説明

ビリルビン酸化活性を有する新規タンパク質

【課題】試料中のビリルビンを定量するのに好適な新規ビリルビン酸化酵素を提供し、該酵素を試薬として用いて、試料中ビリルビンを定量する。
【解決手段】メタゲノムライブラリーから新規ビリルビン酸化酵素をコードする遺伝子を単離し、遺伝子光学的手法を用いてビリルビン酸化酵素を得た。該ビリルビン酸化酵素は極めて安定性が高く、該該酵素は試料中のビリルビン定量用試薬として、試料中ビリルビンの定量において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビリルビン酸化酵素、該酵素をコードする遺伝子、該酵素の製造方法、及び該酵素の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
各種肝疾患診断や黄疸鑑別などの診断基準として血中ビリルビン濃度の測定が行われている。血清中ビリルビンの測定方法は、ビリルビン酸化酵素などの酵素を用いる酵素法、ジアゾ試薬やバナジン酸イオンなどを用いた化学法(特許文献1)、そして高速液体クロマトグラフィーを用いる方法に大別される。
【0003】
血清中ビリルビン測定方法のうち、酵素法においては、ビリルビン酸化酵素、アスコルビン酸オキシダーゼ、ラッカーゼ、またはチロシナーゼを用いる方法が報告されている(特許文献2、3、4、5など)。測定に利用されるビリルビン酸化酵素としては、安定性が高い酵素を用いることが望ましい。故に、酵素の安定化を図るために様々な添加剤が工夫されてきた(特許文献6、7など)。また、耐熱性ビリルビン酸化酵素が報告されている(特許文献8)。
【0004】
そのため、スエヒロ茸由来のビリルビン酸化酵素(特許文献9)やミロセシウム属(Myrothecium)由来のビリルビン酸化酵素(特許文献10)などの実用的に用いられているビリルビン酸化酵素と比べて安定性の高いアスコルビン酸オキシダーゼを用いた試料中のビリルビン測定方法も開発されている(特許文献11)。該アスコルビン酸オキシダーゼのもつビリルビン酸化酵素活性は60℃30分の熱処理で 100 %の活性を保持するものの、80℃30分の熱処理では完全に失活する。
【0005】
また、上記耐熱性ビリルビン酸化酵素は、80℃10分の熱処理で残存活性が90%、90℃10分では50%程度の残存活性を示す(特許文献8)。さらに、バチラス・サチルスに属するバクテリアの内胞子皮構成成分(Endospore coat component、CotA)は、その遺伝子配列及びアミノ酸配列は知られており、ラッカーゼ活性を有することが知られている(非特許文献1)。耐熱性ビリルビン酸化酵素として、80℃30分の熱処理で残存活性が90%、90℃30分では60%程度の残存活性を示すものも知られている(特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−018978号公報
【特許文献2】特開昭59−17999号公報
【特許文献3】特開平02−238897号公報
【特許文献4】特開平11−72497号公報
【特許文献5】特開2000−166595号公報
【特許文献6】特開平08−66196号公報
【特許文献7】特開平10−42869号公報
【特許文献8】特開昭61−209587号公報
【特許文献9】特開昭59−135886号公報
【特許文献10】特開昭57−159487号公報
【特許文献11】特開平09−178755号公報
【特許文献12】特開平18−68003号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F. Kunst et al.、The complete genome sequence of the Gram-positive bacterium Bacillus subtilis、Nature、1997年、390巻、249-256頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、現在知られているビリルビン酸化酵素試薬よりも、さらに有用なビリルビン酸化酵素試薬を提供するために、ビリルビン酸化酵素とその遺伝子、それらの製造方法、さらにビリルビンの定量測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、メタゲノムライブラリーからビリルビン酸化活性を有する新規な酸化酵素をコードする遺伝子を単離することに成功し、これらの遺伝子がコードするタンパク質がビリルビンを酸化する作用を有し、該タンパク質が耐熱性に優れ、高い安定性を有するとの知見を得るとともに、極めて正確に被験試料中のビリルビンを定量し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
1)(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるか、または(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加された配列を含み、かつ、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質。

