説明

フィッシャー・トロプシュ合成用のコバルト担持触媒

アルミニウムと0.01〜20重量%のリチウムから成る酸化物担持体上に担持された5〜75重量%のコバルトを含む触媒、及び該触媒の調製方法が記載されている。該触媒は、炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成に有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、担持触媒に関するものであり、特に炭化水素のフィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)合成に適したコバルト担持触媒に関する。
炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成に適したコバルト触媒は公知であり、その活性型には、典型的に、アルミナ、シリカ又はチタニアのような酸化物担持体に担持された元素状又は原子価ゼロのコバルトが含まれる。
【0002】
炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成に適したコバルト担持触媒の調製は、「事前に形成された」酸化物担持体材料への可溶性コバルト化合物の含浸によるか、又は、担持体の粉末若しくは押出物の存在下での溶液からのコバルト化合物の沈殿と、これに続く空気中での加熱工程と、次いで、使用前の、典型的には水素含有ガス流を用いる、得られた触媒前駆体中のコバルト化合物を元素型、若しくは「原子価ゼロ」型へ還元させることによる触媒の活性化による。空気中での加熱工程により、一定量のコバルト化合物は、酸化コバルト、Co3O4へと変化し、これに続く水素を用いた還元により、該Co3O4がコバルト一酸化物、CoOへと変化し、そしてそれから触媒活性を有するコバルト金属へと変化する。
【0003】
しかしながら、製造時における前記触媒前駆体の高温での長時間の加熱は、恐らく増大した担持体−金属相互作用により、スピネル又は他の錯体酸化物の望ましくない形成が起った結果として、後に還元される触媒に生じるコバルト表面積を減少させることが判明した。例えば、空気中にてアルミナ上でコバルト化合物を加熱すると、アルミン酸コバルトの形成を増大させることが可能である。これに続く触媒の活性化では、アルミン酸コバルトは、水素による還元に対して酸化コバルトよりも抵抗性があり、延長された還元時間又は上昇された温度が要求される。これらの両方により、得られる触媒中のコバルト表面積の減少が生じる場合がある。
【0004】
シリカ担持触媒やチタニア担持触媒を調製することも可能ではあるが、アルミナ担持触媒は、他の担持触媒に対していくつかの優位性を示す。例えば、アルミナ担持触媒は、シリカ、チタニア、又はジルコニア担持触媒よりも容易に押出成型により成形され、そして、しばしば得られる触媒の機械的強度も高くなる。更に、水が存在する反応においては、シリカは不安定になる場合がある。このような状況下では、アルミナは比較的安定である。
【0005】
コバルト表面積は、触媒活性に比例することが判明しているので、アルミン酸コバルトの形成に抵抗性を有するアルミナ担持体が望まれる。
従って、本発明は、アルミニウムと0.01〜20重量%のリチウムから成る酸化物担持体上に担持された5〜75重量%のコバルトを含む触媒を提供する。
【0006】
更に、本発明は、(i)アルミナをリチウム化合物の溶液に含浸し、該含浸した担持体を乾燥させ、そして加熱して該リチウム化合物を1又は2種類以上の酸化リチウムに変化させることにより酸化物担持体を調製すること、(ii)前記酸化物担持体をコバルト化合物の溶液に含浸すること、又は前記担持体の存在下で不溶性のコバルト化合物を沈殿させること、並びに(iii)得られる組成物を任意にか焼すること、を含む前記触媒の調製方法を提供する。
【0007】
このようにして生産された触媒前駆体は、得られた触媒前駆体を還元性ガスの存在下で加熱して少なくとも一部のコバルトを元素型へと還元する工程により、フィッシャー・トロプシュ反応用の活性型へと変換させることができる。
【0008】
更に、本発明は、炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成のための前記コバルト触媒の使用を提供する。
米国特許第6184416号には、ロジウム触媒による芳香族アミンの水素化のための触媒担持体としてのアルミン酸リチウムが記載されている。該アルミン酸リチウムにより、増加した耐水性と、改善された摩耗耐性が与えられた。しかしながら、米国特許第6184416号には、コバルトのフィッシャー・トロプシュ触媒が記載されておらず、アルミン酸コバルト形成の問題も考慮されていない。我々は、アルミン酸コバルト形成が問題となり得るコバルトのフィッシャー・トロプシュ触媒に関し、本発明が向上したコバルト触媒能を提供することを見出した。
