ビル風低減用工作物
【課題】通路や遊歩道、エントランス付近等の建物動線に干渉する位置に設置することができて通行する人の邪魔にならず、ビル風低減用工作物の下部領域においても所定の防風効果が得られるビル風低減用工作物を提供すること。
【解決手段】建物周囲に設置されるビル風低減用工作物を、複数本の部材からなるフレームと、該フレームの外面又は内面に固定設置された強風に対する抵抗要素とから構成し、ビル風低減用工作物のフレームが下方から上方に向かって拡大していて、抵抗要素のフレームの外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等程度あるいはそれ以上となるようにされている。
【解決手段】建物周囲に設置されるビル風低減用工作物を、複数本の部材からなるフレームと、該フレームの外面又は内面に固定設置された強風に対する抵抗要素とから構成し、ビル風低減用工作物のフレームが下方から上方に向かって拡大していて、抵抗要素のフレームの外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等程度あるいはそれ以上となるようにされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模な建築物近傍において局所的に発生するビル風を低減するために、建築物近傍に設置するビル風低減用工作物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビル風低減策として建物周辺に樹木を配置することが行われている。
この場合樹木は、常緑樹であって高さ数m以上の高木とすることが前提とされるが、強風領域に対して数本以上まとめて配置しなければ十分な防風効果は得られない。
このため、通路や遊歩道、エントランス付近等の建物動線に干渉する位置には設置することができない。
また、樹種等によっては、樹冠より下の幹のみの部位において防風効果が低下する場合がある。
さらに、建物竣工直後には樹木の生育が十分でない場合が多いことから、樹木が十分な防風効果を発揮するまでには一定の期間を要する。
当然のことながら、防風対策樹木が設置される場所は強風領域であることから、強風環境下で樹木の生育が妨げられることが多い。
【0003】
一方、防風対策としてフェンス・ネット等の工作物を配置する場合、これら工作物は、植栽や樹木に比べて安定した防風効果が見込めるものの、面的な部材であることから、面垂直方向の気流にのみ効果があるといったように、防風効果が見込める有効な風向きが限定される。
【0004】
そこでフェンス・ネット等の工作物に代わるものとして、次の2つのものが提案されている。
1つは、特許第2649290号公報に記載された従来技術1の、高層建物51の隅角部に発生する強風Bを防ぎ、歩行者を強風から保護して安全性を確保するとともに、ビル風が強くないときには直射日光が当たり開放感を味わえるビル風防護装置52を提供することを目的として、
高層建物の隅角部の歩道上を覆うためのスポーク53とその間に扇状に張設された布地とからなる傘部54と、
高層建物の隅角部に設けられ傘部54を収納する収納空間55と、
傘部を収納空間55から歩道上に繰出す繰出し駆動又は傘部を収納空間55に収納する収動駆動する駆動装置56と、
隅角部の風速を検出する風速センサ57と、
この風速センサの検出データに基づいて駆動装置を制御することにより風速が所定値以上のときに傘部を繰出す一方、風速が所定値以下のときに傘部を収納空間に収納させる制御装置58と、
から構成されるビル風防護装置52である。
【0005】
このビル風防護装置52は、基本的には高層建物の隅角部の剥離に伴う吹き降ろしに対応できるが、高層建物風上面の中央下部に発生する逆流・道路風・ピロティ風に対する有効性は限定的である。
また、傘部54はスポーク53とその間に扇状に張設された布地とからなる上下幅の小さいものなので、横風に対しては防風効果を期待できず、強い吹き降ろし風に対しては耐久性の面で問題がある。
さらに、ビル風防護装置52は、傘部54を収納空間55から歩道上に繰出す繰出し駆動又は傘部を収納空間に収納する収動駆動する駆動装置56と制御装置58とを備える複雑高度のものであって、これを強風環境下に設置して長い期間使用しようとすると、装置自体頑強なものとする必要があることから、製作、メンテナンスの両面からコストアップ要因を内包している。また、風速センサ57、駆動装置56、制御装置58とを備えているので、停電時においては作動不能である。
さらにまた、建物51外壁部に傘部の収納空間55を形成する必要があることから、外壁の構成が複雑になるとともに、建物有効面積が減少するという問題もある。
【0006】
2つは、特許第3496502号公報に記載された従来技術2の、簡単な構造にして、防風効果を施工後直ちに発揮し、狭い設置場所で地盤条件および環境を選ばず、かつメンテナンスを容易にする防風装置61を提供することを目的として、
地面から立設する支柱62と、
帯状板63を用いてこれの幅方向Wが上下となり、上下X方向中央部を最大径部64としてこの最大径部から上下端部に向かって徐々に縮径して全体として紡錘形になるように、螺旋状に巻回して形成され、その上下端部が上記支柱62に取付けられて該支柱の外側を囲繞して設けられる螺旋抵抗体65と、
この螺旋抵抗体65の最大径部64の内側に設けられ、この螺旋抵抗体65の内方を上下方向に仕切るとともに、上記支柱62に対して上下X方向に相対移動自在に配置される抵抗板66と、
を備えた防風装置61である。
【0007】
