説明

ファスナ

【課題】 ピンおよび挿入されるピンにより拡開される片持ち片を備えたグロメットからなるファスナにおいて、簡素な構造で片持ち片の弾性変形のし易さを任意に設定することができるようにする。
【解決手段】 両端が開口するとともに、先端から延在する複数のスリット21によって複数の片持ち片22が形成されたフランジ部17付の筒部15からなるグロメット11と、筒部内に一端が挿入されたピン12とを有し、片持ち片のそれぞれが、前記筒部の内側を向く部分に凸部28を備え、ピンの外面と前記凸部とが離間した初期状態から、ピンが筒部の先端側へと相対変位することによって、凸部が前記ピンの外面に当接し、片持ち片が筒部の外方へと押し広げられた拡開状態となるファスナ10であって、スリットの筒部の外面側における幅W1oとスリットの筒部の内面側における幅W1iとが異なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファスナに係り、詳しくはグロメットおよびピンからなり、2つ以上の部材同士を締結するファスナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つ以上の部材を締結するために、グロメットおよびピンからなる樹脂製のファスナが使用されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係るファスナでは、グロメットは、締結対象となる複数の部材のそれぞれに形成された貫通孔に挿入可能な円筒部と、円筒部の基端に突設された外向きのフランジ部とを備えている。円筒部は、基端および先端が開口するとともに、先端から基端側へと延在する複数のスリットによって周方向において分割された複数の片持ち片を備えている。ピンは、軸部材であって、グロメットの円筒部に基端側から突出する形で挿入されている。そして、各片持ち片の円筒部の内方を向く部分には凸部が設けられている。このようなファスナは、初期状態においては凸部がピンに押圧されておらず、片持ち片が円筒部の軸線方向に延在しており、ピンを円筒部に対して先端側へと押し込むことによって、ピンの外面が凸部を押圧し、各片持ち片が円筒部の外方へと拡開した拡開状態へと変化する。ファスナは、円筒部が締結対象となる複数の部材の貫通孔に挿入された状態で、ピンがグロメットに対して相対変位し、初期状態から拡開状態へと変化することによって、フランジ部と各片持ち片との間に締結対象となる部材を挟持する。
【0003】
上記のようなファスナにおいて、初期状態から拡開状態へと変化させる際のピンのグロメットに対する押し込み力(操作力)は、片持ち片の変形し易さ(撓み易さ)によって定まる。ピンの押し込み力は、押し込み操作を容易にするために小さい方が好ましい一方、ファスナの保管時や搬送時等に意図しない拡開状態への変化を防止するためにある程度大きいことが要求され、それらのバランスをとって任意の大きさに設定される。例えば、ピンのグロメットに対する相対変位を容易にするために、スリットの長さや幅を変更したものがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭55−120818号公報
【特許文献2】特許第3332138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、片持ち片を一定方向に確実に拡開させるためには、凸部を軸部に周方向において広い範囲で当接させ、凸部と軸部との当接を確実かつ一様にする必要がある。そのため、スリット幅を広げて片持ち片を撓み易くする手法は限界がある。このような観点から、特許文献2に記載のファスナは、片持ち片の凸部に対応する部分だけスリットの幅を狭くし、他の部分のスリット幅を広げるという構成を採っている。しかしながら、この手法では、スリットおよび片持ち片の形状が複雑になり、製造が困難になるという問題がある。
【0006】
本発明は、以上の背景を鑑みてなされたものであり、ピンおよび挿入されるピンにより拡開される片持ち片を備えたグロメットからなるファスナにおいて、簡素な構造で片持ち片の弾性変形のし易さを任意に設定することができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、先端および基端が開口するとともに、先端から延在する複数のスリット(21)によって複数の片持ち片(22)が形成された筒部(15)と、前記筒部の基端に外向きに突設されたフランジ部(17)とを備えたグロメット(11)と、先端側が前記筒部内に挿入される一方、基端側が前記筒部の基端から突出するピン(12)とを有し、前記片持ち片のそれぞれが、前記筒部の内側を向く部分に凸部(28)を備え、前記ピンの外面と前記凸部とが離間した初期状態から、前記ピンが前記筒部の先端側へと相対変位することによって、前記凸部が前記ピンの外面に当接し、前記片持ち片が前記筒部の外方へと押し広げられた拡開状態となるファスナ(10)であって、前記スリットの前記筒部の外面側における幅(W1o)と前記スリットの前記筒部の内面側における幅(W1i)とが異なることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、片持ち片の横断面形状を任意に設定することによって、簡素な構造で片持ち片を所望の撓み易さに設定することができる。
