説明

ピアノのハンマー装置

【課題】 保形性および乾湿に対する寸法安定性に優れ、鍵の押鍵強さに応じたハンマーの回動速度を安定して得られるとともに、製造コストを削減することができるピアノのハンマー装置を提供する。
【解決手段】 本発明のピアノのハンマー装置1は、シャンクフレンジ3と、ハンマーシャンク4およびハンマーヘッド5を一体に有し、シャンクフレンジ3に回動自在に支持され、押鍵に伴って回動するハンマー2と、ハンマーシャンク4の下面に取り付けられたシャンクローラ12と、を備え、ハンマーシャンク4は、合成樹脂で構成され、シャンクフレンジ3に回動自在に支持されるシャンクホルダ7と、シャンクホルダ7の下面に一体に成形され、シャンクローラ12が取り付けられるシャンクローラ取付部13〜15と、一端部がシャンクホルダ7に保持され、他端部にハンマーヘッド5が設けられるシャンク本体6と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グランドピアノなどにおいて用いられ、ハンマーおよびこれを支持するシャンクフレンジなどで構成されるピアノのハンマー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来の一般的なグランドピアノのハンマー51を、シャンクフレンジ54とともに示しており、これらは鍵60(図8参照)ごとに設けられている。ハンマー51は、ハンマーシャンク52およびハンマーヘッド53などで構成されている。ハンマーシャンク52は、細長い棒状に形成されており、その後端部にハンマーヘッド53が設けられている。ハンマーシャンク52の前端部には、二股に分岐した互いに平行な2つの腕部52a,52aが、前方に延びるように形成されている。また、ハンマーシャンク52は、従来一般に、木材で構成されている。これは、木材は、入手が容易で、腕部52aなどを加工する際の加工性が良いとともに、軽量性と高い剛性を併せ持つためである。
【0003】
また、ハンマーシャンク52の下面の前端部には、シャンクローラ56が取り付けられており、ハンマーシャンク52は、このシャンクローラ56を介して、アクション58のレペティションレバー59に載置されている(図8参照)。シャンクローラ56は、木材の加工によって形成された板状のローラ芯56aと、羊毛のクロスなどで構成され、ローラ芯56aに、その一部を残し、表裏の両面をくるむように巻かれた円柱状の中芯56bと、人工皮革などで構成され、中芯56bの外側に巻かれた表皮56cによって構成されている。一方、ハンマーシャンク52の下面には、これを横断する取付溝52bが切削加工などで形成されており、シャンクローラ56は、ローラ芯56aを取付溝52bに差し込み、接着することによって、ハンマーシャンク52に取り付けられている。
【0004】
シャンクフレンジ54は、ハンマーシャンク52と同じ理由から、従来一般に、木材で構成されている。シャンクフレンジ54は、断面が矩形状に形成されており、フレンジねじ57を介して、ハンマーシャンクレール62に固定されている(図8参照)。シャンクフレンジ54の後端部には、所定の幅の係合部54aが後方に突出するように形成されており、この係合部54aが、ハンマーシャンク52の腕部52a,52aの間に、若干のクリアランスをもって係合している。これらの腕部52a,52aおよび係合部54aにはピン55が通されており、ハンマーシャンク52は、このピン55を介して、シャンクフレンジ54に、水平軸線回りに回動自在に支持されている。
【0005】
以上の構成により、鍵60が押鍵されると、それに伴い、ハンマーシャンク52が、シャンクローラ56を介してアクション58のジャック61で突き上げられることによって、ハンマー51が上方に回動し、ハンマーヘッド53が弦Sを打弦することによって、ピアノの発音が行われる。この回動の際、ハンマー51は、ハンマーシャンク52が腕部52a,52aおよび係合部54aで案内されることにより、左右にぶれることなく回動する。
【0006】
また、従来の他のハンマーシャンクとして、特許文献1に開示されたものが知られている。このハンマーシャンクは、断面が矩形状の細長い棒状に形成されている。ハンマーシャンクの前端部には、従来のハンマーシャンク52と同様、二股に分岐した互いに平行な2つの腕部が形成されている。ハンマーシャンクは、木材で構成されており、その腕部以外の部分の上面および下面には炭素繊維が貼り付けられており、それにより、木材のみで構成された場合よりも高い剛性を得るようにしている。
