説明

ピロリン酸の定量方法

【課題】被検液中に存在するATP等の影響を受けず、ピロリン酸のみを検出・定量する方法を提供すること
【解決手段】妨害物質であるATP等を含む試料に、キナーゼ及び補酵素としてNAD又はNADPを要求する脱水素酵素を作用させ、生成するNADH又はNADPHに非発色性電子受容体の存在下、電子伝達体を作用させて消去し、ついでピロリン酸からATPを生成する酵素を用いてATPを生成させ、同様にして生成するNADH又はNADPHにテトラゾリウム塩の存在下、電子伝達体を作用させ、生成するホルマザン色素を測定するピロリン酸の第一の測定方法、及び第一の方法と同様にして生成するNADH又はNADPHから、電子伝達体を経由して、生成する電子を酸素に受容させることにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を消去し、ついでピロリン酸からATPを生成させ、同様に過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を測定する第二の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体成分として存在するピロリン酸の測定方法及び各種核酸増幅法による核酸の検知・定量方法の分野において、核酸を増幅したときに生成するピロリン酸を定量することにより核酸を検知・定量する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節液中のピロリン酸はピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶沈着性関節炎の指標として有用である。この関節炎はCPPD結晶により惹起され、軟骨の石灰化を伴う結晶性滑膜炎である。現在の検査法は偏光顕微鏡を用いたCPPD結晶の確認により、確定診断とされる。この方法は操作が煩雑で、連続分析への適用が困難であり、新規測定法が望まれている。
また、ピロリン酸の測定は、各種核酸増幅法による核酸の検知・定量に有用である。すなわち、Polymerase chain reaction(PCR法)、Nucleic Acid Sequence Based Amplification(NASBA法)、loop-mediated isothermal amplification法(LAMP法)、Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids法(ICAN法)、Transcription Mediated Amplification(TMA法)、Transcription Reverse transcription Concerted amplification(TRC法)等の核酸増幅法では核酸合成の副産物としてピロリン酸が放出される。従って、ピロリン酸の生成量を測定すれば、核酸の増幅を検出することができる。
【0003】
従来、核酸を測定する場合、ラジオアイソトープ、ビオチン、酵素等で標識された核酸を用いて測定対象となる核酸と結合させ、結合物と未結合物とを分離した後、その標識体から信号を検出する方法が一般的である。例えば、増幅産物をポリアクリルアミド電気泳動したのち、ゲルをエチジウムブロマイドで染色して検出する方法や、放射性同位元素により標識された標的核酸と相補的な塩基配列を有するプローブを用い、これと標的核酸とをハイブリダイゼーションさせ、反応産物中の放射活性を検出する方法等がある。また非放射性標識プローブを用いた方法として、5’末端にビオチンを標識し、測定対象となる核酸とハイブリダイゼーションさせた後、予め酵素標識されたアビジンと結合させて酵素活性を測定する方法がある。しかしながら、これらの手法では未反応の標識体と反応産物とを分離する操作が煩雑であり、多検体の処理には不向きであるし、放射性同位元素を用いる手法では特別な施設を必要とし、放射線にさらされる危険性から汎用性には乏しい。
一方、核酸を測定するためのピロリン酸の測定方法としては、ピロリン酸に無機ピロフォスファターゼを作用させ、生成したリン酸を検出する方法がある(特許文献1)。しかしながら、この手法では増幅産物や試薬成分中に混在するリン酸がバックグラウンドとして検出される。
【0004】