【0009】
本発明の酸化物触媒担持体には、0.01〜20重量%のLiが含まれ、好ましくは、0.5〜10重量%であり、より好ましくは、1〜5重量%のLiが含まれる。アルミニウムに対するリチウムの原子比率は、好ましくは0.08〜0.8である。酸化リチウムは、酸化リチウム (Li2O)の形態にあってもよいが、好ましくはアルミン酸リチウムスピネル(LiAl5O8)を含む。より好ましくは、酸化リチウムは、75重量%を超えるアルミン酸リチウムを含み、特に90重量%を超えるアルミン酸リチウムを含むことが好ましい。従って、好ましくは、リチウムは、主としてアルミン酸リチウムの形態にある。これにより、アルミン酸コバルトの形成が減少するとともに、触媒に向上した耐水性が与えられると考えられる。
【0010】
酸化物担持体は、粉末の形態にあるか、又は顆粒、タブレット、押出物のような成形単位(shaped unit)にあってもよい。成形単位は、長く引き伸ばされた円筒、球体、切れ目の入った又は溝付きの円筒、又は不規則な形状の粒子の形態にあってもよく、これらのすべては触媒製造の分野において公知である。これに代わるものとして、前記担持体は、蜂巣状の担持体、モノリス等の構造物上のコーティングの形態にあってもよい。
【0011】
適切な粉末触媒担持体は、一般的に、1ないし200μmの範囲にある表面積重み付平均粒径(surface-weighted mean diameter)D[3,2]を有する。スラリー反応での使用が意図される触媒といった、特定の用途においては、1ないし20μmの範囲、例えば、1ないし10μmの範囲にある表面積重み付平均粒径D[3,2]を有する、非常に微細な粒子を用いることが有益である。例えば、流動床内で行われる反応用の触媒のような、他の用途に関しては、好ましくは、50ないし150μmの範囲にある、より大きな粒子サイズを用いることが望ましくあろう。表面積重み付平均粒径D[3,2]、又は別名ザウター(Sauter)平均粒径は、M. Alderliestenにより、論文「平均粒径の命名法(A Nomenclature for Mean Particle Diameters)」; Anal. Proc, 第21巻, 1984年5月, 第167-172頁、において定義され、好都合なことに例えばマルヴァーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer)を用いたレーザー回折により行うことが可能な粒子サイズ分析により計算される。
【0012】
本発明の酸化物担持体は、アルミナをリチウム化合物の溶液に含浸することにより調製することができる。
アルミナは、ギブサイト(Al(OH)3)又はベーマイト(AlO(OH))のような水酸化アルミニウムであってもよいが、前記アルミナは、遷移アルミナであることが好ましいので、本発明に係る好ましい触媒には、アルミン酸リチウムを含有する遷移アルミナ担持体上のコバルト種が含まれる。適切な遷移アルミナは、γ−アルミナ群であり、例えば、η−アルミナ、又はχ−アルミナであってもよい。これらの原料は、水酸化アルミニウムの400ないし750℃でのか焼により形成することができ、一般的に150ないし400m2/gの範囲にあるBET表面積を有する。これに代わるものとして、前記遷移アルミナは、δ−アルミナ群でもよく、これらには、γ−アルミナ群を約800℃を超える温度に加熱することで形成可能なδ−アルミナとθ−アルミナのような高温型が含まれる。一般的に、δ−アルミナ群は、50ないし150m2/gの範囲にあるBET表面積を有する。また、これに代わるものとして、我々は、適切な触媒担持体に、α−アルミナが含まれていてもよいことを見出した。前記遷移アルミナには、1モルのAl2O3あたりに0.5モル未満の水が含まれており、実際の水の量は、加熱された温度に依存する。
【0013】
前記アルミナの細孔容積は、0.4cm3/gを超えていることが好ましい。
前記遷移アルミナが、例えば沈殿γ−アルミナ等の沈殿アルミナの場合、我々は、アルミナをリチウムで含浸する前に、該沈殿アルミナを水及び/又は酸性溶液及び/又はアンモニア溶液で洗浄して、アルカリ金属及び/又は硫黄及び/又は塩素のような可溶性夾雑物を取り除くことで、触媒能の向上が達成できることを見出した。我々は、特に、沈澱アルミナを硝酸溶液とアンモニア溶液で洗浄し、これに続いて水で洗浄することにより、除去されない場合にはFT触媒活性及び/又はC5+炭化水素に対する選択性を減少させる可能性のあるNaとSとClの夾雑物を除去できることを見出した。
【0014】
