説明

ビードフィラー用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】加工性、操縦安定性、低燃費性及び縁石ピンチカット性能(破断時伸び)をバランスよく改善できるビードフィラー用ゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムを含有するビードフィラー用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードフィラー用ゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの転がり抵抗を低減して発熱を抑えることにより、車両を低燃費化することが行われている。近年、タイヤの低燃費化への要請はますます強くなり、トレッドやサイドウォール以外のビードフィラーなどの他の部材に対する低燃費化(低発熱化)も必要となっている。
【0003】
ビードフィラーなどに用いられているゴム組成物の低発熱化を図る方法として、低補強性の充填剤を用いる方法、充填剤量を低減する方法などが知られている。しかし、これらの方法では、ゴム組成物の補強性が低下するため、破断時伸びが低下し、縁石ピンチカット性能が悪化してしまう。また、硬度の低下によりタイヤが軟化し、操縦安定性も低下してしまう。このように、低燃費性、縁石ピンチカット性能、操縦安定性などを同時に改善することは困難であった。
【0004】
一方、ビードフィラーには、天然ゴムが広く使用されているが、天然ゴムは他の合成ゴムに比べてムーニー粘度が高く加工性が悪いため、通常しゃっ解剤を添加して素練りを行い、ムーニー粘度を低下させてから使用される。そのため、天然ゴムを使用する場合、生産性が低下する。また素練りにより天然ゴムの分子鎖が切断されるため、本来有する高分子量ポリマーの特性(低燃費性、ゴム強度など)が失われるという問題もある。
【0005】
天然ゴムの加工性を改善する方法として、特許文献1、2には天然ゴムラテックスにタンパク分解酵素と界面活性剤を加えて熟成する方法が、特許文献3では溶剤で膨潤した固形天然ゴムを水酸化アルカリに浸漬する方法が、特許文献4では天然ゴムラテックスにリン酸塩を添加してリン酸マグネシウムを除去する方法が、特許文献5には天然ゴムラテックスに界面活性剤を加えて洗浄処理する方法がそれぞれ開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法では、加工性、操縦安定性、低燃費性及び縁石ピンチカット性能(破断時伸び)をバランスよく向上するという点について未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−12814号公報
【特許文献2】特開2005−82622号公報
【特許文献3】特開平11−12306号公報
【特許文献4】特開2004−250546号公報
【特許文献5】特許第3294901号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、加工性、操縦安定性、低燃費性及び縁石ピンチカット性能(破断時伸び)をバランスよく改善できるビードフィラー用ゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムを含有するビードフィラー用ゴム組成物に関する。
上記改質天然ゴムの窒素含有量は、0.3質量%以下であることが好ましい。
【0010】
上記改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理し、ケン化天然ゴムラテックスを調製する工程(A)、上記ケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムをアルカリ処理する工程(B)、及びゴム中に含まれるリン含有量が200ppm以下になるまで洗浄する工程(C)を行って得られるものが好ましい。
【0011】
上記ゴム組成物は、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量が10質量%以上であることが好ましい。また、上記ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が10〜30質量%であることが好ましい。
【0012】
上記ゴム組成物は、上記ゴム成分100質量部に対して充填剤を40〜90質量部含有することが好ましい。ここで、上記充填剤はカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0013】
上記充填剤100質量%中のシリカの含有量は、45質量%以下であることが好ましい。
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したビードフィラーを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムを含むビードフィラー用ゴム組成物であるので、加工性、操縦安定性、低燃費性及び縁石ピンチカット性能(破断時伸び)をバランスよく改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のビードフィラー用ゴム組成物は、ゴム成分としてリン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムを含む。天然ゴム(NR)中に含まれるリン脂質を低減、除去した改質天然ゴム(HPNR)を用いることで、補強用充填剤の含有量を低減することなく低燃費性を改善できる。またこれと同時に、破断時伸びを改善し、縁石ピンチカット性能を高めること、操縦安定性を改善することも可能となるので、これらの性能を同時に高められる。
【0016】
更に、改質天然ゴムを配合した未加硫ゴム組成物は加工性に優れているため、特段素練り工程を行わなくても充分な混練りが可能である。そのため、素練りに伴う天然ゴムの特性の低下も抑制でき、上記性能を効果的に高められる。また、リン脂質だけでなく、タンパク質やゲル分も低減することにより、上記性能をより改善できる。
【0017】
上記改質天然ゴムは、リン含有量が200ppm以下である。200ppmを超えると、tanδが上昇して低燃費性が悪化したり、未加硫ゴムのムーニー粘度が上昇して加工性が悪化する傾向がある。また、縁石ピンチカット性能や操縦安定性が低下する傾向もある。該リン含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。ここで、リン含有量は、たとえばICP発光分析等、従来の方法で測定することができる。リンは、リン脂質(リン化合物)に由来するものである。
【0018】
改質天然ゴムにおいて、窒素含有量は0.3質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。窒素含有量が0.3質量%を超えると、貯蔵中にムーニー粘度が上昇して加工性が悪化したり、低燃費性が悪化する傾向がある。また、縁石ピンチカット性能や操縦安定性が低下する傾向もある。窒素含有量は、例えばケルダール法等、従来の方法で測定することができる。窒素は、蛋白質に由来するものである。
【0019】
