説明

ピロリン酸の測定方法

【課題】試料中のピロリン酸を測定する新規で有用な方法を提供することにある。
【解決手段】ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ、ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、及び脱水素酵素を使用して、試料中のピロリン酸を測定する新規で有用な方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピロリン酸を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロリン酸を酵素的に測定する従来技術としては、(i)ピルビン酸リン酸ジキナーゼ、及びルシフェラーゼを使用する方法(特許文献1)、(ii)ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ、及びキサンチンデヒドロゲナーゼ/オキシダーゼを使用する方法(特許文献2)、又は(iii)キナーゼ、ピロリン酸からATPを生成する酵素、及びNAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素を使用する方法(特許文献3)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−097471号公報
【0004】
【特許文献2】特開2003−174900号公報
【0005】
【特許文献3】特開2006−187251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試料中のピロリン酸を測定する新規で有用な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ、ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、及び脱水素酵素を使用して試料中のピロリン酸を測定する新規な方法を見出した。次に、NADサイクリング反応を利用して、該方法を、高感度且つ簡便な方法となすことに成功した。更に、トリ燐酸化デオキシリボ核酸類(以下、dNTPsということがある)に比べてATPに対して選択的に反応するニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼを発見し、該酵素を用いることで試料中や上記第一から第四の反応を含む工程から選ばれる一つ又は二つ以上の工程中にdNTPsやリン酸等が存在している場合においても、試料中のピロリン酸を選択的に測定できる方法を確立して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
下記(1)から(4)の各工程を含むピロリン酸の選択的な測定方法。
(1)試料中に含まれている可能性のあるピロリン酸を、少なくともAMPの存在下、ピルベートオルトホスフェートジキナーゼに接触させ、ATPを生成する第一の反応を含む工程;
(2)上記第一の反応により生ずるATPをニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼに接触させ、ピロリン酸とNAD類を生成する第二の反応を含む工程;
(3)上記第二の反応により生ずるNAD類をNADH類に還元する第三の反応を含む工程;
(4)上記第三の反応により生ずるNADH類を検出する工程;
[1−1]
第三の反応により生ずるNADH類を検出する工程が、以下の工程を含む[1]に記載の測定方法。(5)ニトロブルーテトラゾリウム塩類の存在下、上記第三の工程により生ずるNADH類を還元型ニトロブルーテトラゾリウム塩とNAD類とする第四の反応を含む工程;
(6)上記第四の反応により生ずる還元型ニトロブルーテトラゾリウム塩類を検出する工程;
[1−2]
第四の反応により生ずるNAD類を、第三の反応に用い、第三の反応と第四の反応の間でサイクリング反応をさせる上記[1−1]に記載の測定方法。
[1−3]
第二の反応により生ずるピロリン酸を、第一の反応に用い、第一の反応と第二の反応の間でサイクリング反応をさせる上記[1]から[1−2]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−4]
第一の反応が、更に金属イオンを含む反応である上記[1]から[1−3]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−5]
金属イオンが、マグネシウムイオン、コバルトイオン、及びニッケルイオンからなる群から選ばれる1種、又は2種以上である上記[1−4]に記載の測定方法。
[1−6]
第一の反応が、更にホスホエノールピルビン酸(本明細書ではPEPと記載する場合がある)を含む反応である上記[1]から[1−5]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−7]
第二の反応が、更に金属イオンを含む反応である上記[1]から[1−6]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−8]
第二の反応に含まれる金属イオンが、マグネシウムイオン、コバルトイオン、及びニッケルイオンからなる群から選ばれる1種、又は2種以上である上記[1−7]に記載の測定方法。
[1−9]
第二の反応が、更にβ−ニコチンアミドモノヌクレオチド類(本明細書ではNMN類と記載する場合がある)を含む反応である上記[1]から[1−8]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−10]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、
〔1〕配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、第一の反応を触媒し得る酵素、
〔2〕配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号4のアミノ酸配列及び配列表配列番号5のアミノ酸配列を含む、第一の反応を触媒し得る酵素、又は、〔3〕下記の《1》から《5》の理化学的性質を有する第一の反応を触媒し得る酵素、
のいずれかの酵素である上記[1]から[1−9]のいずれか1つに記載の測定方法。
《1》至適pH
pH7から7.5の間に存在する;
《2》pH安定性
50℃、20分間でpH4.5から11の範囲で80%以上の活性を保持する;
《3》熱安定性
80℃、1時間の熱処理で90%以上の活性を保持し、且つ、4℃で少なくとも27日間保存後も70%以上の活性を保持する;
《4》補酵素特異性
マグネシウムイオン存在下で、PEP及びピロリン酸を基質とした場合、アデノシン5’一リン酸(本明細書ではAMPと記載する場合がある)に対して特異的に補酵素として作用し、アデノシン5’二リン酸、イノシン5’一リン酸、シチジン5’一リン酸、グアノシン5’一リン酸、チミジン5’一リン酸又はウリジン5’一リン酸(本明細書では、順に、ADP、IMP、CMP、GMP、TMP、UMPと記載する場合がある)に作用しない;
《5》基質特異性
ピロリン酸を特異的に基質にする;
[1−11]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、第一の反応を触媒し得る酵素である上記[1]から[1−10]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−12]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号4のアミノ酸配列及び配列表配列番号5のアミノ酸配列を含む、第一の反応を触媒し得る酵素である上記[1]から[1−11]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−13]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、下記の《1》から《5》の理化学的性質を有する第一の反応を触媒し得る酵素である上記[1]から[1−12]のいずれか1つに記載の測定方法。
《1》至適pH
pH7から7.5の間に存在する;
《2》pH安定性
50℃、20分間でpH4.5から11の範囲で80%以上の活性を保持する;
《3》熱安定性
80℃、1時間の熱処理で90%以上の活性を保持し、且つ、4℃で少なくとも27日間保存後も70%以上の活性を保持する;
《4》補酵素特異性
マグネシウムイオン存在下で、PEP及びピロリン酸を基質とした場合、AMPに対して特異的に補酵素として作用し、ADP、IMP、CMP、GMP、TMP、又はUMPに作用しない;
《5》基質特異性
ピロリン酸を特異的に基質にする;
[1−14]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、更に以下の《6》又は《7》のいずれかの理化学的性質を有する上記[1]から[1−13]のいずれか1つに記載の測定方法。
《6》冷凍安定性
−20℃で2週間保存後、90%以上の活性を保持する;
《7》冷蔵安定性
4℃で27日間保存後、80%以上の活性を保持する;
[1−15]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、Thermotoga属由来である上記[1]から[1−14]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−16]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、Thermotoga maritima由来である上記[1]から[1−15]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−17]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、Thermotoga maritim a DSM 3109株由来である上記[1]から[1−16]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−18]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼをコードする塩基配列が、配列表配列番号2又は配列表配列番号3で表される塩基配列である上記[1]から[1−11]、又は[1−13]から[1−17]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−19]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、
〔1〕配列表配列番号6のアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素、
〔2〕配列表配列番号6のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素、
のいずれかの酵素である上記[1]から[1−18]のいずれか1つに記載の測定方法。[1−20]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、配列表配列番号6のアミノ酸配列において、下記の<a>から<e>に記載のいずれか一つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素である上記[1]から[1−19]のいずれか1つに記載の測定方法。
<a>V132I(配列表配列番号6の132番目のVがIに置換したことを示す。以下同様。)
<b>D269V
<c>N64Y
<d>A65S
<e>A103S
[1−21]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼをコードする塩基配列が、配列表配列番号7で表される塩基配列である上記[1]から[1−20]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−22]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、真核生物由来である上記[1]から[1−21]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−23]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、酵母由来である上記[1]から[1−22]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−24]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、Saccharomyces属由来である上記[1]から[1−23]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−25]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、Saccharomyces cerevisiae由来である上記[1]から[1−24]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−26]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、dNTPsとATPに対する基質特異性の比率(dNTPsに対する基質特異性/ATPに対する基質特異性)が5%以下である上記[1]から[1−25]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−27]
第三の反応が、NAD類をNADH類に還元し得る酵素により触媒される反応である上記[1]から[1−26]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−28]
第三の反応が、12α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼにより触媒される反応である上記[1]から[1−27]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−29]
第四の反応におけるNADH還元物質が、ジアホラーゼ(diaphorase、本明細書では、DIと記載する場合がある)である上記[1]から[1−28]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−30]
試料が、dNTPsを含有する試料である、上記[1]から[1−29]のいずれか1つに記載の測定方法。
[1−31]
上記第一から第四の反応を含む工程から選ばれる一つ又は二つ以上の工程が、dNTPsを含有する工程である、上記[1]から[1−29]のいずれか1つに記載の測定方法。[1−32]
dNTPsが、dATP、dGTP、dCTP、及びdTTPからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、上記[1−30]または[1−31]に記載の測定方法。
[1−33]
dNTPsが、少なくともdATP、dGTP、dCTP、dTTPの混合物である、上記[1−30]または[1−31]に記載の測定方法。
[1−34]
dNTPsが、それぞれ0.4mM以下である上記[1−30]から[1−33]のいずれか1つに記載の測定方法。
[2]
上記[1]から[1−34]のいずれかに記載の方法を用いて、核酸増幅された試料又は該試料から調製された試料中に存在するピロリン酸を測定する核酸の検出又は定量方法。[2−1]
上記[1]から[1−34]のいずれかに記載の方法を用いて、核酸増幅された試料又は該試料から調製された試料中に存在するピロリン酸を測定し、核酸増幅前の試料におけるピロリン酸の値をブランク値として引くことを特徴とする核酸の検出又は定量方法。
[2−2]
上記[1]から[2−1]のいずれかに記載の方法を用いて、核酸増幅法による生成物であるピロリン酸を測定するピロリン酸の生成量を指標とする核酸の検出又は定量方法。
[2−3]