硝酸リチウム、シュウ酸リチウム又は酢酸リチウム、好ましくは、硝酸リチウムのような適切な可溶性のリチウム化合物の1又は2種類以上を含浸に用いることもできる。水が好ましい溶媒である。一回の又は複数回の含浸を行って、所望のリチウム濃度を達成することができる。所望の場合には、乾燥により溶媒を除去させる前に、過剰量の溶液から含浸した担持体を分離することもできる。乾燥後、含浸したアルミナを好ましくは空気中で加熱して生理化学的変化を生じさせ、これによりリチウム化合物を酸化リチウムへと変換することができる。乾燥は、好ましくは20〜150℃において行われ、好ましくは90〜120℃で最長24時間行われる。乾燥は、空気中で、又は窒素若しくはアルゴンのような不活性ガス下で、又は真空オーブン中で行うことができる。か焼は、好ましくは空気中又は場合によっては他の酸素含有ガス中で、好ましくは500〜1500℃の範囲にある温度で行われ、好ましくは700〜1000℃で行われることで酸化リチウムの形成が確実なものとなる。か焼は、最長で24時間行うことができるが、好ましくは16時間未満である。従って、前記酸化物担持体は、酸化リチウムとして、又は、残存するアルミナ量が、リチウムの存在量に依存するアルミン酸リチウムでコーティングされたアルミナとして表現することができる。
【0015】
所望により、酸化リチウムを含有する酸化物担持体をコバルト化合物と混合する前に、該担持体を水及び/又は酸/及び又はアンモニア溶液で洗浄して、アルカリ金属及び/又は硫黄又は塩素のような可溶性夾雑物を取り除くことができる。
【0016】
コバルトは、触媒を調製するために、前記酸化物担持体と組み合わされる。触媒には、5〜75重量%のコバルト(原子として)が含まれる。好ましくは、前記触媒には、15〜50重量%のがCo含まれ、より好ましくは、5〜40重量%のコバルトが含まれる。コバルトは、触媒がフィッシャー・トロプシュ反応において活性となる、元素型、原子価ゼロ型にあってもよく、又は、活性触媒の前駆体である、酸化コバルトのようなコバルト化合物の形態にあってもよい。該前駆体は、好ましくは使用前に還元性のガスで処理することによって、活性触媒へと変換される。従って、本明細書における「触媒」という用語は、活性触媒又は触媒前駆体に関する。
【0017】
コバルトは、適切なコバルト化合物の溶液を用いた含浸、又は溶液からのコバルト化合物の沈殿により、酸化物担持体と組み合わせることができる。含浸は、5ないし40重量%のコバルトを含有する触媒の調製に特に適している。沈殿は、硝酸コバルト、酢酸コバルト、若しくはギ酸コバルトのような酸性コバルト塩に対する塩基の作用により生じさせることができ、又は例えば、WO01/87480号に記載され、そして特にWO05/107942号に記載されるように、コバルトアンミンカーボネート(cobalt ammine carbonate)溶液を加熱することによっても生じさせることができる。沈殿を用いて、5〜75重量%のコバルトを含有する触媒、特に20重量%を超えるコバルトを含有する触媒、とりわけ40重量%を超えるコバルトを含有する触媒を調製することができる。
【0018】
コバルト触媒の生産方法はよく知られており、一般的には、触媒担持体を、例えば、適切な濃度の硝酸コバルト、酢酸コバルト、ギ酸コバルト、シュウ酸コバルト、又はコバルトアンミンカーボネート等のコバルト溶液と混合することを含む。好ましくは、触媒担持体に添加された担持体原料の孔が十分量のコバルト溶液により充填される初期の湿潤(インシピエントウェットネス、incipient wetness)法を用いることができる。これに代わり、所望により、より大量のコバルト溶液を用いることができる。水、アルコール、ケトン又はこれらの混合物といった数多くの溶媒を用いることができるが、好ましくは、前記担持体は、水溶液を用いて含浸される。水性硝酸コバルトの含浸が好ましい。一回又は複数回の含浸を行って、前記触媒前駆体中での所望のコバルト濃度を達成することができる。別の好ましい態様では、コバルトアンミンカーボネートの水溶液から、不溶性のコバルト化合物を酸化物担持体上へ沈殿させる。
【0019】
所望される場合には、前記コバルト含有担持体を乾燥させて溶媒を取り除くことができる。該乾燥工程は、空気中、又は窒素のような不活性ガス下で、又は真空オーブン中で、20〜120℃で、好ましくは95〜110℃で行うことができる。
【0020】
前記乾燥されたCo含有酸化物担持体は、次いで、好ましくは空気中で、又は酸化的条件下で他の酸素含有ガス中で、か焼、即ち、加熱することで、含浸したコバルト化合物、又は酸化リチウムコーティングされたアルミナ上へ沈殿させたコバルト化合物を酸化コバルト(Co3O4)へ変換させることができる。これに代わるものとして、特に前記コバルト化合物がギ酸コバルトである場合には、少なくとも一部のコバルト化合物が分解してコバルト金属を形成する非酸化的条件下で加熱を行ってもよい。加熱(か焼)温度は、好ましくは130ないし500℃の範囲内にあるが、コバルト−担持体間の相互作用を最小にするため、か焼の最高温度は、好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下であり、最も好ましくは350℃以下であり、とりわけ300℃以下であることが好ましい。か焼時間は、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは16時間以下であり、最も好ましくは8時間以下であり、とりわけ6時間以下であることが好ましい。
