説明

フィブリン膜を合成するために使用する凍結乾燥トロンビンおよび凍結乾燥フィブリノーゲンのキット、ならびにその適用

凍結乾燥トロンビンおよび凍結乾燥フィブリノーゲンのキットは、フィブリン膜を合成するために使用される50〜100mg/mLのフィブリノーゲン、100〜1000IU/mLのトロンビン、および20〜60mmol/LのCaCl2を含む。凍結乾燥トロンビンおよび凍結乾燥フィブリノーゲンは、手術後の腫瘍転移のリスクを減少させるために、臨床腫瘍手術において適用される。トロンビンおよびフィブリノーゲンの溶液は腫瘍表面上に塗布され、それらはそこで混ざって、腫瘍手術における切開および外傷によって惹起される腫瘍細胞の拡散を防止する固体網目状フィブリン膜を形成し、それにより手術後の再発および転移のリスクを減少させ、患者の寿命を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍手術における切開および外傷によって惹起される腫瘍細胞の拡散を防止するための凍結乾燥トロンビンおよび凍結乾燥フィブリノーゲンのキット、ならびにその使用に関する。
【0002】
腫瘍手術においては、切開および外傷は通例、腫瘍細胞の拡散を惹起し、これは腫瘍手術後に腫瘍が再発および転移するリスクを増加させ、患者の寿命を短縮させる可能性がある。
【背景技術】
【0003】
根治的な乳房および腫瘤切除後の腫瘤を減少させるために、フィブリノーゲンおよびトロンビンの化合物が使用されてきた。より詳細には、乳房もしくは腫瘤が除去された場所で腫瘤が発生する傾向があるので、フィブリノーゲンおよびフィブリンの化合物がこれらの場所に塗布され、そこで形成される腫瘍の数および/またはサイズを低下させてきた。この化合物は、熱傷の表面、一般手術の腹部切開部、肝臓手術や血管手術における血液滲出の治療における局所的止血薬としても使用されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、解離性腫瘍細胞の拡散を防止するためにフィブリノーゲンおよびトロンビンの化合物が使用される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のキットは、解離性腫瘍の拡散を防止するための固体網目状フィブリン膜を生成する。
【0006】
本発明の1つの目的は、フィブリン膜を合成するためのキットを提供することである。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、凍結乾燥トロンビンおよび凍結乾燥フィブリノーゲン、ならびに水および溶媒を含むキットの、腫瘍手術における適用である。本キットは、一般にはキット取扱説明書と呼ばれる本キットの使用説明書をさらに含む。凍結乾燥トロンビンおよび凍結乾燥フィブリノーゲンはフィブリン膜を合成するために使用されるが、本キットは、そのための溶媒として水を使用できる50〜100mg/mLのフィブリノーゲン、100〜1000IU/mLのトロンビン、およびトロンビンのための溶媒としての20〜60mmol/LのCaCl2を含む。トロンビンおよびフィブリノーゲンは、ヒト血液起源である。本キットは、腫瘍手術における切開および外傷によって惹起される腫瘍細胞の拡散を防止するために適用される。フィブリン膜は、治療後の腫瘍の再発および転移のリスクを減少させ、患者の寿命を改善することができる。フィブリン膜は、良好な生物学的適合性を有し、使用法が便宜的である。
【0008】
本発明のその他の目的および特徴は、添付の図面と結び付けて考察すると、以下の詳細な説明から明白になる。しかし図面は例示する目的でのみ設計されており、本発明の限度の定義としては設計されていないことを理解されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下の実施例は、本発明を詳細に例示するために役立つ。
【0010】
フィブリノーゲンおよびトロンビンが血栓症に及ぼす作用は周知である。フィブリノーゲンおよびトロンビンに由来する多数の製品が存在するが、これらの製品はほとんどの場合に手術後の出血を止めるために使用されている。本発明によると、フィブリノーゲンおよびトロンビンにより合成された固体網目状フィブリン膜は腫瘍細胞の拡散を防止するために使用される。本発明によって、フィブリン膜のためのフィブリノーゲンおよびトロンビンのキットが提供される。フィブリノーゲンおよびトロンビンの起源はヒト血液であり、フィブリノーゲンの濃度は50〜100mg/mLであり、トロンビンの濃度は100〜1000IU/mLであり、およびCaCl2の濃度は20〜60mmol/Lである。好ましい実施形態では、本キットは、2mLの注射用水「(WFI)」の溶媒を含む100〜200mgの凍結乾燥フィブリノーゲンのボトルおよび2mLの20〜60mmol/LのCaCl2溶液の溶媒を含む200〜2000IUの凍結乾燥トロンビンのボトルを含む。より好ましい実施形態では、フィブリノーゲンの濃度は60〜80mg/mLであり、トロンビンの濃度は300〜800IU/mLであり、およびCaCl2の濃度は30〜50mmol/LのCaCl2である。最も好ましい実施形態では、フィブリノーゲンの濃度は70mg/mLであり、トロンビンの濃度は400〜600IU/mLであり、およびCaCl2の濃度は40mmol/LのCaCl2である。本キットは、キット取扱説明書をさらに含む。本発明は、本キットの使用方法にも関する。