この防風装置61は、構成部材の弾性変形により風力エネルギーを吸収するものである。ビル風の問題は、地震や台風等の稀に起こる外乱と異なり、日常的に発生する現象であることから、年間何十日というオーダーで防風機能が要求されることになる。建物の供用期間を考慮すると、この防風装置は膨大な回数に及ぶ変形を強いられることにより、接合部等において疲労による性能劣化及び破壊が懸念される。
また、螺旋抵抗体65や抵抗板66は風によって絶えず動作するものであるから、地上から適宜距離H離間する必要があるので、地上近辺の強風に対する防風効果は全く得られない。
【0008】
上記した植栽を除くフェンス・ネット・傘・螺旋抵抗体や抵抗板等の従来技術はいずれも、ほとんどが金属部材から構成される工作物であり、意匠性や景観配慮の観点から実際に使用される例が極めて稀である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2649290号公報
【特許文献2】特許第3496502号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ビル風の基礎知識、風工学研究所編、2005年12月、鹿島出版会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した種々の課題を解決するために創作されたもので、通路や遊歩道、エントランス付近等の建物動線に干渉する位置に設置することができて通行する人の邪魔にならず、ビル風低減用工作物の下部領域においても所定の防風効果が得られ、工作物設置工事完了後直ちに十分な防風効果を発揮し、あらゆる風向きにも防風効果が見込め、工作物の製作費用を安価にしつつ耐久性を確保し、停電等の緊急時においても有効に機能し、建物の有効面積に影響を与えず、人工のビル風低減用工作物でありながら植栽の防風効果と同等あるいはそれ以上の効果を得られ、工作物近傍を行き交う人々に対して安全であり、ヒートアイランド作用に対する抑制効果をも発揮し得るビル風低減用工作物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、建物周囲に設置されるビル風低減用工作物を、複数本の部材からなるフレームと該フレームの外面又は内面に固定設置された強風に対する抵抗要素とから構成し、該抵抗要素の前記フレームの外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等以上となるようにした。
【0013】
請求項2に係る発明は、ビル風低減用工作物のフレームが下方から上方に向かって拡大していることを特徴としている。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記横方向部材を円形又は多角形の環状部材としたことを特徴としている。
【0015】
請求項4に係る発明は、抵抗要素が、金属パネル、プラスチックパネル、プラスチックネット等の人工物、及び/又は、プランタ、ポット等の植栽基盤ユニットを用いた低木類、地被類等の常緑性の植物であることを特徴としている。
【0016】
請求項に5係る発明は、給水装置を具備していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、建物周囲に設置されるビル風低減用工作物を、複数本の部材からなるフレームと該フレームの外面又は内面に固定設置された強風に対する抵抗要素とから構成し、該抵抗要素の前記フレームの外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等以上となるようにしたので、ビル風低減用工作物を、通路や遊歩道、エントランス付近等の建物動線に干渉する位置を含む、その建物にとって防風対策を講じる必要がある最良の箇所に設置することができる。
したがって、ビル風低減用工作物は建物のどの位置に設置しても、通行する人の邪魔にならないばかりでなく、動作を伴う部材を備えていないから、工作物近傍を行き交う人々に対して安全である。
【0018】
また、ビル風低減用工作物の下部領域、すなわち、樹木の枝葉のない領域に相当する地表面においても樹木の防風機能を超える所定の防風効果が得られる。
さらに、樹木と異なり工作物設置工事完了後直ちに十分な防風効果を発揮し、樹木と略同様あらゆる風向きにも防風効果が見込める。
さらにまた、複数本の部材からなるフレームを基本的構成としているので、強風に耐え得る耐久性を備えることができ、電動部品を使用していないことから、停電等の緊急時においても有効に機能する。
また、建物壁部に装置を収納する空間を確保する必要がないことから、建物の有効面積に影響を与えず、人工のビル風低減用工作物でありながら植栽の防風効果と同等あるいはそれ以上の効果を得られる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、ビル風低減用工作物のフレームが下方から上方に向かって拡大していることから、その下方領域のフレーム径を小さくして通路の有効幅を大きくすることができる一方、上方領域での強風を幅広く有効に減速することができる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、部材のうち横方向の部材を円形の環状部材としたときは、隣接するフレームの高さを異ならせ、横方向部材を多角形の環状部材としたときは、フレーム高さを同じにして、それらを可能な限り寄せ合って配置することにより、フレームの配置密度を上げることができ、高い防風効果を得ることができる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