2)上記1)に記載のタンパク質をコードする遺伝子。

3)以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA。
(b)配列番号1に示される塩基配列あるいは該配列と相補の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列を含み、かつ、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。

4)上記2)または3)に記載の遺伝子が導入された組換えベクター。

5)上記4)に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。

6)上記5)に記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からビリルビン酸化活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質の製造方法。

7)上記1)に記載のタンパク質を少なくとも有効成分として含有するビリルビン定量用試薬。

8)上記1)に記載のタンパク質の一定量とビリルビン含有被験試料とを接触させ、吸光度を測定することを特徴とする、該試料中のビリルビンの定量測定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐熱性が極めて高く、安定性に優れたビリルビン酸化活性をもつ新規なタンパク質を提供できる。
該タンパク質によるビリルビンの酸化に基づく吸光度変化は、被験試料中のビリルビン濃度を正確に反映しており、本発明によれば、極めて有用なビリルビン定量用試薬が提供でき、各種肝疾患診断あるいは黄疸鑑別等の医療検査において大いに貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のビリルビン酸化酵素の至適pH を示すグラフ。
【図2】本発明のビリルビン酸化酵素の耐熱性を示すグラフ。
【図3】本発明のビリルビン酸化酵素のビリルビン酸化に伴う吸光度変化と、ビリルビン濃度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本明細書において、単に「ビリルビン」と記載した場合は、直接型ビリルビン、間接型ビリルビン、及び総ビリルビン(直接型ビリルビンと間接型ビリルビンの合計)の全てを含む意味である。
【0014】
本発明で使用しうる被験試料とは、ビリルビンを含有するものであれば特に限定されないが、生体試料、例えば、血漿、血清、尿などを挙げる事ができる。本明細書においてビリルビン酸化活性とは、ビリルビンを基質とする酸化反応の触媒作用を指す。
(1)ビリルビン酸化酵素
本発明のビリルビン酸化活性を有するタンパク質(以下、ビリルビン酸化酵素という。)は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、高い安定性を示す。
本発明のビリルビン酸化酵素は、ビリルビンを基質として、以下の式1に示される反応を触媒する酵素である。
【化1】

【0015】
本発明のビリルビンオキシダーゼと公知のビリルビンオキシダーゼの性質を比較して表1に示す。本発明のビリルビンオキシダーゼは同一反応を触媒する公知の酵素とは性質の異なる新規な酵素であり、耐熱性が極めて良好で、かつ広い至適摘pHを有し、公知の酵素に比べ高い安定性を示す。したがって、特に安定剤を必用としない。
【0016】
【表1】