改質天然ゴム中のゲル含有率は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。20質量%を超えると、加工性が悪化したり、低燃費性が悪化する傾向がある。ゲル含有率とは、非極性溶媒であるトルエンに対する不溶分として測定した値を意味し、以下においては単に「ゲル含有率」または「ゲル分」と称することがある。ゲル分の含有率の測定方法は次のとおりである。まず、天然ゴム試料を脱水トルエンに浸し、暗所に遮光して1週間放置後、トルエン溶液を1.3×10rpmで30分間遠心分離して、不溶のゲル分とトルエン可溶分とを分離する。不溶のゲル分にメタノールを加えて固形化した後、乾燥し、ゲル分の質量と試料の元の質量との比からゲル含有率が求められる。
【0020】
改質天然ゴムは、例えば、特開2010−138359号公報に記載の製法などで得られるが、なかでも、天然ゴムラテックスをケン化処理し、ケン化天然ゴムラテックスを調製する工程(A)、該ケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムをアルカリ処理する工程(B)、及びゴム中に含まれるリン含有量が200ppm以下になるまで洗浄する工程(C)を含む製造方法で調製されるものが好ましい。該製法により、リン量を減量できる。また、酸で凝集させた際、残存する酸をアルカリ処理で中和することで、酸によるゴムの劣化を防ぐだけでなく、ゴム中の窒素含有量を一層低減できる。
【0021】
上記製造方法において、ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することにより行うことができる。なお、必要に応じて撹拌等を行っても良い。上記製造方法によれば、天然ゴムのリン含有量、窒素含有量を抑えることができる。
【0022】
天然ゴムラテックスとしては、生ラテックス、精製ラテックス、ハイアンモニアラテックスなどの従来公知のものを使用できる。ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アミン化合物等が挙げられ、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。界面活性剤としては、公知の陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が使用可能であり、なかでも、陰イオン性界面活性剤が好ましく、スルホン酸系の陰イオン性界面活性剤がより好ましい。
【0023】
ケン化処理において、アルカリの添加量は適宜設定すればよいが、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部である。また、界面活性剤の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分100重量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部である。なお、ケン化処理の温度及び時間も適宜設定すればよく、通常は20〜70℃で1〜72時間程度である。
【0024】
ケン化反応終了後、反応により得られたケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムを、必要に応じて破砕し、次いで、得られた凝集ゴムや破砕ゴムとアルカリを接触させてアルカリ処理を行う。アルカリ処理により、ゴム中の窒素量などをより低減でき、本発明の効果が一層発揮される。凝集方法としては、例えば、ギ酸等の酸を添加する方法が挙げられる。アルカリ処理方法としては、ゴムとアルカリを接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムや破砕ゴムをアルカリに浸漬する方法などが挙げられる。アルカリ処理に使用できるアルカリとしては、例えば、上記ケン化処理におけるアルカリの他に、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア水などが挙げられる。なかでも、本発明の効果に優れるという点から、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0025】
上記浸漬にてアルカリ処理する場合、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%の濃度のアルカリ水溶液にゴム(破砕ゴム)を浸漬することにより、処理できる。これにより、ゴム中の窒素量などを一層低減できる。
【0026】
上記浸漬によりアルカリ処理する場合、アルカリ処理の温度は、適宜設定できるが、通常は20〜70℃が好ましい。また、アルカリ処理の時間は、処理温度にもよるが、十分な処理と生産性を併せ考慮すると1〜20時間が好ましく、2〜12時間がより好ましい。
【0027】
アルカリ処理後、洗浄処理を行うことにより、リン含有量を低減できる。洗浄処理としては、例えば、ゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離処理する方法、静置してゴムを浮かせ、水相のみを排出して、ゴム分を取り出す方法が挙げられる。遠心分離する際は、まず天然ゴムラテックスのゴム分が5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるように水で希釈する。次いで、5000〜10000rpmで1〜60分間遠心分離すればよく、所望のリン含有量になるまで洗浄を繰り返せばよい。また、静置してゴムを浮かせる場合も水の添加、攪拌を繰り返して、所望のリン含有量になるまで洗浄すればよい。洗浄処理終了後、乾燥することにより、本発明における改質天然ゴムが得られる。
【0028】
本発明のゴム組成物に含まれるゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。これにより、低燃費性、縁石ピンチカット性能、操縦安定性、加工性を改善できる。該含有量は、上限が100質量%であってもよいが、好ましくは80質量%以下である。
【0029】
改質天然ゴム以外に、本発明に使用されるゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、前述の性能がバランスよく得られるという理由から、NR(非改質)、SBRが好ましい。
【0030】
上記ゴム成分100質量%中のNR(非改質)の含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。該含有量が70質量%を超えると、相対的に改質天然ゴム量が少なくなり、本発明の効果が充分に得られないおそれがある。
【0031】
上記ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは10〜30質量である。10質量%未満であると、コスト面のメリットが少ない傾向がある。30質量%を超えると、物性が大きく異なってしまうおそれがある。
【0032】
本発明のゴム組成物は、通常、充填剤を含有する。充填剤としては、タイヤ工業で一般的に用いられているものを特に制限なく使用でき、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。ゴムに対する補強性が高く、前述の性能をバランスよく改善できることから、カーボンブラック、シリカを用いることが好ましい。
