説明

ピレン誘導体及びこれを用いた有機発光素子

【課題】極めて高効率かつ高輝度な光出力を有し、極めて耐久性のある有機発光素子を提供する。
【解決手段】陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持される有機化合物層と、から構成され、該有機化合物層に下記一般式[I]で示されるピレン誘導体が含まれることを特徴とする、有機発光素子。


(式[I]において、Arは、置換あるいは無置換のアリール基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピレン誘導体及びこれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極との間に蛍光性有機化合物を含む薄膜を挟持させてなる発光素子である。また各電極から電子及びホール(正孔)を注入することにより、蛍光性化合物の励起子を生成させ、この励起子が基底状態に戻る際に有機発光素子は光を放出する。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることが挙げられる。このことから、有機発光素子は広汎な用途への可能性を示唆している。
【0004】
しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力あるいは高い光変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化や酸素を含む雰囲気気体や湿気等による劣化等の耐久性の面においても未だ多くの問題がある。
【0005】
一方、フルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合では、色純度の良い青色、緑色及び赤色の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分に解決されたとはいえない。
【0006】
上述した課題の解決を目的として様々な材料や有機発光素子が提案されている。ここで材料においては、例えば、特許文献1〜3に示されるピレン化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2007−169581号公報
【特許文献2】WO2005/115950パンフレット
【特許文献3】WO2005/123634パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ただ特許文献1〜3に記載のピレン化合物とこのピレン化合物を用いた有機発光素子は実用化という観点からまだ改善の余地がある。具体的には、実用化を考える上で更なる高輝度の光出力あるいは高い光変換効率が必要となるからである。また、長時間の使用による経時変化や酸素を含む雰囲気気体や湿気等による劣化等の耐久性の面での改善が必要となる。さらに、フルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合、有機発光素子に要求される特性の一つとして、良好な色純度や高効率の青色発光が挙げられるが、これらの問題に関してもまだ十分に解決されたとはいえない。従って、特に、色純度や発光効率、耐久性が高い有機発光素子及びこれを実現するための材料が求められている。
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、極めて高効率かつ高輝度な光出力を有し、極めて耐久性のある有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のピレン誘導体は、下記一般式[I]で示されることを特徴とする。
【0011】
【化1】

(式[I]において、Arは、置換あるいは無置換のアリール基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明のピレン誘導体は、優れた発光特性を持ち、安定性の高い有機発光素子用材料である。このため、本発明によれば、極めて高効率かつ高輝度な光出力を有し、極めて耐久性のある有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の有機発光素子を搭載した画像表示装置の例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず本発明のピレン誘導体について説明する。本発明のピレン誘導体は、下記一般式[I]で示される。
【0015】
【化2】

【0016】
式[I]において、Arは、置換あるいは無置換のアリール基を表す。Arで表されるアリール基として、フェニル基、ナフチル基、ペンタレニル基、アントリル基、ピレニル基、インダセニル基、アセナフテニル基、フェナントリル基、フェナレニル基、フルオランテニル基、ベンゾフルオランテニル基、アセフェナントリル基、アセアントリル基、トリフェニレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、ペリレニル基、ペンタセニル基、フルオレニル基等が挙げられるがもちろんこれらに限定されるものではない。蛍光量子収率が高いという観点から、上述したアリール基のうち蛍光量子収率が高い置換基が好ましく、特に好ましくは、フルオレニル基又はピレニル基である。
【0017】
上記、アリール基が有してもよい置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基、9,9−ジメチルフルオレニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等のアミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基等のアルコキシ基、フェノキシル基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が挙げられるがもちろんこれらに限定されるものではない。
【0018】
尚、式[1]のピレン誘導体において、ナフタレン骨格にメチル基、エチル基、ターシャルブチル基等のアルキル基を導入してもよい。
【0019】
本発明のピレン誘導体は、蛍光量子収率が高いピレン骨格を基本骨格として含むため、蛍光量子収率が高く、有機発光素子に含まれる発光層の構成材料として使用すると、発光効率が高い有機発光素子を提供することができる。
【0020】
また本発明のピレン誘導体は、ピレン骨格に結合する立体障害基として立体的に嵩高いイソプロピル基が置換されている。これにより分子同士の会合を抑制することができる。またこの分子同士の会合の抑制効果は、無置換体、メチル基置換体及びエチル基置換体に比べて非常に大きい。
【0021】
尚、ピレン骨格に結合する立体障害基としてターシャルブチル基を置換する例はある。ただし、以下の(i)及び(ii)より、イソプロピル基を置換するのが好ましい。
(i)ピレン基との結合の強さを考慮すると、ピレン骨格にイソプロピル基を導入する方が、結合エネルギーがより大きくなるため(ラジカル解離した場合、ターシャルブチルラジカルはイソプロピルラジカルよりも安定であるため)。
(ii)化合物自体の熱安定性が高いため。
【0022】
表1は、ピレン骨格にターシャルブチル基又はイソプロピル基を導入した時の、ピレン骨格とターシャルブチル基又はイソプロピル基との結合エネルギーを計算したものである。
【0023】
【表1】