さらに、本発明においては、上記配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、挿入若しくは付加等の変異が生じたものであっても、当該タンパク質がビリルビン酸化活性を有する限り、本発明のビリルビン酸化酵素遺伝子に含まれる。
【0017】
(2)遺伝子
本発明のビリルビン酸化活性を有するタンパク質の遺伝子は 活性汚泥から複合微生物のDNA を抽出して構築されたメタゲノムライブラリーから得られたものである。すなわち、メタゲノムライブラリーは、宿主として大腸菌(Escherichia coli)EPI300 株とベクターとしてフォスミド(Fosmid)ベクターを利用し、平均約30 kbp の長さのDNA を含むクローンからなり、本発明のビリルビン酸化酵素遺伝子は、このようなメタゲノムライブラリーを、LB (Luria-bertani) 寒天培地上にさらに2,4-Dinitrophenol含有LB (Luria-bertani) 寒天培地を重層した培地で培養し、陽性を示したクローンの中から得られたものである。
【0018】
本発明は、このようにして得られた遺伝子を発現させ、該遺伝子の発現タンパク質がビリルビンに対する酸化活性を有することを確認して、該遺伝子がビリルビンオキシダーゼをコードする遺伝子と同定できたことに基づき、該遺伝子について、Bilirubin-oxidizing proteinの略を用い、bopと命名した。
以下に本発明の遺伝子について、さらに説明する。
【0019】
本発明のビリルビン酸化酵素遺伝子(bop遺伝子)の塩基配列は、配列表の配列番号1に示されるが、これに限らず、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするものであればよく、さらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、挿入若しくは付加等の変異が生じたものであっても、当該タンパク質がビリルビン酸化活性を有する限り、本発明のビリルビン酸化酵素遺伝子に含まれる。
【0020】
例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列中、1-10個、好ましくは1-5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2に示されるアミノ酸配列に1-10個、好ましくは1-5個のアミノ酸が付加あるいは挿入されていてもよく、あるいは、配列番号2に示されるアミノ酸配列中、1-10個、好ましくは1-5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、本発明のビリルビン酸化酵素遺伝子に含まれる。
【0021】
部位特異的突然変異誘発法等によって本発明の遺伝子の変異型であって上記機能又は活性を有するものを合成することもできる。遺伝子への変異の導入法は限定されないが、市販の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan-K (TAKARA社製) や Mutan-G (TAKARA社製)) などを用いることができる。
【0022】
これらの変異した遺伝子により作製される組換えタンパク質が酵素活性を有するか否かは、変異タンパク質をビリルビンと反応させることによって、上記のような機能、活性を測定することにより確認することができる。
一方、本発明においては、上記ビリルビン酸化酵素遺伝子(bop遺伝子)の塩基配列(配列番号1)からなるDNAあるいは該DNAと相補の配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、それぞれの機能又は活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であれば、本発明のビリルビン酸化酵素遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、高い相同性 (identity 70-80 % 以上、好ましくは90%以上)を有するDNAがハイブリダイズする条件をいう。このような「ストリンジェントな条件」は、例えば、2×SSC、0.1 % SDS及び50 % ホルムアミドの溶液中で25℃にて加温した後、0.1×SSC、0.1 % SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件をいう。
但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、これら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0023】
また、本発明においては、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質をコードするものである限り、ビリルビン酸化酵素遺伝子(bop遺伝子)の塩基配列(配列番号1)において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換,挿入若しくは付加された配列を有する遺伝子も含まれる。
