説明

ピンによりロック可能なバランスシャフトを具備する熱機関

本発明は、クランクシャフト(12)と、エンジンブロックに固定されるカートリッジ(16)とを回転可能に受ける少なくとも一つのエンジンブロックを具備する熱機関(10)に関し、カートリッジ(16)は、クランクシャフト(12)によって回転させられる一対の平行なバランスシャフト、即ち一次側シャフト(26)と二次側シャフト(28)を回転可能に受ける。本発明はまた、クランクシャフト(12)に回転可能に接続し、一次側バランスシャフト(26)の一端(38)で支持される第一のピニオン(36)と恒久的に噛み合うリングギア(34)を具備している。加えて、一次側バランスシャフト(26)の末端(38)で支持される第二のピニオン(40)が、二次側バランスシャフト(28)の一端で支持されるピニオン(42)と噛み合う。本発明は、一次側(26)及び二次側(28)のバランスシャフトの末端(38、44)に横断ホール(46、48)が貫通しており、エンジンブロックにカートリッジ(16)を実装する際にはこれらホールが互いに整列してピン(50)を受けることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、自動車用の熱機関に関する。
具体的には、本発明は特に自動車用の熱機関に関し、本熱機関は、クランクシャフトと、エンジンブロックに固定されるハウジングとを回転可能に受ける少なくとも一つのエンジンブロックを具備し、ハウジングは、偏心ウエイトを備え且つクランクシャフトによって回転させられる一対の平行なバランスシャフト、即ち、一次側シャフトと二次側シャフトとを回転可能に受けるタイプであり、クランクシャフトに回転可能に接続するリングギアが一次側バランスシャフトの一端で支持される第一のピニオンと恒久的に噛み合うタイプであり、且つ一次側バランスシャフトの末端で支持される第二のピニオンが二次側バランスシャフトの一端で支持されるピニオンと噛み合うタイプである。
【0002】
エンジンブロックに取り付けられたハウジングによってバランスシャフトが支持される熱機関には、周知の事例が多数ある。
EP−A1−1 445 509は、ハウジングがバランスシャフトを駆動する中間シャフトを具備し、この中間シャフトが歯付きベルトによりエンジンのカムシャフトによって駆動されるエンジンを開示及び図示している。
【0003】
カムシャフトに対して中間シャフトの角度位置を正確に定めるために、中間シャフトの末端に二つの非対称のフラットが設けられており、このフラットは、取り付けの際に適切なスパナにより中間シャフトの位置を決める位置決め要素を形成している。
この解決法は、取付け作業を行うオペレータに様々な困難が生じるので好ましくない。
【0004】
この欠点を克服するため、本発明は、二つのバランスシャフト間に挿入された取り外し可能且つ再使用可能なピンによって、バランスシャフトの位置決めが事前に行われる構成を提案する。
このため、本発明は、上述のタイプのエンジンであって、一次側及び二次側のバランスシャフトの末端に横断ホールが貫通しており、バランサハウジングをエンジンブロックに取り付ける際には、これらのホールが一次側及び二次側のバランスシャフトの特定の位置において互いに整列することにより、取り外し可能な固定要素を受けることを特徴とするエンジンを提案する。
【0005】
本発明の他の特徴によれば、
− 取り外し可能な固定要素は、一方のバランスシャフトの一方の末端への嵌合手段を含む。
− 取り外し可能な固定要素はピンから成る。
− ピンは、ホールを貫通して伸びる第一の直線アームを有し、このアームは握りループによって第二のアームに接合され、第二のアームは前記バランスシャフトの末端の周囲と相補的な少なくとも一つの湾曲部を有するので嵌合手段を形成し、ピンは、弾性材料から作製されているので前記末端に嵌め込むことができる。
− ピン(50)が、ステンレススチールワイヤから成ることにより再使用可能である。
【0006】
本発明は、上述の種類のバランサハウジングを実装する方法にも関し、本方法は、少なくとも、
− 一次側及び二次側のシャフトの末端の横断ホールに固定要素を挿入する第一の工程、
− リングギアを特定の角度位置に調整してクランクシャフトに回転可能に接続する第二の工程、
− バランサハウジングをエンジンブロックに固定する第三の工程、及び
− 一次側及び二次側のシャフトの末端の横断ホールから固定要素を取り外す第四の工程
を含むことを特徴とする。
本発明の他の特徴及び利点は後述の詳細な説明から明らかにする。説明を分かり易くするために参照用の図面を添付する。
【実施例】
【0007】
後述の説明では、同じ参照番号は、同一又は類似の機能を持つ部品を示す。
図面は、特に自動車に取り付けられる熱機関10を部分的に示す。