【0024】
表1より、ピレン骨格において一番立体障害の効果が大きい1位(3位)にイソプロピル基が導入された化合物は、ターシャリーブチル基が2位に導入された化合物よりも結合エネルギーが大きいことを示唆している。尚、表1には示されていないが、1位(3位)にターシャリーブチル基を導入するのは、2位及び10位の水素原子との立体障害が大きく困難である。
【0025】
以上より、本発明のピレン誘導体は分子同士の会合を抑制するので、本発明のピレン誘導体を有機発光素子の、特に、発光層の構成材料として使用すると、より発光効率が高い有機発光素子を提供することができる。
【0026】
また本発明のピレン誘導体は、上述したように、ピレン骨格と置換基(イソプロピル基)との結合エネルギーが大きく化合物自体の熱安定性が非常に高い。このため化合物自体の耐久性が高く有機発光素子の構成材料として有用である。
【0027】
一方、本発明のピレン誘導体は、キャリア移動度が高いピレンを基本骨格として含んでいるため、有機発光素子の発光層の構成材料として使用すると、素子の駆動電圧を低くすることができる。
【0028】
他方、本発明のピレン誘導体は、ピレン骨格に電子供与性の高いイソプロピル基を2つ導入することで、従来のピレン誘導体に比べてHOMO(イオン化ポテンシャル)が低い。ここでイソプロピル基の導入する位置は、下記式[II]中のR3及びR8の位置である。
【0029】
【化3】

【0030】
3及びR8は、ピレン骨格のHOMOに属する電子密度が高い位置であるため、これらの位置にイソプロピル基を導入すると、R2やR7に導入するよりもHOMOを低くする効果は大きくなる。
【0031】
以上のように、本発明のピレン誘導体は、従来のピレン誘導体よりもHOMOが低いので、有機発光素子の、特に、発光層の構成材料として使用すると、駆動電圧をより低くすることができる。
【0032】
また本発明のピレン誘導体は、ピレン骨格の1位(3位)にナフチル基が導入されている。これにより、発光材料として適切なバンドギャップを形成することができる。従って、有機発光素子の、特に、発光層の構成材料として使用すると、駆動電圧をより低くすることができる。本発明のピレン誘導体は、好ましくは、発光層のホストとして使用する。ホストとして使用すると、駆動電圧が低くしたり、ドーパントへのエネルギー移動の効率を高めたり、発光効率を高くしたりすることができる。
【0033】
本発明のピレン誘導体の具体例を以下に示す。ただし本発明は、これらに限定されるものではない。
【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
次に、本発明の有機発光素子を説明する。
【0037】
本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持される有機化合物層と、から構成される。また本発明の有機発光素子は、この有機化合物層に本発明の有機化合物が含まれる。好ましくは、発光層に本発明の有機化合物が含まれる。
【0038】
発光層に本発明の有機化合物が含まれる場合、発光層は本発明の有機化合物のみから構成されていてもよいし、ホストとゲストとから構成されていてもよい。
【0039】
発光層がホストとゲストとから構成される場合、ホストは、発光層の構成材料のうち最も重量比が大きい材料、即ち、主成分となる材料をいうものである。一方、ゲストは、ドーパントとも呼ばれ、発光アシスト材料、電荷注入材料等の材料と共に副成分となる材料として発光層に含まれる材料をいうものである。本発明の有機化合物はホストとして使用されてもよいし、ゲストとして使用されてもよい。好ましくは、本発明の有機化合物はホストとして使用される。本発明の有機化合物をホストとして使用することにより、有機発光素子の駆動電圧を低くしたり、有機発光素子の寿命を長くしたりすることができる。
【0040】
ここで、本発明の有機化合物をゲストとして使用する場合、ホストに対するゲストの濃度は、好ましくは、0.01重量%以上20重量%以下であり、より好ましくは、0.5重量%以上10重量%以下である。
【0041】
本発明の有機発光素子の具体的な構成例を以下に示す。ただし、以下に示す具体例はあくまでもごく基本的な素子構成であり、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/ホール輸送層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(4)陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/ 陰極
【0042】
また上記(1)乃至(5)に示される構成の他、電極と有機化合物層と界面に絶縁性層、接着層又は干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成される等の多様な層構成をとることができる。
【0043】
本発明の有機発光素子においては、本発明の有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の化合物を併用して使用することができる。具体的には、下記に示される化合物を使用することができる。
(a)低分子系及び高分子系のホール注入性化合物・ホール輸送性化合物
(b)発光層のホストとなるホスト化合物
(c)発光性化合物
(d)電子注入性化合物・電子輸送性化合物
【0044】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0045】
ホール注入性化合物・ホール輸送性化合物としては、ホール移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能又は正孔輸送性能を有する低分子系材料・高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
本発明にピレン誘導体を発光層のホストとして使用する場合、対応するゲストとして、トリアリールアミン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えば、ナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、ピレン誘導体、テトラセン誘導体、コロネン誘導体、クリセン誘導体、ペリレン誘導体、9,10−ジフェニルアントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、アクリドン誘導体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、ナイルレッド、ピラジン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、スチルベン誘導体、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体)等が挙げられる。
【0047】
本発明のピレン誘導体を発光層のゲストとして使用する場合、対応するホストとして、下記表2に示されている化合物が挙げられる。また下記表2に示される化合物の誘導体であってもよい。
【0048】
【表2】