また、ピロリン酸にATPスルフリラーゼを作用させた後、ルシフェラーゼを利用して、生成するATPを発光系に導き検出する方法がある(特許文献2、非特許文献1)。しかしながら、この手法ではDNAポリメラーゼの基質として予め増幅産物に共存するデオキシアデノシン3リン酸(dATP)がバックグラウンドとして検出される。また、RNAを増幅するNASBA法等の場合、RNAポリメラーゼの基質として予め増幅産物に共存するATPがバックグラウンドとして検出される。
【特許文献1】特開平7−59600号
【特許文献2】WO 92/16654
【非特許文献1】J. Immunol. Methods 156, 55 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、被検液中に存在するアデノシン3リン酸(ATP)、デオキシアデノシン3リン酸(dATP)及びそれらの類似体の影響を受けず、ピロリン酸のみを検出・定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ピロリン酸をニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート還元型(NADPH)に変換して定量する方法において、ATPやdATPの影響を回避して、ピロリン酸のみ測定する方法を新たに見出した。
本発明は二つの方法に大別される。
【0007】
第一の方法は次の二つの工程よりなる。
妨害物質であるATP、dATP及び/又はそれらの類似体を消去するためにキナーゼ及び補酵素としてNAD又はNADPを要求する脱水素酵素を用い、NADH又はNADPHを生成させ、該NADH又はNADPHに非発色性電子受容体の存在下、電子伝達体を作用させ、NAD又はNADPに変換する第一工程、
ついで、ピロリン酸からATPを生成する酵素を用いてATPを生成させ、該ATPにキナーゼ及び脱水素酵素を用い、NADH又はNADPHを生成させ、該NADH又はNADPHにテトラゾリウム塩の存在下、電子伝達体を作用させ、生成するホルマザン色素を測定する第二工程。
【0008】
第二の方法は次の二つの工程よりなる。
妨害物質であるATP、dATP及び/又はそれらの類似体を消去するためにキナーゼ及び補酵素としてNAD又はNADPを要求する脱水素酵素を用い、NADH又はNADPHを生成させ、該NADH又はNADPHから電子伝達体を経由して生成する電子を酸素に受容させることにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を消去する第一工程、
ついで、ピロリン酸からATPを生成する酵素を用いてATPを生成させ、該ATPにキナーゼ及び脱水素酵素を用い、NADH又はNADPHを生成させ、該NADH又はNADPHから電子伝達体を経由して生成する電子を酸素に受容させることにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を測定する第二工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、ピロリン酸を定量する方法において、被検液中に存在するATP及びdATPの影響を全く受けず、ピロリン酸のみを測定でき、測定値の正確さ及び信頼性を一層高めることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の二つの方法を詳細に説明する。
尚、NADH又はNADPHは公知の方法用いてホルマザン色素や過酸化水素に変換し、測定することができる(特開昭58−165054号、特開昭59−210899号、特開昭60−83598号)
本発明における第一の方法は二つの工程から成る。第一の工程はATP及びdATPの消去系となる反応で、ATP、dATP及びそれらの類似体はキナーゼ、例えばヘキソキナーゼ(HK)の作用により、グルコ−スからグルコ−ス6リン酸(G6P)を生成する。生成したG6Pは、NAD又はNADPを補酵素として要求する脱水素酵素、例えばグルコ−ス6リン酸脱水素酵素(G6PDH)の作用によりNADH又はNADPHを生成する。生成したNADH又はNADPHは、酸化触媒である電子伝達体、例えば1−メトキシフェナジンメト硫酸塩(1−mPMS)の存在下、非発色性電子受容体、例えば酸素により酸化され、NAD又はNADPに戻る。該反応は以下の反応式で示される。
【0011】
【化1】

