては、トリシクロデカンジメチロールのメチロール基中のOH基をビニルエーテル化して得られる多官能ビニルエーテル(特許文献5参照)、3,4−ビス(2−ビニルオキシエチルオキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(特許文献6参照)、トリシクロデカンモノメタノールから誘導されるトリシクロデカンモノメチルビニルエーテル、トリシクロデカンモノオールから誘導されるトリシクロデカンビニルエーテル、あるいはペンタシクロペンタデカンモノオールから誘導されるペンタシクロペンタデカンモノビニルエーテル(特許文献7参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−174208号公報
【特許文献2】特開昭61−287913号公報
【特許文献3】特開昭63−175010号公報
【特許文献4】特開平01−168712号公報
【特許文献5】特開平10−025262号公報
【特許文献6】特開2002−003429号公報
【特許文献7】特開2005−113049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規なビニルエーテル化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、下記一般式(1−a)又は下記一般式(1−b)で表されるビニルエーテル化合物を提供する。
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、nは0又は1を示し、R及びRはそれぞれ水素、メチル基又はエチル基を表し、RとRの炭素数の合計は1又は2である。]
本発明のビニルエーテル化合物においては、前記一般式(1−a)又は前記一般式(1−b)中のnが0であることが好ましく、また、RとRがそれぞれ水素又はメチル基であり、RとRの合計炭素数が1であることが好ましい。
【0009】
また本発明は、5−アルキリデン−2−ノルボルネンと脂肪酸との酸触媒存在下における反応により得られる5−アルキリデンノルボルナノールの脂肪酸エステルを、加水分解して5−アルキリデンノルボルナノールを得る第一の工程と、上記5−アルキリデンノルボルナノールと、脂肪酸のビニルエステルとを、Ir触媒存在下で反応させ下記一般式(2−a)又は下記一般式(2−b)で表されるビニルエーテル化合物を得る第二の工程とを備えるビニルエーテル化合物の製造方法を提供する。
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、R及びRはそれぞれ水素、メチル基又はエチル基を表し、RとRの炭素数の合計は1又は2である。]
本発明のビニルエーテル化合物の製造方法においては、上記一般式(2−a)又は下記一般式(2−b)中のR及びRがそれぞれ水素又はメチル基であり、RとRの合計炭素数が1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規なビニルエーテル化合物及び新規なビニルエーテル化合物の製造方法が提供される。
【0013】
本発明のビニルエーテル化合物は、透明性及び導電性に優れ、光学材料分野に有用な樹脂を製造する上で有用である。また、本発明のビニルエーテル化合物から得られる樹脂は、半導体封止材や絶縁コーティング材等の電子電気分野においても優れた性能を発揮する。さらに、本発明のビニルエーテル化合物は、特許文献1〜4に記載のアクリレート化合物と比較して、皮膚刺激性や臭気が小さく、樹脂製造工程における作業性に優れる。また、特許文献1〜4に記載のアクリレート化合物から得られるアクリレート系重合体は、吸湿性を有するため、工業材料として使用する際に寸法安定性に問題があったのに対し、本発明のビニルエーテル化合物から得られる樹脂は、吸湿性が低く、且つ耐湿性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態に係るビニルエーテル化合物は、下記一般式(1−a)又は下記一般式(1−b)で表される。
【0016】
【化3】

【0017】
式中、nは0又は1を示す。nが2以上であると、耐熱性、低吸湿性を付与するノルボルナン骨格を有する置換基がポリマー主鎖から遠ざかる結果となるため、nが1以下のものに比べ樹脂の耐熱性の低下、吸湿性の増加をもたらし、このようなビニルエーテル重合体は、熱的安定性や形状保持性が劣る傾向がみられる。nは0であることがより好ましく、このようなビニルエーテル重合体は、耐熱性や形状保持性に優れる。
【0018】
なお、nが0とは、式中の酸素原子とノルボルナン骨格とが直接結合することを示し、nが0であるビニルエーテル化合物は、下記一般式(2−a)又は下記一般式(2−b)で表される。
【0019】
【化4】

【0020】
式中、R及びRはそれぞれ水素、メチル基又はエチル基を表し、RとRの炭素数の合計は1又は2である。
【0021】
本実施形態に係るビニルエーテル化合物には、下記一般式(3−1)、下記一般式(3−2)で表される異性体が存在し、いずれの異性体も上述の効果を有する。これらの異性体は、それぞれ単独であっても複数混合していてもよい。
【0022】
【化5】

