ピンチロールに加わるトルクに基づいて連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法
【課題】トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行い、トルクや湯面変動の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかを検知する。
【解決手段】ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、湯面変動幅をZa[mm]とすると共に、鋳片が圧延された圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合におけるトルク変動値をb[%]、湯面変動幅をZb[mm]とする。トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲を領域Bとし、領域B以外の領域であってトルク変動値N≧aの条件を満たす範囲を領域Aとする。鋳造中に測定されるトルク変動値Nが領域Bに属する場合には、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して(S46B)、当該トルク変動値Nが領域Aに属する場合には、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定する(S47B)。
【解決手段】ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、湯面変動幅をZa[mm]とすると共に、鋳片が圧延された圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合におけるトルク変動値をb[%]、湯面変動幅をZb[mm]とする。トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲を領域Bとし、領域B以外の領域であってトルク変動値N≧aの条件を満たす範囲を領域Aとする。鋳造中に測定されるトルク変動値Nが領域Bに属する場合には、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して(S46B)、当該トルク変動値Nが領域Aに属する場合には、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定する(S47B)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンチロールにより鋳片を所定の速度で引き抜く際の当該ピンチロールにおけるトルクに基づいて、連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する方法として、
(1)連続鋳造でのモールドからピンチロールまでの総理論引抜力と、ピンチロール駆動総電力及び引抜速度から求めた総実引抜力との差により異常発生を察知して、不良鋳片を減少させ設備故障を未然に防止する方法(例えば、特許文献1参照)や、
(2)凝固スラブを引き抜く引抜速度又はピンチロール駆動用モータ電流の変動値を用いて、鋳込速度を制御することにより、非接触方式で連続鋳造におけるブレークアウトを防止する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平03−009819号公報
【特許文献2】特開昭55−97857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1では、ピンチロールのみの異常検知判断しかなく、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断基準がない。また、設備故障として軸受けの割損やブレークアウトに対する所定の警報を発すること記載はあるものの、鋳型内凝固異常の検知やロールにスケールが堆積した等の検知に関する記載がない。また、この特許文献1では、総実引抜力と総理論引抜力との差が所定の許容値より大きい場合に、何らかの異常が発生しているとして警報を発するだけであって、当該差の大きさに応じて如何なる異常が発生しているのかは検知できない。このため、異常が発生していることが分かっても、すぐに適切な対応をとることが難しかった。
【0005】
また、上記特許文献2では、凝固スラブを引き抜く引抜速度又はピンチロール駆動用モータ電流の変動値による異常検知判断しかなく、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断基準がない。また、ブレークアウトに対する鋳造の制御方法に関する記載はあるものの、他の異常の検知に関する記載がなく、当該引抜速度や変動値の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかは検知できない。このため、異常が発生していることが分かっても、すぐに適切な対応をとることが難しかった。
【0006】
そこで、この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行い、当該トルクや湯面変動の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかを検知することが可能な異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の異常検知方法は、ピンチロールにより鋳片を所定の速度で引き抜く際の当該ピンチロールにおけるトルク、及び、鋳型内の湯面レベルを測定し記憶することが可能な連続鋳造設備において、鋳造中の定常状態において、以下のケース(1)及び(2)が発生した場合における前記ピンチロールのトルク変動値a[%]、b[%]、及び、前記鋳型内の湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]を定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、及び、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]に基づいて、領域A、領域B、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別する。
ただし、
ケース(1):複数のロールの内のいずれかのロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZa[mm]とする。
ケース(2):鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出されて、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合における当該部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする。
領域B:トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:前記領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]及びZb[mm]の内の小さい方の値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【0008】
この方法を用いることにより、トルク変動値Nや湯面変動幅Zといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができる。ここで、トルク変動値Nだけで異常検知を行う場合、電気的な誤検知により異常が発生していないにも関わらず、異常だと検知してしまうおそれがあるが、本発明のこの方法では、物理的な湯面変動も監視しているので、異常検知の確実性が向上する。
また、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、トルク変動値Nや湯面変動幅Zの大きさに応じて、如何なる異常(ここでは、ロールのスケール等の堆積、凝固組織起因の疵)が発生しているかを検知することができる。その結果、該当した異常に対して適切な処置を施すことができるので、鋳造中の異常として発生し得る前述した異常を早期に発見し、重大な品質及び設備のトラブルを未然に回避することができる。
また、重大な品質及び設備にトラブルを引き起こすブレークアウトの発生等は、異常検知の対象として一般的であるが、本発明では、ロールのスケール等の堆積や凝固組織起因の疵といった、従来では異常検知の対象となっていない異常も検知することが可能となる。
【0009】
上記した異常検知方法において、好ましくは、鋳造中の定常状態において、以下のケース(3)が発生した場合におけるトルク変動値c[%]、湯面変動幅Zc[mm]、及び、持続時間Tc[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、c[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]、及び、前記持続時間Tc[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域C、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Cに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかのベアリングに異常をきたしていると判定し、ロール設備の点検を行う。
ただし、
ケース(3):複数のロールの内のいずれかにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZc[mm]、トルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする。
領域C:トルク変動値N≧c、及び、持続時間T≧Tcの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]及びZc[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【0010】
この方法を用いることにより、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができる。
また、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tの大きさに応じて、如何なる異常(ここでは、ロールのスケール等の堆積、凝固組織起因の疵、ロールのベアリング異常)が発生しているかを検知することができる。その結果、該当した異常に対して適切な処置を施すことができるので、鋳造中の異常として発生し得る前述した異常を早期に発見し、重大な品質及び設備の異常を回避することができる。
【0011】
上記した異常検知方法において、好ましくは、鋳造中の定常状態において、以下のケース(4)が発生した場合におけるトルク変動値d[%]、湯面変動幅Zd[mm]、及び、持続時間Td[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、d[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zd[mm]、及び、前記持続時間Td[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域D、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Dに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判定し、直ちに鋳造を停止する。
ただし、
ケース(4):ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZd[mm]、トルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする。
領域D:トルク変動値N≧d、及び、持続時間T≧Tdの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]及びZd[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【0012】
この方法を用いることにより、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができる。
また、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tの大きさに応じて、如何なる異常(ここでは、ロールのスケール等の堆積、凝固組織起因の疵、ブレークアウト)が発生しているかを検知することができる。その結果、該当した異常に対して適切な処置を施すことができるので、鋳造中の異常として発生し得る前述した異常を早期に発見し、重大な品質及び設備のトラブルを未然に回避することができる。
【0013】
上記した異常検知方法において、好ましくは、鋳造中の定常状態において、以下のケース(3)及び(4)が発生した場合におけるトルク変動値c[%]、d[%]、湯面変動幅Zc[mm]、Zd[mm]、及び、持続時間Tc[sec]、Td[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、c[%]、d[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]、Zd[mm]、及び、前記持続時間Tc[sec]、Td[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域C、領域D、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Cに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかのベアリングに異常をきたしていると判定し、ロール設備の点検を行い、鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Dに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判定し、直ちに鋳造を停止する。
ただし、
ケース(3):複数のロールの内のいずれかにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZc[mm]、トルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする。
ケース(4):ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZd[mm]、トルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする。
領域D:トルク変動値N≧d、及び、持続時間T≧Tdの両条件を満たす範囲とする。
領域C:領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c、及び、持続時間T≧Tcの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]及びZd[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【0014】
この方法を用いることにより、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができる。
また、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tの大きさに応じて、如何なる異常(ここでは、ロールのスケール等の堆積、凝固組織起因の疵、ロールのベアリング異常、ブレークアウト)が発生しているかを検知することができる。その結果、該当した異常に対して適切な処置を施すことができるので、鋳造中の異常として発生し得る前述した異常を早期に発見し、重大な品質及び設備のトラブルを未然に回避することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明による異常検知方法では、上記のように、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行い、当該トルクや湯面変動の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】連続鋳造設備の全体概略図
【図2】鋳型及び浸漬ノズルの構成を示す図
【図3】連続鋳造設備のブロック図
【図4】第1実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図5】第1実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図6】トルク変動値a〜d及び持続時間Tc,Tdに基づいて定義される領域A〜Dの範囲を示したグラフ
【図7】実施例の各鋳造条件(i)〜(iii)について領域A〜Dの範囲を示したグラフ
【図8】第2実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図9】第2実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図10】トルク変動値a〜c及び持続時間Tcに基づいて定義される領域A〜Cの範囲を示したグラフ
【図11】実施例の各鋳造条件(i)〜(iii)について領域A〜Cの範囲を示したグラフ
【図12】第3実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図13】第3実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図14】トルク変動値a,b,d及び持続時間Tdに基づいて定義される領域A,B,Dの範囲を示したグラフ
【図15】実施例の各鋳造条件(i)〜(iii)について領域A,B,Dの範囲を示したグラフ
【図16】第4実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図17】第4実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
周知の通り、連続鋳造設備の鋳造経路に着目すると、湾曲型連続鋳造設備と垂直曲げ型連続鋳造設備なるものがある。前者は、鋳型から鋳造経路に沿って、円弧経路部と矯正経路部、水平経路部を有するものであり、後者は、上記円弧経路部の上流に垂直経路部を設け、溶鋼中の介在物浮上を図ったものである。また、連続鋳造設備の鋳造する鋳片の断面形状に着目すると、断面形状のアスペクト比が2以上であるスラブと2以下のブルーム、更に、断面形状が正方形であるビレットなるものがある。本願発明の適用対象は、上記の通りに列記したすべての連続鋳造設備であり、以下、本明細書では、一例として、本願発明をブルーム向けの垂直曲げ型連続鋳造設備に適用した例を説明する。
【0018】
以下、図1及び図2に基づいて、連続鋳造設備100と、その鋳型1及び浸漬ノズル2を概説する。
【0019】
連続鋳造設備100は、注湯される溶鋼を冷却して所定形状のシェルを形成するための鋳型1と、タンディッシュ9に保持される溶鋼を鋳型1へ所定流量で滑らかに注湯するための浸漬ノズル2と、鋳型1の直下から鋳造経路Qに沿って複数で並設されるロール対3と、を備える。鋳型1及び浸漬ノズル2の構成は図2に基づいて後で詳細に説明する。本実施形態において前記の鋳造経路Qは、略鉛直方向に延びる垂直経路部と、この垂直経路部に接続され、円弧状に延びる円弧経路部と、更にその下流側に設けられ、水平方向に延びる水平経路部と、前記の円弧経路部及び水平経路部とを滑らかに接続するための矯正経路部と、から成る。
【0020】
前記のロール対3の夫々は、鋳造対象としての鋳片を、両広面でもって挟持する一対のロール3a・3aから構成される。この一対のロール3a・3aのロール面間の最短距離としてのロールギャップ[mm]は適宜の手段により調節可能に構成される。
【0021】
また、前記の鋳造経路Qの前半には、鋳型1内で形成され、該鋳型1から引き抜かれる凝固シェルに対して所定の流量で冷却水を噴霧する冷却ノズル4が適宜に設けられる。一般に、前記の鋳型1が1次冷却帯と称されるのに対して、この意味で、冷却ノズル4が配される経路部は2次冷却帯と称される。
【0022】
鋳型1から引き抜かれ、鋳造経路Qに沿って搬送されるシェルは、自然放熱や、上記冷却ノズル4などにより更に冷却されて収縮する。従って、上記のロール対3のロールギャップ[mm]は、一般に、鋳造経路Qの下流側へ進むに連れて緩やかに狭くなるように設定される。
【0023】
以上の構成で、ブルームの連続鋳造を開始するには、鋳型1へ溶鋼を注湯する前に予め図略のダミーバーを前記の鋳造経路Q内に挿入しておき、浸漬ノズル2を介して鋳型1へ溶鋼を注湯し始めると共に上記ダミーバーを下流側へ引き抜く。この鋳型1への溶鋼の注湯量と、ダミーバーの引き抜き速度とは、鋳造速度が所定の鋳造速度に至るまでの間、漸増させる。そして、このダミーバーは、所定のメニスカス距離に到達したときに、適宜の手段により回収する。これで、ブルームが連続的に鋳造されるようになる。