【0021】
また、次の還元工程を乾燥された含浸又は沈澱コバルト化合物に対して直接行うように、前記か焼工程を省略することもできる。硝酸コバルトを酸化物担持体上に含浸させる場合、好ましくは、少なくとも一部のコバルト化合物が酸化コバルトへ変換されるように、か焼工程が含まれる。不溶性コバルト化合物がコバルトアンミンカーボネート溶液から沈澱された場合には、該沈殿化合物には既にCo3O4が含まれているであろうから、か焼工程は必要とされない。
【0022】
コバルトが硝酸コバルトから誘導される場合、所望により、前記か焼されたコバルト含浸担持体は、冷却の後に、窒素のような不活性ガス中に0.1〜10体積%の水素を含むガス混合物の存在下において、250℃未満の温度まで、好ましくは50〜225℃の温度で加熱して、触媒担持体を更に脱窒素させることができる。これは、前記コバルト触媒前駆体のか焼が400℃以下、特に300℃以下で行われた場合に、特に有益である。これらの条件下では、本質的に酸化コバルトの還元が起きることがない。
【0023】
乾燥、か焼及び/又はこれに続く脱窒素は、プロセス用装置の利用可能性及び/又は作業の規模に基づいて、バッチ式に、又は連続的に行うことができる。
触媒には、コバルトに加えて、更に、フィッシャー・トロプシュ触媒に有用な、1又は2種類以上の適切な添加剤又は助触媒が含まれていてもよい。例えば、前記触媒には、物理的性質を変化させる1又は2種類以上の添加剤、及び/又は、触媒の還元性又は活性又は選択性をもたらす助触媒が含まれていてもよい。適切な添加剤は、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)又は亜鉛(Zn)から選択される金属の化合物から選択される。適切な助触媒には、銀(Ag)、金(Au)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)が含まれる。好ましくは、Cu、Ag、Au、Ni、Pt、Pd、Ir、Re又はRuから、より好ましくは、Ni、Pt、Pd、Ir、Re又はRuから選択される1又は2種類以上の助触媒が、前記触媒に含まれる。添加剤及び/又は助触媒は、例えば、過レニウム酸等の酸、金属硝酸塩又は金属酢酸塩等の金属塩、又は金属アルコキシド若しくは金属アセチルアセトネートのような適切な金属有機化合物といった適切な化合物の使用により、前駆体を通じて触媒に取り込ませることができる。助触媒の典型的な量は、コバルトの重量に対して金属として0.1〜10%である。所望により、添加剤及び/又は助触媒の化合物は、適切な量としてコバルト含浸溶液に添加してもよい。これに代わり、添加剤及び/又は助触媒の化合物は、乾燥/脱窒素の前後において、前記触媒前駆体と混合してもよい。
【0024】
前記触媒をフィッシャー・トロプシュ反応用に触媒として活性化するために、酸化コバルトの少なくとも一部を金属へと還元することができる。還元は、好ましくは、水素含有ガスを用いて上昇された温度にて行われる。好ましくは、75%を超えるコバルトが還元される。
【0025】
所望により、還元工程の前に、当業者に公知の方法を用いて、前記触媒を該触媒の予定されるプロセスに適切な成形単位へと成形することもできる。
還元は、前記酸化物組成物上に、水素、合成ガス、又は窒素若しくは他の不活性ガスと水素の混合物のような水素含有ガスを、上昇された温度で通過させることにより行うことができ、例えば、前記触媒前駆体上に、水素含有ガスを300〜600℃の範囲の温度で、1ないし16時間、好ましくは1ないし8時間通過させることにより行うことができる。好ましくは、前記還元性ガスには、25体積%を超える水素が含まれ、より好ましくは、50体積%を超え、最も好ましくは75体積%を超え、とりわけ好ましくは90体積%を超える水素が含まれる。還元は、周囲圧力、又は上昇された圧力で行うことができ、即ち、前記還元性ガスの圧力は、適切には、1〜50bar abs、好ましくは1〜20bar abs、更に好ましくは1〜10bar absであろう。還元が系内(in situ)で行われている場合には、10bar absを超える高圧の方が妥当であろう。
【0026】