上記[1]から[2−2]のいずれかに記載の方法を用いて、核酸増幅法による生成物であるピロリン酸を測定し、核酸増幅前の試料におけるピロリン酸の値をブランク値として引くことを特徴とするピロリン酸の生成量を指標とする核酸の検出又は定量方法。
[3]
少なくとも以下の(1)から(7)を含む組成物。
(1)金属イオン
(2)AMP
(3)PEP
(4)ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ
(5)NMN類
(6)ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ
(7)NAD還元物質
[3−1]
更に以下の(8)と(9)を含む上記[3]に記載の組成物。
(8)NADH酸化物質
(9)ニトロブルーテトラゾリウム塩類(本明細書ではNTB類と記載する場合がある)
[3−2]
下記の(A)と(B)の2種の試薬を含む組成物。
(A)少なくとも以下の(1)から(4)を含む第1の試薬。
(1)金属イオン
(2)AMP
(3)PEP
(4)ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ
(B)少なくとも以下の(5)から(7)を含む第2の試薬。
(5)NMN類
(6)ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ
(7)NAD還元物質
[3−3]
更に、第2の試薬に、以下の(8)と(9)を含む上記[3−2]に記載の組成物。
(8)NADH酸化物質
(9)NTB類
[3−4]
金属イオンがマグネシウムイオン、コバルトイオン、及びニッケルイオンのうち、いずれか1つ以上である上記[3]から[3−3]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−5]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、
〔1〕配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、第一の反応を触媒し得る酵素、
〔2〕配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号4のアミノ酸配列及び配列表配列番号5のアミノ酸配列を含む、第一の反応を触媒し得る酵素、又は、〔3〕下記の《1》から《5》の理化学的性質を有する第一の反応を触媒し得る酵素、
のいずれかの酵素である上記[3]から[3−4]のいずれかに1つ記載の組成物。
《1》至適pH
pH7から7.5の間に存在する;
《2》pH安定性
50℃、20分間でpH4.5から11の範囲で80%以上の活性を保持する;
《3》熱安定性
80℃、1時間の熱処理で90%以上の活性を保持し、且つ、4℃で少なくとも27日間保存後も70%以上の活性を保持する;
《4》補酵素特異性
マグネシウムイオン存在下で、PEP及びピロリン酸を基質とした場合、AMPに対して特異的に補酵素として作用し、ADP、IMP、CMP、GMP、TMP又はUMPに作用しない;
《5》基質特異性
ピロリン酸を特異的に基質にする;
[3−6]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、配列表配列番号1のアミノ酸配列からなり、第一の反応を触媒し得る酵素である上記[3]から[3−5]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−7]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、配列表配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、該アミノ酸配列は配列表配列番号4のアミノ酸配列及び配列表配列番号5のアミノ酸配列を含む、第一の反応を触媒し得る酵素である上記[3]から[3−6]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−8]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、下記の《1》から《5》の理化学的性質を有する第一の反応を触媒し得る酵素、のいずれかの酵素である上記[3]から[3−7]のいずれか1つに記載の組成物。
《1》至適pH
pH7から7.5の間に存在する;
《2》pH安定性
50℃、20分間でpH4.5から11の範囲で80%以上の活性を保持する;
《3》熱安定性
80℃、1時間の熱処理で90%以上の活性を保持し、且つ、4℃で少なくとも27日間保存後も70%以上の活性を保持する;
《4》補酵素特異性
マグネシウムイオン存在下で、PEP及びピロリン酸を基質とした場合、AMPに対して特異的に補酵素として作用し、ADP、IMP、CMP、GMP、TMP又はUMPに作用しない;
《5》基質特異性
ピロリン酸を特異的に基質にする;
[3−9]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、更に以下の《6》又は《7》のいずれかの理化学的性質を有する上記[3]から[3−8]のいずれか1つに記載の組成物。
《6》冷凍安定性
−20℃で2週間保存後、90%以上の活性を保持する;
《7》冷蔵安定性
4℃で27日間保存後、80%以上の活性を保持する;
[3−10]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、Thermotoga属由来である上記[3]から[3−9]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−11]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、Thermotoga maritima由来である上記[3]から[3−10]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−12]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼが、Thermotoga maritimaDSM 3109株由来である上記[3]から[3−6]、又は[3−8]から[3−11]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−13]
ピルベートオルトホスフェートジキナーゼをコードする塩基配列が、配列表配列番号2又は配列表配列番号3で表される塩基配列である上記[3]から[3−12]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−14]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、〔1〕配列表配列番号6のアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素、〔2〕配列表配列番号6のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素、のいずれかの酵素である上記[3]から[3−13]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−15]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、配列表配列番号6のアミノ酸配列において、下記の<a>から<e>に記載のいずれか一つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素である上記[3]から[3−12]、又は[3−14]のいずれか1つに記載の組成物。
<a>V132I
<b>D269V
<c>N64Y
<d>A65S
<e>A103S
[3−16]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼをコードする塩基配列が、配列表配列番号7で表される塩基配列である上記[3]から[3−15]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−17]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、真核生物由来である上記[3]から[3−16]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−18]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、酵母由来である上記[3]から[3−17]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−19]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、Saccharomyces属由来である上記[3]から[3−18]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−20]
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、Saccharomyces cerevisiae由来である上記[3]から[3−19]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−21]
第三の反応が、NAD類をNADH類に還元し得る酵素により触媒される反応である上記[3]から[3−20]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−22]
第三の反応が、12α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼにより触媒される反応である上記[3]から[3−21]のいずれか1つに記載の組成物。
[3−23]
第四の反応におけるNADH酸化物質が、DIである上記[3]から[3−22]のいずれかに記載の組成物。
[3−24]
更に下記の(C)を含む上記[3]から[3−23]のいずれか1つに記載の組成物。
(C)少なくとも既知量のピロリン酸を含むキャリブレーション試薬。
[4]
核酸を検出又は定量するための組成物である、上記[3]から[3−24]のいずれか1つに記載の組成物。
[5]
上記[4]に記載の組成物を用いて上記[2]又は[2−1]に記載の方法を行うことを特徴とする、核酸の検出又は定量方法。
[6]
dNTPsとATPに対する基質特異性の比率(dNTPsに対する基質特異性/ATPに対する基質特異性)が5%以下であるニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、簡便、高感度、且つ選択的なピロリン酸を測定する方法を提供できる。また、該ピロリン酸の測定方法を用いれば、核酸増幅工程における核酸の検出又は定量方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】pUC118/TM0272で発現したPPDKの素精製液のSDS−PAGEを示す。矢印がPPDKである。
【図2】HPLCで、ATP、ADP、AMP及びアデノシンを分離した結果を示す。
【図3】反応液の反応前をHPLCで分離した結果を示す。
【図4】反応液の反応後をHPLCで分離した結果を示す。
【図5】PPDKの冷蔵保存(4℃)安定性を示す。
【図6】PPDKの熱安定性を示す。
【図7】PPDKの熱安定性を示す。
【図8】PPDKの至適pHを示す。
【図9】PPDKのpH安定性を示す。
【図10】ピロリン酸濃度の測定結果を示す。
【図11】dNTPs存在下と非存在下のピロリン酸濃度の測定結果を示す。
【図12】PCRによる核酸増幅反応中の、ピロリン酸濃度の測定結果を示す。
【図13】PCRによる核酸増幅反応中の、ピロリン酸濃度の測定結果を示す。
【図14】配列表配列番号2の遺伝子によるPPDKとの発現量(A)と、配列表配列番号3の遺伝子によるPPDKの発現量(B)を比較したSDS−PAGEを示す。
【図15】タカラバイオ株式会社のSmart cycler(登録商標)II Systemを使用したリアルタイムPCRによる核酸増幅を検出した結果(●)と、本発明のピロリン酸濃度測定組成物とピロリン酸濃度測定方法を用いて核酸増幅を検出した結果(○)を示す。
【図16】第一の反応を含む工程と第二の反応を含む工程の間でサイクリング反応をさせる場合の一例を示す。
【図17】第三の反応を含む工程と第四の反応を含む工程の間でサイクリング反応をさせる場合の一例を示す。
【図18】dNTPs存在下と非存在下のピロリン酸濃度の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様は、下記(1)から(4)の各工程を含む試料中のピロリン酸の選択的な測定方法である。(1)試料中に含まれている可能性のあるピロリン酸をピルベートオルトホスフェートジキナーゼに接触させ、ATPを生成する第一の反応を含む工程;(2)上記第一の反応により生ずるATPをニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼに接触させ、ピロリン酸とNAD類を生成する第二の反応を含む工程;(3)上記第二の反応により生ずるNAD類をNADH類に還元する第三の反応を含む工程;(4)上記第三の反応により生ずるNADH類を検出する工程。
本発明は更に、(5)ニトロブルーテトラゾリウム塩類の存在下、上記第三の工程により生ずるNADH類を還元型ニトロブルーテトラゾリウム塩とNAD類とする第四の反応を含む工程、を含み、第四の反応により生ずる還元型NTB類(本明細書では、NTBH2と記載する場合がある)を検出する選択的ピロリン酸を測定する方法も挙げられる。
【0011】
ピロリン酸(Pyrophosphoric acid、H4P2O7)は、・|オキソ−ヘキサオキソ二リン酸や二リン酸等と記載される場合もある。本発明におけるピロリン酸は、公知のピロリン酸を含み、由来、剤型、添加物、又は商品名等により限定されない。
【0012】
本発明におけるピロリン酸は、例えば各種核酸増幅法によるDNAやRNA等の核酸を増幅したときに生成するピロリン酸や、例えば細胞中等でDNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼによる核酸合成反応の生成物として合成されるピロリン酸を含む。すなわち、本発明おけるピロリン酸は、Polymerase Chain Reaction (PCR)、Nucleic Acid Sequence Based Amplification (NASBA)、Loop−mediated isothermal AMPlification (LAMP)、Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids (ICAN)、Transcription Mediated Amplification (TMA)、及びTranscription Reversetranscription Concerted amplification(TRC)等の核酸増幅法による生成物であるピロリン酸や、結晶沈着性関節炎の指標となる関節液中のピロリン酸等を含む。このように、ピロリン酸を測定すれば、各種核酸増幅法による核酸の検知や定量、核酸の増幅の検出、結晶沈着性関節炎の検出などが可能となる。
【0013】
本発明の試料は特に限定されないが、上記の核酸増幅法による核酸増幅反応中の被検液の他、関節液、全血、血漿、血清、血球、髄液、リンパ液、尿等を含む生体試料や研究用試料及びそれらの抽出物等を挙げることができる。その他の試料としては、例えば、海水、天然水、果汁、飲料、廃液等が挙げられる。又、本発明の試料は、ピロリン酸が含まれているかどうかには限定されず、含まれている可能性があれば好ましい。通常は上記の核酸増幅法による核酸増幅反応中や反応後の被検液にはピロリン酸が含まれている可能性があるし、DNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼが直接又は間接的に接触する(した)生体由来物質や微生物等の生物が直接又は間接的に接触する(した)物質もピロリン酸が含まれている可能性のある試料である。これらの試料は、測定に影響のある不純物を除く前処理行程があっても良い。
【0014】
