説明

ビンフルニンジタルトレートの結晶形態

本発明は、ビンフルニンの新規な結晶形態、その製造方法、および治療分野、特に癌治療におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビンフルニンの新規な結晶形態、それを得る方法、および治療分野におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビンフルニンは、ビンブラスチンおよびビンクリスチンファミリーのインドール誘導体である。
【化1】

【0003】
これらの化合物は、ニチニチソウ(Catharanthus roseus)から抽出される抗有糸分裂性アルカロイドの部分を形成し、抗癌化学療法に多年にわたって用いられてきた。植物から抽出によってこれらの誘導体を得ることが困難であるため、幾つかの研究グループは同じ特性を有する同様な新規物質を同定し、半合成によりそれらを得る方法を開発した。このようにして、ビンデシンおよびビノレルビン(Navelbine)が得られ、癌治療の目的で発売されている。これらの化合物の化学構造は、2種類のアルカロイドモノマーであるカタランチンとビンドリンとの組合せを主要な特徴として有している。
【化2】

【0004】
ビノレルビンを得るための新規な合成経路の開発に関して、超酸媒質中のこの化合物の反応性により、新規分子である20′,20′−ジフルオロ−3′,4′−ジヒドロビノレルビンまたはビンフルニン(WO95/03312)が同定された。この化合物の治療的価値も、これらの研究中にチェックされた。
【0005】
ビンフルニンの正確なコンホメーションは、H NMRおよび13C NMR分光法の様々な方法によって研究された (Magn. Reson. Chem., 2001, 39, pp. 43-48)。この方法は、溶液状態でのビンフルニンジタルトレートについて行った。しかしながら、この塩は吸湿性を有しており、固形物形態でのその安定性が制限され、工業的製造の際に不利な条件となる。現在までのところ、これはアモルファス粉末状固形物の形態でのみ単離されており、−15℃を下回るマイナス温度で不活性ガス雰囲気下、例えば窒素またはアルゴン下で保管しなければならない。この化合物は取扱いや保管が困難であり、固形物状態の物理的安定性を向上させる任意の形態であれば、製造、保管および包装方法が簡略になる。
【0006】
通常は、アモルファス化合物の結晶化は大きな問題点を示す可能性があり、最高の結晶を得ることは常に疑問となっている。しかしながら、この種の固形物形態により、アモルファス形態の多数の欠点を克服することができる。特に、これは水を余り保持せず、その安定性が経時的に向上し、特にケーキとして凝集する蛍光が減少することにより工業的製造過程中のその扱いが容易になり、流動性が向上する。これは、更に様々な生薬形態を考え、その製造および取扱いを容易にすることもできる。
【0007】
本発明者は、適当な溶媒系を用いることによってビンフルニンジタルトレートを結晶化することができることを明らかにした。
【0008】
従って、本発明の一つの主題は、下記式(I)の結晶性ビンフルニンジタルトレートである:
【化3】

【0009】
好ましくは、本発明は、水和形態の結晶性ビンフルニンジタルトレートに関する。水分子の数は、2〜6であり、好ましくは3〜6であり、例えば2、3、4、5または6であることがある。
【0010】
本発明によるビンフルニンジタルトレートは、好都合にはKBrでの赤外スペクトルが約1730cm−1に1個の吸収ピーク、1330〜1420cm−1に数個の吸収帯、1275〜1185cm−1に1個の吸収帯、および1160〜1030cm−1に2個の吸収帯を示す。
【0011】
好都合な一態様では、本発明の主題であるビンフルニンジタルトレートの°2θで表されるX線回折スペクトルは、約5.641; 6.529; 7.991; 8.673; 9.245; 9.831; 11.369; 11.844; 12.273; 13.931; 14.334; 15.105; 15.805; 16.132; 16.833; 17.127; 17.461; 18.073; 18.711 ; 18.960; 19.835; 20.087; 20.629; 21.226; 21.414; 22.940; 23.662; 24.329; 25.064; 25.323; 25.959; 26.339; 27.600; 28.272; 29.006; 29.792; 30.525の特徴的ピークを示す。
【0012】
アモルファス構造のビンフルニンジタルトレートは、様々な比率の水を含む溶媒中で結晶化させることができた。用いた溶媒は、通常の水混和性溶媒、主としてアルコールから選択される。この分子が脆弱であるため、結晶中には高温を回避する。
【0013】
従って、本発明はまた、結晶性ビンフルニンジタルトレートの製造方法であって、