【0011】
ヒト血液を起源とするフィブリノーゲンおよびトロンビンは、凍結乾燥され、別個の溶液に注入される。本発明を使用する実験では、コーティングを形成するために、フィブリノーゲン溶液の薄く平滑な層が、スライドガラスの表面上に、またはアッセイキット内の細胞培養インサートの底面上に塗布される。約5秒間後、トロンビン溶液の薄く平滑な層がフィブリノーゲンコーティング上に連続的に塗布される。フィブリノーゲン溶液および次のトロンビン溶液の塗布は、約3〜5回繰り返される。固体網目状フィブリン膜が迅速に形成される。フィブリン膜網目の径は、その最大寸法で0.6μm未満であり、10〜100μmのヒト腫瘍細胞よりはるかに小さい。フィブリン膜は、ヒト腫瘍細胞を保持して拡散を防止できる。
【0012】
そこで、フィブリノーゲンおよびトロンビン溶液は、1回に1層ずつ、腫瘍組織の局所表面上で相互に交代に塗布される。局所組織表面上に形成される固体網目状フィブリン膜は手術における解離性腫瘍細胞の拡散を防止し、治療後に腫瘍が再発および転移するリスクを減少させ、そして患者の寿命を改善する。フィブリン膜は、良好な生物学的適合性を有し、使用法が便宜的である。
【実施例1】
【0013】
フィブリン膜の生成
(1)本発明によるキットのフィブリノーゲン溶液およびトロンビン溶液を1回に1層ずつ、0.8cm×0.8cmのスライド表面上に交互に各々3回塗付した(450IU/mLのトロンビンおよび40mmol/LのCaCl2によって合成された)。
(2)フィブリノーゲン溶液およびトロンビン溶液の層を風乾させて電子顕微鏡で調査した。
【0014】
図1および図2は、乾燥したフィブリノーゲンおよびトロンビン層の電子顕微鏡写真である。倍率は5000倍である。これらの写真から、平滑なフィブリン膜の表面を見ることができる。FSフィブリン膜に明確な穴は開いていない。倍率尺度から、網目の孔径は0.6μm未満であることを導き出せる。ヒト腫瘍細胞のサイズは、10〜100μmである。そこで、ヒト血液由来フィブリノーゲンおよびトロンビンによって合成されたフィブリン膜は、ヒト腫瘍細胞を保持して拡散を防止できる。
【実施例2】
【0015】
解離性腫瘍細胞の拡散を防止するための本発明によるフィブリン膜キットから、
(1)薄く平滑なフィブリン膜は、実施例1の方法を使用することによって、その上にコーティングを形成するためにChemicon International of Temecula社(カリフォルニア州)から市販で入手できる細胞浸潤アッセイキットECM550の組織培養プレートのウエル内に配置される細胞培養インサートの底面上で生成した。次に、細胞浸潤実験は、細胞浸潤アッセイキット内に提供された取扱説明書にしたがって実施した。インサート内に配置した細胞懸濁液中の浸潤性細胞は、Ruijing Hospital of Shanghai(中国)からの胃癌細胞系(胃の腫瘍)、ヒト胃腺癌細胞系KN45、およびAGSヒト培養胃腺癌細胞、ならびにSBI(System Biosciences of Mountain View(カリフォルニア州))からのヒト乳がん細胞MDA−MB−231および大腸がん細胞Ls174Tを含んでいた。
(2)細胞浸潤アッセイキット内の取扱説明書にしたがって、使用済み媒質を廃棄し、内膜は綿棒を用いて浄化し、インサートを20分間にわたり染色して風乾させた。組織培養プレートのコントロールウエル内にはフィブリノーゲンもしくはトロンビンは存在しなかった。
(3)図3A1、図3A2、図3B1、図3B2、図3C1および図3C2の電子顕微鏡写真を含む電子顕微鏡写真を撮影して記録を取った。
【0016】
図3A1、図3A2、図3B1、図3B2、図3C1および図3C2は、実施例2のフィブリン膜がインサート内の解離性腫瘍細胞を停止させ、フィブリン膜を通しての腫瘍細胞の拡散を防止することを示しているので、このため、フィブリン膜がヒト腫瘍細胞を保持して拡散を防止できるという結果も支持している。図3A1および3A2は、フィブリン膜が存在しない場所では細胞浸潤が発生することを示している、FSフィブリン膜を伴わない電子顕微鏡写真である。図3B1および3B2は、FSフィブリン膜の内側での細胞浸潤の防止を示す写真である。図3Cは、FSフィブリン膜の外側での細胞浸潤の防止を示す写真である。ヒト血液由来フィブリノーゲンおよびトロンビンによって合成されたフィブリン膜が、ヒト腫瘍細胞を保持して拡散を防止することは極めて明白である。
【0017】
さらに、本明細書に例示かつ説明した実施形態の変形を本発明の精神および範囲から逸脱せずに作製できることは、当業者には理解され、企図されている。したがって、上記の説明は例示するためだけであり、本発明の精神および範囲は添付の請求項によって決定されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1.2】凍結乾燥トロンビンの溶液および凍結乾燥フィブリノーゲンの溶液をスライドガラス上に1層ずつ交互に塗布するステップによって合成されたフィブリン膜の電子顕微鏡写真である。
【図3A1.3A2】フィブリン膜を伴わないコントロールの電子顕微鏡写真である。
【図3B1.3B2】腫瘍細胞の拡散実験における、本発明によるフィブリン膜を伴う材料表面の電子顕微鏡写真である。
【図3C1.3C2】本発明によるフィブリン膜処理を含む腫瘍細胞の拡散実験におけるフィブリン膜の電子顕微鏡写真である。
【図1】

