説明

ピコリルアミン化合物及びその製造方法、並びにそれを含む抽出剤

【課題】アクチノイド元素抽出剤に好適なピコリルアミン化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)又は(2)で表されるピコリルアミン化合物。


(式中、Rは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピコリルアミン化合物及びその製造方法、並びにそれを含む抽出剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、使用する電力の大半は火力発電によるものであるが、火力発電は大量の温室効果ガスの排出するうえ、燃料である石油、石炭等の化石燃料の価格も高騰を続けている。
このような状況下、エネルギーの安定供給及び温室効果ガス削減の観点から、原子力発電のさらなる利用が求められている。しかし、原子力発電で用いた使用済み核燃料の再処理には、高レベル放射性廃液(HLW)を伴い、その処理が問題となっていた。
【0003】
高レベル放射性廃液は、アクチノイド元素(例えばAm、Eu等)、希土類元素等を含む。これら含有成分のうち、アクチノイド元素には半減期が長い元素が含まれ、廃液処理の経済性及び環境負荷の観点から、アクチノイド元素を効率よく抽出分離する方法が求められていた。そのため様々な研究開発がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、プロパンジアミドを用いたアクチノイドの選択的抽出方法が開示されている。特許文献2では、3座配位が可能なジグリコールアミド化合物を用いてアクチノイドやランタノイドを抽出する方法が開示されている。特許文献3では、リン酸ジ(2−エチルヘキシル)を吸着剤として用いたカラムによりアクチノイドを重希土類元素と分離する方法が開示されている。特許文献4では、リン酸ジ(2−エチルヘキシル)とN,N,N’,N’’−テトラメチルピリジルエチレンジアミンを用いたアクチノイドと希土類元素の抽出分離が開示されている。特許文献5では、ジオクチルアンモニウムジオクチルジチオカーバメイトを用いたアクチノイドの選択的抽出方法が開示されている。
しかしながら、さらに優れたアクチノイド元素の抽出剤が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−212205号公報
【特許文献2】特開2002−1007号公報
【特許文献3】特開2004−28633号公報
【特許文献4】特開2004−108837号公報
【特許文献5】特開2007−114195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アクチノイド元素抽出剤に好適なピコリルアミン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下のピコリルアミン化合物等が提供される。
1.下記式(1)又は(2)で表されるピコリルアミン化合物。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基である。)
2.Rが炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基である1に記載のピコリルアミン化合物。
3.Rが炭素数4〜6の脂肪族炭化水素基である1又は2に記載のピコリルアミン化合物。
4.前記脂肪族炭化水素基が飽和脂肪族炭化水素基である1〜3のいずれかに記載のピコリルアミン化合物。
5.2−ピコリルアミン、トリエチルアミン及びハロゲン化酢酸アルキル、又は2,2’−ジピコリルアミン、トリエチルアミン及びハロゲン化酢酸アルキルをプロトン系溶媒中で加熱攪拌して反応させる請求項1〜4のいずれかに記載のピコリルアミン化合物の製造方法。
6.1〜4のいずれかに記載のピコリルアミン化合物を含む抽出剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アクチノイド元素抽出剤に好適なピコリルアミン化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のピコリルアミン化合物は、下記式(1)又は(2)で表される。
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基である。)
【0010】
上記(1)又は(2)で表されるピコリルアミン化合物(以下、単に本発明のピコリルアミン化合物という場合がある)において、Rは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表す。
Rの炭素数は、好ましくは4〜8であり、より好ましくは4〜6である。
また、上記炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基は、好ましくは炭素数1〜18の飽和脂肪族炭化水素基である。
【0011】
上記炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基としては、例えばt−ブチル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基が挙げられ、好ましくはt−ブチル基である。
【0012】
以下に、本発明のピコリルアミン化合物の具体例を示す。
【化4】

【0013】
本発明のピコリルアミン化合物は、2−ピコリルアミン、トリエチルアミン及びハロゲン化酢酸アルキル、又は2,2’−ジピコリルアミン、トリエチルアミン及びハロゲン化酢酸アルキルをプロトン系溶媒中で加熱攪拌して反応させることにより好適に製造することができる。
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【0014】
本発明では、プロトン系溶媒を用いて加熱攪拌することにより、ピコリルアミン化合物の収率を高めることができる。これは、プロトン系溶媒のプロトンがハロゲン化酢酸アルキルのカルボニル基に配位することにより、α位の炭素原子の酸性度が上昇し、活性が増したためと推測される。
【0015】
用いることができるプロトン系溶媒としては、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ペンタノールが挙げられ、好ましくはエタノールである。
【0016】
加熱攪拌において、加熱温度は通常、20〜100℃であり、好ましくは60〜90℃であり、攪拌時間は通常30〜480分であり、好ましくは120〜240分である。
【0017】
本発明のピコリルアミン化合物は炭化水素系溶媒に可溶であるので、アクチノイド元素抽出剤として使用しやすく、また高濃度の抽出溶液の調製が可能となる。炭化水素系溶媒としては、例えば通常アクチノイド元素抽出の際用いられているようなn−ドデカン等の直鎖状炭化水素等の脂肪族炭化水素が挙げられる。炭素数8〜14の溶媒が好適である。
【0018】
本発明のピコリルアミン化合物はアクチノイド元素の抽出剤として使用できる。
抽出剤は、例えば、硝酸で処理された放射性廃液からアクチノイドを抽出するために使用できる。その際、通常、有機化合物に添加して抽出溶液を作製し、この抽出溶液を放射性廃液に接触させる。また、放射性廃液から抽出したアクチノイドや希土類元素を含む有機溶液からさらにアクチノイドを抽出する際にも使用され得る。さらには、アクチノイドを選択的に分離するためのカラムに用いる吸着剤として使用され得る。
また、原子力施設から排出される放射性廃液に限定されず、アクチノイド元素を含む溶液からアクチノイド元素を抽出することも可能である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例を基に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
【0020】
実施例1
下記スキームに従って、下記式に示すモノピコリルアミン化合物を合成した。
【化6】