(式中、PPiはピロリン酸、ADPはアデノシン2リン酸、6-PGは6−ホスホグルコノラクトン、1-mPMSH2は1-mPMSの還元型を意味する)
【0012】
第二の工程はピロリン酸をホルマザン色素に変換して測定する系で、ピロリン酸からATPを生成する酵素、例えばATPスルフリラーゼを用いてATPを生成させる。生成したATPは前述の第一の工程と同一の方法によりNADH又はNADPHに変換される。生成したNADH又はNADPHは、電子伝達体、例えば1−mPMSの存在下、NAD又はNADPに酸化される。一方、発色性電子受容体であるテトラゾリウム塩はホルマザン色素に還元され、分光学的に定量することができる。なお発色性電子受容体であるテトラゾリウム塩の反応は非発色性電子受容体である酸素の反応よりも優先するため、ピロリン酸は定量的にホルマザン色素に変換される。また第一工程のHK、G6PDH及び1−mPMS等は、第二工程で改めて添加する必要はない。該反応は以下の反応式で示される。
【0013】
【化2】

【0014】
第一工程で使用される非発色性電子受容体は、通常溶存酸素が好適であるが、溶液中濃度が有限であるため、消去できるATP及びdATPの量が制限される。そのためフェリシアン化カリウム、パラベンゾキノン、フェロセン等の有機化合物を組み合わせれば、より多くのATP及びdATPを消去することができる。
また、溶存酸素から生成した過酸化水素にカタラーゼ(EC 1.11.1.6)を作用させた場合、過酸化水素から酸素に戻るため、より多くのATP及びdATPを消去することができるので、カタラーゼを添加してもよい。
【0015】
本発明の第一の方法に使用されるテトラゾリウム塩は特に制限されるものではなく、例えば2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウム塩[INT]、3−(4,5−ジメチルチアゾリル−2)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム塩[MTT]、2,2′,5,5′−テトラキス(4−ニトロフェニル)−3,3′−(3,3′−ジメトキシ−4,4′−ジフェニレン)−2H,2′H−ジテトラゾリウム塩[NTB]、2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム モノナトリウム塩[WST−1]、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム モノナトリウム塩[WST−8]等を挙げることができる。
本発明の第一の方法に使用される各酵素、テトラゾリウム塩及び電子伝達体の添加量は、特に制限されるものではなく、例えば、各酵素の量は0.1〜100u/mL、テトラゾリウム塩の量は0.01〜10mM、電子伝達体として、例えば1−mPMSを用いた場合の量は0.001〜1mMの範囲が好適である。
【0016】
本発明における第二の方法は二つの工程から成る。第一の工程はATP、dATP及びそれらの類似体の消去系となる反応で、ATP及びdATPはキナーゼ、例えばHKの作用により、グルコ−スからG6Pを生成する。生成したG6Pは、NAD又はNADPを補酵素として要求する脱水素酵素、例えばG6PDHの作用によりNADH又はNADPHを生成する。生成したNADH又はNADPHは電子伝達体を経由して、電子を酸素に受容させることにより過酸化水素を生成させる。生成した過酸化水素はカタラーゼを用いて消去することができる。該反応は以下の反応式で示される。
【0017】
【化3】

【0018】
第二の工程はピロリン酸を過酸化水素に変換して測定する系で、ピロリン酸からATPを生成する酵素、例えばATPスルフリラーゼを用いてATPを生成させる。生成したATPは前述の第一の工程と同一の方法により過酸化水素に変換される。生成した過酸化水素はカタラーゼ阻害剤であるアジ化ナトリウム等を添加すれば、第一工程で添加したカタラーゼの反応を止めることができ、ピロリン酸を定量的に過酸化水素に変換できる。生成した過酸化水素は例えば、ペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.7)と水素供与体と発色カプラーとを作用させ、生成した発色物を分光学的に定量することができる。なお第一工程のHK、G6PDH及び1−mPMS等は、第二工程で改めて添加する必要はない。該反応は以下の反応式で示される。
【0019】
【化4】

【0020】
水素供与体としては、特に制限されるものではなく、例えば、フェノール又はトリンダー試薬を挙げることができる。トリンダー試薬には、N−スルホプロピルアニリン誘導体若しくはN−ヒドロキシスルホプロピルアニリン誘導体、又はそれらのナトリウム塩が含まれ、例えば、N−エチル−N−スルホプロピル−m−アニシジン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3、5−ジメトキシアニリン(DAPS)、N−スルホプロピル−3、5−ジメトキシアニリン(HDAPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3、5−ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−トルイジン(ESPT)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−アニシジン(ADOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン(ALOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3、5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3、5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドキロキシ−3−スルホプロピル)−3、5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドキロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、N,N−ビス(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン(TODB)、又はN−スルホプロピルアニリン(HALPS)等を挙げることができる。
【0021】
発色カプラーとしては、特に制限されるものではなく、例えば、4−アミノアンチピリン(4−AAP)等を挙げることができる。
本発明において前述二つの方法に使用されるピロリン酸からATPを生成する酵素は特に制限されるものではなく、上述のATPスルフリラーゼ(EC 2.7.7.4)以外にピルビン酸オルトホスフェートジキナーゼ(PPDK)(EC 2.7.9.1)及びフェニルアラニンラセマーゼ(EC 5.1.1.11)等を挙げることができる。該反応は以下の反応式で示される。
【0022】
【化5】

(式中、PEPはホスホエノールピルビン酸、AMPはアデノシン1リン酸を意味する)
【0023】
【化6】

【0024】
該反応に使用されるアデニリル硫酸の添加量は、特に制限されるものではないが、0.01〜10mMの範囲が好適である。該反応に使用されるATPを生成させる酵素にPPDKを用いる場合に使用されるPEPの添加量、または、該反応に使用されるATPを生成させる酵素にフェニルアラニンラセマーゼを用いる場合に使用されるD−フェニルアラニンの添加量は、特に制限されるものではないが、PEPの量は0.1〜100mM、D−フェニルアラニンの量は0.1〜100mMの範囲が好適である。
本発明において前述二つの方法に使用されるキナーゼと脱水素酵素は、キナーゼから生成する誘導物質が脱水素酵素の基質となる組み合わせであれば、特に制限されるものではなく、上述のHK(EC 2.7.1.1)とG6PDH(EC 1.1.1.49)の組み合わせ以外にグリセロールキナーゼ(EC 2.7.1.30)とグリセロール3リン酸脱水素酵素(EC 1.1.1.8、EC 1.1.1.94)の組み合わせ等を挙げることができる。該反応は以下の反応式で示される。
【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

