説明

ビニルフェナントレンの製造方法

【課題】ビニルフェナントレンの製造方法を提供すること。
【解決手段】触媒量のPdCl(dppf)と、該パラジウム錯体に対して2〜5当量のビニルグリニャール試薬を反応させた後、下記の式(1)で示されるブロモフェナントレン、次いで残りのビニルグリニャール試薬を反応させることを特徴とするビニルフェナントレンの製造方法。


(式中、R及びBrの置換位置は、1から10のいずれでも良く、Rは、水素原子又は反応に関与しない基を表し、結合して環を形成することもできる。また、mは1〜7までの整数を示し、nは0〜9までの整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルフェナントレンの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、ブロモフェナントレンとビニルグリニャール試薬を反応させる製造方法に関するものである。
ビニルフェナントレンは、機能性樹脂等のモノマーとして有用である。
【背景技術】
【0002】
例えば、非特許文献1には、3−ビニルフェナントレンの合成法として、3−アセチルフェナントレンから水素化リチウムアルミニウムを用いて合成する方法が開示されている。しかしながら、3−エチルフェナントレンが主生成物であり、3−ビニルフェナントレンは副生成物であり選択性が低い。
【0003】
また、非特許文献2には、9−ホルミルフェナントレンとメチレントリフェニルホスホランとの反応により9−ビニルフェナントレンを合成する方法が開示されている。しかしながら、本方法では、生成物と同量のトリフェニルホスフィンオキシドが副生するために後処理が煩雑になるという問題があった。
【0004】
さらに、非特許文献3には、β−(9−フェナントリル)−エタノールの脱水により9−ビニルフェナントレンを合成する方法が開示されている。しかしながら、減圧下、高温条件下で反応する必要があるという問題があった。
【0005】
尚、ビニル芳香族化合物を合成する方法として、パラジウム触媒による芳香族ハロゲン化物とビニルグリニャール試薬との反応が知られている。例えば、非特許文献4には、パラジウム触媒による芳香族ハロゲン化物とビニルグリニャール試薬の反応によりビニル芳香族化合物を合成する方法が開示されている。しかしながら、本方法は、テトラヒドロフラン還流下で反応を行うため容易に重合しうる反応性の高いビニル芳香族化合物を選択性良く合成するのには適していない。
以上のことから、選択性よくビニルフェナントレンを合成する方法の開発が望まれていた。
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry 1990, 55, 3409
【非特許文献2】Bulletin of the Chemical Society of Japan 1978, 51, 185
【非特許文献3】Journal of the American Chemical Society 1951, 73, 818
【非特許文献4】Journal of Organometallic Chemistry 1997, 532, 271
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ブロモフェナントレンとビニルグリニャール試薬とを反応させるビニルフェナントレンの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
触媒量のPdCl(dppf)と、該パラジウム錯体に対して2〜5当量のビニルグリニャール試薬を反応させた後、下記の式(1)で示されるブロモフェナントレン、次いで残りのビニルグリニャール試薬を反応させることを特徴とするビニルフェナントレンの製造方法を提供するものである。