【0049】
さらに上記表4に示されている化合物の他に、縮合環化合物(例えば、フルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
電子注入性化合物・電子輸送性化合物としては、ホール注入性化合物・ホール輸送性化合物のホール移動度とのバランス等を考慮しながら適宜選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する化合物としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0051】
陽極の構成材料は、仕事関数がなるべく大きいものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれら金属単体を複数組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし複数種を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0052】
一方、陰極の材料は、仕事関数の小さいものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を複数組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、複数種を併用して使用してもよい。また、陰極は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0053】
本発明の有機発光素子において、本発明の有機化合物が含まれる層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般的には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0054】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0055】
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や、液晶表示装置のバックライト等として使用することができる。
【0056】
本発明に係る有機発光素子を表示装置の部材として使用する場合は、本発明の有機発光素子を表示部に設ける。ここで表示部は、画素が複数設けられて構成されるものであり、この画素には本発明の有機発光素子が搭載されている。また、表示装置には、当該有機発光素子に電気信号を供給する手段を有している。尚、この表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0057】
表示装置は、デジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置の表示部に用いられてもよい。ここで撮像装置とは、表示部と撮像するための撮像光学系を有する撮像部とを有する装置である。
【0058】
次に、本発明に係る有機発光素子を搭載した画像表示装置について説明する。
【0059】
図1は、本発明の有機発光素子を搭載した画像表示装置の例を示す断面概略図である。
【0060】
図1の画像表示装置1は、ガラス等の基板11とその上部にTFT又は有機化合物層を保護するための防湿膜12が設けられている。また符号13はCr等の金属のゲート電極13である。符号14はゲート絶縁膜14であり15は半導体層である。
【0061】
TFT素子18は半導体膜15とドレイン電極16とソース電極17とを有している。TFT素子18の上部には絶縁膜19が設けられている。コンタクトホール(スルーホール)110を介して有機発光素子の陽極111とソース電極17とが接続されている。
【0062】
尚、図1において、有機化合物層112は1つの層として図示してあるが、実際は複数の層からなる積層体である。陰極113上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層114や第二の保護層115が設けられている。
【0063】
有機発光素子はTFT素子から供給される電気信号により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。
【0064】
本発明の有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]例示化合物2−1の合成
以下に示す合成スキームに従い、例示化合物2−1を合成した。
【0067】
【化6】

