説明

ファスナー付き履物

【課題】履物を充分に大きく開くことができ、履き易さと脱ぎ易さに優れるファスナー付きの履物を提供する。
【解決手段】後部にファスナー3を設けた履物であって、縦方向の切込み部4aを有し、切込み部4aの内面側にファスナー3を取付けた市革4と、市革4の下端部内面側に取付けられ、ファスナー3の下端部に配置された平板状で正面略半円ドーム状の月形芯2と、市革4の左右一方端部側に取付けられた内甲腰革5と、市革4の左右他方端部側に取付けられた外甲腰革6とを備え、月形芯2に、ファスナー3のスライダー3aが上から侵入する、上向きに開口した切欠凹部2aを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はファスナーを設けたファスナー付き履物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、図4および図5に示すように、革製ブーツなどの底の深い履物20には、履き易さと脱ぎ易さを確保するために、後部などにファスナー3が取付けられている。
通常、このファスナー3は、図6に示すように、縦方向の切込み部4aを有する市革4の内面側に取付けられる。また、ファスナー3の下端部内面側には、図6および図7に示すように、ファスナー3の下端部を覆う状態で月形芯21が配置されている。さらに、市革4の左右両端部側には、内甲腰革5と、外甲腰革6が取付けられている。
【0003】
月形芯21は、履物20の踵部の形状を保持するために設けられ、通常、平板状で、正面略半円ドーム状(略半月状)に形成されている(例えば、特許文献1参照)。
そして、踵部の形状を保持する必要があることから、ある程度の剛性を有している。
【特許文献1】特開平10−57108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした構成の従来のファスナー付き履物20には、解決すべき問題がある。
すなわち、ファスナー3の下端部内面側に、ファスナー3の下端部を覆う状態で月形芯21が配置されているので、ファスナー3のスライダー3aを引き下げると、図6および図7に示すように、月形芯21の上端21aに突き当たり、これによって、このファスナー3は月形芯21の上端位置より下位まで引き下げることができない。そのため、履物20を充分に大きく開くことができず、履き易さと脱ぎ易さに欠けてしまう。
【0005】
また、特許文献1に記載の月形芯は、靴を射出成形によって容易に製造するために、切欠き部を月形芯の下端に複数形成したものであり、ファスナーとの関係についての技術は開示していない。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、履物を充分に大きく開くことができ、履き易さと脱ぎ易さに優れるファスナー付き履物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載のファスナー付き履物(1)は、後部にファスナー(3)を設けた履物であって、
縦方向の切込み部(4a)を有し、前記切込み部(4a)の内面側に前記ファスナー(3)を取付けた市革(4)と、前記市革(4)の下端部内面側に取付けられ、前記ファスナー(3)の下端部に配置された平板状の月形芯(2)と、前記市革(4)の左右一方端部側に取付けられた内甲腰革(5)と、前記市革(4)の左右他方端部側に取付けられた外甲腰革(6)とを備え、
前記月形芯(2)に、前記ファスナー(3)のスライダー(3a)が上から侵入する、上向きに開口した切欠凹部(2a)を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載のファスナー付き履物(1)は、側部または前部にファスナー(3)を設けた履物であって、
縦方向の切込み部(4a)を有し、前記切込み部(4a)の内面側に前記ファスナー(3)を取付けた市革(4)と、前記市革(4)の下端部内面側に取付けられ、前記ファスナー(3)の下端部に配置された平板状の月形芯(2)と、前記市革(4)の左右一方端部側に取付けられた内甲腰革(5)と、前記市革(4)の左右他方端部側に取付けられた外甲腰革(6)とを備え、
前記月形芯(2)に、前記ファスナー(3)のスライダー(3a)が上から侵入する、上向きに開口した切欠凹部(2a)を設けたことを特徴とする。
【0009】
さらに、請求項3に記載のファスナー付き履物(1)は、前記月形芯(2)は、正面略半円ドーム状であり、前記切欠凹部(2a)は、前記月型芯(2)の中央上部に設けられてなることを特徴とする
【0010】
さらにまた、請求項4に記載のファスナー付き履物(1)は、前記市革(4)と月形芯(2)との間に、前記切欠凹部(2a)を覆わない形状の緩衝材(7)を設けたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載のファスナー付き履物(1)は、前記緩衝材(7)は、前記月形芯(2)を挟んで左右に二分割されてなることを特徴とする。