、抵抗要素を金属パネル、プラスチックパネル、プラスチックネット等の人工物としたので、簡単にビル風低減用工作物を製作することができ、また、抵抗要素をプランタ、ポット等の植栽基盤ユニットを用いた低木類、地被類等の常緑性の植物を含むものとしたときは、ヒートアイランド現象に対する冷却効果をも発揮し得るビル風低減用工作物を提供することができる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、ビル風低減用工作物が給水装置を具備しているので、常緑性の植物を配置しない場合であっても、夏期等の高温時に工作物に沿って水が流れ落ちるように給水することによって、ヒートアイランド現象に対する冷却効果をも発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】大規模な建築物近傍において局所的に発生するビル風の種類と、建築物近傍に設置したビル風低減用工作物を示す概観図である。
【図2A】本発明のビル風低減用工作物の実施例に係る金属製フレームの透視(パース)図である。
【図2B】本発明のビル風低減用工作物の他の実施例に係る金属製フレームの図である。
【図3A】本発明の各種形状の金属製フレームに板状の抵抗要素を取付けた形態を示す図である。
【図3B】本発明の各種形状の金属製フレームに板状の抵抗要素を取付けた形態を示す図である。
【図4】本発明の金属製フレームに植物性の抵抗要素のみを取付けた形態を示す図である。
【図5】本発明の工作物中心鉛直断面の流入風速を1とした場合の風速比の空間分布を示す図である。
【図6】本発明に係るビル風低減用工作物3と樹木の防風効果について比較した図である。
【図7】従来技術1の高層建物の隅角部に設けられたビル風防護装置の斜視図である。
【図8】従来技術1の部分縦断面図である。
【図9】従来技術2の防風装置を示す斜視図である。
【図10】従来技術2の縦断面図である。
【実施例】
【0024】
図1乃至図6を参照して、本発明の実施例について説明する。
高層建物1に風が吹き付けられると、図1に示されるように、壁面に吹き付けられた風が上下左右に分かれ、下方に向かう風が渦を形成することにより発生する逆流Aや、建物に当たった風が風上面に沿って流れその後に建物の隅角部から剥離した剥離流と建物両サイドで上方から下方に向かう強い流れである吹き降ろしB、隣接する建物1、2間で強く流れる谷間風C等が発生する。
【0025】
これらの風は、建物近傍において強く吹くが、建物周囲には人が移動するための通路や遊歩道等の建物動線が、そして建物正面にはエントランスが設けられる場合が多い。
ところが、建物の実用上防風のための植栽は、これら建物動線やエントランスと干渉する位置に設置することができない。
その理由としては、防風対策としての植栽には、一般には高木と低木等との併用が推奨されていることから、高木の周辺にも低木等の植栽が配置されることとなり、物理的に人が通過することが困難となること、また、人が圧迫感を覚えずに通過するためには、その空間にはある程度のひろがりが必要であり、高木の場合、仮に樹冠の下をくぐり抜けることができたとしても、実際には通行動線とはなりにくいこと、さらには、数本以上まとまって樹木が配置される領域は、木陰となって暗くなり視認性が低下するため、敬遠されること等があげられる。
本発明に係るビル風低減用工作物3は、図1に示されるように、これら建物動線やエントランスと干渉する位置に設置可能なことを特徴としている。
【0026】
図2Aにビル風低減用工作物3のフレームを示す。
このフレーム4は、複数本の縦方向部材5と複数本の横方向部材である環状部材6とから構成されおり、この縦方向部材5と横方向環状部材6は、溶接あるいは十字接手等の緊締金具にて接合されている。
なお、本実施例では横方向部材を環状の部材にて構成しているが、直線状あるいは曲線状の部材を用いることもできる。
また、フレームの他の実施例としては、図2Bに示されるように、連続する1本の縦方向部材間に横方向部材を短尺の部材を段違いに配設した構造、横方向環状部材間に縦方向部材を千鳥状に配設した構造、トラスが上下方向に連続した構造、あるいは、ハニカム構造とすることもできる。
【0027】
この実施例のフレーム4は、ラッパ状に下方から上方に向かって拡径した形状としているが、図3A.aのような単純な円筒形、図3A.bの倒立裁頭円錐形、図3B.dの頭部の径が脚部の径より大きい2段形以上の多段形としてもよい。
要は、上部の構造が下部の構造より大きい形状とされて拡大していればよい。
なお、図3B.dの2段形の頭部の形状は、隣接するフレーム4の外表面同士が密着しないように、図3A.bの倒立裁頭円錐形としてある。そして、この実施例では図示を省略しているが、頭部の下端部の横方向環状部材と脚部の上端部の横方向環状部材とは横方向部材により連結固定しているが、1本の直線部材を折り曲げ加工して形成してもよい。
さらに、上記横方向部材は、図3A、Bに示されるすべての形態のものの内部の任意の高さ位置において、対向する縦方向部材5間、又は、横方向環状部材6に直径方向に掛け渡すこともある。
また、横方向環状部材6は、平面視して円形又は四角、五角、六角等の多角形をしている。
横方向環状部材6が多角形の場合は、個々のフレーム4同士を密接して設置することができ、より防風効果を高めることが可能となる。
また、図3A.b〜図3B.dの形状をしたフレーム4を複数個設置してビル風低減用工作物3を構成すると、人が通行する地上付近での空間領域を広め、その上方の防風領域をも広めることができる。
