説明

ビームダンプ

【課題】荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶融したり、ダンプターゲットが載置される床が劣化したりすることのないビームダンプを提供する。
【解決手段】本発明は、照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプ10,10’,30であって、前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲット11,32と、ダンプターゲット11,32が載置される金属製架台12,31と、金属製架台12,31に取り付けられる冷却手段13,33,34とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器等で加速されて照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
陽子や電子などを加速して高エネルギーの荷電粒子ビームを取り出すリニアックやシンクロトロン等の加速器を備えた施設において、加速器で加速された荷電粒子ビームのエネルギーをダンプターゲットに衝突させて崩壊、除去させるためにビームダンプが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図31は従来のビームダンプの一例を示しており、このビームダンプ1は、立方体又は直方体形状の金属製(例えば、鉄製)のダンプターゲット2が建屋内の鉄筋コンクリート製の床に載置されて構成されており、このダンプターゲット2の内部には荷電粒子ビームの入射軸に沿って円柱形状を成す入射凹部3が形成されている。
【0004】
そして、この入射凹部3に入射した高速の荷電粒子ビームは、ダンプターゲット2に衝突する際に熱エネルギーに変換され、この時に発生した熱はダンプターゲット2の内部を熱伝導し、ダンプターゲット2の外表面から熱伝達及び輻射によって周囲の空気に放出され、これにより、ダンプターゲット2は熱的に安定状態を保つようになっている。
【特許文献1】特開平7−335398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のビームダンプでは、荷電粒子ビームのエネルギーの増大に伴い、ダンプターゲットが融点以上の高温となり、溶融するおそれがあるといった問題があった。
【0006】
特に、上記した図31に示す従来のビームダンプ1では、入射凹部3が荷電粒子ビームの入射軸に沿って円筒形状を成しているため、荷電粒子ビームの入射面が二次元平面(底面4)に集中する上、熱伝導が三次元方向に拡散する(図31中の矢印参照)。したがって、エネルギー密度が高い状態のまま荷電粒子ビームが熱変換され、入射凹部3の底面4付近が融点以上の高温になり易く、溶融し易いといった問題があった。さらにまた、このビームダンプ1では、ダンプターゲット2が鉄筋コンクリート製の床に載置されているため、ダンプターゲット2の熱が床に伝導し、床が耐熱温度以上となり、劣化するおそれがあるといった問題もあった。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶融したり、ダンプターゲットが載置される床が劣化したりすることのないビームダンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプであって、前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、該ダンプターゲットが載置される金属製架台と、該金属製架台に取り付けられる冷却手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明床スラブの下方に二重ピット構造を有する建屋内に設けられるビームダンプであって、前記金属製架台は前記床スラブを貫通し、該金属製架台と前記床スラブとの間には熱緩衝体が設けられ、前記冷却手段は、前記二重ピット内に貯留された冷却水に浸水可能なように前記金属製架台から下方に延出する放熱フィンを備えていてもよい。
【0010】
さらに、本発明は、前記金属製架台は建屋の床スラブに載置され、前記金属製架台の冷却手段は、一端が該金属製架台に接続されるヒートパイプと、該ヒートパイプの他端に設けられる放熱フィンとを備えていてもよい。
【0011】
さらに、前記ダンプターゲットの外表面には放熱フィンが設けられているのがよい。
【0012】
さらに、前記ダンプターゲットは、前記荷電粒子ビームが入射する入射凹部を有する中心部と、該中心部の周囲に設けられる周囲部とを備え、前記中心部は前記周囲部より融点の高い材質から構成され、前記周囲部は前記中心部より熱伝導率の高い材質から構成されているのがよい。
【0013】
さらに、前記中心部は鉄により構成され、前記周囲部は銅により構成されているのがよい。
【0014】
さらに、前記ダンプターゲットの入射凹部の内面には、該入射凹部が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面が形成されているのがよく、また、前記入射凹部は円錐形状を成していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属製架台に冷却手段が取り付けられているため、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱によってダンプターゲットが溶融したり、床スラブが劣化したりするおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態に係るビームダンプを示す側面図、図2は同ビームダンプの正面図である。