本発明のdNTPsは、dATP、dGTP、dCTP、及びdTTPからなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、例えば、dATP、dGTP、dCTP、dTTPの混合物であってもよい。dATP、dGTP、dCTP、dTTPの混合比は任意であり、等モルの混合物でも良い。
【0015】
dNTPsは、試料中や上記第一から第四の反応を含む工程から選ばれる一つ又は二つ以上の工程中に存在する場合と存在しない場合があり、存在する場合の濃度は任意であるが、それぞれの濃度が4mM以下であれば好ましく、1mM以下であれば更に好ましく、0.4mM以下であれば最も好ましい。
【0016】
本発明の測定方法は、ピロリン酸の生成又は生成量を指標とする核酸の検出又は定量方法であって、上記の核酸増幅法による生成物であるピロリン酸を選択的に測定する検出又は定量方法も含む。又、生体内や生体外における天然の核酸増幅反応による生成物であるピロリン酸を選択的に測定する検出又は定量方法も含む。
【0017】
本発明の第一の反応は、試料中に含まれている可能性のあるピロリン酸をピルベートオルトホスフェートジキナーゼに接触させ、ATPを生成する反応である。
本発明の第一の反応に使用する酵素は、ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ(P
yruvate orthophosphate dikinase (本明細書ではPPDKと記載する場合がある))でも良く、該PPDKは、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(Pyruvate phosphate dikinase)や、EC 2.7.9.1等と表現される場合がある。本発明のPPDKの酵素作用は、例えばマグネシウムイオン等の金属イオンの存在下で、[式1]に示す通りである。例えば、ATP、ピルビン酸、及びリン酸を基質として用いたときの反応式は[式1]の左方向である。又、例えば、AMP、PEP、及びピロリン酸を基質として用いたときの反応式は[式1]の右方向である。本発明の第一の反応式は、AMPを基質としてATPを生じさせる反応であることから右方向の反応式である。
[式1]
AMP + PEP + ピロリン酸<=>ATP + ピルビン酸 + リン酸
【0018】
本発明のPPDKは、上記[式1]の触媒作用を示す酵素であれば由来、酵素名、EC番号、又は製造方法等により限定されない。該PPDKとしては、上記の《1》から《5》の理化学的性質や本願明細書に記載された該PPDKの性質のいずれかを有する酵素であれば好ましい。すなわち、上記[式1]の触媒作用を有すれば好ましく、その他の性質の有無は特に限定されないが、上記の《1》から《5》の理化学的性質や本願明細書に記載された該PPDKの性質のうち、任意の1つ又は2つ以上を備えていることも好ましい。更に該PPDKは、上記の《6》又は《7》性質を備えていることも好ましい。本発明のPPDKにおいては、本願明細書に記載された該PPDKの性質のその他の理化学的性質や物性等を採用する事も出来る。
【0019】
そのようなPPDKとしては、例えば、トウモロコシ葉由来(Biochemistry 12,2862−2867(1973))、サトウキビ葉由来(The Biochemical Journal 114,117−125 (1969))、菊科植物由来(Plant and Cell Physiology 31,29 5−297 (1990))、Propionibacterium shermanii由来(Biochemistry 10,721−729 (1971))、Bacteroides symbiosus由来(Methods in Enzymology 42,199−212(1975))、Acetobacter xylinum由来(Journal of
Bacteriology 104,211−218 (1970))、Microbispora属由来(特開平08−168375号公報)等の公知のPPDKやそれらのアイソザイムがある。
【0020】
本発明のPPDKは、上記以外の天然の生物由来であっても良いが、微生物由来の場合は、例えばThermotoga属、好ましくはThermotoga maritima、最も好ましくは、Thermotoga maritima DSM3109株由来である。該菌株は後述の菌株バンクで購入できるし、他の菌株バンクで購入できる該菌株との同等株や、公知の方法で分離した同等株を用いて、本発明のPPDKの各性質を有する酵素を生産し得ることを確認して、本発明の測定方法に使用することもできる。
【0021】
本発明の第一の反応において使用するPPDKの量は、本発明のピロリン酸測定ができれば特に限定されず、試料に含まれるピロリン酸の存在量、使用する装置、PPDKの純度や種類、及び/又は経済的な事情等に応じて好ましい結果が得られるように決定し得る。本発明の第一の反応において、更に、AMP、金属イオン、又はピルビン酸を使用する場合、その種類と量についても同様である。
【0022】
本発明の第一の反応において使用するPPDKの量は、例えば、下限が0.01U/ml以上、好ましくは0.1U/ml以上、更に好ましくは0.5U/ml以上、上限は特に設けないが、100U/ml以下、好ましくは50U/ml以下、更に好ましくは20
U/ml以下である。
【0023】
本発明の第一の反応は、少なくともAMPの存在下であることが好ましく、上記条件下で使用するAMPの量は、下限が0.05mM以上、好ましくは0.1mM以上、更に好ましくは0.5mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは50mM以下、更に好ましくは20mM以下、特に好ましくは5mM以下である。
【0024】
本発明の第一の反応は、少なくともPEP等の高エネルギーリン酸化合物の存在下であることが好ましく、上記条件下で使用するPEPの量は、下限が0.05mM以上、好ましくは0.1mM以上、更に好ましくは0.5mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは50mM以下、更に好ましくは20mM以下、特に好ましくは5mM以下である。
【0025】
本発明の第一の反応は、少なくとも金属イオンの存在下であることが好ましく、マグネシウムイオン、コバルトイオン、又はニッケルイオンのうちいずれか一つ以上の金属イオンであっても良いがマグネシウムイオンが特に好ましい。上記条件下で使用する金属イオンの量は、例えば、マグネシウムイオンの場合、下限がAMPの濃度に対して0.2当量以上、好ましくは0.5当量以上、更に好ましくは0.8当量以上であり、上限が5当量以下、好ましくは3当量以下、更に好ましくは2当量以下である。最も好ましい濃度はリン酸供与体の1当量である。
【0026】
本発明のPPDKは、上記[式1]の触媒作用を示す酵素であればアミノ酸配列は限定されず、例えば配列表配列番号1のアミノ酸配列の場合は、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列であっても良い。該アミノ酸配列は、配列表配列番号4のアミノ酸配列及び配列表配列番号5のアミノ酸配列を含む配列が好ましい。又、該アミノ酸配列は、アミノ酸配列SMPGMMDT、又はアミノ酸配列LNLGLNDを含むと更に好ましい。本発明のPPDKのアミノ酸配列として典型的な例は配列表配列番号1のアミノ酸配列である。
【0027】
配列表配列番号1のアミノ酸配列におけるアミノ酸の欠失、置換もしくは付加の例としては、PPDKのN末端側及び/又はC末端側にチオレドキシン等機能性酵素やその他のアミノ酸配列からなる部分を付加する例が挙げられ、融合蛋白質とすることも好ましく、その付加する部分により精製や確認等をすることのできるタグと呼ばれる部分を融合させ、場合によっては、そのタグ部分を削除しても、場合によってはその全部又は一部が残る場合も例示される。タグは、例えば、PPDKを菌体外やペリプラズムへ輸送する為の約20個のシグナルペプチドや、効率的な精製を行う為の5から10個のHisの付加でも良いし、それらを直列して付加しても良い。又、それらのアミノ酸配列の間等に数個のプロテアーゼ認識アミノ酸配列を配置して付加することもできる。
【0028】
上述の付加の例と同様に、欠失、又は置換を行うことができ、例えば、本発明のPPDKの本質的な機能とは無関係の数個のアミノ酸からなるドメインが存在する場合や、配列表配列番号1のアミノ酸配列中の複数個のアミノ酸からなるギャップが存在する場合、それらの欠失を組み合わせることもできる。又、欠失、置換もしくは付加を適宜組み合わせることも可能である。更に、配列表配列番号1のアミノ酸配列において、その配列表配列番号1のアミノ酸配列のN末端側、及びC末端側は、アミノ酸残基又はポリペプチド残基を含む、すなわち付加していても良く、その付加アミノ酸残基としてはシグナルペプチド、TEE配列、Sタグ、又はHisタグ等が挙げられる。配列表配列番号1のアミノ酸を欠失する場合は、例えば、N末端側又はC末端側から順に削除する例が挙げられる。配列表配列番号1のアミノ酸配列において、N末端のMetの欠失や、N末端がアシル基やアルキル基等による修飾を受ける等の翻訳後修飾された酵素も本発明のPPDKである。又、PPDKを公知の方法で無水コハク酸やPEG等により化学修飾して、PPDKの至適
pHや安定性等の性質を利用しやすいように変化させることも可能である。上記の場合、PPDKの分子量は変化する場合があり、例えば、後述のpETベクターを利用してN末端にHisタグを付加すると分子量が約1,000大きくなる。本発明のPPDKのアミノ酸配列の二次構造や三次構造は、特に限定されない。
【0029】
本発明のPPDKの塩基配列は、本発明のPPDKをコードする塩基配列であれば特に限定されないが、例えば配列表配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列の場合、配列表配列番号1と実質的に均等なアミノ酸配列をコードする塩基配列であっても良く、例えば配列表配列番号1のアミノ酸配列のうち、上記第一の反応の触媒作用に関与しない一部のアミノ酸を変異させたもの、例えば1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列の均等物をコードする塩基配列であっても良い。好ましくは、配列表配列番号4及び配列表配列番号5や上記のそれぞれのアミノ酸配列をコードする塩基配列が含まれるように行うことが特に好ましい。配列表配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列表配列番号2の塩基配列や配列表配列番号2の塩基配列を適当な宿主のコドン使用頻度に合わせて変更した塩基配列が例示される。そのような例としては、大腸菌のコドン使用頻度に合わせて配列表配列番号2の塩基配列を変更した塩基配列表配列番号3が例示される。
【0030】
PPDKをコードする塩基配列の調製においては、通常用いられる公知の遺伝子操作手段を利用することができ、例えば、部位特異的変異法や、目的遺伝子の特定塩基の断片を人工変異塩基で置換する等の種々の方法が例示される。
【0031】
本発明の第二の反応は、上記第一の反応により生ずるATPをニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼに接触させ、ピロリン酸とNAD類を生成する反応である。
【0032】
本発明の第二の反応に使用する酵素は、ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ(Nicotinamide nucleotide adenylyltranferase(本明細書ではNMNATaseと記載する場合がある))でも良く、該NMNATaseは、NAD(+) pyrophosphorylaseや、EC
2.7.7.1等と表現される場合がある。本発明のNMNATaseの酵素作用は、例えばマグネシウムイオン等の金属イオンの存在下で、[式2]に示す通りである。例えば、ATP、及びNMNを基質として用いたときの反応式は[式2]の右方向である。又、例えば、NAD及びピロリン酸を基質として用いたときの反応式は[式2]の左方向である。本発明の第二の反応式は、右方向の反応式である。
[式2]
ATP + NMN <=> NAD + ピロリン酸
【0033】
本発明のNMNATaseは、上記[式2]の触媒作用を示す酵素であれば由来、酵素名、EC番号、又は製造方法等により限定されず、その他の性質の有無には特に限定されないが、本願明細書に記載された該NMNATaseの性質のうち、任意の1つ又は2つ以上を備えていることも好ましい。本発明のNMNATaseにおいては、本願明細書に記載された該NMNATaseの性質のその他の理化学的性質や物性等を採用する事も出来る。そのようなNMNATaseとしては、例えば、古細菌であるSulfolobus
solfataricus由来(J.Bacteriol、179巻、7718頁、1997年)、古細菌であるMethanococcus jannaschii由来(J.Bacteriol、179巻、7718頁、1997年)、ヒト由来等の公知のNMNATase(Biochem.J、377巻、317頁、2004年)がある。尚、ヒト等を含む哺乳類や酵母等のMNATaseに、公知のアイソザイムがあればそれらを採用することもできる。
【0034】
本発明のNMNATaseは、例えば天然の生物由来であっても良いが、真核生物由来が好ましく、微生物由来の場合は、酵母由来が好ましい。更に好ましくは、Saccharomyces属が、最も好ましくは、Saccharomyces cerevisiaeである。該菌株の取得方法は上記PPDKの場合と同様である。
【0035】
本発明のNMNATaseは、後述の方法など常法により探索したSaccharomycescerevisiae 1−2株、3−2株、及び6−2株由来のNMNATaseを使用しても良い。
【0036】
本発明のNMNATaseの、ATPとdNTPsの基質特異性が交差する場合、すなわちATPとdNTPsがNMNATaseの基質となりえる場合、dNTPsの消去反応を本発明の第一から第四の反応のいずれか一つ以上と同時に、又は別異に行えばよい。好ましくは、ATPとdNTPsの基質特異性の交差は小さい方が良い。本発明のNMNATaseは、例えば、dNTPs/ATP(dNTPsとATPに対する基質特異性の比率)として70%以下が好ましく、30%以下であれば更に好ましく、10%以下であれば特に好ましく、最も好ましくは5%以下である。
【0037】
本発明のNMNATaseのアミノ酸配列については、上記PPDKの場合と同様である。本発明のNMNATaseのアミノ酸配列として典型的な例は、配列表配列番号6である。
配列表配列番号6のアミノ酸配列であるSaccharomyces cerevisiae 6−2株由来のNMNATaseのアミノ酸配列は、Emanuelliら、Protein Expression and Purification 2003年、27巻、357頁により公知となったyNMNAT−2と同一であった。本発明のSaccharomyces cerevisiae 1−2株由来のNMNATaseのアミノ酸配列は、配列表配列番号6のアミノ酸配列の132番目のVがIに置換され(本明細書ではこのような置換を、置換前のアミノ酸、置換される位置、置換後のアミノ酸の順序からなる表記「V132I」等と記載する場合がある)、且つD269Vであった。又、本発明のSaccharomyces cerevisiae 3−2株由来のNMNATaseのアミノ酸配列は、N64Y、A65S、且つ、A103Sであった。従って、配列表配列番号6のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換の例としては、V132I、D269V、N64Y、A65S、A103S等が挙げられる。
【0038】
配列表配列番号6のアミノ酸配列を有するNMNATaseは、Emanuelliら、Protein Expression and Purification 2003年、27巻、357頁に従えば製造できるし、本発明のSaccharomyces cerevisiae 1−2株、及び3−2株由来のNMNATaseは、上記配列表配列番号6のアミノ酸配列の132番目のV、269番目のD、103番目のA、64番目のN、65番目のAを、PCRや市販のキット等を利用した部位特異アミノ酸置換等の常法にてアミノ酸置換すれば製造できる。