【0007】
前述したように、ハンマーシャンク52の材料としては従来一般に、軽量性と剛性を併せ持つ木材が用いられている。特に、ハンマーシャンク52の場合には、一端部に取り付けたハンマーヘッド53が弦Sを打弦するため、鍵60が強く押鍵されたときでも、押鍵エネルギーを弦Sに十分に伝達することにより豊かな音量が得られるよう、高い剛性が要求される。また、できるだけ大きな音量を確保するためには、ハンマー51の回動速度を高くすることが好ましく、そのために軽量性が要求される。
【0008】
しかし、その一方で、天然の素材である木材は、均質性に乏しく、残留した応力などにより反りやねじれなどの変形が発生しやすいという欠点を有する。このため、そのような変形がハンマーシャンク52の腕部52aに生じた場合には、ハンマー51が円滑に回動できなくなる。また、木材は、乾湿による寸法変化が大きいので、ハンマーシャンク52の腕部52a,52aとシャンクフレンジ54の係合部54aとの間のクリアランスが、乾湿に応じて比較的大きく変化する。このクリアランスは、回動するハンマーシャンク52を左右にぶれないように案内するために、もともと狭く設定されているので、その変化量が大きいと、ハンマーシャンク52がシャンクフレンジ54に対して、緩くなったり、きつくなったりする。その結果、回動抵抗がばらついてしまい、鍵60の押鍵強さに応じたハンマー51の回動速度を安定して得ることができない。
【0009】
このことは、特許文献1に開示されたハンマーシャンクについても同様である。すなわち、このハンマーシャンクは、炭素繊維を貼り付けた部分の剛性は高められるものの、シャンクフレンジに支持される腕部の部分は、従来一般のものと同様、木材のみで構成されているので、変形やクリアランスの変化が生じやすく、やはり鍵の押鍵強さに応じたハンマーの回動速度が安定して得られない。
【0010】
また、ハンマーシャンク52に、腕部52aや、シャンクローラ56を取り付けるための取付溝52aを加工するとともに、シャンクローラ56のローラ芯56aを木材の加工によって形成することが必要であり、これらの加工の分、製造コストが上昇してしまう。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、保形性および乾湿に対する寸法安定性に優れ、鍵の押鍵強さに応じたハンマーの回動速度を安定して得ることができるとともに、製造コストを削減することができるピアノのハンマー装置を提供することを目的とする。
【0012】
【特許文献1】実開昭58−113089号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するため、本発明の請求項1によるピアノのハンマー装置は、シャンクフレンジと、ハンマーシャンクおよびハンマーヘッドを一体に有し、シャンクフレンジに回動自在に支持され、鍵の押鍵に伴って回動するハンマーと、ハンマーシャンクの下面に取り付けられたシャンクローラと、を備え、ハンマーシャンクは、合成樹脂で構成され、シャンクフレンジに回動自在に支持されるシャンクホルダと、シャンクホルダの下面に一体に成形され、シャンクローラが取り付けられるシャンクローラ取付部と、一端部がシャンクホルダに保持され、他端部にハンマーヘッドが設けられるシャンク本体と、を有することを特徴とする。
【0014】
このピアノのハンマー装置によれば、ハンマーシャンクは、シャンク本体と、シャンク本体の一端部を保持し、シャンクフレンジに回動自在に支持されるシャンクホルダを有しており、このシャンクホルダが合成樹脂で構成されている。合成樹脂は、木材と比較して、保形性が高く、反りおよびねじれなどの変形が非常に小さい。したがって、合成樹脂で構成されたシャンクホルダを介して、ハンマーをシャンクフレンジ回りに円滑に回動させることができる。また、合成樹脂は、成形精度が高いとともに、寸法安定性に優れ、乾湿による伸縮も非常に小さい。したがって、シャンクホルダとシャンクフレンジとの間のクリアランスの変化を十分に抑制でき、それにより、ハンマーの回動抵抗のばらつきを抑制することによって、鍵の押鍵強さに応じたハンマーの回動速度を安定して得ることができる。