【0033】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは20m/g以上、より好ましくは60m/g以上である。20m/g未満では、充分な補強性が得られない傾向がある。また、該カーボンブラックのNSAは、好ましくは180m/g以下、より好ましくは100m/g以下である。180m/gを超えると、発熱が増大し、充分な低燃費性が得られない傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0034】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0035】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、70m/g以上が好ましく、130m/g以上がより好ましい。70m/g未満では、補強効果が小さく、充分なゴム強度が得られないおそれがある。また、シリカのNSAは、220m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。220m/gを超えると、分散性が低下し、発熱性が増大する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0036】
充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。該含有量は、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。上記範囲内であると、補強性、低発熱性、加工性がバランスよく得られ、本発明の効果が発揮される。
【0037】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。40質量部未満であると、操縦安定性、縁石ピンチカット性能が低下する傾向がある。該含有量は、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。90質量部を超えると、低燃費性が低下する傾向がある。
【0038】
充填剤100質量%中のシリカの含有量は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは10〜30質量%である。45質量%を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0039】
本発明のゴム組成物は、シリカとともにシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系のシランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド系のシランカップリング剤が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドがより好ましい。
ここで、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは5〜15質量部である。
【0040】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、熱硬化性樹脂、オイル、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0041】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂、クレゾール系樹脂などが挙げられ、なかでもフェノール系樹脂が好ましい。フェノール系樹脂としては、フェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類とを反応させて得られるフェノール樹脂;カシューオイル、トールオイル、アマニ油、各種動植物油、不飽和脂肪酸、ロジン、アルキルベンゼン樹脂、アニリン、メラミンなどを用いて変性した変性フェノール樹脂等が挙げられる。なかでも、硬度を向上できる点から、変性フェノール樹脂が好ましく、カシューオイル変性フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂が好ましい。
【0042】
熱硬化性樹脂の含有量は、充分な硬度が得られる点から、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、該含有量は、加工性に優れる点から、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0043】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0044】
本発明のビードフィラー用ゴム組成物は、ビードコアから半径方向外側にのびるように配されるビードフィラーに使用される。具体的には、ビードフィラーは、特開2009−7494号公報の図1などに示される部材である。
【0045】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でビードフィラーの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0046】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0047】
以下、製造例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。なお、薬品は必要に応じて定法に従い精製を行った。
天然ゴムラテックス:タイテックス社から入手したフィールドラテックス
界面活性剤:花王(株)製のEmal−E(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
【0048】
(ケン化処理天然ゴムの作製)
製造例1
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E10gとNaOH20gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。このラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり攪拌しながらギ酸を添加しpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、それを1%炭酸ナトリウム水溶液に室温で5時間浸漬した後に引き上げ、水1000mlで洗浄を繰り返し、その後110℃で2時間乾燥して固形ゴム(ケン化処理天然ゴムA)を得た。
【0049】
製造例2
NaOH水溶液の添加量を15gに変更した以外は製造例1と同様に、固形ゴム(ケン化処理天然ゴムB)を得た。
【0050】
製造例1〜2により得られた固形ゴム及びTSRについて以下に示す方法により、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(窒素含有量の測定)
窒素含有量は、CHN CORDER MT−5(ヤナコ分析工業社製)を用いて測定した。測定には、まずアンチピリンを標準物質として、窒素含有量を求めるための検量線を作製した。次いで、各製造例で得られた固形ゴム又はTSR約10mgを秤量し、3回の測定結果から平均値を求めて、試料の窒素含有量とした。
【0052】
(リン含有量の測定)
ICP発光分析装置(ICPS−8100、(株)島津製作所製)を使用してリン含有量を求めた。
【0053】
(ゲル含有率の測定)
1mm×1mmに切断した生ゴムのサンプル70.00mgを計り取り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、ケン化処理天然ゴムA、Bは、TSRに比べて、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率が低減していた。