本発明のNMNATaseの塩基配列については、上記PPDKの場合と同様である。
【0039】
本発明のNMNATaseの塩基配列としては、配列表配列番号7が例示される。
本発明の第二の反応において使用するNMNATaseの量については、上記PPDKの場合と同様である。本発明の第二の反応において、更に、NMN類、又は金属イオンを使用する場合、その種類と量についても同様である。
【0040】
本発明の第二の反応において使用するNMNATaseの量は、例えば、下限が0.1U/ml以上、好ましくは0.3U/ml以上、更に好ましくは0.5U/ml以上、上
限は特に設けないが、20U/ml以下、好ましくは10U/ml以下、更に好ましくは5U/ml以下である。
【0041】
本発明の第二の反応は、少なくともβ−ニコチンアミドモノヌクレオチドやニコチン酸モノヌクレオチド等のNMN類の存在下であることが好ましく、上記条件下で使用するNMN類の量は、例えば、NMNの場合、下限が0.05mM以上、好ましくは0.1mM以上、更に好ましくは0.5mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは50mM以下、更に好ましくは20mM以下、特に好ましくは5mM以下である。
【0042】
本発明の第二の反応は、少なくとも金属イオンの存在下であることが好ましく、マグネシウムイオンが特に好ましい。上記条件下で使用する金属イオンの量は、例えば、マグネシウムイオンの場合、下限が0.05mM以上、好ましくは0.1mM以上、更に好ましくは0.5mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは50mM以下、更に好ましくは20mM以下、特に好ましくは5mM以下である。
【0043】
尚、本発明の第二の反応において、例えばマグネシウムイオンとNMNの存在下、第一の反応により生ずるATPをNMNATaseに接触させると、ピロリン酸とNADが生成される。又、例えばマグネシウムイオンとニコチン酸モノヌクレオチドの存在下、第一の反応により生ずるATPをNMNATaseに接触させると、ピロリン酸とデアミドNADが生成される。
【0044】
本発明の第三の反応は、上記第二の反応により生ずるNAD類をNADH類に還元する反応である。
本発明の第三の反応におけるNAD類は、NADまたはデアミドNAD(NAAD)等が挙げられ、そのうちいずれか一つ以上であっても良いがNADが特に好ましい
【0045】
本発明の第三の反応において、NAD類をNADH類に還元する方法は公知の方法であれば特に限定されず、本発明のNAD還元物質を利用してNAD類をNADH類に還元する。該方法は、酵素的であっても非酵素的であっても良いが、酵素的にNAD類をNADH類に還元する場合は、例えばNAD類を補酵素とする酵素を使用すれば良い。そのような酵素には脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)が例示される。
[式3]
基質 + NAD類 <=> 酸化された基質 + NADH類
【0046】
本発明の第三の反応を酵素的に行う場合、使用する脱水素酵素は上記[式3]の触媒作用を示す酵素であれば、酵素名、EC番号、由来、アミノ酸配列、塩基配列、又は製造方法等により限定されない。そのような脱水素酵素としては、例えばhydroxysteroid dehydrogenase(本明細書ではHSDと記載する場合がある)が好ましく、更に好ましくは3α−HSD、3β−HSD、17β−HSD、11β−HSD、16α−HSD、20α−HSD、7α−HSD、12α−HSD、7β−HSD、又は12β−HSDが挙げられ、特に好ましくは3α−HSDと12α−HSDである。
【0047】
本発明の第三の反応において、例えば脱水素酵素を使用する場合、脱水素酵素の量については、上記PPDKの場合と同様である。本発明の第三の反応において、更に、使用する脱水素酵素の反応に必要な基質や補酵素等の種類と量についても同様である。
本発明の第三の反応において、例えば12α−HSDを使用する場合、使用する12α−HSDの量は、例えば、下限が0.1U/ml以上、好ましくは0.5U/ml以上、更に好ましくは1U/ml以上、上限は特に設けないが、50U/ml以下、好ましくは20U/ml以下、更に好ましくは10U/ml以下である。
【0048】
本発明の第三の反応は、例えば12α−HSDを使用する場合、少なくとも12α−HSDの基質の存在下であることが好ましく、その基質は3α−、7α−、又は12α−ヒドロキシ胆汁酸やコール酸やデオキシコール酸等が挙げられる。上記条件下で使用する12α−HSDの基質の量は、例えば、コール酸の場合、下限が0.1mM以上、好ましくは0.2mM以上、更に好ましくは0.5mM以上、上限は特に設けないが、好ましくは50mM以下、更に好ましくは20mM以下、特に好ましくは10mM以下である。これらの基質が本発明の各反応を阻害する場合は、濃度を調整したり、基質を変更したりすればよい。
12α−HSDを使用する場合の一例として、コール酸(3α、7α、12α−Trihydroxy−5β−cholanic acid)を基質にした場合、生成物は3α、7α−Dihydroxy−12−oxo−5−β−cholanateである。
【0049】
本発明の第四の反応は、NTB類の存在下、上記第三の工程により生ずるNADH類を還元型NTB類とNAD類とする反応である。
本発明の第四の反応におけるNTB類は、1,3,5−Triphenylformazan、1,5−Bis(4−methoxypheyl)−3−phenylformazan、1,5−Diphenyl−3−(2−thienyl)formazan等のホルマザン類や2,3,5−Triphenyltetrazolium、2,3,5−Tris(p−tolyl)tetrazolium、2,3−Bis(3−chlorophenyl)−5−phenyltetrazolium等のテトラゾリウム塩等、各種酵素の検出試薬、酸化還元系発色試薬として広く一般に用いられている複素環式有機化合物を含む。該NTB類や還元型NTB類は、水に不溶性、難溶性、又は可溶性のいずれでも良い。
【0050】
本発明の第四の反応におけるNADH類とは、本発明の第三の反応の場合と同様である。
本発明の第四の反応において、NTB類の存在下NADH類をNAD類に酸化する方法は公知の方法であれば特に限定されず、本発明のNADH酸化物質を利用してNADH類をNAD類に酸化する(NTB類を還元型NTB類に還元する)。該方法は、酵素的であっても非酵素的であっても良い。本発明の第四の反応は、[式4]に示す通りである。
[式4]
NTB類 + NADH類 <=> 還元型NTB類 + NAD類
【0051】
本発明の第四の反応を酵素的に行う場合、使用する酵素は上記[式4]の触媒作用を示す酵素であれば、酵素名、EC番号、由来、アミノ酸配列、塩基配列、又は製造方法等により限定されない。酵素的にNTB類の存在下NADH類をNAD類に酸化する場合は、NAD(P)H dehydrogenase (quinone)、NADPH dehydrogenase、NADH dehydrogenase等のジアホラーゼ類を使用できる。これらの酵素は、順にEC 1.6.5.2、EC 1.6.99.1、EC
1.6.99.3と表現される場合がある。
【0052】
本発明の第四の反応において、例えばDI類を使用する場合、該DI類の量については、上記PPDKの場合と同様である。本発明の第四の反応において、更に、DI類の反応に必要な基質や補酵素等を使用する場合は、その種類と量についても同様である。
【0053】
本発明の第四の反応において、例えばDIを使用する場合、使用するDIの量は、例えば、下限が0.1U/ml以上、好ましくは0.5U/ml以上、更に好ましくは1U/ml以上、上限は特に設けないが、50U/ml以下、好ましくは20U/ml以下、更に好ましくは10U/ml以下である。
【0054】
本発明の第四の反応は、例えばDIを使用する場合、例えば少なくともNTB(nitrotetrazolium blue (nitroblue tetrazolium(NBT)と記載される場合もある))の存在下であることが好ましく、上記条件下で使用するNTB類の基質の量は、存在すれば良いが、下限が0.001%以上、好ましくは0.005%以上、更に好ましくは0.01%以上、上限は特に設けないが、好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下である。還元型NTB類が難水溶性の場合は、後述する界面活性剤を使用する等、公知の方法で可溶化すればよい。
【0055】
本発明における選択的ピロリン酸の測定方法には、試料中や上記第一から第四の反応を含む工程から選ばれる一つ又は二つ以上の工程中において、ピロリン酸の測定値に正誤差又は負誤差を与える可能性のある物質(共存物質)がピロリン酸と共存する場合に、ピロリン酸を選択的に測定する方法を含む。すなわち、本発明おける選択的ピロリン酸の測定方法には、共存物質の影響を受けない、又は受け難い、選択的なピロリン酸の測定方法を含む。該共存物質としては、例えば、dNTPsが挙げられる。
【0056】
本発明のNADH類を検出する測定方法には、定性反応によりNADH類を検出する測定方法を含み、好ましくは第三の反応により生ずるNADH類の変化量を検出する測定方法であり、更に好ましくは、第三の反応により生ずるNADH類の変化量を検出し定量する測定方法である。第四の反応により生ずる還元型NTB類を検出する測定方法の場合も同様である。
【0057】
定量する測定方法とは、例えば次の通りである。ピロリン酸が含まれている可能性のある試料を、上記第一の反応から第三の反応を含む工程で処理し、上記第三の反応により生ずるNADH類を検出し、既知の濃度のピロリン酸を含む試料について同様に反応させて検出したNADH類の濃度と比較することにより試料中に含まれていたピロリン酸を定量する。また、NADHの検出は、上記第四の工程により還元型NTB類として検出することもできる。試薬ブランクを差し引く場合は、ピロリン酸が含まれている可能性のある試料の代わりに、蒸留水等ピロリン酸が含まれていない試料を同様の工程で処理し差し引けばよい。
【0058】
NADH類は公知の方法で検出すれば良く、NADH類を直接検出する場合のほか、NADH類をさらに他の反応に供して間接的に検出してもよい。間接的に検出する方法としては、本発明の上記第四の反応を含む場合が挙げられ、NADH類をNTB類と反応させて、還元型NTB類として検出すれば、目視で検出できるので簡便である。その他の場合は、NADH類や還元型NTB類の変化に伴うそれら該測定対象の吸収スペクトルや吸光強度の変化を、装置を用いて光学的方法で検出する方法が例示され、NADH類、又は還元型NTB類に伴う吸収スペクトルや特定波長における吸光強度の変化を検出する方法でも良い。NADH類の蛍光の変化を検出することも可能である。酸化還元に伴う電位差を測定する場合は電極を使用すれば良い。
【0059】
本発明における測定方法では、第一の反応を含む工程と第二の反応を含む工程の間でサイクリング反応を採用することができる。ここでいうサイクリング反応とは、第二の反応を含む工程により生ずるピロリン酸を、再度第一の反応を含む工程で反応させることをいう。図16に第一の反応を含む工程と第二の反応を含む工程の間でサイクリング反応をさせる場合の一例を示した。このサイクリング反応ではNAD、Pyruvate、およびリン酸(Pi)が増幅される。従って、該サイクリング反応を本発明における測定方法に採用すれば、NADが増幅されるので、本発明の測定方法の測定感度の向上が期待できる。
また、本発明における測定方法では、第四の反応を含む工程により生ずるNAD類を、
再度第三の反応を含む工程で反応させ、第三の反応を含む工程と第四の反応を含む工程の間でサイクリング反応を採用する事ができる。このサイクリング反応では還元型NTB類が増幅される。該サイクリング反応を本発明における測定方法に採用すれば、本発明の測定方法の、測定感度の向上が期待できる。図17に第三の反応を含む工程と第四の反応を含む工程の間でサイクリング反応をさせる場合の一例を示した。このサイクリング反応では3α、7α−Dihydroxy−12−oxo−5−β−cholanate、還元型NTB(NTBH2)が増幅されることになる。従って、該サイクリング反応を本発明における測定方法に採用すれば、還元型NTBが増幅されるので、本発明の測定方法の測定感度の向上が期待できる。
さらに、本発明における測定方法では、第一の反応を含む工程と第二の反応を含む工程の間でのサイクリング反応と、第三の反応を含む工程と第四の反応を含む工程の間でのサイクリング反応を同時に採用するダブルサイクリング反応を採用する事ができる。すなわち、第二の反応を含む工程により生じるピロリン酸を第一の反応を含む工程で反応させ、第二の反応を含む工程によりNADを増幅し、かつ、第四の反応を含む工程により生じるNADを第三の反応を含む工程で反応させ、第四の反応を含む工程により還元型NTB類を増幅する該ダブルサイクリング反応を本発明における測定方法に採用すれば、本発明の測定方法の、測定感度の向上が期待できる。
【0060】
本発明の測定方法は、液相、気相、又は固相等やそれぞれの臨界面で実施すれば良いが、液相で実施する事が好ましい。液相には水相、有機溶媒相等が考えられ、本発明の測定方法を水相で実施する場合、水相には例えば水、水溶液や適宜の有機溶媒を含有した水性媒体が例示されるが、適宜のpH緩衝剤を用いることが好ましい。pH緩衝剤を使用する場合、その種類は目的のpHを保つことができ、試料中のピロリン酸が測定できれば特に限定されないが、グッドのpH緩衝液、Tris/HCl緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、酢酸/NaOH緩衝液、クエン酸/NaOH緩衝液が例示できる。本発明の測定方法を実施する際のpHは、試料中のピロリン酸が測定できれば特に限定されないが、下限としてpH5以上、好ましくはpH5.5以上、更に好ましくはpH6以上が例示され、上限としてはpH10以下、好ましくはpH9以下が、更に好ましくはpH8.5以下が例示される。pH緩衝剤の濃度は目的のpHを保つことができ、ピロリン酸が測定できれば特に限定されないが、下限として3mM以上、好ましくは5mM以上、更に好ましくは10mM以上が例示され、上限としては500mM以下、好ましくは200mM以下が、更に好ましくは100mM以下が例示される。
【0061】
本発明の測定方法のその他の好ましい液相として、例えばゾル・ゲルが挙げられる。ゾル・ゲルとするためには、例えば、寒天等の多糖類を利用すれば良い。ゾル・ゲルと乳濁液を区別する場合は、乳濁液として実施しても良い。乳濁液とするためには、例えば、有機溶媒等を利用すれば良いし、両親媒性物質を利用すればミセルとしても実施できる。いずれの場合も、pH緩衝剤を用いる場合は上記と同様である。
【0062】
本発明の測定方法における、第一の反応を含む工程から第三の反応を含む工程の各工程はそれぞれ別異の反応槽(相)で実施できるが、同一反応槽(相)で実施する事が好ましい。又、第一の反応を含む工程から第三の反応を含む工程の各工程は、不連続に実施できるが、連続して実施する事が好ましい。又、第一の反応を含む工程から第三の反応を含む工程の各工程は、第一の反応を含む工程、第二の反応を含む工程、第三の反応を含む工程の順に行っても良く、二つ以上の行程を同時に行ったり、単独に行う行程と組み合わせたりする等、目的、試料、使用する装置等に応じて好ましい結果が得られるように決定し得る。本発明の測定方法が、第四の反応を含む工程を含む場合も同様である。
【0063】
本発明の第一の反応を含む工程から第三の反応を含む工程の反応時間は、試料中のピロリン酸が測定できれば特に限定されないが、それぞれ、下限が15秒以上、好ましくは1
分以上、更に好ましくは3分以上である。上限は特に設けないが、好ましくは30分以下、更に好ましくは15分以下、特に好ましくは10分以下である。第一の反応を含む工程から第三の反応を含む工程の各工程の反応時間は不均等であっても良い。本発明の測定方法が、第四の反応を含む工程を含む場合も同様である。
【0064】