また、シャンクホルダの下面にシャンクローラ取付部が一体に成形され、このシャンクローラ取付部にシャンクローラが取り付けられるので、従来におけるハンマーシャンクへの取付溝の加工が不要になり、その分、ハンマーの製造コストを削減することができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のピアノのハンマー装置において、シャンクフレンジが合成樹脂で構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成では、シャンクホルダが合成樹脂で構成されるのに加えて、これを支持するシャンクフレンジもまた合成樹脂で構成されている。したがって、シャンクフレンジの変形も非常に小さいとともに、シャンクホルダとの間のクリアランスの変化をさらに抑制でき、それにより、鍵の押鍵強さに応じたハンマーの回動速度をさらに安定して得ることができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のピアノのハンマー装置において、シャンク本体が木材で構成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、請求項1または2による前述した作用に加えて、シャンク本体が木材で構成されることにより、軽量性と高い剛性を併せ持つという木材の利点を同時に得ることができる。すなわち、ハンマーの回動速度を高め、押鍵エネルギーをハンマーから弦に効率良く伝達することによって、豊かな音量を得ることができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のピアノのハンマー装置において、合成樹脂がABS樹脂であることを特徴とする。
【0020】
シャンクホルダにはシャンク本体などが取り付けられるとともに、シャンクローラ取付部にはシャンクローラが取り付けられる。一方、ABS樹脂は、合成樹脂の中では、成形精度が高いとともに、接着性が高いという特性を有する。したがって、シャンクホルダおよびシャンク取付部を構成する合成樹脂として、ABS樹脂を用いることにより、シャンク本体やシャンクローラの取付を、接着によって容易に行うことができ、その組立性を向上させることができる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のピアノのハンマー装置において、シャンクホルダの左右の側面に、重量を軽減するための肉盗み部が形成されていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、肉盗み部によってシャンクホルダが軽量化されるので、それにより、ハンマーの回動速度が高められることによって、より豊かな音量を得ることができる。また、シャンクホルダが合成樹脂で構成されているので、そのような肉盗み部を、成形時に容易にかつ精度良く形成することができる。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のピアノのハンマー装置において、シャンクローラ取付部は、シャンクホルダの下面に突出するように形成されたローラ芯と、ローラ芯の前後両側に形成された中芯接着部と、中芯接着部の前後両側に形成された表皮接着部とを有し、シャンクローラは、円弧状に湾曲した周面および直線状の底面によって取り囲まれた形状を有し、底面に凹部を形成した中芯と、中芯の周面を被う表皮とを有し、中芯の凹部をローラ芯にはめ込み、底面を中芯接着部に接着するとともに、表皮の両端部を表皮接着部に接着することによって、シャンクホルダに取り付けられていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、シャンクホルダの下面には、下方に突出するローラ芯と、その前後両側の中芯接着部と、その前後両側の表皮接着部が、一体に形成されている。一方、シャンクローラは、中芯と、中芯を被う表皮を有しており、中芯の底面に形成された凹部をローラ芯にはめ込み、中芯の底面を中芯接着部に接着するとともに、表皮の両端部を表皮接着部に接着することによって、シャンクホルダに取り付けられる。したがって、シャンクホルダへのシャンクローラの取付を強固に行うことができる。また、これらのローラ芯、中芯接着部および表皮接着部が、シャンクホルダと一体に成形されるので、従来のようなローラ芯の木材加工をまったく必要とすることなく、安価にかつ精度良く形成することができる。