【0024】
次に、上記の連続鋳造設備100の一般的な操業条件を簡単に紹介する。以下は、例示である。
・鋳型幅W[mm]は、250〜650とする。
・鋳型厚みD[mm]は、250〜650とする。
・鋳型高さH[mm]は、900〜1200とする。
・鋳造速度Vc[m/min]は、0.7〜1.0とする。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、0〜60とする。
・比水量Wt[L/kg.Steel]は、0.15〜1とする。
・鋳型内電磁攪拌強度M−EMS[gauss]は、0〜1000とする。
・溶鋼成分は、当事者間の協定に基づく。代表的な成分は、CやSi、Mnである。これに、CrやMoなどが適宜に添加される。その他の不可避の不純物を含む。
【0025】
ここで、各用語を簡単に説明する。
・鋳型幅W[mm]及び鋳型厚みD[mm]は、図2に示されるように、鋳型1の上端で特定される。
・鋳造速度Vc[m/min]は、鋳片の引抜速度であって、前記複数のロール対3のうち最上流に配されるロール対3のピンチロール3bの周速度で特定される。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、鋳型1内へ注湯される溶鋼の温度の指標である。
・比水量Wt[L/kg.Steel]は、鋼1kgに対して用いられる冷却水の容積を意味する。
・鋳型内電磁攪拌強度M−EMS[gauss]は、鋳型1内の溶鋼を攪拌するために作用される磁場の強度の指標である。
【0026】
<鋳型1>
次に、図2を参照しつつ鋳型1の構造を説明する。図2(a)に示されるように本実施形態に係る鋳型1は、鋳造される鋳片が断面矩形であってアスペクト比が2以下となる所謂ブルーム向けに構成される。この鋳型1は、一対で対向し、鋳型広面1aを構成する広面鋳型5と、広面鋳型5の間に配され、一対で対向し、鋳型狭面1bを構成する狭面鋳型6と、これら広面鋳型5及び狭面鋳型6を支持する図示しない鋳型フレームと、を主たる構成として備える。
【0027】
<浸漬ノズル2>
また、本実施形態において用いられる浸漬ノズル2は、有底円筒形状であって、一対の対向する溶鋼吐出孔7が内底よりも若干上方に形成される2孔式とされる。上記の浸漬ノズル2は、図2(b)に示されるように、一対の溶鋼吐出孔7が鋳型狭面1bに対して夫々対向するように鋳型1内に垂直にセットされる。換言すれば、浸漬ノズル2は、一対の溶鋼吐出孔7から吐出された溶鋼の流れが鋳型狭面1bに対して平面視で垂直に向かうように鋳型1内に垂直にセットされる。この状態で、浸漬ノズル2から鋳型1内へ溶鋼を注湯すると、浸漬ノズル2からの溶鋼流は先ず斜め下向きとなり、やがて鋳型狭面1bに衝突すると、上下方向に分岐し、もって、溶鋼の上昇流Qと下降流Rが形成される。このうち上昇流Qは、メニスカス近傍の溶鋼に対して熱を供給し、表面が凝固してしまう所謂皮張りを防ぐ役割を担っている。
【0028】
次に、本実施形態に係る連続鋳造設備100の更に具体的な構成を説明する。即ち、本実施形態ではピンチロール3bに加わるトルクを測定すべく、図1及び図3で略示の通り、ピンチロール3bを駆動するモータ11には、トルク検出器12が設けられると共に、鋳型1内の湯面レベルを検知すべく、湯面レベル計13が設けられている。なお、トルク検出器12によって取得されるトルク値、及び、湯面レベル計13によって取得される湯面レベル値は、経時的(例えば、1秒単位毎)に制御部20の記憶部21に蓄積される。なお、当該トルク値や湯面レベル値は、制御部20に接続されたプリンターやモニターなどの出力装置14によって出力されるようになっている。
【0029】
ここで、本実施形態では、図4及び図5のフローチャートを参照しつつ、連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明する。
【0030】
連続鋳造設備100では、ピンチロール3bにより鋳片を一定速度で引き抜く際に、当該ピンチロール3bに加わるトルクを測定し記録している(ステップS1)。具体的には、ピンチロール3bに加わるトルクがトルク検出器12によって検出され、当該トルク検出器12により検出されたトルク値が制御部20の記憶部21に逐次記憶される。
【0031】
次に、鋳造中の定常状態(鋳造において鋳造速度が略変動することなく一定な状態。以下、同じ。)において以下のケース(1)〜(4)が発生した場合におけるトルク変動値a,b,c,d[%]と、湯面変動幅Za,Zb,Zc,Zd[mm]と、持続時間Tc,Td[sec]とを、定義する(ステップS2)。まず、各用語の意味を定義しておく。
・トルク変動値[%]:所定時間あたりのトルクの変動の大きさを示す指標であって、定常状態での鋳造におけるトルク値の推移において、過去30秒間のトルク平均値を取り、(その時点での発生トルク値)÷(過去30秒間のトルク平均値)をトルク変動値[%]とする。
・湯面変動幅[mm]:湯面レベルの変動幅の大きさを示す指標であって、定常状態での鋳造における鋳型内の湯面レベル計から得られる信号により測定し、トルク変動が発生した時点から、その後3秒以内における湯面レベルの最大変動幅を湯面変動幅[mm]とする。
・持続時間[sec]:所定のレベル以上でトルクの変動が持続している時間を示す指標であって、トルク変動が発生した時刻を起点として、その起点より過去30秒間のトルク平均値に戻るまでの時間を持続時間[sec]とする。
【0032】
ケース(1)において、ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZa[mm]とする(ステップS2A)。具体的には、ケース(1)の事象が発生した期間におけるトルク変動値の最大値をa[%]とし、当該最大値a[%]が発生した時刻からその3秒後までの間における湯面レベルの最大変動幅をZa[mm]とする。
ここで言う“ロール”とは、鋳型下から鋳片を支えている全てのサポートロールを対象とする。
なお、スケールとは、鋳造時において鋳片表面が酸化し、酸化鉄として表層から剥離して発生したものを意味する。そのスケールは、一般的にスタンドのロールに巻き付いたりして堆積することがある。
このケース(1)においては、鋳造中の定常状態において明らかにロールにスケールが堆積しており、そのスケールを除去したらトルクが元に定常状態に戻った場合のみを採用する。
【0033】
ケース(2)において、鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする(ステップS2B)。具体的には、ケース(2)の事象が発生した期間におけるトルク変動値の最大値をb[%]とし、当該最大値b[%]が発生した時刻からその3秒後までの間における湯面レベルの最大変動幅をZb[mm]とする。
なお、凝固組織異常の検査方法は、後述する。
【0034】
ケース(3)において、ロールにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZc[mm]、及び、そのトルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする(ステップS2C)。具体的には、ケース(3)の事象が発生した期間におけるトルク変動値の最大値をc[%]とし、当該最大値c[%]が発生した時刻からその3秒後までの間における湯面レベルの最大変動幅をZc[mm]とし、当該最大値c[%]が発生した時刻を起点として、その起点より過去30秒間のトルク平均値に戻るまでの時間をTc[sec]とする。
なお、ロールにおけるベアリング異常とは、鋳型下から鋳片を支えている全てのサポートロールを対象として、軸受の割損を発見した場合を意味する。
このケース(3)においては、鋳造中の定常状態において明らかにロールの軸受が割損している状態で鋳造していたことを確認し、その後、当該ロールを取り替える等により回復させるとトルクが元の定常状態に戻った場合のみを採用する。
【0035】
ケース(4)において、鋳造中においてブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZd[mm]、及び、そのトルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする(ステップS2D)。具体的には、ケース(4)の事象が発生した期間におけるトルク変動値の最大値をd[%]とし、当該最大値d[%]が発生した時刻からその3秒後までの間における湯面レベルの最大変動幅をZd[mm]とし、当該最大値d[%]が発生した時刻を起点として、その起点より過去30秒間のトルク平均値に戻るまでの時間をTd[sec]とする。
なお、ブレークアウトとは、鋳型内での冷却において表層部の凝固シェルが破れ内部溶鋼が流出する現象を意味する。ブレークアウトが発生し外部へ流出した溶鋼が周囲のロールやスタンドなどを焼損させると鋳造停止などを余儀なくされ、かつ復旧に長時間を要することとなる。
このケース(4)においては、鋳造中の定常状態において明らかにブレークアウトが発生したことを確認し、その後、鋳型やスタンド等を元の状態に戻したときにトルクが元の定常状態に戻った場合のみを採用する。
【0036】
次に、上記した湯面変動幅Za,Zb,Zc,Zdの中で最も小さい値をZxとする(ステップS3)。但し、湯面変動幅最小値Zxは、0より大きいとする。湯面変動幅については、必ずしもZa<Zb<Zc<Zdとは、なり得ない場合もある。そのため、トルク変動に連動して湯面変動が発生することを捕らえるために湯面変動条件として各条件のうち最小値を採用し、何らかの異常が発生したことの指標とする。
【0037】
そして、トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、以下のように領域A〜Dを設定する(ステップS4)。
具体的には、図6に示すように、
トルク変動値N≧d、且つ、持続時間T≧Tdで囲まれる範囲を領域を領域Dとし、
領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c、且つ、持続時間T≧Tcで囲まれる範囲を領域Cとし、
領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bで囲まれる範囲を領域Bとし、
領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aで囲まれる範囲を領域Aとする。
【0038】
そして、鋳造中において測定されるトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が上記した領域A〜Dのいずれかに属する場合には、その属する領域A〜Dに応じて、各対処を施す(ステップS5)。以下、詳細に説明する。
【0039】
まず、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、それぞれ、トルク変動値N≧d、且つ、湯面変動幅Z≧Zx、且つ、持続時間T≧Tdの条件を満たす場合には(ステップS6:Yes)、当該測定値N,Z,Tが領域Dに属していると判断され(ステップS6A)、作業者は、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判断して直ちに鋳造を停止する(対処方法1;ステップS6B)。
【0040】
上記ステップS6において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、領域Dに属しない場合(ステップS6:No)には、当該測定値N,Z,Tが、それぞれ、トルク変動値N≧c、且つ、湯面変動幅Z≧Zx、且つ、持続時間T≧Tcの条件を満たすか否かを判断して(ステップS7)、当該条件を満たす場合には(ステップS7:Yes)、測定値N,Z,Tが領域Cに属していると判断される(ステップS7A)。そして、作業者は、いずれかのロールのベアリングに異常をきたしていると判定し、当該チャージ(当該判定がなされた時点でタンディッシュ内に注湯されているチャージ)が終了後に鋳造を停止し、ロール設備の点検を行う(対処方法2;ステップS7B)。
【0041】
上記ステップS7において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、領域Cに属しない場合(ステップS7:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧b、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS8)、当該条件を満たす場合には(ステップS8:Yes)、測定値N,Z,Tが領域Bに属していると判断される(ステップS8A)。そして、作業者は、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定し、製品から除外選別する(対処方法3;ステップS8B)。
【0042】
上記ステップS8において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Bに属しない場合(ステップS8:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧a、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS9)、当該条件を満たす場合には(ステップS9:Yes)、測定値N,Zが領域Aに属していると判断される(ステップS9A)。そして、作業者は、いずれかのロールにスケール等の堆積があると判定し、ロール設備の点検を行ってスケールを除去する(対処方法4;ステップS9B)。
【0043】
そして、上記ステップS9において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Aに属しない場合(ステップS9:No)には、鋳造をそのまま継続する(ステップS10)。
【実施例1】
【0044】
以下、第1実施形態に係る異常検知方法の技術的効果を確認するために行った実施例について説明する。下記の試験では、鋳造中の定常状態において、鋳造条件として、鋳造速度[m/min]、2次冷却水比水量[L/kg.Steel]、鋳造鋼種%[C]の各条件(i)〜(iii)を記録し、且つ、鋳造結果において発生した不具合状況(スケール堆積発生、表面疵発生、ベアリング異常発生、ブレークアウト発生)の際におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を記憶した。鋳造条件(i)〜(iii)は、表1〜表3に示す通りである。
【0045】
<ケース(1):スケール堆積発生>
いずれかのロールにおけるスケールの堆積が発生したときのトルク変動値及び湯面変動幅を表1に示す。ここで、表1に示されるトルク変動値をa[%]、湯面変動幅をZa[mm]と定義した。
【0046】
【表1】
【0047】
<ケース(2):表面疵発生>
鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合において、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値及び湯面変動幅を表2に示す。ここで、表2に示されるトルク変動値をb[%]、湯面変動幅をZb[mm]と定義した。
【0048】
【表2】
【0049】
<ケース(3):ベアリング異常発生>
いずれかのロールにおいてベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を表3に示す。ここで、表3に示されるトルク変動値をc[%]、その持続時間をTc[sec]、湯面変動幅をZc[mm]と定義した。
【0050】
【表3】
【0051】
<ケース(4):ブレークアウト発生>
ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を表4に示す。ここで、表4に示されるトルク変動値をd[%]、その持続時間をTd[sec]、湯面変動幅をZd[mm]と定義した。
【0052】
【表4】
【0053】
そして、上記のように定義した湯面変動幅Za〜Zd[mm]の中で最も小さい値をZx[mm]と定義した。その結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、各条件(i)〜(iii)毎に以下のように領域A〜Dを設定した。具体的には、
条件(i)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(25.0)、且つ、持続時間T≧Td(8.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Cを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c(18.0)、且つ、持続時間T≧Tc(5.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(6.4)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Dを示したグラフを図7(a)に示す。
【0056】
また、条件(ii)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(28.0)、且つ、持続時間T≧Td(10.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Cを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c(20.0)、且つ、持続時間T≧Tc(6.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(13.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(7.2)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Dを示したグラフを図7(b)に示す。
【0057】
また、条件(iii)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(24.0)、且つ、持続時間T≧Td(11.2)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Cを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c(22.0)、且つ、持続時間T≧Tc(7.2)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.8)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(5.0)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Dを示したグラフを図7(c)に示す。
【0058】
鋳造中において測定されるトルク変動値N、その持続時間T、湯面変動幅Zが、上記のように設定した領域に属する場合には、各領域に応じて以下の対処を施した。以下、具体的に説明する。
【0059】
実施条件(i)において、湯面変動幅が15[mm]、トルク変動値が26[%]で、持続時間が8[sec]以上となったため、急遽鋳造を停止した。当該鋳片を確認すると湯漏れの跡が発生していた。これにより、ブレークアウトを防止することができた。なお、湯面変動幅が15[mm]、トルク変動値が26[%]で、持続時間が8[sec]以上となったまま、そのまま鋳造を継続したところ、ブレークアウトが発生し、設備故障の長期鋳造停止となった。なお、“湯漏れ”とは、軽度のブレークアウトであって、溶鋼が凝固シェルから若干滲み出したような形跡を意味する。
【0060】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が11[mm]、トルク変動値が21[%]で、持続時間が8[sec]以上となったため、当該チャージを修了した後にロール設備の点検を行ったところ、引き抜きロールのベアリングの一部が破損していた。これにより、損傷が一部であったため、該当するロールの取替えのみで復旧には長時間がかからずに済んだ。なお、湯面変動幅が8[mm]、トルク変動値が20[%]で、持続時間が6.5[sec]以上となったまま、そのまま鋳造を継続したところ、その後、25チャージ鋳造して鋳造停止した後にロール設備の点検を行ったところ、複数のロールベアリングが破損しており、設備復旧に長時間を要した。
【0061】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が15[%]となったため、該当部位の表面を調査したところ、凝固組織に起因した疵が発生していたので、当該部位を製品から除外選別した。なお、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が14[%]となったが、該当部位をそのまま鋳造を継続したところ、凝固組織異常起因の表面疵による不具合が発生した。