【0023】
本実施形態に係るビニルエーテル化合物は、例えば、以下の方法により製造することができる。
(1)nが0であるビニルエーテル化合物の製造方法
本製造方法は、5−アルキリデン−2−ノルボルネンと脂肪酸との酸触媒存在下における反応により得られる5−アルキリデンノルボルナノールの脂肪酸エステルを、加水分解して5−アルキリデンノルボルナノールを得る第一の工程と、上記5−アルキリデンノルボルナノールと、脂肪酸のビニルエステルとを、Ir触媒存在下で反応させ一般式(2−a)又は一般式(2−b)で表されるビニルエーテル化合物を得る第二の工程とを備える。
(1−1)第一の工程
第一の工程では、5−アルキリデン−2−ノルボルネンから5−アルキリデンノルボルナノールを得る。具体的には、まず、下記スキーム1に示すように、一般式(4−1)で表される5−アルキリデン−2−ノルボルネンとRCOH(Rは炭素数1〜20のアルキル基を示す。)で表される脂肪酸とを、酸触媒存在下で反応させ、下記一般式(4−2)又は下記一般式(4−3)で表される5−アルキリデンノルボルナノールの脂肪酸エステルを得る。
【0024】
【化6】

【0025】
ここで脂肪酸としては、ギ酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヒドロアンゲリカ酸、ピバル酸、カプロン酸等が挙げられ、これらのうち、付加反応の際の立体障害、臭気、価格等の観点からギ酸もしくは酢酸が好ましい。すなわち、Rとしては、水素、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基が挙げられ、これらのうち水素もしくはメチル基が好ましい。
【0026】
脂肪酸の量に関しては、反応原料である上記一般式(4−1)で表される5−アルキリデン−2−ノルボルネン1モルに対して1〜10モルが好ましく、2〜5モルが更に好ましい。
【0027】
また酸触媒としては、硫酸、ギ酸、リン酸、トルエンスルホン酸、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素−エーテル錯体、三フッ化ホウ素水和物および酸性樹脂等が挙げられ、これらのうち、酸性度や価格等の観点から硫酸が好ましい。
【0028】
スキーム1に示す反応は、溶媒存在下で行うことが好ましく、溶媒としては、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶媒やプロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、デカン、ヘキサデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。これらのうち、沸点および酸触媒や反応基質の溶解度の観点から、トルエン、ベンゼンが好ましい。また、これらの中から選ばれる溶媒は単独であってもまた二種以上の成分からなるものであっても良い。
【0029】
スキーム1に示す反応の反応条件としては、反応温度が20℃〜150℃であることが好ましく、50℃〜120℃であることがより好ましい。また、反応時間は、好ましくは30分〜12時間、より好ましくは2時間〜5時間である。
【0030】
また触媒量に関しては、反応混合物全体に対して0.1質量%から50質量であることが好ましく、1質量%から25質量%であることが特に好ましい。
【0031】
次いで、下記スキーム2に示すように、上記脂肪酸エステルを加水分解して、下記一般式(4−4)又は下記一般式(4−5)で表される5−アルキリデンノルボルナノールを得る。
【0032】
【化7】

【0033】
ここで加水分解は、公知の種々の方法を使用することができるが、塩基存在下による加水分解が好ましい。塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化ルビジウム、水酸化バリウム等が挙げられ、塩基の量は上記式(4−2)および上記式(4−3)の混合物1.0モルに対して、好ましくは1.0〜5.0モル、より好ましくは2.0−4.0モルである。
【0034】
加水分解は、通常溶媒存在下で行う。溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらのうち、沸点、生成物との分離、塩基の溶解度の観点から、メタノール、エタノールが好ましい。
【0035】
加水分解の反応条件としては、反応温度が0℃〜100℃であることが好ましく、50℃〜90℃であることがより好ましい。また、反応時間は、好ましくは30分〜24時間、より好ましくは1時間〜4時間である。
【0036】
なお、第一の工程は、スキーム1に示す反応とスキーム2に示す反応とをそれぞれ独立に行ってもよい。また、スキーム1に示す反応を行った後、5−アルキリデンノルボルナノールの脂肪酸エステルを反応溶液中から単離せず、当該反応溶液に塩基及び溶媒を添加する等の方法により加水分解を行ってもよい。
(1−2)第二の工程
第二の工程では、スキーム3に示すように、5−アルキリデンノルボルナノールと、下記一般式(4−6)で表される脂肪酸のビニルエステルとを、Ir触媒存在下で反応させ下記一般式(2−a)又は下記一般式(2−b)で表されるビニルエーテル化合物を得る。
【0037】
【化8】

