説明

ビーム移送システムおよび線形加速器のための方法

荷電粒子ビーム移送システムおよび線形加速器のための方法は、荷電粒子源と線形加速器との間に、加速軸に沿って直列に設けられた2つの電極を有するレンズスタックを含む。粒子源から荷電粒子束(つまり、粒子ビーム)を生成して抽出した後、2つの電極間の電位差が時間的にランプされ、粒子ビームは加速器で生成される加速パルスのパルス幅よりも短くなるように縦方向に圧縮される。荷電粒子束を横方向に集束し最終的なビームのスポットサイズを粒子ビームの電流およびエネルギとは独立に制御するための追加的な電極をレンズスタックに設けてもよい。複数の個々にスイッチ可能なパルス形成線を有する進行波加速器の例では、加速電場の物理的なサイズが荷電粒子束よりも長くなるように隣接する複数の線を同時にトリガすることによって、および、交替位相集束が行われるようにパルス形成線のトリガタイミングを制御することによって、ビーム移送が制御されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.関連出願へのクロスリファレンス
本願は、2007年6月11日に提出された米国仮出願(番号60/934213)の優先権の利益を享受する。本願は、2006年10月24日に提出された先の出願(番号11/586378)の一部継続出願である。出願番号11/586378の出願は、2005年1月14日に提出された先の出願(番号11/036431)の一部継続出願である。出願番号11/036431の出願は、2004年1月15日に提出された米国仮出願(番号60/536943)の利益を享受する。出願番号11/586378の出願は、2005年10月24日に提出された米国仮出願(番号60/730128、60/730129および60/730161)および2006年5月4日に提出された米国仮出願(番号60/798016)の利益も享受する。これら全ての先の出願は本明細書において参照により開示される。
【0002】
II.連邦によって後援された研究または開発
米国政府は、米国エネルギ省とローレンス・リヴァーモア国立研究所を運営するローレンス リヴァーモア ナショナル セキュリティ,エルエルシーとの間の契約書番号DE−AC52−07NA27344に従い、本発明の権利を保有する。
【0003】
本発明は線形加速器に関し、特に一束の荷電粒子が加速ステージへ入射する前にそれを縦方向に圧縮するためにレンズスタックの2つの電極の間の電位差を時間的にランプし、かつ、一束の荷電粒子を縦方向に圧縮/復元し横方向に集束する/ぼかすように複数の個々にスイッチされるパルス形成線を用いるための加速ステージにおける種々のスイッチトリガ手法をも使用する荷電粒子ビーム移送システムおよび線形加速器のための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
粒子加速器は、電子、陽子もしくは帯電した原子核などの帯電した素粒子のエネルギを高めるために使用されており、これにより核物理学者や素粒子物理学者は、それらの素粒子を研究することができる。高いエネルギを有する帯電した素粒子を加速して標的原子に衝突させる。その結果得られる生成物を検出器によって観測する。エネルギが非常に高ければ、荷電粒子は標的原子の原子核を壊すことができ、また他の粒子と相互作用することもできる。そこでは物質の根源的な構成要素の性質や振る舞いを窺わせるような変化が起こる。粒子加速器は核融合装置の開発への応用や癌の治療などの医療への応用においても重要なツールである。
【0005】
粒子加速器の一形態が米国特許第5757146号(発明者:Carder)に開示されている。米国特許第5757146号は本明細書において参照により開示される。米国特許第5757146号は、荷電粒子を加速するために高速電気パルスを生成する方法を提供する。Carder特許においては、誘電壁加速器(DWA)システムが示されている。誘電壁加速器(DWA)システムは、スイッチされると高電圧を生成する一連の積層された円板状モジュールからなる。これらのモジュールのそれぞれは非対称ブルームライン(Blumlein)と呼ばれ、本明細書において参照により開示される米国特許第2465840号に開示されている。Carder特許の図4A−4Bに最も良く示されているように、ブルームラインはふたつの異なる誘電体層から構成される。2本の平行平板径方向伝送線を形成する導体が、2つの誘電体層の間とそのそれぞれの表面に設けられる。この構成の一方は遅い線と呼ばれ、他方は速い線と呼ばれる。遅い線と速い線との間に位置する中心電極には最初高い電位が与えられる。それらの2つの伝送線は反対の極性を有するので、ブルームラインの内径(ID)と交差する方向には正味の電圧は発生しない。沿面フラッシオーバもしくは同様のスイッチによって構成の外側を短絡させると、2つの極性反転波が作り出され、その波はブルームラインのIDに向けて径方向内向きに進行する。速い線の波は遅い線の波よりも早く構成のIDに到達する。速い(線の)波が構成のIDに到達すると、その線においてのみそこでの極性が反転され、非対称ブルームラインのIDと交差する方向に正味の電圧が生じる。この高電圧は遅い線の波がIDに到達するまで持続する。加速器の場合、この期間中に荷電粒子ビームを入射して加速することができる。Carder特許のDWA加速器はこのようにして構成全体に亘って連続する軸方向の加速電場を提供し、高い加速勾配を達成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらCarderのDWAのような既存の誘電壁加速器には、ビームの質やパフォーマンスに影響を与えうる生来的な問題がある。特にCarderDWAのディスク形状にはいくつかの問題がある。荷電粒子の加速のために使用する場合、このような円板形状ではデバイス全体が最適化されているとは言えない。中心孔を有する平坦な平板導体という構成では、伝搬する波面がその中心孔に向けて径方向で収束してしまう。そのような構成では、波面は出力パルスを歪めうる不定のインピーダンスの影響を受け、電場を通過する荷電粒子ビームに既定の時間非依存性を有するエネルギ利得が与えられることが妨害される。むしろそのような構成によって生じた電場を通過する荷電粒子ビームには、時間に対して一様でないエネルギ利得が与えられる。これは、加速器システムが適切にそのようなビームを搬送することを妨げ、そのようなビームの利用範囲を狭めうる。
【0007】
加えて、そのような構成のインピーダンスは要求されるよりも極めて低い可能性がある。例えば、必要とされる加速勾配を維持しつつミリアンペアオーダーもしくはそれ以下のビームを生成することがたいていの場合特に好ましい。Carderのディスク形状ブルームライン構成では、システムに過度の電気的なエネルギが蓄えられ得る。これは電気的に非効率的であることは明らかでり、その上システム開始時にビームに伝達されなかったエネルギは全てその構成に残存しうる。そのような過度のエネルギはデバイス全体のパフォーマンスや信頼性にとって有害でありえ、システムの初期不良の原因となりうる。
【0008】
加えて、中心孔を有する平坦な平板導体(例えば、ディスク形状)には、電極の外側の周が非常に長くなるという生来的な問題がある。その結果、構成の動作を開始させる並列に設けられるスイッチの数は、その周によって決定される。例えば、10nsより短いパルスを生成するために使用される直径6インチのデバイスには、ディスク形状の非対称ブルームライン層ごとに少なくとも10個のスイッチサイトが典型的には必要となる。長い加速パルスが必要とされる場合にはかかる問題はより深刻となる。このディスク形状のブルームライン構成における出力パルスの長さは、中心孔からの径方向長さと比例的な関係があるからである。したがって、長いパルス幅が要求される場合、それに対応してスイッチサイトの数を増やす必要がある。スイッチをオンするためにレーザや他の同様のデバイスを使用することが好ましいことを考えると、非常に複雑な配置配線システムが必要とされる。さらには、長いパルスのための構成は、大きな誘電体シートを必要とするのであるが、これは製造が難しい。また、そのような大きな誘電体シートは構成の重量も増加させうる。例えば、現構成では、50nsのパルスを生成するデバイスは1メートル当たり数トン程度となりうる。長パルス生成に関わるこのような不利な点のいくつかは、非対称ブルームラインに含まれる全ての3つの導体に渦巻き状の溝を設けることによって緩和されうる。しかしながら、これは破壊的干渉性の層間結合を引き起こして動作を妨げうる。つまり、構成の出力には、ステージごとに非常に低減されたパルス振幅(したがってエネルギ)が現れうる。
【0009】
加えて、特に陽子線を用いた癌の治療などの医療への応用を目的として種々の加速器が開発されている。例えば、米国特許第4879287号(発明者:Cole)は、カリフォルニアのロマ・リンダにあるロマ・リンダ大学陽子加速設備で使用されているマルチステーション陽子線治療システムを開示する。このシステムでは、粒子源の生成は設備のある場所で行われ、加速は設備の別の場所で行われ、患者は設備のさらに別の場所に配置される。粒子源と加速と標的とが互いに離れているので、大きくてかさばる偏向マグネットを備える複雑なガントリシステムを使用して粒子が移送される。医療用として知られている他の代表的なシステムが、米国特許第6407505号(発明者:Bertsche)および米国特許第4507616号(発明者:Blosser)に開示されている。Bertsche特許では、定在波RF線形加速器が示され、Blosser特許では、支持構造に回転可能に取り付けられた超伝導サイクロトロンが示される。
【0010】
さらには、空間中で低圧ガスからプラズマ放電を生成するイオン源が知られている。この空間からイオンが抽出され、加速のために加速器に対してコリメートされる。これらのシステムは一般的には0.25A/cm2より小さい電流密度しか抽出できない。この低い電流密度は、抽出インタフェースにおけるプラズマ放電の密度に部分的に起因している。従来知られているイオン源の一例が、米国特許第6985553号(発明者:Leung他)に開示されている。そのイオン源は、イオンの極短パルスを生成する抽出システムを有する。他の例が米国特許第6759807号(発明者:Wahlin)に示されている。Wahlinは、抽出グリッドと加速グリッドと集束グリッドとシールドグリッドとを有し高度にコリメートされたイオンビームを生成する多グリッドイオンビーム源を開示する。
【0011】