【0028】
ビル風低減用工作物3をこのフレーム4のみで構成した場合、必ずしも防風効果は高くはない。
そこで、フレーム4内外面のいずれかには、抵抗要素7が千鳥格子状に着脱自在に固定設置されている。
このことにより、設置現場における風速の低減効果を考慮して、フレーム4の外形面に対する抵抗要素の占める割合である充実率を変更自在としている。
なお、抵抗要素7は、千鳥格子状に限らず、垂直方向と水平方向に連続的に並べて配置したり、その間に植物を配置する等充実率に応じて自由自在にレイアウトすればよい。
【0029】
この抵抗要素7は、金属パネル、プラスチックパネル、プラスチックネット等の人工物とすることができる。
また、図4に示すように、プランタ、ポット等の植栽基盤ユニットを用いたヒペリカム等の低木類やヘデラ等の地被類等の常緑性の植物とすることもできる。
さらに、両者を併用することもできる。
この場合、プランタ、ポット等の植栽基盤ユニットは、フレーム4や抵抗要素7に緊締金具にて固定し、強風下でも落下することが無いよう取り付けられる。
いずれの抵抗要素7を採用するかについては、当該高層建物が立地する市街地の都市計画やヒートアイランド対策の必要性等に応じて適宜決定される。
ヒペリカム等の低木類やヘデラ等の地被類等の常緑性の植物を用いる場合は、植物の成長に不可欠の水、栄養分を与えるために、従来公知の自動潅水装置を備えることが好ましい。
【0030】
また、図示を省略するが他の実施例として、本工作物に給水装置を具備することもできる。
この給水装置は、フレームの内側又は外側にフレームに沿って通常の有孔パイプが配管され、所定の温度を超え、かつ、所定の風速以下であることを条件として、自動給水するよう制御されるものとする。
【0031】
本明細書において、フレーム4の外形面とは、筒形のフレームを一枚の板状に展開した状態における面積を意味している。
図5に、本発明の図3A.aに示した実施例のビル風低減用工作物3についてのシミュレーション結果である、工作物の中心鉛直断面における流入風速を1とした場合の風速比の空間分布を示す。なお、このものの外形面に対する充実率は後述する理由から約50%としてある。
例えば、このビル風低減用工作物3が8mの高さを有しているとすると、この図をみて判るように、地上1mの風速は、風下約30mまでの範囲で0.2の風速に減速されていることが理解できる。
【0032】
ここで、抵抗要素7のフレーム4の外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等あるいはそれ以上となるように設定することが重要である。
図6に、本発明に係るビル風低減用工作物3と樹木の防風効果について比較するため、それら対策物の風下における風速比分布を示す。
ここで、本発明の工作物の風速比は図5に示した、対策物の高さをHとしてその2H後方の風速比の値をそのまま用い、樹木の風速比は段落0010で既に述べた非特許文献1のP77の図7.3の風速比の値を用いた。
なお、データの都合上、文献値1は2H後方の風速比、文献値2は2.4H後方の風速比の値としている。
横軸には流入風速を1とした場合の風速比を、縦軸には地面からの高さを対策物の高さで除した値をとっている。
【0033】
これをみると、0.0Hより1.0H、すなわち、対策物の高さ以下の範囲では、本発明のビル風低減用工作物3は樹木と同等程度の、あるいは、同等以上の防風性能を備えていることが理解できる。
ただし、当然のことながら、個々の防風対策物の効果については、対策物の形状・規模・配置あるいは風速・風向等によって効果にばらつきがあり、また、効果を検証するための計測や解析についてもその精度にばらつきがあることを考慮すると、本図で一義的に風速低減率を示すことは困難である。
故に、ここでは、本発明の一実施例と、従来技術である防風樹木の一例との比較により、両方ともに後方の広い範囲で風速を低減させる効果があることを示している。
【0034】
このように、本発明に係るビル風低減用工作物は、樹木の防風効果に勝るとも劣らない性能を発揮することができる。
したがって、今まで樹木を植えることができなかった、人が移動するための通路や遊歩道等の建物動線及び建物正面のエントランスに、本発明のビル風低減用工作物を設置することが可能となったことから、高層建物に近接する領域で発生する強風に対して、安定した効果を有し且つ配置の自由度が高い防風対策を講じることができるようになった。
【符号の説明】
【0035】
1 高層建物
2 隣接建物
3 ビル風低減用工作物
4 フレーム
5 縦方向棒状部材
6 横方向環状部材
7 抵抗要素
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模な建築物近傍において局所的に発生するビル風を低減するために、建築物近傍に設置するビル風低減用工作物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビル風低減策として建物周辺に樹木を配置することが行われている。
この場合樹木は、常緑樹であって高さ数m以上の高木とすることが前提とされるが、強風領域に対して数本以上まとめて配置しなければ十分な防風効果は得られない。
このため、通路や遊歩道、エントランス付近等の建物動線に干渉する位置には設置することができない。
また、樹種等によっては、樹冠より下の幹のみの部位において防風効果が低下する場合がある。
さらに、建物竣工直後には樹木の生育が十分でない場合が多いことから、樹木が十分な防風効果を発揮するまでには一定の期間を要する。