本発明の測定方法を実施するための反応の温度は、試料中のピロリン酸が測定できる温度であれば特に限定されないが、酵素を使用する場合は使用する酵素の作用温度の範囲内が好ましく、下限は10℃以上、好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上が、上限は70℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下である。第一の反応を含む工程から第三の反応を含む工程の各工程の温度は不均等であっても良い。本発明の測定方法が、第四の反応を含む工程を含む場合も同様である。
【0065】
本発明の選択的ピロリン酸測定用の組成物は、少なくとも以下の(1)から(7)を含む。
(1)金属イオン
(2)AMP
(3)PEP(ホスホエノールピルビン酸)
(4)PPDK(ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ)
(5)NMN類(β−ニコチンアミドモノヌクレオチド類)
(6)NMNATase(ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ)
(7)NAD還元物質(例えばデヒドロゲナーゼ)
本発明の選択的ピロリン酸測定用の組成物は、更に以下の(8)と(9)を含んでも良い。
(8)NADH酸化物質
(9)NTB類
【0066】
本発明の選択的ピロリン酸測定用の組成物は、好ましくは少なくとも以下の(A)と(B)を含む。
(A)少なくとも以下の(1)から(4)を含む第1の試薬。
(1)金属イオン
(2)AMP
(3)PEP
(4)PPDK
(B)少なくとも以下の(5)から(7)を含む第2の試薬。
(5)NMN類
(6)NMNATase
(7)NAD還元物質
本発明の選択的ピロリン酸測定用の組成物(B)は、更に以下の(8)と(9)を含んでも良い。
(8)NADH酸化物質
(9)NTB類
【0067】
上記本発明の選択的ピロリン酸測定用の組成物は、適宜pH緩衝剤を含む事も好ましい。
本発明の選択的ピロリン酸測定用の組成物は、更に下記の(C)を含んでも良い。
(C)少なくとも既知量のピロリン酸を含むキャリブレーション試薬。
【0068】
本発明の選択的ピロリン酸測定用の組成物に含まれる、本発明の金属イオン、AMP、PEP、PPDK、NMN類、NMNATase、NAD還元物質、NADH酸化物質、
及び、NTB類の種類と量、すなわち、該組成物がピロリン酸測定用の組成物となり得る為に有効な上記物質の量、及びpH緩衝剤の条件等は、上記の本発明の測定方法と同様である。
【0069】
本発明のピロリン酸測定用の組成物及びキャリブレーション試薬は、液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品、又は液状品の乾燥品(加熱乾燥及び/又は風乾及び/又は減圧乾燥等による)として提供できる。液状品の凍結物が好ましく、液状品の凍結乾燥品が更に好ましく、液状品が最も好ましい。別の態様として、液状品の凍結物が好ましい場合もある。更に別の態様としては、液状品の凍結乾燥が好ましい場合もある。本発明のピロリン酸測定用の組成物は、一試薬の組成物としても良いが、通常は上記のように二試薬以上に分離すると好ましい。又、試薬の品質向上等を目的としてNaClやKCl等の塩、TX−100やTween20等の界面活性剤、及び/又はアジ化ナトリウムや抗性物等防腐剤を混合しても良い。又、例えば、POCのキャピラリーへの使用、又は酵素センサーとしての使用の場合、各成分の濃度は通常よりも濃い濃度が好ましく、例えば、固定化したり、紙や膜に染み込ませたり、ゲル・ゾル状組成物としたりして使用することが好ましい。塩を混合する場合、種類や濃度は限定されないが、通常は5から200mMの範囲であり、界面活性剤を混合する場合、種類や濃度は限定されないが、通常は0.001%から2%である。アジ化ナトリウムや抗性物等を含む場合、種類や濃度は防腐効果があれば限定されないが、例えばアジ化ナトリウムの場合、下限は0.005%以上、好ましくは0.01%以上、更に好ましくは0.03%以上、上限は1%以下、好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下である。例えば抗生物質の場合、下限は5μg/ml以上、好ましくは10μg/ml以上、更に好ましくは30μg/ml以上、上限は100μg/ml以下、好ましくは75μg/ml以下、更に好ましくは60μg/ml以下である。
【0070】
本発明のキャリブレーション試薬は、少なくとも既知量のピロリン酸を含む試薬で良いが、好ましくはpH緩衝剤、アジ化ナトリウムや抗生物等の防腐剤、糖等の安定化剤を含む試薬である。pH緩衝剤を含む場合、種類や濃度等の条件等は、上記の本発明の測定方法と同様である。安定化剤や防腐剤を含む場合は上記の本発明の組成物と同様である。
該既知量は特に限定されないが、例えばピロリン酸の場合、下限は0μM以上、好ましくは0.1μM以上、更に好ましくは0.5μM以上、上限は特に設けないが、1mM以下、好ましくは100μM以下、更に好ましくは50μM以下である。
【0071】
本発明の第一の反応に使用する酵素の製造方法について説明する。
本発明の第一の反応に使用する酵素は、公知の方法により、自然界から該酵素を形成する天然の生物を探索(スクリーニング)し、該生物の細胞から取得すれば良い。該生物は[式1]を触媒し得る酵素を形成する生物であれば限定されず、例えば真正細菌、真核生物、又は古細菌を含む微生物が挙げられる。微生物を探索の対象とする場合には、微生物は公知の方法に従って自然界から分離すれば良く、高温、低温、高圧、酸、アルカリ環境等の極限環境を含む土壌や水中、落下菌や氷核等を含む空中、又は、生物の体内等から得ることができる。特に高温環境から分離した微生物からは安定性の高い第一の反応に使用する酵素を得ることが期待できる。又、微生物は後述するATCCやDSM等の菌株バンクから購入しても良い。分離した微生物は、限界希釈法やモノコロニーの形成等公知の方法に従って純粋分離し、最少培地、LB培地、ブイヨン培地等で純粋培養し、その培養物において[式1]の酵素活性の有無を確認する事により、第一の反応に使用する酵素を形成する生物を選別できる。又、集積培養による微生物の取得等、探索の効率を上げる工夫も可能である。[式1]の酵素活性の有無は、後述する酵素活性測定方法等により当業者なら容易に確認できる。
【0072】
分離した菌株の同定は、実験書(鈴木健一朗ら、微生物の分類・同定実験法―分子遺伝
学・分子生物学的手法を中心に、シュプリンガー・フェアラーク東京)等に従うことにより同定することができ、又、市販の各種菌株同定キット(日本ビオメリュー社等)を使用することによっても可能であり、更には、財団法人日本食品分析センター(東京都渋谷区元代々木町52番1号)等に依頼して同定しても良い。
【0073】
かくして得られた本発明の第一の反応に使用する酵素を形成する天然の微生物は、更にNTG等の薬剤、紫外線、及び/又は放射線で処理した変異株とすることもできる。該変異株によって、第一の反応に使用する酵素の生産性を向上することや、第一の反応に使用する酵素の変異体を形成させることが可能であり、安定性、生産性、反応性等が優れた性質を有する変異体を形成することも可能である。
又、得られた該酵素をコードする塩基配列やその情報は、上記の該酵素や該酵素を形成する天然の微生物を用いた、プロテインシーケンス、DNAシーケンスや公知遺伝子工学手法で取得できる。
【0074】
本発明の第一の反応に使用する酵素は、公知のバイオインフォマティクス手法によっても取得可能である。配列表配列番号1は、本発明の測定方法の第一の反応において好ましい第一の反応に使用する酵素のアミノ酸配列の例なので、これらの配列をクエリーとしてNCBI、EMBL、GenomeNet等のデータベースでBLASTサーチ等にてホモロジー検索を行い、配列表配列番号1に一致する、あるいは類似するアミノ酸配列又は塩基配列をもった蛋白質又は遺伝子、すなわち、第一の反応に使用し得る酵素を生産する可能性のある生物の情報や遺伝子情報を得ることが可能である。
【0075】
上記の方法で得られた第一の反応に使用する酵素を形成する天然の微生物や、第一の反応に使用する酵素の塩基配列、又は塩基配列の情報に基づいて形成された該酵素を取得する工程を含む該酵素の製造方法にて、該酵素を取得できる。該酵素を形成する工程としては、該酵素をコードする塩基配列を含む無細胞酵素合成系が例示され、好ましくは該酵素をコードする塩基配列を含む細胞を用いる工程、天然の該酵素を形成する微生物等該酵素をコードする塩基配列を有する微生物を用いる工程、該酵素をコードする塩基配列を導入した形質転換体を用いる工程等が例示される。
【0076】
第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列を含む無細胞酵素合成系を採用する場合には、上記の第一の酵素をコードする塩基配列を、コムギ胚芽由来、大腸菌由来、ウサギ網状赤血球由来、又は昆虫細胞由来等の公知の無細胞酵素合成系に使用すれば良い。
又、該酵素をコードする塩基配列を含む細胞を用いる工程を採用する場合には、上記の第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列をベクターに挿入して宿主微生物に導入させて形質転換体を作成し、その形質転換体を用いて該酵素を形成する例が示される。
【0077】
第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列を導入した形質転換体は、該塩基配列が挿入されたベクターである組換体ファージ又は組換体プラスミドを宿主に導入した細胞、又は微生物を含む。第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列は、一部又は全てを合成して使用することができ、好ましくは第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列を、遺伝子供与体から公知の方法で取得して使用する。遺伝子供与体としては、第一の反応に使用する酵素を形成する細胞であれば限定されないが、好ましくは、上記の探索し選別した天然の微生物や、バイオインフォマティクス手法で情報を得た生物を含む第一の反応に使用する酵素を形成する生物が挙げられる。
【0078】
第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列を挿入するベクターとしては、宿主微生物体内で自律的に増殖しうるファージ又はプラスミドのうち遺伝子組換用として構築されたものが適しており、ファージベクターとしては、例えば、大腸菌に属する微生物を宿主とする場合にはλgt・λC、λgt・λB等が使用できる。又、プラスミドベクター
としては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、Novagen社のpETベクター、又はpBR322、pBR325、pACYC184、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pIN I、BluescriptKS+、Bacillus subtilisを宿主とする場合にはpWH1520、pUB110、pKH300PLK、放線菌を宿主とする場合にはpIJ680、pIJ702、酵母、特にSaccharomyces cerevisiaeを宿主とする場合にはYRp7、pYC1、YEp13等が使用できる。本発明においては大腸菌を宿主とするプラスミドベクターが好ましい。プロモーターは宿主中で発現できるものであれば特に限定されない。
このようなベクターを、第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列の切断に使用した制限酵素により生成する塩基配列の末端と、同じ末端を生成する制限酵素により切断してベクター断片を作成し、第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列の断片とベクター断片とを、DNAリガーゼにより常法に従って結合させて第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列を目的のベクターに挿入して、組換体ファージ又は組換体プラスミドとする。
【0079】
組換体プラスミドを導入する宿主としては、組換体プラスミドが安定且つ自律的に増殖可能な細胞、又は微生物であれば良く、例えば宿主微生物が大腸菌に属する微生物の場合、大腸菌 BL21、大腸菌 DH1、大腸菌 JM109、大腸菌 JM101、大腸菌 W3110、大腸菌C600等を含む、大腸菌B株、K株、C株やそれらの溶原菌が利用できる。又、宿主微生物がBacillus属に属する微生物の場合、Bacillus
subtilis、Bacillus megaterium等、放線菌に属する微生物の場合、Streptmyces lividans TK24等、Saccharomyces cerevisiaeに属する微生物の場合、Saccharomyces
cerevisiae INVSC1等が使用できる。本発明においては大腸菌を宿主微生物とする事が好ましい。
【0080】
第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列を導入した形質転換体を用いて該酵素を形成させる事ができる好適なその他の例としては、Rhodococcus属細菌における組換酵素を形成する方法が挙げられる(特許第3944577号公報、特許第3793812号公報)。具体的には、低温での組換酵素の形成に適したpTip QC1やpTip QC2等のプラスミドベクターに、第一の反応に使用する酵素をコードする塩基配列を挿入し、その組換体プラスミドをリゾチーム感受性微生物に導入した形質転換体を用いる方法が示される。リゾチーム感受性微生物としてはRhodococcus属に属する微生物が好ましい(特許第3876310号公報)。
【0081】
第一の反応に使用する酵素を形成する天然の微生物や、該酵素をコードする塩基配列を導入した形質転換体等の培養条件はその栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すれば良く、通常液体培養で行うが、工業的には深部通気撹拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては、微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。培養温度は宿主となる微生物が発育し、第一の反応に使用する酵素が形成される範囲で適宜変更し得るが、大腸菌の場合、下限が10℃以上、好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上、上限が45℃以下、好ましくは42℃以下、更に好ましくは38℃以下である。放線菌の場合、下限が4℃以上、好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上、上限が50℃以下、好ましくは42℃以下、更に好ましくは37℃以下である。培養条件は、条件によって多少異なるが、第一の反応に使用する酵素が最高形成量に達する時期を見計らって適当な時期に培養を終了すれば良く、大腸菌の場合、通常は下限が10時間以上、好ましくは12時間以上、更に好ましくは17時間以上、上限が60時間以下、好ましくは48時間以下、更に好ましくは30時間以下である。放線菌の場合、通常は下限が17時間以上、好ましくは20時間以上、更に好ましくは24時間以上、上限が80時間以下、好ましくは72時間以下、更に好ましくは48時間以下である。培地のpHは菌が発育
し、第一の反応に使用する酵素を形成する範囲で適宜変更し得るが、大腸菌や放線菌の場合、好ましくは下限としてpH5.8以上、好ましくはpH6.2以上で、上限としてpH8.5以下、好ましくはpH7.5以下である。
【0082】
第一の反応に使用する酵素は、上記のように形成された該酵素を取得する工程を含む方法によって製造できるが、簡便には殺菌、非殺菌を問わず菌体を含む細胞等のままであっても良いが、培養不純物や細胞破砕物等を軽く除いた不純物がある酵素とすることも好ましい。更に該酵素の粗酵素は、目的や用途等場合によっては実質的に不純物を包含しないようにすることも好ましいが、通常は、例えば50%以上、70%以上、95%以上の各種の純度にすることが例示される。純度はSDS−PAGEやHPLC等の公知の方法で確認すれば良い。