線形加速器における粒子のダイナミクスに関して、荷電粒子源で生成される一束の荷電粒子(つまり、粒子ビーム)の全てが、加速器の長さ方向に沿って生成される加速エネルギと完全に同期すべく正しい時間と正しい速度で加速器に入って通過するわけではないことが知られている。むしろ粒子束は多くの場合あるレベルのビームエミッタンスを有する。つまり粒子束は粒子速度(運動量)の広がりを有し、また粒子源から抽出されたときおよび加速器の加速ステージを通じての両方で有限の横方向の大きさを有する。加速器、特に加速勾配を生成するために時間変化するエネルギ波形を使用する加速器において、ビームエミッタンスはビーム移送を難しくする。(例えば、RF定在波線形加速器では正弦波状の時間変化を有するエネルギ波形が生成され、短パルス誘電壁加速器でもパルス形成線からのエネルギの寄生的な流出によってそうでなければ平らな頂部を有すべきパルスの形状が歪む。)なぜならば、空間的に広がった一束のなかの粒子はそれぞれ、異なる時間におよび空間的に異なる位置で時間変化するエネルギ場の影響を受け、その結果加速ステージのなかで縦および横の両方向に異なる運動力を受けるからである。言い換えると、加速エネルギ波形は時間について一定ではないので、つまり平らな頂部を欠いているので、一束のなかの異なる粒子に与えられるエネルギには、個々の粒子の一束のなかでの相対位置および個々の粒子がエネルギ波形に遭遇するタイミングによる変動(つまりエネルギの広がり)が存在するであろう。エネルギの広がりの結果、粒子束には縦方向の圧縮または復元が加えられ得る。これは束の長さおよび位相安定性に影響を及ぼす。また、粒子束には半径方向もしくは横方向の集束またはぼかしが加えられ得る。これは束の幅(ビーム幅)およびひいては標的上での最終的なビームのスポットサイズに影響を及ぼす。特に、束の長さが加速エネルギ波形のパルス幅よりも長い場合は、束の長さの変動は束の粒子の全てを捉える上で問題となりうる。数ナノ秒程度の極短パルス幅を使用して非常に高い勾配を生成する短パルス誘電壁加速器の場合は特に、パルス幅よりも短くなるように束の長さを縦方向に圧縮する必要性はさらに高い。必要な圧縮の度合いはより高いからである。
【0012】
米国特許第2545595号(発明者:Alvarez)および米国特許第2770755号(発明者:Good)に記載されているように、加速される粒子束の縦方向の圧縮(位相安定性)と横方向の集束(横方向安定性)との間には反比例的な関係が存在することが知られている。Good特許の図2はこの関係を示す。そこで示されるように、加速エネルギ波形の立ち上がりエッジに沿って時間変化するエネルギ場にさらされた粒子は、縦方向に圧縮され(位相的に安定となり)かつ半径方向にぼかされる(横方向的に不安定となる)であろう。一方で、加速エネルギ波形の立ち下がりエッジに沿って時間変化するエネルギ場にさらされた粒子は、縦方向に復元または拡大され(位相的に不安定となり)かつ半径方向に集束される(横方向的に安定となる)であろう。Alvarez特許では特に、その図5に示されるように、金属性薄膜12がドリフトチューブの入口端に被せられる。電場を歪めて位相安定動作中に半径方向の集束を達成するためである。加えて、線形加速器の加速アパーチャの中での横方向運動を制御するために、例えばソレノイドや4極子によって生成される外部磁場が使用されている。
【0013】
加速ステージにおける位相安定性と半径方向集束との間の両立の困難性を解決するために、交替位相集束(APF)ビーム移送方式もまた使用されている。一般的にAPF方式では、加速ステージにおいて、加速エネルギ波形の立ち上がりエッジもしくは立ち下がりエッジへの粒子束の暴露が変調される。この変調は、対応する縦方向圧縮が半径方向ぼかしと共に生じるように、または縦方向復元が半径方向集束と共に生じるように行われる。この方式では、一連の横方向に集束させる力およびぼかす力が加えられるのと同時に粒子ビームは加速されうる。その結果、集束用の磁場に頼ることなしに適切なレベルのビーム閉じ込めを実現できる。各ギャップにおいて同期的な位相の特定の値を得るような所定のやり方で間隔をあけられた複数の離散的な加速ギャップを有するドリフトチューブRF定在波線形加速器の枠組みの中でAPFが挙げられている。また、連続的に位相変調される「進行波」電場を生成する、短く個々に制御可能な超伝導キャビティを備えるイオン線形加速器の枠組みの中でもAPFが挙げられている。
【0014】
米国特許第4211954号(発明者:Swenson)および755特許(発明者:Good)は、ドリフトチューブRF定在波線形加速器の枠組みの中でのAPFの2つの例である。特にGood特許では、通常の同期長さよりも長いか短いかのどちらかである長さを有し、2番目、6番目、および10番目のドリフトチューブ位置に交互に配置されたドリフトチューブが使用される。この構成によると、2番目、6番目、および10番目のドリフトチューブ位置のそれぞれに引き続くギャップでは半径方向の集束および縦方向の復元が起こり、一方で他の全てのドリフトチューブに引き続くギャップでは半径方向のぼかしと縦方向の圧縮が起こる。「Investigation of Alternating−Phase Focusing for Superconducting Linacs」(著者:Sagalovsky他、発行日:1992年1月1日)は、連続的に位相変調される進行波加速器の枠組みの中でAPFを挙げている一つの例である。特に、そのSagalovskyの刊行物には、電場の位相および振幅の両方を調整するために個々に制御されるローb超伝導キャビティを備える線形加速器におけるAPFの物理を説明する解析的なAPFモデルが開示されている。そのような進行波線形加速器では、個々のキャビティは大抵の場合入射する一束の粒子の物理的な長さよりもより長い軸方向長さ(したがって加速電場)を有し、粒子束の全てが捉えられ得ることは理解される。
【0015】
しかしながら、イオン粒子源から現れる一束のイオン粒子(つまり、粒子ビーム)は大抵の場合、加速器の加速ステージへ入射する前に発散的な形状を有することも知られている。したがって加速器を効率的に使用するためには、粒子ビームを加速ステージに入れる前に飛行中に横方向に集束することが必要である場合が多い。イオンビームを横方向に集束するための種々の静電的および磁気的方法が知られている。例えば、典型的には軸に沿って直列に設けられた円筒形状の電極の3つ以上のセットを備えるアインゼルレンズがある。このアインゼルレンズは、単一のレンズを生成するために反対の極性を有する電極間に湾曲した電場の線を生成するのによく使用される。特に、集束をゆるめる−集束させる−集束をゆるめる領域を生成し、全体としての影響が常に正の集束、つまり収束レンズとなるようにアインゼルレンズが構成されることが多い。アインゼルレンズはタンデム加速器の入射端でよく使用されているが、非常に低い電圧の加速器以外の高エネルギアプリケーションにおけるビーム操作および移送においては現実的でないと考えられている。そのようなものであるアインゼルレンズは大抵、ビームサイズの最初の調整には使用されるが、最終的なビームのスポットサイズの制御には使用されない。これは通常加速ステージにおいて取り扱われる。加えて、アインゼルレンズが横方向の集束に使用されていることは当分野でよく知られているが、アインゼルレンズは縦方向の束の圧縮を行うためには使用されていない。
【0016】
したがって、加速器(特に個々に制御可能なパルス形成線を使用した短パルス誘電壁型加速器)を通じての粒子ビームの効率的な加速および標的での最終的なビームのスポットサイズの制御を可能としつつ、加速ステージにおいてだけでなく加速ステージへの入射の前の抽出ステージにおいてもビームのエミッタンスを変調できる改良されたビーム移送システムおよび方法を提供することには利点があるであろう。特に、粒子束を時間変化する電場の頂部付近で捉えてエネルギ広がりを低くするために、加速ステージへの入射前に粒子束を縦方向に圧縮するシステムおよび方法を提供することには利点があるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のある態様は線形加速器システムを含む。この線形加速器システムは、一束の荷電粒子を生成するための荷電粒子源と、加速軸に沿って少なくともひとつの加速勾配を生成するための線形加速器と、荷電粒子源と線形加速器との間に、加速軸に沿って直列に設けられた2つの電極を有するレンズスタックと、一束のうちの上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギを得るように2つの電極の間に生成される電位差を時間的にランプし、それによって一束の荷電粒子が線形加速器へ入射する前にそれを縦方向に圧縮するための電圧制御手段と、を備える。
【0018】
本発明の別の態様は短パルス誘電壁加速器システムを含む。この短パルス誘電壁加速器システムは、一束の荷電粒子を生成するためのパルス型イオン源と、加速軸を囲み入力端と出力端とを有する誘電壁ビームチューブと、誘電壁ビームチューブに横方向に接続され、かつ誘電壁ビームチューブに沿って直列に設けられた複数のパルス形成線と、を備える。各パルス形成線は、それと対応する誘電壁ビームチューブの短い軸方向長さに隣接して短い加速パルスを生成するために他のパルス形成線とは独立にそのパルス形成線を通して少なくともひとつの電気的な波面を伝搬させる、高い電位に接続可能なスイッチを有する。当該短パルス誘電壁加速器システムはさらに、2つの縦方向圧縮電極と少なくともひとつの横方向集束電極とを含むレンズスタックを備える。2つの縦方向圧縮電極および少なくともひとつの横方向集束電極はパルス型イオン源と誘電壁ビームチューブの入力端との間に、加速軸に沿って直列に設けられる。当該短パルス誘電壁加速器システムはさらに、一束のうちの上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギを得るように2つの縦方向圧縮電極の間に生成される電位差を時間的にランプし、それによって一束の荷電粒子が線形加速器へ入射する前にそれを縦方向に圧縮し、かつ、一束の荷電粒子が線形加速器へ入射する前における一束の荷電粒子の横方向の集束を制御し、それによってビームのスポットサイズを一束の荷電粒子の電流およびエネルギによらずに制御するために、横方向集束電極の電圧を制御する電圧制御手段と、隣接するパルス形成線のブロックに対応する少なくともひとつのスイッチのグループの単位でスイッチを順番に作動させるトリガ制御器であって、入射する一束の荷電粒子に加速エネルギを逐次与えるために、スイッチのグループによって順番に生成される短い加速パルスのグループが入射する一束の荷電粒子と実質的に同期して加速軸に沿って伝搬する進行性の軸方向電場を形成するトリガ制御器と、を備える。
【0019】
本発明の別の態様は荷電粒子源によって生成される一束の荷電粒子を縦方向に圧縮するビーム移送方法を含む。このビーム移送方法は、荷電粒子源に隣接し、加速軸に沿って直列に設けられる2つの縦方向圧縮電極および少なくともひとつの横方向集束電極を提供することと、一束のうちの上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギを得るように第1および第2の電極の間に生成される電位差を時間的にランプし、それによって加速軸に沿った飛行中に一束の荷電粒子を縦方向に圧縮することと、加速軸に沿った飛行中に一束の荷電粒子の横方向の集束を制御するために、横方向集束電極の電圧を制御することと、を含む。
【0020】
本発明の別の態様は線形加速器のためのビーム移送方法を含む。このビーム移送方法は、荷電粒子源と、加速軸に沿って少なくともひとつの加速勾配を生成するための線形加速器と、荷電粒子源と線形加速器との間に、加速軸に沿って直列に設けられた2つの電極を有するレンズスタックと、を備える線形加速器システムを提供することと、荷電粒子源から一束の荷電粒子を生成することと、一束の荷電粒子をレンズスタックに抽出することと、一束のうちの上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギを得るように2つの電極の間に生成される電位差を時間的にランプし、それによって一束の荷電粒子が線形加速器へ入射する前にそれを縦方向に圧縮することと、線形加速器へ縦方向に圧縮された一束の荷電粒子を入射させることと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
開示に組み入れられ開示の一部をなす添付の図は以下の通りである。
【0022】