【0038】
一般式(4−6)におけるRとしては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、これらのうち、メチル基が好ましい。
【0039】
Ir触媒としては、ジ−μ−クロロビス[(η−シクロオクタ−1,5−ジエン)イリジウム(I)]触媒(以下[IrCl(cod)]触媒と略記する。なおcodはシクロオクタジエンを示す)、 [Ir(cod)]BF、[Ir(cod)(CHCN)]BF、IrCl(CO)(PPh(Phはフェニル基を示す。)等の有機金属錯体や、金属イリジウム、酸化イリジウム、水酸化イリジウム、フッ化イリジウム等の無機イリジウム化合物が挙げられ、これらのうち、反応性および安定性の観点から、[IrCl(cod)]触媒が好ましい。
【0040】
スキーム3に示す反応は、溶媒存在下で行うことが好ましく、溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、などの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどの二トリル等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
スキーム3に示す反応では、反応速度を増大させるために塩基を添加することが好ましい。ここで、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウムなどのアルカリ金属有機酸塩(特に、アルカリ金属酢酸塩);酢酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属有機酸塩;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;ナトリウムフェノキシドなどのアルカリ金属フェノキシド;トリエチルアミン、N−メチルピペリジンなどのアミン類(第3級アミンなど);ピリジン、2,2′−ビピリジル、1,10−フェナントロリンなどの含窒素芳香族複素環化合物などが挙げられる。上記の塩基の中でもナトリウムを含む塩基が好ましい。
【0042】
塩基の使用量は、反応原料である式(4−4)と(4−5)および(4−6)の混合物1モルに対して、好ましくは0.001〜3モル、更に好ましくは0.005〜2モルである。
【0043】
スキーム3の反応温度としては、反応成分や触媒の種類などに応じて適宜選択できるが、20℃〜170℃であることが好ましく、70℃〜120℃であることがより好ましい。また、反応時間は、反応成分や触媒の種類あるいは反応温度により適宜選択できるが、好ましくは2時間〜24時間、より好ましくは5時間〜15時間である。
【0044】
反応は常圧で行ってもよく、減圧下または加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法でも行うことが出来る。
【0045】
スキーム3に示す反応において反応原料である式(4−6)は、式(4−4)と(4−5)の混合物1モルに対して好ましくは1モル〜5モル、更に好ましくは2〜3モルである。
(2)nが1であるビニルエーテル化合物の製造方法
本製造方法は、5−アルキリデン−2−ノルボルネンと一酸化炭素および水素を金属触媒存在下にて反応させるヒドロホルミル化法によって得られる2−アルキリデン−5(又は6)−ホルミルビシクロ[2,2,1]ヘプタンを得る第一の工程と、上記2−アルキリデン−5(又は6)−ホルミルビシクロ[2,2,1]ヘプタンと、金属水素化物とを反応させることによって2−アルキリデン−5(又は6)−ヒドロキシメチル[2,2,1]ヘプタンを得る第二の工程、および上記2−アルキリデン−5(又は6)−ヒドロキシメチル[2,2,1]ヘプタンと、脂肪酸のビニルエステルとを、Ir触媒存在下で反応させ下記一般式(5−a)又は下記一般式(5−b)で表されるビニルエーテル化合物を得る第三の工程とを備える。
【0046】
【化9】

【0047】
(2−1)第一の工程
第一の工程では、5−アルキリデン−2−ノルボルネンから2−アルキリデン−5(又は6)−ホルミルビシクロ[2,2,1]ヘプタンを得る。具体的には、まず、下記スキーム4に示すように、一般式(4−1)で表される5−アルキリデンノルボルネンと一酸化炭素および水素とを、金属触媒存在下で反応させ、下記一般式(6−1)又は下記一般式(6−2)で表される2−アルキリデン−5(又は6)−ホルミルビシクロ[2,2,1]ヘプタンを得る。
【0048】
【化10】

【0049】
ここで、金属触媒としては遷移金属化合物が用いられ、特に周期律表中の第8族元素、第9族元素、第10族元素の化合物が有用である。なかでも、コバルト、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、又は白金などが有用であり、コバルト化合物およびロジウム化合物のハロゲン化物、酸化物、カルボン酸塩、硝酸塩、あるいはオレフィン、水素、一酸化炭素、第3級アミン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスフィンなど、またそれらがキレートした多座配位子を持つ錯体が好ましい。これら遷移金属化合物は、単独あるいは他の金属化合物を助触媒として加えて利用しうる。
【0050】
触媒量は上記式(4−1)1モルに対して0.00001〜0.1モルが好ましく、より好ましくは0.0001−0.01モルである。本反応においては、配位子を触媒1モルに対して1000〜10000倍モル加えると、触媒の分圧抑制、反応圧の低下、選択性の向上などの利点を付与することができる。
【0051】
スキーム4に示す反応条件としては、反応温度は30〜300℃であることが好ましく、50〜250℃がさらに好ましい。反応圧力は20〜250気圧が好ましく、使用する一酸化炭素と水素との混合比は0.5〜2.0が好ましく、さらに好ましくは0.8〜1.2の範囲である。また、溶媒は飽和炭化水素、ベンゼンなどの芳香族類、エーテル類、アルコール類、エステル類、スルホラン、水および反応原料、反応生成物などの単独あるいは2種以上の混合物が用いられ、反応原料や反応生成物を溶媒とすることが好ましい。
(2−2)第二の工程
第二の工程では、スキーム5に示すように、2−アルキリデン−5(又は6)−ホルミルビシクロ[2,2,1]ヘプタンと金属水素化物を反応させることによって2−アルキリデン−5(又は6)−ホルミルビシクロ[2,2,1]ヘプタンから下記一般式(6−3)あるいは下記一般式(6−4)で表される2−アルキリデン−5(又は6)−ヒドロキシメチル[2,2,1]ヘプタンを得る。
【0052】
【化11】