さらに、中芯は、円弧状に湾曲した周面と直線状の底面で取り囲まれた形状を有するので、従来の円柱形のシャンクローラよりも材料コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を、詳細に説明する。なお、以下の説明では、グランドピアノを演奏者から見た場合の手前側(図5の右側)を「前」、奥側(図5の左側)を「後」とし、さらに多数の鍵22(図5に1つのみ図示)の並び方向を「左右方向」として、説明を行うものとする。図1に示す第1実施形態によるハンマー装置1は、鍵22ごとに設けられており、ハンマー2と、これを回動自在に支持するシャンクフレンジ3などで構成され、ハンマー2は、ハンマーシャンク4およびハンマーヘッド5を一体に有している。
【0026】
ハンマーシャンク4は、前後方向に延びるシャンク本体6と、シャンク本体6の前端部に設けられ、これを保持するシャンクホルダ7で構成されている。シャンク本体6は、通常のハンマーシャンクと同様、シデなどの木材で構成されており、木材の切削加工によって、径がほぼ一定の棒状に形成されている。
【0027】
一方、シャンクホルダ7は、ABS樹脂などの合成樹脂の成形品で構成されており、図2および図3に示すように、前後方向に長いブロック状のものである。シャンクホルダ7の後部には、前後方向に延び、背面に開口する取付孔8が形成されており、この取付孔8にシャンク本体6の前端部を差し込み、接着することによって、シャンク本体6がシャンクホルダ7に固定されている。シャンクホルダ7の前部は、二股に分岐した2つの腕部9,9になっており、互いに平行に前方に延びている。腕部9,9には、側方に貫通するピン孔10,10が互いに対向するように形成され、これらのピン孔10,10に、ブッシングクロス(図示せず)を介してピン11が取り付けられている(図1参照)。
【0028】
また、図2に示すように、シャンクホルダ7の中央部の下面には、シャンクローラ12を取り付けるためのシャンクローラ取付部として、ローラ芯13が、シャンクホルダ7の左右方向の幅全体にわたって下方に突出するように一体に形成されている。また、シャンクローラ取付部として、ローラ芯13の前後両側には中芯接着部14が形成され、さらにその前後両側には表皮接着部15が形成されており、これらは、ローラ芯13を中心として前後対称に配置されている。中芯接着部14は平面で構成され、表皮接着部15は、中芯接着部14に対して斜めの斜面と、この斜面に対してほぼ直角の底面で構成されている。さらに、シャンクホルダ7の中央部の左右の側面には、その外形に沿うように、肉盗み部16が形成されている。この肉盗み部16の深さは、腕部9の後部付近では、その形状に沿うように中央側に向かって次第に深くなるとともに、他の部分では一定になっている。
【0029】
図4に示すように、シャンクローラ12は、中芯17と、中芯17を覆う表皮18で構成されている。中芯17は、羊毛のクロスなどで構成されており、ローラ芯13と同じ幅を有するとともに、円弧状に湾曲した周面17aと直線状の底面17bによって取り囲まれており、ほぼ半円形に形成されている。中芯17の底面17bには、凹部17cが形成されている。一方、表皮18は、ポリエステルをベースにした人工皮革などで構成されており、中芯17の周面17a全体を覆うとともに、両端部が周面17aから若干はみ出した状態で、中芯17に接着されている。以上の構成のシャンクローラ12は、その凹部17cをローラ芯13にはめ込み、底面17bを中芯接着部14に接着するとともに、表皮18の両端部を表皮接着部15に接着することによって、シャンクホルダ7に取り付けられている。
【0030】
ハンマーヘッド5は、ハンマーシャンク4の後端部に一体に設けられ、これと直交するように延びている。ハンマーヘッド5は、木材などで構成されたハンマーウッド5aと、その先端部を包むように順に巻かれたアンダーフェルト5bおよびトップフェルト5cで構成されている。
【0031】