【0009】
本発明のある側面は、前記スリットの前記筒部の外面側における幅が、前記スリットの前記筒部の内面側における幅よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、片持ち片の内側に凸部の形成部位を確保しつつ、片持ち片を細くして弾性変形し易くすることができる。
【0011】
本発明のある側面は、前記片持ち片のそれぞれは、前記筒部の内面側における幅(W2i)が、前記筒部の外面側における幅(W2o)よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、凸部の形成部位を確保しつつ、片持ち片を細くして弾性変形し易くすることができる。
【0013】
本発明のある側面は、前記ピンは、前記初期状態において前記凸部を受容する凹部(47)を備え、前記初期状態から前記ピンが前記筒部の先端側へと相対変位することによって、前記凸部が前記凹部から離脱して前記ピンの外面に当接し、前記拡開状態となることを特徴する。
【0014】
この構成によれば、初期状態において、グロメットからピンが脱落しないようにすることができる。
【0015】
本発明のある側面は、前記筒部は、円筒形状をなすことを特徴する。
【0016】
この構成によれば、ファスナを簡素な構造にすることができる。
【0017】
本発明のある側面は、前記スリットは、前記筒部の周方向において等間隔に少なくとも3つ形成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、各片持ち片が均一かつ放射状に拡開され、フランジ部との間に締結対称となる物体を確実に挟持することができる。
【0019】
本発明のある側面は、前記片持ち片の基端部は、テーパ部(24)を有し、基端に向かうにつれて幅が大きくなることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、各片持ち片の基端部がテーパ状に拡幅され、片持ち片が弾性変形する際に、片持ち片の基端部の一部に応力が集中することが抑制される。
【発明の効果】
【0021】
ピンおよび挿入されるピンにより拡開される片持ち片を備えたグロメットからなるファスナにおいて、簡素な構造で片持ち片の弾性変形のし易さを任意に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係るファスナの初期状態を示す斜視図
【図2】実施形態に係るグロメットの斜視図
【図3】実施形態に係るグロメットの底面図
【図4】実施形態に係るグロメットの側面図および断面図
【図5】図4のV−V断面図
【図6】実施形態に係るピンの斜視図
【図7】実施形態に係るファスナの初期状態を示す断面図
【図8】実施形態に係るファスナの拡開状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明のファスナの一実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、各図に示す上下方向軸を基準にして各方向を定める。本実施形態のファスナ10は、2つの板状部材を互いに締結する使用され、例えば車両のアンダーカバーをフロアパネル等の車体パネルに締結するために使用される。
【0024】
図1に示すように、ファスナ10は、グロメット11とピン12とを組み合わせて構成される。グロメット11およびピン12は、ともに樹脂の成形品である。
【0025】
図1〜図5に示すように、グロメット11は、図にて上下方向に延在し、両端が開口した円筒状の筒部15を有している。筒部15は、その上端を基端、下端を先端とし、基端から先端へと延在する内部空間を内孔16とする。筒部15の基端には、筒部15の径方向外方へと延出する円板状のフランジ部17が形成されている。フランジ部17の周縁部には、その周縁に沿って上方へと突出する円環状のリブ18が形成されている。また、フランジ部17の上面であって、内孔16の周縁部には、上方へと突出するともに内孔16を囲む円環状の座部19が形成されている。
【0026】
筒部15の先端側には、筒部15の軸線と平行に先端から筒部の上下方向における中間部へと延在するスリット21が4つ形成されている。各スリット21は、互いに同一の形状を有し、筒部15の外部と内孔19とを連通しており、筒部15の周方向において互いに90°間隔で配置されている。これらの4つのスリット21によって、筒部15の先端側はその周方向に4分割され、各スリット21間に互いに同形となる4つの片持ち片22を構成している。
【0027】