【0053】
ここでアルデヒドの還元は、公知の種々の方法を使用することができるが、金属水素化物を用いる方法が好ましい。金属水素化物としては、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等が挙げられる。
【0054】
金属水素化物の量に関しては、反応原料である上記一般式(6−1)および上記一般式(6−2)の混合物1モルに対して、好ましくは0.25〜3モル、さらに好ましくは1〜2モルである。
【0055】
スキーム5の反応は、通常溶媒存在下で行う。溶媒は、用いる金属水素化物によって異なり、例えば水素化アルミニウムリチウムを用いた場合は、水素化アルミニウムリチウムの溶解度の観点からジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒が好ましい。
【0056】
スキーム5に示す反応の反応条件としては、反応温度が0℃〜70℃が好ましく、20℃〜70℃がさらに好ましい。また、反応時間は、好ましくは30分〜24時間、さらに好ましくは1時間〜5時間である。
(2−3)第三の工程
第三の工程では、スキーム6に示すように、2−アルキリデン−5(又は6)−ヒドロキシメチル[2,2,1]ヘプタンと、下記一般式(6−5)で表される脂肪酸のビニルエステルとを、Ir触媒存在下で反応させ、下記一般式(5−a)あるいは下記一般式(5−b)で表されるビニルエーテル化合物を得る。
【0057】
【化12】