(式中、G3PDHはグリセロール3リン酸脱水素酵素を意味する)
【0027】
本発明において前述二つの方法に使用されるHKは、同一の反応を触媒するグルコキナーゼ(EC 2.7.1.2)も使用することができる。
本発明において前述二つの方法に使用される脱水素酵素は、補酵素としてNAD又はNADPを必要とする酵素であれば特に制限されるものではなく、その起源も限定されない。
本発明において前述二つの方法に使用される電子伝達体は、特に制限されるものではなく、非タンパク性の電子転移剤として、例えばフェナジンメト硫酸塩(PMS)、1−メトキシフェナジンメト硫酸塩(1−mPMS)、フェナジンエト硫酸塩(PES)、又はメルドラブルー等を挙げることができる。またタンパク性の電子伝達体としてジアフォラーゼ等の酵素を挙げることができる。ジアフォラーゼとして、例えばBacillus megaterium、Bacillus stearothermophilus、Clostridium kluyveri等の微生物由来のものを挙げることができる。
本発明の測定方法が適用される試料は、特に制限されるものではなく、例えば血液、血清、血漿、髄液、関節液、尿等の生体試料、又はこれらの生体試料から調製された試料等が好適に使用される。
測定条件は、第一工程、第二工程とも測定試料と各試薬を混合し、10〜45℃で1〜60分間反応させた後、吸光度を測定する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
実施例1
〔ピロリン酸ならびにATPの測定〕
ピロリン酸をホルマザン色素に変換して測定する系として、HK、G6PDH、1−mPMSを含有する試薬1及びATPスルフリラーゼ、WST−8を含有する試薬2を以下に示すとおり調製した。

試薬1 HEPES緩衝液(pH7.5) 100mM
グルコース 10mM
塩化マグネシウム 5mM
NADP 2mM
HK 1u/mL
G6PDH 5u/mL
1−mPMS 0.05mM

試薬2 HEPES緩衝液(pH7.5) 100mM
アデニリル硫酸 0.5mM
ATPスルフリラーゼ 1u/mL
WST−8 0.5mM

注)HEPES:ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸
NADP:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート
HK:ヘキソキナーゼ
G6PDH:グルコ−ス6リン酸脱水素酵素
1−mPMS:1−メトキシフェナジンメト硫酸塩
WST−8:2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩
【0029】
下記の手順でピロリン酸ならびにATPをH7170型自動分析装置(株式会社日立製作所製)にて測定した。すなわち、試料としてピロリン酸ならびにATPの濃度を各0.2mM、0.4mM、0.6mM、0.8mM、1.0mMとなるよう調製した水溶液を用い、試料30μLに試薬1 180μLを加え、その後これを37℃にて5分間加温し、次いで、試薬2 180μLを混合し、さらに37℃にて5分間加温した後、水をブランクとして波長450nmにおける吸光度をエンド法に基づき、上記の自動分析装置にて測定した。その結果を図1にまとめて示す。同図より、ATPとは全く反応せず、ピロリン酸を定量的に測定できることが示された。本発明の方法がATPの影響を受けず、ピロリン酸を定量できることがわかる。
【0030】
実施例2
〔ピロリン酸ならびにATPの測定〕
ピロリン酸を過酸化水素に変換して測定する系として、HK、G6PDH、1−mPMS、4−AAPを含有する試薬1及びATPスルフリラーゼ、TOOS、PODを含有する試薬2を以下に示すとおり調製した。

試薬1 HEPES緩衝液(pH7.5) 100mM
グルコース 10mM
塩化マグネシウム 5mM
NADP 2mM
HK 1u/mL
G6PDH 5u/mL
1−mPMS 0.01mM
4−AAP 3mM
カタラーゼ 100u/mL
試薬2 HEPES緩衝液(pH7.5) 100mM
アデニリル硫酸 0.5mM
ATPスルフリラーゼ 1u/mL
TOOS 3mM
POD 10u/mL