ハンマー2を支持するシャンクフレンジ3は、ABS樹脂などの合成樹脂で構成されている。図1に示すように、シャンクフレンジ3は、断面がほぼ矩形の細長い本体部3aと、その背面から後方に突出する係合部3bを一体に有している。係合部3bは、所定の幅を有し、その両側面が互いに平行に形成されており、シャンクホルダ7の腕部9,9の間に、若干のクリアランスをもって係合している。また、係合部3bには、ピン孔(図示せず)が側方に貫通するように形成されている。そして、このピン孔にピン11が通されることによって、シャンクホルダ7はピン11に回動自在に取り付けられており、それにより、ハンマー2はシャンクフレンジ3に、水平な軸線回りに回動自在に支持されている。
【0032】
また、シャンクフレンジ3の本体部3aの中央部には、シャンクフレンジ3を後述するハンマーシャンクレール19に取り付けるための取付孔3cが、上下方向に貫通するように形成されている。さらに、本体部3aと係合部3bとの境界付近には、上下方向に貫通するねじ孔3dが形成されており、このねじ孔3dに、後述するレペティションレバー20の上方への回動を規制するためのドロップスクリュー21が、下方から進退自在にねじ込まれている。
【0033】
次に、鍵22の押鍵に伴ってハンマー2を回動させるアクション23の構成を、図5を参照して説明する。同図に示すように、アクション23は、鍵22ごとに設けられ、前後方向に延びる回動自在のウィッペン24と、ウィッペン24に回動自在に取り付けられたレペティションレバー20およびジャック25を備えており、左右のブラケット26,26(一方のみ図示)の間に取り付けられている。ブラケット26,26は、鍵22を載置する筬(図示せず)の左右端部にそれぞれ固定され、それらの間にウィッペンレール27が渡されていて、このウィッペンレール27にねじ止めした各ウィッペンフレンジ28に、ウィッペン24の後端部が回動自在に取り付けられている。各ウィッペン24は、対応する鍵22の上面後部に設けられたキャプスタンボタン29に、ウィッペンヒール30を介して載っている。
【0034】
また、左右のブラケット26,26の間には、ハンマーシャンクレール19が渡されている。このハンマーシャンクレール19には、多数のねじ穴(図示せず)が左右方向に並ぶように形成されており、シャンクフレンジ3は、その取付孔3cに通したフレンジねじ31を、ハンマーシャンクレール19のねじ穴(図示せず)にねじ込むことによって、ハンマーシャンクレール19に固定されている。
【0035】
レペティションレバー20は、断面が矩形状で、斜め前上がりに前後方向に延びており、その中央部において、ウィッペン24に回動自在に取り付けられている。レペティションレバー20の後端部には、レバースクリュー32が上下方向に貫通した状態で進退自在に螺合しており、その下端部にレバーボタン33が一体に設けられている。また、レペティションレバー20は、ウィッペン24に取り付けたレペティションスプリング34によって、復帰方向(図5の反時計方向)に付勢されている。以上の構成により、鍵22の離鍵状態では、レペティションレバー20は、レペティションスプリング34のばね力により復帰側に回動していて、レバーボタン33がウィッペン24の上面に当接しているとともに、レバースクリュー32を回すことによって、離鍵状態におけるレペティションレバー20の角度を調整することが可能である。
【0036】
レペティションレバー20の前部の所定位置には、上下方向に貫通するジャック案内孔20aが形成されている。このレペティションレバー20の上面のジャック案内孔20a付近に、ハンマー2がシャンクローラ12を介して載置されている。また、レペティションレバー20の上面の前端部には、レバースキン35が貼り付けられており、ドロップスクリュー21に対向している。この構成により、ドロップスクリュー21を回し、その下方への突出量を調整することによって、これにレペティションレバー20が当接するレットオフ位置を調整することが可能である。
【0037】
ジャック25は、上下方向に延びるハンマー突上げ部25aと、その下端部から後方にほぼ直角に延びるレギュレーティングボタン当接部25bとから、L字状に形成されており、その角部においてウィッペン24の前端部に回動自在に取り付けられている。ハンマー突上げ部25aの上端部は、レペティションレバー20のジャック案内孔20aに、前後方向に移動自在に係合するとともに、離鍵状態においてはシャンクローラ12と微小な間隔を存して対向している。また、ジャック25は、前記レペティションスプリング34によって、復帰方向(図5の反時計方向)に付勢されている。
【0038】