(式中、R及びBrの置換位置は、1から10のいずれでも良く、Rは、水素原子又は反応に関与しない基を表し、結合して環を形成することもできる。また、mは1〜7までの整数を示し、nは0〜9までの整数を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によりビニルフェナントレンが選択率良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
「ブロモフェナントレン」とは、上記式(1)に示されるように、少なくとも1つ以上のBrを有するフェナントレンである。
なお、好ましくは、Brの数は1個であるが、必要に応じ複数個でもよい。
【0010】
Rで表される反応に関与しない基は、特に限定されるものではないが、例えば、アルキル基やアリール基、アルコキシ基、シリルエーテル基などが挙げられる。
【0011】
「ブロモフェナントレン」は、特に限定されるものではないが、例えば、2−ブロモフェナントレン、3−ブロモフェナントレン、9−ブロモフェナントレン、1,2−ジブロモフェナントレン、1,6−ジブロモフェナントレン、1,8−ジブロモフェナントレン、2,7−ジブロモフェナントレン、2,10−ジブロモフェナントレン、3,6−ジブロモフェナントレン、3,9−ジブロモフェナントレン、9,10−ジブロモフェナントレン、1−ブロモ−3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−8−メチルフェナントレン、5−ブロモフェナントロ[3,4−d] −1,3−ジオキソール、[(3,6−ジブロモ−9,10−フェナントレンジイル)ビス(オキシ)]ビス[(1,1−ジメチルエチル)ジメチル]シラン等が挙げられる。
【0012】
「ビニルグリニャール試薬」は、特に限定されるものではないが、ビニルマグネシウムブロミドやビニルマグネシウムクロリドが挙げられる。尚、必要に応じて、適当な有機溶媒に溶解させたものを用いても良い。適当な有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、テトラヒドロフランやtert−ブチルメチルエーテル等が挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法は、まず、パラジウム錯体と、使用するパラジウム錯体に対して2〜5当量のビニルグリニャール試薬をまず反応させ、次いで、ブロモフェナントレンを加え、その後、残りのビニルグリニャール試薬を反応させることにより行われる。
【0014】
「最初にパラジウム錯体と反応させるビニルグリニャール試薬」の使用量は、使用するパラジウム錯体に対して2〜5当量である。また、「残りのビニルグリニャール試薬」の量は、通常、使用するブロモフェナントレンに含有されるBrに対して1〜5当量であり、より好ましくは1〜2当量である。
【0015】
PdCl(dppf)は、有機化合物との付加体として用いてもよい。付加体としては、特に限定されるわけではないが、PdCl(dppf)・CHClなどが挙げられる。
【0016】
PdCl2(dppf)の使用量は、通常0.001〜0.1当量であり、より好ましくは、0.03〜0.1当量である。尚、これらの数値は使用されたブロモフェナントレンに含有されるBrに基づいて算出されたものである。
【0017】
反応溶媒の種類と量は、使用するブロモフェナントレンやビニルグリニャール試薬の種類と量に依存し、適宜選択される。その種類は、特に限定されるものではないが、tert−ブチルメチルエーテルやテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、2−メトキシエチルエーテルなどのエーテル系の溶媒が好ましい。
【0018】
本発明の反応温度は、通常、−20℃〜40℃、好ましくは、−5℃〜30℃である。
【0019】
本発明の反応時間は、通常、1時間〜20時間、好ましくは、3〜10時間である。
【0020】
反応後、通常の後処理操作(例えば、クエンチ、抽出、洗浄、濃縮、カラムクロマトグラフィーなど)により目的物を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例で更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
滴下ロートを備えたガラス反応容器に、PdCl(dppf)・CHCl(3.176g、3.89mmol)と、tert−ブチルメチルエーテル(40ml)を加えた後、0℃まで冷却した。次いで、ビニルマグネシウムブロミドのTHF溶液(1.0M、10.00ml、10mmol)を10℃を超えないように滴下して加えた。滴下終了後、9−ブロモフェナントレン(20.00g、77.78mmol)と、tert−ブチルメチルエーテル(120ml)を10℃を超えないように冷却を行いながら加えた。続いて、ビニルマグネシウムブロミドのTHF溶液(1.0M、106.67ml、106.67mmol)を10℃を超えないように滴下した。滴下が終了した後、27℃未満で5時間反応させた。
5時間後、ガスクロマトグラフィーにて分析を行ったところ、以下のような面百値であった。

フェナントレン(還元体):3.4%
9−ビニルフェナントレン(目的生成物):96.6%

反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液(400ml)を滴下した後、tert−ブチルメチルエーテル(400ml×2回)抽出した。さらに、得られた抽出液を水(400ml×2回)、次いで飽和食塩水(400ml×1回)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過、次いで、減圧濃縮することで粗生成物が得られた。さらに、カラムクロマトグラフィーにて精製した。
【0023】
[参考例]
滴下ロートを備えたガラス反応容器に、PdCl(dppf)・CHCl(2.858g、3.50mmol)と、tert−ブチルメチルエーテル(36ml)を加えて10分間攪拌した後、さらに、9−ブロモフェナントレン(18.00g、70.00mmol)とtert−ブチルメチルエーテル(108ml)を加えて0℃まで冷却した。次いで、ビニルマグネシウムブロミドのTHF溶液(1.0M、106.00ml、106.00mmol)を10℃を超えないように滴下して加えた。滴下終了後、27℃未満で4時間反応させた。
4時間後、ガスクロマトグラフィーにて分析を行ったところ、以下のような面百値であった。

フェナントレン(還元体):8.2%
9−ビニルフェナントレン(目的生成物):91.8%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒量のPdCl(dppf)と、該パラジウム錯体に対して2〜5当量のビニルグリニャール試薬を反応させた後、下記の式(1)で示されるブロモフェナントレン、次いで残りのビニルグリニャール試薬を反応させることを特徴とするビニルフェナントレンの製造方法。


(式中、R及びBrの置換位置は、1から10のいずれでも良く、Rは、水素原子又は反応に関与しない基を表し、結合して環を形成することもできる。また、mは1〜7までの整数を示し、nは0〜9までの整数を示す。)
【請求項2】
mが1である請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−217354(P2007−217354A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40382(P2006−40382)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】