【0058】
スキーム6の反応条件は、n=0の場合と同様な条件を用いることが出来る。すなわち、
一般式(6−5)におけるRとしては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、これらのうち、メチル基が好ましい。
【0059】
スキーム6に示す反応において反応原料である式(6−5)は、式(6−3)と(6−4)の混合物1モルに対して好ましくは1モル〜5モル、更に好ましくは2〜3モルである。
【0060】
Ir触媒としては、ジ−μ−クロロビス[(η−シクロオクタ−1,5−ジエン)イリジウム(I)]触媒(以下[IrCl(cod)]触媒と略記する。なおcodはシクロオクタジエンを示す)、[Ir(cod)]BF、[Ir(cod)(CHCN)]BF、IrCl(CO)(PPh(Phはフェニル基を示す。)等の有機金属錯体や、金属イリジウム、酸化イリジウム、水酸化イリジウム、フッ化イリジウム等の無機イリジウム化合物が挙げられ、これらのうち、反応性および安定性の観点から、[IrCl(cod)]触媒が好ましい。
【0061】
スキーム6に示す反応は、溶媒存在下で行うことが好ましく、溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、などの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどの二トリル等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
スキーム6に示す反応では、反応速度を増大させるために塩基を添加することが好ましい。ここで、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウムなどのアルカリ金属有機酸塩(特に、アルカリ金属酢酸塩);酢酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属有機酸塩;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;ナトリウムフェノキシドなどのアルカリ金属フェノキシド;トリエチルアミン、N−メチルピペリジンなどのアミン類(第3級アミンなど);ピリジン、2,2′−ビピリジル、1,10−フェナントロリンなどの含窒素芳香族複素環化合物などが挙げられる。上記の塩基の中でもナトリウムを含む塩基が好ましい。
【0063】
塩基の使用量は、反応原料である式(6−3)と(6−4)および(6−5)の混合物1モルに対して、好ましくは0.001〜3モル、更に好ましくは0.005〜2モルである。
【0064】
スキーム6の反応温度としては、反応成分や触媒の種類などに応じて適宜選択できるが、20℃〜170℃であることが好ましく、70℃〜120℃であることがより好ましい。また、反応時間は、反応成分や触媒の種類あるいは反応温度により適宜選択できるが、好ましくは2時間〜24時間、より好ましくは5時間〜15時間である。
【0065】
反応は常圧で行ってもよく、減圧下または加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法でも行うことが出来る。
【0066】
本実施形態に係るビニルエーテル化合物は、例えば、以下の方法により重合してビニルエーテル系重合体を製造することができる。
(ビニルエーテル系重合体)
本実施形態に係るビニルエーテル化合物を、例えば、ルイス酸(重合触媒)の存在下でカチオン重合することにより、ビニルエーテル系重合体が得られる。本実施形態に係るビニルエーテル化合物から得られるビニルエーテル系重合体は、透明性及び導光性に優れ、光学材料分野に有用である。また、半導体封止材や絶縁コーティング材等の電子電気分野においても優れた性能を発揮することができる。さらに、吸湿性が低いため、工業材料として使用する際の寸法安定性が良好であり、耐湿性に優れるため、屋外等でも長期間安定して使用することができる。
【0067】
上記ルイス酸としては、カチオン重合に使用可能な公知のものの中から幅広く使用できる。例えば、三塩化ホウ素、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体等のハロゲン化ホウ素化合物;四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン等のハロゲン化チタン化合物;四塩化スズ、四臭化スズ、四ヨウ化スズ等のハロゲン化スズ化合物;三塩化アルミニウム、アルキルジクロロアルミニウム、ジアルキルクロロアルミニウム等のハロゲン化アルミニウム化合物;五塩化アンチモン、五フッ化アンチモン等のハロゲン化アンチモン化合物;五塩化タングステン等のハロゲン化タングステン化合物;五塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン化合物;五塩化タンタル等のハロゲン化タンタル化合物;テトラアルコキシチタン等の金属アルコキシドなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。これらのルイス酸のうち、三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム、エチルジクロロアルミニウム、四塩化スズ、四塩化チタンなどが好ましい。ルイス酸の使用量は、原料のビニルエーテル化合物1モルに対して、0.01〜1000ミリモル当量使用することができ、好ましくは0.05〜500ミリモル当量の範囲である。
【0068】
さらに必要に応じて、リビングカチオン重合させる場合には電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果および/または系中のプロトンをトラップする効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって分子量分布の狭い構造が制御された重合体が生成する。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されず、そのドナー数が15〜60のものであれば、従来公知のものを広く利用できる。例えば、α−ピコリン、ジ−t−ブチルピリジンなどのピリジン類、トリエチルアミンなどのアミン類、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、エステル類、リン系化合物またはテトライソプロポキシチタンなどの金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0069】
また、上記カチオン重合に際し、反応溶媒を用いることができる。反応溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、脂肪族炭化水素、および芳香族炭化水素からなる群から選ばれる単独溶媒、または、それらの混合溶媒が挙げられる。
【0070】