【0062】
実施条件(iii)において、湯面変動幅が5[mm]、トルク変動値が6[%]となったため、ロール設備の点検を行ったところ、ロールにスケールが堆積しており、スケールを除去するとトルク変動値が下がった。なお、湯面変動幅が3.5[mm]、トルク変動値が8[%]となったが、そのまま鋳造を継続したところ、ロールと鋳片との間にスケールが押し込まれて鋳片表面が凹み、表面疵による不具合が発生した。
【0063】
<実施条件>
ここで、上記した実施例の実施条件を紹介しておく。
鋳型寸法[mm]:幅430×厚み300
鋳型高さ:900mm,1200mm
型式:垂直曲げ型連鋳機
鋳造速度[m/min]:条件(i)〜(iii)に記載(表1〜表3参照)
2次冷却水比水量[L/kg.Steel]:条件(i)〜(iii)に記載(表1〜表3参照)
鋳造鋼種%[C]:条件(i)〜(iii)に記載(表1〜表3参照)
表面疵検査方法:ビレット(断面155mm×155mm)に圧延した段階において表面を観察し、線状の割れ疵の有無を調査した。
割れ疵があった場合には、割れ部分の断面観察を行い、当該割れ部分のサルファプリントにて、C,S濃度の偏析が認められた場合には、凝固組織異常と判断した。サルファプリント方法については、JIS規格(規格番号:JIS G 0560 標題:鋼のサルファプリント試験方法)に準じて行った。
鋳型内に置いて初期の凝固シェル厚みが不均一になると応力集中を生じ、これに起因した微小な割れが発生する。割れ近傍および先端部には、成分の偏析がみられるため、今回は割れ近傍におけるC,S濃度の偏析度を確認し、偏析が認められた場合には不均一凝固による割れであると判断した。上記内容は、糸山誓司著、「鉄鋼便覧(第2巻)12.5.1+鋳片の表面品質(追補)」、第4版(CD−ROM版)、(社)日本鉄鋼協会、2002年7月、P65」に記載されており、公知のものである。
圧延方法:連続鋳造にて得られた鋼塊を600℃〜800℃の温度で加熱炉へ挿入して1200℃〜1300℃まで加熱後、分塊圧延し、155mm角の鋼片とした。それ以外の制御については、当業者常法通りに熱間圧延して鋼片とした。
<第1実施形態の効果>
【0064】
本実施形態では、上記のように、鋳造条件(i)〜(iii)毎に領域A〜Dを設定し、その領域に該当した処置を施すことによって、鋳造中の異常として発生し得る以下の項目を早期に発見し、重大な品質及び設備のトラブルを未然に回避することができる。
1)鋳造時におけるブレークアウト
2)ロールベアリング破損
3)凝固起因の表面疵
4)スケールがロールに堆積して押し込まれることにより発生する凹み疵の発生
以下、各項目の効果を詳細に説明する。
【0065】
ブレークアウトが発生すると、鋳型より下の連鋳機設備が湯漏れした溶鋼によって損傷し、使用できなくなるだけでなく、設備の復旧に長時間がかかることになる。従って、ブレークアウトを防止することによって、連鋳機設備の保全や休止時間の削減に寄与することができる。
【0066】
また、ロールのベアリング破損が発生すると、基本的には該当するロールの取替を行い設備復旧させることとなるが、ある一つのロールのベアリング破損を早期に発見できないと、残りのサポートロールに負荷がかかり、複数のロールで連鎖的にベアリングの破損を発生させてしまう危険性がある。複数のロールにベアリング破損が発生すると、設備復旧に長時間をかかることになる。従って、ロールのベアリング破損を早期発見することによって、連鋳機設備の保全や休止時間の削減に寄与することができる。
【0067】
また、凝固起因の表面疵やスケール堆積によって発生する凹み疵が流出すると、圧延工程でさらに割れ疵が拡大して不良品を発生させてしまうか、最悪の場合、更に後工程の製品製造段階で発見された際には下品として扱われ、その部品製造にかかったコストが無駄になってしまう。従って、当該異常を防止することによって、後工程での不良発見を防止し、製品の製造コスト低減に寄与することができる。
【0068】
また、本実施形態では、トルク変動値Nや湯面変動幅Zといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができるので、正確な異常検知を実現することができる。具体的には、ピンチロールの電流値や湯面変動幅の大きさだけでは予見することができないスケール堆積発生、凝固起因の表面疵、ベアリング異常、ブレークアウトを、湯面変動幅とトルク変動値との2つの指標を用いることにより、上記した異常の予見が可能となるので、当該異常を防ぐことが可能となる。ここで、トルク変動値だけで異常検知を行う場合、電気的な誤検知により異常が発生していないにも関わらず、異常だと検知してしまうおそれがあるが、本実施形態のこの方法では、物理的な湯面変動も監視しているので、異常検知の確実性が向上する。
【0069】
また、本実施形態では、過去の操業実績に基づいて異常の種類とトルク変動値とを対応付けして、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、鋳造時にトルク変動が生じた場合に、如何なる異常が発生したのか予測し得る。
【0070】
また、本実施形態では、ベアリング異常やブレークアウトだけでなく、ロールのスケール等の堆積や凝固組織起因の疵といった、従来では異常検知の対象となっていない異常も検知することが可能となる。
【0071】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を、図8及び図9のフローチャートを参照して説明する。この第2実施形態に係る異常検知方法では、上記第1実施形態では予見可能であったブレークアウト発生の異常については検知せず、スケール堆積発生、表面疵発生、及び、ベアリング異常発生の3つの異常を予見可能である。なお、この第2実施形態では、上記した第1実施形態と同様の手順については、適宜省略する。
【0072】
連続鋳造設備100では、ピンチロールにより鋳片を一定速度で引き抜く際に、当該ピンチロールに加わるトルクを測定し記録している(ステップS21)。
【0073】
次に、鋳造中の定常状態において以下のケース(1)〜(3)が発生した場合におけるトルク変動値a,b,c[%]と、湯面変動幅Za,Zb,Zc[mm]と、持続時間Tc[sec]とを、定義する(ステップS22)。
【0074】
ケース(1)において、ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZa[mm]とする(ステップS22A)。
ケース(2)において、鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする(ステップS22B)。
ケース(3)において、ロールにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZc[mm]、及び、そのトルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする(ステップS22C)。
【0075】
次に、上記した湯面変動幅Za,Zb,Zcの中で最も小さい値をZxとする(ステップS23)。但し、湯面変動幅最小値Zxは、0より大きいとする。
【0076】
そして、トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、以下のように領域A〜Cを設定する(ステップS24)。
具体的には、図10に示すように、
トルク変動値N≧c、且つ、持続時間T≧Tcで囲まれる範囲を領域Cとし、
領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bで囲まれる範囲を領域Bとし、
領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aで囲まれる範囲を領域Aとする。
【0077】
そして、鋳造中において測定されるトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が上記した領域A〜Cのいずれかに属する場合には、その属する領域A〜Cに応じて、各対処を施す(ステップS25)。以下、詳細に説明する。
【0078】
まず、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、それぞれ、トルク変動値N≧c、且つ、湯面変動幅Z≧Zx、且つ、持続時間T≧Tcの条件を満たす場合には(ステップS26:Yes)、当該測定値N,Z,Tが領域Cに属していると判断され(ステップS26A)、作業者は、いずれかのロールのベアリングに異常をきたしていると判定し、当該チャージが終了後に鋳造を停止し、ロール設備の点検を行う(対処方法2;ステップS26B)。
【0079】
上記ステップS26において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、領域Cに属しない場合(ステップS26:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧b、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS27)、当該条件を満たす場合には(ステップS27:Yes)、測定値N,Z,Tが領域Bに属していると判断される(ステップS27A)。そして、作業者は、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定し、製品から除外選別する(対処方法3;ステップS27B)。
【0080】
上記ステップS27において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Bに属しない場合(ステップS27:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧a、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS28)、当該条件を満たす場合には(ステップS28:Yes)、測定値N,Zが領域Aに属していると判断される(ステップS28A)。そして、作業者は、いずれかのロールにスケール等の堆積があると判定し、ロール設備の点検を行ってスケールを除去する(対処方法4;ステップS28B)。
【0081】
そして、上記ステップS28において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Aに属しない場合(ステップS28:No)には、鋳造をそのまま継続する(ステップS29)。
【実施例2】
【0082】
以下、第2実施形態に係る異常検知方法の技術的効果を確認するために行った実施例について説明する。下記の試験では、鋳造中の定常状態において、鋳造条件として、鋳造速度[m/min]、2次冷却水比水量[L/kg.Steel]、鋳造鋼種%[C]の各条件(i)〜(iii)を記録し、且つ、鋳造結果において発生した不具合状況(スケール堆積発生、表面疵発生、ベアリング異常発生)の際におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を記憶した。鋳造条件、並びに、当該不具合状況の際において定義したトルク変動値a,b,c[%]、その持続時間Tc[sec]、及び、湯面変動幅Za,Zb,Zc[mm]は、第1実施形態の実施例と同様であるのでその説明を省略する(表1〜表3参照)。
【0083】
そして、定義した湯面変動幅Za〜Zc[mm]の中で最も小さい値をZx[mm]と定義した。その結果を表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、各条件(i)〜(iii)毎に以下のように領域A〜Cを設定した。具体的には、
条件(i)では、
領域Cを、トルク変動値N≧c(18.0)、且つ、持続時間T≧Tc(5.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(6.4)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Cを示したグラフを図11(a)に示す。
【0086】
また、条件(ii)では、
領域Cを、トルク変動値N≧c(20.0)、且つ、持続時間T≧Tc(6.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(13.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(7.2)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Cを示したグラフを図11(b)に示す。
【0087】
また、条件(iii)では、
領域Cを、トルク変動値N≧c(22.0)、且つ、持続時間T≧Tc(7.2)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.8)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(5.0)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Cを示したグラフを図11(c)に示す。
【0088】
鋳造中において測定されるトルク変動値N、その持続時間T、湯面変動幅Zが、上記のように設定した領域に属する場合には、各領域に応じて以下の対処を施した。以下、具体的に説明する。
【0089】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が11[mm]、トルク変動値が21[%]で、持続時間が8[sec]以上となったため、当該チャージを修了した後にロール設備の点検を行ったところ、引き抜きロールのベアリングの一部が破損していた。これにより、損傷が一部であったため、該当するロールの取替えのみで復旧には長時間がかからずに済んだ。なお、湯面変動幅が8[mm]、トルク変動値が20[%]で、持続時間が6.5[sec]以上となったまま、そのまま鋳造を継続したところ、その後、25チャージ鋳造して鋳造停止した後にロール設備の点検を行ったところ、複数のロールベアリングが破損しており、設備復旧に長時間を要した。
【0090】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が15[%]となったため、該当部位の表面を調査したところ、凝固組織に起因した疵が発生していたので、当該部位を製品から除外選別した。なお、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が14[%]となったが、該当部位をそのまま鋳造を継続したところ、凝固組織異常起因の表面疵による不具合が発生した。
【0091】
実施条件(iii)において、湯面変動幅が5[mm]、トルク変動値が6[%]となったため、ロール設備の点検を行ったところ、ロールにスケールが堆積しており、スケールを除去するとトルク変動値が下がった。なお、湯面変動幅が3.5[mm]、トルク変動値が8[%]となったが、そのまま鋳造を継続したところ、ロールと鋳片との間にスケールが押し込まれて鋳片表面が凹み、表面疵による不具合が発生した。
【0092】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を、図12及び図13のフローチャートを参照して説明する。この第3実施形態に係る異常検知方法では、上記第1実施形態では予見可能であったロールにおけるベアリングの異常については検知せず、スケール堆積発生、表面疵発生、及び、ブレークアウト発生の3つの異常を予見可能である。なお、この第3実施形態では、上記した第1実施形態と同様の手順については、適宜省略する。
【0093】
連続鋳造設備100では、ピンチロールにより鋳片を一定速度で引き抜く際に、当該ピンチロールに加わるトルクを測定し記録している(ステップS31)。
【0094】
次に、鋳造中の定常状態において以下のケース(1),(2)及び(4)が発生した場合におけるトルク変動値a,b,d[%]と、湯面変動幅Za,Zb,Zd[mm]と、持続時間Td[sec]とを、定義する(ステップS32)。
【0095】
ケース(1)において、ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZa[mm]とする(ステップS32A)。
ケース(2)において、鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする(ステップS32B)。
ケース(4)において、鋳造中においてブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZd[mm]、及び、そのトルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする(ステップS32D)。
【0096】
次に、上記した湯面変動幅Za,Zb,Zdの中で最も小さい値をZxとする(ステップS33)。但し、湯面変動幅最小値Zxは、0より大きいとする。
【0097】
そして、トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、以下のように領域A,B及びDを設定する(ステップS34)。
具体的には、図14に示すように、
トルク変動値N≧d、且つ、持続時間T≧Tdで囲まれる範囲を領域Dとし、
領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧bで囲まれる範囲を領域Bとし、
領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aで囲まれる範囲を領域Aとする。
【0098】
そして、鋳造中において測定されるトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が上記した領域A,B及びDのいずれかに属する場合には、その属する領域A,B及びDに応じて、各対処を施す(ステップS35)。以下、詳細に説明する。
【0099】
まず、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、それぞれ、トルク変動値N≧d、且つ、湯面変動幅Z≧Zx、且つ、持続時間T≧Tdの条件を満たす場合には(ステップS36:Yes)、当該測定値N,Z,Tが領域Dに属していると判断され(ステップS36A)、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判断して直ちに鋳造を停止する(対処方法1;ステップS36B)。
【0100】
上記ステップS36において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、領域Dに属しない場合(ステップS36:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧b、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS37)、当該条件を満たす場合には(ステップS37:Yes)、測定値N,Z,Tが領域Bに属していると判断される(ステップS37A)。そして、作業者は、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定し、製品から除外選別する(対処方法3;ステップS37B)。
【0101】
上記ステップS37において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Bに属しない場合(ステップS37:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧a、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS38)、当該条件を満たす場合には(ステップS38:Yes)、測定値N,Zが領域Aに属していると判断される(ステップS38A)。そして、作業者は、いずれかのロールにスケール等の堆積があると判定し、ロール設備の点検を行ってスケールを除去する(対処方法4;ステップS38B)。
【0102】
そして、上記ステップS38において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Aに属しない場合(ステップS38:No)には、鋳造をそのまま継続する(ステップS39)。
【実施例3】
【0103】
以下、第3実施形態に係る異常検知方法の技術的効果を確認するために行った実施例について説明する。下記の試験では、鋳造中の定常状態において、鋳造条件として、鋳造速度[m/min]、2次冷却水比水量[L/kg.Steel]、鋳造鋼種%[C]の各条件(i)〜(iii)を記録し、且つ、鋳造結果において発生した不具合状況(スケール堆積発生、表面疵発生、ブレークアウト発生)の際におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を記憶した。鋳造条件、並びに、当該不具合状況の際において定義したトルク変動値a,b,d[%]、その持続時間Td[sec]、及び、湯面変動幅Za,Zb,Zd[mm]は、第1実施形態の実施例と同様であるのでその説明を省略する(表1〜表3参照)。