【0083】
第一の反応に使用する酵素を、上記の探索し選別した天然の微生物や、該酵素をコードする塩基配列を導入した形質転換体の微生物等を培養し取得することによって製造する場合、まず、該微生物等を栄養培地で培養して菌体内又は培養液中に該酵素を形成させ、菌体内に形成される場合には培養終了後、得られた培養物を濾過又は遠心分離等の手段により菌体を採集する。次いでこの菌体を機械的方法又はリゾチーム等の酵素的方法で破壊し、又、必要に応じてEDTA、及び/又は適当な界面活性剤等を添加して該酵素を濃縮するか濃縮する事なく、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒による分別沈殿法、硫酸アンモニウム、食塩等による塩析法等を適用して第一の反応に使用する酵素を沈殿させ回収する。この沈殿物を必要に応じて透析、等電点沈殿を行った後、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーや疎水的クロマトグラフィーにより処理して、第一の反応に使用する酵素を得ることができる。又、これらの方法を適宜組み合わせて行うことができる。又、本発明の酵素が培養液中に形成される場合には、培養物を濾過又は遠心分離等の手段により菌体を除去し、培養液について、前記菌体内に形成される場合と同様の処理を行えばよい。
かくして得られる第一の反応に使用する酵素は安定化剤又は賦型剤として、各種の塩類、糖類、酵素、脂質、界面活性化剤等を加え、あるいは加えることなく、限外濾過濃縮、凍結乾燥等の方法により、液状又は固形の第一の反応に使用する酵素を得ることができ、又、適宜凍結乾燥を行う場合、安定化剤又は賦型剤としてサッカロース、マンニトール、食塩、アルブミン等を0.5から10%程度添加しても良い。
【0084】
本発明の第一の反応に使用する酵素を形成する天然の微生物は、Thermotoga属が好ましく、Thermotoga maritimaが更に好ましく、 Thermotoga maritima DSM 3109株が最も好ましい。本発明の第一の反応に使用する好適な酵素はPPDKである。
【0085】
本発明の第一の反応に使用する酵素のアミノ酸配列の典型的な例としては、配列表配列番号1のアミノ酸配列である。該アミノ酸配列をコードする塩基配列の一例は配列表配列番号2の塩基配列である。該塩基配列は、Nelsonら、Nature 1999年、399巻、323頁により明らかにされていたが、該塩基配列がコードする酵素の性質はこれまでに解明されておらず、単にPPDKらしいとして予想されていた。すなわち、配列表配列番号2の塩基配列がコードする配列表配列番号1のアミノ酸配列が、[式1]の反応を触媒することは従来全く知られていなかった。
【0086】
本発明の第二の反応に使用する酵素の製造方法は、本発明の第一の反応に使用する酵素の製造方法と同様である。本発明の第二の反応に使用する酵素を形成する天然の微生物は、真核生物由来が好ましく、酵母由来が更に好ましく、Saccharomyces属由来が特に好ましく、Saccharomyces cerevisiae由来が最も好ましい。本発明の第二の反応に使用する好適な酵素はNMNATaseである。本発明の第
二の反応に使用する酵素のアミノ酸配列の典型的な例としては、配列表配列番号6のアミノ酸配列である。該アミノ酸配列をコードする塩基配列の一例は配列表配列番号7の塩基配列である。該塩基配列は、Emanuelliら、Protein Expression and Purification 2003年、27巻、357頁によりyNMNAT−2として明らかにされ、該塩基配列がコードする酵素は、NMNATaseであるがdATPも基質にすると報告されていた。したがって、当業者は当該先行文献から該塩基配列がコードするNMNATaseを使用した場合、dATPやdNTPsの影響を受けない選択的なピロリン酸を測定する事は不可能であると、考えるのが自然と思われる。
【0087】
本発明の第三の反応を酵素的に行う場合、該酵素の製造方法は、本発明の第一の反応に使用する酵素の製造方法と同様である。
【0088】
本発明の第四の反応を酵素的に行う場合、該酵素の製造方法は、本発明の第一の反応に使用する酵素の製造方法と同様である。
【0089】
ところで、従来、核酸の測定方法は、放射性同位元素、ビオチン、酵素等で標識された核酸を測定対象となる核酸と結合させ測定する方法等が公知である。これらの方法は、結合物と未結合物との分離操作が必要で、測定のための特別な施設、装置等が必要である。エチジウムブロマイドやSYBR GreenI(登録商標)等の蛍光物質を使用して、測定対象となる核酸を染色する測定方法も同様である。
【0090】
一方、ピロリン酸の生成量を指標とする核酸の測定方法として、ピロリン酸にピロフォスファターゼを作用させ、生成したリン酸を検出する方法が公知である(特開平7−59600号)。該方法は、ピロリン酸を選択的に測定する為には、試料や試薬成分中に存在する可能性のあるリン酸の消去が必要である。
上記と別異なピロリン酸の生成量を指標とする核酸の測定方法として、ピロリン酸にATPスルフリラーゼを作用させた後、ルシフェラーゼを利用して、生成するATPを発光で検出する方法(WO92/16654)、及びピルビン酸リン酸ジキナーゼとルシフェラーゼを使用する方法(特許文献1)が公知である。該方法は、ピロリン酸を選択的に測定する為には、試料中に存在するdATPの消去が必要である場合があるし、発光を測定する装置が必要である。
上記と別異なピロリン酸の生成量を指標とする核酸の測定方法として、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ、及びキサンチンデヒドロゲナーゼ/オキシダーゼを使用する方法が公知である(特許文献2)。該方法は、ピロリン酸を選択的に測定する為には、試料中に存在する可能性のあるヒポキサンチンの消去が必要である。
上記と別異なピロリン酸の生成量を指標とする核酸の測定方法として、キナーゼ、ピロリン酸からATPを生成する酵素、及びNAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素を使用する方法が公知である(特許文献3)。該方法は、ピロリン酸を選択的に測定する為には、試料中に存在するdATPの消去が必要である。
【0091】
本発明の測定方法は、例えば試料中や上記第一から第四の反応を含む工程から選ばれる一つ又は二つ以上の工程中において、ピロリン酸と上記の物質が共存しても影響を受けない選択的なピロリン酸の測定方法となり得る。又、本発明の測定方法は、還元型NTB類を検出する場合、ピロリン酸の生成量を指標とする核酸の測定が可視光で測定できるために、目視、又は汎用機器で測定でき簡便である。
従って本発明の測定方法は、例えば上記核酸増幅法による核酸増幅反応中又は反応後の被検液を測定することにより、簡便なピロリン酸の生成量を指標とする核酸の測定方法として好適である。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例等に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例等に限定して解釈されない。尚、常法に従い、と記述した技術は、例えばマニアティスらの方法(Maniatis,T.,et al.Molecular Cloning.Cold
Spring Harbor Laboratory 1982年、1989年)や上記の蛋白質・酵素の基礎実験法、市販の各種酵素、又は、キット類に添付された手順に従えば実施できるものである。又、以下に示した測定値等は測定の条件や使用機器の精度等によりその値は変化し得る。
尚、本発明で使用する試薬類は、特に断らない限り、和光純薬工業株式会社製、シグマアルドリッチ社製、タカラバイオ株式会社製等であり、市販で容易に入手できるものを使用することができる。DSM菌株はDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHで購入できる。ATCC菌株はAmerican Type Culture Collectionで購入できる。試薬のメーカーや純度等は特に限定されない。
【0093】
[PPDK活性測定方法1]
[PPDK活性測定用反応試薬混合液1]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
5mM PEP
2mM AMP
4mM MgCl
4mM ピロリン酸
0.15mM NADH
1mlのPPDK活性測定用反応試薬混合液1を層長1cmの石英セル中で371分間予備加温した後、5,000U/mlの乳酸デヒドロゲナーゼ(Roche社製)を3μl添加し、更に37℃で1分間加温した。これに適当な濃度に希釈したPPDKを10μl添混和して酵素反応を開始し、反応開始後340nmにおける吸光度を測定して直線的に反応している1分間当たりの吸光変化をAs/minとした。PPDKの代わりに精製水を用いた場合の1分間当たりの吸光変化をAb/minとした。酵素活性(U/ml)は[式5]で算出した。本明細書では特に記載がない場合、PPDKの活性測定はPPDK活性測定方法1を使用した。
[式5]
酵素活性(U/ml)={(As/min−Ab/min)/6.22}×1.013/0.01×希釈倍数
【0094】
[PPDK活性測定方法2]
上記PPDK活性測定方法1は、連続反応なので一度に多くの試料の活性測定が出来るが、乳酸デヒドロゲナーゼの熱安定性を考慮し37℃で測定するため、至適温度が50℃以上と予想される本発明のPPDK本の性質を正しく調べることは難しい。PPDK活性測定方法2は第一反応がThermotoga maritimaの生育至適温度(80℃)に近い温度(50℃)なので、本発明のPPDKの正しい性質を調べることが出来る可能性があるが、一方でトリクロロ酢酸を使用するので取扱上注意が必要であり、又、二段階で活性測定するため、一度に多くの試料の活性を測定するには操作が煩雑である。本実施例では、必要に応じてPPDK活性測定方法2を使用し、使用した場合は特に記載する。
[PPDK活性測定用反応試薬混合液2−1]
100mM HEPES/NaOH pH 7.5
5mM PEP
2mM AMP
5mM MgCl
5mM ピロリン酸
酵素液と蒸留水を加えて400μlとする。
[PPDK活性測定用反応試薬混合液2−2]
1.15M Tris/HCl pH 8.0
0.135mM NADH
5U/ml 乳酸デヒドロゲナーゼ
遠心上精400μlを加えて1mlとする。
PPDK活性測定方法2は、酵素反応を2段階に分けて活性測定する方法である。適当な濃度に希釈したPPDKを用いてPPDK活性測定用反応試薬混合液2−1を調製した。このとき、酵素を加えずに調製したものを「ブランク」とし、酵素を加えたものを「テスト」とした。予め50℃に調製したPPDK活性測定用反応試薬混合液2−1にPPDK液と蒸留水を添加して400μlとして反応を開始し、10分間インキュベートして1段階目の反応を行った。続いてこの反応液を氷冷して50%トリクロロ酢酸を50μl加えて反応を停止した。反応液を4℃、15,000rpmで10分間遠心して得られた上清400μlを、新しいエッペンドルフチューブに予め準備しておいたPPDK活性測定用反応試薬混合液2−2に移した。これを37℃で10分間インキュベートすることにより2段階目の反応を行った後、「ブランク」と「テスト」の340nmの吸光度を測定してそれぞれAb、Atとした。酵素活性1単位(1ユニット)は、37℃で1分間に1マイクロモルのPEPをピルビン酸に変化させる酵素量として、Ab−Atより酵素活性を求めた(NADHのミリモル吸光係数は6.22)。
【0095】
[NMNATase活性測定方法]
[NMNATase活性測定用反応試薬混合液]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
2mM β−ニコチンアミドモノヌクレオチド
2mM ATP
2mM MgCl
1mM コール酸
5U/ml 12α−HSD(旭化成ファーマ株式会社製)
1mlのNMNATase活性測定用反応試薬混合液を層長1cmの石英セル中で37℃1分間予備加温した後、適当な濃度に希釈したNMNATaseを30μl混和して酵素反応を開始し、反応開始後340nmにおける吸光度を測定して直線的に反応している1分間当たりの吸光変化をAs/minとした。NMNATaseの代わりに精製水を用いた場合の1分間当たりの吸光変化をAb/minとした。酵素活性(U/ml)は[式6]で算出した。
[式6]
酵素活性(U/ml)={(As/min−Ab/min)/6.3}×1.03/0.03×希釈倍数
【0096】
[蛋白質濃度測定法]
精製前の酵素、粗酵素液、および精製酵素等の蛋白質濃度はバイオラッド社のプロテインアッセイキット(ブラッドフォード法)を用いて使用説明書記載の方法に従って測定し、BSAをスタンダードとして算出した。
[実施例1]
<DNAの抽出>
Thermotoga maritima DSM 3109株の菌体を50mM Tris/HCl(pH8.0)、50mM EDTA、15%シュークロースを含む1mg/mlリゾチーム溶液で37℃、10分処理した後、SDSを最終濃度0.25%になるよう添加して菌体を溶解した。更に等量のフェノール/クロロホルムの1:1混合液を加え、30分攪拌した後、遠心分離(12,000rpm、15分間)して水層を回収し
た。回収した水層に10分の1量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)を混合後、2倍量のエタノールを静かに重層し、ゲノムDNAをガラス棒に巻き付かせて分離した。分離したゲノムDNAを、10mM Tris/HCl(pH8.0)、1mM EDTA水溶液(本明細書ではTEと記載する場合がある)に溶解し、適量のRNaseAを加え、37℃で1時間保温し、混在しているRNAを分解した。次いで、等量のフェノール/クロロホルムの1:1混合液を加え、前記と同様に処理して、水層を分取した。分取した水層に10分の1量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)と2倍量のエタノールを加えて前記の方法でもう一度ゲノムDNAを分離した。この染色体をTEに溶解し、TE飽和のフェノールとクロロホルムの1:1混合液を加え、全体を懸濁した後、同様の遠心分離を繰り返し、上層を再び別の容器に移した。この分離した上層に3Mの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)とエタノールを加え、撹拌後、−70℃で5分間冷却した後、遠心分離(2,000G、4℃、15分)し、沈澱した染色体を75% エタノールで洗い、減圧乾燥した。以上の操作によりThermotoga maritima DSM 3109株のDNA標品を得た。
【0097】
[実施例2]
<PCR法による配列表配列番号1に示す遺伝子の増幅>
pET21a(+)又はpET28a(+)(Novagen)のマルチクローニングサイトNdeI及びHindIII部位に配列表配列番号2の遺伝子を挿入するように、配列表配列番号8と9のプライマーを設計した。pUC118を使用する場合は、マルチクローニングサイトXbaI及びHindIII部位に挿入するように配列表配列番号10と9のプライマーを設計した。PCRは、KOD DNAポリメラーゼを用いて常法に従って行った。得られた約2.7kbpのPCR産物は、例えばQIAGEN QIAquick PCR Purification Kitを用いる等、常法に従って精製した。
【0098】
[実施例3]
<発現ベクターとのライゲーション>
実施例2で精製した配列表配列番号8と9のプライマーを使用したPCR産物はNdeI及びHindIIIにより常法に従って制限酵素処理した(インサートA)。実施例2で精製した配列番号10と9のプライマーを使用したPCR産物はXbaI及びHindIIIにより常法に従って制限酵素処理した(インサートB)。これらインサートAとBは、例えばQIAGEN QIAquick PCR Purification Kitを用いる等、常法に従って精製した。インサートAはNdeI及びHindIIIにより制限酵素処理し精製したpET21a(+)又はpET28a(+)と常法に従ってライゲーションし、pET21a(+)/TM0272又はpET28a(+)/TM0272を作成した。インサートBはXbaI及びHindIIIにより制限酵素処理し精製したpUC118と常法に従ってライゲーションし、pUC118/TM0272を作成した。コロニーダイレクトPCR法によるポジティブクローンから精製した組換え体プラスミドは、DNAシーケンスしてインサート配列が正しい事を確認した。