当然のことながら、防風対策樹木が設置される場所は強風領域であることから、強風環境下で樹木の生育が妨げられることが多い。
【0003】
一方、防風対策としてフェンス・ネット等の工作物を配置する場合、これら工作物は、植栽や樹木に比べて安定した防風効果が見込めるものの、面的な部材であることから、面垂直方向の気流にのみ効果があるといったように、防風効果が見込める有効な風向きが限定される。
【0004】
そこでフェンス・ネット等の工作物に代わるものとして、次の2つのものが提案されている。
1つは、特許第2649290号公報に記載された従来技術1の、高層建物51の隅角部に発生する強風Bを防ぎ、歩行者を強風から保護して安全性を確保するとともに、ビル風が強くないときには直射日光が当たり開放感を味わえるビル風防護装置52を提供することを目的として、
高層建物の隅角部の歩道上を覆うためのスポーク53とその間に扇状に張設された布地とからなる傘部54と、
高層建物の隅角部に設けられ傘部54を収納する収納空間55と、
傘部を収納空間55から歩道上に繰出す繰出し駆動又は傘部を収納空間55に収納する収動駆動する駆動装置56と、
隅角部の風速を検出する風速センサ57と、
この風速センサの検出データに基づいて駆動装置を制御することにより風速が所定値以上のときに傘部を繰出す一方、風速が所定値以下のときに傘部を収納空間に収納させる制御装置58と、
から構成されるビル風防護装置52である。
【0005】
このビル風防護装置52は、基本的には高層建物の隅角部の剥離に伴う吹き降ろしに対応できるが、高層建物風上面の中央下部に発生する逆流・道路風・ピロティ風に対する有効性は限定的である。
また、傘部54はスポーク53とその間に扇状に張設された布地とからなる上下幅の小さいものなので、横風に対しては防風効果を期待できず、強い吹き降ろし風に対しては耐久性の面で問題がある。
さらに、ビル風防護装置52は、傘部54を収納空間55から歩道上に繰出す繰出し駆動又は傘部を収納空間に収納する収動駆動する駆動装置56と制御装置58とを備える複雑高度のものであって、これを強風環境下に設置して長い期間使用しようとすると、装置自体頑強なものとする必要があることから、製作、メンテナンスの両面からコストアップ要因を内包している。また、風速センサ57、駆動装置56、制御装置58とを備えているので、停電時においては作動不能である。
さらにまた、建物51外壁部に傘部の収納空間55を形成する必要があることから、外壁の構成が複雑になるとともに、建物有効面積が減少するという問題もある。
【0006】
2つは、特許第3496502号公報に記載された従来技術2の、簡単な構造にして、防風効果を施工後直ちに発揮し、狭い設置場所で地盤条件および環境を選ばず、かつメンテナンスを容易にする防風装置61を提供することを目的として、
地面から立設する支柱62と、
帯状板63を用いてこれの幅方向Wが上下となり、上下X方向中央部を最大径部64としてこの最大径部から上下端部に向かって徐々に縮径して全体として紡錘形になるように、螺旋状に巻回して形成され、その上下端部が上記支柱62に取付けられて該支柱の外側を囲繞して設けられる螺旋抵抗体65と、
この螺旋抵抗体65の最大径部64の内側に設けられ、この螺旋抵抗体65の内方を上下方向に仕切るとともに、上記支柱62に対して上下X方向に相対移動自在に配置される抵抗板66と、
を備えた防風装置61である。
【0007】
この防風装置61は、構成部材の弾性変形により風力エネルギーを吸収するものである。ビル風の問題は、地震や台風等の稀に起こる外乱と異なり、日常的に発生する現象であることから、年間何十日というオーダーで防風機能が要求されることになる。建物の供用期間を考慮すると、この防風装置は膨大な回数に及ぶ変形を強いられることにより、接合部等において疲労による性能劣化及び破壊が懸念される。
また、螺旋抵抗体65や抵抗板66は風によって絶えず動作するものであるから、地上から適宜距離H離間する必要があるので、地上近辺の強風に対する防風効果は全く得られない。
【0008】
上記した植栽を除くフェンス・ネット・傘・螺旋抵抗体や抵抗板等の従来技術はいずれも、ほとんどが金属部材から構成される工作物であり、意匠性や景観配慮の観点から実際に使用される例が極めて稀である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2649290号公報
【特許文献2】特許第3496502号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ビル風の基礎知識、風工学研究所編、2005年12月、鹿島出版会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した種々の課題を解決するために創作されたもので、通路や遊歩道、エントランス付近等の建物動線に干渉する位置に設置することができて通行する人の邪魔にならず、ビル風低減用工作物の下部領域においても所定の防風効果が得られ、工作物設置工事完了後直ちに十分な防風効果を発揮し、あらゆる風向きにも防風効果が見込め、工作物の製作費用を安価にしつつ耐久性を確保し、停電等の緊急時においても有効に機能し、建物の有効面積に影響を与えず、人工のビル風低減用工作物でありながら植栽の防風効果と同等あるいはそれ以上の効果を得られ、工作物近傍を行き交う人々に対して安全であり、ヒートアイランド作用に対する抑制効果をも発揮し得るビル風低減用工作物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、建物周囲に設置されるビル風低減用工作物を、複数本の部材からなるフレームと該フレームの外面又は内面に固定設置された強風に対する抵抗要素とから構成し、該抵抗要素の前記フレームの外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等以上となるようにした。