注)HEPES:ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸
NADP:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート
HK:ヘキソキナーゼ
G6PDH:グルコ−ス6リン酸脱水素酵素
1−mPMS:1−メトキシフェナジンメト硫酸塩
4−AAP:4−アミノアンチピリン
TOOS:N−エチル−N−(2−ヒドキロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン
POD:ペルオキシダーゼ
【0031】
下記の手順でピロリン酸ならびにATPをH7170型自動分析装置(株式会社日立製作所製)にて測定した。すなわち、試料としてピロリン酸ならびにATPの濃度を各0.2mM、0.4mM、0.6mM、0.8mM、1.0mMとなるよう調製した水溶液を用い、試料5μLに試薬1 180μLを加え、その後これを37℃にて5分間加温し、次いで、試薬2 180μLを混合し、さらに37℃にて5分間加温した後、水をブランクとして波長546nmにおける吸光度をエンド法に基づき、上記の自動分析装置にて測定した。その結果を図2にまとめて示す。同図より、ATPとは全く反応せず、ピロリン酸を定量的に測定できることが示された。本発明の方法がATPの影響を受けず、ピロリン酸を定量できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明における測定方法及び測定試薬は、特に臨床検査の分野における測定値の正確さ及び信頼性の向上に寄与することができるという利益を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で調製した試薬を用いて、ピロリン酸ならびにATPを波長450nmで測定したときの吸光度値を示したグラフで、白抜きの○印は、試料としてピロリン酸を用いた場合を表し、黒塗りの●印は、試料としてATPを用いた場合を表す。
【図2】実施例2で調製した試薬を用いて、ピロリン酸ならびにATPを波長546nmで測定したときの吸光度値を示したグラフで、白抜きの○印は、試料としてピロリン酸を用いた場合を表し、黒塗りの●印は、試料としてATPを用いた場合を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の二つの工程よりなるピロリン酸の測定方法、
妨害物質であるアデノシン3リン酸(ATP)、デオキシアデノシン3リン酸(dATP)及び/又はそれらの類似体を消去するためにキナーゼ及び補酵素としてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP)を要求する脱水素酵素を用い、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート還元型(NADPH)を生成させ、該NADH又はNADPHに非発色性電子受容体の存在下、電子伝達体を作用させ、NAD又はNADPに変換する第一工程、
ついで、ピロリン酸からATPを生成する酵素を用いてATPを生成させ、該ATPにキナーゼ及び脱水素酵素を用い、NADH又はNADPHを生成させ、該NADH又はNADPHにテトラゾリウム塩の存在下、電子伝達体を作用させ、生成するホルマザン色素を測定する第二工程。
【請求項2】
次の二つの工程よりなるピロリン酸の測定方法、
妨害物質であるATP、dATP及び/又はそれらの類似体を消去するためにキナーゼ及び補酵素としてNAD又はNADPを要求する脱水素酵素を用い、NADH又はNADPHを生成させ、該NADH又はNADPHから電子伝達体を経由して、生成する電子を酸素に受容させることにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を消去する第一工程、
ついで、ピロリン酸からATPを生成する酵素を用いてATPを生成させ、該ATPにキナーゼ及び脱水素酵素を用い、NADH又はNADPHを生成させ、該NADH又はNADPHから電子伝達体を経由して生成する電子を酸素に受容させることにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を測定する第二工程。
【請求項3】
前記キナーゼがヘキソキナーゼ(HK)又はグリセロールキナーゼ(GK)であることを特徴とする請求項1又は2の測定方法。
【請求項4】
前記NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素がグルコ−ス6リン酸脱水素酵素(G6PDH)又はグリセロール3リン酸脱水素酵素であることを特徴とする請求項1又は2の測定方法。
【請求項5】
前記電子伝達体がフェナジンメト硫酸塩(PMS)、1−メトキシフェナジンメト硫酸塩(1−mPMS)、フェナジンエト硫酸塩(PES)、9−ジメチルアミノベンゾ―α―フェナゾキソニウムクロライド(メルドラブルー)又はジアフォラーゼであることを特徴とする請求項1又は2の測定方法。
【請求項6】
前記ピロリン酸からATPを生成する酵素がATPスルフリラーゼ、ピルビン酸オルトホスフェートジキナーゼ(PPDK)又はフェニルアラニンラセマーゼであることを特徴とする請求項1又は2の測定方法。
【請求項7】
ピロリン酸の生成量を指標とする核酸の検知・定量方法であって、核酸増幅後の被検液に含有されるピロリン酸を請求項1又は2の方法により測定することを特徴とする検知・定量方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−187251(P2006−187251A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2133(P2005−2133)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(391031074)株式会社カイノス (5)
【Fターム(参考)】