【図1】本発明のコンパクトな加速器のひとつのブルームラインモジュールの第1の実施の形態を示す側面図である。
【0023】
【図2】図1のひとつのブルームラインモジュールを示す平面図である。
【0024】
【図3】一緒に積み重ねられたふたつのブルームラインモジュールを有するコンパクトな加速器の第2の実施の形態を示す側面図である。
【0025】
【図4】本発明のひとつのブルームラインモジュールの第3の実施の形態を示す平面図である。このブルームラインモジュールは、そのモジュールの他の層よりも小さな幅を有する中間導体ストリップを有する。
【0026】
【図5】図4の線4に沿う拡大断面図である。
【0027】
【図6】コンパクトな加速器の別の実施の形態を示す上面図である。この図には、中央の加速領域を周方向に囲み、当該領域に向けて径方向に延伸するふたつのブルームラインモジュールが示される。
【0028】
【図7】図6の線7に沿う断面図である。
【0029】
【図8】コンパクトな加速器の別の実施の形態を示す上面図である。この図には、中央の加速領域を周方向に囲み、当該領域に向けて径方向に延伸するふたつのブルームラインモジュールが示される。一方のモジュールの平板導体ストリップは他方のモジュールの対応する平板導体ストリップとリング電極によって接続される。
【0030】
【図9】図8の線9に沿う断面図である。
【0031】
【図10】本発明の別の実施の形態を示す上面図である。この実施の形態は、それぞれが対応するスイッチと接続された4つの非直線状ブルームラインモジュールを有する。
【0032】
【図11】本発明の、図10と似た別の実施の形態を示す上面図である。この実施の形態は、4つの非直線状ブルームラインモジュールのそれぞれを、そのそれぞれの第2の端部において接続するリング電極を含む。
【0033】
【図12】本発明の、図1と似た別の実施の形態を示す側面図である。この実施の形態は、対称的なブルームライン動作を実現するために、同じ誘電率と同じ厚さを有する第1の誘電体ストリップと第2の誘電体ストリップとを有する。
【0034】
【図13】本発明の荷電粒子生成器の実施の形態を示す概念図である。
【0035】
【図14】図13の円14に沿う拡大された概念図である。この図は、本発明のパルス型イオン源の実施の形態を示す。
【0036】
【図15】図14のパルス型イオン源によるパルス化されたイオン生成の過程を示す図である。
【0037】
【図16】種々のゲート電極電圧に対する標的上での最終的なスポットの大きさを示す複数のスクリーンショットである。
【0038】
【図17】高勾配陽子ビーム加速器における、抽出された陽子ビーム電流をゲート電極電圧の関数として示したグラフである。
【0039】
【図18】本発明の荷電粒子生成器におけるポテンシャル等高線を示す2つのグラフである。
【0040】
【図19】種々の集束電極電圧の設定に対する、マグネットを用いない250MeV高勾配陽子加速器におけるビーム移送を示す比較図である。
【0041】
【図20】250MeV、150MeV、100MeVおよび70MeVの陽子ビームについての、標的上でのビームのエッジ半径(上の曲線)およびコア半径(下の曲線)対集束電極電圧の4つのグラフを示す比較図である。
【0042】
【図21】一体化された荷電粒子生成器および線形加速器を有する本発明の駆動可能でコンパクトな加速器システムを示す概念図である。
【0043】
【図22】本発明の一体化されたコンパクトな加速器/荷電粒子源の例示的な取り付け態様を示す側面図である。この図は医療への応用を示す。
【0044】
【図23】本発明の一体化されたコンパクトな加速器/荷電粒子源を例示的に垂直に取り付けた態様を示す斜視図である。
【0045】
【図24】本発明の一体化されたコンパクトな加速器/荷電粒子源を例示的にハブ−スポークのように取り付けた態様を示す斜視図である。
【0046】
【図25】本発明の連続パルス進行波加速器を示す概念図である。
【0047】
【図26】図25の連続パルス進行波加速器の短パルス進行波動作を説明するための概念図である。
【0048】
【図27】従来の誘電壁加速器の典型的なセルの長パルス動作を説明するための概念図である。
【0049】
【図28】粒子束の加速に際し、正に帯電した粒子束を縦方向に圧縮するように2つの電極間の電位差を時間的にランプする第1の例を示すグラフである。
【0050】
【図29】粒子束の加速に際し、正に帯電した粒子束を縦方向に圧縮するように2つの電極間の電位差を時間的にランプする第2の例を示すグラフである。
【0051】
【図30】粒子束の加速に際し、負に帯電した粒子束を縦方向に圧縮するように2つの電極間の電位差を時間的にランプする第3の例を示すグラフである。
【0052】
【図31】粒子束の加速に際し、負に帯電した粒子束を縦方向に圧縮するように2つの電極間の電位差を時間的にランプする第4の例を示すグラフである。
【0053】
【図32】本発明の例示的な連続パルス進行波加速器の模式図である。この連続パルス進行波加速器は、より大きな加速バケットを生成するために、隣接する2つの伝送線のブロックの単位で順番にトリガすることを含む。図32はまた、トリガタイミングを変えることによる交替位相集束を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
A.ストリップ形状のブルームラインを備えるコンパクトな加速器
図を参照すると、図1−12は、本発明で用いられるコンパクトな線形加速器を示す。このコンパクトな線形加速器は、第1の端部と第2の端部との間で伝搬性の波面をガイドし第2の端部において出力パルスを制御する少なくともひとつのストリップ形状のブルームラインモジュールを備える。ブルームラインモジュールのそれぞれは、第1、第2および第3の平板導体ストリップを含み、第1の導体ストリップと第2の導体ストリップとの間に第1の誘電体ストリップをさらに含み、第2の導体ストリップと第3の導体ストリップとの間に第2の誘電体ストリップをさらに含む。加えて、コンパクトな線形加速器は、第2の導体ストリップを高電位まで充電するために接続される高電圧電源と、第2の導体ストリップの高電位を第1および第3の導体ストリップのうちの少なくともひとつの電位へとスイッチし、それにより対応する誘電体ストリップ中に伝搬性の極性反転波面を発生させるためのスイッチと、を含む。
【0055】
コンパクトな線形加速器は、第1の端部と第2の端部との間で伝搬性の波面をガイドし第2の端部において出力パルスを制御する少なくともひとつのストリップ形状のブルームラインモジュールを備える。ブルームラインモジュールのそれぞれは、第1、第2および第3の平板導体ストリップを含み、第1の導体ストリップと第2の導体ストリップとの間に第1の誘電体ストリップをさらに含み、第2の導体ストリップと第3の導体ストリップとの間に第2の誘電体ストリップをさらに含む。加えて、コンパクトな線形加速器は、第2の導体ストリップを高電位まで充電するために接続される高電圧電源と、第2の導体ストリップの高電位を第1および第3の導体ストリップのうちの少なくともひとつの電位へとスイッチし、それにより対応する誘電体ストリップ中に伝搬性の極性反転波面を発生させるためのスイッチと、を含む。
【0056】
図1−2は、コンパクトな線形加速器の第1の実施の形態を示す。コンパクトな線形加速器は参照符号10として示される。このコンパクトな線形加速器は、スイッチ18に接続されたひとつのブルームラインモジュール36を備える。コンパクトな加速器はさらに、スイッチ18を介してブルームラインモジュール36へ高い電位を供給する適切な高電圧源(不図示)を含む。たいていの場合、ブルームラインモジュールはストリップ形状の構成、つまり長くて狭い形状の構成を有し、典型的には一様な幅を有するが必ずしもそうではない。図1および2にはあるブルームラインモジュール11が示される。このブルームラインモジュール11は、第1の端部11と第2の端部12との間に伸び長さlと比較して狭い幅w(図2、4)を有する長い梁もしくは厚板のような直線状の構成を有する。ブルームラインモジュールのこのストリップ形状の構成は、第1の端部11から第2の端部12への伝搬性の電気的な信号波をガイドし、それにより第2の端部において出力パルスを制御するために作用する。特に、波面の形は、モジュールの幅を適切に設計することによって制御されうる。例えば、図6に示されるようにその幅を次第に小さくすることによって制御されうる。ストリップ形状の構成によれば、コンパクトな加速器は、伝搬する波面が感じる不定のインピーダンスの問題を克服することができる。背景の項においてカーダーのディスク形状のモジュールに関連して議論したように、この不定のインピーダンスは波面が径方向に向けられ中心孔において収束する際に発生しうる。本構成によると、モジュール10のストリップもしくは梁のような構成によって、平坦な出力(電圧)パルスが、パルスが歪められることなしに生成されうる。これにより、粒子ビームが時間的に不定のエネルギ利得を得るのを妨げることができる。本明細書およびクレームにおいて使用されているように、第1の端部11をスイッチ、例えばスイッチ18、に接続される端部とし、第2の端部12を、粒子加速のための出力パルス領域などの負荷領域に隣接する端部とする。
【0057】
図1および2に示されるように、狭い梁のような構造を有する基本的なブルームラインモジュール10は、薄いストリップ状に形成され誘電体によって隔てられた3枚の平板導体を含む。ここでその誘電体は、長いがより厚いストリップとして示されている。特に、第1の平板導体ストリップ13と中間の第2の平板導体ストリップ15とは、それらの間の空間を満たす第1の誘電体14によって隔てられる。第2の平板導体ストリップ15と第3の平板導体ストリップ16は、それらの間の空間を満たす第2の誘電体17によって隔てられる。このように誘電体によって隔てられることにより、図示されるように平板導体ストリップ13、15および16が互いに平行に配置されることが望ましい。第3の誘電体19もまた図示されている。第3の誘電体19は、平板導体ストリップおよび誘電体ストリップ13−17に接続されそれらをキャップする。第3の誘電体19は、波を合成し、パルス化された電圧のみがその真空壁を越えることを許すのに役に立つ。これにより、その壁に応力が働く時間を低減でき、より高い勾配を実現しうる。第3の誘電体19は、加速器に波を印加する前にその波を変換する領域としても使用されうる。ここでの波の変換とはつまり、電圧を昇圧したり、インピーダンスを変えたりすることである。そのようなもの、たいていの場合第3の誘電体19および第2の端部12であるが、が矢印20で示される負荷領域に隣接するものとして示される。特に、矢印20は粒子加速器の加速軸を示し、粒子の加速の方向を指し示す。背景の項で議論したように、加速の方向は、速い伝送線および遅い伝送線の経路、つまりふたつの誘電体ストリップを通しての経路に依存することは理解される。
【0058】