また、ジャック25のハンマー突上げ部25aの中間部には、ジャック25の角度位置を調整するためのジャックボタンスクリュー36が、前後方向に貫通した状態で進退自在に螺合している。ジャックボタンスクリュー36の先端部には、ジャックボタン37が一体に設けられており、このジャックボタン37は、離鍵状態では、ウィッペン24に立設されたスプーン38に当接している。したがって、このジャックボタンスクリュー36を回すことによって、離鍵状態におけるジャック25の角度位置を調整することが可能である。
【0039】
一方、ハンマーシャンクレール19の下面には、レギュレーティングレール39がねじ止めされており、このレギュレーティングレール39の下面に、ジャック25の上方への回動を規制するレギュレーティングボタン40が進退自在に螺合していて、ジャック25のレギュレーティングボタン当接部25bの前端部と所定の間隔をもって対向している。
【0040】
以上の構成のアクション23によれば、図5に示す離鍵状態から鍵22が押鍵されると、ウィッペン24が、キャプスタンボタン29を介して突き上げられることにより、上方に回動するとともに、レペティションレバー20およびジャック25が、ウィッペン24と一緒に上方に移動する。これに伴い、まず、レペティションレバー20がシャンクローラ12を介してハンマーシャンク4を押し上げることにより、ハンマー2は、シャンクホルダ7の腕部9,9およびシャンクフレンジ3の係合部3bに案内されながら、上方に回動する。次いで、レペティションレバー20がドロップスクリュー21に係合することにより、その回動が阻止されることで、ジャック25がシャンクローラ12を介してハンマーシャンク4を突き上げる。その後、ハンマー2のハンマーヘッド5が、上方に張られた弦Sを打弦する直前まで回動した時点で、ジャック25が、レギュレーティングボタン40に係合し、その回動が阻止されることによって、シャンクローラ12から抜ける。これにより、ハンマー2は、アクション23および鍵22との連結を解かれ、自由回動状態となり、ハンマーヘッド5が弦Sを打弦することによって、発音が行われる。
【0041】
以上のように、本実施形態によれば、シャンクフレンジ3に回動自在に支持されるハンマーシャンク4のシャンクホルダ7が、合成樹脂で構成されているので、その保形性が高く、反りおよびねじれなどの変形が非常に小さいとともに、寸法安定性に優れ、乾湿による伸縮も非常に小さい。したがって、シャンクホルダ7とシャンクフレンジ3との間のクリアランスの変化を十分に抑制でき、それにより、ハンマー2の回動抵抗のばらつきを抑制することによって、鍵22の押鍵強さに応じたハンマー2の回動速度を安定して得ることができる。また、シャンクローラ12を取り付けるためのローラ芯13が、シャンクホルダ7と一体に成形されるので、従来における、ハンマーシャンク52への取付溝52bの加工や、ローラ芯56aの木材加工が不要になる。さらに、腕部9もまたシャンクホルダ7と一体に成形され、その加工も不要になるので、以上により、ハンマー2の製造コストを削減することができる。
【0042】
また、シャンクホルダ7に加えて、これを支持するシャンクフレンジ3もまた合成樹脂で構成されているので、シャンクフレンジ3の変形や乾湿による伸縮も非常に小さい。したがって、シャンクホルダ7とシャンクフレンジ3との間のクリアランスの変化をさらに抑制でき、それにより、鍵22の押鍵強さに応じたハンマー2の回動速度をさらに安定して得ることができる。
【0043】
さらに、ハンマーシャンク4のシャンク本体6が木材で構成されているので、軽量性と高い剛性を併せ持つという木材の利点を同時に得ることができ、したがって、ハンマー2の回動速度を高め、押鍵エネルギーをハンマー2から弦Sに効率良く伝達することによって、豊かな音量を得ることができる。また、肉盗み部16によってシャンクホルダ7が軽量化されているので、ハンマー2の回動速度がさらに高められることによって、より豊かな音量を得ることができる。また、シャンクホルダ7が合成樹脂で構成されているので、そのような肉盗み部16を、成形時に容易にかつ精度良く形成することができる。
【0044】
また、シャンクホルダ7およびローラ芯13を構成する合成樹脂として、接着性が高いABS樹脂を用いているので、シャンクホルダ7へのシャンク本体6の取付やローラ芯13へのシャンクローラ12の取付を、接着によって容易に行うことができ、その組立性を向上させることができる。