【0099】
[実施例4]
<pET21a(+)/TM0272とpET28a(+)/TM0272の発現チェック>
pET21a(+)/TM0272、pET28a(+)/TM0272を大腸菌 BL21(DE3)に常法に従って形質転換し、50μg/mlのアンピシリンを含むSB培地(トリプトン12g、酵母エキス24g、グリセロール5mlを蒸留水0.9Lに溶かして121℃20分間滅菌した。リン酸一水素カリウム12.5g、リン酸二水素カリウム3.8gを蒸留水0.1Lに溶かして121℃20分間滅菌した。それぞれを室温まで冷却後混合して1LのSB培地とした。)に植菌した。37℃で13時間培養後にIP
TGを終濃度1mMになるように加えて、更に5時間培養を行った。培養液を遠心分離して集菌し、菌体を生理的食塩水で洗い、菌体湿重量の4倍量の20mM HEPES/NaOH(pH7.5)に懸濁、超音波破砕して、遠心分離し、得られた上清を粗酵素液とした。
【0100】
[実施例5]
<pUC118/TM0272の発現チェック>
pUC118/TM0272を大腸菌 JM109に常法に従って形質転換し、50μg/mlのアンピシリンを含むSB培地に植菌した。37℃で18時間培養後に培養液を遠心分離して集菌し、菌体を生理的食塩水で洗い、菌体湿重量の4倍量の20mM HEPES/NaOH(pH7.5)に懸濁、超音波破砕して、遠心分離し、得られた上清を粗酵素液とした。
【0101】
[実施例6]
<粗酵素液の熱処理>
実施例5で得た粗酵素液は80℃で15分間熱処理し遠心分離して、上清を粗精製液とした。この粗精製液のSDS−PAGEを図1に示した。
【0102】
[実施例7]
<PPDKの精製1>
20mM HEPES/NaOH(pH7.5)で平衡化したバイオラッド社のUnoQ(登録商標)陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに、実施例6の粗精製液をアプライした。カラムをベッド体積の5倍以上の20mM HEPES/NaOH(pH7.5)で洗浄した後、20mM HEPES/NaOH(pH7.5)と0.5M NaClを含む20mM HEPES/NaOH(pH7.5)を用いたベッド体積の12倍量のリニアグラジエント溶出を行った。活性画分を回収し、100倍量の20mM HEPES/NaOH(pH7.5)で透析する事により脱塩した。
10mM リン酸カリウム(pH7.5)で平衡化したバイオラッド社のハイドロキシアパタイトを用いたカラムに上記の脱塩したPPDKをアプライした。カラムをベッド体積の5倍以上の10mM リン酸カリウム(pH7.5)で洗浄した後、300mM リン酸カリウム(pH7.5)を用いてベッド体積の12倍量のリニアグラジエント溶出を行った。活性画分を回収し、1mMのDTTを含む100倍量の20mM HEPES/NaOH(pH7.5)で透析、又は1mMのDTTを含む20mM HEPES/NaOHで平衡化したゲル濾過剤であるG−25(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を使用して脱塩し、精製酵素とした。
本実施例により、500mlの培養液から収率約15%で比活性約5U/mgの精製酵素を約5mg得た。PPDK活性測定方法2で測定した。
【0103】
[実施例8]
<PPDKの精製2>
0.2MのNaClを含む20mM HEPES/NaOH(pH7.5)で平衡化したシグマアルドリッチ社のニッケルアフィニティーゲルクロマトグラフィーカラムに、実施例4の粗酵素液をアプライした。0.2MのNaClを含む20mM HEPES/NaOH(pH7.5)でカラムをベッド体積の5倍以上洗浄した後、0.2MのNaClと0.2Mのイミダゾールを含む20mM HEPES/NaOH(pH7.5)で吸着画分の溶出を行った。
溶出した活性画分に20%の硫酸アンモニウムを添加し、20%の硫酸アンモニウムを含む20mM HEPES/NaOH(pH7.5)で平衡化したフェニルトヨパールクロマトグラフィーカラム(東ソー社製)にアプライした。20%の硫酸アンモニウムを含む20mM HEPES/NaOH(pH7.5)でカラムをベッド体積の5倍以上洗浄
した後、20mM HEPES/NaOH(pH7.5)を用いたベッド体積の12倍量のリニアグラジエント溶出を行った。溶出した活性画分は実施例7と同様の方法で脱塩した。収率は約50%だった。本実施例により得られたPPDKの比活性は、7U/mgだった。PPDK活性測定方法2で測定した。
【0104】
[実施例9]
<PPDK活性の確認>
100mM HEPES/NaOH(pH7.5)、1mM AMP、1mM MgCl2、1mM PEP、1mM ピロリン酸からなる反応液に実施例7で得たPPDK 10μlを添加し、50℃で20分間反応した。反応液をAsahipak GS−320(昭和電工株式会社製)を用いたHPLCで分析した。移動相は200mM リン酸ナトリウム(pH3)で、流速は0.5ml/分、カラム温度は室温で260nmの吸光を測定した。反応液の代わりにATP、ADP、AMP及びアデノシン混合液を用いて、同条件下、HPLCで分析し、分離した結果を図2に示す。図3は反応前の反応液を分離した結果である。図4は反応後の反応液を分離した結果である。本結果より、AMPを基質とした時にATPが反応によって生じており、PPDK活性が確認できた。
【0105】
[実施例10]
<PPDK凍結保存安定性>
実施例7の脱塩していないPPDK(1.2U/ml)を−20℃で凍結保存して2週間後に融解し、凍結保存前後の活性を比較した結果、凍結保存後も94%の残存活性があった。
【0106】
[実施例11]
<PPDK冷蔵保存安定性>
実施例7で得た脱塩していないPPDK(1.2U/ml)を4℃で保存して、0、5、8、12、19、27日後に活性測定した結果を図5に示した。PPDKは冷蔵保存下で、27日保存後も80%以上の残存活性があった。また、該PPDKを同条件で9ヶ月保存後も80%以上の残存活性があった。PPDK活性は、測定方法2で測定した。
【0107】
[実施例12]
<熱安定性1>
実施例7で得た脱塩したPPDK約0.2mg/mlを50℃から100℃の範囲で20分間熱処理した。未処理の酵素活性を100%として残存活性(%)を図6に示した。その結果、本発明のPPDKは90℃、20分間の熱処理で、90%以上の活性を保持した。PPDK活性を、測定方法2で測定した。
【0108】
[実施例13]
<熱安定性2>
実施例7で得た脱塩したPPDK 約0.2mg/mlを80℃又は90℃で、0から1時間の範囲で熱処理した。未処理の酵素活性を100%として残存活性(%)を図7に示した。その結果、本発明のPPDKは90℃、1時間の熱処理で、70%以上の活性を保持し、80℃、1時間の熱処理で90%以上の活性を保持した。PPDK活性を測定方法2で測定した。
【0109】
[実施例14]
<至適pH>
PPDK活性測定用反応試薬混合液2−1における緩衝液をpH6からpH7の範囲はBis−Tris/HCl緩衝液(図8中○印)、pH7からpH8の範囲はHEPES/NaOH緩衝液(図8中△印)、pH8からpH9の範囲はグリシルグリシン/NaO
H(図8中□印)に変更して活性測定を行い、本発明のPPDKの至適pHを測定した。図8に、最大活性を100%とした相対活性(%)としてその結果を示した。本発明のPPDKの至適pHはpH7からpH7.5であった。PPDK活性を、測定方法2で測定した。実施例7で得た脱塩したPPDKを使用した。
【0110】
[実施例15]
<pH安定性>
実施例7で得た脱塩したPPDKを約0.06mg/mlの濃度になるように、100mMのpH4からpH6.5はクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液(図9中○印)、pH6.5からpH7はイミダゾール/HCl緩衝液(図9中△印)、pH7からpH8はHEPES/NaOH緩衝液(図9中□印)、pH8からpH9はグリシルグリシン/NaOH緩衝液(図9中●印)、pH9からpH11はグリシン/NaOH緩衝液に溶解し(図9中■印)、50℃20分間で保存し、最大活性が得られた場合を100%として残存活性(%)を図9に示した。その結果、本発明のPPDKは50℃、20分間でpH4.5から11の範囲で80%以上の活性を保持した。PPDK活性を測定方法2で測定した。
【0111】
[実施例16]
<補酵素特異性>
PPDK活性測定用反応試薬混合液2−1におけるAMPを、ADP、IMP、CMP、GMP、TMP、及びUMPに変更して活性測定を行った。その結果、本発明のPPDKはマグネシウムイオン存在下で、PEP及びピロリン酸を基質とした場合、AMPに対して特異的に補酵素として作用し、ADP、IMP、CMP、GMP、TMP、及びUMPに作用しなかった。実施例7で得た脱塩したPPDKを使用した。
【0112】
[実施例17]
<金属イオン>
PPDK活性測定用反応試薬混合液2−1におけるMgCl2を、CoCl2、NiCl2、CaCl2、及びZnCl2に変更して、予め1mM EDTA及び0.2Mの硫酸ナトリウムを含む100倍量の20mM HEPES/NaOH(pH7.5)で2回透析した本発明のPPDKの活性測定を行った。その結果、本発明のPPDKは、金属イオンの無い場合、CaCl2及びZnCl2の場合は活性を示さなかったが、CoCl2の場合、NiCl2の場合は、MgCl2の場合を100%として、それぞれ74%、29%の相対活性を示した。実施例7で得た脱塩したPPDKを使用した。
【0113】
[実施例18]
<分子量>
分子量の計算値及び測定値は以下のとおりである。
(1)アミノ酸の一次配列からの計算値:98,102
(2)実施例7で得た脱塩したPPDKのSDS−PAGEによる測定値(図1の矢印):83,000
【0114】
[実施例19]
<Km値>
実施例7で得た脱塩したPPDKのPEP、ピロリン酸及びAMPに対する見かけのKmを、ラインウェーバー・バーク逆数プロットにより算出した。PEP、ピロリン酸及びAMPに対する見かけのKmは、それぞれ0.32mM、1.12mM、0.065mMであった。PPDK活性を測定方法2で測定した。
【0115】
[実施例20]
<NMNATaseの調整>
Saccharomyces cerevisiae 1−2株、3−2株、及び6−2株のDNAを、実施例1と同様の方法で得た。pUC118のマルチクローニングサイトXbaI及びHindIII部位に配列表配列番号7の遺伝子を挿入するように、配列表配列番号11と12のプライマーを設計した。実施例2と同様の方法でpUC118/Sc1−2、pUC118/Sc3−2、及びpUC118/Sc6−2を作成し、実施例5と同様の方法でNMNATaseの粗酵素液を調整した。該粗酵素液は10mMのTris/HCl緩衝液pH8.0で平衡化したQ sep.BB(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着させた。10mMのTris/HCl緩衝液pH8.0で充分に洗浄した後、0及び0.5MのKClを含む10mMのTris/HCl緩衝液pH8.0を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分に最終濃度15%になるように硫酸アンモニウムを添加し、15%の硫酸アンモニウムを含む10mM リン酸カリウム緩衝液pH7.5で平衡化したPhenyl sep.FF(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着して15及び0%の硫酸アンモニウムを含む10mM リン酸カリウム緩衝液pH7.5を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は10mM リン酸カリウム緩衝液pH7.5で平衡化したG−25で脱塩した後、10mM リン酸カリウム緩衝液pH7.5で平衡化したDEAE sep.FF(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に吸着させた。10mM リン酸カリウム緩衝液pH7.5で充分に洗浄した後、0及び0.5MのKClを含む10mM リン酸カリウム緩衝液pH7.5を用いたリニアグラジェントにて溶出した。活性画分は10mM リン酸カリウム緩衝液pH7.0で平衡化したG−25で脱塩してNMNATase1−2、3−2、6−2を得た。100mlの培養液から本実施例により得られたNMNATase1−2、3−2、6−2は、約60U、700U、400Uであった。
【0116】
[実施例21]
<NMNATaseのdNTPs/ATPの比較>
下記の[組成物]を作成し、NMNATaseの、dNTPs/ATP(dNTPsとATPに対する基質特異性の比率)を測定した。測定には日立7080形自動分析機を使用した。パラメーターはサンプル20μl、R1として[組成物]を180μl、測定主波長は340nm、測定副波長は405nm、レートA、5分反応、測光ポイントは2−3とし、精製水によるブランクを差し引いた。試料として、1mMのdNTPsとATPを使用した。尚、レートA(Rate A)とは測定機器(日立7080形自動分析機)の測定方法の1つであり、日立7080形自動分析機の取扱説明書を参照すれば当業者なら理解出来る。その結果、NMNATase1−2、3−2、6−2のdNTPs/ATPは順に、1.7、1.3、0.8%であった。
[組成物]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
1mM β−ニコチンアミドモノヌクレオチド
2mM MgCl
1mM コール酸
5U/ml 12α−HSD(旭化成ファーマ社製)
1U/ml 実施例20で調整したNMNATase1−2、3−2、6−2
【0117】
[実施例22]
<ピロリン酸の測定1>
下記の[組成物]を作成し、ピロリン酸の測定方法を実施した。測定には日立7080形自動分析機を使用した。パラメーターはサンプル20μl、R1として[組成物A]を150μl、R2として[組成物B]を150μl、測定主波長は340nm、測定副波長は405nm、2ポイントエンド、10分反応、測光ポイントは16−31とし、精製水によるブランクを差し引いた。試料としてピロリン酸を図10の横軸の範囲となるよう
に調整して、測定した結果を図10に示した。本発明の組成物を使用して本発明の測定方法によりピロリン酸の測定が実施できた。図中○、△、□は順にPPDKの[組成物A]中の濃度1、5、10U/mlを示す。尚、2ポイントエンド(2point end)とは測定機器(日立7080形自動分析機)の測定方法の1つであり、日立7080形自動分析機の取扱説明書を参照すれば当業者なら理解出来る。
[組成物A]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
1mM PEP
1mM AMP
1mM MgCl
1、5、10U/ml 実施例7で調整した脱塩後のPPDK
[組成物B]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
1mM β−ニコチンアミドモノヌクレオチド
2mM MgCl
1mM コール酸
5U/ml 実施例20で調整したNMNATase3−2
5U/ml 12α−HSD(旭化成ファーマ社製)
【0118】
[実施例23]
<ピロリン酸の測定2>
下記の[組成物]を作成し、ピロリン酸の測定方法を実施した。測定には日立7080形自動分析機を使用した。パラメーターはサンプル20μl、R1として[組成物A]を150μl、R2として[組成物B]を150μl、測定主波長は546nm、測定副波長は660nm、レートA、10分反応、測光ポイントは27−30とし、精製水によるブランクを差し引いた。0から20μMのピロリン酸を試料とした場合の測定結果を図11の○で、0から40μMのピロリン酸を0.8mMのdNTPsと1:1で混合して試料とした場合の測定結果を図11の●で示した。0から20μMのピロリン酸を試料とした場合、Y=0.4X+5、R=0.996、0から40μMのピロリン酸を0.8mMのdNTPsと1:1で混合して試料とした場合、Y=0.4X+14、R=0.991、となり、dNTPsの共存下でも精度良くピロリン酸が測定できた。また、反応速度が等比級数的に時間とともに増大したので、本実施例の反応はサイクリング反応であることが確認された。