【0018】
本発明の実施の形態に係るビームダンプ10は、図示を省略する加速器から加速された荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲット11と、ダンプターゲット11が載置される金属製架台12と、金属製架台12に取り付けられる冷却手段である下部放熱フィン13とを備えており、鉄筋コンクリート製の床スラブ14の下方に二重ピット構造を有する建屋内に設けられるようになっている。
【0019】
ダンプターゲット11は、立方体又は直方体形状を成し、前記荷電粒子ビームが入射する中心部15と、中心部15の周囲に形成される周囲部16とを備えて構成されている。中心部15は、直方体形状を成し、周囲部16より融点の高い材質、例えば鉄(融点1535℃、熱伝導率80.2W/mK)により構成されている。また、中心部15の内部には、中心部15の一側面17から荷電粒子ビームの入射軸に沿って水平方向に角柱形状の入射凹部18が形成されている。
【0020】
ダンプターゲット11の周囲部16は、中心部15が嵌合可能な通孔19が形成された直方体形状を成しており、中心部15より熱伝導率の高い材質、例えば銅(融点1084℃、熱伝導率401W/mK)により構成されている。
【0021】
なお、ダンプターゲット11の中心部15と周囲部16の材質は、上記した鉄と銅の組合せに限定されるものではなく、例えば、中心部15をステンレス鋼で構成し、周囲部16をアルミニウムで構成する等、鉄と銅以外の他の金属の組合せを選択することも可能である。
【0022】
また、好ましくは、ダンプターゲット11の周囲部16の下面を除く5つの外表面には、熱伝導率の高い材質、例えば銅製の上部放熱フィン20が所定間隔で外方に向かって立設されているのがよい。
【0023】
金属製架台12は、熱伝導率の高い材質、例えば銅により構成されており、その外周部21は階段状に形成されている。そして、金属製架台12は床スラブ14を貫通し、金属製架台12の外周部21と床スラブ14との間には熱伝導率の低い材質から成る熱緩衝体、例えば耐熱レンガ22が介装されている。
【0024】
冷却手段である下部放熱フィン13は、熱伝導率の高い材質、例えば銅製であり、金属製架台12の下面に所定間隔で下方に延出して設けられており、二重ピット内に貯留された冷却水23に浸水可能となっている。
【0025】
次に、図3〜図10を参照しつつ、本発明の実施の形態に係るビームダンプ10を設置する手順について説明する。
【0026】
先ず、図3に示すように、建屋の杭24、底盤25、及び壁部26のコンクリートを打設した後、図4に示すように、壁部26の所要箇所に鉄骨梁27を掛け渡し、この鉄骨梁27に下部放熱フィン13及び金属製架台12を支持させ、ビームダンプ10の下部構造を完成させる(図5参照)。
【0027】
次いで、図6に示すように、金属製架台12の外周部21に耐熱レンガ22を階段状に積重した上で、床スラブ14のコンクリートを打設する。そして、図7に示すように、金属製架台12の上にダンプターゲット11の周囲部16を構成する銅製ブロック片28を積重すると共に、中心部15を構成する鉄製ブロック片29を積重し、金属製架台12上にダンプターゲット11を組立てる(図8参照)。
【0028】
その後、このように組立てたダンプターゲット11の外表面に上部放熱フィン20を所定間隔で取り付け、ビームダンプ10を完成させた後、二重ピット内に冷却水23を貯留する。
【0029】
このようにして完成させたビームダンプ10を使用する場合、前記加速器で加速された高エネルギーの荷電粒子ビームを、図示を省略する粒子導入管を介してダンプターゲット11に照射し、中心部15の入射凹部18に入射させる。そして、入射凹部18に入射した荷電粒子ビームは、主に入射凹部18の底面23に衝突し、熱エネルギーに変換される。
【0030】
次いで、この時に発生した熱は、ダンプターゲット11の中心部15内を三次元方向に拡散して熱伝導し、さらに、周囲部16内を三次元方向に拡散して熱伝導する。そして、この熱はダンプターゲット11の外表面及び上部放熱フィン20から熱伝達及び輻射によって周囲の空気に放出されると共に、金属製架台12に熱伝導し、下部放熱フィン13から熱伝達によって二重ピット内の冷却水に放出される。
【0031】
この時、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱によって中心部15は最も高温になるが、荷電粒子ビームの衝突時に発生する熱の温度より融点の高い鉄によって中心部15が構成されているため、この熱で中心部15が溶融するおそれはない。また、この熱が中心部15から周囲部16に伝導した時にはこの熱の温度が周囲部16の銅の融点以下まで低下しているため、周囲部16が溶融するおそれもない。
【0032】
また、この時、金属製架台12と床スラブ14との間に熱伝導率の低い耐熱レンガ21が介装されており、この耐熱レンガ21により金属製架台12から床スラブ14への熱伝導は大部分が遮断されるため、床スラブ14の温度が耐熱温度以上に上がることがなく、床スラブ14が劣化するおそれはない。
【0033】
さらにまた、この時、ダンプターゲット11から金属製架台12に伝導した熱は、鉄骨梁27に伝導した後に鉄筋コンクリート製の壁部26にも伝導するが、壁部25は冷却水23により冷却されているため、壁部26の温度が耐熱温度以上に上がることがなく、壁部26が劣化するおそれもない。
【0034】