【0104】
そして、定義した湯面変動幅Za,Zb,Zd[mm]の中で最も小さい値をZx[mm]と定義した。その結果を表7に示す。
【0105】
【表7】
【0106】
トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、各条件(i)〜(iii)毎に以下のように領域A,B及びDを設定した。具体的には、
条件(i)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(25.0)、且つ、持続時間T≧Td(8.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(6.4)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A,B及びDを示したグラフを図15(a)に示す。
【0107】
また、条件(ii)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(28.0)、且つ、持続時間T≧Td(10.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧b(13.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(7.2)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A,B及びDを示したグラフを図15(b)に示す。
【0108】
また、条件(iii)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(24.0)、且つ、持続時間T≧Td(11.2)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.8)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(5.0)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A,B及びDを示したグラフを図15(d)に示す。
【0109】
鋳造中において測定されるトルク変動値N、その持続時間T、湯面変動幅Zが、上記のように設定した領域に属する場合には、各領域に応じて以下の対処を施した。以下、具体的に説明する。
【0110】
実施条件(i)において、湯面変動幅が15[mm]、トルク変動値が26[%]で、持続時間が8[sec]以上となったため、急遽鋳造を停止した。当該鋳片を確認すると湯漏れの跡が発生していた。これにより、ブレークアウトを防止することができた。なお、湯面変動幅が15[mm]、トルク変動値が26[%]で、持続時間が8[sec]以上となったまま、そのまま鋳造を継続したところ、ブレークアウトが発生し、設備故障の長期鋳造停止となった。
【0111】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が15[%]となったため、該当部位の表面を調査したところ、凝固組織に起因した疵が発生していたので、当該部位を製品から除外選別した。なお、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が14[%]となったが、該当部位をそのまま鋳造を継続したところ、凝固組織異常起因の表面疵による不具合が発生した。
【0112】
実施条件(iii)において、湯面変動幅が5[mm]、トルク変動値が6[%]となったため、ロール設備の点検を行ったところ、ロールにスケールが堆積しており、スケールを除去するとトルク変動値が下がった。なお、湯面変動幅が3.5[mm]、トルク変動値が8[%]となったが、そのまま鋳造を継続したところ、ロールと鋳片との間にスケールが押し込まれて鋳片表面が凹み、表面疵による不具合が発生した。
【0113】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を、図16及び図17のフローチャートを参照して説明する。この第4実施形態に係る異常検知方法では、上記第1実施形態では予見可能であったベアリング異常の発生及びブレークアウト発生の異常については検知せず、スケール堆積発生、及び、表面疵発生2つの異常を予見可能である。なお、この第4実施形態では、上記した第1実施形態と同様の手順については、適宜省略する。
【0114】
連続鋳造設備100では、ピンチロールにより鋳片を一定速度で引き抜く際に、当該ピンチロールに加わるトルクを測定し記録している(ステップS41)。
【0115】
次に、鋳造中の定常状態において以下のケース(1)及び(2)が発生した場合におけるトルク変動値a,b[%]と、湯面変動幅Za,Zb[mm]とを、定義する(ステップS42)。
【0116】
ケース(1)において、ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZa[mm]とする(ステップS42A)。
ケース(2)において、鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする(ステップS42B)。
【0117】
次に、上記した湯面変動幅Za,Zbの中で小さい方の値をZxとする(ステップS43)。但し、湯面変動幅最小値Zxは、0より大きいとする。
【0118】
そして、トルク変動値Nの大きさに応じて、以下のように領域A及びBを設定する(ステップS44)。
具体的には、
トルク変動値N≧bで囲まれる範囲を領域Bとし、
領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aで囲まれる範囲を領域Aとする。
【0119】
そして、鋳造中において測定されるトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が上記した領域A及びBのいずれかに属する場合には、その属する領域A及びBに応じて、各対処を施す(ステップS45)。以下、詳細に説明する。
【0120】
まず、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、それぞれ、トルク変動値N≧c、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たす場合には(ステップS46:Yes)、当該測定値N,Zが領域Bに属していると判断され(ステップS46A)、作業者は、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定し、製品から除外選別する(対処方法3;ステップS46B)。
【0121】
上記ステップS46において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Bに属しない場合(ステップS46:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧a、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS47)、当該条件を満たす場合には(ステップS47:Yes)、測定値N,Zが領域Aに属していると判断される(ステップS47A)。そして、作業者は、いずれかのロールにスケール等の堆積があると判定し、ロール設備の点検を行ってスケールを除去する(対処方法4;ステップS47B)。
【0122】
そして、上記ステップS47において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Aに属しない場合(ステップS47:No)には、鋳造をそのまま継続する(ステップS48)。
【実施例4】
【0123】
以下、第4実施形態に係る異常検知方法の技術的効果を確認するために行った実施例について説明する。下記の試験では、鋳造中の定常状態において、鋳造条件として、鋳造速度[m/min]、2次冷却水比水量[L/kg.Steel]、鋳造鋼種%[C]の各条件(i)〜(iii)を記録し、且つ、鋳造結果において発生した不具合状況(スケール堆積発生、表面疵発生)の際におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を記憶した。鋳造条件、並びに、当該不具合状況の際において定義したトルク変動値a,b[%]、及び、湯面変動幅Za,Zb[mm]は、第1実施形態の実施例と同様であるのでその説明を省略する(表1〜表3参照)。
【0124】
そして、定義した湯面変動幅Za及びZb[mm]の中で小さい方の値をZx[mm]と定義した。その結果を表8に示す。
【0125】
【表8】
【0126】
トルク変動値Nの大きさに応じて、各条件(i)〜(iii)毎に以下のように領域A及びBを設定した。具体的には、
条件(i)では、
領域Bを、トルク変動値N≧b(12.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(6.4)で囲まれる範囲の領域とした。
【0127】
また、条件(ii)では、
領域Bを、トルク変動値N≧b(13.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(7.2)で囲まれる範囲の領域とした。
【0128】
また、条件(iii)では、
領域Bを、トルク変動値N≧b(12.8)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(5.0)で囲まれる範囲の領域とした。
【0129】
鋳造中において測定されるトルク変動値N、湯面変動幅Zが、上記のように設定した領域に属する場合には、各領域に応じて以下の対処を施した。以下、具体的に説明する。
【0130】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が15[%]となったため、該当部位の表面を調査したところ、凝固組織に起因した疵が発生していたので、当該部位を製品から除外選別した。なお、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が14[%]となったが、該当部位をそのまま鋳造を継続したところ、凝固組織異常起因の表面疵による不具合が発生した。
【0131】
実施条件(iii)において、湯面変動幅が5[mm]、トルク変動値が6[%]となったため、ロール設備の点検を行ったところ、ロールにスケールが堆積しており、スケールを除去するとトルク変動値が下がった。なお、湯面変動幅が3.5[mm]、トルク変動値が8[%]となったが、そのまま鋳造を継続したところ、ロールと鋳片との間にスケールが押し込まれて鋳片表面が凹み、表面疵による不具合が発生した。
【0132】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態および実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0133】
例えば、上記実施形態では、ピンチロールの駆動源としてモータを用いたが、本発明はこれに限らず、油圧によりピンチロールを制御してもよい。なお、ピンチロールの駆動源は、速度制御可能であることが望ましい。
【0134】
また、上記実施形態では、最上流に配されるピンチロールのトルクを検出する構成としたが、本発明では、トルクを取得するピンチロールの位置は最上流に限定されない。また、複数のピンチロールからトルクを取得してもよい。
【0135】
また、上記実施形態では、領域A〜Dを設定する際にトルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとったが、本発明はこれに限らず、領域A〜Dを相互に区分できればよいので、トルク変動値Nを縦軸に、持続時間Tを横軸にとってもよい。
【0136】
また、上記実施形態では、ブルーム向けの連続鋳造設備について説明したが、本発明はこれに限らず、スラブ及びビレット向けの連続鋳造設備にも適用可能であるが、トルク変動が湯面変動に敏感に反応するブルーム及びビレット向けの連続鋳造設備に本発明は特に有効となる。
【0137】
なお、定義した領域A〜Dの該当しない範囲で新たにその事象が発生した場合には、そのフローを逐一見直し更新することで、過去に発生した同程度のロールスケール堆積・凝固組織起因の疵発生・ロールベアリング異常・ブレークアウト発生を検知することが可能となり、次回以降はその発生を防止することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明を利用すれば、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行い、当該トルクや湯面変動の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかを検知することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 鋳型
2 浸漬ノズル
3 ロール対
3a ロール
3b ピンチロール
4 冷却ノズル
5 広面鋳型
6 狭面鋳型
7 溶鋼吐出孔
9 タンディッシュ
11 モータ
12 トルク検出器
13 湯面レベル計
14 出力装置
20 制御部
21 記憶部
100 連続鋳造設備
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンチロールにより鋳片を所定の速度で引き抜く際の当該ピンチロールにおけるトルクに基づいて、連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する方法として、
(1)連続鋳造でのモールドからピンチロールまでの総理論引抜力と、ピンチロール駆動総電力及び引抜速度から求めた総実引抜力との差により異常発生を察知して、不良鋳片を減少させ設備故障を未然に防止する方法(例えば、特許文献1参照)や、
(2)凝固スラブを引き抜く引抜速度又はピンチロール駆動用モータ電流の変動値を用いて、鋳込速度を制御することにより、非接触方式で連続鋳造におけるブレークアウトを防止する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平03−009819号公報
【特許文献2】特開昭55−97857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1では、ピンチロールのみの異常検知判断しかなく、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断基準がない。また、設備故障として軸受けの割損やブレークアウトに対する所定の警報を発すること記載はあるものの、鋳型内凝固異常の検知やロールにスケールが堆積した等の検知に関する記載がない。また、この特許文献1では、総実引抜力と総理論引抜力との差が所定の許容値より大きい場合に、何らかの異常が発生しているとして警報を発するだけであって、当該差の大きさに応じて如何なる異常が発生しているのかは検知できない。このため、異常が発生していることが分かっても、すぐに適切な対応をとることが難しかった。
【0005】
また、上記特許文献2では、凝固スラブを引き抜く引抜速度又はピンチロール駆動用モータ電流の変動値による異常検知判断しかなく、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断基準がない。また、ブレークアウトに対する鋳造の制御方法に関する記載はあるものの、他の異常の検知に関する記載がなく、当該引抜速度や変動値の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかは検知できない。このため、異常が発生していることが分かっても、すぐに適切な対応をとることが難しかった。
【0006】
そこで、この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行い、当該トルクや湯面変動の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかを検知することが可能な異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の異常検知方法は、ピンチロールにより鋳片を所定の速度で引き抜く際の当該ピンチロールにおけるトルク、及び、鋳型内の湯面レベルを測定し記憶することが可能な連続鋳造設備において、鋳造中の定常状態において、以下のケース(1)及び(2)が発生した場合における前記ピンチロールのトルク変動値a[%]、b[%]、及び、前記鋳型内の湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]を定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、及び、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]に基づいて、領域A、領域B、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別する。
ただし、
ケース(1):複数のロールの内のいずれかのロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZa[mm]とする。
ケース(2):鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出されて、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合における当該部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする。
領域B:トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:前記領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]及びZb[mm]の内の小さい方の値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【0008】
この方法を用いることにより、トルク変動値Nや湯面変動幅Zといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができる。ここで、トルク変動値Nだけで異常検知を行う場合、電気的な誤検知により異常が発生していないにも関わらず、異常だと検知してしまうおそれがあるが、本発明のこの方法では、物理的な湯面変動も監視しているので、異常検知の確実性が向上する。
また、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、トルク変動値Nや湯面変動幅Zの大きさに応じて、如何なる異常(ここでは、ロールのスケール等の堆積、凝固組織起因の疵)が発生しているかを検知することができる。その結果、該当した異常に対して適切な処置を施すことができるので、鋳造中の異常として発生し得る前述した異常を早期に発見し、重大な品質及び設備のトラブルを未然に回避することができる。
また、重大な品質及び設備にトラブルを引き起こすブレークアウトの発生等は、異常検知の対象として一般的であるが、本発明では、ロールのスケール等の堆積や凝固組織起因の疵といった、従来では異常検知の対象となっていない異常も検知することが可能となる。
【0009】
上記した異常検知方法において、好ましくは、鋳造中の定常状態において、以下のケース(3)が発生した場合におけるトルク変動値c[%]、湯面変動幅Zc[mm]、及び、持続時間Tc[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、c[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]、及び、前記持続時間Tc[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域C、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Cに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかのベアリングに異常をきたしていると判定し、ロール設備の点検を行う。
ただし、
ケース(3):複数のロールの内のいずれかにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZc[mm]、トルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする。