[組成物A]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
1mM PEP
1mM AMP
1mM MgCl
1U/ml 実施例7で調整したPPDK
[組成物B]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
1mM β−ニコチンアミドモノヌクレオチド
1mM MgCl
1mM コール酸
0.025% ニトロテトラゾリウムブルー
0.5U/ml 実施例20で調整したNMNATase3−2
5U/ml 12α−HSD(旭化成ファーマ社製)
5U/ml DI(旭化成ファーマ社製)
【0119】
[実施例24]
<ピロリン酸の測定3>
PCRによる核酸増幅反応中の被検液のピロリン酸濃度を測定した。PCRは、TOYOBO社製Blend Taqを使用して以下の[PCR mixture]で実施した。PCR条件は94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 1分を25サイクル実施し、図12の横軸に示した各サイクル数の時に[PCR mixture]を一部抜き取り被検液とし、下記の[組成物]でピロリン酸濃度を検出した。Templateは実施例20のpUC118/Sc6−2とし、配列表配列番号7の遺伝子を増幅した。増幅遺伝子は約1.5kbpであった。定量は、20μMのピロリン酸水溶液をキャリブレーターとして測定して被検液中のピロリン酸濃度を算出した。測定には日立7080形自動分析機を使用した。パラメーターはサンプルとして被検液を20μl、R1として[組成物A]を150μl、R2として[組成物B]を150μl、測定主波長は546nm、測定副波長は660nm、レートA、10分反応、測光ポイント27−30とし、0サイクル目の被検液の値をブランクとして差し引いた。
その結果を図12に示したように、本発明の組成物を使用してPCRによる核酸増幅反応中の被検液のピロリン酸濃度を、可視光で測定することができた。本発明の測定方法は、上記核酸増幅法による核酸増幅反応中の被検液を測定することにより、簡便なピロリン酸の生成量を指標とする核酸の測定方法として好適である事が確かめられた。また、反応速度が等比級数的に時間とともに増大したので、本実施例の反応はサイクリング反応であることが確認された。
[PCR mixture]
×10 Buffer for Blend Taq 10μl
2mM dNTPs 4μl
2.5U/μl Blend Taq polymerase 2μl
50μl プライマーM13Forward 2μl
50μl プライマーM13Reverse 2μl
200ng/μl TemplateDNA 1μl
蒸留水 79μl
[組成物A]
100mM HEPES/NaOH pH7.0
1mM PEP
1mM AMP
1mM MgCl
1U/ml 実施例7で調整したPPDK
[組成物B]
100mM HEPES/NaOH pH7.0
1mM β−ニコチンアミドモノヌクレオチド
1mM MgCl
1mM コール酸
0.025% ニトロテトラゾリウムブルー
0.5U/ml 実施例20で調整したNMNATase3−2
5U/ml 12α−HSD(旭化成ファーマ社製)
5U/ml DI(旭化成ファーマ社製)
【0120】
[実施例25]
<ピロリン酸の測定4>
PCRによる核酸増幅反応中の被検液中のピロリン酸濃度を測定した。測定方法は実施例24と同様である。Templateは実施例5のpUC118/TM0272とし、配列表配列番号2の遺伝子を増幅した。
その結果を図13に示した様に、本発明の組成物を使用してPCRによる核酸増幅反応中の被検液のピロリン酸濃度が可視光で測定できた。本発明の測定方法は、上記核酸増幅
法による核酸増幅反応中の被検液を測定することにより、簡便なピロリン酸の生成量を指標とする核酸の測定方法として好適である事が確かめられた。また、反応速度が等比級数的に時間とともに増大したので、本実施例の反応はサイクリング反応であることが確認された。
【0121】
[実施例26]
<PPDK発現の改良>
配列表配列番号1に示す遺伝子の中で、大腸菌において使用頻度が低いと考えられるコドン(AGA、AGG、ATA、CGG、CCC、CUA)全てを大腸菌において使用頻度が高いコドンに変換して配列表配列番号3の遺伝子を作成した。コドン変換は、合成プライマーを使用したPCRによる常法で行った。実施例2、3、5、6と同様の方法で粗精製液を得て、図14に示すSDS−PAGEで、配列表配列番号2の遺伝子によるPPDKの発現量(図中(A))と配列表配列番号3(図中(B))の遺伝子によるPPDKの発現量を比較した。配列表配列番号3の遺伝子によるPPDKの発現量は、配列表配列番号2の遺伝子によるPPDKの発現量に比べて改善された。又、配列表配列番号3の遺伝子によるPPDKの培養力価は、配列表配列番号2の遺伝子によるPPDKの培養力価に比べて約3倍高くなった。
【0122】
[実施例27]
<リアルタイムPCRとの比較>
PCRによる核酸増幅を、SYBR(登録商標)GreenIを用いた蛍光と、本発明のピロリン酸濃度測定方法を用いた可視光で検出して比較した。PCRはタカラバイオ株式会社のSYBR(登録商標)Premix Ex Taq(登録商標)を用いて、下記の[PCR mixture]を調整して行った。Templateは約220bpのフラグメントを挿入したpUC119を使用した。SYBR(登録商標)GreenIを用いたPCRは、タカラバイオ株式会社のSmart cycler(登録商標)II Systemを使用したリアルタイムPCRで蛍光を検出した。通常のPCRは、Applied Biosystems 9800 Fast サーマルサイクラーを使用した。各サイクル数の時に[PCR mixture]を一部抜き取り被検液とし、下記の[組成物]で日立7080形自動分析機を使用して、本発明のピロリン酸濃度測定方法を用いて、可視光で検出した。PCR条件は、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(登録商標)の取扱説明書に記載のSmart cycler(登録商標)II Systemの標準プロトコール、すなわち95℃10秒の後、95℃5秒と60℃20秒を40サイクル実施するシャトルPCRとした。Applied Biosystems 9800 Fast サーマルサイクラーを用いたPCR条件も同様であった。日立7080形自動分析機のパラメーターはサンプルとして被検液を20μl、R1として[組成物A]を100μl、R2として[組成物B]を50μl、測定主波長は546nm、測定副波長は660nm、レートA、10分反応、測光ポイント23−21とし、0サイクル目の被検液の値をブランクとして差し引いた。
その結果を図15に示した。図15中●がタカラバイオ株式会社のSmart cycler(登録商標)II Systemを使用したリアルタイムPCRによる核酸増幅を検出した結果で、○は本発明のピロリン酸濃度測定組成物とピロリン酸濃度測定方法を用いて核酸増幅を検出した結果である。リアルタイムPCRでは約15サイクル目から、本発明の測定方法は、約17サイクル目から核酸増幅を検出できた。このように、本発明の測定方法は、従来から汎用されているリアルタイムPCRとほぼ同時期に核酸増幅を検出することができ、しかも、本発明は可視光によるピロリン酸の生成量を指標とすることから、リアルタイムPCRよりも簡便に核酸を測定することができ、好適な測定方法であることが確かめられた。また、反応速度が等比級数的に時間とともに増大したので、本実施例の反応はサイクリング反応であることが確認された。
[PCR mixture]
×1 SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(登録商標)
0.2μM M13Forward Primer
0.2μM M13Reverce Primer
約50ng Template
[組成物A]
150mM HEPES/NaOH pH7.0
1.5mM PEP
1.5mM AMP
1.5mM MgCl
1.5U/ml 実施例7で調整したPPDK
[組成物B]
50mM HEPES/NaOH pH7.0
2mM β−ニコチンアミドモノヌクレオチド
2mM MgCl
2mM コール酸
0.05% ニトロテトラゾリウムブルー
1U/ml 実施例20で調整したNMNATase3−2
10U/ml 12α−HSD(旭化成ファーマ社製)
10U/ml DI(旭化成ファーマ社製)
【0123】
[実施例28]
<ピロリン酸の測定3>
下記の[組成物]を作成し、ピロリン酸の測定方法を実施した。測定には日立7080形自動分析機を使用した。パラメーターはサンプル20μl、R1として[組成物A]を150μl、R2として[組成物B]を150μl、測定主波長は546nm、測定副波長は660nm、レートA、10分反応、測光ポイントは27−30とし、精製水によるブランクを差し引いた。0から1μMのピロリン酸を試料とした場合の測定結果を図18の○で、0から2μMのピロリン酸を0.8mMのdNTPsと1:1で混合して試料とした場合の測定結果を図18の●で示した。0から1μMのピロリン酸を試料とした場合、Y=11.0X+0.8、R=0.998、0から2μMのピロリン酸を0.8mMのdNTPsと1:1で混合して試料とした場合、Y=9.84X+8.0、R=0.999、となり、dNTPsの共存下でも精度良くピロリン酸が測定できた。Myokinase(シグマ社製)、ADP−HKTII(ADP依存型のヘキソキナーゼ(旭化成ファーマ社製))は試料中のATPやdATPを消去するために添加した。P1,P5,−diadenosine−5’−pentaphosphate(Ap5A)はMyokinaseの阻害剤である。
[組成物A]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
0.2% TX−100
1mM PEP
1mM AMP
1mM MgCl
10mM Glucose
2U/ml ADP−HKTII
3U/ml Myokinase
[組成物B]
100mM HEPES/NaOH pH7.5
1mM β−ニコチンアミドモノヌクレオチド
1mM MgCl
5U/ml 12α−HSD
1mM コール酸
0.025% ニトロテトラゾリウムブルー
0.5U/ml 実施例20で調整したNMNATase3−2
5U/ml DI
0.2% TX−100
1U/ml 実施例7で調整したPPDK
40μM Ap5A
【産業上の利用可能性】
【0124】
高感度、簡便、且つ選択的なピロリン酸を測定する方法を提供できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)から(4)の各工程を含む試料中のピロリン酸の選択的な測定方法。
(1)試料中に含まれている可能性のあるピロリン酸を、少なくともAMPの存在下、ピルベートオルトホスフェートジキナーゼに接触させ、ATPを生成する第一の反応を含む工程;
(2)上記第一の反応により生ずるATPをニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼに接触させ、ピロリン酸とNAD類を生成する第二の反応を含む工程;
(3)上記第二の反応により生ずるNAD類をNADH類に還元する第三の反応を含む工程;
(4)上記第三の反応により生ずるNADH類を検出する工程;
【請求項2】
第三の反応により生ずるNADH類を検出する工程が、以下の工程を含む請求項1に記載の測定方法。
(5)ニトロブルーテトラゾリウム塩類の存在下、上記第三の工程により生ずるNADH類を還元型ニトロブルーテトラゾリウム塩とNAD類とする第四の反応を含む工程;
(6)上記第四の反応により生ずる還元型ニトロブルーテトラゾリウム塩類を検出する工程;
【請求項3】
第四の反応により生ずるNAD類を、第三の反応に用い、第三の反応と第四の反応の間でサイクリング反応をさせる請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
第二の反応により生ずるピロリン酸を、第一の反応に用い、第一の反応と第二の反応の間でサイクリング反応をさせる請求項1から3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
試料が、トリ燐酸化デオキシリボ核酸類(dNTPs)を含有する試料である、請求項1から4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、
〔1〕配列表配列番号6のアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素、
〔2〕配列表配列番号6のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素、
〔3〕dNTPsとATPに対する基質特異性の比率(dNTPsに対する基質特異性/ATPに対する基質特異性)が5%以下であり、第二の反応を触媒し得る酵素、
のいずれかの酵素である請求項1から5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法を用いて、核酸増幅された試料又は該試料から調製された試料中に存在するピロリン酸を測定することを特徴とする、核酸の検出又は定量方法。
【請求項8】
少なくとも以下の(1)から(7)を含む組成物。
(1)金属イオン
(2)AMP
(3)ホスホエノールピルビン酸
(4)ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ
(5)β−ニコチンアミドモノヌクレオチド類
(6)ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ
(7)NAD還元物質
【請求項9】
下記の(A)と(B)の2種の試薬を含む組成物。
(A)少なくとも以下の(1)から(4)を含む第1の試薬。
(1)金属イオン
(2)AMP
(3)ホスホエノールピルビン酸
(4)ピルベートオルトホスフェートジキナーゼ
(B)少なくとも以下の(5)から(7)を含む第2の試薬。
(5)β−ニコチンアミドモノヌクレオチド類
(6)ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ
(7)NAD還元物質
【請求項10】
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼが、
〔1〕配列表配列番号6のアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素、
〔2〕配列表配列番号6のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、第二の反応を触媒し得る酵素、
〔3〕dNTPsとATPに対する基質特異性の比率(dNTPsに対する基質特異性/ATPに対する基質特異性)が5%以下であり、第二の反応を触媒し得る酵素、
のいずれかの酵素である請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
核酸を検出又は定量するための組成物である、請求項8から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物を用いて請求項7に記載の方法を行うことを特徴とする、核酸の検出又は定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−225784(P2009−225784A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8421(P2009−8421)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【出願人】(591175332)イチビキ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】