すなわち、配列番号2に示されるアミノ酸配列中、1-10個、好ましくは1-5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2に示されるアミノ酸配列に1-10個、好ましくは1-5個のアミノ酸が付加あるいは挿入されていてもよい。さらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列中、1-10個、好ましくは1-5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、本発明のビリルビン酸化酵素遺伝子に含まれる。
【0024】
(3)組換えベクター及び宿主
本発明の組換えベクターは、適当なベクターにビリルビン酸化酵素遺伝子を連結することにより得られる。
【0025】
本発明で使用するベクターとしては、プラスミド、コスミド、バクテリオファージなど宿主中で複製可能なものであれば特に限定されない。また宿主もそのベクターが機能するものであれば、特に限定されず、例えば大腸菌等の各種細菌、放線菌などが使用できる、
ベクター中に導入する遺伝子の方向及び順序は、遺伝子が発現され、発現されたタンパク質が酵素として機能しうるのであれば、任意に配列及び選択してよい。
【0026】
(4)本発明の組換えベクターを含む形質転換体:
本発明の形質転換体は、上記組換えベクターを上記宿主に導入し、形質転換を行うことにより作製される。
形質転換体を作製する場合する場合、上記組換えバクターを宿主に導入することにより行われるが、これにはそれ自体公知のエレクトロポレーション法、プロトプラスト法、塩化カルシウム法 (スフェロプラスト法)などの手法を用いることができる。
また、形質転換体の作製に際しては、ベクターや宿主、高発現を誘導する誘導基質やプロモーター、オペレーター、エンハンサーなどの組み合わせを考慮して、これらを選択して用いることによって、ビリルビン酸化酵素産生能を有する形質転換体を作製することができる。
例えば、宿主としてEscherichia coli BL21株、ベクターとして、開始コドンATG、及びその上流にRBS、さらに上流にT7/T7lacプロモーターを含むpET19bベクターを使用した場合、得られるビリルビン酸化酵素遺伝子が導入された形質転換体は、良好なビリルビン酸化酵素の生産性を示している。
この例に限らず宿主やベクター、発現制御系などをうまく機能する様に組み合わせ用いることによって、ビリルビン酸化酵素遺伝子を高発現する微生物の作製が可能となる。
【0027】
(5)ビリルビン酸化酵素の製造
本発明において、目的のビリルビン酸化酵素は、上記ビリルビン酸化酵素遺伝子が導入された形質転換微生物を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。本発明の微生物を培地で培養する方法は、微生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。放線菌や細菌等の微生物を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0028】
上記で示した組み換え大腸菌の場合は当研究分野で通常用いる栄養培地で培養し、必要に応じてIPTGなどの誘導物質を加えることにより、大腸菌が増殖できる栄養培地中での酵素の高発現を行うことができる。例えば、通常の培養条件では、適宜、抗生物質を加えたLB培地(1.0 % ペプトン、0.5 % 乾燥酵母エキス、1.0 % NaClから成る) で37℃、8-12時間前培養し、この十分増殖した菌体を種菌として、新しいLB培地に容量比1-5 % 植菌、37℃、2-4時間本培養し、IPTGを加えさらに30℃で2-4時間培養する。
【0029】
培養後、目的のビリルビン酸化酵素が菌体内に生産される場合には、菌体を破砕することにより当該酵素タンパク質を抽出する。また、目的酵素タンパク質が菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からビリルビン酸化酵素を単離精製することができる。目的のビリルビン酸化酵素が得られたか否かは、SDS-PAGE等により確認することができる。
【0030】
(6)ビリルビンの定量
本発明のビリルビン酸化酵素は、ビリルビン酸化酵素の作用により試料中ビリルビンを酸化し、該酸化によって変化するビリルビンは試料溶液の吸光度の変化をもたらす。
本発明によれば、この光学的変化を測定することにより,試料中のビリルビン量を測定できる。吸光度の測定に用いる波長は400 nmから450 nmである。したがって、本発明のビリルビン酸化酵素は試料中のビリルビン定量用試薬として有用である。
また、本発明のピリルビン酸化酵素は、ビリルビン定量に用いる他の材料と組み合わせてビリルビン定量用試薬キットとしてもよく、キットとしては、ビリルビン酸化活性をもつbop 遺伝子から発現する酵素を含有するキットであれば特に限定されないが、例えば、該酵素にビリルビン測定試薬等を組み合わせたキットが挙げられる。
【0031】
これらの試薬やキットは、液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品、又は液状品の乾燥品(加熱乾燥及び/又は風乾及び/又は減圧乾燥等による)の形態で提供できる。液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品が好ましく、液状品、液状品の凍結乾燥品がより好ましく、液状品が最も好ましい。別の態様として、液状品の凍結物が好ましい場合もある。さらに別の態様としては、液状品の凍結乾燥が好ましい場合もある。また、上記したように、本発明のピリルビン酸化酵素は安定性が高く、特に安定剤を加えずに、試薬あるいはキットを構成することができる。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0033】