ハロゲン化炭化水素としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、1−クロロプロパン、1−クロロ−2−メチルプロパン、1−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルブタン、1−クロロ−3−メチルブタン、1−クロロ−2,2−ジメチルブタン、1−クロロ−3,3−ジメチルブタン、1−クロロ−2,3−ジメチルブタン、1−クロロペンタン、1−クロロ−2−メチルペンタン、1−クロロ−3−メチルペンタン、1−クロロ−4−メチルペンタン、1−クロロヘキサン、1−クロロ−2−メチルヘキサン、1−クロロ−3−メチルヘキサン、1−クロロ−4−メチルヘキサン、1−クロロ−5−メチルヘキサン、1−クロロヘプタン、1−クロロオクタン、2−クロロプロパン、2−クロロブタン、2−クロロペンタン、2−クロロヘキサン、2−クロロヘプタン、2−クロロオクタン、クロロベンゼン等が使用でき、これらの中から選ばれる溶媒は単独であっても、2種以上の成分からなるものであってもよい。
【0071】
脂肪族炭化水素としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンが好ましく、これらの中から選ばれる溶媒は単独であっても、2種以上の成分からなるものであってもよい。
【0072】
芳香族炭化水素としてはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが好ましく、これらの中から選ばれる溶媒は単独であっても、2種以上の成分からなるものであってもよい。
【0073】
上記カチオン重合において、反応溶媒を使用する場合には、得られる重合体の溶解度、溶液の粘度や除熱の容易さを考慮し、重合体の濃度が0.1〜80重量%となるよう溶媒を使用することが好ましく、生産効率および操作性の観点からは1〜50重量%となるよう使用することがより好ましい。また重合時のモノマー濃度としては、0.1〜8モル/リットル程度が好ましく、0.5〜5モル/リットル程度がより好ましい。また、重合時の有機溶媒の使用量は、使用するモノマーに対して0.5〜100倍量であることが、適当な粘度、発熱のコントロールの点で好ましい。
【0074】
上記カチオン重合で用いられる各種原料には、工業的もしくは実験的に入手できるものを使用することができるが、水やアルコール、塩酸など活性な水素を有する物質や、開始剤以外の3級炭素に結合した塩素原子を有する化合物が原料中に含まれているとこれらは不純物として副反応を発生させる原因となるため、あらかじめ極力低濃度に精製する必要がある。また、反応操作中に外部からこれらの不純物が進入するのを防ぐ必要がある。目的とする重合体を効率よく得るためには不純物の総モル数を開始剤の重合開始点総数を基準にして1倍以下に抑制することが好ましく、0.5倍以下に抑制することがより好ましい。
【0075】
上記カチオン重合は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。重合時の圧力については、モノマーの種類、有機溶媒の種類、重合温度等を考慮して、常圧、加圧等の任意の条件を採用することができる。また、重合系が均一になるように十分な攪拌条件下に重合を行うことが好ましい。上記カチオン重合は、例えば、1つの反応容器に重合溶媒、モノマー、触媒、必要に応じて開始剤兼連鎖移動剤等を順次仕込んでいくバッチ法または半バッチ式で行うことができる。あるいは、重合溶媒、モノマー、触媒、必要に応じて開始剤兼連鎖移動剤等をある系内に連続的に仕込みながら反応させ、更に取出される連続法でもよい。重合開始時点および重合中の重合触媒の濃度を制御し易い点などからバッチ式が好ましい。
【0076】
重合温度は、得られるビニルエーテル系重合体の平均分子量に影響するので、目的とする平均分子量に応じて、採用する重合温度を適宜選択すればよいが、重合温度としては−80℃〜20℃程度が好ましく、更に好ましくは−70〜0℃程度とするのがよく、重合時間は、通常0.5〜180分程度、好ましくは20〜150分程度である。
【0077】
上記カチオン重合において、後の取り扱い易さからメタノール等のアルコール類の添加により重合反応を停止させるのが好ましいが、特にこれに限定されるものではなく、従来の慣用手段のいずれも適用でき、また、特に停止反応を改めて行なう必要もない。
【0078】
上記カチオン重合で用いられる反応器の形態は特に限定しないが、攪拌槽型反応器が好ましい。その構造については特に制限を受けるものではないが、たとえばジャケット部での冷却が可能な構造を有し、モノマーおよび逐次的に供給される触媒、電子供与剤を均一に混合・反応させることのできる構造であることが好ましい。内部冷却コイルやリフラックスコンデンサー等の付帯設備を設けて冷却能力を向上させたり、邪魔板を設けて混合状態を良好にできる構造であっても良い。攪拌槽型反応器に用いられる攪拌翼としては、特に制限を受けるものではないが、反応液の上下方向の循環、混合性能が高いものが好ましく、重合・反応液粘度が数センチポイズ程度の比較的低粘度領域においては(多段)傾斜パドル翼、タービン翼などの攪拌翼、数10センチポイズから数100ポイズの中粘性領域ではマックスブレンド翼、フルゾーン翼、サンメラー翼、Hi−Fミキサー翼、特開平10−24230に記載されているものなど大型のボトムパドルを有する大型翼、数100ポイズ以上の高粘性領域では、アンカー翼、(ダブル)ヘリカルリボン翼、ログボーン翼などが好適に使用される。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(エチリデンノルボルナノールの製造)
合成装置として、回転数可変式の攪拌機、反応温度指示計、反応滴下口、還流管およびガス注入口を備えた、内容積5000mLの4つ口セパラブルフラスコを温度調節が可能な熱媒浴内に設置した。そのフラスコ内に5−エチリデン−2−ノルボルネン(新日本石油(株)製)228.5g(1.9mol)、トルエン(特級試薬、和光純薬(株)製)2000mLおよび酢酸(特級試薬、関東化学(株)製)342g(5.7mol)を順に加え、液温度90℃に維持した。
【0080】
仕込んだ混合物を攪拌しながら、反応滴下口に備えた滴下漏斗から硫酸(特級試薬、和光純薬(株)製)49g(0.5mol)を5分で滴下し、液温度107℃で90分間攪拌した。ガスクロマトグラフ分析によって5−エチリデン−2−ノルボルネンの消失を確認した上で、反応混合物を50度まで冷却した後に、水酸化カリウム(特級試薬、関東化学(株)製)427g(7.6mol)およびエタノール(95%、関東化学(株)製)800mLを徐々に加え、液温度90℃にて1時間攪拌した。
【0081】
その反応液を室温まで冷却した後に、2500mLの飽和食塩水の入った5000mLのビーカー内に反応液を流し込んだ。次いで、分離した有機層を分液ロートに移し、再び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。桐山ろ紙を備えた桐山ロートを用いて硫酸マグネシウムをろ過し、そのろ液の溶媒をエバポレーターにて除去することで5−エチリデン−2−ノルボルナノール及び5−エチリデン−3−ノルボルナノールの粗生成物を得た。
【0082】
次いで、得られた粗生成物について減圧蒸留を行い、減圧度2mmHg、温度84−85℃の留分を採取することで、5−エチリデン−2−ノルボルナノール及び5−エチリデン−3−ノルボルナノールの混合物(以下、「エチリデンノルボルナノールの混合物」と称する。)59.1gを無色透明な液体として得た。
【0083】
【化13】