【0021】
窒素雰囲気下、2L4口フラスコにエタノール750mL、2−ピコリルアミン(60.55g、0.56mol)及びトリエチルアミン(145.81g、1.44mol)を仕込み、10分間攪拌した後、ブロモ酢酸−t−ブチル(264.58g、1.36mol)を滴下した。この混合物を30分間攪拌した後、4時間加熱還流した。その後、室温まで冷却し、純水1.5Lをさらに加え、酢酸エチル1.5Lで抽出した。この有機層を硫酸マグネシウム150gで乾燥し、有機層の溶媒を除去して、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(酢酸エチル/n−ヘキサン=2/1)で精製し、化合物(112.37g、収率60%)を得た。
【0022】
得られた化合物をH−NMR測定(400MHz、CDCl)した結果、目的のモノピコリルアミン化合物であることを確認した。結果を図1に示す。また、得られた化合物をHPLC測定したところ、その純度は99.7%であった。結果を表1に示す。
【0023】
尚、上記HPLC測定は、以下の条件で測定した。
カラム:ODS−80TM(東ソー株式会社製)
流量:1mL/min
溶離液:メタノール/純水(リン酸0.1)=70:30
【0024】
得られたピコリルアミン化合物を、アクチノイド元素を含む放射性溶液に接触させたところ、良好な分離性能が得られ抽出剤として有用なことが分かった。
【0025】
実施例2
表1に示す配合量で2−ピコリルアミン、トリエチルアミン及びブロモ酢酸−t−ブチルを仕込み、エタノールの代わりにクロロホルムを用い、4時間の加熱還流の代わりに2〜23℃まで昇温しながら攪拌して24時間反応させた他は、実施例1と同様にして目的のモノピコリルアミン化合物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0026】
実施例3
表1に示す配合量で2−ピコリルアミン、トリエチルアミン及びブロモ酢酸−t−ブチルを仕込み、エタノールの代わりにクロロホルムを用い、4時間の加熱還流の代わりに23℃〜65℃まで昇温しながら攪拌して2時間反応させた他は、実施例1と同様にして目的のモノピコリルアミン化合物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0027】
実施例4
表1に示す配合量で2−ピコリルアミン、トリエチルアミン及びブロモ酢酸−t−ブチルを仕込んで反応させた他は、実施例1と同様にして目的のモノピコリルアミン化合物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から分かるように、非プロトン系溶媒であるクロロホルムを用いるより、プロトン系溶媒であるエタノールを用いたほうが収率が高いことが分かる。また、攪拌時の温度が高い方が収率が高いことが分かる。
【0030】
実施例5
下記スキームに従って、下記式に示すビスピコリルアミン化合物を合成した。
【化7】

【0031】
窒素雰囲気下、2L4口フラスコにエタノール750mL、2,2’−ジピコリルアミン(141.85g、0.7mol)及びトリエチルアミン(103.90g、1.03mol)を仕込み、10分間攪拌した後、ブロモ酢酸−t−ブチル(149.10g、0.76mol)を滴下した。この混合物を30分間攪拌した後、4時間加熱還流した。その後、室温まで冷却し、純水1.5Lをさらに加え、酢酸エチル1.5Lで抽出した。この有機層を硫酸マグネシウム150gで乾燥し、有機層の溶媒を除去して、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(トルエン)で精製し、化合物(146.52g、収率67%)を得た。
【0032】
得られた化合物をH−NMR測定(400MHz、CDCl)した結果、目的のビスピコリルアミン化合物であることを確認した。結果を図2に示す。また、得られた化合物をHPLC測定しところ、その純度は99.4%であった。結果を表2に示す。
【0033】
得られたピコリルアミン化合物を、アクチノイド元素を含む放射性溶液に接触させたところ、良好な分離性能が得られ抽出剤として有用なことが分かった。
【0034】
実施例6
表2に示す配合量で2,2’−ジピコリルアミン、トリエチルアミン及びブロモ酢酸−t−ブチルを仕込み、シリカゲルクロマトグラフィの展開溶媒を酢酸エチル・n−ヘキサン混合溶媒(酢酸エチル/n−ヘキサン=2/1)とし、過熱還流の時間を5時間とした他は実施例5と同様にして目的のビスピコリルアミン化合物を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のピコリルアミン化合物は、放射性廃液からアクチノイド元素を抽出分離する抽出剤として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1で得られたモノピコリルアミン化合物のH−NMR測定の結果を示す図である。
【図2】実施例5で得られたビスピコリルアミン化合物のH−NMR測定の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)又は(2)で表されるピコリルアミン化合物。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基である。)
【請求項2】
Rが炭素数4〜8の脂肪族炭化水素基である請求項1に記載のピコリルアミン化合物。
【請求項3】
Rが炭素数4〜6の脂肪族炭化水素基である請求項1又は2に記載のピコリルアミン化合物。
【請求項4】
前記脂肪族炭化水素基が飽和脂肪族炭化水素基である請求項1〜3のいずれかに記載のピコリルアミン化合物。
【請求項5】
2−ピコリルアミン、トリエチルアミン及びハロゲン化酢酸アルキル、又は2,2’−ジピコリルアミン、トリエチルアミン及びハロゲン化酢酸アルキルをプロトン系溶媒中で加熱攪拌して反応させる請求項1〜4のいずれかに記載のピコリルアミン化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のピコリルアミン化合物を含む抽出剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−1254(P2010−1254A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162042(P2008−162042)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(508187665)日立化成テクノサービス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】