【0056】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
TSR:天然ゴムTSR
ケン化処理天然ゴムA:製造例1
ケン化処理天然ゴムB:製造例2
SBR:住友化学工業(株)製のSBR1502
シリカ:デグッサ社製のウルトラジル(Ultrasil)VN3(NSA:175m/g)
カーボンブラック:東海カーボン(株)製のシーストN(NSA:74m/g)
レジン:住友デュレツ(株)製のPR12686(カシューオイル変性フェノール樹脂)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
アロマオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスP523
ステアリン酸:日油(株)製の桐
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:日本乾留工業(株)製のセミサルファー
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS−P(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):三新化学工業(株)製のサンセラーH(ヘキサメチレンテトラミン)
【0057】
実施例及び比較例
表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を排出温度150℃の条件下で8分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で6分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
なお、比較例では、TSR100質量部に対してしゃっ解剤を0.2質量部添加し、素練りした後、冷却したものを使用した。
【0058】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物について下記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
(硬度(Hs)測定)
JIS K6253「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」の試験方法に準じて、タイプAデュロメーターを用いて、25℃における加硫ゴム組成物の硬度(Hs)を測定した。
【0060】
(ムーニー粘度)
JIS K6300「未加硫ゴムの試験方法」に準じて、(株)島津製作所製のムーニー粘度試験機を用い、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、小ローターを回転させ、4分間経過した時点での未加硫ゴム組成物のムーニー粘度を測定した。以下の計算式により、各配合のムーニー粘度を指数表示した。なお、ムーニー粘度指数の値が大きいほど加工しやすく、加工性が優れていることを示す。
(ムーニー粘度指数)=(比較例1のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0061】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターVESを用いて、初期歪み10%、動歪み2%及び振動周波数10Hzの条件下で70℃における加硫ゴム組成物のtanδ及びE*を測定した。以下の計算式により、各配合のtanδ及びE*をそれぞれ指数表示した。転がり抵抗指数が大きいほど低燃費性に優れることを示し、操縦安定性指数が大きいほど剛性が高く、操縦安定性が優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
(操縦安定性指数)=(各配合のE*)/(比較例1のE*)×100
【0062】
(引張試験)
前記加硫ゴム組成物からからなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。以下の計算式により、各配合のEB(%)をそれぞれ指数表示した。破断時伸び指数が大きいほど、縁石ピンチカット性能に優れることを示す。
(破断時伸び指数)=(各配合のEB(%))/(比較例1のEB(%))×100
【0063】
【表2】

【0064】
表2の結果から、ケン化処理天然ゴムを用いた実施例は、素練りしていないにもかかわらず、素練りしたTSRを用いた比較例に比べて加工性が優れていた。また、操縦安定性、低燃費性及び縁石ピンチカット性能(破断時伸び)の改善効果もみられた。更にカーボンブラック配合、シリカ配合共に性能を改善できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムを含有するビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項2】
改質天然ゴムの窒素含有量が0.3質量%以下である請求項1記載のビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項3】
改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理し、ケン化天然ゴムラテックスを調製する工程(A)、前記ケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムをアルカリ処理する工程(B)、及びゴム中に含まれるリン含有量が200ppm以下になるまで洗浄する工程(C)を行って得られるものである請求項1又は2に記載のビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項4】
ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量が10質量%以上である請求項1〜3のいずれかに記載のビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項5】
ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が10〜30質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項6】
ゴム成分100質量部に対して、充填剤を40〜90質量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載のビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項7】
充填剤がカーボンブラックを含む請求項6に記載のビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項8】
充填剤100質量%中のシリカの含有量が45質量%以下である請求項6に記載のビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したビードフィラーを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−126792(P2012−126792A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278327(P2010−278327)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】