領域C:トルク変動値N≧c、及び、持続時間T≧Tcの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]及びZc[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【0010】
この方法を用いることにより、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができる。
また、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tの大きさに応じて、如何なる異常(ここでは、ロールのスケール等の堆積、凝固組織起因の疵、ロールのベアリング異常)が発生しているかを検知することができる。その結果、該当した異常に対して適切な処置を施すことができるので、鋳造中の異常として発生し得る前述した異常を早期に発見し、重大な品質及び設備の異常を回避することができる。
【0011】
上記した異常検知方法において、好ましくは、鋳造中の定常状態において、以下のケース(4)が発生した場合におけるトルク変動値d[%]、湯面変動幅Zd[mm]、及び、持続時間Td[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、d[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zd[mm]、及び、前記持続時間Td[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域D、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Dに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判定し、直ちに鋳造を停止する。
ただし、
ケース(4):ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZd[mm]、トルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする。
領域D:トルク変動値N≧d、及び、持続時間T≧Tdの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]及びZd[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【0012】
この方法を用いることにより、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができる。
また、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tの大きさに応じて、如何なる異常(ここでは、ロールのスケール等の堆積、凝固組織起因の疵、ブレークアウト)が発生しているかを検知することができる。その結果、該当した異常に対して適切な処置を施すことができるので、鋳造中の異常として発生し得る前述した異常を早期に発見し、重大な品質及び設備のトラブルを未然に回避することができる。
【0013】
上記した異常検知方法において、好ましくは、鋳造中の定常状態において、以下のケース(3)及び(4)が発生した場合におけるトルク変動値c[%]、d[%]、湯面変動幅Zc[mm]、Zd[mm]、及び、持続時間Tc[sec]、Td[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、c[%]、d[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]、Zd[mm]、及び、前記持続時間Tc[sec]、Td[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域C、領域D、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Cに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかのベアリングに異常をきたしていると判定し、ロール設備の点検を行い、鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Dに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判定し、直ちに鋳造を停止する。
ただし、
ケース(3):複数のロールの内のいずれかにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZc[mm]、トルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする。
ケース(4):ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZd[mm]、トルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする。
領域D:トルク変動値N≧d、及び、持続時間T≧Tdの両条件を満たす範囲とする。
領域C:領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c、及び、持続時間T≧Tcの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]及びZd[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【0014】
この方法を用いることにより、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができる。
また、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、トルク変動値N、湯面変動幅Z及び持続時間Tの大きさに応じて、如何なる異常(ここでは、ロールのスケール等の堆積、凝固組織起因の疵、ロールのベアリング異常、ブレークアウト)が発生しているかを検知することができる。その結果、該当した異常に対して適切な処置を施すことができるので、鋳造中の異常として発生し得る前述した異常を早期に発見し、重大な品質及び設備のトラブルを未然に回避することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明による異常検知方法では、上記のように、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行い、当該トルクや湯面変動の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】連続鋳造設備の全体概略図
【図2】鋳型及び浸漬ノズルの構成を示す図
【図3】連続鋳造設備のブロック図
【図4】第1実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図5】第1実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図6】トルク変動値a〜d及び持続時間Tc,Tdに基づいて定義される領域A〜Dの範囲を示したグラフ
【図7】実施例の各鋳造条件(i)〜(iii)について領域A〜Dの範囲を示したグラフ
【図8】第2実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図9】第2実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図10】トルク変動値a〜c及び持続時間Tcに基づいて定義される領域A〜Cの範囲を示したグラフ
【図11】実施例の各鋳造条件(i)〜(iii)について領域A〜Cの範囲を示したグラフ
【図12】第3実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図13】第3実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図14】トルク変動値a,b,d及び持続時間Tdに基づいて定義される領域A,B,Dの範囲を示したグラフ
【図15】実施例の各鋳造条件(i)〜(iii)について領域A,B,Dの範囲を示したグラフ
【図16】第4実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【図17】第4実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
周知の通り、連続鋳造設備の鋳造経路に着目すると、湾曲型連続鋳造設備と垂直曲げ型連続鋳造設備なるものがある。前者は、鋳型から鋳造経路に沿って、円弧経路部と矯正経路部、水平経路部を有するものであり、後者は、上記円弧経路部の上流に垂直経路部を設け、溶鋼中の介在物浮上を図ったものである。また、連続鋳造設備の鋳造する鋳片の断面形状に着目すると、断面形状のアスペクト比が2以上であるスラブと2以下のブルーム、更に、断面形状が正方形であるビレットなるものがある。本願発明の適用対象は、上記の通りに列記したすべての連続鋳造設備であり、以下、本明細書では、一例として、本願発明をブルーム向けの垂直曲げ型連続鋳造設備に適用した例を説明する。
【0018】
以下、図1及び図2に基づいて、連続鋳造設備100と、その鋳型1及び浸漬ノズル2を概説する。
【0019】
連続鋳造設備100は、注湯される溶鋼を冷却して所定形状のシェルを形成するための鋳型1と、タンディッシュ9に保持される溶鋼を鋳型1へ所定流量で滑らかに注湯するための浸漬ノズル2と、鋳型1の直下から鋳造経路Qに沿って複数で並設されるロール対3と、を備える。鋳型1及び浸漬ノズル2の構成は図2に基づいて後で詳細に説明する。本実施形態において前記の鋳造経路Qは、略鉛直方向に延びる垂直経路部と、この垂直経路部に接続され、円弧状に延びる円弧経路部と、更にその下流側に設けられ、水平方向に延びる水平経路部と、前記の円弧経路部及び水平経路部とを滑らかに接続するための矯正経路部と、から成る。
【0020】
前記のロール対3の夫々は、鋳造対象としての鋳片を、両広面でもって挟持する一対のロール3a・3aから構成される。この一対のロール3a・3aのロール面間の最短距離としてのロールギャップ[mm]は適宜の手段により調節可能に構成される。
【0021】
また、前記の鋳造経路Qの前半には、鋳型1内で形成され、該鋳型1から引き抜かれる凝固シェルに対して所定の流量で冷却水を噴霧する冷却ノズル4が適宜に設けられる。一般に、前記の鋳型1が1次冷却帯と称されるのに対して、この意味で、冷却ノズル4が配される経路部は2次冷却帯と称される。
【0022】
鋳型1から引き抜かれ、鋳造経路Qに沿って搬送されるシェルは、自然放熱や、上記冷却ノズル4などにより更に冷却されて収縮する。従って、上記のロール対3のロールギャップ[mm]は、一般に、鋳造経路Qの下流側へ進むに連れて緩やかに狭くなるように設定される。
【0023】
以上の構成で、ブルームの連続鋳造を開始するには、鋳型1へ溶鋼を注湯する前に予め図略のダミーバーを前記の鋳造経路Q内に挿入しておき、浸漬ノズル2を介して鋳型1へ溶鋼を注湯し始めると共に上記ダミーバーを下流側へ引き抜く。この鋳型1への溶鋼の注湯量と、ダミーバーの引き抜き速度とは、鋳造速度が所定の鋳造速度に至るまでの間、漸増させる。そして、このダミーバーは、所定のメニスカス距離に到達したときに、適宜の手段により回収する。これで、ブルームが連続的に鋳造されるようになる。
【0024】
次に、上記の連続鋳造設備100の一般的な操業条件を簡単に紹介する。以下は、例示である。
・鋳型幅W[mm]は、250〜650とする。
・鋳型厚みD[mm]は、250〜650とする。
・鋳型高さH[mm]は、900〜1200とする。
・鋳造速度Vc[m/min]は、0.7〜1.0とする。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、0〜60とする。
・比水量Wt[L/kg.Steel]は、0.15〜1とする。
・鋳型内電磁攪拌強度M−EMS[gauss]は、0〜1000とする。
・溶鋼成分は、当事者間の協定に基づく。代表的な成分は、CやSi、Mnである。これに、CrやMoなどが適宜に添加される。その他の不可避の不純物を含む。
【0025】
ここで、各用語を簡単に説明する。
・鋳型幅W[mm]及び鋳型厚みD[mm]は、図2に示されるように、鋳型1の上端で特定される。
・鋳造速度Vc[m/min]は、鋳片の引抜速度であって、前記複数のロール対3のうち最上流に配されるロール対3のピンチロール3bの周速度で特定される。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、鋳型1内へ注湯される溶鋼の温度の指標である。
・比水量Wt[L/kg.Steel]は、鋼1kgに対して用いられる冷却水の容積を意味する。
・鋳型内電磁攪拌強度M−EMS[gauss]は、鋳型1内の溶鋼を攪拌するために作用される磁場の強度の指標である。
【0026】
<鋳型1>
次に、図2を参照しつつ鋳型1の構造を説明する。図2(a)に示されるように本実施形態に係る鋳型1は、鋳造される鋳片が断面矩形であってアスペクト比が2以下となる所謂ブルーム向けに構成される。この鋳型1は、一対で対向し、鋳型広面1aを構成する広面鋳型5と、広面鋳型5の間に配され、一対で対向し、鋳型狭面1bを構成する狭面鋳型6と、これら広面鋳型5及び狭面鋳型6を支持する図示しない鋳型フレームと、を主たる構成として備える。
【0027】
<浸漬ノズル2>
また、本実施形態において用いられる浸漬ノズル2は、有底円筒形状であって、一対の対向する溶鋼吐出孔7が内底よりも若干上方に形成される2孔式とされる。上記の浸漬ノズル2は、図2(b)に示されるように、一対の溶鋼吐出孔7が鋳型狭面1bに対して夫々対向するように鋳型1内に垂直にセットされる。換言すれば、浸漬ノズル2は、一対の溶鋼吐出孔7から吐出された溶鋼の流れが鋳型狭面1bに対して平面視で垂直に向かうように鋳型1内に垂直にセットされる。この状態で、浸漬ノズル2から鋳型1内へ溶鋼を注湯すると、浸漬ノズル2からの溶鋼流は先ず斜め下向きとなり、やがて鋳型狭面1bに衝突すると、上下方向に分岐し、もって、溶鋼の上昇流Qと下降流Rが形成される。このうち上昇流Qは、メニスカス近傍の溶鋼に対して熱を供給し、表面が凝固してしまう所謂皮張りを防ぐ役割を担っている。
【0028】
次に、本実施形態に係る連続鋳造設備100の更に具体的な構成を説明する。即ち、本実施形態ではピンチロール3bに加わるトルクを測定すべく、図1及び図3で略示の通り、ピンチロール3bを駆動するモータ11には、トルク検出器12が設けられると共に、鋳型1内の湯面レベルを検知すべく、湯面レベル計13が設けられている。なお、トルク検出器12によって取得されるトルク値、及び、湯面レベル計13によって取得される湯面レベル値は、経時的(例えば、1秒単位毎)に制御部20の記憶部21に蓄積される。なお、当該トルク値や湯面レベル値は、制御部20に接続されたプリンターやモニターなどの出力装置14によって出力されるようになっている。
【0029】
ここで、本実施形態では、図4及び図5のフローチャートを参照しつつ、連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を説明する。
【0030】
連続鋳造設備100では、ピンチロール3bにより鋳片を一定速度で引き抜く際に、当該ピンチロール3bに加わるトルクを測定し記録している(ステップS1)。具体的には、ピンチロール3bに加わるトルクがトルク検出器12によって検出され、当該トルク検出器12により検出されたトルク値が制御部20の記憶部21に逐次記憶される。
【0031】
次に、鋳造中の定常状態(鋳造において鋳造速度が略変動することなく一定な状態。以下、同じ。)において以下のケース(1)〜(4)が発生した場合におけるトルク変動値a,b,c,d[%]と、湯面変動幅Za,Zb,Zc,Zd[mm]と、持続時間Tc,Td[sec]とを、定義する(ステップS2)。まず、各用語の意味を定義しておく。
・トルク変動値[%]:所定時間あたりのトルクの変動の大きさを示す指標であって、定常状態での鋳造におけるトルク値の推移において、過去30秒間のトルク平均値を取り、(その時点での発生トルク値)÷(過去30秒間のトルク平均値)をトルク変動値[%]とする。
・湯面変動幅[mm]:湯面レベルの変動幅の大きさを示す指標であって、定常状態での鋳造における鋳型内の湯面レベル計から得られる信号により測定し、トルク変動が発生した時点から、その後3秒以内における湯面レベルの最大変動幅を湯面変動幅[mm]とする。
・持続時間[sec]:所定のレベル以上でトルクの変動が持続している時間を示す指標であって、トルク変動が発生した時刻を起点として、その起点より過去30秒間のトルク平均値に戻るまでの時間を持続時間[sec]とする。
【0032】
ケース(1)において、ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZa[mm]とする(ステップS2A)。具体的には、ケース(1)の事象が発生した期間におけるトルク変動値の最大値をa[%]とし、当該最大値a[%]が発生した時刻からその3秒後までの間における湯面レベルの最大変動幅をZa[mm]とする。
ここで言う“ロール”とは、鋳型下から鋳片を支えている全てのサポートロールを対象とする。
なお、スケールとは、鋳造時において鋳片表面が酸化し、酸化鉄として表層から剥離して発生したものを意味する。そのスケールは、一般的にスタンドのロールに巻き付いたりして堆積することがある。
このケース(1)においては、鋳造中の定常状態において明らかにロールにスケールが堆積しており、そのスケールを除去したらトルクが元に定常状態に戻った場合のみを採用する。
【0033】
ケース(2)において、鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする(ステップS2B)。具体的には、ケース(2)の事象が発生した期間におけるトルク変動値の最大値をb[%]とし、当該最大値b[%]が発生した時刻からその3秒後までの間における湯面レベルの最大変動幅をZb[mm]とする。
なお、凝固組織異常の検査方法は、後述する。
【0034】
ケース(3)において、ロールにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZc[mm]、及び、そのトルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする(ステップS2C)。具体的には、ケース(3)の事象が発生した期間におけるトルク変動値の最大値をc[%]とし、当該最大値c[%]が発生した時刻からその3秒後までの間における湯面レベルの最大変動幅をZc[mm]とし、当該最大値c[%]が発生した時刻を起点として、その起点より過去30秒間のトルク平均値に戻るまでの時間をTc[sec]とする。
なお、ロールにおけるベアリング異常とは、鋳型下から鋳片を支えている全てのサポートロールを対象として、軸受の割損を発見した場合を意味する。
このケース(3)においては、鋳造中の定常状態において明らかにロールの軸受が割損している状態で鋳造していたことを確認し、その後、当該ロールを取り替える等により回復させるとトルクが元の定常状態に戻った場合のみを採用する。
【0035】
ケース(4)において、鋳造中においてブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZd[mm]、及び、そのトルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする(ステップS2D)。具体的には、ケース(4)の事象が発生した期間におけるトルク変動値の最大値をd[%]とし、当該最大値d[%]が発生した時刻からその3秒後までの間における湯面レベルの最大変動幅をZd[mm]とし、当該最大値d[%]が発生した時刻を起点として、その起点より過去30秒間のトルク平均値に戻るまでの時間をTd[sec]とする。
なお、ブレークアウトとは、鋳型内での冷却において表層部の凝固シェルが破れ内部溶鋼が流出する現象を意味する。ブレークアウトが発生し外部へ流出した溶鋼が周囲のロールやスタンドなどを焼損させると鋳造停止などを余儀なくされ、かつ復旧に長時間を要することとなる。
このケース(4)においては、鋳造中の定常状態において明らかにブレークアウトが発生したことを確認し、その後、鋳型やスタンド等を元の状態に戻したときにトルクが元の定常状態に戻った場合のみを採用する。
【0036】
次に、上記した湯面変動幅Za,Zb,Zc,Zdの中で最も小さい値をZxとする(ステップS3)。但し、湯面変動幅最小値Zxは、0より大きいとする。湯面変動幅については、必ずしもZa<Zb<Zc<Zdとは、なり得ない場合もある。そのため、トルク変動に連動して湯面変動が発生することを捕らえるために湯面変動条件として各条件のうち最小値を採用し、何らかの異常が発生したことの指標とする。
【0037】
そして、トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、以下のように領域A〜Dを設定する(ステップS4)。