図1にはスイッチ18が示されている。スイッチ18は、平板導体ストリップ13、15および16にそのそれぞれの第1の端部、つまりモジュール36の第1の端部11において接続されている。スイッチは、初期状態において外側の平板導体ストリップ13、16を接地電位に接続し中間の導体ストリップ15を高電圧源(不図示)に接続する役割を果たす。そしてスイッチ18は、第1の端部を短絡するよう操作される。その結果、ブルームラインモジュールを通じて伝搬性の電圧波面が発生し、第2の端部において出力パルスが生成される。特に、スイッチ18は、誘電体のうちの少なくともひとつの内部に、第1の端部から第2の端部への伝搬性の極性反転波面を生成できる。これは、ブルームラインモジュールが対称動作をするよう設計されているかもしくは非対称動作をするよう設計されているかによる。図1および2に示されるように非対称動作をするよう設計されている場合、カーダーにおいて説明されているのと同様に、ブルームラインモジュールの誘電体層14、17は、異なる誘電率と異なる厚さ(d≠d)とを有する。ブルームラインの非対称動作においては、誘電体層を通過する伝搬性の波の速さが異なる。しかしながら、図12に示されるようにブルームラインモジュールが対称動作をするよう設計されている場合、誘電体ストリップ95、98は同じ誘電率を有し、それらの幅と厚さ(d=d)もまた等しい。加えて、図12に示されるように、第2の誘電体ストリップ98の中で波面が伝搬しないように、磁性体が第2の誘電体ストリップ98のすぐ近くに配置される。これにより、スイッチは第1の誘電体ストリップ95の中にのみ伝搬性の極性反転波面を生成する。スイッチ18は、非対称ブルームラインモジュール動作もしくは対称ブルームラインモジュール動作に対して好適なスイッチ、例えばガス放電閉スイッチ、沿面フラッシオーバ閉スイッチ、ソリッドステートスイッチ、光伝導性スイッチなどであることは理解される。さらに、誘電体の種類/寸法やスイッチは、コンパクトな加速器が種々の加速勾配、例えば1メートル当たり20メガボルトを越える勾配で動作できるように適切に選択されうることは理解される。一方で、より低い勾配もまた設計の範囲で達成されうる。
【0059】
ある好適な実施の形態では、第2の平板導体は、第1の誘電体ストリップを通じた特性インピーダンスZ=k(w,d)によって定義される幅wを有する。kは第1の誘電体ストリップの第1の電気定数であり、第1の誘電体の透磁率と誘電率との比の平方根によって定義される。gは、隣接する導体の幾何学的効果によって定義される関数である。dは、第1の誘電体ストリップの厚さである。第2の誘電体ストリップは、第2の誘電体ストリップを通じた特性インピーダンスZ=k(w,d)によって定義される厚さを有する。kは第2の誘電体の第2の電気定数である。gは、隣接する導体の幾何学的効果によって定義される関数である。wは、第2の平板導体ストリップの幅である。dは、第2の誘電体ストリップの厚さである。誘電率が異なることが非対称ブルームラインモジュールにおいて必要とされるのであるがこれはインピーダンスの違いを引き起こす。そこで上述のようにすることにより、対応する伝送線の幅を調整することでインピーダンスを一定に保つことができる。これにより負荷へより多くのエネルギを移送することができる。
【0060】
図4および5は、第1および第2の平板導体ストリップ41、42および第1および第2の誘電体ストリップ44、45の幅よりもより狭い幅を有する第2の平板導体ストリップ42を備えるブルームラインモジュールの実施の形態を示す。この構成では、背景の項で議論された破壊的干渉性の層間結合は、電極41および43を延伸したことにより抑制される。これは、電極42はもはやひとつ前のもしくはひとつ後のブルームラインと簡単にはエネルギ結合を起こしえないからである。さらには、モジュールのさらに別の実施の形態は、長さ方向l(図2、4参照)に沿って変化する幅を有することが好ましい。この場合、出力パルスを成形し、その形状を制御することができる。このことが図6に示されている。図6には、中央の負荷領域へ向けて径方向内向きにモジュールが延伸するにつれて、幅が次第に細くなることが示されている。さらに別の実施の形態では、ブルームラインモジュールの寸法と誘電体の材料は、Zが実質的にZに等しくなるように選択される。前述したように、インピーダンスをマッチさせることで、振動する出力を生成しうる波の形成が抑制される。
【0061】
非対称ブルームライン構成においては、第2の誘電体ストリップ17は第1の誘電体ストリップ14よりも、例えば3:1のように実質的に低い伝搬速度を有することが望ましい。ここで第2の誘電体ストリップ17および第1の誘電体ストリップ14の伝搬速度をそれぞれv、vと定義すると、v=(με−0.5であり、v=(με−0.5である。なお、透磁率μと誘電率εとは第1の誘電体の物質定数であり、透磁率μと誘電率εとは第2の誘電体の物質定数である。第2の誘電体ストリップ17の伝搬速度を遅くすることは、第2の誘電体ストリップに、第1の誘電体ストリップの誘電率、つまりμε、よりも大きな誘電率、つまりμε、を有する材料を選択することによって達成されうる。例えば図1に示されるように、第1の誘電体ストリップの厚さはdと表記され、第2の誘電体ストリップの厚さはdと表記され、dはdよりも大きいものとして示されている。d2をd1よりも大きく設定して異なる間隔と異なる誘電率を組み合わせることで、第2の平板導体ストリップ15の両側で等しい特性インピーダンスを実現している。両半分において特性インピーダンスは等しいが、それぞれの半分を通じた信号の伝搬速度は必ずしも等しくない点に注意する。異なる伝搬速度を実現するために誘電体ストリップの誘電率や厚さが適切に選択されてもよいのであるが、長いストリップ形状の構造および構成は、非対称ブルームラインの概念、つまり異なる誘電率および異なる厚さを有する誘電体を使用する概念、を使用する必要はないことは理解される。波形が制御されるという利点は、ブルームラインモジュールの長い梁のような幾何形状および構成によって実現されているのであって高い加速勾配を生成する特定の方法によってではないので、他の実施の形態は代替的なスイッチ構成を使用することができる。そのような代替的なスイッチ構成は例えば、対称ブルームライン動作を含む図12について議論されたものである。
【0062】
コンパクトな加速器は、互いに位置を揃えて積み重ねられた2つ以上の長いブルームラインモジュールを含む構造を代替的に有してもよい。例えば、図3は、互いに位置を揃えて積み重ねられたふたつのブルームラインモジュールを有するコンパクトな加速器21を示す。そのふたつのブルームラインモジュールは、平板導体ストリップと誘電体ストリップ24−32とを交互に積層してなる積層構造を形成する。そこでは、平板導体ストリップ32は両方のモジュールに共通している。導体ストリップは、積層されたモジュールの第1の端部22においてスイッチ33と接続される。積層されたモジュールの第2の端部23をキャップする誘電壁であって加速軸の矢印35によって示される負荷領域に隣接する誘電壁もまた34に設けられる。
【0063】
コンパクトな加速器は、中央の負荷領域を周方向に囲むように配置された少なくともふたつのブルームラインモジュールを有する構成とされてもよい。さらには、周方向に囲むモジュールのそれぞれは、最初のモジュールと位置を揃えて積み重ねられたひとつ以上の追加のブルームラインモジュールを追加的に含んでもよい。例えば、図6は、コンパクトな加速器50のある実施の形態を示す。コンパクトな加速器50は、ふたつのブルームラインモジュール積層構造51および53を有し、そのふたつの積層構造は中央の負荷領域56を囲む。モジュール積層構造のそれぞれは、4つの独立して操作されるブルームラインモジュールの積層構造として示される(図7)。また、モジュール積層構造のそれぞれは、対応するスイッチ52、54に個々に接続される。ブルームラインモジュールを互いに位置を揃えて積み重ねることによって加速軸に沿ったより長い領域をカバーすることができることは理解される。
【0064】
図8および9には、コンパクトな加速器の別の実施の形態が参照符号60で示される。このコンパクトな加速器は、ふたつ以上の導体ストリップ、例えば61、63、を有し、それらの導体ストリップ、例えば61、63、はそのそれぞれの第2の端部において65で示されるリング電極によって互いに接続されている。図6および7のような構成では、ひとつ以上の周方向に囲むモジュールが中央の負荷領域に向けてその領域を完全に取り囲むことなしに延伸するので方位平均化が引き起こされうるのであるが、リング電極構成はこの方位平均化を克服するのに役に立つ。図9に最も良く示されるように、61および62で示されるモジュール積層構造は、対応するスイッチ62および64にそれぞれ接続される。さらに、図8および9は、リング電極の内径に沿って設けられた絶縁スリーブ68を示す。代替的に、リング電極65の間に設けられた別個の絶縁体69もまた示される。導体ストリップの間に使用される誘電体に替えて、交互に積層された導体箔66および絶縁箔66’が使用されてもよい。その交互の層は、一枚の誘電体ストリップの替わりのひとつの積層構造として形成されてもよい。
【0065】
図10および11は、コンパクトな加速器のふたつの追加的な実施の形態を示す。図10においてはコンパクトな加速器は参照符号70で示され、図11においてはコンパクトな加速器は参照符号80で示される。それぞれのコンパクトな加速器は、非直線状のストリップ形状を有するブルームラインモジュールを有する。この場合、非直線状のストリップ形状は、曲線もしくは蛇行の形で示される。図10では、加速器70は、中央の領域を周方向に囲みその領域に向けて延伸する図示の4つのモジュール71、73、75および77を備える。モジュール71、73、75および77は、対応するスイッチ72、74、76および78にそれぞれ接続される。この構成で見られるように、それぞれのモジュールの第1の端部と第2の端部との間の径方向直線距離は、非直線状モジュールの全体の長さよりも短く、これにより伝送路の電気的な長さを増やしつつ加速器をコンパクトにすることを実現している。図11は、図10と似た構成を示す。加速器80は、中央の領域を周方向に囲みその領域に向けて延伸する図示の4つのモジュール81、83、85および87を備える。モジュール81、83、85および87は、対応するスイッチ82、84、86および88にそれぞれ接続される。さらに、それらのモジュールの径方向内側の端部、つまり第2の端部、はリング電極89によって互いに接続され、これにより図8において議論された利点がもたらされる。
【0066】
B.連続パルス進行波加速モード
線形誘導加速器(LIAs)はその静止状態において、その全長に亘って短絡されている。したがって、荷電粒子の加速は、その構造が過渡的な電場勾配を生成する能力および印加される一連の加速パルスを隣り合うパルス形成線から隔離する能力に依存する。従来のLIAsでは、この方法はパルス形成線が、過渡期間、好ましくは荷電粒子ビームが存在する期間、の間は、その構造の内側から積み重ねられた一連の電圧源として働くことによって実現されていた。この加速勾配を生成し必要とされる隔離を実現するための典型的な手段としては、加速器の内部に磁性コアを使用しパルス形成線それ自体の過渡期間を使用することがある。後者は、接続ケーブル由来の追加的な長さを含む。過渡的加速が生じた後、磁性コアが飽和しているため、システムはもう一度再びその長さに亘って短絡される。このような従来のシステムの不利な点は、加速領域の大きさが制限されているために加速勾配が非常に低い(〜0.2−0.5MV/m)点と、磁性体は高価でかさばる点である。加えて、最良の磁性体であっても電気的エネルギを大きく損なうことなしに速いパルスに応答することは不可能である。したがって、コアが必要とされる場合は、この種の高勾配加速器を作ることは良くても非現実的、悪くて技術的に実現不可能である。
【0067】