【0084】
得られたエチリデンノルボルナノールの混合物について、ガスクロマトグラフ−質量スペクトル(GC−MS)、IR分析、およびNMR分析によって構造解析を行い、上記式(7−1)から式(7−4)で表されるエチリデンノルボルナノールの異性体の混合物が生成していることを確認した。以下に、分析方法を示す。
(分析方法)
GC−MS測定[M/Z]:138
IR測定 検出波数(cm−1):3328、2960
H−NMR測定[499.75MHz、CDCl、内部0基準TMS]
化学シフト(PPM)、分裂パターン、プロトン数を測定したところ、式(7−1)から式(7−4)で表されるエチリデンノルボルナノール異性体に対応するシグナルが観測され、そのうち2種類が主として観測された。得られた結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
13C−NMR測定[125.66MHz、CDCl、内部0基準:TMS]
化学シフト(PPM)、炭素級数を測定したところ、式(7−1)から式(7−4)で表されるエチリデンノルボルナノール異性体に対応するシグナルが観測され、そのうち2種類が主として観測された。得られた結果を表2に示す。なお、炭素級数は、DEPT測定法でのNMR分析により決定した。S、D、T、Qは、それぞれ1級、2級、3級、4級の炭素を示す。
【0087】
【表2】

【0088】
(エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの製造)
上記エチリデンノルボルナノールの混合物を用いて、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの製造を行った。
【0089】
まず、合成装置として、回転数可変式の攪拌機、反応温度指示計、反応滴下口、還流管およびガス注入口を備えた、内容積2000mLの4つ口フラスコを温度調節が可能な熱媒浴内に設置した。
【0090】
そのフラスコ内に炭酸ナトリウム(特級試薬、和光純薬(株)製)66.9g(631mmol)、トルエン(脱水試薬、関東化学(株)製)500mLを入れ、液温度90℃に加熱した。そのフラスコ内に酢酸ビニル(東京化成(株)製)108.65g(1262mmol)を添加し、さらにプロピオン酸(東京化成(株)製)9.4mL(126mmol)を5分間かけて滴下した。その滴下後に、[IrCl(cod)]触媒(和光純薬(株)製)8.0g(11.90mmol)を添加し、さらに1,4−ジオキサン(脱水試薬、関東化学(株)製)500mLに溶解したエチリデンノルボルナノールの混合物87.2g(631mmol)を1時間かけて滴下し、8時間攪拌した。
【0091】
その後、反応液を室温まで冷却し、水の入ったビーカーに流しこみ、酢酸エチル((株)ゴードー製)で3回抽出した。次いで、得られた有機相を水で2回洗浄し、硫酸ナトリウム(試薬特級、ナカライテスク(株)製)で乾燥後、濃縮し、黒褐色のオイル状の粗生成物120.12gを得た。
得られた粗生成物について減圧蒸留を行い、減圧度100Pa、温度43−45℃の留分を採取することで、目的とするエチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの混合物を無色透明な液体として78.36g得た。
【0092】
【化14】

【0093】
この生成物について、ガスクロマトグラフ−質量スペクトル(GC−MS)、IR分析、元素分析およびNMR分析によって構造解析を行い、上記式(2−1)から式(2−4)で表されるエチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの異性体が生成していることを確認した。以下に分析方法を示す。
GC−MS測定[M/Z]:164
IR測定 検出波数(cm−1):2965
元素分析:測定値 C 80.0,H 9.7(理論値 C 80.4, H 9.8)
H−NMR測定[499.75MHz、CDCl、内部0基準TMS]
化学シフト(PPM)、分裂パターン、プロトン数を測定したところ、式(2−1)から式(2−4)で表されるエチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの異性体に対応するシグナルが観測され、そのうち2種類が主として観測された。得られた結果を表3に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
13C−NMR測定[125.66MHz、CDCl、内部0基準TMS]
化学シフト(PPM)、炭素級数を測定したところ、式(2−1)から式(2−4)で表されるエチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの異性体に対応するシグナルが観測され、そのうち2種類が主として観測された。得られた結果を表4に示す。なお、炭素級数は、DEPT測定法でのNMR分析により決定した。S、D、T、Qは、それぞれ1級、2級、3級、4級の炭素を示す。
【0096】
【表4】