【0068】
(1)化合物a−1の合成
100mlの三ツ口フラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
塩化亜鉛:5.44g(40.0mmol)
テトラヒドロフラン:50ml
【0069】
次に、反応溶液を氷冷下で攪拌しながら、イソプロピルマグネシウムクロライド(1.0M)40mlをゆっくり滴下した後、以下に示す試薬を加えた。
[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム:0.410g(0.50mmol)
1,6−ジブロモピレン:3.60g(10.0mmol)
【0070】
次に、反応溶液を昇温し、3時間加熱還流させた。反応終了後、水100mlを加え、有機層をトルエンで抽出した。次に、この有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン、ヘプタン混合溶媒)で精製した後、トルエン−ヘプタン混合溶媒で再結晶することにより、化合物a−1を白色結晶として1.2g(収率42%)得た。
【0071】
(2)化合物a−2の合成
100mlの三ツ口フラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物a−1、0.840g(2.94mmol)
ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド:1.26g(3.22mmol)
クロロホルム:60ml
【0072】
次に、反応溶液を室温下で3時間攪拌した。反応終了後、水100mlを加え、有機層をトルエンで抽出した。次に、この有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン、ヘプタン混合溶媒)で精製することにより、化合物a−2を白色結晶として0.986g(収率92%)得た。
【0073】
(3)化合物a−4の合成
50mlの三ツ口フラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物a−2:0.600g(1.65mmol)
[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロニッケル:89mg(0.165mmol)
4,4,5,5,−テトラメチル−1,3,2,−ジオキサボロラン:0.718ml(4.95mmol)
トルエン:5ml
トリエチルアミン:3ml
【0074】
次に、反応溶液を窒素雰囲気下で、90℃に昇温した後、この温度(90℃)で6時間攪拌した。反応後、水100mlを加え、反応終了後、水100mlを加え、有機層をトルエンで抽出した。次に、この有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン、ヘプタン混合溶媒)で精製することにより、化合物a−4を黄白色結晶として148mg(収率38.7%)得た。
【0075】
(4)化合物a−6の合成
200mlの三ツ口フラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
5−ブロモナフトール:2.22g(1.00mmol)
化合物a−5:2.62g(1.10mmol)
トルエン:20ml
エタノール:10ml
【0076】
次に、反応溶液を窒素雰囲気下、室温で攪拌しながら、炭酸ナトリウム10gと水20mlとからなる水溶液を滴下した。次に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.58mgを添加した。次に、反応溶液を77℃に昇温し、この温度(77℃)で5時間攪拌した。反応終了後、有機層をトルエンで抽出した。次に、この有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン、ヘプタン混合溶媒)で精製することにより、化合物a−6を白色結晶として2.41g(収率72%)得た。
【0077】
(5)化合物a−7の合成
200mlの三ツ口フラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物a−6:2.00g(5.95mmol)
無水ピリジン:50ml
【0078】
次に、反応溶液を窒素雰囲気下、氷冷で攪拌しながら、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf2O)1.13ml(8.93mmol)をゆっくり滴下した。次に、反応溶液を氷冷下で1時間攪拌した後、反応溶液を室温まで昇温し、この温度(室温)で2時間攪拌した。反応後、反応溶液に水50ml加え、有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物a−7を白色結晶として2.37g(収率85%)得た。
【0079】
(6)例示化合物2−1の合成
100ml三ツ口フラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物a−4:0.454g(1.10mmol)
化合物a−7:0.468g(1.0mmol)
炭酸ナトリウム:1.06g(10.0mmol)
トルエン:30ml
エタノール:10ml
水:20ml
【0080】
次に、反応溶液を窒素雰囲気下、室温で攪拌しながら、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、57.8mgを添加した。次に、反応溶液を80℃に昇温し、この温度(80℃)で5時間攪拌した。反応終了後、有機層をトルエンで抽出した。次に、この有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン、ヘプタン混合溶媒)で精製することにより、例示化合物2−1を黄白色結晶として0.380g(収率63%)得た。
【0081】
質量分析法により、例示化合物2−1のM+である603を確認した。また、1H−NMR測定により、例示化合物2−1の構造を確認した。
【0082】
1H−NMR(CDCl3,400MHz) σ(ppm):8.38(d,1H),8.29−8.21(m,3H),8.17(d,1H),8.13−8.04(m,5H),8.00(d,1H),7.93−7.91(dd,1H),7.88−7.77(m,5H),7.50−7.48(dd,1H),7.40−7.33(m,2H),4.19−4.12(q,1H),4.09−4.02(q,1H),1.61(s,6H),1.60(d,6H),1.52(d,6H)
【0083】
また、例示化合物2−1をガラス基板上に成膜した薄膜からイオン化ポテンシャル及びバンドギャップを測定した。その結果、イオン化ポテンシャルは5.72eV、バンドギャップは2.95eVであった。尚、バンドギャップの測定は、測定試料はガラス基板上に成膜した薄膜の可視光−紫外吸収スペクトルの吸収端から求めた。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。またイオン化ポテンシャルは、大気下光電子分光法(測定器名:AC−2、理研機器製)を用いて測定した。測定試料はガラス基板上に成膜した薄膜から求めた。
【0084】
本実施例の(4)において、化合物a−5に変えて、下記表3に示されるボロン酸誘導体又はピナコールボラン誘導体を使用する以外は、本実施例と同様の方法で合成を行う。これにより下記表3に示される例示化合物1−4、2−1、3−3、4−1及び4−2をそれぞれ合成することができる。
【0085】
【表3】