具体的には、図6に示すように、
トルク変動値N≧d、且つ、持続時間T≧Tdで囲まれる範囲を領域を領域Dとし、
領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c、且つ、持続時間T≧Tcで囲まれる範囲を領域Cとし、
領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bで囲まれる範囲を領域Bとし、
領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aで囲まれる範囲を領域Aとする。
【0038】
そして、鋳造中において測定されるトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が上記した領域A〜Dのいずれかに属する場合には、その属する領域A〜Dに応じて、各対処を施す(ステップS5)。以下、詳細に説明する。
【0039】
まず、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、それぞれ、トルク変動値N≧d、且つ、湯面変動幅Z≧Zx、且つ、持続時間T≧Tdの条件を満たす場合には(ステップS6:Yes)、当該測定値N,Z,Tが領域Dに属していると判断され(ステップS6A)、作業者は、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判断して直ちに鋳造を停止する(対処方法1;ステップS6B)。
【0040】
上記ステップS6において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、領域Dに属しない場合(ステップS6:No)には、当該測定値N,Z,Tが、それぞれ、トルク変動値N≧c、且つ、湯面変動幅Z≧Zx、且つ、持続時間T≧Tcの条件を満たすか否かを判断して(ステップS7)、当該条件を満たす場合には(ステップS7:Yes)、測定値N,Z,Tが領域Cに属していると判断される(ステップS7A)。そして、作業者は、いずれかのロールのベアリングに異常をきたしていると判定し、当該チャージ(当該判定がなされた時点でタンディッシュ内に注湯されているチャージ)が終了後に鋳造を停止し、ロール設備の点検を行う(対処方法2;ステップS7B)。
【0041】
上記ステップS7において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、領域Cに属しない場合(ステップS7:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧b、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS8)、当該条件を満たす場合には(ステップS8:Yes)、測定値N,Z,Tが領域Bに属していると判断される(ステップS8A)。そして、作業者は、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定し、製品から除外選別する(対処方法3;ステップS8B)。
【0042】
上記ステップS8において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Bに属しない場合(ステップS8:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧a、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS9)、当該条件を満たす場合には(ステップS9:Yes)、測定値N,Zが領域Aに属していると判断される(ステップS9A)。そして、作業者は、いずれかのロールにスケール等の堆積があると判定し、ロール設備の点検を行ってスケールを除去する(対処方法4;ステップS9B)。
【0043】
そして、上記ステップS9において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Aに属しない場合(ステップS9:No)には、鋳造をそのまま継続する(ステップS10)。
【実施例1】
【0044】
以下、第1実施形態に係る異常検知方法の技術的効果を確認するために行った実施例について説明する。下記の試験では、鋳造中の定常状態において、鋳造条件として、鋳造速度[m/min]、2次冷却水比水量[L/kg.Steel]、鋳造鋼種%[C]の各条件(i)〜(iii)を記録し、且つ、鋳造結果において発生した不具合状況(スケール堆積発生、表面疵発生、ベアリング異常発生、ブレークアウト発生)の際におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を記憶した。鋳造条件(i)〜(iii)は、表1〜表3に示す通りである。
【0045】
<ケース(1):スケール堆積発生>
いずれかのロールにおけるスケールの堆積が発生したときのトルク変動値及び湯面変動幅を表1に示す。ここで、表1に示されるトルク変動値をa[%]、湯面変動幅をZa[mm]と定義した。
【0046】
【表1】
【0047】
<ケース(2):表面疵発生>
鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合において、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値及び湯面変動幅を表2に示す。ここで、表2に示されるトルク変動値をb[%]、湯面変動幅をZb[mm]と定義した。
【0048】
【表2】
【0049】
<ケース(3):ベアリング異常発生>
いずれかのロールにおいてベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を表3に示す。ここで、表3に示されるトルク変動値をc[%]、その持続時間をTc[sec]、湯面変動幅をZc[mm]と定義した。
【0050】
【表3】
【0051】
<ケース(4):ブレークアウト発生>
ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を表4に示す。ここで、表4に示されるトルク変動値をd[%]、その持続時間をTd[sec]、湯面変動幅をZd[mm]と定義した。
【0052】
【表4】
【0053】
そして、上記のように定義した湯面変動幅Za〜Zd[mm]の中で最も小さい値をZx[mm]と定義した。その結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、各条件(i)〜(iii)毎に以下のように領域A〜Dを設定した。具体的には、
条件(i)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(25.0)、且つ、持続時間T≧Td(8.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Cを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c(18.0)、且つ、持続時間T≧Tc(5.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(6.4)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Dを示したグラフを図7(a)に示す。
【0056】
また、条件(ii)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(28.0)、且つ、持続時間T≧Td(10.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Cを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c(20.0)、且つ、持続時間T≧Tc(6.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(13.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(7.2)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Dを示したグラフを図7(b)に示す。
【0057】
また、条件(iii)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(24.0)、且つ、持続時間T≧Td(11.2)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Cを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c(22.0)、且つ、持続時間T≧Tc(7.2)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.8)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(5.0)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Dを示したグラフを図7(c)に示す。
【0058】
鋳造中において測定されるトルク変動値N、その持続時間T、湯面変動幅Zが、上記のように設定した領域に属する場合には、各領域に応じて以下の対処を施した。以下、具体的に説明する。
【0059】
実施条件(i)において、湯面変動幅が15[mm]、トルク変動値が26[%]で、持続時間が8[sec]以上となったため、急遽鋳造を停止した。当該鋳片を確認すると湯漏れの跡が発生していた。これにより、ブレークアウトを防止することができた。なお、湯面変動幅が15[mm]、トルク変動値が26[%]で、持続時間が8[sec]以上となったまま、そのまま鋳造を継続したところ、ブレークアウトが発生し、設備故障の長期鋳造停止となった。なお、“湯漏れ”とは、軽度のブレークアウトであって、溶鋼が凝固シェルから若干滲み出したような形跡を意味する。
【0060】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が11[mm]、トルク変動値が21[%]で、持続時間が8[sec]以上となったため、当該チャージを修了した後にロール設備の点検を行ったところ、引き抜きロールのベアリングの一部が破損していた。これにより、損傷が一部であったため、該当するロールの取替えのみで復旧には長時間がかからずに済んだ。なお、湯面変動幅が8[mm]、トルク変動値が20[%]で、持続時間が6.5[sec]以上となったまま、そのまま鋳造を継続したところ、その後、25チャージ鋳造して鋳造停止した後にロール設備の点検を行ったところ、複数のロールベアリングが破損しており、設備復旧に長時間を要した。
【0061】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が15[%]となったため、該当部位の表面を調査したところ、凝固組織に起因した疵が発生していたので、当該部位を製品から除外選別した。なお、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が14[%]となったが、該当部位をそのまま鋳造を継続したところ、凝固組織異常起因の表面疵による不具合が発生した。
【0062】
実施条件(iii)において、湯面変動幅が5[mm]、トルク変動値が6[%]となったため、ロール設備の点検を行ったところ、ロールにスケールが堆積しており、スケールを除去するとトルク変動値が下がった。なお、湯面変動幅が3.5[mm]、トルク変動値が8[%]となったが、そのまま鋳造を継続したところ、ロールと鋳片との間にスケールが押し込まれて鋳片表面が凹み、表面疵による不具合が発生した。
【0063】
<実施条件>
ここで、上記した実施例の実施条件を紹介しておく。
鋳型寸法[mm]:幅430×厚み300
鋳型高さ:900mm,1200mm
型式:垂直曲げ型連鋳機
鋳造速度[m/min]:条件(i)〜(iii)に記載(表1〜表3参照)
2次冷却水比水量[L/kg.Steel]:条件(i)〜(iii)に記載(表1〜表3参照)
鋳造鋼種%[C]:条件(i)〜(iii)に記載(表1〜表3参照)
表面疵検査方法:ビレット(断面155mm×155mm)に圧延した段階において表面を観察し、線状の割れ疵の有無を調査した。
割れ疵があった場合には、割れ部分の断面観察を行い、当該割れ部分のサルファプリントにて、C,S濃度の偏析が認められた場合には、凝固組織異常と判断した。サルファプリント方法については、JIS規格(規格番号:JIS G 0560 標題:鋼のサルファプリント試験方法)に準じて行った。
鋳型内に置いて初期の凝固シェル厚みが不均一になると応力集中を生じ、これに起因した微小な割れが発生する。割れ近傍および先端部には、成分の偏析がみられるため、今回は割れ近傍におけるC,S濃度の偏析度を確認し、偏析が認められた場合には不均一凝固による割れであると判断した。上記内容は、糸山誓司著、「鉄鋼便覧(第2巻)12.5.1+鋳片の表面品質(追補)」、第4版(CD−ROM版)、(社)日本鉄鋼協会、2002年7月、P65」に記載されており、公知のものである。
圧延方法:連続鋳造にて得られた鋼塊を600℃〜800℃の温度で加熱炉へ挿入して1200℃〜1300℃まで加熱後、分塊圧延し、155mm角の鋼片とした。それ以外の制御については、当業者常法通りに熱間圧延して鋼片とした。
<第1実施形態の効果>
【0064】
本実施形態では、上記のように、鋳造条件(i)〜(iii)毎に領域A〜Dを設定し、その領域に該当した処置を施すことによって、鋳造中の異常として発生し得る以下の項目を早期に発見し、重大な品質及び設備のトラブルを未然に回避することができる。
1)鋳造時におけるブレークアウト
2)ロールベアリング破損
3)凝固起因の表面疵
4)スケールがロールに堆積して押し込まれることにより発生する凹み疵の発生
以下、各項目の効果を詳細に説明する。
【0065】
ブレークアウトが発生すると、鋳型より下の連鋳機設備が湯漏れした溶鋼によって損傷し、使用できなくなるだけでなく、設備の復旧に長時間がかかることになる。従って、ブレークアウトを防止することによって、連鋳機設備の保全や休止時間の削減に寄与することができる。
【0066】
また、ロールのベアリング破損が発生すると、基本的には該当するロールの取替を行い設備復旧させることとなるが、ある一つのロールのベアリング破損を早期に発見できないと、残りのサポートロールに負荷がかかり、複数のロールで連鎖的にベアリングの破損を発生させてしまう危険性がある。複数のロールにベアリング破損が発生すると、設備復旧に長時間をかかることになる。従って、ロールのベアリング破損を早期発見することによって、連鋳機設備の保全や休止時間の削減に寄与することができる。
【0067】
また、凝固起因の表面疵やスケール堆積によって発生する凹み疵が流出すると、圧延工程でさらに割れ疵が拡大して不良品を発生させてしまうか、最悪の場合、更に後工程の製品製造段階で発見された際には下品として扱われ、その部品製造にかかったコストが無駄になってしまう。従って、当該異常を防止することによって、後工程での不良発見を防止し、製品の製造コスト低減に寄与することができる。
【0068】
また、本実施形態では、トルク変動値Nや湯面変動幅Zといった連続鋳造の操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行うことができるので、正確な異常検知を実現することができる。具体的には、ピンチロールの電流値や湯面変動幅の大きさだけでは予見することができないスケール堆積発生、凝固起因の表面疵、ベアリング異常、ブレークアウトを、湯面変動幅とトルク変動値との2つの指標を用いることにより、上記した異常の予見が可能となるので、当該異常を防ぐことが可能となる。ここで、トルク変動値だけで異常検知を行う場合、電気的な誤検知により異常が発生していないにも関わらず、異常だと検知してしまうおそれがあるが、本実施形態のこの方法では、物理的な湯面変動も監視しているので、異常検知の確実性が向上する。
【0069】
また、本実施形態では、過去の操業実績に基づいて異常の種類とトルク変動値とを対応付けして、異常発生の要因によってトルク変動の大きさが異なることを利用しているので、鋳造時にトルク変動が生じた場合に、如何なる異常が発生したのか予測し得る。
【0070】
また、本実施形態では、ベアリング異常やブレークアウトだけでなく、ロールのスケール等の堆積や凝固組織起因の疵といった、従来では異常検知の対象となっていない異常も検知することが可能となる。
【0071】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を、図8及び図9のフローチャートを参照して説明する。この第2実施形態に係る異常検知方法では、上記第1実施形態では予見可能であったブレークアウト発生の異常については検知せず、スケール堆積発生、表面疵発生、及び、ベアリング異常発生の3つの異常を予見可能である。なお、この第2実施形態では、上記した第1実施形態と同様の手順については、適宜省略する。
【0072】
連続鋳造設備100では、ピンチロールにより鋳片を一定速度で引き抜く際に、当該ピンチロールに加わるトルクを測定し記録している(ステップS21)。
【0073】
次に、鋳造中の定常状態において以下のケース(1)〜(3)が発生した場合におけるトルク変動値a,b,c[%]と、湯面変動幅Za,Zb,Zc[mm]と、持続時間Tc[sec]とを、定義する(ステップS22)。
【0074】
ケース(1)において、ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZa[mm]とする(ステップS22A)。
ケース(2)において、鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする(ステップS22B)。
ケース(3)において、ロールにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZc[mm]、及び、そのトルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする(ステップS22C)。
【0075】
次に、上記した湯面変動幅Za,Zb,Zcの中で最も小さい値をZxとする(ステップS23)。但し、湯面変動幅最小値Zxは、0より大きいとする。
【0076】
そして、トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、以下のように領域A〜Cを設定する(ステップS24)。
具体的には、図10に示すように、
トルク変動値N≧c、且つ、持続時間T≧Tcで囲まれる範囲を領域Cとし、
領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bで囲まれる範囲を領域Bとし、
領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aで囲まれる範囲を領域Aとする。
【0077】
そして、鋳造中において測定されるトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が上記した領域A〜Cのいずれかに属する場合には、その属する領域A〜Cに応じて、各対処を施す(ステップS25)。以下、詳細に説明する。
【0078】
まず、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、それぞれ、トルク変動値N≧c、且つ、湯面変動幅Z≧Zx、且つ、持続時間T≧Tcの条件を満たす場合には(ステップS26:Yes)、当該測定値N,Z,Tが領域Cに属していると判断され(ステップS26A)、作業者は、いずれかのロールのベアリングに異常をきたしていると判定し、当該チャージが終了後に鋳造を停止し、ロール設備の点検を行う(対処方法2;ステップS26B)。
【0079】
上記ステップS26において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、領域Cに属しない場合(ステップS26:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧b、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS27)、当該条件を満たす場合には(ステップS27:Yes)、測定値N,Z,Tが領域Bに属していると判断される(ステップS27A)。そして、作業者は、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定し、製品から除外選別する(対処方法3;ステップS27B)。
【0080】