ビンフルニンジタルトレートをアルコール/水混合物に溶解し、
溶媒混合物を室温で、外気中または真空下で徐々に蒸発させ、
生成した結晶を濾過して回収し、
結晶を洗浄し、真空下で乾燥する
工程を含んでなる方法に関する。
【0014】
本発明の実施に用いられるビンフルニンジタルトレートは、特許出願WO95/03312号公報に記載の方法によって得られる。
【0015】
好ましくは、用いられるアルコールは、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから選択される。
【0016】
上記のように、溶解温度は、分子の分解を回避するように制御すべきである。例えば、70℃を下回る温度、更に詳細には50℃の温度を選択するのが有利である。
【0017】
アモルファスビンフルニンジタルトレート粉末を溶解するのに用いられる溶媒は水混和性であり、アルコールから選択される。好都合には、アルコール/水比は容積で75/25〜100/0であり、好ましくは80/20である。
【0018】
溶媒の量は、当業者が調節する必要があり、好ましくはビンフルニンジタルトレートの質量(g)に対して1〜20容量部(ml)である。
【0019】
得られた結晶は、生成物の再溶解させない溶媒で洗浄し、ある種のエーテル溶媒、例えばエチルエーテル、イソプロピルエーテルまたはメチル第三ブチルエーテル、更に具体的にはイソプロピルエーテルを用いて行う。
【0020】
ビンフルニンジタルトレートの結晶状態は、当業者に知られている手法、例えばX線粉体回折または赤外分光光度法によって明らかにされ、単純な顕微鏡法によってチェックすることができる。
【0021】
ビンフルニンおよびその誘導体、特に塩の既に明らかにされている治療上の価値のために、本発明の主題は、本発明によるビンフルニンジタルトレートを含んでなる薬剤でもある。一つの具体的態様では、本発明は、癌病変の治療に使用することを目的とする薬剤を製造するためのビンフルニンジタルトレートの使用に関する。特に、非制限的には、乳癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、および前立腺癌が挙げられる。
【0022】
本発明の主題は、生理学的に許容可能な媒質中に本発明によるビンフルニンジタルトレートの有効量を含むことを特徴とする、医薬組成物でもある。
【0023】
更に詳細には、医薬組成物としては、経口、非経口、静脈内または皮下投与に適するもの、更に詳細には、錠剤、カシェ剤またはゲルカプセルの形状の経口投与に適するものが挙げられる。
【0024】
投薬量は、患者の性別、年齢および体重、および投与経路によって変化する。
【0025】
下記の実施例により、本発明をその範囲を限定することなく説明する。
【実施例】
【0026】
A. ビンフルニンジタルトレートの結晶化
例1:
ビンフルニンジタルトレート7.5gの試料を、20%の水を含む2−プロパノール60mlに50℃で溶解する。溶液を結晶化ボウルに移し、外気中に室温で数日間放置する。次に、溶媒の蒸発が不完全であるときには生成した結晶を濾過によって、または総ての溶媒が蒸発してしまっているときには単に壁を擦ることによって、集める。得られる結晶をイソプロピルエーテルで洗浄した後、真空乾燥する。
元素分析:
556620: 1117.12
理論%: C 56.98, H 5.95, N 5.02
実測%: C 52.51, H 5.78, N 4.69
補正値(HO 6.59%): C 56.21, H 5.40, N 5.03
【0027】
例2:
ビンフルニンジタルトレート7.5gの試料を、20%の水を含む2−プロパノール60mlに50℃で溶解する。溶液を結晶化ボウルに移し、25℃の真空チャンバーに数日間入れる。次に、溶媒の蒸発が不完全であるときには生成した結晶を濾過によって、または総ての溶媒が蒸発してしまっているときには単に壁を擦ることによって、集める。得られる結晶をイソプロピルエーテルで洗浄した後、真空乾燥する。
元素分析:
536620: 1117.12
理論%: C 56.98, H 5.95, N 5.02
実測%: C 52.47, H 5.91, N 4.61
補正値(HO 6.6%): C 56.17, H 5.53, N 4.94
【0028】
例3:
ビンフルニンジタルトレート200mgの試料を、20%の水を含む1−プロパノール60mlに50℃で溶解する。溶液を結晶化ボウルに移し、外気に室温で数日間放置する。次に、総ての溶媒が蒸発してしまっているときには、生成した結晶を単に壁を擦ることによって集める。得られる結晶をイソプロピルエーテルで洗浄した後、真空乾燥する。
元素分析:
536620: 1117.12
理論%: C 56.98, H 5.95, N 5.02
実測%: C 53.64, H 6.36, N 4.75
補正値(HO 6.46%): C 57.34, H 6.03, N 5.08
【0029】