還元状態にある触媒は、自然に空気中の酸素と反応し、これにより不所望の自己発熱と活性の喪失が生じ得るので、取り扱いが困難な場合がある。フィッシャー・トロプシュのプロセスに適切な触媒については、還元触媒は、好ましくは、適切なバリアーコーティングを用いて該還元触媒粒子を封入することにより保護される。フィッシャー・トロプシュ触媒の場合、このバリアーコーティングには、FT-炭化水素ワックス(FT-hydrocarbon wax)が適切である。これに代わり、触媒を酸化物の非還元状態において提供し、水素含有ガスを用いて系内で還元することもできる。いずれの経路を選択した場合であっても、本発明に係る方法により得られた前駆体から調製されるコバルト触媒は、還元金属1グラム当たりの大きな金属表面積を提供する。例えば、コバルト触媒前駆体は、水素により425℃で還元された場合には、好ましくは、150℃でのH2化学吸着により測定すると、コバルト1g当たり20m2以上のコバルト表面積を有する。より好ましくは、コバルト表面積は、コバルト1g当たり30m2以上であり、そして最も好ましくは、コバルト1g当たり40m2/g以上である。好ましくは、フィッシャー・トロプシュ法において適切な触媒体積を達成するためには、触媒は、触媒1g当たりのコバルトの表面積として、触媒1g当たり5m2以上のコバルト表面積を有し、より好ましくは、触媒1g当たり8m2以上のコバルト表面積を有する。
【0027】
コバルト表面積は、H2化学吸着により測定することができる。好ましい方法は以下の通りである;約0.2gないし0.5gのサンプル材料、例えば、触媒前駆体を、最初に脱ガスし、そして流動ヘリウム中にて10℃/分で140℃まで加熱することにより乾燥させ、そして140℃で60分間維持する。次いで、脱ガスして乾燥させたサンプルを、50ml/分の水素の流れの下で140℃から425℃まで、3℃/分の速度で加熱し、次いで該水素の流れを425℃で6時間維持することにより、該サンプルを還元する。この還元に続いて、前記サンプルを真空化で、10℃/分で450℃まで加熱し、これらの条件下で2時間維持する。次いで、該サンプルを150℃まで冷却して、真空化で更に30分間維持する。その後、純粋な水素ガスを用いて、150℃で化学吸着分析を行う。自動分析プログラムを用いて、水素の100mmHgないし760mmHgの圧力の範囲に亘る完全な等温線を測定する。該分析を2回行う;第一回目は、「総」水素取込み量(即ち、化学吸着した水素と物理吸着した水素が含まれる)を測定し、そして該第一の分析の直後にサンプルを真空下(5mmHg未満)に30分間置く。次いで、分析を繰り返して物理吸着した取込み量を測定する。次いで、「総」取込み量データに対して圧力ゼロへの外挿と共に線形回帰を適用して化学吸着した気体の体積(V)を計算する。
【0028】
コバルト表面積は、それから以下の式を用いて計算することができる;
Co表面積=(6.023×1023×V×SF×A)/22414
ここで、V=H2の取込み量をml/gとして
SF=化学量論因子(Co上のH2化学吸着として2を仮定する)
A=1原子のコバルトが占有する面積(0.0662nm2と仮定する)
上記の式は、以下に記載されている:「マイクロメリティクス(Micromeretics)ASAP 2010 ケミシステム(Chemi System)V 2.01のオペレーター用マニュアル(Operators Manual for the Micromeretics ASAP 2010 Chemi System V 2.01)」、附録C、品番201-42808-01、1996年10月。
【0029】
本発明の触媒は、炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成に用いることができる。
コバルト触媒を用いる炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成は、十分に確立されている。フィッシャー・トロプシュ合成により、一酸化炭素と水素の混合物は炭化水素へと変換される。該一酸化炭素と水素の混合物は、典型的には、1.7〜2.5:1の範囲にある水素:一酸化炭素比率を有する合成ガスである。前記反応は、撹拌スラリー相反応器、気泡塔反応器、ループ反応器又は流動床反応器の1又は2個以上を用いて、連続的又はバッチ式プロセスにおいて行うことができる。該プロセスは、0.1〜10Mpaの範囲にある圧力と150〜350℃の範囲にある温度にて操作することができる。連続操作でのガス空間速度(GHSV)は、100〜25000hr-1の範囲にある。本発明に係る触媒は、その触媒1g当たりの大きなコバルト表面積のために、特に有用である。
【0030】
本発明は、これより、以下の実施例を参照し、そして、それぞれリチウム/酸化アルミニウムを用いて調製した酸化コバルトでコーティングされた触媒前駆体とコーティングされていないγ-アルミナのFTIRスペクトルを示す図1及び2を参照することにより、更に説明される。