上記ステップS27において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Bに属しない場合(ステップS27:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧a、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS28)、当該条件を満たす場合には(ステップS28:Yes)、測定値N,Zが領域Aに属していると判断される(ステップS28A)。そして、作業者は、いずれかのロールにスケール等の堆積があると判定し、ロール設備の点検を行ってスケールを除去する(対処方法4;ステップS28B)。
【0081】
そして、上記ステップS28において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Aに属しない場合(ステップS28:No)には、鋳造をそのまま継続する(ステップS29)。
【実施例2】
【0082】
以下、第2実施形態に係る異常検知方法の技術的効果を確認するために行った実施例について説明する。下記の試験では、鋳造中の定常状態において、鋳造条件として、鋳造速度[m/min]、2次冷却水比水量[L/kg.Steel]、鋳造鋼種%[C]の各条件(i)〜(iii)を記録し、且つ、鋳造結果において発生した不具合状況(スケール堆積発生、表面疵発生、ベアリング異常発生)の際におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を記憶した。鋳造条件、並びに、当該不具合状況の際において定義したトルク変動値a,b,c[%]、その持続時間Tc[sec]、及び、湯面変動幅Za,Zb,Zc[mm]は、第1実施形態の実施例と同様であるのでその説明を省略する(表1〜表3参照)。
【0083】
そして、定義した湯面変動幅Za〜Zc[mm]の中で最も小さい値をZx[mm]と定義した。その結果を表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、各条件(i)〜(iii)毎に以下のように領域A〜Cを設定した。具体的には、
条件(i)では、
領域Cを、トルク変動値N≧c(18.0)、且つ、持続時間T≧Tc(5.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(6.4)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Cを示したグラフを図11(a)に示す。
【0086】
また、条件(ii)では、
領域Cを、トルク変動値N≧c(20.0)、且つ、持続時間T≧Tc(6.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(13.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(7.2)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Cを示したグラフを図11(b)に示す。
【0087】
また、条件(iii)では、
領域Cを、トルク変動値N≧c(22.0)、且つ、持続時間T≧Tc(7.2)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.8)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(5.0)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A〜Cを示したグラフを図11(c)に示す。
【0088】
鋳造中において測定されるトルク変動値N、その持続時間T、湯面変動幅Zが、上記のように設定した領域に属する場合には、各領域に応じて以下の対処を施した。以下、具体的に説明する。
【0089】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が11[mm]、トルク変動値が21[%]で、持続時間が8[sec]以上となったため、当該チャージを修了した後にロール設備の点検を行ったところ、引き抜きロールのベアリングの一部が破損していた。これにより、損傷が一部であったため、該当するロールの取替えのみで復旧には長時間がかからずに済んだ。なお、湯面変動幅が8[mm]、トルク変動値が20[%]で、持続時間が6.5[sec]以上となったまま、そのまま鋳造を継続したところ、その後、25チャージ鋳造して鋳造停止した後にロール設備の点検を行ったところ、複数のロールベアリングが破損しており、設備復旧に長時間を要した。
【0090】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が15[%]となったため、該当部位の表面を調査したところ、凝固組織に起因した疵が発生していたので、当該部位を製品から除外選別した。なお、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が14[%]となったが、該当部位をそのまま鋳造を継続したところ、凝固組織異常起因の表面疵による不具合が発生した。
【0091】
実施条件(iii)において、湯面変動幅が5[mm]、トルク変動値が6[%]となったため、ロール設備の点検を行ったところ、ロールにスケールが堆積しており、スケールを除去するとトルク変動値が下がった。なお、湯面変動幅が3.5[mm]、トルク変動値が8[%]となったが、そのまま鋳造を継続したところ、ロールと鋳片との間にスケールが押し込まれて鋳片表面が凹み、表面疵による不具合が発生した。
【0092】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を、図12及び図13のフローチャートを参照して説明する。この第3実施形態に係る異常検知方法では、上記第1実施形態では予見可能であったロールにおけるベアリングの異常については検知せず、スケール堆積発生、表面疵発生、及び、ブレークアウト発生の3つの異常を予見可能である。なお、この第3実施形態では、上記した第1実施形態と同様の手順については、適宜省略する。
【0093】
連続鋳造設備100では、ピンチロールにより鋳片を一定速度で引き抜く際に、当該ピンチロールに加わるトルクを測定し記録している(ステップS31)。
【0094】
次に、鋳造中の定常状態において以下のケース(1),(2)及び(4)が発生した場合におけるトルク変動値a,b,d[%]と、湯面変動幅Za,Zb,Zd[mm]と、持続時間Td[sec]とを、定義する(ステップS32)。
【0095】
ケース(1)において、ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZa[mm]とする(ステップS32A)。
ケース(2)において、鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする(ステップS32B)。
ケース(4)において、鋳造中においてブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZd[mm]、及び、そのトルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする(ステップS32D)。
【0096】
次に、上記した湯面変動幅Za,Zb,Zdの中で最も小さい値をZxとする(ステップS33)。但し、湯面変動幅最小値Zxは、0より大きいとする。
【0097】
そして、トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、以下のように領域A,B及びDを設定する(ステップS34)。
具体的には、図14に示すように、
トルク変動値N≧d、且つ、持続時間T≧Tdで囲まれる範囲を領域Dとし、
領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧bで囲まれる範囲を領域Bとし、
領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aで囲まれる範囲を領域Aとする。
【0098】
そして、鋳造中において測定されるトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が上記した領域A,B及びDのいずれかに属する場合には、その属する領域A,B及びDに応じて、各対処を施す(ステップS35)。以下、詳細に説明する。
【0099】
まず、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、それぞれ、トルク変動値N≧d、且つ、湯面変動幅Z≧Zx、且つ、持続時間T≧Tdの条件を満たす場合には(ステップS36:Yes)、当該測定値N,Z,Tが領域Dに属していると判断され(ステップS36A)、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判断して直ちに鋳造を停止する(対処方法1;ステップS36B)。
【0100】
上記ステップS36において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Z,持続時間Tの値が、領域Dに属しない場合(ステップS36:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧b、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS37)、当該条件を満たす場合には(ステップS37:Yes)、測定値N,Z,Tが領域Bに属していると判断される(ステップS37A)。そして、作業者は、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定し、製品から除外選別する(対処方法3;ステップS37B)。
【0101】
上記ステップS37において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Bに属しない場合(ステップS37:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧a、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS38)、当該条件を満たす場合には(ステップS38:Yes)、測定値N,Zが領域Aに属していると判断される(ステップS38A)。そして、作業者は、いずれかのロールにスケール等の堆積があると判定し、ロール設備の点検を行ってスケールを除去する(対処方法4;ステップS38B)。
【0102】
そして、上記ステップS38において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Aに属しない場合(ステップS38:No)には、鋳造をそのまま継続する(ステップS39)。
【実施例3】
【0103】
以下、第3実施形態に係る異常検知方法の技術的効果を確認するために行った実施例について説明する。下記の試験では、鋳造中の定常状態において、鋳造条件として、鋳造速度[m/min]、2次冷却水比水量[L/kg.Steel]、鋳造鋼種%[C]の各条件(i)〜(iii)を記録し、且つ、鋳造結果において発生した不具合状況(スケール堆積発生、表面疵発生、ブレークアウト発生)の際におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を記憶した。鋳造条件、並びに、当該不具合状況の際において定義したトルク変動値a,b,d[%]、その持続時間Td[sec]、及び、湯面変動幅Za,Zb,Zd[mm]は、第1実施形態の実施例と同様であるのでその説明を省略する(表1〜表3参照)。
【0104】
そして、定義した湯面変動幅Za,Zb,Zd[mm]の中で最も小さい値をZx[mm]と定義した。その結果を表7に示す。
【0105】
【表7】
【0106】
トルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとり、各条件(i)〜(iii)毎に以下のように領域A,B及びDを設定した。具体的には、
条件(i)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(25.0)、且つ、持続時間T≧Td(8.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(6.4)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A,B及びDを示したグラフを図15(a)に示す。
【0107】
また、条件(ii)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(28.0)、且つ、持続時間T≧Td(10.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧b(13.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(7.2)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A,B及びDを示したグラフを図15(b)に示す。
【0108】
また、条件(iii)では、
領域Dを、トルク変動値N≧d(24.0)、且つ、持続時間T≧Td(11.2)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Bを、領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧b(12.8)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(5.0)で囲まれる範囲の領域とした。
上記のように定義した領域A,B及びDを示したグラフを図15(d)に示す。
【0109】
鋳造中において測定されるトルク変動値N、その持続時間T、湯面変動幅Zが、上記のように設定した領域に属する場合には、各領域に応じて以下の対処を施した。以下、具体的に説明する。
【0110】
実施条件(i)において、湯面変動幅が15[mm]、トルク変動値が26[%]で、持続時間が8[sec]以上となったため、急遽鋳造を停止した。当該鋳片を確認すると湯漏れの跡が発生していた。これにより、ブレークアウトを防止することができた。なお、湯面変動幅が15[mm]、トルク変動値が26[%]で、持続時間が8[sec]以上となったまま、そのまま鋳造を継続したところ、ブレークアウトが発生し、設備故障の長期鋳造停止となった。
【0111】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が15[%]となったため、該当部位の表面を調査したところ、凝固組織に起因した疵が発生していたので、当該部位を製品から除外選別した。なお、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が14[%]となったが、該当部位をそのまま鋳造を継続したところ、凝固組織異常起因の表面疵による不具合が発生した。
【0112】
実施条件(iii)において、湯面変動幅が5[mm]、トルク変動値が6[%]となったため、ロール設備の点検を行ったところ、ロールにスケールが堆積しており、スケールを除去するとトルク変動値が下がった。なお、湯面変動幅が3.5[mm]、トルク変動値が8[%]となったが、そのまま鋳造を継続したところ、ロールと鋳片との間にスケールが押し込まれて鋳片表面が凹み、表面疵による不具合が発生した。
【0113】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る連続鋳造での品質及び設備の異常検知方法を、図16及び図17のフローチャートを参照して説明する。この第4実施形態に係る異常検知方法では、上記第1実施形態では予見可能であったベアリング異常の発生及びブレークアウト発生の異常については検知せず、スケール堆積発生、及び、表面疵発生2つの異常を予見可能である。なお、この第4実施形態では、上記した第1実施形態と同様の手順については、適宜省略する。
【0114】
連続鋳造設備100では、ピンチロールにより鋳片を一定速度で引き抜く際に、当該ピンチロールに加わるトルクを測定し記録している(ステップS41)。
【0115】
次に、鋳造中の定常状態において以下のケース(1)及び(2)が発生した場合におけるトルク変動値a,b[%]と、湯面変動幅Za,Zb[mm]とを、定義する(ステップS42)。
【0116】
ケース(1)において、ロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZa[mm]とする(ステップS42A)。
ケース(2)において、鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出され、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合、その部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする(ステップS42B)。
【0117】
次に、上記した湯面変動幅Za,Zbの中で小さい方の値をZxとする(ステップS43)。但し、湯面変動幅最小値Zxは、0より大きいとする。
【0118】
そして、トルク変動値Nの大きさに応じて、以下のように領域A及びBを設定する(ステップS44)。
具体的には、
トルク変動値N≧bで囲まれる範囲を領域Bとし、
領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aで囲まれる範囲を領域Aとする。
【0119】
そして、鋳造中において測定されるトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が上記した領域A及びBのいずれかに属する場合には、その属する領域A及びBに応じて、各対処を施す(ステップS45)。以下、詳細に説明する。
【0120】
まず、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、それぞれ、トルク変動値N≧c、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たす場合には(ステップS46:Yes)、当該測定値N,Zが領域Bに属していると判断され(ステップS46A)、作業者は、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定し、製品から除外選別する(対処方法3;ステップS46B)。
【0121】
上記ステップS46において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Bに属しない場合(ステップS46:No)には、当該測定値N,Zが、それぞれ、トルク変動値N≧a、且つ、湯面変動幅Z≧Zxの条件を満たすか否かを判断して(ステップS47)、当該条件を満たす場合には(ステップS47:Yes)、測定値N,Zが領域Aに属していると判断される(ステップS47A)。そして、作業者は、いずれかのロールにスケール等の堆積があると判定し、ロール設備の点検を行ってスケールを除去する(対処方法4;ステップS47B)。
【0122】
そして、上記ステップS47において、鋳造中において測定されたトルク変動値N,湯面変動幅Zの値が、領域Aに属しない場合(ステップS47:No)には、鋳造をそのまま継続する(ステップS48)。
【実施例4】
【0123】
以下、第4実施形態に係る異常検知方法の技術的効果を確認するために行った実施例について説明する。下記の試験では、鋳造中の定常状態において、鋳造条件として、鋳造速度[m/min]、2次冷却水比水量[L/kg.Steel]、鋳造鋼種%[C]の各条件(i)〜(iii)を記録し、且つ、鋳造結果において発生した不具合状況(スケール堆積発生、表面疵発生)の際におけるトルク変動値、その持続時間、及び、湯面変動幅を記憶した。鋳造条件、並びに、当該不具合状況の際において定義したトルク変動値a,b[%]、及び、湯面変動幅Za,Zb[mm]は、第1実施形態の実施例と同様であるのでその説明を省略する(表1〜表3参照)。
【0124】
そして、定義した湯面変動幅Za及びZb[mm]の中で小さい方の値をZx[mm]と定義した。その結果を表8に示す。
【0125】
【表8】
【0126】
トルク変動値Nの大きさに応じて、各条件(i)〜(iii)毎に以下のように領域A及びBを設定した。具体的には、
条件(i)では、
領域Bを、トルク変動値N≧b(12.0)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(6.4)で囲まれる範囲の領域とした。
【0127】
また、条件(ii)では、
領域Bを、トルク変動値N≧b(13.5)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(7.2)で囲まれる範囲の領域とした。
【0128】
また、条件(iii)では、
領域Bを、トルク変動値N≧b(12.8)で囲まれる範囲の領域とし、
領域Aを、領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧a(5.0)で囲まれる範囲の領域とした。