【0045】
さらに、シャンクホルダ7の下面に、ローラ芯13に加えて、中芯接着部14および表皮接着部15が一体に形成されていて、シャンクローラ12の凹部17cをローラ芯13にはめ込み、中芯17の底面17bを中芯接着部14に接着するとともに、表皮18の両端部を表皮接着部15に接着することによって、シャンクローラ12をシャンクホルダ7に取り付けるので、このシャンクローラ12の取付を強固に行うことができる。また、これらの中芯接着部14および表皮接着部15もまた、シャンクホルダ7と一体に成形されるので、加工をまったく必要とすることなく、安価にかつ精度良く形成することができる。さらに、中芯17は、円弧状に湾曲した周面17aと直線状の底面17bで取り囲まれた、ほぼ半円形に形成されているので、従来の円柱形のシャンクローラ56よりも材料コストを削減することができる。
【0046】
図6は、本発明の第2実施形態によるハンマー装置のシャンクホルダを示している。第1実施形態のシャンクホルダ7と同様、このシャンクホルダ41もまた、ABS樹脂などの合成樹脂の成形品で構成されている。シャンクホルダ41の後部には、取付孔42が前後方向に延びるように形成されており、この取付孔42にシャンク本体6が差し込まれ、接着などによって取り付けられる。シャンクホルダ41の前部には、互いに平行な2つの腕部43,43が形成されており、第1実施形態と同様、腕部43,43に形成されたピン孔44,44にピン11(図示せず)が取り付けられる。
【0047】
また、シャンクホルダ41の中央部の下面には、シャンクローラ12を取り付けるための取付溝45(シャンクローラ取付部)が、シャンクホルダ41の左右方向の幅全体にわたって形成されている。この取付溝45は、図7に示したような、ローラ芯56a、円柱状の中芯56bおよび表皮56cで構成された、通常のシャンクローラ56を取り付けるためのものである。さらに、シャンクホルダ41の中央部の左右の側面には、その外形に沿うように、肉盗み部46が形成されている。この肉盗み部46の深さは、腕部43の後部付近では、その形状に沿うように中央側に向かって次第に深くなるとともに、他の部分では一定になっている。他の構成は、第1実施形態のハンマー装置1と同じである。
【0048】
したがって、この第2実施形態によれば、取付溝45に通常のシャンクローラ56のローラ芯56aを差し込み、接着することによって、シャンクローラ56を取り付けることができる。また、この取付溝45は、シャンクホルダ41と一体に成形されるので、従来におけるハンマーシャンク52への取付溝52bの加工が不要になり、その分、製造コストを削減することができる。その他の効果については、第1実施形態とまったく同様である。すなわち、シャンクホルダ41およびシャンクフレンジ3が合成樹脂で構成されることによって、両者の間のクリアランスの変化を十分に抑制でき、それにより、鍵22の押鍵強さに応じたハンマー2の回動速度を安定して得ることができる。また、合成樹脂としてABS樹脂を用いることによって、シャンク本体6およびシャンクローラ56を接着によって容易に取り付けることができる。さらに、肉盗み部46によってシャンクホルダ41が軽量化され、ハンマー2の回動速度が高められることによって、豊かな音量が得られるなどの効果を得ることができる。
【0049】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、合成樹脂としてABS樹脂を用いているが、他の適当な合成樹脂を用いることが可能である。また、第1実施形態では、シャンクローラとして断面が半円形状のものを用いているが、通常と同様、円形状のものを採用してもよく、さらに、シャンクホルダの中芯接着部や表皮接着部の構成についても、シャンクローラの形状などに応じて適宜、変更することが可能である。また、実施形態では、ハンマー2を軽量化するために、シャンクホルダ7,41に肉盗み部16,46をそれぞれ形成しているが、ハンマー2の剛性を優先する場合には、これらの肉盗み部16,46を省略してもよい。
【0050】
さらに、実施形態は、本発明をアコースティックなグランドピアノのハンマー装置に適用した例であるが、本発明を、他のタイプのピアノ、例えばグランド型電子ピアノや自動演奏ピアノのハンマー装置に適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態によるグランドピアノのハンマー装置の斜視図である。