次に、図1、図2、及び図11〜図27を参照しつつ、従来のビームダンプと本発明の実施の形態に係るビームダンプのそれぞれに対してコンピュータを使用して数値実験を行った検証結果について説明する。
【0035】
図11は数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す断面図、図12は同ビームダンプの計算モデルを示す正面図である。この従来のビームダンプ1の計算モデルでは、建屋内において、土中温度が15℃の厚さ5mの土(Soil)5上に厚さ0.5mの鉄筋コンクリート(RC)製の床6を設け、さらに、この床6上に長さ2.5m、幅3m、高さ3mで内部に角柱形状の入射凹部3が形成された鉄製のダンプターゲット2を載置し、ダンプターゲット2の周囲の空気温度を30℃、ダンプターゲット2から空気への表面熱伝達率を20W/mKに設定した。
【0036】
図13は上記した従来のビームダンプ1に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット2の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図14はその時における床スラブ14の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図15は同ビームダンプ1に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット2の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図16はその時における床スラブ14の温度と時間との関係を検証した結果を示す図であり、図13〜図16中、「CORE」とは入射凹部3の周囲1mの領域、「上部」とはCOREより上方の領域、「下部」とはCOREより下方の領域、「サイド1」とはCOREの正面視左側の領域、「サイド2」とはCOREの正面視右側の領域をそれぞれ示している(図11及び図12参照)。
【0037】
ビームダンプ1に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、図13から分かるように、ダンプターゲット2のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃(図13中のFe−MP)を下回るため、ダンプターゲット2が溶融するおそれはないが、図14から分かるように、床スラブ6の温度が耐熱温度(図14中のRC−t−Limit)を超えるため、床スラブ6が劣化するおそれがある。
【0038】
また、ビームダンプ1に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、図15に示すように、ダンプターゲット2のCOREの領域における最大温度が鉄の融点1535℃(図15中のFe−MP)を超えるため、ダンプターゲット2はCOREの領域で溶融するおそれがあると共に、図16に示すように、床スラブ6の温度が耐熱温度(図14中のRC−t−Limit)を超えるため、床スラブ6が劣化するおそれがある。
【0039】
これに対して、図17は上部放熱フィン20のないタイプの本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’の計算モデルを示す断面図、図18は同ビームダンプ10’の計算モデルを示す正面図である。このビームダンプ10’の計算モデルでは、長さ2.5m、幅3m、高さ3mで内部に角柱形状の入射凹部18が形成された鉄製の中心部15と銅製の周囲部16とを備えたダンプターゲット16を厚さ0.5mの金属製架台12の上に載置し、金属製架台12の下面に高さ2m(その内の1.5mが冷却水23に浸水)、厚さ2cmの下部放熱フィン13を取り付け、冷却水23の温度を10℃、下部放熱フィン13から冷却水23への表面熱伝達率を20W/mK、ダンプターゲット11の周囲の空気温度を30℃、ダンプターゲット11から空気への表面熱伝達率を20W/mKに設定した。
【0040】
図19は本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット11の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図20はその時における床スラブ14の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図21は同ビームダンプ10’に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット2の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図22はその時における床スラブ14の温度と時間との関係を検証した結果を示す図であり、図19〜図22中、「CORE」とは入射凹部3の周囲1mの中心部15の領域、「上部」とはCOREより上方の周囲部16の領域、「下部」とはCOREより下方の周囲部16の領域、「サイド1」とはCOREの正面視左側の周囲部16の領域、「サイド2」とはCOREの正面視右側の周囲部16の領域をそれぞれ示している。
【0041】
ビームダンプ10’に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、図19から分かるように、ダンプターゲット11の中心部15のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃を下回ると共に、ダンプターゲット11の周囲部16のすべての領域で温度が銅の融点1084℃を下回るため、ダンプターゲット11が溶融するおそれはない。また、図20から分かるように、床スラブ14の温度は耐熱温度を下回るため、床スラブ14が劣化するおそれはない。