【0086】
また本実施例の(4)において、5−ブロモナフトールを4−ブロモナフトールに変え、化合物a−5を下記表4に示されるボロン酸誘導体又はピナコールボラン誘導体に変える。これらを除いては本実施例と同様の方法で合成を行うことにより、下記表4に示される例示化合物2−4、3−6及び5−2をそれぞれ合成することができる。
【0087】
【表4】

【0088】
[比較例1]
実施例1で合成された例示化合物2−1に類似する比較化合物1を用意した。この比較化合物1について実施例1と同様の方法によりイオン化ポテンシャル及びバンドギャップを測定した。イオン化ポテンシャルは5.79eV、バンドギャップは2.94eVであった。
【0089】
【化7】

【0090】
[実施例2]
基板上に、陽極と、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層と、陰極とがこの順に設けられている有機発光素子を以下に示す方法により作製した。
【0091】
ガラス基板上に、スパッタ法により、酸化錫インジウム(ITO)を成膜し陽極を形成した。このとき陽極の膜厚を120nmとした。次に、この陽極付き基板をアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄した後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。以上のようにして処理した基板を透明導電性支持基板として使用した。
【0092】
次に、陽極上に、下記に示される化合物b−1とクロロホルムとからなる溶液(濃度:0.1重量%)を滴下し、スピンコート法により成膜して正孔輸送層を形成した。このとき正孔輸送層の膜厚は20nmであった。
【0093】
【化8】

【0094】
次に、圧力雰囲気10-5Paの真空チャンバー内において、抵抗加熱による真空蒸着法を用いて、正孔輸送層上に、下記表3に示される有機化合物層及び電極層を連続成膜した。
【0095】
【表5】

【0096】
尚、表5に示される化合物b−2及びb−3の構造式を以下に示す。
【0097】
【化9】

【0098】
以上により有機発光素子を得た。得られた有機発光素子について、6.0Vの電圧を印加すると素子が発光した。またこの印加電圧において発光効率4.4cd/Aの良好な青色発光が観測された。
【0099】
さらに、窒素雰囲気下で電流密度を33mA/cm2に保ちながら、電圧を100時間連続して印加したところ、初期輝度に対する100時間後の輝度劣化率は小さかった。
【符号の説明】
【0100】
1:画像表示装置、11:基板、12:防湿膜、13:ゲート電極、14:ゲート絶縁膜、15:半導体層、16ドレイン電極、17:ソース電極、18:TFT素子、19:絶縁膜19、110:コンタクトホール(スルーホール)、111:陽極、112:有機化合物層、113:陰極、114:第一の保護層、115:第二の保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で示されることを特徴とするピレン誘導体。
【化1】

(式[I]において、Arは、置換あるいは無置換のアリール基を表す。)
【請求項2】
前記Arが、置換あるいは無置換のフルオレニル基又は置換あるいは無置換のピレニル基であることを特徴とする請求項1に記載のピレン誘導体。
【請求項3】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持される有機化合物層と、から構成され、
該有機化合物層に請求項1又は2に記載のピレン誘導体が含まれることを特徴とする、有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物が発光層に含まれることを特徴とする、請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の有機発光素子を搭載した画素が複数設けられており、
さらに該有機発光素子に電気信号を供給する手段を有することを特徴とする、画像表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−37743(P2011−37743A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185555(P2009−185555)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】