図25は、本発明の連続パルス進行波加速器を示す概念図である。その連続パルス進行波加速器は、参照符号160で示され、長さlを有する。図示の加速器の伝送線のそれぞれは、長さΔRおよび幅δlを有し、加速軸を囲むビームチューブは直径dを有する。一組のスイッチ162をトリガするためにトリガ制御器161が設けられる。各スイッチは、電気的長さ(つまり、パルス幅)τを有する加速パルスによって、ひとつの伝送線および対応するビームチューブの壁の短い軸方向長さδlを励起できる。特に、トリガ制御器161は、スイッチを順番にトリガして、そのトリガされた伝送線を通じてビームチューブに向けられた伝搬性の波面164を生成できる。トリガされた伝送線中の伝搬性の波面がビームチューブに到達するにつれて、進行性の軸方向電場つまり「進行波」が、ビームチューブ内でビームチューブに沿って伝搬するように、および、軸方向に通過する荷電粒子のパルスビームと同期するように、生成される。これにより粒子にエネルギが逐次与えられる。トリガ制御器161は、スイッチのそれぞれを独立にトリガしてもよい。この場合、励起された線に対応する加速パルスは、ビームチューブの壁の軸方向長さδlに沿って生成される。また、トリガ制御器161は、進行波加速場の物理的な軸方向長さもまたδlとなるように隣接する伝送線を個々順番にスイッチしてもよい。
【0068】
あるいはまた、トリガ制御器161は、ブロックを形成する少なくともふたつの隣接する伝送線を同時にスイッチすることができる。この場合、そのブロックに対応する加速パルスがビームチューブの壁の軸方向長さnδlに沿って生成される。ここでnは任意の時間における隣接する励起された線の数であり、n≧1である。さらに、トリガ制御器161は隣接するブロックを順番にスイッチすることができる。この場合、進行波加速場の物理的な軸方向長さもまたnδlとなる。このようにして、粒子束を加速する上でその全長を捉えるための大きな加速「バケット(bucket)」が形成される。これは特に短パルス誘電壁加速器の場合に有利である。そこでは個々の伝送線をトリガすることによって生成される進行波の空間的な幅、つまり軸方向長さδlが、圧縮された荷電粒子束の長さと同程度かそれよりも短いからである。図29は、進行波が軸方向長さ2δlを有するように、2つの隣接する伝送線を含むブロックを順番にトリガする様子を示す。
【0069】
ひとつの線を順番にトリガする場合であれ、複数の隣接する線をブロック的にトリガする場合であれ、加速器を動作させるためにはパルス形成線やブロックの全てがトリガされる必要はない点は理解される。特にアプリケーションにおける必要性によってはパルス形成線のいくつかはトリガされなくてもよい。この場合、加速勾配は加速軸のある部分に沿ってのみ生成され、これによりシステムの全エネルギが制御されうる。この場合、下流の線および/またはブロックがスイッチされないままとなり、一方で上流の線および/またはブロックが使用されるのが好ましい。さらに、線および/またはブロックを順番にトリガすることは、最初にトリガされる線またはブロックと最後にトリガされる線またはブロックとの間にあるすべての線および/またはブロックがスイッチされることを要求しないことは理解される。例えば、偶数番目のパルス形成線のみが使用されてもよい。
【0070】
説明のためにいくつかの例示的な寸法を示す。d=8cm、τ=数ナノ秒(例えば、陽子加速用には1−5ナノ秒、電子加速用には100ピコ秒から数ナノ秒)、v=c/2、c=光速。しかしながら、本発明はほぼいかなる寸法へもスケールされうることは理解される。ビームチューブの直径dおよび長さlはl>4dという基準を満たすことが好ましい。この場合、誘電ビームチューブの入力端および出力端における漏れ電場を低減できる。さらに、ビームチューブはγτv>d/0.6という基準を満たすことが好ましい。ここでvはビームチューブの壁上の波の速さであり、dはビームチューブの直径であり、τはパルス幅であって
【数1】


を満たし、γはローレンツ因子であって
【数2】


を満たす。ΔRはパルス形成線の長さであり、μは比透磁率であり(たいていの場合=1である)、εは比誘電率である。このようにすることで、加速軸に沿って生成されるパルス化された高勾配は、1メートル当たり少なくとも約30MeVであり、1メートル当たり約150MeVまで到達しうる。
【0071】
加速勾配を生成するためにコアを必要とする種類の大抵の加速器システムとは異なり、本発明の加速器システムはコアなしで動作する。なぜならば、nδl<lという基準が満たされる場合、ビームチューブの電気的な駆動は所与の時間においてビームチューブの小さなセクションに沿って発生するからである。またシステムは短絡されなくてもよい。コアを使用しないことによって、本発明はコアの使用に伴う種々の問題を回避している。そのような問題としては例えば、達成しうる電圧がVt=AΔBのようにΔBによって制限されてしまうことにより加速が制限されることがある。ここでAはコアの断面の面積である。パルス電源がコアをリセットする必要があるために、コアの使用は加速器の繰り返しレートも制限していた。所与のnδlにおける加速パルスは、所与の軸方向部分に隣接する不活性の伝送線の過渡隔離特性によって、伝導性ハウジングから隔離される。スイッチ電流のうちのいくらかは不活性の伝送線に短絡されるので、不活性の伝送線の不完全な過渡隔離特性によって寄生波が生じることが理解される。これはもちろんこの短絡電流が流れるのを防ぐための磁性コアによる隔離なしで発生する。以下の例で説明されるように、ある条件の下では寄生波は有効に使用されうる。開放回路型ブルームライン積層構造が複数の非対称ストリップ形状ブルームラインから成り、速い/高インピーダンス(低誘電率)線のみがスイッチされる構成では、不活性の伝送線に生成された寄生波はその不活性伝送線に対してより高い電圧を生成するであろう。この寄生波は、速い線の電圧を初期帯電状態の電圧を越えてブーストし、一方で遅い線の電圧をより少ない量だけブーストする。これは、ふたつの伝送線は、同じ注入電流が流れる電圧分割器のように直列に接続されているように見なされるからである。加速器の壁において表れる波は初期帯電時よりも大きな値へブーストされ、これによりより高い加速勾配が達成可能となる。
【0072】
図26および27は、長さLのビームチューブの中に生成される勾配の違いを示す。図26は、長さLよりも短い幅vτを有する単一パルス進行波を示す。これと比較して、図27は、積層されたブルームラインモジュールの典型的な動作を示す。そこでは、加速器の全長Lに亘って勾配を生成するために全ての伝送線が同時にトリガされる。この場合、vτは長さLよりも大きいかまたは等しい。
【0073】
C.荷電粒子生成器:一体化されたパルス型イオン源および入射器
図13は、本発明の荷電粒子生成器110の実施の形態を示す。荷電粒子生成器110は、単一のユニットとして一体化されたイオン源、例えばパルス型イオン源112、と入射器113とを備える。パルス化された強いイオンビームを生成するためには、抽出されたビームを変調し、続いて集束することが必要である。第1に、粒子生成器は、パルス型イオン源112を用いて沿面フラッシオーバ放電によって非常に濃いプラズマを生成することによりパルス化された強いイオンビームを生成する。このプラズマ密度は7気圧を超えると見積もられており、また、そのような放電は一瞬であるので非常に短いパルスが生成されうる。従来のイオン源は低い圧力のガスからあるボリューム中にプラズマ放電を生成する。イオンがこのボリュームから抽出され、加速器中での加速のためにコリメートされる。これらのシステムは一般的には、0.25A/cm2より小さな電流密度しか抽出できない。この低い電流密度は、抽出インタフェースにおけるプラズマ放電の密度に部分的に起因している。
【0074】
本発明のパルス型イオン源は、絶縁体によって架橋された少なくともふたつの電極を有する。対象となるガス種は金属電極の中に固溶させるか、もしくはふたつの電極の間に固体の形で配置される。この幾何構成によると、絶縁体の上にスパークが生成され、対象物質が放電の中に捉えられてイオン化され、ビームとして抽出される。上の少なくともふたつの電極は、絶縁材料、半絶縁材料もしくは半導体材料によって架橋されることが好ましい。これにより、これらふたつの電極の間にスパーク状の放電が形成される。所望のイオン種を原子もしくは分子の形で含む材料は、電極の中もしくは電極の側に存する。所望のイオン種を含む材料は、水素の同位体、例えばH2、もしくは炭素の同位体であることが好ましい。さらに、電極のうちの少なくともひとつは半透過性であり、所望のイオン種を原子もしくは分子の形で含む貯蔵部はその電極の下方に配置されることが好ましい。図14および15は、パルス型イオン源の実施の形態を示す。そのパルス型イオン源は参照符号112で示される。図示されるセラミック121は、その表面にカソード124およびアノード123を有する。図示されるカソードは、パラジウムの中心部材124を囲む。その中心部材124は、その下のH2貯蔵部114をキャップする。カソードとアノードとを逆にしてもよいことは理解される。開口板、つまりゲート電極115は、その開口がパラジウムの天頂板124と揃うように位置合わせされる。
【0075】
図15に示されるように、電子の放出を引き起こすために、カソード電極とアノード電極との間に高電圧が印加される。初期状態においてはこれらの電極は十分に高い電圧のもとほぼ真空状態におかれるので、電子はカソードから電界放出される。これらの電子は空間を横断してアノードに到達し、アノードへの衝突の際に局所的な加熱を引き起こす。この加熱によって分子が放出され、次にこの放出された分子に電子が衝突し、その分子がイオン化される。これらの分子は所望の種であってよいし所望の種でなくてもよい。イオン化されたガス分子(イオン)はカソードに向けて加速され、この場合Pd天頂板に衝突してそれを加熱する。Pdには熱せられると、気体、最も顕著には水素、がその材料を透過することを許す性質がある。したがって、イオンによって十分に熱せられて水素ガスがボリュームへ局所的に漏れ出すと、その漏れ出した分子は電子によってイオン化され、プラズマを形成する。プラズマが十分な密度まで成長すると、自続アークが形成される。したがって、開口板の反対側に設けられたパルス的にマイナスに帯電した電極を用いてイオンを抽出し、そのイオンを加速器へ入射させることができる。抽出用電極が無くても、適切な極性の電場を使用して同様にイオンを抽出できる。アークがなくなると、ガスは脱イオン化される。電極がゲッター材料によって作られている場合、ガスは金属電極に吸収され、次のサイクルで再利用される。再吸収されなかったガスは真空システムによって排気される。この種のイオン源の利点は、パルス化のアプリケーションにおいて真空システムに対するガス負荷が最小化される点である。
【0076】
図13に示されるように、イオン源、例えばパルス型イオン源112、から線形加速器の入力への荷電粒子の抽出、集束および移送は、パルス型イオン源112と一体化された入射部113によって提供される。特に、荷電粒子生成器の入射部113は荷電イオンビームを標的上に横方向に集束するためにも役に立つ。この標的は、荷電粒子治療設備においては患者であり、もしくは同位体生成のための標的であり、または荷電粒子ビームにとって適切な他の標的でありうる。さらには、本発明の一体化された入射器は、荷電粒子生成器がビームを移送し患者にその焦点を合わせるために集束電場のみを使用することを可能とする。そのシステムにはマグネットは存在しない。そのシステムは、広範囲のビーム電流やビームエネルギやスポットサイズをそれぞれ独立に提供しうる。
【0077】