【0042】
また、ビームダンプ10’に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、図21に示すように、ダンプターゲット11の中心部15のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃を下回ると共に、ダンプターゲット11の周囲部16のすべての領域で温度が銅の融点1084℃を下回るため、ダンプターゲット11が溶融するおそれはない。また、図22から分かるように、床スラブ14の温度は耐熱温度(図22中のRC−t−Limit)を僅かに超えているが、耐熱レンガ22によって金属製架台12から床スラブ14への熱伝導の大部分が遮断され、床スラブ4の温度が耐熱温度を下回ると考えられるから、床スラブ14が劣化するおそれはない。
【0043】
次に、図23は上部放熱フィン20を設けたタイプの本発明の実施の形態に係るビームダンプ10の計算モデルを示す断面図、図24は同ビームダンプ10の計算モデルを示す正面図である。このビームダンプ10の計算モデルでは、長さ2.5m、幅3m、高さ3mで内部に角柱形状の入射凹部18が形成された鉄製の中心部15と銅製の周囲部16とを備えたダンプターゲット16を厚さ0.5mの金属製架台12の上に載置し、金属製架台12の下面に高さ2m(その内の1.5mが冷却水23に浸水)、厚さ2cmの下部放熱フィン13を取り付け、冷却水23の温度を10℃、下部放熱フィン13から冷却水23への表面熱伝達率を20W/mK、ダンプターゲット11の周囲の空気温度を30℃、ダンプターゲット11から空気への表面熱伝達率を20W/mKに設定した。
【0044】
図25は本発明の実施の形態に係るビームダンプ10に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット11の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図26はその時における床スラブ14の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図27は同ビームダンプ10に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲット2の各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図、図28はその時における床スラブ14の温度と時間との関係を検証した結果を示す図であり、図25〜図28中、「CORE」とは入射凹部3の周囲1mの中心部15の領域、「上部」とはCOREより上方の周囲部16の領域、「下部」とはCOREより下方の周囲部16の領域、「サイド1」とはCOREの正面視左側の周囲部16の領域、「サイド2」とはCOREの正面視右側の周囲部16の領域をそれぞれ示している。
【0045】
ビームダンプ10に250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、図25から分かるように、ダンプターゲット11の中心部15のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃(図25中のFe−MP)を下回ると共に、ダンプターゲット11の周囲部16のすべての領域で温度が銅の融点1084℃(図25中のCu−MP)を下回るため、ダンプターゲット11’が溶融するおそれはない。また、図26から分かるように、床スラブ14の温度は耐熱温度(図26中のRC−t−Limit)を僅かに超えているが、耐熱レンガ22によって金属製架台12から床スラブ14への熱伝導の大部分が遮断され、床スラブ4の温度が耐熱温度を下回ると考えられるから、床スラブ14が劣化するおそれはない。
【0046】
また、ビームダンプ10に500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合には、図27に示すように、ダンプターゲット11の中心部15のすべての領域で温度が鉄の融点1535℃(図27中のFe−MP)を下回ると共に、ダンプターゲット11の周囲部16のすべての領域で温度が銅の融点1084℃(図27中のCu−MP)を下回るため、ダンプターゲット11’が溶融するおそれはない。また、図28から分かるように、床スラブ14の温度は耐熱温度(図28中のRC−t−Limit)を僅かに超えているが、耐熱レンガ22によって金属製架台12から床スラブ14への熱伝導の大部分が遮断され、床スラブ4の温度が耐熱温度を下回ると考えられるから、床スラブ14が劣化するおそれはない。
【0047】