【0012】
なお、カッコ内の記号は、図面および後述する発明を実施するための最良の形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に記載のファスナー付き履物によれば、後部にファスナーを設けた履物において、月形芯に、ファスナーのスライダーが上から侵入する切欠凹部を設けたので、このスライダーを月形芯の上端位置より下位、詳細には切欠凹部の下端まで引き下ろすことができる。
従って、履物を充分に大きく開くことができ、優れた履き易さと脱ぎ易さを確保することができる。
【0014】
また、請求項2に記載のファスナー付き履物によれば、側部または前部にファスナーを設けた履物において、同様に、月形芯に、ファスナーのスライダーが上から侵入する切欠凹部を設けたので、このスライダーを月形芯の上端位置より下位まで引き下ろすことができ、履物を充分に開いて、優れた履き易さと脱ぎ易さを得ることができる。
【0015】
さらに、請求項3に記載のファスナー付き履物によれば、請求項1または2に記載の発明の作用効果に加えて、月形芯の形状を正面略半円ドーム状とし切欠凹部を月型芯の中央上部に設けたので、左右のバランスがよく、ファスナーのスライダーを効率的に下位まで引き下ろすことができる。
【0016】
さらにまた、請求項4に記載のファスナー付き履物によれば、請求項1乃至3に記載の発明の作用効果に加えて、市革と月形芯との間に緩衝材を設けたので、足に対するフィット感を高め、履き心地を向上させることができる。
また、この緩衝材は、月形芯の切欠凹部を覆わない形状なので、ファスナーのスライダーに干渉せず、従って、スライダーの引き下ろしを邪魔しない。
【0017】
また、請求項5に記載のファスナー付き履物によれば、請求項4に記載の発明の作用効果に加えて、前記緩衝材を左右に二分割したので、月形芯の左右部分に配置して、確実に切欠凹部を覆うことがないようにすることができる。これにより、スライダーとの干渉をさらに確実に避けることができる。
【0018】
また、二分割することによって、その形状を簡素化することができ、製造の簡略化と、製造コストの削減化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1乃至図5を参照して、本発明の実施形態に係るファスナー付き履物1について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るファスナー付き履物1におけるファスナーのスライダーと月形芯との位置関係を示す背面図であり、図2は、その要部拡大図である(市革は省略)。図3は、本発明の実施形態に係るファスナー付き履物1における主要部材の分解斜視図である(背面から視覚した図)。また、図4は、本実施形態に係るファスナー付き履物1を示す左側面図であり、図5は、その背面図である。従来技術と同一部分には同一符号を付した。
【0020】
本実施形態に係るファスナー付き履物1は、後部にファスナー3を設けた底の深い履物(ブーツ)であり、市革4、月形芯2、内甲腰革5、外甲腰革6、つま革8および靴底9を備える。
市革4は、革製で、中央部分に縦方向の切込み部4aを有し、その切込み部4aの内面側にファスナー3を取付けている。
月形芯2は、市革4の下端部内面側に取付けられ、ファスナー3の下端部に配置された平板状で、正面略半円ドーム状で左右対象型である。この月形芯2は、踵部の形状を保持する働きを担うものであることから、ある程度の剛性を有する。本実施形態では、月形芯2を硬質の再生革で形成している。
【0021】
内甲腰革5は、市革4の左右一方端部側(後面右側)に取付けられ、また、外甲腰革6は、市革4の他方端部側(後面左側)に取付けられ、履物1の側部を構成する。
つま革8は、内甲腰革5と外甲腰革6の前側に配置され、履物1の前部を構成する。
内甲腰革5、外甲腰革6、および、つま革8は、いずれも革製である。また、靴底9はゴム製で、履物1の底部を構成する。
なお、市革4と内甲腰革5の左側端部との間に、ファスナー3の内面側に位置し、ファスナー3が足に接触するのを防止するためのファスナー当て10を設けている。また、市革4の外面側にはファスナーカバー11を設けている。
【0022】
そして、月形芯2の中央部分に縦方向に、ファスナー3のスライダー3aが上から侵入するように、上向きに開口した切欠凹部2aを設けている。また、本実施形態では、市革4と月形芯2との間に、切欠凹部2aを覆わないように左右に二分割した緩衝材7を設けている。
【0023】