実施例1−触媒担持体の調製
硝酸リチウム三水和物(4.18g、33.5mmol Li)を、16 mlの脱イオン水に溶解した。次いで、これにγ−アルミナ(サソール(Sasol)社のグレードHP14-150)15.8gを添加し、そして得られた混合物を十分に撹拌した。湿った固体を400mlビーカーに移して、105℃で3.5時間乾燥させた。乾燥させた材料をセラミック製のトレイに移し、空気中で800℃まで加熱し、800℃で4時間維持して、その後室温まで冷却することによりか焼した。加熱速度及び冷却速度は、両方とも10℃/分であった。Li含有率= 2.7%及びLi:Al=0.22。X線回折法(XRD)は、Liが本質的にすべてアルミン酸リチウム、LiAl5O8として存在していたことを示した。
実施例2−触媒の調製
(a)硝酸コバルト溶液を用いた含浸
硝酸コバルト六水和物(18.90g、64.9mmol Co)を8.6mlの脱イオン水に溶解すると、赤色の溶液が生じた。実施例1の方法に従って調製した酸化リチウムコーティングされたアルミナ(15.3Og)を前記コバルト溶液に一度に添加して撹拌するとピンク色の固体が生じた。該湿った固体を400mlビーカーに移し、105℃で3時間乾燥させた。乾燥させた固体をセラミック製のトレイに移し、空気中で2℃/分で400℃まで加熱し、400℃で1時間維持して、その後室温まで冷却することによりか焼した。生成物は、黒色の固体であった。コバルト含有率は、18.9重量%であり、そしてリチウム含有率は、1.07重量%であった。
【0031】
青色のアルミン酸コバルトの形成に対する相対的な安定性を測定するため、少量(約1.4g)の触媒前駆体と、非修飾γ−アルミナを用いて調製した比較用触媒前駆体を、空気中で10℃/分で800℃、850℃又は900℃まで加熱し、各温度で2時間維持して、その後、10℃/分で室温まで冷却した。
【0032】
目視検査により、前記非修飾γ−アルミナ担持触媒との比較において、アルミン酸リチウム担持触媒がその暗色を保持していることが示される。これは、より多くのコバルトが、容易に還元可能な黒色のCo3O4型のまま残っており、青色のアルミン酸コバルトに変換されていないことを示す。
【0033】
データカラーインターナショナルスペクトラフラッシュ500(Datacolor International Spectraflash 500)比色計を用いて比色分析データが得られた。サンプルについて、L、a、b、c及びhの値を記録した。L=明るさ、であって黒が0で白が100;a=緑−赤、であって負の値の緑と正の値の赤;b=青−黄、であって負の値の青と正の値の黄、c=色の強度、及びh=色相角。結果を以下に示す;
【0034】
【表1】

【0035】
比色分析により、本発明に係る触媒前駆体は、非修飾材料よりも青色のアルミン酸コバルトを形成しにくいことが確認された。
400-800cm-1間での触媒前駆体サンプルのFTIRスペクトルを、図1(本発明に係るCo3O4/LiAl5O8)及び図2(本発明ではないCo3O4/Al2O3)に示す。該FTIRスペクトルには、サンプル間の、特に400℃でのか焼の後の、顕著な差異が示されている。
【0036】
本発明に従って調製した触媒前駆体の一部をガラス管に移し、流動ヘリウム中で10℃/分で140℃にまで加熱し、140℃で1時間維持した。ガス流を水素に換え、温度を3℃/分で425℃まで上昇させて、コバルトの元素型への還元に作用させた。温度を425℃で6時間維持した。425℃での還元に続く150℃での水素化学吸着により測定したコバルト表面積は、還元触媒1g当たり8.8m2であり、コバルト1g当たり46.6m2に相当するものであった。
(b)コバルトアンミンカーボネート溶液からの沈殿
〜2.9w/w%のコバルト含有率を有するコバルトヘキサミン溶液を、以下の方法に従って調製した。炭酸アルミニウムチップ(198g、30〜34w/w% NH3)を5リットル丸底フラスコ中に秤量した。脱イオン水(1877ml)とアンモニア溶液(1918ml, Sp.Gr. 0.89)を添加して、該混合物をすべての炭酸アンモニウムチップが溶解するまで撹拌した。塩基性炭酸コバルト(218g, 45〜47w/w% Co)を、連続的な撹拌とともに、約25gのアリコートとして添加し、そして溶解させた。最終溶液を最低でも1時間撹拌し、すべての塩基性炭酸コバルトを確実に溶解させた。得られたコバルトヘキサミン溶液は、67mlの過酸化水素溶液(30%濃度)を該撹拌溶液に滴下により添加することで酸化した。酸化過程の間、ORP(酸化/還元電位)は、-304mVから-89mVへと上昇した。過酸化水素水の添加が完了して、これによりORP値が-119mVまで落ちた時点から更に10分間撹拌を継続した。次いで該溶液をろ過した。