【図2】

【図3A1】

【図3A2】

【図3B1】

【図3B2】

【図3C1】

【図3C2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2mLの注射用水の溶媒を含む100〜200mgの凍結乾燥フィブリノーゲンのボトルおよび2mLの20〜60mmol/LのCaCl2溶液の溶媒を含む200〜2000IUの凍結乾燥トロンビンのボトルを含む、フィブリン膜を合成するために使用するキット。
【請求項2】
フィブリノーゲンの濃度は60〜80mg/mLであり、トロンビンの濃度は300〜800IU/mLであり、およびCaCl2の濃度は30〜50mmol/LのCaCl2である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
フィブリノーゲンの濃度は70mg/mLであり、トロンビンの濃度は400〜600IU/mLであり、およびCaCl2の濃度は40mmol/LのCaCl2である、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記トロンビン溶液はCaCl2およびトロンビンを含む、請求項1〜3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
トロンビンおよびフィブリノーゲンはヒト血液を起源とする、請求項1〜3のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
前記キットのための使用説明書をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載のキット。
【請求項7】
前記キットは合成フィブリン膜を生成するために適用される、請求項1〜3のいずれかに記載のキット。
【請求項8】
前記キットは臨床手術における解離性腫瘍細胞の拡散を防止するために適用される、請求項1〜3のいずれかに記載のキット。
【請求項9】
臨床手術における解離性腫瘍細胞の拡散を防止する方法であって、
腫瘍上にフィブリン膜を生成するステップを含む方法。
【請求項10】
前記フィブリン膜は、凍結乾燥フィブリノーゲンの溶液および凍結乾燥トロンビンの溶液を腫瘍に適用することによって生成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記フィブリノーゲン溶液および前記トロンビン溶液は、腫瘍へ交互に適用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記フィブリノーゲン溶液および前記トロンビン溶液は、腫瘍へ各々3〜5回適用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記フィブリノーゲン溶液は2mLの水の溶媒とともに100〜200mgの凍結乾燥フィブリノーゲンを含み、前記トロンビン溶液は2mLの20〜60mmol/LのCaCl2の溶媒とともに200〜2000IUの凍結乾燥トロンビンを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記フィブリノーゲン溶液は60〜80mg/mLを含み、前記トロンビンの濃度は300〜800IU/mLであり、および前記CaCl2の濃度は30〜50mmol/LのCaCl2である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記フィブリノーゲン溶液は70mg/mLを含み、前記トロンビンの濃度は400〜600IU/mLであり、および前記CaCl2の濃度は40mmol/LのCaCl2である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記フィブリノーゲンおよび前記トロンビンはヒト血液起源である、請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2009−504643(P2009−504643A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526012(P2008−526012)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/026739
【国際公開番号】WO2007/018894
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(508041323)
【Fターム(参考)】