図13は、入射器113の構成をパルス型イオン源112との関係で模式的に示す。図21は、線形加速器131と一体化された統合荷電粒子生成器132を模式的に示す。コンパクトな高勾配加速器全体のビーム抽出、移送および集束は、入射器によって制御される。この入射器は、ゲート電極115と、抽出電極116と、集束電極117と、グリッド電極119と、を備えることが好ましい。これらの電極は、荷電粒子源と高勾配加速器との間に配置される。しかしながら、最小の移送システムは、抽出電極と、集束電極と、グリッド電極と、から成ることは注意するに値する。もし必要であれば、それぞれの機能に対してひとつ以上の電極が使用されてもよい。全ての電極は、図18に示されるように、システムの性能を最適化するような形状を有してもよい。数ナノ秒のうちに荷電粒子ビームをオンオフするために、速いパルス状の電圧をゲート電極115に印加してもよい。図17は、陽子治療用に設計された高勾配加速器においての、シミュレーションに係る抽出ビーム電流をゲート電圧の関数として示す。図16は、種々のゲート電圧に対する最終的なビームスポットを示す。本発明者によって行われたシミュレーションでは、公称上のゲート電極の電圧は9kVであり、抽出電極は980kVであり、集束電極は90kVであり、グリッド電極は980kVであり、高勾配加速器の加速勾配は100MV/mである。図16は、最終的なスポットサイズはゲート電極の電圧設定に敏感ではないことを示す。したがって、図17に示されるように、ゲート電圧はビーム電流のオンオフを調節するための簡易なつまみとして機能する。
【0078】
高勾配加速器システムの入射器は、ゲート電極と抽出電極とを使用して空間電荷占有ビームを抽出し捉える。このビームの電流は抽出電極の電圧によって決定される。加速器システムは、標的上にビームを集束するための一組の少なくともひとつの集束電極117を使用する。図18に示されるポテンシャル等高線プロットは、抽出電極と集束電極とがいかに機能するか、を示す。最小の集束/移送システム、つまりひとつの抽出電極およびひとつの集束電極がこの場合使用される。高勾配加速器の入口における抽出電極、集束電極およびグリッド電極の電圧はそれぞれ980kV、90kVおよび980kVである。図18は、形造られた抽出電極の電圧が、ゲート電極と抽出電極との間にギャップ電圧を生成することを示す。図18は、形造られた抽出電極、形造られた集束電極およびグリッド電極の電圧が、静電的な集束させる−集束をゆるめる−集束させる領域、つまりアインゼルレンズ、を形成することも示す。これは、荷電粒子ビームに対して正味の強い集束力を加える。
【0079】
ビームを集束させるためにアインゼルレンズを使用することは新規ではないが、本発明の加速器システムは、集束マグネットを全く使用しない。加えて、本発明はアインゼルレンズと他の電極とを組み合わせることで、標的上のビームスポットサイズを調節可能とし、またビームスポットサイズをビーム電流およびビームエネルギによらないものとした。入射器の出口もしくは我々の高勾配加速器への入口には、グリッド電極119がある。抽出電極とグリッド電極とは同じ電圧に設定される。グリッド電極の電圧を抽出電極の電圧と等しくすることで、加速器に入射されるビームのエネルギは、形造られた集束電極の電圧設定によらず一定となる。これにより、形造られた集束電極の電圧を変更してもアインゼルレンズの強度を変更できるのみであり、ビームのエネルギは変更されない。ビーム電流は抽出電極の電圧によって決定されるので、最終的なスポットを、形造られた集束電極の電圧を調節することにより自由に調節できる。この調節はビーム電流およびビームエネルギによらない。そのようなシステムでは、軸方向の電場に適切な勾配(つまり、dE/dz)を設けることによりさらなる集束効果が得られること、および電場の時間変化(つまり、z=zにおけるdE/dt)の結果としてさらに追加的に集束効果が得られることは理解される。
【0080】
図19は、種々の集束電極電圧設定を有する無マグネット250MeV高勾配陽子加速器を通じたビームの移送における、シミュレーションに係るビームの包絡線を示す。それぞれのプロットに対応する集束電極の電圧はプロットの左側に与えられている。これらのプロットは、250MeV陽子ビームの標的上におけるスポットサイズは集束電極の電圧を調節することによって容易に調節されうることを明らかに示している。図20は、種々の陽子ビームエネルギについてのスポットサイズ対集束電極電圧のプロットを示す。陽子エネルギのそれぞれに対して、2本の曲線がプロットされている。上側の曲線はビームのエッジ半径を表し、下側の曲線はコア半径を表す。これらのプロットは、100MVの加速勾配を有する治療用高勾配陽子加速器の集束電極の電圧を調節することで、70−250MeV、100mAの陽子ビームについて広範囲のスポットサイズ(直径2mm−直径2cm)が得られることを示す。
【0081】
上述のような一体化された荷電粒子生成器を使用するコンパクトな高勾配加速器システムは、広範囲のビーム電流、エネルギ、およびスポットサイズを独立に提供できる。加速器のビーム抽出、移送および集束の全ては、荷電粒子源と高勾配加速器との間に位置するゲート電極、形造られた抽出電極、形造られた集束電極およびグリッド電極によって制御される。抽出電極とグリッド電極とは同じ電圧設定を有する。それらの間の形造られた集束電極は、より低い電圧に設定され、アインゼルレンズを形成し、スポットサイズに対する調節つまみを提供する。最小の移送システムは抽出電極、集束電極およびグリッド電極から成るが、システムが非常に強い集束力を必要とする場合は、交流電圧によるより多くのアインゼルレンズが、形造られた集束電極とグリッド電極との間に設けられてもよい。
【0082】
D.ビーム移送システムおよび戦略
本発明の別の態様は、荷電粒子束が加速ステージに入射する前にその荷電粒子束を縦方向に圧縮するように、2つの直列に設けられた電極間の電位差の時間的なランプを制御するビーム移送システムおよび方法を使用する。横方向の集束(例えば、アインゼルレンズ構成)を行うためおよび上述のごとく最終的なビームのスポットサイズを制御するために追加的な電極が設けられてもよい。加えて、ビーム移送方法およびシステムでは、束の長さよりも大きな物理的なサイズを有する加速電場を生成するために、隣接する複数のパルス形成線が同時にスイッチされてもよい。さらには、ビーム移送システムおよび方法は追加的に、連続パルス進行波加速器アーキテクチャの加速ステージにおいて交替位相集束を行うための手段としてスイッチトリガのタイミングを制御してもよい。
【0083】
セクションBで上述した通り、連続パルス進行波加速器では、コアのない短パルス誘電壁加速器は非常に高い勾配を生成できるので特に望ましい。しかしながらこのアーキテクチャには幾つかの不利な点がある。第1に、背景セクションで上述した通り、パルス形成線からの寄生的なエネルギの流出が存在し、これはパルスの形状を歪めうる。その結果、加速波形には平らな頂部は殆ど存在しない。また、誘電壁に高い絶縁破壊強度を持たせるために、第2の不利な点および制限は、パルス幅が短くなければならない、典型的には数ナノ秒程度でなければならないことである。加速波形が平らな頂部を欠いているので、荷電束の束の長さが波形のパルス幅よりもかなり短い場合でなければ、束に亘っての低いエネルギの広がりを維持することは難しい。しかしながら、荷電粒子生成器(例えば、パルス型イオン源)から抽出される荷電粒子束はたいてい長さ的には加速波形Ez(t)のパルス幅と同程度である。言い換えると、加速パルスを感じる所与の軸方向部分について、所与の束の長さおよび個々の粒子速度を有する抽出された荷電粒子束の全ての粒子がその軸方向部分に入って加速パルスを感じるための時間は、パルスの持続時間と同程度である。したがって、荷電粒子束は短パルス誘電壁加速器に入射する前に縦方向に圧縮される必要がある。必要な縦方向圧縮の度合いは、およそ10倍程度であることが好ましい。さらに束に亘るエネルギの広がりを低減するためには好適には、加速ステージにおいて、エネルギ(Ez)波形のうちの狭い部分に沿って、特に立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジのいずれかに沿って粒子束の全体がエネルギ波形と同期しなければならない。また、荷電粒子束を可能な限り最大の加速勾配で加速するためには、粒子束の全体は加速波形のピーク付近に位置することが好ましい。
【0084】
本発明では、荷電粒子束が加速ステージに入射する前にその荷電粒子束の縦方向圧縮を行うために、荷電粒子源と加速器ステージとの間に入射ステージが設けられる。特に、必要な縦方向圧縮を行うために加速軸に沿って直列に設けられた2つの電極が使用されることが好ましい。この必要な縦方向圧縮は、束の上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギ(モーメント)を得るように2つの電極間の電位差を時間的にランプすることにより行われる。これにより束の縦方向圧縮が実現される。電位差のランプは上昇または下降のいずれであってもよいことは理解される。これは加速されるべき荷電粒子の種類(正または負)および縦方向圧縮が束を加速することまたは減速することのいずれによって実現されるかに依存する。さらに、例えば時間的にランプする操作において傾きを制御するなどで時間的にランプする操作を実現するために、当該技術分野において知られているような電圧制御器が使用されてもよいことは理解される。
【0085】
2つの電極間の電位差の時間的なランプの種類は、縦方向に圧縮される粒子が正に帯電しているか負に帯電しているかによるであろう。正に帯電した粒子については、正の電極は粒子を減速するために使用されるであろうし、負の電極は粒子を加速するために使用されるであろう。図28および図29は、荷電粒子束の縦方向圧縮を実現するための、正に帯電した粒子に対する電位差V−Vの時間的なランプダウンを示す2つのグラフである。Vは下流電極の電圧であり、Vは上流電極の電圧である。特に、図28のグラフは束の減速による縦方向圧縮の場合を示し、図29のグラフは束の加速による縦方向圧縮の場合を示す。負に帯電した粒子については、正の電極は粒子を加速するために使用されるであろうし、負の電極は粒子を減速するために使用されるであろう。図30および図31は、荷電粒子束の縦方向圧縮を実現するための、負に帯電した粒子に対する電位差V−Vの時間的なランプアップを示す2つのグラフである。特に、図30のグラフは束の減速による縦方向圧縮の場合を示し、図29のグラフは束の加速による縦方向圧縮の場合を示す。
【0086】
図32に示されるように、レンズスタックの種々の電極が、電位差の時間的なランプによって縦方向圧縮を行う電極対として用いられてもよい。特に図32は、例えばゲート電極115および抽出電極116が縦方向圧縮を行うように選択された線形加速器システム200を示す。電極に操作可能に接続された図示の電圧制御器206は、入射ステージにおいて電場の時間変化するランプを行うために使用される。しかしながら電極の他の対(必ずしもゲートおよび抽出電極でない)が縦方向圧縮のために用いられてもよいことは理解される。例えば代替例としては、図32に示される抽出電極116および集束電極117が電場の時間的なランプ変調を行って縦方向圧縮が実現されてもよい。
【0087】