B. 本発明による結晶性ビンフルニンジタルトレートの特性決定
可視光での光学顕微鏡法:
ビンフルニンジタルトレート粉体を、下記の付属品を備えたContinuμm顕微鏡を用いて可視光線で検査する:
10X接眼レンズを有する三眼
STI高分解能カラーカメラ、NTSCバージョン
4 MB GXTビデオカード
mViewソフトウェア、2.6aバージョン
可視偏光子/検光子。
【0030】
観察結果を図1に示す。組織化した結晶系が例1、2および3で得られる試料のそれぞれについて観察されるが、アモルファス生成物の試料の場合には観察されない。
【0031】
赤外分光法:
赤外スペクトルを、Continuμm顕微鏡に連結したNexus 670型FT-IR分光計(ThermoElectron)で記録する。
【0032】
ビンフルニンジタルトレート約1mgの試料を、臭化カリウムディスク上に置く。赤外スペクトルを、下記の機器パラメーターを用いてこの粉体の結晶について記録する:
Continuμm顕微鏡:
透過型
MCT-A検出器
可変補正を有するReflachromat 32X「無限補正」対物レンズおよび集光レンズ。
光学的ブロック(Optical block):
Nexus 670 FT-IR分光計 COFRAC認定(No. 1-1009)
Vectra干渉計
Ever Glo光源, 解像度0.5cm−1
KBrセパレーター(7400-350cm−1)
Omnic(商標)ソフトウェア バージョン6.2
掃引回数: 256
解像度 8
Happ-Genzelアポディゼーション機能
相補正: Mertz
【0033】
結果:
アモルファス生成物および例1の結晶生成物について得られたスペクトルを、図2に示す。
【0034】
2000cm−1と800cm−1との間の領域についてのこれら2つのスペクトルの比較分析を、図3に示す。
【0035】
約1730cm−1における2つの生成物について観察される強い吸収は、カルボニル基C=Oの伸縮振動に特徴的なものである。1275と1185cm−1との間の幅広い吸収は、エステル基C−O−Cの非対称伸縮振動に由来する。1160と1030cm−1の間の吸収帯は、エステル基C−O−Cの対照伸縮振動によるものである。これらの比較的強いバンドは、ビンフルニン分子に含まれる様々な脂肪族エステルに典型的なものである。
【0036】
第三アルコール官能基O−Hの平面における変角振動は、1420〜1330cm−1に吸収帯を生じる。
【0037】
これらの吸収帯の形状および振動周波数は、2つの多形種の間で有意に異なる。
【0038】
核磁気共鳴:
1H NMRスペクトルを、ブロードバンド逆プローブとzグラディエントアクセサリーを備えたBruker Avance DPX 400分光計で400MHzの名目周波数で記録する。NMRスペクトルの記録前に、生成物を重水素化メタノール(Eurisotop,参照番号D 324-B,バッチ番号A-3561)に0.4%(w/v)の範囲の濃度で再溶解する。化学シフトは、内部標準として用いたTMS(テトラメチルシラン)に対するppm数で表す。カップリング定数は、Hertzで表す。
【0039】
図4では、アモルファス生成物および例2の生成物について得たスペクトル比較照合し、
2つのスペクトルは類似しており、ビンフルニンジタルトレートの化学構造と一致している。2つのNMRスペクトルの間に見られる差は、主として2つの試料の濃度差によるものであり、結晶性バッチは結晶化溶媒も含んでいる。
【0040】
核磁気共鳴は、第一に結晶化試験の後のビンフルニンジタルトレート分子の構造が完全であることを確かめるのに用いられ、第二に酒石酸/ビンフルニンのモル比を決定するのに用いられる。この比は2つの多形種(アモルファスおよび結晶性)について2/1であり、この結果は元素分析によって確かめられる。
【0041】
粉体X線回折:
試料は、40kVの電圧および40mAの電流で操作する銅対陰極(λ=1.54060Å)、可変一次スリットブロックおよびVantec検出器を備えたD8 Advance Bruker AXS回折計で分析した。
【0042】
分析は、3〜35 °2θの間で0.030 °2θの間隔および40秒間の計測時間で行った。分子の細胞傷害性を考慮して、試料を透明な密封ドーム(A100B33 Bruker AXS)によって指示された25mm試料ホルダーを用いて閉じ込められた環境に保持した。次に、試料をHPLCによって分析し、X線が試料を分解しないことを確かめた。
【0043】
図5の回折図は、例2の生成物が結晶性であり、最初の生成物はアモルファスであることを示している。
【0044】
結晶状態は、図6の表に示された回折線のリストによって示される。
【0045】
HPLC分析は、X線への暴露後の生成物の有意な分解を示していない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】結晶性ビンフルニンジタルトレートおよびアモルファスビンフルニンジタルトレート粉体の可視光での光学顕微鏡法による観察。