実施例1
まず、メタゲノムクローン E371 株からフォスミドDNA の塩基配列を決定し、それを鋳型としてbop 遺伝子(配列番号1)をPCRにより増幅し、pET19bベクター (Novagen社)
に導入した。PCRに用いたプライマーの配列は、次の通りである。24DNPoxi F-3 (5’-GGAATTCCATATGACAAAACTAACGCGACGC-3’(配列番号3))and 24DNPoxi R-3 (5’-CGGGATCCTCAGGCCCGAATCTCGAAATTA-3’(配列番号4))。pET19bベクターは開始コドンとするATGとその上流にRBS、さらに上流にT7/T7lacプロモーターを含むもので、用いる遺伝子をその開始コドンと読み枠に合わせて導入することにより、他菌株からの遺伝子でも効率的な発現が期待できるものである。構築したプラスミドを宿主としてEscherichia coli /BL21-E375株へ形質転換した。
【0034】
<形質転換大腸菌の培養とその細胞抽出液の調製>
作成したプラスミドを導入したEscherichia coli /BL21-E375を50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地に接種し、培養液の600nmの吸光度が0.6になったときにT7プロモーター誘導剤である1mMのIPTGを添加した。その後、37℃でさらに4時間培養し、遠心分離(150,000 G、1分、4℃)により集菌し、25ppmの塩化銅を含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH 8.5)で懸濁して超音波破砕機を用いて菌体を破砕した後、遠心分離(15,000 G、5分、4℃)し、上清を取得して細胞抽出液とした。
【0035】
<ビリルビン酸化活性を示す酵素の精製>
作成したプラスミドを導入したEscherichia coli /BL21-E375を50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地に接種し、37℃で一晩培養した。抗生物質を添加したLB 液体培地へ培養液を 60:1に希釈し、培養液の600nmの吸光度が0.6になったときにT7プロモーター誘導剤である1mMのIPTGを添加した。その後、37℃でさらに4時間培養し、遠心分離(4,000 G,15分, 4℃)により集菌し、ペレットを回収する。次に、1mg リゾチームを含む1 ml Lysis Buffer(50 mM NaH2PO4, 300 mM NaCl, 10 mM Imidazole, pH 8.0)へペレットを懸濁し、30分間の氷冷の後にソニケーターで氷上の微生物細胞を破壊する。遠心分離(10,000 G, 20分, 4℃)した後に上澄み液を回収し、20μl上澄み溶液を新しいチューブに移して、-20℃で保存する。一方、Ni-NTA spin column へ 600 μl Lysis Bufferを加え、遠心分離(700 G, 2分)した後にサンプルを Ni-NTA spin column へ加える。遠心分離(700 G, 2分)した後に600μl Wash Buffer を Ni-NTA spin column へ加えて再び遠心分離(700 G, 2分)し、カラムを新しいチューブに移す。さらにNi-NTA spin columnへ200μl Elution Buffer を加えて遠心分離した際にカラムから溶出された液を酵素溶液とした。
【0036】
実施例2
実施例1で得られた酵素溶液を用いて、該酵素の酵素学的性質を試験した。該試験においては、以下のビリルビン酸化活性測定法を用いた。
<ビリルビン酸化活性測定法>
1.5 mlチューブへ50 mM Britton & Robinson緩衝液(pH 7.5)で希釈したビリルビン溶液100μlを加え、100mM CuSO2溶液 0.5μlを添加した後に37℃で5分以上放置する。酵素溶液を加えてから吸光度計で440nmを2分間測定する。酵素活性は、37℃で 440 nmの吸収の減少の経時変化をモニターすることにより測定した(As)。盲検として失活した酵素液を用いて同一の操作を行って吸光度差を測定する(Ab)。酵素活性はAs−Abより求めた。
なお、本実験に使用した試薬類は、特に断らない限り、和光純薬工業社製、国際化学社製、シグマアルドリッチ社製など市販で容易に入手できるものを使用した。
【0037】
<ビリルビン酸化活性の銅イオン濃度依存性>
100 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5)、1 mMの基質(ABTS)加えた反応溶液中に、15μM-1.0 mMのCuSO4溶液を添加し、反応液の合計 200μlで活性を測定した。酵素はQIAGEN 社 Ni-NTA Spin Kitで抽出した酵素 2μlを加えて反応し、418nmの吸光度を2分間計測した。その結果、本酵素の活性は銅イオン濃度に依存していることが明らかとなった。