【0008】
エンジン10は、クランクシャフト12を回転可能に受ける少なくとも一つのエンジンブロック(図示せず)を周知の方法で具備しており、クランクシャフトの一端には、車のエンジンフライホイールとクラッチ機構(図示せず)とを受けるハブ14が担持されている。
エンジン10は、バランサハウジングと呼ばれるハウジング16を周知の方式で具備しており、このハウジングはエンジンブロックのホール(図示せず)に入るスクリュー18によりエンジンブロックに固定されている。
【0009】
ハウジング16は、例えば、鋳造プロセスにより製作され、二つのケーシング22及び24を組み立てることにより作製されたベアリング20を有しており、このベアリングは一対の平行なバランスシャフト、即ち、一次側シャフト26と二次側シャフト28を回転可能に受ける。
一次側シャフト26及び二次側シャフト28の各々は、振動に対してエンジン10のバランスを取るための付属の偏心ウエイト30、32を備えており、両シャフトはクランクシャフト12によって回転させられる。
【0010】
このために、クランクシャフト12に回転可能に接続するリングギア34は、一次側バランスシャフト26の一の末端38に担持される第一のピニオン36と恒久的に噛み合い、一次側バランスシャフト26の前記末端38に担持される第二のピニオン40は、バランスシャフト28の一の末端44に担持されるピニオン42と噛み合う。
【0011】
本発明によれば、横断ホール46、48は、それぞれ、一次側バランスシャフト26及び二次側バランスシャフト28の末端38、44を貫通し、ハウジング16をエンジンブロックに実装する際にそれらホールが互いに整列することにより、
− エンジン10との組み立て位置に向かってハウジング16を搬送する間に、一次側バランスシャフト26及び二次側バランスシャフト28のピニオン36、40、及び42の歯に加わる衝撃を回避するため、
− 一次側バランスシャフト26に対する二次側バランスシャフト28の相対的な角度位置を予め決めるため、及び
− バランサハウジング16をエンジンブロックに実装する時、クランクシャフト12のリングギア34に対する一次側シャフト26及び二次側シャフト28の絶対的な角度位置を決めるため、前記ハウジング16に対するロック手段を用いずに、ハウジング16に対する一次側バランスシャフト26及び二次側バランスシャフト28の絶対的な角度位置を予め決めるため
に設けられた取り外し可能な固定要素50を受ける。
【0012】
有利には、取り外し可能な固定要素50が一方のバランスシャフトの一方の末端への嵌合手段52を具備することにより、搬送中に固定可能である。
具体的には、取り外し可能な固定要素50は、ホール46、48を貫通する第一の直線アーム54を具備するピン50から成り、この第一の直線アームは握りループ56により第二のアーム58に接合され、第二のアームは、バランスシャフトの前記末端の周囲と相補的な少なくとも一つの湾曲部62を含むことにより嵌合手段52を形成している。
【0013】
図示するように、第二のアーム58は、二次側バランスシャフト28の末端44の周囲と相補的な湾曲部62を含むが、この構成は本発明の限定的な特徴ではなく、湾曲部62は、本発明の特性を変更せずに、一次側バランスシャフト26の末端38と相互作用することができる。
本発明の好ましい実施形態では、ピン50を弾性材料から作製することにより、ピン50を二次側バランスシャフト28の末端44に嵌め込むことができる。
【0014】
有利には、ピン50をステンレススチールワイヤから作製することにより、数回に亘って再使用できる。
クランクシャフト12のリングギア34に対する一次側シャフト26及び二次側シャフト28の正確な角度位置を確実に決定するために、クランクシャフトのリングギア34と一次側バランスシャフト26の第一のピニオン36の間に何らかのマーキングシステムを用いる必要はない。実際に、ハウジング16の実装時に、クランクシャフト12に回転可能に接続する歯付きリングギア34の角度位置を決める必要があるだけである。
【0015】
二次側バランスシャフト28は、一次側バランスシャフト26と恒久的に噛み合い、且つハウジング16の実装中に一次側バランスシャフト26に対して規定の位置に前もって配置されるので、一次側バランスシャフト26に対する角度位置に正しく配置されることが明らかである。
この構造において、上述の種類のバランサハウジング16は、固定要素50を形成するピンを一次側シャフト26及び二次側シャフト28の末端38、44の横断ホール46、48に挿入する少なくとも第一の工程を含む実装方法によって実装することができる。
【0016】