【図2】結晶性ビンフルニンジタルトレートおよび対応するアモルファス生成物の赤外スペクトル。波数の関数としての透過率。
【図3】2000cm−1〜800cm−1の領域における結晶性ビンフルニンジタルトレートおよび対応するアモルファス生成物の赤外スペクトルの比較。波数の関数としての透過率。
【図4】結晶性ビンフルニンジタルトレートおよび対応するアモルファス生成物のH NMRスペクトル。シフトはppmで表す。
【図5】結晶性ビンフルニンジタルトレート(点線)および対応するアモルファス生成物(実線)のX線回折図。
【図6】結晶性ビンフルニンジタルトレートに対するX線回折線のリスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ビンフルニンジタルトレート。
【請求項2】
水和形態である、請求項1に記載のビンフルニンジタルトレート。
【請求項3】
水分子の数が2〜6である、請求項2に記載のビンフルニンジタルトレート。
【請求項4】
KBrでの赤外スペクトルが約1730cm−1に1個の吸収ピーク、1330〜1420cm−1に数個の吸収帯、1275〜1185cm−1に1個の吸収帯、および1160〜1030cm−1に2個の吸収帯を示す、請求項1に記載のビンフルニンジタルトレート。
【請求項5】
約5.641; 6.529; 7.991; 8.673; 9.245; 9.831; 11.369; 11.844; 12.273; 13.931; 14.334; 15.105; 15.805; 16.132; 16.833; 17.127; 17.461; 18.073; 18.711 ; 18.960; 19.835; 20.087; 20.629; 21.226; 21.414; 22.940; 23.662; 24.329; 25.064; 25.323; 25.959; 26.339; 27.600; 28.272; 29.006; 29.792; 30.525に°2θで表される特徴的ピークを示すX線回折スペクトルを有する、請求項1に記載のビンフルニンジタルトレートの結晶形態。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の結晶性ビンフルニンジタルトレートの製造方法であって、
ビンフルニンジタルトレートをアルコール/水混合物に溶解し、
該溶媒混合物を室温で、外気中または真空下で徐々に蒸発させ、
生成した結晶を濾過して回収し、
該結晶を洗浄し、真空下で乾燥する
工程を含んでなる、方法。
【請求項7】
用いるアルコールが、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから選択される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
溶解を70℃を下回る温度、好ましくは50℃、に加熱することによって行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
アルコール/水比が容積で75/25〜100/0の範囲である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
溶媒の割合が、グラム数でのビンフルニンジタルトレートの質量に対してml数で表された容積で1〜20部である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項11】
洗浄を、エチルエーテル、イソプロピルエーテルおよびメチル第三ブチルエーテルから選択されるエーテルを用いて行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項12】
薬剤としての、請求項1〜5のいずれか一項に記載のビンフルニンジタルトレート。
【請求項13】
生理学的に許容可能な媒質中に請求項1〜5のいずれか一項に記載のビンフルニンジタルトレートの有効量を含んでなる、医薬組成物。
【請求項14】
癌病変の治療に使用することを目的とする薬剤を製造するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載のビンフルニンジタルトレートの使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公表番号】特表2009−519996(P2009−519996A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546414(P2008−546414)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069843
【国際公開番号】WO2007/071648
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】