片持ち片22は、筒部15の軸線方向に延在し、筒部15の外周面および内周面をなす部分と、筒部15の外周面から内周面へと到る一対の平面状の側壁部23とを有している。片持ち片22の基端部(上端部)は、スリット21が先細になることによって、側壁部23に対して傾斜したテーパ部24を有し、基端側に進むほど幅が広くなっている。隣り合う片持ち片22の各テーパ部24の間には、筒部15の外周面から内周面へと到る凹溝25が形成されている。
【0028】
図3および図5に示すように、スリット21の筒部15の外周側における部分の周方向幅(以下、スリット21の外側幅という)W1oは、スリット21の筒部15の内周側における部分の周方向幅(以下、スリット21の内側幅という)W1iよりも大きくなっている。すなわち、スリット21の横断面形状は、筒部15の内側を上底とする略台形状となっている。また、本実施形態では、片持ち片22の筒部15の外周側における部分の周方向幅(以下、片持ち片22の外側幅という)W2oが、片持ち片22の筒部15の内周側における部分の円周方向における周方向幅(以下、片持ち片22の内側幅という)W2iよりも小さくなっている。すなわち、片持ち片22の横断面形状は、筒部15の内側を下底とする略台形状となっている。なお、他の実施形態においては、片持ち片22の外側幅W2oが内側幅W2iと概ね同一の大きさであってもよい。
【0029】
図3および図4に特に示すように、片持ち片22の先端部の内孔16側を向く部分には、内孔16内(すなわち、筒部15の中心側)へと突出する凸部28が形成されている。凸部28は、上下方向における中間部において最も内孔16内へと突出する爪部29を構成している。爪部29から凸部28の上端にかけては滑らかな凹状の曲面部30が形成されており、凸部28は片持ち片22の内周面をなす部分から爪部29へと滑らかに突出している。
【0030】
図6に示すように、ピン12は、上下方向に延びる円柱状の軸部41と、軸部41の基端(上端)に形成された頭部42とを有している。頭部42は、軸部41の径方向に延出する円板状を呈し、使用者の操作入力を受ける操作入力部として機能する。軸部41の先端(下端)側の外面には、周方向に延在する環状凹溝43が形成されている。軸部41の環状凹溝43より先端側の部分には、先端側が先細となるように同軸の円錐部44が形成されている。円錐部44の先端側の外面には、周方向に90°間隔で隔壁45が突設されている。各隔壁45の下端は軸部41の先端をなす端壁46によって連結されており、円錐部44の円錐面(外面)と、隣り合う一対の隔壁45と、端壁46とによって、凹部47が画成されている。凹部47は、周方向に4つ配設されている。
【0031】
ファスナ10は、ピン12の先端側を、グロメット11の内孔16の基端側に挿入し、組み合わせることによって形成される。ピン12のグロメット11に対する挿入過程では、軸部41の端壁46が各片持ち片22の曲面部30を押圧し、各片持ち片22は筒部15の径方向外方へと弾性変形して押し退けられる。端壁46が各片持ち片22の各爪部29を乗り越えると、各爪部29と軸部41の各凹部47とが対向し、各片持ち片22の復元力によって各爪部29が各凹部47内に突入する。この状態をファスナ10の初期状態とする。図1および図7に示すように、初期状態では、各爪部29が各凹部47に受容されているため、各片持ち片22は軸部41によって押圧されておらず、上下方向に延在している。初期状態では、端壁46が爪部29に規制されることによって、ピン12のグロメット11からの抜け止めがなされている。
【0032】
次に、上述したファスナ10を用いて、2つの板状部材101,102を締結する手順について説明する。図7に示すように、各板状部材101,102はファスナ10の筒部15が挿通可能な貫通孔103,104が形成されている。各板状部材101,102をそれぞれの貫通孔103,104が互いに整合するように重ね合わせ、これらの貫通孔103,104に、フランジ部17が板状部材101の貫通孔103の周縁部に当接するまでファスナ10の筒部15を挿入する。
【0033】
筒部15を両貫通孔103,104に挿入した状態で、ピン12の頭部42を押圧し、軸部41を筒部15の先端側(下側)に変位させる。これにより、軸部41の筒部15に対する変位量に応じて軸部41の円錐部44が、各爪部29を押圧し、各片持ち片22が筒部15の径方向外方へと拡開される。軸部41の筒部15に対する挿入が進み、各爪部29が円錐部44の上端を乗り越えると、各爪部29は各片持ち片22の復元力によって環状凹溝43内に突入する。図8に示すこの状態を、ファスナ10の拡開状態という。拡開状態では、各爪部29と環状凹溝43との引っ掛かりによって、グロメット11とピン12との上下方向における相対変位が規制されている。各片持ち片22が拡開されることによって、両板状部材101,102が、拡片持ち片22とフランジ部17との間に挟持される。また、ファスナ10が両貫通孔103,104から脱落しないようになる。
【0034】