この方法は、リングギア34を特定の角度位置に調整することにより、クランクシャフト12に回転可能に接続する第二の工程も含む。例示として、本発明を限定することなく、このような調整は、エンジンのピストンの一つの上死点又は下死点に付随する位置でエンジンのクランクシャフト12を調整することにより直接行うことができる。
この方法はまた、バランサハウジング16をエンジンブロックに固定する第三の工程を含む。
【0017】
最後に、本方法は、固定要素50を一次側シャフト26及び二次側シャフト28の末端38、44の横断ホール46、48から取り外す第四の工程を含む。
従って、本発明は、バランスシャフト26、28を担持するハウジング16を、実装前に簡単且つ効果的な方法で準備することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による熱機関の部分斜視図である。
【図2】図1の熱機関の部分側面図である。
【図3】図1の熱機関の部分的な正面拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に自動車用の熱機関(10)であって、前記熱機関は、クランクシャフト(12)と、エンジンブロックに固定されたバランサハウジング(16)とを回転可能に受ける少なくとも一つのエンジンブロックを具備し、バランサハウジング(16)が、一対の平行なバランスシャフト、即ち偏心ウエイト(30、32)を備え且つクランクシャフト(12)によって回転させられる一次側シャフト(26)と二次側シャフト(28)とを回転可能に受けるタイプであり、クランクシャフト(12)に回転可能に接続するリングギア(34)が一次側バランスシャフト(26)の一方の末端(38)に担持される第一のピニオン(36)と恒久的に噛み合うタイプであり、且つ一次側バランスシャフト(26)の前記末端(38)に担持される第二のピニオン(40)が二次側バランスシャフト(28)の一方の末端に担持されるピニオン(42)と噛み合うタイプであって、
一次側バランスシャフト(26)と二次側バランスシャフト(28)とを横断ホール(46、48)が貫通しており、バランサハウジング(16)がエンジンブロックに実装される際に、一次側バランスシャフト及び二次側バランスシャフトの特定の位置においてこれら横断ホールが互いに整列し、取り外し可能な固定要素(50)を受けることを特徴とする、熱機関(10)。
【請求項2】
取り外し可能な固定要素(50)が一方のバランスシャフトの一端への嵌合手段(52)を具備することを特徴とする、請求項1に記載の熱機関(10)。
【請求項3】
取り外し可能な固定要素(50)がピンから成ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱機関。
【請求項4】
ピン(50)が、ホール(46、48)を貫通し、握りループ(56)によって第二のアーム(58)に接合される第一の直線アーム(54)を具備し、第二のアーム(58)がバランスシャフト(28)の末端(44)の周囲と相補的な少なくとも一つの湾曲部(62)を具備することにより嵌合手段(52)を形成していること、並びにピン(50)が弾性材料から成ることにより前記末端(44)に嵌合可能であることを特徴とする、請求項3に記載の熱機関(10)。
【請求項5】
ピン(50)が、ステンレススチールワイヤから成ることにより再使用可能であることを特徴とする、請求項4に記載の熱機関(10)。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のバランサハウジング(16)を実装する方法であって、少なくとも
− 固定要素(50)を一次側シャフト(26)と二次側シャフト(28)の末端(38、44)に設けられた横断ホール(46、48)に挿入する第一の工程、
− リングギア(34)を特定の角度位置に調整してクランクシャフトに回転可能に接続する第二の工程、
− バランサハウジング(16)をエンジンブロックに固定する第三の工程、及び
− 固定要素(50)を一次側シャフト(26)と二次側シャフト(28)の末端(38、44)に設けられた横断ホール(46、48)から取り外す第四の工程
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−540957(P2008−540957A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510623(P2008−510623)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050436
【国際公開番号】WO2007/003812
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】