縦方向圧縮のためのランプ電極に加えて、粒子束が加速ステージに入射する前にその束の横方向集束を行うために、少なくともひとつの横方向集束電極またはそのような複数の電極が設けられ、加速軸に沿って直列に配置されてもよい。図32に示されるように、時間的なランプ操作を制御するために使用されるのと同じ電圧制御器206が、横方向集束電極を制御して横方向集束を行うためにも使用されてもよい。あるいはまた、別体のその用途用の電圧制御器(不図示)が横方向集束を制御するために使用されてもよい。どちらの場合であっても、少なくともひとつの横方向集束電極は、標的上に生成される最終的なビームのスポットサイズを束の電荷およびエネルギとは独立に制御するために使用されてもよい。さらに、横方向集束電極は横方向集束を行うために、ランプ電極のうちのひとつ以上と一緒にまたはランプ電極とは独立に設けられてもよい。前者の場合例えば、2つのランプ電極および第3の電極が、アインゼルレンズなどのひとつの集束レンズスタックとして構成されてもよい。この場合、第3の電極の電圧は第1の電極と同じ電圧に設定されてもよいし、横方向集束の強さに影響を与えるために電極117の電圧に対して別個に変調されてもよい。例えば図32において、縦方向圧縮と半径方向集束の両方のために、電極116、117および119を含むアインゼルレンズスタックが使用されてもよい。ここでは電圧制御器206は電極116と電極117との間の電位差を時間的にランプし、一方で電極119の電圧は電極116と同じに保たれる。横方向集束が時間的なランプによる縦方向圧縮とは独立に達成される後者の場合、ひとつの例示的な実施の形態は、縦方向圧縮専用の2つの電極を備えてもよく、一方では横方向集束専用の3つの異なる電極が別個に設けられる。
【0088】
第2のビーム移送戦略は、セクションBで上述された連続駆動進行波加速器アーキテクチャおよび操作において使用される複数のパルス形成線を含む。特に、移送戦略は、束の長さよりも大きな物理的なサイズを有する加速電場を生成するために、隣接する複数のパルス形成線を同時にスイッチングすることを含む。短い荷電粒子束を進行加速波で捉えることはなされているが、そのような加速場の波長は入射する荷電粒子束の物理的な長さよりも非常に長い。短パルス誘電壁加速器アーキテクチャにおいては、個々の伝送線からの進行波の空間的な幅は、圧縮された荷電粒子束の長さより短いか同程度である。圧縮された束の全体を進行加速波で捉えるためには、大きな加速波バケットが必要である。より大きな波バケットを実現するために、数個の伝送線のスイッチのスイッチが同時にオンされる。これは図32に示される。図32は、複数のパルス形成線203を有する連続パルス進行波加速器アーキテクチャを示す。そこでは、トリガ制御器201によってトリガされると、対応する線を通じて伝搬性の波面(例えば、204および205)を生成する一組のスイッチ202もまた示される。図示の加速器システムはさらに、入射セクションと共に上述の荷電粒子生成器110を形成するパルス型イオン源121を有する。伝送線に関して、図32は特に隣接する2つの伝送線がブロックを形成する場合を示す。そのブロックはトリガ制御器201によって順番にトリガされる。このようにすると、電場の空間的な幅(軸方向長さ)は線の幅δlおよびブロックの幅nδlによって決定されるであろう。ここでnはブロック当たりの線の数である。
【0089】
第3のビーム移送戦略は、スイッチトリガのタイミングを制御することによる交替位相集束を含む。このタイミングの制御においては、エネルギパルスは軸方向に進行する荷電粒子束を波形の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジのいずれかで捕捉し、標的上で所望の最終スポットサイズが得られるように束が操作および制御される(横方向の集束−ぼかし/縦方向の圧縮/復元)。交替位相集束、つまりスイッチトリガのタイミングは(それを縦方向の集束またはぼかしとするか否か、および横方向集束/ぼかしとするか否かについては)最終的なビームのスポットサイズを実現するために、入射器(アインゼルレンズスタック)から入射されるビームの既知のサイズの関数となるであろう。束の最初の長さおよび加速波形に対する正確な位相位置に基づいて、束は緩やかに縦方向に圧縮されるかもしくは、空間電荷力による縦方向の束の拡大を立ち上がりの加速場による縦方向の束の圧縮とバランスさせることによって束の長さは維持されるであろう。図32では、伝送線ブロックを通じて伝搬する波面の間の非一様な間隔によって交替位相集束の動作が示される。特に、波面204は少し遅れており、したがってひとつ前のブロックにおける波面からより離れて示される。一方、波面205は少し進んでおり、したがってひとつ前のブロックにおける波面により近い形で示される。交替位相集束はトリガ制御器201によって制御されるように示されている。
【0090】
パルス中で軸方向電場が時間的に急に変化すると大きな横方向電場が生成される。この大きな横方向電場は波形の立ち上がりエッジでは束を横方向にぼかすであろうし、立ち下がりエッジでは横方向に集束するであろう。これは背景セクションで述べた通りである。大きな横方向電場を最小化し、かつ加速場を最大化するために、束は加速エネルギ(Ez(t))波形の頂部付近で加速器に入射することが好ましい。入射ステージでの縦方向圧縮が加速ステージに入るときでもいまだ収縮している束を生成する場合は、その束は頂部付近の立ち上がりエッジに沿ってエネルギ波形に遭遇するように加速ステージに入射するのが好ましい。対照的に、入射ステージでの縦方向圧縮が収縮しすぎて再び拡大し始めるような束を生成する場合は、その束は頂部付近の引きずりエッジに沿ってエネルギ波形に遭遇するように加速ステージに入射するのが好ましい。どちらの場合でも、束が頂部付近で入射することにより、立ち上がりの加速場による横方向ぼかし力は小さい。加速器でのこれらの横方向ぼかし力が考慮された適切な入射器のアインゼルレンズの設定が選択されてもよい。
【0091】
E.医療用の駆動可能でコンパクトな加速器システム
図21は、本発明の例示的な駆動可能でコンパクトな加速器システム130を示す模式図である。このコンパクトな加速器システム130は、荷電粒子生成器132を備える。この荷電粒子生成器132は、コンパクトな線形加速器131に一体的に取り付けられ、そうでなければコンパクトな線形加速器131の入力端に位置する。こうすることで、荷電粒子生成器132は荷電粒子ビームを形成して、そのビームをコンパクトな加速器に加速軸に沿って入射させる。このように荷電粒子生成器を加速に一体化することによって、駆動機構134による矢印135によって示される一体駆動およびビーム136−138の生成を可能とするユニット構造を有しつつ比較的コンパクトなサイズを達成しうる。以前のシステムでは、その縮尺サイズのために、離れた地点からビームを移送するためのマグネットが必要とされていた。これに対して本発明では縮尺サイズが大きく低減されているので、陽子ビームなどのビームの生成、制御および移送の全てが、所望の標的の位置に近い所で、マグネットを使用せずに行われうる。そのようなコンパクトなシステムは、例えば医療への加速器の応用に適している。
【0092】
そのような一体化された装置は133として示される支持構造に取り付けられてもよい。その支持構造は、荷電粒子ビームとそれによって生成されるビームスポットの位置を直接制御するために一体化された粒子生成線形加速器を駆動する。コンパクトな加速器および荷電粒子源の一体化された組み合わせを取り付ける種々のやり方が図22−24に示されているが、これに限定されない。特に、図22−24は本発明の実施の形態を示し、種々のタイプの支持構造に取り付けられた合成されたコンパクトな加速器/荷電粒子源を示す。この合成されたコンパクトな加速器/荷電粒子源は、ビームの向きを制御するために駆動可能となっている。加速器と荷電粒子源は固定されたスタンドからつり下げられて連結され、患者の方に向けられる(図22および23)。図22では、一体化された装置を143で示される重心の回りに回転させることによって一体的な駆動が可能となっている。図22に示されるように、一体化されたコンパクトな生成器/加速器はその重心の回りに旋回的に駆動されることが好ましい。これにより、加速されたビームを方向付けるために必要なエネルギが低減される。しかしながら、コンパクトな加速器および荷電粒子源のコンパクトで一体的な組み合わせを駆動するために、他の取り付け方や支持構造が本発明の範囲内において可能であることは理解される。
【0093】
コンパクトで駆動可能な構造を実現するように加速器と荷電粒子生成器とを一体化するために、加速器の種々の構成が使用されうることは理解される。例えば、加速器の構成は、上述のブルームラインモジュール構成の2本の伝送線を採用してもよい。その伝送線は、平行平板伝送線であることが好ましい。さらには、その伝送線は、図1−12に示されるようなストリップ形状を有することが好ましい。SiC光伝導性スイッチやガススイッチやオイルスイッチなどの、速い(ナノ秒)閉時間を有する種々のタイプの高電圧スイッチが使用されてもよい。
【0094】
加速器システムの駆動および操作を制御するために、従来知られている種々の駆動機構やシステム制御方法が使用されてもよい。例えば、単純なボールネジや、ステッパモータや、ソレノイドや、電気駆動式トランスレータや、空気圧機器などが、加速器のビームの位置合わせや動きを制御するために使用されてもよい。これによると、ビーム経路のプログラミングは、CNC装置において広く使用されているプログラミング言語と同一ではないにしても非常に似たものとなる。駆動機構は、加速されたビームの方向およびビームスポットの位置を制御するために一体化された粒子生成加速器に機械的な動作もしくは動きをさせるように機能することは理解される。これに関連して、システムは少なくともひとつの回転自由度(例えば、質量中心の回りの旋回のための自由度)を有する。しかしながらシステムは、筐体もしくはそのシステムの、変位もしくは変形した位置を完全に指定する一組のそれぞれ独立した変位である6つの自由度(DOF)を有することが好ましい。この6つの自由度は、従来知られているような3つの平行移動および3つの回転を含む。平行移動は3つの次元のそれぞれのなかで移動する能力を示し、回転は3つの互いに垂直な軸の回りで角度を変える能力を示す。
【0095】
能動的な位置の認識、監視およびフィードバック位置決めシステム(例えば、患者145に取り付けられたモニタ)によって、加速されたビームのパラメータの正確さが制御されうる。このシステムは、図22の測定ボックス147によって示されるように、加速器の制御および方向付けシステムのなかに組み入れられる。システム制御器146は加速器システムを制御し、この制御は、ビームの方向、ビームスポットの位置、ビームスポットの大きさ、線量、ビームの強度およびビームのエネルギのうちの少なくともひとつのパラメータに基づいてもよい。深さは、ブラッグピークに基づくエネルギによって比較的精度良く制御される。システム制御器は、パラメータのうちの少なくともひとつを監視しそれについてのフィードフォワードデータを提供するフィードフォワードシステムを含むことが好ましい。荷電粒子および加速器によって生成されたビームは、患者に振動的に投影されてもよい。ある実施の形態では、その振動的な投影は、連続的に変化する半径を有する円を描くことが好ましい。いずれの場合においても、ビームの利用は、位置、線量、スポットサイズ、ビーム強度、ビームエネルギのうちのひとつもしくは組み合わせに基づいて能動的に制御されうる。
【0096】
特定の動作シーケンス、材料、温度、パラメータおよび特定の実施の形態が記載され説明されてきたが、それらは本発明を限定するものではない。変形や変更は当業者にとって自明となりうる。また、本発明は添付の請求の範囲によってのみ限定されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一束の荷電粒子を生成するための荷電粒子源と、