図8に示すように、ファスナ10の拡開状態においては、頭部42は座部19に当接しているが、頭部42の外径が、リブ18の内径より小さく、かつ座部19の外径よりも大きいため、ファスナ10の外部から工具等を頭部42の周縁部の下面側に到達させることができる。ファスナ10を拡開状態から初期状態へと戻したいときには、工具等を頭部42の周縁部に引掛け、ピン12をグロメット11から引き出す。爪部29と環状凹溝43との引っ掛かりは、所定の荷重を加えることによって片持ち片22が撓み、解除されるようになっている。
【0035】
以上のように構成したファスナ10は、スリット21の外側幅W1oが内側幅W1iに比べて大きくなっているため、各片持ち片22の内側幅W2iを大きく維持しつつ、外側幅W2oを小さくすることができる。これにより、各片持ち片22の内孔16を向く部分に凸部28を設ける部位を広く確保することができる一方、片持ち片22を細くして撓み易くすることができる。各片持ち片22を撓み易くすることによって、各スリット21の長さ(上下方向における長さ)を短縮することができ、筒部15の基部側に径が変位しない部位を設けることが可能になる。また、筒部15の上下方向長さを短縮することができる。このように、スリット21の外側幅W1oおよび内側幅W1iを適宜変更させることにより、簡単な構成で片持ち片22および筒部15の特性を変更することができ、設計自由度を高めることができる。
【0036】
また、テーパ部24を各片持ち片22の基部に設けたことによって、各片持ち片22の弾性変形時(拡開時)に基部への応力集中が抑制され、基部の破断を防止することができる。
【0037】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、スリット21の数は任意に設定することができる。なお、スリット21の数は、3つ以上であることが、ファスナ10と締結対象としての部材との結合性を高めるために好ましい。
【符号の説明】
【0038】
10…ファスナ、11…グロメット、12…ピン、15…筒部、16…内孔、17…フランジ部、21…スリット、22…片持ち片、23…側壁部、24…テーパ部、25…凹溝、28…凸部、29…爪部、30…曲面部、41…軸部、42…頭部、43…環状凹溝、44…円錐部、45…隔壁、46…端壁、47…凹部、101,102…板状部材、103,104…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端および基端が開口するとともに、先端から延在する複数のスリットによって複数の片持ち片が形成された筒部と、前記筒部の基端に外向きに突設されたフランジ部とを備えたグロメットと、
先端側が前記筒部内に挿入される一方、基端側が前記筒部の基端から突出するピンとを有し、
前記片持ち片のそれぞれが、前記筒部の内側を向く部分に凸部を備え、
前記ピンの外面と前記凸部とが離間した初期状態から、前記ピンが前記筒部の先端側へと相対変位することによって、前記凸部が前記ピンの外面に当接し、前記片持ち片が前記筒部の外方へと押し広げられた拡開状態となるファスナであって、
前記スリットの前記筒部の外面側における幅と前記スリットの前記筒部の内面側における幅とが異なることを特徴とするファスナ。
【請求項2】
前記スリットの前記筒部の外面側における幅が、前記スリットの前記筒部の内面側における幅よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載のファスナ。
【請求項3】
前記片持ち片のそれぞれは、前記筒部の内面側における幅が、前記筒部の外面側における幅よりも大きいことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のファスナ。
【請求項4】
前記ピンは、前記初期状態において前記凸部を受容する凹部を備え、
前記初期状態から前記ピンが前記筒部の先端側へと相対変位することによって、前記凸部が前記凹部から離脱して前記ピンの外面に当接し、前記拡開状態となることを特徴する、請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のファスナ。
【請求項5】
前記筒部は、円筒形状をなすことを特徴する、請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載のファスナ。
【請求項6】
前記スリットは、前記筒部の周方向において等間隔に少なくとも3つ形成されていることを特徴とする、請求項5に記載のファスナ。
【請求項7】
前記片持ち片の基端部は、テーパ部を有し、基端に向かうにつれて幅が大きくなることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載のファスナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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