【図2】図1のハンマーシャンクのシャンクホルダの下面側から見た斜視図である。
【図3】シャンクホルダの(a)平面図、(b)背面図および(c)側面図である。
【図4】シャンクホルダにシャンクホルダおよびシャンクローラを取り付けた状態の部分側面図である。
【図5】図1のハンマー装置を含むグランドピアノの鍵盤装置の側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態によるシャンクホルダの下面側から見た斜視図である。
【図7】従来のグランドピアノのハンマー装置の斜視図である。
【図8】図7のハンマー装置を含む従来のグランドピアノの鍵盤装置の側面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ハンマー装置
2 ハンマー
3 シャンクフレンジ
4 ハンマーシャンク
5 ハンマーヘッド
6 シャンク本体
7 シャンクホルダ
12 シャンクローラ
13 ローラ芯(シャンクローラ取付部)
14 中芯接着部(シャンクローラ取付部)
15 表皮接着部(シャンクローラ取付部)
16 肉盗み部
17 中芯
17a 周面
17b 底面
17c 凹部
18 表皮
22 鍵
41 シャンクホルダ
45 取付溝(シャンクローラ取付部)
46 肉盗み部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャンクフレンジと、
ハンマーシャンクおよびハンマーヘッドを一体に有し、前記シャンクフレンジに回動自在に支持され、鍵の押鍵に伴って回動するハンマーと、
前記ハンマーシャンクの下面に取り付けられたシャンクローラと、を備え、
前記ハンマーシャンクは、
合成樹脂で構成され、前記シャンクフレンジに回動自在に取り付けられるシャンクホルダと、
前記シャンクホルダの下面に一体に成形され、前記シャンクローラが取り付けられるシャンクローラ取付部と、
一端部が前記シャンクホルダに保持され、他端部に前記ハンマーヘッドが設けられるシャンク本体と、
を有することを特徴とするピアノのハンマー装置。
【請求項2】
前記シャンクフレンジが合成樹脂で構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のピアノのハンマー装置。
【請求項3】
前記シャンク本体が木材で構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のピアノのハンマー装置。
【請求項4】
前記合成樹脂がABS樹脂であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のピアノのハンマー装置。
【請求項5】
前記シャンクホルダの左右の側面に、重量を軽減するための肉盗み部が形成されていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のピアノのハンマー装置。
【請求項6】
前記シャンクローラ取付部は、前記シャンクホルダの前記下面に突出するように形成されたローラ芯と、当該ローラ芯の前後両側に形成された中芯接着部と、当該中芯接着部の前後両側に形成された表皮接着部とを有し、
前記シャンクローラは、
円弧状に湾曲した周面および直線状の底面によって取り囲まれた形状を有し、前記底面に凹部を形成した中芯と、
当該中芯の前記周面を覆う表皮とを有し、
前記中芯の前記凹部を前記ローラ芯にはめ込み、前記底面を前記中芯接着部に接着するとともに、前記表皮の両端部を前記表皮接着部に接着することによって、前記シャンクホルダに取り付けられていることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載のピアノのハンマー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−171617(P2006−171617A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367441(P2004−367441)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)