【0037】
1960mlのコバルトヘキサミン溶液を、イソマントル(isomantle)中に置かれた丸底フラスコに移した。該溶液を連続的に撹拌し、実施例1の方法に従って調製し、1.40重量%のLi含有率を有する、42.63gのリチウム含有γ−アルミナ担持体を徐々に添加した(担持体:コバルト比率=0.75)。系を封鎖して加熱した。温度が65℃を超えるまで上昇すると、アンモニアの蒸留が始まった。調製を通じて温度とpHをモニターした。pH7.5に達した時にコバルトの析出が完了したものとみなして調製を終了した。触媒を直ちにろ過し、次いで約2リットルの脱イオン水で洗浄した。最後に濾過ケークを105℃で一晩乾燥させた。乾燥触媒前駆体のコバルト含有率は、40.5重量%であった。
【0038】
より大量のリチウム含有γ−アルミナを用いて上記実験を繰り返して、29.5重量%と20.0重量%のCoを有する触媒前駆体を得た。コバルト含有率は、ICP AESを用いて測定し、コバルト表面積(CoSA)及び還元による重量%の喪失(WLOR)は、上記に示す方法に従って425℃で還元した前駆体を用いた150℃での水素化学吸着により測定した。結果を下記に示す;
【0039】
【表2】

【0040】
触媒についての昇温還元(Temperature-programmed reduction)(TPR)の分析結果が得られた。触媒のサンプルを、一定速度の水素含有ガス流の下で、100ないし1000℃で加熱し、該ガス流の熱伝導率の差異を、Co3O4からCoOへ、次いでCoOからCo金属への還元と一致する水素消費を示すプロファイルへと変換した。非修飾アルミナを用いて調製した比較用触媒との比較において、形状及びCoOからCo金属へのピークの最高温度の両方において顕著な変化(650℃に比べてTmax550℃)が見られ、本発明に係る触媒の向上した還元性が示唆されている。
【0041】
20%のCoを含有する加熱された前駆体と、非修飾アルミナを用いた同一のコバルトアンミンカーボネート法により調製された20%のCoを含有する比較用触媒前駆体についての比色分析データが得られた。結果を以下に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
比色分析により、本発明に係る触媒前駆体は、非修飾材料よりも青色のアルミン酸コバルトを形成しにくいことが再度確認された。
実施例3−触媒の試験
実施例2(b)(iii)のコバルト触媒を、実験室スケールの反応器内における炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成に用いた。SiCと混合された約0.1gの非還元触媒を床(約4mmの内径と約50mmの深さ)に置き、30ml/分の水素流中で、430℃で420分間還元した。次いで、2:1のモル比にある水素と一酸化炭素を、210℃/20barで前記床に通過させた。可能な限り50%に近いCO変換を得るために、空間速度を30時間後に調整した。公知のガスクロマトグラフィー(GC)技術を用いて、触媒のCH4、C2〜C4及びC5+炭化水素に対する活性と選択性を測定した。
【0044】
還元前において20重量%のCoと1重量%のReを含み、アルミナ担持体上に含浸したスタンダード触媒を用いて、同一の条件で比較実験(Comp.1)を行った。該スタンダード触媒は、γ-アルミナ(ピュラロックス(Puralox)社 HP14/150)を硝酸コバルトと過レニウム酸アンモニウムの溶液に含浸し、固体をオーブンにより110℃で6.5時間乾燥させ、その後200℃で1時間か焼することにより調製した。該触媒を0.1gでSiC中に添加した。
【0045】
非修飾アルミナを用いたコバルトアンミンカーボネート法により調製した40%Coのコバルト含有率を有する触媒を用いて、同一の条件で更なる比較実験(Comp2)を行った。
相対的な触媒組成と所望の変換を生じさせるために必要な空間速度を指摘することにより、本発明に係る触媒の相対的な活性を計算することが可能となる。結果を以下に示す;
【0046】
【表4】

【0047】
上記結果は、本発明に係る触媒の高い活性と、特にC5+炭化水素に対する選択性を示している。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムと0.01〜20重量%のリチウムから成る酸化物担持体上に担持された5〜75重量%のコバルトを含む触媒。
【請求項2】