加速軸に沿って少なくともひとつの加速勾配を生成するための線形加速器と、
前記荷電粒子源と前記線形加速器との間に、前記加速軸に沿って直列に設けられた2つの電極を有するレンズスタックと、
前記一束のうちの上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギを得るように前記2つの電極の間に生成される電位差を時間的にランプし、それによって前記一束の荷電粒子が前記線形加速器へ入射する前にそれを縦方向に圧縮するための電圧制御手段と、を備える線形加速器システム。
【請求項2】
前記レンズスタックは、前記荷電粒子源と前記線形加速器との間に、前記加速軸に沿って直列に設けられた少なくともひとつの追加的な電極をさらに含み、
当該線形加速器システムはさらに、前記一束の荷電粒子が前記線形加速器へ入射する前における前記一束の荷電粒子の横方向の集束を制御し、それによってビームのスポットサイズを前記一束の荷電粒子の電流およびエネルギによらずに制御するために、前記少なくともひとつの追加的な電極の電圧を制御する電圧制御手段を備える請求項1に記載の線形加速器システム。
【請求項3】
前記線形加速器は、
加速軸を囲む誘電壁ビームチューブと、
前記誘電壁ビームチューブに対して横方向に広がり、かつ前記誘電壁ビームチューブに沿って直列に設けられた複数のパルス形成線と、を含み、
各パルス形成線は、それと対応する前記誘電壁ビームチューブ前記加速軸の短い軸方向長さに隣接して短い加速パルスを生成するために他のパルス形成線とは独立にそのパルス形成線を通して少なくともひとつの電気的な波面を伝搬させる、高い電位に接続可能なスイッチを有し、
前記線形加速器はさらに、
前記入射した一束の荷電粒子に加速エネルギを逐次与えるために、順番に生成される短い加速パルスのグループが前記入射した一束の荷電粒子と実質的に同期して前記加速軸に沿って伝搬する進行性の軸方向電場を形成するように、隣接するパルス形成線のブロックに対応する少なくともひとつのスイッチのグループの単位で前記スイッチを順番に作動させるトリガ制御器を含む請求項1に記載の線形加速器システム。
【請求項4】
前記トリガ制御器は、前記進行性の軸方向電場が前記入射した一束の荷電粒子よりも長い軸方向の長さを有するように、前記スイッチのグループを順番に作動させる請求項3に記載の線形加速器システム。
【請求項5】
前記トリガ制御器は、前記進行性の軸方向電場のエネルギ波形Ez(t)の頂部に対する前記スイッチのグループのそれぞれの作動タイミングを制御することによって交替位相集束を行い、前記入射した一束の荷電粒子に対して加速エネルギが、前記進行性の軸方向電場のエネルギ波形Ez(t)の主に立ち上がりのエッジまたは主に立ち下がりのエッジのいずれかに沿って与えられる請求項3に記載の線形加速器システム。
【請求項6】
前記トリガ制御器は、前記入射した一束の荷電粒子に対して加速エネルギが、前記進行性の軸方向電場のエネルギ波形Ezの主に立ち上がりのエッジおよび頂部付近に沿ってまず与えられるように、スイッチの第1のグループの作動のタイミングを調整する請求項3に記載の線形加速器システム。
【請求項7】
前記レンズスタックの第1の電極は、前記一束の荷電粒子を前記荷電粒子源から抽出し、前記一束の荷電粒子を前記線形加速器へ入射させるための抽出電極である請求項1に記載の線形加速器システム。
【請求項8】
短パルス誘電壁加速器システムであって、
一束の荷電粒子を生成するためのパルス型イオン源と、
加速軸を囲み入力端と出力端とを有する誘電壁ビームチューブと、
前記誘電壁ビームチューブに横方向に接続され、かつ前記誘電壁ビームチューブに沿って直列に設けられた複数のパルス形成線と、を備え、
各パルス形成線は、それと対応する前記誘電壁ビームチューブの短い軸方向長さに隣接して短い加速パルスを生成するために他のパルス形成線とは独立にそのパルス形成線を通して少なくともひとつの電気的な波面を伝搬させる、高い電位に接続可能なスイッチを有し、
当該短パルス誘電壁加速器システムはさらに、
2つの縦方向圧縮電極と少なくともひとつの横方向集束電極とを含むレンズスタックを備え、
前記2つの縦方向圧縮電極および前記少なくともひとつの横方向集束電極は前記パルス型イオン源と前記誘電壁ビームチューブの前記入力端との間に、前記加速軸に沿って直列に設けられ、
当該短パルス誘電壁加速器システムはさらに、
前記一束のうちの上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギを得るように前記2つの縦方向圧縮電極の間に生成される電位差を時間的にランプし、それによって前記一束の荷電粒子が前記線形加速器へ入射する前にそれを縦方向に圧縮し、かつ、前記一束の荷電粒子が前記線形加速器へ入射する前における前記一束の荷電粒子の横方向の集束を制御し、それによってビームのスポットサイズを前記一束の荷電粒子の電流およびエネルギによらずに制御するために、前記横方向集束電極の電圧を制御する電圧制御手段と、
隣接するパルス形成線のブロックに対応する少なくともひとつのスイッチのグループの単位で前記スイッチを順番に作動させるトリガ制御器であって、前記入射する一束の荷電粒子に加速エネルギを逐次与えるために、前記スイッチのグループによって順番に生成される短い加速パルスのグループが、前記入射する一束の荷電粒子と実質的に同期して前記加速軸に沿って伝搬する進行性の軸方向電場を形成するトリガ制御器と、を備える短パルス誘電壁加速器システム。
【請求項9】
前記トリガ制御器は、前記進行性の軸方向電場が前記入射した一束の荷電粒子よりも長い軸方向の長さを有するように、前記スイッチのグループを順番に作動させる請求項8に記載の短パルス誘電壁加速器システム。
【請求項10】
前記トリガ制御器は、前記進行性の軸方向電場のエネルギ波形Ez(t)の頂部に対する前記スイッチのグループのそれぞれの作動タイミングを制御することによって交替位相集束を行い、前記入射した一束の荷電粒子に対して加速エネルギが、前記進行性の軸方向電場のエネルギ波形Ez(t)の主に立ち上がりのエッジまたは主に立ち下がりのエッジのいずれかに沿って与えられる請求項8に記載の短パルス誘電壁加速器システム。
【請求項11】
荷電粒子源によって生成される一束の荷電粒子を縦方向に圧縮するビーム移送方法であって、
前記荷電粒子源に隣接し、前記加速軸に沿って直列に設けられる2つの縦方向圧縮電極および少なくともひとつの横方向集束電極を提供することと、
前記一束のうちの上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギを得るように第1および第2の電極の間に生成される電位差を時間的にランプし、それによって前記加速軸に沿った飛行中に前記一束の荷電粒子を縦方向に圧縮することと、
前記加速軸に沿った飛行中に前記一束の荷電粒子の横方向の集束を制御するために、前記横方向集束電極の電圧を制御することと、を含むビーム移送方法。
【請求項12】
線形加速器のためのビーム移送方法であって、
荷電粒子源と、加速軸に沿って少なくともひとつの加速勾配を生成するための線形加速器と、前記荷電粒子源と前記線形加速器との間に、前記加速軸に沿って直列に設けられた2つの電極を有するレンズスタックと、を備える線形加速器システムを提供することと、
前記荷電粒子源から一束の荷電粒子を生成することと、
前記一束の荷電粒子を前記レンズスタックに抽出することと、
前記一束のうちの上流の粒子が下流の粒子よりもより大きな運動エネルギを得るように前記2つの電極の間に生成される電位差を時間的にランプし、それによって前記一束の荷電粒子が前記線形加速器へ入射する前にそれを縦方向に圧縮することと、
前記線形加速器へ前記縦方向に圧縮された一束の荷電粒子を入射させることと、を含むビーム移送方法。
【請求項13】
前記レンズスタックは、前記荷電粒子源と前記線形加速器との間に、前記加速軸に沿って直列に設けられた少なくともひとつの追加的な電極をさらに含み、
当該ビーム移送方法はさらに、
前記一束の荷電粒子が前記線形加速器へ入射する前における前記一束の荷電粒子の横方向の集束を制御し、それによってビームのスポットサイズを前記一束の荷電粒子の電流およびエネルギによらずに制御するために、前記少なくともひとつの追加的な電極の電圧を制御するステップを含む請求項12に記載のビーム移送方法。
【請求項14】
前記線形加速器は、前記加速軸に対して横方向に広がり、かつ前記加速軸に沿って直列に設けられた複数のパルス形成線を含み、
各パルス形成線は、それと対応する前記加速軸の短い軸方向長さに隣接して短い加速パルスを生成するために他のパルス形成線とは独立にそのパルス形成線を通して少なくともひとつの電気的な波面を伝搬させる、高い電位に接続可能なスイッチを有し、
当該ビーム移送方法はさらに、
前記入射した一束の荷電粒子に加速エネルギを逐次与えるために、順番に生成される短い加速パルスのグループが前記入射した一束の荷電粒子と実質的に同期して前記加速軸に沿って伝搬する進行性の軸方向電場を形成するように、隣接するパルス形成線のブロックに対応する少なくともひとつのスイッチのグループの単位で前記スイッチを順番に作動させるステップを含む請求項12に記載のビーム移送方法。
【請求項15】
前記順番に作動させるステップは、前記入射した一束の荷電粒子に対して加速エネルギが、前記進行性の軸方向電場のエネルギ波形Ezの主に立ち上がりのエッジおよび頂部付近に沿ってまず与えられるように、スイッチの第1のグループの作動のタイミングを調整することを含む請求項14に記載のビーム移送方法。
【請求項16】
前記順番に作動させるステップは、前記進行性の軸方向電場が前記入射した一束の荷電粒子よりも長い軸方向の長さを有するように、前記スイッチのグループを順番に作動させることを含む請求項14に記載のビーム移送方法。
【請求項17】
前記順番に作動させるステップは、前記進行性の軸方向電場のエネルギ波形Ez(t)の頂部に対する前記スイッチのグループのそれぞれの作動タイミングを制御することによって交替位相集束を行い、前記入射した一束の荷電粒子に対して加速エネルギが、前記進行性の軸方向電場のエネルギ波形Ez(t)の主に立ち上がりのエッジまたは主に立ち下がりのエッジのいずれかに沿って与えられることを含む請求項14に記載のビーム移送方法。
【請求項18】
前記一束の荷電粒子は、前記2つの電極のうちの上流のほうの電極であって抽出電極として機能すべき電極を制御することによって、前記レンズスタックに抽出される請求項12に記載のビーム移送方法。

【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図12】
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【図19】
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【公表番号】特表2010−529640(P2010−529640A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512316(P2010−512316)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/066527
【国際公開番号】WO2008/154569
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(507410009)ローレンス リヴァーモア ナショナル セキュリティ,エルエルシー (14)
【Fターム(参考)】