こうした構成の本実施形態に係るファスナー付き履物1は、月形芯2の中央部分に縦方向に、ファスナー3のスライダー3aが上から侵入する切欠凹部2aを設けているので、図1および図2に示すように、このスライダー3aを、月形芯2の上端位置より下位、すなわち切欠凹部2aの下端(ファスナー3の最下端)まで引き下ろすことができる。
従って、履物1を充分に大きく開くことができ、容易に履くことができ、また、容易に脱ぐことができる製品とすることができる。
【0024】
また、市革4と月形芯2との間に緩衝材7を設けているので、足に対するフィット感を高め、履き心地を向上させることができる。なお、この緩衝材7は、左右に二分割しているので、切欠凹部2aを挟んで、月形芯2の左右部分に配置して、確実に切欠凹部2aを覆うことがないようにすることを可能としている。
これにより、ファスナー3のスライダー3aとの干渉をさらに確実に防止することができるので、スライダー3aを確実に月形芯2の上端位置より下位まで引き下げることができる。
【0025】
また、緩衝材7を二分割しているので、各単体の形状を簡素化することができ、これにより製造を容易とし、製造コストを削減することができる。
【0026】
なお、上記実施形態に係るファスナー付き履物1は、ファスナー3を後部に設けた構成であるが、これに代えて、側部(左右側)や前部に設けた構成、あるいは、それらの組合わせにも適用することができる。また、底の深いブーツのみでなく、底の浅い通常の履物にも適用することができる。さらに、革製の履物のみでなく、布製や樹脂製等の履物にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係るファスナー付き履物におけるファスナーのスライダーと月形芯との位置関係を示す背面図である。
【図2】図2の要部拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係るファスナー付き履物における主要部材の分解斜視図である。
【図4】ファスナー付き履物を示す側面図である。
【図5】ファスナー付き履物を示す背面図である。
【図6】従来に係るファスナー付き履物におけるファスナーのスライダーと月形芯との位置関係を示す背面図である。
【図7】図6の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ファスナー付き履物
2 月形芯
2a 切欠凹部
3 ファスナー
3a スライダー
4 市革
4a 切込み部
5 内甲腰革
6 外甲腰革
7 緩衝材
8 つま革
9 靴底
10 ファスナー当て
11 ファスナーカバー
20 ファスナー付き履物
21 月形芯
21a 上端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後部にファスナーを設けた履物であって、
縦方向の切込み部を有し、前記切込み部の内面側に前記ファスナーを取付けた市革と、前記市革の下端部内面側に取付けられ、前記ファスナーの下端部に配置された平板状の月形芯と、前記市革の左右一方端部側に取付けられた内甲腰革と、前記市革の左右他方端部側に取付けられた外甲腰革とを備え、
前記月形芯に、前記ファスナーのスライダーが上から侵入する、上向きに開口した切欠凹部を設けたことを特徴とするファスナー付き履物。
【請求項2】
側部または前部にファスナーを設けた履物であって、
縦方向の切込み部を有し、前記切込み部の内面側に前記ファスナーを取付けた市革と、前記市革の下端部内面側に取付けられ、前記ファスナーの下端部に配置された平板状の月形芯と、前記市革の左右一方端部側に取付けられた内甲腰革と、前記市革の左右他方端部側に取付けられた外甲腰革とを備え、
前記月形芯に、前記ファスナーのスライダーが上から侵入する、上向きに開口した切欠凹部を設けたことを特徴とするファスナー付き履物。
【請求項3】
前記月形芯は、正面略半円ドーム状であり、前記切欠凹部は、前記月型芯の中央上部に設けられてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のファスナー付き履物。
【請求項4】
前記市革と月形芯との間に、前記切欠凹部を覆わない形状の緩衝材を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のファスナー付き履物。
【請求項5】
前記緩衝材は、前記月型芯を挟んで左右に二分割されてなることを特徴とする請求項4に記載のファスナー付き履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−279210(P2008−279210A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128532(P2007−128532)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(591229668)株式会社 ノサックス (6)
【Fターム(参考)】