【0013】
請求項2に係る発明は、ビル風低減用工作物のフレームが下方から上方に向かって拡大していることを特徴としている。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記横方向部材を円形又は多角形の環状部材としたことを特徴としている。
【0015】
請求項4に係る発明は、抵抗要素が、金属パネル、プラスチックパネル、プラスチックネット等の人工物、及び/又は、プランタ、ポット等の植栽基盤ユニットを用いた低木類、地被類等の常緑性の植物であることを特徴としている。
【0016】
請求項に5係る発明は、給水装置を具備していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、建物周囲に設置されるビル風低減用工作物を、複数本の部材からなるフレームと該フレームの外面又は内面に固定設置された強風に対する抵抗要素とから構成し、該抵抗要素の前記フレームの外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等以上となるようにしたので、ビル風低減用工作物を、通路や遊歩道、エントランス付近等の建物動線に干渉する位置を含む、その建物にとって防風対策を講じる必要がある最良の箇所に設置することができる。
したがって、ビル風低減用工作物は建物のどの位置に設置しても、通行する人の邪魔にならないばかりでなく、動作を伴う部材を備えていないから、工作物近傍を行き交う人々に対して安全である。
【0018】
また、ビル風低減用工作物の下部領域、すなわち、樹木の枝葉のない領域に相当する地表面においても樹木の防風機能を超える所定の防風効果が得られる。
さらに、樹木と異なり工作物設置工事完了後直ちに十分な防風効果を発揮し、樹木と略同様あらゆる風向きにも防風効果が見込める。
さらにまた、複数本の部材からなるフレームを基本的構成としているので、強風に耐え得る耐久性を備えることができ、電動部品を使用していないことから、停電等の緊急時においても有効に機能する。
また、建物壁部に装置を収納する空間を確保する必要がないことから、建物の有効面積に影響を与えず、人工のビル風低減用工作物でありながら植栽の防風効果と同等あるいはそれ以上の効果を得られる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、ビル風低減用工作物のフレームが下方から上方に向かって拡大していることから、その下方領域のフレーム径を小さくして通路の有効幅を大きくすることができる一方、上方領域での強風を幅広く有効に減速することができる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、部材のうち横方向の部材を円形の環状部材としたときは、隣接するフレームの高さを異ならせ、横方向部材を多角形の環状部材としたときは、フレーム高さを同じにして、それらを可能な限り寄せ合って配置することにより、フレームの配置密度を上げることができ、高い防風効果を得ることができる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、抵抗要素を金属パネル、プラスチックパネル、プラスチックネット等の人工物としたので、簡単にビル風低減用工作物を製作することができ、また、抵抗要素をプランタ、ポット等の植栽基盤ユニットを用いた低木類、地被類等の常緑性の植物を含むものとしたときは、ヒートアイランド現象に対する冷却効果をも発揮し得るビル風低減用工作物を提供することができる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、ビル風低減用工作物が給水装置を具備しているので、常緑性の植物を配置しない場合であっても、夏期等の高温時に工作物に沿って水が流れ落ちるように給水することによって、ヒートアイランド現象に対する冷却効果をも発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】大規模な建築物近傍において局所的に発生するビル風の種類と、建築物近傍に設置したビル風低減用工作物を示す概観図である。
【図2A】本発明のビル風低減用工作物の実施例に係る金属製フレームの透視(パース)図である。
【図2B】本発明のビル風低減用工作物の他の実施例に係る金属製フレームの図である。
【図3A】本発明の各種形状の金属製フレームに板状の抵抗要素を取付けた形態を示す図である。
【図3B】本発明の各種形状の金属製フレームに板状の抵抗要素を取付けた形態を示す図である。
【図4】本発明の金属製フレームに植物性の抵抗要素のみを取付けた形態を示す図である。
【図5】本発明の工作物中心鉛直断面の流入風速を1とした場合の風速比の空間分布を示す図である。
【図6】本発明に係るビル風低減用工作物3と樹木の防風効果について比較した図である。
【図7】従来技術1の高層建物の隅角部に設けられたビル風防護装置の斜視図である。
【図8】従来技術1の部分縦断面図である。
【図9】従来技術2の防風装置を示す斜視図である。
【図10】従来技術2の縦断面図である。
【実施例】
【0024】
図1乃至図6を参照して、本発明の実施例について説明する。