【0097】
(エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの重合体の製造1)
上記エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの混合物を用いて、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの重合体の製造を行った。
【0098】
合成装置として、反応温度指示計、反応滴下口及びガス注入口を備えた、内容積50mLの3つ口フラスコを用い、窒素を10分間フローさせることでフラスコ内を窒素雰囲気下とした。そのフラスコ内に攪拌子、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの混合物を1.68g(10.2 mmol)、定法に従って蒸留したトルエン10mLを加え、フラスコをドライアイス−メタノール浴に漬けることで、内容物を−68℃まで冷却した。その後、3ふっ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体を0.02当量(26μL)滴下した。その際、−65℃まで内容物温度の上昇が見られた。その後、徐々に0℃まで昇温しながら2時間攪拌し、28%−30%アンモニア水溶液を3滴加え、10分間攪拌した。その混合物を500mLのビーカーに満たしたメタノール中に滴下すると沈殿が生じ、その沈殿を桐山漏斗によるろ過操作にて集めることで、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの重合体1.21g(収率72%)が得られた。
【0099】
【化15】

【0100】
得られたエチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの重合体について、核磁気共鳴分光法(NMR)によって構造解析を行い、上記式(8−1)で表される重合体が得られていることを確認した。H−NMR測定では、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルにおけるビニルエーテル由来のシグナル(6.23−6.37ppm)が消失し、5.00−5.35ppmにエチリデン基のシグナルが観測され、3.50ppmにエーテル酸素α位のプロトンが観測された。なお、H−NMR測定の条件は、499.75MHz、CDCl、内部0基準TMSである。
【0101】
また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によってその分子量を測定した。測定された分子量は、数平均分子量(Mn)が8050、重量平均分子量(Mw)が16946であり、Mw/Mnは2.105であった。
(エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの重合体の製造2)
合成装置として、反応温度指示計、反応滴下口及びガス注入口を備えた、内容積50mLの3つ口フラスコを用い、窒素を10分間フローさせることでフラスコ内を窒素雰囲気下とした。そのフラスコ内に攪拌子、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの混合物を251mg(1.53mmol)、定法にて蒸留したトルエン1.5mLを加え、フラスコを食塩−氷水浴に浸すことで、内容物を−9℃まで冷却した。その後、エチルアルミニウムジクロリド(0.057M、イソオクタン溶液)を0.05当量(1.3mL)滴下した。その際、−6℃まで内容物温度が上昇した。その後、徐々に0℃まで昇温しながら1時間半攪拌し、28%−30%アンモニア水溶液を3滴加えた。その混合物を100mLビーカーに満たしたメタノール中に滴下することで沈殿が生じ、その沈殿を集めることで、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの重合体34mg(収率21%)が得られた。
【0102】
得られたエチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの重合体について、核磁気共鳴分光法(NMR)によって構造解析を行い、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルの重合体が得られていることを確認した。H−NMR測定では、エチリデンノルボルニル−ビニルエーテルにおけるビニルエーテル由来のシグナル(6.23−6.37ppm)が消失し、5.00−5.35ppmにエチリデン基のシグナルが観測され、3.50ppmにエーテル酸素α位のプロトンが観測された。なお、H−NMR測定の条件は、499.75MHz、CDCl、内部0基準TMSである。
【0103】
また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によってその分子量を測定した。測定された分子量は、数平均分子量(Mn)が2529、重量平均分子量(Mw)が3727であり、Mw/Mnは1.474であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1−a)又は下記一般式(1−b)で表されるビニルエーテル化合物。
【化1】


[式中、nは0又は1を示し、R及びRはそれぞれ水素、メチル基又はエチル基を表し、RとRの炭素数の合計は1又は2である。]
【請求項2】
前記一般式(1−a)又は前記一般式(1−b)中のnが0である、請求項1に記載のビニルエーテル化合物。
【請求項3】
前記一般式(1−a)又は前記一般式(1−b)中のR及びRがそれぞれ水素又はメチル基であり、RとRの合計炭素数が1である、請求項1又は2に記載のビニルエーテル化合物。
【請求項4】
5−アルキリデン−2−ノルボルネンと脂肪酸との酸触媒存在下における反応により得られる5−アルキリデンノルボルナノールの脂肪酸エステルを、加水分解して5−アルキリデンノルボルナノールを得る第一の工程と、
前記5−アルキリデンノルボルナノールと、脂肪酸のビニルエステルとを、Ir触媒存在下で反応させ下記一般式(2−a)又は下記一般式(2−b)で表されるビニルエーテル化合物を得る第二の工程と
を備えるビニルエーテル化合物の製造方法。
【化2】


[式中、R及びRはそれぞれ水素、メチル基又はエチル基を表し、RとRの炭素数の合計は1又は2である。]
【請求項5】
前記一般式(2−a)又は前記一般式(2−b)中のR及びRがそれぞれ水素又はメチル基であり、RとRの合計炭素数が1である、請求項4に記載のビニルエーテル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−57593(P2011−57593A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207406(P2009−207406)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】