したがって、図29において従来のビームダンプと本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’,10の検証結果を比較して示すように、従来のビームダンプでは、500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合にダンプターゲットがCOREの領域で溶融するおそれがあるのに対して、本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’,10では、250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合及び500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合のいずれの場合にも、ダンプターゲット11が溶融するおそれはない。また、従来のビームダンプでは、250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合及び500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合のいずれの場合にも、床スラブが劣化するおそれがあるのに対して、本発明の実施の形態に係るビームダンプ10’,10では、250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合及び500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した場合のいずれの場合にも、床スラブ14が劣化するおそれがない。
【0048】
このように本発明の実施の形態に係るビームダンプによれば、荷電粒子ビームのエネルギーが増大しても、荷電粒子ビームが衝突した際に発生する熱によってダンプターゲットが溶融するおそれがないため、ビームダンプの用途の拡大化を図ることが可能となる。
【0049】
また、金属製架台12に取り付けられた下部放熱フィン13が二重ピット内の冷却水23によって冷却されると共に、金属製架台12と床スラブ4との間に介装された耐熱レンガ21により金属製架台12から床スラブ14への熱伝導の大部分が遮断されるため、床スラブ14の温度が耐熱温度以上に上がることがなく、床スラブ14が劣化するおそれもない。
【0050】
なお、金属製架台の冷却手段は、上記した下部放熱フィン13等に限定されるものではなく、例えば、図30に示すように、建屋の床スラブ上に載置した金属製架台31の上にダンプターゲット32が載置されるビートダンプ30において、一端が金属製架台31に接続されるヒートパイプ33と、ヒートパイプ33の他端に設けられる放熱フィン34とを備えるように構成する等、各種変形が可能である。
【0051】
また、ダンプターゲット11の入射凹部18の内面には、入射凹部18が奥行き方向に向かって先細り形状(例えば、円錐形状)となるように三次元曲面の入射面を傾斜して形成してもよい。これにより、荷電粒子ビームがこの入射面に衝突した際に発生する熱エネルギーはダンプターゲット11内を入射軸に対して放射線状に広範囲に分散するため、入射面の単位面積当たりのエネルギー密度が低下し、入射面の表面温度を一層低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態に係るビームダンプを示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るビームダンプを示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るビームダンプを設置する手順を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るビームダンプを設置する手順を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るビームダンプを設置する手順を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るビームダンプを設置する手順を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るビームダンプを設置する手順を示す概略図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るビームダンプを設置する手順を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るビームダンプを設置する手順を示す概略図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るビームダンプを設置する手順を示す概略図である。
【図11】コンピュータを使用して数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す断面図である。
【図12】コンピュータを使用して数値実験を行った際の従来のビームダンプの計算モデルを示す正面図である。
【図13】従来のビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図14】従来のビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時における床スラブの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図15】従来のビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図16】従来のビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時における床スラブの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図17】コンピュータを使用して数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す断面図である。
【図18】コンピュータを使用して数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す正面図である。