高層建物1に風が吹き付けられると、図1に示されるように、壁面に吹き付けられた風が上下左右に分かれ、下方に向かう風が渦を形成することにより発生する逆流Aや、建物に当たった風が風上面に沿って流れその後に建物の隅角部から剥離した剥離流と建物両サイドで上方から下方に向かう強い流れである吹き降ろしB、隣接する建物1、2間で強く流れる谷間風C等が発生する。
【0025】
これらの風は、建物近傍において強く吹くが、建物周囲には人が移動するための通路や遊歩道等の建物動線が、そして建物正面にはエントランスが設けられる場合が多い。
ところが、建物の実用上防風のための植栽は、これら建物動線やエントランスと干渉する位置に設置することができない。
その理由としては、防風対策としての植栽には、一般には高木と低木等との併用が推奨されていることから、高木の周辺にも低木等の植栽が配置されることとなり、物理的に人が通過することが困難となること、また、人が圧迫感を覚えずに通過するためには、その空間にはある程度のひろがりが必要であり、高木の場合、仮に樹冠の下をくぐり抜けることができたとしても、実際には通行動線とはなりにくいこと、さらには、数本以上まとまって樹木が配置される領域は、木陰となって暗くなり視認性が低下するため、敬遠されること等があげられる。
本発明に係るビル風低減用工作物3は、図1に示されるように、これら建物動線やエントランスと干渉する位置に設置可能なことを特徴としている。
【0026】
図2Aにビル風低減用工作物3のフレームを示す。
このフレーム4は、複数本の縦方向部材5と複数本の横方向部材である環状部材6とから構成されおり、この縦方向部材5と横方向環状部材6は、溶接あるいは十字接手等の緊締金具にて接合されている。
なお、本実施例では横方向部材を環状の部材にて構成しているが、直線状あるいは曲線状の部材を用いることもできる。
また、フレームの他の実施例としては、図2Bに示されるように、連続する1本の縦方向部材間に横方向部材を短尺の部材を段違いに配設した構造、横方向環状部材間に縦方向部材を千鳥状に配設した構造、トラスが上下方向に連続した構造、あるいは、ハニカム構造とすることもできる。
【0027】
この実施例のフレーム4は、ラッパ状に下方から上方に向かって拡径した形状としているが、図3A.aのような単純な円筒形、図3A.bの倒立裁頭円錐形、図3B.dの頭部の径が脚部の径より大きい2段形以上の多段形としてもよい。
要は、上部の構造が下部の構造より大きい形状とされて拡大していればよい。
なお、図3B.dの2段形の頭部の形状は、隣接するフレーム4の外表面同士が密着しないように、図3A.bの倒立裁頭円錐形としてある。そして、この実施例では図示を省略しているが、頭部の下端部の横方向環状部材と脚部の上端部の横方向環状部材とは横方向部材により連結固定しているが、1本の直線部材を折り曲げ加工して形成してもよい。
さらに、上記横方向部材は、図3A、Bに示されるすべての形態のものの内部の任意の高さ位置において、対向する縦方向部材5間、又は、横方向環状部材6に直径方向に掛け渡すこともある。
また、横方向環状部材6は、平面視して円形又は四角、五角、六角等の多角形をしている。
横方向環状部材6が多角形の場合は、個々のフレーム4同士を密接して設置することができ、より防風効果を高めることが可能となる。
また、図3A.b〜図3B.dの形状をしたフレーム4を複数個設置してビル風低減用工作物3を構成すると、人が通行する地上付近での空間領域を広め、その上方の防風領域をも広めることができる。
【0028】
ビル風低減用工作物3をこのフレーム4のみで構成した場合、必ずしも防風効果は高くはない。
そこで、フレーム4内外面のいずれかには、抵抗要素7が千鳥格子状に着脱自在に固定設置されている。
このことにより、設置現場における風速の低減効果を考慮して、フレーム4の外形面に対する抵抗要素の占める割合である充実率を変更自在としている。
なお、抵抗要素7は、千鳥格子状に限らず、垂直方向と水平方向に連続的に並べて配置したり、その間に植物を配置する等充実率に応じて自由自在にレイアウトすればよい。
【0029】
この抵抗要素7は、金属パネル、プラスチックパネル、プラスチックネット等の人工物とすることができる。
また、図4に示すように、プランタ、ポット等の植栽基盤ユニットを用いたヒペリカム等の低木類やヘデラ等の地被類等の常緑性の植物とすることもできる。
さらに、両者を併用することもできる。
この場合、プランタ、ポット等の植栽基盤ユニットは、フレーム4や抵抗要素7に緊締金具にて固定し、強風下でも落下することが無いよう取り付けられる。
いずれの抵抗要素7を採用するかについては、当該高層建物が立地する市街地の都市計画やヒートアイランド対策の必要性等に応じて適宜決定される。
ヒペリカム等の低木類やヘデラ等の地被類等の常緑性の植物を用いる場合は、植物の成長に不可欠の水、栄養分を与えるために、従来公知の自動潅水装置を備えることが好ましい。
【0030】
また、図示を省略するが他の実施例として、本工作物に給水装置を具備することもできる。
この給水装置は、フレームの内側又は外側にフレームに沿って通常の有孔パイプが配管され、所定の温度を超え、かつ、所定の風速以下であることを条件として、自動給水するよう制御されるものとする。
【0031】
本明細書において、フレーム4の外形面とは、筒形のフレームを一枚の板状に展開した状態における面積を意味している。
図5に、本発明の図3A.aに示した実施例のビル風低減用工作物3についてのシミュレーション結果である、工作物の中心鉛直断面における流入風速を1とした場合の風速比の空間分布を示す。なお、このものの外形面に対する充実率は後述する理由から約50%としてある。