前記酸化物担持体が、アルミン酸リチウムを含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記酸化物担持体が、1ないし200μmの範囲の表面積重み付平均粒径D[3,2]を有する、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記酸化物担持体が、1ないし20μmの範囲の表面積重み付平均粒径D[3,2]を有する、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記酸化物担持体が、50ないし150μmの範囲の表面積重み付平均粒径D[3,2]を有する、請求項3に記載の触媒。
【請求項6】
前記酸化物担持体が、成形単位の形態にある、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項7】
前記酸化物担持体のLi含有率が、0.5〜10重量%の範囲にある、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項8】
前記触媒が、15〜50重量%のコバルトを含む、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項9】
前記触媒が、Cu、Ag、Au、Ni、Pt、Pd、Ir、Re又はRuから選択される1又は2種類以上の助触媒を含む、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項10】
前記コバルトが、少なくとも部分的に元素型にある、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項11】
(i)アルミナをリチウム化合物の溶液に含浸し、該含浸した担持体を乾燥させ、そして加熱して該リチウム化合物を1又は2種類以上の酸化リチウムに変化させることにより酸化物担持体を調製する工程、
(ii)該酸化物担持体をコバルト化合物の溶液に含浸する工程、又は該担持体の存在下で不溶性のコバルト化合物を沈殿させる工程、及び
(iii)得られる組成物を任意にか焼する工程、
を含むコバルト触媒の調製方法。
【請求項12】
前記アルミナが、遷移アルミナである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アルミナが、γ−アルミナである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アルミナの細孔容積が、0.4cm3/gを超える、請求項11ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記アルミナが、該アルミナをリチウム化合物の溶液に含浸する前に、水及び/又は酸及び/又はアンモニア溶液で洗浄される、請求項11ないし14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記リチウム化合物が、硝酸リチウム、硫酸リチウム、シュウ酸リチウム又は酢酸リチウムから成るリストから選択される、請求項11ないし15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記酸化物担持体が、硝酸コバルト、酢酸コバルト、ギ酸コバルト、シュウ酸コバルト又はコバルトアンミンカーボネートから成るリストから選択されるコバルト化合物の溶液で含浸される、請求項11ないし16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
コバルトアンミンカーボネート溶液から不溶性のコバルト化合物を前記酸化物担持体上に沈殿させる、請求項11ないし16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
得られた触媒前駆体を還元性ガスの存在下で加熱して、少なくとも一部のコバルトを元素型へと還元することを更に含む、請求項11ないし18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
水素含有ガスが、300〜600℃の範囲の温度で、前記触媒前駆体上を1時間ないし16時間通過する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項10に記載の触媒又は請求項19及び20により調製された触媒の存在下で、一酸化炭素と水素の混合物を、上昇された温度と圧力において反応させることを含む、フィッシャー・トロプシュ法による炭化水素の合成方法。

【公表番号】特表2008−546527(P2008−546527A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517608(P2008−517608)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050143
【国際公開番号】WO2006/136863
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】