【図19】本発明の実施の形態に係るビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図20】本発明の実施の形態に係るビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時における床スラブの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図21】本発明の実施の形態に係るビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図22】本発明の実施の形態に係るビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時における床スラブの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図23】コンピュータを使用して数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す側面図である。
【図24】コンピュータを使用して数値実験を行った際の本発明の実施の形態に係るビームダンプの計算モデルを示す正面図である。
【図25】本発明の実施の形態に係るビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図26】本発明の実施の形態に係るビームダンプに250KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時における床スラブの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図27】本発明の実施の形態に係るビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時におけるダンプターゲットの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図28】本発明の実施の形態に係るビームダンプに500KWのエネルギーの荷電粒子ビームを照射した時における床スラブの各領域の温度と時間との関係を検証した結果を示す図である。
【図29】従来のビームダンプと本発明の実施の形態に係るビームダンプの検証結果を比較して示す図である。
【図30】本発明の実施の形態に係るビームダンプの変形例を示す斜視図である。
【図31】従来のビームダンプのダンプターゲットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10,10’ ビームダンプ
11 ダンプターゲット
12 金属製架台
13 下部放熱フィン(冷却手段)
14 床スラブ
15 中心部
16 周囲部
18 入射凹部
20 上部放熱フィン
22 耐熱レンガ(熱緩衝体)
23 冷却水
30 ビームダンプ
31 金属製架台
32 ダンプターゲット
33 ヒートパイプ
34 放熱フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射された荷電粒子ビームのエネルギーを除去するためのビームダンプであって、
前記荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、
該ダンプターゲットが載置される金属製架台と、
該金属製架台に取り付けられる冷却手段と、
を備えていることを特徴とするビームダンプ。
【請求項2】
床スラブの下方に二重ピット構造を有する建屋内に設けられるビームダンプであって、
前記金属製架台は前記床スラブを貫通し、該金属製架台と前記床スラブとの間には熱緩衝体が設けられ、前記冷却手段は、前記二重ピット内に貯留された冷却水に浸水可能なように前記金属製架台から下方に延出する放熱フィンを備えている請求項1に記載のビームダンプ。
【請求項3】
前記金属製架台は建屋の床スラブに載置され、前記金属製架台の冷却手段は、一端が該金属製架台に接続されるヒートパイプと、該ヒートパイプの他端に設けられる放熱フィンとを備えている請求項1に記載のビームダンプ。
【請求項4】
前記ダンプターゲットの外表面に放熱フィンが設けられている請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載のビームダンプ。
【請求項5】
前記ダンプターゲットは、前記荷電粒子ビームが入射する入射凹部を有する中心部と、該中心部の周囲に設けられる周囲部とを備え、前記中心部は前記周囲部より融点の高い材質から構成され、前記周囲部は前記中心部より熱伝導率の高い材質から構成されている請求項1〜4のいずれか1の請求項に記載のビームダンプ。
【請求項6】
前記中心部は鉄により構成され、前記周囲部は銅により構成されている請求項5に記載のビームダンプ。
【請求項7】
前記ダンプターゲットの入射凹部の内面には、該入射凹部が奥行き方向に向かって先細り形状となるように三次元曲面の入射面が形成されている請求項5又は6に記載のビームダンプ。
【請求項8】
前記入射凹部は円錐形状を成している請求項7に記載のビームダンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2009−289446(P2009−289446A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137912(P2008−137912)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(307029319)エーテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】