【0129】
鋳造中において測定されるトルク変動値N、湯面変動幅Zが、上記のように設定した領域に属する場合には、各領域に応じて以下の対処を施した。以下、具体的に説明する。
【0130】
実施条件(ii)において、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が15[%]となったため、該当部位の表面を調査したところ、凝固組織に起因した疵が発生していたので、当該部位を製品から除外選別した。なお、湯面変動幅が4[mm]、トルク変動値が14[%]となったが、該当部位をそのまま鋳造を継続したところ、凝固組織異常起因の表面疵による不具合が発生した。
【0131】
実施条件(iii)において、湯面変動幅が5[mm]、トルク変動値が6[%]となったため、ロール設備の点検を行ったところ、ロールにスケールが堆積しており、スケールを除去するとトルク変動値が下がった。なお、湯面変動幅が3.5[mm]、トルク変動値が8[%]となったが、そのまま鋳造を継続したところ、ロールと鋳片との間にスケールが押し込まれて鋳片表面が凹み、表面疵による不具合が発生した。
【0132】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態および実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0133】
例えば、上記実施形態では、ピンチロールの駆動源としてモータを用いたが、本発明はこれに限らず、油圧によりピンチロールを制御してもよい。なお、ピンチロールの駆動源は、速度制御可能であることが望ましい。
【0134】
また、上記実施形態では、最上流に配されるピンチロールのトルクを検出する構成としたが、本発明では、トルクを取得するピンチロールの位置は最上流に限定されない。また、複数のピンチロールからトルクを取得してもよい。
【0135】
また、上記実施形態では、領域A〜Dを設定する際にトルク変動値Nを横軸に、持続時間Tを縦軸にとったが、本発明はこれに限らず、領域A〜Dを相互に区分できればよいので、トルク変動値Nを縦軸に、持続時間Tを横軸にとってもよい。
【0136】
また、上記実施形態では、ブルーム向けの連続鋳造設備について説明したが、本発明はこれに限らず、スラブ及びビレット向けの連続鋳造設備にも適用可能であるが、トルク変動が湯面変動に敏感に反応するブルーム及びビレット向けの連続鋳造設備に本発明は特に有効となる。
【0137】
なお、定義した領域A〜Dの該当しない範囲で新たにその事象が発生した場合には、そのフローを逐一見直し更新することで、過去に発生した同程度のロールスケール堆積・凝固組織起因の疵発生・ロールベアリング異常・ブレークアウト発生を検知することが可能となり、次回以降はその発生を防止することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明を利用すれば、トルク変動や湯面変動といった操業指標と連動した定量的な異常検知判断を行い、当該トルクや湯面変動の大きさに応じて如何なる異常が発生しているかを検知することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 鋳型
2 浸漬ノズル
3 ロール対
3a ロール
3b ピンチロール
4 冷却ノズル
5 広面鋳型
6 狭面鋳型
7 溶鋼吐出孔
9 タンディッシュ
11 モータ
12 トルク検出器
13 湯面レベル計
14 出力装置
20 制御部
21 記憶部
100 連続鋳造設備
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンチロールにより鋳片を所定の速度で引き抜く際の当該ピンチロールにおけるトルク、及び、鋳型内の湯面レベルを測定し記憶することが可能な連続鋳造設備において、
鋳造中の定常状態において、以下のケース(1)及び(2)が発生した場合における前記ピンチロールのトルク変動値a[%]、b[%]、及び、前記鋳型内の湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]を定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、及び、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]に基づいて、領域A、領域B、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別することを特徴とする、連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法。
ただし、
ケース(1):複数のロールの内のいずれかのロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZa[mm]とする。
ケース(2):鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出されて、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合における当該部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする。
領域B:トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:前記領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]及びZb[mm]の内の小さい方の値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【請求項2】
鋳造中の定常状態において、以下のケース(3)が発生した場合におけるトルク変動値c[%]、湯面変動幅Zc[mm]、及び、持続時間Tc[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、c[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]、及び、前記持続時間Tc[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域C、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、
鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Cに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかのベアリングに異常をきたしていると判定し、ロール設備の点検を行うことを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法。
ただし、
ケース(3):複数のロールの内のいずれかにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZc[mm]、トルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする。
領域C:トルク変動値N≧c、及び、持続時間T≧Tcの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]及びZc[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【請求項3】
鋳造中の定常状態において、以下のケース(4)が発生した場合におけるトルク変動値d[%]、湯面変動幅Zd[mm]、及び、持続時間Td[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、d[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zd[mm]、及び、前記持続時間Td[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域D、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、
鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Dに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判定し、直ちに鋳造を停止することを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法。
ただし、
ケース(4):ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZd[mm]、トルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする。
領域D:トルク変動値N≧d、及び、持続時間T≧Tdの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]及びZd[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【請求項4】
鋳造中の定常状態において、以下のケース(3)及び(4)が発生した場合におけるトルク変動値c[%]、d[%]、湯面変動幅Zc[mm]、Zd[mm]、及び、持続時間Tc[sec]、Td[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、c[%]、d[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]、Zd[mm]、及び、前記持続時間Tc[sec]、Td[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域C、領域D、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、
鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Cに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかのベアリングに異常をきたしていると判定し、ロール設備の点検を行い、
鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Dに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判定し、直ちに鋳造を停止することを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法。
ただし、
ケース(3):複数のロールの内のいずれかにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZc[mm]、トルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする。
ケース(4):ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZd[mm]、トルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする。
領域D:トルク変動値N≧d、及び、持続時間T≧Tdの両条件を満たす範囲とする。
領域C:領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c、及び、持続時間T≧Tcの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]及びZd[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【請求項1】
ピンチロールにより鋳片を所定の速度で引き抜く際の当該ピンチロールにおけるトルク、及び、鋳型内の湯面レベルを測定し記憶することが可能な連続鋳造設備において、
鋳造中の定常状態において、以下のケース(1)及び(2)が発生した場合における前記ピンチロールのトルク変動値a[%]、b[%]、及び、前記鋳型内の湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]を定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、及び、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]に基づいて、領域A、領域B、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別することを特徴とする、連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法。
ただし、
ケース(1):複数のロールの内のいずれかのロールにおけるスケールの堆積が発生した場合におけるトルク変動値をa[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZa[mm]とする。
ケース(2):鋳片が圧延され、その圧延材において表面欠陥が検出されて、当該欠陥を調査すると凝固組織異常が認められた場合における当該部位に相当する鋳造位置でのトルク変動値をb[%]、当該トルク変動時の湯面変動幅をZb[mm]とする。
領域B:トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:前記領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]及びZb[mm]の内の小さい方の値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【請求項2】
鋳造中の定常状態において、以下のケース(3)が発生した場合におけるトルク変動値c[%]、湯面変動幅Zc[mm]、及び、持続時間Tc[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、c[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]、及び、前記持続時間Tc[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域C、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、
鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Cに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかのベアリングに異常をきたしていると判定し、ロール設備の点検を行うことを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法。
ただし、
ケース(3):複数のロールの内のいずれかにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZc[mm]、トルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする。
領域C:トルク変動値N≧c、及び、持続時間T≧Tcの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]及びZc[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【請求項3】
鋳造中の定常状態において、以下のケース(4)が発生した場合におけるトルク変動値d[%]、湯面変動幅Zd[mm]、及び、持続時間Td[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、d[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zd[mm]、及び、前記持続時間Td[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域D、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、
鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Dに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判定し、直ちに鋳造を停止することを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法。
ただし、
ケース(4):ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZd[mm]、トルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする。
領域D:トルク変動値N≧d、及び、持続時間T≧Tdの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域D及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]及びZd[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【請求項4】
鋳造中の定常状態において、以下のケース(3)及び(4)が発生した場合におけるトルク変動値c[%]、d[%]、湯面変動幅Zc[mm]、Zd[mm]、及び、持続時間Tc[sec]、Td[sec]をさらに定義すると共に、定義された前記トルク変動値a[%]、b[%]、c[%]、d[%]、前記湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]、Zd[mm]、及び、前記持続時間Tc[sec]、Td[sec]に基づいて、領域A、領域B、領域C、領域D、湯面変動幅最小値Zxを定義しておき、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Aに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかにスケール等の堆積があると判定して、ロール設備の点検を行ってスケールを除去し、
鋳造中に測定されるトルク変動値Nが前記領域Bに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、該当部位を凝固組織起因の疵発生と判定して、製品から除外選別し、
鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Cに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、複数のロールの内のいずれかのベアリングに異常をきたしていると判定し、ロール設備の点検を行い、
鋳造中に測定されるトルク変動値N及び持続時間Tが前記領域Dに属し、且つ、鋳造中に測定される湯面変動幅Z[mm]が湯面変動幅最小値Zx以上の場合、ブレークアウトが発生する危険性が高いと判定し、直ちに鋳造を停止することを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造での品質及び設備の異常を検知する異常検知方法。
ただし、
ケース(3):複数のロールの内のいずれかにおけるベアリング異常が発生した場合におけるトルク変動値をc[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZc[mm]、トルク変動値c[%]の持続時間をTc[sec]とする。
ケース(4):ブレークアウトが発生した場合におけるトルク変動値をd[%]、当該トルク変動時での湯面変動幅をZd[mm]、トルク変動値d[%]の持続時間をTd[sec]とする。
領域D:トルク変動値N≧d、及び、持続時間T≧Tdの両条件を満たす範囲とする。
領域C:領域D以外の領域であって、トルク変動値N≧c、及び、持続時間T≧Tcの両条件を満たす範囲とする。
領域B:領域D及び領域C以外の領域であって、トルク変動値N≧bの条件を満たす範囲とする。
領域A:領域D、領域C及び領域B以外の領域であって、トルク変動値N≧aの条件を満たす範囲とする。
湯面変動幅最小値Zx:湯面変動幅Za[mm]、Zb[mm]、Zc[mm]及びZd[mm]の内の最も小さい値とする。ただし、Zx>0を満たす。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−62734(P2011−62734A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216340(P2009−216340)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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