例えば、このビル風低減用工作物3が8mの高さを有しているとすると、この図をみて判るように、地上1mの風速は、風下約30mまでの範囲で0.2の風速に減速されていることが理解できる。
【0032】
ここで、抵抗要素7のフレーム4の外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等あるいはそれ以上となるように設定することが重要である。
図6に、本発明に係るビル風低減用工作物3と樹木の防風効果について比較するため、それら対策物の風下における風速比分布を示す。
ここで、本発明の工作物の風速比は図5に示した、対策物の高さをHとしてその2H後方の風速比の値をそのまま用い、樹木の風速比は段落0010で既に述べた非特許文献1のP77の図7.3の風速比の値を用いた。
なお、データの都合上、文献値1は2H後方の風速比、文献値2は2.4H後方の風速比の値としている。
横軸には流入風速を1とした場合の風速比を、縦軸には地面からの高さを対策物の高さで除した値をとっている。
【0033】
これをみると、0.0Hより1.0H、すなわち、対策物の高さ以下の範囲では、本発明のビル風低減用工作物3は樹木と同等程度の、あるいは、同等以上の防風性能を備えていることが理解できる。
ただし、当然のことながら、個々の防風対策物の効果については、対策物の形状・規模・配置あるいは風速・風向等によって効果にばらつきがあり、また、効果を検証するための計測や解析についてもその精度にばらつきがあることを考慮すると、本図で一義的に風速低減率を示すことは困難である。
故に、ここでは、本発明の一実施例と、従来技術である防風樹木の一例との比較により、両方ともに後方の広い範囲で風速を低減させる効果があることを示している。
【0034】
このように、本発明に係るビル風低減用工作物は、樹木の防風効果に勝るとも劣らない性能を発揮することができる。
したがって、今まで樹木を植えることができなかった、人が移動するための通路や遊歩道等の建物動線及び建物正面のエントランスに、本発明のビル風低減用工作物を設置することが可能となったことから、高層建物に近接する領域で発生する強風に対して、安定した効果を有し且つ配置の自由度が高い防風対策を講じることができるようになった。
【符号の説明】
【0035】
1 高層建物
2 隣接建物
3 ビル風低減用工作物
4 フレーム
5 縦方向棒状部材
6 横方向環状部材
7 抵抗要素
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の部材からなるフレームと該フレームの外面又は内面に固定設置された強風に対する抵抗要素とから構成され、該抵抗要素の前記フレームの外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等以上となるようにされた建物周囲に設置されるビル風低減用工作物。
【請求項2】
前記フレームは、下方から上方に向かって拡大していることを特徴とする請求項1に記載されたビル風低減用工作物。
【請求項3】
前記部材の横方向の部材は、円形又は多角形の環状部材であることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載されたビル風低減用工作物。
【請求項4】
前記抵抗要素は、金属パネル、プラスチックパネル、プラスチックネット等の人工物、及び/又はプランタ、ポット等の植栽基盤ユニットを用いた低木類、地被類等の常緑性の植物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたビル風低減用工作物。
【請求項5】
給水装置が具備されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載されたビル風低減用工作物。
【請求項1】
複数本の部材からなるフレームと該フレームの外面又は内面に固定設置された強風に対する抵抗要素とから構成され、該抵抗要素の前記フレームの外形面に対する充実率は、樹木の防風性能と同等以上となるようにされた建物周囲に設置されるビル風低減用工作物。
【請求項2】
前記フレームは、下方から上方に向かって拡大していることを特徴とする請求項1に記載されたビル風低減用工作物。
【請求項3】
前記部材の横方向の部材は、円形又は多角形の環状部材であることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載されたビル風低減用工作物。
【請求項4】
前記抵抗要素は、金属パネル、プラスチックパネル、プラスチックネット等の人工物、及び/又はプランタ、ポット等の植栽基盤ユニットを用いた低木類、地被類等の常緑性の植物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたビル風低減用工作物。
【請求項5】
給水装置が具備されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載されたビル風低減用工作物。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−236234(P2010−236234A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84360(P2009−84360)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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