以下の性質検討の際に行った実験では、活性に必要な銅イオン濃度がほぼ飽和に達する0.5mM 硫酸銅を活性測定溶液に添加した。
【0038】
<ビリルビン酸化活性の至適pHの検討>
和光純薬工業(株)に対する至適pHを求めた。本酵素の活性の至適pHをpH2.5-9.5の範囲で測定した。50mM Britton & Robinson 緩衝液(50mMホウ酸、50mM酢酸、50mMリン酸の混合緩衝液で、水酸化ナトリウムによりpH調製した。)、0.5mM硫酸銅、50mMビリルビン溶液を含む活性測定液中に酵素液1μlを添加して、440nmの吸光度を2分間計測した。酵素はQIAGEN 社 Ni-NTA Spin Kitで抽出した酵素を使用した。その結果、図1に示すように、本酵素はpH 6-11付近に至適pHを持つことが判明した。
【0039】
<ビリルビン酸化活性の熱安定性>
酵素液5μlを各温度で30分間加熱し氷水に静置した。酵素活性を0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)、0.5 mM 硫酸銅、0.025mg/ml ビリルビンを含む反応液で測定した。図2に示すように、本酵素は90℃で加熱した場合においても、加熱処理していない場合と同程度の活性を維持していることが判明した。
【0040】
<高温でのビリルビン酸化活性>
酵素液を溶解した50 mM Britton & Robinson緩衝液(pH 7.5)を90℃、または80℃で保温し、一定時間ごとに一部を分取して氷水に静置した。50 mMビリルビンを含む50mM Britton & Robinson緩衝液(pH 7.5)100μlへ100mM CuSO4 溶液0.5μlを添加し、最後に上記の酵素液を添加して440nm の吸光度で酵素活性を測定した。酵素液は5μl添加した。図2に示すような活性の経時変化が得られた。本グラフから、本酵素は90℃において100分以上は安定であることが判明した。
【0041】
<ビリルビン酸化比活性>
50 mM Britton & Robinson緩衝液(pH 7.5)、0.5mM硫酸銅、50mMビリルビン溶液を含む活性測定液中に酵素液1μlを添加して、440nmの吸光度を2分間計測した。和光純薬工業(株)社製のビリルビンに対して2.5μmol/min/mgであった。
【0042】
<分子量>
SDS-PAGEによる測定値は、分子量59,000であった。なお,配列番号2のアミノ酸一次配列から計算された分子量は58,485である。
【0043】
実施例3
<ビリルビン酸化酵素を用いたビリルビンの定量>
和光純薬工業(株)のビリルビンを0.2M NaOHで希釈して10、50、100mMの検量線用ビリルビン標準液を調製した。50 mM Britton & Robinson 緩衝液(pH 7.5)、0.5mM 硫酸銅、ビリルビン溶液を含む活性測定液中に実施例1で得られた酵素液1μlを添加して、440nmの吸光度を2分間計測した。その結果、図3に示すようにビリルビン濃度と波長440nmでの吸光度の変化量はR=0.9932で直線状にプロットされ、波長440nmの吸光度変化測定でビリルビンを定量できた。しかも、定量結果は極めて正確であった。
【受託番号】
【0044】
FERM P−21900
【配列表フリーテキスト】
【0045】
配列番号1:bop遺伝子のDNA塩基配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるか、または(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加された配列を含み、かつ、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項3】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA。
(b)配列番号1に示される塩基配列あるいは該配列と相補の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列を含み、かつ、ビリルビン酸化活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項4】
請求項2または3に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項5】
請求項4記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からビリルビン酸化酵素を採取することを特徴とする、ビリルビン酸化酵素の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のタンパク質を少なくとも有効成分として含有するビリルビン定量用試薬。
【請求項8】
請求項1に記載のタンパク質の一定量とビリルビン含有被験試料とを接触させ、吸光度を測定することを特徴とする、該試料中のビリルビンの定量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−188752(P2011−188752A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55221(P2010−55221)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】